説明

癌治療薬としての、S−ジメチルアルシノ−チオコハク酸、S−ジメチルアルシノ−2−チオ安息香酸、S−(ジメチルアルシノ)グルタチオン

【課題】一般に血液悪性腫瘍および癌の治療に使用することができ、三酸化砒素よりも活性が同等かそれ以上に大きく、毒性が低い砒素誘導体である癌治療剤を提供する。
【解決手段】S-ジメチルアルシノ-グルタチオン、S-ジメチルアルシノ-チオコハク酸、およびS-ジメチルアルシノ-チオ安息香酸を含む、新規有機砒素誘導体は固体起源および血液起源の両方の様々なヒト腫瘍細胞株、ならびに白血病患者由来の悪性血液細胞に対する、インビトロ細胞毒性活性を有した癌治療剤及びその使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本出願は、2002年1月7日に出願された共に係属中の米国仮特許出願第60/346,492号について優先権を主張する。前記出願の全体の内容は、参照として本明細書に組み込むものとし、放棄はない。
【0002】
発明の分野
本発明は一般的には抗癌療法の分野に関する。より詳細には、本発明は有機砒素化合物および白血病などの癌治療におけるその使用方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
白血病の治療は進歩しているにもかかわらず、大人の白血病患者の多くは依然として病気の進行により死亡しており、2001年には推定31,500の新規症例、および21,500の死亡が予測されている。無機化合物である三酸化砒素が、最近、再発性または難治性の急性骨髄球性白血病(APL)患者の治療のために承認されており、他の白血病型に対する療法としての評価が行われている。しかしながら、毒性のためその使用は限られている。
【0004】
砒素はギリシャおよびローマにおいて2400年以上も前から薬剤として使用されており、砒素は依然として、特に中央および南アジアで、ある民間療法において活性成分を構成している(Bainbridgeら、1914(非特許文献1))。砒素の歴史および民間伝承により、多くの初期の薬理学者による集中的な研究が促進された。化学療法の多くの現代の概念の基礎は、砒素剤(例えば、梅毒用の「特効薬」)を用いたEhrlichの初期の研究に由来し、そのような薬物はかつて癌の化学療法の柱であった。例えば、1930年代初期には、Fowler溶液(水に溶解させた無機砒素)を使用し、慢性骨髄性白血病における白血球数の増加を制御した(Forknerら、1931(非特許文献2))。実際、白血病の臨床的な改善、例えば、熱の制御、白血球数および脾腫の減少、および貧血の改善が見られた。米国国立がん研究所では、初期の前臨床がんスクリーニング試験において、様々な砒素剤が簡単に調べられた(Tarnowskiら、1966(非特許文献3))。しかしながら、現在の伝統的な細胞毒性薬および放射線療法の出現、ならびに慢性的な低用量摂取による砒素中毒の報告により、米国での癌治療における砒素剤の臨床使用は1970年代初期に実質的に停止された(Knockら、1971(非特許文献4);Cuzikら、1987(非特許文献5))。さらに、医学的および毒物学的見地の両方から、ヒト被験者に対する砒素剤の効果に関する知識が多量に存在する。現在の治療では、砒素剤はある一定の熱帯病の治療に対してのみ重要である。例えば、アフリカトリパノソーマ症に対する、有機化合物メラルソプロールの使用である(Investigational Drug Brochure、1987(非特許文献6))。しかしながら、APLに対する無機化合物三酸化砒素(As2O3)の著しい活性の中国の報告(Zhangら、1996(非特許文献7))はかなりの興味を生んでいる。これにより、再発性または難治性APL患者の治療に対し三酸化砒素が最近承認された。しかしながら、中国からの予備データおよび合衆国での最近の経験から、同様に他の血液の癌における三酸化砒素の役割が示唆された。その結果、抗白血病薬としての三酸化砒素の活性は現在では、多くの型の白血病で調べられている。調査中の白血病の型のいくかの応答速度に関しては有利な結果が得られているが、三酸化砒素の全身毒性が問題である(Soignetら、1999(非特許文献8、9);Wierniketら、1999(非特許文献10);Geisslerら、1999(非特許文献11);Rousselotら、1999(非特許文献12))。
【0005】
ヒトに使用するためにいまだに製造されている唯一の有機砒素剤(OA)、メラルソプロールは、抗白血病特性について評価されており(国際公開公報第9924029号(特許文献1)、欧州特許第1002537号(特許文献2))、かなりの活性を示した。しかしながら、この化合物は、トリパノソーマ症の治療のために以前使用された薬物濃度および計画では白血病患者にとって過度に毒性がある。そのため、一般に血液悪性腫瘍および癌の治療に使用することができ、三酸化砒素よりも活性が同等かそれ以上に大きく、毒性が低い砒素誘導体を同定する必要がある。有機砒素誘導体は、無機三酸化砒素よりも毒性が低いはずであることから、この期待をみたすかもしれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第9924029号
【特許文献2】欧州特許第1002537号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bainbridge, W.S. in The Cancer Problem, Macmillian, New York, pp. 271-276, 1914.
【非特許文献2】Forkner, C. and McNair-Scott, T.F. "Arsenic as a therapeutic agent in chronic myeloid leukemia," JAMA 97:305, 1931.
【非特許文献3】Tarnowski, G.S. et al., "Chemotherapy studies in an animal tumor spectrum: II. Sensitivity of tumors to fourteen antitumor chemicals," Cancer Res. 26:181-206, 1966.
【非特許文献4】Knock, F.E. et al., "The use of selected sulfhydryl inhibitors in a preferential drug attack on cancer," Surg Gynecol. Obstet. 133:458-466, 1971.
【非特許文献5】Cuzick, J. et al., "Medicinal arsenic and internal malignancies," Br. J. Cancer 45:904-911, 1982.
【非特許文献6】Investigational Drug Brochure: Informational Material for Physicians: Melarsoprol (Mel B) (Arsobal). Centers for Disease Control, Atlanta, GA, 1987.
【非特許文献7】Zhang, P. et al., "Arsenic trioxide treated 72 cases of acute promyelocytic leukemia," Chin. J. Hematol. 17:58-62, 1996.
【非特許文献8】Soignet, S.L. et al., "Clinical study of an organic arsenic melarsoprol, in patients with advanced leukemia," Cancer Chemother. Pharmacol. 44:471-421, 1999.
【非特許文献9】Soignet, S.L. et al., "Dose-ranging and clinical pharmacologic study of arsenic trioxide in patients with advanced hematologic cancers," Blood 94:1247a, 1999.
【非特許文献10】Wiernik, Phi. et al., "Phase II trial of arsenic trioxide (As2O3) in patients with relapsed/refractory acute myeloid leukemia, blast crisis of CML or myelodysplasia," Blood94:2283a, 1999.
【非特許文献11】Geissler, K. et al., "In vivo effects of arsenic trioxide in refractory acute myeloid leukemia other than acute promyelocytic leukemia," Blood 94:4230a, 1999.
【非特許文献12】Rousselot, P. et al., "Use of arsenic trioxide (As2O3) in the treatment of chronic myelogenous leukemia: In vitro and in vivo studies," Blood94:4457a, 1999.
【発明の概要】
【0008】
発明の概要
本発明は当技術分野のこれらのおよび他の欠点を克服し、抗癌特性を有する有機砒素化合物を提供する。いくつかの態様では、本発明は、以下の構造:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;
R5は-OH、またはグリシン置換基である)
を備える抗癌活性を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは製剤を含む。
【0009】
特定の態様では、化合物は以下の式:

または

または

を有することができ、またはその薬学的に許容される塩もしくは製剤である。
【0010】
このように、本発明はまた、上記化合物を有する組成物および薬学的組成物を含む。
【0011】
他の態様では、本発明は薬学的担体と、および有機砒素化合物とを含む抗癌活性を有する薬学的組成物を含む。いくつかの態様では、そのような組成物は以下の化学式:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;
R5は-OH、またはグリシン置換基である)
または、その薬学的に許容される塩を有する。
【0012】
さらに他の態様では、本発明は、以下の化学式:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;
R5は-OH、またはグリシン置換基である)
を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩または製剤の治療的有効量を含む組成物を、患者に投与する段階を含む、癌患者を治療する方法を含む。治療上有効な量の化合物は0.1〜1000mg/kgもしくは1〜500mg/kg、または10〜100mg/kgとすることができる。
【0013】
特定の態様では、本方法は、組成物を毎日投与する段階を含んでもよい。さらに、治療方法は複数回投与を含んでもよいことが企図される。他の態様では、本方法はさらに、1つまたは複数の追加の薬剤を患者に投与する段階を含む。追加の薬剤は、全トランス-レチノイン酸、9-シス-レチノイン酸、Am-80、またはアスコルビン酸としてもよい。他の補助的な癌治療法、例えば、化学療法、放射線療法、遺伝子療法、ホルモン療法および当技術分野で周知の他の癌療法を使用することも、本発明の方法と併せて企図されている。
【0014】
様々な投与方法が企図されており、例えば局所、全身、直接投与および潅流によるものが挙げられる。そのような方法としては、注入、経口経路、静脈内、動脈内、腫瘍内、腫瘍性脈管構造への投与、腹腔内、気管内、筋内、内視鏡的、病変内、経皮、皮下、局所、鼻腔、口腔内、粘膜、肛門、直腸などによる投与が挙げられる。
【0015】
特定の態様では、癌患者を治療する方法は、以下の式:

