説明

発毛

光線力学的治療(photodynamic therapy:PDT)が、発毛数を増加及び脱毛部分の発毛回復を刺激可能であることが見出された。本発明の方法は、a)ターゲットの皮膚に有効且つ/又は十分量の光線感作物質を投与するステップ、(b)、光線感作物質を活性化することができる1又は複数の波長を有する光線で、光線感作物質を活性化するのに十分な期間、ターゲット皮膚を照射するステップであって、治療部分で毛髪数が増加することを特徴とするステップ、を含む。本発明の1つの態様においては、3ヶ月以内に硬毛数が2%以上増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発毛を促進するための光線力学的治療(photodynamic therapy:PDT)の使用に関する。特に、本発明は、アンドロゲン性脱毛症及び円形脱毛症等の、脱毛に関連する症状を治療するための光線感作物質及びPDTの使用に関する。本発明は、さらに、炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させることによって発毛させる光線力学的治療法及び発毛の増加の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛症は、脱毛を含むあらゆる疾患又は症状に関する一般的な用語である。脱毛には、アンドロゲン性脱毛症(AGA;Sawaya, M.E. Seminars in Cutaneous Medicine and Surgery 17 (4): 276-283, 1998参照)、円形脱毛症(AA;Fiedler & Alaiti, Dermatologic Clinics 14(4): 733-738, 1996参照)、及び化学療法による脱毛症や薬剤性脱毛症等のいくつかの異なるタイプがある。アンドロゲン性脱毛症(AGA)は、最も一般的なタイプの脱毛症である。AGAでは多量の毛髪が頭皮から徐々に消失する。この脱毛はパターン化されている。50歳までの男性の50%、及び60歳までの女性の50%で、重度のAGAが発症する。AGAは、遺伝的素因と高レベルで存在する循環アンドロゲンとによって引き起こされると考えられている。毛母細胞に存在する5−αレダクターゼは、テストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換すると考えられている。DHTは、アンドロゲンレセプターに結合し、また、毛母細胞に局在し、結果的に(1)毛髪サイクルのアナゲン期すなわち成長期の短縮、(2)テロゲン期に毛髪が抜け落ちた後、毛髪サイクルが休止期に移行、(3)アナゲン期の毛髪が作る内径が縮小される、毛包の縮小化、という変化を毛包にもたらす。5−αレダクターゼ及び/又はアンドロゲンレセプターの発現が様々なタイプの毛包において異なることが、発毛又は脱毛のパターン化の原因となっていると考えられる。
【0003】
現在認可されているAGAの治療薬には、抗高血圧治療薬ミノキシジル(RogaineTM)が含まれるが、この治療薬の発毛を促進する作用機序は不明である。ミノキシジルは、1日2回局所的に塗付しなくてはならず、そのため使用が若干不便である。2%ミノキシジルを使用すると、4〜12ヵ月に硬毛数が増加することが、研究の成果から示されている(De Villez et al, Journal of the American Academy of Dermatology, Vol. 16, No. 3, Part 2 (March 1987) 669-672) 。しかしこの効果は、時間と共に又は一旦治療を中止すると消失する。AGAの治療に使用されるもう1つの薬剤は、2型イソ酵素5−αレダクターゼの選択的阻害剤、フィナステリド(PropeciaTM)である。この治療の効能には限界があり(has marginal efficacy)、毎日経口投与を行う必要があり、性欲の変化等の抗アンドロゲン副作用が起こる可能性がある。毛髪移植及び頭皮縮小法(scalp reduction)も、AGAによって毛髪が抜け落ちた患者に行われる。多くの人々にとっては、これらの方法は高額で時間を要する。その上、治療が外科的性質であることから、治療を思いとどまる人が多い。
【0004】
光化学治療は、円形脱毛症(AA)の治療として提案されてきた。この提案されている治療には、ソラレン及び高エネルギーUVA(PUVA)療法が用いられるが、成功する可能性は非常に限られており、AAに対する効果は疑わしい(Lebwohl, M. Lancet 349: 222-223, 1997)。吐き気、色素変化、皮膚癌形成のリスク、及び白内障等のPUVA療法の副作用が報告されている(Fiedler & Alaiti, Dermatologic Clinics 14 (4): 733-738, 1996)。PUVA療法の副作用を改善するために、抗酸化剤が使用されている(Ptapenko &Kyagova, Membr. Cell Biol. 12(2): 269-278, 1998) 。AAに、2%ケリン(khellin)(ソラレンに類似した化学構造を有する化合物)を使用し、UVAを行ったところ、テストした患者10名のうち5名で成功した(Orasa et al. Int. J. Dermatol. 32(9): 690, 1993)。ケリンは光毒性を誘発しないので、Orasa et alはソラレンの代替物としてケリンの使用を示唆している。ヘマトポルフィリン及び高エネルギーUVAは、Monfrcola et al. (Photodermatology 4: 305-306, 1987)の非常に限定された研究に使用されている。2名の患者にヘマトポルフィラン(0.5%、HP)を局所的に投与し、8週間にわたり週3回UVAを照射して、治療を行った。治療の第一週目には、HP治療部位で、顕著な紅斑や軽度の落屑が見られ、その後色素沈着過剰となった。副作用は、数時間に及ぶ皮膚の不快な赤みや、照射段階での焼け付くような感覚等であった。Monfrcola et al.は、1%より高濃度のHPを使用すると、重度の光毒性反応が起こる場合があることを指摘している。また、Monfrcola et al.は、このアプローチを日常的な臨床用途に使用するには、更に多くの研究が必要であることも述べている。
【0005】
効果的で、硬毛の数が迅速に増加するが、副作用は最小限であり、外科手術を行わない方法が望まれている。
【0006】
光線力学的治療(PDT)は、光線感作物質と呼ばれる光に活性化される薬剤を使用して患部を治療する、最小限に侵襲的な2ステップの医療である。まず光線感作物質を投与し、物質がターゲット組織に浸透した後、特定の波長の光線量に曝露することによって、直ちに光線感作物質を活性化する。光線力学的治療は、非小細胞肺癌(photofrinTM)、老人性白内障(VisudyneTM)、化学線作用角化症(MetvixTM、LevulanTM)、及び規定細胞癌(MetvixTM)の治療をはじめとする多くの療法に許可されてきた。
【0007】
光線力学的治療(PDT)を、ヒトの対象の、不要な体毛の除去に使用可能であることが提唱されてきた。手短に言えば、治療には、光線感作物質が吸収される間、光線感作物質を皮膚の選択した部位へ局所的に投与し、その後その部位を間欠的又は継続的に照射する又は振動することが含まれる。外プロセスには、毛包の不活化若しくは破壊、又は毛包に栄養を与える組織の破壊が含まれる(米国特許第5,669,916号、同第5,871,480号、及び国際公開公報第97/32046号参照)。
【0008】
上記の文献は、前述のいずれかが関連性のある先行技術であることを認めるために引用したものではない。これらの文献の内容に関する日付又は表示に関する全ての記述は、本出願人が入手し得た情報に基づいているが、この情報は、これらの文献の日時又は内容の正確性に関して承認するものではない。
