説明

疎水性マグネタイト粒子粉末

【課題】シラン化合物が機能を発揮するために有効的に処理されていることを特徴とし、疎水性が高く、有機溶媒への分散特性に優れるなどの諸特性のバランスが取れたマグネタイト粒子粉末、特に磁性一成分ケミカルトナーに好適なマグネタイト粒子粉末およびその製造方法提供する。
【解決手段】粒子表面がRSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)からなるシラン化合物で疎水化されたマグネタイト粒子粉末であって、該シラン化合物はRの炭素数3以下のアルキル基とRの炭素数4以上のアルキル基のそれぞれ1種以上である事を特徴する疎水性マグネタイト粒子粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた疎水性を有していることを特徴とし、さらに有機溶媒中への分散性に優れたマグネタイト粒子粉末、特に懸濁重合磁性トナーに好適な疎水性マグネタイト粒子粉末、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネタイト粒子粉末は、静電複写磁性トナー用材料粉、静電潜像現像用キャリア用材料粉等において汎用されているが、近年の電子写真技術の発達により、特にデジタル技術を用いた複写機、プリンターが急速に発達し、要求される特性がより高度なものになってきている。
【0003】
マグネタイト粒子粉末は、粒子表面に水酸基や吸着水分が存在しているため、一般に親水性であり、親油性が乏しく、有機媒体中への分散や樹脂中への練り込みが困難なため、粒子表面が疎水化され、有機媒体および樹脂中での分散に優れたマグネタイト粒子粉末が要求されている。
【0004】
また、近年トナーの製造プロセスは、これまでの熱混練による乾式法に代わり、有機溶媒中等での化学的な反応による湿式法が注目されてきている。湿式法の内、懸濁重合法により得られる磁性トナーは、乾式法により得られる混練トナーと比較し、強い分散力により処理されないため、マグネタイト粒子をトナー中に均一分散させることが容易ではない。
【0005】
従来、親水性のマグネタイト粒子表面を疎水化する手法として、マグネタイト粒子粉末と疎水化処理剤とを湿式法又は乾式法にて混合した後、加熱処理する方法があり、疎水化処理剤として各種シラン系化合物を用いる方法が一般的に知られている。疎水化処理剤として用いられる各種シラン系化合物は、比較的高価な物であり、高い歩留まりで粒子表面でマグネタイトと結合していることが要求される。
【0006】
また、疎水化処理剤は、マグネタイト粒子表面と結合することで効果を発揮する。懸濁重合法による製造プロセスにおいて、有機溶媒中に脱離してしまうような処理物層を有すマグネタイト粒子粉末を用いると、親水性の表面が露出することによる分散不良が生じる。のみならず、脱離した処理剤が樹脂成分の反応を阻害することにもつながる。従って、疎水化処理により形成された処理物層は、量的に過不足なく、かつマグネタイト粉末粒子表面に対し、きちんと結合していることが要求される。
【0007】
かかる疎水化処理マグネタイト粒子に関しては、たとえば、特許文献1には、マグネタイト粒子表面を、シラン化合物を用いて湿式法にて疎水化し、該シラン化合物の有機溶媒への溶出率が30%以下であることを特徴とするマグネタイト粒子粉末に関する開示があり、この技術によれば、疎水性や有機溶媒中の分散性に優れ、該マグネタイトを用いたトナーの帯電特性が向上できるとしている。
【0008】
また、特許文献2には、マグネタイト粒子表面にシラン化合物を乾式にて疎水化し、該シラン化合物にカーボンブラックが含まれ、且つシラン化合物を二層構造にする事を特徴とするマグネタイト粒子粉末に関する開示があり、この技術によれば、樹脂中への分散性が優れたマグネタイト粒子粉末が得られるとしている。
【0009】
一方、近年環境規制が厳しくなってきており、マグネタイト粒子粉末の製造プロセスにおいても低環境負荷で、有害なものを排出しないことが要求されており、かつ安価な製造プロセスであることが要求されている。
【0010】
【特許文献1】特開2005−263619号公報
【特許文献2】特開2001−114522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
懸濁重合磁性トナー用マグネタイト粒子粉末には、優れた疎水性と有機溶媒への分散性が要求されており、これを達成するために疎水化処理剤、特に各種シラン系化合物による被覆が行われることがある。各種シラン系化合物は比較的高価であることから、必要最小限の量で効率的に処理されることが望ましい。特許文献1においては、粒子表面のシラン化合物の残存率が悪く、効率的に処理をなされているとは言えず、添加される疎水化処理剤の多くの部分が機能発揮のために使われていない。
【0012】
また、特許文献1の技術では、マグネタイト粒子粉末の疎水性、有機溶媒分散性、疎水化処理剤の結合強度について言及されているものの、この程度のマグネタイト粒子粉末では、要求特性が高度になっている懸濁重合磁性トナー製造において、帯電特性の向上は困難である。