または

または

を有する化合物、またはその薬学的に許容される塩もしくは製剤の治療的有効量を投与する段階を含む。
【0016】
本発明の方法は、任意の癌、例えば、充実性腫瘍、例えば脳、肺、肝臓、脾臓、腎臓、リンパ節、小腸、膵臓、血液細胞、骨、結腸、胃、乳、子宮内膜、前立腺、睾丸、卵巣、中枢神経系、皮膚、頭頚部、食道、または骨髄癌(これらに限定されない)を治療するのに使用してもよい。さらに、癌は血液癌、例えば白血病、急性骨髄球性白血病、リンパ種、多発性骨髄腫、骨髄異形成、骨髄増殖性疾患、または不応性貧血とすることができる。
【0017】
本方法は、注入などにより化合物を毎日投与する段階を含むことができる。本明細書で記述した他の投与経路および方法を使用してもよく、投与方法は主に癌の型および位置に依存する。さらに、本方法は、1つまたは複数の追加の薬剤を患者に投与する段階を含むことができる。追加の薬剤は、全トランス-レチノイン酸、9-シス-レチノイン酸、Am-80またはアスコルビン酸としてもよい。しかしながら、癌治療に通常使用される他の薬剤の使用も企図される。これには、化学療法薬、放射線、外科的手術、遺伝子療法、サイトカイン、ホルモン療法および当技術分野で周知の様々な他の抗癌療法が含まれる。
【0018】
本明細書で使用されるように、「1つの(aまたはan)」は1つまたは複数を意味しうる。本明細書の特許請求の範囲で使用されるように、「含む(comprising)」という用語と共に使用される場合、「1つの(aまたはan)」という用語は1つまたは複数を意味しうる。本明細書で使用されるように、「他の(another)」は、少なくとも第2のまたはそれ以上を意味しうる。
【0019】
本発明の他の目的、特徴および利点は下記の詳細な説明により明らかになると考えられる。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の好ましい態様を示しているが、説明のためだけに示したものであり、当業者であれば、この詳細な説明から、本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および改変が明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明のある局面をさらに説明するために含まれる。本発明は、本明細書で示した特定の態様の詳細な説明と共にこれらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解されると思われる。
【図1】ヒト白血病細胞株NB4を3日間、示された濃度のS-ジメチルアルシノ-チオコハク酸(MER1)または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をMTTアッセイ法で評価した。
【図2】ヒト白血病細胞株AML2を3日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法で評価した。
【図3A】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3A)白血病細胞株。
【図3B】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3B)CNS細胞株。
【図3C】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3C)腎臓癌細胞株。
【図3D】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3D)非小細胞肺癌細胞株。
【図3E】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3E)メラノーマ細胞株。
【図3F】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3F)前立腺癌細胞株。
【図3G】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3G)結腸癌細胞株。
【図3H】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3H)卵巣癌細胞株。
【図3I】MER1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のMER1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図3I)乳癌細胞株。
【図4】HL60ヒト白血病細胞を示された濃度のS-ジメチルアルシノ-2-チオ安息香酸(SAL1)と共に3日間インキュベートした。細胞生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図5A】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5A)白血病細胞株。
【図5B】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5B)CNS細胞株。
【図5C】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5C)腎臓癌細胞株。
【図5D】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5D)非小細胞肺癌細胞株。
【図5E】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5E)メラノーマ細胞株。
【図5F】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5F)前立腺癌細胞株。
【図5G】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5G)結腸癌細胞株。
【図5H】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5H)卵巣癌細胞株。
【図5I】SAL1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSAL1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図5I)乳癌細胞株。
【図6】NB4細胞を3日間、示された濃度のS-ジメチルアルシノ-グルタチオン(SGLU1)または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をMTTアッセイ法により評価した。
【図7】HL60細胞およびSGLU1または三酸化砒素を用いて5日クローン形成アッセイ法を実施した。50個を超える細胞からなる細胞集合体を1コロニーとして計数し、対照(薬物無し)試料におけるコロニー増殖と比較した場合のコロニー増殖の割合として増殖の阻害を評価した。
【図8A】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8A)白血病細胞株。
【図8B】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8B)CNS細胞株。
【図8C】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8C)腎臓癌細胞株。
【図8D】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8D)非小細胞肺癌細胞株。
【図8E】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8E)メラノーマ細胞株。
【図8F】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8F)前立腺癌細胞株。
【図8G】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8G)結腸癌細胞株。
【図8H】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8H)卵巣癌細胞株。
【図8I】SGLU1で処理した場合の60種のヒト細胞株に対する増殖%を示した図である。様々なヒト癌細胞を、示された濃度のSGLU1と共に48時間、マイクロタイタープレートでインキュベートした。終点はスルホローダミンB、蛋白質結合染料を用いて決定した。結果は、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告している。負のデータは細胞の死亡を示す。(図8I)乳癌細胞株。
【図9】急性骨髄性白血病(AML)患者由来の単核細胞を3日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図10】AML患者由来の単核細胞を4日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図11】AML患者由来の単核細胞を5日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図12】慢性骨髄性白血病-急性転化期(CML-BP)患者由来の単核細胞を3日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図13】急性リンパ芽球性白血病(ALL)患者由来の単核細胞を4日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図14】正常なドナー由来の単核細胞を5日間、示された濃度のMER1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図15】正常ドナー細胞およびMER1または三酸化砒素を使用して、8日クローン形成アッセイ法を実施した。50個を超える細胞からなる細胞集合体を1コロニーとして計数し、対照(薬物無し)試料におけるコロニー増殖と比較した場合のコロニー増殖の割合として、増殖の阻害を評価した。
【図16】慢性リンパ性白血病(CLL)患者由来の単核細胞を5日間、示された濃度のSGLU1または三酸化砒素と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。
【図17】AML患者由来の単核細胞をSGLU1または三酸化砒素と共に使用して、8日クローン形成アッセイ法を実施した。50個を超える細胞からなる細胞集合体を1コロニーとして計数し、対照(薬物無し)試料におけるコロニー増殖と比較した場合のコロニー増殖の割合として、増殖の阻害を評価した。
【図18】正常ドナー細胞、およびSGLU1または三酸化砒素を用いて、8日クローン形成アッセイ法を実施した。50個を超える細胞からなる細胞集合体を1コロニーとして計数し、対照(薬物無し)試料におけるコロニー増殖と比較した場合のコロニー増殖の割合として、増殖の阻害を評価した。
【図19】MER-1製剤の安定性。MER-1の調製後1〜7週に、HL60細胞およびMER-1を用いてトリパンブルーアッセイ法を実施した。HL60ヒト白血病細胞を3日間、示された濃度のMER1と共にインキュベートした。細胞の生存をトリパンブルー排除法により評価した。試験時間(すなわち、MER1調製時からの週数)を示す。
【図20】1、2または3日間MER1で処理したHl-60細胞においてアネキシンVアッセイ法により、アポトーシスを評価した。
【図21】1、2または3日間MER1で処理したHl-60細胞においてヨウ化プロピジウムアッセイ法により死亡細胞数を評価した。
【図22】1、2または3日間MER1で処理したHL-60細胞においてトリパンブルー排除法により細胞生存を評価した。
【図23A】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、アネキシンVアッセイ法およびヨウ化プロピジウム染色により、48時間に、アポトーシスを評価した。
【図23B】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、カスパーゼアッセイ法により(phi-phi-lux染色)、48時間に、アポトーシスを評価した。
【図23C】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、CMXRos/MT-Greenアッセイ法により、48時間に、アポトーシスを評価した。
【図23D】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、アネキシンVアッセイ法およびヨウ化プロピジウム染色により、72時間に、アポトーシスを評価した。
【図23E】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、カスパーゼアッセイ法により(phi-phi-lux染色)、72時間に、アポトーシスを評価した。
【図23F】示したように、MER1、SGLU1または三酸化砒素で処理したHL-60細胞において、CMXRos/MT-Greenアッセイ法により、72時間に、アポトーシスを評価した。
【図24】フローサイトメーターにより白血病細胞の表面上のCD11bマーカーの発現をアッセイすることにより、成熟に対する三酸化砒素、SGLU1およびMER1の効果に対しNB4細胞についてアッセイした(3日インキュベーション後)。データにより、三酸化砒素とは対照的に、SGLU1およびMER1は成熟を誘発しない。
【図25】示された濃度で3日間インキュベーションした後の、細胞周期に対するMER1(図25A)、SGLU1(図25B)および三酸化砒素(図25C)の効果に関して、HL60細胞をアッセイした。
【図26】PML/RARα遺伝子の役割を分析するために、亜鉛と共に、および亜鉛無しで、三酸化砒素(図26A)、SGLU1(図26B)およびMER1(図26C)で処理したU937/9PR細胞における3日MTTアッセイ法。亜鉛はPAL/RARα遺伝子を活性化する。データから、細胞が三酸化砒素に対し感受性となるには機能PAL/RARα遺伝子の存在が予め必要であるが、その遺伝子の存在は、SGLU1およびMER1に対する細胞の感受性には影響しないことが示される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
例示的な態様の説明
I.本発明
本発明は、三酸化砒素を用いる現在の治療と同様のまたはそれ以上の活性、およびより低い毒性を有する、癌治療用の多くの有機砒素化合物を提供することにより、当技術分野における欠点を克服する。より特定的には、本発明は、S-ジアルキルアルシノ-チオカルボン酸、例えば、S-ジメチルアルシノ-チオコハク酸およびS-ジメチルアルシノ-2-チオ安息香酸、ならびに癌治療におけるその使用方法を提供する。本発明はまた、S-ジメチルアルシノ-グルタチオンおよび癌治療におけるその使用方法を提供する。
【0022】
II.有機砒素剤
20年前、多くの有機砒素剤(OA)誘導体が、この出願の共同発明者である、テキサスA&M大学のProf. Dr. Ralph A. Zingaroにより合成され、それらの物理化学特性が決定された(Chenら、1976;Rosenthalら、1980;Chenら、1980;Danielら、1978;Banksら、1979;これらの参考文献の全内容は参照として全体が本明細書に組み込まれる)。これらの化合物の1つが癌細胞に対しインビトロ活性を示した後、新規合成されたOAの多くが、その抗癌活性の評価のために国立健康研究所(NIH)に提出された。これらの化合物はP388リンパ性白血病細胞を有するマウスにおいてインビボで試験された。これらの化合物の活性は、表1に示されるように、異なる薬物で処理した(腹腔内、毎日、5日間)6匹のマウスの群、ならびに対照群の生存時間を記録することにより評価した。有意の活性に対するNIH基準は、%治療/対照(T/C)>125である。これは、薬物を受けた動物の群が対照群よりも少なくとも25%長く生存することを意味する。多くの化合物が著しい抗白血病活性を示し、いくつかが実のところ180の%T/Cに到達した。さらに、化合物は、200mg/kgの用量で使用すると毒性がなかった(三酸化砒素に対するLD50は10mg/kgである)。
【0023】
(表1)NIHにより報告された、P388リンパ性白血病細胞を有するマウスにおけるOA誘導体のインビボ活性

