説明

疾患を検出する方法および化合物

本発明は、細胞酸化ストレス、細胞変性および/または細胞死に関連した疾患の検出法を提供する。本発明は、酸化ストレス、変性および/または死の過程を経ている細胞を検出するための、チオール(−SH)基含有化合物にも関する。本発明は、診断および治療を目的として、診療において該化合物を使用する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、細胞酸化ストレス、細胞変性および/または細胞死に関連した疾患の検出法を提供する。本発明は、酸化ストレス、変性および/または死の過程を経ている細胞を検出するための、チオール(−SH)基含有化合物にも関する。本発明は、診断および治療を目的として、診療において該化合物を使用する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
種々の神経学的障害、特に神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、クロイツフェルト−ヤコブ病または進行性核上性麻痺(PSP)の、特に疾患の初期段階における正確な診断は、臨床神経科医にとって重要な課題となることが多い。臨床神経科医が、その目的に入手できる手段は、患者の病歴、報告された症状、神経学的試験および補助的試験、例えば脳コンピュータ断層撮影(CTスキャン)または磁気共鳴画像法(MRI)における所見を含む。概して、これらの手段は、現在、不充分であることが多く、疾患の比較的遅い段階でのみ、根源的な神経病理学的過程を示しうるにすぎないことが多い。臨床神経学的診療において遭遇することが多いもう1つの課題は、治療に対する脳腫瘍の反応のモニタリングである。従って、前記の重大かつ身体を衰弱させる神経学的疾患のいずれにおいても、正確な診断をし、治療計画を立て、疾患の経過を追跡し、または治療効果を評価するために、神経病理学的過程の検出および画像化のための新規な非侵襲的方法が明らかに必要とされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
分子画像化は、分子プローブの使用に関係し、画像化用のマーカを含む、新規かつ急速に発展している分野であり、該画像化は、非侵襲的臨床画像化法、例えば、陽電子放射断層撮影法(PETスキャン)によって、健康および疾患に関連した細胞過程を知らせることができる。酸化ストレスは、多くの疾患の病原における特徴の1つである。酸素フリーラジカルによる細胞損傷は、神経変性において重大な役割を担っていることが示されている。アポトーシスは、酸化ストレスが死のプログラムの強力な誘発因子である故に死の過程の誘発レベルにおいて、および、ミトコンドリア機能の劇的変化としての細胞死の実施レベルにおいて、酸化ストレスに関係し、かつ、一般に細胞の抗酸化メカニズムの崩壊はアポトーシスの間に生じる。現在、診療において、酸化ストレスを分子画像化する手段が存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要旨
本発明のある実施形態において、患者または動物の組織における酸化ストレスに関連した細胞死または疾患過程を検出する方法を提供し、該方法は、(i)患者または動物に、画像化用のマーカに連結させた本発明のチオール含有化合物を投与する工程、および(ii)患者または動物の被験組織に結合した化合物の量を検出する工程、を含んで成り;患者または動物の組織に結合した化合物の有意量の検出は、該組織における細胞死または疾患過程の存在を示す。
【0005】
本発明の他の実施形態において、被験患者または動物の神経系における酸化ストレスに関連した細胞死または疾患過程を検出する方法を提供し、該方法は、(i)患者または動物に、画像化用のマーカに連結させた本発明のチオール含有化合物を投与する工程、およ
び(ii)神経系の被験部分に結合した化合物の量を検出する工程、を含んで成り;コントロールと比較して、神経系の被験部分に結合した化合物の有意量の検出は、神経系の該部分における細胞死または疾患過程の存在を示す。
【0006】
本発明のある実施形態において、酸化ストレスとは、フリーラジカルの過剰、抗酸化物質レベルの減少またはその両方が存在する場合に生じる生物組織への損傷を意味する。
【0007】
本発明の他の実施形態において、本発明の化合物および方法によって検出される疾患過程は、下記のものに関連している:神経細胞またはグリア細胞内の酸化ストレス;アポトーシスを経ている神経細胞またはグリア細胞;他の機序の細胞死を経ている神経細胞またはグリア細胞;神経細胞体または神経突起の変性であると考えられる神経変性の過程;死の過程(例えば、アポトーシスによる)を経ている脳腫瘍の細胞;および神経系の細胞内における、または該細胞に関連したタンパク質の異常蓄積。そのようなタンパク質異常蓄積は、特に、細胞内封入体の形態(例えば、神経細線維もつれ、レヴィー小体)、または細胞外異常タンパク質沈着物の形態(例えば、アミロイドプラーク)を採る。
【0008】
本発明の他の実施形態において、本発明の方法を、下記のような神経学的障害の診断に使用する:急性損傷、例えば、限定されないが、脳梗塞、中毒性発作または脳外傷;または慢性神経変性障害、例えば、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、レヴィー小体疾患、プリオン障害、例えばクロイツフェルト−ヤコブ病、および脱髄性障害、例えば多発性硬化症。
【0009】
本発明の他の実施形態において、本発明の方法を、治療に対する腫瘍の反応をモニターするのに使用する。大部分の抗腫瘍剤、例えば化学療法薬、または放射線照射は、腫瘍におけるアポトーシスの誘発によって作用する故に、本発明の方法および化合物を介した、治療によって誘発された腫瘍細胞死レベルの画像化は、抗腫瘍治療の有効性を非侵襲的に示すことができる。
【0010】
本発明のある実施形態において、組織または器官内の疾患過程または細胞死過程を経ている細胞の検出に役立つ本発明に使用される化合物は、下記の式(I)で示される:
【0011】
【化1】

【0012】
[式中、
は、C、CおよびC直鎖または分岐鎖アルキレンから選択され;
は、不存在、およびC、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖アルキレンリンカーから選択され;
Qは、不存在、および置換されていてもよいアリール、ヘテロアリール、アリール−スルホンアミドおよびヘテロアリール−スルホンアミドから選択され;
Mは、画像化用のマーカである]。
【0013】
他の局面において、本発明は、組織または器官における細胞死の検出のための、下記の式(II)で示される構造を有する化合物およびその使用を提供する:
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、MおよびLは、それぞれ、上述のように定義される]。
本発明の他の実施形態において、Mは水素であり、Lは不存在であり、化合物はNST729と称され、下記の式IIIで示される構造を有する:
【0016】
【化3】

【0017】
本発明の他の局面において、下記の式IVで示される構造で表される化合物を提供する:
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、
nは、2または3の整数を表し;
F原子は、18Fまたは19Fである]。
【0020】
n=3の場合、化合物はNST739と称される。
本発明の他の局面において、下記の式Vで示される構造で表される化合物を提供する:
【0021】
【化5】

【0022】
[式中、MおよびLは、それぞれ、上述のように定義される]。本発明のある実施形態において、Mは水素であり、Lは不存在である。
【0023】
本発明の他の局面において、下記の式VIで示される構造で表される化合物を提供する:
【0024】
【化6】

【0025】
[式中、
およびMは、上述と同意義であり;
Yは、不存在、−O−、NHおよびC、C、CまたはCアルキルアミンから選択される]。
【0026】
本発明の他の実施形態において、下記の式VIIで示される構造で表される化合物を提供する:
【0027】
【化7】

【0028】
[式中、F原子は、18Fまたは19Fであってよい]。
本発明の他の局面において、下記の式VIIIで示される構造を有する化合物を提供する:
【0029】
【化8】

【0030】
[式中、
Fは、18Fまたは19Fであってよく;
Rは、アリールまたはヘテロアリール、C、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖の、置換されていてもよいアルキル、またはそれらの組合せである]。
【0031】
本発明の他の局面において、下記の式IXで示される構造で表される化合物を提供する:
【0032】
【化9】

