癒着防止バリアとしての噴霧可能なポリマー
癒着防止バリアを生成するための、少なくとも1つの生分解性ポリマーと少なくとも1つの水溶性ポリマーとを組合せて作成される複数の粒子またはドライパウダーを含む製剤を開示する。さらに、この製剤を作成および送達する方法を開示する。この粒子製剤は内部生体組織の表面に堆積し、堆積した製剤は組織から水分を吸収して、その表面を覆うフィルムを形成する。このフィルムは、組織表面の他の生体組織への癒着を低減または防止することにより、癒着防止バリアとして作用する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に癒着防止バリアに関し、特に、術後の癒着形成を防止する噴霧可能な生分解性ポリマーの癒着防止バリアに関する。
【背景技術】
【0002】
外科的な治癒過程では、通常は術後の癒着を伴う。癒着は多くの場合に好ましく、手術野の治癒において不可欠かつ重要である。しかし、癒着により、生体内の重要な構造間に好ましくない瘢痕組織が生じることもあり、重大な術後の外科的問題や罹病につながることもある。このような癒着は個人の健康、福祉、および生活の質に重大な影響を及ぼし得る。腹部における術後癒着の形成は、慢性痛、不妊症、および小腸閉塞症(SBO)につながることがある。胸部および心臓の外科手術後の癒着は、後に続く心胸部再手術の際に深刻な結果につながる可能性がある。
【0003】
外科手術後の癒着形成の発生率は100%だが、炎症に起因する癒着は5%未満である。癒着の形成は、全てのタイプ(腹部、骨盤、心臓、胸部、脊髄、形成手術、手、および膝)の手術後に起こる。米国では、術後に関連した外科的合併症の発現の“危険性がある”と考えられる560万件の外科手術に基づき、1998年に医療システムにおける腹部および骨盤部の癒着に関する費用は16億ドルが見積もられた。
【0004】
術後の癒着は、患者および医療システムに共通する費用のかかる問題である。外科手術後の癒着を減らしたり、なくしたりするための様々なアプローチが考えられてきた。こうしたアプローチには、組織の外傷の最小化および組織の異物への曝露の最小化、および損傷した組織間への物理的バリアの設置等がある。治癒過程で、皮のない箇所を引き離して、組織表面の相互接触を防止し、癒着の形成を著しく最小化することが提案されている。治癒過程は数週間から数ヶ月を要するため、治癒期間には、組織表面が離れた状態を組織の自然な位置で維持し、相互に接触しないようにすることが理想的である。物理的バリアは、生体適合性を持ち、好ましくは生分解性であれば、上記の点について有用である。さらに、こうしたバリアは、使用が容易で、一般的に用いられる外科的処置および手順に適合することが望ましい。
【0005】
物理的バリアを用いる場合、従来の方法のひとつに、薄いポリマーベースのフィルムを大抵は外科手術の完了時に手術部位に配置する方法がある。現在、このような方法は、Genzyme Biosurgery (Seprafilm(米国登録商標))およびCryolife (CardioWrap(米国登録商標))から市販されている。しかし、このような方法の限界は、フィルムを所望部位に対応するように切断しなくてはならず外科手術にさらに時間を要すること、こうした膜は均一で扱いにくく人体の無限の幾何学的立体構造に合わせることは困難であること、手術野内の到達困難な領域への配置は多くの場合難しいこと、である。
【0006】
癒着防止システムとしていくつかの溶液も市販されている。例えば、Baxterが開発したAdept(米国登録商標)、Synthemedが開発したResolve(米国登録商標)等は、腹腔内へ直接導入できる溶液である。具体的には、外科手術後に滴下液として使用し、部位全体をこの溶液で洗浄する。しかし、これらの製品は液体であるため、手術部位内および周辺への導入後、手術部位にあまり長くとどまらない。前述のように、何週間にもなり得る所定期間中、とどまりバリア機能を提供する材料が非常に望まれている。
【0007】
上述の欠点を克服するために、ゲルベースの癒着防止バリアが開発されている。例えば、ConfluentのSprayGel(米国登録商標)は、2種類のポリマーから成る噴霧剤であり、噴霧の際に混合されて手術部位にフィルムを形成する。Confluent Surgicalは、手術部位への塗布の前に2種類の液体を混合する同様の製品も市販している。
【0008】
上記製品の付加的な欠点は、手術部位への吸収が早いことである。癒着を防止するには、フィブリンおよびコラーゲンの形成後、徐々に癒着防止バリアが吸収されることが望ましい。これには、一般的に30〜60日またはより長期間を要し、この間、患者は創傷の治癒が不完全な状態に置かれる。現在、ゲルベースの吸収可能型製品は1週間以内に吸収されるのが一般的であり、そのため、治癒の早期段階においてのみ癒着を防止するにとどまっている。従って、これらの製品が完全に吸収された後もまだ癒着が発生する。癒着防止バリアフィルムCardiowrapは、60日まで存在するが、上で述べたフィルムベースのバリアの欠点がある。
【0009】
上記製品の他の欠点は、これらのバリアを貫通して組織が成長または侵入することを抵抗または防止する凝集性のあるフィルムを形成する粒子の有効性である。生分解性の粒子を重ね合わせて使用することで、効果的なバリアの形成が可能だが、こうした粒子の使用は今まで無視されてきた。
【0010】
KeおよびSunは、ポリ(L−ラクチド)単体よりも高い吸水性を有するポリ(ビニルアルコール)とポリ(L−ラクチド)とのブレンドについて説明している。(Starch,Poly(lactic acid) and Poly(vinyl alcohol)Blends,Journal of Polymers and the Environment,Vol.11,No.l,(January 2003)彼らは、デンプン/ポリ(ビニルアルコール)/ポリ(L−ラクチド)のブレンドが、デンプン/ポリ(L−ラクチド)のブレンドに比べてより高い適合性と力学的性質を有することも示している。
【0011】
この分野の進歩にもかかわらず、更なる改善が望まれている。特に、エアロゾルとしてまたはブラシでの塗布により、送達可能な癒着防止バリアの提供は有益である。これにより、所望部位への直接的および正確な塗布が可能となり、癒着が望ましい領域へは最小限の塗布を行うか、または全く塗布しないようにできる。このような製品は、液体より所望の治療部位への良好な接触性があり、液体やゲルより保管が容易であるという利点がある。このような製品の製造により、持続的なバリア保護を提供できる。このような製品では、効果的なバリアを形成しつつ重ね合わせが可能な粒子を効果的に使用できる。このような製品は、手術部位の特定の領域への時間をかけた送達が可能な治療薬を含むこともできる。こうした癒着防止バリアは、使用が容易であるとともに有効性があり費用対効果が高い。以下に説明する本発明は、少なくともこれらの目的の一部に合致する。
【発明の概要】
【0012】
本発明の種々の実施の形態は、癒着防止バリアを生成するための製剤であって、ポリマーの組合せを含む複数の粒子を備え、このポリマーの組合せは少なくとも1つの生分解性ポリマーと少なくとも1つの水溶性ポリマーとを含み、粒子製剤が内部生体組織の表面上に堆積すると、この堆積した製剤は組織から水分を吸収して、表面を覆うフィルムを形成し、このフィルムは上記表面と別の生体組織との癒着を低減または防止することができる。
【0013】
本発明の更なる実施の形態は、癒着防止バリアを生成する方法を含み、この方法は、少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む複数の粒子を供給するステップと;内部生体組織の表面にこれら複数の粒子を送達するステップと;送達された粒子により、上記表面に癒着防止バリアフィルムを形成して、上記表面と別の生体組織との間の癒着を低減または防止するステップを備える。
【0014】
本発明の追加の実施の形態は、癒着防止バリアを生成するシステムを含み、このシステムは、バルブを有する排出口を備える圧力容器と;この圧力容器内に配設される懸濁物を備え;この懸濁物は、液体とこの液体中に均一に懸濁された複数の粒子とを含み、これら粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含むポリマー組合せを含み、上記液体は、周囲条件または大気条件への曝露時にこの液体が速やかに蒸発するような沸点を有し、バルブの開放時に懸濁物は上記排出口から放出されるとともに、上記液体は速やかに蒸発して空気中に粒子を分散させる。
【0015】
本発明の別の実施の形態は癒着防止バリアを製造する方法を含み、この方法は以下を備える:少なくとも1つの生分解性ポリマーを第1の溶媒に溶かすことにより第1の溶液を形成するステップ;水溶性ポリマーを第2の溶媒に溶かすことにより第2の溶液を形成するステップであって、第1および第2の溶媒は不混和であり;第1および第2の溶液をブレンドして第1および第2の溶媒のエマルジョンを形成するステップ;および、このブレンドからポリマーの粒子を形成するステップであって、各ポリマー粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
他の本発明の利点および特徴は、以下の詳細な説明および添付の請求の範囲を、添付の図面と関連付けて参照することによりさらに容易に明らかになろう。添付の図面において、
【図1A】図1Aは、生分解性ポリマーと吸湿性ポリマーとのブレンドである製剤の粒子構造を例示する。
【図1B】図1Bは、ポリマーまたはポリマーの組合せのコアと、別のポリマーまたはポリマーの組合せから成る外殻を含む粒子構造の製剤を例示する。
【図2】図2は、概略的なスプレードライシステムを示す。
【図3】図3は、本発明の製造に関し、一連のステップを例示する。
【図4】図4は、本発明の製造に関し、一連のステップを例示する。
【図5A】図5Aは、組織の表面部位の選択領域を覆う癒着防止バリアフィルムの俯瞰図である。
【図5B】図5Bは、図5Aのフィルムの断面図である。
【図5C】図5Cは、孔または空洞(ボイド)を有する癒着防止バリアフィルムの実施の形態を示す。
【図6A】図6Aは、概略的な送達の構成を示す。
【図6B】図6Bは、概略的な送達の構成を示す。
【図7】図7は、ドライパウダーから粒子製剤を送達するための典型的なデリバリーシステムを示す。
【図8】図8は、懸濁物から粒子製剤を送達するための送達システムを例示する。
【図9A】図9Aは、PLGA/PVA製剤の膨潤を示す。
【図9B】図9Bは、PLGA/PEG製剤の膨潤を示す。
【図10】図10は、移植時の慢性ヒツジ標本の写真である。
【図11】図11は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図12】図12は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図13】図13は、図12の同一標本の写真であり、心臓(左心耳)を覆うPLGAフィルム/バリアの別の視点からの写真である。
【図14】図14は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図15】図15は、図14における慢性ヒツジへの移植部分の写真である。
【図16】図16は、図15に示すPLGA膜(フィルム/バリア)の組織学的結果の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この詳細な説明は多くの具体的な例示を含んでいるが、これらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、単に本発明の様々な例と態様とを説明するだけである。本発明の範囲は、上記詳細に記述される以外の他の実施の形態を含むと理解されるべきである。本明細書に開示する本発明の方法および装置の構成、操作、および詳細における、当業者にとって明らかな他の種々の修正、変更、および変形は、ここに記載する本発明の精神および範囲を逸脱することなく行うことができる。
【0018】
本発明の種々の実施の形態により、癒着防止バリアを生成する製剤と組成、前記癒着防止バリアの使用方法、および前記癒着防止バリアの製造方法を開示する。使用方法には、特に、製剤を組織に送達する方法が含まれる。さらに、製剤を送達するシステムを開示する。上記製剤により形成される癒着防止バリアは、新しい線維組織の形成に起因する組織表面の異常な癒着または結合を防止するバリアである。
【0019】
癒着防止バリアは、生体吸収性であり、特定の期間で強度を失うか、または生体吸収されるように製剤することができる。送達の際に、製剤は組織(の形状に)に速やかに適合しフィルムを形成する。形成されたフィルムは組織に密着し、縫合固定を必要としない。
【0020】
一般に、製剤は送達されてフィルムを形成し、このフィルムは生体の任意の部分において、皮下または開口内の組織上に癒着防止バリアを提供する。皮下とは、例えば、組織の切創がある場所や開いた手術創がある場所等が含まれる。実施の形態において、製剤を、種々のタイプの外科手術の際に組織に送達してもよい。この組織は、骨盤部、腹部、胸部、整形外科的な部分(例えば、臀部および膝等)、頚部、脊椎部等の外科手術の範囲であってもよい。製剤は、内視鏡により皮下の組織に送達してもよい。
【0021】
癒着防止バリアは、ポリマーまたはポリマーの組合せを含む製剤から形成される生分解性のフィルムである。好ましい実施の形態においては、製剤はポリマーまたはポリマーの組合せを含むか、またはこれを含む粒子の形態である。当該粒子は、皮膚の下または直下の組織等の生体組織上にこの粒子を堆積することにより送達する。特定の実施の形態においては、送達前の粒子は、全くまたは実質的に溶媒を含まない乾燥固体またはドライパウダーである。実質的に溶媒を含まない、とは粒子内に0.1重量%未満、0.01重量%未満、または0.001重量%未満の溶媒を含むことを指す。
【0022】
粒子は、好ましくは微細に分散した形またはエアロゾルとして組織上に向けて供給して堆積させる。「エアロゾル」とは、気体または液体に微細に分散した粒子系または懸濁物を指す。微細に分散した状態とは、粒子の凝集体が極小化され、粒子が気体媒質内で分散するとともに気体媒質によって分離されている粒子系を指す。
【0023】
このため、粒子によるバリアは、粒子の塗布される構造とこのバリアの反対側の任意の他の構造との間に形成される。例えば、心臓と胸骨との間、心臓と肺との間、肺と胸壁(壁側胸膜)との間、小腸と腹壁(腹膜)との間、または肝臓と結腸との間等である。
【0024】
以下により詳細に記載するように、粒子は、ブラシによる塗布や歯磨粉状の形態等の様々な形で送達できる。以下により詳細に説明する別の実施の形態においては、製剤は、ポリマーまたはポリマーの組合せを含むゲルまたは液体であってもよい。
【0025】
組織上に堆積した生分解性のフィルムは、組織と隣接する別の組織との間で癒着の形成を減少または防止する。生分解性のフィルムは、特定の治療方法に適した寿命を有する。フィルムは、機械的完全性を一定期間保つのに十分な力学的強度を維持する。その後、フィルムは機械的完全性を失い、侵食されるか、生体内に吸収されて、一定期間後に堆積部位から完全に消滅する。
【0026】
フィルムの寿命は、フィルムが機械的完全性を維持するのに十分な強度を維持する期間を考慮して決めてもよい。機械的完全性は、フィルムが亀裂を生じずに形状を維持する能力、または2つの臓器の表面の接触を防止する物理的バリアを維持する能力である。フィルムの寿命は、フィルムが完全に侵食または吸収されるとともに堆積部位から除去される期間を考慮して決めてもよい。強度の点での寿命または完全に吸収されるまでの寿命は、1週間ないし2週間、2週間ないし1ヶ月(または30日)、1ヶ月ないし2ヶ月(または60日)、2ヶ月ないし3ヶ月(または90日)、または3ヶ月超であってもよい。フィルムは、フィブリンまたはコラーゲンが形成されて組織の癒着を防止できるのに十分な期間、持続する。
【0027】
一部の実施の形態においては、フィルムの形成後、細胞の仮の膜が癒着防止バリアの片側または両側で成長してバリアとなる。生体の自然な免疫応答により、フィルムを覆う仮の膜が形成され、これがバリアとなる。
【0028】
特定の実施の形態において、製剤はポリマーまたはポリマーの組合せを含むか、それから成る複数の粒子を含む。一部の実施の形態において、この粒子は、生分解性ポリマーまたは少なくとも2つの生分解性ポリマーの組合せを含む。用語「ポリマー」は、1種類のポリマーを指す場合もあるが、複数のポリマーの組合せを指す場合もある。別の実施の形態において、粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの組合せを含む。これらまたは別の実施の形態においては、生分解性ポリマーは非水溶性であってもよい。水溶性ポリマーは吸湿性のものおよび/または水分を吸収して膨潤できるものが好ましい。ポリマーの組合せには、2種類以上の生分解性ポリマーが含まれてもよい。ポリマーの組合せには、2種類以上の水溶性ポリマーが含まれてもよい。個々の粒子が生分解性ポリマーおよび水溶性ポリマーを含む場合、水溶性ポリマーは、組織への接触時に粒子を膨潤させるか、膨潤を促進するようにしてもよい。
【0029】
一般に、水溶性ポリマーは、粒子間の密着、およびフィルムの組織または生物学的基質への密着を生じさせることにより、フィルムの形成を促進する。生分解性ポリマーは、生分解性ポリマーを伴わない水溶性ポリマーよりも長い期間にわたって、フィルムに構造の完全性および強度を与える。フィルムの寿命は、主に、生分解性ポリマーの分解挙動により決まる。従って、生分解性ポリマーは、機械的完全性および侵食の点で水溶性ポリマーより長い寿命を有する。例えば、生分解性ポリマーは、水または体液内で少なくとも30日、30ないし60日、または60日超の寿命を有してもよい。
【0030】
別の実施の形態においては、粒子は、加水分解性の生分解性ポリマーまたは生分解性ポリマーの組合せを含んでもよい。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは水溶性ではない。生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)等の脂肪族の生分解性ポリエステルを含む。追加的な実施の形態においては、粒子は、PVA等の生分解性かつ水溶性ポリマーを含んでもよい。更なる実施の形態においては、粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブロックまたはランダムコポリマーであるポリマーでできていてもよい。
【0031】
本発明の実施の形態で用いるような生分解性ポリマーは、体液への曝露時に化学分解を起こして分子鎖切断を生じ、ポリマーの分子量の減少につながるようなものを指す。化学分解のメカニズムの1つは加水分解である。化学分解は、例えば、酵素分解等の他の方法でも生じる。生分解性ポリマーの分解は、以下を特徴とできる。それらは、(1)化学分解による分子量の減少;(2)分子量の減少による力学的性質、特に強度の減少および喪失;(3)力学的性質の劣化による機械的完全性の喪失;および(4)体液内における低分子量の分解生成物の溶解により起こる分解したポリマーの侵食または質量の喪失である。
【0032】
本発明の実施の形態で用いるような水溶性ポリマーは、水または体液内で溶解するが、水分または体液への曝露時に必ずしも化学分解を起こさないものである。水溶性ポリマーは水または体液内で溶解し得るが、例えば、スクロース等は水または体液の曝露時に化学分解を起こさない。水溶性ポリマーは、水または体液内で溶解するとともに、水または体液への曝露時に化学分解を起してもよい。こうしたポリマーは、例えば、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)等である。水溶性ポリマーは、吸湿性(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等)であってもよく、または吸湿性でなく(例えば、スクロース等)てもよい。吸湿性のポリマーは、例えば、湿度の高い空気等の水分を含む気体から水分を吸収するか、または取り出して保持することができるポリマーである。吸湿性のポリマーは、水分を吸収した際に膨潤するか、大きさを増大することができるものでもよい。膨潤可能なポリマーは、水分を吸収するとともに、吸収した水分により膨潤するか、または体積が増加する。
【0033】
湿った組織に粒子を堆積した後、上記製剤中の水溶性ポリマーは、堆積した粒子間の密着または結合を促進する。粒子の膨潤により、粒子が重なり合うことで、フィルムまたはフィルム部分が形成される。このフィルムには、粒子が堆積した組織を外部に曝す穴や空洞がない。さらに、水溶性ポリマーは、フィルムの組織への密着を促進する。また、上記製剤の水溶性ポリマーは、堆積時に生物学的組織から水分を吸収するとともに、粒子間の密着および粒子と生物学的組織との密着を促進する。
【0034】
特定の実施の形態では、この粒子製剤の送達は、小さく、微細に分散した粒子を組織範囲表面の選択した部分に堆積することを含む。粒子を堆積および微細に分散する方法により、堆積した粒子は組織表面との密接な等角接触を生じることができる。この製剤は、濡れて膨潤すると、製剤が組織表面を覆うように広がるとともに、組織表面と密接に接触する密着性フィルムまたはバリアを組織表面上に形成する。フィルム内の膨潤したポリマーは、吸収または接触の部位に存在する表面張力および力に補助されて、生物学的組織との強い密着または結合を生じる。
【0035】
本発明には、ポリマーの組合せを用いる実施の形態がいくつか含まれる。一部の実施の形態においては、複数の粒子のうち1つの粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの組合せを含む。図1Aおよび図1Bは、粒子内にポリマーの組合せを含む実施の形態を示している。図1Aにおいて、製剤は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドまたは混合物10である粒子5等の粒子を含む。この製剤においては、粒子は部分的または全体的にこのブレンドから作られる。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは非水溶性である。これらの実施の形態においては、製剤中の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの相対組成(例えば、重量、体積等)は、ブレンド中のポリマーの組成によって決まる。このような実施の形態においては、複数の粒子のうち1つの粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの均質ブレンドまたは混合物であってもよい。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは混和可能である。混和可能とは、ポリマーの組合せが分子レベルで均質に混合できる能力を指す。別の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは混和できず、分子的に均質なブレンドを形成することはできない。不混和のポリマーの組合せは混合またはブレンドできるが、個別のポリマー相に分かれてしまう傾向があるため、分子レベルでは均質に混合することができない。従って、このような実施の形態においては、こうした組合せは、生分解性ポリマーの相と水溶性ポリマーの相とが均質な2つ以上の相に分散したものにすることができる。相の数は、分子レベルで均質に混合できないポリマーの数によって決まる。
