説明

界面前進凍結濃縮装置

【課題】より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる界面前進凍結濃縮装置を提供すること。
【解決手段】凍結濃縮装置100は、所定方向に移動する被処理液を、冷ブラインによって冷却される凍結板16に接触させることで冷却し被処理液中の水分を凍結させて当該被処理液を濃縮する凍結タンク10と、凍結タンク10内の被処理液を一定方向に移動させる移動手段である撹拌機13と、撹拌機13による被処理液の移動方向を変更する変更手段である制御部20と、を備える。凍結タンク10内を移動する被処理液の移動方向を制御部20に従い撹拌機13によって変更することにより、被処理液中に含まれる溶質の移動方向が変更され、この結果、デンドライト氷同士の間の溶質の滞留を減少させることができ、氷結晶中への溶質の取り込みを減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面前進凍結濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液中の水と溶質との凝固点の差を利用して、氷結晶を析出させて分離することにより水溶液の濃度を高める凍結濃縮法は、飲料・液状食品に含まれる成分の濃縮や、排水処理における汚濁物質の処理等に幅広く用いられている。その中でも、懸濁結晶法と比較して被処理液と氷結晶との固液分離が極めて容易であり、システムが単純化される凍結濃縮方法として、被処理液を凍結器の被処理液流路において一定方向に循環させつつ当該流路の壁面を冷ブラインにより冷却することで被処理液流路の壁面に氷結晶を順次形成し成長させて被処理液を凍結濃縮する界面前進凍結濃縮方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような界面前進凍結濃縮方法において、被処理液を効率的に濃縮するためには、溶質の取り込みが少ない良質の氷結晶を形成することが必要であり、凍結速度を遅くして凍結界面が滑らかな氷結晶を形成することが望まれている。しかしながら、産業上の利用を考慮して凍結速度を一定以上とした場合、氷結晶と被処理液との間の凍結界面には、被処理液の流れに対して垂直方向に伸びる主幹と流れに沿って伸びる横枝とを有する樹枝状のデンドライト氷が形成され、凍結時に氷から排除された溶質がデンドライト氷の主幹と横枝とに囲まれた部分に滞留するという問題がある。特に、隣接するデンドライト氷同士の間は、被処理液の流れによる影響を受けずに溶質が多く滞留し、溶質の取り込みが増加した氷結晶が形成されるという問題がある。
【0004】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる界面前進凍結濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る界面前進凍結濃縮装置は、所定方向に移動する被処理液を、冷却し被処理液中の水分を凍結させて当該被処理液を濃縮する界面前進凍結濃縮装置において、被処理液を一定方向に移動させる移動手段と、移動手段による被処理液の移動方向を変更する変更手段と、を備えることを特徴とする。
【0006】
上記の凍結濃縮装置及び凍結濃縮方法によれば、被処理液の移動方向を変更することにより、被処理液中に含まれる溶質の移動方向が変更される。この結果、隣接するデンドライト氷同士の間の溶質の滞留を減少させることができ、氷結晶中への溶質の取り込みを減少させることができる。
【0007】
ここで、上記作用を効果的に奏する構成として、具体的には、移動手段は撹拌機を備え、変更手段は、前記撹拌機を制御して、当該撹拌機の回転羽根を回転させることにより被処理液を移動させ、撹拌機の回転羽根を逆方向に回転させることにより、被処理液の移動方向を逆方向とすることが挙げられる。この場合、変更手段により撹拌機の回転羽根の回転方向を切り替えることによって、被処理液の移動方向を容易に変更することができるため、新たな装備を設けることなく氷結晶中への溶質の取り込みを減少させることができる。
【0008】
