説明

画像形成装置

【課題】供給部材又は巻取り部材が、ウェブを介して加熱回転体又は加圧回転体とクリーニングニップを形成するように構成された装置において、清掃性能の低下による清掃不良、及び、異音の発生を抑制する。
【解決手段】定着ニップNで記録材Sが挟持搬送される場合、記録材Sのうち後端(記録材搬送方向において上流端)が定着ニップNを通過してから予め定められた時間まで、定着スリーブ21及び加圧ローラ23の回転速度を増速させる増速制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート等の記録材上に画像を形成する機能を備えた、例えば、複写機、プリンタなどの画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、次のようにして記録材に画像が形成される。まず、感光層を有する感光体表面が均一に帯電された後、ホストコンピュータから送られた画像信号に従って感光体表面が露光されて感光体表面に潜像が形成され、この潜像が現像剤(トナー)で可視像化されてトナー像として記録材に転写される。その後、トナー像が形成された記録材が像加熱装置に挿通されることで、トナー像が加熱溶融され記録材上に定着される。
像加熱装置としては、トナー或いは記録材に接触する定着部材(加熱回転体)により加熱或いは加圧を行うものが普及している。定着部材にはトナーや紙粉などの汚れが付着することがあり、これを清掃するために、清掃部材としてウェブを定着部材に当接させる定着清掃機構が考案されている。そして、ウェブに含浸させたオイルが過剰に定着部材に塗布されるのを防ぐために、記録材が通紙されるときにのみウェブを定着部材に当接させるための、ウェブ離間機構を有する定着清掃機構が考案されている(例えば特許文献1参照)。
ウェブを用いた定着清掃機構は、ウェブ送り出しローラ(供給部材)、ウェブ巻取りローラ(巻取り部材)、ウェブ当接ローラなど構成部品が多く、機構が大掛かりになって、必要スペースが大きく、コストが高くなるという問題があった。加えて、当接離間機構を設ける場合、さらに機構が複雑になり、さらに高コスト化するという問題があった。
そこで、清掃機構をより簡略化し、低コスト化するために、ウェブの巻取りローラを定着部材に当接させる2軸の定着清掃機構が考案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−250558号公報
【特許文献2】特開平8−220921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述の簡略化を図った2軸の定着清掃機構(特許文献2)では、ウェブ巻取りローラ、若しくは、ウェブ送り出しローラがウェブ当接ローラを兼ねることにより、低コスト化は図れたものの、次に述べるような問題の発生が懸念される。なお、ここでは、ウェブ巻取りローラがウェブ当接ローラを兼ねるものとして説明する。
ウェブ巻取りローラは画像形成装置の使用に伴い、使用済みのウェブを巻き取ることで、その外径が大きくなる。一方、ウェブ送り出しローラは画像形成装置の使用に伴い、ウェブを送り出すことで、その外径が小さくなる。
このような外径の変化に伴い、ウェブ当接ローラ(ここでは、ウェブ巻取りローラ)が被当接ローラに当接する当接圧が変化することになる。
当接圧が小さくなる場合には、清掃性能の低下による清掃不良の発生が懸念される。逆に、当接圧が高くなる場合には、ウェブ当接ローラと被当接ローラとの間の摩擦力が大きくなることで発生する振動現象(一般的にはスティックスリップ現象と呼ばれる)による異音が発生してしまうことが懸念される。
ステッィクスリップ現象は、ウェブ当接ローラと被当接ローラの間の相対速度差が小さい場合に顕著に発生する現象である。
【0005】
一方、近年のカラー画像形成装置では写真画質を目指した光沢性が求められている。そこで、高い光沢性を出す手段として、低速で動作する光沢紙モードなどが設定されている画像形成装置がある。このような低速で動作する光沢紙モードなどにおいて、スティックスリップ現象が特に発生しやすいことになる。
したがって、このような低速で動作する光沢紙モードなどにおいても、、ウェブ当接圧が変化しても「清掃不良」抑制と「異音」抑制の両立が図れる、安価な定着清掃装置及びこれを搭載する画像形成装置が要望されている。
本発明は、供給部材又は巻取り部材が、ウェブを介して加熱回転体又は加圧回転体とクリーニングニップを形成するように構成された装置において、清掃性能の低下による清掃不良、及び、異音の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明にあっては、
記録材にトナー像を形成するトナー像形成手段と、
互いに圧接して形成されたニップ部で、前記トナー像形成手段によりトナー像が形成された記録材を挟持搬送し、かつ該記録材上に形成されたトナー像を加熱する加熱回転体及び加圧回転体と、
前記加熱回転体及び前記加圧回転体のうち一方の回転体の表面に当接して前記一方の回転体の表面をクリーニングするウェブと、
前記ウェブが巻かれた供給部材と、
前記供給部材に巻かれた前記ウェブを巻取る巻取り部材と、
を有し、
前記供給部材又は前記巻取り部材が、前記ウェブを介して前記一方の回転体とクリーニングニップ部を形成するように構成された画像形成装置において、
前記ニップ部で記録材が挟持搬送される場合、記録材のうち記録材搬送方向において予め定められた部位が前記ニップ部を通過してから予め定められた時間まで、前記加熱回転体及び前記加圧回転体の回転速度を増速させる増速制御を行うことが可能な制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、供給部材又は巻取り部材が、ウェブを介して加熱回転体又は加圧回転体とクリーニングニップを形成するように構成された装置において、清掃性能の低下による清掃不良、及び、異音の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1におけるプリント動作内容を示すフローチャート図
【図2】実施形態のウェブクリーニングユニットの概略構成を示す断面図
【図3】本発明を適用可能な画像形成装置の概略構成を示す断面図
【図4】実施形態の像加熱装置の構成説明図
【図5】実施形態の像加熱装置の構成説明図
【図6】実施形態におけるプリント動作内容を示すフローチャート図
【図7】オフセットトナー現象の概念を説明するための図
【図8】搬送される記録材Sについて説明するための図
【図9】トナーがウェブに回収される際にウェブにかかる引っ張り力を示す図
【図10】実施形態の温調温度のタイミングチャート図
【図11】実施例2におけるプリント動作内容を示すフローチャート図
【図12】実施例2の温調温度のタイミングチャート図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
