説明

画像特性計測装置および画像形成装置

【課題】画像形成装置によって形成された画像の測色を正確に行える画像特性計測装置を提供する。
【解決手段】計測対象物である画像担持体上の画像の所定の領域に光を照射する第一の光照射手段101と、照射された光の計測対象物からの反射光を集光する第一の結像手段103と、計測対象物と略結像関係の位置に設置された開口列により領域分割する領域分割手段104と、領域分割された反射光を集光する第二の結像手段105と、開口列を通過して領域分割された光をそれぞれ回折像が重畳しないように分光する分光手段106と、各開口からの領域分割された光を受光するアレイ状受光手段107と、開口列と第二の結像手段の間に上方から光を照射する第二の光照射手段111と、第二の光照射手段からの光を開口列の方向へ反射する反射手段とを有し、開口列と反射手段を介した第二の光照射手段との距離と、開口列と第二の結像手段の入射瞳との距離とが同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の分光データをライン上で一度に取得することを可能とする分光センサアレイを用いた画像特性計測装置に関するものであり、主に画像形成装置によって形成された画像を評価するために画像全幅にわたって分光反射率を取得し正確に測色を行うため、精度よく分光センサアレイ自体の位置および姿勢を検出する機構を有する画像特性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロダクションプリンティング分野において枚葉機、連帳機ともにデジタル化が進み、電子写真方式、インクジェット方式などの製品が多く市場投入されている。ユーザニーズもモノクロ印刷からカラー印刷への移行における画像の多次元化、高精細高密度化が進み、写真高画質プリント、カタログ印刷、請求書等への個人嗜好に対応した広告掲載など、消費者の手元に届くサービス形態の多様化が進み、高画質、色再現への要求も高まっている。
【0003】
高画質化に対応した技術として、電子写真方式では中間転写体や感光体上の定着前のトナー濃度を検知する濃度センサを搭載してトナー供給量を安定化するもの、個人情報の保証では画像形成方式によらず出力画像をカメラ等で撮像し文字認識や画像間差分による差異検出で検査するもの、色再現ではカラーパッチを出力し分光計で一点または複数点の色計測を実行してキャリブレーションを行うものなどが上市されてきた。
【0004】
これらの技術は、ページ間、ページ内での画像変動に対応するため、画像全域で実行されることが望ましい。
【0005】
画像の全幅計測における評価技術として、例えば、特許文献1〜6に開示される技術が提案されている。
【0006】
特許文献1には、「画素に基づいて測定対象を光電的に測定するための測定装置および走査装置」が開示されている。すなわち、ライン状の受光素子を複数並べて、測定対象を検出系に対し相対的に移動する機構を設定し、全幅の分光特性を計測する。その際、受光素子間で検出対象領域からの反射光のクロストークが生じないように遮光壁を設定する。
【0007】
特許文献2には、「全幅アレイ分光光度計、カラー検査対象の全幅走査カラー解析の方法、および、カラー印刷シートの完全横方向走査カラー解析の方法」が開示されている。すなわち、画像の全幅で異なる波長帯を有する光源で連続的に照射し、反射光を取得して全幅の分光特性を取得する。
【0008】
特許文献3には、「印刷物のカラーインキ濃度検出方法およびカラーインキ濃度検出装置」が開示されている。すなわち、印刷面全幅に光を照射し、ラインセンサカメラで特定領域の濃度を検出し、平均化することで基準濃度と比較する。
【0009】
特許文献4には、「画像処理装置およびその方法」が開示されている。すなわち、原稿と特定原稿を複数回走査して、共通する色味情報を画像間論理和等の処理から類似度を判定する。
【0010】
特許文献5には、「印刷シート上の多色刷り画像濃度検出装置」が開示されている。すなわち、印刷面全幅に光を照射し、2次元の画素構造を持つCCDと回折素子または屈折素子の組み合わせにより全幅の分光特性を取得する。
【0011】
