説明

癌の免疫療法

【課題】 従来よりも高い治療効果を奏する癌治療法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、TNF関連細胞死誘導因子とリンパ球活性化因子とを組み合わせてなる癌治療剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死誘導療法とリンパ球活性化療法との併用療法による癌の免疫療法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、癌に対する治療は、外科的療法、抗癌剤による化学療法、放射線療法の3つを柱として実施されているが、近年第4の選択肢として免疫療法が確立されつつある。
【0003】
癌に対する免疫学的アプローチとして、LAK(lymphokine−activated killer)やTIL(tumor−infiltrating lymphocytes)を移入する養子免疫療法などが古くから行われてきたが、元来自己由来の細胞である癌細胞を選択的に殺傷することは難しく明らかな臨床成績・有効性は得られなかった。
【0004】
しかしながら、分子生物学的な技術の進歩に伴い、腫瘍抗原が同定され、これを用いた、あるいはこれを提示させた樹状細胞を用いた癌抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)誘導による腫瘍特異的治療が行われるようになってきた。
【0005】
一方、腫瘍特異的な抗体である抗HER2/neu抗体や抗CD20抗体が作製され、それらの抗体による腫瘍に対する直接的な細胞死誘導と、それによる細胞障害性T細胞(CTL)の誘導で良好な臨床成績が得られ、癌細胞に対する直接的な細胞死誘導の重要性が示されるとともに、癌に対する免疫療法が再び注目されるようになった(zum Buschhenfelde CM,et al. Cancer Res 62(2),2244−2247,2002:非特許文献1;Selenko N,et al.,Leukemia 15(10),1619−1626,2001:非特許文献2)。
【0006】
また、抗原特異的免疫反応を惹起するために必要な抗原提示細胞としての樹状細胞に関する研究、補助刺激分子などT細胞−抗原提示細胞間相互作用に関与する機能分子の研究、更には腫瘍拒絶抗原ペプチドの同定研究が精力的になされ、腫瘍抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)を臨床治療に応用するための必要条件が、多方面からの基礎研究の成果によって明らかにされてきている。
【0007】
しかしながら、(i)腫瘍細胞の遺伝子的不安定さに由来する癌抗原の発現変異や、抗HER2/neu抗体や抗CD20抗体による細胞死誘導への耐性の獲得による、細胞障害性T細胞(CTL)および抗体療法からエスケープした腫瘍の増殖や転移、ならびに(ii)細胞障害性T細胞(CTL)の誘導に必要な膨大な施設、機器、技術、人材等の問題があり、免疫療法を広く臨床に応用するには、多くの障害がある。
【0008】
また、Takedaら(Takeda K. et al.,J Exp Med 199(4)437−448,2004:非特許文献3)には、TRAIL(Tumor necrosis factor−related apoptosis−inducing ligand)の細胞死(以下、アポトーシスともいう)を誘導するレセプターであるDR5に対するアゴニスティック抗体(MD5−1)を作製し、その投与により腫瘍拒絶を誘導しうることが報告されている。
【非特許文献1】zum Buschhenfelde CM,et al.,Cancer Res 62(2),2244−2247,2002
【非特許文献2】Selenko N,et al.,Leukemia 15(10),1619−1626,2001
【非特許文献3】Takeda K, et al.,J Exp Med 199(4) 437−448,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、癌の治療法については種々の研究がなされているが、未だ十分な治療効果を奏する治療法は、確立されていない。したがって、より高い治療効果を奏する治療法の確立が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、以下のような癌治療剤および癌治療用キットを提供する。
【0011】
(1)TNF関連細胞死誘導因子とリンパ球活性化因子とを組み合わせてなる、癌治療剤。
(2)上記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、(1)に記載の癌治療剤。
(3)上記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が抗DR5抗体である、(2)に記載の癌治療剤。
(4)上記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、(1)に記載の癌治療剤。
)に記載の癌治療剤。
(5)上記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、(4)に記載の癌治療剤。
(6)上記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、(5)に記載の癌治療剤。
(7)上記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、(5)に記載の癌治療剤。
(8)上記TNF関連細胞死誘導因子が抗DR5抗体であり、上記リンパ球活性化因子が抗CD40抗体および抗4−1BB抗体である、(1)に記載の癌治療剤。
(9)さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、(1)〜(8)のいずれかに記載の癌治療剤。
(10)上記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、(9)に記載の癌治療剤。
【0012】
(11)TNF関連細胞死誘導因子を含有する、リンパ球活性化剤と併用するための癌治療剤。
(12)上記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、(11)に記載の癌治療剤。
(13)上記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が、抗DR5抗体である、(12)に記載の癌治療剤。
(14)上記リンパ球活性化剤が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体を含有する、(11)に記載の癌治療剤。
(15)上記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、(14)に記載の癌治療剤。
(16)上記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、(15)に記載の癌治療剤。
(17)上記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、(15)に記載の癌治療剤。
(18)さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、(11)〜(17)のいずれかに記載の癌治療剤。
(19)上記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、(18)に記載の癌治療剤。
【0013】
(20)リンパ球活性化因子を含有する、細胞死誘導剤と併用するための癌治療剤。
(21)上記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、(20)に記載の癌治療剤。
(22)上記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、(21)に記載の癌治療剤。
(23)上記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、(22)に記載の癌治療剤。
(24)上記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、(22)に記載の癌治療剤。
(25)上記細胞死誘導剤が、TNF関連細胞死誘導因子を含有する、(20)に記載の癌治療剤。
(26)上記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、(25)に記載の癌治療剤。
(27)上記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が、抗DR5抗体である、(26)に記載の癌治療剤。
(28)さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、(20)〜(27)のいずれかに記載の癌治療剤。
(29)上記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、(28)に記載の癌治療剤。
【0014】
(30)化学療法剤と併用する、(1)〜(29)のいずれかに記載の癌治療剤。
(31)放射線療法と併用する、(1)〜(29)のいずれかに記載の癌治療剤。
【0015】
(32)細胞死誘導療法とリンパ球活性化療法との併用療法による癌治療用キットであって、
TNF関連細胞死誘導因子を含有する薬剤と、
リンパ球活性化因子を含有する薬剤とを含む、癌治療用キット。
(33)上記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体であり、上記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、(32)に記載の癌治療用キット。
(34)TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が抗DR5抗体であり、上記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が抗CD40抗体および抗4−1BB抗体である、(33)に記載の癌治療用キット。
