説明

発泡性スチレン系樹脂粒子

【課題】 偏平押圧力に対する順応性及び離型性に優れ、内容物の滲出が少ない有底筒状の発泡容器を製造することができる発泡性スチレン系樹脂粒子を提供する。
【解決手段】 発泡性スチレン系樹脂粒子は、発泡成形品を成形するための発泡性スチレン系樹脂粒子であって、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物の総量が0〜500ppmであり、発泡性スチレン系樹脂粒子表面が、樹脂粒子100重量部に対して、所定粘度が1〜60mPa・sであるポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部と、ポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部と、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部とからなる表皮層で被覆されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタントのカップ麺などの包装用及び調理用の有底筒状の発泡容器などの発泡成形品を製造するための発泡性スチレン系樹脂粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からインスタントのカップ麺の包装用及び調理用容器として有底筒状の発泡容器が用いられている。この発泡容器は、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られた予備発泡粒子を金型内に充填して加熱、発泡させて製造されている。
【0003】
このような発泡性スチレン系樹脂粒子としては、特許文献1に、発泡剤の必須成分として発泡性スチレン系樹脂粒子100重量%に対しペンタンを3〜6重量%、プロパンを0.01〜1重量%含有していることを特徴とする発泡性スチレン系樹脂粒子が提案されており、この発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させることによって天地圧縮強度に優れたカップ状発泡成形体を得ることができることが開示されている。
【0004】
一方、近年、環境衛生に対する社会的な関心の高まりと共に、各種化学物質の人体に対する影響について大きな関心が集まっている。そして、上述したカップ麺の容器についても同様であって、この容器の原材料となる発泡性スチレン系樹脂粒子中のスチレン系モノマー、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼンなどの芳香族化合物の含有量を低減化させることが要望されている。
【0005】
ところが、上記芳香族化合物はスチレン系樹脂を可塑化する作用を有していることから、特許文献1の発泡性スチレン系樹脂粒子に含有されている芳香族化合物の低減化のみを試みると、スチレン系樹脂の柔軟性が低下する結果、上記発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子の伸長性が低下し、更に、発泡容器の肉厚は1.5〜3.0mm程度と非常に薄いことも相まって、発泡容器の上端開口部に該上端開口部を偏平な状態に変形させる応力が加わると、発泡容器の上端開口部に亀裂が容易に発生するといった別の問題を生じた。
【0006】
そこで、発泡容器の発泡倍率を低下させることも考えられるが、発泡容器の発泡倍率を低下させると、発泡容器の軽量性が損なわれてしまうといった問題を生じた。
【0007】
又、特許文献2には、特定の構造式を有する含フッ素ビニル系単量体及びビニル系単量体を重合させて得られる含フッ素ビニル系単量体と、ポリビニルアルコール系樹脂とを含む被覆物を、発泡性スチレン系樹脂粒子本体の表面に被覆した発泡性スチレン系樹脂粒子が提案され、この発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られた発泡容器は、内容物の滲出が少ないとされている。
【0008】
しかしながら、上記含フッ素ビニル系共重合体は高価であり、得られる発泡性スチレン系樹脂粒子の製造コストが高くなるという問題点がある。そこで、含フッ素ビニル系共重合体を用いることなく、ポリビニルアルコール系樹脂のみで発泡性スチレン系樹脂粒子本体の表面を被覆してなる発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて発泡容器を製造しようと試みたところ、発泡容器における内容物の滲出の防止効果が不充分である上に、含フッ素ビニル系共重合体が含有されていないことから、発泡容器の金型からの離型性が悪く、離型不良を頻発するといった問題点があった。
【0009】
【特許文献1】特開2003−82149号公報
【特許文献2】特開2003−138055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、発泡成形品、特に、上端開口部を偏平な状態に変形させる応力を円滑に吸収して上端開口部が破損するのを略防止することができ且つ内容物の滲出が少ない有底筒状の発泡容器を容易に製造することができ、得られる発泡成形品の離型性に優れた発泡性スチレン系樹脂粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子は、予備発泡させた上で金型内に充填して発泡させて発泡成形品を成形するための発泡性スチレン系樹脂粒子であって、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物の総量が発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmであり、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面が、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、4重量%水溶液とした時の20℃での粘度が1〜60mPa・sであるポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部と、ポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部と、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部とからなる表皮層で被覆されていることを特徴とする。