特許文献6には、「色彩計測装置および画像形成装置」が開示されている。すなわち、異なる発光波長を有する複数の光源から画像に照明光を照射、反射光を単一の受光手段で取得するマルチバンド分光センサを形成する。その際、紫外光源を有して、紙が含有する蛍光材の影響を検知、色計測結果から除去する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、画像の色を全幅で計測しようとした場合、異なる波長帯に限定した複数の光を照射してエリアセンサで撮像するか、ラインセンサで撮像しながら計測系と被検対象を相対的に移動する構成、または、撮像系を複数設定し、撮像系に入射する被検対象からの反射光の波長帯を限定する構成が一般的に考えられる。その際、取得される複数の波長帯に対応した画像において、画像間で被検対象とする位置にずれが生じた場合、被検対象の各位置での色情報を正確に計測することが不可能となる。ここで波長帯の異なる複数の画像から色情報を正確に計測する方法として、各画像の被検対象の位置で取得される反射光量の強度をリファレンスとなる現画像や原稿データと比較する方法や、各画像の被検対象の位置で取得される反射光量の強度からウィナー推定などを適用して連続分光特性を推測する方法などがある。そのため、各画像で異なる位置を被検対象とした場合、リファレンスとの比較や、連続分光特性の推定に誤差が生じることとなる。
【0013】
従来技術においては、特許文献1に関して、ライン状の計測系であり、被検対象の画像の色を全幅で計測できる一般的な構成を成すが、各波長帯で得られる画像の位置ずれを低減する方策は備えていない。
【0014】
特許文献2に関して、異なる波長帯を有する光源からの連続的な照射光による被検対象からの反射光を取得する構成では、時間軸におけるずれが生じ、被検対象の同一箇所を計測することは不可能である。仮に、当該構成で光源と受光系の組合せを複数備えたとしても、波長帯の異なる各画像の被検対象位置がずれる恐れが多分にある。また、異なる色でフィルタ処理された複数列の検出器を用いた構成も述べられているが、前述したものと同様に複数色間での画像位置ずれによる問題が生じる。
【0015】
特許文献3に関して、全幅で色情報を取得する構成は同様であるが、検知した領域の濃度を平均化する工程により代表値としていると考えられ、被検対象の色分布に関しては保証できない。
【0016】
特許文献4に関して、各波長帯に原稿と被検対象を画像間演算により比較して判定しているが、被検対象の色変動は特定できない。また、個別に得られる画像の色情報から、画像を再構成しても、実際の被検対象に色変動が生じているかは判定不可能である。
【0017】
特許文献5に関して、2次元画素構造を有するCCDを用い、1方向に画像データを、もう1方向には分光データを取得することで全幅の色情報を測定する構成が示されている。しかしながら、2次元画素構造を有するCCDにおいては、データ読み出し特性上の制約からラインセンサに対して読み出し速度が格段に遅くなるため、対象物の色情報を取得する速度に大きな制約が存在する。
【0018】
特許文献6に関して、可視光と紫外光を紙に照射し、紙の紫外光に対する影響は除去可能としている。しかしながら、計測光学系の構成上、1箇所のみでの分光計測は可能であるが、光源が時分割で点灯させなければならないことから、オンマシンで画像担持体である画像を形成した紙が搬送されている状態では計測不可能である。時分割点灯している間に紙が移動し、同一箇所での色計測が不可能なためである。また、1箇所のみの計測であることから、たとえ紙を停止させて計測するとしても、任意の位置で紙から反射される紫外光の影響、画像の色分布および両者の判別などをするためには膨大な時間を要するため、それらの情報取得は不可能といえる。
【0019】
その他に、分光計測では一般的にグレーティングやプリズム等の回折素子を用い、回折素子により分光された各波長帯の強度を獲得して分光情報を取得する方法がある。しかし、回折素子を用いてライン上の色情報を一度に取得しようとする際、0次光、±1次回折光、±2次回折光等のクロストーク、隣接する回折像同士のクロストークが問題となる。
【0020】
この問題を回避し、分光計をライン状に配置し、画像全幅で分光情報を取得可能とした技術を発明者等は特許出願中(特願2009−081986)である。すなわち、「分光特性取得装置、画像評価装置、および画像形成装置」として、バンドパスフィルタまたは回折素子を用いて、隣接色情報や0次光、±1次回折像、±2次回折像のクロストーク無くラインセンサ上に複数の分光測定センサを構成する。
【0021】
より詳細には、計測対象である画像を照明し、色情報である拡散反射光をピンホールアレイ等により領域分割後、バンドパスフィルタと遮光壁を併用し、それぞれのピンホールアレイからのマルチバンド分光情報をラインセンサで取得することにより複数の分光計を整列して構成することを可能とするほか、ピンホールアレイ等により領域分割された拡散反射光を光軸に所定の角度だけ回転した回折素子で回折し光軸に角度を有する回折像をラインセンサに結像することで画像の隣接する色情報や各次回折像間のクロストークを生じない分光センサアレイを構築することを可能とし、画像全幅の分光計測を同時に計測可能とするセンサとして非常に有効な構成を有している。
【0022】