【0036】
図1Bに示すように、追加的な実施の形態においては、製剤は粒子12等の粒子を含み、この粒子12は、部分的または全体的にポリマーまたはポリマーの組合せから成るコア14と、部分的または全体的に別のポリマーまたはポリマーの組合せから成る外殻16とを含む。一の実施の形態においては、上記コアは生分解性ポリマー(1種以上)から成り、上記外殻は水溶性ポリマー(1種以上)から成る。別の実施の形態においては、上記コアは水溶性ポリマー(1種以上)から成り、上記外殻は生分解性ポリマー(1種以上)から成る。これらの追加的な実施の形態においては、製剤中の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの相対組成は、コアおよび外殻の各ポリマーの相対的な重量または体積による。更なる実施の形態においては、コアは、上述のように、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとから成る水溶性ポリマーと生分解性ポリマーとのブレンドまたは混合物から成り、外殻は水溶性ポリマーまたは生分解性ポリマーである。
【0037】
更なる実施の形態においては、製剤におけるポリマーの組合せは、少なくとも2種類の複数の粒子の混合物であり、第1および第2の複数の粒子は異なる種類のポリマーまたはポリマーの組合せから成る。特定の実施の形態においては、一方の複数の粒子は生分解性ポリマーから成り、他方の複数の粒子は水溶性ポリマーから成る。生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの重量または体積による相対組成は、上記2種類の複数の粒子の相対的重量または体積による。
【0038】
一般に、癒着防止バリアまたはフィルムは比較的薄いことが望ましい。比較的薄いフィルムを展開するとともに、組織表面に密接に接触させるには、製剤において比較的小さいサイズの粒子を用いてもよい。製剤における平均粒子サイズは、50nmないし500ミクロン、またはより狭い範囲としては700nmないし200ミクロンであってもよい。
【0039】
生分解性および水溶性ポリマーの種類、それらの組合せ、およびそれらの組成は、形成されるフィルムの品質、フィルムの密着の度合、およびフィルムの寿命に影響する。一部の実施の形態においては、製剤中、1〜99、10〜90、20〜90、30〜90、40〜90、50〜90、60〜90、70〜90、10〜80、10〜70、10〜60、10〜50、10〜40、10〜30、20〜80、30〜70、または40〜60重量%が生分解性ポリマーまたはこのような生分解性ポリマーの組合せであってもよい。一部の実施の形態においては、製剤の組成中、10〜90、20〜90、30〜90、40〜90、50〜90、60〜90、70〜90、10〜80、10〜70、10〜60、10〜50、10〜40、10〜30、20〜80、30〜70、または40〜60重量%が水溶性ポリマーまたはこのような水溶性ポリマーの組合せであってもよい。
【0040】
生分解性ポリマーは、加水分解可能な合成および天然のポリマーを含んでもよい。加水分解可能な合成ポリマーは、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)を含む加水分解可能なポリエステルを含んでもよい。分解可能な天然のポリマーの例としてはキトサンが挙げられる。水溶性ポリマーの例としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ジブロックまたはトリブロックPEG/PLGA等のPEGブロックポリマー、端部にPEGセグメントを有するPEG/PLAポリマー、PEG/PLGAコポリマー等のPEGランダムまたは交互コポリマー、スクロース、デンプン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびポリ(ビニル)アルコール等が挙げられる。PVAは、膨潤可能で化学分解可能な吸湿性ポリマーの代表例である。スクロースを除いて、上述の全ての水溶性ポリマーが吸湿性である。
【0041】
フィルムの分解挙動、特に、分解してフィルムの強度が機械的完全性を失う時間またはフィルムの完全な侵食に要する時間は、PLGAコポリマーにおけるグリコリドに対するラクチドの比を変えることで調整できる。L−ラクチド(LA)のモルパーセントが100%から減少または0%から増加するにつれて、結晶度が低下する傾向があり、強度の低下につながる。さらに、LAのモルパーセントが100%から減少または0%から増加するにつれて、PLGAのin vitroでの分解時間が減少することが知られている。従って、上記比を変えることにより、さまざまな治療期間に応じて異なる分解速度および結晶度の量を設定してもよい。一般に、製剤中のPLGAは、モルパーセントの値で表した場合、10%LA/90%GAないし85%LA/15%GAの間としてもよい。特にPLGAの組成で利用してもよい例としては、10/90PLGA、50/50PLGA、70/30PLGA、85/15PLGA、これらの組成の±3モル%のもの、および、市販の組成物でこれらの組成を有すると確認できるものが挙げられる。50/50PLGA組成物では、フィルム強度の寿命は1ないし2週間の間である。70/30PLGA組成物では、フィルム強度の寿命は30から60日の間である。
【0042】
生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの様々な組合せを用いて、所望の分解性質および密着性を得てもよい。製剤は、開示する1つ以上の生分解性ポリマーと開示する1つ以上の水溶性ポリマーとの任意の組合せを含んでもよい。本発明は、開示する水溶性ポリマーの任意の組合せを含む。
【0043】
製剤は複数の種類のポリマーの様々な組合せを含んでもよく、その組合せは以下を含む:
・生分解性ポリマーと、化学分解しない水溶性(吸湿性または非吸湿性)ポリマー;
・生分解性ポリマーと、化学分解可能な水溶性ポリマー;
・生分解性ポリマーと、吸湿性で化学分解しない水溶性ポリマーと、非吸湿性の水溶性ポリマー;
・生分解性ポリマーと、(吸湿性または非吸湿性で)化学分解しない水溶性ポリマーと、化学分解可能な水溶性ポリマー。
上述の組合せにおいて、水溶性ポリマーは吸湿性または非吸湿性であってもよい。
【0044】
一部の実施の形態においては、製剤は、開示するPLGAの組成物のうちいずれか1つと、1つ以上の開示する水溶性ポリマーとを含んでもよい。特に、製剤は、PLGAと、上述の水溶性ポリマーとの組合せのいずれかを含んでもよい。組合せの例としては、PLGAと、PVA、PEG、デンプン、アルギン酸、PVP、またはそれらの任意の組合せとの組合せが挙げられる。製剤中、PLGAは、水溶性ポリマーまたは水溶性ポリマーの組合せに対し、100重量%から1重量%および99重量%から1重量%の間で変更してよく、より狭い範囲としては、10〜15重量%、15〜25重量%、25〜35重量%、35〜55重量%、55〜70重量%、または70〜90重量%のPLGAを用いてもよい。例えば、製剤は、50重量%のPLGA、25重量%のPVA、および25重量%のデンプンを含んでもよい。
【0045】
追加的な実施の形態においては、製剤は、開示するPLGAの組成物のうちいずれか1つ、キトサン等の別の生分解性ポリマー、および1つ以上の水溶性ポリマーを含んでもよい。
【0046】
癒着防止バリア製剤のためのポリマー組合せの例としては、70/30PLGA/PVA;キトサン/PVA;70/30PLGA/キトサン/PVP;キトサン/PVP;70/30PLGA/PEG;70/30PLGA/デンプン;70/30PLGA/PEGコポリマー/PEG;70/30PLGA/PEGコポリマー/PLGA/PVA;70/30PLGA/PEGコポリマー/PEG/70/30PLGA;PLGA/スクロース/PEG;キトサン/PVA;キトサン/PVP;PLGA/PVP;およびPLGA/アルギン酸が挙げられる。製剤に用いるPLGAコポリマーの重量平均分子量(Mw)は600ないし300,000ダルトン、またはより好ましくは6,000ないし200,000ダルトンの間である。あるいは、PLGAポリマーの固有粘度は0.2から4.0の間、または好ましくは0.8から1.2の間である。PEGのMwは1000から100000ダルトンの間である。キトサンのMwは10000から300000ダルトンの間である。PVPのMwは6000から300000ダルトンの間である。
【0047】
水溶性ポリマーと生分解性ポリマーとの組合せは、適切な癒着防止バリアフィルムの形成において相乗効果を奏する。水溶性ポリマーは、粒子間および形成されたフィルムと組織との間の密着を促進させるか、または生じさせる。さらに、水溶性ポリマーは粒子を膨潤させて、粒子を重ね合わせるとともに、空洞や穴のない連続した均一なフィルムを形成させる。生分解性ポリマーは、フィルムに強度および機械的完全性を与えるとともにフィルムの寿命を延ばす。適切な癒着防止バリア、すなわち、均一で空洞がなく、所望の期間十分な強度と機械的完全性とを有するフィルムは、各種類のポリマーを適した量で用いて製剤することで得られる。各種類のポリマーにより得られるこれらの特性または特徴が調和することで適切なフィルムが得られる。例えば、所望のフィルムより不十分な強度または短い寿命を有するフィルムは、水溶性ポリマーが過多で、生分解性ポリマーが不十分な場合に生じることがある。
【0048】
膨潤の程度は、粒子がどれほど水分を取り込むか、ということから得られる。水分の取込量は、1〜80%の間、またはより狭い範囲としては20〜30重量%の間であってもよい。水分の取込量とは、粒子が水分に曝露された際に吸収する最大水分量を粒子中の水分の重量%で表したものと定義する。本発明者は、粒子による水分の取込量が10〜30重量%の間である場合に特に適切なフィルムの形成が起こることを発見した。
【0049】
上述のように、追加的な実施の形態においては、粒子は、生分解性ポリマーのブロックおよび水溶性ポリマーのブロックを含むブロックポリマーまたはランダムコポリマーから生成されてもよい。このようなブロックコポリマーの物理的状態は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの重量比およびブロックの分子量等の要素によって決まる。一部の実施の形態においては、ブロックポリマーから成る粒子が固体(室温または周囲温度で)であって、液体、ゲル、ペースト、または液体とならないように、ポリマーの重量比および分子量を選択する。室温または周囲温度とは、典型的には20〜30℃、またはより狭い範囲としては23〜27℃、あるいは25℃または約25℃である。ブロックコポリマーは、ジブロック、トリブロック、スターブロック、または一般に分岐ブロックコポリマーであってもよい。
【0050】
例示の実施の形態においては、ブロックコポリマーは、PLGAブロックおよびPEGブロックを含んでもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50のジブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50で両端にPLGAを有するトリブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50で両端にPEGを有するトリブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。
【0051】
一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは、フィルムの生体組織への密着を促進させてもよい。例えば、キトサンは体内の生物学的組織への比較的強い密着性を有することが知られている。追加的実施の形態においては、水溶性ポリマーは、比較的弱い相互作用を生じるようにしてもよく、このため、生物学的組織への密着性を低くしてもよい。例えば、アルギン酸が有する末端基は、生物学的組織との相互作用が比較的弱いとされる。そのため、キトサンとアルギン酸との組合せを用いる製剤は、生物学的組織に対して強い密着性を有することがある。
【0052】
本明細書に説明する製剤および方法での使用に適した生分解性ポリマーの例としては、限定されはしないが、アルギン酸、セルロースおよびエステル、デキストラン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリアセタール、ポリアリレート(L−チロシン由来のものまたは遊離酸)、ポリ(α−ヒドロキシエステル)、ポリ(β−ヒドロキシエステル)、ポリアミド、ポリ(アミノ酸)、ポリアルカノート、ポリアルキレンアルキレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリ無水物、ポリ無水物エステル、ポリアスパラギン酸、ポリブチレンジグリコレート、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(カーボネート)、L−チロシン由来ポリカーボネート、ポリシアノアクリレート、ポリジヒドロピラン、ポリ(ジオキサノン)、ポリ−p−ジオキサノン、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ε−カプロラクトン−ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エステル)、脂肪族ポリエステル、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(オルトエステル)コポリマー、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(グリコリド−トリメチレンカーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリケタール、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(L−乳酸−コ−グリコール酸)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)/ポリ(グリコリド)コポリマー、ポリオルトエステル、ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリペプチド、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)、ポリ(DL−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)/ポリ(グリコリド)コポリマー、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(プロピレンフマレート−コ−エチレングリコール)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリチロシンカーボネート、ポリウレタン、プロラスチンまたはシルクエラスチンポリマー、スパイダーシルク、Tephaflex、ターポリマー(グリコリド、ラクチド、またはジメチルトリメチレンカーボネートのコポリマー)、およびそれらの組合せ、混合物、またはコポリマーが挙げられる。
【0053】
追加的なポリマーとしては、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、コ−ポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリホスファゼン、PVA、PVP、デンプン、生体分子(フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、コラーゲン、およびヒアルロン酸等)、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セロハン、ニトロセルロース、セルロースプロピオネート、セルロースエーテル、およびカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0054】
製剤の粒子を作成する一部の実施の形態は、ポリマーまたは複数のポリマーをこれらポリマー用の溶媒に溶かしてポリマー溶液を形成することを含む。一部の実施の形態においては、粒子は、この溶液からスプレードライプロセスにより形成してもよい。
【0055】
ポリマー用の溶媒は、ポリマーを溶かして、少なくとも0.1重量%のポリマー濃度で、ポリマーと液体が分子レベルで混合されたものを含む溶液を形成することが可能な液体である。PLGA用の一般的な溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、およびエチルアセテート等が挙げられる。50/50PLGA用の溶媒としては、アセトン、メチレンクロライド、エチルアセテート、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)、THF、ヘキサフルオロプロパノール(HFIP)等が挙げられる。70/30PLGA用の溶媒としては、アセトン、メチレンクロライド、エチルアセテート、クロロホルム、DMF、THF、HFIP等が挙げられる。キトサン用の溶媒としては、酢酸、または水/酸の溶媒系が挙げられる。
【0056】
スプレードライは、高温の気体で液体またはスラリーを急速に乾燥することにより、液体(例えば、溶液等)またはスラリーから残留液または残留溶媒をほとんどまたは全く有さない複数の粒子またはドライパウダーを生成する方法である。スプレードライにより、比較的一貫したまたは狭い範囲に分布する粒子サイズを実現できる。典型的には、加熱空気が加熱乾燥媒体だが、窒素、酸素、二酸化炭素、またはアルゴン等の別の気体を用いてもよい。
【0057】
スプレードライ装置は、液体またはスラリーを液滴サイズが制御された霧として分散するアトマイザーまたはスプレーノズルを含む。ノズルの例としては、ロータリーノズル、単流体加圧旋回ノズル、あるいは2流体または超音波ノズルが挙げられる。液滴サイズは、50nmから500ミクロン、より狭くは700nmから200ミクロンの直径範囲であってもよい。
【0058】
図2は、概略的なスプレードライシステム20を示す。スプレードライシステム20は、乾燥チャンバ22、ノズル24、ヒータ26、および粒子コレクタ28を含む。矢印30が示すように、乾燥用気体はヒータ26を介してシステム20に進入する。矢印32が示すように、溶解したポリマーを含む溶液がノズル24内に供給され、溶液を噴霧化してサイズ差の小さい微細な液滴34が乾燥チャンバ22内にスプレーされる。液滴中の溶媒は、液滴が落ちる際に蒸発し、固体の粒子36がコレクタ28に捕集される。固体の粒子は、静電粒子コレクタ、ろ過、遠心分離、またはそれらの組合せで分離してもよい。加熱用気体の吸込温度は温度センサにより制御してもよい。
【0059】
例えば、キトサン/PVPを用いる本発明の製剤において50nmから300ミクロンの粒子サイズを実現するのに、例としてスプレードライヤーを用いてもよい。スプレードライプロセスにおけるプロセスパラメータとしては、加熱用気体の温度、液滴のサイズ、液滴の速度、溶液の濃度、供給の速度、アトマイザーの圧力または噴霧化の圧力、吸込温度、排出温度等が挙げられる。噴霧化の圧力は、0.01ないし1MPa、またはより狭い範囲としては0.1から0.5MPaであってもよい。吸込温度は、50ないし300℃、より狭い範囲としては100から200℃であってもよい。排出温度は、−20ないし80℃、またはより狭い範囲としては0から50℃の間であってもよい。スプレー速度は、0.1ないし5000ml/分であってもよい。こうした条件は、スプレードライヤーのサイズ、操作温度、および要求される粒子サイズ等によって決まる。
【0060】
生分解性ポリマーの粒子と水溶性ポリマーの粒子との混合物を含む製剤は、異なる種類の粒子を個別のプロセス工程において形成して、これらの粒子を物理的にブレンドすることにより作成してもよい。このような製剤の粒子を製造するプロセスの例を図3に示す。ステップ1において、生分解性ポリマー(単一または複数)を有機溶媒または無機溶媒に溶かす。生分解性ポリマーまたは複数の生分解性ポリマーの組合せは、フィルム形成の特性と、最終製品の所望の治療期間を提供するものであってもよい。生分解性ポリマーと溶媒とから得られた溶液については、生分解性ポリマーの濃度を0.01ないし25重量%の間、またはより狭い範囲としては0.2ないし10重量%の間で変更してもよい。特に、アセトンまたは別の溶媒の70/30PLGAの溶液においては、70/30PLGAは0.2から10重量%の間であってもよい。次に、ステップ2において、得られた溶液は、スプレーされるとともに乾燥されて、生分解性ポリマーの粒子を生成する。
【0061】
水溶性ポリマーの粒子を同様の方法で作成する。水溶性ポリマーは、0.01から25重量%のポリマー、またはより狭い範囲としては0.1から10%の濃度で水に溶かす。PEG、スクロース、デンプンの濃度の例としては、1〜3重量%、例えば、2%であってもよい。溶液中のPVAの濃度は、0.1から10重量%の間である。PVPに適した溶媒としては水が挙げられ、溶液中のPVPの濃度は、0.1から10重量%である。
【0062】
ステップ3において、生分解性ポリマーの粒子を水溶性ポリマーの粒子とブレンドして、生分解性および水溶性の粒子の混合物を生成する。
【0063】
