説明

異方性光散乱フィルム、その製造方法、光学フィルムおよび画像表示装置

【課題】正面方向からの入射光については略透過し、一方、斜め方向からの入射光に対しては散乱を示す、光散乱について角度依存性を有する異方性光散乱フィルムを提供すること。
【解決手段】マトリクス成分中に、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分が、前記マトリクス成分とは相分離したドメインとして分散していることを特徴とする異方性散乱フィルム。但し、nx、nyおよびnzは、分散成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムのX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記フィルムの面内で屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、前記Y軸方向とは、前記フィルムの面内で前記X軸方向に垂直な方向(面内進相軸方向)であり、前記Z軸方向とは、前記X軸方向および前記Y軸方向に垂直な前記フィルムの厚み方向である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性光散乱フィルムおよびその製造方法に関する。当該異方性光散乱フィルムは、これ単独で、または、偏光板、位相差板、輝度向上フィルム、拡散シートまたは集光シート等と組み合わせた光学フィルムとして用いることができる。さらに本発明は、前記異方性光散乱フィルムまたは前記光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、CRT、PDP等の画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光散乱は、光の屈折、反射、干渉、回折等が複雑に混ざった現象であり、一般に、屈折率差を有する界面に光線が入射した場合に起こる。異方性光散乱フィルムは、光線の入射方向によって光散乱の強さに異方性を有する異方性光散乱素子の一種であり、液晶表示装置等の画像表示装置において、視野角を拡大する用途等に広く使用されている。
【0003】
従来の異方性光散乱素子としては、例えば、表面に凹凸形状が形成され、空気との界面の屈折率差を利用するタイプがある。また、相分離によって、屈折率の異なる層からなるブラインド状の積層構造を形成し、それに起因する回折現象によって光散乱の異方性を発現するタイプがある(特許文献1)。しかし、これらは、厚みが大きい、光散乱の異方性の制御方法が煩雑である、等の問題がある。
【0004】
また、媒質中に、その媒質と屈折率の異なる粒子を分散させた異方性光散乱素子も知られている(特許文献2)。例えば、特許文献2では、複屈折性を有する透光性の媒質中に屈折率が等方的である透光性微粒子が分散されている異方性光散乱素子が開示されており、前記媒質としては液晶材料および非液晶性樹脂が挙げられている。しかし、特許文献2に記載の製造方法では、前記媒質に複屈折性(屈折率異方性)を与えるためには、配向膜、電場、磁場等による液晶材料分子の配向や非液晶性樹脂の延伸が必要であり、製造の簡便性に課題がある。
【0005】
また、複屈折性の透光性媒質樹脂中に等方屈折性の透光性微粒子が分散している溶液を、フィルム状に形成し、さらに乾燥させて透光性媒質樹脂フィルムを形成する際に生じる応力により前記複屈折性を前記透光性媒質樹脂に付与することにより、異方性光散乱フィルムを製造する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、特許文献3により得られる異方性光散乱フィルムでは、光散乱の角度依存性が悪く、入射角度に関わらず入射光を強く散乱する。そのため、特許文献3により得られる異方性光散乱フィルムは、正面方向からの入射光についても光散乱が強く、液晶表示装置等の画像表示装置に適用すると、正面方向からの直線偏光についても散乱して、光の透過効率が悪くなり、異方性光散乱フィルムとしての機能は十分とはいえなかった。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−077001号公報
【特許文献2】特開平ll−029772号公報
【特許文献3】特開2004−361656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、正面方向からの入射光については略透過し、一方、斜め方向からの入射光に対しては散乱を示す、光散乱について角度依存性を有する異方性光散乱フィルムを提供することを目的とする。また本発明は、前記異方性光散乱フィルムを簡便に製造できる方法を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、前記異方性光散乱フィルムを用いた光学フィルムを提供すること、さらには、前記異方性光散乱フィルムまたは前記光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す異方性光散乱フィルム等により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、マトリクス成分中に、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分が、前記マトリクス成分とは相分離したドメインとして分散していることを特徴とする異方性光散乱フィルムに関する。
【0011】
但し、nx、nyおよびnzは、分散成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムのX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記フィルムの面内で屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、前記Y軸方向とは、前記フィルムの面内で前記X軸方向に垂直な方向(面内進相軸方向)であり、前記Z軸方向とは、前記X軸方向および前記Y軸方向に垂直な前記フィルムの厚み方向である。
【0012】
前記異方性光散乱フィルムにおいて、前記分散成分の屈折率が、下記数式(1)および数式(2)の条件を満足することが好ましい。
|nx−ny|≦0.02 (1)
nz−(nx+ny)/2≧0.02 (2)
【0013】
前記異方性光散乱フィルムにおいて、前記マトリクス成分が、npx>npy≒npz、npx≧npy>npz、またはnpx≒npy≒nzの屈折率分布を満足することが好ましい。
【0014】
但し、npx、npyおよびnpzは、マトリクス成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムのX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記フィルムの面内で屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、前記Y軸方向とは、前記フィルムの面内で前記X軸方向に垂直な方向(面内進相軸方向)であり、前記Z軸方向とは、前記X軸方向および前記Y軸方向に垂直な前記フィルムの厚み方向である。
【0015】
前記異方性光散乱フィルムにおいて、前記マトリクス成分の屈折率と、前記分散成分の屈折率は、下記数式(3)、数式(4)および数式(5)を満足することが好ましい。
|nx−npx|≦0.02 (3)
|ny−npy|≦0.02 (4)
nz−npz≧0.02 (5)
【0016】
前記異方性光散乱フィルムにおいて、前記マトリクス成分中で、前記分散成分が相分離して形成しているドメインは、異方性光散乱フィルムの厚み方向に長軸、フィルム面内方向に短軸を有することが好ましい。
【0017】
また、前記ドメインの長軸サイズが0.02〜4μmであり、短軸サイズが0.01〜2μmであることが好ましい。また、長軸サイズと短軸サイズの平均アスペクト比が1.5以上であることが好ましい。
【0018】
前記異方性光散乱フィルムにおいて、前記分散成分の含有率は、マトリクス成分と分散成分の合計に対して1〜50重量%であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、前記異方性光散乱フィルムの製造方法であって、
前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料を含有する溶液を調製する工程(1)、
前記溶液を、基材上に塗布する工程(2)、
前記基材上に塗布された溶液を固化することよりフィルムを形成する工程(3)、を有することを特徴とする異方性光散乱フィルムの製造方法、に関する。
【0020】
また本発明は、前記異方性光散乱フィルムを少なくとも1枚含むことを特徴とする光学フィルム、に関する。
【0021】
また本発明は前記異方性光散乱フィルム、または前記光学フィルムを含むことを特徴とする画像表示装置、に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の異方性光散乱フィルムは、図1に示すように、マトリクス成分(B)中に、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分(A)が、前記マトリクス成分とは相分離したドメインとして分散している構造を有する。本発明の異方性光散乱フィルム中において、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分の屈折率楕円体の概念図は、図2(A)に示すように、X軸、Y軸の方向、即ち、フィルム面内の方向では、屈折率が略同じであるのに対し、Z軸の方向、即ち、フィルムの厚み方向の屈折率は、フィルム面内の方向の屈折率に比べて大きい。かかる、屈折率楕円体が分散成分として、フィルム面内にドメインとして存在することにより、フィルムに対して正面の方向(法線方向)への入射光は、略そのまま透過し、一方、斜めからの入射光はZ軸方向に屈折率が大きいことによって散乱させることができ、光散乱の角度依存性を有する異方性光散乱フィルムが得られる。
【0023】
また、異方性光散乱フィルムのマトリクス成分として、npx>npy≒npz、npx≧npy>npz、またはnpx≒npy≒nzの屈折率分布を満足するものを用いた場合には、マトリクス成分において、X軸、Y軸の方向、即ち、フィルム面内の方向では、前記分散成分の屈折率と略一致させるとともに、一方、Z軸の方向、即ち、フィルムの厚み方向では、前記マトリクス成分と分散成分の屈折率の差を大きくなるように設定することができ、正面の方向への入射光は、略そのまま透過しながら、斜めからの入射光はより強く散乱させることができる。
【0024】
なお、図2(B)は、npx≒npy≒nzの屈折率分布を満足するマトリクス成分の屈折率楕円体の概念図である。図2(C)は、マトリクス成分と分散成分のフィルム面内の方向の屈折率が同じ場合を想定して、図2(A)と図2(B)を重ね合わせ概念図である。図2(C)に見られるように、図2(A)の分散成分の屈折率楕円体と、図2(B)のマトリクス成分の屈折率楕円体は、正面方向の入射光を略そのまま出射光として透過し、一方、斜め方向の入射光は、Z軸の方向の屈折率の相違によって散乱されて出射されることが分かる。
【0025】
また、異方性光散乱フィルムにおいて、前記マトリクス成分中で、前記分散成分は、得られるフィルムの厚さ方向に長軸を持ち、フィルム面内方向に短軸を持つように棒状に相分離構造のドメインを形成することができる。かかるドメインの特異な構造も、斜め方向からの入射光の異方性光散乱性を有効に行うことに役立つことができる。
【0026】
かかる本発明の異方性光散乱フィルムは、正面方向からの入射光については略透過し、一方、斜め方向からの入射光に対しては散乱する、光散乱の角度依存性を有することから、これを、液晶パネル、特にツイステッドネマチックモード液晶パネルの最表面に積層することにより、黒表示時において、下方向から漏れてくる光(液晶パネル側からの光)を、正面方向に配光することなく散乱し、正面コネトラストを低下させずに視野角を拡大することができる。
【0027】
また、本発明の異方性光散乱フィルムは、前記分散成分が、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足するものであり、例えば、当該分散成分の形成材料として、所定の複屈折性液晶ポリマーを用いることで、フィルム形成の際の応力によって、当該液晶ポリマーを、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足するように配向させることができ、配向膜、電場、磁場、延伸等による配向処理を用いなくとも、異方性光散乱フィルムを簡便に製造できる製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の異方性光散乱フィルムは、前述の図1に示すように、マトリクス成分(B)中に、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分(A)が、前記マトリクス成分とは相分離したドメインとして分散している構造を有する。分散成分(A)、マトリクス成分(B)はいずれも透光性を有するものが好ましく用いられる。
【0029】
前記分散成分(A)は、分散成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムが、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足するものである。当該分散成分は、光学軸がZ軸方向にあり、しかも主屈折率nx及びnyがほぼ同一であり、かつnzがnx、nyよりも大きい関係を満たすものであり、異方性光散乱フィルムにおいて、マトリクス成分(B)中でも前記同様の屈折率分布を満足するものと考えられる。
【0030】
なお、nx、nyおよびnzは、接眼レンズ部に検光子を設けたAbbe屈折率計を用いて温度20℃、測定波長λ=589.3nmで測定した値である。後述のnpx、npyおよびnpzについても前記同様である。
【0031】
また、前記分散成分の屈折率は、下記数式(1)および数式(2)の条件を満足することが好ましい。
|nx−ny|≦0.02 (1)
nz−(nx+ny)/2≧0.02 (2)
【0032】
|nx−ny|は、nxとnyの差の絶対体である。従って、nx≒nyとは、nxとnyの屈折率差が、0.02以下であることが好ましいことを示す。なお、記号「≒」は、本発明において前記屈折率差の許容範囲が前記同様の範囲が好ましいことを示す。
【0033】
|nx−ny|の値は小さいほど、正面方向での屈折率差が小さく、小さくなるほど正面方向の透過性が良好になる。|nx−ny|の値は、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下、理想的には0である。また、nz−(nx+ny)/2の値は大きいほど、厚み方向での屈折率差が大きく、斜め方向での光散乱を強くなる。nz−(nx+ny)/2の値は、好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上、特に好ましくは0.05以上であり、その上限値は特に限定されないが、例えば0.1以下である。
【0034】
前記分散成分の形成材料としては、例えば、ホメオトロピック配向性を示し液晶材料を用いることができる。ホメオトロピック配向性の液晶材料としては、例えば、化学総説44(表面の改質,日本化学会編,156〜163頁)に記載されているような、垂直配向剤によりホメオトロピック配向させることができる、一般的なネマチック液晶化合物があげられる。
【0035】
またホメオトロピック配向性の液晶材料としては、ホメオトロピック配向性の側鎖型液晶ポリマーがあげられる。ホメオトロピック配向性の側鎖型液晶ポリマーとしては、たとえば、液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(b)を含有する側鎖型液晶ポリマーがあげられる。
【0036】
前記側鎖型液晶ポリマーは、垂直配向膜を用いなくても、たとえば熱処理により液晶状態としネマチック液晶相を発現させ、液晶ポリマーのホメオトロピック配向を実現することができる。
【0037】
前記モノマーユニット(a)はネマチック液晶性を有する側鎖を有するものであり、たとえば、一般式(a):
【0038】
【化1】

