説明

画像誘導型立体位置放射線手術を乳癌に行う方法およびそれに用いる機器

【課題】患者の乳房中の癌部を治療する方法およびそれに用いる機器を提供する。
【解決手段】患者の乳房中の癌部を治療する方法は、(1)乳房を3次元座標系の中に撮像し、(2)乳房中の癌部の位置を立体位置として決定し、(3)治療を行う癌部全体またはその一部の容量を任意に決定し、(4)ステップ1において用いられる3次元座標系と同一または同等な3次元座標系の中に乳房を保持する間、患者の乳房の癌部を癌治療に有効な放射線量に非侵襲的に暴露させる、というステップからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴画像法(MRI)、放射線照射法、立体位置放射線手術、および乳癌に係り、特に、画像誘導型立体位置放射線手術により乳房の癌部をガンマ放射線を用いて除去する方法およびその機器に関する。
【0002】
米国癌学会によれば、乳癌は合衆国における女性がかかる悪性腫瘍のなかで最も多く、新たに年間20万をこえる症例が診断により見つかっている(非特許文献1)。この数十年の間にマンモグラフィーや他の画像診断は著しい進歩を遂げてきた。その結果、癌の初期においてより多くの患者が乳癌と診断されるようになり、この結果、乳房温存療法(BCT)が治療方法として選択できるようになった。
【背景技術】
【0003】
乳房切除法に比べると、BCTは整容性に優れるとともに心理的および感情的トラウマを減らすといった効果をもつ(非特許文献2乃至6)。しかしながら、BCTは複雑で時間のかかる治療方法である。初期に乳癌と診断された患者は、先ず乳腺腫瘤摘出と呼ばれる外科治療を施され、腫瘍およびマージンと呼ばれる腫瘍周辺組織が切除される。理想的には、腫瘍組織が残らないように十分な大きさのマージンが除去される。しかし、乳癌は本来複数の病巣を有し、その結果、大きな腫瘍の周辺には小さな腫瘍巣が分散して存在する(非特許文献7)。さらに、マンモグラムや核磁気共鳴画像は、外科手術と異なる位置的条件において得られる。乳腺腫瘤摘出は画像による直接誘導なしに手術が行われるため、摘出手術の位置的誤差は1センチメーター以下にはならないものである。従って、現実には、大きな腫瘍から距離が離れるに従い、腫瘍巣を発見する可能性が急激に低くなるが(非特許文献4、5、および8)、一つまたは複数の微小サイズの腫瘍巣が除去されずに残ってしまう。このことが、外科的マージンを治療するために患者が外科手術の後に放射線治療を施される理由である。もし、術後に放射線を受けないとすると、乳腺腫瘤摘出を受けた患者の約35%が外科的マージンにおける癌巣の除去に成功しないと予想される。(非特許文献9)
【0004】
現在、標準的な放射線治療法は、約5−7週間にわたる乳房全体の放射線治療を必要とする。小線源治療法もまた外科的マージンを治療するために用いられてきた(非特許文献10乃至12)。小線源治療法は、乳房中に高活性または低活性の放射線活性種を導入することを必要とする。また、約1−2週間の期間にわたって乳房の外科床を照射することを必要とする加速部分乳房照射法(APBI)が、現在いくつかの治験において試験されている(非特許文献13)。
【0005】
しかしながら、外照射ビームをたとえ1−2週間または5−7週間の期間用いたとしても、肺(非特許文献14)および循環器(非特許文献16乃至18)への損傷、皮膚および軟質組織の繊維症(非特許文献19)、腕浮腫(非特許文献20)、および二次癌のリスクを増加させる(非特許文献20乃至21)といった結果が生じることがある。これらの欠点はBCTの患者の生活の質的向上に悪影響を及ぼす。
【0006】
3次元MRI(3−D MRI)の感度および特異性が向上したことにより、外科医は、乳腺腫瘤摘出に代わる侵襲性が低く同効果で整容性に優れた方法を生み出してきた。その結果、乳癌手術において侵襲を最も低くする技術開発へ努力が向けられてきた(非特許文献22)。これらのなかには、温熱(非特許文献23乃至24)および低温(非特許文献25)による経皮的切除法、および自動針(非特許文献26乃至27)、カニューレ(非特許文献28乃至30)、レーザー(非特許文献31乃至34)の利用がある。
【0007】
広く試されている温熱除去技術の一つに、無線周波数切除法(RFA)がある(非特許文献23乃至24)。一般的な麻酔下では、RFAプローブは音響誘導によって腫瘍の中に挿入される。現在電極に用いられる無線周波数によって電極の近傍は徐々に加温され、約5分から7分で標的温度である約95℃に達する。約15分間この標的温度に維持した後、約1分間冷却する。また、低温切除法には、例えば凍結治療があるが、プローブのチップに液体窒素を循環させ、アイスボールを形成して細胞を破壊する。これらの切除方法は侵襲を最低にするように意図されてはいるが、麻酔下において行わねばならない。さらに、これらの方法において、腫瘍を取り囲んでいる正常組織に不要な損傷を与えないまたは最小になるように、損傷部分を腫瘍の形状に正確に一致させるように切除を行うことは、不可能ではないにしても困難な方法である。従って、これらの方法が外科手術に代わり得る方法であるとはいえない。
【0008】
画像誘導型ニードルバイオプシーによる除去方法が正確であることから、外科医は真空バイオプシー技術を用いることにより大きなまたは微細な腫瘍断片を除去しようと試みてきた(非特許文献26乃至27)。また、ラージコアカニューレを立体位置局所的に用いて非断片的で単一のラージコア部分を除去しようと試みてきた(非特許文献28乃至30)。こうした技術を用いた完全切除法は、約0.7cm以下の小さい腫瘍においてよい結果を与えたとの報告がある。しかし、たとえ小さな腫瘍でも患者の約70%において腫瘍が残存する。従って、これらの経皮的画像誘導型切除技術は、たとえ低侵襲的であっても外科手術に置き換えることはできない。
【0009】
放射線手術によって、ミリリットル以下の精度で腫瘍の切除を行うことが可能である。単回で高い放射線量が安全に照射可能な全部位に対して、放射線手術が有効であることが証明されている。立体位置放射線手術において、ガンマナイフまたは直線加速器といった専用装置を用い、腫瘍部位に集中する複数の弧状ビームによる手術が頭蓋内腫瘍に対して行われている。また、放射線手術は、肺や脊椎などの頭蓋外部位に対しても有効に用いられている。特に、脳内の転移癌、例えば転移乳癌、に対して放射線手術は有効である。通常、苦痛軽減の目的で20Gy未満の照射線量が照射されるが、転移癌に対しては約16−24Gyの照射線量の単回照射が行われ、85%をこえる症例において腫瘍が根絶される(非特許文献35乃至36)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jemal et al.,Cancer J.Clin.56:106−130(2006);
