説明

界面活性剤濃度測定方法及び界面活性剤濃度測定装置

【課題】処理液中の界面活性剤濃度を正確且つ簡便に測定することが可能な界面活性剤濃度測定方法及び界面活性剤濃度測定装置を提供する。
【解決手段】界面活性剤濃度測定装置は、金属イオンを含む電解質溶液12を収容する電解質槽11と作用電極13、参照電極14及び対極15を有する電気分解セル1と、被測定溶液を電解質溶液12に所定量添加した電気分解セル1において作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を与えた時に作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求める演算手段と、演算手段により求めた金属量を検量線と照合し、被測定溶液中の界面活性剤濃度を求める検量線照合手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体表面に付着した油分等の汚染物質を除去する処理に用いられる処理液に含まれる界面活性剤の濃度を、正確且つ簡便に測定することが可能な界面活性剤濃度測定方法と、これを実現する界面活性剤濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体表面に電解質水溶液から金属または金属塩を析出させて処理皮膜を形成し、固体表面の美観や防錆性能を向上させる手法は一般に広く利用されている。固体表面に処理皮膜を緻密且つ強固に付着させるには、処理前の固体表面から油分等の汚染物質を除去し、水との親和性を高める処理が必要である。このような処理として、従来、以下のイ〜ハのような手法が用いられている。
(イ)アルカリを利用して油分をけん化し水溶液に溶解させる手法。
(ロ)固体表面をエッチングして固体表面物質と油分を同時に除去する手法。
(ハ)界面活性剤を利用して油分を乳化除去する手法。
【0003】
上記イの手法は、主に動植物性の油分に対して有効であり、アルカリ性の薬液、具体的には族、II族元素の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等が用いられる。また、上記ロの手法は、固体表面と水との親和性を高めるには必須の処理で、除去能力としては最も高く、薬液は酸、アルカリのどちらでも利用できる。ただし、固体表面と水の親和性が高くない場合、上記イ、ハの手法も併用する。また、上記ハの手法は、鉱物油のようにけん化できない炭化水素系の油分を除去する際に有効である。
【0004】
上記イ〜ハの手法のうち、イ、ロの手法の能力は、処理液中に含まれる酸、アルカリの濃度や溶解した金属量から把握し、管理することができる。なお、酸、アルカリの濃度は中和滴定、金属濃度はEDTA滴定により測定可能である。
【0005】
また、例えば特許文献1では、めっき前処理で使用される処理液中に含まれる有機化合物の定量分析方法として、有機化合物を含んだ処理液に薬液を添加して常磁性金属イオンを沈殿させた後、得られた上澄み液の1H−NMR分析を行い、処理液中の有機化合物濃度を測定している(特許文献1における1H−NMR分析により得られた有機化合物のスペクトルを図9に示す)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−22685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ハの手法の能力は、処理液中の界面活性剤濃度に左右されるため、界面活性剤の濃度を正確且つ簡便に測定する方法が求められている。しかしながら、処理液に含まれる界面活性剤の量は微量(数10ppm程度)であったこと、界面活性剤は温度を上げて蒸発乾固しないと抽出できず、抽出したものは高温処理により有効成分が分解し、もとの物質とは異なっていること、さらに即時性が確保できないこと等から、測定が非常に困難であった。また、抽出した物質の成分を同定するためには、FTIRやNMR分析が必要であるが、それらは分析に長時間を要しコスト高であるという問題があった。
【0008】
また、特許文献1で提示された有機化合物の定量分析方法においても、分析の前に沈殿処理を行う必要があり、さらに分析の手法として1H−NMRを利用しているため、分析に長時間を要しコスト高となること、装置の維持管理が容易でないことから、処理液の界面活性剤濃度管理方法として日常的に利用することは難しい。
【0009】
また、界面活性剤濃度を間接的に測定する手法として、界面活性剤を含む処理液に空気を吹き込み、この時に発生する気泡量とこの気泡の消失時間から界面活性剤濃度を推定する手法があるが、処理液に含まれた汚染物質や老廃物(けん化による石鹸成分や浮上油)の影響を受けるため、この手法では界面活性剤の濃度を正確に測定することは難しい。
【0010】