【非特許文献1】Sawaya, M.E. Seminars in Cutaneous Medicine and Surgery 17 (4): 276-283, 1998
【非特許文献2】Fiedler & Alaiti, Dermatologic Clinics 14(4): 733-738, 1996
【非特許文献3】De Villez et al, Journal of the American Academy of Dermatology, Vol. 16, No. 3, Part 2 (March 1987) 669-672
【非特許文献4】Lebwohl, M. Lancet 349: 222-223, 1997
【非特許文献5】Ptapenko &Kyagova, Membr. Cell Biol. 12(2): 269-278, 1998
【非特許文献6】Orasa et al. Int. J. Dermatol. 32(9): 690, 1993
【非特許文献7】Monfrcola et al. Photodermatology 4: 305-306, 1987
【特許文献1】米国特許第5,669,916号
【特許文献2】米国特許第5,871,480号
【特許文献3】国際公開公報第97/32046号
【発明の開示】
【0009】
光線力学的治療(PDT)によって毛髪数の増加が刺激され、脱毛部分に発毛が取り戻されることが見出された。本発明のある態様は、
(a)ターゲット皮膚に光線感作物質を有効且つ/又は十分量投与するステップ、
(b)ターゲット皮膚に、光線感作物質を活性化することができる1又は複数の波長を有する光線を、光線感作物質を活性化するために十分な期間照射するステップ、及び選択的に
(c)(a)及び(b)を反復するステップ
を含み、治療部位において毛髪数が増加することを特徴とする。
【0010】
本発明のある態様は、3ヶ月以内に硬毛数が2%以上増加することを特徴とする、PDTによる治療方法に関する。硬毛とは、脂肪分泌線と毛包によって作られる長毛である。1〜2センチ程度の長さしかない場合が多く、色素が少ない又は色素を有さない短毛のうぶ毛(vellus hair)とは異なる。うぶ毛を作る毛包は、脂肪分泌線を有さず、他の種類の毛髪は作らない。硬毛は、胎児に発生する産毛(Lanugo hair)とも異なる。
【0011】
通常、AGA等の症状は、経時的に硬毛数が次第に低下するために進行する。硬毛はまた、次第に細く、短くなり、やがてうぶ毛状になる。したがって、本発明の方法によって実際に3ヵ月後に毛髪数を増加できることは、驚くべきことである。本発明の方法は、脱毛の治療のためだけでなく、脱毛であると認められない部分で発毛を刺激するために使用される。
【0012】
本明細書に記載されるように、「発毛」なる語は、存在する硬毛数の増加を意味する。硬毛数は、多くの方法で計測することができる。例えば、マクロフォトグラフでコンピュータを使用して計測を行う、訓練を積んだ有資格技術者によって、硬毛を計測することができる。手短に言えば、頭皮上のターゲット部位を選択し、毛髪を切り(clipped)、次の光学的な治療期間のそれぞれで、正確な位置決めが容易になるように、頭皮に1つの点を入れ墨で永続的にマークする。あらかじめセットしたマイクロレンズとスタンド付きのカメラを使用し、マイクロフォトグラフィーを行うと、一定の再生率が得られ、写真を取る部位を再生可能に照らす電気的フラッシュが得られる。入れ墨を使用し、カメラを中央に設置し、画像を3枚セットで取る、カラースライドフィルムを中央の設備(a central facility)で処理する。画像の質を評価し、最も良い画像のスライドを作成する。かかるスライドのターゲットのサークルの硬毛髪を、訓練を積んだ技術者によって計測する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、発毛可能なあらゆる対象に使用される。好ましくは、発毛の減少若しくは脱毛を呈する又は発毛の減少若しくは脱毛が疑わしい皮膚組織に、本発明を投与する。好ましい対象には哺乳動物が含まれ、特に好ましい対象はヒトである。本発明は対象、特にAGAを罹患したヒトの治療に有用である。
【0014】
理論に縛られることを望んではいないが、本方法は、治療部位において、1又は複数の特定の成長因子及び/又はサイトカインの組織におけるレベルの上昇を刺激すると考えられる。続いて、これらの因子は、直接的に又は他の生化学的シグナル経路によって、休止中の毛包を刺激し、アナゲン(発毛)期に移行させる。PDTによる発毛では、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)等の炎症誘発性サイトカインが、発毛、特に本明細書に記載された硬毛の発毛を促進する役割を担っていると考えられる。これらのサイトカインを産生可能な細胞には、マクロファージ、ケラチノサイト、皮膚繊維芽細胞、毛母細胞及びT細胞が含まれる。他の症状の治療におけるこれらの増加の使用も、本発明に含まれる。
【0015】
IL−1及びGM−CSF等の炎症誘発性サイトカインは、組織において多様な効果を有することが知られている。これらの作用には、様々な生化学的なメディエータの作製の刺激、特定の細胞表面受容体の発現のアップレギュレート、及び好中球並びにマクロファージ等の炎症誘発性の細胞型の活性化並びに組織浸潤が含まれる。しかし、IL−1が発毛ではなく脱毛を誘発することを示唆する一連の証拠があるので、IL−1の増加が硬毛数の増加の原因となることは驚くべきことである(例えば、Dermatology 1995, 191, 273-275, Hoffmann et al; Eur J Dermatol 1998, 8, 475-7 Hoffmann et al及びLymphokine & Cytokine Research Vol. 12, Number 4, 1993 Harmon et al参照)。
【0016】
したがって、本発明はまた、PDTによって、皮膚組織の炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させる方法に関する。特に、光線力学的治療でターゲット部位を治療することによって、部位の炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させ、それによって硬毛数を増加させる方法に関する。本発明の方法は、好ましくは、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン−1β(IL−1β)、及び/又はインターロイキン−1α(IL−1α)を増加させる。
【0017】
ある態様において、本発明の方法によって、PDT治療後3ヶ月以内に、硬毛数が少なくとも2%増加する。好ましくは本発明によって、3ヶ月以内に、硬毛数が3%以上、より好ましくは4%以上増加する。有効な、“Photographic Document of Hair Growth in Androgenetic Alopecia” (D. Canfield, Dermatologic Clinics, Vol. 14 No.4 (October 1996) 713-721) の方法によって、特定の対象における硬毛数を評価することができる。
【0018】
本発明は、
(a)上述の方法に従って、硬毛数を評価するステップ、
(b)有効量の光線感作物質を投与するステップ、
(c)光線感作物質を活性化することができる1又は複数の波長を有する活性化エネルギーで、光線感作物質を活性化するために十分な期間、ターゲット皮膚を照射するステップ、及び
(d)選択的に(b)並びに(c)を反復するステップ、