【0013】
更に、特許文献1の技術では、疎水化の均一性を得るためには水媒体中での湿式処理が好ましいとしているが、湿式処理では、シラン系化合物の処理剤由来のアルコールや、反応に寄与しなかったシラン化合物が廃液中に流出するため、何らかの廃水処理設備が必要となり、工業的に好ましくない。
【0014】
特許文献2においては、樹脂成分中への分散性について言及されているものの、疎水性が充分でなく、また分散性も不十分である。
【0015】
従って、従来技術の疎水性マグネタイト粒子粉末は、疎水性、分散性、疎水化処理剤の結合性の面で、懸濁重合磁性トナー用として充分満足のゆくものではなかった。
【0016】
本発明は、上記従来技術における問題点を解消しうる疎水性マグネタイト粒子粉末とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定のシラン化合物である1種または2種以上のアルコキシシランで粒子表面を疎水化したマグネタイト粒子粉末であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末は、粒子表面がRSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランで疎水化されたマグネタイト粒子粉末であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含むことを特徴する。
【0019】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法は、RSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランを用いて、マグネタイト粒子表面を疎水化する疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上用いて処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末は、含有する複数のシラン系化合物が有効的に機能することを特徴とし、さらに優れた疎水性と、有機溶媒中への分散性を有しているなどの特徴を有することから、特に懸濁重合磁性トナーの製造に好適である。
【0021】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法は、廃水処理や廃水の流出の可能性がなく、工業的に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の疎水性マグネタイト粒子においては、粒子表面がRSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランで疎水化されたマグネタイト粒子粉末であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含むことが重要である。
【0023】
そして、前記アルコキシシランによる、Rの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含む、2層以上のシラン化合物被覆層を粒子表面に有するのが好ましい。
【0024】
更に、前記2層以上のシラン化合物被覆層は、1層目がRの炭素数3以下のアルキル基を含み、2層目以降は前層よりRの炭素数の多いアルキル基を含み、かつ最外層がRの炭素数4以上のアルキル基を含むシラン化合物であるのが好ましい。
【0025】
Rの炭素数3以下のアルキル基とRの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含むアルコキシシランを複合化して用いるのは、比較的短鎖アルコキシシラン化合物被覆層で、粒子表面との結合を確保し、更に長鎖アルコキシシラン化合物被覆層で、粒子全体の被覆を補完するのみならず、粒子表面のシラン化合物の残存率、有効使用率をも向上できる。
【0026】
そして、好ましくは短鎖アルコキシシランに基く化合物被覆層をコア粒子表面側に、その外側以降に長鎖アルコキシシランに基く化合物被覆層を設けるのが疎水性や分散性の機能向上のために好ましく、用いるアルコキシシランの種類を増やし、被覆層を多層化しても良い。
【0027】
マグネタイト粒子粉末にこのようなシラン化合物被覆層を形成することにより、強固な疎水化膜が形成され、優れた疎水性と樹脂分散性を有する疎水性マグネタイト粒子粉末とすることができる。
【0028】
なお、被覆層中に含まれるシラン化合物は、Rの炭素数3以下のアルキル基とRの炭素数4以上の異種アルコキシシランが2種以上4種以下併用されて得られたものであることが、処理の均一性、被覆量の制御性の観点から好ましい。