【0033】
[式中、Fは、18Fまたは19Fであってよい]。
本発明に使用される化合物は、該化合物の医薬的に許容される塩、金属キレート、溶媒化合物および水化物、ならびに医薬的に許容される塩の溶媒化合物および水化物も包含する。医薬的に許容される付加塩の例は、無機および有機酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、燐酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、蓚酸塩および酢酸塩であるが、それらに限定されない。または、医薬的に許容される無機および有機塩基付加塩、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等も使用しうる。
【0034】
本発明の他の実施形態において、患者または動物の脳腫瘍における酸化ストレスまたは細胞死を検出する方法を提供し、該方法は、患者または動物に、式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれか1つの化合物を投与する工程、および脳腫瘍に結合した化合物の量を検出する工程、を含んで成り;脳腫瘍に結合した化合物の有意量の検出は、腫瘍における酸化ストレスまたは細胞死の存在を示す。
【0035】
本発明の他の実施形態において、患者または動物の組織における細胞死または疾患過程の検出用の診断組成物を製造するための、式I〜IXで示されるいずれかの構造で表される化合物の使用を提供する。
【0036】
本発明の実施形態において、組織は、脳またはその部分であってよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明の詳細な実施形態
本発明は、その実施形態の1つにおいて、下記の観察に基づいている:細胞タンパク質のシステインのチオール(−SH)基のレドックス状態が、正常な健康な細胞と、酸化ストレスに関連した疾患関連過程を経ている細胞、またはアポトーシスのような死の過程を経ている細胞とを区別するための、または脳組織内のアミロイドプラークのようなタンパク質の異常沈着を検出するための、尺度としての役割を果たしうる。健康な細胞の細胞内タンパク質のシステイン残基のチオール基は、ほとんどの場合、還元状態にあり、即ち、遊離チオール(−SH)である。これは、生存可能な健康細胞における−SH−還元物質の高サイトゾル濃度による。これに対して、細胞疾患またはアポトーシスのような細胞死の場合、細胞は、酸化ストレスを受け、細胞内抗酸化メカニズムを失う。これは、特に、細胞内タンパク質のシステインのチオール基間のジスルフィド結合(S−S)の発生によって示される。
【0038】
本発明は、被験組織または器官の細胞内のジスルフィド結合の負荷(load)の特徴づけによって、細胞疾患過程または細胞死を検出する方法に関する。本発明の方法によるジスルフィド結合の細胞負荷の特性決定は、この目的のために、チオレート−ジスルフィド反応(TDR)を生体内で利用するという新規概念に基づいている。TDRは、ジスルフィド結合とチオレートアニオンとの化学反応であり、それによって、S−S結合の硫黄原子が、攻撃するチオレート基によって置換される。1つの局面において、本発明は、チオール基および画像化用のマーカの両方を含んで成る化合物の投与に関する。チオレート形態のチオール基は、TDRによってジスルフィドと相互作用して、S−S結合によって、その部位への画像化用マーカの結合を生じる(図6)。非結合化合物は、被験細胞から洗い流される。このようにして、画像化のために選択されたマーカに関して、画像化法(imaging modalities)によって、ジスルフィド結合の発生部位を記録しモニターする。上述したように、細胞内ジスルフィド結合の発生は、細胞疾患または細胞死と関連している故に、得られた画像は、被験組織内のこれらの疾患関連過程の発生に対応し、従って、それらの程度についての情報を与える。
【0039】
本発明のある実施形態において、患者または動物の組織における疾患過程または細胞死を検出する方法を提供し、該方法は、(i)画像化用のマーカに連結させた本発明のチオール含有化合物を投与する工程、および(ii)患者または動物の組織に結合した化合物の量を検出する工程、を含んで成り;患者または動物の組織に結合した化合物の有意量の検出は、該組織における細胞死または疾患過程の存在を示す。
【0040】
本発明のある実施形態において、被験患者または動物の神経系における疾患過程を検出する方法を提供し、該方法は、(i)画像化用のマーカに連結させた本発明のチオール含有化合物を投与する工程、および(ii)神経系の被験部分に結合した化合物の量を検出する工程、を含んで成り;コントロールと比較して、神経系の被験部分に結合した化合物の有意量の検出は、神経系の該部分における疾患過程の存在を示す。
【0041】
「神経系の部分に結合した化合物の有意量」という用語は、本発明の実施形態によれば、神経系の正常な非疾患部分に結合した量より少なくとも10%多い量で神経系の部分に結合した、診断用のマーカを含んで成るかまたはそれに結合した本発明の化合物の量を意味する。検出は、画像化法を使用することによってインビボであるか、または組織を視覚化するための方法を使用することによって、インビトロ、またはエクスビボであってよい。他の実施形態において、その量は50%多くてもよい。本発明の他の実施形態において、その量は75%多くてもよい。他の実施形態において、その量は150%多くてもよい。他の実施形態において、その量は約2倍多くてもよい。他の実施形態において、その量は5倍以上多くてもよい。他の実施形態において、その量は10倍以上多くてもよい。
【0042】
「疾患過程」という用語は、以下において、細胞または組織の機能または生存を損ない、かつ酸化ストレスに関連している、細胞または組織における任意の過程を意味する。本発明による疾患過程は、特に、神経系を含みうる。
【0043】
「細胞死」という用語は、以下において、細胞の消滅に導く任意の過程、特に、アポトーシスまたはネクローシスによる細胞死を意味する。
【0044】
本発明の他の実施形態において、本発明の化合物および方法によって検出される疾患過程は以下のものである:神経細胞またはグリア細胞内の酸化ストレス;アポトーシスを経ている神経細胞またはグリア細胞;他の機序の細胞死を経ている神経細胞またはグリア細胞;細胞体または神経突起の変性であると考えられる神経変性の過程;死の過程(例えば、アポトーシスによる)を経ている脳腫瘍の細胞;および神経系の細胞内における、または該細胞に関連したタンパク質の異常蓄積。そのようなタンパク質異常蓄積は、特に、細胞内封入体の形態(例えば、神経細線維もつれ、レヴィー小体)、または細胞外異常タンパク質沈着物の形態(例えば、アミロイドプラーク)である。
【0045】
本発明の他の実施形態において、本明細書に記載する方法および化合物を、下記のような神経学的障害の診断に使用しうる:急性損傷、例えば、限定されないが、脳梗塞、中毒性発作または脳外傷;または慢性神経変性障害、例えば、限定されないが、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、びまん性レヴィー小体疾患、プリオン障害、例えばクロイツフェルト−ヤコブ病、および脱髄性障害、例えば多発性硬化症。
【0046】
本発明の他の実施形態において、本発明の方法を、治療に対する脳腫瘍の反応をモニターするのに使用する。大部分の抗腫瘍剤、例えば化学療法薬、または放射線照射は、腫瘍内のアポトーシスの誘発によって作用する故に、本発明の方法および化合物での、治療によって誘発された腫瘍細胞死レベルの画像化は、腫瘍治療の有効性を非侵襲的に示すことができる。
【0047】
本発明のある実施形態において、組織または器官内の疾患過程または細胞死過程を経ている細胞を検出する作用をする本発明に使用される化合物は、下記の式(I)で示される:
【0048】
【化10】

【0049】
[式中、
は、C、CおよびC直鎖または分岐鎖アルキレンから選択され;
は、不存在、およびC、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖アルキレンリンカーから選択され;
Qは、不存在、および置換されていてもよいアリール、ヘテロアリール、アリールスルホンアミドおよびヘテロアリール−スルホンアミドから選択され;
Mは、水素および画像化用のマーカから選択される]。
【0050】
本発明のある実施形態において、画像化用マーカ(M)は、18F、15O、18O、11C、13C、124I、13Nおよび75Brから選択しうる。
【0051】
他の局面において、本発明は、組織または器官における細胞死の検出用の、下記の式(II)で示される構造を有する化合物およびその使用を提供する:
【0052】
【化11】

【0053】
[式中、MおよびLは、それぞれ、上述のように定義される]。
本発明の他の実施形態において、Mは水素であり、Lは不存在であり、化合物はNST729と称され、下記の式IIIで示される構造を有する:
【0054】
【化12】

【0055】
本発明の他の局面において、下記の式IVで示される構造で表される化合物を提供する:
【0056】
【化13】

【0057】
[式中、
nは、2または3の整数を表し;
F原子は、18Fまたは19Fである]。n=3の場合、化合物はNST739と称される。
【0058】
本発明の他の局面において、下記の式Vで示される構造で表される化合物を提供する:
【0059】
【化14】