【非特許文献2】Fisher et al.,N.Engl.J.Med.,347(16):1233−1241(2000);
【非特許文献3】Veronesi et al.,N.Engl.J.Med.,347(16):1227−1232(2002);
【非特許文献4】Liljegren et al.,J.Clin.Oncol.,17(8):2326−2333(2000);
【非特許文献5】Clark et al.,J.Natl.Cancer Inst.,88(22):1659−1644(1996);
【非特許文献6】Gray et al.,Intl.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,21:347−354(1991);
【非特許文献7】Holland et al.,Cancer 56:979−990(1985);
【非特許文献8】Holli et al.,Br.J.Cancer 84(2):164−169(2001);
【非特許文献9】Early Breast Cancer Trial‘s Collaborative Group,New.Engl.J.Med.,333:1444−1455(1995);
【非特許文献10】Baglan et al.,Intl.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,50(4):1003−1011(2001);
【非特許文献11】King et al.,Am.J.Surg.,180(4):299−304(2000);
【非特許文献12】Wazer et al.,Intl.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,53(4):889−897(2002);
【非特許文献13】Vicini et al.,J.Clin.Oncol.,19(7):1993−2001(2001);
【非特許文献14】Lingos et al.,Intl.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,21:355−360(1991);
【非特許文献15】Rothwell et al.,Radiother.Oncol.,4:9−14(1985);
【非特許文献16】Corn et al.,J.Clin.Oncol.,8:741−750(1990);
【非特許文献17】Dodwell et al.,Australasian Radiol.,38:154−156(1994);
【非特許文献18】Rutqvist et al.,Intl.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,22:887−896(1992);
【非特許文献19】Johansen et al.,British J.Radiol.,67:1238−1242(1994);
【非特許文献20】Wallgren,Acta Oncologica 31(2):237−242(1992);
【非特許文献21】Inskip et al.,J.Natl.Cancer Inst.,86(13):983−988(1994);
【非特許文献22】Dowlatshahi et al.,The Amer.J.of Surgery,182:419−425(2001);
【非特許文献23】Jeffrey et al.,Arch.Surg.,134:1064−1068(1999);
【非特許文献24】Izzo et al.,Proc.Am.Soc.Clin.Oncol.,19:80A(2000);
【非特許文献25】Staren et al.,Arch.Surg.,132:28−33(1997);
【非特許文献26】Lieberman et al.,Am.J.Roentgenol.,173:1315−1322(1999);
【非特許文献27】Burak et al.,Arch.Surg.,135:700−703(2000);
【非特許文献28】D‘Angelo et al.,Am.J.Surg.,174:297−302(1997);
【非特許文献29】Chesbrough et al.,Radiology,209:197(1999);
【非特許文献30】Lieberman et al.,Am.J.Roentgenol.,172:1409−1412(1999);
【非特許文献31】Harries et al.,Br.J.Surg.,81:1617−1619(1994);
【非特許文献32】Mumtaz et al.,Radiology,200:651−658(1996);
【非特許文献33】Milne et al.,Lasers Surg.Med.,26:67−75(2000);
【非特許文献34】Dowlatshahi et al.,Breast J.,2:304−311(1996);
【非特許文献35】Vesagas et al., J.Neurosurg.,97(5 Suppl.):507−510(2002);
【非特許文献36】Kondziolka et al.,Cancer,104(12):2784−2791(2005);
【非特許文献37】Shepard et al.,Int’l J.of Radiat.Oncol.Biol.Physics,56(5):1488−1494(2003);
【非特許文献38】Yu et al.,Tech.in Cancer Res.and Treatment,2(2):93−104(2003)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
今日まで、本願発明者らは立体位置放射線手術を乳癌に適用した例を知らないし、この点、外科的精度で安全にかつ正確に乳癌の癌部に高い照射線量の放射線を照射できる装置も知らない。放射線ビームが2π角度以上で頭蓋内の病巣に照射可能である頭蓋内腫瘍に対する放射線手術とは異なり、乳房では直線加速器によって発生させたビームなどの外部放射線ビームにより、照射が妨げられない限られた角度においてのみ照射が可能となる。また、診断と治療との間に位置的差異が生じない、座標系に確実に固定できる頭蓋とは異なり、乳房の場合にはこのような固定化ができない。
