説明

発泡ポリスチレン用接着剤組成物

【課題】下地に発泡ポリスチレンからなる断熱材を介して防水シートを貼り付ける断熱防水施工を行なうにあたって、下地に断熱材を全面接着して強固に固定することを可能にすることができ、しかも下地に対する断熱材の接着強度を高く得ることができる発泡ポリスチレン用接着剤組成物を提供する。
【解決手段】セメント系の下地に発泡ポリスチレンからなる断熱材を介して防水シートを貼り付ける断熱防水工法において、下地に断熱材を接着する際に用いられる発泡ポリスチレン用接着剤組成物に関する。ゴムラテックス100質量部に対して樹脂エマルジョン10〜150質量部とセメント300〜500質量部を含有すると共に、セメントに対して40〜60質量%の水を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋上などに発泡ポリスチレン製の断熱材を介してゴム製の防水シートを貼り付ける断熱防水工法において、発泡ポリスチレン製の断熱材を接着する際に用いる発泡ポリスチレン用接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋上などにおいて、モルタルやコンクリートで形成される下地の上に断熱材を介して防水シートを貼ることによって、断熱防水施工をすることが行なわれている(例えば特許文献1、特許文献2等参照)。
【0003】
ここで防水シートとしては、加硫ゴムからなるゴムシートや、ポリ塩化ビニル等からなる樹脂シートが用いられる。そして上記の特許文献1のものでは、ポリ塩化ビニル製の防水シートを用い、断熱材としては発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンを用いるようにしており、ニトリルゴム系の接着剤で断熱材を下地に接着するようにしている。しかし、ポリ塩化ビニル製の防水シートはゴム製のものに比べて耐久性等に問題があり、また発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンはコストが高く、さらに発泡ポリスチレンよりも断熱性能が低いという問題がある。
【0004】
一方、特許文献2には、防水シートとしてブチルゴムやエチレンプロピレンゴムなどのゴム製のものを用いることが開示されており、また断熱材として発泡ポリエチレンや発泡ポリウレタンの他に、コストが安価な発泡ポリスチレンを用いることが開示されている。このように特許文献2のものでは、防水シートとして耐久性等に優れたゴム製のものを用い、断熱材としてコストが安価で断熱性能が高い発泡ポリスチレンを用いるので、コストパフォーマンスや断熱性能が高い断熱防水施工を行なうことができるものである。
【特許文献1】特開平8−312073号公報
【特許文献2】特開2002−114957号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2のものでは、断熱材を下地に接着する接着剤としてクロロプレン系接着剤が使用されており、断熱材として発泡ポリスチレンを用いる場合、クロロプレン系接着剤に含まれている有機溶剤によって発泡ポリスチレンが溶解されるおそれがある。
【0006】
このように、発泡ポリスチレン製の断熱材を用いる場合は、接着剤を用いて下地に断熱材を接着するという工法をとることが難しい。このため、ディスク板とアンカーを用いて下地に物理的に固定する工法がとられているが、この場合には部分的な固定になるので、強風などに際して発泡ポリスチレンの断熱材の固定部分が破壊されて、下地から剥がれるおそれがあるという問題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、下地に発泡ポリスチレンからなる断熱材を介して防水シートを貼り付ける断熱防水施工を行なうにあたって、下地に発泡ポリスチレン製の断熱材を全面接着して強固に固定することを可能にすることができ、しかも下地に対する断熱材の接着強度を高く得ることができる発泡ポリスチレン用接着剤組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発泡ポリスチレン用接着剤組成物は、セメント系の下地に発泡ポリスチレンからなる断熱材を介して防水シートを貼り付ける断熱防水工法において、下地に断熱材を接着する際に用いられる発泡ポリスチレン用接着剤組成物であって、ゴムラテックス100質量部に対して樹脂エマルジョン10〜150質量部とセメント300〜500質量部を含有すると共に、セメントに対して40〜60質量%の水を含有して成ることを特徴とするものである。
【0009】
また請求項2の発明は、請求項1において、ゴムラテックスが、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンラテックス、及びこれらの酸変性物から選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0010】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、セメントが、超速硬セメントであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の発泡ポリスチレン用接着剤組成物は、有機溶剤を含有しない水性接着剤であり、発泡ポリスチレンを溶解するようなことなく接着することができ、発泡ポリスチレン製の断熱材をセメント系の下地に全面接着して、強固に固定することが可能になるものである。また本発明の発泡ポリスチレン用接着剤組成物は、セメント系の下地と発泡ポリスチレンに対する接着性がそれぞれ良好であり、高い接着強度で下地に断熱材を接着することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明に係る接着剤組成物において、ゴムラテックスとしては、特に限定されるものではないが、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(SBRラテックス)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス(MBRラテックス)、アクリロニトリル−ブタジエンラテックス(NBRラテックス)などや、これらに酸を含有させて変性した酸変性ゴムラテックスを用いることができる。この酸変性の酸としては、カルボン酸などを挙げることができる。