【0039】
(ただし、R1は水素原子またはメチル基を、aは1〜6の正の整数を、X1は−CO2−基または−OCO−基を、R2はシアノ基、炭素数1〜6のアルコキシ基、フルオロ基または炭素数1〜6のアルキル基を、bおよびcは1または2の整数を示す。)で表されるモノマーユニットがあげられる。
【0040】
またモノマーユニット(b)は、直鎖状側鎖を有するものであり、たとえば、一般式(b):
【0041】
【化2】

【0042】
(ただし、R3は水素原子またはメチル基を、R4は炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22のフルオロアルキル基、または一般式(b1):
【0043】
【化3】

【0044】
ただし、dは1〜6の正の整数を、R5は炭素数1〜6のアルキル基を示す。)で表されるモノマーユニットがあげられる。
【0045】
また、モノマーユニット(a)とモノマーユニット(b)の割合は、特に制限されるものではなく、モノマーユニットの種類によっても異なるが、モノマーユニット(b)の割合が多くなると側鎖型液晶ポリマーが液晶モノドメイン配向性を示さなくなるため、(b)/{(a)+(b)}=0.01〜0.8(モル比)とするのが好ましい。特に0.1〜0.5とするのがより好ましい。
【0046】
またホメオトロピック配向液晶層を形成しうる液晶ポリマーとしては、前記液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(a)と脂環族環状構造を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニット(c)を含有する側鎖型液晶ポリマーがあげられる。
【0047】
前記側鎖型液晶ポリマーも、垂直配向膜を用いずに、液晶ポリマーのホメオトロピック配向を実現することができる。前記モノマーユニット(c)はネマチック液晶性を有する側鎖を有するものであり、たとえば、一般式(c):
【0048】
【化4】