(e)上述の方法に従って、硬毛数を評価するステップ
を含むことができ、3ヶ月以内に評価した場合に、硬毛数が、少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも4%増加することを特徴とする。
【0019】
本発明はまた、発毛の減少又は脱毛を呈する対象の皮膚において、発毛の増加を測定する方法に関する。該方法は、
(a)皮膚に光線感作物質を投与するステップ、
(b)外光線感作物質に吸収されて、光線感作物質を活性化する波長を有する電磁エネルギーで皮膚を照射するステップ、及び
(c)発毛の増加を測定するステップを含み、
a)のステップでもb)のステップでも治療されていない皮膚と比較して、発毛の増加の測定が可能であることを特徴とする。治療されていない皮膚は、光線感作物質を投与されていない、及び/又は照射されていないことが好ましい。
【0020】
好ましくは、光線感作物質は、400〜800nmの放射線を吸収する光線感作物から選択される。好ましくは、光線感作物質を局所的投与によって投与する。好ましくは、電磁エネルギーが可視光線である。
【0021】
発毛の増加は硬毛数の計測、毛髪重量の測定、毛髪密度の測定及び/又は毛幹の直径を測定によって測定することができる。好ましくは、上述のように、発毛の増加を、硬毛数を計測することによって測定する。
【0022】
本明細書には、適切な光線感作物質又は薬剤の混合物を使用してよい。可視光線によって活性化される適切な光線感作物質又は薬剤の混合物が好ましい。一般的には、これらは約380〜約900nmの放射線を吸収する。好ましくは、これらは400〜800nmの放射線を吸収する。より好ましくは、これらは600〜750nmの放射線を吸収する。好ましくは、光線感作物質がヒトに対して毒性がなく、無毒性組成物に調製することができる。光線感作物質とは、電磁波、最も一般的には可視スペクトルを吸収し、それを他のエネルギー形態として、最も一般的には活性酸素種及び又は熱エネルギーとして放出する物質であると定義される。
【0023】
感光性の化学物質のリストは、Kreimer-Birnbaum, Sem. Hematol. 26: 157-73, 1989 (本明細書に参照として組み込まれる)及びRedmond and Gamlin, Photochem. Photobiol. 70 (4): 391-475 (1999)に記載されている。プロ−ポルフィリン5−アミノレブリン酸(ALA)等のプロドラッグ並びにアミノレブリン酸エステル等のその誘導体、ポルフィリン並びにクロリン、バクテリオクロリン、イソバクテリオクロリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン等のポルフィリン誘導体、及び他の大環状テトラ化合物及び大環状ポリ化合物並びに関連する化合物(ピオフェオホルバイド、サフィリン及びテキサフィリン等)を含むがこれらに限定されない、様々な合成及び天然の光線感作物質、及びスズ、アルミニウム、亜鉛、ルテチウム、スズエチルetiopurpurin(SnET2)等を含むがこれらに限定されない金属錯体を使用して、本発明を実施する。Tetrahydrochlorin、purpurin、ポルフィセン及びphenothiaziniumも、本発明の範囲に含まれる。適切な化合物の例のいくつかには、米国特許第6,462,192号、第6,444,194号、6,376,483号、国際公開公報第03/028628号、国際公開公報第03/028629号、国際公開公報第02/096147号及び国際公開公報第02/096366号に記載された化合物が含まれるがこれらに限定されず、これら全ては参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0024】
好ましくは、本明細書の光線感作物質が、プロポルフィリン、ポルフィリン及びそれらの混合物から選択される。LevulanTM等のアミノレブリン酸、国際公開公報第02/10120号に記載され、MetvixTM、HexvixTM及びBenzvixTMとして入手可能なアミノレブリン酸エステル、欧州特許公報第337,601号又は国際公開公報第01/66550号に記載され、FoscanTM (temoporfin)として入手可能なジヒドロ又はテトラヒドロ−ポルフィリン、porfimerナトリウム(PhotofrinTMとして入手可能)、VisudyneTM、ベンゾポルフィリン誘導体(下記により詳細に記載する)及びその混合物等を含む例もある。
【0025】
本発明の好ましい実施態様において、光線感作物質は、グリーンポルフィリンとして知られる特に強力な光線感作物質の群から選択される。このグリーンポルフィリンは、米国特許第5,171,749号(参照することによって本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。「グリーンポルフィリン」なる用語は、ディールス−アルダー反応で、ポルフィリン核をアルキンと反応させて、mono-hydrobenzoporphyrinを得ることによって得られたポルフィリン誘導体を意味する。結果として生じたこれらのmacropyrrolic compoundは、様々な構造的アナログを有する合成クロリン様ポルフィリンである、ベンゾポルフィリン誘導体(BPD)と呼ばれ、米国特許第5,171,749号に示されている。一般に、利用可能な2つのうち1つのみが共役するプロトポルフィリン−IX環系(A環及びB環)に存在する非芳香族ジエン構造で反応を促進する条件下で、アセチレン誘導体とプロトポルフィリンとのディールス−アルダー反応によって得られたtetrapyrrolic ポルフィリン誘導体の群から、グリーンポルフィリンを選択する。金属カチオンで環系の中央の1つ又は2つの水素が置換されている、Gpのメタレート形を、本発明を実施する際に使用してもよい。本発明に有用なグリーンポルフィリン化合物の調製は、米国特許第5,095,030号(参照することによって、本発明に組み込まれる)に詳細に記載されている。
【0026】
好ましくは、BPDが、ベンゾポルフィリン誘導体ジエステル二酸(BPD−DA)、mono-acid ring A(BPD−MA)、mono-acid ring B(BPD−MB)又はこれらの混合物である。これらの化合物は波長が約692nmの光を吸収する。また、これらの化合物では組織浸透特性が改善されている。式BPD−MAの化合物と式BPD−MBの化合物とは、C環carbalkoxyethylのみ又はD環carbalkoxyethylのみが加水分解された同種であってもよく、或いはC及びD環の置換基のhydrolyzateの混合物であってもよい。本方法には、他のBPD B環誘導体の多くを使用してもよい。これらの誘導体は、以下の一般式を有する。
【0027】
【化1】

【0028】
ただし、Rがビニル、R及びRがメチル、nが2である。X、X及びXは、以下の表に列挙されている。
【0029】
【表1】



【0030】
【表2】


【0031】
好ましい光線感作物質は、ベンゾポルフィリン誘導体mono-acid(BPD−MA)、QLT0074(米国特許第5,929,105号に示され、該特許中でA−EA6と称される)、及びB3(米国特許第5,990,149号に示される)である。最も好ましくは、光線感作物質が以下の構造を有するQLT0074である。
【0032】
【化2】

【0033】
更に、ターゲッティングを容易にするために、本発明で使用される光線感作物質を様々なリガンドに共役する。リガンドには、レセプター特異的リガンド並びにイムノグロブリン及びこれらのフラグメントが含まれる。好ましいリガンドには、一般的な抗体並びにモノクローナル抗体及びこれらの免疫学的な反応フラグメントが含まれる。
