説明

異物感知手袋と指袋及び異物感知織物

【課題】小さな異物でも感知できる異物感知手袋と指袋及び異物感知織物を提供する。
【解決手段】本発明の異物感知手袋は、物体表面の異物を手指の感触により検査するために使用する異物感知手袋であって、少なくとも手指の掌部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されている。手袋の手の裏部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で編成された編み物としてもよい。メッシュ織物部分で異物を感知し、編み物部分で付着力の弱い異物を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品、木工品、板金プレス品、ガラス製品、自動車ボディー等の各種物体の検査等に使用するための異物感知手袋と指袋及び異物感知織物に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの工業製品において、塗装は製品の外観上、極めて重要なものである。例えば自動車の場合、ボディーの塗装には細心の注意が払われており、塗装体の異物が無いように全数検査が行われている。塗装異物が発見された場合は、特許文献1〜3に提案されているように、異物を除去し、ポリッシング等の補修作業が行われる。
【0003】
ところで、塗装異物の発見は意外と困難な作業である。異物が大きいか変色していれば、目視や光学センサーにより容易に発見できるが、異物が小さく光沢もわずかしか変わらない異物の場合は、目視や光学センサーでは発見は困難である。このため、いまだに検査員による手指触診検査が行われている。自動車ボディーの場合は、通常、下塗り(アンダーコート)、中塗り(メインコート)、上塗り(トップコート)と3回の塗装が行われているが、各塗装が終了した後に、検査員が手指を素手で触診し、細かな異物の発見に努めている。その他、樹脂成形品、木工品、板金プレス品、ガラス製品、塗装前の自動車ボディー等の各種製品の場合も、同様に素手の手指で直接塗装物に当てて検査する場合がある。
【特許文献1】特開2006−26475号公報
【特許文献2】特開平8−187652号公報
【特許文献3】特開平6−269727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、素手の手指で直接塗装物に当てて検査をすると、人間の皮膚は柔らかいため、感度は低く、小さな異物を感知できないという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、小さな異物でも感知できる異物感知手袋と指袋及び異物感知織物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異物感知手袋は、物体表面の異物を手指の感触により検査するために使用する異物感知手袋であって、少なくとも手指の掌部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の異物感知指袋は、物体表面の異物を手指の感触により検査するために使用する異物感知指袋であって、少なくとも手指の掌部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の異物感知用織物は、異物感知に使用するための織物であって、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の異物感知手袋を着用すると、少なくとも手指の掌部は合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されているため、小さな異物でも感知できる。また、織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されているため、目ずれせずに塗装体の表面を滑らせることができる。加えて、メッシュ織物としているため、通気性がよく蒸れることもない。また、本発明の指袋はスペースの小さな部分に指を差し込んで異物を検知するのに有用である。また、本発明の織物は、前記手袋及び指袋に有用なほか、指や手に巻きつけて異物検知するのに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の異物感知手袋が小さな異物でも感知できる理由は、合成繊維糸で構成された織物を介して異物に触ると、合成繊維糸の硬さに起因して異物周囲の織物も面状に凸又は凹に変化するため、指の皮膚に感知しやすくなると思われる。本発明者らの検討によれば、このような現象は、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート等の比較的剛性が高いか又はヤング率(初期弾性率又は初期引張抵抗度)の高い合成樹脂であって、薄いフィルム、例えば厚さが10〜30μmのフィルムを用いても発現する。
【0011】
図面によって説明すると、図1Aのように、塗装体1の表面の異物2を素手の指3で直接触ると、その接触面積は小さいので、感知しにくい。ところが前記のような剛性の高い薄いフィルム4を介して触ると、図1Bのようにその接触面積は広くなり、感知しやすくなる。皮膚の感点に広く作用するようになると考えられる。
【0012】
これに対して、医師が使用する手術用ゴム手袋のような弾性のある手袋の場合は、極薄のものであっても異物感知は難しい。柔らかすぎて異物の接触面積に変化は見られないことに起因すると思われる。
【0013】
前記のように剛性の高いフィルム4は感知度を上げる効果があるが、塗装面を滑らせると折れたりシワが入ったりしてすぐに使用できなくなる問題がある。
【0014】