【0049】
(ただし、R6は水素原子またはメチル基を、hは1〜6の正の整数を、X2は−CO2−基または−OCO−基を、eとgは1または2の整数を、fは0〜2の整数を、R7はシアノ基、炭素数1〜12のアルキル基を示す。)で表されるモノマーユニットモノマーユニットがあげられる。
【0050】
また、モノマーユニット(a)とモノマーユニット(c)の割合は、特に制限されるものではなく、モノマーユニットの種類によっても異なるが、モノマーユニット(c)の割合が多くなると側鎖型液晶ポリマーが液晶モノドメイン配向性を示さなくなるため、(c)/{(a)+(c)}=0.01〜0.8(モル比)とするのが好ましい。特に0.1〜0.6とするのがより好ましい。
【0051】
ホメオトロピック配向性の液晶ポリマーは、前記例示のモノマーユニットを有するものに限られず、また前記例示モノマーユニットは適宜に組み合わせることができる。
【0052】
前記側鎖型液晶ポリマーの重量平均分子量は、2千〜10万であるのが好ましい。重量平均分子量をかかる範囲に調整することにより液晶ポリマーとしての性能を発揮する。側鎖型液晶ポリマーの重量平均分子量が過少では配向層の成膜性に乏しくなる傾向があるため、重量平均分子量は2.5千以上とするのがより好ましい。一方、重量平均分子量が過多では液晶としての配向性に乏しくなって均一な配向状態を形成しにくくなる傾向があるため、重量平均分子量は5万以下とするのがより好ましい。
【0053】
なお、前記例示の側鎖型液晶ポリマーは、前記モノマーユニット(a)、モノマーユニット(b)、モノマーユニット(c)に対応するアクリル系モノマーまたはメタクリル系モノマーを共重合することにより調製できる。なお、モノマーユニット(a)、モノマーユニット(b)、モノマーユニット(c)に対応するモノマーは公知の方法により合成できる。共重合体の調製は、例えばラジカル重合方式、カチオン重合方式、アニオン重合方式などの通例のアクリル系モノマー等の重合方式に準じて行うことができる。なお、ラジカル重合方式を適用する場合、各種の重合開始剤を用いうるが、そのうちアゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどの分解温度が高くもなく、かつ低くもない中間的温度で分解するものが好ましく用いられる。
【0054】
異方性光散乱フィルムにおける、マトリクス成分(B)としては、特に制限はないが、マトリクス成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムについて、Z軸方向の屈折率npzが、X軸方向および前記Y軸方向の屈折率npx、npyと同等または小さいものを好ましく用いることができる。かかるマトリクス成分(B)の形成材料としては、例えば、npx>npy≒npz、もしくは、npx≧npy>npz、の屈折率分布を満足する複屈折材料、またはnpx≒npy≒nzの屈折率分布を満足する等方性の材料を用いることができる。なお、異方性光散乱フィルムにおいて、マトリクス成分(B)は前記材料と同様の屈折率分布を満足するものと考えられるが、必ずしも、材料の屈折率分布をそのまま維持していなくともよい。例えば、マトリクス成分(B)は、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分の影響で、厚み方向に傾斜している部位が存在していてもよい。
【0055】
前記マトリクス成分の屈折率は、前記分散成分の屈折率との関係で、下記数式(3)、数式(4)および数式(5)を満足することが好ましい。
|nx−npx|≦0.02 (3)
|ny−npy|≦0.02 (4)
nz−npz≧0.02 (5)
【0056】
|nx−npx|、|ny−npy|の値は小さいほど、マトリクス成分と分散成分とのX軸方向およびY軸方向の屈折率差、即ち、フィルム全体において、X軸方向およびY軸方向の屈折率が略一致するようになって、正面方向の透過性が良好になる。|nx−npx|、|ny−npy|の値は小さいほど好ましく、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下、理想的には0である。また、nz−npzの値は大きいほど、フィルム全体において、厚み方向での屈折率差が大きく、斜め方向での光散乱を強くなる。nz−npzの値は、好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上、特に好ましくは0.05以上であり、その上限値は特に限定されないが、例えば0.1以下である。
【0057】
前記マトリクス成分の形成材料としては、前記例示のなかでも、npx>npy≒npzの屈折率分布を満足する複屈折材料が好ましい。特に、npx>npy≒npzの屈折率分布を満足する複屈折材料は、分散成分の形成材料として、ホメオトロピック配向性の液晶材料を用いる場合に好適である。
【0058】
前記マトリクス成分の形成材料としては、前記屈折率分布を満足するものであれば特に制限はないが、当該材料を含有する溶液を、基材上に塗布した後、固化することにより形成することにより得られるフィルムが、前記屈折率分布を満足するものが好ましい。なお、前記固化とは、前記マトリクス成分の形成材料が非反応性材料の場合には、乾燥等の溶剤の除去による単なる固化によりフィルム化することを示し、前記マトリクス成分の形成材料が反応性材料の場合には、前記乾燥等に加えて、当該材料を反応させてフィルム化することを含む。以下に、マトリクス成分の形成材料としては、前記のようにして、マトリクス成分を形成することができる材料について主として説明する。
【0059】
npx>npy≒npz、の屈折率分布を満足する複屈折材料としては、例えば、ネマチック性液晶モノマーがあげられる。ネマチック性液晶モノマーは、塗布後、硬化させることにより、前記屈折率分布を満足するフィルムを形成することができる。
【0060】
前記ネマチック性液晶モノマーの具体例としては、下記一般式(1)で表されるモノマーがあげられる。これらの液晶モノマーは、一種類を用いてもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0061】
【化5】

【0062】
前記一般式(1)において、A1およびA2は、それぞれ重合性基を表し、同一でも異なっていてもよい。また、A1およびA2はいずれか一方が水素であってもよい。Xは、それぞれ単結合、−O−、−S−、−C=N−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CO−NR−、−NR−CO−、−NR−、−O−CO−NR−、−NR−CO−O−、−CH2−O−または−NR−CO−NRを表し、前記XにおいてRは、HまたはC1〜C4アルキルを表し、Mはメソゲン基を表す。前記一般式(1)において、Xは同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0063】
前記一般式(1)のモノマーの中でも、A2は、それぞれA1に対してオルト位に配置されていることが好ましい。
【0064】
また、前記A1およびA2は、それぞれ独立して下記一般式(2):
Z−X−(Sp)n (2)
で表されることが好ましく、A1およびA2は同じ基であることが好ましい。
【0065】
前記一般式(2)において、Zは架橋性基を表し、Xは前記一般式(1)と同様であり、Spは、1〜30個のC原子を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基からなるスペーサーを表し、nは、0または1を表す。前記Spにおける炭素鎖は、例えば、エーテル官能基中の酸素、チオエーテル官能基中の硫黄、非隣接イミノ基またはC1〜C4のアルキルイミノ基等により割り込まれてもよい。
【0066】
前記一般式(2)において、Zは、下記式で表される原子団のいずれかであることが好ましい。下記式において、Rとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル等の基があげられる。
【0067】
【化6】

【0068】
また、前記一般式(2)において、Spは、下記式で表される原子団のいずれかであることが好ましく、下記式において、mは1〜3、pは1〜12であることが好ましい。
【0069】
【化7】

【0070】
前記一般式(1)において、Mは、下記一般式(3)で表されることが好ましく、下記一般式(3)において、Xは、前記一般式(1)におけるXと同様である。Qは、例えば、置換または未置換のアルキレンもしくは芳香族炭化水素原子団を表し、また、例えば、置換または未置換の直鎖もしくは分枝鎖C1〜C12アルキレン等であってもよい。
【0071】
【化8】

【0072】
前記Qが、前記芳香族炭化水素原子団の場合、例えば、下記式に表されるような原子団や、それらの置換類似体が好ましい。
【0073】
【化9】

【0074】
前記式に表される芳香族炭化水素原子団の置換類似体としては、例えば、芳香族環1個につき1〜4個の置換基を有してもよく、また、芳香族環または基1個につき、1または2個の置換基を有してもよい。前記置換基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。前記置換基としては、例えば、C1〜C4アルキル、ニトロ、F、Cl、Br、I等のハロゲン、フェニル、C1〜C4アルコキシ等があげられる。
【0075】
前記液晶モノマーの具体例としては、例えば、下記化学式(4)〜(19)で表されるモノマーがあげられる。
【0076】
【化10】