このように、従来、処理液中の界面活性剤濃度を正確且つ簡便に測定し、濃度管理を行うことは非常に困難であったため、界面活性剤が不足しないように大過剰の界面活性剤を処理液に投入していた。その結果、過大な発泡を誘発し、これを除去するための大量の水洗水が必要となり、廃棄物処理量が増え、廃液コストが高くなるという問題があった。また、水洗不足により界面活性剤が固体表面に残留し、後続の処理皮膜形成工程において不良を生じることがあった。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、処理液中の界面活性剤濃度を正確且つ簡便に測定することが可能な界面活性剤濃度測定方法と、これを実現するための界面活性剤濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る界面活性剤濃度測定方法は、金属イオンを含む電解質溶液を収容する電解質槽と、電解質溶液に浸漬される作用電極、参照電極、及び対極を有する電気分解セルを用意する準備工程と、界面活性剤の濃度既知で且つ濃度の異なる複数の被測定溶液をそれぞれ所定量添加した複数の電解質溶液を作成し、各電解質溶液を用いた電気分解セルにおいて作用電極と対極の間に参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極で析出及び剥離した金属量を求めて、界面活性剤の濃度と金属量の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を電解質溶液に所定量添加した電気分解セルにおいて、作用電極と対極の間に参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極で析出及び剥離した金属量を求める演算工程と、演算工程で得られた金属量を検量線に照合し、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求める検量線照合工程を含むものである。
【0013】
また、本発明に係る界面活性剤濃度測定装置は、金属イオンを含む電解質溶液を収容する電解質槽と、電解質溶液に浸漬される作用電極、参照電極、及び対極を有する電気分解セルと、電気分解セルの作用電極と対極の間に参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与える電流電位制御手段と、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を電解質溶液に所定量添加した電気分解セルにおいて、電流電位制御手段により正負交互に変化する電位を与えた時に作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極で析出及び剥離した金属量を求める演算手段と、界面活性剤の濃度と金属量の関係を示す検量線を有し、演算手段により求めた金属量を検量線に照合して被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求める検量線照合手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る界面活性剤濃度測定方法によれば、界面活性剤を含む被測定溶液を、金属イオンを含む電解質溶液に所定量添加した電気分解セルにおいて、作用電極と対極の間に参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に、作用電極で析出及び剥離した金属量が界面活性剤の濃度に依存して直線的に変化することを利用し、被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求めるようにしたので、界面活性剤を被測定溶液から抽出することなく、正確且つ簡便に界面活性剤濃度を求めることが可能である。
【0015】
また、本発明に係る界面活性剤濃度測定装置によれば、金属イオンを含む電解質溶液を収容する電解質槽と作用電極、参照電極及び対極を有する電気分解セルと、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を電解質溶液に所定量添加した電気分解セルにおいて、作用電極と対極の間に参照電極を基準として正負交互に変化する電位を与えた時に作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極で析出及び剥離した金属量を求める演算手段と、界面活性剤の濃度と金属量との関係を示す検量線を有し、演算手段により求めた金属量を検量線に照合して被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求める検量線照合手段を備えることにより、界面活性剤を被測定溶液から抽出することなく、被測定溶液中の界面活性剤濃度を正確且つ簡便に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルにおけるサイクリックボルタンモグラムを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルにおいて、界面活性剤濃度を変化させた時のサイクリックボルタンモグラムの変化を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルにおいて、界面活性剤濃度を変化させた時の作用電極で析出及び剥離した金属量の変化を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルにおける界面活性剤濃度と作用電極で析出及び剥離した金属量の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る電気分解セルにおける界面活性剤濃度と作用電極で析出及び剥離した金属量を界面活性剤濃度0の時の同金属量で除した値の関係を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置とGPCによる測定結果を示す図である。
【図9】本発明の先行例において1H−NMR分析により得られた有機化合物のスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置を示している。図1に示すように、界面活性剤濃度測定装置100は、電気分解セル1と、電流電位制御手段である電流電位制御装置2と、演算手段と検量線照合手段を有する電流電位演算装置3を備えている。