生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドまたは混合物である粒子製剤は、2種類のポリマーを含むエマルジョンをスプレードライすることで形成してもよい。このような製剤の粒子を製造するプロセスの例を図4に示す。ステップ1おいてに示したように、2つの個別のポリマー溶液を用意する。一方の溶液は第1の溶媒に生分解性ポリマーを溶かしたものであり、他方の溶液は第2の溶媒に水溶性ポリマーを溶かしたものである。第1の溶媒は典型的には有機溶媒であり、第2の溶媒は典型的には水もしくは水溶液である。第1および第2の溶媒は、2相液体混合物が形成されるような性質を有する。第1の溶媒と第2の溶媒とが不混和であると、2相液体混合物を形成することが可能である。第1の溶媒に溶かす生分解性ポリマーの量と第2の溶媒に溶かす水溶性ポリマーの量との比は、粒子中の2種類のポリマーの所望の比に対応する。
【0064】
例えば、PLGAはアセトンまたはクロロホルムに溶かし、PEGまたはPVPは水に溶かしてもよい。キトサンの溶解度は酸性の環境で増加するため、キトサンは酸性の水溶液に溶かしてもよい。例えば、水溶液は0.05から5重量%の酢酸を含んでもよい。
【0065】
ステップ2において示したように、2つの溶液を混合して、2つの液体相を含むエマルジョンを形成する。体積の小さい方の溶液は体積の大きい方の溶液内に分散される。2つの溶液の相対的体積は、それぞれのポリマーの濃度と粒子中のポリマーの所望の相対組成とによって決まる。特定の溶液濃度に対して、各溶液中のポリマーの相対量が、これらの溶液から作成される粒子中の所望の相対量となるように、相対体積を調整する。詳細には、溶液1の体積(V1)と溶液2の体積(V2)との比は:
V1/V2=(p1/p2)×(C2/C1)
ここで、p1およびp2はそれぞれ、得られる粒子のポリマープレンドのポリマー1とポリマー2との重量パーセントであり、C2およびC1はそれぞれ、ポリマー1およびポリマー2の溶液の濃度である。
【0066】
例えば、70/30PLGAとPVAとの粒子(70重量%のPLGAと30重量%のPVA)は、1重量%のPVA溶液と1ないし5重量%のPLGA溶液とから形成してもよい。1重量%のPLGA溶液を用いて70/30の粒子を得るには、PLGA溶液の体積とPVA溶液の体積との比を(70/30)×(1/1)または約2.33とする。この場合、PVA溶液がPLGA溶液中に分散する。同様に、5重量%のPLGA溶液を用いて70/30の粒子を得るには、PLGA溶液の体積とPVA溶液の体積との比を(70/30)×(1/5)または約0.47とする。この場合、PLGA溶液がPVA溶液中に分散する。
【0067】
一部の実施の形態においては、水溶液相が有機相中に分散するか、あるいは、有機相が水溶液相中に分散する。一部の実施の形態においては、2つの溶液をゆっくりと組合せ混合し、溶液をソニックミキサーで攪拌または音波処理して安定したエマルジョンの形成を促進する。
【0068】
ステップ3において、スプレードライヤーを用いてエマルジョンから粒子を形成する。形成した粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンド、例えば、PLGAとPVAとのブレンド等である。スプレードライプロセスについては以下に説明する。
【0069】
一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは同一の溶媒に溶かしてもよい。例示の実施の形態においては、キトサンと水溶性ポリマーとは酢酸の酸性水溶液に溶かしてもよい。キトサンと水溶性ポリマーとの粒子は、この溶液をスプレードライすることにより形成してもよい。
【0070】
追加の実施の形態においては、生分解性および水溶性ポリマーを含む溶液またはエマルジョンは、スプレードライの前に濃縮してもよい。このような実施の形態においては、少なくとも有機溶媒の一部は、例えば、蒸発等により除去してもよい。これは、粒子を形成するスプレードライプロセスに要する時間を短縮するという利点がある。スプレードライの際、溶液の体積が大きいほど、溶液またはエマルジョンの体積から粒子を形成するまでの時間は長くなる。これらの実施の形態においては、有機溶媒の一部はエマルジョンまたは溶液から蒸発させる。一部の実施の形態においては、有機溶媒の一部を除去してもよく、または全ての有機溶媒を除去してもよい。例示の実施の形態においては、10体積%、10〜20体積%、20〜30体積%、30〜60体積%、60〜80体積%、または80〜100体積%未満の有機溶媒を除去してもよい。蒸発は、例えば1〜8時間かけて行ってもよい。蒸発は室温で行ってもよく、あるいは、エマルジョンは有機溶媒の沸点未満の温度に加熱してもよい。
【0071】
これらの実施の形態においては、有機溶媒を除去して、均一な乳状の外観を呈する溶液、溶出、または系を形成してもよい。この乳状の外観は、エマルジョン中のポリマーのブレンドである微細な粒子の存在によるもので、概ね300nmから20ミクロンの範囲内の大きさである。粒子は予め溶かしたポリマーから形成されたものであるが、ポリマーの一部はエマルジョン中の各溶媒に溶けた状態で残っていてもよい。次に、乳状の溶液をスプレードライして、有機溶液と水溶液の混合後に溶けた状態で残っているポリマーから、ブレンドされた粒子を形成する。
【0072】
乳状の系は、コロイドまたはコロイド系または懸濁物とみなしてもよい。コロイドは、一方の物質が他方の物質中に均一に分散している化学混合物である。分散している物質の粒子は混合物中に懸濁しているのみで、完全に溶解している溶液とは異なる。これは、コロイド中の粒子は溶液中のそれよりも大きいが、均一に分散するとともに均質な外観を維持するのに十分なほど小さいため起こる。しかし、光を拡散するのに十分なほど大きく、溶解しない程度に大きい。この分散のため、一部のコロイドは溶液の外観を有する。コロイド系は、分散相(または内相)と連続相(または分散媒)の少なくとも2つの異なる相を含む。コロイド系は固体、液体、または気体であってもよい。コロイド系の粒子は2ないし1000nmの間の大きさである。乳状の懸濁物の場合は、ポリマーの粒子は分散相であり、溶媒は分散媒である。
【0073】
懸濁物は、連続相内における、1000nm超の直径を有する粒子の均質な混合物である。粒子のサイズは、裸眼で見ることができる程度に大きい。血液およびエアロゾルスプレーは懸濁物の例である。懸濁物は、「濁っている」または「不透明」である。懸濁物は光を透過しない。懸濁物は静置すると分離する。
【0074】
別の実施の形態においては、有機溶媒を除去して、溶液中の粒子の不均一な懸濁物を形成させてもよい。不均一な懸濁物の粒子はより大きく、粒子のサイズは概ね1から150ミクロンの範囲である。溶解したポリマーは溶液中にまだ存在している。次に、懸濁物をスプレードライして、溶けた状態で残っているポリマーからブレンドされた粒子を形成する。
【0075】
乳状の系が形成されたか否かは、ポリマーの混和性、ポリマーマトリクスの比、溶液の濃度、混合速度、および溶媒の蒸発の制御等、いくつかの要因によって決まる。
【0076】
乳状の外観を有するエマルジョンをスプレードライして形成する粒子は、懸濁物をスプレードライして得るよりも小さい粒子製剤となる。前者から形成する製剤は0.3から20ミクロンの範囲の粒子を有し、後者は1から150ミクロンの範囲である。
【0077】
さらに、粒子のブレンドは、2つ以上の生分解性ポリマー、2つ以上の水溶性ポリマー、またはそれらの組合せを有してもよい。上述の手順はこのようなブレンドについて一般化して適用してもよい。例示の実施の形態においては、2つの水溶性ポリマーを含むブレンドは、上記2つのポリマーを含む溶液であって生分解性ポリマーの溶液と混合した溶液を形成することにより得てもよい。例えば、粒子はPVAおよびPVPまたはPEGおよびスクロースを含んでもよい。あるいは、水溶性ポリマーの個別の溶液と生分解性ポリマーの溶液とを混合してもよい。上述のように、粒子は2つ以上の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーのブレンド、例えば、PLGAと、キトサンと、水溶性ポリマーとのブレンドであってもよい。
【0078】
さらに、2つの生分解性ポリマーを含むブレンドは、当該2つのポリマーを含む溶液であって水溶性ポリマーの溶液と混合した溶液を形成することにより得てもよい。PLGAと、キトサンと、水溶性ポリマーとのブレンドを含む粒子は、キトサンの溶液と、水溶性ポリマーおよびPLGAの個別の溶液とを混合することにより得てもよい。あるいは、キトサンおよび水溶性ポリマーの酸性水溶液とPLGA溶液を混合してもよい。
【0079】
別の実施の形態においては、2つ以上の生分解性ポリマーの溶液は、これらのポリマーを同一の溶媒に溶かすことにより形成してもよい。例としては、アセトンに溶けて膨潤可能なポリマー粒子を生成するPLGAとPLGA−PEGとのブロックポリマーが挙げられる。別の例としては、液体PEG(分子量の小さいPEG)、例えば、分子量400g/モル(重量平均または数平均)のPEGに溶けるPLGAポリマーが挙げられる。
【0080】
上述のように、粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブロックコポリマーを含むか、または全体がこれらから成っていてもよい。ブロックコポリマー粒子は、ブロックコポリマーを溶媒に溶かすことにより形成する溶液から作成してもよい。一の実施の形態においては、溶液をスプレードライして粒子を形成してもよい。別の実施の形態においては、溶媒を蒸発させて、溶液中の粒子の懸濁物またはコロイドまたは溶出を形成してもよい。得られた懸濁物またはコロイドまたは溶出を、次にスプレードライして粒子を形成してもよい。溶媒は、アセトンまたはクロロホルム等の有機溶媒であってもよい。あるいは、溶媒は水であってもよい。
【0081】
溶媒の選択は、ブロックコポリマーの溶解度に基づいて選択してもよい。一の実施の形態においては、溶媒は、少なくとも0.1重量%のブロックコポリマー溶液、0.1〜1重量%の間、または少なくとも1重量%のブロックコポリマー溶液を形成できるように選択する。有機溶媒または水でのブロックコポリマーの溶解度は、PLGA等の生分解性ポリマーとPEG等の水溶性ポリマーとの相対組成によって決まる。PLGAのモルパーセントが大きいほど、ブロックコポリマーは有機溶媒で溶解またはより溶解しやすくなる。あるいは、水溶性ポリマーのモルパーセントが大きいほど、ブロックコポリマーは水に溶解またはより溶解しやすくなる。
【0082】
スプレードライによって得られる粒子のサイズは、いくつかの方法により影響または制御を加えることができる。粒子のサイズは、加圧噴霧等のプロセスパラメータによって決まる。以下に実施例6Aにおいて示すように、加圧噴霧の圧力を上げることで粒子サイズを大きくすることができる。製剤溶液中のポリマーの濃度および成分ポリマーの相対濃度によっても粒子のサイズに影響を与えることができる。さらに、製剤溶液の界面活性剤によっても粒子のサイズに影響を与えることができる。界面活性剤は、スプレードライの前に製剤溶液に加えてもよい。実施例6Cにおいて示すように、PLGA/キトサン/PVPの製剤溶液にマンニトールを加えることにより粒子のサイズを大きくできる。
【0083】
一部の実施の形態においては、本明細書に説明する方法で形成して得られる生分解性および水溶性の粒子は、適切な癒着防止バリアフィルムの形成に望ましいよりも大きくてもよい。粒子のサイズは単一の方法または任意の方法の組合せによって小さくしてもよい。例えば、粒子は、微粉砕機により粉砕して力学的に小さくしてもよい。追加的または別の方法としては、粒子中のポリマーの少なくともの一部を溶解する溶媒に曝露することにより、化学的に粒子を小さくしてもよい。曝露後の粒子に対して、乾燥、ろ過、またはそれらの組合せを行ってもよい。あるいは、大きいサイズの粒子が望ましい場合、限定されないが、圧縮、コーティング、造粒等を含む方法を用いて粒子のサイズを大きくしてもよい。
【0084】
本発明の更なる実施の形態は、内部生体組織への粒子製剤の送達を含む。これらの実施の形態は、内部生体組織に粒子を堆積して、選択した組織の領域を覆う薄いフィルムを形成させることを含む。組織上への堆積の際、粒子は組織から水分を吸収し、膨潤し、重なり合う結果、選択した組織領域を覆うフィルムを形成する。十分な量の製剤が堆積されると、選択した組織領域を覆う連続したフィルムが形成される。
【0085】
フィルムの送達は、選択した組織領域を覆い、厚さと表面のきめが比較的均一となるように行うことが好ましい。さらに、フィルムは、選択した範囲の組織を外部に曝す穴または空洞の領域がないまたは実質的にないことが好ましい。このような外部に曝された領域は、組織と組織との接触が可能になるため、癒着の形成を起しやすい。さらに、フィルムは、所望の期間の機械的完全性と選択した領域の被覆とを維持するのに十分なほど厚いことが好ましい。厚さが比較的均一であると、所望の期間よりも早期の段階で組織の一部が外部に曝されることを低減または防止できる。フィルムの厚さは、300nmから800μmの間、またはより狭い範囲としては、1μmから200μmの間であることが好ましい。フィルムが厚すぎると、凝集および極度の異物反応等の有害作用を生じてしまい、その結果厚い仮の膜が発生して、これにより、所望の最終結果に対する逆効果が生じることがある。また、フィルムが極度に厚いと吸収時間が変わってしまうこともある。
【0086】
図5Aは、本明細書に説明するように、選択した領域である表面範囲60を覆う癒着防止バリアフィルム62を含む、組織表面の表面範囲60の俯瞰図である。フィルム62には穴または空洞は全くなく、比較的均一な厚さを有している。図5Bは、フィルム62の断面図であり、フィルム62の厚さTfおよびフィルム62と組織60との境界面64を示す。図5Cは、製剤の不十分な送達に起因する可能性がある穴または空洞68を有するフィルム66が組織範囲60を覆っている別の実施の形態を示す。
【0087】
特定の実施の形態においては、粒子は微細に分散した懸濁物またはエアロゾルとして組織表面に堆積され、または組織表面に向けて供給されて、上述の望ましい特徴を実現する。粒子は、気体に懸濁した乾燥形態で堆積されてもよい。粒子の凝集体を縮小または最小化する方法での送達により、比較的均一な厚さの薄いフィルムの形成が可能となる。さらに、フィルムが表面に近接、密接して接触して適合的な被覆を形成するように、粒子の近接、密接した組織への接触を可能とする方法で送達を行うべきである。密接で適合的な接触は、フィルムと組織との強い密着を促進する。これは、粒子が組織内に膨潤して粒子の分子と組織の分子が混ざり合い、密着を増強すると考えられるからである。粒子の形態での送達に続いて膨潤とフィルムの形成が生じることにより、例えば、予め形成したフィルムまたはシートを組織表面に適用する場合等より組織との密接で適合的な接触が生じると考えられる。
【0088】
製剤の特徴と送達の方法との相乗効果により、所望の特徴を有するフィルムが得られる。製剤の特徴としては、粒子間の密着性および組織への密着性、粒子の膨潤によるフィルムの形成、所望の期間にわたって持続するフィルムの分解挙動を提供するポリマーの組合せが挙げられる。
【0089】
図6Aおよび図6Bは、概略的な送達の構成を示す。粒子100はエアロゾル送達装置200に貯蔵される。エアロゾル送達装置200は、送達装置200内から選択した組織の領域へと粒子を推進する機構を含む任意の加圧または非加圧のコンパートメントである。送達装置200はアクチュエータ230を含んでもよく、このアクチュエータは押し込まれると、矢印235に示すように、送達装置200内から圧力を開放して、送達装置内から所望の部位へと粒子を推進させる。粒子が手術部位の内部組織に接触するとすぐに、粒子は膨潤して癒着防止バリアフィルム110を形成する。図6Bに示すように、随意的に、チューブ237をアクチュエータ230に接続してもよく、それにより、所望の部位へ粒子を送達する高い制御性と正確性を得てもよい。遠端232を操作して、組織の特定の領域に粒子を向けてもよい。
【0090】
一部の実施の形態においては、粒子製剤は、粒子がドライパウダーとして貯蔵される容器から送達してもよい。容器の排出口からの粒子の取り出しは、容器の内部と排出口との圧力差によって行ってもよく、この圧力差において排出口側の圧力が低く、容器の内部が高い。取り出された粒子は、気体中に微細に分散している形態で組織の範囲に向けて供給してもよい。
【0091】
一の実施の形態においては、圧力差は、容器の内部に大気圧より高い圧力を加えて発生させてもよい。排出口におけるバルブにより、粒子の放出を制御できるようにしてもよい。バルブを通して取り出される粒子は、ホース、ノズル、アトマイザー、または組織上への堆積を行う別の手段により分散されてもよい。
【0092】
別の実施の形態においては、圧力差は、容器の排出口を流通する気体の流れにより発生させてもよい。粒子は、分散した形態で気体の流れにより排出口から取り出されてもよい。粒子が分散した流れは、組織の選択された範囲に向けて供給され、そこに堆積させてもよい。更なる実施の形態においては、気体の流れに加えて、容器を大気圧より高い圧力で加圧して、気体の流れの速度を速めてもよく、これにより、堆積した粒子の組織との密接な接触が促進される。
【0093】
図7は、粒子製剤の送達システム80の例を示す。システム80は、ドライパウダーの形態で粒子84を含む容器82を含む。チューブ86は、吸込口88と排出口90を有する容器82内に配設される。容器82とチューブ86とは粒子の送達を行わないときには密閉されている。チューブ86は、容器82の内部と外部との間の流体連通を可能とするバルブ92を有する。チューブ94は、バルブ92が開いた際にチューブ86と流体連通する位置に設けられる。矢印96が示すように、気体の流れはチューブ94を通過する。この気体の流れは、例えば、手術室内の酸素または空気供給源から供給してもよい。矢印88が示すように、バルブ92が開くと、チューブ94内の気体の流れにより発生するチューブ86とチューブ94との間の圧力差により、容器82から、チューブ86を通ってチューブ94内へと粒子が取り出される。取り出された粒子は気体96の流れの中で分散される。矢印98が示すように、分散した粒子はチューブ94を通過して、組織表面上に堆積される。
【0094】
別の実施の形態においては、粒子製剤は、液体の噴霧剤中に粒子の懸濁物を含む加圧容器から送達してもよい。このような実施の形態においては、粒子は懸濁物中に均一に分散していてもよい。液体は、粒子が均一に分散するとともに粒子の凝集体が縮小または最小化するように選択してもよい。容器は、バルブが開放されたときに懸濁物が容器から放出されるように、内部と外部との間で流体連通することができるバルブを有する。
【0095】
一部の実施の形態においては、噴霧剤は、室温または周囲温度および容器内の圧力で液体であるとともに、大気圧および室温で容器から放出される際に速やかに蒸発または消失するようなものを選択する。従って、粒子は、液体の噴霧剤のない状態で、組織上に分散したスプレーまたは流れとして送達される。液体の噴霧剤の例としては、HFA134およびHFA227ea等のヒドロフルオロアルカン(HFA)が挙げられる。
【0096】
図8は、懸濁物から粒子製剤を送達する、例示の送達システム100を示す。システム100は、液体噴霧剤中の粒子の懸濁物104を含む容器102を含む。容器は、大気圧よりも高い圧力に加圧される。チューブ106は、吸込口108と排出口110を有し、容器102内に配設される。容器102とチューブ106は粒子の送達を行わないときには密閉されている。チューブ106は、容器102の内部と外部との間の流体連通を可能とするバルブ112を有する。バルブ112が開くと、懸濁物104は、矢印113が示すように、チューブ106を通って容器102から取り出される。懸濁物中の液体は速やかに蒸発または消失し、矢印114が示すように、粒子の分散流またはスプレーは組織表面に堆積することができる。
【0097】
本発明は、生分解性および水溶性ポリマーの組合せの追加的な製剤を含む。一の実施の形態においては、粒子は液体と混合されてスラリーを形成してもよい。液体の例としては、水、アセトン、およびアルコールが挙げられる。
【0098】
別の実施の形態においては、癒着防止バリアを形成するのに用いる製剤は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含む液体、ゲル、またはペーストであってもよい。一部の実施の形態においては、製剤は低温で液体であってもよく、高温で高い粘度の液体、ゲル、またはペーストを形成する。特に、製剤は、室温および貯蔵温度で液体であり、体温で高い粘度の液体、ゲル、またはペーストであってもよい。
【0099】
液体の製剤は、例えば、製剤の組織表面上へのブラシによる塗布またはスプレー等により、組織へ送達してもよい。室温と体温との間でより高い粘度の液体、ゲル、またはペーストに変化する製剤は、組織への適用後にこのような変化を呈する。
【0100】
液体、ゲル、またはペーストの製剤は、生分解性ポリマーを水溶性ポリマーに溶かすことにより作成してもよい。水溶性ポリマーが、液体、ゲル、またはペーストであってもよい。水溶性ポリマーの物理状態(液体、ゲル、またはペースト)は、水溶性ポリマーの分子量によって決まる。液体は、ゲルまたはペーストより低い分子量を有する。製剤の例としては、PLGAおよびPEGが挙げられる。室温で液体の製剤は、300〜400g/moleのMwを有するPEGを用いて形成してもよい。PLGAをPEGに混合または溶解して液体を形成してもよい。液体の製剤は、1〜50重量%のPLGAおよび99〜50重量%のPEGから成ってもよい。このような液体は、室温と体温との間で液体からゲルまたはペーストへの変化を呈し、体温においてゲルまたはペーストである。室温においてゲルとなるものは、PLGAとPEGゲルとを混合することにより形成してもよい。PEGのMwは100から1000の間である。
【0101】
追加的な方法を適用して生体組織への製剤の送達を行ってもよい。一の実施の形態においては、製剤は、チューブ等のスクイーズ容器に配設してもよい。製剤は、軟膏と類似の方法でチューブを絞ることにより送達してもよい。このような実施の形態においては、製剤は乾燥粒子、ゲル、またはペースト系、高粘度のスラリーであってもよい。別の実施の形態においては、乾燥粒子、ゲルまたはペースト、あるいはスラリーの製剤はブラシまたはスプレーにより組織上に塗布する。
【0102】
追加的な実施の形態においては、粒子製剤は、複数の小孔を有する送達端を有する容器内に配設されてもよい。粒子は、組織の選択された範囲上で容器を振ることにより送達される。
【0103】
さらに、製剤を作成するプロセスの任意の部分において、別の化合物を追加して使い易さを改善するか、または癒着防止バリアに治療効果を与えてもよい。例えば、生分解性の色素を追加して癒着防止バリアの可視性を強めてもよい。
【0104】
追加的または別の方法としては、医薬品等の治療薬を追加する。例えば、製造の任意のステップにおいて、この医薬品をポリマーマトリクスに混合または導入すること等により追加する。
