説明

異常型プリオン蛋白質結合剤および異常型プリオン蛋白質の検出方法

【課題】
プロテアーゼKによる酵素処理を行うことなく簡便に迅速且つ高感度で定量的に異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質から区別して検出する方法、及び該方法に使用される試薬を提供すること。
【解決手段】
ラクトフェリンが含まれてなる異常型プリオン蛋白質結合剤、及び異常型プリオン蛋白質結合剤を使用して異常型プリオン蛋白質を検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常型プリオン蛋白質結合剤および異常型プリオン蛋白質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるプリオン病が、大きな社会問題となっている。このプリオン病としては、伝達性海綿状脳症(TSE)、例えば、スクレイピー、牛海綿状脳症(BSE)、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)等が知られている。
【0003】
様々な証拠から、これらのプリオン病は、感染性プリオン蛋白質(異常型プリオン蛋白質)(PrPSc)によって、引き起こされることがわかってきた。
【0004】
そこで、ヒト及び動物のプリオン病の伝染を回避し、医薬品や食品の安全性を確保するために、試料中の感染性プリオン蛋白質(異常型プリオン蛋白質)を検出する試みが様々に行われてきた。
【0005】
ところが、ヒト及び動物は、プリオン病を引き起こさない非感染性プリオン蛋白質(正常型プリオン蛋白質)(PrP)をもともと生体内に有している。そして、この正常型プリオン蛋白質は、驚くべきことに異常型プリオン蛋白質と同一のアミノ酸配列(一次構造)を有しており、その相違点は、同一のアミノ酸配列から形成される高次構造にのみ存在する。
【0006】
一般に、二種類の蛋白質を区別して検出する方法としては、これらを区別可能であるような特異的な抗体を使用する方法があり得る。しかし、おそらくは上記したアミノ酸配列の同一性のために、現在までのところ、異常型プリオン蛋白質と正常型プリオン蛋白質を区別可能な特異抗体は得られていない。すなわち、試料中の感染性プリオン蛋白質(異常型プリオン蛋白質)を、特異的な抗体を使用して検出する方法は、未だ実用化の見込みがない。
【0007】
そのために、現在までのところ、異常型プリオン蛋白質の検出方法は、大別して次の2種類の方法に限られている。
【0008】
一つの方法は、異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)の含有が疑われる試料を、試験動物の脳内に注入した後に長期間の飼育を行い、得られた脳標本における神経の病理学的な変化を確認する方法である。
【0009】
この方法は、信頼できる方法であるが、残念ながら、あまりにも時間と費用とを要するために、各種の検出方法の較正試験としては使われる他には、常用される検出方法となるには至っていない。
【0010】
もう一つの方法は、プロテアーゼKを使用した方法である。おそらくはその高次構造に起因して、正常型プリオン蛋白質はプロテアーゼKにより分解されやすい(感受性である)こと、その一方で異常型プリオン蛋白質はプロテアーゼKにより分解されにくい(耐性である)ことが知られている。そこで、このプロテアーゼKによる分解に対する感受性(耐性)の違いを利用して、例えば、プロテアーゼK処理をした後に、処理前と同じ位置のバンドのタンパク質として、ポリクローナル抗体を使用したイムノブロッティング等によって検出されれば異常型プリオン蛋白質であり、対応するバンドが消失していれば(検出されなければ)正常型プリオン蛋白質であったと判定することで、検出を行うことができる。
【0011】
このプロテアーゼKを使用した検出方法は、現在、広く使用され、多くのバリエーションが提案されている(特許文献1:特開平10−267928号公報、特許文献2:特開平11−32795号公報、特許文献3:特開2003−121448号公報)。
【0012】
しかし、この方法は、酵素処理を行うことを必須とすることから、酵素反応に適した条件を準備しなければならない点で煩雑であり、酵素反応を行うための時間を要し、その結果、迅速性や簡易性において十分でないこと、試薬として比較的高価な酵素を必須とすること等の欠点を、原理的に有している。
【特許文献1】特開平10−267928号公報
【特許文献2】特開平11−32795号公報
【特許文献3】特開2003−121448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、プロテアーゼKによる酵素処理を行うことなく、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、異常型プリオン蛋白質を、正常型プリオン蛋白質から区別して、検出する方法が求められていた。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、プロテアーゼKによる酵素処理を行うことなく、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、異常型プリオン蛋白質を、正常型プリオン蛋白質から区別して、検出する方法、及び該方法に使用される検出剤を提供することにある。
【0015】
また、このような検出方法に使用するために、正常型プリオン蛋白質とは結合せず、異常型プリオン蛋白質に特異的に結合する試薬(結合剤)が、求められていた。
【0016】
すなわち、本発明の目的は、正常型プリオン蛋白質とは結合せず、異常型プリオン蛋白質に特異的に結合する試薬(結合剤)を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記目的のために、異常型プリオン蛋白質の特異的な検出方法を鋭意研究してきたところ、哺乳動物の乳由来のタンパク質であるラクトフェリンが、正常型プリオン蛋白質とは結合せず、異常型プリオン蛋白質のみに特異的に結合する性質を有していることを見出して、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、ラクトフェリンは、永らく求められてきた、正常型プリオン蛋白質とは結合せずに、異常型プリオン蛋白質に特異的に結合する試薬(結合剤)であり、このラクトフェリンを使用すれば、プロテアーゼKによる酵素処理を行うことなく、異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質から区別して、検出することができる。