本発明に係る実施例を説明するに先立って画像形成装置、及び、像加熱装置などの概略構成について説明する。なお、以下に示す画像形成装置は、電子写真画像形成装置を例にして説明するが、画像形成装置は静電記録画像形成装置や磁気記録画像形成装置であってもよい。
(画像形成装置の概略構成)
図3は、本発明を適用可能な画像形成装置100の概略構成を示す断面図である。
画像形成装置100は、電子写真方式を用いイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の4色のトナー(現像剤)像を重ね合わせることで記録材Sにフルカラー画像を形成するフルカラー画像形成装置(フルカラーレーザプリンタ)である。即ち、パソコン・イメージリーダ・相手方ファクシミリ装置等の外部ホスト装置400から画像形成装置100の制御回路部(制御手段:CPU)200に入力される電気的な画像信号に基づいて、シート状の記録材Sに対して画像形成が実行される。
制御回路部200は外部ホスト装置400や操作部300との間で各種の電気的情報の授受をすると共に、画像形成装置100の画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って統括的に制御する。また、制御回路部200は、後述する増速制御(加熱回転体としての定着スリーブ21及び加圧回転体としての加圧ローラ23)の回転速度を増速させる増速制御)を行う。
従って、以下に説明する画像形成装置100の画像形成動作は制御回路部200によって動作制御されるものである。
【0010】
この画像形成装置100は、循環移動する記録材搬送ベルト(静電吸着搬送ベルト)7の移動方向に沿って、第1から第4の電子写真画像形成部Y,M,C,Kが配列されたタンデム型(インライン方式)の装置である。各電子写真画像形成部Y,M,C,Kは、それぞれ、像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光ドラム(以下、感光ドラム)1(1Y,1M,1C,1K)と、感光ドラム1に作用するプロセス手段を有する。
プロセス手段としては、帯電手段2(2Y,2M,2C,2K)、画像露光手段6(6Y,6M,6C,6K)、現像手段3(3Y,3M,3C,3K)、及び、クリーニング手段4(4Y,4M,4C,4K)が設けられている。また、画像露光手段6としてレーザスキャナユニットを用いている。
各電子写真画像形成部Y,M,C,Kにおいて、感光ドラム1、帯電手段2、現像手段3、クリーニング手段4、及び、現像剤としてのトナーは、一つの枠体にまとめられてプロセスカートリッジ(オールインワンカートリッジ)として構成されている。プロセスカートリッジは、画像形成装置本体に対して着脱可能に構成されている。
【0011】
画像形成装置100の動作速度(以下、プロセススピード)は97mm/secであり、A4サイズの記録材を縦方向に約16枚/分で画像形成することができる。
各感光ドラム1(1Y,1M,1C,1K)上に電子写真プロセスにて現像された単色トナー像は、記録材搬送ベルト7上を静電吸着されて搬送される記録材S上に転写手段としの転写ローラ8にて転写される。ここで、帯電手段2、画像露光手段6、現像手段3及び転写ローラ8は、記録材にトナー像を形成するトナー像形成手段に相当する。
また、記録材Sの供給部となる記録材カセット50に格納された記録材Sは、所定の制御タイミングにて給送ローラ対51により順次給送され、レジストローラ対52により所定の制御タイミングにて記録材搬送ベルト7上に送られる。
4色のトナー像の重畳転写を受けた記録材Sは記録材搬送ベルト7上から分離された後、像加熱装置20へ導入され、定着処理を経て、画像形成装置100の外へ排出される。
【0012】
(像加熱装置)
図4,5は、本実施形態の像加熱装置20の構成説明図である。図4は、像加熱装置20の要部の横断面図である。図5は、像加熱装置20の要部の正面図である。ここでいう正面図とは、記録材の導入口側から装置を見た場合の図をいう。
【0013】
この像加熱装置20はフィルム(スリーブ)加熱方式の装置であり、支持部材であるヒータホルダ24に固定支持され、通電により発熱する通電発熱抵抗層を有する加熱体であるヒータ22を有する。
また、内面がヒータ22に接触して回転可能な可撓性を有する加熱用回転体としての定着スリーブ21と、定着スリーブ21の外面に接触してニップ部(定着ニップ)Nを形成する加圧部材としての加圧ローラ23を有する。ここで、定着スリーブ21及び加圧ローラ23は、互いに圧接して形成されたニップ部で、トナー像形成手段によりトナー像が形成された記録材を挟持搬送し、かつ該記録材上に形成されたトナー像を加熱する加熱回転体及び加圧回転体(一対の回転体)に相当する。
また、ヒータ22の通紙部温度を検知する温度検知手段としてのサーミスタ25を有する。
【0014】
加圧ローラ23は、ヒータ22と対向する部分においてヒータ22との間に定着スリーブ21を挟んで圧接され、定着スリーブ21との間に、記録材搬送方向において所定幅の定着ニップNを形成している。
そして、定着ニップNで記録材Sが挟持搬送されることで、ヒータ22からの熱と、定着ニップNにおける加圧力によって、未定着トナー像が記録材Sに永久画像として定着される。
本実施形態では、定着スリーブ21はフランジ27、ヒータホルダ24、ヒータ22を介して加圧バネ28により総圧で約176.4N(約18Kgf)の力で加圧ローラ23に加圧されている。
【0015】
定着入り口ガイド30は、記録材搬送ベルト7から分離搬送された記録材Sが、定着ニップNに確実に搬送される役割を、定着排出ローラ18は画像定着が成された記録材Sを像加熱装置20から排出する役割を果たしている。
【0016】
本実施形態の像加熱装置20においては、加圧ローラ23は加圧ローラ駆動ギア29により図4に矢印aで示す反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ23の回転により、定着ニップNにおいて、定着スリーブ21に回転力が作用して、定着スリーブ21が従動回転する。
ヒータ22の裏面には安全素子26も設置されている。安全素子26として温度ヒューズやサーモスイッチ等のサーモプロテクタがヒータ22の裏面に当接するように配設されている。
安全素子26はヒータ22の通電回路に直列に挿入されている。安全素子26を設置するのは、発熱源であるヒータ22が制御不可能となり異常昇温した場合にヒータ22への通電をオフとし安全を確保するためである。
【0017】
(像加熱装置の通電制御)
画像形成装置100の画像形成(作像)プロセスが開始されると、像加熱装置20は次のようにして画像定着動作に備えることになる。すなわち、像加熱装置20の加圧ローラ23も回転状態となり、定着スリーブ21も従動回転を始め、ヒータ22への通電がなされ、ヒータ22の温度上昇とともに、定着スリーブ21の内面温度も上昇し、画像定着動作に備えることになる。
この際の定着温度制御に関して以下に説明する。
