説明

画像表示装置、画像表示装置の制御方法、および制御プログラム

【課題】種々の解像度の変換率に対応して、表示画像の画質劣化を防止できる画像表示装置を提供すること。
【解決手段】画像表示装置1は、画像を表示する表示手段2と、入力した画像信号に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段34と、画像処理手段34を制御する制御手段31とを備える。制御手段31は、カットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じて空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部312と、解像度変換処理による画像信号の解像度の変換率に応じて、カットオフ周波数を校正するカットオフ周波数校正部313とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置、画像表示装置の制御方法、および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ、PDP(Plasma Display Panel)、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置、あるいは、液晶プロジェクタ等のように、固定画素表示デバイスを用いた画像表示装置として、入力した画像信号を固定画素表示デバイスの解像度に適合した画像信号に変換するスケーラを備えた構成が知られている。
このスケーラによる解像度変換処理では、入力した画像信号の解像度が固定画素表示デバイスの解像度よりも高い場合に、入力画像から画素を間引く処理(縮小処理)が施される。また、解像度変換処理では、入力した画像信号の解像度が固定画素表示デバイスの解像度よりも低い場合に、入力画像に画素を補間する処理(拡大処理)が施される。
そして、上記縮小処理や拡大処理を施した場合には、固定画素表示デバイスの表示画像が不自然になりやすいものである。
このため、スケーラは、解像度変換処理を施した画像信号に、さらにFIR(Finite Impulse Response)等の空間ローパスフィルタを用いてフィルタ処理を施し、画像信号の空間周波数がカットオフ周波数より高い領域の画素値を調整している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−57324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、空間ローパスフィルタとしては、通過域と阻止域との間の遷移域が狭く、急峻な遮断特性を有することが理想的である。
しかしながら、現実には、タップ数(フィルタの次数)を無限にすることが不可能であり有限に設定せざるを得ないため、上述した理想的な空間ローパスフィルタを製造することは不可能である。すなわち、現実に得られる空間ローパスフィルタは、通過域と阻止域との間に所定幅の遷移域を有し、理想的な空間ローパスフィルタのような急峻な遮断特性を有さないものである。
【0005】
そして、上述したように現実に得られる空間ローパスフィルタが理想的な空間ローパスフィルタとは実際の特性が異なるものとなるため、空間ローパスフィルタを用いてフィルタ処理を行うと、遷移域等の周波数成分により、信号処理の過程で本来存在する情報が十分にカバーできず、取り残された情報が折り返しノイズとして発生してしまう。
そこで、折り返しノイズを低減するために遷移域等の周波数成分を低減させる、すなわち、空間ローパスフィルタのカットオフ周波数を低めに設定することが考えられる。
しかしながら、折り返しノイズの発生形態は、解像度変換処理による解像度の変換率によって異なるものである。このため、例えば、上記のように空間ローパスフィルタのカットオフ周波数を一意に定めた場合には、所定の解像度の変換率の場合には折り返しノイズを低減することが可能となるが、他の解像度の変換率の場合には折り返しノイズを低減することができない。
したがって、種々の解像度の変換率に対応して、折り返しノイズを低減し、表示画像の画質劣化を防止できる技術が要望されている。
【0006】
