説明

異常診断装置

【課題】プラントの異常を高精度で診断する。
【解決手段】所定のタイミングで、グループデータ記憶部20から異なる複数の変数で構成される複数のグループに関するグループデータを読み出し、各グループについて、読み出したグループデータに含まれる変数の値と、プラントから入力した当該プラントの状態を表す複数の変数の値とを利用してマハラノビス距離を算出する算出部13と、各グループについて、算出部13で算出されたマハラノビス距離と、グループ毎に予め設定される異常の判定に利用する判定値とを比較して異常を診断する診断部14と、診断部14における全てのグループについての診断結果を統合し、異常の原因を特定する特定部15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラントの異常を診断する異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラントは、複数の機器が様々な条件で運転されている。また、プラントでは、複数のセンサを利用して状態が計測されている。プラントの異常は、この複数の条件値や、複数のセンサの計測値から検出することができるが、例えば、各センサの計測値が各センサの計測値毎に定められる上下限値(閾値)を超えたときに異常と判断する方法が主流である。一方、各センサの計測値毎に上下限値を設定する場合、使用するセンサを増やすと上下限値の数も増やす必要があり、異常判定用の値の管理が複雑になる問題があった。
【0003】
これに対し、近年、MT法(マハラノビス・タグチメソッド)というパターン認識技術を用いて異常を診断する技術もある。MT法は、「いつもと同じ」状態であるかどうかを診断するものであり、予め設定したいつもと同じ状態を表すマハラノビス空間の中心を基準として、求めた診断対象のマハラノビス距離がこのマハラノビス空間より遠くなるときに異常と判断する方法である。具体的には、センサの計測データを複数のグループに分け、それぞれのグループ毎に単位空間を生成し、MT法を利用して異常を診断するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、MT法を利用する場合、異常の判定に利用する判定値(閾値)は、どのような単位空間に対しても、どのような状態に対しても一般的には4程度といわれている。しかしながら、実際に求められるマハラノビス距離は、対象の単位空間によって値が大きく異なり、一桁〜数桁まで幅広い。したがって、最適な閾値を使用しないで判定した場合、高精度な異常の診断が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−181188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の異常診断では、高精度で異常診断することは困難であった。
【0007】
上記課題に鑑み、高精度で異常診断する異常診断装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、所定のタイミングで、グループデータ記憶部から異なる複数の変数で構成される複数のグループに関するグループデータを読み出し、各グループについて、読み出したグループデータに含まれる変数の値と、プラントから新たに入力した当該プラントの状態を表す複数の変数の値とを利用してマハラノビス距離を算出する算出部と、各グループについて、算出部で算出されたマハラノビス距離と、グループ毎に予め設定される異常の判定に利用する判定値とを比較して異常を診断する診断部と、診断部における全てのグループについての診断結果を統合し、異常の原因を特定する特定部とを備える。
【0009】
また、請求項2の発明は、所定のタイミングで、異常と特定されたグループの判定値を変更する変更部をさらに備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラントの異常診断の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る異常診断装置を説明するブロック図である。
【図2】異常診断装置で利用する蓄積データの一例を説明するデータ構成図である。
【図3】異常診断装置で利用するグループデータの一例を説明するデータ構成図である。
【図4】異常診断装置における処理の一例を説明するフローチャートである。
【図5】MT法を利用した異常診断について説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る異常診断装置は、プラントの運転の異常を診断する異常診断装置である。例えば、異常診断装置が診断するプラントは、発電プラントである。発電プラントは、複数の機器(ポンプ、バルブ等)を備えており、これらの機器を制御する値が目標値として設定されている。この目標値は、例えば、ポンプの圧力、バルブの開閉等である。また、発電プラントでは、複数のセンサを備えており、各センサで吸気量、排気量、発電量等が計測されている。
【0013】
さらに、発電プラントでは、様々な運転状態が設定可能であって、運転状態によって各機器に設定する目標値、各センサで計測される計測値が異なる。例えば、発電プラントでは、常に一定量の電力を発電する必要はなく、電力需要に合わせて発電する。したがって、時間帯、曜日、季節等に合わせて運転状態を変えることができ、運転状態で各機器の目標値が異なる。また、各機器の目標値が異なることにより、運転状態で各センサの計測値も異なる。
【0014】
図1に示すように、実施形態に係る異常診断装置1は、プラントから入力した新たな変数で蓄積データ21を更新する更新部11と、異常の診断に利用するグループを生成し、各グループに診断で利用する判定値を設定してグループデータ22として記憶させる生成部12と、プラントから新たに入力する変数とグループデータ22の変数を利用して複数のグループについてマハラノビス距離を算出する算出部13と、算出部13が算出したマハラノビス距離を利用してグループ毎に異常を診断する診断部14と、診断部14で得られた各グループに関する診断結果を利用して特定データ23から異常の原因を特定する特定部15と、グループデータ22の判定値を変更する変更部16とを備えている。
