説明

癌細胞増殖抑制性ハイブリッド型リポソーム製剤

【課題】高い癌細胞増殖抑制能を有し、毒性および免疫原性の低い、調製が容易で経時変化の少ない安定な抗腫瘍性リポソームを提供する。
【解決手段】本発明により、抗癌剤を含まない抗腫瘍性の、毒性の極めて低い、調製が容易で安定な3成分系ハイブリッド型リポソームが提供される。本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームは、さらにアルキル化糖などの糖成分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン脂質および界面活性剤、または、更に糖ミセルを含む癌細胞増殖抑制性ハイブリッド型リポソーム製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来化学療法剤としてはアルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン類等が用いられてきた。しかしながら、これらの薬剤は細胞毒性が強く、重大な副作用があり、また一般には特定の癌組織に対する特異性が低い。毒性が低く、特定の組織に集まりやすいと考えられているものにリポソームがあり、細胞膜のリン脂質と類似した成分を含むために種々の生理活性物質のキャリアーとして有望と考えられている。一方、リン脂質からなる単一成分のリポソームは不安定で経時変化が大きく水に対する溶解性も不十分であり、調製も複雑であった。この点に関して、本発明者等はリン脂質と界面活性剤を含む、安定で調製容易なハイブリッド型リポソームが抗癌剤等のキャリアーとして効果的に機能し、種々の制癌剤をこれに含めることにより優れたドラッグデリバリーシステム(DSS)を提供し得ることを示してきた(特開平8-151333号)。
さらに、本発明者等は無毒性のジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)と毒性が小さい直鎖型ポリオキシエチレンアルキルエーテル(CmH2m+1O(EO)nH)を含み、抗癌剤を含まない2成分系ハイブリッド型リポソーム自体にリンパ系の培養癌細胞に対する増殖抑制効果があることを見いだし、悪性黒色腫担癌マウスを用いたin vivo実験においてもある程度の延命効果が見られることも明らかにした(C. Imamura, Y.Kemura, Y. Matsumoto, R. Ueoka, Biol. Pharm. Bull., 20, 1119(1997); 金納明弘、児玉龍平,寺田安隆、松本陽子、上岡龍一、Drug Delivery System, 13, 101(1998))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-151333号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Imamura, Y.Kemura, Y. Matsumoto, R. Ueoka, Biol. Pharm. Bull., 20, 1119(1997)
【非特許文献2】金納明弘、児玉龍平,寺田安隆、松本陽子、上岡龍一、Drug Delivery System, 13, 101(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来報告されているものよりも高い癌細胞増殖抑制能を有し、毒性および免疫原性の低い、調製が容易で経時変化の少ない安定なハイブリッド型リポソームを提供することである。
本発明の別の目的は、免疫原性が低く、生分解性の素材を利用した、効果的なドラッグデリバリーシステム(DDS)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド型リポソーム製剤は、高い癌細胞増殖抑制性を有し、毒性が低く、経時変化の少ない2成分系、または3成分系ハイブリッド型リポソームを含むものである。また、本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームは免疫原性が低く、生分解性である糖類を含むことを特徴とする。
前述のように、本発明者等はこれまでに1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア(BCNU)等を含む2成分系ハイブリッド型リポソームがラット脳腫瘍細胞に対して増殖抑制効果を示し、in vivoにおいても抗腫瘍性を有することを示し(特開平8-151333号)、更に研究を進める過程で、抗癌剤を含まないハイブリッド型リポソームも癌細胞増殖抑制効果を有することを発見し、これらのハイブリッド型リポソームについても報告してきた。本発明はこれらの知見に基づいて開発された、更に高い癌細胞増殖抑制効果を示す、抗癌剤を含まない、副作用の極めて少ない癌治療用のハイブリッド型リポソームである。