【0060】
[式中、MおよびLは、それぞれ、上述のように定義される]。本発明のある実施形態において、Mは水素であり、Lは不存在である。
【0061】
本発明の他の局面において、下記の式VIで示される構造で表される化合物を提供する:
【0062】
【化15】

【0063】
[式中、
およびMは、上述と同意義であり;
Yは、不存在、−O−、NHおよびC、C、CまたはCアルキルアミンから選択される]。
【0064】
本発明の他の実施形態において、下記の式VIIで示される構造で表される化合物を提供する:
【0065】
【化16】

【0066】
[式中、F原子は、18Fまたは19Fであってよい]。
本発明の他の局面において、下記の式VIIIで示される構造で表される化合物を提供する:
【0067】
【化17】

【0068】
[式中、
Fは、18Fまたは19Fであってよく;
Rは、アリールまたはヘテロアリール、C、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖の置換されていてもよいアルキル、またはそれらの組合せである]。
【0069】
本発明の他の局面において、下記の式IXで示される構造で表される化合物を提供する:
【0070】
【化18】

【0071】
[式中、Fは、18Fまたは19Fであってよい]。
本発明に使用される化合物は、該化合物の医薬的に許容される塩、金属キレート、溶媒化合物および水化物、ならびに医薬的に許容される該塩の溶媒化合物および水化物も包含する。医薬的に許容される付加塩の例は、無機および有機酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、燐酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、蓚酸塩および酢酸塩であるが、それらに限定されない。または、医薬的に許容される無機および有機塩基付加塩、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等も使用しうる。
【0072】
本発明の化合物は、正常な健康な細胞と、疾患関連過程を経ている細胞、特に、酸化ストレスを受けている細胞、アポトーシスのような死の過程を経ている細胞、変性を経ている神経突起、または、特に、細胞内封入体の形態(例えば、神経細線維もつれ、レヴィー小体)、または細胞外異常タンパク質沈着物の形態(例えば、アミロイドプラーク)の、神経系の細胞内における、または該細胞に関連したタンパク質の異常蓄積とを区別しうる。
【0073】
健康な細胞の細胞内タンパク質は、強い細胞内抗酸化メカニズムにより、チオール基の還元状態(即ち、遊離チオールの形態)を特徴とするが、上述した病変は、該抗酸化メカニズムの喪失を特徴とし、従って、ジスルフィド(−S−S−)結合の形成を促進する。本発明の任意化合物のチオール基は、これらのジスルフィド結合形成反応に関与しやすく、従って、該化合物は、細胞の抗酸化メカニズムの喪失の程度に直接的に相関した程度に、細胞に結合する。従って、本発明の化合物の被験細胞への結合のレベルは、細胞の疾患または死の過程に関連した細胞レドックス状態の減損のレベルを示す。さらに、比較的低い分子量、および生理的pHにおける疎水性は、本発明の化合物が、血液脳関門(BBB
)を効率的に通過し、脳細胞に接近することを可能にする。
【0074】
本発明の神経病理的過程の検出法は、実施例4に示すように、アルツハイマー病が疑われる患者の脳のアミロイドプラークの量を測定する手段として使用しうる。従って、脳アミロイドーシスが疑われる患者の脳におけるアミロイドプラークの量を測定する方法を提供し、該方法は、下記の工程を含んで成る:(i)上述のように定義される式I〜IXで示される構造を有するいずれかの化合物に、脳組織を接触させる工程、および、(ii)脳組織におけるプラークに結合した化合物の量を測定するために、ヒトまたは動物を画像化する工程。
【0075】
上述した方法は、患者または動物(該動物は、1つの実施形態において、トランスジェニック動物であってもよい)におけるアミロイドプラークの量を減少させるために投与された薬剤の有効性を確認するのに適用してもよく、該方法は、(i)動物に薬剤を投与する工程、(ii)上述のように定義される式I〜IXで示される構造を有するいずれかの化合物を投与する工程、および(iii)画像化または組織病理学によってシグナルを検出する工程、を含んで成り;画像強度が減少した場合、または検出プラークの量が減少した場合、薬剤は、被験脳におけるアミロイドプラークの負荷を減少させるのに有効であるものとして同定される。工程(i)および(ii)の順序を変えてよいことに注目すべきである。
【0076】
本発明の他の実施形態において、下記に罹患している疑いのあるヒトの脳における病理学的変化を検出する方法を提供する:急性神経学的障害、例えば、脳梗塞、中毒性発作または脳外傷;または慢性神経変性障害、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、レヴィー小体疾患、プリオン障害、例えばクロイツフェルト−ヤコブ病、および脱髄性障害、例えば多発性硬化症。それぞれの神経病理学的変化は、下記から選択される:疾患過程を経ている細胞、アポトーシスのような死の過程を経ている細胞、変形および変性を経ている神経突起、および、アミロイドプラークのような、脳組織内の細胞内または細胞外タンパク質沈着物。該方法は、(i)上述のように定義される式I〜IXで示される構造を有するいずれかの化合物に、脳組織を接触させる工程、および(ii)脳組織に結合した化合物の量を測定するために対象を画像化する工程、を含んで成り;コントロールと比較して、被験脳への有意量の結合の画像化がみられた場合、脳病変を示す。
【0077】
本発明の他の局面において、患者または動物(該動物は、1つの実施形態において、トランスジェニック動物であってもよい)における上述のいずれかの神経病理学的変化を減少させることにおける薬剤の有効性を検出する方法を提供し、該方法は、(i)被験患者または動物に薬剤を投与する工程、(ii)上述のように定義される式I〜IXで示される構造を有するいずれかの化合物を投与する工程、および(iii)画像化によってシグナルを検出する工程、を含んで成り;シグナル強度が減少した場合、該薬剤は、被験脳における疾患の負荷を減少させるのに有効であるものとして同定される。工程(i)および(ii)の順序を変えてよいことに注目すべきである。
【0078】
本発明のある実施形態において、PETまたはSPECTによる放射性核種画像化によって、患者における疾患過程を経ている細胞または組織の画像を得るための、本発明化合物の使用に関して、(異常組織に結合した化合物の量)/(正常細胞に結合した化合物の量)の比率の計算は、死の過程を経ている組織から得たシグナルの振幅または強度を、死の過程を経ていない組織から得たシグナルの振幅/強度と比較することによって行いうる。
【0079】
本発明の1つの実施形態において、死の過程を経ている細胞、例えばアポトーシスを経ている細胞を、選択的に標的にする、式I〜IXで示される構造によって示される化合物を提供する。
【0080】
本発明の他の局面において、細胞集団において死の過程を経ている細胞を検出する方法を提供し、該方法は、(i)式I〜IXで示されるいずれか1つの構造で表される化合物、または式I〜IXで示される構造で表される化合物の医薬的に許容される塩、金属キレート、溶媒化合物および水化物、および該塩の溶媒化合物および水化物に、細胞集団を接触させる工程、および(ii)細胞に結合した化合物の量を測定する工程、を含んで成り;細胞に結合した化合物の有意量は、死の過程を経ている細胞の存在を示す。
【0081】
「細胞に結合した化合物の有意量」という用語は、本発明によれば、正常な細胞に結合した量より10%以上多い量で、死の過程を経ている細胞に結合した、診断用マーカを含んで成るかまたはそれに結合した本発明の化合物の量を意味する。他の実施形態において、その量は50%多くてもよい。本発明の他の実施形態において、その量は75%多くてもよい。他の実施形態において、その量は150%多くてもよい。他の実施形態において、その量は約2倍多くてもよい。他の実施形態において、その量は2倍以上多くてもよい。他の実施形態において、その量は5倍以上多くてもよい。他の実施形態において、その量は10倍以上多くてもよい。
【0082】
