説明

癌治療で細胞増殖抑制剤の毒性を低減するアジュバントとして使用する重水素除去水(DDW)

本発明は、重水素除去水(DDW)の新規な使用に関する、すなわち、健常な生体非近交系ウィスター系ラットに毎日食餌として重水素除去水を濃度60ppmで投与することにより、この動物への単独化学療法で使用される細胞増殖抑制剤(シクロホスファミド、5‐フルオロウラシル、ファルマルビシン、およびビンブラスチン)による有害作用を顕著に低下させることに関する。また、同様の条件下で60ppmのDDWを投与すると、様々な種類の癌に罹患している愛玩犬への多剤化学療法で使用される細胞増殖抑制剤(シクロホスファミド、5‐フロウロウラシル、ファルマルビシン、およびビンブラスチン)の毒性が有意に減少する。これらの関連知見により、60ppmのDDWはペットおよびヒトへの癌化学療法における新規で有効なアジュバントであるという考えが確認される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許は、細胞増殖抑制剤の毒性低減剤として使用されるDDWに関する。
【背景技術】
【0002】
癌を治療する際に、ヒトや動物に化学療法を用いることはよく知られている。化学療法には、腫瘍への好ましい治療効果が得られる一方で、患者にとって有害な免疫抑制作用があり、またはある条件下では二次的な癌さえも誘発しかねない。この理由から、研究者達は細胞増殖抑制剤の毒性を低減することによって治療要因を改善し、癌患者の生活状態を完全に改善する医療手段または他の自然手段の発見に焦点を置いている。
【0003】
結腸直腸癌の化学療法のアジュバントとしてプロカインが正の結果を示すことはよく知られている(Europ. Journal of Cancer, 1995, 31A, p.1283-1287)。Sergio Caffagi、Mauro Expositoらは、新規な細胞増殖抑制剤としてプロカイン抱水クロラールを含むシス‐ジアミノ白金−(II)の合成を実現しているが、このプロカイン抱水クロラールは細胞増殖抑制剤の一種であってインビボおよびインビトロの両方で抗腫瘍作用を有する(Anticancer research, 1992, 12, p.2285-2292)。
【0004】
インビトロおよびインビボにおいて、この新規な細胞増殖抑制剤の腎毒性は従来のシス‐白金細胞増殖抑制剤に比べてはるかに低く、その理由により腫瘍専門病院ではこれが使用されている。実験動物の癌を治療するための重水素除去水の効率的な濃度をインビボで確立する方法が知られており、その方法が実験腫瘍学で利用可能であった(特許出願2003/00685)。この方法によって確認されていることとして、腫瘍がグラフト化する前に重水素除去水(DDW)を濃度60ppmで60日間にわたり継続的に投与し、次いでこの水を極めて長期間(700日)にわたって投与したところ、ウィスター系非近交系ラットでの実験的な悪性腫瘍の発生増殖が幾分阻止され、最終的には体内で増殖した癌の割合は顕著になったが、腫瘍動物の生存期間は(腫瘍増殖が非常に緩慢なために)有意に延長した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によって解決する課題は、癌の化学療法の有害な副作用を回避する治療手段を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はDDWの新規な適用を見出しており、それは、毎日食餌として60ppmの重水素濃度のDDWを投与すると、肝、腎、および造血領域で、ある細胞増殖抑制剤の有害作用が目に見えて低減するというものである。こうした効果から、化学療法に有益な効果を備えたアジュバントとしての60ppm濃度の重水素除去水の使用が推奨される。
【発明の効果】
【0007】
単独化学療法時に重水素除去水を投与する利点を次に示す。
‐ 末梢血およびリンパ節領域で細胞‐血液状態内の有害作用が低減する。
‐ 肝保護作用がある。
‐ 細胞増殖抑制剤によって生じた退行性腎炎の変化の強度が腎臓レベルで低減する。
‐ 細胞増殖抑制剤の代謝に関与するP450酵素の活性が低減する。
‐ 最小限の解糖および血清糖蛋白濃度を決定する。これは細胞増殖抑制剤の毒性が低減されることを示す。
‐ 細胞増殖抑制剤の代謝に伴うグルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ(GST)のレベルの低下を決定するが、DDW投与後にこれらの酵素が到達するレベルが低下するということは、この種の水の正の役割が細胞増殖抑止剤の毒性の最小化に影響すること示す。