【0024】
メラルソプロール(Arsobal)は、ヒトに使用するために依然として製造されている唯一の有機砒素剤であるが、米国では市販されていない。メラルソプロールはトリパノソーマ症、またはアフリカ睡眠病のために使用することが認められており、その抗白血病特性については評価されている(国際公開公報第9924029号、欧州特許第1002537号)。予想外に、研究により、メラルソプロールが、APLおよび非APL細胞株の両方に対し三酸化砒素の活性と少なくとも同等の活性を有することが示された(Konigら、1997;Riviら、1996)。その後、メラルソプロールの限られた臨床試験が、米国で進行白血病患者において開始された(Soignetら、1999)。総数8名の患者について、1週間あたり3日の計画で、連続して3週間治療を行った(投与計画は、中枢神経系トリパノソーマ症の治療に以前使用したものである)。1名の患者(慢性リンパ性白血病)のみが抗腫瘍効果を示したが、ほとんどが神経の副作用を経験した。これらの結果から、トリパノソーマ症の治療のために開発された投与計画は、白血病患者には過度に毒性があること、メラルソプロールについては、特に白血病の動物モデルにおいてさらに前臨床実験が必要であることが示唆される。
【0025】
他の有機砒素剤が合成されており、例えばカルボン酸およびジカルボン酸砒素剤が挙げられる。これらの砒素剤は、以下の形態:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり、好ましくはメチル、エチルまたはヒドロキシルエチル、および最も好ましくはメチルである)
の三価砒素を有する。XはSまたはSeであり、好ましくはSである。Qは有機官能基であり、通常生物化学起源のもので、例えば、糖、ペプチド、アミノ酸、またはステロイドである。しかしながら、Qはまた、非生物化学部分、例えばカルボン酸部分とすることができる。本発明の有機砒素剤はX由来の1個または2個の炭素原子により分離された少なくとも1つのカルボン酸基を有する。これらの化合物は、

(式中、
R1およびR2は前の構造と同じであり;
R3は-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、-CH2-CH2-CH2-COOH、またはR3はR4、C1およびC2を含む芳香環または置換芳香環を形成し;
nは0または1であり;
R4は-H、-CH3、または芳香環の一部である)
により記述されうる。芳香環の一部は、本明細書では、芳香環系内の2個またはそれ以上の他の原子に結合された1つの原子として規定される。
【0026】
本発明に特に関連のある化合物としては、S-ジメチルアルシノ-チオコハク酸(MER1)、S-ジメチルアルシノ-2-チオ安息香酸(SAL-1)、およびS-(ジメチルアルシノ)グルタチオン(SGLU1)が挙げられる。本発明者らは、MER1、SAL-1、およびSGLU1がヒト白血病細胞株のパネルに対し著しい抗癌活性を発揮することを示している。この観察結果は、国立健康研究所で実施した実験により確認され、その上、ヒト充実性腫瘍細胞株に対する活性にまで拡張されている(全部で>60細胞株)。さらに、MER1およびSGLU1は白血病患者由来の血液腫瘍細胞に対し著しい活性を示した。三酸化砒素の活性と比較すると、MER1、SAL1、およびSGLU1の活性は同様の効能を示した。MER1およびSGLU1はまた、悪性でない血液単核細胞(正常のドナー由来)に対し低い毒性を示した。さらに、MER1およびSGLU1は正常血液単核細胞に対し三酸化砒素よりも低い毒性を示した。
【0027】
III.無機砒素剤の毒性対有機砒素剤の毒性
三酸化砒素の使用はその毒性により制限される。一方、OAはずっと毒性が低く、無機砒素をインビボでメチル化してOAとするのは無毒化反応であると考えられる程である。OAモノメチルアルシン酸およびジメチルアルシン酸は、無機砒素の主代謝産物である(Hughesら、1998)。三酸化砒素を含む無機砒素剤は、多くの器官系、例えば心臓血管系、消化管、腎臓、皮膚、神経系および血液に様々な影響を及ぼす。無機砒素剤は特に肝臓にとって毒性があり、浸潤、中心壊死および肝硬変を引き起こす(IARC、1980:ACGIH、1991;Belilesら、1994;Goyerら、1996)。現在では、無機砒素化合物がヒトにおいて皮膚および肺発癌物質である証拠が十分存在する(Goyerら、1996)。
【0028】
ある一定の砒素剤の毒性は体内からのクリアランス速度および組織蓄積の程度に関連する(Belilesら、1994)。一般に、毒性は以下の順に増加する:有機砒素剤<As5+<As3+(三酸化砒素を含む)<アルシン。無機砒素剤とは異なり、OAによる死亡または重篤な症例は文献では報告されていない。その結果、哺乳類では、メチル化OAの毒性が低く、排出が速く、保持率が低いため、無機砒素のメチル化は無毒化反応であると考えられている(Belilesら、1994;Goyerら、1996)。良い例が、三酸化砒素を含む無機砒素に曝露した後、ほとんどの哺乳類において排出された主な尿代謝産物である、有機化合物のジメチルアルシン酸である。マウスにおけるインビボ毒性試験では、三酸化砒素の腹腔内投与後、LD50(動物の50%が急性毒性により死亡する用量)は10mg/kgであり(治験薬概要書、1998)、一方、ジメチルアルシン酸投与後では、LD50は500mg/kgであった(MSDS、1998)。
【0029】
IV.癌治療
本発明の有機砒素剤を使用して、全ての充実性腫瘍および全ての血液癌を含む様々な癌、例えば、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成、または骨髄増殖性疾患を治療してもよい。OAを使用して、他の治療形態に対し難治性となっている血液癌を治療することができる。
【0030】
白血病は白血球の異常増殖により特徴づけられる、造血組織の悪性新生物であり、4つの主な型の癌の1つである。白血病は最も顕著に含まれる白血球の型に従い分類される。急性白血病は大部分が未分化細胞群であり、慢性白血病はより成熟した細胞型を有する(国際公開公報第9924029号)。
【0031】
急性白血病はリンパ芽球性(ALL)および非リンパ芽球性(ANLL)型に分類され、さらに、French-American-British分類により、またはその型および分化の程度に従い、形態学的および細胞化学的外観により細分してもよい。特定のB-およびT-細胞、ならびに骨髄細胞表面マーカー/抗原も、分類に使用される。ALLは大部分が幼児疾患であるが、急性骨髄性白血病としても周知のANLLは大人の間でより一般的な急性白血病である。
【0032】
慢性白血病は、リンパ性(CLL)および骨髄性(CML)型に分類される。CLLは血液、骨髄およびリンパ器官中の成熟リンパ球数の増加により特徴づけられる。ほとんどのCLL患者は、B細胞特徴を備えたリンパ球のクローン性増殖を有する。CLLは高齢者の疾患である。CMLでは、顆粒球細胞が血液および骨髄での全ての分化段階において優勢であるが、肝臓、脾臓、および他の器官に影響しうる。本発明のOAにより治療してもよい他の悪性の血液疾患としては、骨髄異形成、骨髄増殖性疾患、リンパ腫、および多発性骨髄腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
V.薬学的調製物
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散させた、有効量の1つまたは複数の有機砒素誘導体、より特定的にはs-ジアルキル-チオ-酢酸、例えばMER-1、SAL1もしくはSGLU1、またはMER-1、SAL1もしくはSGLU1の塩あるいは誘導体、または追加の薬剤を含む。「薬学的にまたは薬理学的に許容される」という句は、動物、例えば、適宜、ヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応または他の不適当な反応を起こさない分子物体および組成物を示す。少なくとも1つの有機砒素剤または追加の活性成分を含む薬学的組成物の調製は、Remington's Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Printing Company、1990(参照として本明細書に組み込まれる)により例示されているように、本開示に照らせば、当業者には周知であると考えられる。さらに、動物(例えば、ヒト)投与では、調製物は、生物学的基準のFDAオフィスにより要求されるような、無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすべきであることは理解されると考えられる。
【0034】
本明細書で使用されるように、「薬学的に許容される担体」としては任意のおよび全ての溶媒、分散媒質、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定化剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、染料、そのようなものの材料および組み合わせが挙げられ、当業者には周知であると考えられる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Printing Company、1990、pp.1289-1329を参照のこと。これは参照として本明細書に組み込まれる)。従来の担体が活性成分と適合しない場合を除き、治療組成物または薬学的組成物において使用するものとする。
【0035】
有機砒素剤は、固体、液体またはエアロゾル形態で投与されるのか、かつ注入などの投与経路のために滅菌する必要があるのかによって、異なる型の担体を含んでもよい。本発明は、当業者に周知のように、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病変内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管支内、鼻腔内、硝子体内、膣内、直腸内、局所、腫瘍内、筋内、腹腔内、皮下、結膜下、小胞内、粘膜、心膜内、眼内、経口、局所、限局的、注射、注入、連続注入、直接的な標的細胞の局所潅流浴、カテーテルを介して、洗浄を介して、脂質組成物(例えば、リポソーム)中で、もしくは他の方法により、または前記の任意の組み合わせにより、投与することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences、18版、Mack Printing Company、1990を参照のこと(参照として本明細書に組み込まれる))。
【0036】
患者に投与される本発明の組成物の実際の投与量は、体重、状態の重篤度、治療する疾病の型、以前のまたは同時の治療行為、患者の突発性疾患、および投与経路などの物理的および生理学的な因子により決定することができる。いずれにしても、投与に責任のある開業医が、組成物中の活性成分の濃度、および個々の被験者に対する適した用量を決定する。
【0037】
ある一定の態様では、薬学的組成物は、例えば、少なくとも約0.1%の有機砒素化合物を含んでもよい。他の態様では、活性化合物は単位重量の約2%〜約75%、または約25%〜約60%、例えばその中から導き出せる任意の範囲を構成してもよい。他の限定的でない例において、用量は、1投与あたり約0.1mg/kg/体重、0.5/mg/kg/体重、1mg/kg/体重、約5mg/kg/体重、約10mg/kg/体重、約20mg/kg/体重、約30mg/kg/体重、約40mg/kg/体重、約50mg/kg/体重、約75mg/kg/体重、約100mg/kg/体重、約200mg/kg/体重、約350mg/kg/体重、約500mg/kg/体重、約750mg/kg/体重から、約1000mg/kg/体重またはそれ以上、およびその中から導き出せる任意の範囲を含んでもよい。本明細書で列挙した数値から導き出すことができる範囲の限定的でない例において、上記数値に基づき、約10mg/kg/体重〜約100mg/kg/体重の範囲などを投与することができる。
【0038】
いずれの場合でも、組成物は1つまたは複数の成分の酸化を阻止するために様々な抗酸化剤を含んでもよい。さらに、様々な抗菌および抗真菌剤などの保存剤、例えばパラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせなど(これらに限定されない)により微生物の作用を阻止することができる。
【0039】
有機砒素剤を、遊離塩基、中性または塩形態で、組成物に製剤化してもよい。薬学的に許容される塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたは鉄水酸化物などの無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンまたはプロカインなどの有機塩基から誘導される遊離カルボキシル基と共に形成される塩が挙げられる。
【0040】
組成物が液体形態である態様では、担体は溶媒または分散媒質とすることができ、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、コーティング、例えばレシチンを使用することにより;例えば、液体ポリオールまたは脂質などの担体中に分散させることにより必要とされる粒子サイズを維持することにより;例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤の使用により;またはそのような方法の組み合わせにより、適した流動性を維持させることができる。多くの場合、例えば、糖、塩化ナトリウムまたはその組み合わせなどの等張剤を含むことが好ましい。
【0041】
滅菌注入溶液は、上記の様々な他の成分を有する必要量の適当な溶媒中に活性成分を混和させ、必要であれば、その後に濾過滅菌することにより調製される。一般に、分散物は様々な滅菌活性成分を、塩基性分散媒質および/または他の成分を含む滅菌溶剤中に混和させることにより調製される。滅菌された注入可能な溶液、懸濁液またはエマルジョンの調製用滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥または凍結乾燥技術であり、これにより以前に滅菌濾過した液体媒質から、活性成分+任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。液体媒質は必要であれば、適当に緩衝化されるべきであり、液体希釈剤は注入前に、最初に十分な生理食塩水またはグルコースにより等張とされる。直接注入のための高濃度組成物の調製もまた意図されており、この場合、非常に急速に浸透し、高濃度の活性成分が小さな領域に送達されるように、溶媒としてDMSOを使用することが想定される。
【0042】
組成物は、製造および貯蔵条件下で安定でなければならず、微生物、例えば細菌および真菌の汚染作用から保護されなければならない。エンドトキシン汚染は、最小の安全レベル、例えば0.5ng/mg蛋白質未満に維持されるべきであることは理解されると考えられる。
【0043】
特定の態様では、組成物中で、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン、またはそれらの組み合わせを使用することにより、注入可能な組成物を長期にわたり吸収させることができる。
【0044】
VI.併用療法
本発明の1つの局面では、有機砒素剤は、他の薬剤または治療方法、好ましくは他の癌治療と共に使用することができる。有機砒素剤は、数分〜数週間の間隔で、他の薬剤治療前に、またはその後に使用してもよい。他の薬剤および発現構築物を別個に細胞に適用する態様では、薬剤および発現構築物がその細胞に好都合な複合効果を与えることができるように、一般に各送達時の間に有効な期間が失効しないようにする。例えば、そのような例では、細胞、組織または生物体を2種、3種、4種またはそれ以上の様式で、有機砒素剤と実質的に同時に(すなわち、約1分以内)接触させてもよいことが企図される。他の局面では、1つまたは複数の薬剤が、有機砒素剤の投与前または投与後、約1分、約5分、約10分、約20分、約30分、約45分、約60分、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、約30時間、約31時間、約32時間、約33時間、約34時間、約35時間、約36時間、約37時間、約38時間、約39時間、約40時間、約41時間、約42時間、約43時間、約44時間、約45時間、約46時間、約47時間、約48時間、またはそれ以上の時間内に投与されてもよい。ある一定の他の態様では、薬剤は、有機砒素剤を投与する前/または後、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日、約21日以内に投与されてもよい。いくつかの状況では、治療期間を著しく延長させることが望ましいことがあるが、その場合、各投与間で、数週間(例えば、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7または約8週間またはそれ以上)が経過する。
【0045】
様々な組み合わせを使用してもよく、有機砒素剤を「A」とし、第2の薬剤(任意の他の治療薬)をBとすると:

