説明

癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定方法及びコンピュータプログラム

【課題】
本発明は、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的かつ正確な、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定方法及びそれらの方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムの提供を課題とする。
【解決手段】
癌細胞を含む生体試料に含まれるGSTπの発現量を測定し、得られたGSTπの発現量が大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性判定方法及びコンピュータプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GSTπの発現量に基づいた、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定する方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の一般的な治療法の一つに化学療法があり、各種の抗癌剤投与が行われている。しかしながら、癌の種類や患者個々人の差により有効な抗癌剤は異なり、また、抗癌剤は治療域と有害域がオーバーラップする場合が多い。従って、効果的でない抗癌剤を投与した場合は、癌の再発可能性が高まるばかりか、抗癌剤の副作用により患者の体力が低下し、次に有効な別の抗癌剤を投与しても十分な効力を発揮できない恐れがある。このことから、安全性を確保しつつ有効性を得るために、投与前に有効な抗癌剤を正確に特定する薬剤反応性を予想するシステムの開発が切望されている。
【0003】
従来、癌に対する抗癌剤の感受性検査としては、患者から単離した癌細胞に様々な抗癌剤を接触させ、癌細胞の増殖抑制等を指標としてその癌細胞に有効と思われる抗癌剤を特定する方法が採用されてきた。しかしながら、このような試行錯誤的方法では、検査結果が十分に臨床治療効果に反映しないばかりか、抗癌剤治療に大量の癌細胞が必要となる。そのため、治療効果の低い抗癌剤の投与による再発の問題、及び大量の癌細胞の採取による患者への負担の問題が有った。
【0004】
アンスラサイクリン系抗癌剤は、トポイソメラーゼIIのDNAの再結合を阻害することで、アポトーシスを誘導する抗癌剤である。アンスラサイクリン系抗癌剤は、臨床上高く評価され、乳癌等の化学療法において汎用されている。しかしながら、他の抗癌剤と同様に、心毒性、白血球減少等の重大な副作用を引き起こす恐れがある。従って、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定方法の確立は非常に重要である。
【0005】
グルタチオン-S-トランスフェラーゼπ(GSTπ)は、ヒトのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)ファミリーに属する酵素のうち、GSTP1遺伝子にコードされた分子量約22.5kDaのタンパク質である。GSTπは、還元型グルタチオン(GSH)と抗癌剤との抱合体形成を触媒することにより、抗癌剤の毒性を弱めることに関与している。そのため、一般的にGSTπが高発現している癌細胞は、GSTπが低発現している癌細胞に比べ、抗癌剤に対する耐性が高まることが知られている。例えば、非特許文献1には、一般的にGSTπが高発現している癌細胞は、GSTπが低発現している癌細胞に比べ、アンスラサイクリン系抗癌剤に対する耐性が高まることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Andrew H., et al. ROLE OF GLUTATHIONE S-TRANSFERASE P1, P-GLYCOPROTEIN AND MULTIDRUG RESISTANCE-ASSOCIATED PROTEIN 1 IN ACQUIRED DOXORUBICIN RESISTANCE.Int.J.Cancer:92,777-783(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定する方法、及びその方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のように、従来、GSTπが高発現している癌細胞は、アンスラサイクリン系抗癌剤に対する耐性が高まると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、GSTπが高発現している癌細胞は、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、癌細胞を含む生体試料に含まれる、GSTπの発現量を測定する工程と、測定工程で得られたGSTπの発現量が大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する工程と、を含む、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定する方法を提供する。
また、本発明は、コンピュータを、癌細胞を含む生体試料に含まれる、GSTπの発現量を取得する取得手段と、GSTπの発現量と第1の閾値とを比較する比較手段と、GSTπの発現量が第1の閾値より大きい場合に、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する判定手段と、判定結果を出力する出力手段、として機能させるためのコンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、患者に大きな負担をかけることの無い、客観的かつ正確な、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定する方法を提供することができる。また、本発明によれば、前述の感受性の判定方法を、コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムを提供することができる。
【0011】
また、本発明の方法及びコンピュータプログラムによれば、癌患者から採取された癌細胞におけるGSTπの発現量に基づいて、癌患者に対する、アンスラサイクリン系抗癌剤の感受性を判断できる。そのため、患者への有効なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与が可能となるばかりで無く、不要なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与を回避することができる。結果として、本発明によれば、患者の副作用による負担を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定するコンピュータによる一実施形態を示す。
【図2】GSTπの発現量を用いた、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を高いと判定するコンピュータにおける判定フローを示す。
【図3】GSTπの発現量及びCDK1比活性値/CDK2比活性値を用いた、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定するコンピュータにおける判定フローを示す。
【図4】GSTπの発現量及びCDK1比活性値/CDK2比活性値を用いた、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い又は低いと判定するコンピュータにおける判定フローを示す。
【図5】実施例1において、29種の乳癌細胞株におけるIC50の結果及びGSTπの発現量を示す図である。
【図6】実施例2において、9つの臨床検体のうち、非再発検体及び再発検体におけるGSTπの発現量を示す図である。
【図7】実施例3において、27種の乳癌細胞株におけるIC50の結果、GSTπの発現量及びCDK2の比活性値/CDK1の比活性値の値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態において、癌細胞は、特に制限されるものではない。例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌細胞が挙げられる。本実施形態では、癌細胞は、乳癌の癌細胞が好ましい。
【0014】
本実施形態において、癌患者は、特に制限されるものではない。例えば、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌および白血病細胞等の癌患者が挙げられる。本実施形態では、癌患者は、乳癌の癌患者が好ましい。
【0015】
本実施形態において、生体試料は、ヒト等の動物から採取された複数の細胞を含む試料であれば特に限定されない。例えば、血液、血清、リンパ液、尿、乳頭分泌液、及び手術や生検により被験者から採取した細胞や組織などが挙げられる。また、被検者から採取した細胞や組織を培養して得られた試料を生体試料として用いることもできる。