本発明の目的は、種々の解像度の変換率に対応して、表示画像の画質劣化を防止できる画像表示装置、画像表示装置の制御方法、および制御プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像表示装置は、画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置であって、前記制御手段は、カットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じて前記空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部と、前記解像度変換処理による前記画像情報の解像度の変換率に応じて、前記カットオフ周波数を校正するカットオフ周波数校正部とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明では、画像処理手段を制御する制御手段は、フィルタ係数算出部およびカットオフ周波数校正部を備えるので、以下に示すように、空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出できる。
すなわち、カットオフ周波数校正部は、画像処理手段が解像度変換処理を実施する際の解像度の変換率を取得する。
なお、解像度の変換率としては、例えば、表示手段の垂直方向を基準とし、入力した画像情報の垂直方向の画素数に対する表示手段の垂直方向の画素数の割合(%)等が例示できる。
また、カットオフ周波数校正部は、解像度の変換率に応じて、空間ローパスフィルタのカットオフ周波数を校正する(カットオフ周波数校正ステップ)。
次に、フィルタ係数算出部は、校正されたカットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じてフィルタ係数を算出する(フィルタ係数算出ステップ)。そして、画像処理手段は、校正されたカットオフ周波数の空間ローパスフィルタを用いて、フィルタ処理を行う。
以上のように、解像度の変換率に応じてカットオフ周波数を校正するので、種々の解像度の変換率に対応して、折り返しノイズを低減し、表示画像の画質劣化を防止できる。
【0009】
本発明の画像表示装置では、前記カットオフ周波数校正部は、前記変換率が100%以上である場合に、前記カットオフ周波数を校正することが好ましい。
ところで、入力した画像情報に対して縮小処理を施した場合には、画像情報の空間周波数帯域は、入力画像から画素を間引くことで高周波側が狭くなる。すなわち、縮小処理を施した場合には、結果として表示画像をぼかすこととなるため、折り返しノイズが発生し難い。
本発明では、カットオフ周波数校正部は、解像度の変換率が100%以上である場合に、カットオフ周波数を校正するので、言い換えれば、折り返しノイズが発生し難い縮小処理ではカットオフ周波数を校正しない(カットオフ周波数を予め設定された基準カットオフ周波数とする)。このことにより、必要とされる場合に限って、カットオフ周波数の校正処理を行うため、折り返しノイズを効率的に低減でき、制御手段の処理負荷を低減できる。
【0010】
本発明の画像表示装置では、前記カットオフ周波数校正部は、前記変換率が100%より大きく110%以下である場合に、予め設定された基準カットオフ周波数に対して前記変換率および第1校正係数を乗じて前記カットオフ周波数を校正することが好ましい。
ここで、第1校正係数としては、カットオフ周波数を基準カットオフ周波数よりも低くする、すなわち、1よりも小さい値が好ましい。
【0011】
本発明では、入力した画像情報に対して拡大処理を施した際、微小な変換率の範囲(100%より大きく110%以下)で特に折り返しノイズが発生し易いことに着目し、変換率が上記範囲の場合に、カットオフ周波数を校正するものとしている。このことにより、上記同様に、必要とされる場合に限って、カットオフ周波数の校正処理を行うため、折り返しノイズを効率的に低減でき、制御手段の処理負荷を低減できる。
また、本発明では、変換率が100%に近付くほど、折り返しノイズが大きくなることに着目し、基準カットオフ周波数に対して第1校正係数の他、変換率を乗じてカットオフ周波数を校正するものとしている。このことにより、上記微小な変換率の範囲内において、変換率が100%よりも大きくなるほど、カットオフ周波数が高くなるように校正でき、表示画像がぼけない範囲で折り返しノイズを効率的に低減できる。
【0012】
本発明の画像表示装置では、前記カットオフ周波数校正部は、前記変換率が100%である場合に、予め設定された基準カットオフ周波数に対して第2校正係数を乗じて前記カットオフ周波数を校正することが好ましい。
ここで、第2校正係数としては、上記第1校正係数と同様に、カットオフ周波数を基準カットオフ周波数よりも低くする、すなわち、1よりも小さい値が好ましい。