【0019】
また、ラクトフェリンの異常型プリオン蛋白質に特異的に結合する性質を利用することによって、異常型プリオン蛋白質の特異的な検出が可能になるだけではなく、異常型プリオン蛋白質の特異的な分離(精製及び濃縮を含む)、異常型プリオン蛋白質の特異的な固定化、異常型プリオン蛋白質の自己会合の特異的な阻害が可能になり、プロテアーゼKによる酵素処理による方法では不可能であった新たな用途が提供されている。すなわち、本発明による異常型プリオン蛋白質結合剤は、このような有用な用途を有している。
【0020】
従って、本発明は、次の[1]〜[2]にある。
[1] ラクトフェリンが含まれてなる、異常型プリオン蛋白質結合剤。
[2] ラクトフェリンからなる異常型プリオン蛋白質結合部位を有する、異常型プリオン蛋白質結合剤。
【0021】
また、ラクトフェリンを担体に固定化して使用すれば、異常型プリオン蛋白質のみを正常型プリオン蛋白質から分離(精製及び濃縮を含む)して得ること、異常型プリオン蛋白質を結合して固定化すること、異常型プリオン蛋白質を検出することを、特に好適に行うことができる。
【0022】
従って、本発明は、次の[3]〜[6]にもある。
[3] ラクトフェリンが担体に固定化されてなる、[1]〜[2]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
[4] ラクトフェリンが異常型プリオン蛋白質結合部位として担体に固定化されてなる、[1]〜[2]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
[5] 担体がビーズである、[3]〜[4]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
[6] ビーズが磁性化可能なビーズである、[5]に記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
【0023】
このような異常型プリオン蛋白質結合剤は、異常型プリオン蛋白質の検出の用途に使用することができる。
従って、本発明は、次の[7]〜[9]にもある。
[7] 異常型プリオン蛋白質検出剤である、[1]〜[6]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
[8] ラクトフェリンからなる異常型プリオン蛋白質結合部位を有する、異常型プリオン蛋白質検出剤である、[1]〜[6]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
[9] ラクトフェリンからなる異常型プリオン蛋白質結合部位、及び標識部位が含まれてなる、異常型プリオン蛋白質検出剤である、[1]〜[6]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
【0024】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質結合剤、又は異常型プリオン蛋白質検出剤を使用して、異常型プリオン蛋白質を、検出する方法、結合する方法、分離する方法(精製する方法、及び濃縮する方法を含む)、固定化する方法、又は異常型プリオン蛋白質の自己会合を阻害する方法にもある。
【0025】
従って、本発明は、次の[10]〜[18]にもある。
[10] 次の工程:
[3]〜[6]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤を、試料に接触させる工程、
試料に接触させた該異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程、
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法。
[11] 分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程が、分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を免疫学的検出法によって検出する工程である、[10]に記載の方法。
[12] 免疫学的検出法が、ウェスタンブロット法、ELISA法、又は免役沈降法である、[11]に記載の方法。
[13] 次の工程:
[3]〜[6]の何れかに記載の異常型プリオン蛋白質結合剤を、試料に接触させる工程、
試料に接触させた該異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の分離方法。
[14] ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤が、ラクトフェリン固定化ビーズである、[10]〜[13]の何れかに記載の方法。
[15] 異常型プリオン蛋白質結合剤が、磁性化可能なビーズを使用されてなるラクトフェリン固定化ビーズである[10]〜[13]の何れかに記載の方法。
[16] 試料が、動物組織に界面活性剤を添加して均一化して得られた液体試料である、[10]〜[15]の何れかに記載の方法。
[17] 動物組織が、哺乳動物の脳、脊髄、眼、及び/又は小腸である、[16]に記載の方法。
[18] 結合した成分を分離する工程が、ラクトフェリンを含有する溶液で溶出させることによって行われる、[10]〜[17]の何れかに記載の方法。
【0026】
さらに、本発明は、次の[19]〜[22]にもある。
[19] ラクトフェリンを、異常型プリオン蛋白質に結合させる工程、
異常型プリオン蛋白質に結合したラクトフェリンを検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法。
[20] 標識部位を有するラクトフェリンを、異常型プリオン蛋白質に結合させる工程、