【0012】
上記発泡性スチレン系樹脂粒子を構成するスチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマーの単独重合体又はこれらの共重合体などが挙げられる。
【0013】
又、上記スチレン系樹脂としては、上記スチレン系モノマーを主成分とする、上記スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体であってもよく、このようなビニルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能性モノマーなどが挙げられる。なお、上記スチレン系樹脂のGPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィ)法による重量平均分子量は、20万〜40万が好ましく、25万〜35万がより好ましい。
【0014】
ここで、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法としては、汎用の製造方法が用いられ、スチレン系樹脂の懸濁重合時に水性懸濁液中に発泡剤を含有させ、スチレン系樹脂粒子中に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子を製造する方法、スチレン系樹脂粒子を汎用の方法で製造し、このスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子を製造する方法などが挙げられる。なお、スチレン系樹脂の懸濁重合時に発泡剤を含浸させる場合には、モノマーの重合転化率が85重量%以上の時に発泡剤を水性懸濁液中に含有させることが好ましい。
【0015】
なお、上記スチレン系樹脂の懸濁重合時には重合開始剤が用いられるが、この重合開始剤としては、汎用のものが用いられ、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、オルソクロロベンゾイルパーオキサイド、オルソメトキシベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、キュメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシビバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス( 2,4−ジメチルバレロニトリル) 、2,2’−アゾビス( 2,3−ジメチルブチロニトリル) 、2,2’−アゾビス( 2−メチルブチロニトリル) 、2,2’−アゾビス( 2,3,3−トリメチルブチロニトリル) 、2,2’−アゾビス( 2−イソプロピルブチロニトリル) 、1,1’−アゾビス( シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 、2,2’−アゾビス( 4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル) 、2−( カルバモイルアゾ) イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス( 4−シアノバレリン酸) 、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートなどが挙げられる。
【0016】
そして、上記スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群より選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物の発泡性スチレン系樹脂粒子中における総含有量(総重量)は、発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmに限定され、0〜400ppmが好ましい。
【0017】
即ち、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群より選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物が発泡性スチレン系樹脂粒子中に含有されていないか、或いは、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群より選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物を発泡性スチレン系樹脂粒子中に含有し、この芳香族化合物の総量が該発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して500ppm以下に限定され、400ppm以下が好ましい。
【0018】
このように発泡性スチレン系樹脂粒子中における芳香族化合物の総含有量を発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmとすることによって、発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる有底筒状の発泡容器などの発泡成形品は、揮発成分の発生が少なく、環境衛生に優れていると共に、熱湯を用いて調理が必要なインスタントのカップ麺などの食品用途にも好適に用いることができる。
【0019】
そして、発泡性スチレン系樹脂粒子中における芳香族化合物の総含有量を発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmとするために、上述した発泡性スチレン系樹脂粒子の製造時に上述した芳香族化合物を可塑剤として別途、添加しないようにすることが好ましい。
【0020】