ところで、解像度の変換率が100%、すなわち、縮小処理や拡大処理を施さない場合であっても、現実に得られる空間ローパスフィルタが理想的な空間ローパスフィルタとは実際の特性が異なるものとなるため、折り返しノイズとは異なるノイズが発生しやすいものである。
本発明では、カットオフ周波数校正部は、解像度の変換率が100%である場合に、基準カットオフ周波数に対して第2校正係数を乗じて、基準カットオフ周波数よりも低くなるようにカットオフ周波数を校正する。このことにより、表示画像をぼかすことで、上記折り返しノイズとは異なるノイズを低減できる。
なお、第2校正係数としては、1よりも小さい値で、表示画像のぼけが目立たない範囲の値を選択すれば、上記折り返しノイズとは異なるノイズのみを低減し、表示画像の鮮明感を十分に確保できる。
【0013】
本発明の制御方法は、画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置の制御方法であって、前記制御手段が、前記解像度変換処理による前記画像情報の解像度の変換率に応じて、前記空間ローパスフィルタのカットオフ周波数を校正するカットオフ周波数校正ステップと、校正した前記カットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じて前記空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出ステップとを実行することを特徴とする。
本発明の制御方法は、上述した画像表示装置によって実施されるものであるので、上述した画像表示装置と同様の作用および効果を享受できる。
【0014】
本発明の制御プログラムは、画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置の制御プログラムであって、上述した制御方法を前記制御手段に実行させることを特徴とする。
本発明の制御プログラムは、上述した制御方法を実施するために利用されるので、上述した制御方法と同様の作用および効果を享受できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態における画像表示装置としてのプロジェクタの概略構成を示す模式図。
【図2】前記実施形態における空間ローパスフィルタの特性を模式的に示す図。
【図3】前記実施形態におけるプロジェクタの制御方法を説明するフローチャート。
【図4】前記実施形態における解像度の変換率が100%より大きく110%以下である場合の一例を示す図。
【図5】前記実施形態における解像度の変換率が100%より大きく110%以下である場合の他の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
〔プロジェクタの概略構成〕
図1は、画像表示装置としてのプロジェクタ1の概略構成を示す模式図である。
プロジェクタ1は、光源から射出された光束を画像情報に応じて変調して画像光を形成し、形成した画像光をスクリーン(図示略)上に拡大投射する。このプロジェクタ1は、図1に示すように、表示手段としての画像投射装置2と、制御装置3等で大略構成されている。
【0017】
画像投射装置2は、制御装置3による制御の下、画像光を形成してスクリーンに拡大投射する。この画像投射装置2は、図1に示すように、光源装置21と、光変調装置22と、投射光学装置23等を備える。
光源装置21は、制御装置3による制御の下、光束を光変調装置22に向けて射出する。 光変調装置22は、液晶パネルで構成され、制御装置3からの駆動信号に基づいて、光源装置21から射出された光束を画像光に変調して投射光学装置23に射出する。
投射光学装置23は、光変調装置22から射出された画像光をスクリーンに向けて拡大投射する。
【0018】
制御装置3は、制御手段としてのCPU(Central Processing Unit)31を備え、メモリ32に記憶された制御プログラムにしたがって、プロジェクタ1全体を制御する。なお、以下では、説明を簡略化するため、制御装置3として、光変調装置22を駆動する機能のみを説明し、その他の機能の説明を省略する。
この制御装置3は、図1に示すように、CPU31およびメモリ32の他、AD変換部33と、画像処理手段としてのスケーラ34と、パネル駆動部35と、解像度検出部36とを備える。
【0019】
スケーラ34は、外部からのアナログ画像信号(画像情報)がAD変換部33にてデジタル画像信号に変換された画像信号や、外部から例えばHDMI(High-Definition-Multimedia Interface)規格等で入力したデジタル画像信号(画像情報)を入力する。