(35)さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、(32)〜(34)のいずれかに記載の癌治療用キット。
(36)上記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、(35)に記載の癌治療用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より高い治療効果を奏する癌の治療方法が提供される。本発明によれば、腫瘍増殖が進行した段階であっても腫瘍拒絶を誘導し得る。本発明は、高率で癌を根絶し得る新たな癌治療法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、抗DR5抗体のようなTNF関連細胞死誘導因子と、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である抗CD40抗体および抗4−1BB抗体のようなリンパ球活性化因子とを被験体に併用投与すると、癌抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)の誘導をより効率化することができ、予想外に高い治療効果が得られることを見出して、本発明を完成した。すなわち、本発明の癌治療法は、TNF関連細胞死誘導因子による細胞死誘導療法と、リンパ球活性化因子によるリンパ球活性化療法とを併用することを特徴とする。
【0018】
(TNF関連細胞死誘導因子)
本明細書中、「TNF関連細胞死誘導因子」は、腫瘍壊死因子(TNF(tumor necrosis factor))ファミリーに属する細胞死誘導サイトカインのレセプターに特異的に結合して、腫瘍細胞の細胞死(またはアポトーシス)を誘導し得る分子のことをいうものとする。
【0019】
TNF−α、リンフォトキシン(lymphotoxin)−α(またはTNF−β)、Fasリガンド(以下、FasLと略す)、TRAIL(またはApo−2リガンド)、Apo−3リガンド(以下、Apo3Lと略す)などのTNFファミリーに属する細胞死誘導サイトカイン(デス因子)のレセプターとして、それぞれ、TNFレセプターI型(以下、TNFR−Iと略す)、Fas、DR(death receptor)3、DR4、DR5などが知られている。
【0020】
これらデス因子のレセプターは、TNFレセプターファミリーに属し、互いに構造的に類似しており、細胞外領域にシステイン残基に富むドメインの繰り返し構造と、細胞内領域にデスドメインとよばれるアポトーシスの誘導に必須の構造とを有する。また、DR6とよばれるデス因子も最近クローニングされ(Pan GH et al.,FEBS Letters 431(3):351−356(1998)、アポトーシスの誘導、免疫系におけるアレルギーの発症に関与するThバランスの制御、免疫疾患に関与するB細胞の活性化、および増殖の制御に重要であることがわかっている(Zhao H et al., Journal of Experimental Medicine 194(10): 1441−8 (2001);大矢和彦 他3名、MBL研究用試薬雑誌 第2巻 第1号 1−9頁 平成14年8月)。DR6の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AF068868、AF322069等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0021】
TNFR−1(Goodwin et al., Mol. Cell. Biol. 11 (6), 3020−3026 (1991))には、TNF−αやlymphotoxin−αが結合する。TNFR−1の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.M59378等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0022】
Fas(CD95またはApo−Iとも呼ばれる)は、TNFレセプタースーパーファミリーに属するレセプターであり、Fasリガンド(以下、FasLと略す)が結合する。Fasは、FasLを介するアポトーシス誘導に関与している(例えば、Behrmann et al.,European Journal of Immunology 24(12):3057−62(1994))。
【0023】
DR4およびDR5には、TRAIL(Apo2Lとしても知られる)が結合する。TRAILは、形質転換した細胞において迅速なカスパーゼ依存性のアポトーシスを誘導し得るが、正常な細胞においてはほとんど誘導し得ない。DR4とDR5は、TRAILのアポトーシス誘導シグナルを下流に伝える。これらのリガンドやレセプターは、さまざまな組織に広く分布しており、また特定の癌細胞や培養細胞株もTRAILに感受性を示す(例えば、Burns and El−Deiry, Journal of Biological Chemistry 276(41):37879−86(2001);Wiley et al., Immunity 3(6):673−682(1995); Pitti et al, J. Biol. Chem. 271(22) 12687−12690 (1996))。DR4およびDR5の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.BD056810等、およびGenBank Accession No.AB054004、AF012535、AF016268等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0024】
DR3には、Apo3Lが結合する。Apo3Lのデスレセプターとして発見されたDR3は、構造的にも機能的にもTNFR−Iと似ており、TNFR−Iと同様に核内転写因子κB(nuclear factorκB)(以下、NFκBと略す)の活性化とアポトーシス誘導の両方のシグナルを伝達できる。TNFR−Iがさまざまな組織や細胞で発現しているのに対し、DR3は脾臓、胸腺、末梢血細胞と活性化したT細胞にその発現が限定されている。逆にDR3のリガンドであるApo3Lは、多くの組織、細胞でその発現が認められている。DR3については、以下の文献が参照される。Chinnaiyan et al Science 274(5289): 990−992 (1996); Wang et al Molecular Cellular Biology 21(10): 3451−61 (2001)。DR3の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AB051850、AB051851、AF026070、AF026071、U72763等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0025】
本発明において使用する「TNF関連細胞死誘導因子」は、上記のようなTNFファミリーに属する細胞死誘導サイトカインのレセプターに特異的に結合して、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し得る分子であり、好適には、TNFレセプターI型(TNFR−I)、Fas、DR3、DR4、DR5、DR6等に対するアゴニスティック抗体(それぞれ、本明細書中で抗TNFR−I抗体、抗Fas抗体、抗DR3抗体、抗DR4抗体、抗DR5抗体、抗DR6抗体等と呼ぶ)が使用され得る。とりわけ、TRAILレセプターであるDR4およびDR5に対するアゴニスティック抗体(抗DR4抗体および抗DR5抗体)がより好適に使用され得、そして抗DR5抗体が最も好適に使用される。
【0026】
また、ヒトデスレセプターに対する抗体が好ましいが、これに限定されず、他の哺乳動物、例えば、マウス、ラット、霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、家禽などを含む種々の種に由来するデスレセプターに対する抗体も本発明において使用し得る。
【0027】
抗DR5抗体は、自然免疫系に属する細胞上のFcレセプターに結合し、腫瘍細胞にアポトーシスを誘導すると同時に、活性化Fcレセプターを介して抗体の結合した抗原提示細胞を活性化して腫瘍抗原のT細胞への提示を促進し、それにより誘導されたTRAIL以外の細胞障害性機構を有する腫瘍特異的なCTLにより、TRAIL耐性の変異株に対しても抗腫瘍効果を発揮する。
【0028】
本発明においては、さらにリンパ球活性化剤を投与して、免疫機構を活性化し、最終的にはTRAIL耐性の変異株を含めて腫瘍を根絶する。本発明の治療法は、自然免疫と獲得免疫とを同時に活性化する新たな抗腫瘍抗体療法として非常に有望である。
【0029】
上記抗体の各々は、モノクローナル抗体であることが好ましく、それらは当業者に周知の供給業者(例えば、BD. Pharmingen、eBioscience等)から市販されているか、またはハイブリドーマ法などの周知技術を用いて作製し得る。
【0030】
本明細書中、「細胞死誘導療法」とは、上記TNF関連細胞死誘導因子を被験体に投与することを通じて癌を治療する方法のことをいうものとする。また、「治療」または「療法」とは、治療的療法、予防的療法、および防御的療法をいうものとする。
【0031】
本明細書中、「細胞死誘導剤」とは、癌細胞のアポトーシスを誘導する薬剤をいい、典型的には、TNF関連細胞死誘導因子を含有する薬剤である。
【0032】
本明細書中、「被験体」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトである。哺乳動物には、ネズミ科の動物、類人猿、ヒト、飼育動物、スポーツ用動物およびペット類を含むが、これらに限定されない。また、本明細書中、「患者」は、ヒトであるものとする。
【0033】
(リンパ球活性化因子)
本明細書中、「リンパ球活性化因子」とは、補助刺激分子に特異的に結合して、癌抗原特異的な細胞障害性T細胞を活性化または増強し得る分子をいうものとする。
【0034】