異常型プリオン蛋白質に結合したラクトフェリンの標識部位を検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法。
[21] ラクトフェリンを、異常型プリオン蛋白質に結合させて、異常型プリオン蛋白質の自己会合を阻害する方法。
[22] ラクトフェリンが含まれてなる、異常型プリオン蛋白質の自己会合阻害剤。
【0027】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質に結合させるための、ラクトフェリン、標識部位を有するラクトフェリン、又は担体に固定化されたラクトフェリンの使用(use)にもある。
【0028】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質を検出するための、ラクトフェリン、標識部位を有するラクトフェリン、又は担体に固定化されたラクトフェリンの使用(use)にもある。
【0029】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質を分離するための、ラクトフェリン、標識部位を有するラクトフェリン、又は担体に固定化されたラクトフェリンの使用(use)にもある。
【0030】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質の自己会合を阻害するための、ラクトフェリン、標識部位を有するラクトフェリン、又は担体に固定化されたラクトフェリンの使用(use)にもある。
【発明の効果】
【0031】
本発明によって初めて開示されたように、ラクトフェリンは、正常型プリオン蛋白質とは結合せず、異常型プリオン蛋白質のみに特異的に結合するために、この知見に基づく本発明によれば、プロテアーゼKによる酵素処理を行うことなく、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、異常型プリオン蛋白質を、正常型プリオン蛋白質から区別して、検出することができる。
【0032】
すなわち、本発明によれば、異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質から区別するために、プロテアーゼKによる酵素処理を行うことが不要であるために、酵素反応に適した条件を準備しなければならない煩雑さがなく、酵素反応を行うための時間を要することがない。その結果として本発明によれば、プロテアーゼKによる酵素処理を行う場合に生じていた、迅速性や再現性において十分でないこと、試薬として比較的高価な酵素を必須とすること等の欠点を、原理的に有しない。
【0033】
従って、本発明によれば、動物に由来する原材料を使用した飲食品及び医薬品に対して、異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)による汚染の検査を、従来よりも、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、さらに低コストで行うことができる。また、ヒト及び動物におけるプリオン病の診断を、従来よりも、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、さらに低コストで行うことができる。これによって、ヒト及び動物へのプリオン病の感染防止や早期診断という社会の要請に応えることができる。
【0034】
さらに、本発明によれば、異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質から分離回収して得ることができ、これによって異常型プリオン蛋白質の分離、濃縮、及び精製を可能としている。従って、これを組みあわせることによって、上記の異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)による汚染の検査、及び、ヒト及び動物におけるプリオン病の診断を、さらに効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。
【0036】
本発明に係る異常型プリオン蛋白質の検出方法は、好ましい実施態様において、次の工程:
ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤を、試料に接触させる工程、
試料に接触させた異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程、
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程、
を含む方法として、実施することができる。
【0037】
この方法によれば、試料中に含まれている異常型プリオン蛋白質を、異常型プリオン結合剤中に固定化されているラクトフェリンによって、特異的に結合(吸着)することができ、次に、異常型プリオン結合剤中に固定化されているラクトフェリンと結合した異常型プリオン蛋白質を、分離して回収することができ、このように分離された異常型プリオン蛋白質を、次に検出することで、異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質と区別して、検出することができる。
【0038】
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程は、分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を免疫学的検出法によって検出する工程であることが、好ましい。
【0039】
好ましい免疫学的検出法としては、ウェスタンブロット法、ELISA法、又は免役沈降法を挙げることができる。
【0040】
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程で行われる検出は、上記免疫学的検出法を含めて、異常型プリオン蛋白質を検出することができる方法であればよく、異常型プリオン蛋白質と正常型プリオン蛋白質を区別することができない方法であっても、当然に使用することができる。これは、本発明においては、それ以前の工程で、ラクトフェリンとの結合を行うことによって、異常型プリオン蛋白質に対する特異性は既に確保されているためである。従って、上記の免疫学的検出法においては、異常型プリオン蛋白質と正常型プリオン蛋白質を区別しない抗体であっても、当然に使用することができる。