そして、スケーラ34は、入力した画像信号を駆動対象とする光変調装置22の表示フォーマットに適合した画像信号に変換する解像度変換処理を施す。
この解像度変換処理では、入力した画像信号の解像度が光変調装置22の解像度よりも高い場合には入力画像から画素を間引く処理(縮小処理)が施され、逆に、入力した画像信号の解像度が光変調装置22の解像度よりも低い場合には入力画像に画素を補間する処理(拡大処理)が施される。
【0020】
また、スケーラ34は、上記縮小処理や拡大処理に起因して、表示画像が不自然となることを防ぐため、解像度変換処理を施した画像信号に対して、FIRフィルタ等の空間ローパスフィルタを用いたフィルタ処理を施す。
このフィルタ処理では、画像信号の空間周波数が空間ローパスフィルタのカットオフ周波数より高くなる領域の画素値を調整している。
そして、スケーラ34は、解像度変換処理およびフィルタ処理を施した画像信号をフレームメモリ34Aに一時的に蓄積する。
【0021】
パネル駆動部35は、フレームメモリ34Aに蓄積された画像信号に基づいて、光変調装置22を駆動するための駆動信号を生成する。そして、パネル駆動部35は、光変調装置22に駆動信号を出力することで、フレームメモリ34Aに蓄積された画像信号に応じた画像を光変調装置22に表示させる。
【0022】
解像度検出部36は、入力した画像信号から、入力画像の解像度を検出する。この解像度検出部36としては、例えば、周波数カウンタ等が例示でき、画像信号とともに入力する同期信号(水平同期信号)の周波数から、入力画像の解像度を検出する。そして、解像度検出部36は、検出結果をCPU31に出力する。
【0023】
CPU31は、メモリ32に格納された制御プログラムを読み出し、該制御プログラムにしたがって、スケーラ34の動作を制御する。このCPU31は、図1に示すように、変換率設定部311と、フィルタ係数算出部312と、カットオフ周波数校正部313とを備える。
変換率設定部311は、解像度検出部36にて検出された入力画像の解像度、および光変調装置22の解像度に基づいて、スケーラ34において、解像度変換処理を施す際に用いられる解像度の変換率を設定する。
例えば、変換率設定部311は、光変調装置22の垂直方向を基準とし、入力画像の垂直方向の画素数に対する光変調装置22の垂直方向の画素数の割合(%)を変換率として設定する。
【0024】
フィルタ係数算出部312は、スケーラ34において、フィルタ処理を施す際に用いられる空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出する。
具体的に、フィルタ係数算出部312は、カットオフ周波数ω´をパラメータとする標本化関数(sinc関数)に窓関数を乗じて、以下の式(1)により、フィルタ係数h(n)を算出する。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、nは、フィルタのタップ数である。なお、本実施形態では、タップ数は、8で設計されている。
また、W(n)は、窓関数である。なお、窓関数としては、方形波窓、ハニング窓、ハミング窓、ブラックマン窓等、種々の窓関数を採用しても構わない。
【0027】
カットオフ周波数校正部313は、変換率設定部311にて設定された解像度の変換率に応じて、メモリ32に格納された規定値である基準カットオフ角周波数ωを用いて、カットオフ角周波数ω´を校正する。
基準カットオフ角周波数ωは、基準カットオフ周波数f、およびサンプリング周波数fを用いて、以下の式(2)で示されるものである。
【0028】
【数2】

【0029】
本実施形態では、標本化定理を満足するように、f/fを0.5に設定している。
すなわち、基準カットオフ角周波数ωは、πに設定されている。
【0030】
図2は、空間ローパスフィルタの特性を模式的に示す図である。
図2において、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅比を示している。また、図2において、実線は現実に得られる空間ローパスフィルタの特性を示し、破線は理想的な空間ローパスフィルタの特性を示している。
なお、現実に得られる空間ローパスフィルタの特性としては、実際には、通過域や阻止域にいわゆるリップルが存在するが、説明の便宜上、図2ではリップルを省略している。
【0031】
ところで、空間ローパスフィルタとしては、図2の破線に示すように、通過域と阻止域との間の遷移域が狭く、急峻な遮断特性を有することが理想的である。