‐ 酸化ストレス因子を減少させながら、酸化のプロセスに対する防護作用を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下は、細胞増殖抑制剤の毒性を最小化するアジュバントとしてのDDWの使用例であり、それらが関係する図面を以下に説明する。
図1:細胞増殖抑制剤の最終投与から5日後の成体ウィスター系ラット大腿骨骨髄中の3Hチミジン分布を示す図である。
図2:細胞増殖抑制剤の最終投与から10日後の成体ウィスター系ラット大腿骨骨髄中の3Hチミジン分布を示す図である。
図3:細胞増殖抑制剤の最終投与から5日後の成体ウィスター系ラットリンパ節中の3Hチミジン分布を示す図である。
図4:細胞増殖抑制剤の最終投与から10日後の成体ウィスター系ラットリンパ節中の3Hチミジン分布を示す図である。
【0009】
60ppmの濃度の重水素除去水を健常な成体非近交系ウィスター系ラットに使用した。細胞増殖抑制剤、ビンブラスチン(VBL)、シクロホスファミド(CFS)、5‐フルオロウラシル(5‐Fu)、ファルマルビシン(farmarubicine)(FARM)を使用し、これらの動物に単独化学療法を施した。投与量は以下の通りである。
‐ VBL 0.1mg/kg体重
‐ CFS 5mg/kg体重
‐ 5‐Fu 10mg/kg体重
‐ FARM 1mg/kg体重
【0010】
細胞増殖抑制剤は、連続5日間腹腔内投与(i.p.)した。50%致死量(LD50)により用量を確立した。
【0011】
動物を以下の2群に分けた。
1)細胞増殖抑制剤による治療開始前、細胞増殖抑制剤による治療中、および細胞増殖抑制剤の最終投与後に毎日食餌として水道水を与えた動物(TW1対照群) 注)Tw1‐水道水
2)細胞増殖抑制剤による治療開始前、細胞増殖抑制剤による治療中、および細胞増殖抑制剤の最終投与後に毎日食餌として60ppm重水素除去水を与えた動物(DDW2対照群) 注)DDW2‐重水素除去水
【0012】
細胞増殖抑制剤最終投与から、それぞれ5日後、10日後に動物を屠殺した。動物屠殺後、幾つかの試験、つまり生化学的試験、細胞組織試験、(肝、脾、腎)形態試験、および3HTdRリンパ器官(骨髄およびリンパ小結節)取込み試験を実施した。
【0013】
4種の細胞増殖抑制剤には、副作用としてミエリン抑制があり、それ故に造血髄やリンパ結節腫から得た末梢血の塗抹に対して細胞‐血液試験を実施した。
【0014】
これらの動物の心臓、肝臓、腎臓、および腸にも形態検査を実施した。そのスライドはマイ・グリーンワールドーギームザ(May-Gruenwald-Giemsa)染色した。
【0015】
生化学試験には、全血から抽出した血清にシャル酸を注入するステップ、脂質の過酸化(MDA)ステップ、酸化ストレス因子の定量ステップ(ISO)が含まれた。
【0016】
また、細胞増殖抑制剤の代謝に関与する酵素(シトクロムP450、誘発酵素、GST‐グルタチオンS‐トランスフェラーゼ)も検査した。
【0017】
蛋白質、糖蛋白質、血清蛋白質の解糖の程度、およびこれらの血清蛋白質のアガロースゲル電気泳動を試験した。
【0018】
健常な成体ウィスター系ラットの大腿骨骨髄およびリンパ小結節への3HTdRの取込みを同定した。
【0019】
これら全試験をDDW対照群およびTW対照群で実施した。
【実施例1】
【0020】
A.2群、DDW対照群およびTW対照群における動物の健康発達
細胞増殖抑制剤によって生じた毒性に対する60ppmの重水素除去水の保護作用を、オス、メス各ロットの平均重量が172gの88匹のウィスター系ラットのロットを使用して研究した。動物ロットは、研究室実験動物における薬理学的研究についてのGLPに従って確立されている。
【0021】
動物に毎日食餌としてDDWの投与による、細胞増殖抑制剤の急性毒性を減少させる可能性に注目した。
【0022】
重症度を考慮すると、身体の免疫領域が造血に及ぼす抑制作用が最も重大な副作用であり、ミエリン抑制が細胞増殖抑制剤の用量を制限する要因である。4種の細胞増殖抑制剤には主たる副作用としてミエリン抑制があるからである。この有害な現象の強度は、TW対照群の動物に比べて、DDW対照群ラットの方が低下するのが観察された。
【0023】
ラットの生活の質を観察したが、この因子は、TW対照群に比べDDW群の方が細胞増殖抑制剤の投与に伴うその他の副現象の減少または除去により改善された。
【0024】
すなわち、細胞増殖抑制剤の投与に伴う最も深刻な有害反応によって以下がもたらされることが知られている。
