説明

発振装置および電子機器

【課題】音圧レベルの周波数特性を平坦化することができる発振装置を提供する。
【解決手段】電気音響変換器100は、圧電素子132、弾性部材131、振動フィルム120の剛性比が制御されているので、振動振幅に対してインピーダンス整合を取ることが可能となる。このため、圧電振動子130が内部損失の大きい樹脂製の振動フィルム120を介してフレームに接合されているため、電気音響変換器100の機械品質係数Qを低減することができる。これによって、音圧レベルの周波数特性を平坦化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を利用した発振装置、この発振装置を利用した電子機器、に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話においては、音楽再生、ハンズフリーなどの音響機能を商品価値とした薄型スタイリッシュ携帯の開発が活発化している。この中、電気音響変換器に対しては、小型・薄型でかつ高音質への要求が高く、従来の動電型に代わる圧電型の薄型の電気音響変換器の開発が活発になされている。圧電型の電気音響変換器は圧電素子の伸縮運動を利用して音波を再生するものである。このため、磁石やボイスコイルから構成される動電型の電気音響変換器に比べて薄型化に優位である。
【0003】
現在、上述のような電気音響変換器として各種の提案がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−087662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧電式の電気音響変換器には、剛性の高い圧電セラミックを駆動源に用いるため、機械品質係数Qが高く、基本共振周波数近傍では高い音圧レベルを確保することができるが、それ以外の帯域では音圧レベルが減衰してしまう問題点がある。すなわち、音響特性に山谷があり、広帯域で高い音圧レベルを確保することが困難である。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、高い指向性を有する小型の発振装置、このような発振装置を利用した電子機器、を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発振装置は、枠状の支持フレームと、支持フレームに外周部で支持されている扁平な振動部材と、振動部材の両面に個々に配置されていて振動部材より高剛性な一対の弾性部材と、一方の弾性部材の一面と他方の弾性部材の他面との少なくとも一方に配置されていて電界の印加により伸縮運動する少なくとも一個の圧電素子と、を有する。
【0008】
本発明の第一の電子機器は、本発明の発振装置と、発振装置に可聴域の音波に復調される超音波を出力させる発振駆動部と、を有する。
【0009】
本発明の第二の電子機器は、本発明の発振装置と、発振装置に超音波を出力させる発振駆動部と、発振装置から発振されて測定対象物で反射した超音波を検知する超音波検知部と、検知された超音波から測定対象物までの距離を算出する測距部と、を有する。
【0010】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発振装置は、支持フレームに外周部で支持されている扁平な振動部材両面に一対の弾性部材を介して少なくとも一個の圧電素子が配置されている。このため、圧電素子、弾性部材、振動部材の剛性比を制御することで、振動振幅に対してインピーダンス整合を取ることが可能となる。従って、内部損失の大きい樹脂製の振動部材を介してフレームに接合しているため、電気音響変換器の機械品質係数Qを低減することができる。これによって、音圧レベルの周波数特性の平坦化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態の発振装置である電気音響変換器の構造を示す模式的な縦断正面図である。
【図2】一変形例の電気音響変換器の構造を示す模式的な縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態の発振装置である電気音響変換器100を図1を参照して以下に説明する。本実施の形態の電気音響変換器100は、図示するように、枠状の支持フレーム110と、支持フレーム110に外周部で支持されている扁平な振動部材である振動フィルム120と、振動フィルム120の両面に個々に配置されていて振動フィルム120より高剛性な一対の弾性部材131と、一方の弾性部材131の一面と他方の弾性部材131の他面との少なくとも一方に配置されていて電界の印加により伸縮運動する少なくとも一個の圧電素子132と、を有する。
【0014】
より詳細には、一方の弾性部材131の一面と他方の弾性部材131の他面とに一対の圧電素子132が個々に配置されている。これら一対の圧電素子132の両面には電極層133が形成されており、外側面には絶縁層134が形成されている。このような弾性部材131と圧電素子132と電極層133からなる一対の圧電振動子130に、発振駆動部であるドライバ回路140が結線されている。
【0015】
なお、本実施の形態の電気音響変換器100は、平面形状は円形でも矩形でもよいが、例えば、円形である。一対の弾性部材131は同一の円盤状に形成されており、一対の圧電素子132も同一の円盤状に形成されているが、弾性部材131は圧電素子132より大径に形成されている。
【0016】
また、本実施の形態の電気音響変換器100では、樹脂製の振動フィルム120の縦弾性係数が金属製の弾性部材131の縦弾性係数の1/50以下であり、弾性部材131と振動フィルム120の厚み比が略3:1である。
【0017】
