説明

発泡金属およびその連続的製造方法

【課題】Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができると共に種々の発泡率に制御可能である発泡金属の連続的製造方法およびこの製造方法により製造される発泡金属を提供する。
【解決手段】(1) 増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯を反応容器に連続的に給湯すると共に前記反応容器に発泡剤を連続的に供給し、前記溶湯と発泡剤を混合し、この発泡剤を混合した溶湯を前記反応容器の側壁に設けられた出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入する発泡金属の連続的製造方法であって、前記反応容器への単位時間当りの給湯量に対して前記反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一であり、体積では1倍超4倍以下であることを特徴とする発泡金属の連続的製造方法、(2) 前記連続的製造方法において反応容器内の溶湯温度を660〜680℃に制御するもの等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡金属(金属発泡体)およびその連続的製造方法に関する技術分野に属するものであり、特には、吸音材(遮音材)、構造部材用補強材、衝撃吸収材、触媒担体、電極材料の他、各種構造材料として広範な分野で利用される発泡金属およびその連続的製造方法に関し、中でも、AlまたはAl合金を素材とし、板材、薄板材、棒材等の比較的単純形状の製品を製造する上で有用な発泡金属およびその連続的製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発泡金属は、立体網状構造を有し、気孔率を大きくした金属多孔体であり、表面積が大きいことを利用して前述の広範な分野で利用されている。また、近年、環境問題から自動車の軽量化用素材、部品として、中空部品への補剛・補強充填材として適用されることが期待されている。こうした発泡金属の素材として、軽量化および高強度を考慮して、AlまたはAl合金が最も汎用されている。
【0003】
こうしたAlまたはAl合金等を素材とした発泡金属(以下、発泡体ともいう)を製造する方法として、例えば特開昭62−20846号公報(以下、特許文献1)に開示された技術が知られている。この方法では、「溶融金属に増粘材および発泡剤を加えて攪拌することによって、多数の独立気泡よりなる発泡金属を製造する方法において、鋳型全体が発泡金属の融点以上となるように加熱し、かつ攪拌を終了後発泡を開始し、気泡が成長する過程で空気抜き用の放出口を有する状態で鋳型を密閉し、発泡剤が熱により分解して生じる多数の気泡が膨張することによって鋳型内の空気を鋳型の外部に放出させ、発泡金属が鋳型内部の全体に充満することにより、溶融充満した発泡金属により上記放出口を閉塞して鋳型を密閉状態とし、密閉された鋳型内で多数の気泡の内圧の上昇により気泡相互の圧力均衡の下に均一なセル構造を形成させ、ついで鋳型の加熱を停止して発泡金属を冷却、凝固させる」ものであり、増粘や発泡処理を一つの鋳型内で行なうとともに、発泡体内部に発生する引け巣や不均一気泡の発生を防止することに特徴がある。
【0004】
上記のような技術の開発によって、均一な気泡を発泡率が高い状態で確保した発泡体が実現できたのであるが、その製造条件によっては解決すべき問題が生じることがある。即ち、上記のような技術では、比較的小さな製品を製造する場合にはそれほど問題とならないのであるが、凝固に長時間(例えば、10分以上)を要するような大きな発泡金属製品を製造する場合には、粗大な気泡が多くなって割れ等の欠陥が発生するという問題があった。また、発泡金属中における気泡のバラツキが大きくなり、しかも平均粒径が大きくなり、製品品質が劣化することもある。
【0005】
上記のような問題を解決するための方法として、例えば特開2002−371327号公報(以下、特許文献2)のような技術も提案されている。この技術では、多数の独立気泡を均一な大きさに形成するとともに、発泡体内部に「引け巣」を発生させないような発泡金属の製造方法に関するものであり、そのために「融点が550〜670℃で且つ固液二相域で固相率が35%となる温度が640℃以下である溶融金属」に対して、増粘剤を添加して大気中若しくは酸化性雰囲気中で攪拌し、これに所定の溶湯温度範囲で発泡剤としての水素化チタンを添加すると共に、この添加量を適切な量とすることによって、上記のような発泡体を得るものである。また、この技術では、増粘剤としてカルシウムが使用できること、およびこのカルシウムの好ましい量、溶湯金属を鋳型に注入する際の好ましい圧力などについても開示されている。更に、溶湯金属としてはAlやAl合金について開示されている。また、増粘や発泡等の処理を一つの鋳型内で実施する方法や、作製した発泡溶湯を別の鋳型に注湯して発泡させる方法についても開示されている。
