説明

癌及び腺腫の検査方法

【課題】 高率で癌患者及び癌の危険度の高い患者を検出することができる検査方法及び検査薬を提供する。
【解決手段】 糖鎖硫酸化酵素GlcNAc-6-硫酸基転移酵素のアイソザイムの分布に非癌組織と癌及び腺腫組織との間で顕著な差異があることを見出し、これを応用することによって一定範囲のGlcNAc-6-硫酸化糖鎖群を患者組織や糞便検体から検出することにより癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)を特異的に検出できることを明らかにした。癌及び腺腫組織に存在する酵素により特異的に生成されるGlcNAc-6-硫酸化糖鎖と反応する抗体を用いて癌及び腺腫の検査ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒトの癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査方法、及びそのため検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者は年々増加しており、早期発見のための検査方法が必要とされている。現在、癌や腺腫の検査には便の免疫潜血反応や各種の腫瘍マーカーが利用されているが、いずれもその陽性率は満足出来るものではない。すなわち、癌や腺腫の検査のために用いられている便の免疫潜血反応検査の陽性率は50〜60%であり、例えば、大腸癌の腫瘍マーカーとしては癌胎児性蛋白(carcino-embryonic antigen, CEA)、CA19-9、STXなどがあり治療効果の判定や再発のモニターとして用いられているが、早期大腸癌の発見に関して十分な腫瘍マーカーであるとはいえない。
【0003】
正常大腸においては糖鎖の硫酸化がさかんであるが、大腸癌においては、糖鎖の硫酸化は顕著に低下することが知られており、大腸に多いガラクトースの3'-硫酸化も、あるいはN-アセチルグルコサミン(以下「GlcNAc」という。)の6-硫酸化も減少する(非特許文献1)。患者大腸癌組織及び非癌大腸組織においてGlcNAc-6-硫酸基転移酵素の多数のアイソザイムが知られているが、そのなかでI-GlcNAc6STは癌化にともなって顕著に減少するため、大腸癌における糖鎖の硫酸化の顕著な低下が説明される(非特許文献2)。他方、非癌大腸のアイソザイムのひとつであるGlcNAc6ST-1は、癌化にともなって量的に顕著な変化を示さない。さらに、他のアイソザイムであるHEC-GlcNAc6STは癌で顕著に増加する(非特許文献3)。
【0004】
癌で増加するHEC-GlcNAc6STは6-硫酸化GlcNAcを合成するが、この酵素はいろいろな糖鎖中のGlcNAcを硫酸化するので、実際に細胞内で合成される糖鎖の構造と抗原性はきわめて多様である。一方、GlcNAc6ST-1やI-GlcNAc6STも6-硫酸化GlcNAcを合成するため、6-硫酸化GlcNAcがHEC-GlcNAc6STにより合成されるというだけでは、癌や腺腫の特異的診断に用いることができない。
しかし、GlcNAc6ST-1及びI-GlcNAc6STの基質特異性はHEC-GlcNAc6STよりも狭いことが判明している(非特許文献3,4)。また、本発明者らにより、GlcNAc6ST-1やI-GlcNAc6STであまり合成されず、HEC-GlcNAc6STだけが合成できる6-硫酸化糖鎖が存在することを見出しているが(非特許文献5)、いままで癌や腺腫を診断できるような具体的な系は作られてはいなかった。
【0005】
一方、リンパ球の免疫学的ホーミングリセプターに対する抗体として市販されているモノクローナル抗体(MECA-79抗体)(非特許文献6)が化学合成品のGlcNAc 6-硫酸化糖鎖と反応することが知られている(非特許文献7)。更に、マウスのHEC-GlcNAc6ST酵素を、CHO細胞(ハムスターの卵巣の細胞)に遺伝子導入すると、細胞表面にこの抗体(MECA-79)が認識する抗原が出現することが報告されている(非特許文献8)。
本発明者らは、既にヒトの大腸癌細胞においてこのMECA-79抗体が認識する抗原が存在しており、その抗体が大腸癌及び大腸線種の検査に利用できることを見出している(特願2003-296216、PCT/JP2004/009805)。
【0006】
【非特許文献1】Izawa, M. et al., Cancer Res., 60: 1410-1416, 2000
【非特許文献2】第22回日本分子腫瘍マーカー研究会講演予稿集, pp. 42-43, 2002
【非特許文献3】Seko, A. et al., Glycobiology, 10: 919-929, 2000
【非特許文献4】Seko, A. et al., Glycobiology, 12: 379-388, 2002
【非特許文献5】The Journal of Biological Chemistry, vol.277, No.6, 3979-3984(2002)
【非特許文献6】Streeter, P.R. et al., J. Cell Biol. 107: 1853-1862, 1988
【非特許文献7】Bruehl, R.E. et al., J. Biol. Chem. 275: 32642-32648, 2000
【非特許文献8】Yeh, J.C. et al., Cell 105: 957-969, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高率で癌患者及び癌(但し、大腸癌患者及び大腸癌を除く。)の危険度の高い患者を検出することができる癌及び腺腫の診断に役立つ検査方法及び検査薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は検討の結果、糖鎖硫酸化酵素GlcNAc-6-硫酸基転移酵素のアイソザイムの分布に非癌組織と癌及び腺腫組織との間で顕著な差異があることを見出し、GlcNAc6ST-1やI-GlcNAc6STであまり合成されず、HEC-GlcNAc6STだけが合成できる6-硫酸化糖鎖を患者組織や糞便検体から検出することにより癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)を特異的に検出できることを明らかにした。
