説明

疑似音出力装置

【課題】音圧を大きくしなくても歩行者などに車体の接近を知覚させやすくする。
【解決手段】音波の入力を受け付ける入力受付手段2と、当該受け付けた音波の振幅包絡を算出する振幅包絡算出手段3と、その振幅包絡を周波数解析し、最もスペクトルの大きい周波数の逆数から基本周期を求める基本周期算出手段4と、当該基本周期を用いて振幅の最も大きい時刻を発音時刻として算出する発音時刻抽出手段5とを備える。そして、その発音時刻における音圧レベルからの振幅逸脱量を抽出し、その抽出された振幅逸脱量について時系列における逸脱傾向を保持したまま強調処理する。そして、その強調処理された音について出力を行うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車やハイブリッド車などのようにモーターを駆動源とする車両に搭載される疑似音出力装置に関するもので、より詳しくは、音圧を低くした状態であっても歩行者にその車両の接近を知覚させられるようにした疑似音出力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンの高騰や環境問題への対応などから電気自動車やハイブリッド車(以下、EVと称する)が急速に普及しつつある。このようなEVは、モーターによって車体を駆動させるものであるが、低速走行時などにおいては車体の風切音やタイヤの摩擦音などが少ないために、その車両の接近が歩行者に知覚されにくいといった問題が指摘されている。
【0003】
そのため、近年では、このようなEVに対してガソリン車の排気音を疑似音として出力させるようにした装置が提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、車両の走行速度に対応してガソリン車の排気音を収録した疑似音を出力させる方法や、特許文献2には、歩行者などとの距離や相対速度などに応じて音を制御して出力する方法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−011662号公報
【特許文献2】特開2011−201368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなガソリン車の排気音を疑似音として出力する場合、次のような問題が生ずる。
【0007】
車体の風切音やタイヤの摩擦音が小さな低速走行時においては、歩行者の接近が最も問題となり、このような低速走行時に音圧を大きくした状態で疑似音を出力すると、近隣への騒音問題に発展しかねない。一方、疑似音の音圧を小さくしてしまうと、歩行者に車体の接近が知覚されにくくなり、車両への接触などの問題を生じてしまう。
【0008】
そこで、本発明は上記課題に着目してなされたもので、音圧を大きくしなくても歩行者などに車体の接近を知覚させやすくするような疑似音出力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、音波の入力を受け付ける入力受付手段と、当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段と、当該基本周期を用いて前記受け付けた音波の逸脱量を抽出する逸脱量抽出手段と、当該抽出された逸脱量を強調する強調処理手段と、当該強調処理された逸脱量を有する音を出力する出力手段とを備えるようにしたものである。
【0010】
具体的には、前記基本周期ごとに音圧レベルが最大となる時刻を発音時刻として抽出する発音時刻抽出手段と、前記基本周期毎に発音時刻における振幅の逸脱量である振幅逸脱量を抽出する振幅逸脱量抽出手段と、当該振幅逸脱量を強調する強調処理手段と、当該強調処理された振幅逸脱量を有する音を出力する出力手段とを備えるようにする。
【0011】
もしくは、前記基本周期ごとに音圧レベルが最大となる時刻を発音時刻として抽出する発音時刻抽出手段と、前記基本周期毎に、抽出した発音時刻と基本周期毎に発音された状態の発音時刻の差分を算出して時間逸脱量を抽出する時間逸脱量抽出手段と、当該抽出された時間逸脱量を強調する強調処理手段と、当該強調処理された時間逸脱量を有する音を出力する出力手段とを備えるようにする。
【0012】
このようにすれば、例えば、ガソリン車の排気音のうち、歩行者に知覚されにくい規則的な音に対して、その規則的な音から逸脱する音を強調して出力するので、全体的に音圧が小さくても歩行者に車両の接近などを知覚させることができるようになる。
【0013】
また、このような発明において、前記逸脱量の時系列における変動傾向を保持した状態で、当該逸脱量を伸縮させるようにする。
【0014】
このようにすれば、逸脱傾向を強調することによって、より歩行者に車体の接近を知覚させやすくすることができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、音波の入力を受け付ける入力受付手段と、当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段と、当該基本周期を用いて前記受け付けた音波の逸脱量を抽出する逸脱量抽出手段と、当該抽出された逸脱量を強調する強調処理手段と、当該強調処理された逸脱量を有する音を出力する出力手段とを備えるようにしたので、全体的に音圧が小さくても歩行者に車両の接近などを知覚させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態における疑似音出力装置の機能ブロック図
【図2】同形態における入力された音響波形から振幅包絡を求めて周波数解析をする処理を示す図
【図3】同形態における逸脱傾向曲線に対する増加または減少傾向直線からの差分を操作する図
【図4】同形態における逸脱傾向の逸脱がない状態における値との差分を操作する図
【図5】同形態における逸脱傾向曲線の変動幅の中心値からの差分を操作する図