しかしながら、現実に得られる空間ローパスフィルタは、タップ数を無限にすることが不可能であり有限に設定せざるを得ないため、図2の実線に示すように、通過域と阻止域との間に所定幅の遷移域を有し、理想的な空間ローパスフィルタのような急峻な遮断特性を有さないものである。
このため、カットオフ周波数fの値によっては、空間ローパスフィルタを用いてフィルタ処理を行うと、遷移域等の周波数成分により、信号処理の過程で本来存在する情報が十分にカバーできず、取り残された情報が折り返しノイズ(あるいは、格子状のノイズ、縦筋ノイズ)として発生してしまう。
【0032】
なお、入力した画像信号に対して縮小処理を施した場合には、画像信号の空間周波数帯域は、入力画像から画素を間引くことで高周波側が狭くなる。すなわち、縮小処理を施した場合には、結果として表示画像をぼかすこととなるため、折り返しノイズが発生し難い。
そこで、本実施形態では、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%より大きい場合(拡大処理)に、解像度の変換率に応じて、カットオフ角周波数ω´(カットオフ周波数)を低くするように校正して上記遷移域等の周波数成分を低減し、折り返しノイズを低減する構成としている。
また、本実施形態では、カットオフ周波数校正部313は、縮小処理の場合には、カットオフ角周波数ω´を校正することなく、すなわち、カットオフ角周波数ω´を基準カットオフ角周波数ωとする。
【0033】
また、折り返しノイズは、微小な解像度の変換率の範囲(100%より大きく110%以下)で特に発生し易く、前記変換率の範囲で100%に近くなるほど、大きくなるものである。
そこで、本実施形態では、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%より大きく110%以下である場合に、以下の式(3)により、カットオフ角周波数ω´を算出する構成としている。
【0034】
【数3】

【0035】
本実施形態では、第1校正係数は、0.9に設定されている。
すなわち、式(3)では、第1校正係数に変換率を乗じているので、解像度の変換率が101%から110%の間で1%ずつ基準カットオフ角周波数ωに乗じる係数が変化するように設定されている。
なお、上記変換率の上限(110%)は、以下に示すように設定したものである。
すなわち、現実に得られる空間ローパスフィルタとして、ある程度の減衰特性を確保した場合、カットオフ周波数に対して5〜10%の遷移域が必要となってくる。
そして、本実施形態では、遷移域が10%程度存在することを前提として、その分の周波数成分を低減できれば、折り返しノイズを低減できると考え、上記変換率の上限を110%に設定している。
【0036】
また、解像度の変換率が100%(等倍)である場合、すなわち、縮小処理や拡大処理を施さない場合であっても、現実に得られる空間ローパスフィルタが理想的な空間ローパスフィルタとは実際の特性が異なるものとなるため、折り返しノイズとは異なるノイズ(以下、演算上のノイズ)が発生しやすいものである。
そこで、本実施形態では、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%である場合に、以下の式(4)により、カットオフ角周波数ω´を算出する構成としている。
【0037】
【数4】

【0038】
本実施形態では、第2校正係数は、0.98に設定されている。この第2校正係数としては、カットオフ角周波数ω´を低くすることによる表示画像のぼけが許容できる範囲で「1」に近い「0.98」に設定している。
【0039】
メモリ32は、制御プログラムや、第1校正係数および第2校正係数等を記憶する。
このメモリ32として、フラッシュメモリ等のデータの書き換えが可能な不揮発性のメモリで構成すれば、例えば、図示しない操作パネル等の操作手段の操作によりメニュー画面上から第1校正係数や第2校正係数を他の値に変更したり、RS232Cの入力端子を介して第1校正係数や第2校正係数を他の値に変更することが可能となる。
【0040】
〔プロジェクタの動作〕
図3は、プロジェクタ1の制御方法を説明するフローチャートである。
次に、上述した制御装置3の処理動作を説明する。
先ず、変換率設定部311は、解像度検出部36にて検出された入力画像の解像度、および光変調装置22の解像度に基づいて、解像度の変換率を設定する(ステップS1)。