従来GlcNAc-6-硫酸化糖鎖と反応する抗体として、AG223 (Biochem. (Tokyo), 124: 670-678, 1998)、G152, G72, AG97, AG107, AG273, G2706, G27011, G27039 (以上、J. Biol. Chem., 273: 11225-11233, 1998)等多数が知られている。一方、リンパ球の免疫学的ホーミングリセプターに対する抗体として市販されているMECA-79抗体(ファーミンジェン社製カタログ番号09961D、ベクトン・ディッキンソン社販売)もまた何らかのGlcNAc-6-硫酸化糖鎖と反応することが知られている(非特許文献6)。これらの抗体のうち、正常細胞に見られるGlcNAc-6-硫酸化糖鎖をよく発現する細胞とは反応性が弱いかあるいは皆無であり、癌で増加するGlcNAc-6-硫酸化糖鎖をよく発現する細胞との反応性が高い抗体を求めてスクリーニングし、得られた抗体を患者由来の検体を対象に用いて検索したところ、種々の癌に高率に陽性となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、被検者の組織、体液若しくは糞便又はこれらの抽出物に対する抗体の反応性の有無又は反応強度を検査することから成る癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査方法であって、該抗体が、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない抗原と特異的に反応することを特徴とする検査方法である。
この抗原は、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞には存在しないか又は微量にしか存在しないものであってもよい。
【0010】
この抗原は下記一般式
R1-Galβ1-3/4(SO3-6)GlcNAcβ1-R2
(式中、R1は他の酵素群によって付加される糖残基であり特に構造は限定されない。Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Galβ1−3/4は、Galβの1位とGlcNAcβの3位及び/又は4位とが結合することを示し、(SO3-6)はGlcNAcβの6位に硫酸基が付加していることを示し、R2は−3GalNAcα、−3Galβ又は−2Manαを表し、GlcNAcβの1位に結合する。)で表される糖鎖を有する。
また、本発明は、被検者の組織、体液若しくは糞便又はこれらの抽出物に対する、MECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号09961D)又はこれの同等物の反応性を検査することから成る癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査方法である。
【0011】
また、本発明は、更にこの抗体に標識を付したプローブを反応させ、この標識を定性的又は定量的に検出することから成る上記いずれかの検査方法である。
好ましい検査方法は、患者の組織、体液若しくは糞便又はこれらの抽出物中に存在する抗原を支持体に固定し、これに抗体を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る。各工程間に適宜洗浄工程を入れることが好ましい。このプローブとしては、抗ヒトIgG抗体、プロテインG、プロテインA、プロテインLなどが挙げられる。このプローブには通常標識を付す。この標識としては、放射性同位元素(125I)、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)が挙げられる。酵素抗体を用いた場合には、基質を反応させてその変化(着色等)を観察すればよい。
【0012】
また、本発明は、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬である。
また、本発明は、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬である。
【0013】
また、本発明は、癌又は腺腫患者の組織、体液若しくは糞便中に存在し、下記一般式
R1-Galβ1-3/4(SO3-6)GlcNAcβ1-R2
(式中、R1は他の酵素群によって付加される糖残基であり特に構造は限定されない。Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Galβ1−3/4は、Galβの1位とGlcNAcβの3位及び/又は4位とが結合することを示し、(SO3-6)はGlcNAcβの6位に硫酸基が付加していることを示し、R2は−3GalNAcα、−3Galβ又は−2Manαを表し、GlcNAcβの1位に結合する。)で表される糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
GlcNAc6ST-1やI-GlcNAc6STであまり合成されず、HEC-GlcNAc6STだけが合成できる6-硫酸化糖鎖の構造は、一般式
R1−Galβ1−3/4(SO3-−6)GlcNAcβ1−R2
で表される。
【0015】
体内にはGlcNAc-6-硫酸化酵素が働く相手であるGlcNAcβは、さまざまな糖鎖担体に担われている。R2はその担体を示す。????