本明細書中、「補助刺激分子」という場合、T細胞表面のT細胞受容体(T cell receptor:TCR)により結合したペプチド/MHC複合体と一緒に作用した場合、ペプチドを結合しているT細胞の活性化を達成する補助刺激作用を誘導するいかなる単一のシグナル分子(補助シグナル分子)または複数の補助シグナル分子の組み合わせをも包含するものとする。したがって、この用語は、抗原提示細胞(antigen presenting cell;APC)などの抗原提示マトリックス上の他の補助刺激分子(1以上)、そのフラグメント(単独もしくは他の分子(1以上)と複合体形成したもの、または融合タンパク質の一部として)など、T細胞表面にあるTCRがペプチドを特異的に結合したときにペプチド/MHC複合体と一緒に同族リガンドに結合してT細胞を活性化するものを包含する。
【0035】
一般に、T細胞の十分な活性化のためには、2つの独立したシグナルが必要であることが知られている。1つはTCRが抗原提示細胞上の主要組織適合抗原複合体(major histocompatibility complex;MHC)に結合したペプチドを認識し伝達されるシグナルである。もう一つは、補助刺激分子によって伝達される補助シグナルであり、この補助シグナルはT細胞の十分な活性化、細胞増殖の維持、細胞死の回避、エフェクターT細胞、メモリーT細胞の分化の誘導に重要である。
【0036】
現在までに、この補助シグナルを誘導する多くの分子が見つかっており、例えば、T細胞上のCD28分子は、APC上のB7分子群(B7−1,B7−2)との相互作用により、T細胞に活性化シグナルを伝達し、多くのサイトカインの産生を誘導するなど、T細胞の増殖に決定的な役割を果している。CD28ファミリーに属する他の補助シグナル分子としては、例えば、ICOSが知られている。また、CD28と同様にB7分子群と結合し、CD28とは対照的に、T細胞の活性を抑制するレセプターとしてCTLA−4が知られており、また同様に抑制性シグナルを伝えるCD28ファミリーに属するレセプターとしてPD−1も知られている。
【0037】
また、CD28ファミリー以外にもTNFレセプター(以下、TNFRと略す)ファミリーに属するOX40、4−1BB、CD27、CD40、CD30、HVEMなどが補助シグナルを伝達する分子として知られている(例えば、Croft M,Nat Rev Immunol. 3:609−620,2003、Smith et al, Cell 76 (6):959−962 (1994)を参照)。これらの分子は、細胞内領域にデスドメインを有さないTNFRファミリーのメンバーであり、TRAF(TNF receptor−associated factor)にTRAF結合モチーフを介して結合する。TRAFは、TNFRにリガンドが結合した場合、そのシグナルを細胞内に伝えるためのアダプター分子であり、c−Jun NH2 terminal protein kinase(以下、JNKと略す)やNFκBの活性化に関与している。
【0038】
CD28は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。CD28は、T細胞上に恒常的に発現している分子であり、TCRによって抗原を認識したナイーブT細胞に、CD28から刺激を受けると、CD28はT細胞に強力な補助シグナルを伝達する。その結果、IL−2の産生とIL−2レセプターの発現が誘導され、細胞周期の回転が始まる。また、CD28シグナルはBcl−XLの発現を誘導することでT細胞のアポトーシスを抑制する(Boussiotis et al.,Immunol Rev 153,5,1996;Lenschow et al.,Annu Rev immunol 14,233,1996)。CD28の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AF411057、BC064058等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0039】
CTLA−4は、CD28と類似の分子でより強い結合力を有し、CD28と拮抗してB7ファミリーからの活性化シグナルを抑制するレセプターとして報告されており、このCTLA−4へのB7ファミリー分子の結合の抑制が、CD28を介したT細胞の活性化をより効率良くすることが知られている(Chen, Nat. Rev. Immunol. 4(5)336−347(2004), Egen et al., Nat. Immunol 3(7) 611−618(2002))。CTLA−4の配列に関連する情報は、たとえば、GenBank Accession No.NM005214、L15006、X05719等の公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0040】
PD−1は、CD28ファミリーに属し、PDL−1およびB7−DCからの抑制性シグナルを媒介するレセプターとして知られており、この配列に関連する情報は、たとえば、GenBank Accession No.L27440、E06067等の公のデータベースに登録された配列情報として得られる(Okazaki et al., Curr. Opin. Immunol. 14 (6)779−782(2002)。
【0041】
ICOSは、CD28とは異なり、ナイーブT細胞ではほとんど発現が認められず、活性化に伴って発現が上昇する。ICOSは、B7−1、B7−2とは結合せず、B7hと結合すると考えられている。ICOSは、CD28と同様にT細胞に補助シグナルを伝達することが示されている。抗CD3抗体の存在下で抗ICOS抗体またはB7h−IgによってICOSを架橋すると、抗CD3抗体単独に比べ増殖反応の増強が誘導される。ICOSはIL−2の産生をほとんど誘導せず、IL−4、IL−5、IL−10、IFN−IFN−γ、TNF−αの産生は増強することから、ICOSはT細胞の機能分化やエフェクター機能の発現に主に働いていると考えられている(Sharpe et al., Rev Immunol 2,116,2002)。ICOSの配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AJ277832、AF411058、AF411059、AL645744等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0042】
OX40(CD134とも呼ばれる)は、ナイーブT細胞では発現しておらず、活性化したT細胞で発現が認められる。TCR刺激でその発現が誘導され、CD28刺激によってさらに増強される。OX40Lの発現も休止期の血球系細胞には認められず、活性化B細胞や活性化樹状細胞、血管内皮細胞に発現がみられる(Watts and DeBenedette,Curr Opin Immunol 11,286,1999)。OX40は、細胞内領域にTRAFファミリー分子を結合することで下流へとシグナルを伝達する。OX40は、TRAF2、TRAF3、TRAF5と結合し、JNKとNFκBの活性化を誘導する(Arch and Thompson,Mol Cell Biol 18,558,1998;Kawamata et al.,J Biol Chem 2 73,5808,1998)。ヒトOX40のcDNAの構造は、Latza U et al.,European Journal of Immunology 24:677−683,1994に記載されている。OX40の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AJ277151、X85214等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0043】
4−1BB(CD137とも呼ばれる)は、活性化したT細胞やNK細胞に発現が見られ、T細胞(特にCD8+T細胞)の活性化ならびにそのサバイバルを延長させるとされ、またNK細胞やDCなどの活性化にも関与していると報告されている(Linda D, et al.,J Immunol 168:3755−3762,2002; Melero I, et al.,Nat Med. 3:682−685,1997)。また、リガンドである4−1BBLは、活性化B細胞、成熟樹状細胞、活性化マクロファージなどで発現する(Watts and DeBenedette、前出)。4−1BBは、CD28と同様にIL−2の産生を増強する数少ない補助シグナル分子である。4−1BBは、細胞内領域にTRAF1、TRAF2、TRAF3が結合し、JNKとNFκBの活性化を誘導する(Arch and Thompson,前出;Saulli et al.,J Exp Med 187,1849,1998)。4−1BBの配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.BD250417、U03397、U02567、J04492等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0044】
CD27は、ナイーブT細胞に恒常的に発現し、活性化によってその発現量は大きく上昇する。また、活性化B細胞にも発現が認められる。リガンドであるCD70は活性化したT細胞とB細胞に一時的に発現する。また、CD27を介する補助シグナルは細胞障害性T細胞の活性化を誘導する(Lens et al.,Semin Immunol 10,491,1998)。細胞内領域にはTRAF2とTRAF3、TRAF5が結合し、その結果、JNKとNFκBの活性化が誘導される(Akiba et al.,J Biol Chem 273,133 53,1998;Yamamoto et al.,J Immunol 161,4753,1998)。CD27の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.M63928、L24493、L24494等で公のデータベースに登録された情報として得られる。
【0045】
