説明

画像記録装置、画像記録方法

【課題】記録部が画像記録を行なう記録媒体の振動を抑制して、高い位置精度で記録媒体に画像を記録することを可能とする。
【解決手段】記録媒体の搬送経路に対して設けられた第1・第2駆動ローラーに記録媒体を張架しつつ第1・第2駆動ローラーを回転させることで記録媒体を搬送経路に沿って搬送する搬送部と、搬送経路における第1・第2駆動ローラーの間の第1領域で記録媒体に画像を記録する記録部と、第1駆動ローラーの回転速度を制御することで記録媒体の搬送速度を調整しつつ、2駆動ローラーのトルクを制御することで第1領域における記録媒体に第1テンションを与える制御部とを備え、制御部は、搬送部を制御することで、搬送経路において第2駆動ローラーより第1領域の反対側の第2領域での記録媒体に、第1テンションより低い第2テンションを与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、記録媒体を搬送しつつ当該記録媒体に対して記録部により画像を記録する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、用紙搬送部から用紙プラー部へと搬送される連続紙に対して、用紙搬送部と用紙プラー部との間に配置された印字部からインクを噴射して画像を記録する記録装置が記載されている。これら用紙搬送部および用紙プラー部はいずれも、モーターに接続された駆動ローラー(搬送ロール9a、13a)を具備しており、各駆動ローラーがモーターからの駆動力を受けて回転すると、これら駆動ローラーに張架された記録媒体(連続紙)が搬送経路に沿って搬送される。このとき、搬送経路において上流側の駆動ローラーの用紙送り量より下流側の駆動ローラーの用紙送り量が若干大きく設定されている。換言すれば、上流側の駆動ローラーの周速度よりも下流側の駆動ローラーの周速度を若干速くして、下流側の駆動ローラーで記録媒体を引っ張ることで、記録媒体にテンションが与えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−086472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の記録装置のように、2本の駆動ローラーの周速度に速度差を設けることで記録媒体にテンションを与える構成では、駆動ローラーと記録媒体の間に滑りが発生する。そして、この滑りの影響を受けて、両駆動ローラーの間で記録媒体が振動してしまう場合あった。このような場合、記録部(印字部)は振動する記録媒体に対して画像を記録することとなり、十分な位置精度で記録媒体に画像を記録することができないおそれがあった。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、記録部が画像記録を行なう記録媒体の振動を抑制して、高い位置精度で記録媒体に画像を記録することを可能とする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる画像記録装置は、上記目的を達成するために、記録媒体の搬送経路に対して設けられた第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとに記録媒体を張架しつつ第1駆動ローラーおよび第2駆動ローラーを回転させることで記録媒体を搬送経路に沿って搬送する搬送部と、搬送経路における第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとの間の第1領域で記録媒体に画像を記録する記録部と、第1駆動ローラーの回転速度を制御することで記録媒体の搬送速度を調整しつつ、2駆動ローラーのトルクを制御することで第1領域における記録媒体に第1テンションを与える制御部とを備え、制御部は、搬送部を制御することで、搬送経路において第2駆動ローラーより第1領域の反対側の第2領域での記録媒体に、第1テンションより低い第2テンションを与えることを特徴としている。
【0007】
本発明にかかる画像記録方法は、上記目的を達成するために、搬送経路に対して設けられた第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとに張架されつつ第1駆動ローラーおよび第2駆動ローラーの回転に伴って搬送される記録媒体に対して、第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとの間の第1領域で記録部が画像を記録する画像記録方法において、記録媒体の搬送速度は、第1駆動ローラーの回転速度を制御することで調整されるとともに、第1領域における記録媒体のテンションは、第2駆動ローラーのトルクを制御することで調整されており、搬送経路において第2駆動ローラーより第1領域の反対側の第2領域での記録媒体のテンションより高いことを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明(画像記録装置、画像記録方法)は、搬送経路に対して設けられた第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとに記録媒体を張架しつつ第1駆動ローラーおよび第2駆動ローラーを回転させることで、記録媒体を搬送経路に沿って搬送する。そして、第1駆動ローラーの回転速度を制御することで搬送速度の調整された記録媒体が、第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとの間の第1領域で、記録部から画像の記録を受ける。これにより記録部は、搬送速度の安定した記録媒体に対して画像の記録を実行することができる。しかも、本発明では、第2駆動ローラーのトルクを制御することで、記録部が画像記録を行なう第1領域での記録媒体に第1第1テンションが与えられる。つまり、記録媒体を搬送する2本の駆動ローラーの周速度に差を持たせるのではなく、一方の駆動ローラーのトルクを制御することで、第1領域での記録媒体にテンションが与えられる。このような構成では、上述したような駆動ローラーと記録媒体の間における滑りの発生を抑えて、記録媒体の振動を抑えることができる。その結果、高い位置精度で記録媒体に画像を記録することが可能となっている。
【0009】
また、本発明では、搬送経路において第2駆動ローラーより第1領域の反対側の第2領域での記録媒体に、第1テンションより低い第2テンションが与えられている。つまり、トルク制御が行なわれる第2駆動ローラーを境に、第1領域の方に第2領域よりも高いテンションが与えられる。この場合、第2駆動ローラーは、第1領域から第2領域へ向かう力を記録媒体に作用させるように動作する。したがって、このような構成は、記録部が画像記録を行なう第1領域において、十分なテンションを与えて記録媒体を安定させることができ、高い位置精度で記録媒体に画像を記録するのに好適である。
【0010】
また、第1領域から第2領域へ向かう力を記録媒体に作用させるように第2駆動ローラーを動作させる上記構成は、次のような利点も有する。つまり、第2領域で記録媒体が破断したような場合であっても、第1領域から第2領域へ向かう力を第2駆動ローラーが記録媒体に作用させているため、記録媒体の破断部分を第2領域に留めておくことができる。その結果、例えば記録媒体の破断部分が第2領域から第1領域へ移動して記録部に接触することで、記録部を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となっている。
【0011】
この際、第2駆動ローラーとの間に記録媒体をニップするニップローラーをさらに備えるように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成では、第2領域で記録媒体が破断しても、第2駆動ローラーとニップローラーで記録媒体を挟んで、記録媒体の破断部分を第2領域に確実に留めておくことができる。