【0016】
本実施形態において、アンスラサイクリン系抗癌剤は、抗癌作用を有するアンスラサイクリン化合物であれば、特に制限されない。例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン、イダルビシンが挙げられる。本実施形態では、アンスラサイクリン系抗癌剤は、ドキソルビシンが好ましい。
【0017】
本実施形態は、癌細胞を含む生体試料に含まれるGSTπの発現量を測定する工程(以下、「測定工程」ということがある)を含む。測定工程は、GSTπのタンパク又はmRNAの発現量を測定できる、公知の測定方法を用いて行えばよく、特に制限されない。公知の測定方法としては、例えば、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、2次元電気泳動法、プロテインチップによる解析法、酵素結合免疫測定法(ELISA法)、免疫蛍光法、ウエスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、RT−PCR法、ノーザンブロッティング法、NASBA法及びDNAチップによる方法等が挙げられる。本実施形態における、測定方法としては、GSTπのタンパクの発現量を測定する測定方法が好ましい。
【0018】
本実施形態は、測定工程で得られたGSTπの発現量が大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する工程(以下、「判定工程」ということがある)を含む。
【0019】
本実施形態において、GSTπの発現量の大小は、測定工程で使用した測定方法に応じ、GSTπの発現量を目視または数値化して、判定することができる。例えば、測定工程において、GSTπのタンパクの発現量をウエスタンブロッティング法で測定した場合、メンブレン上に出現したGSTπのタンパクのバンドと、コントロールのバンドとを、目視で比較し、GSTπの発現量の大小を判定することができる。また、前述のメンブレン上に出現したGSTπのタンパクのバンドを、イメージスキャナに取り込み、そのシグナル強度を解析することで、GSTπの発現量を数値化する。もしくは、測定工程において、GSTπのタンパクの発現量をフィルタープレートを用いて測定した場合、プレート上に出現したGSTπのタンパクの蛍光と、コントロールの蛍光とを、目視で比較し、GSTπの発現量の大小を判定することができる。また、前述のプレート上に出現したGSTπの蛍光を、イメージスキャナに取り込み、その蛍光強度を解析することで、GSTπの発現量を数値化する。そして、数値化したGSTπの発現量と、所定の閾値(第1の閾値)とを比較することで、GSTπの発現量の大小を判定することもできる。本実施形態における判定工程は、数値化したGSTπの発現量と、第1の閾値とを比較し、GSTπの発現量の大小を判定するほうが、客観性の観点から好ましい。
【0020】
ここで、第1の閾値は、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判断する際の、GSTπの発現量の判定基準である。この第1の閾値は、測定工程で使用した測定方法に応じ、経験的に適宜設定することができる。例えば、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い癌細胞を含む、複数の生体試料の、GSTπの発現量を測定する。同様に、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低い癌細胞を含む、複数の生体試料のGSTπの発現量を測定する。得られた複数のGSTπの発現量から、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い癌細胞を含む生体試料と、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低い癌細胞を含む生体試料とを、区別可能なGSTπの発現量の値を、第1の閾値として設定することができる。
【0021】
なお、本実施形態において、測定工程は、さらに、癌細胞を含む生体試料に含まれるサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)の比活性値と、サイクリン依存性キナーゼ2(CDK2)の比活性値とを測定することができる。また、判定工程は測定工程で得られたGSTπの発現量が大きい場合、または測定工程で得られたCDK2の比活性値/測定工程で得られたCDK1の比活性値(以下、CDK2比活性値/CDK1比活性値ということがある)の値と第2の閾値を比較し、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定することができる。このように、GSTπの発現量に加え、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を用いることで、より正確に、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定することができる。
【0022】
ここで、CDK1の比活性値とは、細胞に存在しているCDK1のうち、活性を示すCDK1の割合に相当する。CDK1の比活性値は、具体的に、CDK1の活性値/CDK1の発現量により算出することができる。また、CDK2の比活性値とは、細胞に存在しているCDK2のうち、活性を示すCDK2の割合に相当する。CDK2の比活性値は、具体的に、CDK2の活性値/CDK2の発現量により算出することができる。
【0023】
CDK1の活性値及びCDK2の活性値は、例えば、CDKによってリン酸化される基質の量から算出されるキナーゼ活性のレベル(単位をU(ユニット)で表す)である。なお、CDK1及びCDK2がリン酸化する基質としては、例えば、ヒストンH1が挙げられる。
【0024】
CDK1の活性値及びCDK2の活性値は、公知のCDK活性測定方法によって測定することができる。公知のCDK活性測定方法としては、例えば、放射性物質による標識を用いる方法や、放射性物質による標識を用いない方法が挙げられる。放射性物質による標識を用いる方法としては、例えば、癌細胞を含む生体試料から試料を調製し、当該試料と32P標識したATP([γ−32P]ATP)とを用いて、基質タンパク質に32Pを取り込ませ、32P標識されたリン酸化基質の標識量を測定し、標準品で作成された検量線をもとにCDK1の活性値又はCDK2の活性値を定量する方法などが挙げられる。また、放射性物質による標識を用いない方法としては、例えば、米国公開2002/164673号公報に記載の方法が挙げられる。米国公開2002/164673号公報に記載の方法は、癌細胞を含む生体試料から試料を調製し、アデノシン5’-O−(3−チオトリホスフェート)(ATPγS)と基質タンパク質を反応させて、該基質タンパク質のセリン残基又はスレオニン残基にモノチオリン酸基を導入し、導入されたモノチオリン酸基の硫黄原子に蛍光標識物質又は標識酵素を結合させることによって基質タンパク質を標識し、標識されたチオリン酸基に基づく標識量(蛍光標識物質を用いた場合には蛍光量)を測定し、標準品で作成された検量線に基づいて定量する方法である。
【0025】
活性測定に用いる試料は、測定対象となる癌細胞を含む生体試料からCDK1又はCDK2を特異的に採集することにより調製する。この場合、試料はCDK1又はCKD2のいずれかに特異的な抗CDK抗体を用いて調製する。いずれの場合も活性化CDK1以外のCDK1、または活性化CDK2以外のCKD2が含まれることになる。例えば、CKD1の場合は、サイクリン・CDK1複合体にCDK1インヒビターが結合した複合体も含まれる。また、抗CDK1抗体を用いた場合には、単体のCDK1、CDK1とサイクリン及び/又はCDK1インヒビターの複合体、CDK1とその他の化合物との複合体などが含まれる。従って、CDK1活性値は、CDK1活性型、CDK1不活性型、各種競合反応が混在する状態下で、リン酸化された基質の単位(U)として測定される。CDK2の場合も、上述したCKD1の場合と同様の状態下で測定される。
【0026】
CDK1の発現量又はCDK2の発現量は、測定対象となる癌細胞を含む生体試料の可溶化液に含まれるCDK1量又はCDK2量(分子個数に対応する単位)であって、タンパク質混合物からタンパク質質量を測定する従来公知の方法で測定できる。例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法などを使用してもよいし、特開2003−130971号に開示の方法で測定することもできる。CDK1及びCDK2は、それぞれに特異的な抗体を用いて捕捉すればよい。例えば、CDK1の場合は、抗CDK1抗体を用いることにより、細胞内に存在するCDK1のすべて(CDK1担体、CDK1とサイクリン及び/又はCDK1インヒビターの複合体、CDK1とその他の化合物との複合体を含む)を補足できる。CDK2の場合も、上述したCKD1の場合と同様の手法でCDK2の発現量を測定できる。
【0027】
