説明

癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部との判別方法およびそれに用いる判別試薬

【課題】癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部の判別方法およびそれに用いる判別試薬を提供することにある。
【解決手段】癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよびホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの少なくとも一つの発現レベルを測定することにより、癌部と非癌部とを、感度良くかつ特異的に、判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部との判別方法およびそれに用いる判別試薬に関する。更に詳細には、原発性肝細胞性癌などの癌が疑われる患者または原発性肝細胞性癌患者などの癌患者由来の組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよび/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの発現レベルを測定して、癌部と非癌部とを判別する判別方法、およびクラスリンヘビーチェイン抗体および/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ抗体を含む、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部を判別するための判別試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性肝細胞性癌(HCC)は、世界的に重大な疾患であり、日本においても、癌死亡率の第3位にランクされている。一般に、肝細胞性癌の早期診断は予後を改善する。しかしながら、腫瘍の良性・悪性の診断はしばしば困難である。
通常、HCCの検出には血清マーカーおよび画像診断に分かれる。血清マーカーにはAFP−L3、PIVKA−IIがあり、広く利用されているが早期発見は困難である(非特許文献1および非特許文献2)。画像診断には超音波検査が用いられ、2cm以下の結節を検出することが可能であるが、HCCとの確定診断は困難である。2cm以下の結節においては、生検組織の病理学的診断が推奨されている。病理医はこれを小さな切片内の情報のみで診断しなければならないが、この様な小さな結節の良・悪性の診断は、経験豊かな病理医でさえ困難であることが多い。
近年肝硬変における初期原発性肝細胞性癌(eHCC)と良性結節を鑑別する検討として、Grypican−3等をマーカーとして用いた病理診断が有用と報告された(非特許文献3および非特許文献4)。しかし、本発明者らの検討によると、これらの診断では、癌を癌と高い確率で判定できるとは言えず、また、非癌を非癌と高い確率で判定できるとも言えず、新たなマーカーの開発が望まれている。
ところで、近年、ヒトゲノムプロジェクトによりゲノム・データベースが発表され、さらにMS/MS技術の開発によって蛋白の高効率な同定が可能になった。これらの分析・解析技術の発展は、蛋白質の網羅的な発現解析、すなわちプロテオーム解析を可能にした。
HCCにおいても、病態と正常時の発現を比較することにより、2次元電気泳動や多重蛍光標識2次元電気泳動法、2次元高速液体クロマトグラフィー法を用いたプロテオーム解析が報告された。これらの結果、多くの蛋白がeHCCマーカー候補として同定された。しかしながら、いずれも臨床応用された例はほとんど無い。
【非特許文献1】Lancet 2003; 362:1907-1917
【非特許文献2】Am J Gastroenterol 1999;94:650-654
【非特許文献3】Gastroenterology 2003;125:89-97
【非特許文献4】HEPATOLOGY 2007;45:725-734
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、本発明の課題は、初期原発性肝細胞癌などの癌が疑われる患者または初期原発性肝細胞癌などの癌患者由来の組織の癌部と非癌部を感度および特異性よく判別することができる判別方法およびそれに用いる判別試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、肝癌の発癌に関連する新しい蛋白を検出する方法を開発するためには、より広範囲かつ洗練された手法が必要であると考えた。本発明者らは、HCCの診断に役立つ新しいマーカーを発見するため、アガロース2次元電気泳動にさらに高い再現性と広いダイナミックレンジを持たせるために、2D−DIGE法(two-dimensional fluorescence difference gel electrophrosis)と結合させた改良アガロース2次元電気泳動法を用いた(Clin Cancer Res 2004;10:2007-2014; Proteomics 2006;6:1-11-1018)。