【0018】
定着温度制御の基本は、定着スリーブ21の表面温度が、定着不具合の発生しない温度範囲に収まるようにヒータ22への通電を制御することである。
温度範囲の下限は定着不良が発生しない温度以上とすること、上限は定着過多による不具合(以下に述べる高温オフセット)が発生しない温度以下とすることである。
定着温度制御の設定中心値は、この上限と下限の中央から上限よりに設定するのが適切である。その理由は、定着スリーブ21の表面温度は長手方向で均一となるよう制御されているが、ヒータ22を含む定着スリーブユニット(定着部材)の構成上、長手方向端部からの放熱は避けられないからである。
この放熱により定着スリーブ21の長手方向端部表面の温度が低下する現象(端部の温度ダレ)が発生することになる。この端部の温度ダレによる画像端部の定着不良を回避するため、温度制御の設定中心値は上限と下限の中央ではなく、中央から上限よりに設定することが望ましい。ここで、長手方向とは、記録材搬送方向に直交する方向(加圧ローラ23の回転軸方向)をいうものである。
【0019】
薄肉の定着スリーブ21を定着部材とする像加熱装置20は、極短時間で定着可能な状態に移行するクイックスタートを実現するために、構成部材の低熱容量化を図っている。そのため、連続した定着動作を実行すると各部材が昇温することになる。
そのため、定着スリーブ21が、定着に適した温度以上に昇温してしまい、定着ニップN内で溶融したトナーが記録材Sと定着スリーブ21の間で分離し、定着スリーブ21の表面に転移するホットオフセット現象が発生する場合がある。ホットオフセット現象が発生した場合には、定着スリーブ21が1周し、定着スリーブ21の表面に転移したトナーが再び記録材Sと接する際に、定着スリーブ21の表面に転移したトナーが記録材S上に再転移・定着されてしまうことになる。
そこで、連続した定着動作を実行する場合には、連続して通紙した記録材Sの枚数に応じて定着温度を段階的に下げる制御としている。
【0020】
各トナーの温度に対する特性として、高温側はホットオフセット限界温度があり、この温度を超えるとホットオフセットが発生する。反対に、低温側は定着性限界温度があり、この温度を下回ると定着不良が発生する。カラー画像形成装置では4色のトナー像が用いられるが、これらの各色トナーの温度特性は同等ではなく、微妙な温度の差異が生じてしまう。
先に述べたように端部ダレを回避するため上限よりに定着温度を設定することに加えて、各トナーの温度特性の差異により、ある色トナーにおいてホットオフセットが発生してしまう場合がある。
【0021】
また、定着温度は、定着する記録材Sの種類に応じて、その基本温度が、例えば普通紙モード、厚紙モード、薄紙モード等の定着モードとして設定されている。普通紙モードは、広く一般的に事務用途に使用される記録材Sである坪量65〜80g/mの紙を定着するモードであり、それよりも坪量の大きい100g/m以上の記録材Sを定着するモードが厚紙モードである。逆に坪量60g/mを下回るような記録材Sを定着するモードが薄紙モードであり、他にも光沢紙、封筒、はがき、ラベル紙、OHP(オーバーヘッドペアレンシー)を定着するモードがある。
【0022】
各定着モードの定着温度制御は、厚紙は普通紙よりも温調温度を高く設定することで定着性を確保している。逆に薄紙は普通紙よりも温調温度を低く設定することで定着過多による弊害の発生を抑止している。
しかしながら、カラープリンタなどで用いられる光沢紙などでは、確実な定着が成されることは勿論であるが、光沢性(グロスとも呼ばれる)も同時に求められている。
【0023】
光沢性を高める手段は幾つかあり、温調温度を高く設定することや加圧力を大きくする
ことでも達成できるが、より光沢性を高める手段として、プロセススピードを遅くした低速モードを設定することが挙げられる。このことで、定着ニップを通過する時間を稼ぐことができ、より光沢性を高めることが可能となる。
プロセススピードを遅くすることは温調温度や加圧力に頼らず、定着性の向上も可能となる。このため、光沢性が求められる光沢紙以外の定着モードでも設定されるようになっており、例えば、厚紙モードや透過性が求められるOHPモードなどでは低速モードを温調温度と併せて設定している。
【0024】
また、カラー画像形成装置では記録材Sの1頁内における定着性の温度ムラとして光沢ムラが生じてしまうため、記録材Sの1頁内において、定着スリーブ21の1周毎に目標の定着温度を高く設定するステップ温調も実施される場合がある。
本実施形態で用いた定着スリーブ21の外径は24mmであるので、その周長は約75.4mmであり、例えば、記録材Sとして長さ297mmのA4サイズの定着をする場合、記録材先端基準で75.4mm毎に4段階のステップ温調を実行している。この4段階のステップ温調について、図10に示す温調温度のタイミングチャート中に(1)〜(4)として示した。
【0025】
(像加熱装置の清掃手段)
続いて、像加熱装置20に設けられた清掃装置(定着クリーニング装置、以下、ウェブクリーニングユニット)70に関して図2を用いて説明する。図2は、ウェブクリーニングユニット70の概略構成を示す断面図である。
ウェブクリーニングユニット70は、清掃布としてのウェブ71、予めウェブ71が巻き付けられた供給部材(回転体)としての供給ローラ73、及びウェブ71を巻き取る巻取り部材(回転体)としての巻取りローラ72を主な構成とする2軸の清掃装置となっている。
本実施形態において、供給ローラ73の初期直径は15mmであり、巻取りローラ72の初期直径は6mmである。
【0026】
ウェブ71は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂からなる繊維を、薄布上にカレンダー処理などにより押し固めたもので、厚み40um、長さ×幅=2m×224mmの大きさのものを用いている。
ウェブ71の材質としては、上記PPS繊維以外に、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂、レーヨン等からなる繊維を目付け量(単位面積あたりの使用重量)20〜60g/mに調整して、薄い不織布あるいは、織布状に加工したものを用いることができる。
目付け量を小さくするとウェブの強度が不足したり、カレンダー処理後に薄くなり過ぎることが懸念され、目付け量を大きくするとカレンダー処理後も厚くなり過ぎたり、繊維が脱落し易くなってしまうことが懸念される。
そこで、本実施形態のウェブ71においては、目付け量を40g/mとしている。
【0027】
ウェブ71の厚みとしては、厚くすると供給ローラ73の外径が大きくなりスペースの確保が困難になる。逆に、薄い場合は、強度が弱くなり破断の懸念がある。したがって、ウェブ71の厚みとしては、20〜70μm程度の厚みが好ましい。
また、従来、クリーニングに用いられているウェブは定着部材のトナーとの親和力を下げるために、シリコーンオイルやフッ素オイルなどの耐熱性潤滑剤を含浸したものが多い。