そこで、本発明の手袋を使用すると、異物感知面は合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物で構成されているため、塗装面を滑らせても折れることはなく、シワが入ることもなく、長時間小さな異物を感知できる。
【0015】
本発明の手袋を構成するメッシュ織物は、少なくとも手指の掌部に配置させる。この部分で異物を感知するからである。また、合成繊維からなるフィラメント繊維糸は、マルチフィラメント糸でもモノフィラメント糸でもよいが、モノフィラメント糸を用いるのが好ましい。
【0016】
本発明のメッシュ織物の経糸と緯糸はともにポリエステル複合繊維糸で構成され、前記ポリエステル複合繊維糸は低融点と高融点のポリエステルからなる芯鞘構造であり、外側に低融点ポリエステルが配置され、経糸と緯糸の交点は前記低融点ポリエステルが熱融着されて固定されていることが好ましい。ここで、高融点のポリエステルとは、例えばポリエチレンテレフタレート(融点255〜260℃)である。また低融点ポリエステルは、ポリブチレンテレフタレート(融点225℃)、ポリトリメチレンテレフタレート(融点228℃)、その他、融点が100℃以上の共重合ポリエステル等である。
【0017】
別の例として、前記メッシュ織物の経糸と緯糸はポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維糸で構成され、経糸と緯糸の少なくとも一方はポリエステル繊維糸とポリプロピレン繊維糸で構成され、経糸と緯糸の交点はポリプロピレン繊維が熱融着されて固定されているのが好ましい。ポリエチレンテレフタレートの融点は約260℃、軟化点は約258℃であり、ポリプロピレンの融点は約160℃であるので、織物にした後に160℃以上258℃未満、好ましくは160℃以上200℃以下に加熱することにより、経糸と緯糸の交点をポリプロピレン繊維の熱融着により固定できる。より低温の融着糸を使用する場合は、例えば低融点ナイロン、融点110〜113℃、東レ社製商品名“エルダー”、又は低融点ポリエステル繊維等を使用しても良い。このように経糸と緯糸の交点を低融点繊維の熱融着により固定しているので、編み物メッシュのような結び目による突起が無いので、フラットに形成でき、異物感知には都合が良い。
【0018】
前記メッシュ織物は、経緯ともに50〜200メッシュ/25.4mmの範囲が好ましい。この範囲のメッシュ織物にするには、経糸と緯糸の密度を1インチ(25.4mm)当たり50〜200本とする必要がある。このため、フィラメント繊維糸の繊度は、細繊度のものが好ましく、11.1〜55.6dtex(10〜50デニール)の範囲が好ましい。前記の繊度のフィラメント繊維糸を使用したメッシュ織物は、薄くほぼ透明であり、小さな異物でも感知できる。
【0019】
また、前記メッシュ織物の目付け(単位面積あたりの重量)は、10〜75g/m2の範囲が好ましい。目付けがこの範囲であれば、同様に薄くほぼ透明であり、小さな異物でも感知できる。
【0020】
前記手袋の手の裏部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で編成された編み物とするのが好ましい。このようにすると、例えば右手には掌部にメッシュ織物が配置されるように手袋を着用し、左手の掌部には編み物が配置されるように手袋を着用し、右手指の掌部でメッシュ織物を介して異物感知をし、左手指の編み物の部分で付着力の弱い異物を除去できる。
【0021】
本発明の手袋には帯電防止性を付与するのが好ましい。検査物体の表面を接触させたときに静電気を帯びないようにするためである。このための帯電防止加工は、例えばポリエチレングリコール系化合物又はリン系化合物をバインダーで付着させることにより得られる。加えて、難燃性を付与しても良い。難燃加工は、例えばリン系の難燃剤をバインダーで付着させることにより得られる。
【0022】
本発明の手袋は、樹脂成形品、木工品、板金プレス品、ガラス製品、自動車ボディー等の各種物体及びその塗装品の検査等に有用である。
【実施例】
【0023】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0024】
(実施例1)
(1)メッシュ織物
経糸、緯糸ともに繊度:27.8dtexのポリエステル系モノフィラメント糸(KBセーレン社製商品名“ベルカップル”、芯が高融点ポリエステル、鞘が低融点ポリエステル)を使用し、経糸密度98本/インチ、緯糸密度88本/インチとして、平組織の織物を織成した。目付けは24g/m2であった。この織物をテンターで170℃、10分間熱処理して経糸と緯糸の交点を融着により固定させた。
(2)編み物
トータル繊度:82.5dtex(75デニール)、フィラメント数36本のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントからなるウーリー加工糸を用いて、丸編み機でダブルニット編み物を作成した。ウェール数は32/インチ、コース数は38/インチとし、目付けは260g/m2であった。
(3)手袋の縫製
図2A〜Bに示すミトン型異物感知手袋10を縫製した。すなわち、右手を基準として、掌側をメッシュ織物11、手の裏側をダブルニット編み物12とした。13は縫製線である。なお縫製に換えて高周波融着によってもこの手袋は作成できる。
(4)異物感知試験
得られた手袋を使用して、自動車ボディー塗装品の検査をした。その結果、小さな異物でも感知できた。素手と比較するとはるかに感知性はよく、厚さ10〜30μmのポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた場合と同程度の感知性であった。このようなフィルムは、塗装面を滑らせると折れたりシワが入ったりしてすぐに使用できなくなる問題があったが、本実施例の手袋を使用すると、塗装面を滑らせても折れることはなく、シワが入ることもなく、通気性もよく、長時間精度の良い検査作業を続けることができた。