CD40は、B細胞、樹状細胞、マクロファージなどの抗原提示細胞に主に発現し、CD40を介したシグナルでIL−12の産生が誘導され、引き続くIFN−γ産生増強やIL−10の産生抑制により、Th1優位の細胞免疫応答を惹起し、その結果、癌抗原特異的な細胞障害性T細胞(CTL)の誘導を補助し、腫瘍拒絶に導く作用があるとされている(French RR, et al.,Nat Med. 5:548−553,1999)。CD40の下流へのシグナル伝達因子としては、TRAF5およびTRAF6が知られている(例えば、井上純一郎、「TRAF6によるサイトカインシグナルの伝達メカニズム」Molecular Medicine Vol.39 免疫2003 (2002)などを参照)。CD40の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AH001877,M83312等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0046】
CD30(CD153とも呼ばれる)は、ホジキンリンパ腫のマーカー蛋白質として知られ、主に、活性化T細胞、B細胞、およびReed Sternberg細胞において発現し、CD153(CD30リガンド)と結合する。In vitroの研究では、CD30はさまざまな活性化、分化ないしはアポトーシスを仲介していることがわかっている。CD30は、TRAF2および、TRAF5と結合し、NF−κBおよびJNK/p38 MAPKを活性化することが示されている(Aizawa et al.,J Biol Chem. 272(4):2042−5;1997)。CD30の配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AJ272029、AJ289159、AJ308521、AJ308522、AJ409011、AJ409012等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0047】
HVEMは、2つの細胞リガンドである分泌されたLT−α(TNF−β)およびLIGHTに結合することが示されている(Mauri et al.,Immunity 8(1):21−30;1998)。また、HVEMの細胞内領域は、TRAF−1、TRAF−2、TRAF−3、およびTRAF−5と結合しており、HVEMが免疫反応を活性化するシグナル伝達経路とリンクしていることが示されている(Marsters et al.,Journal of Biological Chemistry 272(22):14029−140232;1997)。この相互作用は、NFκBおよびAP−1を活性化する。HVEMの配列に関連する情報は、例えば、GenBank Accession No.AY466111、BD091696等で公のデータベースに登録された配列情報として得られる。
【0048】
本発明において使用する「リンパ球活性化因子」は、代表的には、上記のような補助刺激分子に特異的に結合して癌抗原特異的な細胞障害性T細胞を活性化する単一の分子または複数の分子の組み合わせである。好適には、本発明において使用する「リンパ球活性化因子」は、CD28ファミリーまたはTNFRファミリーに属する補助シグナル分子に対するアゴニスティック抗体(例えば、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、抗OX40抗体、抗4−1BB抗体、抗CD27抗体、抗CD40抗体、抗CD30抗体、抗HVEM抗体など)または補助シグナルを抑制するCD28ファミリーに属する分子に対するアンタゴニスティック抗体(例えば抗CTLA−4抗体、抗PD−1抗体など)であり、とりわけ、補助シグナル分子に対するアゴニスティック抗体としては抗4−1BB抗体または抗体CD40抗体が、そして補助シグナルを抑制するCD28ファミリーに属する分子に対するアンタゴニスティック抗体としては抗CTLA−4抗体が好ましく、抗4−1BB抗体と抗CD40抗体との組み合わせまたは抗4−1BB抗体と抗CD40抗体と抗CTLA−4抗体との組み合わせが最も好ましい。
【0049】
また、ヒトの補助刺激分子に対する抗体が好ましいが、これに限定されず、他の哺乳動物、例えば、マウス、ラット、霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、家禽などを含む種々の種に由来する補助刺激因子に対する抗体も本発明において使用し得る。
【0050】
上記の各抗体はモノクローナル抗体であることが好ましく、それらは当業者に周知の供給業者(例えば、BD Phramingen、eBioscience等)から市販されているか、または当業者に周知の方法(例えば、ハイブリドーマ法)によって作製され得る。
【0051】
本明細書中、「リンパ球活性化療法」とは、上記リンパ球活性化因子を被験体に投与することによって癌を治療する方法をいうものとする。また、「リンパ球活性化剤」とは、リンパ球活性化因子を含有する薬剤をいう。
【0052】
本明細書中、「癌」、「癌性」または「悪性」という用語は、典型的には調節されない細胞成長を特徴とする、哺乳動物における生理学的状態をいうために用いる。癌の例には、腺癌を含む癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、メラノーマ、肉腫、および白血病が含まれるが、これらに限定されない。このような癌のより特定の例には、扁平上皮細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃腸癌、ホドキンおよび非ホドキンリンパ腫、リンパ腫、膵臓癌、神経膠芽腫、子宮頚癌、卵巣癌、肝癌および肝細胞種などの肝臓癌、膀胱癌、乳癌、大腸癌、膠芽細胞腫、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎細胞癌およびウィルム腫瘍などの腎臓癌、基底細胞癌種、メラノーマ、前立腺癌、産卵口癌、甲状腺癌、精巣癌、食道癌および様々な種類の頭部および頸部の癌が含まれる。
【0053】
本明細書中、「化学治療剤」という用語は、当該分野で通常使用される意味で使用され、癌の治療に有用な化合物であって、細胞機能を阻害もしくは抑制、および/または細胞の崩壊を引き起こすものを指す。化学治療剤の例には、アドリアマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、5−フルオロウラシル、シトシンアラビノシド(「Ara−C」)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シトキシン、タキソイド類、例えばパクリタキセル(タキソール, Bristol−Myers Squibb Oncology, Princeton, NJ社製)およびドキセタキセル(タキソテール, Rhone−Poulenc Rorer, Antony, Rrance社製)、トキソテール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、CPT−11、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イホスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、ビノレルビン、カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、エスペラミシン(米国特許第4675187号参照)、メルファラン、および他の関連したナイトロジェンマスタードが含まれる。またこの定義には、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害するように働くホルモン剤、例えばタモキシフェンおよびオナプリストーン(onapristone)も含まれる。
【0054】
本明細書中、「放射線療法」という用語は、当該分野で通常使用される意味で使用され、放射性アイソトープ(例えば、I131、I125、Y90、およびRe186)を使用して、細胞機能を阻害もしくは抑制するか、および/または細胞の崩壊を引き起こすことによって癌を治療する療法をいうものとする。
【0055】
(抗体)
本発明に使用され得る抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、多重特異的抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーによって産生されるフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合フラグメントを含むが、これらに限定されない。好ましくは、モノクローナル抗体が本発明において使用される。
【0056】
本明細書中、ある分子に対する「アゴニスティック抗体」という場合、その分子に特異的に結合し、その所定の生物学的活性を誘導する能力を活性化または増大させる抗体のことを意味する。例えば、DR5に対するアゴニスティック抗体は、DR5に結合した場合に、カスパーゼ依存性のアポトーシスを誘導する能力を活性化または増大させるDR5に対する抗体である。ここで、カスパーゼ依存性のアポトーシスを誘導する能力は、TRAIL−DR5というレセプター−リガンド対が形成された際に発揮されるDR5の本来の生物学的活性に対応する。これに対してその分子の所定の生物学的活性を誘導する能力を減少させる抗体を「アンタゴニスティック抗体」とよぶ。本発明に使用する特定の分子に対するアゴニスティック抗体またはアンタゴニスティック抗体は、モノクローナル抗体であることが好ましく、それらは当業者に周知の供給業者(例えば、BD Phramingen、eBioscience等)から市販により入手し得るか、または当該分野で周知の技術により作製し、同定することができる。
【0057】
本明細書中、「抗体」とは、免疫グロブリン分子および免疫グロリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち、免疫特異的に抗原に結合する抗原結合部位を含む分子をいうものとする。本発明の免疫グロブリン分子は、免疫グロブリン分子の任意の型(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY)、任意のクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)または免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。
【0058】