【0007】
本発明の2成分系ハイブリッドリポソーム製剤はリン脂質としてL-α-ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)と界面活性剤として非糖ミセル系界面活性剤を含むことを特徴とする。DMPGは頭部に水酸基を有しており、そのため癌細胞への特異的認識効果が大きくなっているものと考えられる。
3成分系ハイブリッド製剤はリン脂質、非糖ミセル系界面活性剤の他に糖ミセル系界面活性剤を含むことを特徴とする。糖を第3の成分に含むことにより、これらのハイブリッド型リポソームは細胞膜表面への親和性が増大していると考えられる。
これら両タイプのリポソームとも、その成分比または組成を変化させることにより目的に応じてそのサイズ、膜流動性、相転移温度および疎水性を制御することができる。
本発明の2成分系ハイブリッド型リポソームは適切な量のリン脂質、適切な量の非糖ミセル系界面活性剤を緩衝水溶液中で超音波処理することによって得られる。また、本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームは、前述のような超音波処理をした後、糖ミセルを添加し、さらに超音波処理をすることによって調製することができる。
【0008】
ここで、「リポソーム」とは、生体膜の構成成分であるリン脂質を水中に比較的低濃度で分散させたときに形成される閉鎖小胞体である。また、「ハイブリッド型リポソーム」とは、1種以上のリン脂質と1種以上の界面活性剤、および必要に応じて更に他の成分を含むリポソームをいう。本明細書において、1種以上のリン脂質と1種以上の非糖ミセル系界面活性剤を含み、糖ミセル系界面活性剤を含まないリポソームを特に「2成分系ハイブリッド型リポソーム」と呼び、1種以上のリン脂質と1種以上の非糖ミセル系界面活性剤と1種以上の糖ミセル系界面活性剤を含むリポソームを特に「3成分系ハイブリッド型リポソーム」と呼ぶことがある。2成分系、3成分系いずれのハイブリッド型リポソームにおいても、抗癌剤等の1種以上の他の成分を更に含んでいてもよい。ここで「糖ミセル系界面活性剤」とはミセルを形成する界面活性剤のうち糖骨格を持つものをいい、「非糖ミセル系界面活性剤」とはミセルを形成する界面活性剤のうち糖骨格を持たないものをいう。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高い抗癌性を有し、特に脳腫瘍、肺せん癌、胃癌に高い効果を示すリポソーム製剤が提供される。本発明のリポソーム製剤は、毒性が少なく、すなわち副作用が少なく、かつ経時変化が少なく長期保存が可能であることと併せて、医薬品として、または医薬材料として利用価値の高い素材を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】DMPG含有2成分系ハイブリッド型リポソームの膜サイズの経時変化を示す。図中、△はDMPG単独を表し、▲はDMPG/10mol%C12(EO)10をあらわす。なお、□は参考として、DMTAP(1,2-ジミリストイルホスファチジルグリセロール)単独からなるリポソームを表す。
【図2】3成分系ハイブリッド型リポソームの膜サイズの経時変化を示す。図中、■はDMPC/10mol%Tween20を表し、●はDMPC/10mol%Tween20/30mol%DeFGを表し、▲はDMPC/10mol%Tween20/30mol%DoFGを表す。
【図3】DMPG/10mol%C12(EO)10の癌細胞増殖抑制効果を示す。図中、□はDMPG単独、■はDMPG/10mol%C12(EO)10を表し、斜線付きの□はC12(EO)10単独を表す。
【図4】グルコース系の3成分系ハイブリッド型リポソームの癌細胞増殖抑制効果を示す。種々の癌細胞の増殖に対する、48時間後のin vitroにおける増殖抑制効果を表すものである。
【図5】マルトース系の3成分系ハイブリッド型リポソームの癌細胞増殖抑制効果を示す。種々の癌細胞の増殖に対する、48時間後のin vitroにおける増殖抑制効果を表すものである。
【図6】シュクロース系の3成分系ハイブリッド型リポソームの癌細胞増殖抑制効果を示す。種々の癌細胞の増殖に対する、48時間後のin vitroにおける増殖抑制効果を表すものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の2成分系ハイブリッド型リポソームにおいてベシクルとして用いるのは以下の式で表されるL-α-ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)である。
【0012】
【化1】