【0014】
また本発明に係る接着剤組成物において、樹脂エマルジョンとしては、特に限定されるものではないが、ロジンエステル系エマルジョン、石油樹脂系エマルジョン、テルペンフェノール系エマルジョンなどを用いることができる。
【0015】
また本発明に係る接着剤組成物において、セメントとしては、特に限定されるものではないが、超速硬セメント、アルミナセメントなどを用いることができる。セメントは二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化第2鉄、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、三酸化硫黄、アルカリ等の成分からなっているが、本発明において超速硬セメントとして用いることができるのは、これらの成分のなかでも酸化アルミニウムを8質量%以上、三酸化硫黄を6質量%以上含むものであり、この超速硬セメントは短時間で普通ポルトランドセメント3日強度に相当する強度を示すものである。接着剤組成物は常温において1時間程度で接着力を発現することが必要であるので、超速硬セメントを用いることが好ましく、普通ポルトランドセメントは望ましくない。超速硬セメントのなかでもマイルドジェットセメントがより好ましい。
【0016】
本発明に係る接着剤組成物は、上記のゴムラテックス、樹脂エマルジョン、セメントを配合し、また必要に応じて無機充填材を配合し、さらにこれに水を加えて混合することによって、調製することができるものである。
【0017】
ここで、樹脂エマルジョンの配合量は、ゴムラテックス100質量部に対して10〜150質量部の範囲に設定されるものである。尚、この配合量は固形分の質量であり、ゴムラテックスの固形分100質量部に対して樹脂エマルジョンの固形分10〜150質量部の範囲となるものである。樹脂エマルジョンは、接着剤組成物に粘着性を付与して接着性を高めるために配合されるものであり、樹脂エマルジョンの配合量が10質量部未満であると粘着性が不足する。逆に樹脂エマルジョンの配合量が150質量部を超えると、接着剤組成物中のゴムラテックスの量が少なくなって、接着性が低下する。このようにいずれの場合も接着剤組成物を塗布して接着を行なう際の作業性に問題が生じる。
【0018】
またセメントの配合量は、固形分の質量において、ゴムラテックス100質量部に対して300〜500質量部の範囲に設定されるものである。尚、この配合量は固形分の質量であり、ゴムラテックスの固形分100質量部に対してセメント300〜500質量部の範囲となるものである。ゴムラテックスは主として発泡ポリスチレンに対する接着性に寄与し、セメントは主としてセメント系の下地に対する接着性に寄与するものである。従って、セメントの配合量が300質量部未満であると、セメントの量が不足することになって、下地に対する接着性を十分に得ることができなくなるおそれがあり、逆にセメントの配合量が500質量部を超えると、ゴムラテックスの量が不足することになって、発泡ポリスチレンに対する接着性を十分に得ることができなくなるおそれがある。
【0019】
また水の配合量は、セメントに対して40〜60質量%の範囲に設定されるものである。尚、この水の配合量はゴムラテックスや樹脂エマルジョンに含まれる水も算入するものであり、接着剤組成物中の水の合計量がセメントに対して40〜60質量%の範囲になるように、水の配合量を調整するものである。従って、ゴムラテックスや樹脂エマルジョンに含まれる水で足りる場合には、水を別途添加する必要はない。この水はセメントの反応水として費やされるものであり、セメントに対して40〜60質量%の水分量のときに、セメントの硬化が迅速に進行し、接着力の発現が速くなるものである(常温で1時間程度)。これに対して、水の配合量がセメントに対して40質量%未満であると、セメントの硬化が不十分になって、接着強度を十分に得ることができなくなるおそれがあり、逆に水の配合量が60質量%を超えると、水が過多になってセメントの硬化が遅くなり、この場合も接着性を十分に得ることができなくなるおそれがある。
【0020】
さらに必要に応じて配合される無機質充填材としては、例えば珪砂などを用いることができる。この無機質充填材の配合量は、ゴムラテックスの固形分100質量部に対して200〜1000質量部の範囲が好ましい。無機質充填材はコストダウンのために配合されるものであるので、無機質充填材を配合しない組成であっても良い。
【0021】
次に、上記のように調製される本発明の接着剤組成物を用いて、建築物の屋上などにおいて断熱防水施工を行なう方法について説明する。建築物の屋上などの床面はコンクリートやモルタルなどのセメント系の下地1として形成されているものであり、まずこの下地1の表面に発泡ポリスチレンシートで形成される断熱材2を接着する。この接着の際に本発明の接着剤組成物が用いられるものであり、接着剤組成物4を下地1の表面に塗布し、この上に断熱材2を重ね、接着剤組成物4を硬化させることによって、図1のように断熱材2を下地1の表面に接着することができるものである。接着剤組成物4の塗布は、このように下地1の表面に行なう他、断熱材2に塗布するようにしてもよく、あるいは下地1と断熱材2の両方に塗布するようにしてもよい。
【0022】