【0006】
また、特開昭48―51857号公報(以下、特許文献3)や、特開昭48―79114号公報(以下、特許文献4)には、「鋼製等の長繊維や短繊維を発泡体に含有させた所謂複合発泡体の製造方法に関するものであって、アルミニウムとマグネシウムの共晶合金溶湯に水素化チタンを発泡剤として含有させた第1の溶湯と、アルミニウムの第2の溶湯をポット(ルツボ)内で製造した後混合し、該混合溶湯を一方向に移動する1対あるいは2対のベルト間に注入し、ベルト長手方向(移動方向)後半部以降に設けられた冷却手段により発泡溶湯を冷却、凝固させて複合発泡体を得る方法」が開示されている。この方法では、2つの溶湯を使用すること、移動ベルトの後段部以降を冷却することに特徴がある。
【0007】
特公昭36−20351号公報(以下、特許文献5)には、特許文献3、特許文献4と同様に、2つの溶湯を混合室内で混合し、該混合溶湯を加熱手段を有する単ベルトに注湯して、発泡体を製造する方法が記載されている。
【0008】
更に、特開平7―145435号公報(以下、特許文献6)には、ルツボ内で空気吹き込みにより増粘させたアルミ溶湯に発泡助剤として合成ケイ酸カルシウムを添加して発泡させ、該発泡溶湯を1対のエンドレスベルト間に流入、通過させることにより急冷させる方法が開示されている。本方法では、ベルト間で発泡溶湯を急冷することに特徴がある。また、特開平7−223020号公報(以下、特許文献7)には、特許文献6と同様の方法で発泡溶湯を製造し、該溶湯を上下1対の双ベルトの下側ベルト上に配設した金属テープ上に流し込むことにより、金属ベルトと発泡体を接着、接合、複合化して複合条を製造する方法が示されている。本方法では、双ベルトの冷却、加熱等への言及は無く、自然放冷で凝固させるものと推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−20846号公報
【特許文献2】特開2002−371327号公報
【特許文献3】特開昭48―51857号公報
【特許文献4】特開昭48―79114号公報
【特許文献5】特公昭36−20351号公報
【特許文献6】特開平7―145435号公報
【特許文献7】特開平7−223020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
〔連続生産性:〕
上記各技術の開発によって、均一気泡が形成され、製品品質の良好な発泡金属が実現できたのであるが、製造面において改良すべきいくつかの問題が指摘される。即ち、上記特許文献1の一部並びに特許文献2では、製品を形成するための鋳型内(通常断面が矩形等の単純形状)で発泡剤の添加並びに攪拌が行われ、そのままこの鋳型内で上方に向けて発泡、成長が行われるため、直方体等ブロック状の発泡体しか得られない。そのため、種々の形状、寸法の製品用途に対応するためには、該ブロックから目標寸法の製品を切断、切削により採取せざるを得ず、切断、切削時の切断代や切削代の発生による歩留り低下によるコスト高の原因となっている。また、該ブロック以上の寸法の製品は採取できず、採取可能な製品寸法に限界があった。即ち、上記特許文献1、2の構成では、バッチ方式による製造方法のため歩留まりが低く、また、例えばブロック寸法を超える長尺製品のような発泡体を高歩留りで且つ連続的に製造することは困難であった。
【0011】
〔Mgフリー困難(合金の自由度)、組成安定性:〕
