説明

発光装置

【課題】高輝度の白色光を効率よく発生させることができる発光装置を提供する。
【解決手段】発光効率の高い青色発光体と黄色発光体とを用いて発光体層16を形成することにより、発光効率の低い白色の発光体を用いることなく、白色光を生成する。その際、発光体層16の表面に青色発光体粒子17と黄色発光体粒子18とをそれぞれ露出させることにより、何れの発光体粒子17,18にも電子を直接的に照射して効率の良い電子励起を実現することができる。しかも、電子励起のみならず青色光による光励起によっても黄色光を発光するYAG等を黄色発光体として用いることにより、青色発光体粒子17で発光された青色光の一部が発光体層16を通過する際に黄色発光体粒子18によって遮られた場合にも、当該青色光は黄色光の発光に寄与させることができ、エネルギーロスを低減して効率よく白色光を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極電子放出源から電界放出された電子によって発光体(蛍光体)を励起発光させることにより白色光を発生させる発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱電球や蛍光灯といった従来の発光装置に対し、真空中で冷陰極電子放出源から電界放出された電子を高速で発光体(蛍光体)に衝突させることにより、発光体を励起発光させる冷陰極電界放出型の発光装置が開発されており、電界放出型照明ランプ(Field Emission Lamp:FEL)や電界放出型表示装置(Field Emission Display:FED)としての用途が見込まれている。
【0003】
これらの発光装置のうち、FEDの製造工程では、一般に、ピクセルサイズ等に応じたミクロンオーダーの各種マイクロプロセスが多用される。例えば、FEDの製造工程では、スパッタリング法やCVD法など半導体チップなどに用いられる周知のマイクロプロセスにより、ガラスやセラミック類等の絶縁性基板上に陰極(カソード電極)が形成される。また、絶縁性基板上に直接に、または絶縁性基板表面に形成された配線層に接続して柱状溶融材を形成し、この柱状溶融材に、直径10〜100μmの開口部が複数開口された板厚30〜60μmの金属薄板を固定することにより、ゲート電極が形成される。
【0004】
その一方で、ランプ用光源等に用途が特化させるFELでは、カソード電極等に対してFEDのようなミクロンオーダーの微細加工を施す必要がなく、ゲート電極に開口される開口部についても直径がミリメートルオーダーの比較的大径のもので足りる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従って、FELの製造では、設備に多大な費用等が必要なマイクロプロセスを排除し、大気中のプロセスのみで大量生産可能な部品を組み合わせて目的の各機能部品を製造することにより、大幅なコストダウンを期待できる。例えば、カソード電極及びゲート電極を、板厚が0.数mm程度の金属板を基材とする個別の機能部品でそれぞれ構成し、これらを真空容器内に組み付けることにより、FELを安価に製造することが考えられる。
【特許文献1】特開2006−339012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のFELは、各種照明用の光源として用いる等の多くの場合に、白色発光させることが要求される。
【0007】
しかしながら、蛍光管に広く一般に用いられる発光体等のように、紫外線によって白色光を励起発光する発光体については高輝度に発光するものが多く開発されているものの、電子によって白色光を励起発光する発光体については、十分な高輝度に発光するものが開発されていないのが現状である。
【0008】
従って、FELにおいて、例えば、白色光を励起発光する発光体をアノード電極に設けて白色光を得ようとした場合、発光体層におけるエネルギーロスが大きくなり、高輝度の白色光を効率よく発生させることが困難となる虞がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、高輝度の白色光を効率よく発生させることができる発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、冷陰極電子放出源が表面に形成されたカソード電極と、前記冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の発光体が混合された発光体層が前記カソード電極に対向する面に形成されたアノード電極と、を真空容器内に備え、前記各種類の発光体は、各発光の混光によって白色光を生成する関係を有し、前記発光体層の表面にそれぞれが前記電界放出された電子に直接曝されるように分布されるとともに、少なくとも何れか1種類の前記発光体は他の種類の前記発光体からの光によっても励起発光する特性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発光装置によれば、高輝度の白色光を効率よく発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の形態を説明する。