圧電素子132は、圧電効果を有する材料であれば、無機材料、有機材料ともに特に限定されないが、電気機械変換効率が高い材料、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)や、チタン酸バリウム(BaTiO)などの材料が使用可能である。また、厚みは特に限定されないが、10μm〜1mmであることが好ましい。
【0018】
脆性材料であるセラミック材料として厚み10μm未満の薄膜を使用した場合、取り扱い時に機械強度の弱さから、欠けや破損などが生じて、取り扱いが困難となる。また、厚み1mmを超えるセラミックを使用した場合は電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が著しく低下し、電気音響変換器100として十分な性能が得られない。一般的に、電気信号の入力により電歪効果を発生させる圧電セラミックにおいては、その変換効率は電界強度に依存する。この電界強度は分極方向に対する厚み/入力電圧で表されることから、厚みの増加は必然的に変換効率の低下を招いてしまう問題がある。
【0019】
本発明の圧電素子132には電界を発生させるために主面に電極層133が形成されている。その材料は特に限定されないが、例えば、銀や銀/パラジウムを使用することが可能である。銀は低抵抗な汎用的な電極材料して使用されており、製造プロセスやコストなどに利点があり、銀/パラジウムは耐酸化に優れた低抵抗材料であるため、信頼性の観点から利点がある。
【0020】
また、電極層133の厚みは特に限定されないが、その厚みが1〜100μmであるのが好ましい。厚み1μm未満では、膜厚が薄いため、均一に成形できず、変換効率が低下する可能性がある。また、電極層133の膜厚が100μmを超える場合は、製造上に特に問題はないが、電極層133が圧電素子132のセラミック材料に対して拘束面となり、エネルギ変換効率を低下させてしまう問題点がある。
【0021】
弾性部材131には、金属や樹脂など脆性材料であるセラミックに対して高い弾性率を持つ材料であれば特に限定されないが、加工性やコストの観点からリン青銅やステンレスなどの汎用材料が使用される。また、厚みについては、5〜1000μmであることが好ましい。厚みが5μm未満の場合、機械強度が弱く、拘束部材として機能を損なうことや、加工精度による低下により、製造ロット間で振動子の機械振動特性のばらつきが生じてしまう問題点がある。
【0022】
振動フィルム120は、縦弾性係数が、100GPa以下の高分子材料であれば特に限定されないが、汎用性の観点から、ポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン、ウレタン、シリコンゴム、天然ゴム、合成ゴム、などの使用が可能である。
【0023】
また、厚みが1000μmを超える場合は、剛性増による圧電素子132への拘束が強まり、振動変位量の減衰を生じさせてしまう問題点がある。また、本実施形態の弾性部材131は、材料の剛性を示す指標である縦弾性係数が、1〜500GPaであることが好ましい。上述のように、弾性部材131の剛性が過度に低い場合や、過度に高い場合は、機械振動子として特性や信頼性を損なう問題点がある。
【0024】
音波発生のメカニズムは、圧電素子132への電界の印加により発生する伸縮運動を利用する。また、超音波の周波数は20kHz以上に限定する。圧電素子132は機械品質係数Qが高いため、基本共振近傍にエネルギが集中するため、基本共振周波数では高い音圧レベルを得ることができるが、その他の周波数帯域では、音圧が減衰してしまう。
【0025】
本実施の形態の電気音響変換器100は、特定周波数に限定した超音波を発振させるため、むしろ、圧電素子132の機械品質係数Qが高いことが特性として優位となる。また、圧電振動子130の基本共振周波数は圧電素子132の形状に影響を受けるため、高い周波数帯域、例えば、超音波帯域に共振周波数を調整する場合、小型化に優位となる。
【0026】
なお、本実施の形態の電気音響変換器100は、FM(Frequency Modulation)やAM(Amplitude Modulation)変調させた超音波を発振させ、空気の非線形状態(疎密状態)を利用して、変調波を復調させ可聴音を再生する、いわゆるパラメトリックスピーカの原理に基づいて音響再生を行う。本実施の形態の電気音響変換器100では、圧電素子132は、高周波数帯域の発振に限定した構成になるため、小型化が可能となる。
【0027】
上述のような構成において、本実施の形態の電気音響変換器100は、二個の圧電素子132の上下主面が弾性部材131で拘束されている。そして、二個の圧電素子132は弾性部材131を介して、樹脂製の振動フィルム120と接合しており、いわゆるバイモルフ構造を形成している。また、振動フィルム120は支持フレーム110と接合し、電気音響変換器100が形成される。
【0028】
本実施の形態の電気音響変換器100は、弾性部材131と樹脂製の振動フィルム120との剛性比が1/50以下である。すなわち、樹脂製の振動フィルム120の縦弾性係数が、金属製の弾性部材131の縦弾性係数に比べて1/50以下である。
【0029】
また、弾性部材131と振動フィルム120との厚み比は、30:1〜2:1であり、例えば、3:1である。このように、圧電素子132、弾性部材131、振動フィルム120の剛性比が制御されているので、振動振幅に対してインピーダンス整合を取ることが可能となる。
【0030】
このため、本実施の形態の電気音響変換器100は、圧電振動子130が内部損失の大きい樹脂製の振動フィルム120を介してフレームに接合されているため、電気音響変換器100の機械品質係数Qを低減することができる。これによって、音圧レベルの周波数特性を平坦化することができる。
【0031】
