説明

異物落下防止装置

【課題】下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタで捕捉した異物を高い信頼度で燃料集合体内に閉じ込め、かつ、必要に応じて回収する。
【解決手段】異物が捕捉された燃料集合体1を燃料交換機10によって把持移動する際の異物落下防止装置であって、前記燃料交換機10の外筒11と燃料集合体1のチャンネルボックス40を水密に接続する接続部材20と、前記燃料交換機10の外筒11の内部に設置されたポンプ22と、前記ポンプ22の上部であって前記外筒に設けられた1以上の冷却材孔12とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の燃料集合体の下部タイプレートに捕捉された異物の落下を防止する異物落下防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉、例えば沸騰水型原子炉における燃料集合体として、国内で商用の発電が行なわれて以来、7行7列型、8行8列型、改良8行8列型、高燃焼度8行8列型が順次開発され、そして、高燃焼度9行9列型が採用されるに至っている。これらの改良により集合体当たりの核分裂性物質の収容量が増加し、集合体内濃縮度分布の最適化と可燃性毒物の最適配置により、高燃焼度化と長期運転サイクル化が実現され、炉心の経済性は向上している。
【0003】
図5(a)に示す9×9の燃料集合体1では、チャンネルボックス40内に複数の燃料棒42が正方格子状に配列され、上下端部がそれぞれ上部タイプレート45と下部タイプレート46で支持されている。上部タイプレート45の上部には取っ手45aがあって、燃料取扱い装置で取っ手45aを掴むことにより、燃料集合体1を上方へ吊り上げることができるようになっている。
【0004】
上部タイプレート45と下部タイプレート46の間で燃料棒42の水平方向の間隔を保持するために複数の燃料スペーサ44が配置されている。燃料集合体の水平断面中央部の一部の燃料棒は中空のウォータロッド43で置き換えられている。図5(a)の例では2本の太径ウォータロッド43が配置されている。さらに、一部(図示の例では8本)の燃料棒は、部分長燃料棒42aであって、下部タイプレート46から上方に延びているが、上部タイプレート45にまで達せずに途中までの長さになっている。なお、図5(b)〜(d)は、図5(a)に示す燃料集合体のB−B、C−C、D−D断面図である。
【0005】
また、近年の高性能化された燃料集合体では、燃料集合体内部に異物が侵入するのを防ぐことを目的としてフィルタ機能を付加することにより、燃料の健全性の向上が図られている。上述の9×9燃料の下部タイプレートの燃料棒支持部46cでは、約5mmの小口径の孔を多数開けることにより、流れに対する抵抗を増加(すなわち、高圧損化)する設計が採用されており、炉心の安定性の改善が図られているが、これは異物フィルタの役目も果たしている。
【0006】
燃料集合体に侵入することが予想される異物としては、プラント建設時に原子炉一次系内に僅かに残された金屑、機器洗浄時の金属性ブラシの折れ片、機器損傷時の破片などが想定されている。その形状も、板状、つるまきバネ状(らせん状)、針金状(直線状)、など、多岐に渡ることが予想されている。
【0007】
最近では、異物フィルタ機能をさらに発展させた下部タイプレートも提案され、BWR運転プラントに適用されつつある(特許文献1)。図6(a)、(b)に示す9×9燃料用の異物フィルタ付き下部タイプレート46は、燃料棒42とウォータロッド43を支える燃料支持部46cの下方に、数mmの小口径の孔46bが数百個開いた異物フィルタ46dが取り付けられている。ここで、燃料棒被覆管の下部端栓と、ウォータロッドの下部端栓は、異物フィルタ46dを貫通している。
【0008】
燃料集合体下部に流入した冷却材は、下部タイプレート46に開けられたリークホール46aからバイパス部への流れを除いて、異物フィルタ46dを必ず通過する。したがって、大部分の異物は、チャンネルボックス1で囲まれた燃料集合体部分の流路(インチャンネル)に入る前に異物フィルタで捕捉される。
また、特許文献2に示すようにさらに異物の捕捉性能に優れた多段式異物フィルタを装着した下部タイプレートも開発されている。
【0009】
一方、捕捉された異物は原子炉の運転中は冷却材の流れにより下部タイプレートの異物フィルタに保持されているが、原子炉停止後又は燃料集合体を燃料プールに移動させる際に、異物を保持する力がなくなってしまうので、燃料集合体内から落下して他の燃料集合体内に侵入したり、あるいは圧力容器内に落下して原子炉内を循環し燃料等の炉内構造材を損傷する可能性がある。