特許文献3のFIG.5 には、発泡剤TiH2を混合した溶融マグネシウム−アルミニウム共晶合金の組成物である第1の溶湯と溶融アルミニウムあるいはアルミニウム合金の第2の溶湯の2つの溶湯のストリームを反応容器内に導入、混合し、次に該混合物を反応容器底部から2対の移送ベルトよりなる鋳型に導入し、同鋳型内で発泡、凝固させる方法が示されている。また、特許文献3のFIG.7 には、ポット中で発泡剤TiH2を混合、含有した溶融マグネシウム−アルミニウム共晶合金の組成物と溶融アルミニウムを混合して「バター」を形成し、この「バター」を2対のコンベアー間に注いで冷却して発泡体を得る例が示されている。また、特許文献4や特許文献5にも、同様の方法で発泡用混合物を得る方法が例示されている。これらの方法では、発泡剤の発泡を抑制するため低融点のマグネシウム−アルミニウム共晶合金を第1の溶湯として使用せざるを得ないが、該共晶合金は、本発明者らの状態図に関する調査、解析では、Mg濃度が35〜65重量%、融点437〜450℃となるため、いかに第2の溶湯と混合されてもMg成分の高いあるいは一定量を含有した混合溶湯になることは避けられず、Mgを含有しない発泡体を得ることは困難である。また、特許文献3のFIG.5 のように2溶湯を別個に作成し、且つこの2溶湯の混合を実現するには設備的におおがかりになることは勿論、複雑な操作が要求され、また、両溶湯の混合率、即ち発泡剤の濃度を一定に制御することも極めて困難であり、得られる発泡体の品質も安定しない。また、特許文献5では、上記混合物を加熱手段を設けた単ベルト上に注湯し、発泡、凝固させるため、発泡体上面が自由凝固するので、長方形等その断面形状を正確に制御、整えることは困難である。
【0012】
〔注湯性、低歩留り:〕
上記特許文献2の一部では、発泡させた溶湯を40mmφの比較的小さな鋳型に注湯することが示されているが(例えば、実施例2)、実際問題として発泡剤添加後の溶湯では、短時間の間に発泡を開始する結果、溶湯が早期に高粘度化してしまって、流動性が低下するので、発泡した溶湯の取り扱いは容易ではなく、鋳型への溶融金属の注湯は極めて困難である。即ち、るつぼ内部で作製した溶湯を、るつぼを傾動等して鋳型に流し込むという通常鋳物の製造で行われている注湯操作が極めて困難となる。
【0013】
また、特許文献3のFIG.7 には、2溶湯の混合物をポット(坩堝)内で事前に作成し、該混合物をポットを傾動して移送ベルト間に注ぐ方法が図示されているが、2溶湯が混合された溶湯は直ちに発泡を開始し、前述のように発泡の進行とともに粘性が増大するため、粘性が比較的低い初期の傾動操作では、溶湯の注湯は可能でも、時間経過とともに注湯は困難となる。即ち、粘性が増大した難流動性の溶湯は、ポット内壁に付着、残留するため(いわゆる鍋付き量が多くなる)、作成した溶湯の一部しか注湯することができず、極めて歩留まりが悪く、非効率であることは否めない。また、ポット内の溶湯を一定温度に保持するため、ポットを加熱する炉体ごと傾動を行なう必要があり、設備的にも大掛かりとならざるを得ない。
【0014】
〔発泡率制御性:〕
さらに、特許文献3、特許文献4では、移送ベルトの長手方向の中央部から、ベルトを介して発泡体を冷却することが記載されており、移送ベルトは発泡体の冷却並びに移送手段としてのみ使用されている。このため、ベルト間に給湯された溶湯は、ベルト間で冷却、凝固のみが起こり、未分解の発泡剤をさらに継続して分解、発泡させることは困難で、用途に応じて低密度から高密度の種々の密度が要求される発泡体の発泡率の制御範囲に限界がある。特に、ベルト間に給湯後、発泡を継続し、低密度の高発泡体を得ることは困難になることは明らかである。
【0015】
特許文献6では、坩堝中の溶融アルミニウムに空気を吹き込み増粘し、さらに該溶湯にケイ酸カルシウムを発泡助剤として添加、発泡させ、この「発泡した溶融アルミ」を上下のエンドレスベルト間に坩堝の傾動により供給し、ベルト通過時に急冷して発泡体を製造する方法が記載されている。この方法でも、増粘の方法や発泡剤の物質が異なるものの、前述の歩留り低下や、大掛かりな設備、発泡体密度の制御範囲等、同様の問題点が存在する。また、特許文献7記載のものにおいても同様の問題が発生する。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができると共に種々の発泡率に制御可能である発泡金属の連続的製造方法およびこの製造方法により製造される発泡金属を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0018】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、発泡金属およびその連続的製造方法に係わり、請求項1〜5記載の発泡金属の連続的製造方法(第1〜5発明に係る発泡金属の連続的製造方法)、請求項6記載の発泡金属(第6発明に係る発泡金属)であり、それは次のような構成としたものである。
【0019】