また、上記作用を効果的に奏する他の構成として、具体的には、移動手段は、上下方向に延びる二つの領域に区画され、当該二つの領域の下部にそれぞれに配置された散気管を有し、変更手段は、散気管のいずれか一方から空気を供給すると共に他方からの空気の供給を停止するように制御することにより、被処理液を二つの領域間で循環させる一方で、一方の散気管からの空気の供給を停止し他方から空気を供給するように制御することにより、被処理液の二つの領域間での移動方向を逆方向とすることが挙げられる。上記の構成を持つ界面前進凍結装置においても、空気を供給する散気管を変更手段によって切り替えることにより、二つの領域間での被処理液の移動方向を容易に変更することができ、氷結晶中への溶質の取り込みを減少させることができる。
【0009】
ここで、二つの領域は、仕切部により区画される態様とすることで、上記作用を効果的に奏することができる。仕切部により二つの領域に区画することで、散気管からの空気の供給の切り替えによる被処理液の移動方向の変更がより確実に行われ、氷結晶中への溶質の取り込みを減少させることができる。
【0010】
また、被処理液中の水分を凍結させて当該被処理液を濃縮する凍結器を備え、移動手段は、凍結器に対して被処理液を送液する送液ポンプと、送液ポンプにより送液された被処理液を凍結器の入口と出口のいずれか一方に流入させ、凍結器の入口と出口の他方から排出された被処理液を送液ポンプへ送液する流路と、流路に設けられた複数の開閉弁と、を備え、変更手段は、開閉弁を制御することにより凍結器内の被処理液の移動方向を変更する態様としても上記作用を効果的に奏することができる。この場合も、送液ポンプを一定に駆動させたまま、変更手段により開閉弁を制御することで凍結器内の被処理液の移動方向を変更することができ、氷結晶中への溶質の取り込みを容易に減少させることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より溶質の取り込みが少ない氷結晶を形成することができる界面前進凍結濃縮装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1は、本発明の第一実施形態に係る凍結濃縮装置100を示す概略構成図である。
【0014】
この凍結濃縮装置100は界面前進凍結濃縮装置であり、図1に示すように、被処理液を収容する凍結器としての凍結タンク10と、被処理液の循環流路を構成するためのバッフル板11と、被処理液を循環させる移動手段としての撹拌機13と、被処理液に接触する表面に氷結晶を形成させる凍結管15と、撹拌機13を制御することで撹拌機13による被処理液の移動方向を変更する制御部(変更手段)20と、を備えている。
【0015】
この凍結濃縮装置100を構成する凍結タンク10内は、上下方向に延びるバッフル板11によって内側領域と外側領域とに区画され、凍結タンク10の略中央底部には撹拌機13が設置されると共にその回転羽根13aが内側領域の下部に進入するように配設されている。そして、この撹拌機13に対して制御部20が接続されている。
【0016】
凍結タンク10のバッフル板11の内側領域には、複数の凍結管15が上下方向に延びるように配置されている。これらの凍結管15には、各々が上下方向に延びるように裏面側を対向して設けられて被処理液がその表面に接触する一対の凍結板16,16が設けられ、凍結板16,16の内側に供給される冷ブラインにより、凍結板16の裏面側が冷却される。
【0017】
このような構成を有する凍結濃縮装置100の作用について説明する。
【0018】
制御部20によって撹拌機13の回転羽根13aを一の方向(例えば時計回り)へ回転させるように制御すると、撹拌機13のその回転羽根13aが内側領域の下部で回転することにより、バッフル板11の内側領域の被処理液が上向しバッフル板11の上部から外側領域に溢流して外側領域を下向する第一の循環流が凍結タンク10内に形成される。このとき、撹拌機13の駆動により凍結タンク10内を循環する被処理液は、内側領域を上向する際に、凍結板16により冷却されることにより凍結板16の表面に氷結晶が形成され積層されていき、これにより、被処理液が凍結濃縮される。
【0019】
次に、一定時間経過した後に、制御部20により、回転羽根13aが一の方向の反対方向である逆方向(他の方向)へ回転するように制御すると、回転羽根13aが第一の方向とは逆方向へ回転し、バッフル板11の外側領域の被処理液が上向しバッフル板11の上部から内側領域に溢流して内側領域を下向する第一の循環流とは逆方向の第二の循環流が形成される。この場合にも、撹拌機13の駆動により凍結タンク10内を循環する被処理液は、内側領域を下向する際に凍結板16により冷却されることにより、凍結板16の表面に氷結晶が形成され積層されていき、これにより、被処理液が凍結濃縮される。
【0020】
