説明

異物粒子の分離方法

【課題】 従来、静電分離装置や磁気分離装置による粒子の分離は、多くの粒子について、分離効率が極めて不十分で実用レベルに達していなかったが、これを改善するための方法を提供する。
【解決手段】 静電分離装置や磁気分離装置において、異なる特性の粒子の混合粉体を分離するために粒子に電荷または磁気を帯びさせる前に、分級機により球相当直径10μm以下の微粉を15質量%以下になるように分級する。分級の後、静電分離または磁気分離の前に、粒子の混合粉体を分散する操作を行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉体状の各種鉱物や、各種産業での粉体状中間製品または廃棄物の中から、静電気または磁気を利用して目的物質を分離回収もしくは不要成分を分離除去する際、経済的な分離回収効率もしくは除去効率、さらには実用に充分耐えるレベルの目的成分濃縮率を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成分や物質の異なった粒子が混在する粉体中から目的物質を分離回収、または不要物質を除去、あるいは目的物質の濃縮を行なう方法には、これらの粒子の比重、磁気的特性(磁性)、電気的特性(誘電率、導電率、帯電性)などの物理的または物理化学的特性の違いを利用して、従来から、比重分離、磁気分離、および静電分離など各種の方法がある。これらの方法の選択には、分離回収もしくは濃縮したい目的物質が、残りの不要物質との特性の違いが何かによって決定される。しかし、これらの方法は、従来多くの場合、目的物質の分離回収効率や濃縮率が低く、産業で実用されるには限界があった。
【0003】
一方、資源、特に有用鉱物の枯渇問題や有効利用、また各種産業からの副産物や廃棄物のリサイクル利用のための残存有用物質の分離回収あるいは濃縮が、近年極めて重要視され、目的物質が実用に充分耐える分離回収効率と濃縮率、さらには低い設備費ならびにランニングコストのための技術確立が強く望まれている。
【0004】
このような中、静電分離による方法や磁気分離による方法は設備の建設費とランニングコスト共に低く、かつ広い分野で適用できる可能性があり近年有望視されている。しかし、従来の技術では目的物質の分離回収効率や濃縮率が低く、実用に耐えるに至っていないことが大部分である。
例えば、静電分離による方法では、特許文献1および特許文献2に開示されているような技術が知られている。
【特許文献1】特開2004−243154号公報
【特許文献2】国際公開2002/76620号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、目的物質の分離回収効率や濃縮度などの分離効率に悪影響を及ぼして実用化を阻害している大きな原因が、従来から周知・常識であった事柄以外にあることを発見し、分離効率を実用化に充分なまでに大幅に向上させるために、その阻害原因を打破する具体的な方法を考案したことにある。
【0006】
静電分離では、粒子の表面導電性や接触抵抗に影響を与える粒子表面の湿分、あるいはそれに影響を与える空気中の湿度は、目的物質の分離回収効率や濃縮度など分離効率に影響を与える重要な因子であり、乾燥度の高い状態で行なわれる必要があることは周知である。
しかし、実際に乾燥状態で実験を行なってみると、一部の粒子については比較的高い分離効率を発揮するが、多くの粒子については分離効率が極めて不十分で、実用レベルにはまったく到達できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者は、水分や湿度以外に大きく影響を及ぼす因子を見つけるために、供給するガスの種類と温度、ガス流速、印加電圧、電界強度、磁気強度、磁気勾配、粉体層の流動化状態など操作条件のほか、粒度分布、粒子表面の化学成分や吸着物質などの影響について調査検討を行なった。その結果、静電分離、磁気分離の何れの場合も、特性の異なる粒子の混合粉体中に球相当直径10μm以下の微粉が多く含まれていると分離効率は大幅に低下することを発見した。これは、このような微粉が多いと粒子の凝集が著しくなり、分離したい性状の異なる粒子、すなわち目的物質と非目的物質が混ざった状態で凝集するために分離効率が悪くなると考察できる。発明者のさらなる調査検討では、10μm以下の微粉が、目的物質と非目的物質のどちらか一方の粒子のみであったとしても、その微粉は微粉であるが故に付着凝集力が強く、他方の性状の大きな粒子表面にも付着し、本来の静電分離ができず、分離効率を大幅に下げることになることも発見した。
