説明

異物検出方法及び異物検出装置

【課題】初期の設定や作業が簡単で、異物検出を高い精度で安定的に行う。
【解決手段】異物検出装置1は、空洞共振器10を組み込み、空洞共振器10から共振信号を発振させる自励発振回路11と、異物があるときの共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する異物検出部12と、を有している。自励発振回路11には、所定の共振周波数の共振信号を通過させるバンドパスフィルター20が設けられている。異物検出部12は、共振信号の共振周波数を測定する周波数測定部30と、周波数測定部30により測定された共振周波数の変動により異物を検出する情報処理部31とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞共振器内にシート状の検査対象物を通過させて、当該検査対象物に含まれる異物を検出する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートやフィルム等の製造ラインにおいて、製品に金属片等の異物が付着したり混入することがある。これらの異物は、製品の品質の低下や不良品の発生を招く。このため、シートやフィルムの製造ラインでは、例えば異物検出装置を用いて異物を検出する検査が行われている。このような検査には、例えばマイクロ波等の高周波信号により異物を検出する方法がある。
【0003】
上記方法として、例えば空洞共振器内をシートなどの検査対象物を通過させ、空洞共振器固有の共振周波数と異なる周波数の信号を空洞共振器に外部から入力し、その空洞共振器を通過して出力される信号の透過率の変化により異物を検出することが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−276416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の方法では、空洞共振器の共振周波数と異なる周波数の信号を入力する必要があるため、空洞共振器の共振周波数を予め把握しておく必要があり、そのための設定や作業に手間がかかる。また、温度等の変化により空洞共振器の共振周波数が変動した場合には、入力している信号の周波数との関係が変化し、異物の検出感度が変動して、異物の検出精度が下がる可能性がある。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、初期の設定や作業が簡単で、異物検出を高い精度で安定的に行うことができる異物検出方法及び異物検出装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、空洞共振器内にシート状の検査対象物を通過させて、当該検査対象物に含まれる異物を検出する方法であって、空洞共振器を自励発振回路に組み込んで、前記空洞共振器から共振信号を発振させ、異物があるときの前記共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する、異物検出方法である。
【0008】
本発明によれば、外部から特定の周波数の信号を入力することなく、空洞共振器で自励発振させ、その共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出するので、初期の設定や作業が簡単で、温度等の変化により影響を受けにくく異物検出を高い精度で安定的に行うことができる。
【0009】
上記異物検出方法において、前記空洞共振器から複数の周波数の共振信号を発振させ、それらの複数の共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出してもよい。
【0010】
前記空洞共振器に生じる複数の発振モードが、空洞共振器の中央に腹のあるモードと、中央に節のあるモードを含んでいてもよい。
【0011】
前記共振信号の共振周波数を測定し、その共振周波数の変動により異物を検出してもよい。
【0012】
また、前記共振信号と、異物が存在しない場合の共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号とをミキサーにかけて差周波数を導出し、当該差周波数の変動により異物を検出してもよい。
【0013】
別の観点による本発明は、空洞共振器内にシート状の測定対象物を通過させて、当該測定対象物に含まれる異物を検出する装置であって、空洞共振器を組み込み、前記空洞共振器から共振信号を発振させる自励発振回路と、異物があるときの前記共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する異物検出部と、を有する、異物検出装置である。
【0014】
前記自励発振回路には、所定の共振周波数の共振信号を通過させるバンドパスフィルターが設けられていてもよい。
【0015】
前記自励発振回路は、前記空洞共振器に複数の周波数の共振信号を発振させる複数の並列回路を有していてもよい。
【0016】
前記空洞共振器に生じる複数の発振モードが、空洞共振器の中央に腹のあるモードと、中央に節のあるモードを含んでいてもよい。
【0017】
前記異物検出部は、前記共振信号の共振周波数を測定する周波数測定部と、前記周波数測定部により測定された共振周波数の変動により異物を検出する情報処理部と、を有していてもよい。
【0018】
前記異物検出部は、前記共振信号と、異物が存在しない場合の共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号とを合わせ、差周波数を導出するためのミキサーと、前記差周波数の変動により異物を検出する情報処理部と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、初期の設定や作業が簡単で、異物検出を高い精度で安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施の形態にかかる異物検出装置の構成の概略を示す模式図である。
【図2】空洞共振器を示す斜視図である。