a)消化器系:4種の細胞増殖抑制剤は、嘔気、嘔吐、粘膜の炎症(投与量に応じて口内炎から潰瘍形成まで)、摂食障害、下痢、または便秘を生じる。
b)尿系:シクロホスファミドがミクロおよびマクロ的血尿を生じうる。
c)心血管系および肺系:シクロホスファミドは肺炎および遅発型肺線維症を生じ、シクロホスファミド、5‐フロウロウラシル、およびファルマルビシンは投与量に応じて心不全を生じうる。
d)皮膚:これらの細胞増殖抑制剤は、全て脱毛症、爪および皮膚の色素沈着を生じうる。
e)末梢および中枢神経系:5‐フルオロウラシルおよびビンブラスチンは、運動失調、異常感覚、末梢神経炎を生じうる。
【0025】
これらの徴候は全て、これらの2群の動物で共通して観察された。
【0026】
観察された他のパラメータは以下のとおりであった。
‐ 自然死率
‐ 体重減少
‐ 消化器系出血、鼻出血
‐ 感情鈍麻
‐ 摂食障害
【0027】
上記パラメータの観察により以下の知見が得られた。
‐ シクロホスファミド、5‐フルオロウラシル、またはファルマルビシンを与えたDDW群動物では、自然死動物は一匹も記録されなかった。この動物群内では、5日間の治療中または治療後期間中、いかなる毒性の徴候も見られなかった。同様の治療を受けたTW対照群では、自然死が発生し、明白な毒性徴候を示す動物を屠殺する必要があった。
‐ ビンブラスチン(この場合は、最も有害な細胞増殖抑制剤)を与えたDDW動物群では、低強度の有害作用と、それぞれ、低い割合の死亡率(25%、これに対するTW対照群は66%)が記録された。
‐ 体重増加は2群の動物間で多少の差が見られた。つまり、TW対照群では治療後期間の5日目まで緩やかな体重減少が記録された。ビンブラスチンを与えたDDW群では、動物の体重増加はTW対照と比較してはるかに明白であった。
‐ 動物の臨床状態では、明白な毒性現象を示したTW対照群と比較して、DDW群の場合には、(ビンブラスチンを与えた群以外は、若干の低強度現象が生じた場合)細胞増殖抑制剤に典型的な毒性現象は一切生じないことが実証された。
【実施例2】
【0028】
B.生化学試験
a)シャル酸投薬
細胞の生物学的特性を顕示する際のシャル酸(N‐アセチル‐ノイラミン酸)の重要性を考慮して、細胞増殖抑制剤による治療開始前、その治療中、および細胞増殖抑制剤の最終投与後に毎日食餌として重水素除去水を与えたDDW動物群で、この酸の量の変化をTW対照群の動物と比較して分析した。
【0029】
32匹のウィスター系非近交系ラットでこの研究を実施した。
【0030】
採取した各血清量は、血清を0.1N硫酸で加水分解後、カッターマン(Kattermann)マイクロ法によってシャル酸を投与した。遊離または結合シャル酸の投薬量は、過ヨウ素酸によるシャル酸の酸化、および分光光度計で測定する染色化合物を生成する2‐スルフバルビツール(2−sulph―barbituric)2‐チオバルビツール酸と組み合わせたモノアルデヒドの生成に基づく。
【0031】
ウィスター系ラットの血清でシャル酸濃度を検査した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上表1に示すシャル酸濃度の平均値に関する結果から、投与した細胞増殖抑制剤の全てにおいて、シャル酸濃度はDDW群の方が低いことが証明された。
【0034】
b)脂質の過酸化
遊離基によりもたらされる生物学的作用の中で、脂質の高度の過酸化は、酸素反応種が脂質化合物、細胞膜、または細胞オルガネラの要素と出会う確率が高くなることによっても説明できる。脂質の過酸化は、ラジカルの連鎖メカニズムを有する反応の典型的な例である。一個の単独ペルオキシラジカルが、脂肪ポリ不飽和酸との反応に組み込まれると、酸の構造が変化するのみならず、一連の脂肪酸ペルオキシラジカルが生成する可能性がある。次いで、これらのラジカルが他の脂質と相互に作用すると、電子一個の転移反応および基層の酸化的破壊が活性に保たれる。細胞膜脂質の過酸化から生じた有毒なアルデヒドには、独自の生物学的作用がある。これらは不飽和α‐βであるから、高反応性求電子試薬種であり、蛋白質のSH基、または低分子量のチオール(グルタチオン)と容易に相互作用するので、SH基を必須としている蛋白質および酵素を不活性にする。一連の膜内での脂質過酸化の細胞病理学的結果は以上によって説明することができる。
【0035】
本発明の範囲では測定により、細胞増殖抑制剤の投与により2群の動物、TW対照およびDDWに誘発される酸化ストレスパラメータの変化が追及される。
【0036】
