説明

発光素子

【課題】燐光発光を用いた有機EL素子においても、低電圧駆動・高輝度化・高効率化を可能にし、且つ長寿命な発光素子及び表示装置を提供する。
【解決手段】陽極および陰極と該陽極および陰極間に狭持された有機発光層を有する発光素子において、該有機発光層がホスト材料と少なくとも一種のドーパントから構成され、該ドーパントの少なくとも一種が、該ホスト材料と該ドーパントの電子親和力の差が0.3eV以内であり、且つ、該ホスト材料と該ドーパントのイオン化ポテンシャルの差が0.8eV以内である発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を用いた発光素子に関するものであり、さらに詳しくは有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、高速応答性や高効率の発光素子として、応用研究が精力的に行われている(非特許文献1)。その基本的な構成を図1に示した。図1に示したように一般に有機EL素子は透明基板6上の透明電極5と金属電極1の間に挟持された複数層の有機膜層から構成される。
【0003】
図1(a)では、有機層が電子輸送層2、発光層3及びホール輸送層4からなる。
【0004】
透明電極5としては、仕事関数が大きなITOなどが用いられ、透明電極5からホール輸送層4への良好なホール注入特性を持たせている。金属電極1としては、アルミニウム、マグネシウムあるいはそれらを用いた合金などの仕事関数の小さな金属材料を用い有機層への良好な電子注入性を持たせる。これら電極は50〜200nmの膜厚が用いられる。
【0005】
発光層3には、電子輸送性と発光特性を有するアルミキノリノール錯体など(代表例は、以下に示すAlq3)が用いられる。また、ホール輸送層4には、例えばビフェニルジアミン誘導体(代表例は、以下に示すα−NPD)など電子供与性を有する材料が用いられる。電子輸送層2としては、例えば、オキサジアゾール誘導体などを用いることができる。
【0006】
これまで、一般に有機EL素子に用いられている発光は、発光中心の分子の一重項励起子から基底状態になるときの蛍光が取り出されている。一方、一重項励起子を経由した蛍光発光を利用するのでなく、三重項励起子を経由した燐光発光を利用する素子の検討がなされている(非特許文献2、非特許文献3)。これらの文献では、図1(b)に示す有機層の4層構成が主に用いられている。それは、陽極側からホール輸送層4、発光層3、励起子拡散防止層7、電子輸送層2からなる。用いられている材料は、以下に示すキャリア輸送材料と燐光発光性材料である。各材料の略称は以下の通りである。
Alq3:アルミ−キノリノール錯体
α−NPD:N4,N4’−Di−naphthalen−1−yl−N4,N4’−diphenyl−biphenyl−4,4’−diamine
CBP:4,4’−N,N’−dicarbazole−biphenyl
BCP:2,9−dimethyl−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline
PtOEP:白金−オクタエチルポルフィリン錯体
Ir(ppy)3:イリジウム−フェニルピリジン錯体
【0007】
【化1】

【0008】
非特許文献2、3とも高効率が得られたのは、ホール輸送層4にα−NPD、電子輸送層2にAlq3、励起子拡散防止層7にBCP、発光層2にCBPをホスト材料として、6%程度の濃度で、燐光発光性材料であるPtOEPまたはIr(ppy)3を混入して構成したものである。
【0009】
燐光性発光材料が特に注目されている理由は、原理的に高発光効率が期待できるからである。その理由は、キャリア再結合により生成される励起子は1重項励起子と3重項励起子からなり、その確率は1:3である。1重項を利用した有機EL素子は、1重項励起子から基底状態に遷移する際の蛍光を発光として取り出していたが、原理的にその発光収率は生成された励起子数に対して、25%でありこれが原理的上限であった。しかし、3重項から発生する励起子からの燐光を用いれば、原理的に少なくとも3倍の収率が期待され、さらに、エネルギー的に高い1重項からの3重項への項間交差による転移を考え合わせれば、原理的には4倍の100%の発光収率が期待できる。
【0010】
また、燐光発光性金属配位化合物をドーパントに用いたホスト材料の開発も活発に行われている(特許文献1)。しかしながら、記載されているIr(ppy)3をドーパントに用いた場合、閾値電圧が高く電流が流れ難いため、改善の余地があった。
【0011】
【特許文献1】特開2003−55275号公報
【非特許文献1】Macromol.Symp.125,1〜48(1997)