【図3】共振信号の共振周波数の変動を示すグラフである。
【図4】2つの共振信号を発振する場合の異物検出装置の構成を示す模式図である。
【図5】2つの共振周波数を示す説明図である。
【図6】3つの共振信号を発振する場合の異物検出装置の構成を示す模式図である。
【図7】差周波数を用いて異物を検出する場合の異物検出部の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る異物検出装置1の構成の概略を示す模式図である。
【0022】
異物検出装置1は、例えば空洞共振器10を組み込み、空洞共振器10から共振信号を発振させる自励発振回路11と、自励発振回路11において発振した共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する異物検出部12を有している。
【0023】
自励発振回路11は、例えば空洞共振器10、バンドパスフィルター20及び回路制御部21を含む閉回路になっている。
【0024】
空洞共振器10は、例えば図2に示すように内部が空洞の直方体形状を有し、中央には、シート状の検査対象物Aが通過するスリット25が形成されている。検査対象物Aは、図示しない巻き取り式の搬送装置によりスリット25内を連続的に通過できる。
【0025】
図1に示すように回路制御部21は、自励発振を実現するためのアンプや可変抵抗、電源供給部等を有し、空洞共振器10に共振を起こし、共振信号を連続的に発振させることができる。
【0026】
バンドパスフィルター20は、例えば空洞共振器10の複数の共振周波数のうちの特定の共振周波数の周辺領域の共振信号のみを通過させることができる。
【0027】
異物検出部12は、例えば共振信号の共振周波数を測定する周波数カウンタなどの周波数測定部30と、周波数測定部30により測定された共振周波数の変動により異物を検出するコンピュータなどの情報処理部31を有している。
【0028】
情報処理部31は、例えば周波数測定部30から出力される共振周波数をモニタリングし、当該共振周波数が予め設けられた閾値よりずれた場合に検査対象物Aに異物があると判定し、閾値よりずれていない場合には、検査対象物Aに異物がないと判定する。また、情報処理部31は、異物があると判定した場合には、その情報をディスプレイ等の表示部に出力できる。
【0029】
次に、以上のように構成された異物検出装置1を用いた異物検出方法について説明する。先ず、自励発振回路11において、回路制御部21により、空洞共振器10に共振を引き起こし、当該空洞共振器10から共振信号を連続的に発振させる。このとき、バンドパスフィルター20により、共振周波数が限定され、特定の共振周波数f0の共振信号が連続的に発振される。
【0030】
自励発振回路11の共振信号は、異物検出部12に出力され、周波数測定部30においてその共振信号の共振周波数が測定される。この共振周波数の測定結果は、情報処理部31に出力される。情報処理部31では、入力された共振周波数とその閾値とが比較され、図3に示すように共振周波数f0が閾値Lよりずれた場合に、異物ありと判定される。それ以外の場合には、異物なしと判定される。そして、異物ありと判定された場合には、その情報が例えば情報処理部31の表示部に出力される。また、情報処理部31では閾値Lによる処理の前にフィルターを設置しノイズ除去を行うなどの機能をもたせてより検出精度を上げることも可能である。
【0031】
本実施の形態によれば、外部から特定の周波数の信号を入力することなく、空洞共振器10で自励発振させ、その共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出している。このため、初期の設定や作業が簡単で、温度等の変化により影響を受けにくく異物検出を高い精度で安定的に行うことができる。
【0032】
また、周波数測定部30により共振信号の共振周波数を測定し、その共振周波数の変動により異物を検出するので、異物の検出を簡単に行うことができる。
【0033】
上記実施の形態では、空洞共振器10から発振させる共振信号が一種類であったが、空洞共振器10から複数の共振信号を発振させ、それらの複数の共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出するようにしてもよい。かかる場合、例えば図4に示すように自励発振回路11が、空洞共振器10に二つの共振信号を発振させるための2つの並列回路50、51を有している。空洞共振器10の出力側の並列回路50、51の分岐部には、分配器60が設けられ、空洞共振器10の入力側の並列回路50、51の分岐部には、混合器61が設けられている。
【0034】
並列回路50、51は、それぞれ上記自励発振回路11と同じであり、回路制御部70、71とバンドパスフィルター80、81をそれぞれ有している。各並列回路50、51のバンドパスフィルター80、81は、図5に示すように互いに異なる共振周波数f0、f1の共振信号を通過させる。空洞共振器10には、2つの発振モード、例えば図4に示すように空洞共振器10の中央に腹のある発振モードM0と、中央に節のある発振モードM1ができる。二つの共振信号は、それぞれ異物検出部12に出力される。周波数測定部30は、各並列回路50、51からの共振信号の共振周波数を測定し、情報処理部31は、周波数測定部30から出力される各共振周波数をモニタリングし、各共振周波数が予め設けられた閾値よりもずれた場合に検査対象物Aに異物があると判定し、閾値よりずれていない場合には、検査対象物Aに異物がないと判定する。
【0035】
空洞共振器10内の発振モードの節の部分では、異物の検出感度が相対的に下がるが、上記例によれば、空洞共振器10に二つの発振モードを形成し、互いに節のある位置をずらしているので、空洞共振器10内の異物の検出感度を均一化できる。この結果、空洞共振器10の検査対象物Aのいずれの位置であっても異物を適正に検出できる。
【0036】