【0028】
しかしながら、本実施形態で用いている薄肉フィルムを定着部材として用いる像加熱装置では、定着スリーブ21とセラミックヒータ22との間に大きな摩擦抵抗が存在し、加圧ローラ23の表面に潤滑剤が存在すると、次のようなことが懸念される。すなわち、定着スリーブ21と加圧ローラ23との間の摩擦が小さくなり、定着スリーブ21の従動回
転を損なう現象(スリップ現象とする)を引き起こしてしまうことが懸念される。
そこで、本実施形態では、ウェブ71に上記潤滑剤を含ませていない乾式ウェブを採用している。
【0029】
供給ローラ73は、ウェブ71の一方の終端を起点にウェブ71が予め巻き付けられており、巻取りローラ72はウェブ71をもう一方の終端から徐々に巻き取れる構成となっている。
また、供給ローラ73は像加熱装置及び画像形成装置の振動などで余分なウェブ71が送り出されないように、回転軸に板ばね(不図示)を押圧して軽い制動力を付与する構成となっている。
供給ローラ73、巻取りローラ72、及び、ウェブ71は、容易に交換可能なように一体化されてウェブクリーニングユニット70を構成している。
このウェブクリーニングユニット70が加圧ローラ23に対して10〜40Nの加圧力で付勢されることで、巻取りローラ72が加圧ローラ23表面に当接して、約2mm幅のクリーニングニップ(クリーニングニップ部)が形成されている。ここで、加圧ローラ23は一対の回転体のうち一方の回転体に相当する。
【0030】
記録材Sが定着ニップNを通過すると、微量のトナーや紙粉が定着スリーブ21や加圧ローラ23に付着する場合がある。
本実施形態では、定着ニップNに記録材Sが存在しないタイミング(以下、紙間とする)で、定着スリーブ21と加圧ローラ23の表面が直接接触する際に、温度勾配により定着スリーブ21から加圧ローラ23に汚れを転移させる。
この加圧ローラ23に付着したトナーや紙粉は、上記クリーニングニップでウェブ71により拭い取られ、ウェブ71の繊維間で保持される。このことで、クリーニングされたトナーや紙粉が、再度、定着スリーブ21や加圧ローラ23に戻ってしまう現象(以下、吐き出しとする)を防止できる。
【0031】
巻取りローラ72は、不図示のアイドラギアなどを介してモータ(不図示)により、加圧ローラ23の回転方向とは相反する方向(時計方向)に回転駆動され、A4サイズの記録材1頁当たり約30μmの長さでウェブ71を巻き取るように構成されている。このようにしてウェブ面が更新されることで、上記の汚れで清掃面が飽和してクリーニング能力が低下するのを防止している。
【0032】
本実施形態では、離間カム75を回転させることで、巻取りローラ72を加圧ローラ23表面から離間させる機構を有している。
この機構により供給ローラ73の回転軸を支点として、ウェブクリーニングユニット70を図2に破線で示す位置に回動させ、巻取りローラ72を離間させると同時に、アイドラギア(不図示)との動力伝達を切断することで、駆動系の移動を回避している。
スタンバイ中や、プリント中でも頁間(紙間)が所定時間(本実施形態では7秒)以上になるような場合は、クリーニングニップに余分な熱や加圧が与えられないように、この機構を作動させて加圧ローラ23表面から巻取りローラ72を離間させている。
【0033】
これらの動作の流れを示すフロー図を図6に示した。
プリント動作を開始すると、記録材Sの種類に応じた目標温度に温調しながら、加圧ローラ23を回転駆動させ(S101)、その後、離間カム75を図2に実線で示す位置に回転させ、ウェブクリーニングユニット70を加圧ローラ23に当接させる(S102)。
画像形成動作及び定着動作(S103)を経て、定着スリーブ21上に付着した汚れは紙間で加圧ローラ23に転移し(S104)、加圧ローラ23上に付着した汚れとともに、ウェブ71によりクリーニングされる。その後、不図示のモータを駆動することでウェ
ブ71を所定量(30μm)巻取り(S105)、汚れが飽和しない状態を維持する。
プリント終了の場合は、ウェブクリーニングユニット70を加圧ローラ23から離間させ(S107)、次のプリントに備える。プリント終了でない場合は、次のようにして、ウェブクリーニングユニット70の離間当接状態を決定する(S110〜S111)。すなわち、所定時間(本実施形態では7秒)以内に後続の定着が実行されるか否かで、ウェブクリーニングユニット70を離間させるか、当接させたままとするかを判断し、ウェブクリーニングユニット70の離間当接状態を決定する。
このような画像形成装置100における特徴について、以下に示す実施例1,2により詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
以下に、実施例1について説明する。
まず、ウェブ71に回収されるトナーや紙粉に関して説明する。
ウェブ71に回収されるトナーは、記録材Sから定着スリーブ21に転移したトナーであり、電子写真方式の画像形成装置においては、一般的にオフセットと呼ばれる現象である。
【0035】
オフセットは幾つかの理由により発生する。それぞれのケースを簡単に説明する。
(ケース1)
定着スリーブ21が記録材Sや加圧ローラ23との摺擦により帯電してしまい、トナーを記録材S上から定着スリーブ21に引き寄せてしまうことで発生する(「電位的」な理由によるもの)。
(ケース2)
定着スリーブ21表面の温度が最適な定着温度を超えてしまい、定着ニップNにおいて、トナーを必要以上に溶融・軟化させてしまい発生する(「熱量過多的」な理由によるもの)。
(ケース3)
定着スリーブ21表面の温度が最適な定着温度に達しないことで、定着ニップNにおいて、トナーを溶融・軟化できないことで発生する(「熱量不足的」な理由によるもの)。
【0036】
以上のオフセットに対して、ケース1の電位的なものに対しては、定着スリーブ21や加圧ローラ23の表面電位をコントロールすることで対策している。具体的には、トナーの帯電電位がマイナスの場合、定着スリーブ21の表面電位を0〜マイナス電位としトナーと電位的に反発させ、加圧ローラ23の表面電位を0〜プラス電位として記録材Sを介してトナーを電位的に引き寄せることでオフセットを防止している。
ケース2の熱量過多的なもの、及び、ケース3の熱量不足的なもの対しては、先に述べた定着の温度制御の最適化を図ることでオフセットを防止している。
【0037】
これらのオフセットトナー現象の概念を図7に示した。
図7(a)は、トナーTが記録材Sから定着スリーブ21にオフセットする様子を示す概略断面図である。図7(b)は、トナーTが定着スリーブ21表面で移動する様子を示す概略断面図である。図7(c)は、トナーTが定着スリーブ21表面から記録材Sにオフセットする様子を示す概略断面図である。
ここで、紙粉は、記録材Sの表面から剥離した「繊維(セルロース)」「充填剤」「添加剤」「補強剤」など記録材Sの構成成分を総称している。封筒など糊を用いている記録材Sでは、糊なども付着することがある。