ここで、第2の閾値は、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判断する際の、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値の判定基準である。この閾値は、測定工程で使用した測定方法に応じ、経験的に適宜設定することができる。例えば、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い癌細胞を含む、複数の生体試料の、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を測定する。同様に、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低い癌細胞を含む、複数の生体試料のCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を測定する。得られた複数のCDK2比活性値/CDK1比活性値の値から、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い癌細胞を含む生体試料と、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低い癌細胞を含む生体試料とを、区別可能なCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を、閾値として設定することができる。
【0028】
本実施形態において、判定工程は、さらに、測定工程で得られたGSTπの発現量が小さく、且つCDK2比活性値/CDK1比活性値の値と第2の閾値を比較し、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値が閾値より小さい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低いと判定することもできる。このように、GSTπの発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を用いることで、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低いと判定することもできる。結果として、患者への不要なアンスラサイクリン系抗癌剤の投与を回避することができる。
【0029】
本実施形態において、コンピュータプログラムは、上記の生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定をコンピュータに実施させることができる。その具体的なコンピュータの一例を、図1に示す。
【0030】
コンピュータ100は、本体110と、表示部120と、入力デバイス130とから主として構成されている。本体110は、CPU110aと、ROM110bと、RAM110cと、ハードディスク110dと、読出装置110eと、入出力インターフェイス110f、及び画像出力インターフェイス110hは、お互いにバス110iによってデータ通信可能に接続されている。
【0031】
CPU110aは、ROM110bに記憶されているコンピュータプログラム及びRAM110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。
ROM110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROM等によって構成されており、CPU110aに実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。
RAM110cは、SRAM又はDRAM等によって構成されている。RAM110cは、ROM110b及びハードディスク110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU110aの作業領域として利用される。
【0032】
ハードディスク110dは、オペレーティングシステム及びアプリケーションシステムプログラム等、CPU110aに実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述するアプリケーションプログラム140aも、このハードディスク110dにインストールされている。
【0033】
読出装置110eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、又はDVD−ROMドライブ等によって構成されており、可搬型記憶媒体140に記録されたコンピュータプログラム又はデータを読み出すことができる。また、可搬型記憶媒体140には、コンピュータに判定に係るアプリケーションプログラム140aが格納されており、CPU110aが可搬型記憶媒体140から当該アプリケーションプログラム140aを読み出し、アプリケーションプログラム140aをハードディスク110dにインストールすることも可能である。
【0034】
また、ハードディスク110dには、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインターフェイス環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。以下の説明においては、上述した判定に係るアプリケーションプログラム140aは、当該オペレーティングシステム上で動作するものとしている。
【0035】
入出力インターフェイス110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232C等のシリアルインターフェイス、SCSI、IDE、IEEE1284等のパラレルインターフェイス、及びD/A変換器、A/D変換器等からなるアナログインターフェイス等から構成されている。入出力インターフェイス110fには、キーボード及びマウスからなる入力デバイス130が接続されており、ユーザが当該入力デバイス130を使用することにより、コンピュータ本体110にデータを入力することが可能である。
【0036】
また、入出力インターフェイス110fには、測定装置200が接続されている。これにより、コンピュータ本体110は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して、GSTπの発現量を取得することが可能である。
【0037】
画像出力インターフェイス110hは、LCDまたはCRT等で構成された表示部120に接続されており、CPU110aから与えられた画像データに応じた映像信号を表示部120に出力するようになっている。表示部120は、入力された映像信号にしたがって、画像データを出力する。また、表示部120は、後述するCPU110aから与えられた判定結果を出力する。
【0038】
図2は、生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量による、上述の判定を実行するためのアプリケーションプログラム140aの動作を示すフローチャートである。まず、測定装置200により取得された生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量に関する情報が、入出力インターフェイス110fを介してコンピュータ本体110に入力される。CPU110aは、GSTπの発現量に関する情報に基づいて、GSTπ発現量を算出し、RAM110cに記憶させる(ステップS1)。ここで、生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量に関する情報として、後述する実施例1において蛍光強度測定装置(Plate Reader(Infinite F200、Tecan社製))により測定された蛍光強度が、コンピュータ本体110に入力される。
【0039】
CPU110aは、予めアプリケーションプログラム140aのデータとしてメモリ110dに記憶させていた閾値を呼び出して、この閾値とGSTπの発現量との比較を実行する(ステップS2)。ここで、閾値は、後述する実施例1におけるGSTπ発現量の閾値3である。
【0040】
次に、CPU110aは、GSTπの発現量が閾値以上であるか否かを判断する(ステップS3)。
【0041】
次に、CPU110aは、GSTπの発現量が閾値以上である場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定する(ステップS4)。逆に、CPU110aは、GSTπの発現量が閾値未満の場合、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定を「保留」とする(ステップS5)。ここで、後述する実施例1における29種の乳癌細胞株のうち、9種の乳癌細胞株がアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定され、20種の乳癌細胞株が「保留」と判定された。
【0042】
そして、CPU110aは、上記の判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介して、表示部120に出力する(ステップS6)。
