説明

病変組織摘出装置

【課題】病変組織の摘出量を制御できる病変組織摘出装置を提供する。
【解決手段】病変組織摘出装置1は、吸引管2と、吸引管2に負圧を与える真空ポンプ8と、吸引管2内の圧力を調整する真空レギュレータ7と、吸引管2に接続された電気メス装置20と、吸引管2で摘出した病変組織を貯留する吸引瓶6と、真空レギュレータ7および電気メス装置20を制御するコンピュータ10と、からなり、吸引管2が電気メス電極として機能し、さらに真空レギュレータ7の圧力調整および電気メス装置20の出力調整により、病変組織の摘出量を調節できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸引管と電気メスを利用した病変組織の摘出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病変組織の一般的な摘出手術では電気メスを用いて病変組織の切開および凝固を行い、その後、吸引管で摘出する方法が用いられている。電気メスおよび吸引管は手術者が手で操作しているため、病変組織の摘出量を細かく調整できず、安全かつ正確な手術が困難である。
【0003】
したがって、病変組織の安全かつ正確な摘出には電気メスによる切開および凝固と吸引管による摘出を連携して操作できる医療器具を用い、さらその医療器具の操作を機械化することが望ましい。
【0004】
特許文献1には電気メスと吸引管を一体化した医療器具が開示されているが、ここで用いられている技術は電気メスの使用で発生した煙や洗浄液の排出のためのものであって、病変組織の摘出量を調整することは困難である。また、特許文献2には吸引管の圧力制御を自動化する技術が開示されている。しかしこの技術は安定した吸引を実現するためのもので、病変組織の摘出量を調整することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−527766号公報
【特許文献2】特開2007−229010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題に鑑み、病変組織の摘出量を制御できる病変組織摘出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る病変組織摘出装置の特徴は、病変組織を吸い上げる吸引管と、前記吸引管に負圧を与える真空ポンプと、前記吸引管内の圧力を調整する真空レギュレータと、前記吸引管に接続された電気メス装置と、前記吸引管で摘出した病変組織を貯留する吸引瓶と、前記真空レギュレータおよび前記電気メス装置を制御するコンピュータと、を備え、前記吸引管が電気メス電極としても機能し、さらに前記真空レギュレータの圧力調整および前記電気メス装置の出力調整により、病変組織の摘出量を調節できる点にある。
【0008】
前記吸引管を導電性材料で作り、前記吸引管先端部外面を絶縁材料で覆うようにすれば、前記吸引管に接続された前記電気メス装置の出力電流を前記吸引管に吸い上げられた病変組織のみに作用させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】吸引管断面図
【図2】病変組織出装置の全体構成を示す模式図
【図3】病変組織摘出装置による病変組織摘出手順を示す模式図
【図4】豚脳灰白質の摘出実験結果を示す顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係る病変組織摘出装置の実施形態を図面に基づいて説明する。図1はその病変組織摘出装置で用いる吸引管2の断面図を示している。吸引管2は導電性材料で作られており、さらに吸引管2の端面を含む先端部の外面は絶縁材料3で絶縁されている。また吸引管2の外面の一部は導電性材料が露出している。吸引管2の材質はステンレス鋼、コバルトクロム合金、チタン合金、チタン、銀、金、真鍮が好適である。
【0011】
図2は病変組織摘出装置1の全体構成を示す模式図である。病変組織摘出装置1は、吸引管2と、吸引管2に負圧を与える真空ポンプ8と、吸引管2内の圧力を調整する真空レギュレータ7と、吸引管2に接続された電気メス装置20と、吸引管2で摘出した病変組織を貯留する吸引瓶6と、真空レギュレータ7および電気メス装置20を制御するコンピュータ10と、からなる。
【0012】
図2に示すように、吸引管2の後端はコネクタ4を介してチューブ5に接続されている。チューブ5は吸引瓶6に接続され、さらに真空レギュレータ7を経由し、真空ポンプ8に接続されている。
【0013】
吸引管2の露出した導電性材料部には通電ケーブル21が接続されており、さらに通電ケーブル21は電気メス装置20に接続されている。電気メス装置20には接続ケーブル23を介して対極板22が接続されている。
【0014】
チューブ5は吸引管2に負圧を与え、また吸引管2が摘出した病変組織を吸引瓶6まで移送する。
【0015】
真空レギュレータ7は真空レギュレータ制御ケーブル11を介して制御コンピュータ10に接続されており、制御コンピュータ10の制御信号によって設定圧が変化する。また電気メス装置20は電気メス装置制御ケーブル12を介して制御コンピュータ10に接続されており、制御コンピュータ10の制御信号によって、電気メス出力設定値が変化し、また電気メス出力の開始および停止が制御される。
【0016】
病変組織摘出装置1に必要な負圧は真空ポンプ8によって与えられる。真空ポンプ8によって生じた負圧は、真空レギュレータ7によって設定された圧力に調整され、吸引管2に負圧を与える。真空レギュレータ7には圧力センサが取り付けられており、吸引管2の負圧を確認できるようになっていることが望ましいが、別途圧力センサを吸引瓶6またはチューブ5または吸引管2に取り付けても良い。
【0017】
次に病変組織摘出の手順について説明する。病変組織摘出装置1における病変組織の摘出量調整は吸引管2の負圧による引っ張り力を調整することで実現している。図3は病変組織摘出時の吸引管2の先端部分を示している。図3(a)のように吸引管2の先端を細胞組織30の摘出部位31に接触させる。このとき吸引管2には負圧を与えない。また吸引管2と摘出部位31の間にすき間ができてはいけない。さらに対極板22は細胞組織30と電気的に接続されている。
【0018】
制御コンピュータ10からの制御信号により真空レギュレータ7を調整し、吸引管2に負圧を与えると吸引管2の内部に引っ張り力が発生し、図3(b)のように摘出部位31が吸い込まれる。吸い込まれる摘出部位31の量は、負圧により吸引管2に発生した引っ張り力によって変化する。
【0019】
図3(b)の状態で吸引管2に電気メス装置20から高周波電流を流すと、吸引管2の内側に接触している摘出部位31が焼灼され、図3(c)のように細胞30と摘出部位31で分離される。
【0020】
吸引管2を細胞組織30から離すと、分離された摘出部位31は吸引管2の負圧によってチューブ5を移送されて吸引瓶6に貯留される。その結果、図3(a)において細胞組織30にあった摘出部位31は、図3(d)のように摘出による凹み32となる。
【0021】
次に、上記した病変組織摘出装置1を使用して行った豚脳細胞摘出実験結果を示す。吸引管2に外径2mm、内径1.5mm、長さ70mmのステンレス管を用い、このステンレス管先端5mmの外面に絶縁材料3として絶縁塗料を塗布している。
【0022】
制御コンピュータ10を用いて電気メス装置20を切開モード、出力30W、通電時間1秒間に設定した。さらに制御コンピュータ10を用いて真空レギュレータ7の設定圧力を−3、−6、−9、−12、−15kPaの5パターンで豚脳細胞摘出を行った。
【0023】
図4は豚脳の灰白質を摘出対象とした実験結果を示す顕微鏡写真である。図4内の符号40〜44はそれぞれ真空レギュレータ7を−3、−6、−9、−12、−15kPaに設定して摘出を行った後の摘出痕である。真空レギュレータ7の設定圧を変化させると摘出量も変化することがわかる。
【0024】
このように本実施形態では、吸引管2の露出した導電性材料部が通電ケーブル21を介して電気メス装置20に接続され、吸引管2が電気メス電極としても機能するようになっているので、真空レギュレータ7の圧力調整および電気メス装置20の出力調整により、病変組織の摘出量を制御することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 病変組織摘出装置
2 吸引管
3 絶縁材料
4 コネクタ
5 チューブ
6 吸引瓶
7 真空レギュレータ
8 真空ポンプ
10 制御コンピュータ
11 真空レギュレータ制御ケーブル
12 電気メス装置制御ケーブル
20 電気メス装置
21 通電ケーブル
22 対極板
23 対極板接続ケーブル
30 細胞組織
31 摘出部位
32 摘出による凹み
40 真空レギュレータ7の設定圧が−3kPaの時の摘出痕
41 真空レギュレータ7の設定圧が−6kPaの時の摘出痕
42 真空レギュレータ7の設定圧が−9kPaの時の摘出痕
43 真空レギュレータ7の設定圧が−12kPaの時の摘出痕
44 真空レギュレータ7の設定圧が−15kPaの時の摘出痕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病変組織を吸い上げる吸引管と、
前記吸引管に負圧を与える真空ポンプと、
前記吸引管内の圧力を調整する真空レギュレータと、
前記吸引管に接続された電気メス装置と、
前記吸引管で摘出した病変組織を貯留する吸引瓶と、
前記真空レギュレータおよび前記電気メス装置を制御するコンピュータと、からなる病変組織摘出装置であって、
前記吸引管が電気メス電極として機能し、
さらに前記真空レギュレータの圧力調整および前記電気メス装置の出力調整により、病変組織の摘出量を調節できるようになっていることを特徴とする病変組織摘出装置。
【請求項2】
前記吸引管が導電性材料で作られており、前記吸引管先端部外面が絶縁材料で覆われている請求項1の病変組織摘出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147719(P2011−147719A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13214(P2010−13214)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年11月21日 日本コンピュータ外科学会発行の「日本コンピュータ外科学会誌 第11巻第3号」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インテリジェント手術機器研究開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】