ここで、本発明の接着剤組成物は有機溶剤を含有しない水性接着剤であるので、発泡ポリスチレンを溶解するようなことがないものであり、発泡ポリスチレン製の断熱材2を接着剤組成物による接着によって下地1に固定することが可能になる。従って、発泡ポリスチレン製の断熱材2の全面を下地1に接着剤組成物で接着することによって、強固に断熱材2を固定することができるものである。すなわち、ディスク板とアンカーを用いて物理的に固定する場合のような部分的な固定ではなく、全面的な固定を行なうことができるので、強風などに際して発泡ポリスチレンの断熱材2の固定部分が破壊されて下地から剥がれるようなことを防ぐことができるものである。また本発明の接着剤組成物は、ゴムラテックスとセメントを含有するので、発泡ポリスチレンに対する接着性と、セメント系の下地に対する接着性が、いずれも良好であり、発泡ポリスチレン製の断熱材2を高い接着強度で下地1に接着することができるものである。さらに本発明の接着剤組成物は、硬化膜が硬くで強固であり、下地1に接着した発泡ポリスチレン製断熱材2の熱時の挙動を拘束することができ、断熱材2の浮きやあばれを防ぐことができるものである。
【0023】
上記のように下地1に発泡ポリスチレン製の断熱材2を接着して固定した後、この断熱材2の上にゴムシート製の防水シート3を接着剤5で接着することによって、断熱防水施工を完了することができるものである。ここで、発泡ポリスチレン製の断熱材2に防水シート3を接着する接着剤としては、発泡ポリスチレンを溶解しない水性の接着剤である必要がある。この水性接着剤としては発泡ポリスチレンとゴムを接着することができるものであれば任意ものを用いることができるが、例えば特開2000−282001号公報に開示されるクロロプレン系の水系接着剤などを使用することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0025】
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
ゴムラテックスとしてMBRラテックス(日本エーアンドエル(株)製「XR−1087」:固形分50質量%)、樹脂エマルジョンとして(荒川化学(株)製ロジンエステル「スーパーエステルE−720」:固形分50質量%)、無機質充填材として珪砂7号(丸尾カルシウム(株)製「珪砂7号」)、セメントとして超速硬セメント(住友大阪セメント(株)製「マイルドジェットセメント」)を用い、表1の配合量で配合して混合することによって、接着剤組成物を得た。
【0026】
このようにして得た接着剤組成物の接着力を次のようにして測定した。まずセメントスレート板からなる下地1の表面に接着剤組成物4を1kg/mの塗布量で塗布し、アタッチメント6に接着した発泡ポリスチレン製の断熱材2を接着剤組成物4の上に押し付けて、図2のように下地1に断熱材2を接着した。
【0027】
そして図2に示すように、下地1をチャック具7に固定した状態でアタッチメント6を矢印のように引くことにって、接着力の測定を行なった。この接着力の測定は、室温で1日放置した後、40℃の温水に7日間放置した後、80℃の雰囲気に7日間放置した後の、それぞれについて行なった。結果を表1に示す。
【0028】
また、接着剤組成物の硬化時間を測定した。硬化時間は、接着剤組成物を1kg/mの塗布量で塗布し、塗膜の硬度が、HBの鉛筆で引っ掻いて、芯がめり込まず折れる状態の硬さになるまでの時間として測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1にみられるように、各実施例のものは1時間という短時間で硬化し、また高い接着力を発揮するものであった。一方、水の量が過多の比較例1では硬化時間が長くなり、接着力もやや劣るものであった。また樹脂エマルジョンを配合しない比較例2や、樹脂エマルジョンの配合量やセメントの配合量が過多の比較例3では接着力が大きく劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】断熱防水施工の構造を示す断面図である。
【図2】接着力試験の方法を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 下地
2 断熱材
3 防水シート
4 接着剤組成物
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系の下地に発泡ポリスチレンからなる断熱材を介して防水シートを貼り付ける断熱防水工法において、下地に断熱材を接着する際に用いられる発泡ポリスチレン用接着剤組成物であって、ゴムラテックス100質量部に対して樹脂エマルジョン10〜150質量部とセメント300〜500質量部を含有すると共に、セメントに対して40〜60質量%の水を含有して成ることを特徴とする発泡ポリスチレン用接着剤組成物。
【請求項2】
ゴムラテックスが、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリル−ブタジエンラテックス、及びこれらの酸変性物から選ばれたものであることを特徴とする請求項1に記載の発泡ポリスチレン用接着剤組成物。
【請求項3】
セメントが、超速硬セメントであることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡ポリスチレン用接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−231044(P2007−231044A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51065(P2006−51065)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【出願人】(591108422)広野化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】