【非特許文献2】Improved energy transfer in electrophosphorescent device(D.F.O’Brienら、Applied Physics Letters Vol 74,No3 p422(1999))
【非特許文献3】Very high−efficiency green organic light−emitting devices basd on electrophosphorescence(M.A.Baldoら、Applied Physics Letters Vol 75,No1 p4(1999))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記、燐光発光を用いた有機EL素子では、低電圧で電子・正孔のバランスを保ちながら、低い電圧でより多くのキャリアを発光層に注入することが高輝度化・高効率化に重要な問題となる。しかし、上記燐光材料の中には電荷注入性・輸送性が低く低電圧で多くの電流を流すことが困難なものもある。
【0013】
そこで、本発明は、燐光発光を用いた有機EL素子においても、低電圧駆動・高輝度化・高効率化を可能にし、且つ長寿命な発光素子及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題に対し、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明を考案するに至った。
【0015】
即ち、本発明の発光素子は、陽極および陰極と該陽極および陰極間に狭持された有機発光層を有する発光素子において、該有機発光層がホスト材料と少なくとも一種のドーパントから構成され、該ドーパントの少なくとも一種が、該ホスト材料と該ドーパントの電子親和力の差が0.3eV以内であり、且つ、該ホスト材料と該ドーパントのイオン化ポテンシャルの差が0.8eV以内であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の発光素子は、陽極および陰極と該陽極および陰極間に狭持された有機発光層を有する発光素子において、該有機発光層がホスト材料と少なくとも一種のドーパントから構成され、該ドーパントの少なくとも一種が燐光発光性化合物であるとともに、該ホスト材料が、アモルファス膜での最低励起三重項エネルギーが該燐光発光性化合物の発光エネルギーより大きい化合物であって、芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、低電圧駆動・高輝度化・高効率化を可能にし、且つ長寿命な有機電界発光素子を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の発光素子は、陽極および陰極と、陽極および陰極間に挟持された有機発光層を有する発光素子である。発光素子の層構成としては特に限定されず、図1に示す様な構成が挙げられる。さらに、作製方法として、真空蒸着法に限らず塗布法に代表される湿式法でもよい。
【0019】
本発明の発光素子は、有機発光層がホスト材料とホスト材料に混入される少なくとも一種のドーパント、好ましくは燐光発光性化合物、より好ましくは、以下に示すイリジウム錯体から構成される。
【0020】
【化2】

【0021】
ここで、一般に視感効率低下の原因となる濃度消光を抑制するためには発光分子濃度を薄くする方法があるが、その場合、電流も流れなくなるのでエネルギー効率が低下する。化2に示したようなイリジウム錯体は構造が球体であり、白金−オクタチエニルポルフィリン錯体などの構造が平らなものに比べ会合性が低く濃度消光の抑制に有効である。そのようなイリジウム錯体においても、その配位子構造中に置換基を有するものは分子間の相互作用が少なく電流伝導性が落ちることが多く(例えばキャリアの分子間ホッピング障害の原因になるなど)、さらには逆に分子間の相互作用が少ないために、濃度消光を始めとする分子間消光機構を抑制することができ、発光分子に置換基を付与することは発光のためには有効である。しかしながら、駆動電圧が上がり、素子寿命が短いという点が問題であった。
【0022】
上記のように、電流が流れ難い置換基を有する燐光発光性金属配位化合物を用いる場合、発光素子の低電圧化が困難であったが、このような低電圧化の難しい材料であっても置換基を持たない発光材料と混合させることにより、より低電圧化を図ることができる。さらに、大幅な低電圧化の方法として、ホスト材料とドーパントとのイオン化ポテンシャルの差が0.3eV以内、電子親和力の差が0.8eV以内である材料を用いることで、閾値電圧を低下させ、所定輝度での駆動電圧を下げることができることを見出した。これは、両電極より注入した電荷が、発光層へ注入し、発光層内を電荷が伝播する際、発光性ドーパント自身が電荷の担体になっていてもドープ濃度が数%であるため、電荷の大半はホスト材料を伝播することになる。例えば、電子を例に挙げると、ホスト材料の電子親和力とドーパントの電子親和力が離れすぎている場合、ホスト材料からドーパントに移り難くなり、ホスト上での再結合や、ホール輸送層への電子の抜けが起きる可能性が考えられる。この結果、ドーパント上での再結合確率が低下し、電流効率が低下することになる。