【0029】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末は、添加したアルコキシシラン中のカーボン量に対して、前記疎水性マグネタイト粒子粉末のカーボン量の残存率が90%以上であることが好ましい。つまり添加したアルコキシシランのアルキル鎖由来のカーボン量に対して、処理後の疎水性マグネタイト粒子粉末のカーボン量が90%以上であることが好ましい。この残存率が90%以上であれば、高度な疎水性、分散性を発揮するのに充分なシラン化合物層がマグネタイト粒子表面に形成される。
【0030】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離率は、20%以下であることが好ましい。この脱離率が20%以下であれば、懸濁重合トナー製造中に脱離したシラン化合物が少ないことに起因して、樹脂成分の重合反応を阻害することなく、トナー中で活性サイトとなり水分を呼び込むことを抑制でき、帯電特性の安定化、画質向上に寄与する。
【0031】
また、添加したアルコキシシランに対する、疎水性マグネタイト粒子粉末中に含まれるシラン化合物の有効使用率は、80%以上であることが好ましい。つまり添加したアルコキシシランのアルキル鎖由来のカーボン量に対して、テトラヒドロフラン洗浄後の疎水性マグネタイト粒子粉末のカーボン量が80%以上であることが好ましい。この有効使用率が80%以上であれば、添加したアルコキシシランが効率的に疎水性や分散性の機能を発揮する。
【0032】
また、本発明における疎水性マグネタイト粒子粉末のスチレン中での沈降速度は0.1mm/min以下であることが好ましい。スチレン中での沈降速度は、疎水性マグネタイト粒子粉末の凝集状態を反映しており、沈降速度が遅いほど良く分散されていることとなる。沈降速度が0.1mm/min以下となることで、充分な分散状態を得ることができる。
【0033】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末は、水蒸気の相対圧0.9における水蒸気吸着量が、0.5mg/g以下であることが好ましい。マグネタイト粒子粉末表面の水蒸気吸着は、有機溶媒中への分散性悪化やトナーの帯電をリークさせるため、可能な限り少ない方が良く、0.5mg/g以下になることで優れた疎水性を有し、有機溶媒分散性や帯電特性に優れたものとなる。
【0034】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末は、式(1)で表される疎水化率が20%以下であることが好ましい。疎水化率が20%以下になることで、上述した理由の通り、有機溶媒中への分散性や帯電特性に優れたものとなる。
疎水化率(%)= 水蒸気吸着から求めた比表面積/窒素ガス吸着から求めた比表面積×100 式(1)
【0035】
本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法は、RSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランを用いて、マグネタイト粒子表面を疎水化する疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上用いて処理することを特徴としている。
【0036】
前述のとおり、Rの炭素数3以下のアルキル基とRの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含むアルコキシシランを複合化して用いるのは、比較的短鎖のシラン化合物被覆層で、粒子表面との結合を確保し、長鎖のシラン化合物被覆層で、粒子全体の被覆を補完するのみならず、粒子表面のシラン化合物の残存率、有効使用率をも向上させるためである。
【0037】
その際に短鎖アルコキシシラン(Rの炭素数3以下のアルキル基含む)と長鎖アルコキシシラン(Rの炭素数4以上のアルキル基含む)を混合して使用することも可能だが、第一層目の形成には短鎖アルコキシシランを用い、第二層目以降の形成には長鎖アルコキシシランを用いて処理するのが、前述の短鎖シラン及び長鎖シランにより生じるシラン化合物各々の特徴を活かすことができ、疎水性や分散性の機能向上のために好適である。
【0038】
なお、用いる短鎖シラン及び長鎖シラン種は、2種以上4種以下であることが、処理の均一性、有機溶媒への分散性の観点から好ましい。
【0039】
また、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法においては、マグネタイト粒子表面を疎水化する際に、乾式法を採用するのが好ましい。乾式法とは、乾燥したマグネタイト粒子粉末自体をスラリー化することなく、粉末に直接疎水化処理剤を添加(必要に応じ、分散媒、溶媒を用いることもある)、混合攪拌、乾燥等を施す方法を指す。
【0040】
アルキル鎖の炭素の数が3以下のアルコキシシランを使用する場合、マグネタイト粒子粉末を、水をはじめとする分散媒中に分散させた状態中で疎水化処理する、いわゆる湿式法は不向きなことが多い。また、複数の処理剤を多段的に処理する場合、実操業面でも乾式法を採用する方が煩雑でなく、好適である。
【0041】