この問題への対策として、冷却材流れがなくなっても燃料集合体から異物を放出しない異物フィルタ(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−306280号公報
【特許文献2】特開2006−189434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の異物フィルタを有する下部タイプレートでは、炉心入口部に達した異物を炉心(特に、燃料集合体チャンネル)内に侵入することを高い確率で防止することができる。
しかしながら、これらの異物フィルタは、異物の侵入防止上は非常に有効であるとともに、落下した異物を部分的に回収する機能を有しているが(特許文献1)、異物フィルタに捕捉された異物を全体にわたって積極的に捕捉又は回収を行なうものではないため、例えば、冷却材の循環が停止又は低流速となった際や、燃料集合体が所定の燃焼を終えた後RPV外へ取り出す際に、異物フィルタ部で捕捉した異物が落下し、燃料集合体上部から燃料集合体内部に侵入したり、燃料支持金具底部、あるいは、原子炉圧力容器底部に残されることがあった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタで捕捉した異物を高い信頼度で燃料集合体内に閉じ込め、かつ、必要に応じて回収することが可能な異物落下防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る異物落下防止装置は、異物が捕捉された燃料集合体を燃料交換機によって把持移動する際の異物落下防止装置であって、前記燃料交換機の外筒と燃料集合体のチャンネルボックスを水密に接続する接続部材と、前記燃料交換機の外筒の内部に設置されたポンプと、前記ポンプの上部であって前記外筒に設けられた1以上の冷却材孔とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る異物落下防止装置は、異物が捕捉された燃料集合体を燃料交換機によって把持移動する際の異物落下防止装置であって、燃料集合体の下部タイプレート内に配置された膨張部材と、前記燃料交換機に設置され前記膨張部材にチューブを介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給装置とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタで捕捉した異物を高い信頼度で燃料集合体内に閉じ込め、かつ、必要に応じて回収することが可能となり、残留異物によって引き起こされる燃料集合体の破損リスクを十分に低く抑えることができるとともに、燃料集合体の信頼性向上、ひいては原子力発電プラントの安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係る異物落下防止装置の構成図。
【図2】第2の実施形態に係る異物落下防止装置の構成図。
【図3】第3の実施形態に係る異物落下防止装置の構成図。
【図4】第4の実施形態に係る異物落下防止装置の構成図。
【図5】従来の燃料集合体の構成図で、(a)は全体構成図、(b)は(a)のB−B断面図、(c)はC−C断面図、(d)はD−D断面図。
【図6】従来の燃料集合体の下部タイプレートの構成図で、(a)は断面図、(b)は異物フィルタの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る異物落下防止装置の実施形態を、図面を参照して説明する。
ここで、相互に共通もしくは類似の部分、または、従来技術と共通もしくは類似の部分には、共通の符号を付して重複説明を省略する。
【0018】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る異物落下防止装置を図1により説明する。
本第1の実施形態では、燃料交換機で燃料集合体を水中移動する際に、燃料集合体内で上向きの冷却材の流れを維持することにより下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタに捕捉されている異物が落下することを防止するものである。
【0019】
そのために、既設の燃料交換機10に、燃料交換機の外筒11とチャンネルボックス40との上端と間の間隙を塞いで冷却材流路を形成する蛇腹状の接続部材20と、冷却材に含まれる異物を除去するフィルタ21と、冷却材を循環させるポンプ22を付設し、外筒11には複数の冷却材孔12が設けられている。