図面は本発明の一実施形態に係わり、図1は発光装置の基本構成図、図2は発光体層を拡大して示す模式図、図3は青色発光体及び黄色発光体の励起発光についての説明図、図4は青色発光体単体、黄色発光体単体、及び、これらを混合した各発光体層で発する光の輝度分布を示す図表、図5は発光体層における青色発光体と黄色発光体との重量比と輝度との関係を示す図表である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態における発光装置1は、例えば、平面状の電界放出型白色照明ランプとして用いられる発光装置であり、ガラス基板2,3が所定間隔で対向配置された真空容器4内に、カソード電極5、ゲート電極10、アノード電極15が基底面側から投光面側に向かって順に配置された基本構成を有している。
【0014】
カソード電極5は、基底面となるガラス基板2上に形成された導電材からなり、例えば、アルミニウムやニッケル等の金属を蒸着やスパッタ法等によって堆積したり、銀ペースト材を塗布して乾燥・焼成する等して形成される。このカソード電極5の表面には、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、スピント型マイクロコーン、金属酸化物ウィスカー等のエミッタ材料が膜状に塗布され、冷陰極電子放出源6が形成されている。
【0015】
本形態においては、冷陰極電子放出源6は、所定の領域毎にパターン化され、パターン化された領域(電子放出領域)の周囲に、カソード電極5を覆うカソードマスク7が配置されている。
【0016】
ゲート電極10は、冷陰極電子放出源6から放出された電子を通過させる開口部11を有する平板部材で構成されている。具体的には、ゲート電極10は、例えば、ニッケル材、ステンレス材、アンバー材等の導電性金属板に、冷陰極電子放出源6のパターン領域に対応する複数の開口部11が、単純な機械加工等によって形成されて要部が構成されている。ゲート電極10の開口部11は、例えば、ランド状に形成された冷陰極電子放出源6のパターン領域と同じか若干大きく形成された円孔として形成されている。これにより、冷陰極電子放出源6から放出される略全ての電子を通過させて発光に寄与する有効電子とすることができ、ゲート電極10での電力損失を低減し、無損失ゲートの実現を可能としている。
【0017】
アノード電極15は、投光面となるガラス基板3の裏面側に配置された透明導電膜(例えば、ITO膜)からなり、ゲート電極10(カソード電極5)に対向する面に、冷陰極電子放出源6から放出された電子によって励起発光される発光体層16が形成されている。
【0018】
発光体層16は、励起発光する光の波長帯域が異なる複数種類の発光体(蛍光体)が混合されてなり、これら各発光体からの光の混光によって白色光を生成する。本実施形態において、発光体層16は、例えば、青色光を励起発光する青色発光体(第1の発光体)と、この青色光と補色関係にある黄色光を励起発光する黄色発光体(第2の発光体)とが混合されている。この場合、青色発光体には、例えば、数ppmの活性剤が添加された硫化亜鉛(ZnS)系の青色発光体が好適に用いられ、この青色発光体は、例えば、図4に破線で示すように、電子による励起発光により、主として波長帯域が400〜600nmの青色光を高い発光効率で発光する。一方、黄色発光体には、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)系の黄色発光体が好適に用いられ、この黄色発光体は、例えば、図4に一転鎖線で示すように、電子による励起発光により、主として波長帯域が450〜650nmの黄色光を高い発光効率で発光する。さらに、本実施形態で用いられるYAG系の黄色発光体は、青色光によっても黄色光を励起発光する特性を有する。
【0019】