我々及び他の研究者による研究から、HEC-GlcNAc6STはこれまで試されたすべてのGlcNAcβ1−R2に硫酸基を転移する能力を持つことが判明している(非特許文献4、7等)。これに対してGlcNAc6ST-1及びI-GlcNAc6STは、特定のR2部分を持つ場合のみ硫酸基を転移する能力を持つ。
HEC-GlcNAc6STが硫酸基を転移するが、GlcNAc6ST-1及びI-GlcNAc6STがあまり硫酸基を転移できないのは、R2が−3GalNAcαである場合(硫酸化後の構造はSO3-−6GlcNAcβ1−3GalNAcαとなる)と、−3Galβである場合(硫酸化後の構造はSO3-−6GlcNAcβ1−3Galβとなる)と、−2Manαである場合(硫酸化後の構造はSO3-−6GlcNAcβ1−2Manαとなる)であることが判明している(J. Biol. Chem., 277: 3979-3984, 2002及びGlycobiology, 12: 379-388, 2002)。本発明の検査法においては、これら三者のいずれかに特異的な抗体を用いてもよいし、また三者の糖鎖のすべてと交叉反応する抗体でもよい。
【0016】
細胞内でGlcNAc-6-硫酸化酵素は、糖鎖末端のGlcNAcに硫酸基を付加して上記のように6-硫酸化GlcNAc(即ち、SO3-−6GlcNAc)を合成する。しかし、糖鎖末端に6-硫酸化GlcNAcが生じた後にも、細胞内では他の酵素群によってさらにこれに糖残基(R1)が付加されるので、最終的に合成され細胞から産生される糖鎖の構造と抗原性は多種多様となる。通常6-硫酸化GlcNAcにまず付加される構造はGalβ1−4及びGalβ1−3である(Galβ1−3/4と表記する)。さらにこれに加えて、NeuAcα2−3/6、SO3-−3/6、Fucα1−2/3/4が付加することが一般的に知られている。このR1部分はGlcNAc-6-硫酸化酵素による6-硫酸化GlcNAcの合成が終わったのちに、あとになって付加されるものである。このためR1部分はHEC-GlcNAc6ST、GlcNAc6ST-1やI-GlcNAc6STなどのGlcNAc-6-硫酸化酵素の基質特異性とは関わりがない。
【0017】
このような糖鎖を有する抗原は、大腸癌患者から生検あるいは外科手術で得られたがん組織や、それに由来する物質を含む血清・腹水・糞便などの検体に存在する。またこれらから、この抗原をリン酸緩衝食塩水などで簡単に抽出することが出来る。またこの糖鎖抗原に対する抗体は公知の抗体産生技術(たとえばMethods in Enzymology, 312: 160-179, 2000; Methods in Molecular Biology, 199: 203-218, 2002など)を用いて得ることが出来る。この抗体の例としてMECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号09961D、図4及び図5に示す。)を挙げることができる。
【0018】
本願発明の抗体を用いた検査方法及び検査薬は、大腸癌や大腸腺腫のみならず、癌全般及びその発生母地とされる腺腫、即ち悪性腫瘍一般、即ち上皮性の癌及び非上皮性の癌、好ましくは上皮性の癌に適用できる。
悪性腫瘍は、上皮性の癌と非上皮性の癌に分類される。上皮性の癌は、腺癌、扁平上皮癌、及びその他の上皮性の癌に分類され、腺癌には、大腸癌、乳癌、胆嚢癌、胃癌、腎癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、一部の肺癌、甲状腺癌、気管支癌、胆管がん、卵管癌、唾液腺癌、睾、丸癌などが含まれ、扁平上皮癌には、食道癌、肺癌の一部、子宮癌、口腔癌、舌癌、喉頭癌、咽頭がん、皮膚癌、腟癌、陰茎癌などが含まれ、その他の上皮性の癌には、肝癌、膀胱癌などが含まれる。非上皮性の癌には、白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍のほか、骨肉腫、悪性黒色腫、繊維肉腫などが含まれる。
【0019】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
参考例1
まず、ヒト由来の大腸癌細胞株としてColo 201細胞を用い、正常大腸上皮細胞株として、SW480細胞(東北大医用細胞資源センターから入手)をトリコスタチンA処理したTSA-SW480細胞を用いてRT-PCR法によりGlcNAc-6-硫酸化酵素アイソザイムの遺伝子発現をしらべた。
RT-PCR解析において、HEC-GlcNAc6ST遺伝子(Genebank AF131235)発現の検出用のPCRプライマーとしてupper strand側は配列番号1、lower strand側は配列番号2の合成オリゴヌクレオチドを用い(Tm=59℃)、GlcNAc6ST-1遺伝子(Genebank AB011451)発現検出用のプライマーとしてupper strand側は配列番号3、lower strand側は配列番号4の合成オリゴヌクレオチドを用い(Tm=62℃)、I-GlcNAc6ST遺伝子(Genebank AF176838)発現検出用のPCRプライマーとして、upper strand側は配列番号5、lower strand側は配列番号6の合成オリゴヌクレオチドを用いた(Tm=60℃)。
