説明

病理組織標本及びその製造方法

【課題】安全且つ簡易な方法で量産が可能な病理組織標本及びその製造方法を提供する。
【解決手段】病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製した陽性コントロール標本に利用可能な病理組織標本である。また、前記病原性微生物として、感染症の発症原因微生物そのものを用いる他、発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織標本及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症は、病原性微生物が宿主の体内に侵入し、特定の組織内や粘膜表面に付着して増殖し、組織や臓器に障害を与えることにより発症する疾病である。感染症の診断においては、発症原因の病原性微生物を分離、同定等する必要があり、その検査方法は病原性微生物によって異なる。
【0003】
例えば、原因微生物が細菌である場合、被検者の生体や解剖個体から採取した組織を、「陽性コントロール標本」と共に、チールネルゼン染色(Ziehl−Neelsen stain)やワルチンスタリー染色(Warthin−Starry stain)等の方法で染色し、両者を比較して光学顕微鏡等で比較観察し、染色結果の判定を行う。
【0004】
ここで「陽性コントロール標本」とは、病原性細菌に感染した病変組織を用いて作製された病理組織標本であり、必ず陽性を示すものである。よって、「陽性コントロール標本」と、被検者の組織標本の染色結果とが一致していれば、医師はその被検者に対し、各種検査結果と併せて感染症の診断を下すことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば結核症のように、重篤の罹患者数が減少傾向にある感染症では、結核症判定に必要な結核菌数を含んだ病変組織を採取する機会が減少し、その絶対数に限りがあるため、結核症判定用の陽性コントロール標本を作製することが困難になりつつある。
【0006】
さらに、感染力の強い病原性微生物の病理組織標本を作製する際には、二次感染の恐れがあるので、バイオハザード対策を施した施設でしか行うことができず、その対策費用等の経済的負担が大きいという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、斯かる実情に鑑み、安全且つ簡易な方法で量産が可能な病理組織標本及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製されることを特徴とする病理組織標本である。
【0009】
(2)前記哺乳類は、ヒト、ラット、羊又はウサギであることを特徴とする(1)に記載の病理組織標本である。
【0010】
(3)前記病原性微生物は、細菌、真菌、原虫又はウィルスであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の病理組織標本である。
【0011】
(4)前記細菌は、グラム陽性球菌、グラム陰性好気性桿菌、グラム陰性好気性球菌、グラム陰性通性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性球菌、グラム陽性桿菌、らせん菌、放線菌類、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、マイコプラズマ、リケッチア又はクラミジアからなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(3)に記載の病理組織標本である。
【0012】
(5)前記マイコバクテリウム属は、結核菌群、らい菌又は非結核性抗酸菌からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(4)に記載の病理組織標本である。
【0013】
(6)前記非結核性抗酸菌は、マイコバクテリウム アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム イントラセルラレ(Mycobacterium intracellulare)、マイコバクテリウム カンサシイ(Mycobacterium kansasii)、マイコバクテリウム アブセシュス(Mycobacterium abscessus)、マイコバクテリウム フォツイタム(Mycobacterium fortuitum)、マイコバクテリウム シェロナエ(Mycobacterium chelonae)、マイコバクテリウム シュルガイ(Mycobacterium szulgai)、マイコバクテリウム キセノピ(Mycobacterium xenopi)、マイコバクテリウム ノンクロモジェニクム(Mycobacterium nonchromogenicum)、マイコバクテリウム テラエ(Mycobacterium terrae)、マイコバクテリウム スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)、マイコバクテリウム ゴドナエ(Mycobacterium gordonae)、マイコバクテリウム シミアエ(Mycobacterium simiae)、マイコバクテリウム シモイデイ(Mycobacterium shimoidei)、マイコバクテリウム サーモレジスタブル(Mycobacterium thermoresistible)、マイコバクテリウム ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、マイコバクテリウム マリナム(Mycobacterium marinum)、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)、マイコバクテリウム フラベセンス(Mycobacterium flavescens)、マイコバクテリウム アシアティカム(Mycobacterium asiaticum)、マイコバクテリウム ポルシナム(Mycobacterium porcinum)、マイコバクテリウム アカプルセンシス(Mycobacterium acapulcensis)又はマイコバクテリウム ディエンホフェリ(Mycobacterium diernhoferi)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(5)に記載の病理組織標本である。