ステップS1の後、カットオフ周波数校正部313は、ステップS1において設定された解像度の変換率を認識し、該変換率が100%以上であるか否かを判定する(ステップS2)。
【0041】
ステップS2において、CPU31は、「N」と判定した場合、すなわち、入力画像の解像度を「縮小」する必要があると判定した場合には、解像度の変換率を含む制御指令をスケーラ34に出力する。そして、スケーラ34は、制御指令に含まれる解像度の変換率に応じて、入力した画像信号に対して縮小処理を施す(ステップS3)。
【0042】
ステップS3の後、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%未満であるため、カットオフ周波数校正部313は、校正処理を行うことなく、カットオフ角周波数ω´を基準カットオフ角周波数ωとする(ステップS4)。
【0043】
ステップS4の後、フィルタ係数算出部312は、カットオフ周波数校正部313にて算出されたカットオフ角周波数ω´を用いて、式(1)によりフィルタ係数h(n)を算出する(ステップS5:フィルタ係数算出ステップ)。そして、CPU31は、算出したフィルタ係数h(n)を含む制御指令をスケーラ34に出力する。
そして、スケーラ34は、制御指令に含まれるフィルタ係数h(n)を用いて、解像度変換処理を施した画像信号に対して、フィルタ処理を施す(ステップS6)。
スケーラ34により解像度変換処理およびフィルタ処理が施され、フレームメモリ34Aに蓄積された画像信号は、パネル駆動部35を介して駆動信号として光変調装置22に出力され、光変調装置22において、該光変調装置22の表示フォーマットに適合した表示画像が形成される。
【0044】
一方、ステップS2において、カットオフ周波数校正部313は、「Y」と判定した場合、すなわち、入力画像の解像度を「拡大」する必要があると判定した場合には、さらに、ステップS1において設定された解像度の変換率が110%以下であるか否かを判定する(ステップS7)。
ステップS7において、CPU31は、「N」と判定した場合、すなわち、解像度の変換率が110%よりも大きいと判定した場合には、解像度の変換率を含む制御指令をスケーラ34に出力する。そして、スケーラ34は、制御指令に含まれる解像度の変換率に応じて、入力した画像信号に対して拡大処理を施す(ステップS8)。
【0045】
ステップS8の後、CPU31は、ステップS4の処理に移行する。
なお、ステップS8の後に実施されるステップS4の処理では、解像度の変換率が110%より大きいため、校正処理が行われることなく、カットオフ角周波数ω´が基準カットオフ角周波数ωとされる。
【0046】
一方、ステップS7において、CPU31は、「Y」と判定した場合、すなわち、解像度の変換率が100%以上、110%以下であると判定した場合には、さらに、ステップS1において設定された解像度の変換率が100%であるか否かを判定する(ステップS9)。
ステップS9において、カットオフ周波数校正部313は、「Y」と判定した場合、すなわち、入力画像の解像度と光変調装置22の解像度とが同一であり、解像度変換処理を実施する必要がないと判定した場合には、式(4)により、カットオフ角周波数ω´を算出する(ステップS10)。
ステップS10の後、CPU31は、ステップS5の処理に移行する。
【0047】
一方、ステップS9において、CPU31は、「N」と判定した場合、すなわち、入力画像の解像度が100%より大きく110%以下であると判定した場合には、解像度の変換率を含む制御指令をスケーラ34に出力する。そして、スケーラ34は、制御指令に含まれる解像度の変換率に応じて、入力した画像信号に対して拡大処理を施す(ステップS11)。
ステップS11の後、カットオフ周波数校正部313は、式(3)により、カットオフ角周波数ω´を算出する(ステップS12)。
ステップS12の後、CPU31は、ステップS5の処理に移行する。
以上説明したステップS2,S4,S7,S9,S10,S12が本発明に係るカットオフ周波数校正ステップに相当する。
【0048】
図4は、解像度の変換率が100%より大きく110%以下である場合の一例を示す図である。
ここで、図4では、入力した画像信号の信号フォーマットがXGA(解像度:1024×768)で、光変調装置22の表示フォーマットがWXGA(解像度:1280×800)の場合を示している。
図4の例に示す場合には、変換率設定部311は、ステップS1において、光変調装置22の垂直方向を基準とし、入力画像の垂直方向の画素数「768」に対する光変調装置22の垂直方向の画素数「800」の割合である「104%」を変換率として設定することとなる。