しかし、上記の技術では、分光センサは計測対象との相対位置、相対姿勢は図面上での機械的な位置決めに依存しているため、光学条件を満足するための調整が不可欠となる。この点、分光センサは受動素子であるため、分光センサ自体がどのような位置、どのような姿勢で固定されているかを示す指標が確保しづらい面があった。
【0023】
画像全幅で分光計測を実行する画像特性計測装置は、計測対象が画像全幅と広く、装置の角度ずれが小さい場合でも画像全幅では大きくなることが容易に考えられ、装置の位置および姿勢の調整機構は重要となる。
【0024】
本発明は上記の従来の問題点に鑑み提案されたものであり、その目的とするところは、対象物である画像担持体上の画像の色情報としての分光計測を画像全幅で正確に実行するため分光センサアレイに対象物との相対位置を検出する機構を有し、画像全幅で最適な画像の色情報である拡散反射光を獲得可能とする画像特性計測装置および画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するため、本発明にあっては、請求項1に記載されるように、計測対象物である画像担持体上の画像の所定の領域に光を照射する第一の光照射手段と、前記第一の光照射手段により照射された光の計測対象物からの反射光を集光する第一の結像手段と、前記第一の結像手段により前記計測対象物と略結像関係の位置に設置された開口列により領域分割する領域分割手段と、前記開口列を通過して領域分割された前記計測対象物からの反射光を集光する第二の結像手段と、前記第二の結像手段により集光された前記開口列を通過して領域分割された光をそれぞれ回折像が重畳しないように分光する分光手段と、それぞれ分光された前記各開口からの領域分割された光を受光するアレイ状受光手段と、前記開口列と前記第二の結像手段の間に上方から光を照射する第二の光照射手段と、前記第二の光照射手段からの光を前記開口列の方向へ反射する反射手段とを有し、前記開口列と前記反射手段を介した前記第二の光照射手段との距離と、前記開口列と前記第二の結像手段の入射瞳との距離とが同一である画像特性計測装置を要旨としている。
【0026】
また、請求項2に記載されるように、請求項1に記載の画像特性計測装置において、前記第二の光照射手段を回転する光源回転手段を有するものとすることができる。
【0027】
また、請求項3に記載されるように、請求項1または2のいずれか一項に記載の画像特性計測装置において、前記第二の光照射手段は光源を複数有し、複数の前記開口に向け光を照射可能とするものとすることができる。
【0028】
また、請求項4に記載されるように、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の画像特性計測装置において、前記第一の結像手段、前記領域分割手段、前記第二の結像手段、前記分光手段、前記アレイ状受光手段、前記第二の光照射手段および前記反射手段の全体を回転および並行移動可能とする移動手段を有するものとすることができる。
【0029】
また、請求項5に記載されるように、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の画像特性計測装置を搭載し、前記画像特性計測装置と計測対象物を相対的に移動する移動手段を有する画像形成装置として構成することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の画像特性計測装置および画像形成装置にあっては、対象物である画像担持体上の画像の色情報としての分光計測を画像全幅で正確に実行するため分光センサアレイに対象物との相対位置を検出する機構を有し、画像全幅で最適な画像の色情報である拡散反射光を獲得可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態にかかる画像特性計測装置の構成例を示す図である。
【図2】通常の画像特定計測用の光学系のより詳しい構成例を示す図である。
【図3】第一の結像手段と領域分割手段の関係の例を示す図である。
【図4】第一の結像手段を通過する光の様子の例を示す図である。
【図5】分光手段とアレイ状受光手段の関係の例を示す図である。
【図6】アレイ状受光手段上の結像の例を示す図である。
【図7】アレイ状受光手段上の結像を傾ける例を示す図である。
【図8】アレイ状受光手段上の傾けられた結像の例を示す図である。
【図9】計測した分光分布の例を示す図である。
【図10】バンド数に対する色差の計測結果の例を示す図である。
【図11】画像特性計測装置の他の構成例を示す図である。
【図12】反射手段の他の構成例を示す図である。
【図13】第二の光照射手段の具体的な構成例を示す図(その1)である。
【図14】第二の光照射手段の具体的な構成例を示す図(その2)である。