【0012】
また、第1領域での記録媒体のテンションを検出する第1検出部をさらに備え、制御部は、第1検出部の検出結果に基づいて、第1領域での記録媒体の第1テンションを調整するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成は、第1領域での記録媒体の第1テンションを精度良く調整することができ、好適である。
【0013】
また、第2領域での記録媒体のテンションを検出する第2検出部をさらに備え、制御部は、第2検出部の検出結果に基づいて、第2領域での記録媒体の第2テンションを調整するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成は、第2領域での記録媒体の第3テンションを精度良く調整することができ、好適である。
【0014】
また、搬送部は、第1駆動ローラーから第2駆動ローラーに向かう方向に記録媒体を搬送するように、画像記録装置を構成しても良い。
【0015】
この際、搬送部は、第2駆動ローラーから送り出される記録媒体を第2領域で巻き取る巻取ローラーを有するように、画像記録装置を構成しても良い。特にこのような構成の画像記録装置に対しては、本発明を適用することが好適となる。つまり、巻取ローラーに対して記録媒体が歪んで巻き取られるような事態が生じると、記録媒体にせん断力が加わって、第2領域において記録媒体が破断してしまう場合が考えられる。これに対して本発明では、上述のとおり、記録媒体の破断部分を第2領域に留めておくことができる。その結果、例えば記録媒体の破断部分が第2領域から第1領域へ移動して記録部に接触することで、記録部を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となる。
【0016】
また、制御部は、搬送部を制御することで、搬送経路において第1駆動ローラーより第1領域の反対側の第3領域での記録媒体に、第2テンションより低い第3テンションを与えるように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成では、搬送経路の上流側の第3領域より搬送経路の下流側の第2領域により高いテンションが与えられるように、制御部は搬送部を制御する。そのため、例えば第1・第2駆動ローラーが故障したような場合であっても、よりテンションの高い第2領域に記録媒体を引っ張って、記録媒体の逆流を抑制できる。その結果、例えば、記録媒体に記録された画像が逆流先にある部材に接触して、これを汚染するといった事態の発生を抑制できる。
【0017】
また、搬送部は、第2駆動ローラーから第1駆動ローラーに向かう方向に記録媒体を搬送するように、画像記録装置を構成しても良い。
【0018】
この際、搬送部は、第2領域において第2駆動ローラーへ向かう記録媒体を搬送経路に直交する直交方向に変位させて、記録媒体の直交方向への位置を調整する位置調整機構を有するように、画像記録装置を構成しても良い。特にこのような構成の画像記録装置に対しては、本発明を適用することが好適となる。つまり、記録媒体を搬送方向に直交する直交方向に変位させることで、記録媒体にせん断力が加わって、第2領域において記録媒体が破断してしまう場合が考えられる。これに対して本発明では、上述のとおり、記録媒体の破断部分を第2領域に留めておくことができる。その結果、例えば記録媒体の破断部分が第2領域から第1領域へ移動して記録部に接触することで、記録部を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となる。
【0019】
また、制御部は、搬送部を制御することで、搬送経路において第1駆動ローラーより第1領域の反対側の第3領域での記録媒体に、第2テンションより高い第3テンションを与えるように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成では、搬送経路の上流側の第2領域より搬送経路の下流側の第3領域により高いテンションが与えられるように、制御部は搬送部を制御する。そのため、例えば第1・第2駆動ローラーが故障したような場合であっても、よりテンションの高い第3領域に記録媒体を引っ張って、記録媒体の逆流を抑制できる。その結果、例えば、記録媒体に記録された画像が逆流先にある部材に接触して、これを汚染するといった事態の発生を抑制できる。
【0020】
また、第3領域での記録媒体のテンションを検出する第3検出部をさらに備え、制御部は、第3検出部の検出結果に基づいて、第3領域での記録媒体の第3テンションを調整するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成は、第3領域での記録媒体の第3テンションを精度良く調整することができ、好適である。
【0021】
また、記録部の逆側から記録媒体に当接して、記録媒体を支持する支持部材をさらに備え、記録部は、支持部材に支持される記録媒体に画像を記録するように、画像記録装置を構成しても良い。このような構成は、記録部が画像記録を行なう記録媒体を支持部材で支持することで安定させることができ、高い位置精度で記録媒体に画像を記録するのに好適である。
【0022】
また、記録部は、光硬化性のインクを吐出して記録媒体に画像を記録する画像記録装置において、記録媒体を挟んで支持部材に対向して、支持部材に支持された記録媒体に光を照射して、記録媒体に着弾したインクを硬化させる光照射部をさらに備えるように構成しても良い。特にこのような構成の画像記録装置に対しては、本発明を適用することが好適となる。つまり、光硬化性のインクは、照射される光を吸収したり硬化に伴って発熱したりすることで熱を帯びる。そして、このようなインクの熱は、記録媒体のしわの原因となる。これに対して本発明では、第1領域において記録媒体に第1テンションが与えられているため、記録媒体は支持部材に押圧されている。そして、支持部材に押圧された記録媒体に対して、光照射部が光を照射する。したがって、光が照射された記録媒体上のインクから支持部材への放熱を促進して、記録媒体のしわの発生を抑制することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用可能なプリンターが備える装置構成の一例を模式的に示す図。
【図2】図1に示すプリンターを制御する電気的構成を模式的に示す図。
【図3】第1実施形態におけるシートの搬送制御を説明する図。
【図4】第2実施形態におけるシートの搬送制御を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1実施形態
図1は、本発明を適用可能なプリンターが備える装置構成の一例を模式的に示す正面図である。図1に示すように、プリンター1では、その両端が繰出軸20および巻取軸40にロール状に巻き付けられた1枚のシートS(ウェブ)が、繰出軸20と巻取軸40の間に張架されており、シートSはこうして張架された経路Pcに沿って、繰出軸20から巻取軸40へと搬送される。そして、プリンター1では、この搬送経路Pcに沿って搬送されるシートSに対して画像が記録される。シートSの種類は、紙系とフィルム系に大別される。具体例を挙げると、紙系には上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙等があり、フィルム系には合成紙、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(polypropylene)等がある。概略的には、プリンター1は、繰出軸20からシートSを繰り出す繰出部2と、繰出部2から繰り出されたシートSに画像を記録するプロセス部3と、プロセス部3で画像の記録されたシートSを巻取軸40に巻き取る巻取部4を備える。なお、以下の説明では、シートSの両面のうち、画像が記録される面を表面と称する一方、その逆側の面を裏面と称する。