【0023】
ここで、発光層にドープするドーパントは、数種類存在しても良い。この場合、ホスト材料の電子親和力とイオン化ポテンシャルが、数種類のドーパントのうち、少なくとも一つのドーパントと電子親和力の差ΔE1で0.3eV以内、イオン化ポテンシャルの差ΔE2で0.8eV以内であれば、閾値電圧が低下し、所定輝度で低電圧化することがわかった。また、低電圧化したことで発光層の電界強度が低下し、長寿命化にもつながると考えられる。これは、発光層内でトラップとして働くドーパントに対して、ホスト材料のイオン化ポテンシャルと電子親和力を合わせることで、電荷がドーパントにトラップされ易くなるためと考えられる。
【0024】
本発明でいうイオン化ポテンシャルとは、基板上に蒸着した薄膜を、光電子分光法を用いて直接測定している。また、バンドギャップ[BG]とは、有機溶媒中に溶解させた希薄溶液の吸収スペクトルの吸収端から求められる値(λnm)を(式1)に示した換算式に代入して求めた値である。
[BG]=1243/λ (式1)
【0025】
また、上記測定方法より求めたイオン化ポテンシャル[Ip]と上記(式1)より求めたバンドギャップから、(式2)にしたがって電子親和力[Ea]を求められる。
[Ea]=[Ip]−[BG] (式2)
【0026】
また、イオン化ポテンシャルとHOMOのエネルギー準位、電子親和力とLUMOのエネルギー準位は、それぞれ同義のものと定義する。
【0027】
さらに、発光層内に注入された電荷は、ドーパント上で再結合する場合とホスト上で再結合する場合の2種類が考えられる。通常、発光層内では、この2種類の過程がある程度の割合で起こっていると考えられる。最終的には、ドーパントの発光を取り出すため、理想的には、ドーパント上で100%再結合するか、ホスト上で再結合してもドーパントにスムーズにエネルギー移動を起こせば良い事となる。ここで、エネルギー移動の過程としては、フェルスター型のエネルギー転移が考えられ、ホストの発光とドーパントの吸収が重なることが条件となる。従って、ドーパントが、カチオン状態やアニオン状態で非常に不安定な場合でも、ホスト上で再結合しドーパントにフェルスター型あるいはデクスター型のエネルギー移動を起こすことで、ドーパントを安定に長時間発光させることが可能となる。
【0028】
さらに、本発明者等は、芳香性側方置換基を持たない線状芳香族化合物をホストとして用いると、特に、濃度消光を始めとした分子間消光機構を抑制する置換基を分子構造中に有するイリジウム錯体を発光層中のドーパントとした場合に、素子寿命が大幅に改善することを見出した。さらに、ホスト分子を構成する原子が、炭素原子と水素原子のみから構成されることで、素子寿命を改善することができる。これは、分子内にヘテロ原子を有する分子の場合、炭素原子と水素原子のみから構成された分子と比較して、炭素原子とヘテロ原子の電気陰性度の差によって、一分子当たりの双極子モーメントがより大きくなり、両電極から注入され伝播してきた電荷が発光層に注入したあと、電荷の移動を妨げるように働き伝導性を落とすと考えられる。また、真空蒸着法等で有機発光層を形成する場合には、より大きな双極子モーメント持つ分子は、極性も大きくなり電荷移動の妨げとなるような極性分子を取り込み易くなり、発光素子内の不純物濃度が増し素子寿命を低下させる原因となり得る。
【0029】
ここで、芳香族側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物とは、芳香環が線状に結合し、分子の長軸方向と異なる方向に芳香族置換基を持たない、さらには、分子長軸方向と異なる方向に、例えば、カルバゾール環、アントラセン環、フルオレン環のような縮環構造をもたない化合物を言う。例えば、以下に示す化合物1〜4等のような、分子の長軸方向であるフルオレン環の2および7−位を除く1、3、4、5、6、8−位のいずれの位置にも芳香族置換基を持たないフルオレン多量体が挙げられる。好ましくは、分子の長軸がフェニル環、フルオレン環、ナフタレン環、またはこれらの組合せで構成される化合物である。
【0030】
本発明で用いる線状芳香族化合物は単一分子量を有するため、ポリフルオレンに代表される炭素と水素から成る高分子型の線状芳香族化合物の様に、不純物除去が困難ではなく、発光素子の初期効率、素子寿命の面で有利である。