最も好ましくは、抗体は、ヒト抗原結合抗体フラグメントであり、これには、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)ならびにVLまたはVHドメインのいずれかを含むフラグメントが挙げられるがこれらに限定されない。単鎖抗体を含む抗原結合抗体フラグメントは、可変領域を単独で、または以下に列挙するものの全体もしくは部分と組み合わせて含み得る:ヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメイン。また、可変領域とヒンジ領域、CH1ドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインとの任意の組み合わせもまた含む抗原結合フラグメントもまた本発明において使用され得る。本発明に使用する抗体は、鳥類および哺乳動物を含む任意の動物起源由来であり得る。好ましくは、この抗体は、ヒト、ネズミ、ロバ、シップウサギ(ship rabbit)、ヤギ、モルモット、ラクダ、ウマ、またはニワトリ由来である。
【0059】
本発明に使用する抗体は、一重特異的、二重特異的、三重特異的またはより多くの多重特異性の抗体であり得る。多重特異的な抗体は、目的のポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、または目的のポリペプチドおよび異種のエピトープ(例えば、異種ポリペプチドもしくは固体支持体物質)の両方に特異的であり得る。例えば、PCT公開WO 93/17715;同WO 92/08802;同WO 91/00360;同WO 92/05793;Tuttら、J.Immunol.147:60−69(1991);米国特許第4,474,893号、同第4,714,681号、同第4,925,648号、同第5,573,920号、同第5,601,819号;Kostelnyら、J.Immunol.148:1547−1553(1992)を参照のこと。
【0060】
本発明に使用する抗体は、当業者に周知の供給業者から市販されているものを使用し得るが、当該分野で公知の任意の適切な方法によっても産生され得る。例えば、目的の抗原に対するポリクローナル抗体は、当該分野で周知の種々の手順によって産生され得る。例えば、目的のポリペプチドは、種々の宿主動物(ウサギ、マウス、ラットなどを含むがこれらに限定されない)に投与されて、抗原に対して特異的なポリクローナル抗体を含む血清の産生を誘導し得る。種々のアジュバントが、宿主種に依存して、免疫学的応答を増加させるために使用され得、そしてこれにはフロイント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、リゾレシチンのような界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(カルメット−ゲラン杆菌)およびcorynebacterium parvumのような潜在的に有用なヒトアジュバントを含むが、これらに限定されない。このようなアジュバントはまた、当該分野で周知である。
【0061】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージディスプレイ技術、またはそれらの組み合わせの使用を含む当該分野で公知の広範な種々の技術を用いて調製され得る。例えば、モノクローナル抗体は、当該分野で公知のハイブリドーマ技術を使用して産生され得、その方法の例としては、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,第2版、1988);Hammerlingら、Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas 563−681(Elsevier,N.Y.1981)に記載の方法が参照される。本明細書中、用語「モノクローナル抗体」とは、ハイブリドーマ技術を通して生成された抗体に限定されない。用語「モノクローナル抗体」とは、任意の真核生物、原核生物、またはファージクローンを含む単一のクローンに由来する抗体をいい、そしてそれが生成される方法に由来する抗体ではない。従って、用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術を通じて産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマおよび組換えならびにファージディスプレイ技術の使用を含む、当該分野で公知の広範な種々の技術を使用して調製され得る。
【0062】
ハイブリドーマ技術を用いて特異的抗体を産生およびスクリーニングする方法は、当該分野で慣用的かつ周知である。手短に言えば、マウスが、目的のポリペプチドまたはそのようなペプチドを発現する細胞を用いて免疫され得る。一旦免疫応答が検出される(例えば、抗原に特異的な抗体がマウスの血清中に検出される)と、マウスの脾臓を収集しそして脾細胞を単離する。次に、その脾細胞を周知の技術によって任意の適切な骨髄腫細胞(例えば、ATCCから入手可能な細胞株SP20由来の細胞)に融合させる。ハイブリドーマを限界希釈によって選択およびクローン化する。次に、ハイブリドーマクローンを、目的のポリペプチドを結合し得る抗体を分泌する細胞について、当該分野で公知の方法によってアッセイする。一般的に高いレベルの抗体を含む腹水が、陽性ハイブリドーマクローンを用いてマウスを免疫させることによって、産生され得る。
【0063】
従って、本発明に使用される抗体は、モノクローナル抗体ならびに本発明に使用する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を培養する工程を包含する方法によって産生され得る。ここで、好ましくは、このハイブリドーマは、骨髄腫細胞と本発明の抗原で免疫したマウスから単離された脾細胞とを融合させ、次いで目的のポリペプチドを結合し得る抗体を分泌するハイブリドーマクローンについて、融合物から生じるハイブリドーマをスクリーニングすることによって生成される。
【0064】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメントは、公知の技術によって生成され得る。例えば、本発明のFabおよびF(ab’)2フラグメントは、(Fabフラグメントを生成するために)パパインまたは(F(ab’)2フラグメントを産生するために)ペプシンのような酵素を使用して、免疫グロブリン分子のタンパク質分解切断によって産生され得る。F(ab’)2フラグメントは、可変領域、軽鎖定常領域および重鎖のCH1ドメインを含む。
【0065】
完全なヒト抗体は、ヒト患者の治療的処置に対して特に所望される。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いた上記のファージディスプレイ法を含む当該分野で公知の種々の方法により作製され得る(米国特許第4,444,887号および同第4,716,111号;ならびにPCT公開WO 98/46645、WO 98/50433、WO 98/24893、WO 98/16654、WO 96/34096、WO 96/33735、およびWO 91/10741もまた参照)。
【0066】
(製剤)
本発明において使用されるTNF関連細胞死誘導因子およびリンパ球活性化因子は、好ましくは担体中で用いられる。適切な担体とそれらの製剤は、Osloらにより編集された、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th ed., 1980, Mack Publishing Co.に記載されている。典型的には、適量の製薬的に許容可能な塩が、製剤を等浸透圧にするために製剤において使用される。担体の例には、生理食塩水、リンガー液およびデキストロース液が含まれる。溶液のpHは、好ましくは約5から8、さらに好ましくは約7.4から7.8である。さらに担体には、抗体を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックス等の徐放性製剤が含まれ、このマトリックスは、例えばフィルム状、リポソーム状またはマイクロ粒子状等の成形物の形態をしている。例えば投与される抗体の投与経路および濃度によっては、ある種の担体がより好ましくなることは、当業者には明らかである。担体は凍結乾燥または水溶液の形態であってもよい。
【0067】
許容できる担体、賦形剤または安定剤は、用いる投与量および濃度ではレシピエントに対して無毒性であり、リン酸、クエン酸および他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン類、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3−ペンタノール;およびm−クレゾール);低分子量(残基数10個未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、ヒスチジンまたはリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノースまたはデキストリン等の単糖類、二糖類または他の炭水化物、EDTA等のキレート剤、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール等の糖類、ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn−タンパク質錯体);および/またはTWEEN(登録商標)、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。
【0068】
また、製剤は、治療される特定の効能に必要な一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。また、本発明において使用されるTNF関連細胞死誘導因子またはリンパ球活性化因子は、例えばコアセルベーション法または界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルおよびポリ−(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington’s Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol,A.編;1980に開示されている。
【0069】