【0008】
これらの対策として、発明者は次のような方法を考案した。すなわち、凝集性を小さくするために、凝集の根源になる球相当直径10μm以下の微粉を分級によって事前に除去する方法である(請求項1)。さらに、分級した後に、粒子の混合粉体を分散させ、しかる後に当該粒子の混合粉体を静電分離または磁気分離する方法としてもよい(請求項2)
【発明の効果】
【0009】
本発明により、目的物質粒子と非目的物質粒子の混合粉体の中から、目的物質のみを高い純度(高濃度)でかつ高い収率で回収することが可能になり、その結果、回収できた目的物質が有効に活用できるようになり、資源の有効利用、並びに副産物・産廃物の有効利用という観点で、今後の地球規模での資源の有効利用並びに環境対策の面で大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な方法を述べる。
本発明は、凝集の原因となる球相当直径10μm以下の微粉を事前に除去して凝集性を小さくする方法である。しかし、工業的な観点では10μm以下の微粉のみを完全に除去することはできない。そこで、発明者は図1に示すような分級機を用いて、10μm以下の微粉がどの程度以下であれば、経済的にも、工業的にも満足できるかを実験的に調べるに至った。その結果、多くの実験を経て、分離したい性状、すなわち目的物質と非目的物質の粒子が混在している混合粉体(原料粉体)に電荷または磁気を帯びさせて分離する前に、原料粉体中の10μm以下の微粉含有率が15質量%以下、望ましくは10質量%以下になるように、分級によって微粉除去を行い、これを荷電および分離装置に供給することによって、目的物質についての分離回収効率と濃縮度の双方が大幅に向上するという結論を導いた。その際、分級機は乾式であることが有効だが、分級機の原理には制限がなく遠心式、慣性式、ふるい分け式など何れの方法でも良い。しかし、分級に使用するガス(通常は空気)の湿度は低い方が良く、相対湿度で70%以下、望ましくは50%以下にしたほうが良い。なお、10μm以下の微粉含有率調整方法は用いる分級機によって決定されるものであり、例えば遠心式分級機ではロータブレードの回転速度、ベーン角度、分級に用いるガス供給量、ガス流速などの中から、機種の構造などによって適切なものが選択される。
【0011】
前記のような分級操作を行った後、原料粉体を分散させるとさらによい。分散の方法は特に限定されないが、例えば、エジェクタ、パイプ、ピンミルやブレードミルなどの高速回転衝撃粉砕機、ボールミルや媒体攪拌ミルなどを利用して分散させることができる。
【0012】
エジェクタを用いる場合は、ガス供給圧力がゲージ圧で100kPa〜600kPaのエジェクタ中または当該エジェクタ後方の噴流中に原料粉体を供給することが効果的である。パイプを用いる場合は、レイノルズ数が12000以上のガス流れをもつパイプ中に原料粉体を供給することが効果的である。高速回転衝撃粉砕機を分散に応用する場合は、回転軸に取り付けられたピンやブレードなどの突起状物が5m/s以上の周速度で回転する容器中に粒子の混合粉体を供給することが効果的である。さらに、ボールミルや媒体攪拌ミルを分散に応用する場合は、分散媒体として球相当直径(体積が同一の球を想定したときのその球の直径)が1mm〜60mmのボールまたは形状を限定しない固体を充填した容器に原料粉体を供給し、当該容器を回転させるかもしくは当該容器内部に設置した回転軸とそれに接合された攪拌翼または攪拌棒を回転させて当該分散媒体を運動させるのがよい。
【0013】
このように、分級の後にさらに分散の操作を行うことで、粒子の混合粉体中に存在する凝集体が解砕する。すると、例えば目的物質と非目的物質が強固に凝集している場合においても、静電分離や磁気分離により両者をきわめて有効に分離することができる。
【実施例1】
【0014】
全国の発電所から発生する石炭灰(フライアッシュ)は年間約1000万トンであり、今後資源の有効活用の観点から灰分の多い低品位炭の使用が増すことになり、フライアッシュの発生量は更に増すことが予想されている。このうち、約60%はセメント製造においてその原料の一部として使用され、その使用可能量はセメントとしての化学成分上、既に限界に来ている。残りの大部分は埋め立て処分されている。この埋め立て処分は環境対策上望ましい姿でないことは言うまでも無い。
【0015】