即ち、請求項1記載の発泡金属の連続的製造方法は、増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯を反応容器に連続的に給湯すると共に前記反応容器に発泡剤を連続的に供給し、前記溶湯と発泡剤を混合し、この発泡剤を混合した溶湯を前記反応容器の側壁に設けられた出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入する発泡金属の連続的製造方法であって、前記反応容器への単位時間当りの給湯量に対して前記反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一であり、体積では1倍超4倍以下であることを特徴とする発泡金属の連続的製造方法である〔第1発明〕。
【0020】
請求項2記載の発泡金属の連続的製造方法は、前記反応容器内の溶湯温度を660〜680℃に制御する請求項1記載の発泡金属の連続的製造方法である〔第2発明〕。
【0021】
請求項3記載の発泡金属の連続的製造方法は、前記増粘処理が金属カルシウムを溶湯に対して0.5〜4.0質量%添加してなされている請求項1または2記載の発泡金属の連続的製造方法である〔第3発明〕。
【0022】
請求項4記載の発泡金属の連続的製造方法は、前記発泡剤として水素化チタンを用い、その供給量が給湯量の0.8〜2.0質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法である〔第4発明〕。
【0023】
請求項5記載の発泡金属の連続的製造方法は、前記出湯口に流量制御可能な栓を設けて反応容器からの排出量を制御する請求項1〜4のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法である〔第5発明〕。
【0024】
請求項6記載の発泡金属は、請求項1〜5のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法によって製造された発泡金属である〔第6発明〕。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る発泡金属の連続的製造方法によれば、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができると共に、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができる。即ち、Mg含有合金に限定されることなく、種々のAl合金またはAlの発泡体を連続的に製造することができ、この際、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができ、また、連続的製造方法であるために高歩留り・高効率で発泡体を製造することができる。本発明に係る発泡金属は、かかる発泡金属の連続的製造方法により製造されるものであってMg含有合金に限定されず、また、種々の発泡率を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を実施するための装置例1の概要を示す模式図である。
【図2】本発明を実施するための装置例2の概要を示す模式図である。
【図3】本発明を実施するための装置例3の概要を示す模式図である。
【図4】本発明を実施するための装置例4の概要を示す模式図である。
【図5】本発明を実施するための装置例5の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、前述の目的を達成するために様々な角度から検討した。その結果、増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯を反応容器に連続的に給湯すると共に前記反応容器に発泡剤を連続的に供給し、前記溶湯と発泡剤を混合し、この発泡剤を混合した溶湯を前記反応容器の側壁に設けられた出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入するに際し、前記反応容器への単位時間当りの給湯量に対して前記反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一であり、体積では1倍超4倍以下であるようにすると、前述の目的が見事に達成されることを見出した。即ち、このようにすると、発泡率が1倍超4倍以下の溶湯(発泡未完了溶湯)を反応容器の出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入することができ、これに起因して、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができ、また、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができることがわかった。本発明は、かかる知見に基づき完成されたものであり、前述の構成の発泡金属の連続的製造方法としている。従って、本発明によれば、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができ、また、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができる。この詳細を以下説明する。