ところが、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造に際して可塑剤を別途、添加していないにもかかわらず、発泡性スチレン系樹脂粒子の原料として用いられるスチレン系モノマー中に不純物として、エチルベンゼン、トルエン、i−プロピルベンゼン、n−プロピルベンゼン及びキシレンが多量に含有されていたり或いは発泡性スチレン系樹脂粒子中に未反応のスチレン系モノマーが多量に残存していたりすることによって、発泡性スチレン系樹脂粒子に可塑化成分が上記範囲を越えて含有される虞れがある。
【0021】
従って、発泡性スチレン系樹脂粒子中における上述した芳香族化合物の総含有量が発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmとなるように、不純物の少ないスチレン系モノマーを選択すると共に、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造条件を調整する必要がある。上記芳香族化合物の含有量を所定範囲内に抑制するための、発泡性スチレン系樹脂粒子の製造条件の調整方法としては、例えば、スチレン系樹脂の懸濁重合に用いられる重合開始剤として分解温度の異なる二種類の重合開始剤を用い、先ず、分解温度の低い重合開始剤を用いてスチレン系樹脂の懸濁重合を行なった後、分解温度の高い重合開始剤を用いてスチレン系樹脂の懸濁重合を継続して行なう方法などが挙げられる。なお、上記方法において、分解温度の異なる二種類の重合開始剤のうち、分解温度の高い重合開始剤としては、半減期が10時間となる温度が90〜120℃である重合開始剤が好ましく、このような重合開始剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシビバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−t−ブチルパーオキシブタンなどが挙げられる。
【0022】
なお、発泡性スチレン系樹脂粒子中における芳香族化合物の含有量は下記の要領で測定される。即ち、発泡性スチレン系樹脂粒子1gを精秤し、この精秤した発泡性スチレン系樹脂粒子に、0.1体積%のシクロペンタノールを含有するジメチルホルムアミド溶液1ミリリットルを内部標準液として加えた後、更に、ジメチルホルムアミド溶液にジメチルホルムアミドを加えて25ミリリットルとして測定溶液を作製し、この測定溶液1.8マイクロリットルを230℃の試料気化室に供給してガスクロマトグラフから測定対象となる芳香族化合物のチャートを得、予め測定しておいた、測定対象となる芳香族化合物の検量線に基づいて、上記チャートから芳香族化合物量を算出する。
【0023】
なお、発泡性スチレン系樹脂粒子中における芳香族化合物の含有量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 商品名「GC−14A」)を用いて下記測定条件にて測定することができる。
検出器:FID
カラム:ジーエルサイエンス社製(3mm径×2.5m)
液相:PEG−20M PT 25重量%
担体:Chromosorb W AW−DMCS
メッシュ:60/80
カラム温度:100℃
検出器温度:230℃
注入口温度:230℃
キャリア−ガス:窒素
キャリアーガス流量:40ミリリットル/分
【0024】
そして、本発明で用いられる発泡剤としては、従来から発泡性スチレン系樹脂粒子の製造に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、プロパン、ブタン、ペンタンなどの脂肪族炭化水素;1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(HCFC−141b)、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン(HCFC−142b)、2−クロロ−1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HCFC−124)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)などのフロン系発泡剤が挙げられ、脂肪族炭化水素が好ましい。なお、発泡剤は単独で使用されても併用されてもよい。
【0025】
発泡性スチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、少ないと、発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子同士の融着が不充分となって発泡成形品の機械的強度が低下することがある一方、多いと、発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡粒子の大きさが大きくなり過ぎて、例えば、発泡容器表面にあらわれる、発泡粒子同士の熱融着界面に生じる凹部の深さが大きくなり、発泡容器表面の平滑性が損なわれ、発泡容器の外観や発泡容器表面に印刷を施した際の見栄えが低下することがあるので、2〜6重量%が好ましく、4〜5重量%がより好ましい。
【0026】
ここで、発泡性スチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は下記の要領で測定されたものをいう。即ち、発泡性スチレン系樹脂粒子を180℃の加熱炉に供給してガスクロマトグラフから測定対象となる発泡剤のチャートを得、予め測定しておいた、測定対象となる発泡剤の検量線に基づいて、上記チャートから発泡性スチレン系樹脂粒子中の発泡剤量を算出する。
【0027】
なお、発泡性スチレン系樹脂粒子中における発泡剤の含有量は、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製 商品名「GC−14B」)を用いて下記条件にて測定することができる。
検出器:FID
加熱炉:島津製作所社製 商品名「PYR−1A」
カラム:信和化工社製(3mm径×3m)
液相:Squalane 25重量%
担体:Shimalite 60〜80 NAW
加熱炉温度:180℃
カラム温度: 70℃
検出器温度:110℃
注入口温度:110℃
キャリア−ガス:窒素
キャリアーガス流量:60ミリリットル/分
【0028】