【0043】
なお、本実施形態において、GSTπの発現量は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して取得されたが、これに限定されるものではなく、例えば、GSTπの発現量は、操作者による入力により、入力デバイス130から取得されるようにしてもよい。
【0044】
本実施形態におけるコンピュータプログラムは、GSTπの発現量に加えて、さらに、CDK2の比活性値/CDK1の比活性値(CDK2比活性値/CDK1比活性値)の値を用いて、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定をコンピュータに実施させることができる。
【0045】
図3は、GSTπの発現量及びCDK1比活性値/CDK2比活性値により、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定するアプリケーションプログラム140aの動作を示すフローチャートである。まず、測定装置200により取得された生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報が、入出力インターフェイス110fを介してコンピュータ本体110に入力される。CPU110aは、GSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報に基づいて、GSTπ発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量を算出し、それぞれRAM110cに記憶させる(ステップS7)。ここで、生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報として、後述する実施例3において蛍光強度測定装置(Plate Reader(Infinite F200、Tecan社製)により測定された蛍光強度が、コンピュータ本体110に入力される。
【0046】
CPU110aは、RAM110cに記憶されているCDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量から、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を算出する(ステップS8)。
【0047】
CPU110aは、予めアプリケーションプログラム140aのデータとしてメモリ110dに記憶させていた第1の閾値及び第2の閾値を呼び出して、第1の閾値とGSTπの発現量、及び第2の閾値とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値との比較を実行する。(ステップS9)。ここで、第1の閾値としては、後述する実施例3におけるGSTπ発現量の閾値3である。また、第2の閾値としては、後述する実施例3におけるCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値7.41である。
【0048】
次に、CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値以上、またはCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値以上であるか否かを判断する(ステップS10)
【0049】
次に、CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値以上である場合、またはCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値以上である場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定する(ステップS11)。逆に、CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値未満である場合、またはCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値未満である場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定を「保留」とする(ステップS12)。ここで、後述する実施例3における27種の乳癌細胞株のうち、16種の乳癌細胞株がアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定され、11種の乳癌細胞株が「保留」と判定された。
【0050】
そして、CPU110aは、上記の判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介して、表示部120に出力する(ステップS13)。
【0051】
さらに、本実施形態におけるコンピュータプログラムは、GSTπの発現量に加えて、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を用いて、さらに、アンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「低い」癌細胞を、判定することもできる。
【0052】
図4は、GSTπの発現量及びCDK1比活性値/CDK2比活性値により、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高い又は低いと判定するアプリケーションプログラム140aの動作を示すフローチャートである。まず、測定装置200により取得された生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報が、入出力インターフェイス110fを介してコンピュータ本体110に入力される。CPU110aは、GSTπ発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報に基づいて、GSTπ発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量を算出し、それぞれRAM110cに記憶させる(ステップS14)。ここで、生体試料に含まれる癌細胞のGSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量に関する情報として、後述する実施例3において蛍光強度測定装置(Plate Reader(Infinite F200、Tecan社製)により測定された蛍光強度が、コンピュータ本体110に入力される。
【0053】
CPU110aは、RAM110cに記憶されているCDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量から、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を算出する(ステップS15)。
【0054】
CPU110aは、予めアプリケーションプログラム140aのデータとしてメモリ110dに記憶させていた第1の閾値及び第2の閾値を呼び出して、第1の閾値とGSTπの発現量、及び第2の閾値とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値との比較を実行する。(ステップS16)。ここで、第1の閾値としては、後述する実施例3におけるGSTπ発現量の閾値3である。また、第2の閾値としては、後述する実施例3におけるCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値7.41である。
【0055】
次に、CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値未満、かつCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値未満であるか否かを判断する(ステップS17)。
【0056】
CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値未満、かつCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値未満である場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「低い」と判定する(ステップS18)。逆に、CPU110aは、GSTπの発現量が第1の閾値以上の場合、又はCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値以上の場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定する(ステップS19)。ここで、後述する実施例3における27種類の乳癌細胞株のうち、7種の乳癌細胞株がアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「低い」判定され、20種の乳癌細胞株がアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が「高い」と判定された。