【0041】
ラクトフェリン(lactoferrin:以下、LFと略記することがある。)とは、主に母乳中に含まれている分子量約80キロダルトンの鉄結合性糖蛋白質であり、大腸菌、カンジダ菌、クロストリジウム菌、ブドウ球菌等の有害微生物に対する抗菌作用や、免疫賦活作用、抗腫瘍作用等、様々な作用をもつ乳タンパク質として知られている。ラクトフェリンは乳由来の糖タンパク質であることから、安全性が高く、長期連用することが可能で、それ自体は殆ど無味無臭であり、各種の食品・医薬品・飼料の添加物として、汎用性が高い。しかし、異常型プリオン蛋白質との特異的な結合能は、これまで知られていなかった。
【0042】
本発明に使用するラクトフェリンは、市販のラクトフェリンや、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等。)の初乳、移行乳、常乳、末期乳、又はこれらの乳の処理物である脱脂乳、ホエー等を原料とし、例えばイオン交換クロマトグラフィー等の常法により、前記原料から分離して得られるラクトフェリンを用いることができる。中でも、工業的規模で製造されている市販のラクトフェリン(例えば、森永乳業社製)を使用することが好適である。更に、遺伝子工学的手法により、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等で生産したラクトフェリンを使用することも可能である。牛乳由来のホエーは、乳製品製造の副産物として安定して大量に得ることができるという利点があるために、本発明に使用するラクトフェリンの原料として、特に好適である。
【0043】
ここで、ラクトフェリンの調製(乳等の原料からのラクトフェリンの分離、精製)方法の一例を以下に示す。まず、イオン交換体(たとえばCM−セファロースFF(商品名、アマシャムファルマシア社製))をカラムに充填し、塩酸を通液し、水洗してイオン交換体を平衡化する。続いて、4℃に冷却したpH6.9の脱脂牛乳をカラムに通液し、透過液を回収し、再度同様にカラムに通液する。次いで、蒸留水をカラムに通液し、食塩水を通液し、イオン交換体に吸着した塩基性蛋白質の溶出液を得る。この溶出液に飽和度80%の硫酸アンモニウムを添加し、タンパク質を沈殿させ、遠心分離して沈殿物を回収する。回収した沈殿物を、飽和度80%の硫酸アンモニウム溶液で洗浄し、脱イオン水を添加して溶解し、得られた溶液を限外濾過膜モジュール(たとえばSLP0053(商品名、旭化成社製))を用いて脱塩し、凍結乾燥して、粉末状ウシラクトフェリンを得る。このようにして、純度が95質量%以上のウシラクトフェリンが得られる。なお、本明細書におけるラクトフェリンの純度は液体クロマトグラフ法により測定して得られる値とする。
【0044】
ラクトフェリンは、多くのタンパク質と同じく、種、属、個体等の違いによって、1又は複数の位置での1又は複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等の変異が当然存在し、このような変異を有する遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸においても変異が生じている場合がある。本発明に用いることができるラクトフェリンには、異常型プリオン蛋白質との特異的な結合性が損なわれない範囲において、このような変異を含むものも含有される。
【0045】
ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤を調製するために使用することができるラクトフェリンの固定化の方法は、異常型プリオン蛋白質との特異的な結合性が損なわれないものであれば、通常の固定化の方法を使用することができる。このような方法としては、例えば、ポリペプチドの第一級アミノ基に対して直接に共有結合を形成する方法、ポリペプチドのスルフヒドリル基(チオール基)に対して直接に共有結合を形成する方法等を挙げることができる。
【0046】
ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤において、ラクトフェリンが固定化される担体は、所望の条件下で、固体層として操作できるものであればよく、タンパク質が固定化されて使用される一般的な担体であれば、使用することができる。このような担体として、例えば、親水性又は疎水性の樹脂を表面に有するものを挙げることができ、その形状として、例えば、粒子状(ビーズ状)、膜状、繊維状、中空糸状、網状等を挙げることができる。好ましい担体として、ビーズ状(粒子状)の形状のものを挙げることができる。ビーズ(粒子)の粒径(直径)は、目的に応じて選択することができるが、例えば、一般に0.5〜200μm、好ましくは1.0〜100μm、さらに好ましくは1.0〜50μm、さらに好ましくは1.0〜20μm、さらに好ましくは1.0〜10μm、特に好ましくは1.0〜5.0μmの範囲のものを使用することができる。
【0047】
好ましい態様において、担体として、疎水性又は親水性の樹脂を表面に有するビーズ(粒子)を使用することができ、このときには、ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合活性担体とは、ラクトフェリン固定化ビーズである。このような担体を使用すれば、液体中に懸濁して分散させることができる一方で、操作上の必要に応じて沈降させて回収することも容易である。
【0048】
さらに好ましい態様において、担体として、疎水性又は親水性の樹脂を表面に有するビーズ(粒子)であって、その内部(中心部)に磁性化可能な材料を含むものを使用することができ、このときには、ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合活性担体とは、磁性化可能なビーズを使用されてなるラクトフェリン固定化ビーズである。このような担体を使用すれば、液体中に懸濁して分散させることができる一方で、操作上の必要に応じて磁石によって容易に沈降させて回収することができる。このような操作は、ラクトフェリン固定化ビーズを、試料に接触させる工程、結合した成分を分離する工程、などの工程中において、あるいはその工程の前後に、作業上の所望に応じて、当業者が行うことができる。