【0025】
繰出部2は、シートSの端を巻き付けた繰出軸20と、繰出軸20から引き出されたシートSを巻き掛ける従動ローラー21とを有する。繰出軸20は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き付けて支持する。そして、繰出軸20が図1の時計回りに回転することで、繰出軸20に巻き付けられたシートSが従動ローラー21を経由してプロセス部3へと繰り出される。ちなみに、シートSは、繰出軸20に着脱自在な芯管(図示省略)を介して繰出軸20に巻き付けられている。したがって、繰出軸20のシートSが使い切られた際には、ロール状のシートSが巻き付けられた新たな芯管を繰出軸20に装着して、繰出軸20のシートSを取り換えることが可能となっている。
【0026】
プロセス部3は、繰出部2から繰り出されたシートSをプラテンドラム30で支持しつつ、プラテンドラム30の外周面に沿って配置された各機能部51、52、61、62、63により処理を適宜行って、シートSに画像を記録するものである。このプロセス部3では、プラテンドラム30の両側に前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とが設けられており、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSがプラテンドラム30に支持されて、画像記録を受ける。
【0027】
前駆動ローラー31は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、繰出部2から繰り出されたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、前駆動ローラー31は図1の時計回りに回転することで、繰出部2から繰り出されたシートSを搬送経路の下流側へと搬送する。なお、前駆動ローラー31に対してはニップローラー31nが設けられている。このニップローラー31nは、前駆動ローラー31側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、前駆動ローラー31との間でシートSを挟み込む。これによって、前駆動ローラー31とシートSの間の摩擦力が確保され、前駆動ローラー31によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
【0028】
プラテンドラム30は図示を省略する支持機構により回転自在に支持された円筒形状のドラムであり、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSを裏面側から巻き掛ける。このプラテンドラム30は、シートSとの間の摩擦力を受けてシートSの搬送方向Dsに従動回転しつつ、シートSを裏面側から支持するものである。ちなみに、プロセス部3では、プラテンドラム30への巻き掛け部の両側でシートSを折り返す従動ローラー33、34が設けられている。これらのうち従動ローラー33は、前駆動ローラー31とプラテンドラム30の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。一方、従動ローラー34は、プラテンドラム30と後駆動ローラー32の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。このように、プラテンドラム30に対して搬送方向Dsの上・下流側それぞれでシートSを折り返すことで、プラテンドラム30へのシートSの巻き掛け部を長く確保することができる。
【0029】
後駆動ローラー32は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、プラテンドラム30から従動ローラー34を経由して搬送されてきたシートSを裏面側から巻き掛ける。そして、後駆動ローラー32は図1の時計回りに回転することで、シートSを巻取部4へと搬送する。なお、後駆動ローラー32に対してはニップローラー32nが設けられている。このニップローラー32nは、後駆動ローラー32側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、後駆動ローラー32との間にシートSを挟み込む。これによって、後駆動ローラー32とシートSの間の摩擦力が確保され、後駆動ローラー32によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
【0030】
このように、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSは、プラテンドラム30の外周面に支持される。そして、プロセス部3では、プラテンドラム30に支持されるシートSの表面に対してカラー画像を記録するために、互いに異なる色に対応した複数の記録ヘッド51が設けられている。具体的には、イエロー、シアン、マゼンタおよびブラックに対応する4個の記録ヘッド51が、この色順で搬送方向Dsに並ぶ。各記録ヘッド51は、プラテンドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、対応する色のインクをインクジェット方式で吐出する。そして、搬送方向Dsへ搬送されるシートSに対して各記録ヘッド51がインクを吐出することで、シートSの表面にカラー画像を形成される。
【0031】
ちなみに、インクとしては、紫外線(光)を照射することで硬化するUV(ultraviolet)インク(光硬化性インク)が用いられる。そこで、プロセス部3では、インクを硬化させてシートSに定着させるために、UVランプ61、62(光照射部)が設けられている。なお、このインク硬化は、仮硬化と本硬化の二段階に分けて実行される。複数の記録ヘッド51の各間には、仮硬化用のUVランプ61が配置されている。つまり、UVランプ61は弱い紫外線を照射することで、インクの形状が崩れない程度にインクを硬化(仮硬化)させるものであり、インクを完全に硬化させるものではない。一方、複数の記録ヘッド51に対して搬送方向Dsの下流側には、本硬化用のUVランプ62が設けられている。つまり、UVランプ62は、UVランプ61より強い紫外線を照射することで、インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。こうして仮硬化・本硬化を実行することで、複数の記録ヘッド51が形成したカラー画像をシートS表面に定着させることができる。
【0032】
さらに、UVランプ62に対して搬送方向Dsの下流側には、記録ヘッド52が設けられている。この記録ヘッド52は、プラテンドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、透明のUVインクをインクジェット方式でシートSの表面に吐出する。つまり、4色分の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクがさらに吐出される。また、記録ヘッド52に対して搬送方向Dsの下流側には、UVランプ63が設けられている。このUVランプ63は強い紫外線を照射することで、記録ヘッド52が吐出した透明インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。これによって、透明インクをシートS表面に定着させることができる。
【0033】
このように、プロセス部3では、プラテンドラム30の外周部に巻き掛けられるシートSに対して、インクの吐出および硬化が適宜実行されて、透明インクでコーティングされたカラー画像が形成される。そして、このカラー画像の形成されたシートSが、後駆動ローラー32によって巻取部4へと搬送される。
【0034】