なお、各アルコキシシランの添加量は、疎水性の付与、分散性向上の観点から0.5%以上4.0%以下が好ましく、1.0%以上3.0%以下がより好ましい。また、Rの炭素数3以下のアルキル基とRの炭素数4以上のアルキル基のそれぞれ1種以上を合計した添加量としては、1.0%以上5.0%以下が好ましい。
【0042】
さらに、本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法においては、疎水化処理後に、90℃以上160℃以下で熱処理することが好ましい。90℃以上で熱処理することによりシラノール結合の強固な反応を促し、より強固な膜を得ることが出来る。また、シラン化合物自体の分解、揮発を抑制するためには160℃以下で熱処理を行うことが好ましい。
【0043】
本発明の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法において、用いられるマグネタイト粒子は、好ましくはマグネタイト(Fe3 4 )を主成分とするものであって、中間組成のベルトライド化合物(FeOx・Fe2 3 、0<X<1)、及びこれらの単独又は複合化合物にFe以外のSi、Al、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Co、Zr、W、Mo、P等を少なくとも1種以上含むスピネルフェライト粒子等を必要な特性に応じて選択したものも包含される。
【0044】
上記マグネタイト粒子粉末は、粒子形状が、球状、六面体状、八面体状、10〜18面体状のいずれかを呈した粒子であれば良い。溶媒中での分散性を考慮すると、残留磁化の低い球状のマグネタイト粒子をコアに用いる事が好ましい。
【0045】
また、上記マグネタイト粒子は、平均粒子径が0.05〜2μmであることが好ましく、近年のトナーの微細化を考慮すると0.1〜0.4μmであることがより好ましい。
【0046】
次に、疎水化処理剤として用いられるアルコキシシランは、RSiX3で表されるものを用いることができる。式中Rは、炭素数1〜18のアルキル基を表し、Xは、メトキシ基またはエトキシ基を表す。
【0047】
アルキル基の炭素数3以下のアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0048】
アルキル基の炭素数4以上のアルコキシシランの具体例としては、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0049】
また、乾式法を採用する場合の処理機としては、撹拌機能を持つ混合機が用いられる。乾式処理機の具体例としては、ハイスピードミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、万能混合機、ナウターミキサー、プロシェアーミキサー、オムニテックス、バーチカルグラニュレーター、リボコーン、ドラムミキサー、アキシャルミキサー、シンプソンミックスマーラー、サイクロミックス、ハイブリダイザー、マルチミル等が挙げられる。
【0050】
各アルコキシシランは、事前に加水分解処理を行っても良いし、そのまま添加しても良い。その際、アセトン、テトラヒドラフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トルエン、キシレン等の有機溶媒などで希釈しても構わない。
【0051】
また、加水分解を行う場合、各種触媒を添加しても良い。酸触媒として、塩酸、硫酸、酢酸、硝酸、蓚酸等が挙げられ、塩基性触媒として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0052】
前記熱処理においては、アルコキシシランと混合中もしくは混合後に熱処理を行っても良く、特に限定されるものではない。熱処理方法としては前記混合機をジャケット、熱風などを導入し加熱する方法や、別途、箱形、ベルト型、ロータリーキルンなどの加熱装置を用いることが出来る。
【0053】
本発明のマグネタイト粒子粉末の特性評価は以下の通り行う。
【0054】
(1)粒子形状及び平均粒子径
走査型電子顕微鏡を用い、倍率20000倍にて粒子形状観察、及び200個の粒子についてフェレ径の測定を行い、平均粒子径を求めた。
【0055】
(2)添加したアルコキシシラン中のカーボン含有量、疎水化処理されたマグネタイト粒子粉末中のカーボン含有量
添加したアルコキシシラン中のカーボン含有量は、下記の式(x)にて求めた。疎水化処理されたマグネタイト粒子粉末中のカーボン含有量の測定は、炭素分析装置(堀場製作所製、EMIA−110)を用いて行った。
添加したアルコキシシラン中のカーボン量(%)=アルコキシシランの添加量(%)×(アルコキシシランのアルキル鎖のC数×12.01÷アルコキシシランの分子量) 式(x)
【0056】
(3)粉末中のカーボン残存率
粉末中のカーボン残存率は、次式で求めた。