また、樹脂を原材料とするOHPなどでは一般的にこれらの付着物はないと考えられる。
【0038】
続いて、オフセットトナーや紙粉のウェブ71への回収に関して説明する。
図8は、搬送される記録材Sについて説明するための図であり、記録材Sが記録材搬送方向に沿って仮想的に2つの領域B,Cに分けられた状態を示す図である。
図8中の領域Bにて発生したオフセットトナーは、記録材Sから定着スリーブ21を経て、再び記録材Sに戻ることになる。定着スリーブ面側から発生した紙粉においても同様である。
このオフセット現象は清掃手段を持たない像加熱装置においては、そのオフセットトナー量は微量であり、オフセットトナーが記録材Sに戻り定着されても、画像としては認識出来ないレベルであり、画像不良として認識されることはない。
【0039】
一方、図8中の領域Cで示した、記録材S後端(記録材搬送方向における上流端)から定着スリーブ1周分(定着スリーブの外周の長さ)のエリアで発生したオフセットトナーは、記録材Sから定着スリーブ21を経て記録材Sには戻ることが出来ない。このため、定着ニップNにて加圧ローラ23へ転移し、クリーニングニップにてウェブ71に回収されることとなる。紙粉においても同様である。
これらのオフセットトナーは清掃手段を持たない像加熱装置においては、画像不良として認識されないレベルのオフセットであり問題とならない。しかし、清掃手段を有した像加熱装置においてはウェブに回収されることで後述する「異音」の原因となってしまうことが懸念される。ここで、加圧ローラ面側から発生した紙粉においては、直接、クリーニングニップにてウェブ71に回収されることになる。
【0040】
本実施例のウェブクリーニングユニット70においては、図2に示したように、クリーニングニップを形成する部材である巻取りローラ72は、使用に伴い使用済みのウェブ71を巻き取ることで、その外径が大きくなってしまう。このため、加圧ローラ23に対するウェブ71の当接圧が変化してしまう。
【0041】
続いて、ウェブ71の当接圧が変化することに関して説明する。
本実施例では、巻取りローラ72は加圧ローラ23に対して、図5に示したように定着器側板35と巻取りローラ72の間に設けられた引っ張りバネ76にてレバー比3.6倍で押圧している。
引っ張りバネ76は、基準長36.23mmでバネ圧1/33N、バネ定数0.0745N/mmの仕様となっている。
また、巻取りローラ72の外径は、初期の約6mmに対して、使用に伴いウェブ71が巻き取られることで最終的な外径は約7mm大きくなる。
【0042】
本実施例における当接圧を計算した結果を表1に示す。なお、表1において、*印が付いている数字は、離間状態における計算値を示している。
【表1】

【0043】
表1に示したように、本実施例では未使用状態におけるウェブ71の当接圧を12.8Nで設計した。使用に伴いウェブ巻取りローラ72の外径が7mm大きくなった場合の当接圧を計算すると、表に示したように18.3Nと1.43倍にもなってしまう。
【0044】
そこで、ウェブ当接圧を変化させた場合のクリーニング性能の確認を行った。その結果を表2に示す。
確認条件としては、A4サイズの記録材に全面黒のハーフトーン(30%濃度)画像を10枚連続通紙した後に、5分間の休止を設け、再び、30%ハーフトーン画像5枚を連続通紙、5分間の休止を設ける。これを繰り返すことで105枚のプリントを行った。
確認に用いた記録材は、次に示すような普通紙、厚紙、光沢紙である。すなわち、普通紙としては、坪量68g/mのもの(商品名:キヤノン(株)、CS−680)を用いた。厚紙としては、坪量104.7g/mのもの(商品名:キヤノン(株)、CLC用
両面厚口用紙)を用いた。光沢紙としては、坪量150g/mのもの(商品名:キヤノン(株)、CLC用 光沢厚口用紙NS−701)を用いた。
そして、これら普通紙、厚紙、光沢紙をそれぞれ、普通紙モード、厚紙モード、光沢紙モードにて通紙した。本実施例において、各モードのプロセススピード(一対の回転体の回転速度)は、記録材の種類に対応して複数設定されている。
各モードのプロセススピードは次のように設定した。普通紙モードのプロセススピードは、画像形成装置のプロセススピード同等の1/1速の97mm/secとした。厚紙モードのプロセススピードは、画像形成装置のプロセススピードの1/2速の48.5mm/secとした。光沢紙モードのプロセススピードは、画像形成装置のプロセススピードの1/3速の32.3mm/secとした。
【0045】
【表2】

【0046】
確認の結果、表2に示したように、1/1速の普通紙モードでは11N以下、1/2速の厚紙モードと、1/3速の光沢紙モードでは10N以下で、接触圧の不足によりクリーニング不良が発生した。
1/1速の普通紙モードが厳しいのは、停止状態のウェブ71に対して回転動作している加圧ローラ23の回転速度が速く、クリーニング性が劣ってしまうためである。クリーニング不良は、トナー汚れをウェブ71にて回収できなかったため、加圧ローラ23表面
の汚れが記録材Sの裏汚れとして顕在化した。
一方、当接圧が高い場合、1/2速の厚紙モードでは19Nから、1/3速の光沢紙モードでは16.5Nから異音が発生した。
【0047】
当接圧が足りない場合のクリーニング不良の回避策としては、クリーニングニップのニップ巾を太くする手段があるが、ニップ巾を太くするには当接させるローラ外径を大きくする必要があり、結果、ウェブクリーニングユニットの大型化を招いてしまう。
そこで、当接圧の設定は、クリーニング性能を満足できる当接圧を下限とし、上限側で発生する「異音」対策を行うことで、当接圧の変化によらず問題の発生しない小型化の図れる安価なクリーニング手段の実現を図った。
【0048】
異音は、数十〜百Hz台の低周波の音であり、擬語で表すと「ブー」といった音色であり、クリーニングニップにて発生している。この音は、発明が解決しようとする課題の項でも簡単に触れたが、ウェブ71に回収されるトナーによって、クリーニングニップにおける摩擦力が増加することによるものである。
【0049】
この現象に関して以下に説明する。
クリーニングニップに到達したトナーは、定着ニップNを経て来るため、粉体状ではなく、軟化溶融した状態にあり粘性を有している。そのため、クリーニングニップでトナーが回収されると、クリーニングニップにおける摩擦力が変わることになる。
【0050】
クリーニングニップにトナーが回収された時の摩擦力の変化を知るために、オフセットしたトナーがクリーニングニップにてウェブ71に回収される際にウェブ71にかかる引っ張り力を測定した。
その結果を図9に示す。図9は、オフセットしたトナーがクリーニングニップにてウェブ71に回収される際にウェブ71にかかる引っ張り力を示すもので、その引っ張り力を縦軸にとり、時間を横軸にとったグラフで示している。
図9に示すように、クリーニングニップにトナーが回収された瞬間に引っ張り力が大きくなった(図9中の○で囲ったエリア)後に小さくなり、再びクリーニングニップにトナーが回収されると瞬間的に引っ張り力が大きくなることが分かった。