巻取部4は、シートSの端を巻き付けた巻取軸40の他に、巻取軸40と後駆動ローラー32の間でシートSを裏面側から巻き掛ける従動ローラー41を有する。巻取軸40は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き取って支持する。つまり、巻取軸40が図1の時計回りに回転すると、後駆動ローラー32から搬送されてきたシートSが従動ローラー41を経由して巻取軸40に巻き取られる。ちなみに、シートSは、巻取軸40に着脱自在な芯管(図示省略)を介して巻取軸40に巻き取られる。したがって、巻取軸40に巻き取られたシートSが満杯になった際には、芯管ごとシートSを取り外すことが可能となっている。
【0035】
以上がプリンター1の装置構成の概要である。続いて、プリンター1を制御する電気的構成について説明を行なう。図2は、図1に示すプリンターを制御する電気的構成を模式的に示すブロック図である。上述したプリンター1の動作は、図2に示すホストコンピューター10によって制御される。ホストコンピューター10では、制御動作を統括するホスト制御部100がCPU(Central Processing Unit)やメモリーにより構成されている。また、ホストコンピューター10にはドライバー120が設けられており、このドライバー120がメディア122からプログラム124を読み出す。なお、メディア122としては、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、USB(Universal Serial Bus)メモリー等の種々のものを用いることができる。そして、ホスト制御部100は、メディア122から読み出したプログラム124に基づいて、ホストコンピューター10の各部の制御やプリンター1の動作の制御を行なう。
【0036】
さらに、ホストコンピューター10には作業者とのインターフェースとして、液晶ディスプレー等で構成されるモニター130と、キーボードやマウス等で構成される操作部140とが設けられている。モニター130には、印刷対象の画像の他にメニュー画面が表示される。したがって、作業者は、モニター130を確認しつつ操作部140を操作することで、メニュー画面から印刷設定画面を開いて、印刷媒体の種類、印刷媒体のサイズ、印刷品質等の各種の印刷条件を設定することができる。なお、作業者とのインターフェースの具体的構成は種々の変形が可能であり、例えばタッチパネル式のディスプレーをモニター130として用い、このモニター130のタッチパネルで操作部140を構成しても良い。
【0037】
一方、プリンター1では、ホストコンピューター10からの指令に応じてプリンター1の各部を制御するプリンター制御部200が設けられている。そして、記録ヘッド、UVランプおよびシート搬送系の装置各部はプリンター制御部200によって制御される。これら装置各部に対するプリンター制御部200の制御の詳細は次のとおりである。
【0038】
プリンター制御部200は、カラー画像を形成する各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを、シートSの搬送に応じて制御する。具体的には、このインク吐出タイミングの制御は、プラテンドラム30の回転軸に取り付けられて、プラテンドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力(検出値)に基づいて実行される。つまり、プラテンドラム30はシートSの搬送に伴って従動回転するため、プラテンドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力を参照すれば、シートSの搬送位置を把握することができる。そこで、プリンター制御部200は、ドラムエンコーダーE30の出力からpts(print timing signal)信号を生成し、このpts信号に基づいて各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを制御することで、各記録ヘッド51が吐出したインクを搬送されるシートSの目標位置に着弾させて、カラー画像を形成する。
【0039】
また、記録ヘッド52が透明インクを吐出するタイミングも、同様にドラムエンコーダーE30の出力に基づいてプリンター制御部200により制御される。これによって、複数の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクを的確に吐出することができる。さらに、UVランプ61、62、63の点灯・消灯のタイミングや照射光量もプリンター制御部200によって制御される。
【0040】
また、プリンター制御部200は、図1を用いて詳述したシートSの搬送を制御する機能を司る。つまり、シート搬送系を構成する部材のうち、繰出軸20、前駆動ローラー31、後駆動ローラー32および巻取軸40それぞれにはモーターが接続されている。そして、プリンター制御部200はこれらのモーターを回転させつつ、各モーターの速度やトルクを制御して、シートSの搬送を制御する。このシートSの搬送制御の詳細は次のとおりである。
【0041】
プリンター制御部200は、繰出軸20を駆動する繰出モーターM20を回転させて、繰出軸20から前駆動ローラー31にシートSを供給する。この際、プリンター制御部200は、繰出モーターM20のトルクを制御して、繰出軸20から前駆動ローラー31までのシートSのテンション(繰出テンションTa)を調整する。つまり、繰出軸20と前駆動ローラー31の間に配置された従動ローラー21には、繰出テンションTaを検出するテンションセンサーS21が取り付けられている。このテンションセンサーS21は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS21の検出結果に基づいて、繰出モーターM20のトルクをフィードバック制御して、シートSの繰出テンションTaを調整する。
【0042】
この際、プリンター制御部200は、繰出軸20から前駆動ローラー31へ供給されるシートSの幅方向(図1の紙面の直交方向)の位置を調整しつつ、シートSの繰り出しを行う。つまり、プリンター1には、繰出軸20および従動ローラー21それぞれを軸方向(言い換えればシートSの幅方向)に変位させるステアリングユニット7が設けられている。また、従動ローラー21と前駆動ローラー31の間にはシートSの幅方向への端を検出するエッジセンサーSeが配置されている。このエッジセンサーSeは、例えば超音波センサー等の距離センサーで構成することができる。そして、プリンター制御部200は、エッジセンサーSeの検出結果に基づいて、ステアリングユニット7をフィードバック制御して、シートSの幅方向への位置を調整する。これによって、シートSの幅方向への位置が適切化されて、シートSの蛇行等の搬送不良が抑制される。
【0043】
また、プリンター制御部200は、前駆動ローラー31を駆動する前駆動モーターM31と、後駆動ローラー32を駆動する後駆動モーターM32とを回転させる。これによって、繰出部2から繰り出されたシートSがプロセス部3を通過する。この際、前駆動モーターM31に対しては速度制御が実行される一方、後駆動モーターM32に対してはトルク制御が実行される。つまり、プリンター制御部200は、前駆動モーターM31のエンコーダー出力に基づいて、前駆動モーターM31の回転速度を一定に調整する。これによって、シートSは、前駆動ローラー31によって一定速度で搬送される。
【0044】
一方、プリンター制御部200は、後駆動モーターM32のトルクを制御して、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32までのシートSのテンション(プロセステンションTb)を調整する。つまり、プラテンドラム30と後駆動ローラー32の間に配置された従動ローラー34には、プロセステンションTbを検出するテンションセンサーS34が取り付けられている。このテンションセンサーS34は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS34の検出結果に基づいて、後駆動モーターM32のトルクをフィードバック制御して、シートSのプロセステンションTbを調整する。