【0012】
前記した観点から、本発明の目的は乳房中の癌部を治療するため立体位置放射線手術を用いる方法を提供するものである。さらに本発明の目的は、この方法に用いられる機器を提供するものである。本発明のこれらの目的および優れた特徴は、発明の更なる特徴と併せて以下に述べる発明の詳細な説明において明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、患者の乳房中の癌部を治療する方法を提供する。この方法は、(1)3次元座標系で乳房を撮像し、(2)乳房中の癌部の位置を立体位置として決定し、(3)治療を行う癌部全体またはその一部の容量を任意に決定し、(4)ステップ(1)において用いられる3次元座標系と同一または同等な3次元座標系の中に乳房を保持する間に、患者の乳房中の癌部を癌治療に有効な照射線量の放射線に非侵襲的に暴露させる、というステップからなる。
【0014】
本発明はさらに、画像誘導された立体位置放射線外科手術を乳房中の癌部に行うための機器を提供する。この機器は、以下のように構成される。(1)癌部をもつ乳房を固定するための固定化手段を有し、(2)患者がうつ伏せになって治療を受けられるように連通孔または左右に開口部がある寝台を有し、患者の右または左の乳房は前記連通孔か左または右の開口部にそれぞれ置かれ、寝台は自己成形型媒体よりなる最表層を任意に有し、(3)乳房を座標系に設定するため、前記寝台の下には立体位置特定フレームを有し、(4)一または二つの乳房遮蔽部を有し、これら乳房遮蔽部は脱着可能なように寝台に設置され、連通孔にスライドできるように設置でき、または乳房を固定する手段に脱着可能なように設置され、(5)照射部を有する。前記照射部は(i’)内側表面、外側表面、およびチャンネルがある壁を有する線源ホルダを有し、前記チャンネルは内側表面と連通し、外側表面とは連通していてもいなくともよく、各チャンネルは放射線源を有してよく、(ii’)線源ホルダの内側表面に隣接し、線源ホルダとコリメータホルダが相対回転することにより異なる強さの放射線ビームが選べるように線源ホルダ内のチャンネルと同様の配置で強さの異なるコリメータを有する結果、異なる強さの放射線を照射するコリメータホルダを有し、(iii’)線源ホルダの外表面の下に置かれて線源ホルダおよびコリメータホルダを支持するベースハウジングを有する。前記ベースハウジングは、コリメータホルダおよび線源ホルダを別々に回転させるモーターを格納し、ロック時にコリメータホルダおよび線源ホルダを一緒に回転させるもう一つのモーターを格納する。さらに、画像誘導された立体位置放射線手術を乳房中の癌部に行うための前記機器は、(6)曲面形状のベースサポートを有し、(7)操作可能なように寝台に接続され、寝台を別々の軸方向に動かす3つのモーターを有し、(viii)寝台および照射部の動きを制御するコンピュータ制御システムを有する。前記機器は、さらに治療計画システムを有していてもよい。照射部および寝台の操作は、コンピュータ制御システムによって制御される。このコンピュータ制御システムは治療計画システムから治療パラメータを収集し、治療計画に従って寝台および照射部の動きを制御し、機器全体の安全性および操作を監視し、必要なときに安全インターロックおよび作動制限をかける。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】γ線−照射部の切抜き図を示す。
【図2】γ線−照射部の断面図を示す。
【図3】γ線−照射部の断面図を示す。
【図4】分離された(a)線源ホルダと(b)コリメータホルダを示す。
【図5】(a)線源ホルダとコリメータホルダとの回転相対位置がそれぞれ異なる状態にあるコリメータを示す。(b)線源ホルダとコリメータホルダとの回転相対位置がそれぞれ異なる状態にあるコリメータを示す。(c)患者の治療に照射部が使用されていない時、コリメータホルダの上にある中実なブロックに線源が配列された状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は乳房中の癌部を治療する方法およびそれに用いる機器を提供する。本発明の治療方法および機器は、BCTを含む現在の治療方法よりも潜在的に優れた効果を提供するものである。この潜在的に優れた効果としては、侵襲的外科手術とその後に行う照射治療を省くことができるために、非侵襲的、無痛的である点、初期乳癌の全てではないにしてもほとんどの場合において照射治療を潜在的に省ける点、治療期間を7−10週から数時間に短縮できることによる生活の質的向上や傷跡が残らない点、非癌組織への照射を減らせる点、治療の繰り返しが容易である点、および費用効果が挙げられる。
【0017】
立体位置特定法により、約1mmの精度が達成されていると考えられている。乳癌の放射線手術によってかなりの照射線量を標的部位の外部に照射できるが、標的から離れるに従って急速に照射線量も低下する。高い照射線量が低下しても、大きい腫瘍のまわりにある腫瘍巣全てを最も効果的に死滅できる照射線量にほぼ匹敵する。標的部位の端から1cm離れた場所では、照射線量は腫瘍内部の最大照射線量の約10−15%にまで減少する。もし、標的をカバーする最小照射線量が、普通、最大照射線量の50%にあたる25Gyである場合、標的から1cm離れた場所での照射線量は5−7.5Gyである。この照射線量の程度は、小線源治療やMammoSite(Proxima Therapeutics,Inc., Alpharetta,カリフォルニア州、米国)の照射線量の程度と同等である。よって、頭蓋内病変部位の放射線手術とは異なり、標的外部への照射は、高照射線量で照射した標的の外部にある潜在的な癌病巣を死滅させるのに有用であり、所望される。このような特長によって、術後の放射線治療を省くことができる。
【0018】
上で述べたような観点から、本発明は患者の乳房中の癌部を治療する方法を提供する。この方法は、(1)3次元座標系に乳房を撮像し、(2)乳房にある癌部の位置を立体位置に決定し、(3)治療を行う全癌部またはその一部の容量を任意に決定し、(4)ステップ(1)において用いられる3次元座標系と同一または同等な3次元座標系中に乳房を保持する間に、患者の乳房の癌部を癌治療に有効な照射線量の放射線に非侵襲的に暴露させる、というステップからなる。
【0019】