又、発泡性スチレン系樹脂粒子は、小さい粒子径の発泡性スチレン系樹脂粒子が混じっていると、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて有底筒状の発泡容器を製造した場合、得られる発泡容器の開口部の機械的強度が低下する虞れがある一方、大きい粒子径の発泡性スチレン系樹脂粒子が混じっていると、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られる予備発泡粒子の金型内への充填性が低下するので、粒子径が0.300mmより大きく且つ0.600mm以下のみからなるもの、即ち、粒子径が0.600mmよりも大きい発泡性スチレン系樹脂粒子及び粒子径が0.300mm以下の発泡性スチレン系樹脂粒子が含有されていないことが好ましい。
【0029】
そして、粒子径が0.300mmより大きく且つ0.600mm以下のみからなる発泡性スチレン系樹脂粒子を得る方法としては、上述の要領で製造された発泡性スチレン系樹脂粒子を、JISに規定された目開き0.300mmの篩及び目開き0.600mmの篩いを用いて分級する方法や、発泡剤を含浸させる前のスチレン系樹脂粒子を、JISに規定された目開き0.300mmの篩及び目開き0.600mmの篩いを用いて分級し、この分級されたスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる方法が挙げられる。
【0030】
具体的には、発泡性スチレン系樹脂粒子をJISに規定された目開き0.600mmの篩を用いて篩い、この篩を通過した発泡性スチレン系樹脂粒子を収集し、次に、この収集した発泡性スチレン系樹脂粒子をJISに規定された目開き0.300mmの篩を用いて篩い、この篩上に残った発泡性スチレン系樹脂粒子を収集することによって、粒子径が0.3mmより大きく且つ0.6mm以下のみからなる発泡性スチレン系樹脂粒子を得ることができる。
【0031】
なお、スチレン系樹脂粒子を分級した場合、この分級後のスチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子を得るが、スチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させる前後において、樹脂粒子の粒子径は殆ど変化しないので、本発明においては、スチレン系樹脂粒子の粒子径を、発泡性スチレン系樹脂粒子の粒子径としてよい。
【0032】
そして、上述の発泡性スチレン系樹脂粒子の表面には、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、4重量%水溶液とした時の20℃での粘度が1〜60mPa・sであるポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部と、ポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部と、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部とからなる表皮層が被覆されている。
【0033】
上記表皮層を構成しているポリビニルアルコールにおける、このポリビニルアルコールを4重量%水溶液とした時の20℃での粘度が60mPa・sを越えると、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡成形品の離型性が低下するので、1〜60mPa・sに限定される。ここで、4重量%水溶液とした時の20℃におけるポリビニルアルコールの粘度は、ポリビニルアルコールの4重量%水溶液を20℃の恒温室内に24時間放置した後にB型粘度計を用いて測定されたものをいう。なお、B型粘度計は、例えば、東京計器社から市販されている。
【0034】
そして、ポリビニルアルコールの表皮層中における含有量は、少ないと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる有底筒状の発泡容器の開口部の機械的強度が低下すると共に発泡容器内の内容物の滲出の抑制効果が低下する一方、多いと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器などの発泡成形品の金型からの離型性が低下するので、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.001〜0.1重量部に限定され、0.005〜0.05重量部が好ましい。
【0035】
なお、ポリビニルアルコールの鹸化度は、小さいと、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られるスチレン系樹脂予備発泡粒子の流動性が悪くなり、予備発泡機からのスチレン系樹脂予備発泡粒子の排出に時間を要することがあるので、70〜100モル%が好ましく、85〜90モル%がより好ましい。
【0036】
又、ポリエチレングリコールの表皮層中における含有量は、少ないと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器内の内容物の滲出の抑制効果が低下する一方、多いと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器などの発泡成形品の金型からの離型性が低下するので、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.02〜0.20重量部に限定され、0.05〜0.10重量部が好ましい。
【0037】
そして、ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、小さいと、発泡性スチレン系樹脂粒子の表皮層が脱落し易くなる一方、大きいと、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られるスチレン系樹脂予備発泡粒子の流動性が悪くなり、予備発泡機からのスチレン系樹脂予備発泡粒子の排出に時間を要することがあるので、200〜600が好ましい。
【0038】