【0014】
(7)前記真菌は、皮膚糸状菌、カンジダ属、マラセチア属、スポロトリックス属、黒色真菌、アブシジア属、ムーコル属、リゾムーコル属、リゾプス属、トリコスポロン属、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、クリプトコックス属、コクシジオイデス属、ヒトプラスマ属、ブラストミセス属、パラコクシジオイデス属又はペニシリウム属からなる群より選択される少なくとも一つであること特徴とする(3)に記載の病理組織標本である。
【0015】
(8)前記原虫は、赤痢アメーバ原虫、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウムパルブム原虫、大腸バランチジウム原虫、膣トリコモナス原虫、トキソプラズマゴンディ、トリパノソーマ原虫属、リーシュマニア原虫類、アカントアメーバカルバートソニ原虫、プラスモジウム原虫又はマラリア原虫からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(3)に記載の病理組織標本である。
【0016】
(9)前記ウィルスは、痘瘡ウィルス、天然痘ウィルス、サル痘ウィルス、伝染性軟属種ウィルス、単純ヘルペスウィルス1型、単純ヘルペスウィルス2型、水痘帯状疱疹ウィルス、サイトメガロウィルス、EBウィルス(Epstein−Barr virus)、ヒトヘルペスウィルス6型、ヒトヘルペスウィルス8型、アデノウィルス科、ポリオーマウィルス科、パピローマウィルス科、パルボウィルス科、ポリオウィルス、コクサッキーウィルス、エコーウィルス、エンテロウィルス、ライノウィルス、ヘパトウィルス属、ロタウィルス、ノロウィルス、サポウィルス、アルファウィルス、風疹ウィルス、デングウィルス、横熱ウィルス、日本脳炎ウィルス、ウエストナイルウィルス、ダニ媒介性脳炎ウィルス、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、ムンプスウィルス、麻疹ウィルス、REウィルス(Respiratory syncytial virus)、ヒトメタニューモウィルス、狂犬病ウィルス、ヒト呼吸器コロナウィルス、SARSコロナウィルス(Severe Acute Respiratory Syndrome coronavirus)、エボラウィルス、マールブルグウィルス、ハンタウィルス属、ナイロウィルス属、ラッサウィルス、ヒトTリンパ球向性ウィルス1型(Human T−lymphotropic virus type 1)、ヒト免疫不完全ウィルス、A型肝炎ウィルス(Hepatitis A virus)、B型肝炎ウィルス(Hepatitis B virus)、C型肝炎ウィルス(Hepatitis C virus)、D型肝炎ウィルス(Hepatitis D virus)、E型肝炎ウィルス(Hepatitis E virus)、G型肝炎ウィルス(Hepatitis G virus)又はTTウィルス(T T virus)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(3)に記載の病理組織標本である。
【0017】
(10)前記病原性微生物として、感染症の発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いることを特徴とする(1)乃至(9)に記載の病理組織標本である。
【0018】
(11)前記病原性微生物の感染症の診断方法に用いられることを特徴とする(1)乃至(10)に記載の病理組織標本である。
【0019】
(12)前記診断方法は、チールネルゼン染色(Ziehl−Neelsen stain)、蛍光染色(Auramine stain)、グロコット染色(Methenamine silver−nitrate stain (Gomori)−Grocott's variation)、グラム染色(Gram stain)、オルセイン染色(Orcein stain)、ビクトリア青酸性フクシン染色(Victoria blue・Acidic Fuchsin stain)、クラミディア染色(Macchiavello stain)、グリドリー変法、ワルチンスタリー染色(Warthin−Starry stain)又は免疫染色(Immunostaining)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする(11)に記載の病理組織標本である。
【0020】
(13)陽性コントロール標本である(11)又は(12)に記載の病理組織標本である。
【0021】
(14)病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を哺乳類の血液に混和させる工程と、前記病原性微生物又は前記病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた前記哺乳類の血液から凝血塊を採取する工程と、前記凝血塊を用いて病理組織標本を作製する工程とを含むことを特徴とする病理組織標本の製造方法である。
【0022】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の病理組織標本は、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製されるので、従来のように、その標本作製のために病変組織を採取する必要がない。これにより、罹患者数が減少傾向にある感染症であっても、その原因微生物さえ入手できれば、増殖させた原因微生物を用いて病理組織標本を作製することができる。その結果、必要なときに必要な量の病理組織標本を得ることができるという優れた効果を奏し得る。