ここで、乳房全体は、撮像および放射線手術の間に用いられるものと同一または同等な3次元座標系の中に置かれなければならない。さらに、この3次元座標系の中にある乳房の形状および位置は、撮像および放射線手術の間、同一または同等なものでなければならない。また、本発明は、以下で述べる乳房カップおよびこのカップに対する座標系を構築するようにカップ周囲に立体位置特定フレームなどといった、乳房固定化手段を提供する。
【0020】
コンピュータによる治療計画システムは、乳房の断面画像中の点として表示される立体位置特定フレームの画像を同定するものであり、撮像断面の位置と方向を計算し、座標系内の画像上の全てのポイントを計画する。輪郭化ツールは、治療する癌部の容量全体またその一部を決めるのに用いられる。また、コンピュータによる治療計画システムにより、異なるコリメータサイズによる照射センタ(つまりショット)を癌部の上に手動で置くことができ、ショットの大きさと位置が自動的に最適化される。治療の計画後、照射線部の制御システムによって理解可能な治療パラメータは、治療のため照射線部の制御システムに電気的に送られる。こうした計画方法は、頭蓋内傷害部の治療用に現在用いられている(非特許文献37および38)。
【0021】
放射性同位体などの好適な照射線源としては、癌治療用に適当な長さの半減期をもち、γ−照射など10cm以上の深さまで治療に有効な線量の照射線を照射可能なものが使用できる。約12ヶ月以上の半減期をもつものが好ましいが、より短い半減期をもつ放射性同位体もまた好適な特徴をもつものとして考慮される。治療有効用量は、約20Gyから約60Gyである。好適な放射性同位体の例としては、約5.3年の半減期を持ち、1.25Mevの平均光子エネルギーのγ−照射治療に有効な照射線量を発生可能なコバルト60(60Co)がある。一方、X線管またはXバンド直線加速器による、小X線源も使用可能である。また、癌を治療する有効な照射線は、単回治療で照射線量を照射するか、または多数の反復治療において照射線量を照射することができる。
【0022】
以上のような点において、さらに本発明は患者の乳房にある癌部を治療するために用いる機器を提供する。この機器は、以下のように構成される。(1)癌部をもつ乳房を固定するための固定化手段を有し、(2)患者がうつ伏せになって治療を受けられるように連通孔または左右に開口部をもつ寝台を有し、患者の右または左の乳房は前記連通孔か左または右の開口部にそれぞれ置かれ、寝台は自己成形型媒体よりなる最表層を任意に有し、(3)乳房を座標系中に設定するため前記寝台の下に立体位置特定フレームを有し、(4)一または二つの乳房遮蔽部を有し、これら乳房遮蔽部は脱着可能なように寝台に設置され、連通孔にスライドできるように設置でき、または乳房を固定する手段に脱着可能なように設置され、(5)照射部を有する。前記照射部は、(i’)内側表面、外側表面、およびチャンネルをもつ壁を有する線源ホルダを有する。さらに前記チャンネルは内側表面に連通し、外側表面とは連通していてもいなくともよく、各チャンネルは放射線源を有してよく、(ii’)線源ホルダの内側表面に隣接し、線源ホルダとコリメータホルダを相対回転させることにより、異なる強さの放射線ビームを選ぶことができる。さらに線源ホルダ内のチャンネルと同様の配置で強さの異なるコリメータを有する結果、異なる強さの放射線を照射するコリメータホルダを有し、(iii’)線源ホルダの外表面の下に置かれて線源ホルダおよびコリメータホルダを支持するベースハウジングを有する。前記ベースハウジングは、コリメータホルダおよび線源ホルダを別々に回転させるモーターを格納し、ロック時において、コリメータホルダおよび線源ホルダを一緒に回転させるもう一つのモーターを格納する。さらに、画像誘導された立体位置放射線手術を乳房中の癌部に行うための前記機器は、(6)曲面形状のベースサポートを有し、(7)操作可能なように寝台に接続され、寝台を別々の軸方向に動かす3つのモーターを有し(図1参照)、(8)寝台および照射部の動きを制御するコンピュータ制御システムを有する。前記機器は、さらに治療計画システムを有していてもよい。
【0023】
線源ホルダは、好ましくはボール状の形をしている(図4参照)。線源ホルダの下部は上部と同じ曲率の曲面でなくてもよく、より深い治療用の空間をもつことが可能である。線源ホルダは、好ましくは金属などの材料からなり、放射線を有効に減少させ、以下に述べるようにチャンネルからの側面放射を遮断するように、材料に依存して約10cmから約30cmといった十分な厚みを有する。例えば、もし60Coが放射線源として用いられる場合には、放射線部ホルダは鋳鉄製が好ましい。
【0024】
全てのチャンネルは、線源ホルダの壁の内部に形成され、各チャンネルは、線源ホルダの特有の緯度位置に形成されている。全てのチャンネルは線源ホルダの内側表面上に開口しているが、線源ホルダの外側表面上には開口していない。または、全てのチャンネルは線源ホルダの内側表面および外側表面上に開口してもよく、ステンレススチールスクリューシール単独または鉛プラグと組み合わせたシールで、線源ホルダ外側表面上に開口したチャンネルの端が封じられる。放射性同位体などの放射線原がこれらチャンネルの中に設置される。好ましくは、放射性同位体を、線源ホルダ内部に面した窓をその端にもつ、バイアルなどのコンテナに先ず置き、続いてこのバイアルをチャンネルのなかに設置する。例えば、コバルト60は、MDS Nordion Inc.(オタワ、カナダ)から直径約1.2mm、厚さ約1mmのペレットとして購入可能である。ペレットはバイアル中約2cmの高さまで、多数積み重ねることができる。好ましくは、数百キューリー(Ci)の60Coを各線源バイアルに入れ、さらにこの各線源バイアルをステンレススチールハウジングの中に入れて二重に封印する。好ましくは、少なくとも約30から40個のチャンネルを線源ホルダの壁の中に配置する。もし線源ホルダが回転してこれらのチャンネルが同一平面上にない場合、一般的には線源ホルダの上部から3分の1までの位置にある、例えば約1°から約35°の間にある位置が、チャンネルの好適な配置に利用できる。この点、線源バイアルが置かれていない線源ホルダの底部は除去可能である。照射線源から照射された全てのビームは一点に集中し、線源ホルダの中心軸上にあるホルダの縁に接した平面上の共通アイソセンタを通過する。線源ホルダが回転するとき、全ての放射線源から放射されるビームは、同一平面内になく、いつも一点に集中してアイソセンタを通る。好ましくは、線源バイアル設置時の全初期活性は、約6000−1000Ciの範囲にあり、3−4Gy/minの初期照射線量を与える。