【0020】
このように構成された異物落下防止装置において、燃料交換機10が燃料集合体1を圧力容器から燃料プール等へ水中移動させる場合、ポンプ22により燃料集合体1の下部から冷却材を吸い込み、チャンネルボックス40内及び接続部材20内を経由して、矢印13で示すように、燃料交換機外筒の冷却材孔12から外部へ流出させる。この冷却材の上向きの流れにより、下部タイプレートの燃料棒支持部46c又は異物フィルタ46dに捕捉されている異物が落下することを防止する。
【0021】
一般的に、ポンプ22は、燃料交換機10が燃料集合体1を把持している間はポンプ22の運転を継続しておこない、燃料集合体1を把持していない時にはポンプ22の運転を停止する。このポンプの運転を、燃料集合体1の把持及び開放に合わせて、自動的におこなってもよい。これにより、運転員の負担を軽減することができる。
【0022】
また、異物が捕捉された燃料集合体1の移動が終了した後、又は、移動途中の適切な箇所で燃料交換機10を一旦停止させ、ポンプ22を逆回転させ、燃料集合体1の下部に捕捉されている異物を落下させる。
【0023】
ポンプ22の逆回転によって異物を落下させることは、通常はあまり必要はないと考えられるが、冷却材中に異物が多く、燃料集合体1の異物フィルタ46d等に多くの異物が捕捉されていることが予想される場合には、捕捉された異物による流動抵抗の増加の影響を軽減するために行なうことが望ましい。その際には、燃料プール内の特定の場所(炉心に近い場所がよいが特に限定しない)においてポンプ22の逆回転を行い、落下した異物を当該特定の場所に配置したフィルタ又は容器等(図示せず)に回収する。
【0024】
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタ又で捕捉した異物をその状態で燃料集合体内に保持し、かつ、必要に応じて回収することが可能となる。これにより、一旦捕捉した異物を再度圧力容器内又は燃料プール内に散逸させることがないため、炉心の安全性及び信頼性を高めることができる。
【0025】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る異物落下防止装置を図2により説明する。
本第2の実施形態では、燃料交換機で燃料集合体を水中又は気中を移動する際に、下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタの直下に配置された弾性の膨張部材を膨らませることにより下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタに捕捉されている異物が落下することを防止するものである。
【0026】
そのために、既設の燃料交換機10に、例えば空気等の圧縮ガス等により膨張する弾性の膨張部材26と、膨張部材26にチューブ27を介して圧縮ガスを供給するコンプレッサ又は圧縮ガス容器等の圧縮ガス供給部材(図示せず)を具備させ、燃料交換機10が燃料集合体1を水中又は気中を移動させる前に、遠隔操作により膨張部材26を下部タイプレート46内の空間に挿入する。また、圧縮ガス供給部材は燃料交換機に適宜付設される。
【0027】
このように構成された異物落下防止装置において、燃料交換機10が燃料集合体1を圧力容器から燃料プール等へ気中又は水中移動させる場合、圧縮ガス供給部材から圧縮ガスを膨張部材26に供給し膨張部材26を膨らませ、膨張部材26と下部タイプレート46内壁とを接触させ、両者間の隙間をなくす。これにより、異物が下部タイプレート46から落下するのを防止する。
燃料集合体1の移動終了後は、膨張部材26内の圧縮ガスを抜いて、異物を回収した後、膨張部材26を下部タイプレート46から取り出す。
【0028】
以上説明したように、本第2の実施形態によれば、燃料集合体は、水中のみならず気中においても、下部タイプレートの燃料棒支持部又は異物フィルタで捕捉した異物を保持したまま移動し、かつ、必要に応じて異物を回収することが可能となる。これにより、一旦捕捉した異物を再度圧力容器内又は燃料プール内に散逸させることがないため、炉心の安全性及び信頼性を高めることができる。
【0029】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る異物落下防止装置を図3により説明する。