【0024】
さらに、本発明の病理組織標本は、例えば健常者やラットといった入手しやすい血液を用いて病理組織標本を作製することができるので、簡易にその標本の作製が可能になるという優れた効果を奏し得る。
【0025】
また、本発明の病理組織標本は、上記の病原性微生物として、感染症の発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いて作製されるので、従来のように、その標本の作製のために感染力の強い病原性微生物を用いる必要がなく、通常の施設でもその陽性コントロール標本を安全に作製することができる。
【0026】
例えば、結核菌の陽性コントロール標本を作製したい場合には、結核菌の代わりとして、非結核性抗酸菌のように結核菌と細菌学的性質が近似しており、且つ感染力が弱い細菌を用いて病理組織標本を作製することができる。その結果、新たにバイオハザード対策を施す必要が無くなるので、経済的負担を負うことなく安全にその標本を作製し得るという優れた効果を奏し得る。
【0027】
また、本発明の病理組織標本の製造方法によれば、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて病理組織標本を作製するので、簡易且つ低コストでその標本を量産できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0029】
本発明の病理組織標本は、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製される。ここで、病原性微生物とは、感染症の原因となる微生物であり、本発明で利用される病原性微生物としては、細菌、真菌、原虫又はウィルスが挙げられる。
【0030】
ここで、細菌とは、原核細胞を持つ単細胞の微生物であり、原形質に明瞭な核をもたない生物の一群である。本発明で利用される細菌としては、グラム陽性球菌、グラム陰性好気性桿菌、グラム陰性好気性球菌、グラム陰性通性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性球菌、グラム陽性桿菌、らせん菌、放線菌、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属(抗酸菌(acid−fast bacteria)とも呼ばれる。)、マイコプラズマ、リケッチア又はクラミジアが挙げられ、マイコバクテリウム属としては、結核菌群、らい菌又は非結核性抗酸菌が挙げられ、非結核性抗酸菌としては、マイコバクテリウム アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム イントラセルラレ(Mycobacterium intracellulare)、マイコバクテリウム カンサシイ(Mycobacterium kansasii)、マイコバクテリウム アブセシュス(Mycobacterium abscessus)、マイコバクテリウム フォツイタム(Mycobacterium fortuitum)、マイコバクテリウム シェロナエ(Mycobacterium chelonae)、マイコバクテリウム シュルガイ(Mycobacterium szulgai)、マイコバクテリウム キセノピ(Mycobacterium xenopi)、マイコバクテリウム ノンクロモジェニクム(Mycobacterium nonchromogenicum)、マイコバクテリウム テラエ(Mycobacterium terrae)、マイコバクテリウム スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)、マイコバクテリウム ゴドナエ(Mycobacterium gordonae)、マイコバクテリウム シミアエ(Mycobacterium simiae)、マイコバクテリウム シモイデイ(Mycobacterium shimoidei)、マイコバクテリウム サーモレジスタブル(Mycobacterium thermoresistible)、マイコバクテリウム ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、マイコバクテリウム マリナム(Mycobacterium marinum)、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)、マイコバクテリウム フラベセンス(Mycobacterium flavescens)、マイコバクテリウム アシアティカム(Mycobacterium asiaticum)、マイコバクテリウム ポルシナム(Mycobacterium porcinum)、マイコバクテリウム アカプルセンシス(Mycobacterium acapulcensis)又はマイコバクテリウム ディエンホフェリ(Mycobacterium diernhoferi)が挙げられる。尚、これらの細菌は、複数組み合わせて利用されても良い。これらの中では、マイコバクテリウム アビウムと、マイコバクテリウム イントラセルラレとを含んだマイコバクテリウム アビウム コンプレックス(Mycobacterium avium complex(以下、「MAC」という。))が好適に利用される。
【0031】
また、真菌とは、菌類のうち細菌、変形菌を除くものの総称であり、カビ、キノコとよばれるものが含まれる。本発明で利用される真菌としては、皮膚糸状菌、カンジダ属、マラセチア属、スポロトリックス属、黒色真菌、アブシジア属、ムーコル属、リゾムーコル属、リゾプス属、トリコスポロン属、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、クリプトコックス属、コクシジオイデス属、ヒトプラスマ属、ブラストミセス属、パラコクシジオイデス属又はペニシリウム属が挙げられる。尚、これらの真菌は、複数組み合わせて利用されても良い。