【0105】
治療薬の例としては、組織の選択した範囲の出血を減少または抑制する止血薬または抗出血薬等が挙げられる。止血薬は、全身的、局部的、有機的、および化学的と分類される薬剤を含んでもよい。全身的薬剤は、繊維素溶解を抑制または凝血を促進することにより機能し、抗線溶薬、ビタミンK、フィブリノゲン、血液凝固因子を含む。局部的に作用する止血薬は、血管収縮作用を生じるか、または血小板凝集を促進することにより機能する。有機的薬剤は、トロンビン凝固因子、微繊維性コラーゲン、デンプン等の多糖類を含む。化学的な止血薬は、キトサン、hemCon、ゼオライト、および収れん性止血薬を含む。収れん性止血薬は、組織を収縮させて損傷した血管を封止することにより機能する。
【0106】
別のタイプの薬剤としては化学療法薬が挙げられ、化学療法薬には、限定されはしないが、パクリタキセル、タンパク結合、パクリタキセル、アルキル化薬、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害薬、および他の抗腫瘍薬、植物アルカロイドおよびテルペノイド、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン、トポソイメラーゼ阻害薬、抗腫瘍抗生剤等が含まれる。
【0107】
製剤に導入する医薬品の例としては、抗癒着薬または抗フィブリン成長薬等が挙げられる。別の例としては、抗炎症薬を加えてもよい。抗炎症薬は、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、またはそれらの組合せであってよい。一部の実施の形態においては、抗炎症薬としては、限定されはしないが、アルクロフェナク、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アルゲストンアセトニド、αアミラーゼ、アンシナファル、アンシナフィド、アンフェナクナトリウム、アミプリローズ塩酸、アナキンラ、アニロラック、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジドジナトリウム、ベンダザック、ベノキサプロフェン、ベンジダミン塩酸、ブロメライン、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、プロピオン酸クロベタゾール、クロベタゾンブチレート、クロピラック、クロチカゾンプロピオネート、酢酸コルメタゾン、コルトドキソン、デフラザコルト、デソニド、デソキシメタゾン、デキサメタゾンジプロピオネート、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム、ジフロラゾンジアセテート、ジフルミドンナトリウム、ジフルニサール、ジフルプレドネート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノニド、エンドリゾン、エンリモマブ、エノリカムナトリウム、エピリゾール、エトドラック、エトフェナメート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラック、フェンドサール、フェンピパロン、フェンチアザック、フラザロン、フルアザコルト、フルフェナミン酸、フルミゾール、フルニソリドアセテート、フルニキシン、フルニキシンメグルミン、フルオコルチンブチル、酢酸フルオロメトロン、フルクアゾン、フルルビプロフェン、フルレトフェン、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、酢酸ハロプレドン、イブフェナック、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダップ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、インドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、酢酸イソフルプレドン、イソキセパック、イソキシカム、ケトプロフェン、ロフェミゾール塩酸、ロルノキシカム、エタボン酸ロテプレドノール、メクロフェナメートナトリウム、メクロフェナミン酸、メクロリゾンジブチレート、メフェナム酸、メザラミン、メセクラゾン、メチルプレドニゾロンスレプタネート、モルニフルマート、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、パラニリン塩酸、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、フェンブタゾンナトリウムグリセレート、ピルフェニドン、ピロキシカム、ピロキシカムシンナメート、ピロキシカムオラミン、ピルプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドリン酸、プロクアゾン、プロキサゾール、クエン酸プロキサゾール、リメキソロン、ロマザリット、サルコレックス、サルナセジン、サルサレート、塩化サンギナリウム、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダック、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダップ、テニダップナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナック、ピバリン酸チキソコルトール、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、ゾメピラックナトリウム、アスピリン(アセチルサリチル酸)、サリチル酸、副腎皮質ステロイド、糖質コルチコイド、タクロリムス、ピメクロリムス、それらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0108】
さらに、得られた癒着防止バリアの組成物は、フィルムの癒着防止バリア等の別のタイプの癒着防止バリアと協同的に用いてもよい。この場合、粒子とフィルムとは、生分解性の度合が異なっていてもよく、様々な種類または量の医薬品を含んでもよい。
【実施例】
【0109】
実施例1:粒子サイズの分析
2つの粒子製剤の粒子サイズを測定した。粒子はスプレードライにより形成した。各製剤は、70/30PLGAと水溶性ポリマーとのブレンドの粒子である。少量の粉末製剤を試験管内の約3mLの水に加え、よく混合して均一な分散系を形成し、粒子サイズの分布を測定した。分散液をキュレットに移し、Malvern Instruments Ltd,Worcestershire,UKより入手したMalverns Zeta Sizerを使用して粒子サイズを判定した。
【表1】
【0110】
実施例2:水分の吸収性
水分の吸収性を、70/30PLGAと水溶性ポリマーとのブレンドである4つの粒子製剤について測定した。生分解性および水溶性ポリマーを組合せた溶液を表面を覆うように広げ、空気乾燥してフィルムを形成させた。ポリマーのフィルムを慎重に剥がし取り、60℃のオーブンで約12時間乾燥させた。
【0111】
乾燥したフィルムの初期重量を記録し、フィルムを水に浸した。フィルムを取り出し、ティッシュペーパでふき取り、フィルムから余剰の水分を除去して、重量を測った。フィルムの重量増加分を計算し、表2に示す。
【表2】
【0112】
実施例3:膨潤の特性
粉末製剤を顕微鏡のスライドに広げ、初期状態の顕微鏡写真を撮影した。マイクロピペットを用いて、少量の水滴をゆっくりカバーガラスの縁に加えた。異なる距離での顕微鏡写真を撮影し、水への曝露時に粒子が膨潤するか観察した。図9Aおよび図9Bは、それぞれPLGA/PVA製剤およびPLGA/PEG製剤の膨潤を示す。両写真は、水が粒子内に拡散し、膨潤により粒子の直径が大きくなったことを示している。
【0113】
実施例4:密着試験
密着試験1:
PLGA/キトサン/PVPの粉末製剤をろ紙の中央に広げてドライパウダーの層を形成した。ろ紙と粉末層とが完全に濡れるまで、ろ紙の一方の隅から水を注いだ。ろ紙を完全に乾燥させ、フィルムの形成能力を観察した。製剤は濡らした後に良好なフィルムを形成し、ろ紙に密着した状態を持続した。
【0114】
密着試験2:
PLGA/アルギン酸から作成した粒子製剤を、湿った肉を覆うようにスプレーした。粒子は膨潤し、優れた密着状態で肉の表面を覆う良好なフィルムを形成した。フィルムを水で洗い落とすことはできなかった。
【0115】
実施例4:例示の製剤の製造
PLGA/キトサン/PVP(35:50:15)の製剤の製造
1. PLGA溶液の作成:アセトン(350mL)を清浄なガラスビーカに移した。PLGA(3.5g)を、攪拌しながらビーカ内のアセトンにゆっくりと入れた。ビーカ内の混合物を、磁気攪拌機を用いて1%の透明な溶液を形成するまで激しく攪拌および混合した。
2. キトサン溶液の作成:脱イオン化(DI)した水(490mL)を別の清浄なガラスビーカに移した。酢酸(10mL)をビーカ内の水に加え、よく混合して2%の酢酸水溶液を作成した。キトサン(1g)を溶液にゆっくりと加え、この溶液を混合した。混合速度を上げ、透明な溶液を形成するまで混合を続けた。
3. PVP溶液の作成:脱イオン化(DI)した水(150mL)を別の清浄なビーカに移した。PVP(0.3g)を別の磁気攪拌機で混合しながら水に加えた。透明な0.2%の溶液を形成するまで混合を続けた。
4. 製剤の作成:キトサン溶液(500mL)5に対してPVP溶液(150mL)が1.5の割合で、別の清浄なビーカでよく混合し、均一な溶液を形成するまで混合を続けた。
5. 次に、磁気攪拌機で激しく攪拌しながら、キトサン−PVP溶液を、3.5の割合のPLGA溶液(350mL)にゆっくりと加えた。ゆっくりと連続的に加える際に、この溶液は乳白色の溶液または懸濁物を形成し始めた。
6. 形成した乳状の溶液を、フード内で磁気攪拌機を用いて約16〜18時間攪拌し続けて、製剤溶液からアセトンを蒸発させた。
7. スプレードライ:次に、製剤溶液をYamatoスプレードライヤーに移し、製剤をスプレーして製剤の微粒子を形成した。
8. 製剤溶液をスプレーする前に、パラメータを設定し、少なくとも15〜20分DI水を用いてスプレードライヤーを動作させて、スプレードライヤーを釣り合わせた。
9. 設定したパラメータ(例えば、吸込温度、乾燥空気およびアトマイザの温度等)でスプレードライヤーが釣り合った後、スプレードライヤーに製剤を供給し観測を続けた。製剤溶液は、スプレードライプロセスの間磁気攪拌機で攪拌し続けた。観測可能なスプレードライのパラメータ(例えば、排出温度、実際の設定温度、溶液の流速、気体圧力、スプレーノズルのサイズ等)をモニタするとともに記録した。
10. 製剤スプレーのスプレードライが完了した後、スプレードライヤーをDI水で少なくとも5分動作させ続け、温度、乾燥空気流、アトマイザーのノブのスイッチを切ることにより、ゆっくりと動作を止めてクールダウンさせた。
11. 製剤の捕集ボトルを装置からゆっくりと外し、適切に確保した。
【0116】
実施例5:急性および慢性動物試験
癒着防止バリアの性能の急性および慢性試験を行った。これらの試験は成熟したイヌ、ブタ、およびヒツジで行った。これらの試験においては、試験動物の胸部に外科的切開を行い、肺と心臓を露出させた。HFA噴霧剤中の加圧した粒子懸濁物を用いて、臓器の露出した表面に製剤を堆積させた。
【0117】
急性試験においては、粒子を適用し、粒子から形成されたフィルムの状態を観察した。慢性試験においては、23日間にわたりフィルムの状態を観察した。
【表3】
【0118】
図10は、移植時の慢性ヒツジ標本の写真である。製剤の評価を行うため、製剤#2おおよび製剤#4を肺および心臓の異なる領域を覆うようにスプレーした。粒子をスプレーしなかった部分を対照領域として使用した。製剤は、ヒツジの肺および心臓に最初に適用した態様で見ることができる。
【0119】
図11は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、ヒツジの肺に生分解性のフィルム/バリアが生じたことを示している。フィルム/バリアのいずれの側にも組織の癒着は見られなかった。
【0120】
図12は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、ヒツジの心臓(左心耳)と肺(写真の上部)を覆う生分解性のフィルム/バリアが生じたことと、生分解性のフィルム/バリアの両側(心臓とバリアとの間、およびフィルム/バリアと肺との間)とも癒着の形成が起こっていないことを示している。
【0121】
図13は、図12と同一の標本の写真であり、心臓(左心耳)を覆う生分解性のフィルム/バリアを別の視点から示している。図は、癒着が形成されていないこと、安全で容易に切開できるフィルム/バリアが心臓(左心耳)を覆って生じていることを明確に示している。
【0122】
図14は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、製剤がヒツジの肺(臓側胸膜)と胸壁(壁側胸膜)との間にフィルム/バリアを形成した様子を明確に示している。
【0123】
図15は、図14における慢性ヒツジへの移植部分の写真であり、生分解性のフィルム/バリアが生じ、図14に説明する癒着防止バリアとして機能したことを示している。
【0124】
図16は、図15に示す生分解性のフィルム/バリアの組織学的結果の写真である。組織学的結果は、肺(臓側胸膜)、バリア(試験物)、および壁側胸膜(胸膜)の間の明確な区分を示している。生分解性のフィルム/バリア(試験物)は、典型的な異物反応(反応性線維症)が形成されることでバリアを生成し、これにより、生分解性のフィルム/バリアの周囲に莢膜または仮の膜が生じる。
【0125】
実施例6A〜C―スプレードライにおける粒子サイズの制御
実施例6A 噴霧化の空気圧の粒子サイズへの影響
80%キトサン/20%PVPの製剤
噴霧化の空気圧が0.15から0.1Mpaに変化する場合、粒子サイズは6から85ミクロンの間で変化する。
【0126】
実施例6B ポリマーのモル組成の粒子サイズへの影響
【表4】
【0127】
実施例6C 界面活性剤マンニトールの追加
スプレードライの前に、界面活性剤をPLGA/アルギン酸の製剤に加えた。界面活性剤なしでは、粒子サイズは12ミクロンであったが、界面活性剤を加えると粒子サイズは76ミクロンであった。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に癒着防止バリアに関し、特に、術後の癒着形成を防止する噴霧可能な生分解性ポリマーの癒着防止バリアに関する。
【背景技術】
【0002】
外科的な治癒過程では、通常は術後の癒着を伴う。癒着は多くの場合に好ましく、手術野の治癒において不可欠かつ重要である。しかし、癒着により、生体内の重要な構造間に好ましくない瘢痕組織が生じることもあり、重大な術後の外科的問題や罹病につながることもある。このような癒着は個人の健康、福祉、および生活の質に重大な影響を及ぼし得る。腹部における術後癒着の形成は、慢性痛、不妊症、および小腸閉塞症(SBO)につながることがある。胸部および心臓の外科手術後の癒着は、後に続く心胸部再手術の際に深刻な結果につながる可能性がある。
【0003】
外科手術後の癒着形成の発生率は100%だが、炎症に起因する癒着は5%未満である。癒着の形成は、全てのタイプ(腹部、骨盤、心臓、胸部、脊髄、形成手術、手、および膝)の手術後に起こる。米国では、術後に関連した外科的合併症の発現の“危険性がある”と考えられる560万件の外科手術に基づき、1998年に医療システムにおける腹部および骨盤部の癒着に関する費用は16億ドルが見積もられた。
【0004】
術後の癒着は、患者および医療システムに共通する費用のかかる問題である。外科手術後の癒着を減らしたり、なくしたりするための様々なアプローチが考えられてきた。こうしたアプローチには、組織の外傷の最小化および組織の異物への曝露の最小化、および損傷した組織間への物理的バリアの設置等がある。治癒過程で、皮のない箇所を引き離して、組織表面の相互接触を防止し、癒着の形成を著しく最小化することが提案されている。治癒過程は数週間から数ヶ月を要するため、治癒期間には、組織表面が離れた状態を組織の自然な位置で維持し、相互に接触しないようにすることが理想的である。物理的バリアは、生体適合性を持ち、好ましくは生分解性であれば、上記の点について有用である。さらに、こうしたバリアは、使用が容易で、一般的に用いられる外科的処置および手順に適合することが望ましい。
【0005】
物理的バリアを用いる場合、従来の方法のひとつに、薄いポリマーベースのフィルムを大抵は外科手術の完了時に手術部位に配置する方法がある。現在、このような方法は、Genzyme Biosurgery (Seprafilm(米国登録商標))およびCryolife (CardioWrap(米国登録商標))から市販されている。しかし、このような方法の限界は、フィルムを所望部位に対応するように切断しなくてはならず外科手術にさらに時間を要すること、こうした膜は均一で扱いにくく人体の無限の幾何学的立体構造に合わせることは困難であること、手術野内の到達困難な領域への配置は多くの場合難しいこと、である。
【0006】
癒着防止システムとしていくつかの溶液も市販されている。例えば、Baxterが開発したAdept(米国登録商標)、Synthemedが開発したResolve(米国登録商標)等は、腹腔内へ直接導入できる溶液である。具体的には、外科手術後に滴下液として使用し、部位全体をこの溶液で洗浄する。しかし、これらの製品は液体であるため、手術部位内および周辺への導入後、手術部位にあまり長くとどまらない。前述のように、何週間にもなり得る所定期間中、とどまりバリア機能を提供する材料が非常に望まれている。
【0007】
上述の欠点を克服するために、ゲルベースの癒着防止バリアが開発されている。例えば、ConfluentのSprayGel(米国登録商標)は、2種類のポリマーから成る噴霧剤であり、噴霧の際に混合されて手術部位にフィルムを形成する。Confluent Surgicalは、手術部位への塗布の前に2種類の液体を混合する同様の製品も市販している。
【0008】
上記製品の付加的な欠点は、手術部位への吸収が早いことである。癒着を防止するには、フィブリンおよびコラーゲンの形成後、徐々に癒着防止バリアが吸収されることが望ましい。これには、一般的に30〜60日またはより長期間を要し、この間、患者は創傷の治癒が不完全な状態に置かれる。現在、ゲルベースの吸収可能型製品は1週間以内に吸収されるのが一般的であり、そのため、治癒の早期段階においてのみ癒着を防止するにとどまっている。従って、これらの製品が完全に吸収された後もまだ癒着が発生する。癒着防止バリアフィルムCardiowrapは、60日まで存在するが、上で述べたフィルムベースのバリアの欠点がある。
【0009】
上記製品の他の欠点は、これらのバリアを貫通して組織が成長または侵入することを抵抗または防止する凝集性のあるフィルムを形成する粒子の有効性である。生分解性の粒子を重ね合わせて使用することで、効果的なバリアの形成が可能だが、こうした粒子の使用は今まで無視されてきた。
【0010】
KeおよびSunは、ポリ(L−ラクチド)単体よりも高い吸水性を有するポリ(ビニルアルコール)とポリ(L−ラクチド)とのブレンドについて説明している。(Starch,Poly(lactic acid) and Poly(vinyl alcohol)Blends,Journal of Polymers and the Environment,Vol.11,No.l,(January 2003)彼らは、デンプン/ポリ(ビニルアルコール)/ポリ(L−ラクチド)のブレンドが、デンプン/ポリ(L−ラクチド)のブレンドに比べてより高い適合性と力学的性質を有することも示している。
【0011】
この分野の進歩にもかかわらず、更なる改善が望まれている。特に、エアロゾルとしてまたはブラシでの塗布により、送達可能な癒着防止バリアの提供は有益である。これにより、所望部位への直接的および正確な塗布が可能となり、癒着が望ましい領域へは最小限の塗布を行うか、または全く塗布しないようにできる。このような製品は、液体より所望の治療部位への良好な接触性があり、液体やゲルより保管が容易であるという利点がある。このような製品の製造により、持続的なバリア保護を提供できる。このような製品では、効果的なバリアを形成しつつ重ね合わせが可能な粒子を効果的に使用できる。このような製品は、手術部位の特定の領域への時間をかけた送達が可能な治療薬を含むこともできる。こうした癒着防止バリアは、使用が容易であるとともに有効性があり費用対効果が高い。以下に説明する本発明は、少なくともこれらの目的の一部に合致する。
【発明の概要】
【0012】
本発明の種々の実施の形態は、癒着防止バリアを生成するための製剤であって、ポリマーの組合せを含む複数の粒子を備え、このポリマーの組合せは少なくとも1つの生分解性ポリマーと少なくとも1つの水溶性ポリマーとを含み、粒子製剤が内部生体組織の表面上に堆積すると、この堆積した製剤は組織から水分を吸収して、表面を覆うフィルムを形成し、このフィルムは上記表面と別の生体組織との癒着を低減または防止することができる。
【0013】
本発明の更なる実施の形態は、癒着防止バリアを生成する方法を含み、この方法は、少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む複数の粒子を供給するステップと;内部生体組織の表面にこれら複数の粒子を送達するステップと;送達された粒子により、上記表面に癒着防止バリアフィルムを形成して、上記表面と別の生体組織との間の癒着を低減または防止するステップを備える。
【0014】
本発明の追加の実施の形態は、癒着防止バリアを生成するシステムを含み、このシステムは、バルブを有する排出口を備える圧力容器と;この圧力容器内に配設される懸濁物を備え;この懸濁物は、液体とこの液体中に均一に懸濁された複数の粒子とを含み、これら粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含むポリマー組合せを含み、上記液体は、周囲条件または大気条件への曝露時にこの液体が速やかに蒸発するような沸点を有し、バルブの開放時に懸濁物は上記排出口から放出されるとともに、上記液体は速やかに蒸発して空気中に粒子を分散させる。
【0015】
本発明の別の実施の形態は癒着防止バリアを製造する方法を含み、この方法は以下を備える:少なくとも1つの生分解性ポリマーを第1の溶媒に溶かすことにより第1の溶液を形成するステップ;水溶性ポリマーを第2の溶媒に溶かすことにより第2の溶液を形成するステップであって、第1および第2の溶媒は不混和であり;第1および第2の溶液をブレンドして第1および第2の溶媒のエマルジョンを形成するステップ;および、このブレンドからポリマーの粒子を形成するステップであって、各ポリマー粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