【0049】
試料は、異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)の存在が疑われるあらゆる液体試料を使用することができるが、異常型プリオン蛋白質が存在している場合に十分に分散されているものとなっていることが好ましい。検査の対象が動物組織である場合には、これが十分に可溶化されていることが好ましい。このように可溶化された試料として、例えば動物組織に界面活性剤を添加して均一化して得られた液体試料を挙げることができる。このような液体試料のpHは、好ましくは中性付近であり、一般にpH5.5〜7.8、好ましくはpH6.0〜7.7、特に好ましくはpH6.5〜7.6の範囲のpHを好適に使用することができるが、これに限られるものではない。このような液体試料を調製するために使用される界面活性剤としては、動物組織を可溶化するために一般的に使用される界面活性剤であれば使用することができるが、可溶化とプリオン蛋白質の高次構造の保持の点から、非イオン性界面活性剤を使用することが好ましく、好適に使用可能な界面活性剤としては、例えばtween 20、triton X-100、NP-40、好ましくは、tween 20、triton X-100、NP-40、特に好ましくはtween 20、NP-40を挙げることができる。試料は、ラクトフェリンと異常型プリオン蛋白質との特異的な結合性の確保のために、後述のような条件下で、異常型プリオン蛋白質結合活性担体と接触できるような液体試料として、調製されていることが好ましい。
【0050】
ラクトフェリンと異常型プリオン蛋白質との特異的な結合性の確保のために、異常型プリオン蛋白質結合活性担体と試料との接触は、一般にpH5.5〜7.8、好ましくはpH6.0〜7.7、特に好ましくはpH6.5〜7.6の範囲、一般に3〜30℃、好ましくは3℃〜20℃、特に好ましくは3〜5℃の範囲の温度、一般に5〜300分、好ましくは10〜180分、特に好ましくは15〜90分の範囲の接触時間の条件で、好適に行うことができるが、これらの条件に限られるものではない。
【0051】
可溶化される動物組織としては、異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)の存在が疑われるあらゆる動物組織を使用することができるが、早期診断のためには、異常型プリオン蛋白質の蓄積が多いことが知られている、哺乳動物の脳、脊髄、眼、及び/又は小腸であることが好ましい。
【0052】
試料に接触させた異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程においては、蛋白質−蛋白質の相互作用の解離に一般的に使用される条件のうち、比較的強い解離条件で解離させて、結合した成分を分離して溶出させることができる。このような条件としては、例えば、中性付近のpHで界面活性剤を含有させた溶液によって3〜30℃の範囲の温度で行う条件を挙げることができる。また、ラクトフェリンと異常型プリオン蛋白質との特異的な結合を解離するために、ラクトフェリンを含有する溶液で溶出させることによって行うことができる。
【0053】
好ましい実施の態様においては、ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤を試料に接触させる工程の後であって、試料に接触させた異常型プリオン蛋白質結合剤から結合した成分を分離する工程の前に、試料に接触させた異常型プリオン蛋白質結合剤を、洗浄する工程を設けることができる。この洗浄は、主として非特異的な吸着をしている成分があった場合に、これを試料に接触させた異常型プリオン蛋白質結合剤から除去することを目的として行われるものであり、このような目的で行われる一般的な手法に従って行うことができ、例えば、異常型プリオン蛋白質結合剤に接触させる試料を調製するために使用された溶液であって、可溶化された動物組織等が含まれていない溶液を使用して洗浄することで、行うことができるが、これに限られるものではない。
【0054】
さらに、本発明は、異常型プリオン蛋白質の分離方法にもあり、本発明に係る異常型プリオン蛋白質の分離方法は、好ましい実施の態様において、次の工程:
ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤を、動物組織が可溶化された試料に接触させる工程、
試料接触処理工程を受けた異常型プリオン蛋白質結合活性担体から、結合した成分を分離する工程、
を含む方法として、実施することができる。
【0055】
この方法によれば、試料中に含まれている異常型プリオン蛋白質を、異常型プリオン結合剤中に固定化されているラクトフェリンによって、特異的に結合(吸着)することができ、次に、異常型プリオン結合剤中に固定化されているラクトフェリンと結合した異常型プリオン蛋白質を、分離して回収することができる。これによって異常型プリオン蛋白質の分離、濃縮、及び精製を可能としている。
【0056】
上記の本発明に係る異常型プリオン蛋白質の分離方法の実施の態様は、本発明に係る異常型プリオン蛋白質の検出方法の好ましい実施態様として説明した工程のうち、分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程を除いて、同じ工程を行うことで実施することができるものとなっている。従って、異常型プリオン蛋白質の検出方法の好ましい実施の態様に関連して既に述べた内容は、異常型プリオン蛋白質の分離方法の実施の態様においても、そのままあてはめることができる。
【0057】
本発明に係るラクトフェリンが含まれてなる異常型プリオン蛋白質結合剤は、ラクトフェリンが担体に固定化されてなる異常型プリオン蛋白質結合剤として上述のような実施の態様において使用できるほか、次のような実施の態様においても使用することができる。
【0058】
すなわち、本発明に係る異常型プリオン蛋白質結合剤の好適な使用の態様として、次の工程:
ラクトフェリンを、異常型プリオン蛋白質に結合させる工程、
異常型プリオン蛋白質に結合したラクトフェリンを検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法を、挙げることができる。