【図15】第二の光照射手段から逆伝搬してきた光による第一の結像手段からの光ビームの出射角の例を示す図である。
【図16】領域分割手段の光通過位置と光ビームの出射角の関係を示す計測結果の例を示す図である。
【図17】第二の光照射手段から逆伝搬してきた光による第一の結像手段からの光ビームの発散角の例を示す図である。
【図18】領域分割手段の光通過位置と光ビームの発散角の関係を示す計測結果の例を示す図である。
【図19】位置決め調整のためのテストチャートの例を示す図である。
【図20】画像特性計測装置を搭載した画像形成装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態につき説明する。
【0033】
図1は本発明の一実施形態にかかる画像特性計測装置100の構成例を示す図である。また、図2は画像特性計測装置100における通常の画像特定計測用の光学系(調整用の部材を省略した光学系)のより詳しい構成例を示す図であり、図1の上方より見た場合に右端を上端にして描いたものである。
【0034】
図1および図2において、LEDアレイ、コリメートレンズ等のライン照明光源である第一の光照射手段101は、測定対象物である紙などの画像担持体の計測面102上の画像をライン状の照明光で照明する。第一の光照射手段101は可視光のほぼ全域において強度を有する白色光源となっている。第一の光照射手段101に用いる光源としては、LEDアレイ等の他に、冷陰極管などの蛍光灯や、ランプ光源を用いることが可能である。光源としては、分光に必要な波長領域の光を発するものであって、かつ観測領域全体にわたって均質に照明可能であることが望まれる。
【0035】
計測面102からの拡散反射光は、マイクロレンズアレイやセルフォックレンズアレイ等の第一の結像手段103により、ピンホールアレイやスリットアレイ等の開口アレイのような、画像からの反射光を領域分割する領域分割手段104に一次的に結像する。セルフォックレンズは他にマイクロレンズアレイを適用することや、1次的な結像系を省き、開口アレイと紙が近接して配置されている構成でもよい。セルフォックレンズアレイを適用した場合、ピンホールアレイのホールピッチとレンズアレイピッチの不適合より、周期的な明暗部が生じる可能性もあるため検討が必要となる。ピンホールアレイやスリットアレイは、黒化処理をした金属板に穴が開いたものや、ガラス基板上に所定の形状でクロムやカーボン含有樹脂などの黒色部材が形成されたものを用いることが可能である。開口部の形状は円形、矩形に限られるわけでは無く、楕円やその他の形状であってもよい。
【0036】
領域分割手段104を通過した光束は、後述する調整用の反射手段112が光路から除去されている場合、複数枚のレンズからなる第二の結像手段105を通過した後、透過型のグレーティング等の回折素子からなる分光手段106によって、リニアセンサ等によるアレイ状受光手段107へ導かれる。
【0037】
領域分割手段104の各開口からの光束は第二の結像手段105で結像され、分光手段106により分光された後、複数波長帯の強度がアレイ状受光手段107の複数画素で取得可能となる。
【0038】
ただし、第一の結像手段103にセルフォックレンズアレイを用いる構成では、計測面102からの拡散光が直進してしまい、計測対象である紙が広い場合では領域分割手段104の端部を通過した光が第二の結像手段105にカップリングしないことが考えられる。そのため、例えば、図3に示すように、第一の結像手段103のマイクロレンズ103aの計測面102側にスリット103bを設け、マイクロレンズ103aと領域分割手段104のピンホール104aの中心位置を一致させ、スリット103bは、光学系中央ではマイクロレンズ103aとピンホール104aの中心と一致させ、端部にいくに従い、スリット103bの位置のみをマイクロレンズ103aとピンホール104aの中心から徐々にずらして配置することで、光の通過位置を規定するのが好適である。この場合、図4に示すように、マイクロレンズ103aを通過した光をピンホール(104a)を経て第二の結像手段105の方へ屈曲させることができる。
【0039】
図1および図2に戻り、分光手段106はアレイ状受光手段107に近接して配置されている。図5は分光手段106とアレイ状受光手段107の関係の例を示す図であり、図中に破線で光路を模式的に示すように、入射光を分光手段106により回折させることでアレイ状受光手段107を構成する分光センサ(ラインセンサ)のN個(N:バンド数)の画素に異なる分光特性を有する光を入射させている。分光手段106は、透明基板上に鋸歯形状の構造が周期的に形成されたものなどが適用可能である。分光手段106の鋸歯形状部の周期をpとすると、分光手段106へ角度αで入射する波長λの光は、下式で表せられる角度θに回折する。