本発明の他の局面によれば、患者または動物において死の過程を経ている細胞を検出する方法を提供し、該方法は、(i)18Fのような画像化用マーカを含有する式I〜IXで示される構造で表される化合物、または式I〜IXで示される構造で表される化合物の医薬的に許容される塩、金属キレート、溶媒化合物および水化物、および該塩の溶媒化合物および水化物を、患者または動物に投与する工程、および(ii)細胞に結合した化合物の量を測定するために、被験患者または動物を画像化する工程、を含んで成り;細胞に結合した化合物の有意量の検出は、これらの細胞が死の過程を経ている細胞であることを示す。
【0083】
本発明の化合物は、下記の本発明の2種類の手法において、死の過程を経ている細胞を含有する組織および器官への、医薬的に有用な薬剤の選択的標的化のために使用しうる:
(i) 以下に「検出手法」と称される第1手法によれば、死の過程を経ている細胞に画像化用マーカを向けるために、選択的結合を使用しうる。下記に説明するように、これは、そのような細胞が発生する疾患の診断のために、インビボ、エクスビボまたはインビトロにおいて診療に使用しうる;
(ii) 以下に「治療的手法」と称される第2手法によれば、死の過程を経ている細胞が発生する体の器官および組織、例えば、細胞死、血栓形成または炎症の領域への、治療薬の選択的標的化のために、選択的結合特性を使用する。
【0084】
本発明の化合物は、死の過程を経ている細胞の形成を特徴とする種々の医学的状態の検出および診断に使用しうる。死の過程を経ている細胞を特徴とする臨床状態の例を以下に示す。
【0085】
過剰アポトーシスの発生を特徴とする疾患、例えば、変性疾患、神経変性疾患(例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病)、AIDS、ALS、プリオン疾患、骨髄異形成症候群、虚血性または中毒性発作、移植拒絶反応中の移植細胞損失;腫瘍、特に高悪性/浸潤性腫瘍は、過剰の組織増殖に加えて、増強したアポトーシスも特徴とすることが多い。
【0086】
炎症性疾患および/または免疫媒介病因または病原に関連した疾患、自己免疫疾患、例
えば、抗リン脂質抗体症候群、全身性エリテマトーデス、結合組織疾患、例えば、慢性関節リウマチ、強皮症;甲状腺炎;皮膚疾患、例えば、天疱瘡または結節性紅斑;自己免疫性血液疾患;自己免疫性神経系疾患、例えば重症筋無力症;多発性硬化症;炎症性腸疾患、例えば潰瘍性大腸炎;血管炎。
【0087】
アテローム硬化性プラーク、特に、不安定な脆弱性の断裂しやすいプラークは、死の過程を経ている細胞、例えば、アポトーシスマクロファージ、アポトーシス平滑筋細胞、アポトーシス内皮細胞、および活性化血小板も特徴とする。そのような活性化血小板は、血栓において発生し、不安定なアテローム硬化性プラークに付随していることが多い。
【0088】
実施形態の1つにおいて、本発明は、画像化用のマーカを含有するかまたはそれに連結させた、本発明に記載の化合物のいずれかを有効成分として含んで成る医薬組成物であって、インビトロ、エクスビボまたはインビボでの神経組織疾患または死の過程またはアミロイドプラークを検出するための医薬組成物に関する。次に、検出可能な標識を、当業者に既知の方法によって、かつ、使用される特定の標識、例えば、蛍光、放射線放射、発色、磁気共鳴、X線等に応じて、検出することができる。画像化は、当業者に既知であるように、使用されるトレーサおよび画像化法に応じて、適切な装置を使用して行われる。
【0089】
1つの実施形態において、検出可能な標識は、放射性同位体であってよい。陽電子断層撮影法(PET)スキャンに使用される放射性同位体の例は、18F、15O、18O、11C、13C、124I、13Nおよび75Brである。
【0090】
ある実施形態において、本発明の化合物は、PETスキャンによる臨床画像化を目的とし、該化合物は18F原子を含んで成る。
【0091】
上述した構造を有するいずれの化合物であってもよい化合物を、PET画像化のために18Fで標識化する方法は、18F原子を化合物に付加し、それによってPET画像化のために化合物を18F原子で放射性標識することを含んで成る。場合により、18F原子での放射性標識の反応中に、18F原子の付加工程前に、化合物の他の官能基(例えば、チオール基)を適切な保護基で保護してもよく、該保護基は、18F原子の付加工程後に除去される。
【0092】
蛍光検出のために、本発明の化合物は、当分野で既知の任意の蛍光プローブから選択される、画像化用マーカとしての蛍光基(即ち、M基)を含んで成ってよい。そのようなプローブの例は、5−(ジメチルアミノ)ナフタレン−1−スルホニルアミド(ダンシル−アミド)、およびフルオレセインである。
【0093】
標的部位への化合物結合の評価は、FACSまたは共焦点顕微鏡検査によるかまたはPETのような画像化法によって、蛍光を測定することによって行いうる。
【0094】
本発明の化合物は、種々の医学的状態の検出および診断に使用でき、該医学的状態は、ジスルフィド(−S−S−)結合の形成を伴う細胞内タンパク質のチオール基の酸化によって示される酸化ストレス、または異常な細胞外タンパク質沈着物(例えばアミロイドプラーク)の蓄積を特徴とする。
【0095】
自然に、または治療に反応して生じた腫瘍内の酸化ストレスおよび/または細胞死の発生を評価することを目的として、脳腫瘍を患っていることがわかっている人において、検出を行うこともできる。大部分の抗腫瘍治療、例えば化学療法または放射線療法は、アポトーシスの誘発によってその作用を発揮するので、脳腫瘍細胞の治療誘発アポトーシスの本発明の化合物による検出は、抗腫瘍薬への腫瘍の感受性の程度を示しうる。これは、抗
癌剤の投与時と、その有効性の正確な評価時との時間差をかなり短縮し、脳腫瘍の治療をよりよく最適化することを可能にしうる。
【0096】
本発明の化合物および医薬的に許容される担体を含んで成る医薬組成物は、任意の既知の経路、特に、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、舌下、眼内、鼻腔内または局所投与によるか、または脳内投与によって、投与しうる。担体は、所望の投与法に応じて選択すべきであり、任意の既知の成分、例えば、溶媒;エマルゲイター(emulgators)、賦形剤、タルク;香味剤;着色剤等を包含する。医薬組成物は、所望であれば、疾患を治療し、副作用を除去し、または活性成分の活性を増加させるために使用される他の医薬的活性化合物も含有しうる。
【0097】
実施例
本発明を理解し、実際にどのように本発明を実施しうるかを把握するために、以下の実施例を記載する:本発明の化合物の合成に関する実施例;および、死の過程を経ている細胞、老人性アミロイドプラーク、および変性を経ている神経突起への、選択的結合における、本発明の化合物の生物学的性能を示す実施例。実施例において、化合物は、蛍光標識、即ちダンシルアミド基を含有し、それによって、蛍光顕微鏡検査を可能にする。病理的過程を経ている細胞への、本発明の化合物の選択的結合を、いくつかのモデルにおいてインビボで示した:
(i) 中大脳動脈(MCA)の閉塞によって細胞死を誘発させた脳梗塞マウスモデル;
(ii) B−16マウス黒色腫における化学療法によって誘発させた細胞死;
(iii) 突然変異スーパーオキシドジスムターゼ遺伝子を有し、それによって運動ニューロン様疾患(motor neuron−like disease)を発症したトランスジェニックマウス;
(iv) βAPPのTG2576変異を有し、それによって脳内にアミロイドプラークを発症した老齢トランスジェニックマウス。
【0098】
遊離チオール基を含有するいくつかの化合物の性能を示す:NST728、NST729、NST739およびダンシル−システイン(DC)。本発明の化合物と同じ蛍光プローブおよび同様の分子量および疎水性を有し、かつ−SH基を有さない故に選択したn−ブチルダンシルアミド(BDA)を、コントロール化合物として使用した。従って、生物学的試験におけるその性能と、チオール含有化合物の性能との比較は、病理的変化を経ている構造物への選択的結合における、化合物の生物学的活性をもたらす該基の役割を示している。同様に、腫瘍へのダンシル−システイン(DC)結合の性能評価において、チオール基を含有しないダンシル−グリシンおよびダンシル−セリンをコントロール化合物として使用した。
【0099】
アポトーシス細胞の素性を、シーケンシャルスライド(sequential slide)において行われるTUNEL染色によって確認し;アミロイドプラークの素性を、コンゴー赤でのシーケンシャルスライドの染色によって確認した。両確認法は、それぞれ、アポトーシスの評価法、またはアミロイドプラークの検出法として、広く認められている。
【実施例1】
【0100】
NST728、NST729、NST739、DCおよびBDAの合成
1.ダンシル−システイン(DC)の合成
【0101】
【化19】