他の本発明の利点および特徴は、以下の詳細な説明および添付の請求の範囲を、添付の図面と関連付けて参照することによりさらに容易に明らかになろう。添付の図面において、
【図1A】図1Aは、生分解性ポリマーと吸湿性ポリマーとのブレンドである製剤の粒子構造を例示する。
【図1B】図1Bは、ポリマーまたはポリマーの組合せのコアと、別のポリマーまたはポリマーの組合せから成る外殻を含む粒子構造の製剤を例示する。
【図2】図2は、概略的なスプレードライシステムを示す。
【図3】図3は、本発明の製造に関し、一連のステップを例示する。
【図4】図4は、本発明の製造に関し、一連のステップを例示する。
【図5A】図5Aは、組織の表面部位の選択領域を覆う癒着防止バリアフィルムの俯瞰図である。
【図5B】図5Bは、図5Aのフィルムの断面図である。
【図5C】図5Cは、孔または空洞(ボイド)を有する癒着防止バリアフィルムの実施の形態を示す。
【図6A】図6Aは、概略的な送達の構成を示す。
【図6B】図6Bは、概略的な送達の構成を示す。
【図7】図7は、ドライパウダーから粒子製剤を送達するための典型的なデリバリーシステムを示す。
【図8】図8は、懸濁物から粒子製剤を送達するための送達システムを例示する。
【図9A】図9Aは、PLGA/PVA製剤の膨潤を示す。
【図9B】図9Bは、PLGA/PEG製剤の膨潤を示す。
【図10】図10は、移植時の慢性ヒツジ標本の写真である。
【図11】図11は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図12】図12は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図13】図13は、図12の同一標本の写真であり、心臓(左心耳)を覆うPLGAフィルム/バリアの別の視点からの写真である。
【図14】図14は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。
【図15】図15は、図14における慢性ヒツジへの移植部分の写真である。
【図16】図16は、図15に示すPLGA膜(フィルム/バリア)の組織学的結果の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この詳細な説明は多くの具体的な例示を含んでいるが、これらは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、単に本発明の様々な例と態様とを説明するだけである。本発明の範囲は、上記詳細に記述される以外の他の実施の形態を含むと理解されるべきである。本明細書に開示する本発明の方法および装置の構成、操作、および詳細における、当業者にとって明らかな他の種々の修正、変更、および変形は、ここに記載する本発明の精神および範囲を逸脱することなく行うことができる。
【0018】
本発明の種々の実施の形態により、癒着防止バリアを生成する製剤と組成、前記癒着防止バリアの使用方法、および前記癒着防止バリアの製造方法を開示する。使用方法には、特に、製剤を組織に送達する方法が含まれる。さらに、製剤を送達するシステムを開示する。上記製剤により形成される癒着防止バリアは、新しい線維組織の形成に起因する組織表面の異常な癒着または結合を防止するバリアである。
【0019】
癒着防止バリアは、生体吸収性であり、特定の期間で強度を失うか、または生体吸収されるように製剤することができる。送達の際に、製剤は組織(の形状に)に速やかに適合しフィルムを形成する。形成されたフィルムは組織に密着し、縫合固定を必要としない。
【0020】
一般に、製剤は送達されてフィルムを形成し、このフィルムは生体の任意の部分において、皮下または開口内の組織上に癒着防止バリアを提供する。皮下とは、例えば、組織の切創がある場所や開いた手術創がある場所等が含まれる。実施の形態において、製剤を、種々のタイプの外科手術の際に組織に送達してもよい。この組織は、骨盤部、腹部、胸部、整形外科的な部分(例えば、臀部および膝等)、頚部、脊椎部等の外科手術の範囲であってもよい。製剤は、内視鏡により皮下の組織に送達してもよい。
【0021】
癒着防止バリアは、ポリマーまたはポリマーの組合せを含む製剤から形成される生分解性のフィルムである。好ましい実施の形態においては、製剤はポリマーまたはポリマーの組合せを含むか、またはこれを含む粒子の形態である。当該粒子は、皮膚の下または直下の組織等の生体組織上にこの粒子を堆積することにより送達する。特定の実施の形態においては、送達前の粒子は、全くまたは実質的に溶媒を含まない乾燥固体またはドライパウダーである。実質的に溶媒を含まない、とは粒子内に0.1重量%未満、0.01重量%未満、または0.001重量%未満の溶媒を含むことを指す。
【0022】
粒子は、好ましくは微細に分散した形またはエアロゾルとして組織上に向けて供給して堆積させる。「エアロゾル」とは、気体または液体に微細に分散した粒子系または懸濁物を指す。微細に分散した状態とは、粒子の凝集体が極小化され、粒子が気体媒質内で分散するとともに気体媒質によって分離されている粒子系を指す。
【0023】
このため、粒子によるバリアは、粒子の塗布される構造とこのバリアの反対側の任意の他の構造との間に形成される。例えば、心臓と胸骨との間、心臓と肺との間、肺と胸壁(壁側胸膜)との間、小腸と腹壁(腹膜)との間、または肝臓と結腸との間等である。
【0024】
以下により詳細に記載するように、粒子は、ブラシによる塗布や歯磨粉状の形態等の様々な形で送達できる。以下により詳細に説明する別の実施の形態においては、製剤は、ポリマーまたはポリマーの組合せを含むゲルまたは液体であってもよい。
【0025】
組織上に堆積した生分解性のフィルムは、組織と隣接する別の組織との間で癒着の形成を減少または防止する。生分解性のフィルムは、特定の治療方法に適した寿命を有する。フィルムは、機械的完全性を一定期間保つのに十分な力学的強度を維持する。その後、フィルムは機械的完全性を失い、侵食されるか、生体内に吸収されて、一定期間後に堆積部位から完全に消滅する。
【0026】
フィルムの寿命は、フィルムが機械的完全性を維持するのに十分な強度を維持する期間を考慮して決めてもよい。機械的完全性は、フィルムが亀裂を生じずに形状を維持する能力、または2つの臓器の表面の接触を防止する物理的バリアを維持する能力である。フィルムの寿命は、フィルムが完全に侵食または吸収されるとともに堆積部位から除去される期間を考慮して決めてもよい。強度の点での寿命または完全に吸収されるまでの寿命は、1週間ないし2週間、2週間ないし1ヶ月(または30日)、1ヶ月ないし2ヶ月(または60日)、2ヶ月ないし3ヶ月(または90日)、または3ヶ月超であってもよい。フィルムは、フィブリンまたはコラーゲンが形成されて組織の癒着を防止できるのに十分な期間、持続する。
【0027】
一部の実施の形態においては、フィルムの形成後、細胞の仮の膜が癒着防止バリアの片側または両側で成長してバリアとなる。生体の自然な免疫応答により、フィルムを覆う仮の膜が形成され、これがバリアとなる。
【0028】
特定の実施の形態において、製剤はポリマーまたはポリマーの組合せを含むか、それから成る複数の粒子を含む。一部の実施の形態において、この粒子は、生分解性ポリマーまたは少なくとも2つの生分解性ポリマーの組合せを含む。用語「ポリマー」は、1種類のポリマーを指す場合もあるが、複数のポリマーの組合せを指す場合もある。別の実施の形態において、粒子は生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの組合せを含む。これらまたは別の実施の形態においては、生分解性ポリマーは非水溶性であってもよい。水溶性ポリマーは吸湿性のものおよび/または水分を吸収して膨潤できるものが好ましい。ポリマーの組合せには、2種類以上の生分解性ポリマーが含まれてもよい。ポリマーの組合せには、2種類以上の水溶性ポリマーが含まれてもよい。個々の粒子が生分解性ポリマーおよび水溶性ポリマーを含む場合、水溶性ポリマーは、組織への接触時に粒子を膨潤させるか、膨潤を促進するようにしてもよい。
【0029】
一般に、水溶性ポリマーは、粒子間の密着、およびフィルムの組織または生物学的基質への密着を生じさせることにより、フィルムの形成を促進する。生分解性ポリマーは、生分解性ポリマーを伴わない水溶性ポリマーよりも長い期間にわたって、フィルムに構造の完全性および強度を与える。フィルムの寿命は、主に、生分解性ポリマーの分解挙動により決まる。従って、生分解性ポリマーは、機械的完全性および侵食の点で水溶性ポリマーより長い寿命を有する。例えば、生分解性ポリマーは、水または体液内で少なくとも30日、30ないし60日、または60日超の寿命を有してもよい。
【0030】
別の実施の形態においては、粒子は、加水分解性の生分解性ポリマーまたは生分解性ポリマーの組合せを含んでもよい。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは水溶性ではない。生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)等の脂肪族の生分解性ポリエステルを含む。追加的な実施の形態においては、粒子は、PVA等の生分解性かつ水溶性ポリマーを含んでもよい。更なる実施の形態においては、粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブロックまたはランダムコポリマーであるポリマーでできていてもよい。
【0031】
本発明の実施の形態で用いるような生分解性ポリマーは、体液への曝露時に化学分解を起こして分子鎖切断を生じ、ポリマーの分子量の減少につながるようなものを指す。化学分解のメカニズムの1つは加水分解である。化学分解は、例えば、酵素分解等の他の方法でも生じる。生分解性ポリマーの分解は、以下を特徴とできる。それらは、(1)化学分解による分子量の減少;(2)分子量の減少による力学的性質、特に強度の減少および喪失;(3)力学的性質の劣化による機械的完全性の喪失;および(4)体液内における低分子量の分解生成物の溶解により起こる分解したポリマーの侵食または質量の喪失である。
【0032】
本発明の実施の形態で用いるような水溶性ポリマーは、水または体液内で溶解するが、水分または体液への曝露時に必ずしも化学分解を起こさないものである。水溶性ポリマーは水または体液内で溶解し得るが、例えば、スクロース等は水または体液の曝露時に化学分解を起こさない。水溶性ポリマーは、水または体液内で溶解するとともに、水または体液への曝露時に化学分解を起してもよい。こうしたポリマーは、例えば、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)等である。水溶性ポリマーは、吸湿性(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等)であってもよく、または吸湿性でなく(例えば、スクロース等)てもよい。吸湿性のポリマーは、例えば、湿度の高い空気等の水分を含む気体から水分を吸収するか、または取り出して保持することができるポリマーである。吸湿性のポリマーは、水分を吸収した際に膨潤するか、大きさを増大することができるものでもよい。膨潤可能なポリマーは、水分を吸収するとともに、吸収した水分により膨潤するか、または体積が増加する。
【0033】
湿った組織に粒子を堆積した後、上記製剤中の水溶性ポリマーは、堆積した粒子間の密着または結合を促進する。粒子の膨潤により、粒子が重なり合うことで、フィルムまたはフィルム部分が形成される。このフィルムには、粒子が堆積した組織を外部に曝す穴や空洞がない。さらに、水溶性ポリマーは、フィルムの組織への密着を促進する。また、上記製剤の水溶性ポリマーは、堆積時に生物学的組織から水分を吸収するとともに、粒子間の密着および粒子と生物学的組織との密着を促進する。
【0034】
特定の実施の形態では、この粒子製剤の送達は、小さく、微細に分散した粒子を組織範囲表面の選択した部分に堆積することを含む。粒子を堆積および微細に分散する方法により、堆積した粒子は組織表面との密接な等角接触を生じることができる。この製剤は、濡れて膨潤すると、製剤が組織表面を覆うように広がるとともに、組織表面と密接に接触する密着性フィルムまたはバリアを組織表面上に形成する。フィルム内の膨潤したポリマーは、吸収または接触の部位に存在する表面張力および力に補助されて、生物学的組織との強い密着または結合を生じる。
【0035】
本発明には、ポリマーの組合せを用いる実施の形態がいくつか含まれる。一部の実施の形態においては、複数の粒子のうち1つの粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの組合せを含む。図1Aおよび図1Bは、粒子内にポリマーの組合せを含む実施の形態を示している。図1Aにおいて、製剤は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドまたは混合物10である粒子5等の粒子を含む。この製剤においては、粒子は部分的または全体的にこのブレンドから作られる。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは非水溶性である。これらの実施の形態においては、製剤中の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの相対組成(例えば、重量、体積等)は、ブレンド中のポリマーの組成によって決まる。このような実施の形態においては、複数の粒子のうち1つの粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの均質ブレンドまたは混合物であってもよい。一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは混和可能である。混和可能とは、ポリマーの組合せが分子レベルで均質に混合できる能力を指す。別の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは混和できず、分子的に均質なブレンドを形成することはできない。不混和のポリマーの組合せは混合またはブレンドできるが、個別のポリマー相に分かれてしまう傾向があるため、分子レベルでは均質に混合することができない。従って、このような実施の形態においては、こうした組合せは、生分解性ポリマーの相と水溶性ポリマーの相とが均質な2つ以上の相に分散したものにすることができる。相の数は、分子レベルで均質に混合できないポリマーの数によって決まる。
【0036】
図1Bに示すように、追加的な実施の形態においては、製剤は粒子12等の粒子を含み、この粒子12は、部分的または全体的にポリマーまたはポリマーの組合せから成るコア14と、部分的または全体的に別のポリマーまたはポリマーの組合せから成る外殻16とを含む。一の実施の形態においては、上記コアは生分解性ポリマー(1種以上)から成り、上記外殻は水溶性ポリマー(1種以上)から成る。別の実施の形態においては、上記コアは水溶性ポリマー(1種以上)から成り、上記外殻は生分解性ポリマー(1種以上)から成る。これらの追加的な実施の形態においては、製剤中の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの相対組成は、コアおよび外殻の各ポリマーの相対的な重量または体積による。更なる実施の形態においては、コアは、上述のように、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとから成る水溶性ポリマーと生分解性ポリマーとのブレンドまたは混合物から成り、外殻は水溶性ポリマーまたは生分解性ポリマーである。
【0037】
更なる実施の形態においては、製剤におけるポリマーの組合せは、少なくとも2種類の複数の粒子の混合物であり、第1および第2の複数の粒子は異なる種類のポリマーまたはポリマーの組合せから成る。特定の実施の形態においては、一方の複数の粒子は生分解性ポリマーから成り、他方の複数の粒子は水溶性ポリマーから成る。生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの重量または体積による相対組成は、上記2種類の複数の粒子の相対的重量または体積による。
【0038】
一般に、癒着防止バリアまたはフィルムは比較的薄いことが望ましい。比較的薄いフィルムを展開するとともに、組織表面に密接に接触させるには、製剤において比較的小さいサイズの粒子を用いてもよい。製剤における平均粒子サイズは、50nmないし500ミクロン、またはより狭い範囲としては700nmないし200ミクロンであってもよい。
【0039】
生分解性および水溶性ポリマーの種類、それらの組合せ、およびそれらの組成は、形成されるフィルムの品質、フィルムの密着の度合、およびフィルムの寿命に影響する。一部の実施の形態においては、製剤中、1〜99、10〜90、20〜90、30〜90、40〜90、50〜90、60〜90、70〜90、10〜80、10〜70、10〜60、10〜50、10〜40、10〜30、20〜80、30〜70、または40〜60重量%が生分解性ポリマーまたはこのような生分解性ポリマーの組合せであってもよい。一部の実施の形態においては、製剤の組成中、10〜90、20〜90、30〜90、40〜90、50〜90、60〜90、70〜90、10〜80、10〜70、10〜60、10〜50、10〜40、10〜30、20〜80、30〜70、または40〜60重量%が水溶性ポリマーまたはこのような水溶性ポリマーの組合せであってもよい。
【0040】
生分解性ポリマーは、加水分解可能な合成および天然のポリマーを含んでもよい。加水分解可能な合成ポリマーは、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLGA)を含む加水分解可能なポリエステルを含んでもよい。分解可能な天然のポリマーの例としてはキトサンが挙げられる。水溶性ポリマーの例としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ジブロックまたはトリブロックPEG/PLGA等のPEGブロックポリマー、端部にPEGセグメントを有するPEG/PLAポリマー、PEG/PLGAコポリマー等のPEGランダムまたは交互コポリマー、スクロース、デンプン、アルギン酸、ポリビニルピロリドン(PVP)、およびポリ(ビニル)アルコール等が挙げられる。PVAは、膨潤可能で化学分解可能な吸湿性ポリマーの代表例である。スクロースを除いて、上述の全ての水溶性ポリマーが吸湿性である。
【0041】
フィルムの分解挙動、特に、分解してフィルムの強度が機械的完全性を失う時間またはフィルムの完全な侵食に要する時間は、PLGAコポリマーにおけるグリコリドに対するラクチドの比を変えることで調整できる。L−ラクチド(LA)のモルパーセントが100%から減少または0%から増加するにつれて、結晶度が低下する傾向があり、強度の低下につながる。さらに、LAのモルパーセントが100%から減少または0%から増加するにつれて、PLGAのin vitroでの分解時間が減少することが知られている。従って、上記比を変えることにより、さまざまな治療期間に応じて異なる分解速度および結晶度の量を設定してもよい。一般に、製剤中のPLGAは、モルパーセントの値で表した場合、10%LA/90%GAないし85%LA/15%GAの間としてもよい。特にPLGAの組成で利用してもよい例としては、10/90PLGA、50/50PLGA、70/30PLGA、85/15PLGA、これらの組成の±3モル%のもの、および、市販の組成物でこれらの組成を有すると確認できるものが挙げられる。50/50PLGA組成物では、フィルム強度の寿命は1ないし2週間の間である。70/30PLGA組成物では、フィルム強度の寿命は30から60日の間である。
【0042】
生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの様々な組合せを用いて、所望の分解性質および密着性を得てもよい。製剤は、開示する1つ以上の生分解性ポリマーと開示する1つ以上の水溶性ポリマーとの任意の組合せを含んでもよい。本発明は、開示する水溶性ポリマーの任意の組合せを含む。
【0043】
製剤は複数の種類のポリマーの様々な組合せを含んでもよく、その組合せは以下を含む:
・生分解性ポリマーと、化学分解しない水溶性(吸湿性または非吸湿性)ポリマー;
・生分解性ポリマーと、化学分解可能な水溶性ポリマー;
・生分解性ポリマーと、吸湿性で化学分解しない水溶性ポリマーと、非吸湿性の水溶性ポリマー;
・生分解性ポリマーと、(吸湿性または非吸湿性で)化学分解しない水溶性ポリマーと、化学分解可能な水溶性ポリマー。
上述の組合せにおいて、水溶性ポリマーは吸湿性または非吸湿性であってもよい。
【0044】
一部の実施の形態においては、製剤は、開示するPLGAの組成物のうちいずれか1つと、1つ以上の開示する水溶性ポリマーとを含んでもよい。特に、製剤は、PLGAと、上述の水溶性ポリマーとの組合せのいずれかを含んでもよい。組合せの例としては、PLGAと、PVA、PEG、デンプン、アルギン酸、PVP、またはそれらの任意の組合せとの組合せが挙げられる。製剤中、PLGAは、水溶性ポリマーまたは水溶性ポリマーの組合せに対し、100重量%から1重量%および99重量%から1重量%の間で変更してよく、より狭い範囲としては、10〜15重量%、15〜25重量%、25〜35重量%、35〜55重量%、55〜70重量%、または70〜90重量%のPLGAを用いてもよい。例えば、製剤は、50重量%のPLGA、25重量%のPVA、および25重量%のデンプンを含んでもよい。
【0045】
追加的な実施の形態においては、製剤は、開示するPLGAの組成物のうちいずれか1つ、キトサン等の別の生分解性ポリマー、および1つ以上の水溶性ポリマーを含んでもよい。
【0046】
癒着防止バリア製剤のためのポリマー組合せの例としては、70/30PLGA/PVA;キトサン/PVA;70/30PLGA/キトサン/PVP;キトサン/PVP;70/30PLGA/PEG;70/30PLGA/デンプン;70/30PLGA/PEGコポリマー/PEG;70/30PLGA/PEGコポリマー/PLGA/PVA;70/30PLGA/PEGコポリマー/PEG/70/30PLGA;PLGA/スクロース/PEG;キトサン/PVA;キトサン/PVP;PLGA/PVP;およびPLGA/アルギン酸が挙げられる。製剤に用いるPLGAコポリマーの重量平均分子量(Mw)は600ないし300,000ダルトン、またはより好ましくは6,000ないし200,000ダルトンの間である。あるいは、PLGAポリマーの固有粘度は0.2から4.0の間、または好ましくは0.8から1.2の間である。PEGのMwは1000から100000ダルトンの間である。キトサンのMwは10000から300000ダルトンの間である。PVPのMwは6000から300000ダルトンの間である。