【0040】
sinθ = mλ/p + sinα
ここで、mは回折格子の次数と呼ばれるもので、正負の整数の値を取ることができる。
【0041】
分光手段106の形状としては、図5に示すような鋸歯形状とすることで、+1次の回折光強度を強くすることが可能であり、最も望ましい。鋸歯形状の他に、階段状の形状を取ることも可能である。また、アレイ状受光手段107の画素周期dを10umすると、回折素子の周期pが10umで、分光手段106とアレイ状受光手段107の距離が2mmのときに、可視光をおよそ6画素に分光して入射することが可能である。
【0042】
しかし、アレイ状受光手段107の素子の配列方向(図2中のx方向)に回折させると、光束は0次光、2次回折像や隣接する開口を透過してきた隣接する光束の回折像などがリニアセンサ上で重なり合い、図6に示すようにクロストークを生じて正確な分光計測が困難となる。そこで、分光手段106を図2の光学系の光軸zに垂直な面内で回転させるか、回折素子の歯の角度を設定することにより、図7、図8に示すように、回折像のクロストークを排除して各波長帯の強度を取得することが可能となる。ここで、図8は分光手段106の回折素子を10[deg]傾けた状態であるが、最適角度は光学素子、レイアウトなどの条件から決めることが可能となる。
【0043】
本実施形態では紫外光および赤外光までの回折像を取得する必要があるため、約350nmから約800nmまでの回折性能が必要であり、当然ながら図5中の分光手段106の格子周波数およびブレーズ角度の設定により、可視域および可視域外の回折像を取得可能である。また、ピーク回折効率は鋸歯状の回折格子に比較し多少低下するものの、ホログラフィー回折格子を適用することで、可視域および可視域外の広い波長領域で一定の回折性能を確保することが可能となる。
【0044】
本実施形態でアレイ状受光手段107を構成するそれぞれの分光センサを個別にユニットとした場合、ユニットを構成する画素数は図2の領域分割手段104を構成するピンホールアレイのピッチおよび径、第二の結像手段105の倍率、分光手段106を構成する回折素子のピッチ、アレイ状受光手段107との設置距離などから決まるが、アレイ状受光手段107上に構成するユニット数、計測する波長範囲等の条件に合わせ柔軟に調整することが可能となる本件全体レイアウトの優位性を効果的に適用することができる。
【0045】
本実施形態で色トナーにより形成される画像の色情報を取得する場合、上記400nmから700nmの波長範囲において、アレイ状受光手段107上で可視域での分光計測系を構成する一組の素子群により、マルチバンド分光センサを構成する。マルチバンド分光ではバンド数が多いほど分光分布の詳細な測定結果を得ることが可能となり、好ましい。しかしながら、アレイ状受光手段107の画素数が一定であるとき、バンド数が増えることによって1セットの分光センサに用いられる画素数が多くなり、アレイ化することが可能な分光センサの数は減少することになる。よって、本実施形態の分光センサにおいては、バンド数を最小に抑えてウィナー推定などの推定手法によって分光分布の推定を行う処理を有していることが好ましい。
【0046】
この分光推定処理に関しては多くの手法が提案されており、例えば非特許文献1に詳細が述べられている。
【0047】
ひとつの分光センサからの出力vから,分光分布を推定する手法の一例を示す。ひとつの分光センサを構成しているN個の画素からの信号出力v(i=1〜N)を格納した行ベクトルvと、変換行列Gから、各波長帯の分光反射率(例えば400〜700[nm]で10[nm]ピッチの31個)を格納した行ベクトルrは以下の式で表される。
【0048】
r=Gv
変換行列Gは,予め分光分布が既知な多数(n個)のサンプルに対して分光分布を格納した行列Rと、同様のサンプルを本実施形態の画像特性計測装置100で測定したときのvを格納した行列Vから、最小二乗法をもちいて誤差の2乗ノルム‖・‖を最小化することによって求まる。
【0049】
R=[r,r, ・・・,r
V=[v,v, ・・・,v
e=‖R−GV‖→min
Vを説明変数,Rを目的変数としたVからRへの回帰式の回帰係数行列Gは,行列Vの二乗最小ノルム解を与えるMoore-Penroseの一般化逆行列を用いて次式のように計算される。
【0050】
G=RV(VV−1
ここで、上付き「T」は行列の転置を、上付き「−1」は逆行列を表す。これで求まったGを記憶させておくことで、実際の測定時には変換行列Gと信号出力vの積を取ることで任意の被測定物の分光分布rが推定される。
【0051】