【0025】
サイズの異なる複数のコリメータホールをもつコリメータホルダによって、照射ビームのサイズが選択される(図4a参照)。コリメータホルダもまた、好ましくはボール形状をもち、約1mm未満のすきまで線源ホルダの内側にぴったりと合うように、線源ホルダよりも小さいサイズである。乳房カップを着けた乳房を収めることができる内径をもつ、約30cm程度の小さなサイズである(図1参照)。もし、線源ホルダの下部が上部と同じ曲率の曲面ではない場合、コリメータホルダの下部もその形状に合わしたものとなる(図1参照)。コリメータホルダおよび線源ホルダは、同心円状に配置され、同じ回転軸を共有し、別々のシャフトおよびベアリングによってそれぞれの位置に固定される。コリメータホルダは、好ましくは一の材料からなり、コリメータホルダの外側では放射線の約98%以上が遮蔽されるように、約10cmから約30cmといった十分な厚みを有する。この厚みは材料に依存する。もしビームの線源として60Coが用いられる場合、コリメータホルダーは鋳鉄製またはタングステン製であるのが好ましい。もしコリメータホルダーがタングステン製である場合、厚みは薄くてもよい。もしコリメータホルダーが鋳鉄製である場合、タングステン製のコリメータをコリメータホルダの中に挿入してもよい。鋳鉄製のコリメータホルダは、比較的低価格でありまた比較的簡単に機械加工できる。コリメータホルダおよび線源ホルダは、両者が上向きに面するように配置される。コリメータホルダ上には、アイソセンタに向かって突き出した約1cmから約4cmのサイズを持つ、タングステンなどの高密度の素材で作られた約120から200個のコリメータが配置される。コリメータホルダの内側表面は、プラスチックライナーなどの、薄い、取り換え可能なライナーによって保護することができる。
【0026】
線源ホルダ内部のチャンネルは、チャンネルからの放射線漏洩を防ぐために、機器が使用されていないときコリメータホルダ内において中実の遮蔽ブロックと常時位置合わせされている。癌部がある乳房を寝台の移動によって照射ビームの中心に配置した際、必要とされるサイズのコリメータが、線源ホルダとコリメータホルダを相対回転させることにより放射線源と位置合わせされる。このことによって、放射線源は特定のサイズのコリメータと位置合わせされる。この工程は、しばしばコリメータインデックシングと呼ばれる(図5a−5c参照)。コリメータインデックシング中、所望するコリメータサイズになるように、線源は他のコリメータホールを通過する。標的の外部に放射線が処置されないように、線源バイアルは最小なものから最大のものへと順にコリメータと位置合わせされ、さらにコリメータホルダの遮蔽部である中実な部分と位置合わせされる。治療の終了時には、この逆の順番で位置合わせされ、線源はコリメータホルダの遮蔽位置に位置合わせされる。このようにして機器が使用される場合、放射線のリークレベルは米国放射線保護測定審議会(NCRPM)ガイドラインによって推奨されるレベルより低くなる(NCRPM報告、No.49(1976)およびNo.51(1977)参照)。
【0027】
線源ホルダ内にある線源バイアルが所望のコリメータのホールと位置合わせされると、線源ホルダおよびコリメータホルダはともに、電磁コイルにより動く先の細くなったロック用ピンなどのロック用手段によってロックする。線源ホルダおよびコリメータホルダがともにロックされると、線源ホルダおよびコリメータホルダは中心軸のまわりを一緒に回転する。線源バイアルからの照射ビームは、アイソセンタすなわち全ての照射ビームが集中する点を通る円弧状のビームを形成する。こうした円弧状ビームは、乳房の皮膚に照射される照射線量よりも百倍以上高い線量を照射する。
【0028】
当業者は、線源ホルダおよびコリメータホルダの構造を変えることが可能であると認識するだろう。この点に関しては、例えば約100個以上の多数の放射線源を用いてもよく、この場合、乳房癌部が置かれたアイソセンタと乳房の他の部位との用量比が所望の比になるように、線源ホルダおよびコリメータホルダを別々に相対的に回転しなくてもよい。また、線源ホルダおよびコリメータホルダはボール状の形状でなくともよい。また、各チャンネルは緯度および経度に特有の組み合わせを有し、全ての放射線源から照射されるビームは常時一点に集中してアイソセンタを通る。
【0029】
線源の下には、ベ−スハウジングが置かれている(図1参照)。このベースハウジングは、線源ホルダおよびコリメータホルダを支持し、線源バイアルからのいかなる放射線漏れも低減させ、線源ホルダおよびコリメータホルダを別々に相対回転させるモーターを格納し、ロック時には線源ホルダおよびコリメータホルダを一緒に回転させる別のモーターを有する。このもう一つのモーターは、コリメータ表面がなす平面が患者の胸壁の輪郭に合うように、ベースを含む照射部全体を照射アイソセンタの斜め方向に動かすことができる。ベースハウジングは、線源バイアル設置時にどの方向でも照射部から1m離れた地点で照射漏れを約2.0mR/hr以下に低減することが好ましい。このためには、遮蔽部の厚みを十分の一価層(TVL)の5倍に厚くする必要がある。ベースハウジングの遮蔽部は、鉛または鉛合金からなる。例えば、厚みが18cmの鉛層は、60Co線源バイアルを遮蔽するのに十分であると考えられている。ベースハウジングは、好ましくは、以下に述べるように患者を治療する寝台のx、y、およびz方向に加えて横方向面で照射ボールが傾斜する(例えば+/−30°の角度で)ように、回転軸がアイソセンタを通るような軌跡を描く曲面形状のベースサポートの上に搭載される(図3参照)。ベースサポートの曲面部の中心は、照射ビームが集中する点と同じである。これによって、乳房の外四分円にある癌部をアイソセンタに位置合わせすることができる。
【0030】
寝台は(図2参照)、連通孔または左右開口部を有し、患者が寝台にうつ伏せになって治療されるために、右または左の乳房をそれぞれ連通孔または左右開口部に置く。寝台の長さは、女性がうつ伏せになれるように、短くて約147cm(4フィート10インチ)、長くて約198cm(6フィート6インチ)である。寝台の幅は、寝台の長さによって変わる。寝台の表面は、プラスチックや炭素繊維などの素材とステンレススチールとの2層で挟まれた鉛層などの放射線遮蔽部からなる。さらに所望により、治療の間に患者が安定になるように、寝台の表面が患者にぴったり合うように自己成形型媒体でできた最表層を有してよい。例えば、寝台は発泡スチロールビーズが充填された真空バッグで覆われていてもよい。バッグの中を真空にする前、患者は快適な位置で真空バックの上にうつ伏せになり、次に、中を真空にして患者の体の輪郭がビーズによって保たれるようにする。