前記実施の形態では、空洞共振器10に2つの共振信号を発振させていたが、図6に示すように3つの共振信号を発振させてもよい。かかる場合、自励発振回路11に並列回路52が設けられ、分配器60と、混合器61に接続される。並列回路52は、共振制御部72と、バンドパスフィルター82が設けられる。バンドパスフィルター82は、他のバンドパスフィルター80、81と異なる共振周波数f2の共振信号を通過させる。空洞共振器10には、例えば空洞共振器10の中央に腹のある3つ目の発振モードM2が生成される。他の並列回路50、51と同様に並列回路52の共振信号は、異物検出部12に出力される。周波数測定部30は、他の共振信号と共に、並列回路52からの共振信号の共振周波数を測定し、情報処理部31は、周波数測定部30から出力される各共振周波数をモニタリングし、各共振周波数が予め設けられた閾値よりもずれた場合に検査対象物Aに異物があると判定し、閾値よりずれていない場合には、検査対象物Aに異物がないと判定する。
【0037】
かかる例によれば、空洞共振器10内の異物の検出感度がさらに均一化するので、空洞共振器10のいずれの位置であっても異物を適正に検出できる。
【0038】
以上の実施の形態では、異物検出部12において共振周波数を測定して、その共振周波数の数値を直接用いて異物を検出していたが、共振周波数の共振信号と、その異物が存在しない場合の共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号とをミキサーにかけて差周波数を導出し、当該差周波数の変動により異物を検出してもよい。
【0039】
かかる場合、例えば図7に示すようにミキサー90により共振周波数f0の信号s0に対し共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号s1が加えられ、その差周波数の信号s0−s1が情報処理部31に出力される。情報処理部31では、差周波数とその閾値が比較され、差周波数が閾値を超えた場合に異物ありと判定され、それ以外の場合は異物なしと判定される。
【0040】
かかる例によれば、共振信号の共振周波数の変動が大きく現れるので、異物の検出をより適正かつ確実に行うことができる。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば以上の実施の形態では、空洞共振器10に1つ〜3つの共振周波数の共振信号を発振させていたが、4つ以上の共振信号を発振させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、初期の設定や作業が簡単で、異物検出を高い精度で安定的に行う際に有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 異物検出装置
10 空洞共振器
11 自励発振回路
12 異物検出部
20 バンドパスフィルター
30 周波数測定部
31 情報処理部
A 検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞共振器内にシート状の検査対象物を通過させて、当該検査対象物に含まれる異物を検出する方法であって、
空洞共振器を自励発振回路に組み込んで、前記空洞共振器から共振信号を発振させ、異物があるときの前記共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する、異物検出方法。
【請求項2】
前記空洞共振器から複数の周波数の共振信号を発振させ、それらの複数の共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する、請求項1に記載の異物検出方法。
【請求項3】
前記空洞共振器に生じる複数の発振モードが、空洞共振器の中央に腹のあるモードと、中央に節のあるモードを含んでいる、請求項2に記載の異物検出方法。
【請求項4】
前記共振信号の共振周波数を測定し、その共振周波数の変動により異物を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の異物検出方法。
【請求項5】
前記共振信号と、異物が存在しない場合の共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号とをミキサーにかけて差周波数を導出し、当該差周波数の変動により異物を検出する、請求項1〜3のいずれかに記載の異物検出方法。
【請求項6】
空洞共振器内にシート状の検査対象物を通過させて、当該検査対象物に含まれる異物を検出する装置であって、
空洞共振器を組み込み、前記空洞共振器から共振信号を発振させる自励発振回路と、
異物があるときの前記共振信号の共振周波数の変動を用いて異物を検出する異物検出部と、を有する、異物検出装置。
【請求項7】
前記自励発振回路には、所定の共振周波数の共振信号を通過させるバンドパスフィルターが設けられている、請求項1に記載の異物検出装置。
【請求項8】
前記自励発振回路は、前記空洞共振器に複数の周波数の共振信号を発振させる複数の並列回路を有する、請求項6又は7に記載の異物検出装置。
【請求項9】
前記空洞共振器に生じる複数の発振モードが、空洞共振器の中央に腹のあるモードと、中央に節のあるモードを含んでいる、請求項8に記載の異物検出装置。
【請求項10】
前記異物検出部は、前記共振信号の共振周波数を測定する周波数測定部と、前記周波数測定部により測定された共振周波数の変動により異物を検出する情報処理部と、を有する、請求項6〜9のいずれかに記載の異物検出装置。
【請求項11】
前記異物検出部は、前記共振信号と、異物が存在しない場合の共振周波数と同じ又は近傍の周波数の信号とを合わせ、差周波数を導出するためのミキサーと、
前記差周波数の変動により異物を検出する情報処理部と、を有する、請求項6〜9のいずれかに記載の異物検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−72702(P2013−72702A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211034(P2011−211034)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)