電子写真方式の画像形成装置によって出力したトナー画像(定着後)を、本実施形態の画像特性計測装置100で読み取って分光分布を推定し、推定した分光分布から推定誤差である色差を算出するシミュレーションを行った。シミュレーションでは、Nの値を変えたときの測色結果と、より詳細な分光装置から得られる測色結果との色差(ΔE)を求めている。実際にシミュレーションに用いたトナー画像の分光分布は図9のようになっている。図10にシミュレーション結果を示す。図10よりバンド数Nが6以上では推定値の誤差に大きな違いが無いことがわかる。各位置での各分光センサに必要とされる画素数を6以上で設定することで、各分光センサ間に精度の差異は生じるが、全域にわたって精度の高い分光計測が可能となる。
【0052】
次に、図1に戻り、上述した通常の画像特定計測用の光学系の構成に加えられた調整用の構成を説明する。
【0053】
図1において、領域分割手段104と第二の結像手段105の間にミラー等の反射手段112を斜め上向きの45°に配置し、光学系全体の上方からLEDやキセノン光源などの第二の光照射手段111を設置する。領域分割手段104と第二の光照射手段111との距離は領域分割手段104と第二の結像手段105の入射瞳面との距離に一致させる。入射瞳面は、図2におけるPの位置に相当する。
【0054】
また、図1における計測面102以外の光学系全体は計測面102に相対的に光軸方向に移動および回転が可能になっており、個々の部材も移動や回転が可能になっている。なお、第一の光照射手段101は計測面102側に固定となっていてもよい。光学系全体の移動と回転を容易にするため、図11に示すように、計測面102以外の部材(第一の光照射手段101を除外してもよい)を一体に回転させる、入射瞳面に回転中心を一致させた回転ステージ121と、回転ステージ121ごと光学系全体を計測面102に対し垂直で光軸方向(図の左右方向)に並行移動させる移動ステージ122を設けてもよい。
【0055】
また、図1(図11も同様)では、調整時にのみ反射手段112を取り付け、通常の画像特性計測時には反射手段112を取り外すことを想定しているが、図12に示すように、反射手段112を回転軸112aを中心に実線で示す位置(調整時)と破線で示す位置(通常の画像特性計測時)に切り換えられるようにすることで、装置から反射手段112を取り外さなくて済む。これにより、経時的な位置ずれに対する相対姿勢および相対位置ずれを容易に調整することができる。
【0056】
図13は第二の光照射手段111の具体的な構成例を示す図であり、図1の左側面方向から見た図である。図13において、第二の光照射手段111の光照射素子111aを回転ステージ111c上に配置し、回転ステージ111cは光照射素子111aの出射端を中心に回転可能になっている。これにより、単一光源で領域分割手段104および第一の結像手段103の全範囲に光を選択的に照射することを可能としている。
【0057】
図14は第二の光照射手段111の他の具体的な構成例を示す図である。図17においては、2つの光照射素子111a、111bを回転ステージ111c上に設け、光照射素子111a、111bの出射方向の光軸の交点を回転ステージ111cの回転中心に一致させている。これにより計測面102の複数位置での光の結像状態を同時に検知可能とし、光学系全体で偏りの無い位置・姿勢の調整が可能となる。
【0058】
図1(図11も同様)に戻り、調整時には、第二の光照射手段111からの光を反射手段112を介して領域分割手段104の各ピンホール方向に照射する。領域分割手段104および第一の結像手段103を通過した光の計測面102での結像を観察することで、計測面102と光学系全体との距離および姿勢を明らかにすることができる。像の観察は、目視によって行ってもよいし、計測面102を撮像するCCDカメラ等の撮像手段113によって行ってもよい。なお、撮像手段113の配置は、第一の光照射手段101からの正反射光がない角度であれば、他の部材が撮像の障害にならない位置であればどこでもよい。また、撮像手段113は計測面102の光学系側から撮像する場合だけでなく、計測面102に撮像手段を配置し、第一の結像手段103を通過してきた光を直接に撮像するものであってもよい。
【0059】
図15は第二の光照射手段111から逆伝搬してきた光による第一の結像手段103からの光ビームの出射角の例を示す図である。第一の結像手段103からの出射光は原則として平行光であるため、計測面102に対して垂直に到達するはずであるが、光学系と計測面102との間に角度のずれがあると図のθ、θといったずれが生ずる。このずれは、光学系全体を光軸方向に移動することにより計測面102上の結像の移動として観測でき、光学系全体の移動量と結像の移動量とから出射角を算出することができる。図16は領域分割手段104の光通過位置と光ビームの出射角の関係を示す計測結果の例を示す図であるが、出射角が左(Left)から中央(Center)、右(Right)に向かってほぼ線形的に変動していることから、光学系全体が計測面102に対し角度ずれが生じていることがわかる。そのため、その角度に応じて光学系全体の角度ずれを打ち消すように回転を行う操作を行う。角度のずれがない状態では、出射角がほぼ一定で図16のプロットがほぼ横一線となるので、その状態が確認できれば出射角についての調整は完了となる。