【0031】
片方の乳房が治療されるとき、もう一方の乳房は照射線から遮蔽される。従って、もし寝台が中を通して乳房を置くための連通孔開口部を有する場合、さらに寝台は、寝台に脱着可能な、または寝台の連通孔にスライドできるように搭載可能な一または二つの乳房遮蔽部を有する。または、別々の乳房遮蔽部が、それぞれの乳房カップに脱着可能で取り付けられていてもよい。乳房遮蔽部が患者の治療用寝台に取り付けられている場合、さらに寝台は、乳房遮蔽部の上にある取り付け手段と対をなすロック用ホールなどの取り付け手段を有する。一または二つの乳房遮蔽部が寝台の連通孔にスライドできるように搭載される場合、さらに寝台は、遮蔽部が、ある位置から別の位置にスライドできるように遮蔽部の端を引っ張る手段を有する。立体位置放射線外科用機器が作動していないときに、寝台の連通孔または二つの開口部を乳房遮蔽部によって塞ぐか、または照射からさらに遮蔽するために寝台の剛体部分を動かしてコリメータホルダや線源ホルダのボール部分を覆う。
【0032】
寝台は、3軸方向の移動が可能なようにアナログまたはデジタルモーターなどの3つのモーターによって駆動される。位置の正確さを期するために余分の位置センサーが用いられる。寝台は背側の緊張を減らせるような構造が好ましい。例えば、背側下部の緊張を減らすように、下半身を支えている寝台の一部を下げてもよい。また、乳房の外四分円の放射線への暴露が最大となり、かつ、腕が放射線に被爆しないように腕を頭の側面に置けるような肘掛をもった構造を、寝台がもつことが好ましい。また、反対側の乳房にかかる圧力を減らして患者の快適性を増すように、反対側にある脚を曲げられるような構造を、寝台の下部が有してもよい。
【0033】
上記の観点から、本発明は患者の乳房にある癌部を治療する機器の作動方法を提供する。先に述べたように、全乳房は撮像および放射線手術を行う間、同一または同等な3次元座標系の中に置かれなければならない。さらに、3次元座標系の中に置かれた乳房の形状および位置は、撮像および放射線手術を行う間、同一または同等でなければならない。
【0034】
先ず、乳房が固定されるのが好ましいが、どのような好適な固定方法を用いてもよい。好適な方法としては、加熱時に柔らかく伸長可能であり、室温に冷却した時に硬化するような熱可塑性物質の使用があげられる。熱可塑性物質で成型され、サイズと厚みを変えた乳房カップが用いられる。患者に成型された乳房カップを用いる前に、患者は連通孔または開口部に乳房を入れて寝台の上でうつ伏せになる。次に、加熱した熱可塑性物質を患者の乳房にぴったり合うように成型する。乳房カップが室温にまで冷却して硬化した後、平らなゴム製の枠のような皮膚に快適な枠に乳房カップは固定される。胸壁皮膚に効果的に固定されるように、EKGプローブに用いられる接着剤と同様、ワックステープ保護リング接着剤などの接着手段により乳房カップに取り付けられる。さらに乳房カップを、患者の胸周りで帯やストラップによって固定してもよい。縁部の外側には乳房カップを寝台に取り付ける取り付け手段がある。例えば、縁部の外側にロック用ピンを取り付けて、寝台のロック用ホールに取り付けることができる。また、患者の皮膚と乳房カップとが接着して固定されるように、乳房カップの内面を粘着剤の薄層などの粘着性の接着剤層で塗っておくことが好ましい。乳房カップの縁部は患者の胸壁の皮膚にただ置かれるだけなので、皮膚や胸の胸郭の僅かな動きによって乳房カップの内側にある組織の位置に微妙なずれが生じることがある。このようなずれが生じるのを防ぐために、胸郭に対して乳房カップの位置を固定しなければならない。寝台表面のスタイロフォーム(登録商標)ビーズが入った真空バッグは、真空に引かれると、撮像処理および放射線処理中に患者が動かないように安定に固定する。真空バッグおよび寝台の表面は、撮像処理および放射線処理中同様にして、真空バッグが寝台の表面にぴったり合うように固定される。もし乳房が固定されない場合には、マーカーが埋め込まれて撮像され、乳房表面が3次元で画像化されるが、形の崩れた画像が記録されてしまう。
【0035】
乳房を3次元座標系の中に撮像するために、立体位置特定フレームは寝台の下に置き、乳房を入れるための連通孔または開口部周りの寝台底部に固定するか、乳房カップまたは乳房カップの一部に取り付ける。立体位置特定フレームは、円筒形または三角形などどのような好適な形状でもよく、MRI造影液を満たしたチュ−ブがつけられた物差し棒が水平および斜めに取り付けられる。MRI造影液は明るい線としてMRI画像に表示される。ある好適な実施形態としては、乳房カップのベース部にチューブを配置し、このベース部チューブに斜めに別のチューブを配置する。立体位置特定フレームの位置は、寝台の連通孔または開口部および乳房(乳房カップ)に対し固定される。画像が得られた後、各々の画像切片には、乳房カップのベース部に位置する物差し棒およびそれと斜めに位置する物差し棒の位置を示す、少なくとも3つの輝点が映し出される。このようにして、立体位置特定フレームによって定められた座標系において、画像が正確に表示される。一方、乳房を囲むような螺旋状で、螺旋の直径が開口部直径または連通孔の幅より広いスパイラルワイヤを、寝台または乳房カップの下側に配置してもよい。この中空のスパイラルワイヤの内部にMRI造影液を密封する。このスパイラルワイヤの幾何学的形状が分かっているので、MRI画像の各断面画像に示されるデータにより、立体座標系中に臓器の断面の位置が一義的に決まる。
【0036】
乳房の断面画像に輝点として表される、立体位置フレームの物差し棒の断面画像の位置特定に誤差が生じると、それは治療の位置的誤差となって現れてくる。このような位置的誤差を最小にするために、立体位置フレームの画像とその実際の位置とが最もよく一致するように、治療計画コンピュータは最小二乗法を用いる。この方法により、個々の点に関する誤差、または一つの画像切片に関する誤差は全体の精度に影響を与えない。
【0037】