【0077】
【化11】

【0078】
前記液晶モノマーが液晶性を示す温度範囲は、その種類に応じて異なるが、例えば、40〜120℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜100℃の範囲であり、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。
【0079】
なお、上記例示のネマチック性液晶モノマーの他に、npx>npy≒npz、の屈折率分布を満足する複屈折材料としては、例えば、ネマチック性液晶モノマーから得られたポリマー等があげられる。
【0080】
npx≧npy>npz、の屈折率分布を満足する複屈折材料としては、透光性に優れ(高透明性)、かつ乾燥により大きな複屈折性を発現できる(高配向性)という理由により、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミド等のポリマー材料があげられる。これらポリマー材料は、ホモポリマー、ヘテロポリマーのいずれもよい。これらポリマー材料は、1種または2種以上を組み合わせることができる。なお、ポリエーテルケトン、ポリアミドイミドおよびポリエステルイミドは、それぞれ、エーテル結合とカルボニル基とを含むポリマー、アミド結合とイミド結合とを含むポリマー、およびエステル結合とイミド結合とを含むポリマーを指す。これらのポリマーは、いずれか一種類を単独で使用しても良いし、例えば、ポリアリールエーテルケトンとポリアミドとの混合物のように、異なる官能基を持つ2種以上の混合物として使用しても良い。このようなポリマーの中でも、より高透明性、高配向性であることから、ポリイミドが特に好ましい。これら材料の具体例としては、特開2004−361656号公報に開示されているものを例示できる。
【0081】
前記ポリマーの分子量は、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量(Mw)が1,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、より好ましくは2,000〜500,000の範囲である。
【0082】
前記ポリイミドとしては、例えば、面内配向性が高く、有機溶媒に可溶なポリイミドが好ましい。具体的には、例えば、特表2000−511296号公報に開示された、9,9−ビス(アミノアリール)フルオレンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との縮合重合生成物の繰り返し単位を1つ以上含むポリマーが使用できる。この他にも、例えば、特表平8−511812号公報に記載された、繰り返し単位のホモポリマーのポリイミド等があげられる。
【0083】
さらに、前記ポリイミドとしては、例えば、前述のような骨格(繰り返し単位)以外の酸二無水物やジアミンを、適宜共重合させたコポリマーがあげられる。前記酸二無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物があげられる。前記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリト酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、複素環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、2,2′−置換ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等があげられる。前記ジアミンとしては、例えば、芳香族ジアミンがあげられ、具体例としては、ベンゼンジアミン、ジアミノベンゾフェノン、ナフタレンジアミン、複素環式芳香族ジアミン、およびその他の芳香族ジアミンがあげられる。
【0084】
前記ポリエーテルケトンとしては、例えば、特開2001−49110号公報に記載されたポリアリールエーテルケトンがあげられる。また、これらの他に、前記ポリアミドまたはポリエステルとしては、例えば、特表平10−508048号公報に記載されるポリアミドやポリエステルがあげられる。
【0085】
上記例示の複屈折材料の他に、npx≧npy>npz、の屈折率分布を満足する複屈折材料としては、例えば、可視光領域(380nm〜780nm)以外に選択反射波長を有するコレステリック液晶のプラナー配向状態を固定したものがあげられる。また、ディスコチック液晶のカラムナー配向やネマチック配向を利用したものがあげられる。また、面内に分子の広がりを有したフタロシアニン類やトリフェニレン類化合物のごとく負の1軸性を有するディスコチック液晶材料の、ネマチック相やカラムナー相を発現させて固定したものがあげられる。また、負の1軸性結晶を面内に配向させたものがあげられる。例えば、負の1軸性無機層状化合物としては、たとえば、特開平6−82777号公報などに詳しい。また、複屈折性を有するプラスチック材料を二軸延伸処理することにより、前記の屈折率分布を満足することもできる。
【0086】
npx≒npy≒nz、の屈折率分布を満足する等方性材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ノルボルエン系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、セルロース系ポリマー等があげられる。また、またこれらポリマーは2種以上を混合して用いることができる。これら等方性のポリマー材料、塗布後、硬化(固化)させることにより、前記屈折率分布を満足するフィルムを形成することができる。これら等方性ポリマーのなかでも、アクリル系ポリマーが好ましい。
【0087】
本発明の異方性光散乱フィルムは、前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料により主として形成される。本発明の異方性光散乱フィルムにおいて、前記分散成分の含有率は特に限定されないが、光散乱性やフィルム強度等の観点から、マトリクス成分と分散成分の合計に対して1〜50重量%であるが好ましく、1〜20重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることが特に好ましい。
【0088】
また、本発明の異方性光散乱フィルムは、前記マトリクス成分中で、前記分散成分が棒状で相分離してドメインを形成しているものが好ましい。さらには、当該棒状のドメインが、異方性光散乱フィルムの厚み方向に長軸、フィルム面内方向に短軸を有するものが好ましい。かかる棒状のドメインの構造は、分散成分として、ホメオトロピック配向性の液晶材料、特に液晶ポリマーを用いることにより得られる。
【0089】
かかる棒状のドメイン構造は、フィルムの厚み方向に長軸を有するが、散乱領域の広域化の点から、当該長軸サイズは0.02〜4μmであるのが好ましく、さらには0.1〜3μm、さらには0.5〜2μmであるのが好ましい。一方、短軸サイズは0.01〜2μmであるのが好ましく、さらには0.05〜1.5μm、さらには0.5〜1μmであるのが好ましい。また、前記分散成分のZ軸方向の長軸サイズと、X軸およびY軸方向の短軸サイズの平均アスペクト比は散乱領域の広域化の点から1.5以上であるのが好ましく、さらには2以上、さらには4以上であることが好ましい。なお、通常、前記平均アスペクト比は、10以下である。
【0090】
本発明の異方性光散乱フィルムは、
例えば、前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料を含有する溶液を調製する工程(1)、
前記溶液を、基材上に塗布する工程(2)、
前記基材上に塗布された溶液を固化することよりフィルムを形成する工程(3)、を施すことにより、本発明の異方性光散乱フィルムを得ることができる。
【0091】
前記工程(1)では、前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料を溶液に溶解または分散して溶液を調製する。前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料は、得られる異方性光散乱フィルムにおいて、前記分散成分の形成材料の割合が、前記割合になるように前記マトリクス成分の形成材料とともに配合される。
【0092】
なお、前記溶媒は、前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料を溶解するものであってもよく、マトリクス成分の形成材料は溶解するが、分散成分の形成材料は、溶液中に分散されるものを用いてもよい。溶媒としては、前記材料により適宜に選択することができる。溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、プロピオン酸ブチルおよびカプロラクトン等のエステル系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノン等のケトン系、トルエン等の炭化水素系、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびN−メチルピロリドン等のアミド系、ならびに塩化メチレンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素系等が使用可能であり、これら溶媒は単独で使用しても二種類以上併用しても良い。上記溶媒としては、エステル系溶媒とケトン系溶媒の組み合わせ、特に、酢酸エチルとシクロペンタノンの組み合わせが、分散成分がより明瞭に相分離する点で好ましい。当該溶液の固形分濃度は、通常、10〜50重量%、好ましくは25〜35重量%に調整される。
【0093】
前記マトリクス成分の形成材料および/または前記分散成分の形成材料として、光重合性化合物を用いる場合は、前記溶液には、光重合開始剤が配合される。光重合開始剤としては、たとえば、チバスペシャリティケミカルズ社製のイルガキュア(Irgacure)907、184、651および369などがあげられる。光重合性化合物は紫外線の照射により固定化することができる。光重合開始剤の添加量は、通常、光重合性化合物100重量部に対し0.5〜10重量部程度が好ましく、特に1〜8重量部がより好ましい。
【0094】
さらに、前記溶液には、各種添加剤等を含んでいても良い。例えば、製造工程で、レベリング性付与やフィルムの耐久性向上等の任意の目的のために、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤等を適宜添加しても良い。
【0095】
なお、前記溶液を攪拌する際に気泡が入り込んだ場合、この気泡がフィルム形成後に等方的散乱を引き起こすことも考えられる。したがって、例えば、前記溶液をフィルム状に形成する直前に脱泡しても良い。脱泡方法は特に限定されないが、例えば、加圧条件下または真空条件下で静置する方法、および溶媒の揮発が起こりにくい温度で加熱する方法等が使用可能である。
【0096】
次いで、前記工程(2)では、前記溶液を、基材上に塗布する。塗布方法としては、特に制限されず、公知の方法を用いることができ、例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延製膜法、バーコート法、グラビア印刷法等があげられる。
【0097】
基材は、ガラス基板、プラスチックシートまたはプラスチックフィルムのいずれの形状でもよい。基板の厚さは、通常、10〜1000μm程度である。
【0098】
プラスチックフィルムは配向させる温度で変化しないものであれば特に制限はなく、たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムがあげられる。またポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー等の透明ポリマーからなるフィルムもあげられる。さらにイミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマーや前記ポリマーのブレンド物等の透明ポリマーからなるフィルムなどもあげられる。
【0099】
前記プラスチックフィルムのなかでも、ノルボルネン構造を有するフィルム、セルロース系フィルムをケン化処理したプラスチックフィルムは、光学異方性が非常に小さいため、これら基材を有するまま用いることができる。
【0100】
次いで、工程(3)では、前記基材上に塗布された溶液を固化することよりフィルムを形成する。
【0101】
前記溶液の固化は、前記マトリクス成分の形成材料および/または前記分散成分の形成材料が、光重合性化合物を含有していない場合には、溶媒の乾燥により行う。乾燥温度や乾燥時間も特に限定されず、前記溶液の濃度、溶媒の種類等に応じて適宜設定することができる。前記乾燥温度は、例えば30〜200℃、好ましくは50〜150℃、特に好ましくは70〜130℃であり、前記乾燥時間は、例えば1〜50分間、好ましくは2〜10分間、特に好ましくは3〜5分間である。
【0102】
また、前記溶液の固化は、前記マトリクス成分の形成材料および/または前記分散成分の形成材料が、光重合性化合物を含有している場合には、前記乾燥の後に、紫外線照射を行うことにより光重合性化合物を硬化することにより行う。紫外線照射の条件は、充分な表面硬化を達成するために、不活性気体雰囲気とするのが好ましい。通常、積算光量100〜500mJ/cm2程度の紫外線照射を行う。紫外線照射装置としては、高圧水銀紫外線ランプ、メタルハライドUVランプ等を使用することができる。