【0013】
本発明で使用可能なミセル界面活性剤としては、ミセルを形成できる界面活性剤であれば、何れも使用することができる。このうち、非イオン界面活性剤が好ましく、特に通常「ツイーン」の名称で販売されている界面活性剤、例えば、ツイーン20〜ツイーン80等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、または、通常「スパン」の名称で販売されている界面活性剤、例えば、スパン20〜スパン80等のソルビタン脂肪酸エステル、または、以下の一般式(I)で表されるアルキル若しくはアリールポリオキシエチレングリコール
【0014】
【化2】

(I)
(式中n=10〜25、m=12〜20、Z=C1〜C12のアルキル基)
が好ましい。より具体的には、ポリキシエチレンソルビタンモノラウレート(ツイーン20(Tween20))および、一般式(I)中、mが12〜14でかつnが10〜23であるアルキルポリオキシエチレングリコールである。特に好ましいのは、mが12または14でnが10または12のポリオキシエチレングリコールである。
【0015】
本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームにおいてはベシクル分子として1種以上のリン脂質を用いる。使用できるリン脂質の例としては、L-α-ジアシルホスファチジルコリン、L-α-ジアシルホスファチジルグリセロール、L-α-ジアシルホスファチジルセリン、L-α-ジアシルホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、L-α-ジアシルホスファチジン酸、L-α-ジアシルホスファチジルイノシトールおよびカルジオリピン等が挙げられる。ここで、各2つのアシル基は安定なハイブリッド型リポソームを形成する限り同じであっても異なっていてもよく、アシル基部分の炭素数は約10〜約22のものが好ましい。特に好ましいのは、以下の式で表されるL-α-ジミリストイルホスファチルコリン(DMPC)または前述のDMPGである。
【0016】
【化3】