上記の構成を有する凍結濃縮装置100によって被処理液の凍結濃縮を行った場合の作用・効果について図2〜図5を用いて説明する。
【0021】
図2は、凍結板16の表面に形成される氷結晶(デンドライト氷)の概略説明図であり、図2(A)はその平面図、図2(B)は側面図、図3は、被処理液の流れに対するデンドライト氷の説明図であり、図3(A)は被処理液の流れがない場合のデンドライト氷の形状の概略説明図、図3(B)は被処理液の流れがある場合の溶質の動きの概略説明図、図3(C)は被処理液の流れがある場合のデンドライト氷の形状の概略説明図、図4(A)〜(C)は、被処理液の流れが一定の場合のデンドライト氷の成長過程と溶質の流れの説明図、図5(A)〜(C)は、被処理液の流れを変更した場合のデンドライト氷の成長過程と溶質の流れの説明図である。
【0022】
本実施形態に係る凍結濃縮装置100において凍結速度を一定以上として被処理液の濃縮を行う場合、図2に示すように、樹枝状の枝部を有するデンドライト氷である氷結晶Sが形成される。氷結晶Sは被処理液中の溶質を排除しながら凍結するため、被処理液と氷結晶Sとの凍結界面には溶質が滞留しやすくなり、氷結晶Sの枝部の間には、図2(A)に示すように、被処理液の溶質Cが滞留して被処理液の濃度が高い状態が作られる。
【0023】
このように凍結板16の表面で形成されるデンドライト氷である氷結晶Sの枝部は、図3(A)に示すように、主幹S1とこの主幹S1の両側から突出する横枝S2とから構成され、氷結晶Sの周囲の被処理液が流れていない場合には、主幹S1に対して横枝S2が対称に成長するという特徴を有している。
【0024】
ここで、一定方向に流れる被処理液に接触する凍結板16の表面で氷結晶が形成される場合、図3(B)に示すように、氷結晶Sの隙間に滞留する溶質Cのうち、主幹S1より流れの上流側に滞留する溶質Cは被処理液の流れによって流されていき被処理液全体の濃度と同じ濃度となるまで希釈されるため、氷点降下が起きず、さらに凍結時の発熱も被処理液の流れに沿って放散されやすいため、氷結晶Sの横枝S2の成長が促進される。一方、主幹S1より下流側に滞留する溶質Cは被処理液の流れによる希釈効果が低く、溶質Cが下流側に滞留し、被処理液の濃度の高い状態が保持される。この場合、下流側の溶質Cが滞留している部分では、被処理液の高濃度による氷点降下が発生し、被処理液の凍結速度が溶質の滞留していない部分よりも遅くなり、氷結晶Sの成長が抑制される。この結果、図3(C)に示すように、被処理液の流れ(本流)に対して上流側の横枝S2が本流に向かう方向に大きく伸び、この横枝S2に向かって流れる被処理液は、氷結晶Sの先端側の本流に合流するように流れていき、被処理液の流れの下流側の横枝S2の成長は遅くなる。
【0025】
したがって、図4(A)〜(C)に示すように、従来と同様に被処理液の流れを一定方向(F1)として氷結晶Sを形成させて凍結濃縮を行うと、隣接するデンドライト氷の氷結晶Sの間に溶質Cが大量に滞留しながら氷結晶の形成が進行するため、氷結晶Sには大量の溶質が取り込まれる。
【0026】
ここで、本実施形態に係る凍結濃縮装置100のように、被処理液の流れを反転した場合、図5(A)に示すように最初の被処理液の流れF1の場合には氷結晶の主幹S1の下流側に溶質Cが滞留しながら氷結晶Sが成長するが、被処理液の流れを反転すると図5(B)に示すように流れF1に対して下流側に滞留していた溶質Cが反転後の被処理液の流れF2によって流され、主幹S1の下流側の被処理液の濃度が希釈される。一方、今度は流れF1とは逆方向の流れF2に対する主幹S1の下流側に溶質Cが滞留するが、図5(C)に示すように被処理液の流れを反転させることにより、流れF2に対して主幹S1の下流側に滞留していた溶質Cが被処理液の流れF1により流されるため、主幹S1の下流側の被処理液の濃度が希釈される。このように、被処理液の流れを反転させることにより、被処理液の流れに対して下流側に滞留する溶質を被処理液の本流に流して、被処理液の濃度を被処理液全体の濃度と均一になるように希釈しながら氷結晶Sを成長させることができるため、被処理液の流れを一定方向にした場合と比較して溶質Cの取り込みが少ない氷結晶Sを形成することができる。また、この被処理液の移動方向の変更を一定時間毎に行うことで、隣接するデンドライト氷の氷結晶Sの間の溶質Cが滞留しやすい部分の被処理液の濃度を一定時間毎に希釈することができる。
【0027】