【0057】
そして、CPU110aは、上記のいずれかの判定結果を、RAM110cに格納するとともに画像出力インターフェイス110hを介して、表示部120に出力する(ステップS20)。
【0058】
なお、本実施形態において、GSTπの発現量、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して取得されたが、これに限定されるものではなく、例えば、GSTπの発現量は、操作者による入力により、入力デバイス130から取得されるようにしてもよい。
【0059】
なお、本実施形態において、GSTπの発現量は、測定装置200から入出力インターフェイス110fを介して取得されたが、これに限定されるものではなく、例えば、GSTπの発現量は、操作者による入力により、入力デバイス130から取得されるようにしてもよい。
【実施例】
【0060】
(参考例1)
<乳癌細胞株の培養>
ヒト乳癌細胞株であるAU565細胞(ATCC CRL−2351)、BT−20細胞(ATCC HTB−19)、BT−474細胞(ATCC HTB−20)、BT−549細胞(ATCC HTB−122)、HCC1569細胞(ATCC CRL−2330)、HCC1937細胞(ATCC CRL−2336)、Hs578T細胞(ATCC HTB−126)、SK−BR−3細胞(ATCC HTB−30)、ZR−75−1細胞(ATCC CRL−1500)、ZR−75−30細胞(ATCC CRL−1504)、HCC1419細胞(ATCC CRL−2326)、HCC202細胞(ATCC CRL−2316)、BT−483細胞(ATCC HTB−121)、CAMA−1細胞(ATCC HTB−21)、HCC1954細胞(ATCC CRL−2338)、MCF7細胞(ATCC HTB−22)、T−47D細胞(ATCC HTB−133)、HCC1500細胞(ATCC CRL−2329)、HCC1428細胞(ATCC CRL−2327)、HCC1806細胞(ATCC CRL−2335)、MDA−MB−415細胞(ATCC HTB−128)、MDA−MB−231細胞(ATCC HTB−26)、MDA−MB−361細胞(ATCC HTB−27)、MDA−MB−435S細胞(ATCC HTB−129)、MDA−MB−453細胞(ATCC HTB−131)、UACC−812細胞(ATCC CRL−1897)、MDA−MB−157細胞(ATCC HTB−24)、MDA−MB−436細胞(ATCC HTB−130)、UACC−893細胞(ATCC CRL−1902)を、American Type Culture Collection(ATCC)から購入し、ATCC推奨の培養条件に従って培養した。
【0061】
表1に、各細胞株のATCC推奨の培養条件である基本培地、基本培地におけるFBS(ウシ胎仔血清)パーセント濃度、培地への添加物及び培養環境を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(参考例2)
<測定用試料の作成>
参考例1に示される29種の各乳癌細胞株を、参考例1の培養条件にて15cmディッシュ中の培地にそれぞれ播種して、70〜80%コンフレントとなるように培養した。培養後、15cmディッシュから培地を除去し、リン酸緩衝化生理的食塩水10mLを15cmディッシュに入れ、当該リン酸緩衝化生理食塩水で15cmディッシュ内の細胞を洗浄した。次に、15cmディッシュ内の細胞に、トリプシン-EDTA溶液(0.05%トリプシン、0.53mM EDTA)3mLを添加し、37℃で5−10分インキュベーションし、細胞をフラスコから剥がした。このフラスコに、10mL以上の培地を添加して、トリプシンによる反応を停止させ、細胞を回収した。
回収した細胞を、マイクロチューブにそれぞれ移した。次に各マイクロチューブに可溶化試薬(50mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA(pH8.0)、50mM NaF、1mM Na3VO4、0.1% NP40、0.2% protease inhibitor cocktail(sigma社))を液中のタンパク濃度が終濃度2ug/uLとなるように150 - 250μL分注した。次にマイクロチューブをホモジナイザーに設置した後にホモジナイズし、微量高速遠心機CF15RX(日立社製)で4℃下、15000rpm、5分間遠心分離した。次に、マイクロチューブの上清を氷上に静置した1.5mLマイクロチューブに移し、測定用試料とした。
【0064】
(実施例1)
【0065】
<GSTπ発現量による癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定>
生体試料に含まれる癌細胞のGSTπ発現量による癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定を、以下のように検討を行った
【0066】
<IC50の測定>
参考例1に示される29種の各乳癌細胞株を、0nM、250nM、500nM、750nM、1000nM、2000nMとする濃度のドキソルビシンを含む培地で、2枚のマイクロプレート上に5000cells/100uL/wellとなるように播種し、24時間培養した。
次に、各濃度のドキソルビシンを含む培地を調製し、培地交換を行った。マイクロプレートのうち1枚は、培地交換直後にCelltiter Glo Luminescent Cell Viavility Assay(Promega社製:Cat#G7571)を用いて、細胞の増殖測定を行った。残りの1枚は培地交換後、参考例1に示される培養条件下で72時間培養した後にCelltiter Glo Luminescent Cell Viavility Assay(Promega社製:Cat#G7571)を用いて、細胞の増殖測定を行った。
【0067】
測定された生細胞数に基づき、ドキソルビシンで処理していない培地における生細胞数/ドキソルビシンで処理して得られた培地中における生細胞数×100=50となるドキソルビシンの濃度(IC50)を求めた。
【0068】
ここで、IC50の中央値(median)である392nMを閾値とし、閾値以上を示す乳癌細胞株を非感受性株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株を感受性株とした。
【0069】
<GSTπの発現量の測定>
使用する試薬は、以下のように調製した。
GSTπの発現量の測定に用いた試薬を以下に示す。
(1)ブロッキング試薬
Block Ace(粉末)(大日本住友製薬社製)を、最終濃度が4%となるように超純水に溶解し、ブロッキング試薬を調製した。

(2)一次抗体試薬
10倍希釈したブロッキング溶液に、GSTπ抗体(BD Transduction社)を、5ug/mLとなるように溶解し、一次抗体試薬を調整した。

(3) トリス緩衝生理食塩水(TBS)
10×TBS solution(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol: 30.28g, NaCl: 87.7g, 6N HCl: 110g / L) を10倍希釈して、TBSを調製した。

(4)二次抗体試薬
TBSに、ウシ血清アルブミンBSAを、最終濃度が1%となるように超純水に溶解し、TBS(1% BSA)を調製した。得られたTBS(1% BSA)に、Goat Anti-Mouse IgG(H+L) -BIOT Human/Mouse(Southern Biotech社製)を、30ug/mLとなるように溶解し、二次抗体試薬を調整した。

(4)蛍光標識試薬
上述のTBS(1% BSA)に、Fluorescein StreptAvidin (Vector社製)を、10μg/mLとなるように溶解し、蛍光標識試薬を調整した。
【0070】
GSTπの発現量は、以下のように測定した。フィルタープレート(Multi Screen HTS PSQ Plates)に、参考例2の通り調整した、参考例1に示される29種の乳癌細胞株の各測定用試料を10μg/well分注し、吸引により水分を除去した後、ブロッキング剤試薬を100μL/well分注し吸引した。
【0071】
吸引後、1次抗体試薬を50μL/well分注しすぐに吸引後、再び50uL/well分注し、2時間静置した後に吸引し1次抗体を除去した。次に、TBS 300μL/well分注して吸引する洗浄を4回行った。洗浄後、2次抗体試薬を50μL/well分注しすぐに吸引後、再び50uL/well分注し、1時間静置した後に吸引し2次抗体を除去した。次に、TBS 300μL/well分注し、吸引する洗浄を2回行った。洗浄後、標蛍光標識試薬を100μL/well分注し、直後に吸引した。次に、TBS 300μL/well分注して吸引する洗浄を4回行った後、フィルタープレートを乾燥させた。
【0072】