この目的で、脂質の過酸化反応、チオール酸化反応を測定し、マウスのセルロプラスミンの測定も行った。これらの測定は、以下の酸化ストレスを確立するのに重要であると考えられた。
‐ 脂質過酸化指数として2チオバルビツール(TBA)とマロンジアルデヒド(MDA)間の反応。
【0037】
TBA反応物質の生成を利用して、どの器官が脂質の過酸化を呈することができるかをしばしば考察する。生物試料の脂質の過酸化を推測するために、ポリ不飽和脂肪酸の酸化最終段階中にエンドペルオキシドが分解した結果として形成されるMDAを測定してもよい。この方法が、最も簡便な方法であり、目下最も使用されている。マロンジアルデヒド(MDA)は、脂質の過酸化の最終生成物、並びにプロスタグランジンおよびトロンボキサン生合成の副産物を表す。
【0038】
‐ セルロプラスミン投薬
Ravin法によって細胞外液にセルロプラスミンを投薬した。本発明を説明するためにこの投薬方法を選択した理由は、セルロプラスミンが、トランスフェリンから放出後、Fe2+のFe3+への酸化を触媒することができるからである。これが活性であれば、鉄イオンによる脂質の過酸化および遊離ラジカルの生成を防止するメカニズムが与えられる。脂質の過酸化は、生体系全てに存在する遷移金属イオン、特に、鉄イオンおよび銅イオンにより開始できることが知られている。鉄塩および銅塩濃度のどんな上昇も、組織を攻撃し酸素の有害作用を増強するはずである。セルロプラスミンは、有害作用の開始に必要な酸化還元サイクルを中止する。
【0039】
酸化ストレスを推測するために、本発明の範囲に対して新規なパラメータを導入した。すなわち、酸化ストレス因子であり、これは酸化反応と抗酸化反応との間の比として定義される。これら両反応型は、チオール酸化を基準にてセルロプラスミン値および脂質過酸化物値によって測定することができる。従って、この酸化因子は次式を使用し算出することができる。
【0040】
酸化ストレス因子(OSF)=(過酸化脂質×セルロプラスミン)/(チオール‐アルブミン基)
【0041】
得られた結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

酸化ストレス因子値は、毎日食餌として細胞増殖抑制剤および重水素除去水を投与した動物群の方が低いことが判った。この事実から、酸化体/抗酸化体の比において抗酸化体側の方が強力であれば、それは細胞増殖抑制剤の代謝に伴う酸化ストレスに対する防護システムを活性化する効果を呈することが証明される。
【0043】
c)細胞増殖抑制剤の代謝に関与する酵素の研究
細胞増殖抑制剤の代謝に関与する酵素は、シトクロムP450などの活性化酵素(すなわち相I酵素)、およびグルタチオンS‐トランスフェラーゼ(GST)などの解毒化酵素(すなわち相II酵素)として分類されている。
【0044】
活性化酵素(MFO)の役割は、疎水性物質を親水性物質に転換することである。ホモー酸素化物質は、酸素分子由来の一個の酸素原子が有機基質に挿入され、他の一個の酸素原子は還元されて水になるのを触媒する。このプロセスの生起は、以下の基質酸化反応による。
AH + O2 + 2NADPH → AOH + 2NADP
+ H2
【0045】
この酵素系は、ミトコンドリア小胞体膜およびの核膜のレベルに位置づけられる。これを研究するためには、繰り返し遠心して細胞オルガネラ(Cell organellers)を分離し、最終的には超遠心により105,000xgの顆粒体(ミクロソーム)を分離する必要がある。シトクロムP450(イソ酵素ファミリの一種)の活性および濃度はミクロソームレベルで測定され、それらはMFOを表す最も重要なものである。
【0046】
P450の濃度は、ミクロソームのP450をCOと亜二チオン酸ナトリウムで還元した後に分光光度計で定量する(OmuraおよびSatoの方法)。P450はアイソザイムのファミリであるから、生体異物の活性化および解毒化に関与し、従って細胞増殖抑制剤の活性化および解毒化にも関与する。酵素活性は、単独の基質、すなわち、p‐ニトロアニソールに対して定量され、その反応は脱メチル化である。
【0047】
細胞増殖抑制剤の解毒化に関与する酵素の中には、グルタチオンS‐トランスフェラーゼ(GST)もある。これら一群の酵素は、以下の反応に従って、求電子性生成物(内因性または外因性起源の)がグルタチオン(GSH)と結合するのを触媒する。
RX + GSH →
GS‐R + HX
【0048】
GST活性の定量はHabrig法を使用して行った。
【0049】