更に、表皮層を構成している脂肪酸の亜鉛塩は直接法によって製造されたものが用いられ、直接法により製造されたステアリン酸亜鉛が好ましく用いられる。従来から脂肪酸の亜鉛塩は直接法又は複分解法によって製造されているが、複分解法によって製造された、脂肪酸の亜鉛塩を用いると、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られた発泡成形品の金型からの離型性が極めて悪くなるため、本発明では、直接法により得られた脂肪酸の亜鉛塩が用いられる。
【0039】
ここで、直接法とは、脂肪酸を加熱溶融させ、この溶融状態の脂肪酸に酸化亜鉛又は水酸化亜鉛を添加して水分がなくなるまで反応を進行させて脂肪酸の亜鉛塩を得、この脂肪酸の亜鉛塩を冷却固化した上で粉砕することによって脂肪酸の亜鉛塩を製造する方法をいう。なお、直接法によって脂肪酸の亜鉛塩を製造する際の反応式の一例を式1,2に示す。
【0040】
【化1】

【0041】
更に、直接法により脂肪酸の亜鉛塩を製造する際、原料となる脂肪酸としては、特に限定されず、牛脂やパーム油が用いられるが、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて発泡成形品を製造する際の金型の汚れが少なくなることから、パーム油が好ましい。
【0042】
そして、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は、小さいと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器などの発泡成形品の発泡粒子同士の熱融着性が低下する一方、大きいと、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面における脂肪酸の亜鉛塩の付着が不均一となり、その結果、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡機へ供給する際や、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られるスチレン系樹脂予備発泡粒子を金型内に供給する際、発泡性スチレン系樹脂粒子やスチレン系樹脂予備発泡粒子を流通させる流通管内に、粒子表面に付着させた脂肪酸の亜鉛塩が脱落して流通管内の内面が汚染されることがあるので、0.5〜40μmが好ましく、3〜25μmがより好ましい。
【0043】
なお、脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は、下記の要領で測定することができる。即ち、脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は電気抵抗法によって測定され、具体的には、アパチャー(細孔)の両側に電極が配設されたアパチャー・チューブを、測定対象となる脂肪酸の亜鉛塩が電解液中に懸濁されてなる懸濁液中に浸漬した状態とする。
【0044】
上記アパチャー・チューブの電極間に上記懸濁液を介して電流を流し、電極間の電気抵抗を測定する。懸濁液中の脂肪酸の亜鉛塩が吸引されてアパチャーを通過する時に脂肪酸の亜鉛塩の体積に相当する電解液が置換されて、電極間の電気抵抗に変化が生じる。この電気抵抗の変化量は粒子の大きさに比例することから、上記電気抵抗の変化量を電圧パルスに変換して増幅、検出することによって粒子体積を算出することができ、この算出された粒子体積に相当する真球の直径を脂肪酸の亜鉛塩の粒子径とする。
【0045】
そして、脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は、上記の如くして測定された各脂肪酸の亜鉛塩の粒子径の平均をとることにより算出することができ、即ち、脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は体積平均粒子径を意味する。
【0046】
なお、上記脂肪酸の亜鉛塩の平均粒子径は、例えば、ベックマンコールター株式会社から商品名「コールターマルチサイザーII」で市販されている測定装置を用いて測定することができる。
【0047】
更に、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩の表皮層中における含有量は、少ないと、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器内の内容物の滲出の抑制効果が低下する一方、多いと、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡させて得られるスチレン系樹脂予備発泡粒子を二次発泡させて得られる発泡粒子同士の熱融着性が低下するので、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.3〜1.2重量部に限定され、0.5〜0.8重量部が好ましい。
【0048】
ここで、複分解法によって製造された脂肪酸の亜鉛塩を用いると、上述のように発泡成形品の金型からの離型性が低下する理由は明確に解明されていないが、複分解法によると、中間生成物として脂肪酸のナトリウム塩が生成し、このナトリウム塩が未反応のまま脂肪酸の亜鉛塩中に不純物として残存し、ポリビニルアルコールとの相互作用によって、発泡成形品の金型からの離型性を極めて悪くしているものと考えられる。
【0049】
なお、上記複分解法とは、脂肪酸に水酸化ナトリウムを反応させて脂肪酸のナトリウム塩を作製し、この脂肪酸のナトリウム塩を5〜10重量%含有する水溶液中にこの水溶液を70〜95℃に保持した状態で塩化亜鉛水溶液を徐々に添加し、脂肪酸の亜鉛塩を沈殿として析出させて脂肪酸の亜鉛塩を製造する方法をいう。
【0050】