【0102】
シスチン(1、1当量)を、4当量の炭酸カリウムと共に、水/アセトン溶液に溶解させた。塩化ダンシル(2.5当量)を添加し、溶液を室温で1.5時間撹拌した。アセトンを除去し、2Mクエン酸の添加によって溶液をpH3に酸性化した。水性混合物を酢酸エチルで抽出した。抽出物を合わし、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を蒸発させた。得られた粗生成物を塩基性水溶液に溶解させた。溶液をエーテルで洗浄し、次に、pH3に再び酸性化して、黄色沈殿物を得た。ESI−MSおよびH−NMRは構造2と一致していた[1H-NMR (D2O, δ=ppm): 8.50 (2H, dd); 8.25 (2H, dd); 8.15 (2H, d); 7.50 (4H, m); 7.20 (2H, dd); 4.05 (2H, m); 2.85 (12H, s); 2.60 (4H, m)。ESI-MS: Calc. m/z=706.1. Found m/z+H+=707.5]。
【0103】
中間体2を1:1のメタノール:NaPPiバッファ(0.1M、pH7.4)に溶解させた。窒素を溶液に10分間泡立たせ、次に、2当量のジチオトレイトール(DTT)を添加した。反応をTLCによってモニターした。必要な場合に、追加のDTTを添加した。出発物質が使い尽くされた際に、メタノールを蒸発させ、水溶液の容量を元の半分に減少させた。溶液を2Mクエン酸によってpH3にゆっくり酸性化し、次に、0℃で30分間冷却した。沈殿物を吸引濾過によって収集し、吸水器(pump)で乾燥し、窒素下に充填した(packaged under nitrogen)。ESI−MSおよびH−NMRは、構造3、即ちダンシル−システイン(DC)と一致していた[1H-NMR (CDCl3,δ=ppm): 8.50 (1H, d); 8.30; (1H, d); 8.20 (1H, d) ; 7.60 (1H, t); 7.50 (1H, t); 7.20 (1H, d); 5.90 (1H, d); 4.15 (1H, m), 2.90 (6H, s); 2.70 (2H, m)。ESI-MS: Calc. m/z=354.4. Found m/z+H+=355.7]。
【0104】
2.NST729の合成
【0105】
【化20】

【0106】
シスタミン(4、1当量)を、4当量の炭酸カリウムと共に、水/アセトン溶液に溶解させた。塩化ダンシル(2.5当量)を添加し、溶液を室温で1.5時間撹拌した。アセトンを除去し、2Mクエン酸の添加によって溶液をpH3に酸性化した。水性混合物を酢酸エチルで抽出した。抽出物を合わし、5%炭酸水素ナトリウムで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を蒸発させた。得られた粗生成物を、シリカゲル上でのLCによって精製した。カラムをヘキサン中の0〜30%酢酸エチルの勾配で溶離した。主要黄色蛍光画分を収集した。ESI−MSおよびH−NMRは、ジダンシルシスタミンである構造5と一致していた:1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (2H, d), 8.23 (4H, dd); 7.50 (4H, q); 7.20 (2H, d); 5.20 (2H, t); 3.10 (4H, q); 2.90 (12H, s); 2.50 (4H, t)。ESI-MS: Calc. m/z=618.9. Found m/z+H+=620.1。中間体5を1:1のメタノール:NaPPiバッファ(0.1M、pH7.4)に溶解させた。窒素を溶液に10分間泡立たせ、次に、2当量のジチオトレイトール(DTT)を添加した。反応をTLCによってモニターし
た。必要な場合に、追加のDTTを添加した。出発物質が使い尽くされた際に、メタノールを蒸発させ、水溶液の容量を元の半分に減少させた。溶液を2Mクエン酸によってpH3にゆっくり酸性化し、次に、0℃で30分間冷却した。沈殿物を吸引濾過によって収集し、吸水器で乾燥し、窒素下に充填した。ESI−MSおよびH−NMRは、NST729[n−(2−メルカプトエチル)−ダンシルアミド(6)]である構造6と一致していた:1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.30 (2H, t); 7.55 (2H, m); 7.20 (1H, d); 5.20 (1H, d); 3.05 (2H, q); 2.90 (6H, s); 2.50 (2H, q)。ESI-MS: Calc. m/z=310.4. Found m/z+H+=311.5。
【0107】
3.NST n−ブチルダンシルアミド(BDA)の合成
【0108】
【化21】

【0109】
1当量の塩化ダンシル(7)を、1:1のアセトニトリル:水中の2当量のブチルアミンおよび炭酸カリウムを含有する溶液に添加した。溶液を室温で1.5時間撹拌した。次に、アセトニトリルを除去し、水残渣を酢酸エチルで抽出した。有機溶液を5%炭酸水素ナトリウム、2Mクエン酸および塩水で洗浄した。溶液を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、溶媒をフラッシュ蒸発によって除去した。粗生成物を必要最低限量の酢酸エチルに溶解させ、曇るまでヘキサンを添加した。溶液を冷蔵庫に2時間保管した。沈殿物を吸引濾過によって収集し、ヘキサンで洗浄し、吸水器で乾燥させた。ESI−MSおよびH−NMRは、(n−ブチルダンシルアミド;BDA)である構造8と一致していた:1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.30 (2H, dd); 7.55 (2H, m); 7.20 (1H, d); 4.80 (1H, t); 2.90 (8H, m); 1.35 (2H, m). 1.20 (2H, m); 0.70 (3H, t)。ESI-MS: Calc. m/z=306.4. Found m/z+H+=307.4。
【0110】
4.N−(3−フルオロプロピル)−N−(2−チオエチル)−ダンシルアミド(NST739)の合成
【0111】
【化22】