【0045】
また、プリンター制御部200は、巻取軸40を駆動する巻取モーターM40を回転させて、後駆動ローラー32が搬送するシートSを巻取軸40に巻き取る。この際、プリンター制御部200は、巻取モーターM40のトルクを制御して、後駆動ローラー32から巻取軸40までのシートSのテンション(巻取テンションTc)を調整する。つまり、後駆動ローラー32と巻取軸40の間に配置された従動ローラー41には、巻取テンションTcを検出するテンションセンサーS41が取り付けられている。このテンションセンサーS41は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部200は、テンションセンサーS41の検出結果に基づいて、巻取モーターM40のトルクをフィードバック制御して、シートSの巻取テンションTcを調整する。
【0046】
以上が、プリンター1を制御する電気的構成の概要である。図3は、第1実施形態におけるシートの搬送制御を説明する図である。続いては、図3を用いて、プリンター制御部200が実行するシートSの搬送制御について詳述する。上述のとおり、前駆動ローラー31は所定の速度で回転し、これによってシートSが搬送経路Pcに沿って一定速度で搬送される。そして、プリンター制御部200は、こうしてシートSの搬送速度を定速に制御した上で、シートSに与えるテンションTa、Tb、Tcの調整を行なう。
【0047】
繰出テンションTaの調整は、繰出軸20のトルクを調整することで実行される。具体的には、繰出軸20から前駆動ローラー31へシートSが引き出される方向(搬送方向)に対して逆向きの力F20をシートSに作用させながら、繰出軸20は図3の時計回りに回転する。この際、力F20は、繰出モーターM20の出力トルクtm20と、繰出軸20に巻き付けられたシートSからなるロールの半径Raとの間に次の関係
F20=tm20/Ra
を有する。したがって、テンションセンサーS21の検出する繰出テンションTaの値に基づいて繰出モーターM20の出力トルクtm20をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F20を調整して、繰出テンションTaを調整することができる。
【0048】
なお、前駆動ローラー31の回転速度が一定に調整されているため、前駆動ローラー31より搬送経路Pcの下流側のシートSに作用する力は、繰出テンションTaには影響しない。したがって、繰出テンションTaは、力F20に等しい値となる。すなわち、次式
Ta=F20=tm20/Ra …式1
が満たされる。
【0049】
プロセステンションTbの調整は、後駆動ローラー32のトルクを調整することで実行される。具体的には、シートSの搬送方向に向く力F32をシートSに作用させながら、後駆動ローラー32は図3の時計回りに回転する。この際、力F32は、後駆動モーターM32の出力トルクtm32と、後駆動ローラー32の半径Rbとの間に次の関係
F32=tm32/Rb
を有する。したがって、テンションセンサーS34の検出するプロセステンションTbの値に基づいて後駆動モーターM32の出力トルクtm32をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F32を調整して、プロセステンションTbを調整することができる。
【0050】
なお、前駆動ローラー31の回転速度が一定に調整されているため、前駆動ローラー31より搬送経路Pcの上流側のシートSに作用する力は、プロセステンションTbには影響しない。ただし、次に説明するように、後駆動ローラー32より搬送経路Pcの下流側では巻取軸40がシートSに力F40を作用させており、この力F40はプロセステンションTbに影響する。具体的には、プロセステンションTbは、力F32に力F40を合成した値となる。すなわち、次式
Tb=F32+F40=tm32/Rb+F40 …式2
が満たされる。
【0051】
巻取テンションTcの調整は、巻取軸40のトルクを調整することで実行される。具体的には、シートSの搬送方向に向く力F40をシートSに作用させながら、巻取軸40は図3の時計回りに回転する。この際、力F40は、巻取モーターM40の出力トルクtm40と、巻取軸40に巻き付けられたシートSからなるロールの半径Rcとの間に次の関係
F40=tm40/Rc
を有する。したがって、テンションセンサーS41の検出する巻取テンションTcの値に基づいて、巻取モーターM40の出力トルクtm40をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F40を調整して、巻取テンションTcを調整することができる。これによって、巻取テンションTcは、力F40に等しい値となる。すなわち、次式
Tc=F40=tm40/Rc …式3
が満たされる。
【0052】
そして、第1実施形態のプリンター制御部200は、以上の制御を実行することで、シートSの各部2、3、4のテンションTa、Tb、Tcを調整して、次の不等式
Tb>Tc>Ta
を満足させる。
【0053】
以上に説明したように、第1実施形態では、搬送経路Pcに対して設けられた前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とにシートSを張架しつつ前駆動ローラー31および後駆動ローラー32を回転させることで、シートSを搬送経路Pcに沿って搬送する。そして、前駆動ローラー31の回転速度を制御することで搬送速度の調整されたシートSが、前駆動ローラー31と後駆動ローラー32との間のプロセス部3で、記録ヘッド51から画像の記録を受ける。これにより記録ヘッド51は、搬送速度の安定したシートSに対して画像の記録を実行することができる。しかも、第1実施形態では、後駆動ローラー32のトルクを制御することで、記録ヘッド51が画像記録を行なうプロセス部3でのシートSにプロセステンションTbが与えられる。つまり、シートSを搬送する2本の駆動ローラー31、32の周速度に差を持たせるのではなく、一方の駆動ローラー32のトルクを制御することで、プロセス部3でのシートSにテンションが与えられる。このような構成では、上述したような駆動ローラーとシートSの間における滑りの発生を抑えて、シートSの振動を抑えることができる。その結果、高い位置精度でシートSに画像を記録することが可能となっている。
【0054】
また、第1実施形態では、トルク制御が行なわれる後駆動ローラー32を境に、プロセス部3の方に巻取部4よりも高いテンションTb(>Tc)が与えられる。この場合、後駆動ローラー32は、プロセス部3から巻取部4へ向かう力F32をシートSに作用させるように動作する。なぜなら、力F32、F40の和に等しいプロセステンションTbを力F40に等しい巻取テンションTcより大きくするために、後駆動ローラー32は、シートSを搬送方向の下流側に引っ張る力F32(換言すれば、プロセス部3から巻取部4へ向かう力F32)をシートSに作用させるからである。したがって、このような構成は、記録ヘッド51が画像記録を行なうプロセス部3において、十分なテンションを与えてシートSを安定させることができ、高い位置精度でシートSに画像を記録するのに好適である。
【0055】