【0031】
また、特にドーパントとして、発光波長が600nm近辺である赤発光材料を用いる場合には、ホスト材料は3量体以上、好ましくは3量体以上5量体以下のフルオレンオリゴマーが望ましい。3量体以上のフルオレンオリゴマーであれば、結晶化しにくく、蒸着時に安定である。
【0032】
また、ホスト材料は、ガラス転移点(Tg)が120℃以上であることが好ましい。芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物で、分子の長軸がフルオレン環のみで構成された化合物は、アモルファス性に優れ、120℃以上という高ガラス転移温度(Tg)を実現できる。さらには、分子長軸方向に嵩高い置換基を導入することで、さらなる高ガラス転移温度(Tg)を実現できる。
【0033】
以下に、芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物の具体例を示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化3】

【0035】
本発明の高効率な発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。また、プリンターの光源としては、現在広く用いられているレーザビームプリンタのレーザー光源部を、本発明の発光素子に置き換えることができる。独立にアドレスできる素子をアレイ上に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、画像形成する。本発明の素子を用いることで、装置体積を大幅に減少することができる。照明装置やバックライトに関しては、本発明による省エネルギー効果が期待できる。
【実施例】
【0036】
本実施例に用いた素子作製工程の共通部分を説明する。
【0037】
本実施例では、素子構成として、図1(a)に示す有機層が3層の素子を使用した。
【0038】
ガラス基板(透明基板6)上に100nmのITO(透明電極5)をパターニングして、対抗する電極面積が3mm2になるようにした。そのITO基板上に、以下の有機層と電極層を10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着し、連続成膜した。
ホール輸送層4(20nm):FL03
発光層3(50nm):ホスト材料+ドーパント
電子輸送層2(30nm):Bphen
金属電極層1(1nm):KF
金属電極層1(100nm):Al
【0039】
【化4】

【0040】
また、実施例、比較例に用いた材料の電子親和力(Ea)、イオン化ポテンシャル(Ip)、ガラス転移温度(Tg)の値を表1にまとめた。
【0041】
【表1】

【0042】
ここで、イオン化ポテンシャルの測定には、Scientific Instrument Services社製VG Scientific ESCA Labを使用し、測定には、1×10-7Paの真空中で測定を行った。BGの測定は、島津製作所社製UV−3100Sを使用し、トルエン溶液中に1×10-5mol/lの濃度で溶解させて測定を行っている。Tgの測定は、マックサイエンス社製DSC3100Sを使用して測定を行った。
【0043】
また、実施例1〜5、比較例1〜4のホスト材料のアモルファス膜での最低励起三重項エネルギー準位を測定した結果、ドーパントの最低励起三重項エネルギー準位より大きいことが確認された。測定方法は、ガラス基板上に200nmの厚みに真空蒸着したものを液体窒素温度に冷却して光励起での1ms以上の発光成分の発光波長ピークを薄膜状態・アモルファス膜での励起三重項エネルギーとして読み取った。尚発光を確認できない場合は、増感剤としてIr(ppy)3を用いて測定を行った。
【0044】
<実施例1〜3、比較例1>
発光層3のホスト材料、ドーパントとして表2に示すものを使用した。ドーパント濃度はIr(bq)3を8wt%、Ir(4mopiq)3を4wt%とした。
【0045】
表2におけるΔE1はホスト材料とドーパントの電子親和力の差であり、ΔE2はホスト材料とドーパントのイオン化ポテンシャルの差であり、実際の測定値として、表1の値を用いた。また、評価は、ΔE1≦0.3eV、ΔE2≦0.8eVを同時に満たしている場合を〇、いずれかを満たしていない場合を×とした。
【0046】
これらの素子の、効率(600cd/m2時のlm/W)、定電流駆動(100mA/cm2)での輝度半減時間(hr)、閾値電圧(0.1mA/cm2流れる電圧)及び評価を表3に示す。尚、スペクトルより、主発光はIr(4mopiq)3によるλmax=610nmの赤色発光であることが確認された。