また、ステップS11においてスケーラ34が変換率「104%」に応じて拡大処理を施すことで、光変調装置22には、1066×800の解像度の表示画像(図4に示す2点鎖線)が形成されることとなる。
さらに、カットオフ周波数校正部313は、ステップS12において、式(3)により、カットオフ角周波数ω´を0.94ωとして算出することとなる。
【0049】
図5は、解像度の変換率が100%より大きく110%以下である場合の他の例を示す図である。
ここで、図5では、入力した画像信号の信号フォーマットが92%の表示率の1080p(解像度:1766×994)で、光変調装置22の表示フォーマットが1080p(解像度:1920×1080)の場合を示している。
なお、ビデオ系の映像では、表示枠外にノイズがのっていることが多々あるため、一般的に、表示率を画像サイズより小さくしている(図5の場合には表示率:92%)。
図5の例に示す場合には、変換率設定部311は、ステップS1において、光変調装置22の垂直方向を基準とし、入力画像の垂直方向の画素数「994」に対する光変調装置22の垂直方向の画素数「1080」の割合である「108.6%」を変換率として設定することとなる。
また、ステップS11においてスケーラ34が変換率「108.6%」に応じて拡大処理を施すことで、光変調装置22には、1920×1080の解像度の表示画像(図5に示す2点鎖線)が形成されることとなる。
さらに、カットオフ周波数校正部313は、ステップS12において、式(3)により、カットオフ角周波数ω´を0.98ωとして算出することとなる。
【0050】
上述した実施形態によれば、以下の効果がある。
本実施形態では、スケーラ34を制御するCPU31は、フィルタ係数算出部312およびカットオフ周波数校正部313を備える。このことにより、解像度の変換率に応じてカットオフ角周波数ω´(カットオフ周波数)を校正できるので、種々の解像度の変換率に対応して、折り返しノイズを低減し、表示画像の画質劣化を防止できる。
【0051】
また、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%以上である場合に、カットオフ角周波数ω´を校正するので、言い換えれば、折り返しノイズが発生し難い縮小処理ではカットオフ角周波数ω´を校正しない。このことにより、必要とされる場合に限って、カットオフ角周波数ω´の校正処理を行うため、折り返しノイズを効率的に低減でき、CPU31の処理負荷を低減できる。
【0052】
さらに、拡大処理を施した際、微小な変換率の範囲(100%より大きく110%以下)で特に折り返しノイズが発生し易いことに着目し、変換率が上記範囲の場合に、カットオフ角周波数ω´を校正するものとしている。このことにより、上記同様に、必要とされる場合に限って、カットオフ角周波数ω´の校正処理を行うため、折り返しノイズを効率的に低減でき、CPU31の処理負荷を低減できる。
また、解像度の変換率が100%に近付くほど、折り返しノイズが大きくなることに着目し、基準カットオフ角周波数ωに対して第1校正係数の他、変換率を乗じてカットオフ角周波数ω´を校正するものとしている。このことにより、上記微小な変換率の範囲内において、変換率が100%よりも大きくなるほど、カットオフ角周波数ω´が高くなるように校正でき、表示画像がぼけない範囲で折り返しノイズを効率的に低減できる。
【0053】
さらに、カットオフ周波数校正部313は、解像度の変換率が100%である場合に、基準カットオフ角周波数ωに対して第2校正係数を乗じて、基準カットオフ角周波数ωよりも低くなるようにカットオフ角周波数ω´を校正する。このことにより、表示画像をぼかすことで、上記演算上のノイズを低減できる。
また、第2校正係数が1よりも小さい値で、表示画像のぼけが目立たない範囲の「0.98」に設定されているので、演算上のノイズのみを低減し、表示画像の鮮明感を十分に確保できる。
【0054】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態では、解像度の変換率が100%より大きく110%以下の範囲である場合に、式(3)によりカットオフ角周波数ω´を校正していたが、上記変換率の範囲は、これに限らない。
すなわち、上記変換率の上限は、カットオフ周波数に対する遷移域の幅に応じて設定することが好ましく、フィルタのタップ数や窓関数の種類等により遷移域の幅は変動するため、これらに応じて、適宜、設定すればよい。