DMPC
3成分系ハイブリッド型リポソームに使用する非糖ミセル系界面活性剤の例は2成分系と同じである。
【0017】
本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームに使用する糖は、糖ミセル自身が細胞毒性を有しない、あるいは毒性が許容できる程度に弱く、また調製されたハイブリッド型リポソームが安定であることを条件として任意である。3成分系ハイブリッド型リポソームに使用する糖ミセル系界面活性剤の例としては、下記の一般式(II)で表されるアルキルグルコシド、一般式(III)で表されるアルキルチオグルコシド、下記の式(IV)を有するガラクトセレブロシド、または糖部分がグルコースであるグルコセレブロシドなどの単糖のほか、下記の一般式(V)で表されるアルキルマルトピラノシド、一般式(VI)で表されるフルクトフラノシルアルキルグルコピラノシド、一般式(VII)で表されるアルキルラクトピラノシドなどの二糖、アミロース、イヌリンなどの多糖が挙げられる。これらの糖はα型、β型の何れであってもよい。
【化4】

(II)
(式中n=7〜17であり、---はα型またはβ型を意味する。)
【化5】

(III)
(式中、n=7〜17であり、---はα型またはβ型を意味する。)
【化6】

(IV)
(式中n=7〜17)、
【化7】

(V)
(式中n=7〜17であり、---はα型またはβ型を意味する。)
【化8】

(VI)
(式中n=7〜17であり、---はα型またはβ型を意味する。)
【化9】

(VII)
【0018】
これらの糖ミセル系界面活性剤中、β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドが好ましい。アルキル基はミセルを形成し得る限り分枝または非分枝状でよく、炭素数はいずれの糖ミセル系界面活性剤においても一般に8から18が好ましく、より好ましくは8〜16、更に好ましくは8〜10である。特に好ましいのは、β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノデカノエート(DeFG)(一般式(VI)中、n=8)および、β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノドデカノエート(DoFG)(一般式(VI)中、n=10)である
【0019】
本発明の2成分系ハイブリッド型リポソームにおけるDMPGリン脂質とミセル界面活性剤との使用量はリポソームを形成することができる限り任意とすることができるが、リン脂質濃度を1x10-5〜5x10-3M、ミセル界面活性剤濃度を1x10-6〜1x10-3Mとするのが適切である。また、リン脂質とミセル界面活性剤との使用比率は任意とすることができるが、リン脂質とミセル界面活性剤とを50:50〜98:2(重量比)とするのがよく、70:30〜95:5とするのがより好ましい。
本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームについても、リン脂質、ミセル界面活性剤、糖ミセルの使用量は、リポソームを形成することができる限り任意である。これら3成分の比も2成分系ハイブリッドリポソームに準じた範囲で任意に変更できるが、リン脂質と糖ミセルのみでは安定なリポソームが形成されないことは注意を要する。
【0020】
本発明の2成分系ハイブリッド型リポソームは前述のようなリン脂質、非糖ミセル系界面活性剤を前述したような適切な量と比率で緩衝水溶液中で混合し、適切な温度にて比較的短時間超音波処理することによって得られる。また、本発明の3成分系ハイブリッド型リポソームは、前述のような超音波処理をした後、糖ミセルを添加し、さらに同様な条件で超音波処理をすることによって調製できる。緩衝水溶液としては、ハイブリッド型リポソームが形成される範囲で任意に選択できるが、生体と共存可能な緩衝水溶液、例えばpH7.0〜8.0の範囲のリン酸緩衝液等を使用することが好ましく、具体的にはPBS(リン酸緩衝生理食塩水)等を使用することができる。
本発明の2成分系および3成分系ハイブリッド型リポソーム製剤は癌患者に対して直接投与することができ、例えば、患者体重1kgあたり50〜300μg/1日を腹腔内、静脈内投与することができる。
【実施例1】
【0021】
2成分系ハイブリッド型リポソームの調製
リン脂質であるDMPG(L-α-ジミリストイルホスファチジルグリセロール)および非糖ミセル系界面活性剤であるC12H25O(EO)10H(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、上述の一般式(I)においてm=12、n=10の場合に相当する。以下においては、C12(EO)10と略記する。)を必要とする成分比に応じて一定量をとり、 BRANSONIC モデルB2210を用いて、90W、45℃にて窒素雰囲気下、超音波処理し(5分間/5ml)、均一溶液が得られたことを確認した後、孔径0.45μmのフィルターで濾過滅菌して2成分系ハイブリッド型リポソームを調製した。
【実施例2】
【0022】
3成分系ハイブリッド型リポソームの調製
リン脂質としてL-α-ジミルストイルホスファチジルコリン(DMPC)を使用し、非糖ミセル系界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)を用い、実施例1のようにして調製したハイブリッド型リポソームに、最終成分比に応じて糖ミセル系界面活性剤を添加した。使用した糖ミセル系界面活性剤は、以下のものである。すなわち、β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノデカノエート(DeFG)(同仁化学(株))、β-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノドデカノエート(DoFG)(同仁化学(株))、n-オクチル-β-D-グルコピラノシド(OcGlu)(同仁化学)、n-デシル-β-D-グルコピラノシド(DeGlu)(シグマ)、n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド(DoGlu)(シグマ)、n-オクチル-β-D-マルトピラノシド(OcMal)(CALBIOCHEM)、n-デシル-β-D-マルトピラノシド(DeMal)(シグマ)、のn-ドデシル-β-D-マルトピラノシド(DoMal)(シグマ)を使用した。これらの糖ミセル系界面活性剤の一定量を最終成分比に応じて加え、更にBRANSONIC モデルB2210を用いて、90W、45℃にて窒素雰囲気下、超音波処理し(3分間/5ml)、均一溶液が得られたことを確認した後、孔径0.45μmのフィルターで濾過滅菌して3成分系ハイブリッド型リポソームを調製した。
【実施例3】
【0023】
2成分系および3成分系ハイブリッド型リポソームの安定性
膜サイズの経時変化を測定することによって2成分系および3成分系ハイブリッド型リポソームの安定性を調べた。ハイブリッド型リポソームの膜サイズは、サブミクロン・サイザー(BROKKHAVENBI-90)を用い、動的光散乱法により測定した。光源としてHe-Neレーザーの632.8nmの発振線を出力35 mWで用い、散乱角90°で測定し、得られた拡散係数(D)から式(1)(Stokes-Einsteinの式)に従い膜の直径dhyを求めた。
dhy = kT/3πηD (1)
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、ηは溶媒の粘度である。37℃にてインキュベーションしたハイブリッド型リポソームについてdhyの値を調製後0日〜35日にわたって測定し、結果を記録した。
2成分系ハイブリッド型リポソームDMPG/10mol%C12(EO)10は一定して1ヶ月以上安定であった。この結果を図1に示した。
3成分系ハイブリッド型リポソームは、調製後1日目から2日目にかけて急激なサイズの増加が観察されたが、3日目以降はいずれのハイブリッド型リポソームも1ヶ月以上にわたって安定であった。その結果を図2に示す
【実施例4】
【0024】
2成分系および3成分系ハイブリッド型リポソーム膜の相転移温度
ハイブリッド型リポソームのゲル・液晶の相転移温度(Tc)は、示差走査型熱量計(SEIKO SSC 5200 DSC 120)を用いて測定した。資料溶液をAg製容器に密封し、昇温速度1.0℃/分で測定した。2成分系および3成分系ハイブリッド型リポソームの相転移温度は、生理的条件温度(約37℃)よりもかなり低く、生理的条件では安定に液晶状態で保持されることが確認された。その結果を表1に示す。
【0025】
〔表1〕
表1.ハイブリッド型リポソームの相転移温度