【0015】
異常診断装置1は、例えば、中央処理装置(CPU)10や記憶装置20を備える情報処理装置であって、記憶装置20に記憶される異常診断プログラムPが読み出されて実行されることで、図1に示すように、CPU10に更新部11、生成部12、算出部13、診断部14、特定部15及び変更部16が実装される。記憶装置20では、異常診断プログラムPの他、蓄積データ21、グループデータ22及び特定データ23を記憶している。また、異常診断装置1は、操作を入力するキーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル等の入力装置2と接続されており、異常診断の処理過程や結果を出力するディスプレイ、スピーカ等の出力装置3と接続されている。
【0016】
更新部11は、プラントから新たに各変数の値を入力すると、入力した各変数の値を含む新たなレコードを生成し、生成したレコードを追加して記憶装置20に記憶される蓄積データ21を更新する。
【0017】
蓄積データ21は、過去のプラントの状態を表す変数のレコードを蓄積したデータである。蓄積データ21の変数は、プラントの運転の条件値及び当該条件値の場合にプラントで計測された計測値である。図2に示す一例では、蓄積データ21は、プラントの運転の条件値であるプラントの各機器に設定する目標値(変数1、2)と、このモード及び目標値の場合に計測された計測値(変数4、5)等を関連づけたレコードを有している。また、図2に示す蓄積データ21の一例では、各レコードに時刻等のサンプル番号を付している。
【0018】
生成部12は、グループを生成する所定のタイミングで、記憶装置20から蓄積データ21を読み出し、変数が所定の抽出条件を満たすレコードを抽出して複数のグループを生成する。この抽出条件は、例えば、入力装置2を介して入力される。例えば、変数1や変数2(目標値)の値、変数4や変数5(計測値)の値のいずれか一つを抽出条件としても良いし、複数の変数の値の組み合わせを抽出条件としても良い。生成部12は、生成した複数のグループにプラントの異常診断に利用する判定値を設定し、グループの各変数の値と判定値とを含むグループデータ22を生成して記憶装置20に記憶する。
【0019】
すなわち、グループデータ22は、図3(a)や図3(b)に示すように、蓄積データ21の選択されたレコードのみを有するデータである。なお、図1の一例では、記憶装置20には1つのグループデータ22を記憶するものとして示しているが、記憶装置20では、複数のグループデータ22、すなわち、各グループについてのグループデータ22を記憶するものとする。
【0020】
ここで、生成部12がグループを生成する所定のタイミングは、例えば、定期的なタイミングや、入力装置2を介して入力されるタイミングである。また、生成部12で判定値とする値は、このグループについて求められるマハラノビス空間を表す値である。この判定値は、例えば、入力装置2を介して入力される。
【0021】
算出部13は、異常を診断する所定のタイミングで、記憶装置20から各グループのグループデータ22を読み出し、読み出したグループデータ22が有する各変数の値を抽出する。また、算出部13は、グループデータ22から抽出した各変数の値とプラントから入力した新たな変数とを利用して、各グループのマハラノビス距離を求め、求めた値を診断部14に出力する。ここで、異常を診断する所定のタイミングとは、例えば、定期的なタイミングである。
【0022】
具体的には、(1)まず、算出部13は、各変数に対して平均値と標準偏差を求める。(2)その後、算出部13は、各変数の値と、各変数に対して求めた平均値及び標準偏差を利用してデータを基準化し、各変数に対する基準化値を求める。(3)続いて、算出部13は、各変数に対して求めた基準化値を利用して、各変数についての相関行列を求めるとともに、相関行列の逆行列を求める。(4)最後に、算出部13は、求めた逆行列を利用してマハラノビス距離を求める。このようにして求められたマハラノビス距離により、対象のグループの値について現在の状態といつもの状態との違いを特定することができ、プラントにおける現在の状態といつもの状態との違いを求めることができる。
【0023】
診断部14は、算出部13から各グループのマハラノビス距離を入力すると、各グループのグループデータ22を読み出し、読み出したグループデータ22が有する判定値を抽出する。また、診断部14は、グループ毎に、算出部13から入力したマハラノビス距離を、グループデータ22から抽出した判定値と比較し、プラントの運転状態が正常であるか異常であるかを判定し、各グループのマハラノビス距離とともに診断結果として特定部15及び出力装置3に出力する。例えば、診断部14から診断結果を入力する出力装置3は、診断部14による診断結果を出力して異常の発生をユーザ等に通知することができる。
【0024】
例えば、図5に示すように、MT法を利用して異常を判定する場合、算出部13で求めたマハラノビス距離が設定された判定値より小さいとき、すなわちマハラノビス空間内にあるとき、診断部14は、現在のプラントの状態はいつもの状態と同じであるとし、プラントは正常に運転していると診断する。一方、算出部13で求めたマハラノビス距離が設定された判定値より大きいとき、すなわち、マハラノビス空間から外れているとき、診断部14は、現在のプラントの状態がいつもの状態とは異なる状態であるとし、プラントで異常が発生していると診断する。
【0025】
特定部15は、診断部14から診断結果を入力すると、特定データ23を読み出し、診断部14の各グループに関する診断結果を利用して、異常の原因を特定し、特定した異常の原因を変更部16及び出力装置3に出力する。例えば、特定部15から異常の原因を入力する出力装置3は、特定部15によって特定された異常の原因を出力して異常の原因を通知する。