前記実施形態では、光変調装置22として液晶パネルを採用したが、光変調装置22としては、透過型の液晶パネルや反射型の液晶パネルの他、DMD(Digital Micromirror Device)(米国テキサスインスツルメント社の商標)等を採用してもよい。
前記実施形態では、画像表示装置としてプロジェクタ1を採用していたが、これに限らず、固定画素表示デバイスを有していれば、液晶ディスプレイや、PDP、有機EL表示装置等の他の画像表示装置を採用しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の画像表示装置は、種々の解像度の変換率に対応して、表示画像の画質劣化を防止できるため、プレゼンテーションやホームシアタに用いられるプロジェクタ等の画像表示装置に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・プロジェクタ(画像表示装置)、2・・・画像投射装置(表示手段)、31・
・・CPU(制御手段)、34・・・スケーラ(画像処理手段)、312・・・フィルタ
係数算出部、313・・・カットオフ周波数校正部、S2,S4,S7,S9,S10,
S12・・・カットオフ周波数校正ステップ、S5・・・フィルタ係数算出ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置であって、
前記制御手段は、
カットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じて前記空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出部と、
前記解像度変換処理による前記画像情報の解像度の変換率に応じて、前記カットオフ周波数を校正するカットオフ周波数校正部とを備える
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像表示装置において、
前記カットオフ周波数校正部は、
前記変換率が100%以上である場合に、前記カットオフ周波数を校正する
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像表示装置において、
前記カットオフ周波数校正部は、
前記変換率が100%より大きく110%以下である場合に、予め設定された基準カットオフ周波数に対して前記変換率および第1校正係数を乗じて前記カットオフ周波数を校正する
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の画像表示装置において、
前記カットオフ周波数校正部は、
前記変換率が100%である場合に、予め設定された基準カットオフ周波数に対して第2校正係数を乗じて前記カットオフ周波数を校正する
ことを特徴とする画像表示装置。
【請求項5】
画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置の制御方法であって、
前記制御手段が、
前記解像度変換処理による前記画像情報の解像度の変換率に応じて、前記空間ローパスフィルタのカットオフ周波数を校正するカットオフ周波数校正ステップと、
校正した前記カットオフ周波数をパラメータとする標本化関数に窓関数を乗じて前記空間ローパスフィルタのフィルタ係数を算出するフィルタ係数算出ステップとを実行する
ことを特徴とする制御方法。
【請求項6】
画像を表示する表示手段と、入力した画像情報に対して解像度を変換する解像度変換処理を施すとともに空間ローパスフィルタによるフィルタ処理を施す画像処理手段と、前記画像処理手段を制御する制御手段とを備えた画像表示装置の制御プログラムであって、
請求項5に記載の制御方法を前記制御手段に実行させる
ことを特徴とする制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−92777(P2013−92777A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−253574(P2012−253574)
【出願日】平成24年11月19日(2012.11.19)
【分割の表示】特願2008−206068(P2008−206068)の分割
【原出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.HDMI
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】