【0103】
得られた異方性光散乱フィルムにおいて、前記分散成分の形成材料はnx≒ny<nzの屈折率分布を示すように配向していると考えられ、かつ、前記マトリクス成分と前記分散成分は相分離してドメインを形成している。前記分散成分の形成材料の配向と相分離は、前記工程(2)乃至(3)を施すことに得られる。また、前記工程(2)乃至(3)により、前記マトリクス成分の形成材料が複屈折材料の場合には、前記屈折率分布を満足するように前記材料が配向する。一方、前記マトリクス成分の形成材料が等方性材料の場合には等方性が維持される。
【0104】
なお、前記工程(2)乃至(3)により、前記配向と相分離が生じる詳細な機構は明らかでないが、前記溶液中に含まれる溶媒が揮発する過程で、前記マトリクス成分の形成材料と前記分散成分の形成材料の組み合わせによって、前記厚み方向の体積収縮が起こることに伴って応力が発生し、前記樹脂の分子が規則的に配向すると考えられる。
【0105】
本発明の異方性光散乱フィルムは、上記本発明の製造方法により簡便に製造することができ、また、厚みが小さくても性能が優れている等の特性を有し、実用性が高い。
【0106】
本発明の異方性光散乱フィルムの厚みは特に限定されず、散乱の程度を適切に調整する観点や画像表示装置の薄型化等の観点から適宜決定すれば良いが、例えば0.5〜300μm、好ましくは1〜100μm、特に好ましくは10〜50μmである。前記厚みの制御方法も特に限定されないが、例えば、前記溶液をフィルム状に形成する際に前記溶液の使用量を適宜調節する等の方法により制御することができる。
【0107】
本発明の異方性光散乱フィルムは、各種光学フィルムとして、画像表示装置等に広く使用することができる。
【0108】
本発明の異方性光散乱フィルムは、これを1層または2層以上含む異方性光散乱素子として用いることができる。この構成を有することにより、散乱強度の確保や方位角方向での散乱異方性の制御等が可能である。前記異方性光散乱素子は、本発明の異方性光散乱フィルムをただ単に重ねただけのものでも良いが、製造時における作業性や使用時における光の利用効率等の観点から、粘着層または接着層をさらに含み、前記異方性光散乱フィルムが前記接着層を介して積層されていることが好ましい。
【0109】
また、本発明の異方性光散乱フィルム、他の光学層を含む光学フィルムとして用いることができる。前記光学層としては、例えば、偏光板、位相差板、等方性拡散層、プリズムシート(プリズムアレイシート)、マイクロレンズシート(レンズアレイシート)、防眩層(アンチグレア層)、反射防止層、および保護シートのうち少なくとも一つをさらに含むことが好ましいが、これらには限定されない。また、本発明の光学フィルムは、前記光学層をただ単に重ねただけのものでも良いが、接着層をさらに含み、前記構成要素の全部または一部が前記接着層を介して積層されていることが好ましい。以下、前記各構成要素等についてさらに具体的に説明する。
【0110】
偏光板は、偏光子をそのまま用いることができるが、偏光子の片面または両面には透明保護フィルムを有するものが一般に用いられる。
【0111】
偏光子は、特に限定されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料の二色性物質を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等があげられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これらの偏光子の厚さは特に制限されないが、一般的に5〜80μm程度である。
【0112】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作成することができる。必要に応じてホウ酸や硫酸亜鉛、塩化亜鉛等を含んでいても良いヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延伸はヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸しても良いし、また延伸してからヨウ素で染色しても良い。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液や水浴中でも延伸することができる。
【0113】
透明保護フィルムを構成する材料としては、例えば透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れる熱可塑性樹脂が用いられる。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、およびこれらの混合物があげられる。なお、偏光子の片側には、透明保護フィルムが接着剤層により貼り合わされるが、他の片側には、透明保護フィルムとして、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化性樹脂または紫外線硬化型樹脂を用いることができる。透明保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などがあげられる。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性等が十分に発現できないおそれがある。
【0114】
また、透明保護フィルムとしては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物があげられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムがあげられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光板の歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0115】
透明保護フィルムの厚さは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。透明保護フィルムは、5〜150μmの場合に特に好適である。
【0116】
なお、偏光子の両側に透明保護フィルムを設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料等からなる保護フィルムを用いてもよい。
【0117】
本発明の透明保護フィルムとしては、セルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、環状ポリオレフィン樹脂および(メタ)アクリル樹脂から選ばれるいずれか少なくとも1つを用いるのが好ましい。
【0118】
セルロース樹脂は、セルロースと脂肪酸のエステルである。このようセルロースエステル系樹脂の具体例としでは、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、トリプロピオニルセルロース、ジプロピオニルセルロース等があげられる。これらのなかでも、トリアセチルセルロースが特に好ましい。トリアセチルセルロースは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。トリアセチルセルロースの市販品の例としては、富士フイルム社製の商品名「UV−50」、「UV−80」、「SH−80」、「TD−80U」、「TD−TAC」、「UZ−TAC」や、コニカ社製の「KCシリーズ」等があげられる。一般的にこれらトリアセチルセルロースは、面内位相差(Re)はほぼゼロであるが、厚み方向位相差(Rth)は、〜60nm程度を有している。
【0119】
なお、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムは、例えば、上記セルロース樹脂を処理することにより得られる。例えばシクロペンタノン、メチルエチルケトン等の溶剤を塗工したポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ステンレスなどの基材フィルムを、一般的なセルロース系フィルムに貼り合わせ、加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、基材フィルムを剥離する方法;ノルボルネン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などをシクロペンタノン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解した溶液を一般的なセルロース樹脂フィルムに塗工し加熱乾燥(例えば80〜150℃で3〜10分間程度)した後、塗工フィルムを剥離する方法などがあげられる。
【0120】
また、厚み方向位相差が小さいセルロース樹脂フィルムとしては、脂肪置換度を制御した脂肪酸セルロース系樹脂フィルムを用いることができる。一般的に用いられるトリアセチルセルロースでは酢酸置換度が2.8程度であるが、好ましくは酢酸置換度を1.8〜2.7に制御することによってRthを小さくすることができる。上記脂肪酸置換セルロース系樹脂に、ジブチルフタレート、p−トルエンスルホンアニリド、クエン酸アセチルトリエチル等の可塑剤を添加することにより、Rthを小さく制御することができる。可塑剤の添加量は、脂肪酸セルロース系樹脂100重量部に対して、好ましくは40重量部以下、より好ましくは1〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部である。
【0121】
環状ポリオレフィン樹脂の具体的としては、好ましくはノルボルネン系樹脂である。環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂があげられる。具体例としては、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等のα−オレフィンとその共重合体(代表的にはランダム共重合体)、および、これらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、ならびに、それらの水素化物などがあげられる。環状オレフィンの具体例としては、ノルボルネン系モノマーがあげられる。
【0122】
環状ポリオレフィン樹脂としては、種々の製品が市販されている。具体例としては、日本ゼオン株式会社製の商品名「ゼオネックス」、「ゼオノア」、JSR株式会社製の商品名「アートン」、TICONA社製の商品名「トーパス」、三井化学株式会社製の商品名「APEL」があげられる。
【0123】
(メタ)アクリル系樹脂としては、Tg(ガラス転移温度)が好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tgが115℃以上であることにより、偏光板の耐久性に優れたものとなりうる。上記(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定きれないが、成形性当の観点から、好ましくは170℃以下である。(メタ)アクリル系樹脂からは、面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth)がほぼゼロものフィルムを得ることができる。
【0124】
(メタ)アクリル系樹脂としては、本発明の効果を損なわない範囲内で、任意の適切な(メタ)アクリル系樹脂を採用し得る。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)があげられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルがあげられる。より好ましくはメタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂があげられる。
【0125】
(メタ)アクリル系樹脂の具体例として、例えば、三菱レイヨン株式会社製のアクリペットVHやアクリペットVRL20A、特開2004−70296号公報に記載の分子内に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂、分子内架橋や分子内環化反応により得られる高Tg(メタ)アクリル樹脂系があげられる。
【0126】
(メタ)アクリル系樹脂として、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を用いることもできる。高い耐熱性、高い透明性、二軸延伸することにより高い機械的強度を有するからである。
【0127】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂としては、特開2000−230016号公報、特開2001−151814号公報、特開2002−120326号公報、特開2002−254544号公報、特開2005−146084号公報などに記載の、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂があげられる。
【0128】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは下記一般式(化12)で表される環擬構造を有する。
【0129】
【化12】

