説明

発泡ケーブル

【課題】中心導体の偏芯や高周波伝送時の損失を低減し、且つインピーダンス不整合を防止できる発泡ケーブルを提供する。
【解決手段】中心導体2の外周に、充実体からなる内層3、発泡層4、充実体からなる外層5を順次設けた発泡ケーブル1において、内層3の外表面の周方向に、発泡ガスを溜め込む複数の凹部6を設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GHz帯の通信周波数の電力を伝送する高周波ケーブルに係り、特に、高周波伝送時の損失を低減し、且つインピーダンス不整合を防止できる発泡ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
GHz帯の通信周波数の電力を伝送する高周波ケーブルにおいて、中心導体を覆う絶縁体の電気特性として、誘電率ε及び誘電正接tanδが小さいことが求められる。
【0003】
伝送損失は以下の式で表されるように、周波数fや誘電正接tanδ、誘電率εの平方根に比例する。
(伝送損失)∝√ε×f×tanδ
【0004】
誘電率εや誘電正接tanδを低減させるには絶縁体の材料としてポリエチレン(PE)を用いるが、誘電率εはPEを発泡させることで更なる低減が可能である。
【0005】
このように絶縁体を発泡させた発泡ケーブルは既に多くの実例があり、特許文献1,2にあるように製造時における発泡ガスの噴出を防ぐため、発泡層(発泡させた絶縁体)を充実体である内層、外層で挟み込む構造を持った発泡ケーブルも多く存在する。代表的な発泡ケーブルの断面図を図6に示す。図6に示すように、代表的な発泡ケーブル60は、中心導体61の外周に、充実体からなる内層62、発泡層63、充実体からなる外層64を順次設けてなる。ここでは、発泡ケーブルの一例として、外層64の外周に、外部導体65、シース66を順次設けた発泡同軸ケーブルを示している。
【0006】
また、発泡度を高くするために、ベース樹脂や発泡核剤、発泡ガスといった材料面での開発やベース樹脂押出温度、注入ガス圧といった製造パラメータの改善といった研究はこれまでに多くなされており、現状では、発泡度75%程度の発泡ケーブルが製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−294244号公報
【特許文献2】特開2008−226772号公報
【特許文献3】特開2007−188742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、今後要求される伝送損失を満たすため、更なる高発泡化を行うと、発泡度75%〜80%を境界に、多くの気泡が合一することによる巨大な気泡(以下、巣と称す)が発生し、中心導体の偏芯やインピーダンス不整合の問題が生じている。巣が発生した発泡ケーブルの断面図を図7に示す。図7に示すように、内層62と発泡層63との境界面付近に巣70が発生し、これにより中心導体61が図示白抜き矢印方向に偏芯してしまう。
【0009】
このように巣は内層と発泡層との境界面付近に発生する傾向にあることから、この巣は、発泡層の断熱効果が高いため内層付近の冷却速度が遅くなり、高温状態が続くことによる気泡壁の脆弱化、気泡壁の流出が原因で発生すると考えられる。
【0010】
これまで巣の発生を抑制する手段として、発泡核剤や発泡ガス、ベース樹脂といった材料面において、気泡を微小均一化するといった様々な検討が行われてきたが巣の発生を抑制する決定的な解決策は見つかっていない。
【0011】
また、押出温度や注入ガス圧といったプロセス面でも、巣の発生を抑制する最適製造パラメータは判明していない。
【0012】
これら材料面での開発やプロセス面での最適製造パラメータの選定などにより気泡を微小均一化するには多くの時間を費やし、ベース樹脂や発泡核剤を変更すると始めから開発をやり直さないといけないという問題がある。
【0013】
さらに、発泡ケーブルの構造においても、特許文献3にあるように中心導体の周囲に発泡度を高くした層を設けたものはあるが、内層と発泡層との境界面付近にランダムに発生する巣が問題なのであって発泡度が高い層を設けることは、巣の抑制には効果がない。
【0014】
本発明は、これら事情に鑑みなされたものであり、中心導体の偏芯や高周波伝送時の損失を低減し、且つインピーダンス不整合を防止できる発泡ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、中心導体の外周に、充実体からなる内層、発泡層、充実体からなる外層を順次設けた発泡ケーブルにおいて、前記内層の外表面の周方向に、発泡ガスを溜め込む複数の凹部を設けた発泡ケーブルである。
【0016】
請求項2の発明は、中心導体の外周に、充実体からなる内層、発泡層、充実体からなる外層を順次設けた発泡ケーブルにおいて、前記内層と前記発泡層との境界面に存在する気泡の径が、前記発泡層の平均気泡径よりも大きい発泡ケーブルである。
【0017】
請求項3の発明は、前記内層と前記発泡層との境界面に存在する気泡の径が、前記発泡層の平均気泡径の3倍以上である請求項2に記載の発泡ケーブルである。
【0018】
請求項4の発明は、前記中心導体の偏芯率が1.1以下である請求項1〜3のいずれかに記載の発泡ケーブルである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、中心導体の偏芯や高周波伝送時の損失を低減し、且つインピーダンス不整合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発泡ケーブルを示す断面図である。