【0026】
特定データ23は、各グループの診断結果と、異常原因のパターンとが関連づけられるデータである。ここで、例えば、特定データ23では、各グループのマハラノビス距離の変化パターンと異常原因とを関連付けていてもよい。すなわち、あるグループに関するマハラノビス距離が増加しているときには、プラントの所定箇所が異常原因であると特定することもできる。このようにマハラノビス距離の変化パターンから異常の原因を特定する場合、異常診断装置1では、記憶装置20等にマハラノビス距離の変化の履歴を記憶しておき、特定部15は、新たに入力する診断結果に加え、記憶される所定期間のマハラノビス距離の履歴を利用して異常の原因を特定する。
【0027】
変更部16は、異常診断に利用する判定値を更新するタイミングで、新たな判定値を求めて、グループデータ22の判定値を変更する。異常診断に利用する判定値を更新するタイミングとは、例えば、特定部15で異常の原因が特定されたタイミングである。または、変更部16は、定期的なタイミングで判定値を更新してもよい。
【0028】
例えば、変更部16は、過去の各状態でのマハラノビス距離の平均値を解析した統計値から対象のグループについての新たな判定値を求める。具体的には、正常時のマハラノビス距離の平均値と、異常時のマハラノビス距離の平均値とを比較することで、異常の判定に利用する判定値を求めることができる。
【0029】
なお、異常診断装置1は、複数の情報処理装置から構成されていてもよく、例えば、更新部11のみ他の処理部12〜16とは異なる情報処理装置に含まれていてもよい。また、記憶装置20に記憶されるデータの一部のみ外部の記憶装置に記憶されていてもよい。
【0030】
続いて、図4に示すフローチャートを用いて、異常診断装置1において最適なグループで異常を診断する処理について説明する。
【0031】
生成部12が、グループデータ22を生成するタイミングで、記憶装置20から蓄積データ21を読み出して抽出条件を満たすレコードの値を抽出し、グループデータ22を生成して記憶装置20に記憶させる(S1)。
【0032】
その後、算出部13は、各グループについてそれぞれ、記憶装置20からグループデータ22を読み出し、プラントから入力した変数の値とグループデータ22に含まれる変数の値を利用して、マハラノビス距離を算出する(S2)。
【0033】
算出部13から複数のグループのマハラノビス距離を入力した診断部14は、各グループについて、入力したマハラノビス距離をグループデータ22において設定されている判定値と比較し、プラントの運転状態が異常であるか診断し、診断結果を出力装置3及び特定部15に出力する(S3)。
【0034】
特定部15は、各グループの診断結果を統合して、異常があるとき、特定データを利用して異常箇所を特定する(S4)。
【0035】
異常診断装置1では、判定値の変更のタイミングでない場合(S5でNO)、ステップS2乃至S4の処理を繰り返す。また、異常診断装置1では、判定値の変更のタイミングになると(S5でYES)、変更部16で判定値を変更した後(S6)、ステップS2乃至S4の処理を繰り返す。
【0036】
なお、図4に示すフローチャートでは、グループデータ22の生成を繰り返すことについては示していないが、グループデータ22も、例えば定期的等の所定のタイミングで繰り返して生成しても良い。
【0037】
上述したように、本発明に係る異常診断装置では、グループ毎に設定した診断基準(判定値)でそれぞれ異常を診断したうえで、複数のグループの診断結果を統合してプラントの状態を診断するため、最適な判断基準により、高精度で異常診断することができる。また、異常診断装置では、異常診断をしながら変更した判断基準(判定値)を利用してプラントの異常を診断するため、高精度で異常診断することができる。
【0038】
以上、実施形態を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載及び特許請求の範囲の記載と均等の範囲により決定されるものである。
【符号の説明】
【0039】
1…異常診断装置
10…CPU
11…更新部
12…生成部
13…算出部
14…診断部
15…特定部
16…変更部
20…記憶装置
21…蓄積データ
22…グループデータ
23…特定データ
P…異常診断プログラム
2…入力装置
3…出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの異常を診断する異常診断装置であって、
所定のタイミングで、グループデータ記憶部から異なる複数の変数で構成される複数のグループに関するグループデータを読み出し、各グループについて、読み出したグループデータに含まれる変数の値と、プラントから新たに入力した当該プラントの状態を表す複数の変数の値とを利用してマハラノビス距離を算出する算出部と、
各グループについて、前記算出部で算出されたマハラノビス距離と、グループ毎に予め設定される異常の判定に利用する判定値とを比較して異常を診断する診断部と、
前記診断部における全てのグループについての診断結果を統合し、異常の原因を特定する特定部と、
を備えることを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
所定のタイミングで、異常と特定されたグループの判定値を変更する変更部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−41491(P2013−41491A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178819(P2011−178819)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】