【0060】
図17は第二の光照射手段111から逆伝搬してきた光による第一の結像手段103からの光ビームの発散角の例を示す図である。第一の結像手段103からの出射光は原則として平行光となるはずであるが、第一の結像手段103の光軸方向位置にずれがあると平行光とはならなくなり、図のω1、ω2といった光の径の変動(発散角)が生ずる。この変動は光学系全体を光軸方向に移動することにより計測面102上の結像のサイズ変化として観測でき、光学系全体の移動量と結像のサイズ変化量とから発散角を算出することができる。図18は領域分割手段104の光通過位置と光ビームの発散角の関係を示す計測結果の例を示す図である。
【0061】
発散角がある場合、光学系全体と計測面102との相対距離により計測面102上の光の径が変化してしまうため、光学系全体と計測面102との相対距離を調整することで光の径を所定のサイズに調整する。なお、第一の結像手段103の第二の結像手段105もしくは第二の光照射手段111に対する相対位置を調整することで発散角のない平行光となるように調整することもできる。この場合は光学系全体と計測面102との相対距離の調整は重要でなくなる。発散角がない状態では、発散角がほぼ一定で図18のプロットがほぼ横一線となる。
【0062】
図19は位置決め調整のためのテストチャートの例を示す図である。すなわち、画像特性計測装置100を単体で用いる場合に画像特性計測の対象となるプリント紙の搬送機構を用いる場合において、このテストチャートにより紙の送り方向(図2のx方向と直交するy方向)とそれに直交する方向(図2のx方向)の位置決めに用いる。また、このテストチャートによる位置決めは、後述するような画像特性計測装置100を画像形成装置に搭載する場合にも使用することができる。図19では、センサの数だけパターン画像が形成されたテストチャートとなっており、各パターン画像が正確に検出できることを確認することで位置決めが完了する。
【0063】
図20は画像特性計測装置100を搭載した画像形成装置200の構成例を示す図である。図20において、画像形成装置200は給紙トレイ201、202、給紙ローラ203、コントローラ204、走査光学系205、感光体ユニット206、中間転写体207、定着ユニット208、排紙ローラ209等を備えており、前述した画像特性計測装置100は、例えば定着ユニット208の後段に設置される。また、画像形成装置200にフィニッシャー部を取り付けることができるタイプであれば、その部分に外付けで画像特性計測装置100を設けることもできる。
【0064】
本実施形態の画像特性計測装置100は分光計測を利用しており、装置を構成する分光センサ間の位置ずれ無く、画像面内の色情報を2次元で取得することができ、それを制御にフィードバックすることで、画像面内色むらを、電子写真方式では、書込み走査光学系の光源出力の一走査内制御や印刷前のガンマ補正などの画像処理により低減することが可能となる。インクジェット方式では、ヘッド位置によりインクの吐出量を直接制御することで色むら低減を可能とすることが可能となる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、次のような利点がある。
(1)画像特性計測装置において、対象物からの拡散反射光を複数位置で取得する分光センサの光学系において光を逆伝搬させ、画像全幅で計測対象物と分光センサとの相対位置および姿勢を検出する機構を有することで、分光センサと対象物との相対位置および姿勢を最適化することを可能とし、色トナー等の色材により形成された画像の色情報を2次元の画像全幅で計測することができる。
(2)分光センサアレイの光学系において光を逆伝搬させる光源を回転させることで、分光センサアレイの各センサにおいて対象物との相対位置および姿勢を検出し、分光センサアレイ全体で最適な位置決めを行うことができる。
(3)分光センサアレイを構成する複数のセンサと計測対象物との相対位置および姿勢を検出可能とし、分光センサアレイ全体で最適な位置決めを行うことができる。
(4)画像特性計測装置の位置および姿勢を補正する機構を有し、分光計測の信頼性確保を可能とする。