【0130】
式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1〜20の有機残基を示す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0131】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化12)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは10〜50重量%である。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化12)で表されるラクトン環構造の含有割合が5重量%よりも少ないと、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が不十分になるおそれがある。ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂の構造中の一般式(化12)で表されるラクトン環構造の含有割合が90重量%より多いと、成形加工性に乏しくなるおそれがある。
【0132】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、質量平均分子量(重量平均分子量と称することも有る)が、好ましくは1000〜2000000、より好ましくは5000〜1000000、さらに好ましくは10000〜500000、特に好ましくは50000〜500000である。質量平均分子量が上記範囲から外れると、成型加工性の点から好ましくない。
【0133】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、Tgが好ましくは115℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上である。Tgが115℃以上であることから、例えば、透明保護フィルムとして偏光板に組み入れた場合に、耐久性に優れたものとなる。上記ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂のTgの上限値は特に限定されないが、成形性などの観点から、好ましくは170℃以下である。
【0134】
ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、射出成形により得られる成形品の、ASTM−D−1003に準じた方法で測定される全光線透過率が、高ければ高いほど好ましく、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は透明性の目安であり、全光線透過率が85%未満であると、透明性が低下するおそれがある。
【0135】
前記透明保護フィルムは、正面位相差が40nm未満、かつ、厚み方向位相差が80nm未満であるものが、通常、用いられる。正面位相差Reは、Re=(nx−ny)×d、で表わされる。厚み方向位相差Rthは、Rth=(nx−nz)×d、で表される。また、Nz係数は、Nz=(nx−nz)/(nx−ny)、で表される。[ただし、フィルムの遅相軸方向、進相軸方向及び厚さ方向の屈折率をそれぞれnx、ny、nzとし、d(nm)はフィルムの厚みとする。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率の最大となる方向とする。]。なお、透明保護フィルムは、できるだけ色付きがないことが好ましい。厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである保護フィルムが好ましく用いられる。かかる厚み方向の位相差値(Rth)が−90nm〜+75nmのものを使用することにより、透明保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。厚み方向位相差値(Rth)は、さらに好ましくは−80nm〜+60nm、特に−70nm〜+45nmが好ましい。
【0136】
一方、前記透明保護フィルムとして、正面位相差が40nm以上および/または、厚み方向位相差が80nm以上の位相差を有する位相差板を用いることができる。正面位相差は、通常、40〜200nmの範囲に、厚み方向位相差は、通常、80〜300nmの範囲に制御される。透明保護フィルムとして位相差板を用いる場合には、当該位相差板が透明保護フィルムとしても機能するため、薄型化を図ることができる。
【0137】
位相差板としては、高分子素材を一軸または二軸延伸処理してなる複屈折性フィルム、液晶ポリマーの配向フィルム、液晶ポリマーの配向層をフィルムにて支持したものなどがあげられる。位相差板の厚さも特に制限されないが、20〜150μm程度が一般的である。
【0138】
高分子素材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルビニルエーテル、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、セルロース樹脂、環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂)、またはこれらの二元系、三元系各種共重合体、グラフト共重合体、ブレンド物などがあげられる。これらの高分子素材は延伸等により配向物(延伸フィルム)となる。
【0139】
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶配向性を付与する共役性の直線状原子団(メソゲン)がポリマーの主鎖や側鎖に導入された主鎖型や側鎖型の各種のものなどをあげられる。主鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、屈曲性を付与するスペーサー部でメソゲン基を結合した構造の、例えばネマチック配向性のポリエステル系液晶性ポリマー、ディスコティックポリマーやコレステリックポリマーなどがあげられる。側鎖型の液晶ポリマーの具体例としては、ポリシロキサン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート又はポリマロネートを主鎖骨格とし、側鎖として共役性の原子団からなるスペーサー部を介してネマチック配向付与性のパラ置換環状化合物単位からなるメソゲン部を有するものなどがあげられる。これらの液晶ポリマーは、例えば、ガラス板上に形成したポリイミドやポリビニルアルコール等の薄膜の表面をラビング処理したもの、酸化ケイ素を斜方蒸着したものなどの配向処理面上に液晶性ポリマーの溶液を展開して熱処理することにより行われる。
【0140】
位相差板は、例えば各種波長板や液晶層の複屈折による着色や視角等の補償を目的としたものなどの使用目的に応じた適宜な位相差を有するものであって良く、2種以上の位相差板を積層して位相差等の光学特性を制御したものなどであっても良い。
【0141】
位相差板は、nx=ny>nz、nx>ny>nz、nx>ny=nz、nx>nz>ny、nz=nx>ny、nz>nx>ny、nz>nx=ny、の関係を満足するものが、各種用途に応じて選択して用いられる。なお、ny=nzとは、nyとnzが完全に同一である場合だけでなく、実質的にnyとnzが同じ場合も含む。
【0142】
例えば、nx>ny>nz、を満足する位相差板では、正面位相差は40〜100nm、厚み方向位相差は100〜320nm、Nz係数は1.8〜4.5を満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nx>ny=nz、を満足する位相差板(ポジティブAプレート)では、正面位相差は100〜200nmを満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nz=nx>ny、を満足する位相差板(ネガティブAプレート)では、正面位相差は100〜200nmを満足するものを用いるのが好ましい。例えば、nx>nz>ny、を満足する位相差板では、正面位相差は150〜300nm、Nz係数は0を超え〜0.7を満足するものを用いるのが好ましい。また、上記の通り、例えば、nx=ny>nz、nz>nx>ny、またはnz>nx=ny、を満足するものを用いることができる。
【0143】
透明保護フィルムは、適用される液晶表示装置に応じて適宜に選択できる。例えば、VA(Vertical Alignment,MVA,PVA含む)の場合は、偏光板の少なくとも片方(セル側)の透明保護フィルムが位相差を有している方が望ましい。具体的な位相差として、Re=0〜240nm、Rth=0〜500nmの範囲である事が望ましい。三次元屈折率で言うと、nx>ny=nz、nx>ny>nz、nx>nz>ny、nx=ny>nz(ポジティブAプレート,二軸,ネガティブCプレート)の場合が望ましい。VA型では、ポジティブAプレートとネガティブCプレートの組み合わせ、または二軸フィルム1枚で用いるのが好ましい。液晶セルの上下に偏光板を使用する際、液晶セルの上下共に、位相差を有している、または上下いずれかの透明保護フィルムが位相差を有していてもよい。
【0144】
例えば、IPS(In−Plane Switching,FFS含む)の場合、偏光板の片方の透明保護フィルムが位相差を有している場合、有していない場合のいずれも使用できる。例えば、位相差を有していない場合は、液晶セルの上下(セル側)ともに位相差を有していない場合が望ましい。位相差を有している場合は、液晶セルの上下ともに位相差を有している場合、上下のいずれかが位相差を有している場合が望ましい(例えば、上側にnx>nz>nyの関係を満足する二軸フィルム、下側に位相差なしの場合や、上側にポジティブAプレート、下側にポジティブCプレートの場合)。位相差を有している場合、Re=−500〜500nm、Rth=−500〜500nmの範囲が望ましい。三次元屈折率で言うと、nx>ny=nz、nx>nz>ny、nz>nx=ny、nz>nx>ny(ポジティブAプレート,二軸,ポジティブCプレート)が望ましい。
【0145】
なお、前記位相差を有するフィルムは、位相差を有しない透明保護フィルムに、別途、貼り合せて上記機能を付与することができる。
【0146】
前記透明保護フィルムは、接着剤を塗工する前に、偏光子との接着性を向上させるために、表面改質処理を行ってもよい。具体的な処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、ケン化処理、カップリング剤による処理などがあげられる。また適宜に帯電防止層を形成することができる。
【0147】
前記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
【0148】
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を透明保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層(例えば、バックライト側の拡散板)との密着防止を目的に施される。
【0149】
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて透明保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜20μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜70重量部程度であり、5〜50重量部が好ましい。アンチグレア層は、偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
【0150】
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0151】
前記偏光子と透明保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。上記の他、偏光子と透明保護フィルムとの接着剤としては、紫外硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤等があげられる。電子線硬化型偏光板用接着剤は、上記各種の透明保護フィルムに対して、好適な接着性を示す。また本発明で用いる接着剤には、金属化合物フィラーを含有させることができる。
【0152】
また光学フィルムとしては、例えば反射板や反透過板、前記位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視覚補償フィルム、輝度向上フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層となるものがあげられる。これらは単独で光学フィルムとして用いることができる他、前記偏光板に、実用に際して積層して、1層または2層以上用いることができる。
【0153】
特に、偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視覚補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
【0154】
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行うことができる。
【0155】
反射型偏光板の具体例としては、必要に応じマット処理した透明保護フィルムの片面に、アルミニウム等の反射性金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成したものなどがあげられる。また、前記透明保護フィルムに微粒子を含有させて表面微細凹凸構造とし、その上に微細凹凸構造の反射層を有するものなどもあげられる。前記した微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させて指向性やギラギラした見栄えを防止し、明暗のムラを抑制しうる利点などを有する。また微粒子含有の保護フィルムは、入射光及びその反射光がそれを透過する際に拡散されて明暗ムラをより抑制しうる利点なども有している。透明保護フィルムの表面微細凹凸構造を反映させた微細凹凸構造の反射層の形成は、例えば真空蒸着方式、イオンプレーティング方式、スパッタリング方式やメッキ方式などの適宜な方式で金属を透明保護層の表面に直接付設する方法などにより行うことができる。
【0156】
反射板は前記の偏光板の透明保護フィルムに直接付与する方式に代えて、その透明フィルムに準じた適宜なフィルムに反射層を設けてなる反射シートなどとして用いることもできる。なお反射層は、通常、金属からなるので、その反射面が透明保護フィルムや偏光板等で被覆された状態の使用形態が、酸化による反射率の低下防止、ひいては初期反射率の長期持続の点や、保護層の別途付設の回避の点などより好ましい。
【0157】
なお、半透過型偏光板は、上記において反射層で光を反射し、かつ透過するハーフミラー等の半透過型の反射層とすることにより得ることができる。半透過型偏光板は、通常液晶セルの裏側に設けられ、液晶表示装置などを比較的明るい雰囲気で使用する場合には、視認側(表示側)からの入射光を反射させて画像を表示し、比較的暗い雰囲気においては、半透過型偏光板のバックサイドに内蔵されているバックライト等の内蔵電源を使用して画像を表示するタイプの液晶表示装置などを形成できる。すなわち、半透過型偏光板は、明るい雰囲気下では、バックライト等の光源使用のエネルギーを節約でき、比較的暗い雰囲気下においても内蔵電源を用いて使用できるタイプの液晶表示装置などの形成に有用である。
【0158】
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
【0159】
楕円偏光板はスーパーツイストネマチック(STN)型液晶表示装置の液晶層の複屈折により生じた着色(青又は黄)を補償(防止)して、前記着色のない白黒表示する場合などに有効に用いられる。更に、三次元の屈折率を制御したものは、液晶表示装置の画面を斜め方向から見た際に生じる着色も補償(防止)することができて好ましい。円偏光板は、例えば画像がカラー表示になる反射型液晶表示装置の画像の色調を整える場合などに有効に用いられ、また、反射防止の機能も有する。
【0160】
また、上記の楕円偏光板や反射型楕円偏光板は、偏光板又は反射型偏光板と位相差板を適宜な組合せで積層したものである。かかる楕円偏光板等は、(反射型)偏光板と位相差板の組合せとなるようにそれらを液晶表示装置の製造過程で順次別個に積層することによっても形成しうるが、前記の如く予め楕円偏光板等の光学フィルムとしたものは、品質の安定性や積層作業性等に優れて液晶表示装置などの製造効率を向上させうる利点がある。
【0161】
視覚補償フィルムは、液晶表示装置の画面を、画面に垂直でなくやや斜めの方向から見た場合でも、画像が比較的鮮明にみえるように視野角を広げるためのフィルムである。このような視覚補償位相差板としては、例えば位相差板、液晶ポリマー等の配向フィルムや透明基材上に液晶ポリマー等の配向層を支持したものなどからなる。通常の位相差板は、その面方向に一軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムが用いられるのに対し、視覚補償フィルムとして用いられる位相差板には、面方向に二軸に延伸された複屈折を有するポリマーフィルムとか、面方向に一軸に延伸され厚さ方向にも延伸された厚さ方向の屈折率を制御した複屈折を有するポリマーや傾斜配向フィルムのような二方向延伸フィルムなどが用いられる。傾斜配向フィルムとしては、例えばポリマーフィルムに熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下にポリマーフィルムを延伸処理又は/及び収縮処理したものや、液晶ポリマーを斜め配向させたものなどがあげられる。位相差板の素材原料ポリマーは、先の位相差板で説明したポリマーと同様のものが用いられ、液晶セルによる位相差に基づく視認角の変化による着色等の防止や良視認の視野角の拡大などを目的とした適宜なものを用いうる。
【0162】
また、良視認の広い視野角を達成する点などより、液晶ポリマーの配向層、特にディスコチック液晶ポリマーの傾斜配向層からなる光学的異方性層をトリアセチルセルロースフィルムにて支持した光学補償位相差板が好ましく用いうる。
【0163】
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合せた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。すなわち、輝度向上フィルムを使用せずに、バックライトなどで液晶セルの裏側から偏光子を通して光を入射した場合には、偏光子の偏光軸に一致していない偏光方向を有する光は、ほとんど偏光子に吸収されてしまい、偏光子を透過してこない。すなわち、用いた偏光子の特性よっても異なるが、およそ50%の光が偏光子に吸収されてしまい、その分、液晶画像表示等に利用しうる光量が減少し、画像が暗くなる。輝度向上フィルムは、偏光子に吸収されるような偏光方向を有する光を偏光子に入射させずに輝度向上フィルムで一反反射させ、更にその後ろ側に設けられた反射層等を介して反転させて輝度向上フィルムに再入射させることを繰り返し、この両者間で反射、反転している光の偏光方向が偏光子を通過し得るような偏光方向になった偏光のみを、輝度向上フィルムは透過させて偏光子に供給するので、バックライトなどの光を効率的に液晶表示装置の画像の表示に使用でき、画面を明るくすることができる。
【0164】
輝度向上フィルムと上記反射層等の間に拡散板を設けることもできる。輝度向上フィルムによって反射した偏光状態の光は上記反射層等に向かうが、設置された拡散板は通過する光を均一に拡散すると同時に偏光状態を解消し、非偏光状態となる。すなわち、自然光状態の光が反射層等に向かい、反射層等を介して反射し、再び拡散板を通過して輝度向上フィルムに再入射することを繰り返す。このように輝度向上フィルムと上記反射層等の間に、偏光を元の自然光にもどす拡散板を設けることにより表示画面の明るさを維持しつつ、同時に表示画面の明るさのむらを少なくし、均一で明るい画面を提供することができる。かかる拡散板を設けることにより、初回の入射光は反射の繰り返し回数が程よく増加し、拡散板の拡散機能と相俟って均一の明るい表示画面を提供することができたものと考えられる。
【0165】
前記の輝度向上フィルムとしては、例えば誘電体の多層薄膜や屈折率異方性が相違する薄膜フィルムの多層積層体の如き、所定偏光軸の直線偏光を透過して他の光は反射する特性を示すもの、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持したものの如き、左回り又は右回りのいずれか一方の円偏光を反射して他の光は透過する特性を示すものなどの適宜なものを用いうる。
【0166】
従って、前記した所定偏光軸の直線偏光を透過させるタイプの輝度向上フィルムでは、その透過光をそのまま偏光板に偏光軸を揃えて入射させることにより、偏光板による吸収ロスを抑制しつつ効率よく透過させることができる。一方、コレステリック液晶層の如く円偏光を透過するタイプの輝度向上フィルムでは、そのまま偏光子に入射させることもできるが、吸収ロスを抑制する点よりその円偏光を、位相差板を介し直線偏光化して偏光板に入射させることが好ましい。なお、その位相差板として1/4波長板を用いることにより、円偏光を直線偏光に変換することができる。
【0167】
可視光域等の広い波長で1/4波長板として機能する位相差板は、例えば波長550nmの淡色光に対して1/4波長板として機能する位相差板と他の位相差特性を示す位相差層、例えば1/2波長板として機能する位相差層とを重畳する方式などにより得ることができる。従って、偏光板と輝度向上フィルムの間に配置する位相差板は、1層または2層以上の位相差層からなるものであってよい。
【0168】
なお、コレステリック液晶層についても、反射波長が相違するものの組合せにして2層又は3層以上重畳した配置構造とすることにより、可視光域等の広い波長範囲で円偏光を反射するものを得ることができ、それに基づいて広い波長範囲の透過円偏光を得ることができる。
【0169】
また、偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層又は3層以上の光学層とを積層したものからなっていても良い。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであっても良い。
【0170】
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板と他の光学層の接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0171】
本発明の異方性光散乱フィルム、当該異方性光散乱フィルムを少なくとも1層積層されている光学フィルムには、他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0172】
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
【0173】
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
【0174】
異方性光散乱フィルムや光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを異方性光散乱フィルム上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
【0175】
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として異方性光散乱フィルムや光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、異方性光散乱フィルムや光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、1〜200μmが好ましく、特に1〜100μmが好ましい。
【0176】
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0177】
なお本発明において、上記した異方性光散乱フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
【0178】
本発明の異方性光散乱フィルムまたは光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと異方性光散乱フィルムまたは光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明の異方性光散乱フィルムまたは光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型、VA型、IPS型などの任意なタイプなどの任意なタイプのものを用いうる。
【0179】
液晶セルの片側又は両側には偏光板(異方性光散乱フィルム付き)または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板(異方性光散乱フィルム付き)または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板(異方性光散乱フィルム付き)または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【0180】
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0181】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0182】
有機EL表示装置においては、有機発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg−Ag、Al−Liなどの金属電極を用いている。
【0183】
このような構成の有機EL表示装置において、有機発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、有機発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0184】
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0185】
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【0186】
すなわち、この有機EL表示装置に入射する外部光は、偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが、とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0187】
この円偏光は、透明基板、透明電極、有機薄膜を透過し、金属電極で反射して、再び有機薄膜、透明電極、透明基板を透過して、位相差板に再び直線偏光となる。そして、この直線偏光は、偏光板の偏光方向と直交しているので、偏光板を透過できない。その結果、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
【実施例】
【0188】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0189】
実施例1
以下のようにして異方性光散乱フィルムを製造した。下記化学式13(化13):
【0190】
【化13】