【0047】
水溶性ポリマーと生分解性ポリマーとの組合せは、適切な癒着防止バリアフィルムの形成において相乗効果を奏する。水溶性ポリマーは、粒子間および形成されたフィルムと組織との間の密着を促進させるか、または生じさせる。さらに、水溶性ポリマーは粒子を膨潤させて、粒子を重ね合わせるとともに、空洞や穴のない連続した均一なフィルムを形成させる。生分解性ポリマーは、フィルムに強度および機械的完全性を与えるとともにフィルムの寿命を延ばす。適切な癒着防止バリア、すなわち、均一で空洞がなく、所望の期間十分な強度と機械的完全性とを有するフィルムは、各種類のポリマーを適した量で用いて製剤することで得られる。各種類のポリマーにより得られるこれらの特性または特徴が調和することで適切なフィルムが得られる。例えば、所望のフィルムより不十分な強度または短い寿命を有するフィルムは、水溶性ポリマーが過多で、生分解性ポリマーが不十分な場合に生じることがある。
【0048】
膨潤の程度は、粒子がどれほど水分を取り込むか、ということから得られる。水分の取込量は、1〜80%の間、またはより狭い範囲としては20〜30重量%の間であってもよい。水分の取込量とは、粒子が水分に曝露された際に吸収する最大水分量を粒子中の水分の重量%で表したものと定義する。本発明者は、粒子による水分の取込量が10〜30重量%の間である場合に特に適切なフィルムの形成が起こることを発見した。
【0049】
上述のように、追加的な実施の形態においては、粒子は、生分解性ポリマーのブロックおよび水溶性ポリマーのブロックを含むブロックポリマーまたはランダムコポリマーから生成されてもよい。このようなブロックコポリマーの物理的状態は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとの重量比およびブロックの分子量等の要素によって決まる。一部の実施の形態においては、ブロックポリマーから成る粒子が固体(室温または周囲温度で)であって、液体、ゲル、ペースト、または液体とならないように、ポリマーの重量比および分子量を選択する。室温または周囲温度とは、典型的には20〜30℃、またはより狭い範囲としては23〜27℃、あるいは25℃または約25℃である。ブロックコポリマーは、ジブロック、トリブロック、スターブロック、または一般に分岐ブロックコポリマーであってもよい。
【0050】
例示の実施の形態においては、ブロックコポリマーは、PLGAブロックおよびPEGブロックを含んでもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50のジブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50で両端にPLGAを有するトリブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。粒子を形成する固体ブロックコポリマーの製剤設計は、PLGA:PEGの重量比が99:1ないし50:50で両端にPEGを有するトリブロックコポリマーであってもよい。PLGAの分子量(重量平均)は6000から500000ダルトンの間で、PEGは1000から10000ダルトンの間であってもよい。
【0051】
一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーは、フィルムの生体組織への密着を促進させてもよい。例えば、キトサンは体内の生物学的組織への比較的強い密着性を有することが知られている。追加的実施の形態においては、水溶性ポリマーは、比較的弱い相互作用を生じるようにしてもよく、このため、生物学的組織への密着性を低くしてもよい。例えば、アルギン酸が有する末端基は、生物学的組織との相互作用が比較的弱いとされる。そのため、キトサンとアルギン酸との組合せを用いる製剤は、生物学的組織に対して強い密着性を有することがある。
【0052】
本明細書に説明する製剤および方法での使用に適した生分解性ポリマーの例としては、限定されはしないが、アルギン酸、セルロースおよびエステル、デキストラン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリアセタール、ポリアリレート(L−チロシン由来のものまたは遊離酸)、ポリ(α−ヒドロキシエステル)、ポリ(β−ヒドロキシエステル)、ポリアミド、ポリ(アミノ酸)、ポリアルカノート、ポリアルキレンアルキレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリ無水物、ポリ無水物エステル、ポリアスパラギン酸、ポリブチレンジグリコレート、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(カプロラクトン)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(カーボネート)、L−チロシン由来ポリカーボネート、ポリシアノアクリレート、ポリジヒドロピラン、ポリ(ジオキサノン)、ポリ−p−ジオキサノン、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(ε−カプロラクトン−ジメチルトリメチレンカーボネート)、ポリ(エステルアミド)、ポリ(エステル)、脂肪族ポリエステル、ポリ(エーテルエステル)、ポリ(エチレングリコール)/ポリ(オルトエステル)コポリマー、ポリ(グルタミン酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(グリコリド)、ポリ(グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(グリコリド−トリメチレンカーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリ(ヒドロキシブチレート−コ−バレレート)、ポリ(イミノカーボネート)、ポリケタール、ポリ(L−乳酸)、ポリ(L−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(L−乳酸−コ−グリコール酸)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(L−ラクチド)/ポリ(グリコリド)コポリマー、ポリオルトエステル、ポリ(オキシエチレン)/ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリペプチド、ポリ(DL−乳酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(DL−乳酸−コ−グリコール酸)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)、ポリ(DL−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)/ポリ(エチレングリコール)コポリマー、ポリ(DL−ラクチド)/ポリ(グリコリド)コポリマー、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、ポリホスホエステルウレタン、ポリ(プロピレンフマレート−コ−エチレングリコール)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリチロシンカーボネート、ポリウレタン、プロラスチンまたはシルクエラスチンポリマー、スパイダーシルク、Tephaflex、ターポリマー(グリコリド、ラクチド、またはジメチルトリメチレンカーボネートのコポリマー)、およびそれらの組合せ、混合物、またはコポリマーが挙げられる。
【0053】
追加的なポリマーとしては、ポリ(N−アセチルグルコサミン)(キチン)、ポリ(3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)、ポリ(L−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(DL−ラクチド−コ−カプロラクトン)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリエステルアミド、ポリ(グリコール酸−コ−トリメチレンカーボネート)、コ−ポリ(エーテル−エステル)(例えば、PEO/PLA)、ポリホスファゼン、PVA、PVP、デンプン、生体分子(フィブリン、フィブリノゲン、セルロース、コラーゲン、およびヒアルロン酸等)、ポリウレタン、レーヨン、レーヨン−トリアセテート、セルロース、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セロハン、ニトロセルロース、セルロースプロピオネート、セルロースエーテル、およびカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0054】
製剤の粒子を作成する一部の実施の形態は、ポリマーまたは複数のポリマーをこれらポリマー用の溶媒に溶かしてポリマー溶液を形成することを含む。一部の実施の形態においては、粒子は、この溶液からスプレードライプロセスにより形成してもよい。
【0055】
ポリマー用の溶媒は、ポリマーを溶かして、少なくとも0.1重量%のポリマー濃度で、ポリマーと液体が分子レベルで混合されたものを含む溶液を形成することが可能な液体である。PLGA用の一般的な溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、およびエチルアセテート等が挙げられる。50/50PLGA用の溶媒としては、アセトン、メチレンクロライド、エチルアセテート、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)、THF、ヘキサフルオロプロパノール(HFIP)等が挙げられる。70/30PLGA用の溶媒としては、アセトン、メチレンクロライド、エチルアセテート、クロロホルム、DMF、THF、HFIP等が挙げられる。キトサン用の溶媒としては、酢酸、または水/酸の溶媒系が挙げられる。
【0056】
スプレードライは、高温の気体で液体またはスラリーを急速に乾燥することにより、液体(例えば、溶液等)またはスラリーから残留液または残留溶媒をほとんどまたは全く有さない複数の粒子またはドライパウダーを生成する方法である。スプレードライにより、比較的一貫したまたは狭い範囲に分布する粒子サイズを実現できる。典型的には、加熱空気が加熱乾燥媒体だが、窒素、酸素、二酸化炭素、またはアルゴン等の別の気体を用いてもよい。
【0057】
スプレードライ装置は、液体またはスラリーを液滴サイズが制御された霧として分散するアトマイザーまたはスプレーノズルを含む。ノズルの例としては、ロータリーノズル、単流体加圧旋回ノズル、あるいは2流体または超音波ノズルが挙げられる。液滴サイズは、50nmから500ミクロン、より狭くは700nmから200ミクロンの直径範囲であってもよい。
【0058】
図2は、概略的なスプレードライシステム20を示す。スプレードライシステム20は、乾燥チャンバ22、ノズル24、ヒータ26、および粒子コレクタ28を含む。矢印30が示すように、乾燥用気体はヒータ26を介してシステム20に進入する。矢印32が示すように、溶解したポリマーを含む溶液がノズル24内に供給され、溶液を噴霧化してサイズ差の小さい微細な液滴34が乾燥チャンバ22内にスプレーされる。液滴中の溶媒は、液滴が落ちる際に蒸発し、固体の粒子36がコレクタ28に捕集される。固体の粒子は、静電粒子コレクタ、ろ過、遠心分離、またはそれらの組合せで分離してもよい。加熱用気体の吸込温度は温度センサにより制御してもよい。
【0059】
例えば、キトサン/PVPを用いる本発明の製剤において50nmから300ミクロンの粒子サイズを実現するのに、例としてスプレードライヤーを用いてもよい。スプレードライプロセスにおけるプロセスパラメータとしては、加熱用気体の温度、液滴のサイズ、液滴の速度、溶液の濃度、供給の速度、アトマイザーの圧力または噴霧化の圧力、吸込温度、排出温度等が挙げられる。噴霧化の圧力は、0.01ないし1MPa、またはより狭い範囲としては0.1から0.5MPaであってもよい。吸込温度は、50ないし300℃、より狭い範囲としては100から200℃であってもよい。排出温度は、−20ないし80℃、またはより狭い範囲としては0から50℃の間であってもよい。スプレー速度は、0.1ないし5000ml/分であってもよい。こうした条件は、スプレードライヤーのサイズ、操作温度、および要求される粒子サイズ等によって決まる。
【0060】
生分解性ポリマーの粒子と水溶性ポリマーの粒子との混合物を含む製剤は、異なる種類の粒子を個別のプロセス工程において形成して、これらの粒子を物理的にブレンドすることにより作成してもよい。このような製剤の粒子を製造するプロセスの例を図3に示す。ステップ1において、生分解性ポリマー(単一または複数)を有機溶媒または無機溶媒に溶かす。生分解性ポリマーまたは複数の生分解性ポリマーの組合せは、フィルム形成の特性と、最終製品の所望の治療期間を提供するものであってもよい。生分解性ポリマーと溶媒とから得られた溶液については、生分解性ポリマーの濃度を0.01ないし25重量%の間、またはより狭い範囲としては0.2ないし10重量%の間で変更してもよい。特に、アセトンまたは別の溶媒の70/30PLGAの溶液においては、70/30PLGAは0.2から10重量%の間であってもよい。次に、ステップ2において、得られた溶液は、スプレーされるとともに乾燥されて、生分解性ポリマーの粒子を生成する。
【0061】
水溶性ポリマーの粒子を同様の方法で作成する。水溶性ポリマーは、0.01から25重量%のポリマー、またはより狭い範囲としては0.1から10%の濃度で水に溶かす。PEG、スクロース、デンプンの濃度の例としては、1〜3重量%、例えば、2%であってもよい。溶液中のPVAの濃度は、0.1から10重量%の間である。PVPに適した溶媒としては水が挙げられ、溶液中のPVPの濃度は、0.1から10重量%である。
【0062】
ステップ3において、生分解性ポリマーの粒子を水溶性ポリマーの粒子とブレンドして、生分解性および水溶性の粒子の混合物を生成する。
【0063】
生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンドまたは混合物である粒子製剤は、2種類のポリマーを含むエマルジョンをスプレードライすることで形成してもよい。このような製剤の粒子を製造するプロセスの例を図4に示す。ステップ1おいてに示したように、2つの個別のポリマー溶液を用意する。一方の溶液は第1の溶媒に生分解性ポリマーを溶かしたものであり、他方の溶液は第2の溶媒に水溶性ポリマーを溶かしたものである。第1の溶媒は典型的には有機溶媒であり、第2の溶媒は典型的には水もしくは水溶液である。第1および第2の溶媒は、2相液体混合物が形成されるような性質を有する。第1の溶媒と第2の溶媒とが不混和であると、2相液体混合物を形成することが可能である。第1の溶媒に溶かす生分解性ポリマーの量と第2の溶媒に溶かす水溶性ポリマーの量との比は、粒子中の2種類のポリマーの所望の比に対応する。
【0064】
例えば、PLGAはアセトンまたはクロロホルムに溶かし、PEGまたはPVPは水に溶かしてもよい。キトサンの溶解度は酸性の環境で増加するため、キトサンは酸性の水溶液に溶かしてもよい。例えば、水溶液は0.05から5重量%の酢酸を含んでもよい。
【0065】
ステップ2において示したように、2つの溶液を混合して、2つの液体相を含むエマルジョンを形成する。体積の小さい方の溶液は体積の大きい方の溶液内に分散される。2つの溶液の相対的体積は、それぞれのポリマーの濃度と粒子中のポリマーの所望の相対組成とによって決まる。特定の溶液濃度に対して、各溶液中のポリマーの相対量が、これらの溶液から作成される粒子中の所望の相対量となるように、相対体積を調整する。詳細には、溶液1の体積(V1)と溶液2の体積(V2)との比は:
V1/V2=(p1/p2)×(C2/C1)
ここで、p1およびp2はそれぞれ、得られる粒子のポリマープレンドのポリマー1とポリマー2との重量パーセントであり、C2およびC1はそれぞれ、ポリマー1およびポリマー2の溶液の濃度である。
【0066】
例えば、70/30PLGAとPVAとの粒子(70重量%のPLGAと30重量%のPVA)は、1重量%のPVA溶液と1ないし5重量%のPLGA溶液とから形成してもよい。1重量%のPLGA溶液を用いて70/30の粒子を得るには、PLGA溶液の体積とPVA溶液の体積との比を(70/30)×(1/1)または約2.33とする。この場合、PVA溶液がPLGA溶液中に分散する。同様に、5重量%のPLGA溶液を用いて70/30の粒子を得るには、PLGA溶液の体積とPVA溶液の体積との比を(70/30)×(1/5)または約0.47とする。この場合、PLGA溶液がPVA溶液中に分散する。
【0067】
一部の実施の形態においては、水溶液相が有機相中に分散するか、あるいは、有機相が水溶液相中に分散する。一部の実施の形態においては、2つの溶液をゆっくりと組合せ混合し、溶液をソニックミキサーで攪拌または音波処理して安定したエマルジョンの形成を促進する。
【0068】
ステップ3において、スプレードライヤーを用いてエマルジョンから粒子を形成する。形成した粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブレンド、例えば、PLGAとPVAとのブレンド等である。スプレードライプロセスについては以下に説明する。
【0069】
一部の実施の形態においては、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとは同一の溶媒に溶かしてもよい。例示の実施の形態においては、キトサンと水溶性ポリマーとは酢酸の酸性水溶液に溶かしてもよい。キトサンと水溶性ポリマーとの粒子は、この溶液をスプレードライすることにより形成してもよい。
【0070】
追加の実施の形態においては、生分解性および水溶性ポリマーを含む溶液またはエマルジョンは、スプレードライの前に濃縮してもよい。このような実施の形態においては、少なくとも有機溶媒の一部は、例えば、蒸発等により除去してもよい。これは、粒子を形成するスプレードライプロセスに要する時間を短縮するという利点がある。スプレードライの際、溶液の体積が大きいほど、溶液またはエマルジョンの体積から粒子を形成するまでの時間は長くなる。これらの実施の形態においては、有機溶媒の一部はエマルジョンまたは溶液から蒸発させる。一部の実施の形態においては、有機溶媒の一部を除去してもよく、または全ての有機溶媒を除去してもよい。例示の実施の形態においては、10体積%、10〜20体積%、20〜30体積%、30〜60体積%、60〜80体積%、または80〜100体積%未満の有機溶媒を除去してもよい。蒸発は、例えば1〜8時間かけて行ってもよい。蒸発は室温で行ってもよく、あるいは、エマルジョンは有機溶媒の沸点未満の温度に加熱してもよい。
【0071】
これらの実施の形態においては、有機溶媒を除去して、均一な乳状の外観を呈する溶液、溶出、または系を形成してもよい。この乳状の外観は、エマルジョン中のポリマーのブレンドである微細な粒子の存在によるもので、概ね300nmから20ミクロンの範囲内の大きさである。粒子は予め溶かしたポリマーから形成されたものであるが、ポリマーの一部はエマルジョン中の各溶媒に溶けた状態で残っていてもよい。次に、乳状の溶液をスプレードライして、有機溶液と水溶液の混合後に溶けた状態で残っているポリマーから、ブレンドされた粒子を形成する。
【0072】
乳状の系は、コロイドまたはコロイド系または懸濁物とみなしてもよい。コロイドは、一方の物質が他方の物質中に均一に分散している化学混合物である。分散している物質の粒子は混合物中に懸濁しているのみで、完全に溶解している溶液とは異なる。これは、コロイド中の粒子は溶液中のそれよりも大きいが、均一に分散するとともに均質な外観を維持するのに十分なほど小さいため起こる。しかし、光を拡散するのに十分なほど大きく、溶解しない程度に大きい。この分散のため、一部のコロイドは溶液の外観を有する。コロイド系は、分散相(または内相)と連続相(または分散媒)の少なくとも2つの異なる相を含む。コロイド系は固体、液体、または気体であってもよい。コロイド系の粒子は2ないし1000nmの間の大きさである。乳状の懸濁物の場合は、ポリマーの粒子は分散相であり、溶媒は分散媒である。
【0073】
懸濁物は、連続相内における、1000nm超の直径を有する粒子の均質な混合物である。粒子のサイズは、裸眼で見ることができる程度に大きい。血液およびエアロゾルスプレーは懸濁物の例である。懸濁物は、「濁っている」または「不透明」である。懸濁物は光を透過しない。懸濁物は静置すると分離する。
【0074】
別の実施の形態においては、有機溶媒を除去して、溶液中の粒子の不均一な懸濁物を形成させてもよい。不均一な懸濁物の粒子はより大きく、粒子のサイズは概ね1から150ミクロンの範囲である。溶解したポリマーは溶液中にまだ存在している。次に、懸濁物をスプレードライして、溶けた状態で残っているポリマーからブレンドされた粒子を形成する。
【0075】
乳状の系が形成されたか否かは、ポリマーの混和性、ポリマーマトリクスの比、溶液の濃度、混合速度、および溶媒の蒸発の制御等、いくつかの要因によって決まる。
【0076】
乳状の外観を有するエマルジョンをスプレードライして形成する粒子は、懸濁物をスプレードライして得るよりも小さい粒子製剤となる。前者から形成する製剤は0.3から20ミクロンの範囲の粒子を有し、後者は1から150ミクロンの範囲である。
【0077】
さらに、粒子のブレンドは、2つ以上の生分解性ポリマー、2つ以上の水溶性ポリマー、またはそれらの組合せを有してもよい。上述の手順はこのようなブレンドについて一般化して適用してもよい。例示の実施の形態においては、2つの水溶性ポリマーを含むブレンドは、上記2つのポリマーを含む溶液であって生分解性ポリマーの溶液と混合した溶液を形成することにより得てもよい。例えば、粒子はPVAおよびPVPまたはPEGおよびスクロースを含んでもよい。あるいは、水溶性ポリマーの個別の溶液と生分解性ポリマーの溶液とを混合してもよい。上述のように、粒子は2つ以上の生分解性ポリマーと水溶性ポリマーのブレンド、例えば、PLGAと、キトサンと、水溶性ポリマーとのブレンドであってもよい。