その結果を図1に示す。大腸癌細胞株(Colo 201細胞)が、HEC-GlcNAc6ST遺伝子を強く発現し、GlcNAc6ST-1及びI-GlcNAc6ST遺伝子をほとんど発現しない典型的な大腸癌パターンを示す細胞であることが判明した。また、TSA-SW480細胞が、HEC-GlcNAc6ST遺伝子をほとんど発現せず、GlcNAc6ST-1及びI-GlcNAc6ST遺伝子を有意に発現する典型的な正常上皮パターンを示す細胞であることが判明した。
【実施例1】
【0020】
ヒト大腸癌株化細胞SW480(東北大医用細胞資源センターから入手)にHEC-GlcNAc6ST (Genebank NM_005769)、GlcNAc6ST-1 (Genebank NM_004267)、I-GlcNAc6ST (Genebank NM_012126)各遺伝子cDNAを薬剤耐性neo遺伝子とともに導入した。薬剤選択を行ってクローン化したのちRT-PCR法にて遺伝子発現を確認した。これらは、維持培養中に、6-硫酸基転移酵素遺伝子産物を定期的に検出することによって遺伝子発現をモニターして安定発現を確認した。
これら癌細胞を用いて、常法に従ってマウスを免疫し、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素を遺伝子導入した癌細胞と反応するが、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6STを遺伝子導入した癌細胞とは反応しない単クローン抗体を作成した。その結果、KN173, KN101, KN439, 7A4等上記条件を満たすいくつかの抗体を得た。
【0021】
細胞と抗体との反応性のスクリーニングには間接蛍光抗体法(一次抗体1.0μg/ml、4℃, 30 min. 二次抗体はZymed Laboratories社のウサギ抗ラットIgM抗体、4℃, 30 min.)で染色したのちにFACScan (Becton Dickinson社) にてフローサイトメトリー解析を行った。
上記で得た単クローン抗体を一次抗体とし4℃, 30 min.反応させた後、二次抗体としてFITC標識ウサギ抗マウス免疫グロブリン抗体(Zymed Laboratories社、4℃, 30 min.)を用いて常法のごとく染色し、ベクトンディッキンソン社の機器FACScanで解析した。その結果を図2に示す。
いずれの抗体もHEC-GclNAc6STを遺伝子導入した癌細胞とのみ反応し、GlcNAc6ST-1またはI-GlcNAc6STを遺伝子導入した癌細胞とは反応しなかった。また、MECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号 09961D)はHEC-GclNAc6STを遺伝子導入した癌細胞に加えて、GlcNAc6ST-1を遺伝子導入した癌細胞とわずかに反応した。
なお、図2中、陽性対照抗体KN412は、いずれの6-硫酸基転移酵素遺伝子の産物とも反応する汎6-硫酸化抗体であり、遺伝子導入細胞における6-硫酸基転移酵素遺伝子発現を示す対照抗体である。
【実施例2】
【0022】
実施例1で得たクローン7A4の分泌する抗体を用いたサンドイッチELISA系により、各種癌患者血清中の6-硫酸化糖鎖を測定した。クローン7A4の分泌するモノクローナル抗体7A4を固定化したマイクロプレート上に患者血清サンプルを反応させ、引きつづいてビオチン標識した同抗体を反応させ、ストレプトアビジン標識Horse Radish Peroxidaseを反応させたのち、TMB基質を用いて発色させ、発色反応を停止後、620nmにおけるサンプルの吸光度を対照として反応を吸光度450nmで測定した。Normal(正常人)の平均+2SDをカットオフラインとして陽性、陰性を判定した。
その結果を図3に示す。乳癌(breast)、膵癌(pancreatic)、胆嚢癌(gall bladder)、食道癌(esophageal)、胃癌(gastric)、肝癌(hepatocellular)、腎癌(kidney)、前立腺癌(prostate)、肺癌(lung)、卵巣癌(ovarian)、子宮癌(uterine)など広範な癌で当該硫酸化糖鎖が増加していることが判明した。健常人は全例陰性であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】大腸癌細胞株(COLO201細胞)と正常大腸上皮細胞株(トリコスタチンA処理したSW480細胞)について、MECA-79抗体を用いたフローサイトメトリー解析結果を示す図である。