【0025】
また手袋の手の裏部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で編成された編み物としたので、右手には掌部にメッシュ織物が配置されるように手袋を着用し、左手の掌部には編み物が配置されるように手袋を着用し、右手指の掌部でメッシュ織物を介して異物感知をし、左手指の編み物の部分で付着力の弱い異物を除去でき、便利であった。また、左右の手に交換して、裏表使用でき、効率的であった。
【0026】
なお、図2A〜Bに示すミトン型の手袋10に換えて、図3A〜Bに示す5本指異物感知手袋14を作成した。すなわち、右手を基準として、掌側をメッシュ織物15、手の裏側をダブルニット編み物16とした。17は縫製線である。なお縫製に換えて高周波融着によってもこの手袋は作成できる。この手袋14を用いて検査作業に使用したところ、ミトン型と同等の異物を感知でき、通気性もよく、長時間精度の良い検査作業を続けることができた。
【0027】
(実施例2)
実施例1の(1)〜(3)のようにして得られた手袋を帯電防止加工した。帯電防止加工剤として三洋化成工業社製"サンスタットES−15"を0.5wt%加えた水溶液を調整し、この中に前記手袋を浸漬させ、ピックアップ率80wt%となるようにマングルパットを用いて絞った。その後乾燥した。
【0028】
得られた手袋は、異物感知試験において帯電することは無かった。
【0029】
(実施例3)
実施例1で作製したメッシュ織物を使用して、親指、人差し指、中指、薬指、小指の各指用の指袋(指サック)を作り、実施例1と同様に自動車ボディー塗装品の検査をした。その結果、小さな異物でも感知できた。実施例1の手袋に比較して指しか入らない狭いスペースの部分でも異物検知ができた。
【0030】
(実施例4)
実施例1で作製したメッシュ織物を使用して、指や手に巻きつけて実施例1と同様に自動車ボディー塗装品の検査をした。その結果、実施例1の手袋に比較して使い勝手は良くなかったが、素手に比較するとはるかに感知度の高い異物検知ができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】Aは塗装体の表面の異物を素手の指で直接触って感知する説明図、Bは合成樹脂フィルムを介して触って感知する説明図である。
【図2】Aは本発明の一実施例におけるミトン型の異物感知手袋の正面図、Bは同裏面図である。
【図3】Aは本発明の別の実施例における5本指型の異物感知手袋の正面図、Bは同裏面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 塗装体
2 異物
3 指
4 合成樹脂フィルム
10 ミトン型異物感知手袋
11,15 メッシュ織物部
12,16 編み物部
13,17 縫製部
14 5本指型異物感知手袋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体表面の異物を手指の感触により検査するために使用する異物感知手袋であって、
少なくとも手指の掌部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする異物感知手袋。
【請求項2】
前記メッシュ織物の経糸と緯糸はともにポリエステル複合繊維糸で構成され、前記ポリエステル複合繊維糸は低融点と高融点のポリエステルからなる芯鞘構造であり、外側に低融点ポリエステルが配置され、経糸と緯糸の交点は前記低融点ポリエステルが熱融着されて固定されている請求項1に記載の異物感知手袋。
【請求項3】
前記ポリエステル複合繊維糸は、モノフィラメントである請求項2に記載の異物感知手袋。
【請求項4】
前記メッシュ織物は、経緯ともに50〜200メッシュ/25.4mmの範囲である請求項1に記載の異物感知手袋。
【請求項5】
前記フィラメント繊維糸の繊度は、11.1〜55.6dtex(10〜50デニール)の範囲である請求項1に記載の異物感知手袋。
【請求項6】
前記メッシュ織物の目付け(単位面積あたりの重量)は、10〜75g/m2の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の異物感知手袋。
【請求項7】
前記手袋の手の裏部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で編成された編み物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の異物感知手袋。
【請求項8】
物体表面の異物を手指の感触により検査するために使用する異物感知指袋であって、
少なくとも手指の掌部は、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする異物感知指袋。
【請求項9】
異物感知指袋に使用するための織物であって、合成繊維からなるフィラメント繊維糸で織成されたメッシュ織物であり、かつ前記織物の経糸と緯糸の交点は融着されて固定されていることを特徴とする異物感知用織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−231615(P2008−231615A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73121(P2007−73121)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(504155260)艶金化学繊維株式会社 (3)
【出願人】(000150774)株式会社槌屋 (56)
【出願人】(507091532)エイ・ジェイ・テックス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】