さらに、本実施の形態の電気音響変換器100は、振動時に応力が集中する端部が柔軟性に富む樹脂製の振動フィルム120で構成されている。すなわち、落下時の衝撃エネルギーを樹脂製の振動フィルム120で吸収することができるため、落下強度を向上させることができる。
【0032】
また、本構成の電気音響変換器100では、支持フレーム110と弾性部材131との間にある端部が振動フィルム120の樹脂で構成されている。すなわち、柔軟性に富む樹脂製の振動フィルム120が振動の端部に位置することで、端部の可動範囲が拡大し、振動姿態はよりピストン状に近づき、振動の際の体積排除量は拡大する。
【0033】
音圧レベルは、振動の際の空気への体積排除量に依存することから、本構成の電気音響変換器100では優位な特性を実現することができる。また、本実施の形態の電気音響変換器100は、二枚の圧電素子132を用いるバイモルフ構造であることから、振動振幅の点で優位であり、音響特性の観点からも優れている。
【0034】
なお、ドライバ回路140で一対の圧電素子132を駆動するときには、両方に同一の駆動信号を入力して高効率に高指向性の音波を発生させるが、一対の圧電素子132に入力する駆動信号を個別に制御してもよい。
【0035】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。例えば、上記形態では一対の圧電素子132が同一の円盤状に形成されているとともに、一対の弾性部材131も同一の円盤状に形成されていることにより、振動フィルム120の両面に同一構造の圧電振動子130が一個ずつ装着されているバイモルフ構造を例示した。
【0036】
しかし、図2に発振装置として例示する電気音響変換器200のように、一対の弾性部材131,211の直径を相違させることにより、一対の振動フィルム120の両面に一個ずつ装着されている圧電振動子130,210の構造を相違させることもできる。また、直径は同一のまま一対の弾性部材131の板厚を相違させてもよく、一対の圧電素子132の直径や板厚を相違させてもよい(ともに図示せず)。
【0037】
さらに、上記形態では一方の弾性部材131の一面と他方の弾性部材131の他面とに一対の圧電素子132が個々に配置されているバイモルフ構造の電気音響変換器100を例示した。しかし、圧電素子132が一個のユニモルフ構造の電気音響変換器(図示せず)なども実施可能である。
【0038】
さらに、上記形態では電気音響変換器100に発振駆動部であるドライバ回路140が接続されている電子機器を想定した。しかし、このような電気音響変換器100と、電気音響変換器100に超音波を出力させる発振駆動部と、電気音響変換器100から発振されて測定対象物で反射した超音波を検知する超音波検知部と、検知された超音波から測定対象物までの距離を算出する測距部と、を有するソナーなどの電子機器(図示せず)も実施可能である。
【0039】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0040】
100 電気音響変換器
110 支持フレーム
120 振動フィルム
130 圧電振動子
131 弾性部材
132 圧電素子
133 電極層
134 絶縁層
140 ドライバ回路
200 電気音響変換器
210 圧電振動子
211 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の支持フレームと、
前記支持フレームに外周部で支持されている扁平な振動部材と、
前記振動部材の両面に個々に配置されていて前記振動部材より高剛性な一対の弾性部材と、
一方の前記弾性部材の一面と他方の前記弾性部材の他面との少なくとも一方に配置されていて電界の印加により伸縮運動する少なくとも一個の圧電素子と、
を有する発振装置。
【請求項2】
少なくとも一方の前記弾性部材の一面と他方の前記弾性部材の他面とに個々に配置されている一対の前記圧電素子を有する請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記振動部材の縦弾性係数が前記弾性部材の縦弾性係数の1/50以下である請求項1または2に記載の発振装置。
【請求項4】
前記弾性部材が金属からなり、
前記振動部材が樹脂からなる請求項3に記載の発振装置。
【請求項5】
前記弾性部材と前記振動部材の厚み比が30:1〜2:1である請求項1ないし4の何れか一項に記載の発振装置。
【請求項6】
一対の前記弾性部材が同一形状に形成されており、
一対の前記圧電素子が同一形状に形成されている請求項1ないし5の何れか一項に記載の発振装置。
【請求項7】
一対の前記圧電素子が同一形状に形成されており、
一対の前記弾性部材が相違する形状に形成されている請求項1ないし5の何れか一項に記載の発振装置。
【請求項8】
前記圧電素子と前記弾性部材とが同心円状の円盤状に形成されており、
一対の前記弾性部材の直径が相違している請求項7に記載の発振装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の発振装置と、
前記発振装置に可聴域の音波に復調される超音波を出力させる発振駆動部と、
を有する電子機器。
【請求項10】
請求項1ないし8の何れか一項に記載の発振装置と、
前記発振装置に超音波を出力させる発振駆動部と、
前記発振装置から発振されて測定対象物で反射した前記超音波を検知する超音波検知部と、
検知された前記超音波から前記測定対象物までの距離を算出する測距部と、
を有する電子機器。

【図1】
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【図2】
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