【0018】
電気分解セル1は、図2に示すように、金属イオンを含む電解質溶液12を収容する電解質槽11と、電解質溶液12に浸漬される作用電極13、参照電極14及び対極15を有している。電解質槽11の材質としては、電解質溶液12によって腐食しないものが選ばれ、例えばテフロン(登録商標)、ポリプロピレン、耐熱塩化ビニル、ガラス等が用いられる。
【0019】
電解質溶液12は、電解質溶液12から作用電極13に金属が析出及び剥離する反応と同時に、水の電気分解及び電解質の分解が生じず、電気化学的反応が常に化学量論的に説明できる金属イオンを溶解した電解質溶液であることが望ましい。これらの要件を満たす電解質溶液12としては、金属イオンとして銅イオン(Cu2+)、電解質の抵抗を下げて電解質からの発熱を防止するための支持電解質として硫酸を用いることが望ましい。なお、金属イオンとしてニッケルイオン(Ni2+)を用いてもよく、この場合は支持電解質として硫酸、塩酸を加えることが一般的であり、ニッケルイオン供給塩として硫酸ニッケルや塩化ニッケルを用いることが望ましい。
【0020】
作用電極13は、金属イオンの析出及び剥離が繰り返される電極であるため、電極材料としては、電気化学的に溶解しにくく、腐食されにくい材料が用いられる。これらの要件を満たす金属として、白金を用いることが望ましい。また、参照電極14は、電解質溶液12中で基準となる電位を発生する電極であり、複数の電極が利用されているが、電位の安定度や入手の容易性等を勘案すると、銀/塩化銀電極や飽和カロメル電極を用いることが望ましい。
【0021】
また、対極15は、作用電極13との間に電位を与える電極であり、金属イオンの溶解した電解質溶液12に浸漬されるため、電解質溶液12に含まれる金属と同じ金属であるか、電解質溶液12に溶解混入しにくい物質を用いるのが望ましい。前者の場合、金属イオンとして銅イオンを用いる場合は銅電極、ニッケルイオンを用いる場合はニッケル電極が望ましい。後者の場合は、SUS316、304等や白金クラッドチタン電極、炭素棒が利用できるが、電気化学反応に伴い酸素や水素ガスが発生し、電解質水溶液12のpHが変動しやすいため、積極的に採用するものではない。
【0022】
これらの作用電極13、参照電極14及び対極15が接続された電流電位制御装置2は、作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与える(電位循環走査)。これにより、作用電極13には正負交互に逆転する電流が流れ、電解質溶液12から作用電極13の表面に金属イオンが析出したり、析出した金属が剥離したりする現象が生じる。本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置100は、この時に作用電極13で析出及び剥離する金属量が、電解質溶液12に添加した界面活性剤の濃度に依存することに着目し、前記金属量と界面活性剤の濃度の関係を数式化して界面活性剤濃度を求めるものである。
【0023】
そのための手段として、電流電位演算装置3は、電気分解セル1において電流電位制御装置2により正負交互に変化する電位を与えた時に作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量を求め、さらに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求める演算手段を備えている。
【0024】
さらに、電流電位演算装置3は、界面活性剤の濃度と金属量との関係を示す検量線を有し、演算手段により求めた金属量を検量線に照合し、被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求める検量線照合手段を備えている。なお、検量線照合手段は、必ずしも電流電位演算装置3に備えている必要はなく、別の装置に備えていてもよい。例えば、パーソナルコンピュータ等のデータ処理装置に、演算手段により求めた金属量を入力し、検量線に照合するようにしたソフトウェアを搭載したものであってもよい。
【0025】
次に、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定方法の各工程について説明する。まず、金属イオンを含む電解質溶液12を収容する電解質槽11と、電解質溶液12に浸漬される作用電極13、参照電極14及び対極15を有する電気分解セル1を用意する(準備工程)。これらの材質等については前述した通りである。
【0026】
次に、界面活性剤の濃度既知で且つ濃度の異なる複数の被測定溶液をそれぞれ所定量添加した複数の電解質溶液12を作成する。これらの電解質溶液12を用いた電気分解セル1において作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与える。この時に作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求め、界面活性剤の濃度と金属量の関係を示す検量線を作成する(検量線作成工程)。なお、具体的な検量線の作成方法については後に詳細に説明する。
【0027】