乾燥後、InfiniteF200(Tecan社製)で蛍光強度を測定した。ここで、各測定用試料のGSTπの発現量は、キャリブレーターとしてGSTP1 recombinant Protein(Abnova社 Cat No.H00002950-P01)を0ng/100uL/well、10ng/100uL/well、30ng/100uL/well、50ng/100uL/wellの各濃度となるようにフィルタープレート上に載せ、InfiniteF200(Tecan社製)で蛍光強度を測定して作成された検量線を用いて算出した。
【0073】
ここで、GSTπの発現量の閾値を3とし、閾値以上を示す乳癌細胞株をGSTπ高発現株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株をGST低発現株とした。
【0074】
本実施例の結果を、図5に示す。
【0075】
図5に示される結果から、29種の乳癌細胞株のうち、GSTπ高発現株の細胞株はドキソルビシンに対する感受性が高い傾向にあった。結果として、癌細胞のGSTπの発現量が大きい場合、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定できることが示された。
【0076】
(実施例2)
【0077】
<再発検体及び非再発検体におけるGSTπ発現量>
次に、アンスラサイクリン系抗癌剤を含む化学療法を受ける前の乳癌患者9検体のGSTπ発現量から、術後にアンスラサイクリン系抗癌剤を含む化学療法を受けた再発検体及び非再発検体におけるGSTπ発現量の傾向を調べた。
【0078】
前記9検体は、手術切除された乳癌を含む腫瘍組織であり、測定時まで-80℃で冷凍保存されていた。9検体のうち、再発検体は5検体、非再発検体は4検体であった。
なお、無病再発期間は、再発検体でそれぞれ210日、318日、566日、761日、1377日であり、非再発検体でそれぞれ1594日、1599日、1835日、2024日であった。
【0079】
<測定用試料の調製>
9検体は、以下の通り可溶化処理を行い、測定用試料とした。
【0080】
各検体をドライアイス上に置いたシャーレ上で4mm角程度、または3mm角程度に切断し、マイクロチューブにそれぞれ移した。
【0081】
次に各マイクロチューブに可溶化試薬(50mM Tris-HCl(pH7.5)、5mM EDTA(pH8.0)、50mM NaF、1mM Na3VO4、0.1% NP40、0.2% protease inhibitor cocktail(sigma社))を、4mm角相当の検体で400μL、3mm角相当の検体で300μLそれぞれ分注した。次にサンプルチューブをホモジナイザーに設置した後にホモジナイズし、微量高速遠心機CF15RX(日立社製)で4℃下、15000rpm、5分間遠心分離した。次に、サンプルチューブの上清を氷上に静置した1.5mLマイクロチューブに移し、測定用試料とした。
【0082】
<GSTπの発現量の測定>
上記の方法で調製した9検体の測定用試料を、実施例1記載の方法により測定した。
【0083】
本実施例の結果を、図6に示す。なお、図6は箱ひげ図を表している。
【0084】
図6に示される結果から、9検体のうち、再発検体はGSTπの発現量が低く、非再発検体はGSTπの発現量が高い傾向にあることが示された。結果として、この傾向は、実施例1の結果における、GSTπ高発現株がアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いことと、対応することが示唆された。
【0085】
(実施例3)
【0086】
<GSTπ発現量及びCDK2比活性値/CDK1比活性値の値による癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性の判定>
次に、生体試料に含まれる癌細胞のGSTπ発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を組み合わせた、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤の感受性の判定を検討した。
【0087】
<IC50の測定>
参考例1に示される29種の各乳癌細胞株を、実施例1に記載の方法により測定した。ここで、IC50の中央値(median)である392nMを閾値とし、閾値以上を示す乳癌細胞株を非感受性株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株を感受性株とした。
【0088】
<GSTπの発現量の測定>
参考例1に示される29種の各乳癌細胞株を、実施例1に記載の方法により測定した。ここで、GSTπの発現量の閾値を3とし、閾値以上を示す乳癌細胞株をGSTπ高発現株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株をGST低発現株とした。
【0089】
<CDK1及びCDK2の活性値の測定>
使用する試薬は、以下のように調製した。
【0090】
(1)メンブレン洗浄液
10x TBS solution 100mL
超純水 900mL
(2)免疫沈降緩衝液
1M Tris-HCl(pH7.4) 10.0mL
10% NP-40 Alternative PROTEIN GRADE(CALBIOCHEM社製) 2.0mL
10% アジ化ナトリウム溶液 1.9mL
超純水 QS-200mL
(3)CDK抗体希釈液
Sucrose(キシダ化学社製) 17.1g
1M Tris-HCl(pH7.4) 1.25mL
3M NaCl溶液 2.5mL
10% アジ化ナトリウム溶液 470μL
超純水 QS-50mL
(4)坑CDK1抗体試薬
CDK抗体希釈液 1.9mL
抗CDK1抗体(448μg/mL) 17.5mL
10%アジ化ナトリウム溶液 190μL
免疫沈降緩衝液 840μL
(5)抗CDK2抗体試薬
CDK抗体希釈液 1.6mL
抗CDK2抗体(360μg/mL) 8.3mL
10%アジ化ナトリウム溶液 100μL
免疫沈降緩衝液 960μL
(6)バックグラウンド用抗体試薬
CDK抗体希釈液 9.5mL
Rabbit IgG(CALBIOCHEM社製)(12.5mg/mL) 440μL
免疫沈降緩衝液 960μL
(7)免疫沈降洗浄液1
1M Tris-HCl(pH7.4) 25.0mL
10% NP-40 Alternative PROTEIN GRADE(CALBIOCHEM社製) 50.0mL
10% アジ化ナトリウム溶液 4.7mL
超純水 QS-500mL
(8)免疫沈降洗浄液2
1M Tris-HCl(pH7.4) 12.5mL
3M NaCl溶液 25.0mL
10% アジ化ナトリウム溶液 2.2mL
超純水 QS-250mL
(9)免疫沈降洗浄液3
1M Tris-HCl(pH7.4) 12.5mL
10% アジ化ナトリウム溶液 2.3mL
超純水 QS-250mL
(10)Kinase反応試薬
超純水 17.9mL
1M Tris-HCl(pH7.4) 1.22mL
10% アジ化ナトリウム溶液 200μL
1M 塩化マグネシウム溶液 450μL
25mM ATP-γS溶液 1.8mL
5mg/mL Histone H1溶液 900μL
(11)蛍光標識反応緩衝液
2.2M MOPS-NaOH(pH7.4) 34.1mL
0.5M EDTA(pH8.0) 2.5mL
10% アジ化ナトリウム溶液 2.1mL
超純水 QS-250mL
(12)蛍光標識試薬
5-(Iodoacetamido)fluorescein(Molecular Probes社製) 25mg
DMSO 6mL
蛍光標識反応緩衝液 116mL
(13)蛍光標識反応停止液
2.2M MOPS-NaOH(pH7.4) 455mL
N-Acetyl-L-Cysteine(Nacalai Tesque社製) 2.45g
10% アジ化ナトリウム溶液 450μL
超純水 43.5mL
(14)蛍光増強試薬
Blocking One(Nacalai Tesque社製) 100mL
10% アジ化ナトリウム溶液 10mL
超純水 890mL
【0091】
CDK1及びCDK2の活性値は、以下のように測定した。
【0092】
フィルタープレート(Millipore社製)に20%Beads Sol.(プロテインAビーズ300μL、免疫沈降緩衝液900μL)を30μL/well分注し、さらに坑CDK1抗体試薬、坑CDK2抗体試薬、バックグラウンド用抗体試薬をそれぞれ対応するwellに90μL分注した。次に、参考例2の通り調整した、参考例1に示される29種の乳癌細胞株の各測定用試料を30μL/well分注し、PlateShaker(SHK-10、増田理化工業)で4℃、2時間攪拌し、CDK1と抗CDK1抗体、CDK2と抗CDK2抗体をそれぞれ反応させた。
【0093】
反応後、以下のように洗浄を行った。各well内の試薬を吸引した後、免疫沈降洗浄液1を200μL/well分注し、吸引した。次に、免疫沈降洗浄液2を200μL/well分注し、吸引した。次に、免疫沈降洗浄液3を200μL/well分注し、吸引した。
【0094】
洗浄後、Kinase反応試薬を50μL/well分注し、Plate Shaker(SI-300C、AS ONE社製)で37℃、900rpm、1時間攪拌した。さらにフィルタープレートを上述のPlate Shakerから取り出し、当該フィルタープレート下部に回収用プレート(Bibby Sterilin社製)をセットし、遠心機(BECKMAN COURTER社 AllegraTM 6KR Centrifuge)で4℃、2000rpm、5分間遠心分離した。
