説明

癒着防止手術用膜

【課題】癒着防止手術用膜の提供。
【解決手段】ポリマー材料からなる癒着防止手術用膜であって、膜1の2つ面のうちの少なくとも一方の面3が、曲りやすさを付与し、かつ、吸収性のあるエンボス4を備える、癒着防止手術用膜。該ポリマー材料としては、アルギン酸エステル誘導体を含んでいることが好ましい。該癒着防止手術用膜は、エンボス4に対応するセルを備えた鋳型における該水溶液の蒸発により形成されるものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癒着の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癒着とは、通常は離れている組織の表面を結合する線維性の細片である。癒着の形成は、治癒経過の枠組みの一部であるため、いかなる手術においても起こりうる結果である。
【0003】
癒着は、ヘルニアの治療あるいは婦人科系又は結腸(直腸)の手術のような腹腔あるいは骨盤の領域での手術を受けた多くの患者で起こる。このような癒着はまた、腱、心臓手術の結果としても生じる。
【0004】
癒着は、重い合併症、すなわち、小腸閉塞、生殖不能、慢性痛、後に続く手術における問題など、の原因ともなりうる。概して、腸閉塞の4件のうち3件、さらに慢性骨盤痛の5件のうち1件、あるいは、実に2件のうち1件が、術後の癒着により引き起こされている。古い癒着を正確に除去するための手術の結果、新しい癒着が引き起こされ、追加の手術に加え、治癒期間を延ばし、リスク、費用そして手術の複雑さを増加させる結果となることがしばしば起こっている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、特に、消化器系の手術において腸と腹腔壁の間に挿入するために使用される手術用癒着防止膜に関するものである。一般的に、本発明は、組織の相互癒着、例えば腱と皮膚の組織間の癒着、を防止するために使用される。
【0006】
癒着防止生体接着(bioadhesive)膜は、水溶液と数容量%の1種類以上のポリマーから水を蒸発させることで得ることができる。膜は、いわば、可塑化(plasticized)されている。ポリマーとして、アルギン酸エステル、例えば、ポロキサマー(poloxamer)及び銅を加えた、ポリエチレングリコールアルギネート、が用いられる。
【0007】
市場において現在入手できる膜は、十分な曲りやすさ(しなやかさ)がなく、本願の発明はそのような曲りやすさを増すことを目的としている。
【0008】
従って、本発明は、ポリマー材料からなる癒着防止手術用膜に係り、膜の二つの面のうち少なくとも一方の面が、膜に曲りやすさ・しなやかさを付与し、かつ、吸収性を提供するエンボスを備えていることに特徴がある。
【0009】
エンボス(面上に形成された複数の凸部からなるパターン)は、製造時に得られ、形成によって膜に異方性を提供し、それによって膜の曲りやすさ・しなやかさという特徴を増大させるので、曲りやすさ・しなやかさを与えるエンボスと言うことができる。
【0010】
エンボス(面上に形成された複数の凸部からなるパターン)は、使用時(組織の間に挿入された時)に、エンボス間に形成される溝によって、生物学的流体(体液)、付随的に滑剤として機能し得る、を保持することができるため、吸収性のあるエンボスと言うことができる。
【0011】
エンボス(面上に形成された複数の凸部からなるパターン)によって、膜の接触面が減少するため、膜を正確な位置に配置するように、膜をより簡単に移動させることができることが分かる。この点において、エンボスはまた接触エンボスと言うことができる。
【0012】
さらに、膜が治癒後のある時点で消滅することがその特徴の一つでもあるので、エンボスが、本発明の膜の(組織への)吸収(resorption)を高めることが可能であるということも分かる。
【0013】
本発明の膜材料は、架橋剤、アジュバント、有効成分を含んでもよい。
【0014】
本発明は、添付の図を参照しつつ、本発明の膜の興味深い実施形態の記載を読むことにより、よりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、上方から見た膜の斜視図である。
【図2】図2は、吸収性を提供する溝を通る膜の断面図である。
【図3】図3は、吸収性を提供する溝と並行して配置された複数の凸部の列を通る断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に述べる膜を成形するため、先ず、小さな開口状の複数のセルを有する底部を備えるように鋳型部が形成される。前記セルは、実質的に平行六面体状(parallelepipedic)であり、複数の行と複数の列からなるマトリックス配列に従って、前記底部の表面に規則的に分布するように配置される。それは、マトリックスに型押された型のコンフォーマ(conformer)である。