【0028】
発泡体を製造するに際しては、発泡金属製造用溶湯に発泡剤を添加混合した状態で発泡を開始するが、この状態で放置すると、溶湯の体積は短時間のうちに増加し、溶湯の粘度が高くなって難流動性の融体となる。このような状態の溶湯を、鋳型に注入するには、その溶湯を鋳物工業などで通常使用されているるつぼの傾動や柄杓などですくって別の鋳型に移し変えて移湯しようとすると、難流動性の融体は柄杓に強固に付着することになるので、いわゆる「鋳込み」を行うことが困難になる、あるいは特定の出湯口から取り出すことも同様の理由から困難になる。
【0029】
そこで、本発明者は、溶湯を鋳型に注入するときのタイミングについて、検討したところ、発泡率が4倍以下の状態の溶湯(発泡未完了溶湯)を反応容器から取り出し、これを鋳型(例えば加熱機構を有する移動式鋳型)に注湯するようにすれば、発泡未完了溶湯はその後の鋳型内での発泡が比較的容易に行えることが判明した。このとき、反応容器から取り出すときの溶湯は発泡率が4倍以下であることが必要であり、発泡率が4倍を超えると溶湯の粘度が高くなって流動性が悪くなり、反応容器からの溶湯の取り出しが困難となると共に、鋳型に注入することが困難になる。反応容器から取り出すときの溶湯の発泡率は、好ましくは3倍以下とするのが良い。なお、上記の発泡率とは、質量一定条件下での通常の溶湯(発泡していない溶湯)の体積に対する発泡溶湯の体積の比率、即ち、溶湯が発泡したときの発泡前の溶湯の体積/gに対する発泡後の溶湯の体積/gの比率のことである。本発明のように、増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯を反応容器に連続的に給湯すると共に反応容器に発泡剤を連続的に供給し、溶湯と発泡剤を混合し、この発泡剤を混合した溶湯を反応容器の側壁に設けられた出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入するに際し、反応容器への単位時間当りの給湯量に対して反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一、体積では1倍超4倍以下となるようにした場合、反応容器から排出するときの溶湯の発泡率は1倍超4倍以下である。
【0030】
上記検討の結果に基づき、本発明は前述の構成の発泡金属の連続的製造方法とした。本発明では、要するに、反応容器への単位時間当りの給湯量に対して反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一、体積では1倍超4倍以下となるようにしているので、反応容器から取り出すときの溶湯の発泡率:1倍超4倍以下であり、よって、反応容器からの溶湯の取り出しが容易であると共に、鋳型への注入が容易であり、このため、増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯の反応容器への連続的給湯、反応容器への発泡剤の連続的供給、反応容器の出湯口からの溶湯の連続的排出(取り出し)、鋳型への注入を行うことができる。このように各工程を連続的に行うことができるため、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができ、また、種々の発泡率に制御可能である。即ち、Mg含有合金に限定されず、種々のAl合金またはAlの発泡体を連続的に製造することができ、この際、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができ、また、各工程を連続的に行うことができるために高歩留り・高効率で発泡体を製造することができる。なお、反応容器から取り出すときの溶湯の発泡率が4倍以下であることとしているのは、溶湯の発泡率が4倍を超えると溶湯の粘度が高くなって流動性が悪くなり、反応容器からの溶湯の取り出しが困難となり、反応容器の出湯口からの溶湯の連続的排出(取り出し)、鋳型への注入が行えなくなるからである。反応容器から取り出すときの溶湯の発泡率が1.6以下となるような場合は、溶湯での発泡剤の均一分散の程度が低下し(後述の実施例の欄の特に表1参照)、ひいては、得られる発泡金属の発泡率が部位によって異なり、発泡金属の発泡率の均一性が低下することになる。この点からは、反応容器から取り出すときの溶湯の発泡率は1.7以上とすることが望ましい。