続いて、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液について、上記検量線作成工程と同様の処理を行う。界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を電解質溶液12に所定量添加した電気分解セル1において、作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与える。この時に作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求める(演算工程)。
【0028】
続いて、前記演算工程で求めた金属量を、前記検量線作成工程で作成した検量線に照合し、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液中の界面活性剤の濃度を求める(検量線照合工程)。以上の工程により、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度の測定方法は完了する。
【0029】
次に、演算工程における具体的な演算方法について、図3を用いて説明する。図3は、電気分解セル1において作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に作用電極13に流れる電流を示したグラフ、いわゆるサイクリックボルタンモグラムである。
【0030】
図3において、横軸は作用電極13の参照電極14に対する電位を示し、縦軸は作用電極13に流れた電流を示している。実線4で示すグラフはサイクリックボルタンモグラムであり、V1は参照電極14に対する作用電極13の負極側最小電位、V2は参照電極14に対する作用電極13の正極側最小電位、A1は作用電極13に金属イオンが析出する電流領域、A2は作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解する電流領域である。また、横線でハッチングした領域5は、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量を示し、実線6で示すグラフは水の電気分解による酸素発生に基づいて作用電極13に流れた電流を示している。
【0031】
界面活性剤として利用されている物質は、一般に、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性と分類されている。いずれもアルキル基を有する高分子化合物であり、金属の表面に吸着し、金属表面と水の親和性を低下させるため、電気化学反応を抑制する作用を呈する。この抑制の度合いは界面活性剤の濃度と関係しており、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量(図3中、領域5)と界面活性剤の濃度の関係は、数式に置き換えることができる。特に、金属イオンを溶解した電解質溶液12では、領域5が顕著に変化しやすいため、界面活性剤の濃度を測定するには好適である。
【0032】
これらのことから、演算工程において、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量(図3中、領域5)を求める際には、作用電極13に流れる電流を示すサイクリックボルタンモグラムを時間に対して積分して求めることができる。また、作用電極13で析出及び剥離した金属量を求める際には、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量を、当該金属のグラム当量数(1ファラデーの電気量で析出できるグラム数)で除して求めることができる。なお、演算工程における演算方法は、検量線作成工程でも同様に用いられる。
【0033】
次に、検量線作成工程における検量線作成手順について、図4〜図7を用いて具体的に説明する。まず、界面活性剤の濃度既知で且つ濃度の異なる6つの被測定溶液(処理液)をそれぞれ電解質溶液12に所定量添加した6つのサンプルA〜Fを作成した。電解質溶液12として、硫酸銅五水和物と硫酸、塩素を微量混合した溶液を用いた。その液における各成分の濃度は、硫酸銅五水和物240g/L、硫酸25g/L、塩素50ppmとした。
【0034】
また、界面活性剤の濃度既知の処理液として、炭酸水素ナトリウム塩とノニオン系界面活性剤を混合したアルカリ脱脂液を用いた。ノニオン系界面活性剤として、分子量2400のポリプロピレングリコールエーテルを用いた。処理液の各成分の濃度は、炭酸水素ナトリウムはいずれも53g/L、界面活性剤の濃度はそれぞれ0、10、18、30、43、53ppmとした。
【0035】
電気分解セル1としてガラス製の容量100ccのセルを用意し、電解質溶液12を50cc満たした。これに上記の界面活性剤を含んだ処理液を0.1mlずつ添加し、充分に攪拌した。また、作用電極13として回転式の白金部の直径が6mmの円盤形状をした白金電極、参照電極14として銀/塩化銀電極を用い、測定温度は25℃とした。また、電位は、正極側は+1.6V、負極側は−0.3Vの範囲で循環走査し、走査速度は200mV/secとした。測定精度を上げるため測定は3回行い、その平均値を利用した。
【0036】
以上の条件により、電気分解セル1において作用電極13に流れる電流を測定し、得られたサイクリックボルタンモグラムを図4に示す。図4において、4a〜4fはそれぞれ、サンプルA〜Fに対応するサイクリックボルタンモグラムを示している。図4に示すように、界面活性剤濃度の増加に伴い、作用電極13に金属イオンが析出する電流領域(A1)、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解する電流領域(A2)共に低下し、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量も減少している。