【0034】
グリーンポルフィリンの二量体形、及びグリーンポルフィリン/ポルフィリン結合の二量体又は多量体を使用することができる。ポルフィリン自体の二量化又及びオリゴマー化に対する反応アナログを使用して、本発明の二量体及びオリゴマー化合物を調製することができる。グリーンポルフィリン又はグリーンポルフィリン/ポルフィリンの架橋は直接的に形成され、或いはポルフィリンが結合し、その後、末端のポルフィリンの一方又は両方のディールス−アルダー反応によって、これらを対応するグリーンポルフィリンに変化させる。2つ以上の光線感作物質を組み合わせて、本発明の実施に使用してもよい。
【0035】
上述の好ましい光線感作物質に加え、本発明に有用な光線感作物質の更なる例には、米国特許第5,283,255号、第4,920,143号、第4,883,790号、第5,095,030号並びに第5,171,749号に開示されたグリーンポルフィリン、及び米国特許第5,880,145号並びに第5,990,149号で論じられたグリーンポルフィリン誘導体が含まれるが、これらに限定されない。典型的なグリーンポルフィリンの構造のいくつかは、上記特許に示されており、該化合物の製造の詳細についても詳述されている。
【0036】
本発明における使用に好ましい光線感作物質は、以下の一般的な基準を満たすものである。
1)ターゲットの毛包及び/又はその周囲の組織並びに細胞に入ることができる、及び
2)照射、好ましくは光線の照射(より好ましくは可視光線の照射)により、発毛が刺激される及び/又は回復する。
【0037】
ある実施態様において、本発明の方法を使用して初期診断後に発毛を刺激する及び/又は回復させる。他の実施態様において、本発明の方法の後に、大量の脱毛を防ぐ及び又は/発毛を維持するための療法として、PDT等の脱毛症の他の治療を行う。後者を使用して脱毛症の再発を予防する又は抑制する。
【0038】
本発明は更に、硬毛数を増加させる方法であって、硬毛数の増加が望まれる部分に光線力学的物質を投与するステップと、治療部位において硬毛数を増加させる二次的治療を少なくとも1つ行うステップを含み、かかる二次的治療が光線力学的治療ではないことを特徴とする方法に関する。かかる非光線力学的治療は、いずれの適切なレジメンであってもよいが、PDT治療とは異なる作用法によって硬毛数を増加させることが好ましい。例えば、局所的治療又は全身治療である。好ましくはかかる二次的治療が、5−αレダクターゼ阻害剤、ミノキシジル、毛髪移植、頭皮縮小法(scalp reduction)及びこれらの組合せから選択される。より好ましくは、かかる二次的治療が、5−αレダクターゼ阻害剤、ミノキシジル及びこれらの組合せから選択される。例えば、RogainTM又はPropeciaTMをPDT治療と組み合わせて使用する。
【0039】
本明細書の好ましい方法の1つは、
a)光線感作物質をターゲット組織に局所的に投与するステップ、
b)ターゲット組織を、光線感作物質を活性化するために適切な波長の放射線で照射するステップ、
c)治療部位において硬毛数を増加させる非光線力学的治療を少なくとも1つ行うステップ
を含む。
【0040】
非光線力学的治療は、PDT治療の前の、同時の又は後の、いずれの適切な時期に行うことができる。非光線力学的治療を、5−αレダクターゼ阻害剤、ミノキシジル、及びこれらの組合せから選択することが好ましい。
【0041】
非光線力学的治療がミノキシジルである場合は、局所用溶剤として用いることが好ましい。好ましくは、かかる溶剤を1日に1〜4回投与し、より好ましくは1日に2回投与する。かかる溶剤をあらゆる適切な濃度とすることができるが、好ましくは約1〜約10%、より好ましくは約2〜約5%の濃度とすることができる。
【0042】
非光線力学的治療が5−αレダクターゼ阻害剤である場合は、経口投与が好ましい。好ましい5−αレダクターゼ阻害剤はフィナステリドである。好ましくは、フィナステリドを1mgの経口錠として投与し、好ましくは1日に1回摂取する。
【0043】
本発明の方法を使用して、更に発毛が望まれるあらゆる状況で発毛を刺激することができる。条件は以下に限定されないが、特に、成長期脱毛症、薬剤による脱毛症、放射線治療による脱毛症、中毒性脱毛症、びまん性円形脱毛症、円形脱毛症、loose anagen syndrome、手術後の後頭部脱毛症、梅毒、けん引性脱毛症、抜毛症、頭部白癬、休止期脱毛症、妊娠性休止期、慢性休止期脱毛症、初期のアンドロゲン性脱毛症、鉄欠乏症、栄養不良/吸収障害、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、全身性エリテマトーデス、慢性腎不全、肝不全、進行性の悪性腫瘍、ウイルス感染、細菌感染及びアンドロゲン性脱毛症を含む様々な条件に関連した脱毛を対象が経験している場合、本発明の方法は有用である。特に、本発明の方法は、アンドロゲン性脱毛症や薬剤による脱毛症(癌の化学療法後等)における脱毛や、放射線治療による脱毛の回復に有用である。
【0044】
本発明の光線感作物質を様々な組成物に調製してよい。これらの組成物は、等張化剤、pH調節剤、溶媒、可溶化剤、色素、ゲル化剤、並びに増粘剤等の従来の送達用賦形剤、賦形剤及び緩衝液等の意図する目的に適したあらゆる成分を含んでいてもよく、これらの組合せを含んでいてもよい。本光線感作物質を用いた使用に適する製剤形態は、Remington’s Pharmaceutical Sciences等に記載されている。本明細書の好ましい製剤形態には、光線感作物質又は薬学的賦形剤を、発毛が減少した又は脱毛した部位に向けることのできる担体が含まれる。光線感作物質と共に使用する適切な賦形剤には、水、生理的食塩水、ブドウ糖、グリセロール等が含まれる。
【0045】
一般に、外界温度等の適切な温度、適切なpH、及び望ましい純度で、1又は複数の生理学的に許容できる担体、すなわち用いられる投与量及び濃度において毒性でない1又複数の担体と混合することによって、光線感作物質を調製する。概ね、製剤のpHは、主に特定の用途や光線感作物質の濃度によって変わるが、約3〜約8のいずれかであることが好ましい。好ましくは、光線感作物質を生理学的範囲のpH(例えば約6.5〜7.5)に維持する。塩は必要ではなく、したがって、製剤は好ましくは電解液でない。
【0046】
本明細書の製剤は、好ましくは皮膚浸透促進剤を含む。光線感作剤の送達を助けるのに適したあらゆる皮膚浸透促進剤を、本明細書に使用することができる。皮膚浸透促進剤は、“Pharmaceutical Skin Penetration Enhancement” (1993) Walters, K.A., ed.; Hadgraft, J., ed-New York, N.Y. Marcel Dekker及び“Skin Penetration Enhancers cited in the Technical Literature” Osboune, D.W. Pharmaceutical Technology, November 1997, pp 59-65”に記載されている。これらは両方とも、参照することによって本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される製剤における使用に好ましいのは、疎水性皮膚浸透促進剤である。
【0047】