上記発泡性ポリスチレン系樹脂粒子の表面を、所定の粘度を有するポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及び直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩からなる表皮層でもって被覆する被覆方法としては、特に限定されず、例えば、発泡性スチレン系樹脂粒子と、この発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、ポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部及びポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部を混合してなる混合液、並びに、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部からなる被覆剤とを、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサーなどの汎用の混合機に供給して混合することによって、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面を被覆剤で全面的に均一に塗布し、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面を被覆剤からなる表皮層で全面的に均一に被覆する方法が挙げられる。
【0051】
次に、上記発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて、有底筒状の発泡容器などの発泡成形品を成形する要領について説明する。先ず、発泡性スチレン系樹脂粒子を予備発泡機にて予備発泡させてスチレン系樹脂予備発泡粒子とし、得られた予備発泡粒子を発泡成形機の金型内に充填した上で加熱蒸気などの加熱媒体により加熱、発泡させ、発泡圧によって互いに熱融着一体化させて、有底筒状の発泡容器などの発泡成形品を製造することができる。
【0052】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子を発泡させて得られる発泡成形品の発泡倍率は、特に限定されるものではないが、5〜15倍が好ましく、8〜12倍がより好ましい。なお、発泡成形品の発泡倍率とは、発泡成形品を構成するスチレン系樹脂の比重を発泡成形品の比重で除したものをいう。
【0053】
そして、有底筒状の発泡容器の厚みは、薄いと、発泡容器の機械的強度が低下することがある一方、厚いと、発泡容器の軽量性が低下したり或いは発泡容器の上端開口部を偏平な状態に変形させる偏平応力が加わった場合における順応性が低下して発泡容器の上端開口部に容易に亀裂を生じる虞れがあるので、1.5〜3.5mmが好ましく、1.7〜3.0mmがより好ましい。
【0054】
しかも、発泡性スチレン系樹脂粒子は、芳香族化合物の含有量が0〜500ppmと極めて少量であることから、発泡容器を食品用途に好適に用いることができ、種々の用途に展開することも可能である。
【発明の効果】
【0055】
本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子は、予備発泡させた上で金型内に充填して発泡させて発泡成形品を成形するための発泡性スチレン系樹脂粒子であって、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物の総量が発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmであり、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面が、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、4重量%水溶液とした時の20℃での粘度が1〜60mPa・sであるポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部と、ポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部と、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部とからなる表皮層で被覆されていることを特徴とするので、芳香族化合物を含有させず或いは低減させているにもかかわらず、発泡容器の上端開口部を偏平な状態に変形させる偏平応力に対して優れた順応性を示し、上端開口部に偏平応力が加えられた場合にあっても、発泡容器の上端開口部に亀裂が生じるのを概ね防止することができると共に、芳香族化合物を含有させず或いは低減させていることから、食品用途にも好適に用いることができる。
【0056】
そして、本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られた発泡容器は、その内部に収納した内容物が発泡容器を通じて外部に滲出することが殆どなく、種々の食品用途に展開することができる。
【0057】
更に、本発明の発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる発泡容器は、製造時における金型からの離型性に優れていることから、発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて効率良く発泡容器を製造することができる。
【0058】
又、上記発泡性スチレン系樹脂粒子において、粒子径が0.3mmより大きく且つ0.6mm以下のみの発泡性スチレン系樹脂粒子からなる場合には、この発泡性スチレン系樹脂粒子を用いて得られる有底筒状の発泡容器は、その上端開口部に加えられる偏平応力に更に優れた順応性を示し、上端開口部に偏平応力が加えられた場合にあっても、上端開口部に亀裂が生じるのを殆ど防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
(実施例1〜6、比較例1〜7)
撹拌装置を備えたステンレス製の100リットルのオートクレーブ内にイオン交換水40kgを供給し、このイオン交換水中に該イオン交換水を攪拌しながらスチレンモノマー40kg、リン酸三カルシウム(ブーデンハイム社製 商品名「C13−09」)40g、過硫酸カリウム0.5g、純度75重量%のベンゾイルパーオキサイド140g及びt−ブチルパーオキシベンゾエート30gを供給して懸濁液を作製した。
【0060】