したがって、本実施形態に係る凍結濃縮装置100では、凍結タンク10内を移動する被処理液の移動方向を変更することにより、被処理液中に含まれる溶質の移動方向を変更できる。この結果、隣接するデンドライト氷同士の間の溶質の滞留を減少させることができ、氷結晶中への溶質の取り込みを容易に減少させることができる。
【0028】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。図6は、本発明の第二実施形態に係る凍結濃縮装置200を示す概略構成図である。
【0029】
この凍結濃縮装置200が凍結濃縮装置100と異なる点は、被処理液を移動させる移動手段として、撹拌機13に代えて散気管21及び散気管22を備える点である。具体的には、凍結タンク10内は、上下方向に延びるバッフル板(仕切部)23によって二つの領域に区画され、二つの領域の下部にそれぞれに散気管21,22を備える。散気管21及び散気管22には、例えばブロア等の駆動により外部から空気等のガスを供給する構造とし、各々に接続された開閉弁V1及び開閉弁V2により、ガスの供給を切り替える構造としている。この開閉弁V1及び開閉弁V2の制御は、開閉弁V1及び開閉弁V2に接続された制御部(変更手段)30によって行われる。
【0030】
上記の構成を有する凍結濃縮装置200では、まず、制御部30により、散気管21の開閉弁V1を開とすると共に、散気管22の開閉弁V2を閉とすることにより、凍結タンク10内の被処理液は、散気管21から供給されるガスのエアーリフト効果によって散気管21の設けられた領域を上向して、バッフル板23の上部から散気管22の設けられた領域に溢流して当該領域を下向する第一の循環流が凍結タンク10内に形成される。次に、一定時間経過した後に、制御部30により、散気管21の開閉弁V1を閉とすると共に、散気管22の開閉弁V2を開とすることにより、散気管22から供給されるガスのエアーリフト効果により、散気管22の設けられた領域を上向して、バッフル板23の上部から散気管21の設けられた領域に溢流して当該領域を下向する第一の循環流と反対方向に流れる第二の循環流が形成され、これが繰り返される。
【0031】
このように、凍結濃縮装置200でも制御部30により開閉弁V1,V2の開閉を制御して被処理液の移動方向を反転させながら、被処理液の凍結濃縮を行うため、第一実施形態と同様に、溶質の取り込みの少ない氷結晶を容易に形成することができる。
【0032】
次に、本発明の第三実施形態について説明する。図7は、本発明の第三実施形態に係る凍結濃縮装置300を示す概略構成図である。
【0033】
図7に示すように、凍結濃縮装置300は、被処理液が流れる凍結管31と、凍結管31に沿って設けられ、被処理液にその表面が接触すると共に背面側が冷ブラインによって冷却される凍結板32と、凍結板32を冷却するための冷ブラインの流れる冷ブライン管33とを備える。冷ブラインは、冷ブライン送液ラインL1〜L3により冷ブライン管33内を流れる構成とされている。
【0034】
ここで、被処理液タンク35内に収容された被処理液Lは、送液ラインL11を通して送液ポンプ36により凍結管31へ送液される。送液ポンプ36と凍結管31の入口とは開閉弁V1を介して送液ラインL12で接続され、送液ポンプ36と凍結管31の出口とは開閉弁V4を介して送液ラインL15で接続される。また、被処理液タンク35には送液ラインL16が接続され、凍結管31の入口と送液ラインL16とは開閉弁V2を介して送液ラインL13で接続され、凍結管31の出口と送液ラインL16とは開閉弁V3を介して送液ラインL14で接続される。これにより被処理液を移動させる移動手段が構成される。開閉弁V1〜V4の開閉は、開閉弁V1〜V4に各々接続される制御部(変更手段)40により行われる。
【0035】
上記の構成を有する凍結濃縮装置300では、まず、制御部40により、開閉弁V1及びV3を開とすると共に、開閉弁V2及びV4を閉とすることにより、被処理液タンク35内の被処理液Lは、送液ラインL11を経て送液ポンプ36により送液され、送液ライン12を経て凍結管31の入口に送液された後、この凍結管31内を一の方向に流れ、凍結管31の出口から排出された被処理液は、送液ラインL14及び送液ラインL16を経て被処理液タンク35に戻る第一の循環流が形成される。このとき、凍結管31内を移動する被処理液は、凍結管31を移動しながら凍結板32により冷却され、凍結板32の表面に氷結晶が形成され積層されていくことによって凍結濃縮される。