好ましい皮膚浸透促進剤は、グリコールエーテル、脂肪酸、脂肪酸エステル、グリコールエステル、グリセリド、azones、ポリソルベート、アルコール、ジメチルスルホキシド及びこれらの混合物から選択される。本明細書に使用する好ましい皮膚浸透促進剤には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(R))、オレイルアルコール、オレイン酸、Asone(Laurocapram又は1-n-Dodecyl azcycloheptan-2-one)、脂肪及び脂肪酸プロピレングリコールモノエステル及びジエステル(プロピレングリコールmonocaprylate、プロピレングリコールmonolaurate等)、トリグリセリド及び脂質(リノール酸)、macrogolglycerides又はポリエチレングリコールグリセリド及び脂肪酸エステル(stearoyl macrogolglycerides、oleoyl macrogolglycerides、lauroyl macrogolglycerides、oleyl macrogol-6-glycerides、lauroyl macrogol-6-glycerides等)、ポリエチレングリコールのグリセリド及び脂肪酸エステル(caprylocaproyl macrogolglycerides、capryl-caproyl macrogolglycerides、oleoyl macrogolglycerides等)、Polyoxyl 40 Hydrogenated Caster Oil (Cremophor RH 40)、ポリソルベート80(Tween 80)、米国特許第4,861,764号に記載されたようなDodecylazacycloheptane、SEPA(R)(2-n-nonyl-1,3-dioxolane等)、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。より好ましくは、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(商標TranscutolでGattefosseから入手可能である)である。
【0048】
製剤が、皮膚浸透促進剤を約0.1〜約99重量%、好ましくは約0.1〜約90重量%、より好ましくは約5〜約90重量%、更に好ましくは約15〜75重量%含む。
【0049】
皮膚浸透促進剤に対する光線感作物質の割合は、組成物全体の重量%の、約1:20〜約1:10000、より好ましくは1:60〜1:300である。
【0050】
特に、光線感作物質が疎水性である場合は、光線感作物質を可溶化することが好ましい。グリーンポルフィリン等の特定の光線感作物質を可溶化する方法の1つは、リポゾームでの調製である。他の方法は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体での光線感作物質の可溶化である。好ましくは、部分的にエーテル化したシクロデキストリンであり、そのエーテル置換基はヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はジヒドロキシル基である。しかし、適切なシクロデキストリンは、本明細書に開示された光線感作剤と共に使用するのに適した大きさと高次構造を備えていなくてはならない。
【0051】
特定の光線感作物質を可溶化するために適した他の方法には、皮膚組織及び細胞の治療に使用できる、DMSO(ジメチルスルホキシド)、ポリエチレングリコール(PEG)又は他のあらゆる溶媒の使用が含まれるが、溶媒は、これらに限定されない。本明細書の製剤は可溶化剤を含んでいることが好ましい。浸透促進剤でもある可溶化剤もあり、本明細書の製剤は、光線感作物質の可溶化剤でもある浸透促進剤を含んでいることが好ましい。好ましくは、可溶化剤はグリコールエーテル、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール誘導体、プロピレングリコール、プロピレングリコール誘導体、ポリソルベート(TweenTM等)、脂肪アルコール、芳香族アルコール、プロピレングリコール、グリセロール、油、界面活性剤、グルコシド及びこれらの混合物から選択される。より好ましくは、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(R))、平均分子量が100〜5000のポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、セプタエチレングリコール、オクタエチレングリコール、プロピレングリコール、脂肪並びに脂肪酸プロピレングリコールモノエステル並びにジエステル(モノカプリル酸プロピレングリコール、モノラウリン酸プロピレングリコール)、ベンジルアルコール、グリセロール、オレイルアルコール、鉱物油、ラノリン/ラノリン誘導体、ワセリン又は皮膚への使用に適した他の石油製品、脂肪並びに脂肪酸プロピレングリコールモノエステル並びにジエステル、macrogol、macrogolglycerides又はポリエチレングリコールグリセリド及び脂肪エステル(stearoyl macroglycerides、oleoyl macroglyceride、lauroyl macroglyceride、linoleoyl macrogolglycerid(Cremophor−ポリオキシ水性のひまし油等)のethoxylatedなひまし油、C−6〜C30トリグリセリド、天然油、グルコシド(セテアリルグルコシド)、界面活性剤及びこれらの混合物から、可溶化剤が選択される。より好ましくは、可溶化剤が、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(R))、オレイルアルコール、及びこれらの混合物から選択される。
【0052】
本明細書の製剤が、約0.1.〜約99重量%である可溶化剤を含むことが好ましく、約1〜約75重量%である可溶化剤を含むことがより好ましい。
【0053】
製剤が、20℃で約50〜約50000cpsの粘性を有することが好ましく、約500〜約40000cpsがより好ましく、約5000〜約30000cpsが更に好ましい。それに粘性を対応させることが必要な場合は、粘性改良剤を用いてこれを行うことができる。好ましい粘性改良剤は、ポリエチレングリコール、アクリル酸ベースのポリマー(carbopol polymers又はカルボマー)、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトール(carbopol homopolymers)で架橋されたアクリル酸のポリマー、長鎖(C10〜C30)アルキルアクリレートで修飾され、アリルペンタエリスリトール(carbopol comopolymers)で架橋されたアクリル酸のポリマー、及びプルロニック(ブロックポリマー、ポロキサマー124、188、237、338、407等)としても知られるポロキサマー、ワックス(パラフィン、グリセリルモノステアレート、ジエチレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、エチレングリコールモノステアレート、グリコールモノステアレート)、ハードファット(飽和C8〜C18脂肪酸グリセリド)、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、固形アルコール、及びこれらの混合物から選択される。
【0054】
好ましい実施態様において、製剤は、1又は複数のPEGを含有する。製剤が、平均分子量が約2000以下、好ましくは約1500以下、好ましくは約1000以下、好ましくは約800以下、好ましくは約600以下、好ましくは約500以下、好ましくは約400以下のPEGを少なくとも1つ含むことが好ましい。製剤は、平均分子量が約3000以上、好ましくは約3350以上、好ましくは3500以上のPEGを少なくとも1つ含むことが好ましい。製剤はPEGの混合物を含むことが好ましい。より好ましくは、1つのPEGの平均分子量が約800以下であり、1つのPEGの平均分子量が3000以上である。
【0055】