粉末中のカーボン残存率(%)= 疎水化マグネタイト粒子粉末のカーボン含有量 / (添加したアルコキシシラン中のカーボン含有量 × 添加したアルコキシシランのアルキル鎖のカーボンの数 × 12.01 / 添加したアルコキシシランの分子量) × 100
【0057】
(4)粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離率
疎水性マグタイト粒子粉末3gを30ccのガラス容器に取り、テトラヒドロフランを20cc投入後、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER450)にて30秒間超音波を照射した後、磁石でマグネタイト粒子粉末を沈降させ、上澄みを除去する。その後、50℃で3時間乾燥した後にカーボンを測定する。脱離率は、次式で求めた。
粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離率(%) = (疎水化マグネタイト粒子粉末のカーボン含有量 − テトラヒドロフラン洗浄後の粒子粉末のカーボン含有量)/ 疎水化マグネタイト粒子粉末のカーボン含有量 × 100 式
【0058】
(5)添加したアルコキシシランの有効使用率
添加したアルコキシシランの有効使用率は、次式で求めた。
添加したアルコキシシランの有効使用率(%)= テトラヒドロフラン洗浄後の粒子粉末のカーボン含有量 / (添加したアルコキシシラン中のカーボン含有量 × 添加したアルコキシシランのアルキル鎖のカーボンの数 × 12.01 / 添加したアルコキシシランの分子量) × 100
【0059】
(6)水蒸気吸着量
疎水性マグネタイト粒子粉末の水蒸気吸着量は、水蒸気吸着等温線測定装置(日本ベル社製ベルソープ18)にて、相対圧0.9の水蒸気吸着量を測定した。
【0060】
(7)疎水化率(%)
窒素ガス比表面積を、BET計(島津−マイクロメリティックス製2200型)にて測定し、水蒸気比表面積を、水蒸気吸着等温線測定装置(日本ベル社製ベルソープ18)にて測定した。疎水化率(%)は、次式で求めた。
疎水化率(%)= 水蒸気吸着から求めた比表面積/窒素ガス吸着から求めた比表面積×100
【0061】
(8)沈降速度
疎水性マグネタイト粒子粉末0.2gとスチレンモノマー(関東化学社製)10ccを試験管に入れ、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製SONIFIER450)にて60秒間超音波を照射した後、溶液安定性評価装置(フォーマルアクション社製タービスキャンMA2000)にて沈降速度を測定した。
【実施例】
【0062】
以下、実施例等により本発明を具体的に説明する。
【0063】
(1)コアマグネタイト粒子の製造例
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルとを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を85℃に保ちながら20L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行った。これによってマグネタイトのコア粒子を生成させた。得られたコア粒子を通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子は球状であった。
【0064】
(2)コアマグネタイト粒子を含むケーキの製造例
コアマグネタイト粒子の製造例1と同様に反応、洗浄、濾過し、含水率20%の球状マグネタイトのケーキを得た。
【0065】
(3)コアマグネタイト粒子を含む水分散スラリーの製造例
コアマグネタイト粒子の製造例2で得たマグネタイトケーキを水にリスラリーし、濃度100g/Lのマグネタイトスラリーを得た。
【0066】
〔実施例1〕
前項(1)で得たマグネタイトコア粒子1kgをハイスピードミキサー(深江パウテック社製LFS−2型)に投入し、回転数2000rpmにて撹拌しながら、メチルトリメトキシシラン(分子量=136.2)10gを3分間で滴下し5分間撹拌した。その後、同様にn−プロピルトリエトキシシラン(分子量=206.4)10gを、n−ヘキシルトリメトキシシラン(分子量=206.4)10gの順に添加し混合した。シラン化合物で混合されたマグネタイト粒子粉末を120℃で1時間熱処理を行い、疎水性マグネタイト粒子粉末を得た。
【0067】
〔実施例2〕
3層目のシラン化合物をn−オクチルトリエトキシシラン(分子量=276.5)10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
〔実施例3〕
3層目のシラン化合物をn−デシルトリメトキシシラン(分子量=262.5)10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0069】
〔実施例4〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をメチルトリメトキシシラン20g、二層目のシラン化合物をn−ヘキシルトリメトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0070】