【0095】
遠心分離後、上述の回収用プレートに回収された活性測定反応物を、さらに反応用プレート(Applied Biosystem社製)に14μL/well移し変え、蛍光標識試薬を14μL/well分注した。分注後、遮光してPlate Shakerで25℃、400rpm、20分間攪拌した。
【0096】
攪拌後、反応用プレートに蛍光標識反応停止液を200μL/well分注し、反応用プレートの各ウェルの液を、さらに測定用フィルタープレート(Millipore社製)上に100μL/well移し変えた。次に、測定用プレートは、各ウェルの全液を吸引後、メンブレン洗浄液を200μL/well分注して吸引する洗浄を2回行った。洗浄後、蛍光増強試薬を200μL/well分注して吸引する操作を5回行い、乾燥させた。
【0097】
乾燥後、Plate Reader(Infinite F200、Tecan社製)を用いて、測定用プレートの蛍光分析を行い、各測定用試料におけるCDK1の活性値及びCDK2の活性値を検量線に基づいて算出した。なお、検量線は、3種類の濃度とするそれぞれのタンパク質(Recombinant CDK1/cyclin B1,active、またはRccombinant CDK2/cyclin E,active)を含む溶液を、上記の方法で蛍光分析を行なうことによって作成した。測定されるCDK1活性及びCDK2の活性1U(ユニット)は、前記タンパク質1ngの時の蛍光量と同等の蛍光強度を示す値をいう。
【0098】
<CDK1及びCDK2の発現量の測定>
【0099】
使用する試薬は、以下のように調製した。
【0100】
(1)ブロッキング試薬
BSA 10.0g
10x TBS solution 25mL
超純水 212.8g
10% アジ化ナトリウム水溶液 2.25mL
(2)メンブレン洗浄液
10x TBS Solution 100mL
超純水 900mL
(3)抗CDK1抗体試薬
Block Ace(大日本住友製薬社製) 2.4g
超純水 72.3g
10% アジ化ナトリウム水溶液 750μL
抗CDK1抗体(0.455mg/mL)(終濃度12μg/mL) 1.98mL
(4)抗CDK2抗体試薬
Block Ace(大日本住友製薬社製) 2.4g
超純水 72.4g
10% アジ化ナトリウム水溶液 750μL
抗CDK2抗体(0.306mg/mL)(終濃度7.5μg/mL) 1.94mL
(5)2次抗体試薬
BSA 2.5g
10x TBS solution 25mL
超純水 216.3g
10% アジ化ナトリウム水溶液(終濃度0.1%) 2.21mL
ビオチン化抗ウサギIgG(Southern Biotech社)(500μg/mL、終濃度8μg/mL) 4.00mL
(6)蛍光標識試薬
BSA 2.5g
10x TBS solution 25mL
超純水 217.8g
10% アジ化ナトリウム水溶液(終濃度0.1%) 2.23mL
Fluorescein-StreptAvidin(Vector社製)(1mg/mL、終濃度10μg/mL) 2.50ml
(7)蛍光増強試薬
3-Morpholinopropanesulfonic acid(NW.209.25)(同仁化学研究所社製)41.9g
アジ化ナトリウム 2.0g
6N 水酸化ナトリウム溶液 34g
超純水 QS-2L
(8)測定用試料希釈液(1回目)
メンブレン洗浄液 900μL
10% NP-40 Alternative PROTEIN GRADE(CALBIOCHEM社製) 100μL
(9)測定用試料希釈液(2回目)
メンブレン洗浄液 19.9mL
10% NP-40 Alternative PROTEIN GRADE(CALBIOCHEM社製) 100μL
【0101】
CDK1及びCDK2の発現量は、以下のように測定した。
【0102】
参考例2に従い調整した、参考例1に示される29種の乳癌細胞株の測定用試料をメンブレン洗浄液475μL、測定用試料希釈液300μL、測定用試料25μLとなるように希釈した。次にフィルタープレートに、希釈した測定用試料を100μL/well分注して吸引した。
【0103】
吸引後、フィルタープレートにメンブレン洗浄液を300μL/well分注し、再度吸引して洗浄を行った。
【0104】
次に、フィルタープレートにブロッキング試薬を100μL/well分注し、その後吸引することにより、ブロッキングした。
【0105】
フィルタープレートのCDK1及びCDK2に対応するwellに、CDK1抗体試薬とCDK2抗体試薬をそれぞれ50μL/well分注して吸引した後、再度CDK1抗体試薬とCDK2抗体試薬をそれぞれ50μL/well分注し、Plate Shaker(SI-300C、Tecan社製)上で23℃、2時間静置して反応させた。次に、well内の試薬を吸引し、メンブレン洗浄液を300μL/well分注し、吸引し洗浄を行った。洗浄は4回行った。
【0106】
洗浄後、フィルタープレートのCDK1及びCDK2に対応するwellに、上記のCDK1抗体試薬とCDK2抗体試薬の分注と同様の方法で2次抗体試薬による処理を行い、1次抗体と2次抗体を反応させ、洗浄を行った。ここでの静置時間は45分間とし、洗浄は2回行った。
【0107】
フィルタープレートに蛍光標識試薬を100μL/well分注し、吸引した。さらに、メンブレン洗浄液を300μL/well分注し、吸引し洗浄を行った。洗浄は4回行った。次に、フィルタープレートに蛍光増強試薬を200μ/well分注し、吸引後、乾燥させた。
【0108】
乾燥後、Plate Reader(Infinite F200、Tecan社製)を用いて、測定用プレートの蛍光分析を行い、各測定用試料におけるCDK1の発現量及びCDK2の発現量を検量線に基づいて算出した。なお、検量線は、4種類の濃度とするそれぞれのタンパク質(10% NP-40 Alternative PROTEIN GRADE(CALBIOCHEM社製)、CDK1/CyclinB1,active(UPSTATE社製)、またはcdk2(1-298)(SantaCruz社製))を含む溶液を、上記の方法で蛍光分析を行なうことによって作成した。
【0109】
<CDK1及びCDK2の比活性値の算出>
【0110】
CDK1及びCDK2の比活性値は、以下のように測定した。上述の方法で測定したCDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量から、下記式:
【0111】
CDK1比活性値=CDK1活性値/CDK1発現量
CDK2比活性値=CDK2活性値/CDK2発現量
【0112】
によりCDK1比活性値(mU/ng)及びCDK2比活性値(mU/ng)を求め、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値を算出した。
【0113】
ここで、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値を7.41とし、閾値以上を示す乳癌細胞株を、CDK2比活性値/CDK1比活性値高値株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株をCDK2比活性値/CDK1比活性値低値株とした。
【0114】
なお、本実施例において、参考例1に示される29種の各乳癌細胞株の測定用試料のうち、MDA-MB-415とUACC812の2細胞株でCDK1及びCDK2の比活性値を算出できなかった。従って、前記2細胞株を除く27種の各乳癌細胞株に関する結果を、図7に示す。
【0115】
図7に示される結果から、27種の乳癌細胞株のうち、GSTπ高発現株またはCDK2比活性値/CDK1比活性値高値株はドキソルビシンに対する感受性が高い傾向にあった。結果として、癌細胞のGSTπの発現量が大きい場合または癌細胞のCDK2比活性値/CDK1比活性値が閾値より大きい場合に、癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定できることが示された。また、GSTπ低発現株かつCDK2比活性値/CDK1比活性低値株はドキソルビシンに対する感受性が低い傾向にあった。結果として、癌細胞のGSTπの発現量が小さい場合、かつ癌細胞のCDK2比活性値/CDK1比活性値が閾値より小さい場合に、アンスラサイクリン系抗癌剤に対する感受性が低いと判定できることが示された。
【0116】
(実施例4)
【0117】
<GSTπ発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の組み合わせ効果の検討>
次に、実施例3により得られたデータに基づいて、GSTπの発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値とを組み合わせた判定の効果を、GSTπの発現量単独による判定結果、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値単独による判定結果、GSTπの発現量及びCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の組み合わせによる判定結果を用いて検討を行った。