である。
【0046】
本発明の治療組成物の患者への投与は、毒性(もしあれば)を考慮して、化学療法薬の投与のための一般プロトコルに従う。治療サイクルは必要に応じて繰り返されることが予測される。様々な標準療法および補助の癌療法、ならびに外科的医療行為を、記述した砒素剤と共に適用してもよいことも企図される。これらの療法としては、化学療法、放射線療法、免疫療法、遺伝子療法および手術が挙げられるが、これらに限定されない。下記のセクションではいくつかの補助的な癌療法を記述する。
【0047】
a.化学療法
癌療法は、薬品および放射線を基本とする治療の両方との様々な併用療法を含む。併用化学療法としては、例えば、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトセシン、イフォスファミド、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、ニトロスウレア、ダクチノマイシン、ダウルノビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリコマイシン、ミトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファネシル-蛋白質トランスフェラーゼ阻害薬、トランスプラチナム、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびメトトレキサート、または前記の任意の類似変種または誘導変種が挙げられる。
【0048】
b.放射線療法
DNAの損傷を引き起こし、広く使用されている他の因子としては、γ線、X線として通常知られているもの、および/または放射性同位体の腫瘍細胞への直接送達が挙げられる。マイクロ波およびUV-照射などのDNA損傷因子の他の形態もまた企図されている。おそらく、これらの因子は全てDNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の組立ておよび維持に広範囲の損傷を与える。X線の線量は、長期にわたる(3〜4週間)毎日の線量50〜200レントゲンから単一の線量2000〜6000レントゲンまでである。放射性同位体に対する線量範囲は広範囲に変動し、同位体の半減期、放出される放射線の強度および型、ならびに新生物細胞による取り込み量に依存する。細胞に対して適用される「接触」および「曝露」という用語は、本明細書において、治療構築物および化学療法剤または放射線療法剤が標的細胞に送達され、標的細胞と直接並置されるように配置される方法を記述するために使用される。細胞死および鬱血を達成するために、両方の薬剤が、細胞を殺すかまたは細胞が分裂するのを阻止するのに有効な結合量で送達される。
【0049】
c.免疫療法
免疫療法は、一般に、癌細胞を標的とし破壊する免疫エフェクター細胞および分子に依存する。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上のいくつかのマーカーに対し特異的な抗体としてもよい。抗体は、それだけで治療のエフェクターとして作用してもよく、または実際に細胞を殺す他の細胞を起用してもよい。抗体はまた、薬物または毒素(化学療法薬、放射性ヌクレオチド、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素、など)に結合させてもよく、それだけでターゲティング薬として機能してもよい。また、エフェクターは、直接または間接的に、腫瘍細胞標的と相互作用する表面分子を有するリンパ球としてもよい。様々なエフェクター細胞が細胞傷害性T細胞およびNK細胞を含む。
【0050】
このように、免疫療法を遺伝子療法と共に、併用療法の一部として使用することができる。併用療法の一般的なアプローチは下記で記述する。一般に腫瘍細胞は、ターゲティングを受けやすい、すなわち、大多数の他の細胞上には存在しない、いくつかのマーカーを有しているに違いない。多くの腫瘍マーカーが存在するが、これらのうちのいくつかが、本発明におけるターゲティングに適している。一般的な腫瘍マーカーとしては、癌胎児抗原、前立腺特異抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児性抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbBおよびp155が挙げられる。
【0051】
d.遺伝子療法
さらに他の態様では、第2の治療は第2遺伝子療法であり、この場合、第1の治療薬の前後、またはそれと同時に治療用ポリヌクレオチドが投与される。遺伝子産物をコードするベクターと共に治療薬を送達すると、標的組織に対し複合された抗-過増殖性効果が得られる。
【0052】
e.手術
癌患者の約60%が何らかの型の手術を受ける。この手術には、予防、診断または病期分類、治療および緩和手術が含まれる。治療手術は、他の療法、例えば、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法および/またはその他の療法などと共に使用してもよい癌治療である。治療手術には、癌組織の全てまたはその一部を物理的に除去し、摘出しおよび/または破壊する切除が含まれる。腫瘍切除は腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を示す。腫瘍切除の他に、手術による治療には、レーザ手術、凍結手術、電気手術、および顕微鏡下手術(Mohs手術)が含まれる。本発明は、表在性癌、前癌または付随的な量の正常組織の除去と共に使用してもよいことが、さらに企図される。
【0053】
VII.実施例
下記の実施例は、本発明の好ましい態様を明らかにするために包含される。当業者であれば、下記の実施例で開示した技術は、本発明の実施においてよく機能することが発明者により発見された技術を示し、そのため本発明の実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることを理解すべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らせば、開示した特定の態様において多くの変更が可能であり、かつ本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに同様のまたは類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0054】
実施例1
S-ジメチルアルシノ-チオコハク酸(MER1)、S-ジメチルアルシノ-サリチル酸(SAL1)、およびS-(ジメチルアルシノ)グルタチオン(SGLU1)の合成
MER-1:メルカプトコハク酸4.5gを、250ml丸底フラスコ内の100mlのグリム(1,2-ジメトキシエタン)に入れた。4mlのジメチルクロロアルシン(0.03mol)を滴下し、その後、4mlのジエチルアミン(0.04mol)を滴下した。反応混合物を20時間室温で撹拌した。ジエチルアミン塩酸塩の白色沈澱が形成され、濾過により分離した。MER1のグリム溶液を減圧下で蒸発させ、真空で大きく体積を減少させた。MER1の白色結晶を濾過により分離し、冷蒸留水で洗浄した。その後、無色結晶生成物をエタノール-水から150℃の一定融点まで再結晶化させた。
【0055】
SAL-1:100mlのフラスコに、5gの2-メルカプト安息香酸(チオサリチル酸)、75mlのグリム、5mlのジメチルクロロアルシン、および5mlのジエチルアミンを入れた。混合物を1時間、窒素雰囲気下で還流させ、室温で一晩中撹拌した。ジエチルアミン塩酸塩の沈澱を濾過により分離した。濾液を減圧下で徐々に蒸発させ、生成物の結晶を分離した。生成物を含む蒸発溶液を氷中で冷却し、冷溶液を濾過した。生成物の結晶を97℃の一定融点までエタノールから再結晶化させた。
【0056】
SGLU-1:グルタチオン(14.0g、45.6mmol)をグリム中で急速撹拌し、その間にジメチルクロロアルシン(6.5g、45.6mmol)を滴下した。その後、ピリジン(6.9g、91.2mmol)をスラリーに添加し、続いて混合物を加熱し還流させた。熱を直ちに除去し、混合物を室温で4時間、撹拌した。得られた不溶固体の分離およびエタノールからの再結晶化により、ピリニジウム塩酸塩として4を得た(75%収率)。