この酵素系の重要な特性の一つは、シトクロムP450と同様に、この酵素系は還元された基質に対し特異的であることであり、この特性は生体異物の解毒化に必要であり、しかもその代謝の特異性が高い。
【0050】
GSTと共に、GSH(生体由来の主たるスルフヒドリル非蛋白質性化合物)は、解毒化の過程で求電子性“スキャベンジャー”として機能し、その反応はGSTが存在しない条件下でも可能である。

+ GSH → R‐GS + H
【0051】
哺乳動物細胞では、GSHは還元型と酸化型の間を往来する二重官能基を有する。GSHは、H22の還元、すなわちグルタチオンペルオキシダーゼが触媒する反応に参加し、従って通常のラジカル過程または病理過程の制御に関与する。
【0052】
GSHは、アロキサン法によって定量した。
【0053】
測定結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3より、以下の結論を導くことができる。
‐ 毎日食餌として重水素除去水を利用することにより、TW対照群と比較して相Iおよび相IIでの酵素活性に多少の変化が認められる。
‐ シクロホスファミドの場合には、これはアルキル化活性を持たない非特異型であるので、これの活性化はP450の作用下にある肝臓レベルで生じる。シクロホスファミドを投与すると、TW‐CFS群で相IおよびIIの酵素が約1回減少する。
‐ シクロホスファミドと共に重水素除去水を利用することによって、酵素活性は明白に減少する。
‐ 5‐フルオロウラシルは、相Iの酵素を誘発し、対照群でのP450の活性は重水素除去水を投与した動物群での活性の約2倍に増強する。
‐ ファルマルビシンは、還元および加水分解によって肝臓中に代謝される。水道水と共に投与したファルマルビシンの場合には、これによりP450活性およびP450濃度が高度に誘発され、重水素除去水投与の場合にはP450活性が非常に減少した。
‐細胞増殖抑制剤およびDDWを投与した動物の全ロットで、GSH濃度およびGST活性が、細胞増殖抑制剤および水道水を投与したTW対照動物ロットで記録されたものよりもはるかに減少した。
【0056】
d)蛋白質、糖蛋白、および血清蛋白質の解糖度検査
これらの測定に使用した方法は周知の方法である(測定ビュレットおよびオルト‐トルイジンとの反応による(グルシド)グルコース化合物の投与)。
【0057】
この検査結果を表4、5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
表4と5から以下の結論を導くことができる。
‐ 動物の日々の食餌に60ppmの濃度の重水素除去水を含有させると、解糖度が低下し、血清糖蛋白濃度が無条件に低下した。
‐ 細胞増殖抑制剤それぞれで異なる作用が認められる。
【0061】
e)アガロースゲル電気泳動での血清蛋白質の測定
使用した方法は、コムギ種子胚芽およびダイコンから得た2種のレクチンを使用する、アガロースゲル二重拡散法の適用である。
【0062】
細胞増殖抑制剤およびDDWを投与した動物群から採取した血清がレクチンと相互に作用しないことから、DDWが解糖度および血清糖蛋白分布に対して好ましい作用を有するという考えが確認される。
【0063】
f)3HTdR(3Hトリチウム標識チミジン)での測定
両群(DDW群およびTW対照群)の成体ウィスター系ラット大腿骨骨髄およびリンパ小結節の3HTdR取込みを測定した。
【0064】
取込み容量の定量は、37kBq/g体重(1μCi/g)の量の3Hチミジンを腹腔内注射することによって実施したが、このチミジンの比活性は925GBq/mmol(25Ci/mmol)であり、放射化学純度は95%を超えた。3HTdR注射から5時間後に生物試料を採取し、次いで試料をSoluene-350に溶解し、液体シンチレーター(Hyonic fluor)に再懸濁した。活性の測定はTri-Carb、Packard Model装置を使用し実施した。
【0065】
細胞増殖抑制剤最終投与から5日後、TW対照と比較して、毎日食餌として60ppmの濃度の重水素除去水を与えた動物の髄およびリンパ小結節で、3HTdR分布の有意な割合の上昇が記録された(7%および15%)(図1および3)。
【0066】
細胞増殖抑制剤の最終投与から10日後、DDW動物群の骨髄およびリンパ小結節の3HTdR分布は、図2および4に示す通りTW対照に比べて有意であった(14%〜25%)。
【0067】
この知見から、AND合成が実際に向上していることが証明される。AND合成のこの有意な上昇は、60ppm重水素除去水を毎日投与することによって、細胞増殖抑制剤から生じた毒性が減少したことの結果でもあり、この結果からDDWは細胞増殖抑制剤の毒性を減少するアジュバントとして利用可能となる。