【図6】同形態における数6で得られた値と音響波形抽出した逸脱量の差分を操作する図
【図7】同形態における疑似音出力装置におけるフローチャート
【図8】実施例を示す実験結果
【図9】実施例を示す実験結果
【図10】実施例を示す実験結果
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。この実施の形態における疑似音出力装置1は、ガソリン車における排気音のように、不規則な波形要素を含む音波の特徴を抽出できるようにしたものであって、図1に示すように、その排気音の音波の入力を受け付ける入力受付手段2と、その受け付けた音波の振幅包絡を算出する振幅包絡算出手段3と、その振幅包絡を周波数解析して最もスペクトルの大きい基本周波数を算出し、その基本周波数の逆数から前記音波の基本周期を求める基本周期算出手段4と、その基本周期ごとに音圧レベルが最大となる時刻を発音時刻として抽出する発音時刻抽出手段5とを備える。そして、特徴的には、その発音時刻と基本周期を用いて、発音時刻における振幅逸脱量を抽出するとともに、その振幅逸脱量を強調処理して出力するようにしたものである。以下、本実施の形態における疑似音出力装置1について詳細に説明する。
【0018】
まず、入力受付手段2は、実際のガソリン車における排気音の波形入力を受け付ける。通常、エンジンは1秒間に何回も爆発や排気などを繰り返すため、その排気音もほぼ周期的なものになるが、現実には、図2(a)に示すように、発音時刻の間隔(Inter-Onset-Interval以下、「IOI」と称する)や発音時刻における最大振幅も不規則な状態になる。この図2(a)を詳述すると、縦方向の太い破線で示された符号11は波形要素の発音時刻、横線で示される符号12は発音時刻における振幅、符号13は発音時刻の間隔(IOI)である。図2(a)により、単一の爆発音である波形要素の最大振幅および発音時刻は不規則な状態であり、等間隔なIOIからの時間逸脱や爆発音の最大振幅の逸脱が含まれていることがわかる。このような不規則な音は、規則的な音よりも歩行者に知覚に与える影響が大きいと考えられるため、入力された音波から不規則な特徴量を抽出してその音波のみを出力できるようにする。
【0019】
振幅包絡算出手段3は、この入力された波形を平滑化して振幅包絡を算出する。この振幅包絡を算出する場合は、まず、入力された音響波形を二乗してパワー関数を算出し、その後、所定の窓幅の移動平均を数回繰り返して算出する。すると、図2(b)に示すような平滑化された振幅包絡が得られる。
【0020】
基本周期算出手段4は、まず、このようにして得られた振幅包絡を周波数解析する(図2(c))。この周波数解析を行う場合は、パワー関数に対して移動平均を行うことによって得られた振幅包絡に対して高速フーリエ変換(FFT)を行い、得られた周波数から最もスペクトルの大きな周波数である基本周波数を抽出する。そして、この基本周波数の逆数を算出することによって入力された音波の基本周期を算出する。この算出された基本周期は、エンジンの排気音の大多数を占める爆発音の発生周期となる。
【0021】
発音時刻抽出手段5は、このように算出された基本周期を用いて、その周期ごとに音波の最大振幅となる時刻を発音時刻として抽出する。この発音時刻を抽出する場合、この実施の形態では、振幅包絡における最大振幅となる時刻を発音時刻とするが、入力された音波における最大振幅の時刻を発音時刻としてもよい。また、このように発音時刻を抽出する際には、平滑化された振幅包絡の振幅、あるいは、入力された音波の振幅も抽出しておく。
【0022】
逸脱量抽出手段6のうち振幅逸脱量抽出手段61は、先に抽出された発音時刻における振幅と所定の振幅との差を振幅逸脱量として算出する。ここで、所定の振幅としては、例えば、その発音時刻における音圧レベル(入力された音波の音圧レベルや振幅包絡の音圧レベル)からの逸脱を抽出する。
【0023】
また、時間逸脱量抽出手段62は、このように抽出された発音時刻を用いて、基本周期から逸脱する発音時刻を抽出する。具体的には、最初の発音時刻に基本周期を加算した時刻と二番目の発音時刻との差を算出し、その時間差を時間逸脱量としてその発音時刻に対応して記憶させておく。また、三番目の発音時刻に対しても、最初の発音時刻に基本周期の二倍を加算させた時刻との差を算出し、それを三番目の発音時刻における時間逸脱量として記憶させておく。以下、同様に、すべての発音時刻における時間逸脱量を算出していく。
【0024】
次に、このように大きな振幅逸脱を有する音波を出力するに際して、強調処理手段7を用いてその逸脱傾向を算出し、その算出結果から発音時刻を伸縮させたり、あるいは、振幅を増減させたりするなどして出力できるようにする。なお、ここでは先に抽出された振幅逸脱についての強調処理のみを説明する。
【0025】
この強調処理手段7は、抽出された全特徴を強調するために、抽出した各逸脱の傾向を保持したまま、各逸脱に対して強調処理を行う。この強調処理を行うに際しては、まず、記録した排気音のODkまたはADkをxi,kとし、xi,kに対して移動平均を行い、得られた値を各逸脱の逸脱傾向曲線とする。ここで、i=1はODk、i=2はADkを意味するものとする。
【0026】
次に、逸脱傾向曲線の最大値および最小値を求め、逸脱傾向曲線の最大値(Max)および最小値(Min)の中心値Mを算出する。また、最小値から最大値へと通る直線をSU、最大値から最小値へと通る直線をSLとし、SUおよびSLと逸脱傾向曲線の差分を計算して、差分が小さい方を基準直線として用いる。このような基準直線を用いて強調処理を行うことにより、変動の時間変化に対応できるようにする。すなわち、例えば、加速時に徐々に変動が大きくなるような場合や、減速時に徐々に変動が小さくなるような場合、この強調方法により直線的な時間変化を考慮した変動調整が可能になる。このMの算出方法を数1、Suの算出方法を数2、SLの算出方法を数3に示す。
【0027】
【数1】