【0059】
この異常型プリオン蛋白質の検出方法によれば、ラクトフェリンは特段の修飾を行うことなく異常型プリオン蛋白質結合剤として使用することができる。異常型プリオン蛋白質の検出は、結合したラクトフェリンの検出によって行うことができる。
【0060】
ラクトフェリンの検出法としては、一般的に使用されるあらゆる検出方法を使用することができ、例えば、ラクトフェリンに対する抗体を使用した免疫学的な検出法を使用することができる。
【0061】
また、本発明に係る異常型プリオン蛋白質結合剤の好適な使用の態様として、次の工程:
標識部位を有するラクトフェリンを、異常型プリオン蛋白質に結合させる工程、
異常型プリオン蛋白質に結合したラクトフェリンの標識部位を検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法を、挙げることができる。
【0062】
この異常型プリオン蛋白質の検出方法によれば、ラクトフェリンは、あらかじめ標識部位を付しておき、この標識部位を有するラクトフェリンを異常型プリオン蛋白質結合剤として使用する。異常型プリオン蛋白質の検出は、ラクトフェリンに付された標識部位の検出によって行うことができる。
【0063】
標識部位としては、生体高分子に対して一般的に使用される標識部位であれば使用することができる。このような標識部位として、例えば、蛍光標識、放射線標識、酵素標識、 を挙げることができる。蛍光標識としては、例えば、Alexa Fluor(登録商標)(ベクトンディッキンソン社製)シリーズの色素、及びCyeDye(登録商標)(ベクトンディッキンソン社製)シリーズの色素を挙げることができ、例えば、Alexa Fluor(登録商標)488及びAlexa Fluor(登録商標)647、あるいはCy3、Cy5.5及びCy7を好ましいものとして挙げることができる。放射線標識としては、例えば、14C及び35Sを使用した標識を挙げることができる。酵素標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP、HorseRadish Peroxydase)あるいはアルカリホスファターゼ(ALP、 Alkaline Phosphatase)を使用した標識を挙げることができる。
【0064】
本発明は、さらに、異常型プリオン蛋白質結合剤を使用して異常型プリオン蛋白質の自己会合を阻害する方法、及び異常型プリオン蛋白質の自己会合阻害剤にもある。異常型プリオン蛋白質は多数の分子が自己会合して多量体を形成すること、おそらくそれによってプリオン病の病原性が高められることが、現在のところ信じられているが、本発明に係る異常型プリオン蛋白質結合剤は、異常型プリオン蛋白質に特異的に結合してこの自己会合を阻害することができる。一方で、本発明に係る異常型プリオン蛋白質結合剤は、正常型プリオン蛋白質には結合しないために、正常型プリオン蛋白質が有していると思われる未知の生体機能に、悪影響を与えるおそれはない。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
[ラクトフェリン固定化ビーズによる、感染脳からの異常型プリオン蛋白質の検出]
異常型プリオン蛋白質感染マウス脳を使用して、以下のようにラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の検出を行った。
【0067】
(ラクトフェリン固定化ビーズの作製)
1 mL のDynabeads M-280 Tosylactivated を1 mLのPBSで2回洗浄した後、これに1 mg ラクトフェリンを0.1M ホウ酸緩衝液1 mLした溶液を加え、37℃、24時間転倒混和した。上清を除きDynabeadsを1 mLのPBSで2回洗浄し、Dynabeadsに0.1%ラクトフェリンを含む0.2 Mトリス塩酸緩衝液(pH 8.5)を1mL加え、37℃、4時間転倒混和した。
次に、上清を除きDynabeadsを1 mLの0.1%ラクトフェリンを含むPBSで1回洗浄し、次いで0.1% Tween 20 を含むPBSで1回洗浄した。
次に、上清を除きDynabeadsを1 mLの0.1%ラクトフェリンを含むPBSで1回洗浄し、上清を除き、このようにして得られたラクトフェリン結合Dynabeads(以下に、ラクトフェリン結合ビーズ、又はラクトフェリン固定化ビーズともいう)を1 mLの0.1%ラクトフェリンを含むPBSで保存した。
【0068】
(脳組織を可溶化した試料(脳乳剤)の調製)
異常型プリオン蛋白質に感染したマウスから脳を取り出した。異常型プリオン蛋白質感染マウス脳(以下に、感染脳ともいう)をバイオマッシャーに入れ、10,000×g 2分間遠心分離し、回収したペレットにNP-40 RIPAを加え10%(w/v)脳乳剤を作成した。これを、4℃で15分インキュベートした後、攪拌混和し、10,000×g 2分間遠心分離して、上清を回収した。回収した上清にNP-40 RIPAを加え、2%(w/v)脳乳剤(脳組織を可溶化した試料)を調製した。このようにして、感染脳による脳乳剤(以下に感染脳乳剤ともいう)を得た。
【0069】
(ラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の分離)
脳乳剤500μl に、ラクトフェリン結合Dynabeadsを20μl加え、4℃で1時間転倒混和した。その後、ビーズを1 mLのNP-40 RIPAにて10分間、3回洗浄し、さらに、1 mLのNP-40 RIPAにてオーバーナイトで洗浄した。
洗浄したラクトフェリン結合Dynabeadsを回収し、20 μl中性緩衝液(NuPAGE LDSサンプルバッファー(4×)、Invitrogen社製)を加えて、95℃、10分間加熱して試験試料とした。
なお、ビーズは磁性体のビーズであるために、ビーズの回収は、操作中に適宜磁石を使用して行った。
【0070】
(イムノブロットによる検出)
調製した試験試料は、イムノブロット法により、プリオンタンパク質の検出を行った。
すなわち、試験試料を、NuPAGEゲルを用いて電気泳動(40 mA 定電流, 70分)し、次いで、タンク式転写装置を用いてPVDF膜にゲル中のタンパク質を転写(220 mA 定電流, 60分)した。