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなくてはならない。これは、滅菌フィルター膜を通す濾過により容易に達成される。徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含む固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルムまたはマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタマートのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニル、分解性の乳酸−グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸−グリコール酸コポリマーおよび酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、およびポリ−3−ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン−酢酸ビニルや乳酸−グリコール酸等のポリマーは100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。
【0070】
(治療の形態)
本発明の癌治療剤は、周知の方法に従い、ボーラスとしての静脈内投与、または一定期間にわたる連続的な注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、骨液内、くも膜腔内、経口、局所的、病巣内または吸入(エアゾル化された鼻腔内、肺内への)の経路により、および持続性または徐放性の方法により、哺乳類動物、好ましくはヒトへ投与される。場合によっては、投与は、様々な市販の装置を使用するミニポンプ流入によって実施することもできる。
【0071】
本発明の癌治療剤の投与の有効な用量とスケジュールは、経験的に決定することができ、そのような決定を行うことは当業者の技量の範囲にある。単独に使用される薬剤の効果的な用量または量は、各有効成分それぞれ一日当り約1μg/kgから約100mg/kg体重あるいはそれ以上までの範囲であると現在は考えられる。用量の種間スケーリングは、例えば、Mordentiら, Pharmaceut. Res. 8:1351;1991に開示されているような当該分野で知られている方法で実施することができる。
【0072】
本発明の細胞死誘導療法とリンパ球活性化療法との併用療法においては、本発明において使用するTNF関連細胞死誘導因子とリンパ球活性化因子とは、同時または時間間隔をあけて被験体に投与され得る。例えば、TNF関連細胞死誘導因子をはじめに被験体に投与し、続いてリンパ球活性化因子を投与する。また、別の好ましい態様では、TNF関連細胞死誘導因子とリンパ球活性化因子とを最初に併用投与し、その後の投与スケジュールにおいて、経時的にTNF関連細胞死誘導因子のみ投与量を減少させるか、またはTNF関連細胞死誘導因子のみ投与を中止してもよい。
【0073】
本発明の癌治療剤のインビボ投与が用いられる場合、正常な投与量は、投与経路に応じて、哺乳動物の体重当たり各有効成分それぞれ1日に約10ng/kgから100mg/kgまで、好ましくは約1μg/kg/日から10mg/kg/日である。特定の用量および輸送方法の指針は文献に与えられている;例えば、米国特許第4,657,760号、第5,206,344号、または第5,225,212号参照。異なる製剤が異なる治療用化合物および異なる疾患に有効であること、例えば一つの器官または組織を標的とする投与には、他の器官または組織とは異なる方式で輸送することが必要であることが予想される。当業者であれば、投与されなければならない薬剤の用量が、例えば、薬剤を受入れる哺乳動物、投与経路、および哺乳動物に投与されている他の薬剤または治療物に依存して変わりうることは理解できるであろう。
【0074】
細胞の型および/または病気の重症度に応じて、例えば一または複数の別個の投与または連続注入の何れであれ、各有効成分それぞれ約1μg/kgないし15mg/kg(例えば0.1−20mg/kg)の抗体が患者への最初の候補用量である。上述した要因に応じて、典型的な一日の投与量は約1μg/kgから100mg/kgあるいはそれ以上の範囲である。数日間またはそれ以上の繰り返し投与の場合、状態によっては、病気の徴候の望ましい抑制が生じるまで処置を維持する。
【0075】
場合によっては、本発明の癌治療剤の投与に先立ち、哺乳動物または患者を本発明において使用するTNF関連細胞死誘導因子および/またはリンパ球活性化因子のレベルまたは活性を決定するためにテストすることができる。そのようなテストは、血清サンプルまたは末梢血の白血球のエライザまたはFACSによって実施してもよい。
【0076】
さらなる治療法を本方法において使用することも考えられる。一または複数の他の治療法には、これらに限定されるものではないが、当該技術分野において公知であり、放射線療法、サイトカイン、成長阻害剤、化学治療剤、細胞障害剤、チロシンキナーゼ阻害因子、ラスファルネシルトランスフェラーゼ阻害因子、血管形成阻害因子、およびサイクリン依存性キナーゼ阻害因子の投与が含まれる。さらに、治療法は、Rituxan(登録商標)またはHerceptin(登録商標)などの腫瘍抗原を標的とする治療的抗体並びに抗VEGFなどの抗血管形成抗体に基づく。
【0077】
化学治療剤に対する調製法および用量スケジュールは、製造者の指示に従って使用されるか、熟練した実務家により経験的に決定される。そのような化学療法に対する調製法および用量スケジュールはまたChemotherapy Service, M.C.Perry編, Williams &; Wilkins, Baltimore, MD;1992にも記載されている。また、化学療法剤は、例えばアンタゴニストの投与に先行し、またはその後に行い、またはそれらと共に与えられてもよい。また、アンタゴニストは、タモキシフェンなどの抗エストロジェン化合物、またはオナプリストン(onapristone)(欧州特許616812号を参照)などの抗プロゲステロンと、このような分子に対して既知の用量で組み合わせてもよい。
【0078】
(キット)
本発明の他の実施態様では、前述した疾患の治療に有用な物質を含有するキットが提供される。キットは、代表的には、容器およびラベルを含んでなる。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、試験管等が含まれるが、これらに限定されない。容器はガラスまたはプラスチックのような様々な材料で形成することができる。容器は病状の治療に有効な組成物を収容しており、滅菌した出入口を有している(例えば、容器は皮下注射針により貫通可能なストッパーを具備する静脈溶液用のバックまたはバイアルであってよい)。組成物中の活性剤は、TNF関連細胞死誘導因子およびリンパ球活性化因子である。容器上のまたは容器に伴うラベルには、組成物が、選択された病状の治療に使用されることが示されている。製造品は、製薬的に許容可能なバッファー、例えばリン酸緩衝生理食塩水、リンガル液およびブドウ糖液を収容する第2の容器を更に具備する。更に、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用指示書を含むパッケージ挿入物を含む、市販および使用者の観点から望ましい他の材料を更に含んでいてもよい。
【0079】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0080】
(実施例1)
材料および方法
1.実験動物
6−8週齢BALB/cマウス、CB17−scid(SCID)マウスを日本チャールズ・リバー(株)より購入した。全てのマウスはSPF(specific pathogen−free)施設で飼育し、順天堂大学医学部の動物実験に関する指針に従い実験を行った。
【0081】
2.実験腫瘍
BALB/cマウス由来TRAIL感受性乳癌4T1(Pulaski BA, et al: Reduction of established spontaneous mammary carcinoma metastases following immunotherapy with major histocompatibility complex classII and B7.1
cell−based tumor vaccines. Cancer Res 58(7): 1486−1493(1998))、TRAIL感受性腎癌R331−mockおよびカスパーゼ依存性アポトーシス耐性となるFLIP遺伝子を導入したR331−FLIP(TRAIL耐性)(Seki N., et al. Cancer Res. 63: 207−213 (2003))を用いた。腫瘍細胞は37℃、5%CO2存在下で10%FBS含有RPMI1640倍地にて培養・継代し、実験に用いた。
【0082】
3.抗体
アゴニスティック抗マウスDR5モノクローナル抗体(MD5−1)(Takeda K, et al., J Exp Med 199(4) 437−448(2004))、アゴニスティック抗マウスCD40モノクローナル抗体(FGK45)(Rolink A., et al. Immunity 5: 319−330 (1996))、アゴニスティック抗マウス4−1BBモノクローナル抗体(3H3)(Shuford W.W., et al. J. Exp. Med. 186: 47−55 (1997))、アンタゴニスティク抗マウスCTLA−4モノクローナル抗体(UC10−4F10)(Walunas T.L., et al, Immunity 1:405−413 (1994))を用いた。またコントロール抗体として抗ハムスターコントロールIg(UC8−1B9)ならびに抗ラットIgG2a(R35−95; BD Pharmingen)を用いた。MD5−1、FGK45、3H3、UC8−1B9は本発明者らの研究室においてハイブリドーマ法で作製し(例えば、Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,第2版、1988);Hammerlingら、Monoclonal Antibodies and T−Cell Hybridomas 563−681(Elsevier,N.Y.1981)を参照)、実験に用いた。