【0028】
【数2】

【0029】
【数3】

【0030】
そして、逸脱量が徐々に上昇するまたは下降する傾向を保持したまま強調処理を行うために、基準直線SuまたはSLと逸脱傾向曲線の差分を操作する。その操作をするための演算方法を図3および数4に示す。数4内のx'i,1はその操作の結果を表わし、Ci,1はその特徴を強調する割合を表わしている。
【0031】
【数4】

【0032】
抽出した逸脱量には、値が徐々に上昇するまたは下降する傾向がみられる。図3の場合は、一次増加関数または一次減少関数との差分を算出することによって上昇傾向なのか、下降傾向なのかを決定した結果、一次増加関数との差分が小さかったため、徐々に上昇する傾向を持っていると判断される。そこで、上昇傾向を表わす一次増加関数との差分を大きくすることによって、その傾向を保持したまま逸脱量を強調する。
【0033】
次に、逸脱量における全体の特徴を強調するために、数4を用いて得られたx'i,2における逸脱傾向の逸脱がない状態における値、すなわち0からの差分を操作する。その操作の演算方法を図4、数5に示す。数5内のx'i,2はその操作の結果を表わし、Ci,2はその特徴を強調する割合を表わしている。この強調によって各逸脱量が小さくまたは大きくされており、音響信号のパワーを減少または増加させる処理と同じになる。
【0034】
【数5】

【0035】
そして、逸脱量の中心位置を保持したまま強調処理を行うために、数5を用いて得られたx'i,2における逸脱傾向曲線の変動幅の中心値Mからの差分を操作する。その操作をするための演算方法を図5、数6に示す。数6のx'i,3はその操作結果を表わし、Ci,3はその特徴を強調する割合を表わしている。この強調によって、逸脱量の中心位置からの大きさがより大きくまたは小さくなる。
【0036】
【数6】

【0037】
逸脱傾向における特徴を保持して強調するために、数6を用いて得られた値x'i,3と音響波形から抽出した逸脱量の差分を操作する。その操作をするための演算方法を図6、数7に示す。数7内のx'i,4はその操作結果を表わし、Ci,4はその特徴を強調する割合を表わしている。この強調によって、逸脱量の変化が大きい区間はより大きく、変化が小さい区間はより小さくなる。このようにして、得られた逸脱x'i,4を用いて強調処理を行う。
【0038】
【数7】