【0031】
本発明において、反応容器への単位時間当りの給湯量に対して反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一、体積では1倍超4倍以下であることとは、詳細には下記のことである。即ち、溶湯の反応容器への連続的給湯と反応容器の出湯口からの溶湯の連続的排出は同時に進行する。このときの同時刻(同時点)での反応容器への単位時間当りの給湯量と反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量(g/sec )では同一であり、前者の給湯量に対する後者の排出量が体積( cm3/sec )では1倍超4倍以下であることを意味するものである。
【0032】
本発明において、反応容器の出湯口は反応容器の側壁に設けられる。この出湯口の位置は、特には限定されず、反応容器内での発泡率(1倍超4倍以下)に応じて定めてもよいが、通常、出湯口は反応容器の高さの中間位置より下に設ける。反応容器内での発泡率が4倍の場合、反応容器の容積の25%に見合う位置(高さ方向で反応容器の断面積が同一の場合、反応容器の高さをHとすると、反応容器の底からH/4の高さの位置)に設けるとよい。
【0033】
図1は本発明を実施するための装置例1の概要を示す図である。この装置においては、溶解炉9にて金属溶湯に増粘処理剤が混合され、この溶湯3が羽根式攪拌機4を備えた反応容器2内に注入され、この溶湯中に発泡剤が添加されて羽根式攪拌機4によって攪拌された後、反応容器2の側壁に設けられた出湯口7から、発泡率が4倍以下の溶湯(発泡未完了溶湯)を取り出せるように構成されている。この溶湯の取出しに際しては、出湯口7に付随して設けられた流量制御用バルブ(栓)5によって、出湯口7の開度が調整できるように構成されている。流量が制御されつつ取り出される溶湯は、出湯口7から鋳型に注湯される〔第5発明〕。鋳型に注湯された溶湯は鋳型内で発泡させた後、冷却、凝固させる。
【0034】
本発明を実施するための装置例2の概要を図2〜3に示す。図2の装置も図3の装置も発泡未完了溶湯を所定温度、所定時間保持して所望の発泡率まで発泡させるため、加熱炉11が設置されている。反応容器2の側壁に設けられた出湯口7から発泡率が4倍以下の発泡未完了溶湯を取り出し、これを図2の場合は鋳型9に注入し、加熱炉11へ移動させる。図3の場合は発泡未完了溶湯を移動式鋳型9に注入する。発泡未完了溶湯の発泡率は、加熱炉11の温度や該加熱炉中の通過時間にて制御可能であり、加熱温度が高いほど、また、通過時間が長いほど、発泡率が大きく、低密度の発泡体が得られることになる。通常の場合、加熱炉並びに発泡体の温度は発泡剤TiH2が発泡する640〜700℃が好ましく、時間は30〜300秒が好ましい。上記条件以下では、より発泡率の低い発泡体が得られ、上記条件以上では、より発泡率の高い発泡体を得ることが可能である。
【0035】
気泡が均一な発泡体を得るため、また、鋳型への充満性を良好にするためには、AlまたはAl合金溶湯の粘度も適切に調整する必要がある。溶湯の粘度調整のための増粘剤としては金属カルシウムを添加することが望ましく、溶湯の粘度を適切な範囲に調整するためには、その添加量を適切に制御するのが良い。かかる点から、増粘剤としての金属カルシウムの添加量は溶湯に対して0.5〜4.0質量%とすることが好ましい〔第3発明〕。金属カルシウムの添加量が0.5質量%未満になると、溶湯の粘度が不十分となり、反応容器から溶湯を取出した後の発泡が不十分となって良好な発泡体が得られ難くなる。また、金属カルシウムの添加量が4.0質量%を超えると、溶湯の粘度が高くなり過ぎて、反応容器からの溶湯の取り出しが困難になる。
【0036】