【0112】
n−(2−PMB−チオエチル)−ダンシルアミド(2): 1.3mmolの2−アミノエタンチオール−PMBエーテルヒドロクロリド(1)および3mmolのKCOを、1:1のアセトニトリル:水の混合物に溶解させた。塩化ダンシル1mmolを添加し、溶液を室温で20分間撹拌した。アセトニトリルを除去し、残留水相から黄色油状
残渣をDCMに抽出した。有機抽出物を合わし、M NaHSOで洗浄し、MgSOで乾燥させ、溶媒を蒸発させた。TLC(3:2の石油エーテル:酢酸エチル)は、Rf=0.8において1つの黄色蛍光点(fluorescent spot)を示した。H−NMRおよびESI−MSは中間体2と一致していた。生成物は、さらに精製しなくても次の段階に使用するのに充分に純粋(clean)であった。1H-NMRは以下のとおりであった: (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.30 (1H, d); 8.20 (1H, dd); 7.55 (2H, m); 7.20 (1H, d); 7.00 (2H, d); 6.75 (2H, d), 5.20 (1H, t); 3. 75 (3H, s); 3.30 (2H, s); 2.95 (2H, q); 2.85 (6H, s); 2.35 (2H, t)。ESI-MS: m/z+H+=431.47。1mmolの生成物2を、DMFに溶解させ、1.5mmolのCsCOの存在下に、70℃で15分間撹拌した。次に、ブロモプロパノール1.5mmolを添加し、混合物を70℃で一晩撹拌した。DMFを除去し、残渣をDCMに溶解させた。溶液を1M NaHSOおよび5%NaHCOで洗浄し、MgSOで乾燥し、溶媒を除去した。粗生成物のTLC(3:2の石油エーテル:酢酸エチル)は、それぞれRf=0.46、0.32および0.20において3つの黄色蛍光点を示した。粗生成物をシリカゲル上でのフラッシュLCによって精製した。Rf=0.48における物質が溶離されるまで、カラムをDCM中の25%石油エーテルで溶離した。次に、溶離剤をDCMに交換し、他の物質を溶離させた。スペクトル(H−NMRおよびESI−MS)データは、Rf=0.32における物質が、下記データを有する所望構造3と一致していることを示した。1H-NMRデータ: (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.25 (1H, d); 8.15 (1H, dd); 7.50 (2H, m); 7.15
(3H, m); 6.80 (2H, d); 3.80 (3H, s); 3.60 (4H, m); 3.35 (4H, m); 2.85 (6H, s), 2.50 (2H, m), 2.10 (1H, broad); 1.65 (2H, m)。ESI-MS: m/z+H+=489.87, m/z+Na+=511.60。1mmolの生成物3をDCMに溶解させ、トリエチルアミン1.4mmolを添加した。塩化メシル1.3mmolをゆっくり滴下し、溶液を室温で1.5時間撹拌した。反応混合物のTLC(3:2の石油エーテル:酢酸エチル)は、全ての出発物質の全消費、および出発物質の上方を流れる新しい物質の出現を示した。溶液混合物を、追加のDCMで希釈し、1M NaHSOおよび5%NaHCOで洗浄し、MgSOで乾燥し、溶媒を除去した。TLCは、Rf=0.45における純粋点(clean spot)を示した。生成物(4)をさらに精製せずに使用した。その特性は以下の通りであった:
1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.25 (1H, d); 8.15 (1H, d); 7.55 (2H, m); 7.20 (lH, d); 7.15 (2H, d); 6.80 (2H, d); 4.10 (2H, t); 3.80 (3H, s); 3.60 (2H, m); 3.35 (4H, q); 2.95 (3H, s), 2.85 (6H, s); 2.50 (2H, t), 1.90 (2H, m)。ESI-MS: m/z+ H+=567.33, m/z+Na+ =589.27。
【0113】
n−(3−フルオロプロピル)−N−(2−PMB−チオエチル)−ダンシルアミド(5): 1mmolのKF、1mmolのクリプトフィックス[2,2,2]および0.5mmolのKCOを、アセトニトリル中の10%水に溶解させた。溶液を、乾燥するまで蒸発させ、残渣を乾燥アセトニトリルに溶解させ、溶媒を再び除去した。この方法をさらに3回繰り返し、蒸発器を開けて窒素雰囲気にした。乾燥アセトニトリルに溶解した生成物3(0.2mmol)を含有する溶液を、乾燥残渣に添加し、混合物を15分間還流させた。次に、溶媒を除去し、残渣を、必要最低限量の、DCM中25%石油エーテルに溶解させた。溶液を直接、シリカゲルカラムに適用し、前記の溶媒混合物で溶離した。溶離された第1黄色蛍光物質を収集した。ESI−MSおよびH−NMRは、所望物質5と一致していた。19F-NMR (CDCl3, =ppm):-44.50, m. 1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.25 (1H, d); 8.15 (1H, dd); 7.50 (2H, m); 7.15 (3H,m); 6.80 (2H, d); 4.40 (1H, t); 4.25 (1H, t); 3.75 (3H, s); 3.60 (2H, m); 3.35 (4H, m); 2.95 (3H, s), 2.85 (6H, s); 2.50 (2H, m), 1.80 (2H, m)。ESI-MS: m/z+H+=491.72。0.5mmolの生成物5を、5mLのTFAに溶解させた。アニソール200μL、次に、酢酸水銀(II) 1mmolを添加した。溶液を室温で15分間維持し、光から保護した。次に、TFAをフラッシュ蒸発によって除去し、残渣をエーテルで洗浄した。固形物を濾過に
よって取り、新しいエーテルで洗浄し、メタノールに溶解させた。HSの流れを溶液に3分間泡立たせた。溶液をさらに5分間撹拌し、黒色沈殿物をセライトのパッドで濾過して取った。酢酸ナトリウムを中性pHまで添加し、溶媒を除去した。粗生成物をLC(DCMで溶離)によって精製した。溶離した第1黄色蛍光物質を分析して、生成物6の構造であることを確認した。NST839[n−(3−フルオロプロピル)−N−(2−チオエチル)−ダンシルアミド(6)]を単離し、以下のように特徴づけた:19F-NMR (CDCl3, =ppm):-44.70,m. 1H-NMR (CDCl3, =ppm): 8.55 (1H, d); 8.30 (1H, d); 8.20 (1H, d); 7.55 (2H, m); 7.20 (1H, m); 6.80 (2H, d); 4.40 (1H, t); 4.30 (1H, t); 3.45 (4H, m); 2.85 (6H, s); 2.65 (2H, q), 1.90 (2H, m); 1.30 (1H, t)。ESI-MS: m/z+H+=371.14。
【0114】
従って、この実施例は、臨床PETスキャンのための18F連結の「Hot−Box」化学に使用される条件に適合した方法における、NST739へのフッ素の連結の実施可能性を示す。
【実施例2】
【0115】
マウスにおける中大脳動脈(MCA)閉塞後の細胞死を経ている細胞へのNST729の選択的結合
マウスにおける中大脳動脈(MCA)焼灼術後のアポトーシスを経ている脳細胞を同定するNST729の能力を示すために、マウスにおいてインビボ試験を行った。
【0116】
実験手順
体重20〜25gの成熟した雄のBalb/Cマウスにおいて、実験を行った。中大脳動脈の片側(unilateral)焼灼術によって虚血を誘発させた。簡単に言えば、マウスに麻酔をかけ、側頭下手法によって虚血を誘発させた。MCAが外側嗅索と交差するレベルで開頭術を行った。硬膜を慎重に開き、動脈を露出させ、その起点から下大脳静脈と交差する点まで、両極性ジアテルミーによって閉塞した。全ての可視の枝も、バイパス形成による血液供給を防止するために閉塞した。切開部位をクリップで閉じ、動物に鎮痛薬を注射し、回復させた。中大脳動脈(MCA)焼灼から22時間後、200μL中1.4mgのBDA(遊離チオール残基を含有しないが、それ以外は、構造および分子量においてNST729に類似し、従って、チオール残基の必要性に関して、対照として使用しうる)またはNST729(10%(BDA)および50%(DCA??? DCAを意味するのか、またはNST729であるべきか? クレモホール/トリズマ−塩基(Cremophor/trizma−base)0.1M)を、動物を殺す2時間前に静脈内注射した。損傷の誘導から24時間後に、マウスに麻酔をかけ、殺し、さらなる分析のために、脳を除去して液体窒素に入れた。10μmの凍結切片を調製した。薄片を、蛍光顕微鏡によって視覚化した。
【0117】
実験結果
図1から明らかなように、損傷領域の細胞は、NST729への広範囲な結合を示した。蛍光強度によって示されるNST729の結合レベルは、BDA(NST729に類似した構造を有するが、チオール基を含有しない)の結合レベルより顕著に高かった。さらに、NST729によって検出されたアポトーシス事象の数は、BDAによって検出された細胞数より顕著に多かった。
【0118】
これらの結果は、遊離チオール基が、脳におけるアポトーシス細胞への化合物の選択的結合を可能にするのに重要な成分であることを示す。
【実施例3】
【0119】
腫瘍、マウス黒色腫における、アポトーシス細胞へのDCのインビボ標的化