転写後のPVDF膜は、ブロックエース(大日本製薬)を用いて4℃、30分間ブロッキングし、次いで、0.1% Tween20を含むブロックエースで5,000倍に希釈したHRP結合抗プリオン蛋白質モノクローナル抗体(T2-HRP)を含む溶液をPVDF膜に添加し、4℃、1時間インキュベートした。
抗体と反応させたPVDF膜は、0.1% Tween 20 を含むPBSで10分間、3回洗浄し、化学発光検出試薬で膜を展開し、画像解析装置を用いて化学発光を検出した。
【0071】
[比較例1]
[ラクトフェリン固定化ビーズによる、非感染脳からの異常型プリオン蛋白質の検出]
正常なマウス脳(以下に、正常脳、又は非感染脳ともいう)を使用して、以下のようにラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の検出を行った。
【0072】
(ラクトフェリン固定化ビーズの作製)
実施例1と同様に行った。
【0073】
(脳組織を可溶化した試料(脳乳剤)の調製)
異常型プリオン蛋白質に感染したマウスに代えて、正常なマウス(非感染マウス)から取り出した脳を使用したことを除き、実施例1と同様に行って、正常脳による脳乳剤(以下に正常脳乳剤、又は非感染脳乳剤ともいう)を得た。
【0074】
(ラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の分離)
感染脳乳剤に代えて、非感染脳乳剤を使用したことを除き、実施例1と同様に行って、試験試料を得た。
【0075】
(イムノブロットによる検出)
感染脳乳剤に由来する試験試料に代えて、非感染脳乳剤に由来する試験試料を使用したことを除き、実施例1と同様に行った。
【0076】
(結果)
図1は、実施例1及び比較例1において得られたイムノブロットの結果を示した図である。いずれのレーンでもプロテアーゼK処理は施していない(PK−)。
【0077】
レーン1、2及び3は、感染脳乳剤に対してラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の分離を行って得られた試験試料によるもの(実施例1)である。レーン1の試料を10倍希釈してイムノブロットしたレーンがレーン2であり、レーン1の100倍希釈がレーン3である。レーン4は、非感染脳乳剤に対してラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質の分離を行って得られた試験試料によるもの(比較例1)である。
【0078】
レーン1、2及び3においては、濃度依存的にプリオン蛋白質のバンドが観察され、レーン1の100倍希釈であるレーン3においても、明瞭にプリオン蛋白質のバンドが観察される。これは試料の由来から、異常型プリオン蛋白質を示している。すなわち、ラクトフェリン固定化ビーズとの結合によって、感染脳に由来する異常型プリオン蛋白質が分離され、検出された。
【0079】
一方、レーン4においては、操作的にレーン1と同程度の濃度となっている試料であるにもかかわらず、プリオン蛋白質のバンドは観察されない。すなわち、ラクトフェリン固定化ビーズとの結合によっては、非感染脳に由来する正常型プリオン蛋白質は、回収されることはなく、検出されることはなかった。
【0080】
以上から、感染脳に由来する異常型プリオン蛋白質は、ラクトフェリン固定化ビーズに特異的に結合すること、非感染脳に由来する正常型プリオン蛋白質は、ラクトフェリン固定化ビーズに結合しないことがわかった。さらに、ラクトフェリン固定化ビーズを使用して、異常型プリオン蛋白質を、正常型プリオン蛋白質から分離回収して得ることができ、これによって、異常型プリオン蛋白質を検出することができることがわかった。
【0081】
[比較例2]
[プロテアーゼKを使用した、異常型プリオン蛋白質の検出]
プロテアーゼKを使用して行う従来の方法によって、異常型プリオン蛋白質を正常型プリオン蛋白質から区別して検出する実験(比較例2)を、以下のように行った。
【0082】
(脳乳剤の調製)
異常型プリオン蛋白質に感染したマウスの脳(以下に感染脳ともいう)、及び非感染マウス(正常マウス)の脳(以下に非感染脳、又は正常脳ともいう)を用意し、これらのマウス脳をそれぞれバイオマッシャーに入れ、10,000×g 2分間遠心分離し、回収したペレットにNP-40 RIPAを加え10%(w/v)脳乳剤を作成した。これを、4℃で15分インキュベートした後、攪拌混和し、10,000×g 2分間遠心分離して、上清を回収した。回収した上清にNP-40 RIPAを加え、0.5%(w/v)脳乳剤に調整して、感染脳乳剤、及び非感染脳乳剤を得た。
【0083】
(プロテアーゼKによる酵素分解処理)
これらの脳乳剤500μl に、プロテイナーゼKを最終濃度20 μg/mlとなるように添加し、37℃、30分間インキュベートした。反応後、プロテイナーゼK阻害剤(Pefablock)を5 μl加え、さらにButhanol-Methanol solutionを250μl 加え、攪拌混和した後、20,000×g、10分間遠心分離した。遠心分離後、ペレットに50 μl中性緩衝液(NuPAGE LDSサンプルバッファー(4×)、Invitrogen社製)を加え95℃、10分間加熱して、それぞれ感染脳乳剤由来の試料、及び非感染脳乳剤由来の試料を得た。
【0084】
(イムノブロットによる検出)
上記のようにして得た、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行った感染脳乳剤(プロテアーゼK処理感染脳乳剤)、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行った非感染脳乳剤(プロテアーゼK処理非感染脳乳剤)、さらに、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行っていない感染脳乳剤(もとの感染脳乳剤)、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行っていない非感染脳乳剤(もとの非感染脳乳剤)の4種類の試料に対して、イムノブロット法により、プリオンタンパク質の検出を行った。