【0047】
表3における評価は、効率に関しては10.0lm/W以上を○とした。閾値電圧に関しては電池の消耗は定電流駆動の場合電圧が低いほど好ましいため、基準として3.0V以下を○、それ以上を×とした。寿命に関しては上記輝度半減時間は電流加速試験での値であるので、600cd/m2換算の輝度半減時間で20000時間以上を○、20000時間未満を×とした。
【0048】
表3より効率は、実施例1〜3と比較例1の両方で10.0lm/W以上の高い値が出ている。寿命は、実施例1〜3では使用する実輝度領域で、25000hr以上の値であるが、比較例1では14000hrの値となった。閾値電圧では、実施例1〜3の値に比べて比較例1では、0.5〜0.6V高い値になっていることがわかる。
【0049】
即ち、効率・寿命・閾値電圧の全てを満たしている実施例1〜3では、少なくともIr(bq)3がΔE1、ΔE2の両方を満たしていることがわかる。また、実施例1〜3のホスト材料は炭素原子と水素原子のみから構成されているが、比較例1に示したホスト材料(CBP)は、分子構造中にヘテロ原子を含有している。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
ホスト化合物の薄膜状態・アモルファス膜での最低励起三重項エネルギー準位を、アシスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位と近接させることにより該アシスト化合物の発光を抑制できることがわかった。
【0053】
本実施例で用いたIr(bq)3の最低励起三重項エネルギー準位は2.12eVであるが、化合物1をホストに用いた場合は発光色度が(0.65,0.35)となり、化合物3をホストに用いた場合には発光色度は(0.64,0.36)となり、発光色はIr(bq)3の発光の混じったオレンジのものになる。この場合の化合物1の薄膜状態・アモルファス膜での最低励起三重項エネルギー準位は2.17eVであり化合物3の薄膜状態・アモルファス膜での最低励起三重項エネルギー準位は2.27eVであった。このことから、色度を良好に保つ為には薄膜状態でのホスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位とアシスト化合物の最低励起三重項エネルギー準位の差が0.05eV以下であることが望ましいことがわかった。
【0054】
ここで、化合物1と化合物3の溶液状態での最低励起三重項エネルギー準位はそれぞれ2.98および3.18eVであった。したがって、薄膜状態・アモルファス膜での最低励起三重項エネルギー準位がより重要であることがわかる。
【0055】
尚、実施例1〜3では、ホスト材料のアモルファス膜最低励起三重項エネルギー準位と、Ir(4mopiq)3の最低励起三重項エネルギー準位との差が0.2eV以下であり、比較例1では、0.2eV以上であった。このエネルギー準位差が大きいと、ホストからドーパントへのエネルギー移動を起こし難くなると考えられる。
【0056】
<実施例4、比較例2、3>
発光層3のホスト材料、ドーパントとして表4に示すものを使用した。ドーパント濃度は10wt%とした。また、ホスト材料として用いた化合物5、TCTAの構造を以下に示す。
【0057】
【化5】

【0058】
これらの素子の、効率(600cd/m2時のlm/W)、定電流駆動(100mA/cm2)での輝度半減時間(hr)、閾値電圧(0.1mA/cm2流れる電圧)及び評価を表5に示す。尚、スペクトルより、発光はIr(piq)3によるλmax=625nmの赤色発光であることが確認された。
【0059】
表5における評価は、効率に関しては5.0lm/W以上を○とした。これは、実施例1〜3のドーパントと比較して、発光スペクトルが長波長化(λmax=625nm)しているため、視感効率が低くなっているためである。その他は表3の場合と同様である。
【0060】
尚、比較例2のホスト材料(TCTA)は、分子構造が非線状芳香族化合物であり、また比較例3のホスト材料(化合物5)は、分子構造中にヘテロ原子を含有しないが、分子構造が線状ではなく平面状に広がった構造である。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
以上の様に、ΔE1≦0.3eV、ΔE2≦0.8eVを同時に満たしているドーパントを少なくとも一種含有する本発明の素子は、高効率、長寿命、低閾値電圧の三項目全てを満たしていることがわかる。
【0064】
尚、実施例4では、ホスト材料のアモルファス膜最低励起三重項エネルギー準位と、Ir(piq)3の最低励起三重項エネルギー準位との差が0.2eV以下であり、比較例2、3では0.2eV以上であった。