【0078】
さらに、2つの生分解性ポリマーを含むブレンドは、当該2つのポリマーを含む溶液であって水溶性ポリマーの溶液と混合した溶液を形成することにより得てもよい。PLGAと、キトサンと、水溶性ポリマーとのブレンドを含む粒子は、キトサンの溶液と、水溶性ポリマーおよびPLGAの個別の溶液とを混合することにより得てもよい。あるいは、キトサンおよび水溶性ポリマーの酸性水溶液とPLGA溶液を混合してもよい。
【0079】
別の実施の形態においては、2つ以上の生分解性ポリマーの溶液は、これらのポリマーを同一の溶媒に溶かすことにより形成してもよい。例としては、アセトンに溶けて膨潤可能なポリマー粒子を生成するPLGAとPLGA−PEGとのブロックポリマーが挙げられる。別の例としては、液体PEG(分子量の小さいPEG)、例えば、分子量400g/モル(重量平均または数平均)のPEGに溶けるPLGAポリマーが挙げられる。
【0080】
上述のように、粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとのブロックコポリマーを含むか、または全体がこれらから成っていてもよい。ブロックコポリマー粒子は、ブロックコポリマーを溶媒に溶かすことにより形成する溶液から作成してもよい。一の実施の形態においては、溶液をスプレードライして粒子を形成してもよい。別の実施の形態においては、溶媒を蒸発させて、溶液中の粒子の懸濁物またはコロイドまたは溶出を形成してもよい。得られた懸濁物またはコロイドまたは溶出を、次にスプレードライして粒子を形成してもよい。溶媒は、アセトンまたはクロロホルム等の有機溶媒であってもよい。あるいは、溶媒は水であってもよい。
【0081】
溶媒の選択は、ブロックコポリマーの溶解度に基づいて選択してもよい。一の実施の形態においては、溶媒は、少なくとも0.1重量%のブロックコポリマー溶液、0.1〜1重量%の間、または少なくとも1重量%のブロックコポリマー溶液を形成できるように選択する。有機溶媒または水でのブロックコポリマーの溶解度は、PLGA等の生分解性ポリマーとPEG等の水溶性ポリマーとの相対組成によって決まる。PLGAのモルパーセントが大きいほど、ブロックコポリマーは有機溶媒で溶解またはより溶解しやすくなる。あるいは、水溶性ポリマーのモルパーセントが大きいほど、ブロックコポリマーは水に溶解またはより溶解しやすくなる。
【0082】
スプレードライによって得られる粒子のサイズは、いくつかの方法により影響または制御を加えることができる。粒子のサイズは、加圧噴霧等のプロセスパラメータによって決まる。以下に実施例6Aにおいて示すように、加圧噴霧の圧力を上げることで粒子サイズを大きくすることができる。製剤溶液中のポリマーの濃度および成分ポリマーの相対濃度によっても粒子のサイズに影響を与えることができる。さらに、製剤溶液の界面活性剤によっても粒子のサイズに影響を与えることができる。界面活性剤は、スプレードライの前に製剤溶液に加えてもよい。実施例6Cにおいて示すように、PLGA/キトサン/PVPの製剤溶液にマンニトールを加えることにより粒子のサイズを大きくできる。
【0083】
一部の実施の形態においては、本明細書に説明する方法で形成して得られる生分解性および水溶性の粒子は、適切な癒着防止バリアフィルムの形成に望ましいよりも大きくてもよい。粒子のサイズは単一の方法または任意の方法の組合せによって小さくしてもよい。例えば、粒子は、微粉砕機により粉砕して力学的に小さくしてもよい。追加的または別の方法としては、粒子中のポリマーの少なくともの一部を溶解する溶媒に曝露することにより、化学的に粒子を小さくしてもよい。曝露後の粒子に対して、乾燥、ろ過、またはそれらの組合せを行ってもよい。あるいは、大きいサイズの粒子が望ましい場合、限定されないが、圧縮、コーティング、造粒等を含む方法を用いて粒子のサイズを大きくしてもよい。
【0084】
本発明の更なる実施の形態は、内部生体組織への粒子製剤の送達を含む。これらの実施の形態は、内部生体組織に粒子を堆積して、選択した組織の領域を覆う薄いフィルムを形成させることを含む。組織上への堆積の際、粒子は組織から水分を吸収し、膨潤し、重なり合う結果、選択した組織領域を覆うフィルムを形成する。十分な量の製剤が堆積されると、選択した組織領域を覆う連続したフィルムが形成される。
【0085】
フィルムの送達は、選択した組織領域を覆い、厚さと表面のきめが比較的均一となるように行うことが好ましい。さらに、フィルムは、選択した範囲の組織を外部に曝す穴または空洞の領域がないまたは実質的にないことが好ましい。このような外部に曝された領域は、組織と組織との接触が可能になるため、癒着の形成を起しやすい。さらに、フィルムは、所望の期間の機械的完全性と選択した領域の被覆とを維持するのに十分なほど厚いことが好ましい。厚さが比較的均一であると、所望の期間よりも早期の段階で組織の一部が外部に曝されることを低減または防止できる。フィルムの厚さは、300nmから800μmの間、またはより狭い範囲としては、1μmから200μmの間であることが好ましい。フィルムが厚すぎると、凝集および極度の異物反応等の有害作用を生じてしまい、その結果厚い仮の膜が発生して、これにより、所望の最終結果に対する逆効果が生じることがある。また、フィルムが極度に厚いと吸収時間が変わってしまうこともある。
【0086】
図5Aは、本明細書に説明するように、選択した領域である表面範囲60を覆う癒着防止バリアフィルム62を含む、組織表面の表面範囲60の俯瞰図である。フィルム62には穴または空洞は全くなく、比較的均一な厚さを有している。図5Bは、フィルム62の断面図であり、フィルム62の厚さTfおよびフィルム62と組織60との境界面64を示す。図5Cは、製剤の不十分な送達に起因する可能性がある穴または空洞68を有するフィルム66が組織範囲60を覆っている別の実施の形態を示す。
【0087】
特定の実施の形態においては、粒子は微細に分散した懸濁物またはエアロゾルとして組織表面に堆積され、または組織表面に向けて供給されて、上述の望ましい特徴を実現する。粒子は、気体に懸濁した乾燥形態で堆積されてもよい。粒子の凝集体を縮小または最小化する方法での送達により、比較的均一な厚さの薄いフィルムの形成が可能となる。さらに、フィルムが表面に近接、密接して接触して適合的な被覆を形成するように、粒子の近接、密接した組織への接触を可能とする方法で送達を行うべきである。密接で適合的な接触は、フィルムと組織との強い密着を促進する。これは、粒子が組織内に膨潤して粒子の分子と組織の分子が混ざり合い、密着を増強すると考えられるからである。粒子の形態での送達に続いて膨潤とフィルムの形成が生じることにより、例えば、予め形成したフィルムまたはシートを組織表面に適用する場合等より組織との密接で適合的な接触が生じると考えられる。
【0088】
製剤の特徴と送達の方法との相乗効果により、所望の特徴を有するフィルムが得られる。製剤の特徴としては、粒子間の密着性および組織への密着性、粒子の膨潤によるフィルムの形成、所望の期間にわたって持続するフィルムの分解挙動を提供するポリマーの組合せが挙げられる。
【0089】
図6Aおよび図6Bは、概略的な送達の構成を示す。粒子100はエアロゾル送達装置200に貯蔵される。エアロゾル送達装置200は、送達装置200内から選択した組織の領域へと粒子を推進する機構を含む任意の加圧または非加圧のコンパートメントである。送達装置200はアクチュエータ230を含んでもよく、このアクチュエータは押し込まれると、矢印235に示すように、送達装置200内から圧力を開放して、送達装置内から所望の部位へと粒子を推進させる。粒子が手術部位の内部組織に接触するとすぐに、粒子は膨潤して癒着防止バリアフィルム110を形成する。図6Bに示すように、随意的に、チューブ237をアクチュエータ230に接続してもよく、それにより、所望の部位へ粒子を送達する高い制御性と正確性を得てもよい。遠端232を操作して、組織の特定の領域に粒子を向けてもよい。
【0090】
一部の実施の形態においては、粒子製剤は、粒子がドライパウダーとして貯蔵される容器から送達してもよい。容器の排出口からの粒子の取り出しは、容器の内部と排出口との圧力差によって行ってもよく、この圧力差において排出口側の圧力が低く、容器の内部が高い。取り出された粒子は、気体中に微細に分散している形態で組織の範囲に向けて供給してもよい。
【0091】
一の実施の形態においては、圧力差は、容器の内部に大気圧より高い圧力を加えて発生させてもよい。排出口におけるバルブにより、粒子の放出を制御できるようにしてもよい。バルブを通して取り出される粒子は、ホース、ノズル、アトマイザー、または組織上への堆積を行う別の手段により分散されてもよい。
【0092】
別の実施の形態においては、圧力差は、容器の排出口を流通する気体の流れにより発生させてもよい。粒子は、分散した形態で気体の流れにより排出口から取り出されてもよい。粒子が分散した流れは、組織の選択された範囲に向けて供給され、そこに堆積させてもよい。更なる実施の形態においては、気体の流れに加えて、容器を大気圧より高い圧力で加圧して、気体の流れの速度を速めてもよく、これにより、堆積した粒子の組織との密接な接触が促進される。
【0093】
図7は、粒子製剤の送達システム80の例を示す。システム80は、ドライパウダーの形態で粒子84を含む容器82を含む。チューブ86は、吸込口88と排出口90を有する容器82内に配設される。容器82とチューブ86とは粒子の送達を行わないときには密閉されている。チューブ86は、容器82の内部と外部との間の流体連通を可能とするバルブ92を有する。チューブ94は、バルブ92が開いた際にチューブ86と流体連通する位置に設けられる。矢印96が示すように、気体の流れはチューブ94を通過する。この気体の流れは、例えば、手術室内の酸素または空気供給源から供給してもよい。矢印88が示すように、バルブ92が開くと、チューブ94内の気体の流れにより発生するチューブ86とチューブ94との間の圧力差により、容器82から、チューブ86を通ってチューブ94内へと粒子が取り出される。取り出された粒子は気体96の流れの中で分散される。矢印98が示すように、分散した粒子はチューブ94を通過して、組織表面上に堆積される。
【0094】
別の実施の形態においては、粒子製剤は、液体の噴霧剤中に粒子の懸濁物を含む加圧容器から送達してもよい。このような実施の形態においては、粒子は懸濁物中に均一に分散していてもよい。液体は、粒子が均一に分散するとともに粒子の凝集体が縮小または最小化するように選択してもよい。容器は、バルブが開放されたときに懸濁物が容器から放出されるように、内部と外部との間で流体連通することができるバルブを有する。
【0095】
一部の実施の形態においては、噴霧剤は、室温または周囲温度および容器内の圧力で液体であるとともに、大気圧および室温で容器から放出される際に速やかに蒸発または消失するようなものを選択する。従って、粒子は、液体の噴霧剤のない状態で、組織上に分散したスプレーまたは流れとして送達される。液体の噴霧剤の例としては、HFA134およびHFA227ea等のヒドロフルオロアルカン(HFA)が挙げられる。
【0096】
図8は、懸濁物から粒子製剤を送達する、例示の送達システム100を示す。システム100は、液体噴霧剤中の粒子の懸濁物104を含む容器102を含む。容器は、大気圧よりも高い圧力に加圧される。チューブ106は、吸込口108と排出口110を有し、容器102内に配設される。容器102とチューブ106は粒子の送達を行わないときには密閉されている。チューブ106は、容器102の内部と外部との間の流体連通を可能とするバルブ112を有する。バルブ112が開くと、懸濁物104は、矢印113が示すように、チューブ106を通って容器102から取り出される。懸濁物中の液体は速やかに蒸発または消失し、矢印114が示すように、粒子の分散流またはスプレーは組織表面に堆積することができる。
【0097】
本発明は、生分解性および水溶性ポリマーの組合せの追加的な製剤を含む。一の実施の形態においては、粒子は液体と混合されてスラリーを形成してもよい。液体の例としては、水、アセトン、およびアルコールが挙げられる。
【0098】
別の実施の形態においては、癒着防止バリアを形成するのに用いる製剤は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含む液体、ゲル、またはペーストであってもよい。一部の実施の形態においては、製剤は低温で液体であってもよく、高温で高い粘度の液体、ゲル、またはペーストを形成する。特に、製剤は、室温および貯蔵温度で液体であり、体温で高い粘度の液体、ゲル、またはペーストであってもよい。
【0099】
液体の製剤は、例えば、製剤の組織表面上へのブラシによる塗布またはスプレー等により、組織へ送達してもよい。室温と体温との間でより高い粘度の液体、ゲル、またはペーストに変化する製剤は、組織への適用後にこのような変化を呈する。
【0100】
液体、ゲル、またはペーストの製剤は、生分解性ポリマーを水溶性ポリマーに溶かすことにより作成してもよい。水溶性ポリマーが、液体、ゲル、またはペーストであってもよい。水溶性ポリマーの物理状態(液体、ゲル、またはペースト)は、水溶性ポリマーの分子量によって決まる。液体は、ゲルまたはペーストより低い分子量を有する。製剤の例としては、PLGAおよびPEGが挙げられる。室温で液体の製剤は、300〜400g/moleのMwを有するPEGを用いて形成してもよい。PLGAをPEGに混合または溶解して液体を形成してもよい。液体の製剤は、1〜50重量%のPLGAおよび99〜50重量%のPEGから成ってもよい。このような液体は、室温と体温との間で液体からゲルまたはペーストへの変化を呈し、体温においてゲルまたはペーストである。室温においてゲルとなるものは、PLGAとPEGゲルとを混合することにより形成してもよい。PEGのMwは100から1000の間である。
【0101】
追加的な方法を適用して生体組織への製剤の送達を行ってもよい。一の実施の形態においては、製剤は、チューブ等のスクイーズ容器に配設してもよい。製剤は、軟膏と類似の方法でチューブを絞ることにより送達してもよい。このような実施の形態においては、製剤は乾燥粒子、ゲル、またはペースト系、高粘度のスラリーであってもよい。別の実施の形態においては、乾燥粒子、ゲルまたはペースト、あるいはスラリーの製剤はブラシまたはスプレーにより組織上に塗布する。
【0102】
追加的な実施の形態においては、粒子製剤は、複数の小孔を有する送達端を有する容器内に配設されてもよい。粒子は、組織の選択された範囲上で容器を振ることにより送達される。
【0103】
さらに、製剤を作成するプロセスの任意の部分において、別の化合物を追加して使い易さを改善するか、または癒着防止バリアに治療効果を与えてもよい。例えば、生分解性の色素を追加して癒着防止バリアの可視性を強めてもよい。
【0104】
追加的または別の方法としては、医薬品等の治療薬を追加する。例えば、製造の任意のステップにおいて、この医薬品をポリマーマトリクスに混合または導入すること等により追加する。
【0105】
治療薬の例としては、組織の選択した範囲の出血を減少または抑制する止血薬または抗出血薬等が挙げられる。止血薬は、全身的、局部的、有機的、および化学的と分類される薬剤を含んでもよい。全身的薬剤は、繊維素溶解を抑制または凝血を促進することにより機能し、抗線溶薬、ビタミンK、フィブリノゲン、血液凝固因子を含む。局部的に作用する止血薬は、血管収縮作用を生じるか、または血小板凝集を促進することにより機能する。有機的薬剤は、トロンビン凝固因子、微繊維性コラーゲン、デンプン等の多糖類を含む。化学的な止血薬は、キトサン、hemCon、ゼオライト、および収れん性止血薬を含む。収れん性止血薬は、組織を収縮させて損傷した血管を封止することにより機能する。
【0106】
別のタイプの薬剤としては化学療法薬が挙げられ、化学療法薬には、限定されはしないが、パクリタキセル、タンパク結合、パクリタキセル、アルキル化薬、代謝拮抗薬、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害薬、および他の抗腫瘍薬、植物アルカロイドおよびテルペノイド、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシン、トポソイメラーゼ阻害薬、抗腫瘍抗生剤等が含まれる。
【0107】
製剤に導入する医薬品の例としては、抗癒着薬または抗フィブリン成長薬等が挙げられる。別の例としては、抗炎症薬を加えてもよい。抗炎症薬は、ステロイド系抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤、またはそれらの組合せであってよい。一部の実施の形態においては、抗炎症薬としては、限定されはしないが、アルクロフェナク、ジプロピオン酸アルクロメタゾン、アルゲストンアセトニド、αアミラーゼ、アンシナファル、アンシナフィド、アンフェナクナトリウム、アミプリローズ塩酸、アナキンラ、アニロラック、アニトラザフェン、アパゾン、バルサラジドジナトリウム、ベンダザック、ベノキサプロフェン、ベンジダミン塩酸、ブロメライン、ブロペラモール、ブデソニド、カルプロフェン、シクロプロフェン、シンタゾン、クリプロフェン、プロピオン酸クロベタゾール、クロベタゾンブチレート、クロピラック、クロチカゾンプロピオネート、酢酸コルメタゾン、コルトドキソン、デフラザコルト、デソニド、デソキシメタゾン、デキサメタゾンジプロピオネート、ジクロフェナクカリウム、ジクロフェナクナトリウム、ジフロラゾンジアセテート、ジフルミドンナトリウム、ジフルニサール、ジフルプレドネート、ジフタロン、ジメチルスルホキシド、ドロシノニド、エンドリゾン、エンリモマブ、エノリカムナトリウム、エピリゾール、エトドラック、エトフェナメート、フェルビナク、フェナモール、フェンブフェン、フェンクロフェナク、フェンクロラック、フェンドサール、フェンピパロン、フェンチアザック、フラザロン、フルアザコルト、フルフェナミン酸、フルミゾール、フルニソリドアセテート、フルニキシン、フルニキシンメグルミン、フルオコルチンブチル、酢酸フルオロメトロン、フルクアゾン、フルルビプロフェン、フルレトフェン、プロピオン酸フルチカゾン、フラプロフェン、フロブフェン、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタゾール、酢酸ハロプレドン、イブフェナック、イブプロフェン、イブプロフェンアルミニウム、イブプロフェンピコノール、イロニダップ、インドメタシン、インドメタシンナトリウム、インドプロフェン、インドキソール、イントラゾール、酢酸イソフルプレドン、イソキセパック、イソキシカム、ケトプロフェン、ロフェミゾール塩酸、ロルノキシカム、エタボン酸ロテプレドノール、メクロフェナメートナトリウム、メクロフェナミン酸、メクロリゾンジブチレート、メフェナム酸、メザラミン、メセクラゾン、メチルプレドニゾロンスレプタネート、モルニフルマート、ナブメトン、ナプロキセン、ナプロキセンナトリウム、ナプロキソール、ニマゾン、オルサラジンナトリウム、オルゴテイン、オルパノキシン、オキサプロジン、オキシフェンブタゾン、パラニリン塩酸、ペントサンポリ硫酸ナトリウム、フェンブタゾンナトリウムグリセレート、ピルフェニドン、ピロキシカム、ピロキシカムシンナメート、ピロキシカムオラミン、ピルプロフェン、プレドナゼート、プリフェロン、プロドリン酸、プロクアゾン、プロキサゾール、クエン酸プロキサゾール、リメキソロン、ロマザリット、サルコレックス、サルナセジン、サルサレート、塩化サンギナリウム、セクラゾン、セルメタシン、スドキシカム、スリンダック、スプロフェン、タルメタシン、タルニフルメート、タロサレート、テブフェロン、テニダップ、テニダップナトリウム、テノキシカム、テシカム、テシミド、テトリダミン、チオピナック、ピバリン酸チキソコルトール、トルメチン、トルメチンナトリウム、トリクロニド、トリフルミデート、ジドメタシン、ゾメピラックナトリウム、アスピリン(アセチルサリチル酸)、サリチル酸、副腎皮質ステロイド、糖質コルチコイド、タクロリムス、ピメクロリムス、それらのプロドラッグ、これらのコドラッグ、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0108】
さらに、得られた癒着防止バリアの組成物は、フィルムの癒着防止バリア等の別のタイプの癒着防止バリアと協同的に用いてもよい。この場合、粒子とフィルムとは、生分解性の度合が異なっていてもよく、様々な種類または量の医薬品を含んでもよい。
【実施例】
【0109】
実施例1:粒子サイズの分析
2つの粒子製剤の粒子サイズを測定した。粒子はスプレードライにより形成した。各製剤は、70/30PLGAと水溶性ポリマーとのブレンドの粒子である。少量の粉末製剤を試験管内の約3mLの水に加え、よく混合して均一な分散系を形成し、粒子サイズの分布を測定した。分散液をキュレットに移し、Malvern Instruments Ltd,Worcestershire,UKより入手したMalverns Zeta Sizerを使用して粒子サイズを判定した。
【表1】
【0110】
実施例2:水分の吸収性
水分の吸収性を、70/30PLGAと水溶性ポリマーとのブレンドである4つの粒子製剤について測定した。生分解性および水溶性ポリマーを組合せた溶液を表面を覆うように広げ、空気乾燥してフィルムを形成させた。ポリマーのフィルムを慎重に剥がし取り、60℃のオーブンで約12時間乾燥させた。
【0111】
乾燥したフィルムの初期重量を記録し、フィルムを水に浸した。フィルムを取り出し、ティッシュペーパでふき取り、フィルムから余剰の水分を除去して、重量を測った。フィルムの重量増加分を計算し、表2に示す。
【表2】
【0112】
実施例3:膨潤の特性
粉末製剤を顕微鏡のスライドに広げ、初期状態の顕微鏡写真を撮影した。マイクロピペットを用いて、少量の水滴をゆっくりカバーガラスの縁に加えた。異なる距離での顕微鏡写真を撮影し、水への曝露時に粒子が膨潤するか観察した。図9Aおよび図9Bは、それぞれPLGA/PVA製剤およびPLGA/PEG製剤の膨潤を示す。両写真は、水が粒子内に拡散し、膨潤により粒子の直径が大きくなったことを示している。
【0113】
実施例4:密着試験
密着試験1:
PLGA/キトサン/PVPの粉末製剤をろ紙の中央に広げてドライパウダーの層を形成した。ろ紙と粉末層とが完全に濡れるまで、ろ紙の一方の隅から水を注いだ。ろ紙を完全に乾燥させ、フィルムの形成能力を観察した。製剤は濡らした後に良好なフィルムを形成し、ろ紙に密着した状態を持続した。
【0114】
密着試験2:
PLGA/アルギン酸から作成した粒子製剤を、湿った肉を覆うようにスプレーした。粒子は膨潤し、優れた密着状態で肉の表面を覆う良好なフィルムを形成した。フィルムを水で洗い落とすことはできなかった。