【0057】
MER-1、SGLU-1およびSAL-1の合成研究はテキサス州ヒューストンのRobert A. Welch財団により、発明者Ralph Zingaroへの助成金として、資金提供された。
【0058】
実施例2
インビトロ評価のためのアッセイ法
様々なインビトロアッセイ法を使用して、本発明の砒素化合物、組成物および/または製剤に対する癌細胞の応答を決定した。アッセイした応答の中には、細胞生存、細胞周期、アポトーシス、成熟が含まれた。本発明者らはまた、本発明の砒素化合物に対する感受性に対する癌細胞のPML/RARα遺伝子の要求を評価するアッセイ法を設計した。下記で、これらのアッセイ法について説明する。
【0059】
スルホローダミンBアッセイ法
様々なヒト癌細胞を、マイクロタイタープレート上で、示された濃度のMER-1、SGLU-1およびSAL-1と共に、またはそれら無しで48時間インキュベートし、その後、スルホローダミンB染料を培養物に添加した。スルホローダミンB染料は、蛋白質結合染料であり、生細胞を標識する。結果を、未処理対照細胞と比較した場合の処理細胞の増殖%として報告する(負のデータは細胞死を示す)。
【0060】
MTTおよびトリパンブルーアッセイ法
これらのアッセイ法では、白血病患者および正常ドナーの末梢血試料由来の単核細胞をFicoll Hipaque分画により分離し、DMEM完全培地に再懸濁させた。また、細胞株細胞をいくつかの場合において使用した。様々なヒト細胞株由来の悪性細胞(通常5×104細胞/ml)または白血病患者および健康なドナーの末梢血由来の単核細胞(1×106細胞/ml)をαMEMまたはRPMI1640のいずれかの中で、様々な濃度のMER-1、SAL-1、もしくはSGLU-1と共に、またはそれら無しでインキュベートした。各実験条件を3つ組で実施した。示した日数(通常3日)、MER-1、SAL-1またはSGLU-1に曝露した後、染料(MTTまたはトリパンブルーのいずれか)をウェルに添加することにより細胞生存を評価した。MTT染料はウェル中に生存細胞が存在すると変色する。MTT処理下での細胞の生存を対照細胞増殖の割合として評価した。トリパンブルー染料は死亡細胞を貫通し、生細胞を顕微鏡下で計数することができ、生存率が評価できる。
【0061】
クローン形成アッセイ法
クローン形成またはコロニー形成を、(正常ドナーまたは白血病患者由来の)末梢血単核細胞を得ることにより分析した。その末梢血単核細胞は、組み換えサイトカインを含む半固体培地中に再懸濁され、96-ウェルマイクロタイタープレート中0.1ml/ウェル、4×104細胞/0.1ml密度で、4つ組で培養された。5%CO2の加湿雰囲気下、37℃で約10日間インキュベートした後、50以上の細胞で構成される細胞集合体を1コロニーとして計数する。増殖阻害を、対照(薬物無し)試料でのコロニー増殖と比較した場合のコロニー増殖の割合として評価した。
【0062】
アポトーシスの分析
3つの異なる方法を使用して、アポトーシス経路における異なる事象をアッセイすることによりアポトーシスを分析した。本発明の砒素誘導体により誘発されるアポトーシス細胞の割合を、フローサイトメーターを使用して評価した。アポトーシスのための異なる細胞染色法を使用して、アポトーシスカスケードの異なる局面を評価した。
【0063】
1.アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム(PI)染色
アネキシンVは細胞膜の外層上でホスファチジルセリンを発現する細胞に結合し、ヨウ化プロピジウムは易感染性細胞膜を有する細胞の細胞DNAを染色する。これにより、生細胞(どちらの蛍光色素でも染色されない)はアポトーシス細胞(アネキシンVによってのみ染色される)および壊死細胞(アネキシンおよびPIの両方により染色される)から区別される。
【0064】
本発明の示された砒素剤で培養物中の細胞を示された時間処理した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、アネキシンV-FITC(Travigene)を含む100μlの結合緩衝液中に再懸濁させ、暗闇で15分間インキュベートした。PIを添加した後、フローサイトメータで細胞を分析した。
【0065】
2.ミトコンドリア膜電位の細胞蛍光測定分析
示された時間、砒素誘導体で処理した後の、ミトコンドリア膜電位の変化を評価するために、マイクロモル濃度以下のMito Trackerプローブ中で細胞をインキュベートした。Mito Trackerプローブは原形質膜を横切って受動的に拡散し、活性ミトコンドリア中に蓄積する。細胞を2つの色で染色した:Mito Tracker Red CMXRos(分子プローブ)およびMito Tracker Green FM (分子プローブ)。細胞をPBS中で洗浄し、Mito Tracker染料で染色し、37℃で1時間、暗闇でインキュベートした。CMXRosはミトコンドリア膜電位によりミトコンドリア内に組み入れられ、チオール残基と反応し、共有結合のチオールエステル結合を形成する。MitoTracker Green FM染料は、ミトコンドリア膜電位とは関係無くミトコンドリア内に選択的に蓄積し、ミトコンドリア量を決定するのに有益なツールとなる。
【0066】
3.カスパーゼ活性の検出
フローサイトメトリーによりカスパーゼ活性をモニタするために、蛍光発生基質PhiPhiLux G1D1(Oncoimmunin)を使用した。PhiPhiLux G1D1は生細胞中のカスパーゼ3およびカスパーゼ3様活性の検出および測定のための基質である。示された時間、本発明の砒素誘導体により処理した後、細胞をPBS中で洗浄し、5μlの基質溶液中に再懸濁させ、37℃で1時間、暗闇でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、フローサイトメトリー分析数分前に、PIを添加し、分析中に壊死細胞を排除した。
【0067】
細胞周期分析
細胞周期を以下の通り分析した:本発明の異なる砒素化合物と共に72時間インキュベートした後、細胞(1×106)をPBS中で2度洗浄した。細胞ペレットを、低張溶液(RNAse溶液、Triton X-100、クエン酸ナトリウム、PEG)とPI(25μg/ml)を含む染色溶液中に再懸濁させた。細胞を15分間、室温の暗闇でインキュベートし、その後、CellQuestプログラム(Becton-Dickinson)を用いフローサイトメトリーにより分析した。
【0068】
成熟分析
ヒト急性前リンパ球性白血病細胞株NB4を使用して本発明の砒素剤の白血病細胞に対する効果を試験した。フィコエリトリン結合抗CD11bモノクローナル抗体(Becton-Dickinson)を、成熟骨髄球のマーカーとして使用した。薬物と共に72時間インキュベートした後、細胞をPBS中で洗浄した。その後、1×106細胞/mlの密度の細胞を暗闇の室温で、15分間、1:10希釈でモノクローナル抗体と共にインキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBS中で洗浄し、ペレットを500μlのPBS中に再懸濁させた。非特異的結合を排除するために、適当な同形対照を同じように調製した。フローサイトメーターを用いて細胞を分類し、CellQuest Document Analysisを用いて分析した。
【0069】
PML/RARα蛋白質の役割
三酸化砒素は急性前リンパ性白血病の治療薬として承認されており、主にPML/RARα遺伝子および蛋白質の発現によりAPL細胞を死亡させる。白血病細胞中のPML/RARα融合蛋白質の存在が、白血病細胞のSGLUおよびMER1への観察された感受性に寄与するかどうかを確立するために、本発明者らは以下の系を使用した:三酸化砒素に対し耐性があることが知られているU937細胞をPML/RARα遺伝子でトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞はU937/PR9と呼ばれ、Michael Andreeffにより寄贈された(M.D.Anderson癌センター)。PML/RARα遺伝子は亜鉛が存在すると機能的になった。U937/PR9細胞株におけるZn2+により誘発されるPML/RARα遺伝子の発現はGrignaniら(1993)において記述されている。PML/RARα発現を確立するために、細胞を0.1mMのZnSO4で3時間処理し、その後に砒素化合物を72時間添加した。PML/RARα発現は典型的には細胞に亜鉛を添加した後約3時間で確立され、48時間安定である。
【0070】
実施例3
MER1、SAL1およびSGLU1の抗癌活性のインビトロ評価
MER1の抗白血病活性は、6つの異なるヒト白血病細胞株に対する3日MTTアッセイ法/トリパンブルー排除法により評価されている:AML2、AML3およびHL60(AML由来細胞株)、NB4(APL由来細胞株)、K562(CML-BP由来細胞株)およびKBM7(AML由来細胞株)。MER1はNB4細胞に対し最も効果的であり、IC50(未処理対照細胞と比較して、細胞の50%が生存する濃度)は1μMであった(図1)。MTTアッセイ法によるAML2細胞およびKBM7細胞の分析、ならびにトリパンブルーアッセイ法によるAML2細胞(図2を参照のこと)、AML3細胞、K562細胞、およびHL細胞の分析を含む、他の細胞株のMER1処理では、1.5〜4μMのIC50が示された。この活性はこれらの細胞株に対する三酸化砒素の活性と同様であった(三酸化砒素活性の例を図1および図2に示す)。MER1は、国立健康研究所(NIH)により抗癌活性についてもスルホローダミンBアッセイ法を用いて60腫瘍細胞株のパネルに対しインビトロで試験された(図3)。化合物は、様々な腫瘍細胞株に対し、特に試験した白血病細胞に対し低い濃度で活性の証拠を示した。1μMのMER1濃度では、試験した6種の白血病細胞株全ての増殖が著しく阻止された(<20%増殖;図3、第1パネル)。
【0071】
SAL1の抗白血病活性は、2つのヒト細胞株に対する3日トリパンブルーアッセイ法により評価されている:HL60細胞(図4に示す)、およびZ138(ALL細胞株)。SAL1は、NIHにより抗癌活性についてもスルホローダミンBアッセイ法を用いて60種の腫瘍細胞株のパネルに対しインビトロで試験された(図5)。化合物は、様々な腫瘍細胞株に対し低濃度で活性の証拠を示した。
【0072】
SGLU1の抗白血病活性は、9種のヒト細胞株に対する3日MTTアッセイ法により評価されている:NB4、CAG(多発性骨髄腫細胞株)、JURKATおよびRAJI(リンパ腫細胞株)、HL60、AML2、AML3、KBM5(CML-BP由来細胞株)、およびKBM7。例として、細胞株NB4に対する結果を図6に示す。SGLU1の抗白血病活性は6種のヒト白血病細胞株に対する3日トリパンブルー排除法により評価されており、同様の結果が示されている:NB4、CAG、JURKAT、HL60、KBM3(AML細胞株)、およびZ119(ALL細胞株)。活性は、例として図6に示したように三酸化砒素の活性と同様であった。SGLU1の抗白血病活性はまた、HL60ヒト白血病細胞に対し5日クローン形成アッセイ法により評価されている(図7)。SGLU1はまた抗癌活性ついて、NIHによりスルホローダミンBアッセイ法を用いて60腫瘍細胞株のパネルに対しインビトロで試験された(図8)。化合物は、様々な腫瘍細胞株に対し、低い濃度で活性の証拠を示した。
【0073】
実施例4
悪性および正常血液細胞に対するMER1およびSGLU1の毒性決定
本発明者らはまた、5人の白血病患者(AMLが3人、CML-BPが1人、およびALLが1人;図9〜13)由来の血液単核細胞(>80%芽球)に対してMER1を試験した。短期細胞培養では、MER1は三酸化砒素と同じくらい効果的であった(例を図9、10および12に示す)。さらに、正常末梢血単核細胞に対するMER1の毒性を4名の健康ドナー由来の試料で評価した。MTTアッセイ法による短期細胞懸濁液培養では、MER1は白血病患者由来の悪性細胞に比べ正常細胞に対しては毒性が低かった(図14)。最も重要なことに、長期クローン形成アッセイ法では、MER1は三酸化砒素に比べ正常細胞に対し毒性が低かった(図15)。
【0074】
1名のCLL患者(図16は三酸化砒素に対する比較を示す)、および2名のAML患者(図17)を含む3名の白血病患者由来の血液単核細胞に対し、SGLU1の試験を行った。長期クローン形成アッセイ法では、SGLU1は正常細胞に対し三酸化砒素よりも毒性が低かった(図18)。図18に示した8日クローン形成アッセイ法に加えて、9日および13日クローン形成アッセイ法も実施した。
【0075】
実施例5
MER1の製剤化および安定性
MER1はリン酸緩衝生理食塩水に溶解すると少なくとも2ヶ月は安定であり、溶液はこの期間中、実施したインビトロ実験において同じレベルの細胞毒性活性を維持することを示すデータが得られた(図19)。さらに、MER1およびSGLU1の詳細な薬学的評価を実施した。
【0076】
I.MER-1の薬学的評価
MER-1は、臨床的状況での投与が許容される十分な溶解性および安定性を有することが見出された(下記データを参照のこと)。MER-1はまた、動物試験および可能であれば前期第I相試験において使用するため、溶液を即座に混合することができるように十分安定である。しかしながら、溶液安定性は、より大規模な臨床試験において使用し、長期の貯蔵が必要とされる市場で流通させるため、より大きなバッチの液体剤形を製造するのに十分ではない。使用するときに再構成される凍結乾燥剤形が、これらの用途では企図されている。そのような凍結乾燥組成物の調製は当技術分野では周知である。
【0077】
A.溶解度
MER-1は約15mg/mLの水溶解度を有する。0.1Nの水酸化ナトリウムを使用してpH6に調整することにより、約150mg/mLまでのより高いMER-1濃度が達成できる。エタノール中では、MER-1は100mg/mlを超える溶解度を有する。
【0078】
B.溶液pH
MER-1の水溶液の固有pH値は以下の通りである:
0.1mg/mL pH3.7
1mg/mL pH3.1
10mg/mL pH2.3
【0079】
C.溶液安定性
様々なpH値の効果を、0.9%塩化ナトリウム注入薬における10mg/mL濃度で評価した。pH2.3(固有pH)および、水酸化ナトリムを用いてpH5、7.1および8.5に調整した試料を、冷却下3ヶ月の期間にわたり評価した。pH5の試料は、3ヶ月後、最初の濃度の約89%が保持され、良好な安定性が証明された。pH7.1および8.5の溶液は、14日後、それぞれ、約92%および96%を保持したが、その時点が過ぎると90%未満に落ちた。pH2.3試料は7日間安定であったが、その時点を過ぎると沈澱が生じた。表2を参照のこと。
【0080】
MER-1は水溶液中で濃度が低いほど安定性が低いが、高濃度になると安定性が増加する。水中0.1mg/mLでは、約40%の薬物が1時間という短い時間で損失した。0.9%の塩化ナトリウム注入薬中1〜10mg/mLまで濃度を増加させるにつれ、薬物はより長い期間安定した。10mg/mL濃度では冷却下最大3ヶ月まで安定であったが、その時点を過ぎると許容されない分解が起きた。表3を参照のこと。
【0081】
(表2)0.9%塩化ナトリウム注入薬におけるMER-1 10mg/mLのpH安定性プロファイル