本発明者らは、HCCの癌部および周辺の非癌部組織の蛋白発現量の比較をプロテオーム解析により行なった。その結果、少なくとも127の物質が癌部および周辺の非癌部組織の蛋白発現量が異なり、そのうち、83蛋白を同定した。そのうち、2つの蛋白質がeHCCの癌部と非癌部とを判別するのに有効であることを発見した。本発明はかかる経過により達成されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中における、クラスリンヘビーチェインおよび/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの発現レベルを測定して、癌部と非癌部とを判別することを特徴とする、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部の判別方法に関する。
更に、本発明は、抗クラスリンヘビーチェイン抗体および抗ホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ抗体を含む、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部とを判別するための判別試薬に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の判別方法により、初期原発性肝細胞癌などの癌が疑われる患者または初期原発性肝細胞癌などの癌患者由来の組織の癌部と非癌部を感度および特異性よく判別することが出来る。また、初期原発性肝細胞癌などの癌が疑われる患者または初期原発性肝細胞癌などの癌患者の由来の結節について良性結節と悪性結節とを感度および特異性よく判別することが出来る。更には、癌の分化度を判別することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよびホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの少なくとも一つの発現レベルを測定することにより、癌部と非癌部とを判別することができる。
本発明において、クラスリンヘビーチェイン(Clathrin heavy chain)とはCHCと標記され、Swiss−Prot entry No, Q00610でコードされる分子量192kDa、1675アミノ酸で構成される蛋白質であり、Hc; CHC; CHC17; CLH−17; CLTCL2; KIAA0034; CLTC等の略称を持つ、細胞膜および細胞内小器官の表面で細胞内輸送の受容体や様々な高分子物質の貪食に関与する蛋白を云う。
本発明において、ホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ(formiminotransferase cyclodeaminase)とは、FTCDと標記され、Swiss−Prot entry O95954でコードされる分子量59kDa,541アミノ酸で構成される蛋白質であり、FTCD, LCHC1等の略称を持つ、葉酸代謝(formiminotransferase)およびグルタミン酸代謝(cyclodeaminase)の2種類の機能を持つ肝臓特異的に発現する酵素を云う。
【0008】
本発明では、癌が疑われる患者あるいは癌患者から採取した組織検体中のCHCおよび/またはFTCDのの発現レベルを測定することにより、癌部と非癌部とを判別することができる。具体的には、CHCの発現レベルが、通常レベルより高い場合には、癌部と判定でき、また、FTCDの発現レベルが、通常レベルより低い場合には、同様に、癌部と判定できる。他方、CHCの発現レベルが、通常レベルより低い場合には、非癌部と判定でき、また、FTCDの発現レベルが、通常レベルより高い場合には、同様に、非癌部と判定できる。
ここで、感度とは、癌を癌と判定できた確率を言い、特異性とは、非癌を非癌と判定できた確率を言う。感度並びに特異性を上昇させることがより正確な判別にとって必要である。
従って、CHCとFTCDの両者の発現レベルを測定して、両者の発現レベルに基づき判別することにより、より感度良く特異的に、癌部と非癌部とを判別することができる。すなわち、CHCの発現レベルが、通常レベルより高く、またはFTCDの発現レベルが、通常レベルより低い場合には、より感度良く、癌部と判定でき、他方、CHCの発現レベルが、通常レベルより低く、かつFTCDの発現レベルが、通常レベルより高い場合には、より特異的に、非癌部と判定できる。
【0009】
本発明の判別方法により、肝癌、膀胱癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、甲状腺癌、皮膚癌などの癌が疑われる患者あるいは癌患者の組織について、癌部と非癌部とを正確にかつ特異的に判別することができ、特に、肝癌、肝細胞癌、原発性肝細胞癌の組織について、癌部と非癌部とを感度良くかつ特異的に判別することができ、なかでも、初期の原発性肝細胞癌の組織について、癌部と非癌部とを感度良くかつ特異的に判別することができる。