すなわち、試料を、NuPAGEゲルを用いて電気泳動(40 mA 定電流, 70分)し、次いで、タンク式転写装置を用いてPVDF膜にゲル中のタンパク質を転写(220 mA 定電流, 60分)した。
転写後のPVDF膜は、ブロックエース(大日本製薬)を用いて4℃、30分間ブロッキングし、次いで、0.1% Tween20を含むブロックエースで5,000倍に希釈したHRP結合抗プリオン蛋白質モノクローナル抗体(T2-HRP)を含む溶液をPVDF膜に添加し、4℃、1時間インキュベートした。
抗体と反応させたPVDF膜は、0.1% Tween 20 を含むPBSで10分間、3回洗浄し、化学発光検出試薬で膜を展開し、画像解析装置を用いて化学発光を検出した。
【0085】
(結果)
図2は、比較例2において得られたイムノブロットの結果を示した図である。レーン1及び2は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行っていないレーン(PK−)であり、レーン3及び4は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行った(PK+)レーンである。
【0086】
レーン1は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行っていない感染脳乳剤(もとの感染脳乳剤)を試料としたレーンである。レーン2は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行っていない非感染脳乳剤(もとの非感染脳乳剤)を試料としたレーンである。レーン3は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行った感染脳乳剤(プロテアーゼK処理感染脳乳剤)を試料としたレーンである。レーン4は、プロテアーゼKによる酵素分解処理を行った非感染脳乳剤(プロテアーゼK処理非感染脳乳剤)を試料としたレーンである。
【0087】
レーン1及び2では、イムノブロットによってプリオンタンパク質のバンドが検出されており、プロテアーゼK未処理の状態では、異常型プリオン蛋白質(レーン1)であっても、正常型プリオン蛋白質(レーン2)であっても、いずれも検出されることが示されている。これに対して、レーン3及び4では、イムノブロットによって、異常型プリオン蛋白質(レーン3)のみにバンドが検出され、正常型プリオン蛋白質(レーン4)にはバンドが検出されていないことから、プロテアーゼK処理によって、異常型プリオン蛋白質と正常型プリオン蛋白質とを区別し、異常型プリオン蛋白質のみを検出することができることが示されている。
【0088】
以上に示された比較例2の結果(図2)を、実施例1及び比較例1で得られた結果(図1)と比較によって次のことがわかった。すなわち、ラクトフェリン固定化ビーズによる異常型プリオン蛋白質と正常型プリオン蛋白質との識別は、プロテアーゼKを使用した従来の方法と同程度以上に、確実性と信頼性があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、動物に由来する原材料を使用した飲食品及び医薬品に対して、異常型プリオン蛋白質(感染性プリオン蛋白質)による汚染の検査を、従来よりも、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、さらに低コストで行うことができる。また、ヒト及び動物におけるプリオン病の診断を、従来よりも、簡便に迅速且つ高感度で定量的に、さらに低コストで行うことができる。これによって、ヒト及び動物へのプリオン病の感染防止や早期診断という社会の要請に応えることができる。本発明は、このように産業上の利用可能性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1はラクトフェリン固定化ビーズへの異常型プリオン蛋白質の特異的な結合を示すイムノブロットの結果である。
【図2】図2は従来法であるプロテアーゼK処理による異常型プリオン蛋白質の識別を示すイムノブロットの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリンが含まれてなる、異常型プリオン蛋白質結合剤。
【請求項2】
ラクトフェリンが担体に固定化されてなる、請求項1に記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
【請求項3】
異常型プリオン蛋白質検出剤である、請求項1又は請求項2に記載の異常型プリオン蛋白質結合剤。
【請求項4】
次の工程:
請求項2に記載の異常型プリオン蛋白質結合剤を、試料に接触させる工程、
試料に接触させた該異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程、
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の検出方法。
【請求項5】
分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を検出する工程が、分離した成分に含まれる異常型プリオン蛋白質を免疫学的検出法によって検出する工程である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
次の工程:
請求項2に記載の異常型プリオン蛋白質結合剤を、試料に接触させる工程、
試料に接触させた該異常型プリオン蛋白質結合剤から、結合した成分を分離する工程、
を含む、異常型プリオン蛋白質の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−128042(P2009−128042A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300388(P2007−300388)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【特許番号】特許第4246777号(P4246777)
【特許公報発行日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】