【0036】
次に、一定時間経過した後に、開閉弁V2及びV4を開とすると共に、開閉弁V1及びV3を閉とすることにより、被処理液タンク35内の被処理液は、送液ラインL11を経て送液ポンプ36により送液され、送液ラインL15を経て凍結管31の出口に送液された後、この凍結管31内を一の方向とは反対の逆方向に流れ、凍結管31の入口から排出された被処理液は、送液ラインL13及び送液ラインL16を経て被処理液タンク35に戻る第二の循環流が形成され、これが繰り返される。この場合にも、凍結管31内を移動する被処理液は、凍結管31を移動しながら凍結板32により冷却され、凍結板32の表面に氷結晶が形成され積層されていくことによって凍結濃縮される。
【0037】
このように、凍結濃縮装置300でも制御部40により開閉弁V1〜V4の開閉を制御することにより被処理液の流れを反転させながら、凍結板32の表面に氷結晶を形成させることにより凍結管31内の被処理液の凍結濃縮を行うため、第一実施形態と同様に溶質の取り込みが少ない氷結晶を得ることができる。また、凍結濃縮装置300では、送液ポンプ36を一定に駆動させたまま、制御部40により開閉弁V1〜V4を制御することで凍結器31内の被処理液の移動方向を変更することができるため、上記のように溶質の取り込みが少ない氷結晶の形成を容易に行うことができる。
【0038】
以上、本発明を実施形態に基づき詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、界面前進凍結濃縮装置として回転円板型凍結濃縮装置を用いた場合であっても、円板を駆動させるモータの回転方向を反転させて、装置内の被処理液の移動方向を変更することにより、溶質の取り込みが少ない氷結晶を容易に形成することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を説明する。
【0040】
(実施例1)
図8に示す凍結濃縮装置400を用いて、被処理液の凍結濃縮を行った。
【0041】
凍結濃縮装置400は、具体的には、モータ41の回転をベルトを介してボールネジ43に伝達する構成で、このボールネジ43に螺合する昇降部材に連結された把持具44により容器45が把持されており、この容器45内に被処理液が収容される。容器45は、内径55mm、内高250mmのステンレス製である。容器45の上部には撹拌機48が取り付けられており、撹拌機48の回転羽根49が容器45内で回転するようになっている。さらに容器45の下方には恒温槽52が設けられ、恒温槽52内には冷ブラインFが収容される。さらに、冷ブラインFの液面近くの容器45の周囲には、縦50mm、横150mmのシリコンラバーヒーターを巻回した加熱管51が電源50に接続されて容器45とのクリアランスが1mmとなる位置に設けられている。
【0042】
上記の構成を有する凍結濃縮装置400の容器45に3%NaCl溶液を収容し、−16℃の冷ブラインFを恒温槽52に収容して、モータ41を回転させることにより容器45を冷ブラインF中に10mm/hの速度で降下させた。撹拌機48の回転羽根49としては6枚パドル羽根、径30mmを使用し、凍結界面(冷ブラインFの液面)から20mmの高さとなる位置において回転数600RPMで回転させた。30秒毎に回転羽根49の回転方向を切り替えながら氷結晶を形成させた結果、溶質を多く含む白色部が少ない氷結晶が得られた。
【0043】
(比較例1)
撹拌機48の回転羽根49の回転方向を一定としたほかは実施例1と同様にして氷結晶を形成させた結果、実施例1の氷結晶と比較して溶質を多く含む白色部が被処理液の回転方向に沿って複数延在する氷結晶が得られた。
【0044】
実施例1と比較例1の結果より、回転方向を一定時間毎に変更することにより、溶質を多く含む白色部が減り、より良質な氷結晶が形成されることが確認できた。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様の凍結濃縮装置400の容器45に3%NaCl溶液500mlを収容し、−16℃の冷ブラインFを恒温槽52に収容して、モータ41を回転させることにより容器45を冷ブラインF中に10mm/hの速度で降下させた。1分毎に回転羽根49の回転方向を変更しながら容器45を約17時間降下させた後、容器45を取り出し、容器45の外側に水道水をかけて容器45に接している氷を溶かすことにより、容器45内から氷ブロックを取り出した。
【0046】
(比較例2)