〔実施例5〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をメチルトリメトキシシラン20g、二層目のシラン化合物をn−オクチルトリエトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0071】
〔実施例6〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をメチルトリメトキシシラン20g、二層目のシラン化合物をn−デシルトリメトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0072】
〔実施例7〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をn−プロピルトリエトキシシラン15g、二層目のシラン化合物をn−ヘキシルトリメトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0073】
〔実施例8〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をn−プロピルトリエトキシシラン15g、二層目のシラン化合物をn−オクチルトリエトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
〔実施例9〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をn−プロピルトリエトキシシラン15g、二層目のシラン化合物をn−デシルトリメトキシシラン10gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0075】
〔実施例10〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をn−プロピルトリエトキシシラン15g、二層目のシラン化合物をn−デシルトリメトキシシラン5gをとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0076】
〔実施例11〕
3層目のシラン化合物が無く、一層目をn−プロピルトリエトキシシラン15g、二層目のシラン化合物をn−デシルトリメトキシシラン15gとした以外は、実施例1と同様に行った。
【0077】
〔実施例12〕
前項(2)で得たマグネタイトケーキをマグネタイト換算で1kgハイビスミックス(プライミックス社製model.1型)に投入し、回転数60rpmにて撹拌しながら、メチルトリメトキシシラン10gを3分間で滴下し5分間撹拌した。その後、同様にn−プロピルトリエトキシシラン10gを、n−ヘキシルトリメトキシシラン10gの順に添加し混合した。シラン化合物で混合されたマグネタイトケーキを50℃で5時間乾燥後、120℃で1時間熱処理を行い、解砕処理後、疎水性マグネタイト粒子粉末を得た。
【0078】
〔比較例1〕
n−プロピルトリエトキシシラン15gの一層で処理した以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
〔比較例2〕
n−デシルトリメトキシシラン15gの一層で処理した以外は、実施例1と同様に行った。
【0080】
〔比較例3〕
前項(3)で得たマグネタイトスラリー10LをpH5.0、温度40℃に調整し、TKホモミクサーにて6000rpmで30分間撹拌した。その後回転数を維持しつつ、あらかじめ加水分解したn−デシルトリメトキシシラン20gを添加し、5時間撹拌した。続いて100g/Lの水酸化ナトリウム溶液を2時間かけて添加し、pH8.0に調整し、1時間撹拌した。シラン化合物を含むマグネタイトスラリー液を洗浄、濾過、乾燥、解砕後、120℃で1時間熱処理を行い、疎水性マグネタイト粒子粉末を得た。
【0081】
〔比較例4〕
添加するシラン化合物をn−ヘキシルトリメトキシシランとした以外は比較例3と同様に行った。
【0082】
各製造条件を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
得られた疎水性マグネタイト粒子粉末の特性値を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
表2を見て分かるように、実施例の疎水性マグネタイト粒子粉末は、アルコキシシランに由来する粉末中のカーボン残存率が高く、粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離が少なく、添加したアルコキシシランの有効使用率も高い。このようなことに起因して、疎水性や有機溶媒中での分散等に優れ、本発明に基くシラン化合物被覆層を有する疎水性マグネタイト粒子粉末は、懸濁重合磁性トナー用マグネタイト粒子粉末として好適な材料である。
【0087】