本発明方法では、発泡剤によって溶湯内に多数の気泡を形成させる。発泡剤としては、水素化チタン(TiH2)、水素化ジルコニウム(ZrH2)、炭酸カルシウム(CaCO3 )等、種々のものが挙げられるが、これらの分解温度を考慮すると、中でも水素化チタンを用いることが好ましい。水素化チタンを発泡剤として用いる場合、その添加量は0.8〜2.0質量%(溶湯質量に対する割合)であることが好ましい〔第4発明〕。水素化チタンの添加量が0.8質量%未満となると、発泡時のガス発生量が不足するため、反応容器から溶湯を取出した後の発泡が不十分となって良好な発泡体が得られ難くなる。また、水素化チタンの添加量が2.0質量%を超えると、発泡剤を溶湯内に均一分散させるために攪拌時間が長くなったり、高価な発泡剤を無用に消費することになる。なお、こうした発泡剤の量は、溶湯を取り出し時に溶湯が発泡能力を有するに十分な量であることを意味し、これよりも少ない場合には、発泡率が4倍以下であってもその後の溶湯の発泡が不十分になってしまうことになる。取り出し時の溶湯は、発泡が完了したものではなく、発泡未完了溶湯である。その後、溶湯の発泡が進行し、完了する。この溶湯は発泡完了溶湯である。これまでに記載の発泡未完了溶湯とは、上記のような発泡未完了溶湯、即ち、発泡がまだ完了していない溶湯のことである(以下、同様)。
【0037】
水素化チタンを添加・混合するときの溶湯温度は、660〜680℃とすることが好ましい〔第2発明〕。溶湯温度が660℃未満の場合には、温度が低いために水素化チタンの分解が十分に起こらないので、発泡が不十分になる。一方、溶湯温度が690℃を超えると、添加時に発泡剤の分解が過剰に起こり、溶湯の粘度が高くなり、流動性が低下するため取り出しが困難になる。また、たとえ移動鋳型への注湯ができたとしても、取り出し後の発泡が不十分なものとなる。
【0038】
連続発泡では、増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯の反応容器への給湯と、反応容器への発泡剤の添加と、反応容器内での溶湯と発泡剤の混合(あるいは更に発泡)と、反応容器からの溶湯の排出(取り出し)が、いずれも連続的に進んでおり、工程を分割して管理することができない。その点、バッチ処理では「添加所要時間」の管理や発泡材の添加から溶湯取出しまでの時間を管理し、発泡率4倍以下の発泡未完了溶湯の取り出しが可能である。
【0039】
そこで、反応容器の容積を基に基準値を設定する。例えば、反応容器の10%に相当する溶湯の供給時間と発泡材を添加・撹拌し反応容器の容積の25%の位置に設けた排出口に発泡して到達する時間が同時に達成されるように設定する。バッチの場合の発泡剤を添加してから完了までに要する時間は15〜30秒、発泡剤の添加から溶湯取り出しまでの時間は15〜180 秒であったが、連続供給・連続取出しの本発明では、30〜60秒の範囲で可能であった。
【0040】
本発明では発泡体の素材としてAlまたはAl合金を用いるが、このAl合金として特に限定される条件はなく、Ti,Mg,Zn等の合金元素をその溶湯特性(発泡金属として要求される特性)を阻害しない程度(例えば、20質量%以下)で含有していてもよい。
【0041】
本発明によって得られる発泡体では、発泡体の網目状骨格がCaやTi等の合金元素を含有する数ミクロン〜10ミクロンの大きさの晶出物とマトックスのアルミニウムから構成されており、自動車のピラー、メンバー等用の充填補強材や床等のサンドイッチパネル用中間材等の部材への適用に際して、所定の強度を有するものとなる。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例および比較例を以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
装置としては図2に示す装置とほぼ同様の装置を用いた。なお、反応容器2の出湯口7は反応容器2の25%の容積に見合う位置に設けられているものを用いた。
【0044】
Al合金を大気中で溶解し、増粘剤としてCaを添加して、増粘されたAl合金の溶湯(40.0kg)を得た。この溶湯3を、645〜690℃の供給溶湯温度で該温度に保持した反応容器2へ、反応容器2の容積の10%相当量(6.0kg )を30〜250g/sec の供給速度で供給し、それに並行して、発泡剤として水素化チタンを、上記溶湯3の供給量の1.5 質量%相当量を反応容器2へ連続して供給し、攪拌して、溶湯と発泡剤を混合する。そうすると、反応容器内で溶湯の発泡が起こる。反応容器2の25%の容積に見合う位置まで発泡が進み、同位置に設置した出湯口7より発泡率:4倍以下の発泡未完了溶湯が連続的に排出され、回収鋳型9により連続的に回収することが出来た。なお、反応容器2の出湯口7より排出しようとする溶湯の発泡率が4倍超の場合、溶湯の排出が間欠的にしかできなかったり、溶湯の排出が全くできなかった。