本第3の実施形態では、燃料交換機10で燃料集合体1を水中又は気中を移動する際に、燃料集合体1の下部を包囲する容器25を配置し、下部タイプレート46の燃料棒支持部46c又は異物フィルタ46dに捕捉されている異物が落下した場合、落下した異物を容器内に回収するものである。
容器25は燃料交換機10に固定された1又は複数の支持部材14により支持される。また、容器25は異物が通過しないようなメッシュ状の容器であってもよい。
【0030】
(第4の実施形態)
第4の実施形態に係る異物落下防止装置を図4により説明する。
本第4の実施形態では、燃料交換機10で燃料集合体1を、例えば、炉心2から燃料プール3に移動する際に、その移動経路の下にあたる炉心の上部格子板上に1又は複数の板状部材31を設置し、移動中の燃料集合体1から落下する異物がその下の燃料集合体1内に侵入することを防止するものである。
【0031】
板状部材31は炉心停止時の冷却材の流れを阻害しないで異物が通過するのを阻止するように、細かいメッシュ状の素材で構成するのが好ましい。また、板状部材31は全体が1枚で構成される必要は必ずしもなく、取扱いの容易さ及び経路を配慮して複数の長方形、もしくは正方形の板状物を組み合わせて使用することでもよい。
【0032】
上述した第3及び第4の実施形態の異物落下防止装置は、それぞれ単独でも使用できるが、協同して使用しても良く、さらに第1又は第2の実施形態の異物落下防止装置と組み合わせて用いいることにより、一旦捕捉した異物を再度圧力容器内又は燃料プール内に散逸させることを確実に防止するようにしてもよく、これにより炉心の安全性及び信頼性をさらに高めることができる。
【0033】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、組み合わせ、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1…燃料集合体、2…炉心、3…燃料プール、10…燃料交換機、11…外筒、12…冷却材孔、14…支持部材、20…接続部材、21…フィルタ、22…ポンプ、23…燃料掴み部、24…異物、25…容器、26…膨張部材、27…チューブ、31…板状部材、40…チャンネルボックス、42…燃料棒、43…ウォータロッド、44…燃料スペーサ、45…上部タイプレート、45a…取っ手、46…下部タイプレート、46a…リークホール、46b…孔、46c…燃料支持部、46d…異物フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異物が捕捉された燃料集合体を燃料交換機によって把持移動する際の異物落下防止装置であって、
前記燃料交換機の外筒と燃料集合体のチャンネルボックスを水密に接続する接続部材と、前記燃料交換機の外筒の内部に設置されたポンプと、前記ポンプの上部であって前記外筒に設けられた1以上の冷却材孔とを有することを特徴とする異物落下防止装置。
【請求項2】
請前記ポンプは正逆回転可能であることを特徴とする請求項1記載の異物落下防止装置。
【請求項3】
前記ポンプは,燃料交換機の燃料集合体の把持、開放動作に連動して,自動で起動・停止することを特徴とする請求項1記載の異物落下防止装置。
【請求項4】
異物が捕捉された燃料集合体を燃料交換機によって把持移動する際の異物落下防止装置であって、
燃料集合体の下部タイプレート内に配置された膨張部材と、前記燃料交換機に設置され前記膨張部材にチューブを介して圧縮ガスを供給する圧縮ガス供給装置とを有することを特徴とする異物落下防止装置。
【請求項5】
燃料集合体の下部を包囲する容器を設けたことを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の異物落下防止装置。
【請求項6】
燃料集合体の移動経路下部の炉心上部格子板上に板状部材を配置したことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載の異物落下防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117922(P2012−117922A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268030(P2010−268030)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(000229461)株式会社グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン (102)