次に、上記懸濁液を200rpm の攪拌速度で撹拌しながら1時間かけて90℃に昇温し、懸濁液を90℃に6時間に亘って保持して重合した後、この懸濁液に第三リン酸カルシウム40g及びα−オレフィンスルホネート(ライオン社製 商品名「リポランPJ−400」)0.4gを添加した上でn−ペンタン1600g及びi−ペンタン400gを圧入して、懸濁液を130℃まで40分かけて昇温し、130℃で3時間に亘って放置した。
【0061】
しかる後、上記懸濁液を冷却して懸濁液のpHが2となるまで塩酸を添加して第三リン酸カルシウムを分解した。続いて、懸濁液を脱水機にて10分間注水しながら洗浄、脱水した後に気流乾燥することによって発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0062】
得られた発泡性ポリスチレン粒子をJISに規定された目開きが0.600mmの篩で篩い、この篩を通過した発泡性ポリスチレン粒子を収集した。次に、この収集した発泡性ポリスチレン粒子をJISに規定された目開きが0.300mmの篩で篩い、この篩上に残った発泡性ポリスチレン粒子を収集することによって、粒子径が0.3mmより大きく且つ0.6mm以下のみからなる発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0063】
一方、表1,2に示した種類のポリビニルアルコール1〜5と、ポリエチレングリコール(日本油脂社製 商品名「PEG−300」、重量平均分子量:300)とを表1,2に示した所定量づつ均一に混合してなる混合液と、発泡性ポリスチレン粒子100重量部とをスーパーミキサーに供給して2分間に亘って攪拌した後、直接法で得られたステアリン酸亜鉛(平均粒子径:17μm)又は複分解法で得られたステアリン酸亜鉛(平均粒子径:16μm)を表1,2に示した通りに所定量だけ添加して更に2分間に亘って攪拌して、混合液及びステアリン酸亜鉛からなる被覆剤を全て、発泡性ポリスチレン粒子の表面全面に均一に塗布して、被覆剤からなる表皮層で表面全面が均一に被覆されている発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0064】
上記で用いられたポリビニルアルコールは4種類であり、具体的には、ポリビニルアルコール1(日本合成化学工業社製 商品名「ゴーセノール GM−14」、粘度:23mPa・s、鹸化度:88モル%)、ポリビニルアルコール2(日本合成化学工業社製 商品名「ゴーセノール KP−08」、粘度:7mPa・s、鹸化度:72モル%)、ポリビニルアルコール3(日本合成化学工業社製 商品名「ゴーセノール GH−23」、粘度:52mPa・s、鹸化度:88モル%)及びポリビニルアルコール4(日本合成化学工業社製 商品名「ゴーセノール AH−26」、粘度:26mPa・s、鹸化度:98モル%)であった。ここで、表1,2では、ポリビニルアルコールを単に「PVA」と表記し、ポリビニルアルコールを4重量%水溶液とした時の20℃でのポリビニルアルコール水溶液の粘度を単に「粘度」と表記した。
【0065】
なお、表皮層で表面全面が被覆されている各発泡性ポリスチレン粒子において、発泡性ポリスチレン粒子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及びステアリン酸亜鉛の重量割合は、スーパーミキサー中における発泡性ポリスチレン粒子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及びステアリン酸亜鉛の重量割合と同様の重量割合であった。
【0066】
(実施例7)
JISに規定された目開きが0.300mmの篩の代わりに、JISに規定された目開きが0.250mmの篩を用いたこと、JISに規定された目開きが0.600mmの篩の代わりに、JISに規定された目開きが0.710mmの篩を用いたこと以外は実施例1と同様にして、粒子径が0.250mmより大きく且つ0.710mm以下のみからなる発泡性ポリスチレン粒子を製造した。
【0067】
そして、上述の発泡性ポリスチレン粒子を用い、ポリビニルアルコールとしてポリビニルアルコール5(日本合成化学工業社製 商品名「ゴーセノール GH−20」、4重量%水溶液とした時の20℃での粘度:43mPa・s、鹸化度:88モル%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、被覆剤からなる表皮層で表面全面が均一に被覆されている発泡性ポリスチレン粒子を得た。
【0068】
得られた発泡性ポリスチレン粒子を用いて得られた有底円筒状の発泡容器の離型性、リップ強度及び滲出性、並びに、表面を表皮層で被覆する前の発泡性スチレン系樹脂粒子の粒度分布を下記に示した要領で測定し、その結果を表1,2に示した。
【0069】
(離型性)
表皮層で表面全面が被覆されている発泡性ポリスチレン粒子を回転攪拌式予備発泡機を用いて予備発泡させて嵩倍率が9倍のポリスチレン予備発泡粒子を得た。この得られたポリスチレン予備発泡粒子を室温にて24時間に亘って放置した後、このポリスチレン予備発泡粒子を雌雄金型のキャビティ内に充填してゲージ圧0.2MPaの水蒸気で7秒間に亘って加熱して二次発泡させて有底円筒状の発泡容器を成形した。
【0070】
そして、雌雄金型を冷却した上で雌雄金型を開放し、雌型金型から発泡容器に向かって離型エアを吹き付けることによって、発泡容器を雌型金型から離型させて有底円筒状の発泡容器を得た。
【0071】
なお、上記有底円筒状の発泡容器は、図1に示したような断面形状を有しており、具体的には、発泡容器Aは、直径が68mmで且つ厚みが2.8mmの平面円形状の底面部1と、この底面部1の外周縁から斜め上方に向かって徐々に拡径する円筒状周壁部2(開口端内径:178mm、高さ:100mm、厚み2mm)とから成形されていた。なお、周壁部2の上端部には、厚みが3mmの平面円環状の鍔部21が水平方向に突設されており、上記鍔部21を含めた円筒状周壁部2の上端部外径は192mmであった。
【0072】
上述の要領で発泡容器を連続して500回繰り返して製造し、この製造中に、発泡容器を金型から離型させる際に生じた離型不良の回数を測定し、下記基準により判断した。なお、表1,2に離型不良回数(表では単に「不良回数」と表記した)を括弧内に記載した。ここで、離型不良とは、発泡容器が雄型金型に密着し離脱しなかった場合、及び、雌型金型から離型エアを吹きつけても発泡容器が雌型金型から離脱しなかった場合とした。