また、プロセス部3から巻取部4へ向かう力をシートSに作用させるように後駆動ローラー32を動作させる上記構成は、次のような利点も有する。つまり、巻取部4でシートSが破断したような場合であっても、プロセス部3から巻取部4へ向かう力F32を後駆動ローラー32がシートSに作用させているため、シートSの破断部分を巻取部4に留めておくことができる。その結果、例えばシートSの破断部分が巻取部4からプロセス部3へ移動して記録ヘッド51に接触することで、記録ヘッド51を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となっている。
【0056】
特に、第1実施形態のように、後駆動ローラー32から送り出されるシートSを巻取部4の巻取軸40で巻き取る場合には、このようなシート破断に備えておくことが好適となる。つまり、巻取軸40に対してシートSが歪んで巻き取られるような事態が生じると、シートSにせん断力が加わって、巻取部4においてシートSが破断してしまう場合が考えられる。これに対して、第1実施形態では、シートSの破断部分を巻取部4に留めておくことができる。その結果、例えばシートSの破断部分が巻取部4からプロセス部3へ移動して記録ヘッド51に接触することで、記録ヘッド51を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となっている。
【0057】
また、第1実施形態では、後駆動ローラー32との間にシートSをニップするニップローラー32nが設けられている。したがって、巻取部4でシートSが破断しても、後駆動ローラー32とニップローラー32nでシートSを挟んで、シートSの破断部分を巻取部4に確実に留めておくことができる。
【0058】
また、第1実施形態では、繰出部2でのシートSに、巻取テンションTcより低い繰出テンションTaが与えられている。このような場合、搬送経路Pcの上流側の繰出部2より搬送経路Pcの下流側の巻取部4により高いテンションが与えられるように、繰出モーターM20および巻取モーターM40のトルクが制御される。そのため、例えば駆動ローラー31、32が故障したような場合であっても、よりテンションの高い巻取部4にシートSを引っ張って、シートSの逆流を抑制できる。その結果、例えば、シートSに記録された画像が逆流先にある部材に接触して、これを汚染するといった事態の発生を抑制できる。
【0059】
また、第1実施形態では、繰出部2でのシートSの繰出テンションTaを検出するテンションセンサーS21が設けられており、このテンションセンサーS21の検出結果に基づいて繰出部2でのシートSの繰出テンションTaが調整されている。このような構成は、繰出部2でのシートSの繰出テンションTaを精度良く調整することができ、好適である。
【0060】
また、第1実施形態では、プロセス部3でのシートSのプロセステンションTbを検出するテンションセンサーS34が設けられており、このテンションセンサーS34の検出結果に基づいてプロセス部3でのシートSのプロセステンションTbが調整されている。このような構成は、プロセス部3でのシートSのプロセステンションTbを精度良く調整することができ、好適である。
【0061】
また、第1実施形態では、巻取部4でのシートSの巻取テンションTcを検出するテンションセンサーS41が設けられており、このテンションセンサーS41の検出結果に基づいて巻取部4でのシートSの巻取テンションTcが調整されている。このような構成は、巻取部4でのシートSの巻取テンションTcを精度良く調整することができ、好適である。
【0062】
また、第1実施形態では、記録ヘッド51の逆側からシートSに当接して、シートSを支持するプラテンドラム30が設けられており、記録ヘッド51は、プラテンドラム30に支持されるシートSに画像を記録する。このような構成は、記録ヘッド51が画像記録を行なうシートSをプラテンドラム30で支持することで安定させることができ、高い位置精度でシートSに画像を記録するのに好適である。
【0063】
また、第1実施形態のように、インクの着弾したシートSに紫外線を照射する場合には、本発明のようにプロセステンションTaをシートSに与えておくことが好適となる。つまり、UVインクは、照射される紫外線を吸収したり硬化に伴って発熱したりすることで熱を帯びる。そして、このようなUVインクの熱は、シートSのしわの原因となる。これに対して、第1実施形態では、プロセス部3においてシートSにプロセステンションTbが与えられているため、シートSはプラテンドラム30に押圧されている。そして、プラテンドラム30に押圧されたシートSに対して紫外線が照射される。したがって、紫外線が照射されたシートS上のUVインクからプラテンドラム30への放熱を促進して、シートSのしわの発生を抑制することが可能となっている。
【0064】
第2実施形態
上述の第1実施形態では、前駆動モーターM31に対して速度制御が実行される一方、後駆動モーターM32に対してトルク制御が実行されていた。これに対して、第2実施形態では、前駆動モーターM31に対してトルク制御が実行される一方、後駆動モーターM32に対して速度制御が実行される。第2実施形態と第1実施形態との主な差異は駆動モーターM31、M32に対する速度・トルク制御の関係にあるため、以下ではこの差異部分を中心に説明することとし、共通部分については相等符号を付して説明を適宜省略する。なお、第2実施形態においても、第1実施形態と共通の構成を具備することで、同様の効果が奏されることは言うまでもない。
【0065】
図4は、第2実施形態におけるシートの搬送制御を説明する図である。第2実施形態では、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へ向けてシートSを搬送するにあたって、上述のとおり後駆動モーターM32に対して速度制御が実行される。つまり、プリンター制御部200は、後駆動モーターM32のエンコーダー出力に基づいて、後駆動モーターM32の回転速度を一定に調整する。これによって、シートSは、後駆動ローラー32によって一定速度で搬送される。そして、プリンター制御部200は、こうしてシートSの搬送速度を定速に制御した上で、シートSに与えるテンションTa、Tb、Tcの調整を行なう。
【0066】
繰出テンションTaの調整は、繰出軸20のトルクを調整することで実行される。具体的には、繰出軸20から前駆動ローラー31へシートSが引き出される方向(搬送方向)に対して逆向きの力F20をシートSに作用させながら、繰出軸20は図4の時計回りに回転する。この際、力F20は、繰出モーターM20の出力トルクtm20と、繰出軸20に巻き付けられたシートSからなるロールの半径Raとの間に次の関係
F20=tm20/Ra
を有する。したがって、テンションセンサーS21の検出する繰出テンションTaの値に基づいて繰出モーターM20の出力トルクtm20をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F20を調整して、繰出テンションTaを調整することができる。これによって、繰出テンションTaは、力F20に等しい値となる。すなわち、次式
Ta=F20=tm20/Ra …式4
が満たされる。
【0067】
プロセステンションTbの調整は、前駆動ローラー31のトルクを調整することで実行される。具体的には、シートSの搬送方向の逆側に向く力F31をシートSに作用させながら、前駆動ローラー31は図4の時計回りに回転する。この際、力F31は、前駆動モーターM31の出力トルクtm31と、前駆動ローラー31の半径Rdとの間に次の関係
F31=tm31/Rd
を有する。したがって、テンションセンサーS34の検出するプロセステンションTbの値に基づいて前駆動モーターM31の出力トルクtm31をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F31を調整して、プロセステンションTbを調整することができる。
【0068】