【図2】フローサイトメトリー法による各種抗体との反応性を示す図である。縦軸は細胞頻度(細胞個数)、横軸は蛍光強度(Arbitrary Unit)を表す。Transfectantは遺伝子導入細胞を示す。
【図3】本発明による抗体7A4を用いたサンドイッチELISA系による各種癌患者血清中の糖鎖の測定例を示す図である。
【図4】MECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号09961D)のカタログを示す図である。
【図5】MECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号09961D)のカタログを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の組織、体液若しくは糞便又はこれらの抽出物に対する抗体の反応性の有無又は反応強度を検査することから成る癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査方法であって、該抗体が、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない抗原と特異的に反応することを特徴とする検査方法。
【請求項2】
前記抗原が、GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記抗原が下記一般式
R1-Galβ1-3/4(SO3-6)GlcNAcβ1-R2
(式中、R1は他の酵素群によって付加される糖残基であり特に構造は限定されない。Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Galβ1−3/4は、Galβの1位とGlcNAcβの3位及び/又は4位とが結合することを示し、(SO3-6)はGlcNAcβの6位に硫酸基が付加していることを示し、R2は−3GalNAcα、−3Galβ又は−2Manαを表し、GlcNAcβの1位に結合する。)で表される糖鎖を有する請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
被検者の組織、体液若しくは糞便又はこれらの抽出物に対する、MECA-79抗体(ファーミンジェン社カタログ番号09961D)又はこれの同等物の反応性を検査することから成る癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査方法。
【請求項5】
前記抗体に標識を付したプローブを反応させ、この標識を定性的又は定量的に検出することから成る請求項1〜4のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記癌及び腺腫が上皮性の癌及びその発生母地である腺腫である請求項1〜5のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を発現する細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬。
【請求項8】
GlcNAc-6-硫酸基転移酵素HEC-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞に存在し、GlcNAc6ST-1又はI-GlcNAc6ST遺伝子を導入した細胞には存在しないか又は微量にしか存在しない糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬。
【請求項9】
癌又は腺腫患者の組織、体液若しくは糞便中に存在し、下記一般式
R1-Galβ1-3/4(SO3-6)GlcNAcβ1-R2
(式中、R1は他の酵素群によって付加される糖残基であり特に構造は限定されない。Galβはβガラクトースを表し、GlcNAcβはβN-アセチルグルコサミンを表し、Galβ1−3/4は、Galβの1位とGlcNAcβの3位及び/又は4位とが結合することを示し、(SO3-6)はGlcNAcβの6位に硫酸基が付加していることを示し、R2は−3GalNAcα、−3Galβ又は−2Manαを表し、GlcNAcβの1位に結合する。)で表される糖鎖を有する抗原と特異的に反応する抗体を主成分とする癌及び腺腫(但し、大腸癌及び大腸腺腫を除く。)の検査薬。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−200963(P2006−200963A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11151(P2005−11151)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(390004097)株式会社医学生物学研究所 (41)
【Fターム(参考)】