実験手順
腫瘍、特に黒色腫のような浸潤性悪性腫瘍は、異常な組織増殖に加えて、腫瘍細胞の顕著なアポトーシスも特徴とする。従って、腫瘍内におけるこれらのアポトーシス細胞の選択的標的化におけるDCの性能を試験した。マウス(c57/black;8週齢の雄のマウス)の両側の側腹部に、マウス黒色腫由来B16−F10細胞(ATCC CRL−6475;容量100μL中に10細胞/マウス)を皮下注射した。注射の前に、4mM L−グルタミン;100単位/mL ペニシリン;100μg/mL ストレプトマイシン;12.5単位/mL ナイスタチンおよび10%ウシ胎児血清(FCS)を補足したダルベッコ修飾イーグル培地(DMEM)における培養に、該細胞系を維持した。腫瘍を14日間成長させ、それまでに腫瘍は直径5〜7mmに達した。
【0120】
ダンシル−システイン(DC)、または対照化合物ダンシル−グリシンまたはダンシル−セリン(NaPpiバッファ、pH7.40中に、それぞれ2mg/マウス)を静脈内注射した。2時間後、マウスを殺し、腫瘍および他の器官を取り、直ぐに液体窒素中で凍結させた。次に、凍結切片を各器官から調製した。腫瘍または他の器官による被験化合物の取り込みを、蛍光顕微鏡によって評価した。
【0121】
実験結果
図2Aは、腫瘍の蛍光顕微鏡検査を示す。細胞死を経ている多数の腫瘍細胞へのDCの広範な結合が観察される。アポトーシス細胞への顕著な取り込みによって生じた、化合物の細胞内蓄積、および高レベルの選択性も示され、生存腫瘍細胞は無染色のままである。
【0122】
高レベルの選択性は、図2Bにも示され、同じ動物の小腸組織の蛍光顕微鏡検査を示し、正常な生存組織への化合物の結合がないことを示している。同様の結果が、種々の他の非標的組織、例えば、結腸、腎臓、脾臓、筋肉または心臓から得られた。
【0123】
これに対して、DCに類似した構造を有するが遊離チオール基を含有しないダンシル−グリシンおよびダンシル−セリンは、アポトーシス細胞または生存腫瘍細胞による有意な取り込みを示さなかった(データ示さず)。
【0124】
これらの結果は、アポトーシスを経ている細胞への化合物の選択的結合を可能にすることにおける、遊離チオール基の重要性を示している。
【実施例4】
【0125】
二重突然変異APPを有するAPP Swedish TG2576マウスにおけるアミロイドプラークの検出
APPの突然変異を有する1才半のAPP Swedish TG2576マウスにおいて、実験を行った。BDA(遊離チオール残基を含有せず)およびNST729を静脈内注射し、2時間後に、マウスに麻酔をかけ、さらなる分析のために、脳を除去して液体窒素に入れた。厚さ各10μmの凍結切片を調製し、蛍光顕微鏡によって視覚化した。
【0126】
実験結果
図3から明らかなように、アミロイドプラークが、NST729によって鮮明に視覚化され、周囲の脳細胞は無染色のままである。蛍光強度の比較分析によって評価すると、プラークへのNST729の結合強度は、対照化合物BDAの結合強度より顕著に高かった。
【0127】
結果は、NST729が脳内のアミロイドプラークに選択的に結合することができること、かつ、該化合物の−SH基がこの特性を可能にする役割を担っていることを示している。
【実施例5】
【0128】
運動ニューロン疾患のマウスモデルにおける、インビボでの、変性神経細胞へのNST729の選択的結合
G93Aの点変異を有するSODについて、トランスジェニックマウスにおいて実験を行った。NST729(200μL 50%クレモホール/トリズマ−塩基0.1M中1.4mg/動物)を、静脈内注射した。2時間後、マウスに麻酔をかけ、さらなる分析のために、脳および脊髄を除去して液体窒素に入れた。厚さ10μmの凍結切片を調製した。蛍光顕微鏡によって、薄片を視覚化した。
【0129】
実験結果
図4は、脳橋の運動核の断面を示す。重度の広範囲な変性過程の神経細胞が見られる。顕著なのは神経細胞軸索の変性過程であり、軸索突起の重度の変形、不規則性および肥厚を有している。これらの全ての神経病変は、NST729の顕著な取り込みを示したが、同じ領域の他の細胞、ならびに他の脳領域の細胞は、そのような取り込みを示さなかった。従って、この実施例は、全身投与されたNST729の、運動ニューロン変性に関連した神経病理的変化を特異的に標的とし表示する可能性を、明らかに示している。
【実施例6】
【0130】
マウスにおける中大脳動脈閉塞後の細胞死を経ている細胞へのNST739の選択的標的化
中大脳動脈(MCA)閉塞による脳虚血によって誘発されたアポトーシスを経ている細胞への選択的結合における、NST739の性能を示すために、マウスにおいて生体内試験を行った。
【0131】
実験手順
体重20〜25gの成熟した雄のBalb/Cマウスにおいて、実験を行った。中大脳動脈の片側焼灼術によって脳虚血を誘発させた。簡単に言えば、マウスに麻酔をかけ、側頭下手法によって虚血を誘発させた。MCAが外側嗅索と交差するレベルで開頭術を行った。硬膜を慎重に開き、動脈を露出させ、その起点から下大脳静脈と交差する点まで、両極性ジアテルミーによって閉塞した。全ての可視の枝も、バイパス形成による血液供給を防止するために閉塞した。切開部位をクリップで閉じ、動物に鎮痛薬を注射し、回復させた。中大脳動脈(MCA)焼灼から22時間後、NST739またはコントロール化合物BDA(それぞれ1.4mg/動物)を静脈内注射した。損傷の誘導から24時間後、かつNST739の投与から2時間後に、マウスに麻酔をかけ、殺し、さらなる分析のために、脳を除去して液体窒素に入れた。10μmの凍結切片を調製した。薄片を、蛍光顕微鏡によって視覚化した。
【0132】
実験結果
図5に示されるように、損傷領域の細胞は、NST739への広範囲な結合を示したが、他の脳領域の細胞は、無染色のままであった。蛍光強度によって示されるNST739の結合レベルは、チオール基を含有しないBDAの結合レベルと比較して有意に高かった。
【0133】
得られた結果は、虚血性損傷後に、脳における細胞死を経ている細胞への選択的結合におけるNST739の性能を示している。DBAの結合と比較して、NST739の増加した結合は、化合物のこの特性を可能にする遊離チオール基の重要性を示している。
【実施例7】
【0134】
疾患または死の過程を経ている細胞への本発明の化合物の選択的結合のメカニズム
本発明の化合物の作用メカニズムを示すために、図6にも示されているような、アポトーシスを経ている細胞の細胞内タンパク質へのNST729の結合を説明する。
【0135】
健康な細胞の細胞内タンパク質におけるシステイン残基のチオール基は、ほとんどの場合、還元状態であり、即ち遊離チオール(−SH)である。これは、−SH還元物質の高サイトゾル濃度による。従って、一般に、S−S結合はサイトゾルにおけるタンパク質分子においてめったに見られない。これに対して、細胞疾患、または、例えばアポトーシスによる、細胞死を経ている細胞の場合、酸化ストレスが生じ、細胞内抗酸化メカニズムの損失が生じる。これは、特に、これらの細胞における細胞内タンパク質のシステインのチオール基間におけるジスルフィド結合(S−S)の発生によって示される。
【0136】
図6Aに示されるように、本発明の化合物の典型としてのNST729は、生理的条件において無荷電プロトン化状態、またはチオレート陰イオンとして脱プロトン状態であることができるチオール基を含有する。無電荷疎水性プロトン化状態は、化合物が細胞膜(および血液脳関門)を通過して細胞内空間に分散することを可能にし、一方、荷電チオレート陰イオンは、チオレートジスルフィド交換反応に関与することができる。図6Bに示すように、正常な健康な細胞においては、化合物の標的が存在しない。従って、化合物は、細胞から洗い流される。これに対して、酸化ストレスおよびジスルフィド結合形成を経ているアポトーシス細胞においては、チオレート陰イオンがS−S結合を攻撃し、チオール基の1つに取って代わることができる。この反応により、NST729に含有された画像化用マーカ(蛍光ダンシル基)が、細胞内タンパク質(そのシステイン残基がS−S結合に関与している)(図6Aのタンパク質A)に共有結合的に付加される。続いて、非結合分子は細胞から洗い流され、S−S結合形成の部位に結合した分子だけが残る。画像化プローブとしての特性(例えば、NST729のダンシル基の蛍光)により、本発明の化合物の画像化用マーカは、下記におけるその所在位置についての情報を与えうる:正常な細胞レドックス状態の減損を経ている細胞、即ち、酸化ストレスを受けている細胞、病気の細胞および/または死の過程を経ている細胞におけるその存在。次に、この情報を、化合物のプローブの画像化特性に関して、画像化装置によって収集し分析する(例えば、NST729におけるダンシルについての蛍光の分析)。従って、本発明の方法は、シグナルが得られないかまたは顕著に少ないシグナルしか得られない健康な生存細胞に対して、酸化ストレス、細胞疾患または細胞死を経ている細胞、シグナルを明示するあらゆる細胞の画像マップの形成を可能にする。
【実施例8】
【0137】
18Fでの放射性標識に適した条件における、陽電子断層撮影法(PET)による画像化用のNeuroSenseの合成
画像化用の種々のマーカを、本発明の化合物に使用できる。いくつかの化合物、例えば、NS729は、蛍光プローブ(例えば、ダンシル基)を有する。しかし、例えば陽電子断層撮影法(PET)によって、臨床画像化を可能にする放射標識で、化合物を標識することが望ましい。この目的のために、下記の式VIIで示される構造を有するNeuroSenseと称される化合物を合成し、放射性同位体18Fで標識する方法が開発された。
【0138】
【化23】