本発明で使用するために好ましい製剤には、光線感作物質(特にグリーンポルフィリン)、PEG200等の低分子量PEG、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(R))、PEG3350等の高分子量PEG及びオレイルアルコール等の脂肪アルコールが含まれる。
【0056】
本明細書の製剤は他の様々な成分を含んでもよい。本明細書にはあらゆる適切な成分を使用してもよいが、典型的にはこれらの任意的な成分によって、製剤が化粧品として更に許容可能となる、又はその使用により更なるメリットが提供される。好ましい任意的な成分の例には、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、界面活性剤、油、ワックス、脂肪アルコール、分散剤、skin-benefit agent、pH調整剤、染料/着色料、鎮痛剤、香料、保存料及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
適切な保存料の例には、パラベン、ベンジルアルコール、クオタニウム15、イミダゾリジニル尿素、二ナトリウムEDTA、メチルイソチアゾニン、アルコール、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な乳化剤の例には、ワックス、ソルビタンエステル、ポリソルベート、ethoxylated castor oil、ethoxylated fatty alcohols、macrogolglycerides又はポリエチレングリコールグリセリド及び脂肪エステル(stearoyl macrogoglycerides、oleoyl macroglyceride、lauroyl macroglyceride等)、飽和脂肪酸のエステル(diethylene glycol parmitostearate等)、セトステアリルエーテルのmacrogol(macrogol−6−セトステアリルエーテル等)、高分子量のポリマー、架橋されたアクリル酸のポリマー(carbopols 又はcarbomers)及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な皮膚軟化剤の例には、propylene glycol dipelargonate、2−ミリスチン酸オクチルドデシル、non-polar ester、トリグリセリド並びにエステル(動物油及び植物油)、ラノリン、ラノリン誘導体、コレステロール、グルコシド(セテアリルグルコシド等)、pegylated lanolin、エトキシル化グリセリド及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な界面活性剤の例には、ソルビタンエステル、ポリソルベート、sarcosinates、taurate、ethoxylated castor oil、ethoxylated fatty alcohols、エトキシル化グリセリド、caprylocaproyl macrogol-8 glycerides、polyglyceryl-6 dioleate及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な油の例には、propylene glycol monocaprylate、中鎖トリグリセリド(MCT)、2−オクチル−ミリスチン酸ドデシル、エチルヘキサン酸セテアリル、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な脂肪アルコールの例には、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、及びこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。脂質及びトリグリセリド(種油脂質濃縮物、魚油濃縮物、高純度トリグリセリド並びにエステル)、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルポリグリコシド、アルキル硫酸塩、amphoterics cream bases、及びこれらの混合物も本明細書の製剤に有用である。
【0058】
使用の直前に再構成する乾燥製剤の製剤についても、検討する。乾燥製剤又は凍結乾燥製剤を、本発明の溶液から既知の方法によって簡便に得ることができる。本発明の乾燥製剤も保管も可能である。従来の技法を用いて、特に水分を共沸除去するために溶媒、典型的にはトルエンとエタノールとの混合物を添加した後、穏やかな条件下で溶液を乾燥するまで蒸発させることができる。その後残基を簡便に、例えば数時間乾燥室で乾燥させる。
【0059】
本明細書の方法は、脱毛症の治療として、毛包及び/又は周囲の組織並びに細胞をターゲットする。本発明の製剤を含有する光線感作物質を、全身に又は局所的に投与してよく、単独で又は混合物の成分として使用してよい。局所的投与が好ましい。光線感作物質の投与経路は、経皮的、静脈内、及び経口であってよく、インプラントを使用する投与であってもよい。経皮的投与経路が好ましい。例えば、局所用ローション、局所用クリーム、局所用ペースト、局所用懸濁液、静脈注射若しくは注入、経口摂取、又は皮内注射若しくはインプラントの形式による局所的な投与によって、グリーンポルフィリンを投与する。他の投与経路には、光線感作物質物質の、従来の形又は簡便な形での、皮下注射、筋肉注射、腹腔内投与が含まれる。
【0060】
局所的製剤(軟膏等)を皮膚表面に塗付するために、賦形剤中の光線感作物質の濃度を、好ましくは約0.001〜約10%w/w、より好ましくは約0.005〜約5%w/w、更に好ましくは約0.01〜約1%とする。約0.2%w/wの局所的製剤の使用が、特に好ましい。
【0061】
局所的に投与する場合、光線感作物質を塗付した後、治療する部位をマッサージするのが好ましい。理論に縛られたくはないが、マッサージは、ターゲット組織へ光線感作物質が浸透し広がるのを助けると考えられている。
【0062】
投与後には、光線感作物質は毛包及び周囲の組織並びに細胞に存在し、光活性化する。適切な活性エネルギー源を用いて適切な波長及び強度を有する活性エネルギーで、照射が行われ、それにより、光線感作物質が活性化し、発毛を刺激する及び/又は回復させる。適切な活性エネルギー源は適切なものであれば何れでもよい。例えば、太陽光又は他の外界のエネルギー源を使用してよいが、使用に好ましいエネルギー源は、伝達されるエネルギー量をコントロール可能な装置である。発毛を「刺激する」又は「回復させる」ことによって、発毛を誘発し、活性化し、蘇らせ、再発させ、元に戻し、又は引き起こす全ての方法が含まれる。好ましくは、照射が可視光線で行われるか、可視光線の波長を含む。
【0063】
各光線感作物質は、放射線の適切な波長で活性化される必要がある。したがって、本発明の方法を、あらゆる放射線、好ましくは使用する光線感作物質を活性化する光線で実施する。好ましくは、照射が、皮膚を透過して、使用する光線感作物質を活性化することのできる1又は複数の波長を含む。本発明に有用な放射線又は光線の波長は、治療方法の一部として使用する光線感作物質の活性化範囲によって変化する。約380〜900ナノメーター(nm)の波長が好ましく、これは光線感作物質及び透過を所望する組織の深さによって変わる。より好ましくは、約400〜約800nmの波長である。例えば、BPD−MA、グリーンポルフィリン誘導体は、400〜900nmの波長を含む外光だけでなく赤色光及び青色光によっても活性化する。400nmよりも短い波長の光線でもよいが、UVA光線による損傷効果の恐れから、好ましくない。
【0064】