(5)画像特性計測装置を画像形成装置に搭載することで、画像製品内で搬送される画像担持体上の画像の色情報および透明色材情報を高精度に計測し、画像の色変動および透明画像の非形成部があった場合にはフィードバック補正することができる。
【0066】
以上、本発明の好適な実施の形態により本発明を説明した。ここでは特定の具体例を示して本発明を説明したが、特許請求の範囲に定義された本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、これら具体例に様々な修正および変更を加えることができることは明らかである。すなわち、具体例の詳細および添付の図面により本発明が限定されるものと解釈してはならない。
【符号の説明】
【0067】
100 画像特性計測装置
101 第一の光照射手段
102 計測面
103 第一の結像手段
103a マイクロレンズ
103b スリット
104 領域分割手段
104a ピンホール
105 第二の結像手段
106 分光手段
107 アレイ状受光手段
111 第二の光照射手段
111a、111b 光照射素子
111c 回転ステージ
112 反射手段
112a 回転軸
113 撮像手段
121 回転ステージ
122 移動ステージ
200 画像形成装置
201、202 給紙トレイ
203 給紙ローラ
204 コントローラ
205 走査光学系
206 感光体ユニット
207 中間転写体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0068】
【特許文献1】特表2008−518218号公報
【特許文献2】特開2005−315883号公報
【特許文献3】特開2002−310799号公報
【特許文献4】特許第3566334号公報
【特許文献5】特開2003−139702号公報
【特許文献6】特開2005−265752号公報
【非特許文献】
【0069】
【非特許文献1】「ディジタルカラー画像の解析・評価」、東京大学出版会、三宅洋一、2000年2月25日、p.154−p.157

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物である画像担持体上の画像の所定の領域に光を照射する第一の光照射手段と、
前記第一の光照射手段により照射された光の計測対象物からの反射光を集光する第一の結像手段と、
前記第一の結像手段により前記計測対象物と略結像関係の位置に設置された開口列により領域分割する領域分割手段と、
前記開口列を通過して領域分割された前記計測対象物からの反射光を集光する第二の結像手段と、
前記第二の結像手段により集光された前記開口列を通過して領域分割された光をそれぞれ回折像が重畳しないように分光する分光手段と、
それぞれ分光された前記各開口からの領域分割された光を受光するアレイ状受光手段と、
前記開口列と前記第二の結像手段の間に上方から光を照射する第二の光照射手段と、
前記第二の光照射手段からの光を前記開口列の方向へ反射する反射手段と
を有し、
前記開口列と前記反射手段を介した前記第二の光照射手段との距離と、前記開口列と前記第二の結像手段の入射瞳との距離とが同一であることを特徴とする画像特性計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像特性計測装置において、
前記第二の光照射手段を回転する光源回転手段を有する
ことを特徴とする画像特性計測装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の画像特性計測装置において、
前記第二の光照射手段は光源を複数有し、複数の前記開口に向け光を照射可能とする
ことを特徴とする画像特性計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の画像特性計測装置において、
前記第一の結像手段、前記領域分割手段、前記第二の結像手段、前記分光手段、前記アレイ状受光手段、前記第二の光照射手段および前記反射手段の全体を回転および並行移動可能とする移動手段を有する
ことを特徴とする画像特性計測装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の画像特性計測装置を搭載し、前記画像特性計測装置と計測対象物を相対的に移動する移動手段を有する
ことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−123344(P2012−123344A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276384(P2010−276384)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】