【0051】
これは、粘性をもったトナーがクリーニングニップに到達することでクリーニングニップにおける摩擦力が大きくなったことを示している。
摩擦力が大きくなると、クリーニングニップにおいて巻取りローラ72から加圧ローラ23に加わる力は大きくなり、弾性層を有する加圧ローラ23をより変形させることになる。次の瞬間には、変形した加圧ローラ23は元に戻ろうとする。
この変形と元に戻ろうとする動きは、一般的にスティックスリップと呼ばれるびびり現象であり、静止状態にある物体と運動状態にある物体とが接する面で発生する現象である。本実施例では、ウェブ71が静止物であり、加圧ローラ23が運動物である。
【0052】
加圧ローラ23を変形させている時は、クリーニングニップの摩擦力は最大静止摩擦力以下である。
この最大静止摩擦力を超えた瞬間が、変形状態から元の形に戻ろうとする瞬間であり、その後、それまでの静止状態から動状態へとかわる。
動状態に移行した後、クリーニングニップの摩擦力が最大静止摩擦力を下回ると、動状態から静止状態へと移行する。このように、最大静止摩擦力を境界に静止状態と動状態を繰り返す振動現象がスティックスリップ現象である。
このスティックスリップ現象による振動が、ウェブクリーニングユニットや像加熱装置を振動させることで、びびり音(異音)が発生することになる。
【0053】
クリーニングニップにあるトナーは、時間の経過とともに、温度が上がることで粘性が小さくなり、クリーニングニップにおける摩擦力が小さくなることで、スティックスリップ現象は終わることとなる。
このスティックスリップ現象が存在しない時間帯(図9の時間帯tOKに相当)は、クリーニングニップにトナーが回収された瞬間に引っ張り力が大きくなった(図9中の○で囲ったエリア)後に引っ張り力が小さくなっている時間帯である。
【0054】
上述したように、ウェブ異音はクリーニングニップの摩擦力の増加によるスティックスリップ現象による振動を原因とするものであり、クリーニングニップの摩擦力を増加させる要因はオフセットトナーがクリーニングニップに到達(存在)することである。
【0055】
また、スティックスリップ現象の発生しやすい条件としては、次のようなことが知られている。それは、静止状態にある物体と運動状態にある物体との間の摩擦力が大きいこと、静止状態にある物体と運動状態にある物体との間の速度差が小さいこと(運動状態にある物体の移動速度が小さい)などである。
本実施例において、1/3速において顕著に異音が発生したのも、静止状態にあるウェブ71と運動状態にある加圧ローラ23との間の速度差が小さいことに起因している。
【0056】
続いて、スティックスリップ現象を回避する手段に関して説明する。
本発明者は、スティックスリップ現象によるびびり異音が発生する光沢紙モード(1/3速モード)において、次のようにすることで、クリーニングニップの摩擦力が増加してもスティックスリップ現象の発生しないウェブクリーニングシステムを見出した。それは、オフセットトナーがクリーニングニップに到達するタイミングである紙間で、運動物である加圧ローラ23の回転速度を速くする像加熱装置の増速制御を実行し、静止物であるウェブ71に対する相対速度差を大きくすることである。
【0057】
紙間に加圧ローラ23の回転速度を速くする増速制御を実行した場合のスティックスリップ現象の抑制効果としてウェブ異音の発生有無を確認した。その結果を表3に示す。
結果は、「◎」「○」「△」「×」の4水準で分類した。
ここで、「◎」は異音の発生は全く無し、「○」は25db程度の軽微な音は発生するものの画像形成装置の稼働音にかき消されてしまい実用的には音が発生しているとは認識されないレベルとした。また、「△」は一般的なオフィス環境等では音として認識されてしまう45〜50db程度の音、「×」は画像形成装置の異常として捉えられる可能性のある65db程度の音として分類した。
確認条件は先のウェブ当接圧を変化させた場合の検証条件と同様であるが、増速制御を実施した点のみ異なる。増速制御の増速比率としては、(増速後の速度)/(増速前の速度)として表し、表3に示した6水準の増速比率を検証した。
【0058】
【表3】

【0059】
確認の結果、表3に示したように、異音を回避できる増速制御の増速比率はウェブ当接圧により異なる結果であった。
即ち、増速制御の増速比率を大きくした場合はウェブ当接圧が高くても異音は発生せず、ウェブ当接圧が低い場合は増速制御の増速比率を大きくせずとも異音を回避できることが分かった。
本検討の結果、像加熱装置やウェブクリーニングユニット70の構成に係わるものの増速制御としては、1.5倍以上の増速制御とすることがウェブ異音の対策として効果があり、望ましくは2倍程度以上の増速制御を実施することが適していることが判明した。
【0060】
次に、紙間の加圧ローラ23の回転速度を増速することでスティックスリップ現象を回避できるメカニズムについて説明する。
スティックスリップ現象は接触状態にある静止物と運動物において、運動物が停止(スティック)と運動(スリップ)を繰り返す現象である。運動物は重量と速度の2乗に比例する運動エネルギーを有しており、この運動エネルギーをもって距離xを移動したものが仕事量Fとなる。
言い換えれば、運動状態にある運動物を停止させるには、速度vで運動している物体の速度を零(v)とすることであり、これが距離xで成された場合は仕事量Fとなる。
【0061】
運動する物体の重量mが一定の場合、その運動エネルギーは速度vの2乗に比例することになり、仕事量Fも速度vの2乗に比例することとなる。
よって、速度vで運動する運動物を停止(スティック)させるのに要するエネルギーは、速度vが小さい場合は少ないエネルギーで済み、速度vが大きい場合は多くのエネルギーを要することとなる。
【0062】
以上のことから、光沢紙モード(1/3速)の場合、次のようなことが、スティックスリップ現象によるびびり異音の対策にできることが判明した。すなわち、紙間において加圧ローラ23を増速させる制御を実行し仕事量を大きくすることで、その運動物を停止させるために、より大きな運動エネルギーが必要となることがスティックスリップ現象によるびびり異音の対策にできることが判明した。
【0063】
以上の内容のフローチャート図を図1に、タイミングチャート図を図10に示した。以下に、図1を用いて制御回路部200によって実行される増速制御動作について説明する。
画像形成の信号が入ると、像加熱装置は温調を開始し定着の駆動がなされる(S201)。次に、ウェブクリーニングユニットが加圧ローラ23に当接され、定着が開始される(S202〜S203)。
その後、増速制御を実行するか否かの要否判断がなされる(S204)。増速制御が要と判断された場合(S204‐Yes)、記録材Sが定着ニップNを抜けるタイミングをモニターし、定着ニップNを抜けたタイミングで像加熱装置20を1/3速から1/1速に増速制御する(S205〜S206)。