【実施例5】
【0026】
ハイブリッド型リポソームの癌細胞増殖抑制性
DMPG/10mol%C12(EO)10ハイブリッド型リポソームについては、ヒト肺せん癌細胞(RERF-LC-OK)、ヒト胃癌細胞(GT3TKB)、ヒト肝臓癌細胞(Hep-G2)およびマウスのルイス肺癌細胞(LLC)を用いて癌細胞増殖抑制性を評価した。3成分系ハイブリッド型リポソームについては、ヒト脳腫瘍細胞(U251)、ヒト肝臓癌細胞(Hep-G2)およびヒト肺せん癌細胞(RERF-LC-OK)を用いて癌細胞増殖抑制性を評価した。
培養培地として、RERF-LC-OK細胞にはRPMI-1640+10%ウシ胎仔血清(FBS)を、GT3TKB細胞、Hep-G2細胞およびU251細胞にはダルベッコ改変ミニマムエセンシャルメディウム(DMEM)+10%FBSを用いた。
【0027】
癌細胞増殖抑制効果の評価は、テトラゾリウム塩の酵素特異性を利用し、生化学的検査として一般に用いられている酵素活性測定法であるWST-1法(M. Ishiyama, M.Shiga, K.Sasamoto, M.Mizoguchi, P.G. He, Chem. Pharm. Bull., 41, 1118(1993))によって評価した。WST-1法は、細胞のWST-1(2-[4-イオドフェニル]-3-[4-ニトロフェニル]-5-[2,4,-ジサルフォフェニル]-2H-5-テトラゾリウムナトリウム)代謝物による発色によって細胞増殖活性を測定する方法である。
初期細胞数を約1.0x104細胞/mlに調製した細胞懸濁液100μlを96ウェルのマルチプレートに分注し、24時間プレインキュベーションした後テストサンプルを10μl/ウェル添加した。37℃にて、CO2濃度5.0%、湿度95%の条件下で48時間培養後、WST-1溶液を10μl/ウェル添加した。3時間後、分光光度計(EIA READER)を用いて450nmで吸光度を測定した。テストサンプル無添加の場合の吸光度(Acontrol)に対する、テストサンプルを添加した場合の吸光度(Amean)の比(Amean/Acontrol)を算出することにより、癌細胞増殖抑制効果を評価した。DMPG/10mol%C12(EO)10の癌細胞増殖抑制効果を表2および図3に、3成分系ハイブリッド型リポソームの癌細胞増殖抑制効果を図4〜図6に示した。
【0028】
〔表2〕
表2. DMPG/10mol%C12(EO)10の癌細胞増殖抑制効果

脂質濃度=3.00x10-4、C12(EO)10濃度=3.33x10-5
【0029】
表2および図3から明らかなように、DMPGを含む2成分系ハイブリッド型リポソームはDMPG単独あるいは非糖ミセル系界面活性剤(C12(EO)10)の単独使用に比較して増殖抑制効果が高く、かつ、DMPCを含むリポソーム(DMPC/10mol%C12(EO)10)に対しても癌細胞増殖抑制効果が高いことが示された。特に肺せん癌および胃癌に対して顕著な増殖抑制効果を示した。また、図4〜図6から明らかなように、糖ミセル系界面活性剤を含む3成分系ハイブリッド型リポソームはDMPC単独、非糖ミセル系または糖ミセル系界面活性剤の単独使用と比較して、使用した3種類の癌細胞の何れに対しても高い増殖抑制効果を示し、特にシュクロース系を使用した場合にヒト脳腫瘍細胞(U251)およびヒト肝臓癌細胞(Hep-G2)に対する効果が高く、特にU251に対する効果が顕著であった。また、アルキル鎖の長さの増大に伴って、増殖抑制効果が増すことも示された(図4〜図6)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質と非糖ミセル系界面活性剤と糖ミセル系界面活性剤を含有するリポソームであることを特徴とする癌治療用ハイブリッド型リポソーム製剤。
【請求項2】
リン脂質がL-α-ジアシルホスファチジルコリン、L-α-ジアシルホスファチジルグリセロール、L-α-ジアシルホスファチジルセリン、L-α-ジアシルホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、L-α-ジアシルホスファチジン酸、L-α-ジアシルホスファチジルイノシトールおよびカルジオリピンよりなる群から選ばれる請求項1記載のハイブリッド型リポソーム製剤。
【請求項3】
非糖ミセル系ミセル界面活性剤が、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびアルキル若しくはアリールポリオキシエチレングリコールよりなる群から選ばれる、請求項1または2記載のリポソーム製剤。
【請求項4】
糖ミセル系界面活性剤がアルキルグルコシド、アルキルチオグルコシド、セレブロシド、アルキルマルトピラノシド、フルクトフラノシルアルキルグルコピラノシドおよびアルキルラクトピラノシドよりなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポソーム製剤。
【請求項5】
糖ミセル系界面活性剤がフルクトフラノシルアルキルグルコピラノシドである、請求項4に記載のリポソーム製剤。
【請求項6】
糖ミセル系界面活性剤がβ-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノデカノエートまたはβ-D-フルクトフラノシル-α-D-グルコピラノシドモノドデカノエートである、請求項5に記載のリポソーム製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−155851(P2010−155851A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34331(P2010−34331)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【分割の表示】特願平11−92943の分割
【原出願日】平成11年3月31日(1999.3.31)
【出願人】(594158150)学校法人君が淵学園 (12)
【出願人】(591154304)
【Fターム(参考)】