【0073】
○:0〜5回
△:6〜20回
×:21回以上
【0074】
(リップ強度)
表皮層で表面全面が被覆されている発泡性ポリスチレン粒子を回転攪拌式予備発泡機を用いて予備発泡させて嵩倍率が9倍及び10倍のポリスチレン予備発泡粒子を得た。そして、嵩倍率が9倍のポリスチレン予備発泡粒子を用いて、離型性の測定時と同様の要領で、同一形状、同一大きさの有底円筒状の発泡容器を10個得た。同様に、嵩倍率が10倍のポリスチレン予備発泡粒子を用いて、離型性の測定時と同様の要領で、同一形状、同一大きさの有底円筒状の発泡容器を10個得た。
【0075】
一方、平坦な下端面に、幅が4mm、深さが4mm、長さが60mmで且つ両端が開口してなる溝部31を形成した押圧具3を用意した(図2参照)。そして、発泡容器Aをその底面部1が垂直方向を向いた状態に支持板上に横置きした。しかる後、横置状態の発泡容器Aにおける鍔部21の最上部に、押圧具3の溝部31における長さ方向の中央部を被嵌させた上で、上記押圧具3を50mm/分の速度で垂直下方に向かって移動させて発泡容器の開口部に偏平応力を上下方向に加え、発泡容器の開口部を図3に示したように偏平な状態に変形させた。
【0076】
そして、発泡容器Aの開口端に、その内外方向に貫通する亀裂が発生するまで押圧具3を垂直下方に向かって移動させ、この時の最大押圧強度を測定した。発泡容器Aを10個用意し、これら10個の発泡容器Aの最大押圧強度のうち、最大値と最小値を除いた最大押圧強度の相加平均値を発泡容器Aのリップ強度とし、下記基準に基づいて判断した。なお、表1,2にリップ強度の具体的数値を括弧内に記載した。
【0077】
実施例7において、発泡性ポリスチレン粒子を嵩倍率9倍に予備発泡させてなるポリスチレン予備発泡粒子を用いた場合は、1.44×105 Paと評価は「○」であったが、発泡性ポリスチレン粒子を嵩倍率10倍に予備発泡させてなるポリスチレン予備発泡粒子を用いた場合は、1.31×105 Paと評価は「△」であり、嵩倍率10倍という高発泡倍率の発泡容器を得るには不充分であった。
【0078】
○:1.40×105 Pa以上
△:1.30×105 以上で且つ1.40×105 Pa未満
×:1.30×105 未満
【0079】
(滲出性)
離型性の測定時と同様の要領で得られた有底円筒状の発泡容器内に、即席麺に用いられているカレー粉を含む調味料及びかやくを満杯になるまで供給した上で、発泡容器を延伸ポリプロピレンフィルムで全面的に被覆した。次に上記発泡容器を60℃に保持されたオーブン内に48時間に亘って放置した。
【0080】
そして、発泡容器の周壁部外面の全面を紙に写し取ると共に、発泡容器の周壁部外面に滲み出したカレー粉による黄色色素部分を上記紙に写し取り、写し取った発泡容器の周壁部外面全面に対応する部分の紙の重量W1 を測定する一方、写し取った黄色色素部分に対応する部分の紙の重量W2 を測定して下記式により百分率を算出し、下記基準により判断した。なお、表1,2に滲出性の具体的数値を括弧内に記載した。
滲出性(%)=100×W2 /W1
【0081】
◎・・・10%未満
○・・・10%以上で且つ20%未満
×・・・20%以上
【0082】
(粒度分布)
二つの篩を用いて分級された発泡性ポリスチレン粒子の粒度分布を下記の要領で測定した。JISに規定された異なる目開きを有する複数種類の篩(目開き0.600mm、目開き0.500mm、目開き0.425mm、目開き0.355mm、目開き0.300mm、目開き0.250mm)を用意し、分級された発泡性ポリスチレン25gを、目開きが大きな篩から小さな篩となるように篩で篩った。すると、発泡性ポリスチレン粒子はそれぞれ、各粒子の粒子径に応じて、目開きが所定大きさである篩上で通過することができなくなり、各篩上に残った状態となった。
【0083】
次に、篩上に残った発泡性ポリスチレン粒子の重量W3 を各篩ごとに測定し、篩上に残った発泡性ポリスチレン粒子の、総発泡性ポリスチレン粒子に対する重量比率(重量%)を篩ごとに算出した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】実施例で得られた発泡容器を示した縦断面図である。
【図2】(a)押圧具を示した底面図である。(b)押圧具を示した縦断面図である。
【図3】発泡容器の上端開口部を偏平な状態に変形させた状態を示した側面図である。
【符号の説明】
【0087】
A 発泡容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備発泡させた上で金型内に充填して発泡させて発泡成形品を成形するための発泡性スチレン系樹脂粒子であって、スチレン系モノマー、エチルベンゼン、トルエン、n−プロピルベンゼン、i−プロピルベンゼン及びキシレンからなる群から選ばれた一種又は二種以上の芳香族化合物の総量が発泡性スチレン系樹脂粒子の全重量に対して0〜500ppmであり、発泡性スチレン系樹脂粒子の表面が、発泡性スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、4重量%水溶液とした時の20℃での粘度が1〜60mPa・sであるポリビニルアルコール0.001〜0.1重量部と、ポリエチレングリコール0.02〜0.20重量部と、直接法で得られた脂肪酸の亜鉛塩0.3〜1.2重量部とからなる表皮層で被覆されていることを特徴とする発泡性スチレン系樹脂粒子。
【請求項2】
粒子径が0.300mmより大きく且つ0.600mm以下のみの発泡性スチレン系樹脂粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の発泡性スチレン系樹脂粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−152029(P2006−152029A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340946(P2004−340946)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】