また、本発明では、癌が疑われる患者あるいは癌患者の結節の組織について、CHCおよびFTCDの少なくとも一つの発現レベルを測定することにより、良性結節と悪性結節とを、感度良くかつ特異的に判別することができる。更には、癌の分化度を判別することも可能である。
【0010】
癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中のCHCおよびFTCDの発現レベルを測定するには、組織中の蛋白質の発現レベルを測定するのに通常使用される測定法を採用できる。例えば、組織免疫染色法、イムノブロット法、2次元電気泳動法などが挙げられる。
ここで、発現レベルとは、CHCおよびFTCD遺伝子の転写産物のmRNAの量でもよく、翻訳産物の蛋白質量でもよく、さらにFTCDの場合はその酵素活性値にても表示することが可能である。例えば、蛋白質量であればそれを認識する抗体で通常の方法で測定される蛋白質量にて表示することも可能である。また、例えば、以下に詳細に説明する、標識化抗体を用いた組織免疫染色法では、発現レベルを染色強度として検出することも可能である。
本発明において組織免疫染色法とは、標識化抗体を用いる免疫反応により組織・細胞等を顕微鏡等で観察することができるように染色する方法をいう。組織免疫染色法によるCHCおよびFTCDの蛋白質の発現レベルを検出するときは、例えば、以下のようにする。癌等が疑われている患者の組織を一部とり、常法によりホルマリン固定をした後、パラフィンに抱埋をしてミクロトームにて薄切し、組織検体として使用する。組織切片はキシレンの処理で完全にパラフィンを除き、アルコール溶液をくぐらせた後、水洗する。続いてクエン酸緩衝液中で、80℃〜還流にて2〜10分間のマイクロウェーブ処理を2〜5回行い、抗原を賦活化する。自然冷却した後、流水で水洗し、その後、過酸化水素溶液で内因性ペルオキシダーゼを失活させる。精製水ですすいだ後、1%ウシアルブミン溶液を10分間のせる。標本上の1%ウシアルブミン溶液を落してそのまま1次抗体をのせる。1次抗体とは抗CHC抗体または抗FTCD抗体を希釈したものを用いる。この状態のまま4℃で一晩反応させた後、PBSで2〜10分ずつ、1〜5回洗浄する。ここに酵素標識抗体(CHC:mouse抗体, FTCD:rabbit抗体)を乗せ、1〜30℃で0.5〜10時間反応させる。PBSで5分×3回洗浄後、DAB等の発色試薬で1〜30分反応させ、PBSで洗浄後精製水中に2分浸透させる。対比染色としてヘマトキシリン核染色を行い、水洗する。アルコール溶液およびキシレンをくぐらせた後に封入剤を滴下し、カバーガラスを被せる。こうして染色された組織標本を顕微鏡で観察することにより、組織中のCHCまたはFTCDの各蛋白質発現レベルを染色強度として検出できる。
【0011】
イムノブロット法としては、例えば、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体からの蛋白抽出物を、ポリアクリルアミド濃度勾配ゲルで分離し、フッ化ビニリデン膜などの膜に転写し、転写後の膜に、抗CHC抗体または抗FTCD抗体を、1次抗体として反応させ、次いで、例えば、抗マウスIgG西洋わさび由来ペルオキシダーゼ・ヤギ抗体を2次抗体として反応させ、膜上の抗原を化学発光試薬で発光させて、CHCまたはFTCD蛋白質の発現レベルを発光強度として検出する方法が挙げられる。
【0012】
上記した組織免疫染色法あるいはイムノブロット法で使用される抗CHC抗体または抗FTCD抗体は、抗血清などのポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、それらの断片のいずれでもよい。
本発明では、これらの抗CHC抗体および抗FTCD抗体の少なくとも一つを含む、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部を判別するための判別試薬が提供される。この判別試薬においては、必要に応じて、組織免疫染色法あるいはイムノブロット法で通常使用される2次抗体などの他の試薬を含んでいてもよい。
【0013】
癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中のCHCおよび/またはFTCDの発現レベルを、2次元電気詠動法により測定するには、等電点電気泳動(1次元目)と、SDS−PAGE(2次元目)を組み合わせた通常の2次元電気泳動法により行うことができる。
【0014】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
組織免疫染色法による癌部と非癌部の判別
本発明の判別方法により、原発性肝細胞癌から採取した組織検体について、CHCおよびFTCDの発現レベルを測定した。
【0015】
(1)方法
原発性肝細胞癌(HCC)組織は、外科手術の前に、すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを得た後に、切除例から得た。切除試料は癌部・非癌部組織とも手術後1時間以内に得られた。全ての切除組織は直ちに液体窒素で冷凍し、分析に使用するまで−80℃で保存した。