光線感作物質の吸収スペクトルに応じて、いずれかの活性エネルギー源を、光線感作物質を活性化するために使用する。好ましいエネルギー源には、レーザー、発光ダイオード(LED)、白熱灯、アーク灯、標準的な蛍光灯、UV灯及びこれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。より好ましくはレーザー、発光ダイオード及びこれらの組合せである。
【0065】
あるいは、あらゆる光線感作物質によって吸収される波長の成分を有する好都合な活性エネルギー源、例えば、手術灯又は太陽光を含むいずれの明光源を使用してもよい。しかし、紫外線領域の波長は、突然変異を誘発する恐れがあるので、通常は避けるべきである。したがって、本方法に使用される活性エネルギーは、紫外線領域でないことが好ましい。
【0066】
市販の活性エネルギー源には、CureLightTM(Photocure社、ノルウェー、オスロ)、BLU−UTM(DUSA社、米国、MA、Wilmington)PDTレーザー(Diomed社、米国、MA、Andover)、CeralasTM(Biolitec社、ドイツ、Jena)、及びQ-Been & Quanta-med(Quantum Devices社、米国、WI、Barneveld)が含まれる。
【0067】
本明細書で検討するPDT治療における活性エネルギー量は、必要に応じて変わる。好ましくは、グリーンポルフィリン等の強力な光線感作物質については、全身送達薬用の光線量は約5〜50J/cm、局所送達薬用の光線量が約25〜200J/cmである。総照射量が概ね200J/cm未満であることが一般的に好ましく、より好ましくは100J/cm未満である。好ましい照射量は約0.01〜約200J/cmの範囲であり、より好ましくは0.1〜約100J/cmである。例えば、約25J/cm、約50J/cm、約75J/cm、約100J/cm、約125J/cm、約150J/cm又は約175J/cmである。より好ましい光線量の範囲は、約25〜約100J/cmである。更に好ましい光線量の範囲は、約40〜約8J/cm、特に約50〜約75J/cmである。
【0068】
通常、活性エネルギーの強度は、約600〜1000mW/cmを超えてはならない。約10〜400mW/cm、より好ましくは25〜100mW/cmの照射である。
【0069】
通常、照射は約10秒〜約4時間継続し、好ましくは約5分〜1時間継続する。照射時間は、約10分、約15分、約20分、約30分、約45分、約60分、約75分、約90分、約105分、約120分、約135分、約150分、約165分及び約180分とする。
【0070】
理論に縛られたくはないが、光線感作物質、製剤及び活性エネルギーがそれぞれ異なると、発毛を誘引するためには異なるパラメータが必要となると考えられている。これらのパラメータは、単純な投与量決定試験によって決定することができる。例えば、適切な方法には、
(a)硬毛数を計測するステップ、
(b)様々な強度の光線感作物質成分を投与するステップ、
(c)様々な長さの時間、待つステップ
(d)様々な活性エネルギー量で治療するステップ、
(e)適切な時間をおいて硬毛数を再評価するステップ
が含まれる。
【0071】
或いは、毛髪密度、毛髪重量及び/又は毛幹の直径等の発毛を評価する他の方法が、研究に含まれることもある。
【0072】
本発明が、治療部位で過度の細胞死を引き起こすPDT量を含まないことが好ましい。PDT量は、存在する光線感作物質量と送達された活性エネルギー量の2つの因子によって決定される。理論に縛られたくはないが、PDTが発毛を刺激する機序は、炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させることによると考えられている。これらのサイトカインが生物化学的経路で作用することによって、毛包が硬毛を発毛できるようになると考えられる。PDT量が炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させるためには十分高いが、過度の細胞死や結果として生じる組織の損傷等の不当な副作用を避けるためには十分に低い特定の量の範囲が存在する可能性がある。さらに、上述のように、PDTが脱毛に使用可能であることが示唆されてきたが、本発明者らは、PDTが脱毛を促進することは見出さなかった。理論に縛られたくはないが、PDT量が高いと、脱毛が促進するような影響が毛包に影響を及ぼされ、PDT量が低いと硬毛数の増加を刺激する可能性がある。本明細書に使用する「低PDT量」は、過度の細胞死の原因とならないPDT量である。
【0073】
活性エネルギーを使用する場合、治療部位では毛髪で覆われている部分が最小限であることが好ましい。したがって、治療部位の毛髪で覆われている部分が著しく広いときは、活性エネルギーを使用する前に、毛髪を短く切るか、剃毛することが好ましい。理論に縛られたくはないが、毛髪には保護機能があるという事実から、毛髪に覆われていると、特に、可視光線の波長が使用される場合は、ターゲット部位に送達される活性エネルギー量が影響を受けると考えられている。したがって、正確な量をより確実に送達するためには、毛髪で覆われた部分がほとんどない又は全くないことが好ましい。或いは、活性エネルギーの送達の変化で毛髪の保護効果を補ってもよい。
【0074】
本発明に使用される照射又は露光は、治療する部分に応じて、体又は頭皮の大きな部分又は小さな部分に行う。露光した皮膚の火傷を防ぐために、患者の紅斑の量(MED)に発生を最小限にするために、治療を行う前に露光時間を評価する。
【0075】
PDTは単独治療でもよいが、治療を繰り返すことが好ましい。頻度は様々である。例えば、毎日、2日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回、1ヶ月に2回、4週間に1回、1ヶ月に1回、6週間に1回、8週間に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、1年に2回又は1年に1回、或いは発毛を刺激するために又は効果的な状態を維持するために適する他の間隔で、治療を行うことができる。好ましくは、治療が少なくとも6ヶ月に1回繰り返される。より好ましくは、少なくとも3ヶ月に1回である。さらに好ましくは、少なくとも2ヶ月に1回である。
【0076】
治療の全回数は、1回〜必要とするだけ多くの回数の範囲とすることができる。脱毛が確認されるケースでは、定期的な維持療法を開始し、持続する。3ヶ月ごとの治療の全回数を1〜12回とすることが好ましく、より好ましくは1〜6回、更により好ましくは2〜3回とする。
【0077】
光線感作物質の投与と活性エネルギーの投与との間の時間は、因子の数によって変わる。皮膚に光線感作物質がまだ存在する限り、光線感作物質の投与後、適当ないずれの時に活性エネルギーを送達する。光線感作物質の投与後に、約5分〜約6時間の期間活性エネルギー治療を行うことが好ましく、30分〜4時間の範囲がより好ましい。更により好ましくは、光線感作物質の投与後に、約2時間光線を与えることが好ましい。
【0078】
これまで、概略的に本発明を説明してきたが、例として示す以下の実施例を参照することにより、同様のことがより容易に理解されるであろう。特に明記されない限り、下記の実施例は本発明を限定するためのものではない。
【実施例】
【0079】
計10名の被験者を治療した。被験者は全て、2型又は3型頭頂部脱毛症の18歳以上のヒトの男性で、ハミルトン・ノーウッドの分類に従って評価した。全ての被験者について、頭皮頭頂部の円形のテスト部位3ヶ所のうち2ヶ所に、0.2重量%(w/w)のQLT0074局所軟膏を単独使用した。各テスト部位に塗付した軟膏の量は、約224mg(テスト部位1ヶ所に対する、光線感作物質は約0.44mg)。2時間後に、余分な薬剤を除去し、赤色光(LED690nm)をテスト部位3ヶ所のうち2ヶ所に照射した。他のテスト部位は、薬剤も投与せず光線の照射もせず、コントロールとして用いた。