【実施例3】
【0068】
C)細胞‐造血試験
この試験の意図は、毎日食餌として60ppm重水素除去水を投与すると、毎日食餌としてタブ(tab)水を与えたTW対照群に比べて、造血領域内に修正が起こることを細胞形態的な側面を明らかにすることによって証明することである。
【0069】
末梢血、造血髄、およびリンパ神経節から得た試料を使用し試験を行った。調製した試料は、従来どおりマイ・グリーンワールドーギームザ染色した。
【0070】
試験により以下の結果が得られた。
‐ 本発明で使用した全ての細胞増殖抑制剤の毒性は非常に高値であり、150ppm重水素タブ水を毎日食餌として投与したTW対照群の造血範囲にあった。
【0071】
▦シクロホスファミド投与動物の末梢血で貧血および顆粒球減少
▦5‐フルオロウラシル投与動物の末梢血で白血球増多
▦ファルモルビシン投与動物の末梢血で白血球減少、貧血、および顆粒球減少
▦ビンブラスチン投与動物の末梢血で貧血、血小板減少、白血球減少、および顆粒球減少
▦髄造影図(medulogram)で低修復性貧血
‐ 毎日食餌として60ppm重水素除去水を投与すると、造血ゾーンからの有害作用は著しく減少、ほぼゼロに減少した;
‐ TW対照群とDDW群間の違いを示す細胞‐血液状態は、末梢血およびリンパ節領域で明らかになるが、造血の髄質ゾーンでは明らかにならない。
【実施例4】
【0072】
D)組織試験
本発明の目的で使用したウィスター系ラットから採取した組織試料を10%ホルムアルデヒド溶液中に固定した。組織変化を立証するために、パラフィン挿入およびトリクロム染色法を使用するMasson法を利用した。
【0073】
組織試験の顕微鏡観察によって以下の結果が判明した。
a)肝臓
‐ 毎日食餌として60ppm重水素除去水を投与した全動物(DDW群)では、形態的に無変化な肝細胞の組織領域と、伸張に限界のある肝細胞の変性区域とが記録された。退行性変化は、肝細胞腫脹、顆粒ジストロフィー、もしくは顆粒空胞ジストロフィー、および細胞質の好酸性化によって明白であった。この種の病変は全て、潜在的に可逆的であると考えられる。
‐ DDWとビンブラスチンを投与した動物では、肝細胞の再生が明瞭に顕示される。
‐ TW対照群の動物では、脂肪肝が見られ、これは退行性病変が悪化したと考えられる。
b)腎臓
‐ ほとんどのTW対照群動物で単核浸潤が存在し、重水素除去水投与条件下ではそれが存在しないことは、腎臓間質に対するDDWの防護作用を示唆している。
‐ 顆粒空胞ネフローゼの伸展および強度はDDW群ではより減少した。
c)腸
‐ 両動物群のほとんどのケースで、腸壁構造にいかなる変化も見られなかった。
d)心筋
‐ 心筋形態については有意な変化は全く見られなかった。
【0074】
組織検査から以下の結論を導くことができる。
‐ 毎日食餌として60ppmの濃度の重水素除去水を投与することは肝保護作用があり、日々の食餌で水道水を投与した動物に生じた脂肪肝と比較して、肝臓の形態が保存される。
‐ 肝細胞修復現象は、ビンブラスチンを重水素除去水と共に投与した場合、極めて明白である。
‐ 毎日食餌として60ppmの濃度の重水素除去水を投与すると、腎臓間質はその防護作用を受ける。
‐ 毎日食餌として60ppmの濃度の重水素除去水を投与すると、通常の水を投与した場合に観察される腎症退行性変化の強度を低下するインパクトを受ける。
【0075】
関連する全試験結果から、健常な雌雄成体非近交系ウィスター系ラットに細胞増殖抑制剤(単独化学療法)の投与前、投与中、投与後に毎日食餌として60ppm重水素除去水を投与すると、主として肝保護作用、造血領域内で細胞増殖抑制剤の有害作用の明白な減少、腎症退行性変化強度の減少、および血清蛋白質の解糖度の低下が決定される。これらの全結果から、投与した細胞増殖抑制剤の毒性は60ppm濃度の重水素除去水によって減少することが証明され、この種の水を癌の化学療法の有益なアジュバントとして使用するという考えの肯定論が構成される。
【0076】
愛玩犬の様々な種類の癌の多剤化学療法で、有益な補助食品としての60ppmのDDWにより得られた結果は、この考えを裏付ける重要な証拠である。
【0077】
そこで、非近交系、性別、および年齢が異なり、細胞形態的および血液試験、あるいはリンパ節穿刺によって臨床および準臨床的に異なる癌型を有すると診断された26頭のイヌを2群に分けた。