【0037】
図4に示すサイクリックボルタンモグラムから、作用電極13に析出した金属がイオンとして溶解した電気量を求め、さらに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求めた結果を図5に示す。また、図5に示す結果に基づいて作成された検量線を図6及び図7に示す。
【0038】
図6の検量線では、作用電極で析出及び剥離した金属量(μg)を縦軸とし、界面活性剤濃度(ppm)を横軸としている。また、図7の検量線では、界面活性剤を含まない被測定溶液(処理液)を所定量添加した電解質溶液を用いた時に作用電極で析出及び剥離した金属量を金属量(0)とした時、(作用電極で析出及び剥離した金属量/金属量(0))×100(%)を縦軸とし、界面活性剤濃度(ppm)を横軸としている。なお、図6と図7は、縦軸が異なる値で示されているが、本質的には同じ内容を示している。ただし、図7の検量線の方が、界面活性剤濃度が低い場合や、作用電極13で析出及び剥離した金属量が少ない場合にも安定した値が得られやすい。
【0039】
図6及び図7から明らかなように、界面活性剤濃度の増加に伴い、作用電極13で析出及び剥離した金属量、及びこれを金属量(0)で除した値共に、直線的に減少する。この現象は、前述した界面活性剤による電気化学反応抑制作用が界面活性剤の濃度に依存していることを示している。
【0040】
図6において、界面活性剤濃度をX、作用電極で析出及び剥離した金属量をYとすることにより、以下の式1が得られた。よって、界面活性剤の濃度未知の処理液を添加した電解質溶液12を用いた電気分解セル1において、電位循環走査をして得られたサイクリックボルタンモグラムから、作用電極13で析出及び剥離した金属量を求め、式1のYに代入することにより、界面活性剤濃度Xを求めることができる。
Y=6.8−0.087X・・・(1)
【0041】
本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置100を用い、銅の洗浄工程で実際に稼動していたアルカリ脱脂処理液の界面活性剤濃度を測定した。3種類の脱脂処理液A、B、Cを採取し、電解質溶液12に添加した電気分解セル1において、電位循環走査をして作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求めた。さらに、この金属量を予め作成された検量線に照合して界面活性剤濃度を求めた。
【0042】
また、界面活性剤濃度測定装置100による測定結果の正当性を検証するため、同じ脱脂処理液A、B、Cを酸で中和した後、有機溶媒で抽出してゲルパーミエーションクロマトグラム(以下GPCと記す)により界面活性剤の濃度を測定した。これらの結果を図8に示す。図8に示すように、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定装置100とGPCによる測定結果の測定誤差は4%以下であり、界面活性剤濃度測定装置100により界面活性剤の濃度を正確に測定できることが明らかになった。
【0043】
なお、被測定溶液の界面活性剤濃度が低い場合は添加量を増加させる必要があるが、添加量を増加するとpHが変動することがある。これを防止するためには、被測定溶液は中性で、望ましくはpH5.5〜8.0程度であることが望ましい。また、電気分解セル1に与える電位を変更することで金属イオンの析出量を増加させても良い。
【0044】
以上のように、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定方法は、界面活性剤による電気化学反応抑制作用に着目し、界面活性剤を含む被測定溶液(処理液)を、金属イオンを含む電解質溶液12に所定量添加した電気分解セル1において、作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に、作用電極13で析出及び剥離した金属量が界面活性剤の濃度に依存して直線的に変化することを利用したものであるため、界面活性剤を処理液から抽出することなく、処理液中の界面活性剤の濃度を求めることが可能である。
【0045】
また、本実施の形態1に係る界面活性剤濃度測定方法を実現するための界面活性剤濃度測定装置100は、金属イオンを含む電解質溶液12を収容する電解質槽11と作用電極13、参照電極14及び対極15を有する電気分解セル1と、界面活性剤の濃度未知の被測定溶液(処理液)を電解質溶液12に所定量添加した電気分解セル1において、作用電極13と対極15の間に参照電極14を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に作用電極13に流れる電流を測定し、これをもとに作用電極13で析出及び剥離した金属量を求める演算手段と、演算手段により求めた金属量を、界面活性剤の濃度と金属量との関係を示す検量線に照合し、処理液中の界面活性剤の濃度を求める検量線照合手段を備えることにより、処理液中の界面活性剤の濃度を正確且つ簡便に測定することができ、処理液中の界面活性剤濃度の日常的な管理に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、金属表面から油分等の汚染物質を除去する処理液中の界面活性剤の濃度を測定する方法及び装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 電気分解セル、2 電流電位制御装置、3 電流電位演算装置、