【0082】
(表3)0.9%塩化ナトリウム注入薬における濃度を変化させたMER-1溶液の安定性

a水中
b60分で約40%の損失が起こる
cこの間隔では決定せず
【0083】
II.SGLU-1の薬学的評価
SGLU-1は、臨床的状況での投与が許容される十分な溶解性および安定性を有することが見出されている。SGLU-1はまた、動物試験および可能であれば前期第I相試験において使用するため溶液を即座に混合することができるように十分安定である。しかしながら、溶液安定性は、より大規模な臨床試験において使用し、長期の貯蔵が必要とされる市場で流通させるため、より大きなバッチの液体剤形を製造するのに十分ではない。使用するときに再構成される凍結乾燥剤形が、これらの用途では企図されている。
【0084】
A.溶解度
SGLU-1は約60mg/mLの水溶解度を有する。0.1Nの水酸化ナトリウムを使用して溶液pHを上げることにより、より高いSGLU-1濃度が達成できる。しかしながら、薬物はアルカリ環境で不安定であると思われる。SGLU-1はエタノールに不溶である。
【0085】
B.溶液pH
SGLU-1の水溶液の固有pH値は以下の通りである:
0.1mg/mL pH3.9
1mg/mL pH3.2
2.5mg/mL pH3.0
60mg/mL pH2.7
【0086】
C.溶液安定性
様々なpH値の効果を、0.9%塩化ナトリウム注入薬において2.5mg/mL濃度で評価した。pH3(固有pH)および、水酸化ナトリムを用いてpH5および7に調整した試料を、冷却下30日の期間にわたり評価した。pH5の試料は、30日後、約90%の濃度が保持され、わずかに良好な安定性が証明された。pH3および7の溶液は、それぞれ、約84%および82%を保持した。表4を参照のこと。
【0087】
pH5に調整した0.9%塩化ナトリウム注入薬中、20mg/mLおよび50mg/mLの濃度のSGLU-1について安定性試験を行っている。冷却下、60日の貯蔵を通して10%未満の損失が起きた。安定性結果を表5に示す。
【0088】
SGLU-1は濃度が低いほど安定性が低い。水中0.1mg/mLでは、室温で24時間に約10%を超える分解が起きた。
【0089】
(表4)0.9%塩化ナトリウム注入薬におけるSGLU-1 2.5mg/mLのpH安定性プロファイル