撹拌機48の回転羽根49の回転方向を一定としたほかは実施例2と同様にして氷ブロックを取り出した。
【0047】
実施例2及び比較例2の氷ブロックを、それぞれ容器45の高さ方向に6つのブロックに切断し、容器45の底面側の氷ブロックからそれぞれブロック1〜6とした。各ブロックの氷を溶かした後、導電率計を用いて各ブロックの氷結晶に含まれる溶質の濃度を測定した。また、各ブロックの氷結晶において形成時の被処理液の濃度をそれぞれ求め、氷結晶形成時の被処理液の濃度に対する氷結晶中の溶質の濃度を分配係数として算出した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例2と比較例2の結果より、実施例2のほうが氷結晶への溶質の取り込みが少なくなり、被処理液を効率よく濃縮できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第一実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【図2】凍結板の表面に形成される氷結晶(デンドライト氷)の概略説明図である。
【図3】被処理液の流れに対するデンドライト氷の説明図である。
【図4】被処理液の流れが一定の場合のデンドライト氷の成長過程と溶質の流れの説明図である。
【図5】被処理液の流れを変更した場合のデンドライト氷の成長過程と溶質の流れの説明図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【図8】本発明の実施例に係る凍結濃縮装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0051】
10…凍結タンク、11,23…バッフル板、13…撹拌機、15,31…凍結管、16,32…凍結板、20,30,40…制御部(変更手段)、21,22…散気管、35…被処理液タンク、36…送液ポンプ、100,200,300,400…凍結濃縮装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に移動する被処理液を、冷却し被処理液中の水分を凍結させて当該被処理液を濃縮する界面前進凍結濃縮装置において、
前記被処理液を前記所定方向に移動させる移動手段と、
前記移動手段による前記被処理液の移動方向を変更する変更手段と、
を備えることを特徴とする界面前進凍結濃縮装置。
【請求項2】
前記移動手段は、撹拌機を備え、
前記変更手段は、前記撹拌機を制御して、当該撹拌機の回転羽根を回転させることにより前記被処理液を移動させ、前記撹拌機の回転羽根を逆方向に回転させることにより、前記被処理液の移動方向を逆方向とすることを特徴とする請求項1記載の界面前進凍結濃縮装置。
【請求項3】
前記移動手段は、
上下方向に延びる二つの領域に区画され、当該二つの領域の下部にそれぞれに配置された散気管を有し、
前記変更手段は、前記散気管のいずれか一方から空気を供給すると共に他方からの空気の供給を停止するように制御することにより、前記被処理液を二つの領域間で循環させる一方で、一方の散気管からの空気の供給を停止し他方から空気を供給するように制御することにより、前記被処理液の二つの領域間での移動方向を逆方向とすることを特徴とする請求項1記載の界面前進凍結濃縮装置。
【請求項4】
前記二つの領域は、仕切部により区画されることを特徴とする請求項3記載の界面前進凍結濃縮装置。
【請求項5】
前記被処理液中の水分を凍結させて当該被処理液を濃縮する凍結器を備え、
前記移動手段は、
前記凍結器に対して前記被処理液を送液する送液ポンプと、
前記送液ポンプにより送液された前記被処理液を前記凍結器の入口と出口のいずれか一方に流入させ、前記凍結器の入口と出口の他方から排出された前記被処理液を前記送液ポンプへ送液する流路と、
前記流路に設けられた複数の開閉弁と、を備え、
前記変更手段は、前記開閉弁を制御することにより前記凍結器内の前記被処理液の移動方向を変更することを特徴とする請求項1記載の界面前進凍結濃縮装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−291672(P2009−291672A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144898(P2008−144898)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】