それに比べ、比較例のマグネタイト粒子粉末は、実施例のそれと比べ、アルコキシシランに由来する粉末中のカーボン残存率、粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離率、添加したアルコキシシランの有効使用率いずれかの点で劣り、それに起因して、各種特性も劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面がRSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランで疎水化されたマグネタイト粒子粉末であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含むことを特徴する疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項2】
前記アルコキシシランによる、Rの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上含む、2層以上のシラン化合物被覆層を粒子表面に有することを特徴とする請求項1に記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項3】
前記2層以上のシラン化合物被覆層は、1層目がRの炭素数3以下のアルキル基を含み、2層目以降は内層よりRの炭素数の多いアルキル基を含み、かつ最外層がRの炭素数4以上のアルキル基を含むシラン化合物であることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項4】
添加したアルコキシシラン中のカーボン量に対して、前記疎水性マグネタイト粒子粉末のカーボン量の残存率が90%以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項5】
粒子粉末からのカーボンのテトラヒドロフランへの脱離率が20%以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項6】
添加したアルコキシシランに対する、疎水性マグネタイト粒子粉末中に含まれるシラン化合物の有効使用率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項7】
前記疎水性マグネタイト粒子粉末のスチレン中における沈降速度が0.1mm/min以下であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項8】
前記疎水性マグネタイト粒子粉末の水蒸気吸着量が相対圧0.9において、0.5mg/gであることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
【請求項9】
前記疎水性マグネタイト粒子粉末の次式(1)で表される疎水化率の値が20%以下であることを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末。
疎水化率(%)= 水蒸気吸着から求めた比表面積/窒素ガス吸着から求めた比表面積×100 …式(1)
【請求項10】
RSiX3(R:炭素数1〜18のアルキル基、X:メトキシ基またはエトキシ基)で表されるアルコキシシランを用いて、マグネタイト粒子表面を疎水化する疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法であって、該アルコキシシランはRの炭素数3以下のアルキル基と、Rの炭素数4以上のアルキル基をそれぞれ少なくとも1種または2種以上用いて処理することを特徴とする、請求項1〜9いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法。
【請求項11】
マグネタイト粒子表面を疎水化する際に、生成するシラン化合物被覆層の第一層目形成にはRの炭素数3以下のアルキル基を有するアルコキシシランを用い、第二層目以降形成にはRの炭素数4以上のアルキル基を有するアルコキシシランを用いて処理することを特徴とする、請求項10に記載の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法。
【請求項12】
マグネタイト粒子表面を疎水化する際に、乾式法で処理することを特徴とする、請求項10または11いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法。
【請求項13】
疎水化処理後、90℃以上160℃以下で熱処理することを特徴とする請求項10〜12いずれかに記載の疎水性マグネタイト粒子粉末の製造方法。

【公開番号】特開2010−120833(P2010−120833A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298698(P2008−298698)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】