【0017】
水とポリマーからなる溶液が用意される。それを鋳型に注入し、可塑化(plasticized)された膜1が得られるまで、水を蒸発させる。膜1は、一方に平面2を、そしてもう一方は、表面に凹凸模様が付された、すなわち、凹凸面3を備える。面3は、鋳型のセルに対応する小さい平行六面体状の凸部4の形をしたエンボス、すなわち複数の突起を備えている。複数の凸部は、互いに直交しており、吸収性を提供する複数の溝7と並行するように、複数の列5と複数の行6からなるマトリックスとして、面3に分布させて配置されている。
【0018】
膜を形成するためのベースとなる溶液として、架橋プロピレングリコールアルギネート(アルギン酸エステル)が意図され、ここでは登録商標Lutrolの製品、グリセロール(アジュバント)、架橋イオンとしての銅が加えられる。意図された種におけるポリマー比率は、2容量%である。0.5容量%から10容量%の範囲のポリマーが適切である。そのような範囲は、 溶液が、その粘性が大き過ぎたり、あるいは水分を含み過ぎたりすることを防ぐために適切である。
【0019】
アルギン酸エステルの架橋剤として、一般的には、銅のようないかなる多価イオンをも使うことができる。活性成分の例には、ビタミン、抗炎症物質、抗酸化物質が含まれる。
【0020】
ビタミン錯体(有効成分)の添加は、手術により傷つけられた組織の治癒を改善させることができる。
【0021】
このようにして、膜に曲りやすさを与え、体液を吸収・保持することができ、かつ組織に接触するようなエンボスが得られる。
【0022】
エンボスの形成を通じてこのようにして得られた膜は、大きい曲りやすさ・しなやかさという特徴を備えると共に、価値のある吸収能力及び簡単な再配置(容易に位置を動かすことができる)を呈する。それは、丸めてロール状に収納することもできうる。
【0023】
癒着防止膜は、その二面のうちの一方のみエンボスが施されているものとして記載した。膜は両面においてエンボスが形成されていてもよい。
【0024】
膜が、その片面のみにおいてエンボスが形成されている場合には、もう一方の面が癒着し得る。
【0025】
明らかに、本発明の膜は、ある特定の用途での使用において、曲りやすさを備えた裏材と結合させてもよい。
【0026】
平行六面体状のエンボス(面上に形成された複数の凸部からなるパターン)を備えた膜について記載した。明らかに、それは限定的な特徴ではない。エンボス(凸部)は、円錐台状でも、円形状でも、円筒形であってもよい。エンボスの配置もまた、マトリックス配置のように規則的な配置でなくてもよい。
【0027】
本発明において、膜は2面を備え、少なくとも一方の面には、複数の凸部が互いに間隔を存して略面全体に亘って分布するように配置されており(図示の態様例では、複数の凸部は膜の一方の面上に経緯方向に列を形成するように並んで配置されている。)、膜に対して方向に因らないしなやかさや曲がりやすさを付与し、また、複数の凸部が組織に接触した時には、複数の凸部間に体液を保持する溝が形成される。膜が凸部を介して組織に接触する時には、膜と組織との接触面積を小さくできると共に、凸部間に形成された溝に保持された体液が滑剤となって、膜の位置の調整を容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料からなる癒着防止手術用膜であって、
膜の2つ面のうちの少なくとも一方の面(3)が、曲りやすさを付与し、かつ、吸収性のあるエンボス(4)を備える、
癒着防止手術用膜。
【請求項2】
前記ポリマー材料がアルギン酸エステル誘導体を含んでいる、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記膜は、ポリマーが0.5容量%〜10容量%の水溶液の蒸発により形成される、請求項1に記載の膜。
【請求項4】
前記膜は、前記膜のエンボス(4)に対応するセルを備えた鋳型における前記水溶液の蒸発により形成されるクレーム3に記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−104785(P2010−104785A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248355(P2009−248355)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509300511)
【氏名又は名称原語表記】LES LABORATOIRES BROTHIER
【Fターム(参考)】