【図2】図1の発泡ケーブルを製造するための設備を示す概略図である。
【図3】本発明の変形例に係る発泡ケーブルを示す断面図である。
【図4】本発明の変形例に係る発泡ケーブルを示す断面図である。
【図5】実施例で観察した発泡ケーブルの断面図である。
【図6】従来の発泡ケーブルを示す断面図である。
【図7】巣の発生により中心導体の偏芯が生じた発泡ケーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
本発明者らは鋭意検討を重ね、巣の発生を抑制するのではなく、巣の発生位置を制御することで、これまでに生じていた中心導体の偏芯やインピーダンス不整合といった問題を解決しようと考えた。
【0023】
即ち、本発明者らが提案する発明は、内層と発泡層との境界面付近に、周方向に沿って均一に巣を発生させるような内層構造を持つ発泡ケーブルである。この発泡ケーブルの内層構造の一例を図1に示す。
【0024】
図1に示すように、本実施の形態に係る発泡ケーブル1は、中心導体2の外周に、充実体からなる内層3、発泡層4、充実体からなる外層5を順次設けてなり、内層3の外表面の周方向に、発泡ガスを溜め込むガスポケットとなる複数の凹部6を設けたものである。
【0025】
ここで、内層3と発泡層4との境界面に存在する気泡の径が、発泡層4の平均気泡径の3倍以上であることが好ましく、中心導体2の偏芯率が1.1以下であることが好ましい。
【0026】
充実体からなる内層3を構成する材料としては、低密度ポリエチレンや接着性のポリオレフィンエラストマーを挙げることができる。
【0027】
発泡層4を構成するベース樹脂(ベース材料)としては、ポリエチレン系樹脂を用いることができる。このポリエチレン系樹脂としては、LDPE(低密度ポリエチレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、MDPE(中密度ポリエチレン)、UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)等の各種ポリエチレンを単独又は複数種類ブレンドしたものが挙げられる。好ましくは、高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを70/30〜85/15の割合で混合したブレンド物を用いることができる。
【0028】
このベース樹脂の発泡は、物理発泡或いは化学発泡により行うことができる。物理発泡を行う場合、使用する発泡核剤としては、BN(窒化ホウ素)、タルク、シリカ系微粒子に代表される無機微粒子、ふっ素樹脂系微粒子のほか、ADCA(アゾジカルボンアミド)、OBSH(p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジン)のような有機系微粒子を使用してもよく、特に限定するものではない。なお、ベース樹脂に着色剤等を添加しても構わない。
【0029】
発泡剤として用いる発泡ガスは、N2、Ar等いわゆる不活性ガスが好ましい。発泡ガスの注入圧力は、所望する発泡度、使用する材料の種類、発泡核剤の種類や量に応じて設定できる。
【0030】
充実体からなる外層5を構成する材料としては、ポリエチレン系の樹脂を用いることができ、好ましくは、高密度ポリエチレンである。
【0031】
次に、発泡ケーブル1の製造方法を説明する。
【0032】
図2に示すように、発泡ケーブル1を製造するための設備20は、中心導体2を送り出す送出機21と、送り出された中心導体2を加熱する予熱機22と、加熱された中心導体2の外周に内層3、発泡層4、外層5となる樹脂をそれぞれ押し出す内層押出機23、発泡押出機24、外層押出機25と、各層で被覆された中心導体2を冷却する冷却槽26と、冷却されて完成した発泡ケーブル1を巻き取る巻取機27とを備える。
【0033】
通常、内層3は中心導体2の周囲に均等に樹脂を押し出されて形成されるが、本設備20における内層押出機23は、そのクロスヘッド部にある口金に凹凸の溝をつけることで、内層3の外表面に凹凸構造を形成することができるように構成されている。
【0034】
この設備20を用いて中心導体2の外周に、充実体からなる内層3、発泡層4、充実体からなる外層5を順次形成すると、本実施の形態に係る発泡ケーブル1が得られる。発泡ケーブル1は、例えば、その後別工程に送られ外部導体とシースとを被覆して発泡同軸ケーブルとされる。
【0035】
このように、内層3の外表面に凹部6を設けることにより、発泡層4を形成する際に凹部6に発泡ガスが溜まり、巨大気泡、即ち巣を発生させることができる。また、凹部6を内層3の外表面の周方向に等間隔で設けることにより、内層3と発泡層4との境界面において周方向に均一に巣を発生させることができる。
【0036】
以上要するに、本実施の形態に係る発泡ケーブル1によれば、内層3と発泡層4との境界面において周方向に均一に巣を発生させることができるため、中心導体2の偏芯や高周波伝送時の損失を低減し、且つインピーダンス不整合を防止することが可能となる。また、この効果は、材料の改善、製造パラメータの変更をすることなく得られ、その工業的価値は大なるものがある。
【0037】
なお、本発明は、発泡ケーブルの内層構造に特徴を持つものであり、ベース樹脂や発泡核剤を変更しても適用可能である。
【0038】