【0090】
(表5)4℃の0.9%塩化ナトリウム注入薬におけるSGLU-1、20mg/mLおよび50mg/mLの安定性

【0091】
実施例6
MER1、SAL1およびSGLU1に関する機序
アポトーシスの誘発、細胞周期への効果、成熟の誘導、および異常PML/RARα融合蛋白質の分解はすべて、三酸化砒素の作用機序であることを示す。本発明者らは、HL60ヒト白血病細胞においてアポトーシスを誘発するMER1の可能性を調べた(アッセイ時間1〜3日)。アポトーシスの誘発は、生存細胞の割合の減少に密接に追従した(図20、21および22)。MER1およびSGLUの両方を使用した追加の試験により、これらの化合物によるアポトーシスの誘発(アネキシンV染色)はミトコンドリア膜電位の変化(CMXRos染色)およびカスパーゼ活性の変化(PhiPhiLux染色)が関係することが確認された。図23A、23B、23C、23D、23Eおよび23Fを参照のこと。
【0092】
三酸化砒素がPML/RARα遺伝子を発現する細胞の成熟を誘導したことが報告されている。SGLUおよびMER1が同様の能力を有するかどうかを試験するために、NB4細胞(PML/RARα遺伝子を発現する)を使用し、砒素剤に3日間曝露した後、細胞表面のCD11bの発現をフローサイトメーターにより測定した。CD11bは骨髄性細胞に対する成熟マーカーである。SGLUおよびMER1は成熟を誘導しないことを示すデータを図24に示す。本発明の異なる砒素剤で処理したHL60細胞における可能な細胞周期妨害を、フローサイトメトリーおよびヨウ化プロピジウム染色を用いて評価した。SGLUは細胞周期のS期における細胞の著しい蓄積を引き起こし、MER1は同様の効果を引き起こすが程度が低いことが見出された(図25A、25B)。図25Cは三酸化砒素に応じた細胞のS期蓄積を示す。
【0093】
白血病細胞中のPML/RARα融合蛋白質の存在が、SGLUおよびMER1に対する白血病細胞の観察された感受性に寄与するかどうかを確認するために、下記の系を使用した:三酸化砒素に耐性があることが知られているU937細胞に、PML/RARα遺伝子をトランスフェクトした。遺伝子は亜鉛の存在下で機能的になる。このように、トランスフェクトしたU937細胞(U937/PR9)を亜鉛と共に、または亜鉛無しで、異なる砒素剤で処理した。結果を図26A、26Bおよび26Cに示す。これらの図では、細胞が三酸化砒素に対し感受性となるには機能性PML/RARα遺伝子の存在が必須条件であるが、SGLUおよびMER1に対する細胞の感受性には何の影響もないことが示される。
【0094】
実施例7
MER1、SAL1およびSGLU1の治療能力のインビボ評価
ヒト白血病の動物モデルは、ヒト白血病細胞を有する重症複合型免疫不全(SCID)マウスにより代表される。このモデルは、患者において見られる様式と同様の様式で動物においてヒト白血病の増殖が可能であるという点で独特である。このモデルにより、異なる投与レベルおよび投与計画で新規薬物のインビボ効能を迅速に試験する機会が得られる。さらに、動物の生存がモニタできるだけでなく、疾患の蔓延パターンに対する治療の効果もモニタできる。SCIDマウスの治療は典型的には、ヒト白血病細胞を接種後2日に開始される。1つのヒト白血病細胞株を注入したSCIDマウスにおける最初のインビボ実験で、他のマウスモデルならびに最初の人体試験のためのMER1、SAL1またはSGLU1の用量および計画が決定される。
【0095】
動物は毎日モニタし、瀕死の場合、または試験終了時(通常、対照群の生存時間の2倍)に屠殺する。長期生存した動物について検死を実施し、組織についてHLA-DQαのDNA配列に特異なプライマーを使用しポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりヒトDNAの存在を分析する。白血病は全身性疾患であるので、異なるマウス組織由来のDNA中のHLA-DQαのチェックにより、微小残存病変の存在を調べる。このデータにより、白血病のための選択的区画、例えば骨髄、実質臓器、または中枢神経系において薬物が活性かどうかを予測するのを支援してもよい。
【0096】
SCIDマウスにおけるインビボ治療実験に対する必須条件は、1)動物における白血病細胞移植の確認および2)試験化合物の急性毒性の決定(最大許容量の規定)である。
【0097】
I.動物における白血病細胞移植の確認
第1のインビボ実験は4群のSCIDマウスを必要とした。1群あたり5匹のマウスに、異なる型のヒト白血病細胞を腹腔内接種した:HL60(AML)、KBM5(CML-BP)、KBM7-急性骨髄性白血病、およびZ119(ALL)。HL60およびKBM5細胞は優れた移植を示した:HL60群では、接種後31日および36日以内に全てのマウスが死亡し、KBM5群では、34日および36日以内に死亡した。ヒトHLA-DQαのDNA配列に対しPCRを実施することにより移植を確認した(全てのマウス由来の全ての組織において試験は陽性であった)。100日目では、KBM7では5匹のマウスのうち依然として4匹が、Z119群では5匹中5匹が生存していた。その日、全てのマウスを屠殺し、HLA-DQαに対するPCRにより組織分析を行った。試験は陰性であり、白血病細胞の移植の欠如が示された。計画した治療研究には、同じ型の他の細胞株が必要であると考えられる。
【0098】
II.試験化合物の急性毒性の決定
毒性試験では、免疫適格性Swiss Websterマウスを使用した。本発明者らは、三酸化砒素のLD50濃度が10mg/kgであることを確認した。
【0099】
A.Swiss WebsterマウスにおけるSLGU1の簡単な毒性試験
SGLU1の毒性を試験するためにSwiss Websterマウスに対し2つの試験を実施した。第1の試験では、SGLU1を178mg/kg;285mg/kg;および357mg/kgの用量でIP経路を介して投与した。毒性はマウスの死亡数により測定した。マウスは、SGLU1の178mg/kgおよび285mg/kg用量に対し良好に耐性を示すことがわかった。この試験データを表6にまとめる。
【0100】
(表6)SLGU1の簡単な毒性試験

【0101】
第2の試験では、318mg/kgおよび375mg/kgの用量でのIPおよびIV経路の両方によるSGLU1投与に関して、加重した(weighted)各マウスへの毒性を調べた。このように、本発明者らはSGLU1に対するLD50濃度が350mg/kgであることを立証した。結果を表7にまとめる。
【0102】
(表7)加重した各マウスを用いたより良好な成績

【0103】
B.Swiss WebsterマウスにおけるMER-1の簡単な毒性試験
MER-1の毒性を試験するためにSwiss Websterマウスに対し2つの試験を実施した。第1の試験では、MER-1を71mg/kg;107mg/kg;および143mg/kgの用量でIP経路を介して投与した。毒性はマウスの死亡数により測定した。マウスは、MER-1の71mg/kgおよび107mg/kg用量に対し良好に耐性を示し、死亡数は0であることがわかった。この試験データを表8にまとめる。
【0104】
(表8)MER-1の簡単な毒性試験

【0105】
第2の試験では、125mg/kg;156mg/kgおよび170mg/kgの用量でのIPおよびIV経路の両方によるMER-1投与に関して、加重した各マウスへの毒性を調べた。このように、本発明者らはMER-1に対するLD50濃度が150mg/kgであることを立証した。結果を表9にまとめる。
【0106】
(表9)加重した各マウスを用いたより良好な成績

【0107】
C.Swiss WebsterマウスにおけるSAL1の簡単な毒性試験
上記実験と同様に、SAL1の簡単な毒性試験により、SAL1に対するLD50濃度が50mg/kgであることを立証した。
【0108】
実施例8
MER1、SAL1およびSGLU1の薬物動態学
MER1、SAL1およびSGLU1の薬物体内動態を、尾部血管を介する静脈内投与後のマウスにおいて評価する。以前に決定したMTDに近い用量を最初に調べる。血液試料は、薬物投与後、異なるサンプリング時点で採取する(0(前)、5、10、15、30、45、60分および2、3、4、6、8、12、16、24、48、72時間)(8マウス/時間点)。血液採取では、マウスをCO2吸入により安楽死させ、首を落とし、放血により血液採取する。ヘパリンを含む試験管内に血液試料を採取し、遠心分離し、血漿分離し、分析まで-80℃で保存する。試験を繰り返し、血漿限外濾過液を、Amicon Centrifreeマイクロパーティションユニット内で2000g×20分の遠心分離により回収する。分析まで限外濾過液を-80℃で保存する。選択した群において、様々な組織を検死後収穫し、組織体内動態の分析のために凍結した。血漿および限外濾過液試料中の砒素量を黒鉛炉(フレームレス)原子吸光分析により測定する。測定した薬物濃度を部門別に分析し、薬物動態学的パラメータを得る。
【0109】
実施例9
毒性試験
A.MER1に関する単回投与毒性試験
単回投与Mer1毒性試験によるデータを下記表10にまとめる。
【0110】
(表10)MER1単回投与:3日、14日、42日毒性

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないこと示す。

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。
【0111】
B.複数回投与毒性試験
複数のマウス群において繰り返し投与に関連する用量限定毒性を決定するためにさらに試験を行った。下記の表11〜16はMER-1に対する複数回投与毒性試験の結果を示したものであり、表17〜21はSGLU-1の複数回投与毒性の結果を記述したものである。
【0112】
(表11)インビボのMER-1複数回投与毒性

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。
【0113】
(表12)MER-1に応じた器官病変の分析


【0114】

【0115】
脈管炎/血管周囲炎/およびフィブリン血栓は同じ過程の一部であると考えられ、MER1のIV投与と関連する。この試験では、脈管炎に対し無作用濃度はない。より高い用量(80mg/kg/日およびそれ以上)では、肝臓に小葉中心性の肝細胞肥大が存在した(CL肥大)。この所見は生体異物が肝臓で代謝された場合まれではなく、巨細胞は滑面小胞体の増加を示す。これは、肝臓での酵素誘導を測定することにより確認できる。
【0116】
(表13)MER-1複数回投与毒性

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないこと示す。

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。
【0117】
(表14)MER1に対する死亡数および許容される投与数

【0118】
死亡数に基づくと、この試験では無作用濃度(NOEL)は存在しない。
【0119】
(表15)MER1処理した雌に対する病理組織所見の概略






【0120】
(表16)MER1処理した雄に対する病理組織学的所見のまとめ






【0121】
110、120、130、140、および150mg/kg/日×5日について評価するMER1の静脈内複数回投与毒性試験の結果を以下のように要約する:本試験は心臓、肺、肝臓、および腎臓の顕微鏡評価に焦点を合わせた。冠状動脈の内側肥大は通常、雌マウスにおいてより雄マウスにおいてよく見られる自然病変である。腎臓および肝臓の炎症病変、例えばリンパ凝集体は、MER1と関係ない偶発的な所見であると結論する。肝細胞肥大および腎細尿管の急性壊死は、雄雌両方の処理マウスにおいて一貫しては見られない重要性が不確かな病変である。高用量の雄に見られた汎小葉性肝細胞肥大は時として微小胞性空砲形成と関連し、肝毒性の可能性を示唆した。これらの動物は単回投与後、死の直前に屠殺した。MER1の単回投与試験では脈管障害が一般的であったが、これらの複数回投与マウスの肺の血管病変は一貫しておらず、存在しても目立たなかった。雄マウスでは耐性がより少用量であること、および死亡数がより大きいことにより、雄という性別がこの化合物の毒性効果に対しより感受性が高いことが示唆される。性別間の肝臓における代謝の違いを分析すると役に立つかもしれない。
【0122】
(表17)SGLU-1複数回投与インビボ毒性