図2に示すように、発光体層16は、具体的には、青色発光体粒子17と、黄色発光体粒子18との混合によって形成されている。この発光体層16の表面には、各種類の発光体粒子17,18がそれぞれ露出して分布されており、これら露出された発光体粒子17,18は、真空容器4内において、冷陰極電子放出源6から放出される電子にそれぞれ直接的に曝されるようになっている。
【0020】
このような発光体層16は、例えば、黄色発光体粒子を含む分散液と青色発光体粒子を含む分散液とをスクリーン印刷等によってアノード電極15上に順次塗布し、熱処理工程を経て各分散液の溶剤等を除去することにより形成される。その際、各発光体粒子を含む分散液の濃度や塗布量、熱処理工程の条件等を適値に設定し、各発光体粒子17,18を所定の密度でアノード電極15上に配置することにより、両発光体粒子17,18を発光体層16の表面に露出するように分布させることができる。具体的には、例えば、黄色発光体粒子を含む分散液と青色発光体粒子を含む分散液とをアノード電極15上に順次塗布する場合において、特に、青色発光体粒子を含む分散液に占める溶剤の割合を増加させる等して、青色発光体粒子17を所定に疎な密度で分布させることにより、発光体層16の表面において、青色発光体粒子17の隙間から、一部の黄色発光体粒子18を露出させることができる。
【0021】
そして、例えば、図3に示すように、青色発光体粒子17は、冷陰極電子放出源6から電界放出された電子に直接的に曝されることによって電子励起され、青色光Beを発光する。同様に、黄色発光体粒子18は、冷陰極電子放出源6から電界放出される電子に直接的に曝されることによって電子励起され、黄色光Yeを発光する。さらに、黄色発光体粒子18は、近隣の青色発光体粒子17で発光される青色光Beによって光励起され、黄色光Ylを発光する。これら青色光Beと黄色光Ye,Ylはガラス基板3の投光面側で混光され、これにより、発光装置1は高輝度の白色光Wを効率よく発生する。
【0022】
すなわち、発光体層16の表面に青色発光体粒子17及び黄色発光体粒子18を露出させたことにより、各発光体粒子17,18を電子に直接的に曝すことができ、例えば青色発光体粒子17と黄色発光体粒子18とを個別の層状に重畳させて発光体層を形成した場合等に比べ、青色光及び黄色光の両方を電子励起によって効率よく発光させることができる。また、各発光体粒子17、18の少なくとも一部が発光体層の表面に完全に露出してなくてもよく、発光体層の表面や各粒子間に、例えばガラスやシリカ等、他の物質が存在する場合であっても、当該物質が電界放出された電子を透過する性質を有するものであれば、各発光体粒子17、18は電子に対して直接曝され、同様の効果が得られる。
【0023】
しかも、本実施形態の黄色発光体粒子18は、電子のみならず、青色光によっても励起発光する特性を有するので、電子励起された青色光の一部が発光体層16を通過する際に黄色発光体粒子18によって遮られた場合にも、当該青色光を有効利用して黄色光の輝度向上を図ることができる。
【0024】
すなわち、電子励起による青色発光体単色発光輝度をLb、電子励起による黄色発光体単色輝度をLyとし、青色発光体と黄色発光体の混合割合をA:B(A+B=1)とすると、一般的に、各発光体で電子励起された青色光と黄色光との混光によって生成される白色光Wの輝度Lwは、各輝度の加重平均となり、
Lw=A×Lb+B×Lyの関係を有する。これらに加え、本実施形態の発光体層16では、黄色発光体粒子18が青色光によっても励起発光するので、その分、白色光の輝度を向上することができる。例えば、図5に実線で示すように、本実施形態の発光体層16で得られる白色光の輝度は、電子励起による青色光及び黄色光の各輝度の加重平均値よりも高くなる。
【0025】
ここで、発光体層16における青色発光体粒子17と黄色発光体粒子18との混合比は、青色光によって光励起される黄色光の輝度を考慮した上で設定される。この場合、青色光によって光励起される黄色光が白色光の輝度Lwに及ぼす影響は、青色発光体と黄色発光体との重量比によって変化する。すなわち、単位量当たりの黄色発光体が光励起によって発光する黄色光Ylの輝度は、青色発光体の割合が多くなる程増加する。その一方で、青色発光体の割合が所定以上となると、黄色発光体の絶対量が減少するため、光励起による黄色光Ylの輝度が白色光の輝度Lw全体に占める割合が減少する。このような光励起による黄色光Ylの影響を考慮すると、例えば、図5に示すように、青色発光体と黄色発光体との重量比が、例えば、3:1〜1:1の範囲内で、好適な白色光を得ることが可能となる。
【0026】