A群:細胞増殖抑制剤を投与した犬(連続投与として多剤化学療法、ただし癌の解剖臨床型に応じて中断期間が異なる)であって、多剤化学療法開始前14日間、投与期間中、および投与完了後に60ppmのDDWを毎日食餌として投与した犬。
B群(対照):同じ種類の細胞増殖抑制剤を同じ方式で投与した犬であって、150ppm重水素濃度の水道水(TW)を投与した犬。
【0078】
以下の細胞増殖抑制剤を使用し多剤化学療法を施した。
1.シクロホスファミド:80〜100mg/m2、処置期間14日間
2.5‐フルオロウラシルまたはメトロレキセート(Metrotrexat):50〜75mg/m2、処置期間7日間
3.ビンブラスチン:2〜3mg/m2、処置期間7日間
4.ビンクリスチン:1mg/m2:処置期間3日間
【0079】
よく知られているように、これらの全ての細胞増殖抑制剤は毒性要素を示し、以下は本発明者が記載しうるものである。
‐ シクロホスファミドは、代謝回転が速い組織にまず作用するので、膀胱線維症、高尿毒症肝毒性変化、骨髄抑制作用、白血球減少およびトロンボットペニア(trombocytopenia) 血小板減少、出血壊死性膀胱炎、脱毛症などの原因となる。
‐ 5‐フルオロウラシルは、髄質形成不全、嘔気、嘔吐、下痢、消化器出血、潰瘍、涙管狭窄、結膜炎などの原因となる。
‐ ビンブラスチンは、ミエリン抑制、尿閉、神経筋疾患、および肺疾患の原因となる。
‐ ビンクリスチンは、白血球減少、血小板減少、脱毛症、発疹、浮腫、異常感覚、深腱反射喪失、筋肉痛、対麻痺イレウス、多尿もしくは利尿、尿閉などの原因となる。
【0080】
細胞増殖抑制剤しか与えなかったイヌと比較して、60ppmのDDWおよび細胞増殖抑制剤を投与したイヌはほぼ正常な食欲を見せた。
【0081】
(進行した癌に特異的である)歩行障害に関しては、60ppmのDDWおよび細胞増殖抑制剤を投与したイヌは、細胞増殖抑制剤のみを投与した犬よりも筋緊張が明瞭に強かった。その説明の一つは、尿を通して毒素が一層除去されたことである。
【0082】
細胞増殖抑制剤のみを投与したイヌでは、マクロ‐ポリ腺症が認められたのに対し、60ppmのDDWおよび細胞増殖抑制剤を投与した悪性リンパ腫のイヌでは、ミクロ‐ポリ腺症が明白であった。
【0083】
こうした側面は、DDWが悪性リンパ球に対する細胞変性効果によっても説明される。
【0084】
細胞増殖抑制剤のみを投与した犬群では、例えば以下の一連の疾患が出現した。
‐ 腎臓:糸球体腎炎、タンパク尿、および腎炎症候群、Bプラズマ細胞腫の場合にはベンス・ジョーンス蛋白質血尿
‐ 臨床的、超音波検査により確認される脾腫大
‐ 粘膜には、出血性症候群;舌ブライドルレベル、軟口蓋レベルなどでミクロ出血が現われうる。
‐ 頻脈および頻呼吸症‐呼吸性および全身性心循環疾患の徴候
‐ 胃腸の徴候:便秘または下痢、動物の進行性衰弱(体重減少)、下血や吐血などを伴う胃腸潰瘍
‐ 皮膚腫瘍随伴徴候:脱毛症、皮膚線維症、紅斑、蕁麻疹、発疹、皮膚および口潰瘍
‐ 血液学的徴候:腎、肝、膵腫瘍であれば赤血球増多(erytrocytosis);膵臓腫瘍および黒色腫であれば貧血、黒色腫およびリンパ腫の顆粒球増加症、白血病および癌腫の血小板増多症(trombocytosis)
【0085】
種類の異なる癌に罹患している愛玩犬に対して実施した多剤化学療法スキームで本発明者達が使用した細胞増殖抑制剤の結果によれば、有害状態の上記記載に示すこれら徴候は全て、これらの動物に60ppmのDDWを毎日食餌として投与した場合に極めて減少した。
【0086】
細胞増殖抑制剤と60ppmのDDWとによる混合投与は、治療中および治療後の尿素および血清クレアチニン濃度も低下させた。
【0087】
例えば:細胞リンパ腫Bと診断された11才雄のジャーマンドッグにおいて、細胞増殖抑制剤および60ppmDDWでの治療前の血清尿素値は58.8mg/dL、治療中の値は37.9mg/dL、治療後の値は26.3mg/dLであった。同動物において、血清クレアチニン値は治療前1.50mg/dL、治療中1.27mg/dL、治療後0.9mg/dLであった。
【0088】
別のイヌ、細胞中心芽細胞性リンパ腫Bと診断された5才雌のロットワイラー種では、60ppmのDDWおよび細胞増殖抑制剤を投与し、以下の生化学的結果が記録された。
‐ クレアチニン、治療前1.48mg/dL、治療中1.8mg/dL、治療後1.38mg/dL
‐ 血小板、治療前135×1000/mm3、治療中209×1000/mm3、治療後201×1000/mm3
‐ 白血球、治療前9.45×1000/mm3、治療中12.69×1000/mm3、治療後8.70×1000/mm3
【0089】