【0065】
<実施例5、比較例4>
メトキシ基などの置換基を含むイリジウム錯体はCBPをホストとして用いた素子では極めて駆動電圧が高い点が問題であった。この原因は明らかではないが、ホスト化合物として芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物を用いることで駆動電圧を低電圧化することができることがわかった。
【0066】
発光層3のホスト材料、ドーパントとして表6に示すものを使用した。ドーパント濃度は10wt%とした。
【0067】
これらの素子の、効率(600cd/m2時のlm/W)、定電流駆動(100mA/cm2)での輝度半減時間(hr)、閾値電圧(0.1mA/cm2流れる電圧)及び評価を表7に示す。尚、スペクトルより、発光はIr(4mopiq)3によるλmax=610nmの赤色発光であることが確認された。
【0068】
【表6】

【0069】
【表7】

【0070】
以上の様に、置換基を含むイリジウム錯体を、芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物中にドープした素子は、ヘテロ原子を含む化合物をホストとして用いた場合と比較して、低閾値電圧化し、素子寿命を大きく改善できることが確認された。
【0071】
尚、実施例5では、ホスト材料のアモルファス膜最低励起三重項エネルギー準位と、Ir(4mopiq)3の最低励起三重項エネルギー準位との差が0.2eV以下であり、比較例4では0.2eV以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極と該陽極および陰極間に狭持された有機発光層を有する発光素子において、該有機発光層がホスト材料と少なくとも一種のドーパントから構成され、該ドーパントの少なくとも一種が、該ホスト材料と該ドーパントの電子親和力の差が0.3eV以内であり、且つ、該ホスト材料と該ドーパントのイオン化ポテンシャルの差が0.8eV以内であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記ホスト材料が、芳香性側方置換基を持たない線状芳香族化合物であることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記ホスト材料が、炭素原子と水素原子のみからなることを特徴とする請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記ドーパントがイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記ホスト材料が、フルオレン多量体を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記ホスト材料のガラス転移点(Tg)が120℃以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の発光素子。
【請求項7】
陽極および陰極と該陽極および陰極間に狭持された有機発光層を有する発光素子において、該有機発光層がホスト材料と少なくとも一種のドーパントから構成され、該ドーパントの少なくとも一種が燐光発光性化合物であるとともに、該ホスト材料が、アモルファス膜での最低励起三重項エネルギーが該燐光発光性化合物の最低励起三重項エネルギーより大きい化合物であって、芳香性側方置換基を持たない単一分子量の線状芳香族化合物であることを特徴とする発光素子。
【請求項8】
前記ドーパントの少なくとも一種が置換基を有する燐光発光性化合物であることを特徴とする請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記ホスト材料の薄膜での最低励起三重項エネルギー準位と前記燐光発光性化合物の最低励起三重項エネルギー準位のエネルギー差が0.2eV以下であることを特徴とする請求項7または8に記載の発光素子。
【請求項10】
前記燐光発光性化合物を少なくとも二種有し、該燐光発光性化合物のうち最低励起三重項エネルギー準位が最も高い燐光発光性化合物と前記ホスト材料の最低励起三重項エネルギー準位がほぼ等しいことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−32883(P2006−32883A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283240(P2004−283240)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】