【0139】
18F放射性同位体の半減期115分に関して、18F付加の放射化学に必要とされる条件およびタイムライン(timelines)に適応させたフッ素付加方法が開発された。
【0140】
NeuroSenseの合成を、下記の合成式に従って行った:
【0141】
【化24】

【0142】
18F PET画像化のための放射合成のタイムラインへの、この合成経路の適合を、下記の表1に示す:
【0143】
【表1】

【0144】
従って、NeuroSenseの合成および精製の合計時間は70分であり、PET画
像化に充分適した時間枠である。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】マウスの中大脳動脈(MCA)閉塞後の、インビボでの、脳内のアポトーシス細胞へのNST729の選択的結合を示す。
【図2】図2AおよびBは、正常組織、即ち小腸への結合の不存在(図2B)に対して、インビボでの、腫瘍によって誘発されたアポトーシス細胞へのDCの選択的結合(図2A)を示す。
【図3】インビボでの、トランスジェニックAPP TG2576マウスの脳内のアミロイド老年斑への、NST729の結合を示す。
【図4】インビボでの、運動ニューロン疾患のマウスモデルにおける変性神経細胞への、NST729の結合を示す。
【図5】マウスにおけるMCA閉塞後の、インビボでの、死の過程を経ている細胞への、NST739の結合を示す。
【図6】酸化ストレスに関連した疾患、または死の過程を経ている細胞への、本発明の化合物の選択的結合のメカニズムを示す。アポトーシスを経ている細胞の細胞内タンパク質への、NST729の結合が示されている。(A):アポトーシスを経ている細胞のサイトゾルにおけるタンパク質への、NST729の結合。(B):健康な細胞のサイトゾルにおける、NST729の結合の不存在。図におけるAおよびBは、細胞内タンパク質の例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者または動物の組織における細胞死過程または疾患過程を検出する方法であって、下記の工程:
(i) 式Iで示される構造を有するチオール含有化合物を投与する工程:
【化1】

[式中、
は、C、CおよびC直鎖または分岐鎖アルキレンから選択され;
は、不存在、およびC、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖アルキレンリンカーから選択され;
Qは、不存在、および置換されていてもよいアリール、ヘテロアリール、アリール−スルホンアミドおよびヘテロアリール−スルホンアミドから選択され;
Mは、画像化用のマーカである];および
(ii) 患者または動物の組織に結合した化合物の量を検出する工程;
を含んで成り、
患者または動物の組織に結合した化合物の有意量の検出が、該組織における細胞死または疾患過程の存在を示す方法。
【請求項2】
細胞死過程または疾患過程が、酸化ストレスに関連している請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞または組織が、中枢または末梢神経系の部分である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
式(II)で示される構造を有する化合物:
【化2】

[式中、MおよびLは、それぞれ、請求項3に定義した通りである]。
【請求項5】
Mが水素であり、Lが不存在である請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
式IIIで示される構造で表される請求項4に記載の化合物:
【化3】

[式中、F原子は、18Fまたは19Fであってよい]。
【請求項7】
式IVで示される構造で表される請求項4に記載の化合物:
【化4】

[式中、
nは、2または3の整数を表し;
F原子は、18Fまたは19Fである]。
【請求項8】
式Vで示される構造で表される化合物:
【化5】

[式中、MおよびLは、それぞれ、請求項3に定義した通りである]。
【請求項9】
Mが水素であり、Lが不存在である請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
式VIで示される構造で表される化合物:
【化6】

[式中、
およびMは、上述と同意義であり;
Yは、不存在、−O−、NHおよびC、C、CまたはCアルキルアミンから選択される]。
【請求項11】
式VIIで示される構造で表される請求項10に記載の化合物:
【化7】

[式中、F原子は、18Fまたは19Fであってよい]。
【請求項12】
式VIIIで示される構造で表される化合物:
【化8】

[式中、
Fは、18Fまたは19Fであってよく;
Rは、アリールまたはヘテロアリール、C、C、C、C、C、C直鎖または分岐鎖の、置換されていてもよいアルキル、またはそれらの組合せである]。
【請求項13】
式IXで示される構造で表される化合物:
【化9】

[式中、Fは、18Fまたは19Fである]。
【請求項14】
アルツハイマー病の疑いのあるヒトまたは動物の脳におけるアミロイドプラークの量を測定する方法であって、下記の工程:
(i) 請求項4〜15に記載の式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいず
れかの化合物を投与する工程;および、
(ii) アミロイドプラークに結合した化合物の量を測定するために、ヒトまたは動物を画像化する工程;
を含んで成る方法。
【請求項15】
患者または動物におけるアミロイドプラークの量の減少における薬剤の有効性を評価する方法であって、下記の工程:
(i) 被験患者または動物に薬剤を投与する工程;
(ii) 式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれかの化合物を投与する工程;および
(iii) 画像化、オートラジオグラフィーまたは組織病理学によってプラークの量を検出する工程;
を含んで成り、
画像強度が減少した場合、または検出されたプラークの量が減少した場合、薬剤が、患者または動物の脳におけるアミロイドプラークの負荷を減少させるのに有効であるものとして同定される方法。
【請求項16】
患者または動物の組織における疾患過程を減少させる薬剤の有効性を評価する方法であって、下記の工程:
(i) 被験患者または動物に薬剤を投与する工程;
(ii) 式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれかの化合物を投与する工程;および
(iii) 画像化、オートラジオグラフィーまたは組織病理学によって、被験患者または動物の組織に結合した化合物の量を検出する工程;
を含んで成り、
画像強度が減少した場合、その薬剤が疾患過程を減少させるのに有効であるものとして同定される方法。
【請求項17】
疾患過程が、細胞または組織における酸化ストレスを有する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞または組織が、中枢または末梢神経系の部分である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
患者または動物の脳腫瘍における酸化ストレスまたは細胞死を検出する方法であって、下記の工程:
請求項4〜14に記載の式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれか1つの化合物を、患者または動物に投与する工程;および
脳腫瘍に結合した化合物の量を検出する工程;
を含んで成り、
脳腫瘍に結合した化合物の有意量の検出が、腫瘍における酸化ストレスまたは細胞死の存在を示す方法。
【請求項20】
抗癌治療に対する脳腫瘍の反応をモニターするための、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれか1つの化合物、および医薬的に許容される担体を含んで成る医薬組成物。
【請求項22】
式I〜IXで示されるいずれかの構造で表されるいずれか1つの化合物を含んで成る医薬組成物であって、該化合物が診断用のマーカに結合されているかまたは該マーカを含有する医薬組成物。
【請求項23】
患者または動物における酸化ストレスに関連した細胞死または疾患過程の検出用の診断組成物を製造するための、式I〜IXで示されるいずれかの構造で表される化合物の使用。
【請求項24】
組織が、中枢または末梢神経系の部分である請求項23に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−505884(P2008−505884A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519981(P2007−519981)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【国際出願番号】PCT/IL2005/000725
【国際公開番号】WO2006/006156
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(505467867)エヌエスティー・ニューロサバイバル・テクノロジーズ・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】