このような実施形態によれば、発光効率の高い青色発光体と黄色発光体とを用いて発光体層16を形成することにより、発光効率の低い白色の発光体を用いることなく、白色光を生成することができる。その際、発光体層16の表面に青色発光体粒子17と黄色発光体粒子18とをそれぞれ露出するように分布させることにより、何れの発光体粒子17,18にも電子を直接的に照射して効率の良い電子励起を実現することができる。しかも、電子励起のみならず青色光による光励起によっても黄色光を発光するYAG等を黄色発光体として用いることにより、青色発光体粒子17で発光された青色光の一部が発光体層16を通過する際に黄色発光体粒子18によって遮られた場合にも、当該青色光は黄色光の発光に寄与させることができ、エネルギーロスを低減して効率よく白色光を生成することができる。
【0027】
なお、上述の実施形態においては、青色発光体と黄色発光体との2種類の発光体を用いて発光体層を形成した一例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2種類、或いは、3種類以上の他の発光色の発光体を混合して発光体層を形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】発光装置の基本構成図
【図2】発光体層を拡大して示す模式図
【図3】青色発光体及び黄色発光体の励起発光についての説明図
【図4】青色発光体単体、黄色発光体単体、及び、これらを混合した各発光体層が発する光の輝度分布を示す図表
【図5】発光体層における青色発光体と黄色発光体との重量比と輝度との関係を示す図表
【符号の説明】
【0029】
1 … 発光装置
2,3 … ガラス基板
4 … 真空容器
5 … カソード電極
6 … 冷陰極電子放出源
7 … カソードマスク
10 … ゲート電極
11 … 開口部
15 … アノード電極
16 … 発光体層
17 … 青色発光体粒子
18 … 黄色発光体粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷陰極電子放出源が表面に形成されたカソード電極と、
前記冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の発光体が混合された発光体層が前記カソード電極に対向する面に形成されたアノード電極と、を真空容器内に備え、
前記各種類の発光体は、各発光の混光によって白色光を生成する関係を有し、前記発光体層の表面にそれぞれが前記電界放出された電子に直接曝されるように分布されるとともに、
少なくとも何れか1種類の前記発光体は他の種類の前記発光体からの光によっても励起発光する特性を有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
冷陰極電子放出源が表面に形成されたカソード電極と、
前記冷陰極電子放出源から電界放出された電子により励起発光する複数種類の発光体が混合された発光体層が前記カソード電極に対向する面に形成されたアノード電極と、を真空容器内に備え、
前記各種類の発光体は、各発光の混光によって白色光を生成する関係を有し、前記発光体層の表面にそれぞれが露出されているとともに、
少なくとも何れか1種類の前記発光体は他の種類の前記発光体からの光によっても励起発光する特性を有することを特徴とする発光装置。
【請求項3】
前記発光体層は、青色光を励起発光する第1の発光体と、黄色光を励起発光する第2の発光体とが混合されてなり、
前記第2の発光体は、前記第1の発光体で励起発光された青色光によって黄色光を励起発光することを特徴とする請求項1または2記載の発光装置。
【請求項4】
前記第1の発光体と前記第2の発光体との重量比は、3:1〜1:1の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項3記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−32683(P2009−32683A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165394(P2008−165394)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発 エネルギー有効利用基盤技術先導研究開発 電気自動車用の超高効率な省エネ型ランプの研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】