4、4a、4b、4c、4d、4e、4f サイクリックボルタンモグラム、
5 作用電極に析出した金属がイオンとして溶解した電気量、
6 水の電気分解による酸素発生に基づいて作用電極に流れた電流、
11 電解質槽、12 電解質溶液、13 作用電極、14 参照電極、15 対極、
100 界面活性剤濃度測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンを含む電解質溶液を収容する電解質槽と、前記電解質溶液に浸漬される作用電極、参照電極及び対極を有する電気分解セルを用意する準備工程、
界面活性剤の濃度既知で且つ濃度が異なる複数の被測定溶液をそれぞれ所定量添加した複数の前記電解質溶液を作成し、前記各電解質溶液を用いた前記電気分解セルにおいて、前記作用電極と前記対極の間に前記参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に前記作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに前記作用電極で析出及び剥離した金属量を求めて、前記界面活性剤の濃度と前記金属量の関係を示す検量線を作成する検量線作成工程、
前記界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を前記電解質溶液に所定量添加した前記電気分解セルにおいて、前記作用電極と前記対極の間に前記参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与えた時に前記作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに前記作用電極で析出及び剥離した金属量を求める演算工程、
前記演算工程で得られた前記金属量を前記検量線に照合し、前記界面活性剤の濃度未知の前記被測定溶液中の前記界面活性剤の濃度を求める検量線照合工程を含むことを特徴とする界面活性剤濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の界面活性剤濃度測定方法であって、前記検量線作成工程において、前記作用電極で析出及び剥離した金属量を検量線の縦軸とし、界面活性剤濃度を検量線の横軸とすることを特徴とする界面活性剤濃度測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の界面活性剤濃度測定方法であって、前記検量線作成工程において、前記界面活性剤を含まない被測定溶液を所定量添加した前記電解質溶液を用いた時に前記作用電極で析出及び剥離した金属量を金属量(0)とした時、前記作用電極で析出及び剥離した金属量を前記金属量(0)で除した値を検量線の縦軸とし、界面活性剤濃度を検量線の横軸とすることを特徴とする界面活性剤濃度測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の界面活性剤濃度測定方法であって、前記演算工程において、前記作用電極に流れる電流を示すサイクリックボルタンモグラムを時間に対して積分し、前記作用電極に析出した金属がイオンとして溶解した電気量を求め、前記電気量を当該金属のグラム当量数で除して前記作用電極で析出及び剥離した金属量を求めることを特徴とする界面活性剤濃度測定方法。
【請求項5】
金属イオンを含む電解質溶液を収容する電解質槽と、前記電解質溶液に浸漬される作用電極、参照電極及び対極を有する電気分解セル、
前記電気分解セルの前記作用電極と前記対極の間に前記参照電極を基準として正負交互に変化する電位を周期的に与える電流電位制御手段、
界面活性剤の濃度未知の被測定溶液を前記電解質溶液に所定量添加した前記電気分解セルにおいて、前記電流電位制御手段により正負交互に変化する電位を与えた時に前記作用電極に流れる電流を測定し、これをもとに前記作用電極で析出及び剥離した金属量を求める演算手段、
前記界面活性剤の濃度と前記金属量の関係を示す検量線を有し、前記演算手段により求めた前記金属量を前記検量線に照合して前記被測定溶液中の前記界面活性剤の濃度を求める検量線照合手段を備えたことを特徴とする界面活性剤濃度測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の界面活性剤濃度測定装置であって、前記電解質溶液に含まれる金属イオンとして銅イオン、支持電解質として硫酸を用いたことを特徴とする界面活性剤濃度測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載の界面活性剤濃度測定装置であって、前記電解質溶液に含まれる金属イオンとしてニッケルイオン、支持電解質として硫酸及び塩酸のいずれかを用いたことを特徴とする界面活性剤濃度測定装置。
【請求項8】
請求項5に記載の界面活性剤濃度測定装置であって、前記作用電極として白金を用いたことを特徴とする界面活性剤濃度測定装置。
【請求項9】
請求項5に記載の界面活性剤濃度測定装置であって、前記対極として前記電解質溶液に含まれる金属イオンと同じ金属からなる電極を用いたことを特徴とする界面活性剤濃度測定装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−189488(P2012−189488A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54170(P2011−54170)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)