【0080】
2つの光量コホート(50J/cm及び75J/cm)を調査した。各コホートは5名の被験者からなる。
【0081】
治療中及び治療後にあらゆる有害事象を観察することにより、安全性を評価した。深刻な有害事象は報告されなかった。
【0082】
治療の3ヵ月後に毛髪数を計測し、基準数と比較することによって、有効性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0083】
[表1]

【0084】
結果から、AGA(アンドロゲン性脱毛症)に関連する脱毛症の被験者において、PDT単独治療によって毛髪数を増加できることが示される。
【0085】
特許、特許出願及び公報を含む、本明細書に引用された全ての参考文献の内容は、前述部分で具体的に組み込まれているかどうかに関わらず、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0086】
これまで本発明について十分に説明してきたので、同等のパラメータ、濃度及び条件を使用する広い範囲において、当業者であれば、過度の実験を必要とせずに、本発明を実施可能であることが理解されるであろう。本出願は、本発明が関連する当業界のほぼ既知又は慣行であるような本開示からの逸脱、及び前述の基本的特徴を応用する本開示からの逸脱等の、本発明の原理に一般的に従う、本発明のあらゆる変形、使用、適合を包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)発毛が望まれる皮膚の部分に光線感作物質を投与するステップと、
(b)光線感作物質を活性化するために適切な波長を有するエネルギーで部分を照射するステップ
とを含む、光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)を用いた治療方法であって、3ヶ月以内に治療部分の硬毛数が2%以上増加することを特徴とする方法。
【請求項2】
発毛が望まれる皮膚の部分に光線感作物質を投与するステップと、光線感作物質を活性化するために適切な波長を有するエネルギーで該部分を照射するステップとを含む、光線力学的療法を用いた治療方法であって、治療によって、治療部分に少量のPDT製剤が送達され、その結果該部分の硬毛数が増加することを特徴とする方法。
【請求項3】
治療部分の硬毛数が、2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは4%以上増加することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
3ヶ月以内に治療部分の硬毛数が、3%以上、好ましくは4%以上増加することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
光線感作物質を、発毛が望まれる部分に局所的に投与することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の方法。
【請求項6】
光線感作物質を発毛が望まれる部分に局所的に投与し、これを該部分にマッサージすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の方法。
【請求項7】
20℃での粘度が約50〜約50000cpsである局所製剤の形態で光線感作物質を投与することを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の方法。
【請求項8】
光線感作物質が、プロポルフィリン、ポルフィリン、ポルフィリン誘導体及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の方法。
【請求項9】
光線感作物質の投与の5分〜4時間後に、活性化エネルギーを送達することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
活性化エネルギー量の総送達量が200J/cm未満であり、好ましくは100J/cm未満であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載の方法。
【請求項11】
治療部分の硬毛数を増加させる、光線力学的治療以外の治療の少なくとも1つを用いて、対象を更に治療することを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の方法。
【請求項12】
5−αレダクターゼ阻害剤、ミノキシジル、植毛、スカルプリダクション(scalp reduction)、及びこれらの組合せから選択される光線力学的治療以外の治療の少なくとも1つを用いて対象を治療することを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の方法。
【請求項13】
硬毛数の増加が望まれる部分に光線感作物質を投与するステップと、光線感作物質を活性化するために適切な波長を有する活性化エネルギーで該部分を照射するステップとを含む、光線力学的療法を用いた治療方法であって、治療部分の炎症誘発性サイトカインのレベルを上昇させることを特徴とする方法。
【請求項14】
炎症誘発性サイトカインが、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、インターロイキン−1α、インターロイキン−1β、及びこれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
対象がアンドロゲン性脱毛症による脱毛を罹患していることを特徴とする請求項1〜14のいずれか記載の方法。
【請求項16】
発毛の減少又は脱毛を呈する対象の皮膚における発毛の増加を測定する方法であって、
(a)皮膚に光線感作物質を投与するステップ、
(b)光線感作物質に吸収されて、光線感作物質を活性化する波長を有する電磁エネルギーで皮膚を照射するステップ、及び
(c)発毛の増加を測定するステップ
を含み、(a)及び(b)の両ステップで治療していない皮膚と比較して発毛の増加を測定することを特徴とする方法。
【請求項17】
光線感作物質が、400〜800nmの放射線を吸収する光線感作物質から選択されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
光線感作物質を局所使用によって投与することを特徴とする請求項16又は17記載の方法。
【請求項19】
電磁エネルギーが可視光線であることを特徴とする請求項16〜18のいずれか記載の方法。
【請求項20】
発毛の増加を、硬毛数の計測、毛髪重量の測定、毛髪密度の測定及び/又は毛幹の直径の測定によって測定することを特徴とする請求項16〜19のいずれか記載の方法。


【公表番号】特表2006−514567(P2006−514567A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−571015(P2004−571015)
【出願日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【国際出願番号】PCT/CA2003/000603
【国際公開番号】WO2004/093993
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(502254176)キュー エル ティー インク. (13)
【氏名又は名称原語表記】QLT Inc.
【住所又は居所原語表記】887 Great Northern Way, Vancouver,British Columbia, Canada V5T 4T5
【Fターム(参考)】