特に記載がなければ、値=処理群平均÷対照群平均。
「-」は化合物関連の所見がないことを示す。
【0123】
SGLU-1 I.V.複数回投与の結果は以下のようにまとめられる:5匹のマウス/性に5日間、毎日、50、100、150、200、250、300および350mg/kg/日の用量で、尾部血管を介してSGLUを静脈内投与した。生存マウスをすべて、28日維持し、屠殺し、および指定した組織を採取し、ホルマリン固定し、試験した。
【0124】
250、300および350mg/kg/日で死亡が見られ、雌マウスの方が雄よりも影響されやすかった。顕微鏡観察により、肺、肝臓、胸腺および精巣で化合物関連の病変が認められた。この試験での雌マウスに対する無作用濃度は150mg/kg/日であり、これは200mg/kg/日での1/5雌マウスにおける小葉中心性の肝細胞肥大に基づく。この試験での雄マウスに対する無作用濃度(NOEL)は100mg/kg/日であり、これは150mg/kg/日での1/5雄マウスにおける睾丸精細管変性に基づく。
【0125】
(表18)死亡

【0126】
(表19)許容される投与数

【0127】
(表20)化合物関連病変


【0128】
(表21)顕微鏡観察全ての発生率のまとめ



【0129】
実施例10
HPLC分析法開発および確認
有機砒素剤の使用に関する方法開発および確認にHPLCを使用する。HPLC法は、標準曲線および線形性、再現性(最低10注入)、感度(最低定量化濃度;最低検出可能濃度)、精度(例えば0.025mg/mL、0.1mg/mL、1mg/mLの3つの別個に調製した溶液)、熱、塩基性溶液、酸性溶液およびH2O2による意図的な変性、ならびに完全な薬物、バルク不純物、および開始材料に対するピーク規定、ならびに生成物変性を含む。バルク原料薬物を参照基準ロットにおいて、純度のHPLC分析、乾燥による損失、旋光度、融点および外観により分析する。
【0130】
実施例11
剤形開発
薬理学研究所(Pharmacology Laboratory)により開発された製剤化溶媒系に従い、有機砒素剤の調剤を開発する。これには、潜在的な水性溶剤中での安定性および濾過に対する安定性、さらなる開発のための標的濃度の選択、必要であれば浸透圧およびpH試験ならびに調節、パッケージおよび密閉構造の選択、熱安定性の決定(オートクレーブ)、外観および微粒子量の試験、ならびに標的pH値および許容される標的濃度範囲の決定が含まれる。
【0131】
実施例12
臨床試験
この実施例は、本発明の砒素化合物、MER1、SGLUおよびSAL-1、ならびに組成物またはその製剤を使用するヒト治療プロトコルの開発に関する。これらの組成物は、白血病および充実性癌および腫瘍の他の形態を含む様々な癌の臨床治療において使用される。
【0132】
患者の治療およびモニタリングを含む臨床試験を実施する様々な要素は、本開示に照らせば、当業者には周知であると考えられる。以下の情報は本発明の組成物を使用する臨床試験を確立する際に使用するための一般的なガイドラインとして提供する。
【0133】
第I相臨床試験のための候補者は、従来の療法が全て失敗した患者である。MER-1、SAL-1またはSGLU-1の製剤を、4週間毎に5日の試験計画で静脈内投与する。当業者であれば、限局、局所、または全身投与を含む任意の方法による投与を含む病変の性質により適した任意の他の経路によって本発明の治療製剤を投与してもよいことを理解すると考えられる。経口および局所適用もまた企図されている。本発明の組成物は、所望の、標準の周知の非毒性の、生理学的に許容される担体、アジュバントおよび溶剤を含む用量単位製剤において、典型的には経口または非経口により投与される。本明細書で使用されるように非経口という用語は、皮下注入、静脈内、筋内、動脈内投与、または注入技術を含む。
【0134】
疾患過程をモニタし、抗腫瘍応答を評価するために、患者は毎月適した腫瘍マーカーについて試験されるように企図される。薬物の効能を評価するために、以下のパラメータをモニタする:腫瘍サイズおよび/または癌細胞の骨髄浸潤。患者の経過および治療の効能をモニタするために使用される試験には以下のものが挙げられる:健康診断、X-線、血液検査、および他の臨床研究室法。第1相試験において示される用量は、標準第1相臨床相試験において実施されるように増加される、すなわち最大許容範囲に到達するまで用量が増加される。
【0135】
臨床応答は許容される測定により規定されてもよい。例えば、完全寛解は、少なくとも2ヶ月間の間で癌細胞の証拠が完全に消失することにより規定されてもよい。一方、部分寛解は、少なくとも2ヶ月の間で癌細胞の50%が減少することにより規定されてもよい。
【0136】
本発明の治療薬のみを用いて、または当技術分野において使用される他の抗癌剤および他の標準癌療法と併用して、臨床試験を実施してもよい。本発明の治療用組成物は、他の抗癌剤の前後、またはそれと共に患者に送達されてもよい。
【0137】
治療の典型的な過程は、当業者に周知の方法で治療される個々の患者および疾患により変化する。例えば、白血病患者は4週間サイクルで治療してもよいが、患者に副作用が見られる場合はより長い期間を使用してもよく、期待されるように患者が治療に耐えることができれば、より短期の治療になりうる。各サイクルは、5の各用量で構成されるが、これもまた臨床的症状により変化させてもよい。臨床医による選択に基づき、3週間毎に5投与、またはより少ない頻度に基づき投薬を続けてもよい。当然、これらは例示的な治療時間にすぎず、熟練した開業医であれば、多く他の時間過程が可能であることは容易に認識できる。
【0138】
患者は、前もって化学療法、放射線療法または遺伝子療法治療を受けてもよいが、受けなくてもよい。最適には、患者は十分な骨髄機能(末梢絶対顆粒球数>2,000/mm3、および血小板数100,000/mm3として規定される)、十分な肝機能(ビリルビン1.5mg/dl)および十分な腎機能(クレアチニン1.5mg/dl)を示す。
【0139】
1つの態様では、投与は簡単に、治療組成物の腫瘍への注入を必要とする。他の態様では、カテーテルを腫瘍部位に挿入し、空洞に所望の期間連続して灌流してもよい。
【0140】
当然、上記治療計画は、前臨床試験で得られた知識により変更してもよい。当業者であれば本明細書で開示した情報を取り入れ、本明細書で記述した臨床試験に基づき、治療計画を最適化することができる。
【0141】
本明細書内で開示し、主張した方法は全て、本開示に照らせば、過度の実験無しに作成し、実施することができる。本発明の組成物および方法について好ましい態様の観点から説明してきたが、当業者であれば、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱せずに、本明細書で記述した方法、および方法の段階または一連の段階に様々な変更を加えてもよいこと明らかであると考えられる。さらに具体的には、化学的および生理学的の両方に関連するある一定の薬剤を、本明細書で記述した薬剤の代わりに使用してもよく、同じかまたは同様の結果が達成されることは明らかであると考えられる。当業者に明らかなそのような同様の置換および改変はすべて、添付の請求の範囲により規定される本発明の趣旨、範囲および概念に含まれると考えられる。
【0142】
参考文献
下記の参考文献は、本明細書で示した詳細を補足する例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、参照として本明細書に具体的に組み込まれる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式を含む、抗癌活性を有する化合物またはその薬学的に許容される塩:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;かつ
R5は-OH、またはグリシン置換基である)。
【請求項2】
以下の式を有する、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。

【請求項3】
以下の式を有する、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。

【請求項4】
以下の式を有する、請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容される塩。

【請求項5】
薬学的担体、および以下の式を有する有機砒素化合物またはその薬学的に許容される塩を含む、抗癌活性を有する薬学的組成物:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;かつ
R5は-OH、またはグリシン置換基である)。
【請求項6】
以下の式を有する化合物またはその薬学的に許容される塩の、治療的有効量を含む組成物を患者に投与する段階を含む、癌患者の治療方法:

(式中、
R1およびR2は、独立して1〜10個の炭素原子を有するアルキルであり;
XはSまたはSeであり;
R3は-H、-COOH、-CH2-COOH、-CH2-CH2-COOH、-CH(CH3)-COOH、-CH(CH2-CH3)-COOH、または-CH2-CH2-CH2-COOHであり;
nは0または1であり;
R4は-OH、-H、-CH3、またはグルタミン置換基であり;
R3、R4、C1およびC2はすべて、独立して芳香環部分または置換芳香環部分を含み;かつ
R5は-OH、またはグリシン置換基である)。
【請求項7】
化合物が、以下の式またはその薬学的に許容される塩を有する、請求項6記載の方法。

【請求項8】
化合物が、以下の式またはその薬学的に許容される塩を有する、請求項6記載の方法。

【請求項9】
化合物が、以下の式またはその薬学的に許容される塩を有する、請求項6記載の方法。:

【請求項10】
癌が充実性腫瘍を含む、請求項6記載の方法。
【請求項11】
癌が、脳癌、肺癌、肝臓癌、脾臓癌、腎臓癌、リンパ節癌、小腸癌、膵臓癌、血液細胞癌、骨癌、結腸癌、胃癌、乳癌、子宮内膜癌、前立腺癌、精巣癌、卵巣癌、中枢神経系癌、皮膚癌、頭頸部癌、食道癌、または骨髄癌である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
癌が血液癌である、請求項6記載の方法。
【請求項13】
癌が、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成、骨髄増殖性疾患、または不応性貧血である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
癌が、急性前骨髄球性白血病である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
薬学的有効量が、0.1〜1000mg/kgである、請求項6記載の方法。
【請求項16】
薬学的有効量が、1〜500mg/kgである、請求項15記載の方法。
【請求項17】
薬学的有効量が、10〜100mg/kgである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
化合物が、毎日投与される、請求項6記載の方法。
【請求項19】
化合物が、注入により投与される、請求項6記載の方法。
【請求項20】
追加の薬剤が患者に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項21】
追加の薬剤が、全トランス-レチノイン酸、9-シス-レチノイン酸、Am-80、またはアスコルビン酸である、請求項20記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【図3H】
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【図3I】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図5H】
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【図5I】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図8I】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23A】
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【図23B】
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【図23C】
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【図23D】
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【図23E】
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【図23F】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−90149(P2010−90149A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279362(P2009−279362)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【分割の表示】特願2003−557380(P2003−557380)の分割
【原出願日】平成15年1月7日(2003.1.7)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【出願人】(504261103)ザ テキサス エー アンド エム ユニバーシティー システム (6)
【Fターム(参考)】