【0083】
4.マウス皮下腫瘍モデル
BALB/cマウスの背部皮下に4T1腫瘍細胞を接種した。腫瘍塊の大きさが3×3mm2−8×8mm2に到達した時点から各抗体をそれぞれ100μgずつ投与開始し、3日おきに計4回腹腔内投与した。腫瘍塊の大きさは1−2日おきにキャリパーで計測、長径×短径(mm2)で算出し、各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。
【0084】
5.腫瘍特異的拒絶反応の評価
ナイーブBALB/cマウスおよび治療により腫瘍拒絶したマウスに4T1腫瘍を再度背部皮下に接種し、その増殖を比較検討した。また、ナイーブBALB/cマウスおよび治療により4T1腫瘍を拒絶したマウスから採取した脾臓T細胞5×107個を、4T1腫瘍細胞を2×105個皮下接種した後2日目のナイーブSCIDマウスに移入し腫瘍増殖を比較検討した。
【0085】
更にR331−mockあるいはR331−FLIPをBALB/cマウスに接種し、その後腫瘍塊の大きさが3×3mm2に到達した時点で上記した抗体を投与し、腫瘍の増殖を比較検討した。またR331−mockおよびR331−FLIPをそれぞれ右側、左側背部皮下に同時に接種し、3×3mm2に到達した時点で上記した抗体を投与し、腫瘍の増殖を比較検討した。
【0086】
(実施例2)
Mix Therapyの治療効果
腫瘍塊の大きさが3×3mm2に到達したところで、単独投与群、2抗体併用投与群、3抗体併用投与(Mix therapy)群、コントロール抗体投与群にわけ、個々のマウスにおける腫瘍塊の大きさの推移を比較した。図1は、その結果を示す。なお、図中の下向き矢印は、抗体が投与された時点を示す(以下で説明する他の図においても同様)。抗4−1BB抗体を含む群で、ある程度の腫瘍拒絶が誘導されたが(単独または抗CD40抗体との併用で10例中2例、抗DR5抗体との併用で10例中4例)、3抗体併用投与(Mix therapy)により相乗的な効果がみられ、腫瘍拒絶率80%(10例中8例)と有意に高い腫瘍拒絶の誘導がみられた(図1および表1)。
【表1】

【0087】
(実施例3)
Mix Therapyにおける腫瘍塊の大きさの違いによる治療効果
次に、より進行した状態での治療効果を検討した。腫瘍塊の大きさがそれぞれ3×3mm2、5×5mm2、8×8mm2に達したところで治療を開始した。3×3mm2と同様に5×5mm2においても拒絶率80%と高い治療効果が得られた。また8×8mm2でも腫瘍拒絶を誘導することはできなかったものの、コントロール抗体投与群と比較して有意な腫瘍縮小効果ならびに増殖抑制効果がみられた(図2および表1)。この結果は、臨床でヒトの癌を治療する際には、ある程度進行した状態で発見されることが多いことから、Mix therapyは臨床応用において非常に有用であることを示す。
【0088】
(実施例4)
抗DR5抗体単回投与での治療効果
また抗DR5抗体のみ投与回数を初回の1回のみにし、他の薬剤(抗CD40抗体および抗4−1BB抗体)を4回投与して、その抗腫瘍効果を検討した((図3中「Mix(1−4−4)」として示す))。図3に示されるように、抗DR5抗体の投与回数を初回の1回のみにしても、抗DR5抗体を他の薬剤と同様に4回投与した実施例3の場合と同様の結果(拒絶率80%)が得られた。このことから腫瘍に対するアポトーシス誘導は重要であるものの、アポトーシス誘導のための腫瘍抗原の提供は、治療初期(1回の投与による誘導)で十分であることが示された。なお、いまだ不明な点も多いが、リコンビナントTRAILの毒性についての報告が散見される(Jo M et al., Nat. Med.6:564−567(2000);Qin J et al., Nat Med. 7:385−386(2001))。しかし、今回の実験では明らかな毒性は観察されず、また投与回数が減量できることで、TRAILの毒性を減少させることも可能であると考えられた。
【0089】
腫瘍特異的細胞障害性T細胞の誘導
更に初回接種腫瘍を拒絶してから60日後のマウスに同じ腫瘍を再接種したところ、完全な拒絶が誘導された(図4A)。また初回腫瘍拒絶マウスから採取した脾臓T細胞5×107細胞を4T1腫瘍接種2日後のSCIDマウスに導入したところ、有意に腫瘍増殖抑制効果がみられた(図4B)。また、in vitroの実験でCTLの存在を確認している。これらの結果から、以前報告した様に抗DR5抗体単独投与で起きうるCTLの誘導が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体の併用により効率的に増強され、腫瘍拒絶に導いていることが示唆された。
【0090】
(実施例5)
TRAIL感受性株ならびに非感受性株に対する腫瘍特異的細胞障害性T細胞の誘導による効果
TRAIL感受性腎癌であるR331にカスパーゼ依存性のアポトーシスに耐性のFLIPを導入しTRAIL耐性となった腫瘍(R331−FLIP)と、TRAIL感受性を維持しているmock腫瘍(R331−mock)でMix therapyの効果を検討した。R331−FLIPでも補助刺激分子に対する抗体投与の効果であると思われる、ある程度の腫瘍増殖抑制効果がみられたが、拒絶はまったく誘導されなかったのに対し、R331−mockでは80%の拒絶が誘導された(図5A。次にR331−mock、FLIPをそれぞれ右側、左側背部皮下に同時に接種し、Mix therapyの効果を検討した。R331−mockだけでなくR331−FLIPにも、ほぼ同時に拒絶(80%の拒絶)が誘導されたことから、CTLによるTRAIL以外のFasLやperforinを介した経路での変異株に対する腫瘍拒絶は、極めて速やかに行われていることが示唆された(図5B)。TRAILレセプターをターゲットとした治療戦略においてTRAIL非感受性腫瘍の出現とそのエスケープによる腫瘍腫大が問題となるが(Qin J et . Nat Med. 7:385−386(2001))、今回得られた結果から、Mix therapyは一部の感受性腫瘍を足がかりとして、腫瘍細胞全体を免疫学的に特異的に捕捉することで腫瘍全体を根絶することが可能であることが示された。
【0091】
(実施例6)
Mix Therapyに対する抗CTLA−4モノクローナル抗体投与併用の治療効果
4T1腫瘍2×105細胞をマウスに皮下接種し、腫瘍サイズが5×5mm2に到達した時点で、Mix therapy群、Mix therapy + 抗CTLA−4抗体投与群、およびコントロール抗体投与群に分け、個々のマウスの腫瘍増殖を比較した(n=10)。
【0092】
図6に示すように、コントロール群(図6Aを参照)では、腫瘍の治療効果は全く見られなかったが、Mix therapy群では、顕著な腫瘍増殖抑制効果(13例中9例で拒絶)が観察された(図6Bを参照)。そしてさらに特筆すべきことは、Mix therapyと抗CTLA−4抗体投与とを併用した場合には、Mix therapyのみの場合と比較して、さらに良好な腫瘍増殖抑制効果が見られ、全ての場合において(13例中13例)腫瘍拒絶が観察された(図6Cを参照)。このように、T細胞の活性を抑制するというCTLA−4の作用効果を抑制する因子(抗CTLA−4アンタゴニスティック抗体(ブロッキング抗体))を併用することによって、Mix therapyの治療効果がさらに高められることが示された。
【0093】
(考察)
上記実施例により具体的に示したように、本発明の癌治療法によれば、腫瘍特異抗原を同定しなくてもTRAIL感受性細胞への細胞死誘導を足がかりに、腫瘍細胞全体を免疫学的に捕捉し、網羅的な癌抗原に特異的な多くの種類のCTLを誘導することが可能であり、これによりTRAIL感受性の喪失および癌抗原の変異による、癌細胞の免疫学的治療からのエスケープを起こす可能性を低くすることができる。ヒトにおける癌においてはTRAILレセプターの発現が比較的高頻度にみられるという報告も散見されることから、本発明に従う癌治療法は、より多くの患者に第一の選択肢の治療法として実施され得る。また転移などを考慮した場合にも、抗癌剤による治療では薬剤のデリバリーの問題などにより細部に効果をもたらすことが難しいことや一過性の効果による再発が問題となるが、本発明に従う癌治療法によれば、2次的なCTLの誘導による効果が長期的にかつより細部にまで効果が行き届き、生体内から癌を駆逐することができると考えられる。さらには、本発明に従う癌治療法においては、腫瘍細胞への細胞死の誘導が初期に1度行われれば良いことから、効率に腫瘍の細胞死を誘導しうるものの、免疫機能の抑制も起こす抗癌剤による化学療法や放射線療法との併用も可能であり得る。このように、実施例に具体的に示したような本発明に従う治療法は、簡便でかつより汎用性の高い癌治療法であり、さらに効率的な経済効果も提供する。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、腫瘍特異的なCTLをより効率的にかつ強力に誘導し得、腫瘍増殖が進行した段階であっても腫瘍拒絶を誘導し得るという高い治療効果を奏し得るため、高率で癌を根絶し得る新たな癌治療法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】実施例2におけるMix Therapyの効果を示すグラフである。4T1腫瘍2×105細胞を皮下接種し、腫瘍塊の大きさが3×3mm2に到達した時点で、抗DR5抗体、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体を単独投与群、2抗体投与群、3抗体投与(Mix therapy)群ならびにコントロール抗体投与群に分け、個々のマウスの腫瘍増殖を比較した(n=10)。
【図2】実施例3におけるMix therapyにおける腫瘍塊の大きさの違いによる効果を示すグラフである。BALB/cマウスに4T1腫瘍 2×105細胞を皮下接種し、腫瘍塊の大きさがそれぞれ3×3(■)、5×5(●)、8×8(▲)mm2に到達した時点で3日おきに計4回Mix therapyを行った。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。