組織免疫染色法によるCHCおよびFTCD蛋白質の発現レベルの検出は以下のようにして行った。すなわち、患者から得たHCC組織を検体とし、その検体を常法によりホルマリン固定をした後、パラフィンに抱埋をしてミクロトームにて薄切し、組織検体として使用した。組織切片はキシレンの処理で完全にパラフィンを除き、アルコール溶液をくぐらせた後、水洗した。続いてクエン酸緩衝役中で100℃5分間のマイクロウェーブ処理を3回行い、抗原を賦活化した。20分の自然冷却後、流水で水洗し、その後過酸化水素溶液で内因性ペルオキシダーゼを失活させた。精製水ですすいだ後、1%ウシアルブミン溶液を10分間乗せた。標本上の1%ウシアルブミン溶液を落してそのまま1次抗体を載せた。1次抗体として、抗CHCモノクローナル抗体(BDバイオサイエンス社製)または抗FTCDモノクローナル抗体(Abcam社製)を抗体希釈液(DAKO社製)で200倍に希釈したものを用いた。この状態のまま4℃で一晩反応させた後、PBSで5分×3回洗浄した。ここにENVISIONポリマー試薬(DAKO社製CHC:mouse抗体,FTCD:rabbit抗体)を乗せ、室温2時間または4℃5−6時間反応させた。PBSで5分×3回洗浄後、発色試薬(DAB)で10分反応させ、PBSで洗浄後精製水中に2分浸透させた。対比染色としてヘマトキシリン核染色を行い、水洗した。アルコール溶液およびキシレンをくぐらせた後に封入剤を滴下し、カバーガラスを被せた。こうして染色された組織標本を顕微鏡で観察することにより、組織検体中のCHCまたはFTCDの各蛋白質発現レベルを染色強度として検出した。
【0016】
(2)結果
1)実施対象は原発性肝細胞癌83例および非癌部68例である。各部の組織を一部取り出し、上記の方法により、染色性後、顕微鏡で染色性を観察し、染色強度を、陰性、弱陽性、陽性、強陽性の4段階に分類した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から、CHCについては、HCCの癌部は非癌部に比べて染色性が強く、一方FTCDについては逆に弱いことが判明した。
CHCの染色性が強陽性であれば原発性肝細胞癌であるとした場合、感度(癌を癌と判定できた確率)51.8%(43例/83例)、特異度(非癌を非癌と判定できた確率)は95.6%(65例/68例)であった。またFTCDの染色性が弱陽性以下であれば原発性肝細胞癌であるとした場合、感度は61.4%(51例/83例)、特異度は98.5%(67例/68例)であった。いずれの蛋白も感度50%以上でかつ特異度が95%以上と高い判定精度を示したことから、CHCおよびFTCDの蛋白発現レベルは原発性肝細胞癌の診断に有用であることが確認された。CHCおよびFTCDの染色により癌部と非癌部の境目がこの方法により判定できることがわかった。
【0019】
2)癌の分化度はその癌の成長速度や薬剤反応性と関連し、一般的に分化度が低いほど予後が悪い。従って原発性肝細胞癌の分化度の病理学的判定は重要である。上記の原発性肝細胞癌83例のうち分化度が判定できた65例について、その関係を調査した。その結果を表2に示した。
【0020】
【表2】

【0021】
表2の結果から、CHCでは分化度が低いほど強陽性の割合が多く、一方FTCDでは分化度が低いほど強陽性の割合が少なかった。従ってCHCおよびFTCDの蛋白発現レベルは分化度判定に有用であることが確認された。
【0022】
実施例2
組織免疫染色法による悪性結節と良性結節の判別
原発性肝細胞癌は数cm程度の結節から発生する場合が多いが、肝臓においては良性の結節も多く発生し、これらを正しく鑑別・診断することは非常に重要である。特に原発性肝細胞癌の初期段階である早期肝細胞癌を、細胞の形だけから診断することは病理医にとっても困難である。
経験を積んだ病理医によって細胞の浸潤や被膜の状態などの総合的な判断によって診断された、早期肝細胞癌17または18例、良性結節8例および良性腫瘍2例の結節辺縁部分を、実施例1の(1)の方法と同様にして染色した。CHCの染色性が非癌部(または非結節部)に比較して強く発現していれば早期肝細胞癌であるとすると、感度(癌を癌と判定できた確率)は41.2%(7例/17例)、特異度(非癌を非癌と判定できた確率)は77.8%(7例/9例)であった。またFTCDの染色性が非癌部(または非結節部)に比較して弱く発現していれば早期肝細胞癌であるとすると、感度は44.4%(8例/18例)、特異度は80.0%(8例/10例)であった。また両蛋白を組み合わせることで、感度が72.2%と上昇した。従って肝臓の結節辺縁部のCHCおよびFTCDの蛋白発現レベル、すなわち染色強度は、結節が早期肝細胞癌か、あるいは良性結節であるかの判定に有用であった。
【0023】
実施例3
CHC発現レベルによる各種癌での判別
CHCは、ほかの癌においても発現が増大するため、肝癌以外の組織診断の有用性を確認した。対象は膀胱癌20例および膀胱非癌部5例、乳癌34例および乳房非癌部5例、肺癌30例および肺非癌部5例、卵巣癌34例および卵巣非癌部5例、前立腺癌20例および前立腺非癌部5例、皮膚癌20例および皮膚非癌部5例、甲状腺癌20例および甲状腺非癌部5例である。