【0064】
その後、後続の記録材Sが像加熱装置20に継続して搬送されるか否か(プリント動作を継続するか否か)を判断する(S207)。プリント終了の場合(S207‐No)は、ウェブクリーニングユニット(ウェブ)を加圧ローラ23から離間させ、スタンバイ状態に移行することとなる(S210〜S211)。
一方、プリントが継続される場合(S207‐Yes)は、次のようになる。すなわち、後続の記録材S先端が第4ステーションの転写工程に到達するタイミングをモニターし、そのタイミングにて像加熱装置を1/1速から1/3速に減速し(S208〜S209)、後続の定着動作に備えるものとする。
また、増速制御が否と判断された場合(S204‐No)には、プリント動作(定着動作)が継続され(S220)、そのプリント動作の終了後、後続の記録材Sにプリント動作を継続して行うか否かを判断する(S221)。プリント終了の場合(S221‐No)は、ウェブクリーニングユニットを加圧ローラ23から離間させ、スタンバイ状態に移行する(S210〜S211)。一方、プリントが継続される場合(S221‐Yes)は、S203に戻る。
【0065】
以上説明したように、本実施例では、当接圧が高すぎる場合に発生する異音対策として、異音が発生してしまう条件下である低速モードにおいて、像加熱装置を増速させる増速制御を行った。これは、静止物と運動物の相対速度差が大きければスティックスリップ現象が発生しにくいことを利用したものである。
本実施例によれば、低速で動作する光沢紙モードなどにおいても、巻取りローラ72がウェブ当接ローラを兼ねることでウェブ当接圧が変化しても、「清掃不良」抑制と「異音」抑制の両立が図れる、安価な画像形成装置を提供することが可能となる。
【0066】
ここで、本実施例の増速制御は、図1に示したフローチャートにおいては、後続の記録材S先端が第4ステーションの転写工程に到達するタイミング(S208〜S209)か、スタンバイ状態に移行(S211)するまで行われるが、これに限るものではない。例えば、プリントが継続される場合には、後続の記録材Sが定着ニップNに到達するタイミングで減速するように制御されるものであってもよい。
すなわち、定着ニップNで記録材Sが挟持搬送される場合、記録材Sのうち記録材搬送方向において予め定められた部位として後端(記録材搬送方向における上流端)が定着ニップNを通過してから予め定められた時間まで、行われるものであればよい。予め定められた時間としては、スティックスリップ現象は終わる時間であって、上述したように、クリーニングニップにトナーが回収された瞬間に引っ張り力が大きくなった(図9中の○で囲ったエリア)後に引っ張り力が小さくなるタイミングであればよい。
【0067】
本実施例では、クリーニングニップの当接圧の設定範囲内でスティックスリップ現象が発生した光沢紙モードである1/3速から1/1速への増速制御について説明した。しかし、スティックスリップ現象の要因となる、クリーニングニップに回収されるオフセットトナーや、像加熱装置の構成によっては、1/3速のみならず1/2速などの低速モード
においても増速制御の実行は有効である。すなわち、1/3速や1/2速など、予め設定された回転速度以下で記録材が搬送される場合に、制御回路部200によって増速制御が行われるものであるとよい。
普通紙モード(1/1速)においては、表2からわかるように当接圧が高い場合には異音は発生しなかったため、普通紙モードでプリントが行われる場合には、図6に示したフローチャートに従いプリント動作が実行されることになる。
【0068】
なお、本実施例においては、巻取りローラ72が加圧ローラ23表面に当接してクリーニングニップを形成するものであったが、これに限るものではなく、供給ローラ73が加圧ローラ23表面に当接してクリーニングニップを形成するものであってもよい。本発明は、供給部材(供給ローラ73)又は巻取り部材(巻取りローラ72に相当)が、ウェブを介して一方の回転体(加圧ローラ23又は定着スリーブ21に相当)とクリーニングニップを形成するように構成された画像形成装置に好適に適用できる。
【0069】
[実施例2]
以下に、実施例2について説明する。
本実施例は、先の実施例1で説明したスティックスリップ現象の要因となるクリーニングニップに回収されるオフセットトナーの減少を図り、更なる異音対策効果を狙ったものである。
【0070】
ウェブ71に回収されるトナーは、先の実施例1で説明したオフセットトナーである。
本発明者の検討において、ウェブ71に回収されるトナーとなる図8の領域Cで示したエリアで発生するオフセットトナーは、次のようなホットオフセットによるものであることが分かった。
それは、先に述べたカラー画像形成装置特有の4色のトナーのホットオフセット発生温度と定着不良発生温度との温度マージンの微妙な違いに対して、温調温度は単一の制御であることによるホットオフセットである。
【0071】
従来、ホットオフセットを減らす手段としては、温調設定を最適化することで成されてきた。
具体的には、記録材S後端の目標温度のステップ温調(図10中の(3)〜(4)を最適化することでホットオフセットを解消しており、万が一、記録材S上にオフセットしても認識出来るレベルではなく問題とされることはなかった。
しかしながら、清掃手段としてのウェブクリーニングユニット70を設けたことで、画像としては認識できない微少なホットオフセットトナーであっても、クリーニングニップにおける摩擦力の変化により顕在化することとなってしまった。
【0072】
そこで、本実施例では、図8の記録材Sの後端領域Cにおけるホットオフセットトナーを減ずる手段として、記録材の後端領域Cが搬送される場合の加圧ローラ23の回転速度を速くしている。このことで、定着スリーブ21から記録材Sに伝達される熱量を減らすことができ、ホットオフセットを減少させることが可能となる。
【0073】
また、この手段の場合、以下のメリットがあることも分かった。
従来の手段である記録材S後端の目標となるステップ温調を最適化することでホットオフセットを解消する場合、記録材S後端での発熱量を小さくするため、後続の記録材Sの先端における熱量が足らなくなってしまう。このため、紙間において熱エネルギーの補填を行うこととなり、結果、紙間を大きくする必要があった。
しかし、本実施例では、加熱部材(ヒータ)からの発熱エネルギーは保持されるため、必要以上に紙間を大きくすることが不要となり、生産性の維持が図れる。
【0074】
記録材Sの後端領域Cにおける増速制御によるホットオフセットトナーの減少効果に関して、ウェブ71に回収されるトナー量を定量化する手段を次に示す。それは、ウェブ71に回収されたトナーによってウェブ71上に形成される回収トナー帯(ウェブクリーニングニップに相当する)のトナー濃度を、Gretag Macbeth社の濃度計RD918にて、長手方向における5箇所を測定するものである。その結果を表4に示す。