一方、細胞増殖抑制剤のみを投与した、ワルデンストレーム(Waldenstrom)症と診断された2.8才雌のペキニーズ犬では、以下の生化学的結果が記録された。
‐ 尿素:治療前30.6mg/dL、治療中43.24mg/dL、治療後52.6mg/dL
‐ アルカリホスファターゼ:治療前32U/L、治療中360U/L
‐ 白血球:治療前95.07×1000/mm3、治療中43.3×1000/mm3、治療後146.05×1000/mm3
【0090】
別の興味深い側面は、異なる癌型を有し細胞増殖抑制剤を投与したイヌ免疫細胞系に対する60ppmのDDWの作用に関する。すなわち、60ppmのDDWは、細胞性および体液性の免疫を担う細胞クローンの両方に作用する。60ppmのDDWによってアポトーシスのプロセスが始まると、それを細胞形態的に移すために増殖細胞の数が減少し、その結果、腫瘍の容積が減少し、同時に即時再発が予防され、結果的には持続的寛解が招来し、癌と診断された動物の生活状態の正の結果が最大となる。
【0091】
60ppmのDDWは、免疫応答のために基本的な細胞化合物(全ての型のBリンパ球;樹状細胞およびNK‐K細胞複合体)を再生する。
【0092】
これら全ての事実の結果として、60DDWおよび細胞増殖抑制剤を受けると、これら動物の免疫状態が治療後に改善され、したがって治療寛解が延長される。これらは全ての有益な作用により、細胞増殖抑制剤の毒性に対する良好な防護が招来される。すなわち、良好な治療係数が得られており、それは、ペットの寿命の延長と、様々な種類の癌に罹患しているこのような動物の癒しを著しく改善することを意味する。
【0093】
結論
イヌで得られた結果によって、ラットの場合に得られた結果が確証され、癌を罹患している生物体が抗癌多剤化学療法で使用する細胞増殖抑制剤によって有害なストレス(副作用)を受けている場合に、60ppmのDDWはそれを解毒化するある種の特性を有するという事実がその結果により際立たせる。
【0094】
これらの理由から、60ppmDDWをアジュバントとして使用することにより、ペットおよびヒトに実施する抗癌多剤化学療法で使用される細胞増殖抑制剤の毒性を低減するという考えを本発明者達は主張する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】細胞増殖抑制剤の最終投与から5日後の成体ウィスター系ラット大腿骨骨髄中の3Hチミジン分布を示す図である。
【図2】細胞増殖抑制剤の最終投与から10日後の成体ウィスター系ラット大腿骨骨髄中の3Hチミジン分布を示す図である。
【図3】細胞増殖抑制剤の最終投与から5日後の成体ウィスター系ラットリンパ節中の3Hチミジン分布を示す図である。
【図4】細胞増殖抑制剤の最終投与から10日後の成体ウィスター系ラットリンパ節中の3Hチミジン分布を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロホスファミド‐CFS、5‐フルオロウラシル‐5‐FU、ファルマルビシン(farmarubicine)‐FARM、およびビンブラスチン‐VBLによる単独化学療法において使用される細胞増殖抑制剤の毒性を低減するために、アジュバントとしての60ppm濃度の重水素除去水の使用であって、成体健常ウィスター系非近交系ラットに細胞増殖抑制剤治療の前、途中、および後にこの種の水を毎日の食餌として投与する使用。
【請求項2】
シクロホスファミド‐CFS、5‐フルオロウラシル‐5‐FU、ファルマルビシン(farmarubicine)‐FARM、およびビンブラスチン‐VBLでの単独化学療法で使用される細胞増殖抑制剤の毒性を低減するために、アジュバントとしての60ppmのDDWの使用であって、種々の癌に罹患している愛玩犬に多剤化学療法の前、途中、および後に毎日の食餌としてこの種の水を投与する使用。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−509993(P2008−509993A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527100(P2007−527100)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【国際出願番号】PCT/RO2005/000008
【国際公開番号】WO2006/019327
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(507038696)
【Fターム(参考)】