セメント分野でフライアッシュの使用量をさらに増すには、これまでのような原料としてではなく、出来上がったセメントにJISに規定されている範囲で添加混合することである。しかし現状ではフライアッシュ中に残存する未燃炭素(火力発電所で石炭を燃焼したとき、燃えなかった炭素成分が数%以上残存している)がセメントやコンクリートの品質に悪影響を及ぼすために現在ではその添加混合ができていない。
【0016】
そこで、このようなフライアッシュから、未燃炭素を効率的に分離除去して、フライアッシュ中の未燃炭素含有率を0.5%程度以下にすることができればセメントへの添加混合が可能になる。
このような背景の中、灰と炭素の電気的特性の違いを利用した静電分級が注目されているが、目的物質の濃縮率(灰分の濃縮率、すなわち未燃炭素含有率を少なくすること)と分離回収効率(フライアッシュの歩留まり)の双方とも実用のレベルに達していない。
【0017】
そこで、本発明の効果を実験的に調べた結果を以下に示す。
この実施例では、未燃炭素含有率3.2質量%のフライアッシュを静電分離装置に供給する前に、図1に示す構造の遠心式分級機を用いて分級し、次いで静電分離装置により未燃炭素とフライアッシュとの分離を行なったものである。なお、静電分離は、電極間隔65mmの装置を用い、印加電圧を30kVとし、ガスに乾燥空気(温度70℃、相対湿度10%)を用いて行った。その結果の一部を図2に示す。
この図で、10μm以下の含有率が33%のデータはこの分級装置を使用しない、すなわち従来の場合である。図からわかるように、この分級装置の使用により微粉を除去し、10μm以下の含有率をある程度まで下げると、未燃炭素含有率は大幅に低減することがわかる。
【実施例2】
【0018】
この実施例では、実施例1と同じフライアッシュを用いて、図1に示すような構造の遠心式分級機を用いて分級し、図3に示すようなピン式分散装置により分散して、静電分離装置により同様の実験を行ったものである。なお、ピン式分散装置において、ピンの回転速度は30m/sとした。その結果の一部を図4に示す。実施例1における結果よりもさらに未燃炭素含有率が低下し、かつ、濃縮フライアッシュの歩留まりが向上することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】分級機の構造の概略図を例示する図である。
【図2】フライアッシュを分級機により分級し、ついで静電分離装置により分離したときの未燃炭素含有量および濃縮フライアッシュ歩留まりを示す図である。
【図3】分散装置の一例としてピン式分散機の構造の概略図を例示する図である。
【図4】フライアッシュを分級機により分級し、ピン式分散機により分散し、ついで静電分離装置により分離したときの未燃炭素含有量および濃縮フライアッシュ歩留まりを示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ロータシャフト
2 ガイドベーン
3 ロータブレード
4 ホッパ
5 粉体供給位置
6 空気導入口
7 空気および微粉
8 粗粉出口
9 原料粉体
10 モータ
11 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特性の異なる粒子の混合粉体から特性の異なる粒子を分離する静電分離操作または磁気分離操作において、当該混合粉体に電荷または磁気を帯びさせて分離する前に、当該混合粉体中の球相当直径10μm以下の微粉含有率が15質量%以下になるように当該混合粉体を分級して微粉を除去することを特徴とする粒子の分離方法。
【請求項2】
特性の異なる粒子の混合粉体から特性の異なる粒子を分離する静電分離操作または磁気分離操作において、当該混合粉体に電荷または磁気を帯びさせて分離する前に、当該混合粉体中の10μm以下の微粉含有率が15質量%以下になるように当該混合粉体を分級して微粉を除去し、さらに当該混合粉体中の凝集体を分散させ、しかる後に当該混合粉体に電荷または磁気を帯びさせて分離することを特徴とする粒子の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−255531(P2006−255531A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73643(P2005−73643)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】