【0191】
で表される側鎖型の液晶性アクリル系ポリマー(式中の数字はモノマーユニットのモル%を示し、便宜的にブロックポリマー体で示している、重量平均分子量5000)10重量部と、前記化10において化学式(10)として表される液晶性ジアクリル系モノマー90重量部と、光重合開示剤(アデカ社製,製品名:イルガキュア907)7.5重量部を、シクロペンタノンと酢酸エチルの混合溶媒(重量比で8:2)に溶解して、濃度30重量%に調整した塗工液を調製した。この塗工液を、基材(日本ゼオン社製,製品名:ゼオノアZF−100)上にワイヤーバーでコーターを用いて塗工した後、80℃で3分間乾燥し、さらに、積算光量300mJ/cm2で紫外線照射することで、膜厚3μmの異方性光散乱フィルムを得た。
【0192】
なお、分散成分の形成材料は上記の側鎖型の液晶性アクリル系ポリマーであり、マトリクス成分の形成材料は上記の液晶性ジアクリル系モノマーである。これらが、それぞれ、単独でフィルム化した場合に、nx≒ny<nz、の屈折率分布、npx>npy≒npz、の屈折率分布を満足することは、別途を確認した。これらの確認は、自動複屈折測定装置(王子計測機器(株)製,自動複屈折計 KOBRA−WPR)により、23℃、波長590nmで行った。
【0193】
実施例2
実施例1において、塗工液を調製する際に、混合溶媒の代わりに、溶媒としてシクロペンタノンのみを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作により膜厚3μmの異方性光散乱フィルムを得た。
【0194】
実施例で得られた異方性光散乱フィルムについて、下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0195】
(断面構造の評価)
異方性光散乱フィルムに、四酸化ルテニウム2重量%水溶液の飽和蒸気により、2分間染色を施した後、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により、フィルムを約80nmの切片に加工した、フィルム断面の相分離構造(分散成分のドメイン形状)を透過型電子顕微鏡(日立製作所製,H−7650,加速電圧100kV)にて観察した。相分離構造については、厚み方向の長軸サイズ、面内方向の短軸サイズ、平均アスペクト比についても示す。なお、平均アスペクト比は、透過型電子顕微鏡より、10個のサンプルについて、相分離構造からアスペクト比(長軸サイズ/短軸サイズ)を算出し、それらの平均値を計算した。
【0196】
(散乱の評価)
異方性光散乱フィルムにそれぞれ直線偏光を入射角度0°および45°で入射し、透過光線を目視で観察して散乱の程度を評価した。
【0197】
【表1】