撮像に用いる寝台は、照射に用いる寝台と表面形状、位置、乳房を入れる連通孔または開口部の形状については同じであるが、異なる材質で形成され支持される方法も異なる。撮像用寝台は、専用の乳房撮像用寝台の一部または寝台の上部ユニットであってよく、乳房コイルにぴったりと合う殻状のものでよい。撮像用寝台は、様々なベンダーのMRIに適合する必要がある。画像特定フレームにより決定される座標は、患者を治療するための寝台に転換可能である。所望により、このMRI画像は、治療が施される全癌部の容量またはその一部の容量を決定するために用いることができる。
【0038】
照射部および寝台の操作はコンピュータ制御システムによって制御される。コンピュータ制御システムは、治療計画システムから治療パラメータを入手し、治療計画に従って寝台および照射部の動きを制御し、全ユニットの安全性および操作を監視し、必要なときに安全インターロックおよび動作制限を行う。
【0039】
MRI画像から乳房の輪郭が決定されると、寝台の3軸方向の移動範囲が、乳房カップとコリメータホルダの内面とがぶつからないように動作の包絡線が自動的に計算される。寝台が移動するときの座標の起点には、照射ビームのアイソセンタを用いる。乳房カップに入れられた乳房などの乳房が固定されると、乳房は座標系のなか正確に置かれる。次に、アイソセンタの位置に、照射される患者の乳房癌部が合わされる。線源ホルダに対してコリメータホルダを回転させ、放射線源を有する線源ホルダの全てのチャンネルに対し正しいサイズのコリメータホールが位置合わせされ、正しいサイズのコリメータが選択される。所望の位置合わせができると、次にコリメータホルダと線源ホルダは互いにロックされる。特定の治療時間の後、コリメータホルダと線源ホルダはロック解除され、コリメータホルダと線源ホルダは線源バイアルが遮蔽されるところまでお互いに回転する。
【0040】
上記のように、3−D MRI画像に基づいて焦点サイズや焦点位置を決める専用の治療計画システムが必要である。特に、γ−照射法をデザインするシステムは、コンピュータ、サポート用電子回路、これに限定されるものではないがDICOMインポート画像などのソフトウエアモジュールを有する。さらに、前記システムは、立体位置特定フレームの物差しの位置決めで生じる誤差を最小化するために最小二乗法の使用に関わる立体位置特定部、放射線ショットおよび照射線量−容量分析を最適化するために大きい腫瘍及び/または目的とする治療容量の輪郭を示してくれる輪郭表示ツールの使用に関わる標的表示部、癌部の形状に最も合ったショットの位置、サイズおよび重み付けを決めるためのショット配置部、MRI画像上に表示させるためのリアルタイムでの照射線量計算部、Gy単位の最終照射線量の照射線量表示部、および2次元および3次元の照射線量表示と計画サマリーを印刷する印刷部から構成される。治療計画システムは、放射線治療分野で一般に認められる容量ヒストグラムや準拠指針などのメトリックスを用いて治療計画を解析することができる。照射線量表示は治療計画サマリーとともに印刷され、例えば、各焦点での治療時間、各焦点用の寝台座標、および照射部の傾斜角などが印刷される。
【0041】
本願において参照された特許文献や非特許文献を含む全ての参照文献は、各参照文献が個別に具体的に示した内容と同じ内容においてここに参照して全文を開示に含むものとする。
【0042】
本願で述べられた方法は、他に表示がない限りまたはその内容に明確に矛盾しない限り、適当な任意の順番で行うことが可能である。また、任意および全てといった用語の使用は、本発をより詳しく説明するために単に用いただけであり、他に記載がない限り本発明の範囲を限定するものではない。
【0043】
以上、本発明を実施するために最適な形態を含む好ましい実施形態を示しながら本発明を説明してきたが、これらの実施例は本発明を例証する目的のためだけに記載されるものであり、いかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではないことを、当業者には理解することができよう。
なお、本発明は、国立衛星研究所、SBIR承認番号CA132254に基づき米国政府の支援のもとに行われた。米国政府は本発明に関する権利を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の乳房中の癌部を治療する方法であって、
(ステップ1)3次元座標系に前記乳房を撮像し、
(ステップ2)前記乳房にある前記癌部の位置を立体的な位置として決定し、
(ステップ3)治療を行う全癌部またはその一部の容量を任意に決定し、
(ステップ4)前記ステップ1において用いられる3次元座標系に同一または同等な3次元座標系中に前記乳房を保持する間に、前記患者の前記乳房中の前記癌部を癌治療に有効な照射線量の放射線に非侵襲的に暴露させるというステップからなり、
前記患者の前記乳房にある前記癌部を治療することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記ステップ1が、核磁気共鳴画像法(MRI)に適合した立体位置特定フレームに前記乳房を固定し、MRIを用いて前記乳房を撮像するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記ステップ1が、前記乳房を前記MRIに適合した立体位置特定フレームの内側にある乳房カップに固定するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、前記癌治療に有効な照射線量の放射線が一回の治療において照射されるか、または多数の反復治療において照射されることを特徴とする方法。
【請求項5】
患者の乳房にある癌部を治療する方法であって、前記乳房を撮像して前記乳房にある前記癌部の位置を立体位置として決定するのに用いる3次元座標系中に前記乳房を保持し、前記乳房にある前記癌部を癌治療に有効な照射線量の放射線に非侵襲的に暴露させるステップからなる、前記患者の前記乳房にある前記癌部を治療することを特徴とする方法。
【請求項6】
画像誘導型立体位置放射線手術を乳房中の癌部に行うための機器であって、前記機器は
(1)前記癌部をもつ前記乳房を固定する固定化手段を有し、
(2)連通孔または左右開口部を有する寝台を有し、自己成形型媒体の最表層を任意に有する前記寝台に患者がうつ伏せになって治療を受けるために、患者の左または右の乳房が、それぞれ前記連通孔または前記左または右開口部のなかに置かれ、
(3)前記寝台の下には、前記乳房を座標系の中に置くための立体位置特定フレームを有し、
(4)前記寝台に脱着可能で前記連通孔にスライドできるように搭載でき、または、前記乳房の固定化手段に脱着可能な一または二つの乳房遮蔽部を有し、