膀胱において強陽性は膀胱癌であると仮定した場合、感度(癌を癌と判定できた確率)75.0%,特異度(非癌を非癌と判定できた確率)100%であった。同様に乳房において陽性あるいは強陽性は乳癌であると仮定した場合、感度76.4%,特異度100%、肺において強陽性は肺癌であると仮定した場合、感度86.6%,特異度100%、卵巣において強陽性は卵巣癌であると仮定した場合、感度58.8%,特異度80.0%、前立腺において強陽性は前立腺癌であると仮定した場合、感度36.8%,特異度100%、皮膚において強陽性は皮膚癌であると仮定した場合、感度55.2%,特異度70.0%、甲状腺において陽性あるいは強陽性は膀胱癌であると仮定した場合、感度100%,特異度100%であった。
従ってCHCは少なくとも膀胱癌、乳癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、皮膚癌、甲状腺癌の組織診断に有用であった。またあらゆる悪性腫瘍の組織診断に有用である可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の判別方法により、癌が疑われる患者または初期原発性肝細胞癌などの癌患者由来の組織の癌部と非癌部を感度および特異性がよく判別することが出来る。また、癌が疑われる患者または初期原発性肝細胞癌などの癌患者の由来の結節について良性結節と悪性結節とを感度および特異性がよく判別することが出来る。更には、癌の分化度を判別することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌が疑われる患者または癌患者由来の組織検体中における、クラスリンヘビーチェインおよび/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの発現レベルを測定して、癌部と非癌部とを判別することを特徴とする、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部の判別方法。
【請求項2】
癌が原発性肝細胞癌である、請求項1に記載の判別方法。
【請求項3】
組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよびホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの発現レベルを測定する、請求項1または2に記載の判別方法。
【請求項4】
抗クラスリンヘビーチェイン抗体および/または抗ホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ抗体を用いて、組織免疫染色法により組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよび/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼを測定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の判別方法。
【請求項5】
癌が疑われる患者または癌患者の結節由来の組織検体中における、クラスリンヘビーチェインおよび/またはホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの発現レベルを測定して、悪性結節と良性結節を判別する、請求項1から4のいずれか1項に記載の判別方法。
【請求項6】
組織検体中のクラスリンヘビーチェインおよびホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼの少なくとも一つの発現レベルを測定して、癌の分化度を判別する、請求項1から5のいずれか1項に記載の判別方法。
【請求項7】
抗クラスリンヘビーチェイン抗体および抗ホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ抗体を含む、癌が疑われる患者または癌患者由来の組織の癌部と非癌部とを判別するための判別試薬。
【請求項8】
抗クラスリンヘビーチェイン抗体および抗ホルムイミノトランスフェラーゼシクロデアミナーゼ抗体を含む、請求項7に記載の判別試薬。
【請求項9】
組織免疫染色法により判別するための、請求項7または8に記載の判別試薬。

【公開番号】特開2010−96506(P2010−96506A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264794(P2008−264794)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 掲載年月日:2008年4月15日 掲載アドレス:http://www3.interscience.wiley.com/journal
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)