【0118】
<GSTπの発現量単独による検討>
【0119】
実施例3における、27種の各乳癌細胞株に関するGSTπの発現量とIC50との結果を、表2に示す。ここで、GSTπ発現量の閾値を8.05とし、閾値以上を示す乳癌細胞株を感受性株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株を非感受性株とした。
【0120】
また、表2に示される結果におけるオッズ比は4.8、ロジスティック回帰によるPは0.15、ROC解析によるAUCは0.604であった。
【0121】
【表2】

<CDK2比活性値/CDK1比活性値の値単独による検討>
【0122】
実施例3における、27種の各乳癌細胞株に関するCDK2比活性値/CDK1比活性値の値とIC50との結果を、表3に示す。ここで、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値を13.0とし、閾値以上を示す乳癌細胞株を感受性株とし、閾値未満を示す乳癌細胞株を非感受性株とした。
【0123】
また、表3に示される結果におけるオッズ比は12.0、ロジスティック回帰によるPは0.0117、ROC解析によるAUCは0.712であった。
【0124】
【表3】

【0125】
<GSTπ発現量及びCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の組み合わせによる検討>
【0126】
実施例3における、27種の各乳癌細胞株に関するGSTπ発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値との組み合わせと、IC50の結果を、表4に示す。ここで、GSTπ発現量の閾値8.05以上またはCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値13.0以上を示す乳癌細胞株を感受性株とし、GSTπ発現量の閾値8.05未満かつCDK2比活性値/CDK1比活性値の値の閾値13.0未満を示す乳癌細胞株を非感受性株とした。
【0127】
また、表4に示される結果におけるオッズ比は30.0、ロジスティック回帰によるPは0.0004、ROC解析によるAUCは0.819であった。
【0128】
【表4】

【0129】
表2から表4及び得られた結果から、リスク比に相当するオッズ比を比較すると、各々、単独での予想のオッズ比よりも、GSTπ発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を組み合わせたオッズ比のほうが、単独での予想のオッズ比を足し合わせた以上に高値であった。この結果から、GSTπ発現量とCDK2比活性値/CDK1比活性値の値を組み合わせることによって、相乗的に癌細胞のアンスラサイクリン感受性への感受性の判定能が向上することが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞を含む生体試料に含まれる、GSTπの発現量を測定する工程と、
測定工程で得られたGSTπの発現量が大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する工程と、
を含む、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性を判定する方法。
【請求項2】
判定工程は、測定工程で得られたGSTπの発現量と第1の閾値とを比較し、GSTπの発現量が第1の閾値より大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
癌細胞が、肺癌、胃癌、大腸癌、卵巣癌、脳腫瘍、乳癌、前立腺癌、皮膚癌又は白血病細胞の癌細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
癌細胞が、乳癌の癌細胞である、請求項1〜3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
アンスラサイクリン系抗癌剤が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、オキザウノマイシン又はイダルビシンである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アンスラサイクリン系抗癌剤が、ドキソルビシンである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
測定工程は、さらに、癌細胞を含む生体試料に含まれる、CDK1の比活性値と、CDK2の比活性値とを測定し、
判定工程は、測定工程で得られたGSTπの発現量が大きい場合、または測定工程で得られたCDK2の比活性値/測定工程で得られたCDK1の比活性値(CDK2比活性値/CDK1比活性値)の値と第2の閾値を比較し、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する、請求項1〜6に記載の方法。
【請求項8】
判定工程は、測定工程で得られたGSTπの発現量と第1の閾値とを比較し、測定工程で得られたCDK2比活性値/CDK1比活性値の値と第2の閾値とを比較し、
GSTπの発現量が第1の閾値より大きい、又はCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より大きい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
判定工程は、測定工程で得られたGSTπの発現量が小さく、且つCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より小さい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低いと判定する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
判定工程は、測定工程で得られたGSTπの発現量と第1の閾値とを比較し、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値と第2の閾値とを比較し、
GSTπの発現量が第1の閾値より小さく、且つCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より小さい場合に、生体試料に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低いと判定する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
コンピュータを、
癌細胞を含む生体試料に含まれる、GSTπの発現量を取得する取得手段と、
GSTπの発現量と第1の閾値とを比較する比較手段と、
GSTπの発現量が第1の閾値より大きい場合に、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する判定手段と、
判定結果を出力する出力手段、
として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項12】
コンピュータを、さらに、CDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量から、CDK2の比活性値/CDK1の比活性値(CDK2比活性値/CDK1比活性値)の値を算出する算出手段として機能させ、
取得手段は、さらに、癌細胞を含む生体試料中のCDK1の活性値、CDK1の発現量、CDK2の活性値及びCDK2の発現量を取得し、
比較手段は、さらに、CDK2比活性値/CDK1比活性値の値と第2の閾値とを比較し、
判定手段は、GSTπの発現量が第1の閾値より大きい場合、またはCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より大きい場合に、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が高いと判定する、
請求項11に記載のコンピュータプログラム。
【請求項13】
判定手段は、さらに、GSTπの発現量が第1の閾値より小さく、且つCDK2比活性値/CDK1比活性値の値が第2の閾値より小さい場合に、生体試料中に含まれる癌細胞のアンスラサイクリン系抗癌剤への感受性が低いと判定する、
請求項12に記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−223986(P2011−223986A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15336(P2011−15336)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】