【0039】
出力手段8は、このようにして強調処理された振幅逸脱量を有する音波の情報を出力する。この音波の情報を出力する場合、この実施の形態では、リアルタイムにモーター音やインバータ音を録音して合成するか、あるいは、任意の持続音を予め記憶させておき、これに変動を与えて出力する。ここで、持続音としてはどのような音であってもよく、例えば、調波複合音やMIDI音などでもよい。さらに、速度検知を行って、速度に対応して合成した音の基本周波数を高くするといった走行状態に合わせた音を出力することもできる。このとき、加速時には、記録した音響波形を縮めることで高くするとともに、減速時には音響波形を広げて低くする。
【0040】
次に、このように構成された疑似音出力装置1を用いて実際のガソリン車の排気音から特徴ある疑似音を出力する方法について図7のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
まず、エンジンの排気音から特徴ある波形要素を抽出する場合、実際のエンジンの排気音の入力を受け付ける(ステップS1)。そして、その受け付けた排気音を二乗してパワー関数を算出し、所定の窓幅の移動平均を数回繰り返すことによって振幅包絡を算出する(ステップS2)。得られた振幅包絡に対してFFTによる周波数解析を行い、最もスペクトルの高い基本周波数を算出し、その逆数を演算することによって排気音の基本周期を求める(ステップS3)。
【0042】
また、この基本周期を用いて、その周期ごとに振幅包絡の波形における最大振幅となる時刻を抽出し、これを発音時刻として抽出するとともに(ステップS4)、その発音時刻における振幅と所定の振幅との差分を振幅逸脱量として抽出する(ステップS5)。また、このとき、時間逸脱量も抽出しておく。
【0043】
次に、このように抽出された振幅逸脱量の強調処理を行う(ステップS6)。強調処理を行うに際しては、横軸を時間、縦軸を振幅逸脱とする逸脱傾向曲線を生成し、その逸脱傾向曲線と数2または数3との差分の小さい方を基準直線として選択し、その差分に所定の係数を積算して振幅逸脱量を強調する(数4)。そして、この強調された数4の振幅逸脱量に対して、振幅逸脱量0からの差分に所定の係数を積算して全体を強調し(数5)、また、振幅逸脱量の中心位置を保持したまま強調を行うために、中心値Mからの差分を算出して、それに所定の係数を積算して強調を行う(数6)。そして、その逸脱傾向における特徴を保持して強調するために、数6で得られた値と排気音から抽出した逸脱量の差分に所定の係数を積算して数6で算出された値に加算する。
【0044】
そして、このように強調処理された振幅逸脱量を有する音をリアルタイムに録音されたEVのモーター音やインバータ音に対して合成し、これを音波として出力する(ステップS7)。
【0045】
このように上記実施の形態によれば、音波の入力を受け付ける入力受付手段2と、当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段4と、当該基本周期から逸脱する音の逸脱量を抽出する逸脱量抽出手段6と、当該抽出された逸脱量を強調する強調処理手段7と、当該強調処理された逸脱量を有する音を出力する出力手段8とを備えるようにしたので、全体的に音圧が小さくても歩行者に車両の接近などを知覚させることができるようになる。
【0046】
また、強調処理を行う場合、振幅逸脱量の時系列における変動傾向を保持した状態で、当該逸脱量を伸縮させるようにしたので、逸脱傾向を強調することによって、より歩行者に車体の接近を知覚させやすくすることができるようになる。
【0047】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく種々の態様で実施することができる。
【0048】
例えば、上記実施の形態では、振幅逸脱量のみを強調処理した場合について説明したが、時間逸脱抽出手段によって抽出された時間逸脱量に対して強調処理を行ってもよい。このとき、周期と変化時間長の関係から2つの発音時刻の時間順序が代わってしまわない範囲で強調処理を行うようにするとよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、出力手段8で音を出力する場合、EVのモーター音やインバータ音を録音して出力するようにしたが、これに限らず、所定の逸脱量を超える音のみを抽出して出力することもできる。この場合、例えば、所定の時間逸脱量を超える音や、所定の振幅逸脱量を超える音のみを発してもよく、あるいは、その音が短すぎる場合は、その前後数周期の音を出力するようにしてもよい。
【0050】
また、音を出力する場合、EVの音だけでなく、入力されたガソリン車の排気音の全体音圧レベルを小さくして、そこに強調処理された逸脱量を有する音を合成して出力するようにしてもよい。