【0115】
実施例4:例示の製剤の製造
PLGA/キトサン/PVP(35:50:15)の製剤の製造
1. PLGA溶液の作成:アセトン(350mL)を清浄なガラスビーカに移した。PLGA(3.5g)を、攪拌しながらビーカ内のアセトンにゆっくりと入れた。ビーカ内の混合物を、磁気攪拌機を用いて1%の透明な溶液を形成するまで激しく攪拌および混合した。
2. キトサン溶液の作成:脱イオン化(DI)した水(490mL)を別の清浄なガラスビーカに移した。酢酸(10mL)をビーカ内の水に加え、よく混合して2%の酢酸水溶液を作成した。キトサン(1g)を溶液にゆっくりと加え、この溶液を混合した。混合速度を上げ、透明な溶液を形成するまで混合を続けた。
3. PVP溶液の作成:脱イオン化(DI)した水(150mL)を別の清浄なビーカに移した。PVP(0.3g)を別の磁気攪拌機で混合しながら水に加えた。透明な0.2%の溶液を形成するまで混合を続けた。
4. 製剤の作成:キトサン溶液(500mL)5に対してPVP溶液(150mL)が1.5の割合で、別の清浄なビーカでよく混合し、均一な溶液を形成するまで混合を続けた。
5. 次に、磁気攪拌機で激しく攪拌しながら、キトサン−PVP溶液を、3.5の割合のPLGA溶液(350mL)にゆっくりと加えた。ゆっくりと連続的に加える際に、この溶液は乳白色の溶液または懸濁物を形成し始めた。
6. 形成した乳状の溶液を、フード内で磁気攪拌機を用いて約16〜18時間攪拌し続けて、製剤溶液からアセトンを蒸発させた。
7. スプレードライ:次に、製剤溶液をYamatoスプレードライヤーに移し、製剤をスプレーして製剤の微粒子を形成した。
8. 製剤溶液をスプレーする前に、パラメータを設定し、少なくとも15〜20分DI水を用いてスプレードライヤーを動作させて、スプレードライヤーを釣り合わせた。
9. 設定したパラメータ(例えば、吸込温度、乾燥空気およびアトマイザの温度等)でスプレードライヤーが釣り合った後、スプレードライヤーに製剤を供給し観測を続けた。製剤溶液は、スプレードライプロセスの間磁気攪拌機で攪拌し続けた。観測可能なスプレードライのパラメータ(例えば、排出温度、実際の設定温度、溶液の流速、気体圧力、スプレーノズルのサイズ等)をモニタするとともに記録した。
10. 製剤スプレーのスプレードライが完了した後、スプレードライヤーをDI水で少なくとも5分動作させ続け、温度、乾燥空気流、アトマイザーのノブのスイッチを切ることにより、ゆっくりと動作を止めてクールダウンさせた。
11. 製剤の捕集ボトルを装置からゆっくりと外し、適切に確保した。
【0116】
実施例5:急性および慢性動物試験
癒着防止バリアの性能の急性および慢性試験を行った。これらの試験は成熟したイヌ、ブタ、およびヒツジで行った。これらの試験においては、試験動物の胸部に外科的切開を行い、肺と心臓を露出させた。HFA噴霧剤中の加圧した粒子懸濁物を用いて、臓器の露出した表面に製剤を堆積させた。
【0117】
急性試験においては、粒子を適用し、粒子から形成されたフィルムの状態を観察した。慢性試験においては、23日間にわたりフィルムの状態を観察した。
【表3】
【0118】
図10は、移植時の慢性ヒツジ標本の写真である。製剤の評価を行うため、製剤#2おおよび製剤#4を肺および心臓の異なる領域を覆うようにスプレーした。粒子をスプレーしなかった部分を対照領域として使用した。製剤は、ヒツジの肺および心臓に最初に適用した態様で見ることができる。
【0119】
図11は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、ヒツジの肺に生分解性のフィルム/バリアが生じたことを示している。フィルム/バリアのいずれの側にも組織の癒着は見られなかった。
【0120】
図12は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、ヒツジの心臓(左心耳)と肺(写真の上部)を覆う生分解性のフィルム/バリアが生じたことと、生分解性のフィルム/バリアの両側(心臓とバリアとの間、およびフィルム/バリアと肺との間)とも癒着の形成が起こっていないことを示している。
【0121】
図13は、図12と同一の標本の写真であり、心臓(左心耳)を覆う生分解性のフィルム/バリアを別の視点から示している。図は、癒着が形成されていないこと、安全で容易に切開できるフィルム/バリアが心臓(左心耳)を覆って生じていることを明確に示している。
【0122】
図14は、最初の移植から23日後の再診査時の慢性ヒツジへの移植の写真である。写真は、製剤がヒツジの肺(臓側胸膜)と胸壁(壁側胸膜)との間にフィルム/バリアを形成した様子を明確に示している。
【0123】
図15は、図14における慢性ヒツジへの移植部分の写真であり、生分解性のフィルム/バリアが生じ、図14に説明する癒着防止バリアとして機能したことを示している。
【0124】
図16は、図15に示す生分解性のフィルム/バリアの組織学的結果の写真である。組織学的結果は、肺(臓側胸膜)、バリア(試験物)、および壁側胸膜(胸膜)の間の明確な区分を示している。生分解性のフィルム/バリア(試験物)は、典型的な異物反応(反応性線維症)が形成されることでバリアを生成し、これにより、生分解性のフィルム/バリアの周囲に莢膜または仮の膜が生じる。
【0125】
実施例6A〜C―スプレードライにおける粒子サイズの制御
実施例6A 噴霧化の空気圧の粒子サイズへの影響
80%キトサン/20%PVPの製剤
噴霧化の空気圧が0.15から0.1Mpaに変化する場合、粒子サイズは6から85ミクロンの間で変化する。
【0126】
実施例6B ポリマーのモル組成の粒子サイズへの影響
【表4】
【0127】
実施例6C 界面活性剤マンニトールの追加
スプレードライの前に、界面活性剤をPLGA/アルギン酸の製剤に加えた。界面活性剤なしでは、粒子サイズは12ミクロンであったが、界面活性剤を加えると粒子サイズは76ミクロンであった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癒着防止バリアを生成するための製剤であって、
ポリマーの組合せを含む複数の粒子を備え;
前記ポリマーの組合せは、少なくとも1つの生分解性ポリマーと少なくとも1つの水溶性ポリマーとを含み、
前記粒子の製剤が、内部生体組織の表面に堆積すると、前記堆積した製剤は、組織から水分を吸収するとともに、前記表面を覆うフィルムを形成し、
前記フィルムは、前記表面と別の生体組織との癒着を低減または防止する、
製剤。
【請求項2】
前記粒子は、水分を吸収すると膨潤するとともに重なり合い、前記膨潤および重なり合いにより、前記癒着を低減または防止する前記フィルムの形成を促進する、
請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記複数の粒子の平均サイズは、700nmから200ミクロンの間である、
請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記複数の粒子は、ドライパウダーの形態である、
請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記複数の粒子は、液体に均一に懸濁され、
前記液体は、0℃未満の沸点を有する、
請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記複数の粒子は、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーと前記少なくとも1つの水溶性ポリマーとの均質なブレンドである粒子を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記複数の粒子は、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーと前記少なくとも1つの水溶性ポリマーとから成る混合物を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記複数の粒子は、コアポリマーから成るコアと外殻ポリマーから成る外殻とを有する粒子を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項11】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーと前記少なくとも1つの生分解性ポリマーとのブレンドを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーまたは前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項12】
前記少なくとも1つの水溶性ポリマーは、PEG、PEGのブロックコポリマー、スクロース、デンプン、アルギン酸、PVP、PVA、およびそれらの任意の組合せからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記少なくとも1つの生分解性ポリマーは、50/50PLGAおよび70/30PLGAからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記ポリマーの組合せは、70/30PLGAとPVA;キトサンとPVA;およびキトサンとPVPとPLGAからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記複数の粒子は、抗炎症薬、抗感染薬、止血薬、化学療法薬、およびそれらの組合せからなるグループから選択される治療薬をさらに含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
前記フィルムは、前記水分の吸収後30〜60日の期間に強度を失う、
請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
癒着防止バリアを生成する方法であって、
少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む複数の粒子を供給するステップと;
前記複数の粒子を内部生体組織の表面に送達するステップと;
前記送達された粒子が、前記表面と別の生体組織との間の癒着を低減または防止する癒着防止バリアを前記表面上に形成するステップを備える;
方法。
【請求項18】
堆積した前記粒子は、前記組織から水分を吸収するとともに膨潤して前記フィルムの形成を促進する、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の粒子は、少なくとも1つの水溶性ポリマーをさらに含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の粒子は、気体中の懸濁物として送達される、
請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の粒子は、加圧された容器内に配設された、液体の噴霧剤中の懸濁物として供給され、前記複数の粒子の送達は、
前記圧力の開放によって前記懸濁物を前記容器から放出させるステップを備え;
前記容器から放出される前記液体の噴霧剤は気体へと消散し、前記粒子は空気中の懸濁物として前記組織に堆積する、
請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記癒着防止バリアにより形成される前記フィルムは、前記送達後30〜60日の期間に強度を失うとともに劣化する、
請求項17に記載の方法。
【請求項23】
癒着防止バリアを生成するためのシステムであって、
バルブを有する排出口を備える加圧された容器と;
前記加圧された容器内に配設される懸濁物とを備え;
前記懸濁物は、液体と、前記液体中に均一に懸濁された複数の粒子とを含み、
前記粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含むポリマーの組合せを含み、
前記液体は、周囲条件または大気条件に曝露されると速やかに蒸発するような沸点を有し、
前記バルブを開けると、前記懸濁物は前記排出口を通って放出されるとともに、前記液体は速やかに蒸発して空気中に前記粒子を分散させる、
システム。
【請求項24】
癒着防止バリアを製造する方法であって、
第1の溶媒に少なくとも1つの生分解性ポリマーを溶かして第1の溶液を形成するステップと;
第2の溶媒に水溶性ポリマーを溶かして第2の溶液を形成するステップであって、前記第1および第2の溶媒は不混和であるステップと;
前記第1および第2の溶媒のエマルジョンを形成するように第1および第2の溶液をブレンドするステップと;
前記ブレンドからポリマーの粒子を形成するステップであって、それぞれのポリマーの粒子は、前記生分解性ポリマーと前記水溶性ポリマーとのブレンドであるステップを備える;
方法。
【請求項25】
前記ポリマーの粒子は、前記エマルジョンをスプレードライすることにより形成される、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記粒子のサイズを縮小するステップをさらに備え;
前記縮小は、力学的、化学的、またはそれらの任意の組合せにより行われる、
請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記エマルジョンから前記第1の溶媒の少なくとも一部を除去して、前記エマルジョンから前記粒子の乳状の均一な懸濁物を形成するステップと;
次いで前記懸濁物をスプレードライして追加的なポリマーの粒子を形成するステップをさらに備える;
請求項24に記載の方法。
【請求項1】
癒着防止バリアを生成するための製剤であって、
ポリマーの組合せを含む複数の粒子を備え;
前記ポリマーの組合せは、少なくとも1つの生分解性ポリマーと少なくとも1つの水溶性ポリマーとを含み、
前記粒子の製剤が、内部生体組織の表面に堆積すると、前記堆積した製剤は、組織から水分を吸収するとともに、前記表面を覆うフィルムを形成し、
前記フィルムは、前記表面と別の生体組織との癒着を低減または防止する、
製剤。
【請求項2】
前記粒子は、水分を吸収すると膨潤するとともに重なり合い、前記膨潤および重なり合いにより、前記癒着を低減または防止する前記フィルムの形成を促進する、
請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記複数の粒子の平均サイズは、700nmから200ミクロンの間である、
請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記複数の粒子は、ドライパウダーの形態である、
請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記複数の粒子は、液体に均一に懸濁され、
前記液体は、0℃未満の沸点を有する、
請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記複数の粒子は、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーと前記少なくとも1つの水溶性ポリマーとの均質なブレンドである粒子を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記複数の粒子は、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーと前記少なくとも1つの水溶性ポリマーとから成る混合物を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項8】
前記複数の粒子は、コアポリマーから成るコアと外殻ポリマーから成る外殻とを有する粒子を含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項11】
前記コアポリマーは、前記少なくとも1つの水溶性ポリマーと前記少なくとも1つの生分解性ポリマーとのブレンドを含み、
前記外殻ポリマーは、前記少なくとも1つの生分解性ポリマーまたは前記少なくとも1つの水溶性ポリマーを含む、
請求項8に記載の製剤。
【請求項12】
前記少なくとも1つの水溶性ポリマーは、PEG、PEGのブロックコポリマー、スクロース、デンプン、アルギン酸、PVP、PVA、およびそれらの任意の組合せからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
前記少なくとも1つの生分解性ポリマーは、50/50PLGAおよび70/30PLGAからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
前記ポリマーの組合せは、70/30PLGAとPVA;キトサンとPVA;およびキトサンとPVPとPLGAからなるグループから選択される、
請求項1に記載の製剤。
【請求項15】
前記複数の粒子は、抗炎症薬、抗感染薬、止血薬、化学療法薬、およびそれらの組合せからなるグループから選択される治療薬をさらに含む、
請求項1に記載の製剤。
【請求項16】
前記フィルムは、前記水分の吸収後30〜60日の期間に強度を失う、
請求項1に記載の製剤。
【請求項17】
癒着防止バリアを生成する方法であって、
少なくとも1つの生分解性ポリマーを含む複数の粒子を供給するステップと;
前記複数の粒子を内部生体組織の表面に送達するステップと;
前記送達された粒子が、前記表面と別の生体組織との間の癒着を低減または防止する癒着防止バリアを前記表面上に形成するステップを備える;
方法。
【請求項18】
堆積した前記粒子は、前記組織から水分を吸収するとともに膨潤して前記フィルムの形成を促進する、
請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の粒子は、少なくとも1つの水溶性ポリマーをさらに含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の粒子は、気体中の懸濁物として送達される、
請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の粒子は、加圧された容器内に配設された、液体の噴霧剤中の懸濁物として供給され、前記複数の粒子の送達は、
前記圧力の開放によって前記懸濁物を前記容器から放出させるステップを備え;
前記容器から放出される前記液体の噴霧剤は気体へと消散し、前記粒子は空気中の懸濁物として前記組織に堆積する、
請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記癒着防止バリアにより形成される前記フィルムは、前記送達後30〜60日の期間に強度を失うとともに劣化する、
請求項17に記載の方法。
【請求項23】
癒着防止バリアを生成するためのシステムであって、
バルブを有する排出口を備える加圧された容器と;
前記加圧された容器内に配設される懸濁物とを備え;
前記懸濁物は、液体と、前記液体中に均一に懸濁された複数の粒子とを含み、
前記粒子は、生分解性ポリマーと水溶性ポリマーとを含むポリマーの組合せを含み、
前記液体は、周囲条件または大気条件に曝露されると速やかに蒸発するような沸点を有し、
前記バルブを開けると、前記懸濁物は前記排出口を通って放出されるとともに、前記液体は速やかに蒸発して空気中に前記粒子を分散させる、
システム。
【請求項24】
癒着防止バリアを製造する方法であって、
第1の溶媒に少なくとも1つの生分解性ポリマーを溶かして第1の溶液を形成するステップと;
第2の溶媒に水溶性ポリマーを溶かして第2の溶液を形成するステップであって、前記第1および第2の溶媒は不混和であるステップと;
前記第1および第2の溶媒のエマルジョンを形成するように第1および第2の溶液をブレンドするステップと;
前記ブレンドからポリマーの粒子を形成するステップであって、それぞれのポリマーの粒子は、前記生分解性ポリマーと前記水溶性ポリマーとのブレンドであるステップを備える;
方法。
【請求項25】
前記ポリマーの粒子は、前記エマルジョンをスプレードライすることにより形成される、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記粒子のサイズを縮小するステップをさらに備え;
前記縮小は、力学的、化学的、またはそれらの任意の組合せにより行われる、
請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記エマルジョンから前記第1の溶媒の少なくとも一部を除去して、前記エマルジョンから前記粒子の乳状の均一な懸濁物を形成するステップと;
次いで前記懸濁物をスプレードライして追加的なポリマーの粒子を形成するステップをさらに備える;
請求項24に記載の方法。
【図3】
【図4】
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図4】
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2013−502993(P2013−502993A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526927(P2012−526927)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046529
【国際公開番号】WO2011/031457
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(512048882)エーアールエー メディカル,エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】ARA MEDICAL,LLC
【住所又は居所原語表記】226 W.Edith Avenue,Unit #23,Los Altos,California 94022,United States of America
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046529
【国際公開番号】WO2011/031457
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(512048882)エーアールエー メディカル,エルエルシー (1)
【氏名又は名称原語表記】ARA MEDICAL,LLC
【住所又は居所原語表記】226 W.Edith Avenue,Unit #23,Los Altos,California 94022,United States of America
【Fターム(参考)】
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