【図3】実施例4における抗DR5抗体単回投与での治療効果を示すグラフである。腫瘍塊の大きさが3×3mm2に到達した時点で抗DR5抗体を初回投与のみとし、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体を3日おきに計4回腹腔内投与した(■)。またコントロールとしてナイーブBALB/cマウスにも同時に4T1腫瘍を接種した(□)。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。
【図4】実施例4における腫瘍特異的細胞障害性T細胞の誘導を示すグラフである。(A)Mix therapyにより4T1を拒絶したBALB/cマウスに4T1腫瘍 2×105個を再接種し、増殖を観察した(■)。またコントロールとしてナイーブBALB/cマウスにも同時に4T1腫瘍を接種した(□)。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。(B)ナイーブSCIDマウスに4T1腫瘍2×105個を皮下接種。腫瘍接種2日後にナイーブBALB/cマウス(○)および4T1を拒絶したBALB/cマウス(●)から単離した脾臓T細胞5×107細胞を尾静脈より移入し、腫瘍の増殖を観察した。またコントロール(□)としてナイーブSCIDマウスにも同時に4T1腫瘍を接種した。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。
【図5】実施例5におけるTRAIL感受性株ならびに非感受性株に対する腫瘍特異的細胞障害性T細胞の誘導による効果を示すグラフである。(A)R331−mock(○:コントロール群、●:Mix therapy群)またはR331−FLIP(□:コントロール群、■:Mix therapy群)をBALB/cマウスに接種し、その後腫瘍塊の大きさが3×3mm2に到達した時点でMix therapyまたはコントロール抗体を投与し、腫瘍の増殖を観察した。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。(B)R331−mock(円)およびR331−FLIP(四角)をそれぞれ右側、左側背部皮下に同時に接種し、3×3mm2に到達した時点でMix therapy(黒塗りつぶし)またはコントロール抗体(白抜き)を投与し、腫瘍の増殖を観察した。各群5−10匹の平均±SD(mm2)で表記した。
【図6】実施例6におけるMix therapyに対する抗CTLAアンタゴニスティック抗体投与の効果を示すグラフである。左からそれぞれ、(A)コントロール抗体投与群、(B)Mix therapy群、および(C)Mix therapy + 抗CTLA−4抗体投与群についての結果を示す。4T1腫瘍2×105細胞を皮下接種し、腫瘍塊の大きさが5×5mm2に到達した時点で治療を開始し、個々のマウスの腫瘍増殖を比較した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF関連細胞死誘導因子とリンパ球活性化因子とを組み合わせてなる、癌治療剤。
【請求項2】
前記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項3】
前記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が抗DR5抗体である、請求項2に記載の癌治療剤。
【請求項4】
前記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項5】
前記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、請求項4に記載の癌治療剤。
【請求項6】
前記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項5に記載の癌治療剤。
【請求項7】
前記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項5に記載の癌治療剤。
【請求項8】
前記TNF関連細胞死誘導因子が抗DR5抗体であり、前記リンパ球活性化因子が抗CD40抗体および抗4−1BB抗体である、請求項1に記載の癌治療剤。
【請求項9】
さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載の癌治療剤。
【請求項10】
前記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、請求項9に記載の癌治療剤。
【請求項11】
TNF関連細胞死誘導因子を含有する、リンパ球活性化剤と併用するための癌治療剤。
【請求項12】
前記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、請求項11に記載の癌治療剤。
【請求項13】
前記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が、抗DR5抗体である、請求項12に記載の癌治療剤。
【請求項14】
前記リンパ球活性化剤が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体を含有する、請求項11に記載の癌治療剤。
【請求項15】
前記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、請求項14に記載の癌治療剤。
【請求項16】
前記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項15に記載の癌治療剤。
【請求項17】
前記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項15に記載の癌治療剤。
【請求項18】
さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、請求項11〜17のいずれかに記載の癌治療剤。
【請求項19】
前記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、請求項18に記載の癌治療剤。
【請求項20】
リンパ球活性化因子を含有する、細胞死誘導剤と併用するための癌治療剤。
【請求項21】
前記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、請求項20に記載の癌治療剤。
【請求項22】
前記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が、CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体、またはデスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体である、請求項21に記載の癌治療剤。
【請求項23】
前記CD28ファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD28抗体、抗ICOS抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項22に記載の癌治療剤。
【請求項24】
前記デスレセプターを有さないTNFRファミリーメンバーに対するアゴニスティック抗体が、抗CD40抗体、抗4−1BB抗体、またはこれらの組み合わせである、請求項22に記載の癌治療剤。
【請求項25】
前記細胞死誘導剤が、TNF関連細胞死誘導因子を含有する、請求項20に記載の癌治療剤。
【請求項26】
前記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体である、請求項25に記載の癌治療剤。
【請求項27】
前記TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が、抗DR5抗体である、請求項26に記載の癌治療剤。
【請求項28】
さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、請求項20〜27のいずれかに記載の癌治療剤。
【請求項29】
前記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、請求項28に記載の癌治療剤。
【請求項30】
化学療法剤と併用する、請求項1〜29のいずれかに記載の癌治療剤。
【請求項31】
放射線療法と併用する、請求項1〜29のいずれかに記載の癌治療剤。
【請求項32】
細胞死誘導療法とリンパ球活性化療法との併用療法による癌治療用キットであって、
TNF関連細胞死誘導因子を含有する薬剤と、
リンパ球活性化因子を含有する薬剤とを含む、癌治療用キット。
【請求項33】
前記TNF関連細胞死誘導因子が、TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体であり、前記リンパ球活性化因子が、補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体である、請求項32に記載の癌治療用キット。
【請求項34】
TRAILレセプターに対するアゴニスティック抗体が抗DR5抗体であり、前記補助刺激分子に対するアゴニスティック抗体が抗CD40抗体および抗4−1BB抗体である、請求項33に記載の癌治療用キット。
【請求項35】
さらに、抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体を含有する、請求項32〜34のいずれかに記載の癌治療用キット。
【請求項36】
前記抑制性シグナルを伝えるレセプターに対するアンタゴニスティック抗体が、抗CTLA−4抗体である、請求項35に記載の癌治療用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−265155(P2006−265155A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84695(P2005−84695)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(502019933)リンク・ジェノミクス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】