【0051】
もしくは、音を出力する場合において、逸脱傾向曲線を逸脱割合として把握し、その割合を他の音(EVのモーター音やインバータ音などを含む)に積算して出力することも可能である。
【0052】
さらに、上記実施の形態では、振幅逸脱量を抽出する場合、音圧レベルからの逸脱量を抽出するようにしたが、全体の音圧レベルの平均値や、周期毎の最大振幅の平均値からの振幅逸脱量を抽出するようにしてもよい。
【実施例1】
【0053】
以下、上記実施の形態における疑似音出力装置を用いて疑似音を発生させた場合の実験結果について説明する。
【0054】
防音室内で正常な聴力を持つ健聴者1名に対して、ピンクノイズに模擬モーター音を重ねた音を呈示し、模擬モーター音が、"聞こえた"もしくは"聞こえなくなった"を判断する実験を行った。具体的には、被験者にヘッドホン(STAX社のSRM-313)を装着してもらい、開始音から1dBステップずつ音の強さが増す5秒間の呈示音、もしくは、開始音から1dBステップずつ音の強さが減じていく5秒間の呈示音を5分間呈示する。この呈示音に対して、"聞こえる"と判断したら、解答用紙に「○」を、"聞こえない"と判断したら、解答用紙に「×」を記入するようにした。また、開始音から1dBステップずつ音の強さが増す呈示音の場合、「○」が5つ続いたら、もしくは,開始音から1dBステップずつ音の強さが減じていく呈示音の場合、「×」が5つ続いたら、次の問題に進んでもよいとした。
【0055】
図8、9、10に実験結果を示し、表1に主観的等価点(Point of Subjective Equality: PSE)のみをまとめたものを示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示した結果について考察すると、時間方向の変動に対する割合を0,100%刻みでの結果を比較すると、あまりPSEの差はみられない。しかし、振幅方向の変動に対する割合を0,100,200%刻みでの結果を比較すると、約5dBの差がみられた。これらのことから、定常音よりも、時間および振幅方向の変動に対する割合を強調させることによって、気付きやすい音に変化していることが確認できる。さらに、振幅方向の変動に対する割合を大きくすることで、より気付きやすい音になる可能性が考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・疑似音出力装置
2・・・入力受付手段
3・・・振幅包絡算出手段
4・・・基本周期算出手段
5・・・発音時刻抽出手段
6・・・逸脱量抽出手段
61・・・振幅逸脱量抽出手段
62・・・時間逸脱量抽出手段
7・・・強調処理手段
8・・・出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波の入力を受け付ける入力受付手段と、
当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段と、
当該基本周期を用いて前記受け付けた音波の逸脱する音の逸脱量を抽出する逸脱量抽出手段と、
当該抽出された逸脱量を強調する強調処理手段と、
当該強調処理された逸脱量を有する音を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする疑似音出力装置。
【請求項2】
音波の入力を受け付ける入力受付手段と、
当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段と、
当該基本周期ごとに音圧レベルが最大となる時刻を発音時刻として抽出する発音時刻抽出手段と、
前記基本周期毎に発音時刻における振幅の逸脱量である振幅逸脱量を抽出する振幅逸脱量抽出手段と、
当該振幅逸脱量を強調する強調処理手段と、
当該強調処理された振幅逸脱量を有する音を出力する出力手段と、
を備えるようにした疑似音出力装置。
【請求項3】
音波の入力を受け付ける入力受付手段と、
当該受け付けた音波から基本周期を求める基本周期算出手段と、
当該基本周期ごとに音圧レベルが最大となる時刻を発音時刻として抽出する発音時刻抽出手段と、
前記基本周期毎に、抽出した発音時刻と基本周期毎に発音された状態の発音時刻の差分を算出して時間逸脱量を抽出する時間逸脱量抽出手段と、
当該抽出された時間逸脱量を強調する強調処理手段と、
当該強調処理された時間逸脱量を有する音を出力する出力手段と、
を備えるようにした疑似音出力装置。
【請求項4】
前記強調処理手段が、前記逸脱量の時系列における変動傾向を保持した状態で、当該逸脱量を伸縮させるものである請求項1に記載の疑似音出力装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate