説明

癌の診断薬及び治療薬

【課題】癌において特異的に発現するタンパク質を見出し、これを標的とすることによる癌の新規な診断方法、診断キットおよび治療薬の提供する。
【解決手段】HNTを含有する癌、好ましくは肺癌、腎臓癌、大腸癌、膵臓癌からなる群より選択される癌に対する抗HNT抗体を含有する診断薬及び治療薬を提供するものである。また、被験者から採取された試料に抗HNT抗体を反応させ、あるいは被験者に抗HNT抗体を投与して、HNTタンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HNT抗体を利用した癌の診断薬及び治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌細胞に特異的に発現されているタンパク質を標的にした癌の診断および治療方法の開発が盛んである。すなわち、癌細胞に高発現であるが、正常組織では発現が少ないかあるいは発現していない細胞表面タンパク質をターゲットとして、血液および組織等を用いた診断および治療を行う方法である。既に、ハーセプチン等の診断および治療薬が臨床の場に提供され、多くの患者の治療に貢献しているが、全ての癌患者に奏効するというわけではなく、癌に特異性が高く発現しているタンパク質を標的とする治療薬の開発がさらに望まれている。
【0003】
肺癌は、癌の中でも最も多い癌種の1つであり、癌による死亡原因の上位を占める。例えば、米国において2006年度に新たに癌であると診断された患者の約12%が肺癌であり、同年の癌による死亡の29%が肺癌を原因とする死亡であると予測されている(非特許文献1)。早期発見の手段として、胸部X線撮影、喀痰による細胞診、またスパイラ
ルCT等が挙げられるが、十分な効果がなく、肺癌はいまだ癌による死亡原因の上位を占めている。
治療面では、外科手術、放射線療法、化学療法に加えて、分子標的薬の開発が盛んに行われている。上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブ、エルロチニブなどが挙げられ、一部の癌に顕著な効果を示している。しかし、全ての肺癌患者に効果があるわけではなく、また、有害事象についても報告されている。そのため、新たな作用機序を持つ分子標的薬の開発が求められている。
【0004】
腎臓癌に対しては、画像検査技術の進歩により早期発見症例が増えた反面、いまだに遠隔転移を有する症例が減っていないのが現状である。成人の腎臓癌の大多数を占める癌腎細胞癌では、他の癌腫で通常行われる化学療法や放射線療法はほとんど効果を示さないとされている(非特許文献2)。そのため、早期外科的切除が有効とされているが、根治的切除不能例や再発例のような進行性腎細胞癌には有効な治療法がない。その反面、一部の症例に対してインターフェロンα(IFNα)やインターロイキン2といった免疫療法が奏効することが腎細胞癌の特徴であり、日本では進行性腎細胞癌の治療には広くIFNαが用いられている。しかし、進行性腎細胞癌症例に対するIFNαの奏功率は10−20%程度に過ぎない(非特許文献3)。従って、簡便かつ的確な早期発見技術および有効な治療法が望まれている。
【0005】
大腸癌は、米国の統計資料の2006年度の予測によれば、男女共に3番目に多い癌種であり、その発生率は1998年から2002年にかけては毎年1.8%づつ増加している(非特許文献1)。浸潤していない癌については、内視鏡的粘膜切除術等の外科的切除が非常に有効であり死亡率は減少している。しかし、腸壁に浸潤しリンパ節転移を来たした大腸癌では、外科的手術と化学療法剤や放射線療法を併用する等の治療法が一般に行われている(非特許文献1)。このような状況の中で、新たな分子標的薬である、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)阻害剤であるベバシズマブ、上皮成長因子受容体(EGFR)に対する抗体であるセツキシマブが開発されている。しかし、これらが奏功するのは大腸癌の一部の症例に対してのみであり、異なる分子を標的とする新たな治療薬がさらに必要である。
【0006】
膵臓癌患者は、毎年増加する傾向にあり、2001年の日本国内の年間死亡者数は、約2万人である。また、男性の癌死の第5位、女性の癌死の第6位をそれぞれ占めている。膵臓癌は予後が悪く、切除例の5年生存率は5〜20%である。膵臓癌の予後が悪い原因は、癌病巣が2cm程のときに、既に膵臓の外に浸潤をきたし、肝臓に転移するケースが多いためである。従って、膵臓癌は早期診断が非常に重要であるが、現在のところ膵臓癌が周囲臓器に浸潤する前に診断する方法は、存在していない。
【0007】
日本国内の全国調査では、最初に膵臓癌を発見した方法として、CTが44%と最も多く、超音波が41%である。従って、現在この2つの検査方法が膵臓癌の診断に重要である。しかし、現在一般的に使用されているCTの場合、癌組織と非癌組織の区別がつきにくく、診断に熟練した技術を要する。膵臓癌の腫瘍マーカーには、CA19−9、DUPAN-2、Span−1、CEAなどがある。これらのマーカーは、いずれも進行癌で陽性となるが、早期の診断率は低く、早期診断に有用と言えるマーカーはない。さらに、CA19−9は肝炎、肝硬変、膵炎のような非悪性腫瘍でも血中濃度が上昇するため、膵臓癌の診断への使用は、適切ではないことが知られている。
【0008】
FDG−PETによる膵臓癌診断も実施されているが、検査コストが高いことや、画像の分解能が悪い、などといった問題がある。従って、PET検査の費用対効果や効率を考慮した場合、膵臓癌組織を特異的に認識するプローブを開発し、高精度な診断方法を開発することが望まれている。
【0009】
一方、膵臓癌の治療は、手術、化学療法、放射線療法により行われる。全症例のうち切除が可能なものは、40%以下である。術後の5年生存率は5〜20%と、極めて低い。手術による合併症の併発も多く、問題となっている。局所進展や遠隔転移によって見つかった膵臓癌の多くは、手術適応にはならず、化学療法や放射線療法を適応する。放射線療法は、消化管への負担が少ないため、外来でも施行可能であるため、近年では症例が増加する傾向にある。
【0010】
従って、膵臓癌診断においては、簡便かつ的確な検査が可能な新たな膵臓癌診断マーカーが求められている。また、膵臓癌の治療においては、非侵襲的で、かつ効果的な治療方法、すなわち、膵臓癌細胞に対して特異的に傷害を与える治療薬の開発が望まれている。
【0011】
ニューロトリミン(以下、HNTと表記することもある。)は1995年にラットの脳で発生段階で発現する膜蛋白をコードする遺伝子として最初に発表された(非特許文献4) 。その後、この分子が進化的に保存された脳で発現する接着分子の1群として認識され、脳の発達における神経回路形成に関連する分野で研究が進んだ。
接着分子は大きく4つのクラスとして分類されインテグリン、カドヘリン、セレクチン、イムノグロブリン様スーパーファミリー(IgSF)が知られているが、HNTは、神経細胞同士の接着や神経軸索の伸張に重要な働きをすると考えられているIgSFに属している。IgSFは、膜貫通ドメインをもつ群と膜貫通ドメインをもたないglycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー型の接着分子群に分類されるが、ニューロトリミンはGPIアンカー型の分子に属する。
GPIアンカー型に分類される分子は、哺乳動物から発見された分子の頭文字をとってIgLONサブファミリーと総称される。このIgLONファミリーの構造上の特徴はGPIアンカーで膜状に発現し、イムノグロブリンドメインを3個有することである。
IgLONファミリーの接着因子は、発生初期から脳に発現し、神経回路の形成に関わるとされている。軸索の繊維束化や神経突起形成、成長円錐(growth cone guidance)を誘導し、特定の神経細胞同士のシナプス形成に関与すると考えられている。ニューロトリミンは、脳橋、小脳と視床に強く発現していることが知られている。
【0012】
ニューロトリミンと癌との関連については、上皮性卵巣癌で発現が亢進しているという報告(非特許文献5)がある。しかし、特許文献1においては、ニューロトリミンを卵巣癌および大腸癌の癌抑制遺伝子であると同定し、ニューロトリミンの機能を補う癌の治療、および、ニューロトリミンの機能の低下を検出することによる診断方法を開示している。また、特許文献2にも、HNTと同様にIg様スーパーファミリーに属するNCAMが、癌では細胞膜上への発現が減少し、接触阻害(contact inhibition)を失うことにより癌細胞の増殖をもたらすことから、HNTとそのホモローグが癌抑制遺伝子として作用することを示唆している(非特許文献6)。
一方、特許文献3は、IgCAMファミリーの1つであるGPIMが肺癌、大腸癌、子宮癌、胃癌、乳癌で発現が亢進しているという文献(非特許文献7)を根拠として、ニューロトリミンのバリアントが、同様に肺癌、大腸癌、子宮癌、胃癌、乳癌で発現が亢進しており、抗体やアンチセンス核酸による治療の標的として利用できることを主張しているが、実際にニューロトリミンまたはそのバリアントについてデータを示しているわけではない。非特許文献5に示される通り、IgLONファミリーに属するOPCML、HNT、LSAMP、NEGR1などが必ずしも同一の発現傾向を示さないことは明らかであり、ニューロトリミンまたはそのバリアントが、癌細胞の細胞膜上に抗体を利用とした治療の標的として利用できる程の発現があると予測可能であるという蓋然性はない。
このように、HNT遺伝子産物が癌細胞の細胞膜上に、抗体を用いた治療薬の標的として利用できる程度に発現しているという報告はない。
【非特許文献1】American Cancer Society, Cancer Facts and Figures 2006
【非特許文献2】J Urol.2000;163:408-17、Lancet.1998;352:1691-6
【非特許文献3】J Urol. 1999;161:381-7、Lancet.1999;353:14-7
【非特許文献4】J. Neurosci. 1995 15: 2141-2156
【非特許文献5】Clin Cancer Res. 2005 11:5764-8
【非特許文献6】J.Cell Biol. 1991 115:1751-1761
【非特許文献7】Oncogene 2002 21;3089-3094
【特許文献1】国際公開第03/002765号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0100485号明細書
【特許文献3】国際公開第04/039942号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑み、癌において特異的に発現するタンパク質を見出し、これを標的とすることによる癌の新規な診断方法、診断キットおよび治療薬の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、各種癌組織を用いたDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析の結果より、HNT遺伝子の発現量が癌組織において特異的に多いことを見出した。さらに、HNTタンパク質に対する抗体を作製し、HNT発現CHO細胞、膵臓癌由来細胞株であるQGP−1への抗HNT抗体の投与によって、CDCおよび/あるいはADCC活性が測定されることを示した。すなわち、抗HNT抗体の投与により癌細胞の細胞死が起こり、抗HNT抗体を癌治療薬として用いることができる。また、抗HNT抗体に放射性同位元素等の細胞障害活性物質を結合したものは、癌細胞を細胞死させる癌治療薬として用いることができる。
【0015】
すなわち、本発明は、抗HNT抗体を含有する癌、好ましくは肺癌、腎臓癌、大腸癌、膵臓癌からなる群より選択される癌の診断薬及び治療薬を提供するものである。また、本発明は、被験者から採取された試料に抗HNT抗体を反応させ、あるいは被験者に抗HNT抗体を投与して、HNTタンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法を提供するものである。
特に、本発明は以下の診断薬、診断方法、治療薬を提供するものである。
(1)抗HNT抗体を含有する癌診断薬。
(2)癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である(1)に記載の癌診断薬。
(3)抗HNT抗体がHNTタンパク質細胞外領域と結合する抗体である(1)又は(2)記載の癌診断薬。
(4)血液中、血清中、血漿中または臓器組織に抗HNT抗体を反応させてHNTタンパク質を検出することにより使用されるものである(1)〜(3)のいずれか一に記載の癌診断薬。
(5)標識した抗HNT抗体を投与後画像診断によりHNTタンパク質を検出することにより使用されるものである(1)〜(3)のいずれか一に記載の癌診断薬。
(6)癌患者のうち、治療対象患者を選択するための診断薬である(1)〜(5)のいずれか一に記載の癌診断薬。
(7)被験者から採取された試料に抗HNT抗体を反応させ、当該試料中のHNTタンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法。
(8)癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である(7)に記載の癌の診断方法。
(9)被験者から採取された試料が血液、血清、血漿または臓器組織である(7)又は(8)記載の癌の診断方法。
(10)抗HNT抗体を有効成分とする癌治療薬。
(11)癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である(10)に記載の癌治療薬。
(12)抗HNT抗体がHNTタンパク質細胞外領域と結合する抗体である(10)又は(11)記載の癌治療薬。
(13)抗HNT抗体が細胞傷害活性を有する抗体である(10)〜(12)いずれか一に記載の癌治療薬。
(14)抗HNT抗体がアイソトープ標識あるいは細胞傷害活性を有する化合物を結合させた抗体である(10)〜(12)のいずれか一に記載の癌治療薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るHNTタンパク質を検出することにより、癌の診断が可能となる。癌細胞膜上に発現する分子は、癌細胞の細胞死、あるいはHNTのGPIアンカーの開裂(Oncogene, 21,3089-3094, 2002)などによって血中に移行することが予測される。また、癌細胞膜上に発現するHNTタンパク質を標的とすることにより、癌の治療の実施が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明により、診断及び治療される疾患は、癌、好ましくは肺癌、腎臓癌、大腸癌、膵臓癌からなる群より選択される癌である。診断及び治療の対象となる動物は、ヒトであることが好ましいが、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット等の哺乳類でも良い。
【0018】
本発明において癌の診断を行う場合、被験者の血液中および臓器組織にHNTタンパク質が検出された場合に、被験者が癌である可能性が高いと判定される。また、癌と診断された患者の血液あるいは組織中HNTタンパク質濃度を測定することにより、その患者が治療対象患者か否かを判定すること(治療対象患者の選択)ができる。さらに、癌の治療後、HNTタンパク質測定において、HNTタンパク質の量が術前より減少した場合、治療の経過が良好であると判定される。一方、治療後のHNTタンパク質の量が低下しないあるいは増加する場合には、再発および転移があると判定される。癌の診断は、画像診断、生検および血液診断により行うことができる。
【0019】
画像診断においては、標識した抗HNT抗体を投与後画像診断によりHNTタンパク質を検出することにより行うことができる。より具体的には、抗HNT抗体に、標識物質として放射性同位元素で標識したプローブを被験者に投与し、PETまたはSPECTで癌組織を検出することができる。使用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくは陽電子放出放射性同位元素であり、さらに好ましくは11C、13N、18F、15O、94mTc、124Iである。抗HNT抗体への放射性同位元素の標識は、当業者公知の方法により行うことができる。
【0020】
生検により癌の診断を行う方法としては、被験者から得られた臓器組織を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫染色、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくは免疫染色である。免疫染色などの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0021】
生検により癌の診断を行う他の様態として、抗HNT抗体を一次抗体として使用した免疫組織学的染色法を行うことができる。具体的には、被験者から得られた検体を公知の方法によりパラフィンや凍結等により固定し、切片を作製する。次いで、切片を一次抗体として抗HNT抗体、二次抗体としてIgGを認識するビオチン標識抗体をそれぞれ用いて処理する。二次抗体は、IgGを認識する公知の抗体を用いることができ、例えばウサギ抗IgG抗体などを挙げることができる。二次抗体に標識物質を結合させ、それぞれの標識物質に適した公知の方法により、切片中のHNTタンパク質の有無を検出する。また、二次抗体を使用せず、抗HNT抗体に標識物質を結合させ、免疫組織学的染色法を行うこともできる。標識物質は当業者公知の物質を用いることができるが、例えばペルオキシターゼ、FITCなどを挙げることができる。抗体と標識物質の結合は、当業者に公知の方法で行うことができ、具体的には、ストレプトアビジンとビオチンを利用した結合方法を挙げることができる。
【0022】
癌の診断を行う他の様態としては、被験者から得られた血液、血清、または血漿を試料として、免疫学的測定法を行うことができる。例えば、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、免疫沈降法、免疫比濁法、ウェスタンブロット、免疫拡散法などを挙げることができるが、好ましくはエンザイムイムノアッセイであり、特に好ましいのは酵素結合免疫吸着定量法(enzyme-linked immunosorbent assay:ELISA)(例えば、sandwich ELISA)である。ELISAなどの上述した免疫学的方法は当業者に公知の方法により行うことが可能である。
【0023】
血液、血清、または血漿を検体とした癌の診断方法としては、例えば、抗HNT抗体を支持体に固定し、ここに被検試料を加え、インキュベートを行い抗HNT抗体とタンパク質を結合させた後に洗浄して、抗HNT抗体を介して支持体に結合したHNTタンパク質の検出を行う方法を挙げることができる。
【0024】
本発明において抗HNT抗体を固定するために用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラス、フェライトなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、やバイオセンサーチップなどを用いることができる。抗HNT抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体はすべて市販のものを用いることができる。
【0025】
抗HNT抗体と試料中のHNTタンパク質の結合は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris 緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用され、通常用いるpHの範囲であればよい。また、インキュベーションの条件としては、すでによく用いられている条件、例えば、4℃〜37℃にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、抗HNT抗体とHNTタンパク質の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween−20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0026】
本発明によるHNTタンパク質の検出方法においては、HNTタンパク質を検出したい被検試料の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、HNTタンパク質を含まない陰性コントロール試料やHNTタンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、HNTタンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果と、HNTタンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検試料中のHNTタンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検試料の数値から標準曲線に基づいて、被検試料に含まれるHNTタンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0027】
抗HNT抗体を介して支持体に結合したHNTタンパク質の検出の好ましい態様として、標識物質で標識された抗HNT抗体を用いる方法を挙げることができる。例えば、支持体に固定された抗HNT抗体に被検試料を接触させ、洗浄後に、HNTタンパク質を特異的に認識する標識抗体を用いて検出する。
【0028】
抗HNT抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチン、ルテニウムなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、ペルオキシダーゼなどの酵素を結合させたストレプトアビジンをさらに添加することが好ましい。標識物質と抗HNT抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0029】
具体的には、抗HNT抗体を含む溶液をプレートまたはビーズなどの支持体に加え、抗HNT抗体を支持体に固定する。プレート、またはビーズを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートまたはビーズに加える。インキュベートの後、洗浄し、標識抗HNT抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートまたはビーズを洗浄し、支持体に残った標識抗HNT抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合には液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、1,2−フェニレンジアミン(オルソ−フェニレンジアミン)、3,3',5,5'−テトラメチルベンジジン(TMB)などを挙げることができる。蛍光物質または化学発光物質の場合にはルミノメーターにより検出することができる。
【0030】
本発明のHNTタンパク質検出方法の特に好ましい態様として、ビオチンで標識された抗HNT抗体と、ストレプトアビジンを用いる方法を挙げることができる。
【0031】
具体的には、抗HNT抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、抗HNT抗体を固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSAなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検試料をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、ビオチン標識抗HNT抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどの酵素と結合したアビジンを加える。インキュベーション後、プレートを洗浄し、アビジンに結合している酵素に対応した基質を加え、基質の酵素的変化などを指標にHNTタンパク質を検出する。
【0032】
本発明のHNTタンパク質検出方法の他の態様として、HNTタンパク質を特異的に認識する一次抗体を一種類以上、および該一次抗体を特異的に認識する二次抗体を一種類以上用いる方法を挙げることができる。
【0033】
例えば、支持体に固定された一種類以上の抗HNT抗体に被検試料を接触させ、インキュベーションした後、洗浄し、洗浄後に結合しているHNTタンパク質を、一次抗HNT抗体、および該一次抗体を特異的に認識する一種類以上の二次抗体により検出する。この場合、二次抗体は好ましくは標識物質により標識されている。
【0034】
本発明のHNTタンパク質の検出方法の他の態様としては、凝集反応を利用した検出方法を挙げることができる。該方法においては、抗HNT抗体を感作した担体を用いてHNTタンパク質を検出することができる。抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。感作した粒子を試料と混合し、一定時間攪拌する。試料中にHNTタンパク質が高濃度で含まれるほど粒子の凝集度が大きくなるので、凝集を肉眼でみることによりHNTタンパク質を検出することができる。また、凝集による濁度を分光光度計等により測定することによっても検出することが可能である。
【0035】
本発明のタンパク質の検出方法の他の態様としては、例えば、表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを用いた方法を挙げることができる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはタンパク質−タンパク質間の相互作用を微量のタンパク質を用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である。例えば、BIAcore(Biacore International AB社製)等のバイオセンサーを用いることにより抗HNT抗体とHNTタンパク質との結合をそれぞれ検出することが可能である。具体的には抗HNT抗体を固定化したセンサーチップに、被検試料を接触させ抗HNT抗体に結合するHNTタンパク質を共鳴シグナルの変化としてそれぞれ検出することができる。
【0036】
本発明の検出方法は、種々の自動検査装置を用いて自動化することもでき、一度に大量の試料について検査を行うことも可能である。
【0037】
本発明の癌の診断薬は、キットの形態であってもよい。本発明の癌の診断薬は少なくとも抗HNT抗体を含む。該診断薬がELISA法等のEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該診断薬がラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該診断薬は、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0038】
本発明の生検組織および血液などの試料を用いた診断用抗HNT抗体は、HNTタンパク質にそれぞれ特異的に結合すればよく、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問わない。具体的には、マウス抗体、ラット抗体、トリ抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの公知の抗体を用いることができる。抗体はポリクローナル抗体でもよいが、モノクローナル抗体であることが好ましく、高感度で特異的な測定が可能であれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0039】
又、支持体に固定される抗HNT抗体と標識物質で標識される抗HNT抗体は、HNTタンパク質の同じエピトープを認識してもよいが、異なるエピトープを認識することが好ましく、部位は特に制限されない。
【0040】
本発明においてHNTタンパク質細胞外領域とは、配列番号1に示すアミノ酸配列の1〜320番目のアミノ酸をいう。アミノ酸配列には、置換・欠失等の変異が含まれることもある。
【0041】
本発明者らは、HNTタンパク質が癌細胞の細胞膜上に高発現していることを見出した。よって、本発明において癌の治療を行う場合、抗HNT抗体と癌細胞に発現したHNTタンパク質を特異的に結合させ、癌細胞に傷害を与えることにより行うことができる。細胞傷害は、抗HNT抗体の細胞傷害活性、例えばADCC活性又はCDC活性を利用することができる。さらに、本発明で使用される抗体は、糖鎖を改変された抗体であっても良い。抗体の糖鎖を改変することにより、抗体の細胞傷害活性を増強できる。また、癌治療に用いられる抗体は、抗癌作用を有する抗体であれば良く、抗腫瘍効果のある物質を結合させた抗体でも良い。抗体に結合させる事により腫瘍に特異的に集積させることが可能であるため、強い副作用を持つ薬物であっても治療に用いることができる。抗腫瘍効果を持つ薬物や放射性同位元素を結合させた抗体により、癌の治療が可能である。
【0042】
本発明における細胞傷害活性とは、例えば抗体依存性細胞介在性細胞傷害 (antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、補体依存性細胞傷害 (complement-dependent cytotoxicity:CDC)活性などを挙げることができる。本発明においてCDC活性とは補体系による細胞傷害活性を意味し、ADCC活性とは標的細胞の細胞表面抗原に特異的抗体が付着した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(免疫細胞等)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に傷害を与える活性を意味する。
【0043】
抗HNT抗体がADCC活性を有するか否か、又はCDC活性を有するか否かは公知の方法により測定することができる。例えば、予め標的細胞に取り込ませた放射性物質51Crの放出を指標にした方法[Martin R. et al. (1990) Fine specificity and HLArestriction of myelin basic protein-specific cytotoxic T cell lines from multiple sclerosis patients and healthy individuals. J. Immunol. 145, 540.等]、予め標的細胞に取り込ませた蛍光物質Calceinの放出を指標にした方法[Lichtenfels R.et al. (1994) CARE-LASS (calcein-release-assay), an improved fluorescence-basedtest system to measure cytotoxic T lymphocyte activity. J. Immunol. Methods 172, 227.等]、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にした方法[Korzeniewski C. and Callewaert DM. (1983) An enzyme-release assay for natural cytotoxicity. J. Immunol. Methods 64, 313.等]が報告されている。
【0044】
具体的には、まず、エフェクター細胞、補体溶液、標的細胞の調製を行う。
(1)エフェクター細胞の調製
BALB/cマウスなどから脾臓を摘出し、RPMI1640培地(Invitrogen社製)中で脾臓細胞を分離する。5−10%ウシ胎児血清(FBS)を含む同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106/mLに調製し、エフェクター細胞を調製する。
【0045】
(2)補体溶液の調製
Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を5−10%FBS含有RPMI1640 (Invitrogen社製)にて適宜希釈し、補体溶液を調製する。
【0046】
(3)標的細胞の調製
HNTを発現する細胞(HNTをコードする遺伝子で形質転換された細胞、膵癌細胞)を用意する。予め標的細胞に取り込ませた放射性物質51Crの放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合は0.2mCiの51Cr-クロム酸ナトリウム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)とともに、細胞を10% FBS含有DMEM培地中で37℃にて1時間培養することにより放射体標識する。放射体標識後、細胞を10% FBS含有DMEM培地にて3回洗浄し、細胞濃度を2×105/mLに調製して標的細胞を調製する。
【0047】
予め標的細胞に取り込ませた蛍光物質の放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合は25μMのCalcein−AM[3',6'-Di(O-acetyl)-4',5'-bis[N,N-bis(carboxymethyl)aminomethyl]fluorescein, tetraacetoxymethyl ester]とともに、細胞をPBS(Phosphate-Buffered Saline)中で37℃にて30分間培養することにより蛍光標識する。蛍光標識後、細胞を5% FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で2回洗浄し、細胞濃度を2×105/mLに調製して標的細胞を調製する。標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にした方法で細胞傷害活性を測定する場合には、細胞を濃度2×105/mLに調製してそのまま用いる。
次いで、ADCC活性、又はCDC活性の測定を行う。ADCC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に、標的細胞と、抗HNT抗体を50μLずつ加え、氷上にて15分間反応させる。その後、エフェクター細胞100μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。培養後、100μLの上清を回収し、51Crの放出を指標とする場合にはガンマカウンター(COBRAIIAUTO-GMMA、MODELD5005、Packard Instrument Company社製)で放射活性を測定する。細胞傷害活性(%)は(A−C)/(B−C)×100により求めることができる。Aは各試料における放射活性(cpm)、Bは1%Triton−X100などの界面活性剤を加えて細胞を全溶解した試料における放射活性(cpm)、Cは標的細胞のみを含む試料の放射活性(cpm)を示す。蛍光物質Calceinの放出を指標とする場合には蛍光プレートリーダー(励起波長485nm/蛍光波長520nm)で蛍光強度を測定する。標的細胞に内在するLDHの放出を指標とする場合には、LDHとDiaphoraseの共役反応によってテトラゾリウム塩から生成される赤色のホルマザンをマイクロプレートリーダー(波長490nm)で測定する。
【0048】
一方、CDC活性の測定の場合は、96ウェルU底プレート(Becton Dickinson社製)に、標的細胞50μLと、抗HNT抗体20μLを加え、氷上にて30分間反応させる。その後、補体溶液10μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で4時間培養する。培養後、50μLの上清を回収し、放射活性などを測定する。細胞傷害活性はADCC活性の測定と同様にして求めることができる。
【0049】
さらに、抗HNT抗体は、癌治療薬として癌組織に特異的にターゲティングさせるミサイル療法に用いることができる。すなわち、癌細胞に傷害をもたらす薬物を結合させた抗体を投与することにより、癌部特異的に移行させ、治療効果および副作用の軽減を意図した治療方法である。
薬物と抗体の結合は、当業者に公知の方法で行うことができる(Clin Cancer Res. 2004 Jul 1;10(13):4538-49.)。抗体に結合させる薬物は、癌細胞に傷害をもたらす公知の物質を用いることができるが、好ましくは抗癌剤と毒素であり、さらに好ましくはCalicheamicin、DM1、DM4、リシン、PseudomonasエキソトキシンAである。
【0050】
癌治療に用いられる抗体は、HNTタンパク質と特異的に結合する抗体に、癌細胞に傷害をもたらす放射性同位元素を結合することにより、細胞傷害活性を付加あるいは増強させたものでもよい。抗体と放射性同位元素の結合は、当業者公知の方法により、行うことができる(Bioconjug Chem. 1994 Mar-Apr;5(2):101-4.)。利用する放射性同位元素は、当業者に公知の物質を用いることができるが、好ましくはβ線やα線を放出する核種であり、さらに好ましくは131I、99mTc、111In、90Yである。
【0051】
放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を用いた癌治療は、当業者公知の方法により行うことができる(Bioconjug Chem. 1998 Nov-Dec;9(6):773-82.)。具体的には、最初に少量の放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を患者に投与し、全身のシンチグラムを行う。正常組織の細胞と抗体の結合が少なく、癌細胞と抗体の結合が多いことを確認した上で、放射性同位元素を含む化合物を結合させた抗体を大量に投与する。
【0052】
本発明の癌治療および画像診断に用いられる抗体は、HNTタンパク質と特異的に結合する限り、モノクローナル抗体であればキメラ抗体、ヒト化(CDR移植)抗体、ヒト抗体のいずれであっても良い。また、それら抗体は、癌に対する治療効果があれば、市販されている抗体を使用してもよい。
【0053】
本発明で使用される抗HNT抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗HNT抗体として、哺乳動物由来あるいはトリ由来モノクローナル抗体が好ましい。特に、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものを含む。
【0054】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、HNTタンパク質を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。
【0055】
まず、抗体取得の感作抗原として使用されるHNTタンパク質の遺伝子またはアミノ酸配列は公共の遺伝子データベース等より得ることが可能である。例えば、GenBankアクセッション番号NM 016522に開示された遺伝子/アミノ酸配列を用いて抗原タンパク質の調製をすることができる。すなわち、HNTタンパク質をコードするそれぞれの遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中または培養上清中から目的のHNTタンパク質を公知の方法で精製する。また、天然のHNTタンパク質を精製して用いることもできる。
【0056】
次に、この精製HNTタンパク質を感作抗原として用いる。あるいは、HNTタンパク質の部分ペプチドを感作抗原として使用することもできる。この際、部分ペプチドはHNTタンパク質のアミノ酸配列より化学合成により得ることもできるし、HNT遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで得ることもでき、さらに天然のHNTタンパク質をタンパク質分解酵素により分解することによっても得ることができる。部分ペプチドとして用いるHNTタンパク質の部分および大きさは限られない。
【0057】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはトリ、ウサギ、サル等が使用される。
【0058】
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内または皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものに所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4〜21日毎に数回投与する。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することもできる。特に分子量の小さい部分ペプチドを感作抗原として用いる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合させて免疫することが望ましい。
【0059】
このように哺乳動物を免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞を採取し、細胞融合に付されるが、好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0060】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞は、公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immnol.(1979)123, 1548-1550)、 P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、 NS-1 (Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976)6, 511-519)、MPC-11(Margulies. D.H. et al., Cell(1976)8, 405-415)、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature(1978)276, 269-270)、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods(1980)35, 1-21)、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med.(1978)148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature(1979)277, 131-133)
等が好適に使用される。
【0061】
前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合は、基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C.、Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。
【0062】
より具体的には、前記細胞融合は、例えば細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0063】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定することができる。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0064】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温したPEG溶液(例えば平均分子量1000〜6000程度)を通常30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)を形成する。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去する。
【0065】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。上記HAT培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、数日〜数週間)継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングを行う。
【0066】
目的とする抗体のスクリーニングおよび単一クローニングは、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法で行えばよい。例えば、ポリスチレン等でできたビーズや市販の96ウェルのマイクロタイタープレート等の担体に抗原を結合させ、ハイブリドーマの培養上清と反応させ、担体を洗浄した後に酵素標識二次抗体等を反応させることにより、培養上清中に感作抗原と反応する目的とする抗体が含まれるかどうか決定できる。目的とする抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングすることができる。この際、抗原としては免疫に用いたものを用いればよい。
【0067】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで、HNTタンパク質に感作し、感作リンパ球をヒト由来の永久分能を有するミエローマ細胞と融合させ、HNTタンパク質への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1−59878号公報参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原となるHNTタンパク質を投与して抗HNT抗体産生細胞を取得し、これを不死化させた細胞からHNTタンパク質に対するヒト抗体をそれぞれ取得してもよい(WO94/25585号パンフレット、WO93/12227号パンフレット、WO92/03918号パンフレット、WO 94/02602号パンフレット参照)。
【0068】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
【0069】
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0070】
本発明では、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型のものを用いることができる(例えば、Vandamme, A. M. et al., Eur.J. Biochem.(1990)192, 767-775, 1990参照)。
具体的には、抗HNT抗体を産生するハイブリドーマから、抗HNT抗体の可変(V)領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry(1979)18, 5294-5299)、APGC法(Chomczynski, P.et al., Anal. Biochem.(1987)162, 156-159)等により行って全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用して目的のmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia製)を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。
【0071】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等を用いて行う。また、cDNAの合成および増幅を行うには、5'−Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1988)85, 8998-9002、Belyavsky, A.et al., Nucleic Acids Res.(1989)17, 2919-2932)等を使用することができる。
【0072】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。そして、目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認する。
【0073】
目的とする抗HNT抗体のV領域をコードするDNAをそれぞれ得たのち、これを、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを含有する発現ベクターへ組み込む。
【0074】
本発明で使用される抗HNT抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより、宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。
【0075】
抗体遺伝子の発現は、抗体重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換させてもよい(WO 94/11523 号公報参照)。
【0076】
また、組換え型抗体の産生には上記宿主細胞だけではなく、トランスジェニック動物を使用することができる。例えば、抗体遺伝子を、乳汁中に固有に産生されるタンパク質(ヤギβカゼインなど)をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギまたはその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology(1994)12, 699-702)。
【0077】
本発明で使用される抗体は、抗体の全体分子に限られず、HNTタンパク質に結合する限り、抗体の断片またはその修飾物であってもよく、二価抗体も一価抗体も含まれる。例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab')2、Fv、1個のFabと完全なFcを有するFab/c、またはH鎖若しくはL鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。具体的には、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、または、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol.(1994)152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A.H. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology(1989)178, 476-496, Academic Press, Inc.、Lamoyi, E., Methods in Enzymology(1989)121, 652-663、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology(1989)121, 663-669、Bird, R. E. et al., TIBTECH(1991)9, 132-137参照)。
【0078】
scFvは、抗体のH鎖V領域とL鎖V領域とを連結することにより得られる。このscFvにおいて、H鎖V領域とL鎖V領域は、リンカー、好ましくはペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.(1988)85,5879-5883)。scFvにおけるH鎖V領域およびL鎖V領域は、本明細書に抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12〜19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0079】
scFvをコードするDNAは、前記抗体のH鎖またはH鎖V領域をコードするDNA、およびL鎖またはL鎖V領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部または所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA、およびその両端が各々H鎖、L鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0080】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。
【0081】
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0082】
抗体の修飾物として、標識物質等の各種分子と結合した抗HNT抗体を使用することもできる。本発明における「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0083】
さらに、本発明で使用される抗体は、二重特異性抗体(bispecific antibody)であってもよい。二重特異性抗体は分子上の異なるエピトープを認識する抗原結合部位を有する二重特異性抗体であってもよいし、一方の抗原結合部位がHNTタンパク質を認識し、他方の抗原結合部位が標識物質等を認識してもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体のH鎖とL鎖の一対を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて二重特異性抗体産生融合細胞を作製し、得ることもできる。さらに、遺伝子工学的手法により二重特異性抗体を作製することも可能である。
【0084】
本発明のハイブリドーマを用いて“キメラ抗体”を作製することもできる。キメラ抗体とは、例えば、抗体の特異性、親和性および生物学的活性等の性質を保持したまま、マウス抗体遺伝子部分の一部をヒト抗体遺伝子に置き換えることが可能である(Nature 312:604-608, 1984、Nature 314:452-454,1985)。また、抗体のCDR領域を移植する技術により“ヒト化抗体”を作製する技術も公知である。ヒト抗体遺伝子のCDR領域を本発明の抗体のCDR領域に置き換えることが可能である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:969-973, 1994)。本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体を含む。
【0085】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現させる抗体遺伝子、その3′側下流にポリAシグナルを機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer)を挙げることができる。
【0086】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、シミアンウイルス40(SV40)等のウイルスプロモーター/エンハンサー、あるいはヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサー等が挙げられる。
【0087】
SV40プロモーター/エンハンサーを使用する場合はMulliganらの方法(Nature(1979)277, 108)により、また、HEF1αプロモーター/エンハンサーを使用する場合はMizushimaらの方法(Nucleic Acids Res.(1990)18, 5322)により、容易に遺伝子発現を行うことができる。
【0088】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列および発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて当該遺伝子を発現させることができる。プロモーターとしては、例えばlacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合はWardらの方法(Nature(1098)341, 544-546 ; FASEBJ.(1992)6, 2422-2427)により、あるいはaraBプロモーターを使用する場合はBetterらの方法(Science(1988)240, 1041-1043)により発現することができる。
【0089】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol.(1987)169, 4379)を使用すればよい。そして、ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切に組み直して(refold)使用する。
【0090】
複製起源としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは、選択マーカーとしてアミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0091】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の発現系、例えば真核細胞または原核細胞系を使用することができる。真核細胞としては、例えば樹立された哺乳類細胞系、昆虫細胞系、真糸状菌細胞および酵母細胞などの動物細胞等が挙げられ、原核細胞としては、例えば大腸菌細胞等の細菌細胞が挙げられる。
【0092】
好ましくは、本発明で使用される抗体は、哺乳類細胞、例えばCHO、COS、ミエローマ、BHK、Vero、HeLa細胞中で発現される。
【0093】
次に、形質転換された宿主細胞をin vitroまたはin vivoで培養して目的とする抗体を産生させる。宿主細胞の培養は公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS)等の血清補液を併用することもできる。
【0094】
前記のように発現、産生された抗体は、細胞、宿主動物から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティーカラムを用いて行うことができる。例えば、プロテインAカラムを用いたカラムとして、HyperD、POROS、Sepharose FF(Pharmacia製)等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、上記アフィニティーカラム以外のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる(Antibodies: A Laboratory Manual. Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0095】
本発明の癌治療薬は、抗HNT抗体を当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0096】
経口投与用には、抗HNT抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸薬、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0097】
非経口投与用には、抗HNT抗体を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、座剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、抗HNT抗体を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、治療剤を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、抗HNT抗体を粉末化し、ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、抗HNT抗体をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造することができる。さらに、本発明の治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0098】
投与量および投与回数は、剤形および投与経路、ならびに患者の症状、年齢、体重によって異なるが、一般に、抗HNT抗体は、1日あたり体重1kgあたり、約0.001mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう、1日に1回から数回投与することができる。
【0099】
本発明の癌治療薬は通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与するのが好ましい。
【実施例】
【0100】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0101】
実施例1 DNAマイクロアレイによる各種癌細胞におけるHNT遺伝子発現解析
癌において発現が亢進する遺伝子を探索するために、各種ヒト組織におけるRNA、グリア芽腫、肺癌、肝癌、胃癌、大腸癌、腎癌および膵臓癌(表1)、および分化度の異なる20例の膵癌、前癌病変1例、膵管癌2例、膵管内乳頭粘液性腫瘍1例の各摘出組織、および対照としての正常組織(摘出された膵癌組織の非癌部)4例よりレーザーマイクロダイセクション法(Laser Capture Microdissection)で回収したサンプルよりISOGEN(ニッポンジーン社)を用い定法に従って全RNAを調製した。
【0102】
上記全RNAを各10ngずつ用い、各種ヒト組織より抽出したRNAをGeneChipU−133B(Affimetrix社製)に供しExpression Analysis Technical Manual(Affimetrix社製)に準じて遺伝子発現解析した。全遺伝子の発現スコアの平均値を100とし、癌細胞において発現が亢進する遺伝子を探索したところ、HNT(プローブID: 227566_at HG-U133B)が正常膵臓(94.0)と比較して、膵臓癌では発現スコア(平均値:469.47)が5.0倍と、膵臓癌において発現が亢進していた。また、膵臓癌3例の正常膵臓組織に対する発現量は、それぞれ8.8倍、1.7倍、4.5倍と全例で発現亢進していることが明らかになった。(図1A、B)。
また、小細胞癌、扁平上皮癌、腺癌などの肺癌、腎臓癌、大腸癌においても発現が亢進していた(図1A、B)。
摘出した膵臓癌組織に関して高分化型4例、中分化型17例、低分化型3例ならびに正常膵4例、前癌病変1例、膵管癌2例、膵管内乳頭粘液性腫瘍1例から調製した全RNAを各10ngずつ用い、GeneChipU133Plus2.0(Affimetrix社製)で遺伝子発現解析した。GeneChipU133Plus2.0での全遺伝子の発現スコアの平均値を100としたときの各組織での発現スコアを示す。その結果、HNTmRNA(プローブID:227566 at HG-U133 plus2)は、正常膵、前癌病変では発現スコアが低いのに対し、膵臓癌では発現が亢進していることが明らかになった(図2)。
【0103】
【表1】

【0104】
実施例2 HNTcDNAのクローニング
HNTのcDNAは、ヒト胎児脳のcDNAをテンプレートにしたPCR法によって増幅した。この時、GenBank番号(NM_016522)の配列情報を元にORF領域(open reading flame)を含む断片を増幅するように設計されたプライマーセットHNT−SpeI−FW (配列番号2:GGACTAGTACCATGGGGGTCTGTGGGTAC)とHNT−XbaI−RV (配列番号3:TACTCTAGACTAAATTTGAGAAGCAGGTGCAAGAC)を用いた。このPCR反応にはKOD−plus(東洋紡社)を用い、条件は94℃−30秒、55℃-30秒、68℃−60秒、30サイクルで行った。
その後、アガロースゲル電気泳動により目的のサイズの約1.2kbpのバンドを含むゲルを切り出し、このゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて精製を行い、HNTの全長cDNA(以下、HNTfullcDNA)を得た。HNTfullcDNAの配列は常法に従いNM_016522と一致することを確認した。
【0105】
実施例3 HNTの抗原の調製
(1)HNTの全長cDNAのほ乳類動物細胞での発現ベクターの作製
前述のHNTfullcDNAをほ乳類発現用ベクターpEF4/Myc−HisB(Invitrogen社製)へ挿入するために、2種類の制限酵素SpeI(TaKaRa社製)およびXbaI(TaKaRa社製)で37℃、1時間処理した後、同じくSpeI/XbaIで処理したpEF4/Myc−HisBにラピッドDNAライゲーションキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)によってライゲーションすることによって挿入した。定法により塩基配列解析を行い、目的の発現ベクターpEF4/HNTfullを得た。
【0106】
(2)HNTの細胞外領域に相当する部分長cDNAのほ乳類動物細胞での発現ベクターの作製
HNTの全長cDNA(HNTfullcDNA)をテンプレートにし、GenBank番号(NM_016522)の配列情報を元にHNTの細胞外領域に相当する部分のcDNA断片(sHNTcDNA)を増幅するように設計されたプライマーセットHNT−F(HindIII) (配列番号4:CGCAAGCTTACCATGGGGGTCTGTGGGTACCTGTTCCTG)とsHNT−R(His−NotI)(配列番号5:ACAAGCGGCCGCTCAATGGTGATGGTGATGATGGCTCACCTCGCTGACGGC)を用いてPCR反応を行った。この反応にはKOD−plus(東洋紡社)を用い、条件は94℃-15秒、55℃-30秒、68℃−90秒、30サイクルで行った。
アガロースゲル電気泳動により目的のサイズに近い約1000bpのバンドを含むゲルを切り出し、ゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて精製を行うことによって目的のsHNTcDNAを得た。
このsHNTcDNAをほ乳類発現用ベクターpEB6CAGMCS−I−GFP へ挿入するために、2種類の制限酵素HindIII(TaKaRa社製)およびNotI(TaKaRa社製)で処理した後、同じくHindIII/NotIで処理したpEB6CAGMCS−I−GFPにT4 DNA Ligase(プロメガ社製)によってライゲーションすることによって挿入した。定法により塩基配列解析を行い、目的の発現ベクターpEB6CAGMCS/sHNTを得た。
【0107】
(3)HNT全長タンパク質およびsHNTタンパク質の発現
FuGENE6トランスフェクション試薬(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)のプロトコールに準じて、トランスフェクション前日に径10cmディッシュに8×105 cellのCHO細胞を播種し一晩培養を行い、翌日に、8μgの発現ベクターpEF4/HNTfullまたはpEB6CAGMCS/sHNTと16μLのFuGENE6試薬を400μLの無血清Opti-MEM培地(Invitrogen社製)に混合し、15〜45分間の室温におけるインキュベーションを行った後、細胞培養液に加えトランスフェクションを行った。トランスフェクション翌々日に限界希釈法および選択試薬であるZeocin(pEF4/HNTfullの場合、Invitorogen社製)あるいはG418(pEB6CAGMCS/sHNTの場合、Invitorogen社製)を用いてクローニングを開始した。
HNT全長発現CHOは、抗HNTモノクローナル抗体(R&D Systems社製)を用いたウェスタンブロットおよび抗HNTヤギ・ポリクローナル抗体(R&D Systems社製)を用いたフローサイトメトリー(ベクトンディッキンソン社製FACScaliburを使用)を用いることにより、シグナルが強く、しかも増殖が良好なクローンを選択した。その結果、HNT全長発現CHOクローン(EXZ1903−4)が得られ、EXZ1903−4をモノクローナル抗体作製時のスクリーニングに使用した。
sHNT発現CHO細胞のスクリーニングは、抗HNTモノクローナル抗体(R&D Systems社製)を用いたウェスタンブロットで培養上清中に分泌されるsHNTの濃度を解析することで行った。培養上清中への分泌量が多く、しかも増殖が良好なクローンを選択した結果、sHNT発現CHOクローン(EXZ1802)が得られた。この選択されたsHNT発現CHOクローン(EXZ1802)を培養面積1,500cm2のローラーボトル3本を用い、ローラーボトル1本あたり無血清培地CHO−S−SFM−II(Invitrogen社)333mLにて72時間培養を行い、培養上清を回収した。得られた培養上清からHisTrapHPカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス社製)によるアフィニティークロマトグラフィーとSuperdex200pgカラムによるゲル濾過クロマトグラフィーによって精製sHNT His tag融合タンパク質(以下、sHNTタンパク質として示す)を得た。非還元下のSDS−PAGEで解析したところ、95%以上の純度であることが確認された。この精製された融合タンパク質をPBSに対し透析を行い、免疫用抗原およびエピトープ同定などの解析用抗原として用いた。sHNTタンパク質の濃度は、既知濃度の純品のウシ血清アルブミンを検量線としたBCA法(PIERCE社製キットを使用)で算出した。
【0108】
(4)HNT全長を発現する組み換えバキュロウイルスの作製
(1)で作製したpEF4/HNTfullを2種類の制限酵素KpnI(TaKaRa社)およびPmeI(TaKaRa社)で37℃、1時間処理した後、アガロースゲル電気泳動によって分離し、目的のHNT全長およびMyc−Hisタグ部分を含むcDNA断片を切り出しキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて目的のcDNA断片を精製した。
トランスファーベクターpBlueBac4.5(Invitrogen社製)を制限酵素HindIII(TaKaRa社)で37℃、1時間処理した後、DNA Blunting Kit(TaKaRa社)によって末端を平滑化し、制限酵素KpnI(TaKaRa社))によって37℃、1時間処理した。アガロースゲル電気泳動を行い目的のバンドを含むゲルを切り出し、ゲル断片からキアクイックゲル抽出キット(QIAquick gel extraction kit;キアゲン社)を用いて目的のベクターを精製した。
このようにして精製したHNT全長およびMyc−Hisタグ部分を含むcDNA断片をトランスファーベクターpBlueBac4.5にラピッドDNAライゲーションキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)によって挿入した。定法により塩基配列解析を行い、目的の発現ベクターpBlueBac4.5/HNTfullを得た。次いで、4μgのpBlueBac4.5/HNTfullを制限酵素BpII(Fermentas社)にて切断直鎖化した後、Invitrogen社の指示書に準じてBac−N−Blue DNAと共にSf9細胞に導入し、HNT全長タンパク質発現組み換えバキュロウイルスを調製した。
上記により調製した組み換えバキュロウイルスをSf9細胞(2×106個細胞/mL)にMOIが5となるように加え感染させた後、27℃で3日間培養した。HNT全長タンパク質を発現する発芽型バキュロウイルス(BV)は3日間培養後の培養上清より回収した。すなわち、培養液を800xgで15分間遠心し、細胞ならびに細胞破砕物を除去した後、回収した培養上清を45,000gで30分間遠心した。沈殿物をPBSで懸濁した標品をHNTfull−BVとし免疫抗原およびスクリーング用抗原に使用した。
【0109】
実施例4 抗HNTモノクローナル抗体の作製
sHNTタンパク質を免疫原としたモノクローナル抗体の作製
生理食塩水に溶解した50μgのsHNTタンパク質とTiter−MAX(TiterMax USA, Inc.)を等量混合してMRL/lprマウス(三共ラボサービス)に腹腔内および皮下に注射する事により初回免疫を行った。2回目以降の免疫は同様に調製した25μgタンパク質量相当のsHNTタンパク質とTiter−MAXを混合して腹腔内および皮下に注射することにより実施した。最終免疫から3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、ポリエチレングリコール法によってマウスミエローマ細胞NS―1との細胞融合を行った。
【0110】
(2)HNTfull−BVを免疫原としたモノクローナル抗体の作製
上述の方法により調製したHNTfull−BVを生理食塩水に懸濁し、1mgのタンパク量に相当するHNTfull−BVと200ngの百日咳毒素と混合したものをgp64トランスジェニックマウス(WO03/104453)の皮下に注射することで初回免疫を行った。2回目以降の免疫は500μgタンパク量相当のHNTfull−BVのみを皮下注射した。最終免疫として250μgのHNTfull−BVを腹腔内注射し、その3日後にマウスから脾臓細胞を無菌的に調製し、ポリエチレングリコール法によってマウスミエローマ細胞NS−1と細胞融合した。
【0111】
(3)抗HNT抗体産生ハイブリドーマのスクリーニング
ハイブリドーマ培養上清中の抗HNT抗体の1stスクリーニングは、sHNTタンパク質を免疫原として作製したハイブリドーマ株についてはsHNT固相化ELISAおよびHNTfull−BV固相化ELISA、HNTfull−BVを免疫原として作製したハイブリドーマ株についてはsHNT固相化ELISAによって行った。すなわち、sHNTの場合は2.5μg/mL、HNTfull−BVの場合は5μg/mLの濃度の抗原をELISA用プレートのウェルに50μLずつ分注し4℃で一夜放置することで抗原を固相化した。次いで0.05% Tween−20を含むPBS (以後、Tween−PBS)でウェルを洗浄し、40%ブロックエース(雪印乳業製)を含む20mM Tris−HCl, 150mM NaCl pH8.0(40% BA−TBS)を200μL/well分注して室温で1時間放置することでプレート上の未吸着部分をブロッキングした。Tween−PBSでウェルを洗浄後、ハイブリドーマ培養上清を50μL/well分注し、室温で1時間反応させた。
Tween−PBSでウェルを洗浄後、10%ブロックエース(雪印乳業製)を含む20mM Tris−HCl, 150mM NaCl pH8.0(10%BA−TBS)で15000倍に希釈したペルオキダーゼ標識抗マウス抗体ヒツジIgGを50μL/well分注し、室温で1時間反応させた。Tween−PBSで洗浄後、TMB試薬(SCYTEK社)で暗所にて室温、30分間反応させたのち、STOP液(SCYTEK社)にて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーにて波長450nmでの吸光度を測定した。
1stスクリーニングのELISAで陽性であったウェルのハイブリドーマの培養上清につき、2ndスクリーニングとしてHNT全長発現CHOクローン(EXZ1903−4)および膵癌細胞株QGP−1またはKP−4用いたフローサイトメトリーを行った
まず、HNT全長発現CHO細胞および膵癌細胞株QGP−1またはKP−4の細胞膜表面にHNTが発現しているか否かをFACScalibur(ベクトンディッキンソン社製)を用いたフローサイトメトリーで解析した。すなわち、HNT全長発現CHOクローン(EXZ1903−4)および膵癌細胞株QGP−1またはKP−4を2mM EDTA−PBSで処理することで培養プレートから剥離後、1×106個/mLとなるようにFACS溶液(1%ウシ血清アルブミン、0.1mMEDTA、0.1% NaN3を含有するPBS)に懸濁した。この細胞懸濁液を50μL/wellとなるように96ウェルプレート(BDファルコン社製)に播種し市販の抗HNTヤギ・ポリクローナル抗体(0.03μg/well、R&D Systems社製)を加えて4℃で60分間反応させ、FACS溶液(200μL/well)で2回洗浄した後、FITC標識抗ヤギIgG・ウサギIgG抗体(カペル社製)を加えて、4℃で30分間反応させた。