【0032】
更に、原虫とは、単細胞の真核生物であり、偽足や鞭毛等の運動器官を持つものが多く、原生動物ともよばれている。本発明で利用される原虫としては、赤痢アメーバ原虫、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウムパルブム原虫、大腸バランチジウム原虫、膣トリコモナス原虫、トキソプラズマゴンディ、トリパノソーマ原虫属、リーシュマニア原虫類、アカントアメーバカルバートソニ原虫、プラスモジウム原虫又はマラリア原虫が挙げられる。尚、これらの原虫は、複数組み合わせて利用されても良い。
【0033】
加えて、ウィルスとは、20〜300nmの大きさであるので光学顕微鏡では観察することができず、細菌濾過器を通過してしまう微生物である。また、外殻はたんぱく質からなり、内部に遺伝子のDNAまたはRNAを含んでいる。一般的には、単独では生命活動を営めず、生きた細胞に寄生して生活又は増殖するので、生物と無生物の中間形とされている。本発明で利用されるウィルスとしては、痘瘡ウィルス、天然痘ウィルス、サル痘ウィルス、伝染性軟属種ウィルス、単純ヘルペスウィルス1型、単純ヘルペスウィルス2型、水痘帯状疱疹ウィルス、サイトメガロウィルス、EBウィルス(Epstein−Barr virus)、ヒトヘルペスウィルス6型、ヒトヘルペスウィルス8型、アデノウィルス科、ポリオーマウィルス科、パピローマウィルス科、パルボウィルス科、ポリオウィルス、コクサッキーウィルス、エコーウィルス、エンテロウィルス、ライノウィルス、ヘパトウィルス属、ロタウィルス、ノロウィルス、サポウィルス、アルファウィルス、風疹ウィルス、デングウィルス、横熱ウィルス、日本脳炎ウィルス、ウエストナイルウィルス、ダニ媒介性脳炎ウィルス、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、ムンプスウィルス、麻疹ウィルス、REウィルス(Respiratory syncytial virus)、ヒトメタニューモウィルス、狂犬病ウィルス、ヒト呼吸器コロナウィルス、SARSコロナウィルス(Severe Acute Respiratory Syndrome coronavirus)、エボラウィルス、マールブルグウィルス、ハンタウィルス属、ナイロウィルス属、ラッサウィルス、ヒトTリンパ球向性ウィルス1型(Human T−lymphotropic virus type 1)、ヒト免疫不完全ウィルス、A型肝炎ウィルス(Hepatitis A virus)、B型肝炎ウィルス(Hepatitis B virus)、C型肝炎ウィルス(Hepatitis C virus)、D型肝炎ウィルス(Hepatitis D virus)、E型肝炎ウィルス(Hepatitis E virus)、G型肝炎ウィルス(Hepatitis G virus)又はTTウィルス(T T virus)が挙げられる。尚、これらのウィルスは、複数組み合わせて利用されても良い。
【0034】
また、上述の病原性微生物の代わりとして、感染症の発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いることができる。ここで、微生物学的性質とは、形態的性質、培養的性質、生理学的性質等が挙げられ、その微生物を特定するための目安となるものである。形態的性質とは、育成した微生物の細胞の形及び大きさ、細胞の多様性の有無等である。また、培養的性質とは、微生物の生育の様相、色、光沢等である。また、生理学的性質とは、その微生物のグラム染色性、pHや温度といった生育の範囲等である。即ち、微生物学的性質が同質であれば、染色結果が同等であると期待される一方で、感染力が弱いので安全性を確保することができるものである。本発明で利用される他の微生物としては、上述の非結核性抗酸菌が挙げられる。
【0035】
また、本発明の病理組織標本は、上述したように、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製される。ここで、哺乳類とは、哺乳綱の脊椎動物の総称であり、現生種は有袋目、食虫目、翼手目、霊長目、食肉目、クジラ目、偶蹄目、奇蹄目、長鼻目、齧歯目、ウシ目、ウサギ目等の19目約4300種に分類される。本発明で利用される哺乳類としては、霊長目、齧歯目、ウシ目又はウサギ目が挙げられ、これらの中では、ヒト、ラット、羊又はウサギが好ましく、特にヒトの血液が好適に利用される。
【0036】
また、混和とは、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞と、哺乳類の血液とが均一に混合した状態をいう。即ち、本発明の病理標本では、細菌、真菌、原虫等の病原性微生物の場合は、病原性微生物そのものを哺乳類の血液に混和させ、ウィルス等の病原性微生物の場合は、病原性微生物を感染させた宿主細胞を哺乳類の血液に混和させて得られる凝血塊を用いて作製することができる。また、凝血塊とは、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液を、血液凝固反応により凝固させて得られる固形物である。
【0037】
次に、本発明の病理組織標本の製造方法について説明する。
【0038】
本発明の病理組織標本は、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を哺乳類の血液に混和させる工程と、前記病原性微生物又は前記病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた前記哺乳類の血液から凝血塊を採取する工程と、前述の凝血塊を用いて病理組織標本を作製する工程により作製される。
【0039】
まず、病原性微生物を培養し、各種微生物に対応した培地から各種微生物のコロニーを採取する。そして、凝血しないように採血管内に採取した適当量の哺乳類の血液に、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を加えて混和させる。次に、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を加えて混和させた血液を凝固させ、凝血塊を採取する。この際、感染力の強い病原性微生物を扱う場合はバイオハザード対策を行う必要があるので、各種微生物の感染力に適合したバイオハザード対策施設、例えばバイオハザード対策用のキャビネットを用いる。
【0040】
ここで、病理組織標本とは、光学顕微用のパラフィン包埋標本、電子顕微鏡用の樹脂包埋標本等として、観察可能に加工された被験者の生体や解剖個体から採取した組織標本である。また、病理組織標本を作製する工程は、一般的には光学顕微鏡観察用の標本と電子顕微鏡観察用の標本とで異なる。光学顕微鏡観察用の標本は、固定、脱水、脱脂、置換、浸透、包埋、薄切等の各工程を経て作製され、電子顕微鏡用の樹脂包埋標本は、固定、脱水、脱脂、置換、浸透、包埋、面出し等の各工程を経て作製される。
【0041】
ここで固定とは、採取された組織が、放置によって組織内の細胞が死滅してしまい、光学顕微鏡での観察ができなくなってしまうことを防ぐために行う処理である。この処理を行うことで、組織や細胞のタンパク質に脱水や変性を起こさせて凝固させ、細胞が死滅することでその構造が安定化、不溶化され、そのタンパク質は色素と結合しやすくなり、光学顕微鏡での観察が可能となる。一般的には、固定処理には、ホルマリンが用いられる。尚、上記の固定処理に、組織固定用振盪器を用いて行っても良い。
【0042】
また、脱水、脱脂、置換、浸透処理とは、固定後の組織内の水分等を除去し、組織内にパラフィンや樹脂を浸透させるための各段階である。一般的には、脱水、脱脂処理には数種類の濃度が異なるアルコールが、置換処理にはキシレン(クロロホルム)が、浸透処理にはパラフィンや樹脂が用いられる。尚、脱水から浸透処理に、真空自動固定包埋装置、密閉固定包埋装置、自動固定包埋装置等を用いて行っても良い。
【0043】
また、包埋とは、硬さが不均一で、薄い切片にできない固定処理後の組織に包埋剤を浸透させて固め、硬さを均一にする処理である。この処理では、一般的に光学顕微鏡用の包埋剤としてパラフィンが、電子顕微鏡用としてエポキシ樹脂又はアクリル樹脂が用いられる。尚、浸透から包埋までの処理に、パラフィン溶融器を用いて行っても良い。
【0044】
また、薄切とは、光学顕微鏡での観察を可能にするために、包埋処理後の組織を光が透過する厚さに切断する処理である。尚、この薄切処理に、ミクロトーム、プテラトーム等の裁断装置を用いて行っても良い。
【0045】
また、面出しとは、ダイヤモンドナイフやウルトラミクロトーム等の裁断装置で、包埋処理後の組織が視覚可能になるように、標本の切片を顕微鏡で確認しながら最良面を出す作業である。尚、余分な樹脂は面出し後にトリミングする。
【0046】
最後に、本発明の病理組織標本の用途について説明する。
【0047】
本発明の病理組織標本は、病原性微生物の感染症の診断方法における陽性コントロール標本として用いられる。被検者の生体や解剖個体から採取した組織標本を、陽性コントロール標本と共に適切な染色方法で着色し、両者を比較して光学顕微鏡等で比較観察し、染色結果の判定を行い、被検者の組織標本の染色結果とが一致していれば、医師はその被検者に対し、各種検査結果と併せて感染症の診断を下すことができる。
【0048】
上記の陽性コントロール標本を染色する際の染色方法としては、チールネルゼン染色(Ziehl−Neelsen stain)、蛍光染色(Auramine stain)、グロコット染色(Methenamine silver−nitrate stain (Gomori)−Grocott's variation)、グラム染色(Gram stain)、オルセイン染色(Orcein stain)、ビクトリア青酸性フクシン染色(Victoria blue・Acidic Fuchsin stain)、クラミディア染色(Macchiavello stain)、グリドリー変法、ワルチンスタリー染色(Warthin−Starry stain)又は免疫染色(Immunostaining)が挙げられ、これらの中では、チールネルゼン染色(Ziehl−Neelsen stain)又は蛍光染色(Auramine stain)が好適に利用される。ここで、チールネルゼン染色とは、組織内の結核菌等の抗酸菌又はセロイド(ceroid)等の抗酸性物質を染色するために用いられる方法の一つであり、蛍光染色とは、蛍光色素であるオーラミン・ロダミンを用いて組織内の抗酸菌等の観察を行うものである。
【0049】
また、上記の陽性コントロール標本の別の用途として、電子顕微鏡で比較観察して判定する際に用いることが挙げられる。電子顕微鏡用の陽性コントロール標本として用いる場合には、酢酸ウラン等で電子染色処理を行っても良いし、染色をせずにそのまま観察を行っても良い。
【実施例】
【0050】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を示すが、これは本発明の実施態様を例示したものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0051】
[実施例1]MAC菌を用いた本発明の病理組織標本の作製
【0052】
以下の手順により、病理組織標本を作製した。
【0053】
はじめに、MAC菌の保存株を4℃で保管し、そのMAC菌を、35℃に加温したフラン器内で小川培地(極東社製)を用いて培養し、培地上にコロニーを形成させた。形成させたコロニー群から直径5mm程度のコロニーを選択し、それを滅菌水100μlに加えて健常者の血液4mlと混和させた。この際、血液中の菌数が10〜1010個/mlになるように調製した。
【0054】
次に、バイオハザード用キャビネット(サンヨー社製)内で、血液が凝固しないように注意しながら、得られたMAC菌を、採取した血液が入った採血管の中に注入し、混和させてMAC菌入り血液を凝固させて凝血塊を得た。また、同様にバイオハザード用キャビネット内で、採血管内に、注射器を用いて20%ホルマリン5mlを注入して固定処理を行った。更に、採血管内の凝血塊をサンプルパック(栄研器材社製、7×4.5cm)に入れ、それを20%中性緩衝ホルマリン200mlが入った容器に浸して再度固定処理を行った。
【0055】
更に、サンプルパックに入れた固定処理済凝血塊を、自動包埋装置(サクラファインテック社製)を用いて包埋処理し、パラフィンブロック(3×4cm)を作製した。そして、得られたパラフィンブロックを冷却させた後、ミトクローム(ヤマト社製)を用いて3μmの薄さの切片になるよう薄切処理した。更に、得られた切片を、1000mlの蒸留水中に浮かせて形を整えた。この切片を、空気泡が入らないようにスライドガラスに載せ、水分を除去してから伸展器(サクラファインテックジャパン社製)によって37℃で加温し、切片の縮みを伸ばしながらスライドガラス表面に貼り付け、病理組織標本を得た。
【0056】
[実施例2]結核菌を用いた本発明の病理組織標本の作製
【0057】
以下の手順により、病理組織標本を作製した。
【0058】
はじめに、結核症患者から得られた結核菌を、10%CO雰囲気下で35℃に保たれた環境内で2週間培養した。
【0059】
次に、得られた結核菌を用いて、実施例1と同様の操作で作製し、病理標本を得た。
【0060】
[比較例1]従来方法による病理組織標本の作製
【0061】
以下の手順により、病理組織標本を作製した。
【0062】
はじめに、結核症患者から採取した肺の病変組織を、3×4cmの大きさに切り出し、ホルマリンを用いて室温で固定処理を行った。最後に、得られた固定処理済病変組織を、実施例1と同様の操作で作製し、病理組織標本を得た。
【0063】
[実施例3]チールネルゼン染色法による比較試験
【0064】
以下の手順により、実施例1及び実施例2の標本並びに比較例1の病理標本を染色し三者を比較した。
【0065】
はじめに、ライトグリーン0.5gと酢酸1mlとを蒸留水100mlに加えて混合して溶解させ、ライトグリーン液を得た。また、70%のアルコール100mlに、濃塩酸1mlを加えて混合し、1%塩酸アルコール液を得た。
【0066】
次に、実施例1で得られた本発明の病理組織標本(以下、「病理組織標本A」とする。)に、脱パラフィン処理、脱イオン水による水洗処理を施した後、カルボールフクシン液(ムトウ化学社製)50mlが入った容器内に浸し、室温で30分間静置した。その後、病理組織標本Aを流水洗浄した後、得られた1%塩酸アルコール50mlが入った容器内に浸してふたを閉め、脱色されるまで容器をゆっくり上下に振った。その後、5分間流水洗浄した後、得られたライトグリーン液50mlが入った容器内に浸して3分間静置し、染色された病理組織標本Aを5分間流水洗浄した。そして、病理組織標本Aをアルコール50mlが入った容器内に1分間浸す脱水処理を3回繰り返した後に、キシレン50mlが入った容器内に1分間浸す透徹処理を施した。その後、病理組織標本A上にカバーグラスを載せ封入してMAC菌の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本A」とする。)を得た。また、実施例2で得られた結核菌を用いた病理組織標本を、陽性コントロール標本Aと同様に染色してカバーガラスで封入し、結核菌の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本B」とする。)を得た。更に、比較例1で得られた結核症の病理組織標本を、陽性コントロール標本Aと同様に染色してカバーガラスで封入し、結核症の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本C」とする。)を得た。
【0067】
得られた陽性コントロール標本Aと、陽性コントロール標本Cとの染色状態を目視で比較したところ、両者の染色状態に差異は無く、チールネルゼン染色法において、結核菌含有凝血塊を用いて作製した陽性コントロール標本による代用が可能であることがわかった。
【0068】
また、図1及び図2に、陽性コントロール標本Aの光学顕微鏡(ニコン社製、1000倍)写真及び陽性コントロール標本Bの光学顕微鏡(ニコン社製、1000倍)写真をそれぞれ示した。両者を比較すると染色状態に差異は無く、チールネルゼン染色法において、MAC菌含有凝血塊を用いて作製した陽性コントロール標本による代用が可能であることがわかった。
【0069】
[実施例4]蛍光染色法による比較試験
【0070】
以下の手順により、実施例1及び実施例2の標本並びに比較例1の病理標本を染色し三者を比較した。
【0071】
はじめに、ロダミン0.1gを蒸留水100ml溶解させ、ロダミンB液を得た。次に、95%のエタノール10mlに、オーラミン・O粉末0.1gを加えてオーラミン溶液を得た。また、蒸留水87mlに、の石炭酸3mlを加えて混合し、石炭酸水溶液を得た。更に、得られたオーラミン液と石炭酸水溶液とを静かに混和して石炭酸オーラミンO液を得た。また、95%のエタノール97mlに、濃塩酸3mlを静かに加えて3%塩酸アルコールを得た。また、メチレンブルー5gをエタノール100mlに加えて完全に溶解させ、メチレンブルー原液を得た。得られたメチレンブルー原液30mlと、0.01%水酸化カリウム水溶液100mlとを混和させレフレルメチレンブルー液を得た。
【0072】
次に、病理組織標本Aに、得られたロダミンB液10mlを滴下して1分間放置した後に、得られた石炭酸オーラミンO液10mlを滴下し室温で10分間静置した。その後、病理組織標本Aを流水洗浄し、得られた3%塩酸アルコール10mlを滴下して脱色されるまでまんべんなく病理組織標本A上に流動させた。その後、病理組織標本Aを30秒間流水洗浄し、得られたレフレルメチレンブルー液を蒸留水で10倍に薄め、それを10ml滴下して30秒間静置した。その後、水洗して濾紙を用いずに室温で乾燥させ、病理組織標本Aを上にカバーグラスを載せ封入してMAC菌の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本D」とする。)を得た。また、実施例2で得られた結核菌を用いた病理組織標本を、陽性コントロール標本Aと同様に染色してカバーガラスで封入し、結核菌の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本E」とする。)を得た。更に、比較例1で得られた結核症の病理組織標本を、陽性コントロール標本Aと同様に染色してカバーガラスで封入し、結核症の陽性コントロール標本(以下、「陽性コントロール標本F」とする。)を得た。
【0073】
得られた陽性コントロール標本Eと、陽性コントロール標本Fとの染色状態を目視で比較したところ、両者の染色状態に差異は無く、蛍光染色法において、結核菌含有凝血塊を用いて作製した陽性コントロール標本による代用が可能であることがわかった。
【0074】
また、図3及び図4に、陽性コントロール標本Dの光学顕微鏡(ニコン社製、1000倍)写真及び陽性コントロール標本Eの光学顕微鏡(ニコン社製、1000倍)写真をそれぞれ示した。両者を比較すると染色状態に差異は無く、蛍光染色法において、MAC菌含有凝血塊を用いて作製した陽性コントロール標本による代用が可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の病理組織標本は、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製され、その病原性微生物として、感染症の発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いることができるので、安全性を確保しつつ、更に施設保有者に経済的負担を負わせることが無い。また、本発明の病理組織標本は、必要なときに必要な量の病理組織標本を得ることができ、例えば健常者やラット等の血液を用いて病理組織標本を作製することができるので、簡易に作製が可能である。更に、本発明の病理組織標本の製造方法は、病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて病理組織標本を作製する方法であるので、簡易且つ低コストで量産が可能である。
【0076】
よって、本発明の病理組織標本は、病原性微生物が引き起こす感染症の診断に用いる病理組織標本、特に染色法による感染症の診断用陽性コントロール標本として用いた場合に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】チールネルゼン染色で染色処理を施したMAC菌の陽性コントロール標本の光学顕微鏡写真である。
【図2】チールネルゼン染色で染色処理を施した結核菌の陽性コントロール標本の光学顕微鏡写真である。
【図3】蛍光染色で染色処理を施したMAC菌の陽性コントロール標本の光学顕微鏡写真である。
【図4】蛍光染色で染色処理を施した結核菌の陽性コントロール標本の光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた哺乳類の血液から得られる凝血塊を用いて作製されることを特徴とする病理組織標本。
【請求項2】
前記哺乳類は、ヒト、ラット、羊又はウサギであることを特徴とする請求項1に記載の病理組織標本。
【請求項3】
前記病原性微生物は、細菌、真菌、原虫又はウィルスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の病理組織標本。
【請求項4】
前記細菌は、グラム陽性球菌、グラム陰性好気性桿菌、グラム陰性好気性球菌、グラム陰性通性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性桿菌、グラム陰性嫌気性球菌、グラム陽性桿菌、らせん菌、放線菌類、コリネバクテリウム属、マイコバクテリウム属、マイコプラズマ、リケッチア又はクラミジアからなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の病理組織標本。
【請求項5】
前記マイコバクテリウム属は、結核菌群、らい菌又は非結核性抗酸菌からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項4に記載の病理組織標本。
【請求項6】
前記非結核性抗酸菌は、マイコバクテリウム アビウム(Mycobacterium avium)、マイコバクテリウム イントラセルラレ(Mycobacterium intracellulare)、マイコバクテリウム カンサシイ(Mycobacterium kansasii)、マイコバクテリウム アブセシュス(Mycobacterium abscessus)、マイコバクテリウム フォツイタム(Mycobacterium fortuitum)、マイコバクテリウム シェロナエ(Mycobacterium chelonae)、マイコバクテリウム シュルガイ(Mycobacterium szulgai)、マイコバクテリウム キセノピ(Mycobacterium xenopi)、マイコバクテリウム ノンクロモジェニクム(Mycobacterium nonchromogenicum)、マイコバクテリウム テラエ(Mycobacterium terrae)、マイコバクテリウム スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)、マイコバクテリウム ゴドナエ(Mycobacterium gordonae)、マイコバクテリウム シミアエ(Mycobacterium simiae)、マイコバクテリウム シモイデイ(Mycobacterium shimoidei)、マイコバクテリウム サーモレジスタブル(Mycobacterium thermoresistible)、マイコバクテリウム ウルセランス(Mycobacterium ulcerans)、マイコバクテリウム マリナム(Mycobacterium marinum)、マイコバクテリウム バッカエ(Mycobacterium vaccae)、マイコバクテリウム フラベセンス(Mycobacterium flavescens)、マイコバクテリウム アシアティカム(Mycobacterium asiaticum)、マイコバクテリウム ポルシナム(Mycobacterium porcinum)、マイコバクテリウム アカプルセンシス(Mycobacterium acapulcensis)又はマイコバクテリウム ディエンホフェリ(Mycobacterium diernhoferi)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項5に記載の病理組織標本。
【請求項7】
前記真菌は、皮膚糸状菌、カンジダ属、マラセチア属、スポロトリックス属、黒色真菌、アブシジア属、ムーコル属、リゾムーコル属、リゾプス属、トリコスポロン属、ニューモシスチス属、アスペルギルス属、クリプトコックス属、コクシジオイデス属、ヒトプラスマ属、ブラストミセス属、パラコクシジオイデス属又はペニシリウム属からなる群より選択される少なくとも一つであること特徴とする請求項3に記載の病理組織標本。
【請求項8】
前記原虫は、赤痢アメーバ原虫、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウムパルブム原虫、大腸バランチジウム原虫、膣トリコモナス原虫、トキソプラズマゴンディ、トリパノソーマ原虫属、リーシュマニア原虫類、アカントアメーバカルバートソニ原虫、プラスモジウム原虫又はマラリア原虫からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の病理組織標本。
【請求項9】
前記ウィルスは、痘瘡ウィルス、天然痘ウィルス、サル痘ウィルス、伝染性軟属種ウィルス、単純ヘルペスウィルス1型、単純ヘルペスウィルス2型、水痘帯状疱疹ウィルス、サイトメガロウィルス、EBウィルス(Epstein−Barr virus)、ヒトヘルペスウィルス6型、ヒトヘルペスウィルス8型、アデノウィルス科、ポリオーマウィルス科、パピローマウィルス科、パルボウィルス科、ポリオウィルス、コクサッキーウィルス、エコーウィルス、エンテロウィルス、ライノウィルス、ヘパトウィルス属、ロタウィルス、ノロウィルス、サポウィルス、アルファウィルス、風疹ウィルス、デングウィルス、横熱ウィルス、日本脳炎ウィルス、ウエストナイルウィルス、ダニ媒介性脳炎ウィルス、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、ムンプスウィルス、麻疹ウィルス、REウィルス(Respiratory syncytial virus)、ヒトメタニューモウィルス、狂犬病ウィルス、ヒト呼吸器コロナウィルス、SARSコロナウィルス(Severe Acute Respiratory Syndrome coronavirus)、エボラウィルス、マールブルグウィルス、ハンタウィルス属、ナイロウィルス属、ラッサウィルス、ヒトTリンパ球向性ウィルス1型(Human T−lymphotropic virus type 1)、ヒト免疫不完全ウィルス、A型肝炎ウィルス(Hepatitis A virus)、B型肝炎ウィルス(Hepatitis B virus)、C型肝炎ウィルス(Hepatitis C virus)、D型肝炎ウィルス(Hepatitis D virus)、E型肝炎ウィルス(Hepatitis E virus)、G型肝炎ウィルス(Hepatitis G virus)又はTTウィルス(T T virus)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項3に記載の病理組織標本。
【請求項10】
前記病原性微生物として、感染症の発症原因微生物と微生物学的性質が近似し、且つ感染力が弱い他の微生物を用いることを特徴とする請求項1乃至9に記載の病理組織標本。
【請求項11】
前記病原性微生物の感染症の診断方法に用いられることを特徴とする請求項1乃至10に記載の病理組織標本。
【請求項12】
前記診断方法は、チールネルゼン染色(Ziehl−Neelsen stain)、蛍光染色(Auramine stain)、グロコット染色(Methenamine silver−nitrate stain (Gomori)−Grocott's variation)、グラム染色(Gram stain)、オルセイン染色(Orcein stain)、ビクトリア青酸性フクシン染色(Victoria blue・Acidic Fuchsin stain)、クラミディア染色(Macchiavello stain)、グリドリー変法、ワルチンスタリー染色(Warthin−Starry stain)又は免疫染色(Immunostaining)からなる群より選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項11に記載の病理組織標本。
【請求項13】
陽性コントロール標本である請求項11又は12に記載の病理組織標本。
【請求項14】
病原性微生物又は病原性微生物を感染させた宿主細胞を哺乳類の血液に混和させる工程と、
前記病原性微生物又は前記病原性微生物を感染させた宿主細胞を混和させた前記哺乳類の血液から凝血塊を採取する工程と、
前記凝血塊を用いて病理組織標本を作製する工程とを含むことを特徴とする病理組織標本の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−151597(P2008−151597A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338770(P2006−338770)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】