また、本発明は、内層3の外表面の周方向に等間隔で凹部6が形成されていればよく、その形状は任意のものを選択することができ、図1に示した形状以外にも、図3や図4に示す形状或いはそれ以外の形状のものを採用することができる。
【実施例】
【0039】
20D(中心導体径9.0mm、発泡絶縁層厚7.0mm、外部導体径25.0mm、シース径28.0mm)の高周波用の発泡同軸ケーブルを試作し、評価を行った。試作した発泡同軸ケーブルの各パラメータを表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
発泡絶縁体層は、内層、発泡層、外層の3層構造とし、各層を構成する際に使用するベース樹脂、発泡核剤、発泡ガスを表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
発泡同軸ケーブルは図2で示した設備を用いて製造した。内層押出機23のクロスヘッド部にある口金の形状を変更し、以下に示す手順で実施例1〜3、及び比較例1〜3の各発泡同軸ケーブルを試作した。本発明は中心導体に発泡絶縁体層を被覆する工程までを検討対象とする。
【0044】
先ず、送出機21から中心導体を供給し、予熱機22で加熱した後、内層押出機23で内層を被覆した。実施例1〜3において内層押出機23のクロスヘッド部にある口金に溝を掘ることで、被覆厚τ、最大被覆厚τα、凹部6を仕切る凸部幅τx、凸部間隔θで内層を被覆できるようにした。
【0045】
続いて発泡押出機24にて発泡層を、外層押出機25で外層を被覆した。発泡層と外層は同一のクロスヘッド上で同時に被覆されるようにした。
【0046】
各層の被覆が終了した後、冷却槽26にて冷却して発泡ケーブルを製造した。その後、巻取機27で回収し、別工程に送り外部導体とシースを被覆した。
【0047】
評価は、巻取機27で回収した発泡ケーブルの一部を切り取り、断面を観察することで、各種評価を行った。
【0048】
評価項目は以下の通りである。
【0049】
(1)気泡径
2km製造し、任意の10箇所の断面をSEM観察し、各断面の内層付近と発泡層中央付近の一部を撮影したSEM観察画像から、内層と発泡層との境界面の最大気泡径とそれ以外の発泡層の最大気泡径を求めた。
【0050】
求め方は、SEM観察画像の気泡径をなぞり、Windows(登録商標)汎用画像処理パッケージWinROOF(登録商標)を使用して面積Sを求め、次いで気泡を面積Sの円形と仮定して、S=π×r2から半径rを求め、直径2×rを気泡径とした。
【0051】
(2)偏芯率
偏芯率とは芯部の中心から外層までの距離の最大値と最小値との比(最大値/最小値)で計算される値である。(1)と同様に合計10箇所の断面観察を行い、偏芯率の平均値を求めた。
【0052】
(3)発泡度
発泡度はアルコール比重法で測定した。(1)と同様に合計10箇所を測定した。
【0053】
(4)総合判定
製造安定性(歩留り)とインピーダンス特性を総合的に評価した。ここで、偏芯率1.05未満且つ発泡度75%以上のものを◎、偏芯率1.05未満且つ発泡度70%〜74%のものを○、偏芯率1.05〜1.10のものを△、偏芯率が1.10より大きいものを×とし、○以上で運用可能と判断した。
【0054】
実施例1〜3、比較例1〜3の各断面構造条件、評価結果を表3に示す。なお、実施例1〜3は本発明を適用した発泡同軸ケーブルであり、比較例1〜3は従来の発泡同軸ケーブルである。
【0055】
【表3】

【0056】
比較例2に示す通り、従来の発泡同軸ケーブルでは、内層発泡層境界最大気泡径が発泡層の平均気泡径の3倍程度になると偏芯が1.1近くになり、それ以上になると比較例3に示す通り大きく偏芯してしまう。
【0057】
これに対し、本発明を適用した発泡同軸ケーブルでは、内層発泡層境界最大気泡径が発泡層の平均気泡径の4倍以上になっても、偏芯率が1.1以下となっている。得られた発泡同軸ケーブルの断面概略図を図5に示す。図5に示すように、内層3の凹部6に巨大な気泡(巣)50が均一に発生し、中心導体2の偏芯を防ぐことが可能であった。
【符号の説明】
【0058】
1 発泡ケーブル
2 中心導体
3 内層
4 発泡層
5 外層
6 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体の外周に、充実体からなる内層、発泡層、充実体からなる外層を順次設けた発泡ケーブルにおいて、前記内層の外表面の周方向に、発泡ガスを溜め込む複数の凹部を設けたことを特徴とする発泡ケーブル。
【請求項2】
中心導体の外周に、充実体からなる内層、発泡層、充実体からなる外層を順次設けた発泡ケーブルにおいて、前記内層と前記発泡層との境界面に存在する気泡の径が、前記発泡層の平均気泡径よりも大きいことを特徴とする発泡ケーブル。
【請求項3】
前記内層と前記発泡層との境界面に存在する気泡の径が、前記発泡層の平均気泡径の3倍以上である請求項2に記載の発泡ケーブル。
【請求項4】
前記中心導体の偏芯率が1.1以下である請求項1〜3のいずれかに記載の発泡ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−238402(P2011−238402A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107406(P2010−107406)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)