【0075】
確認条件としては、先の実施例1で説明したスティックスリップ現象が発生した低速モードである1/3速の光沢紙モードと同様な条件で行った。
本実施例で用いた光沢紙モードも、実施例1同様に画像形成装置のプロセススピードの1/3倍の約32.3mm/secで動作するものとする。
ウェブ71の送り量は、先に述べた1枚当たり30μmであり105枚の通紙により約3mm幅のウェブクリーニングニップ痕が形成される。また、休止中は図6で示したフローに従ってウェブクリーニングユニット70は離間されている。
【0076】
【表4】

【0077】
表4に示したように、記録材S後端における搬送速度の増速比率を大きくするに従い、ホットオフセットトナー量が減少することで、クリーニングニップに回収されるトナー濃度が小さくなっており、ホットオフセットの抑制効果が示された。
尚、定着ニップの記録材Sが領域Bから領域Cに切り替わる時点では、記録材Sは直前の工程である転写第4ステーションを抜けており、像加熱装置の搬送速度を増速しても前工程である転写工程には影響はない。
また、像加熱装置よりも記録材搬送方向下流の排出ローラなどは、像加熱装置を回転駆動しているモータにて一緒に駆動することで、像加熱装置の増速と同時に排出ローラなども増速されるため、記録材Sの搬送に係わる問題の発生はない。
【0078】
このように本実施例では、記録材の後端領域Cにおけるホットオフセットを減らすことでクリーニングニップに回収されるトナーを減らし、クリーニングニップにおける摩擦力の増加を抑えることでスティックスリップ対策とした。本実施例では、これに併せて、先の実施例1で示した紙間での増速制御によるスティックスリップ対策を盛り込むことで、更なるスティックスリップ対策の効果を得ることが可能となるものである。
【0079】
以上の内容のフローチャート図を図11に、タイミングチャート図を図12に示した。本実施例では、先の実施形態1の実施内容も併せて実行することで、更なるスティックスリップ現象の抑制を実現するものとした。
画像形成の信号が入ると、像加熱装置は温調を開始し定着の駆動がなされる(S201)。
次に、ウェブクリーニングユニットが加圧ローラ23に当接され、定着が開始される(
S202〜S203)。
その後、増速制御を実行するか否かの要否判断がなされる(S204)。増速制御が要の場合(S204‐Yes)、定着ニップNを通過する記録材Sの領域が「B」から「C」に変わるタイミングをモニターし、「B」から「C」に切り替わったタイミングにて、像加熱装置を1/3速から1/1速に増速する(S205〜S206)。ここで、記録材Sの領域のうち「B」と「C」との境界は、記録材のうち、記録材搬送方向における上流端に対して定着スリーブ21の外周の長さだけ記録材搬送方向下流に位置する部位である。
【0080】
その後、後続の記録材Sが像加熱装置に継続して搬送されるか否かを判断する(S207)。プリント終了の場合(S207‐No)は、ウェブクリーニングユニットを加圧ローラ23から離間させスタンバイ状態に移行させる(S210〜S211)。
一方、プリントが継続される場合(S207‐Yes)は、次のようになる。すなわち、後続の記録材S先端が第4ステーションの転写工程に到達するタイミングをモニターし、そのタイミングにて像加熱装置を1/1速から1/3速に減速し(S208〜S209)、後続の定着動作に備えるものとする。
また、増速制御が否と判断された場合(S204‐No)には、プリント動作(定着動作)が継続され(S220)、そのプリント動作の終了後、後続の記録材Sにプリント動作を継続して行うか否かを判断する(S221)。プリント終了の場合(S221‐No)は、ウェブクリーニングユニットを加圧ローラ23から離間させ、スタンバイ状態に移行する(S210〜S211)。一方、プリントが継続される場合(S221‐Yes)は、S203に戻る。
【0081】
以上のように本実施例では、クリーニングニップに回収されるトナーを減らし、クリーニングニップにおける摩擦力の増加を抑えることでスティックスリップ対策とし、これに併せて、実施例1で示した紙間での増速制御によるスティックスリップ対策を盛り込んだ。したがって、本実施例によれば、実施例1に対して、更なるスティックスリップ対策の効果を得ることが可能となるものである。
【符号の説明】
【0082】
2…帯電手段、6…画像露光手段、3…現像手段、8…転写ローラ、21…定着スリーブ、23…加圧ローラ、71…ウェブ、72…巻取りローラ、73…供給ローラ、100…画像形成装置、200…制御回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録材にトナー像を形成するトナー像形成手段と、
互いに圧接して形成されたニップ部で、前記トナー像形成手段によりトナー像が形成された記録材を挟持搬送し、かつ該記録材上に形成されたトナー像を加熱する加熱回転体及び加圧回転体と、
前記加熱回転体及び前記加圧回転体のうち一方の回転体の表面に当接して前記一方の回転体の表面をクリーニングするウェブと、
前記ウェブが巻かれた供給部材と、
前記供給部材に巻かれた前記ウェブを巻取る巻取り部材と、
を有し、
前記供給部材又は前記巻取り部材が、前記ウェブを介して前記一方の回転体とクリーニングニップ部を形成するように構成された画像形成装置において、
前記ニップ部で記録材が挟持搬送される場合、記録材のうち記録材搬送方向において予め定められた部位が前記ニップ部を通過してから予め定められた時間まで、前記加熱回転体及び前記加圧回転体の回転速度を増速させる増速制御を行うことが可能な制御手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記予め定められた部位は、記録材のうち記録材搬送方向における上流端であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記予め定められた部位は、記録材のうち、記録材搬送方向における上流端に対して前記加熱回転体の外周の長さだけ記録材搬送方向下流に位置する部位であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記加熱回転体及び前記加圧回転体の回転速度は、記録材の種類に対応して複数設定されており、
複数設定されている、前記加熱回転体及び前記加圧回転体の回転速度のうち、予め設定された回転速度以下で記録材が挟持搬送される場合に、前記制御手段により前記増速制御が行われることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−128310(P2012−128310A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281347(P2010−281347)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】