(5)照射部を有し、前記照射部は(1’)内側表面、外側表面、および内側表面と連通し、外表面とは連通しても連通していなくてもよく各々が放射線源を有するチャンネルをもつ壁からなる線源ホルダ、(2’)前記線源ホルダの内側表面に隣接するコリメータホルダを有し、前記コリメータホルダは前記線源ホルダと前記コリメータホルダが相対回転することにより異なるサイズの放射線ビームが選択できるように前記線源ホルダの中にある前記チャンネルと同じに位置合わせされた異なるサイズのコリメータを有し、および(3’)前記線源ホルダの外表面の下にあり前記線源ホルダおよび前記コリメータホルダを支持し、前記線源ホルダおよび前記コリメータホルダを互いにそれぞれ回転させるモータ、およびロック時において前記線源ホルダおよび前記コリメータホルダを一緒に回転させるもう一つのモータを格納する、ベースハウジングを有し、
(6)曲面形状のベースサポートを有し、
(7)前記寝台に操作可能なように接続され各々が前記寝台を異なる軸方向に移動させる3つのモータを有し、および
(8)前記寝台および前記照射部を制御するコンピュータ制御システムを有することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項7】
請求項6に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、各々のチャンネルが特有の緯度に形成され、前記線源ホルダが回転するとき、設置した全ての前記放射線源からのビームが同一平面上になく、常に一点に集中してアイソセンタを通ることを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項8】
請求項6に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記線源ホルダは100個以上のチャンネルをもち、各々の前記チャンネルは、放射線源を有するとともに特有の緯度および経度の位置にあり、全ての前記放射線源からのビームが常に一点に集中してアイソセンタを通ることを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項9】
請求項6に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記コリメータホルダは、前記機器が使用されていないとき前記チャンネルから放射線漏れを遮蔽するように前記チャンネルと位置合わせされた中実の遮蔽ブロックをさらに有することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項10】
請求項6に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、(2)に記載の前記寝台は撮像に用いられる寝台と同じであることを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項11】
請求項6に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、さらに治療計画システムを有することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項12】
請求項11に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記立体位置特定フレームの画像と前記立体位置特定フレームの実際の位置とが最も一致するように最小二乗法を用いることを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項13】
請求項11に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記治療計画システムは、前記座標系中に前記乳房の画像を配置し、前記乳房にある前記癌部の位置を特定することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項14】
請求項11に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記コンピュータは、前記乳房にある前記癌部のなかの最適な位置に適当なサイズと強度を有する放射線ショットを自動的に照射することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項15】
請求項11に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記機器のオペレーターは、前記乳房にある前記癌部のなかの最適な位置に適当なサイズと強度を有する放射線ショットを自動的に照射することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項16】
請求項11に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記治療計画システムは、MRI画像上に照射線量を表示して前記治療計画を解析することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。
【請求項17】
請求項16に記載の画像誘導型立体位置放射線手術用機器であって、前記機器は、前記照射線量表示および治療計画サマリーを印刷することを特徴とする画像誘導型立体位置放射線手術用機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−519965(P2010−519965A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551807(P2009−551807)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/055043
【国際公開番号】WO2008/106468
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(502399237)ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア (5)
【出願人】(509243160)エクシジョン メディカル システムズ、エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】