なお、後駆動ローラー32の回転速度が一定に調整されているため、後駆動ローラー32より搬送経路Pcの下流側のシートSに作用する力は、プロセステンションTbには影響しない。ただし、上述のように、前駆動ローラー31より搬送経路Pcの上流側では繰出軸20がシートSに力F20を作用させており、この力F20はプロセステンションTbに影響する。具体的には、プロセステンションTbは、力F31に力F20を合成した値となる。すなわち、次式
Tb=F31+F20=tm31/Rd+F20 …式5
が満たされる。
【0069】
巻取テンションTcの調整は、巻取軸40のトルクを調整することで実行される。具体的には、シートSの搬送方向に向く力F40をシートSに作用させながら、巻取軸40は図4の時計回りに回転する。この際、力F40は、巻取モーターM40の出力トルクtm40と、巻取軸40に巻き付けられたシートSからなるロールの半径Rcとの間に次の関係
F40=tm40/Rc
を有する。したがって、テンションセンサーS41の検出する巻取テンションTcの値に基づいて、巻取モーターM40の出力トルクtm40をフィードバック制御することで、シートSに作用する力F40を調整して、巻取テンションTcを調整することができる。
【0070】
なお、後駆動ローラー32の回転速度が一定に調整されているため、後駆動ローラー32より搬送経路Pcの上流側のシートSに作用する力は、巻取テンションTcには影響しない。したがって、巻取テンションTcは、力F40に等しい値となる。すなわち、次式
Tc=F40=tm40/Rc …式6
が満たされる。
【0071】
そして、第2実施形態のプリンター制御部200は、以上の制御を実行することで、シートSの各部2、3、4のテンションTa、Tb、Tcを調整して、次の不等式
Tb>Tc>Ta
を満足させる。
【0072】
以上に説明したように、第2実施形態では、搬送経路Pcに対して設けられた前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とにシートSを張架しつつ前駆動ローラー31および後駆動ローラー32を回転させることで、シートSを搬送経路Pcに沿って搬送する。そして、後駆動ローラー32の回転速度を制御することで搬送速度の調整されたシートSが、前駆動ローラー31と後駆動ローラー32との間のプロセス部3で、記録ヘッド51から画像の記録を受ける。これにより記録ヘッド51は、搬送速度の安定したシートSに対して画像の記録を実行することができる。しかも、第2実施形態では、前駆動ローラー31のトルクを制御することで、記録ヘッド51が画像記録を行なうプロセス部3でのシートSにプロセステンションTbが与えられる。つまり、シートSを搬送する2本の駆動ローラー31、32の周速度に差を持たせるのではなく、一方の駆動ローラー31のトルクを制御することで、プロセス部3でのシートSにテンションが与えられる。このような構成では、上述したような駆動ローラーとシートSの間における滑りの発生を抑えて、シートSの振動を抑えることができる。その結果、高い位置精度でシートSに画像を記録することが可能となっている。
【0073】
また、第2実施形態では、トルク制御が行なわれる前駆動ローラー31を境に、プロセス部3の方に繰出部2よりも高いテンションTb(>Ta)が与えられる。この場合、前駆動ローラー31は、プロセス部3から繰出部2へ向かう力F31をシートSに作用させるように動作する。なぜなら、力F31、F20の和に等しいプロセステンションTbを力F20に等しい繰出テンションTaより大きくするために、前駆動ローラー31は、シートSを搬送方向の上流側に引っ張る力F31(換言すれば、プロセス部3から繰出部2へ向かう力F31)をシートSに作用させるからである。したがって、このような構成は、記録ヘッド51が画像記録を行なうプロセス部3において、十分なテンションを与えてシートSを安定させることができ、高い位置精度でシートSに画像を記録するのに好適である。
【0074】
また、プロセス部3から繰出部2へ向かう力をシートSに作用させるように前駆動ローラー31を動作させる上記構成は、次のような利点も有する。つまり、繰出部2でシートSが破断したような場合であっても、プロセス部3から繰出部2へ向かう力F31を前駆動ローラー31がシートSに作用させているため、シートSの破断部分を繰出部2に留めておくことができる。その結果、例えばシートSの破断部分が繰出部2からプロセス部3へ移動して記録ヘッド51に接触することで、記録ヘッド51を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となっている。
【0075】
特に、第2実施形態のように、繰出部2において前駆動ローラー31へ向かうシートSを搬送経路Pcに直交する幅方向(直交方向)に変位させて、シートSの幅方向への位置を調整する場合には、このようなシート破断に備えておくことが好適となる。つまり、シートSを搬送方向Pcに直交する直交方向に変位させることで、シートSにせん断力が加わって、繰出部2においてシートSが破断してしまう場合が考えられる。これに対して、第2実施形態では、シートSの破断部分を繰出部2に留めておくことができる。その結果、例えばシートSの破断部分が繰出部2からプロセス部3へ移動して記録ヘッド51に接触することで、記録ヘッド51を破損させるといった問題の発生を抑制することが可能となっている。
【0076】
また、第2実施形態では、前駆動ローラー31との間にシートSをニップするニップローラー31nが設けられている。したがって、繰出部2でシートSが破断しても、前駆動ローラー31とニップローラー31nでシートSを挟んで、シートSの破断部分を繰出部2に確実に留めておくことができる。
【0077】
また、第2実施形態では、巻取部4でのシートSに、繰出テンションTaより高い巻取テンションTcが与えられている。このような場合、搬送経路Pcの上流側の繰出部2より搬送経路Pcの下流側の巻取部4により高いテンションが与えられるように、繰出モーターM20および巻取モーターM40のトルクが制御される。そのため、例えば駆動ローラー31、32が故障したような場合であっても、よりテンションの高い巻取部4にシートSを引っ張って、シートSの逆流を抑制できる。その結果、例えば、シートSに記録された画像が逆流先にある部材に接触して、これを汚染するといった事態の発生を抑制できる。
【0078】
その他
以上のように、上記実施形態では、プリンター1が本発明の「画像記録装置」に相当し、シートSが本発明の「記録媒体」に相当し、搬送経路Pcが本発明の「搬送経路」に相当し、繰出軸20、前駆動ローラー31、後駆動ローラー32、巻取軸40およびこれらに接続されたモーターM20、M31、M32、M40が協働して本発明の「搬送部」として機能し、プリンター制御部200が本発明の「制御部」に相当し、プラテンドラム30が本発明の「支持部材」に相当し、記録ヘッド51、52が本発明の「記録部」に相当し、UVランプ61、62、63が本発明の「光照射部」に相当する。また、上記第1実施形態では、前駆動ローラー31が本発明の「第1駆動ローラー」に相当し、後駆動ローラー32が本発明の「第2駆動ローラー」に相当する。一方、上記第2実施形態では、後駆動ローラー32が本発明の「第1駆動ローラー」に相当し、前駆動ローラー31が本発明の「第2駆動ローラー」に相当する。また、上記第1実施形態では、プロセス部3が本発明の「第1領域」に相当し、巻取部4が本発明の「第2領域」に相当し、繰出部2が本発明の「第3領域」に相当し、プロセステンションTbが本発明の「第1テンション」に相当し、巻取テンションTcが本発明の「第2テンション」に相当し、繰出テンションTaが本発明の「第3テンション」に相当し、テンションセンサーS34が本発明の「第1検出部」に相当し、テンションセンサーS40が本発明の「第2検出部」に相当し、テンションセンサーS21が本発明の「第3検出部」に相当する。一方、上記第2実施形態では、プロセス部3が本発明の「第1領域」に相当し、繰出部2が本発明の「第2領域」に相当し、巻取部4が本発明の「第3領域」に相当し、プロセステンションTbが本発明の「第1テンション」に相当し、繰出テンションTaが本発明の「第2テンション」に相当し、巻取テンションTcが本発明の「第3テンション」に相当し、テンションセンサーS34が本発明の「第1検出部」に相当し、テンションセンサーS21が本発明の「第2テンション」に相当し、テンションセンサーS41本発明の「第3検出部」に相当する。また、上記第1実施形態では、巻取軸40が本発明の「巻取ローラー」に相当し、上記第2実施形態では、繰出軸20、従動ローラー21およびステアリングユニット7が協働して本発明の「位置調整機構」として機能している。