そしてFACS溶液で2回洗浄した後、使用説明書に準じてFACScalibur(ベクトンディッキンソン社製)を用いてフローサイトメトリーを実施した。抗HNTヤギ・ポリクローナル抗体の陰性コントロールには正常ヤギIgGを用いた。
得られた抗HNT抗体産生ハイブリドーマ株(PPZ4034)についての結果を図3A〜Dに示す。HNT発現CHO細胞では強いシフトが認められ、膵臓癌由来細胞株QGP−1でもシフトが認められた。膵臓癌由来細胞株PK−45Pではシフトが認められず、PK−45PではHNTの細胞膜上への発現が無いかごく少ないことがわかる。
【0112】
実施例5 全長HNT発現CHO細胞に対する抗HNT抗体の細胞傷害活性(CDC活性)
CDC活性の測定は、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にする方法によった。具体的には、CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(プロメガ社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って以下の通り実施した。
【0113】
標的細胞として、全長HNT発現CHO細胞を用いた。これらの細胞をプレートから剥離後、2×105個/mLとなるように10%FBS含有DMEM培地に懸濁し、96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に100μL/wellで分注して炭酸ガスインキュベーター中で一夜培養した。翌日、プレート底面に接着した細胞を5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で2回洗浄した後、各ウェルに5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)を30μL/well分注し、さらにハイブリドーマ培養上清を30μL/Well分注た後、氷上で30分間インキュベーションした。
次いで、Baby Rabbit Complement(CEDARLANE社製)を5%FBS含有RPMI培地(フェノールレッド不含)で16倍に希釈した補体標品(標的細胞がHNT全長発現CHOクローン(EXZ1903−4)の場合)あるいは同培地で8倍に希釈した補体標品(標的細胞が膵癌由来細胞株KP−4あるいはQGP−1の場合)を20μL/well分注し、炭酸ガスインキュベーター中で4時間培養した。培養後、50μLの上清を回収し、平底の酵素アッセイ用プレートへ移した。そこへ、キット付属の基質混合液を50μL/well添加し、遮光下、室温で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応停止液50μL/wellを添加した。反応停止後、マイクロプレートリーダーを用いて波長490nmにて吸光度を測定した。なお、陽性コントロールとして市販のヤギ抗HNTポリクローナル抗体(R&Dシステムズ社)を、陰性コントロールとしてHNTと反応しないことが予め明らかである抗体(K7124)を用いた。
【0114】
標的細胞として膵臓癌由来細胞株QGP−1を用いて同様の方法でCDC活性を測定した。なお、陽性コントロールとして市販のヤギ抗HNTポリクローナル抗体(R&Dシステムズ社)を、陰性コントロールとしてHNTと反応しないことが予め明らかである市販のヤギポリクローナル抗体を用いた。
【0115】
細胞傷害活性は、以下の通り求めた。
細胞傷害活性(%)=(A−B−C)/(D−C)×100
A:[各試料における吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
B:[補体に由来するLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
C:[標的細胞から自然に放出されるLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウン
ドの吸光度]
D:[0.9%Triton−X100添加により標的細胞から100%放出されたLDHによる吸光度] −[培養液のバックグラウンドの吸光度]
【0116】
ハイブリドーマPPZ4034、PPZ4038、PPZ4070のCDC活性の測定結果を表2に示した。
【0117】
【表2】

【0118】
実施例6 全長HNT発現CHO細胞に対する抗HNT抗体の細胞傷害活性(ADCC活性)
ADCC活性の測定は、標的細胞に内在する乳酸脱水素酵素(LDH)の放出を指標にする方法によった。具体的には、CytoTox96 Non−Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(プロメガ社製)を用い、キットに添付のプロトコールに従って以下の通り実施した。
【0119】
(1)エフェクター細胞の調製
C3Hマウス(8週齢、オス、埼玉実験動物)から脾臓を摘出し、10%FBS含有RPMI1640培地中で脾細胞を分離した。同培地で洗浄後、細胞濃度を5×106個/mLに調製し、500U/mL ヒトIL−2(PEPROTECHEC社製)、10ng/mL マウスGM−CSF(PEPROTECHEC社製)存在下で3日間培養した。測定当日、脾細胞を回収し、5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)で洗浄後、同培地で1.25×107個/mLに調製し、エフェクター細胞とした。
【0120】
(2)標的細胞の調製
標的細胞として、全長HNT発現CHO細胞を用いた。細胞をプレートから剥離後、5%FBS含有DMEM培地(フェノールレッド不含)に懸濁し、2×104個/wellとなるように96ウェルU底プレート(Beckton Dickinson社製)に20μL/well分注した。
【0121】
(3)ADCC活性の測定
標的細胞にハイブリドーマの培養上清を30μL/well分注した後、30分間インキュベーションした。次いで、エフェクター細胞を30μL/well分注し、炭酸ガスインキュベーター中で4時間培養した。培養後、50μLの上清を回収し、平底の酵素アッセイ用プレートへ移した。そこへ、キット付属の基質混合液を50μL/well添加し、遮光下、室温で30分間インキュベートした。インキュベート後、反応停止液50μL/wellを添加し、マイクロプレートリーダーを用いて波長490nmにて吸光度を測定した。
【0122】
細胞傷害活性は、以下の通り求めた。
細胞傷害活性(%)=(A−B−C)/(D−C)×100
A:[各試料における吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
B:[エフェクター細胞に由来するLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
C:[標的細胞から自然に放出されるLDHによる吸光度]−[培養液のバックグラウンドの吸光度]
D:[0.9%Triton−X100添加により標的細胞から100%放出されたLDHによる吸光度] −[培養液のバックグラウンドの吸光度]
【0123】
3種のハイブリドーマについての結果を表3に示した。表中、陰性対照とはHNTに反応性を示さないことが事前に判明している抗体である。この陰性対照の抗体が示したADCC活性値14.3%に対し、20%以上の高いADCC活性を示す結果が得られた。
【0124】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】正常組織(A)及び各種癌組織(B)におけるHNTmRNAを示す。
【図2】膵臓癌患者より採取した腫瘍組織の癌部のHNTmRNAの発現を示す。
【図3】各種細胞に抗HNT抗体を反応させてフローサイトメトリーを行った結果を示す。横軸の正の方向へのピークのシフトが大きいほど抗HNT抗体が結合した細胞数が多いことを表す。A:HNT発現CHO細胞、B:膵臓癌由来細胞株QGP−1、C:CHO細胞、D:膵臓癌由来細胞株PK−45P

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗HNT抗体を含有する癌診断薬。
【請求項2】
癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である請求項1に記載の癌診断薬。
【請求項3】
抗HNT抗体がHNTタンパク質細胞外領域と結合する抗体である請求項1又は2記載の癌診断薬。
【請求項4】
血液中、血清中、血漿中または臓器組織に抗HNT抗体を反応させてHNTタンパク質を検出することにより使用されるものである請求項1〜4いずれか1項記載の癌診断薬。
【請求項5】
標識した抗HNT抗体を投与後画像診断によりHNTタンパク質を検出することにより使用されるものである請求項1〜3いずれか1項記載の癌診断薬。
【請求項6】
癌患者のうち、治療対象患者を選択するための診断薬である請求項1〜5のいずれか1項記載の癌診断薬。
【請求項7】
被験者から採取された試料に抗HNT抗体を反応させ、当該試料中のHNTタンパク質を検出することを特徴とする癌の診断方法。
【請求項8】
癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である請求項7に記載の癌の診断方法。
【請求項9】
被験者から採取された試料が血液、血清、血漿または臓器組織である請求項7又は8記載の癌の診断方法。
【請求項10】
抗HNT抗体を有効成分とする癌治療薬。
【請求項11】
癌が、肺癌、腎臓癌、大腸癌または膵臓癌である請求項10に記載の癌治療薬。
【請求項12】
抗HNT抗体がHNTタンパク質細胞外領域と結合する抗体である請求項10又は11記載の癌治療薬。
【請求項13】
抗HNT抗体が細胞傷害活性を有する抗体である請求項10〜12いずれか1項記載の癌治療薬。
【請求項14】
抗HNT抗体がアイソトープ標識あるいは細胞傷害活性を有する化合物を結合させた抗体である請求項10〜12いずれか1項記載の癌治療薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−133705(P2010−133705A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68053(P2007−68053)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(503196776)株式会社ペルセウスプロテオミクス (25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】