【0198】
表1に示す通り、実施例で得られた異方性光散乱フィルムは、入射角度0°の直線偏光をほとんど散乱せずに透過させ、入射角度45°の直線偏光を散乱した。このことから、実施例の異方性光散乱フィルムは、散乱の角度依存性および正面方向の光の透過効率が良好であり、異方性光散乱フィルムとして良好な性質を有していることが分かる。
【0199】
次に、ツイステッドネマチックモード液晶パネルの視認側偏光板の最表面に、実施例1の実施例1の異方性光散乱フィルムを、アクリル系粘着剤を用いて前記基材上から転写した。当該液晶パネルの性能を、転写前と転写後とでそれぞれ目視により評価して比較したところ、実施例1の異方性光散乱フィルムにより、正面方向での画質の低下や大きな正面輝度の低下を起こすことなく広視角での階調反転の問題を抑制する効果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【図1】本発明の異方性光散乱フィルムの一例の断面を示す模式図である。
【図2】マトリクス成分と分散成分の屈折率楕円体の相違よる散乱を説明する図である。
【符号の説明】
【0201】
A マトリクス成分
B 分散成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス成分中に、nx≒ny<nzの屈折率分布を満足する分散成分が、前記マトリクス成分とは相分離したドメインとして分散していることを特徴とする異方性光散乱フィルム。
但し、nx、nyおよびnzは、分散成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムのX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記フィルムの面内で屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、前記Y軸方向とは、前記フィルムの面内で前記X軸方向に垂直な方向(面内進相軸方向)であり、前記Z軸方向とは、前記X軸方向および前記Y軸方向に垂直な前記フィルムの厚み方向である。
【請求項2】
前記分散成分の屈折率が、下記式(1)および(2)の条件を満足することを特徴とする請求項1記載の異方性光散乱フィルム。
|nx−ny|≦0.02 (1)
nz−(nx+ny)/2≧0.02 (2)
である。
【請求項3】
前記マトリクス成分が、npx>npy≒npz、npx≧npy>npz、またはnpx≒npy≒nzの屈折率分布を満足することを特徴とする請求項1または2記載の異方性光散乱フィルム。
但し、npx、npyおよびnpzは、マトリクス成分の形成材料を単独でフィルム化した場合の当該フィルムのX軸、Y軸およびZ軸方向の屈折率を示し、前記X軸方向とは、前記フィルムの面内で屈折率が最大となる方向(面内遅相軸方向)であり、前記Y軸方向とは、前記フィルムの面内で前記X軸方向に垂直な方向(面内進相軸方向)であり、前記Z軸方向とは、前記X軸方向および前記Y軸方向に垂直な前記フィルムの厚み方向である。
【請求項4】
前記マトリクス成分の屈折率と、前記分散成分の屈折率は、下記数式(3)、数式(4)および数式(5)を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム。
|nx−npx|≦0.02 (3)
|ny−npy|≦0.02 (4)
nz−npz≧0.02 (5)
【請求項5】
前記マトリクス成分中で、前記分散成分が相分離して形成しているドメインは、異方性光散乱フィルムの厚み方向に長軸、フィルム面内方向に短軸を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム。
【請求項6】
ドメインの長軸サイズが0.02〜4μmであり、短軸サイズが0.01〜2μmであることを特徴とする請求項5記載の異方性光散乱フィルム。
【請求項7】
ドメインの長軸サイズと短軸サイズの平均アスペクト比が1.5以上であることを特徴とする請求項5または6記載の異方性光散乱フィルム。
【請求項8】
前記分散成分の含有率は、マトリクス成分と分散成分の合計に対して1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の異方性光散乱フィルムの製造方法であって、
前記マトリクス成分の形成材料および前記分散成分の形成材料を含有する溶液を調製する工程(1)、
前記溶液を、基材上に塗布する工程(2)、
前記基材上に塗布された溶液を固化することよりフィルムを形成する工程(3)、を有することを特徴とする異方性光散乱フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の異方性光散乱フィルムを少なくとも1枚含むことを特徴とする光学フィルム。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の異方性光散乱フィルム、または請求項10記載の光学フィルムを含むことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−116197(P2009−116197A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291261(P2007−291261)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】