【0079】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態では、テンションセンサーS21、S34、S41の検出値に基づいて、シートSのテンションがフィードバック制御されていた。しかしながら、フィードバック制御以外の態様によってシートSのテンションを制御しても良い。
【0080】
また、フィードバック制御するにあたって、テンションセンサーの配設位置を上記実施形態から適宜変更することもできる。具体例を挙げれば、プロセス部3でのプロセステンションTbを検出するテンションセンサーを従動ローラー33に設けても良い。
【0081】
また、シートSの幅方向への位置を調整する位置調整機構の具体的構成についても、上述のものに限られず、適宜変更が可能である。したがって、例えば特許第4328043号公報等に記載の蛇行制御装置によって位置調整機構を構成しても良い。
【0082】
また、上記実施形態では、UVインクを吐出する記録ヘッド51、52によって本発明の「記録部」が構成されていた。しかしながら、記録部の具体的構成はこれに限られない。
【符号の説明】
【0083】
1…プリンター、 200…プリンター制御部、 30…プラテンドラム、 31…前駆動ローラー、 32…後駆動ローラー、 51…記録ヘッド、 M31…前駆動モーターM31、 M32…後駆動モーター、 S34…テンションセンサー、 S…シート、 Pc…搬送経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の搬送経路に対して設けられた第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとに前記記録媒体を張架しつつ前記第1駆動ローラーおよび前記第2駆動ローラーを回転させることで前記記録媒体を前記搬送経路に沿って搬送する搬送部と、
前記搬送経路における前記第1駆動ローラーと前記第2駆動ローラーとの間の第1領域で前記記録媒体に画像を記録する記録部と、
前記第1駆動ローラーの回転速度を制御することで前記記録媒体の搬送速度を調整しつつ、前記2駆動ローラーのトルクを制御することで前記第1領域における前記記録媒体に第1テンションを与える制御部と
を備え、
前記制御部は、前記搬送部を制御することで、前記搬送経路において前記第2駆動ローラーより前記第1領域の反対側の第2領域での前記記録媒体に、前記第1テンションより低い第2テンションを与えることを特徴とする画像記録装置。
【請求項2】
前記第2駆動ローラーとの間に前記記録媒体をニップするニップローラーをさらに備えた請求項1に記載の画像記録装置。
【請求項3】
前記第1領域での前記記録媒体のテンションを検出する第1検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記第1検出部の検出結果に基づいて、前記第1領域での前記記録媒体の前記第1テンションを調整する請求項1または2に記載の画像記録装置。
【請求項4】
前記第2領域での前記記録媒体のテンションを検出する第2検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記第2検出部の検出結果に基づいて、前記第2領域での前記記録媒体の前記第2テンションを調整する請求項1ないし3のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項5】
前記搬送部は、前記第1駆動ローラーから前記第2駆動ローラーに向かう方向に前記記録媒体を搬送する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項6】
前記搬送部は、前記第2駆動ローラーから送り出される記録媒体を前記第2領域で巻き取る巻取ローラーを有する請求項5に記載の画像記録装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記搬送部を制御することで、前記搬送経路において前記第1駆動ローラーより前記第1領域の反対側の第3領域での前記記録媒体に、前記第2テンションより低い第3テンションを与える請求項5または6に記載の画像記録装置。
【請求項8】
前記搬送部は、前記第2駆動ローラーから前記第1駆動ローラーに向かう方向に前記記録媒体を搬送する請求項1ないし4のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項9】
前記搬送部は、前記第2領域において前記第2駆動ローラーへ向かう前記記録媒体を前記搬送経路に直交する直交方向に変位させて、前記記録媒体の前記直交方向への位置を調整する位置調整機構を有する請求項8に記載の画像記録装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記搬送部を制御することで、前記搬送経路において前記第1駆動ローラーより前記第1領域の反対側の第3領域での前記記録媒体に、前記第2テンションより高い第3テンションを与える請求項9に記載の画像記録装置。
【請求項11】
前記第3領域での前記記録媒体のテンションを検出する第3検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記第3検出部の検出結果に基づいて、前記第3領域での前記記録媒体の前記第3テンションを調整する請求項7または10に記載の画像記録装置。
【請求項12】
前記記録部の逆側から前記記録媒体に当接して、前記記録媒体を支持する支持部材をさらに備え、
前記記録部は、前記支持部材に支持される前記記録媒体に画像を記録する請求項1ないし11のいずれか一項に記載の画像記録装置。
【請求項13】
前記記録部は、光硬化性のインクを吐出して前記記録媒体に画像を記録する請求項12に記載の画像記録装置において、
前記記録媒体を挟んで前記支持部材に対向して、前記支持部材に支持された前記記録媒体に光を照射して、前記記録媒体に着弾したインクを硬化させる光照射部をさらに備える画像記録装置。
【請求項14】
搬送経路に対して設けられた第1駆動ローラーと第2駆動ローラーとに張架されつつ前記第1駆動ローラーおよび前記第2駆動ローラーの回転に伴って搬送される記録媒体に対して、前記第1駆動ローラーと前記第2駆動ローラーとの間の第1領域で記録部が画像を記録する画像記録方法において、
前記記録媒体の搬送速度は、前記第1駆動ローラーの回転速度を制御することで調整されるとともに、
前記第1領域における前記記録媒体のテンションは、前記第2駆動ローラーのトルクを制御することで調整されており、前記搬送経路において前記第2駆動ローラーより前記第1領域の反対側の第2領域での前記記録媒体のテンションより高いことを特徴とする画像記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111780(P2013−111780A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257504(P2011−257504)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】