【0045】
上記の方法において、Al合金の反応容器への供給速度、水素化チタンの供給速度(添加速度)、水素化チタンの添加濃度(溶湯質量に対する割合)、発泡剤添加時の溶湯温度、および、水素化チタン添加開始から溶湯取り出し(反応容器の出湯口からの溶湯排出)開始までの時間等を様々に変えて、上記と同様の増粘されたAl合金の溶湯の反応容器2への供給から、反応容器2の出湯口7からの溶湯の排出に到るまでの工程を遂行し、この溶湯の排出ができたものについては排出された溶湯を急冷凝固して急冷凝固試料を得、その発泡倍率を測定した。なお、この急冷凝固試料の発泡倍率は反応容器2の出湯口7から排出される溶湯の発泡倍率(発泡率)に相当する。
【0046】
この結果を表1に示す。表1からわかるように、水素化チタンの添加開始から溶湯の取り出し(反応容器2の出湯口7からの溶湯の排出)までの時間が24秒と早すぎると、発泡剤の均一分散がなされず、その結果、急冷凝固試料の発泡倍率は低くて取り出し(反応容器の出湯口からの排出)時の溶湯は発泡倍率の低い溶湯となった(実験No.1)。なお、反応容器2の出湯口7からの溶湯の連続的排出(取り出し)、鋳型への注入は行うことができるので、本発明に係る発泡金属の連続的製造方法は行い得る水準のものである。
【0047】
水素化チタンの添加開始から溶湯の取り出しまでの時間が30〜60秒の場合には、取り出し時の溶湯の発泡率が1.7〜4倍となっている(実験No.2〜6 )。従って、反応容器2の出湯口7からの溶湯の連続的排出(取り出し)、鋳型への注入は行うことができるので、本発明に係る発泡金属の連続的製造方法は行い得ると共に、発泡剤の均一分散性に優れ、発泡率の均一性に優れた発泡体を得ることができる優れた水準のものである。
【0048】
水素化チタン添加開始から溶湯の取り出しまでの時間が100〜150秒の場合には、取り出し時の溶湯の発泡率は4倍を超え、反応容器2の出湯口7からの溶湯の取り出しは間欠的にしか行うことができず、不安定であった(実験No.7〜8 )。従って、反応容器の出湯口からの溶湯の連続的排出(取り出し)、鋳型への注入を行うことができないので、本発明のような発泡金属の連続的製造方法は行うことができない水準のものである。
【0049】
水素化チタン添加開始から溶湯の取り出しまでの時間が200秒の場合には、溶湯の発泡率が更に高くなって溶湯の粘度が増大し過ぎてしまい、反応容器2の出湯口7からの溶湯の取り出し自体が不可能となった(実験No.9)。
【0050】
溶湯の設定温度(発泡剤である水素化チタンの添加時の溶湯温度)が低すぎると、反応容器内で溶湯が凝固してしまい、反応容器2の出湯口7からの溶湯の取り出し自体ができず、鋳型への注湯ができなくなった(実験No.10 )。溶湯の設定温度(水素化チタン添加時の溶湯温度)が高過ぎると、溶湯の発泡率が高くなり過ぎて溶湯の粘度が増大し過ぎるため、反応容器2の出湯口7からの溶湯の取り出し自体が不可能となった(実験No.11 )。
【0051】
本発明を実施するための装置例4〜5を図4〜5に示す。前述の図1、2に示す装置では予め増粘処理した溶湯を使用するが、図4に示すように増粘処理と発泡処理をシリアルに連結し、増粘、発泡を連続的に実施することも可能である。発泡効率上、図1のような構造の反応容器でもよいが、発泡剤の混合、分散をより確実に行なうためには、図5のように反応容器内に堰を設けることが好ましい。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る発泡金属の連続的製造方法によれば、Mg含有合金に限定されない種々のAl合金またはAlの発泡体を高歩留り・高効率で連続的に製造することができると共に、種々の発泡率に制御可能であって種々の発泡率のものを得ることができて有用である。
【符号の説明】
【0054】
1--反応容器用溶解炉、2--反応容器、3--溶湯、4--攪拌機、5--流量制御弁、6--給湯口、7--出湯口、8--発泡剤添加装置、9--増粘溶湯用溶解炉、10--るつぼ、11--増粘溶湯、9A--鋳型、10A-- 発泡未完了溶湯、9B--双ベルト式移動鋳型、1a--反応容器用溶解炉、2a--反応容器、3a--溶湯、4a--攪拌機、5a--流量制御弁、6a--給湯口、7a--出湯口、8a--発泡剤添加装置、1b--増粘溶湯用溶解炉、2b--反応容器、3b--溶湯、4b--攪拌機、5b--流量制御弁、6b--給湯口、7b--出湯口、8b--増粘剤添加装置、9a--溶解炉、11a-- 溶湯、2ac-- 堰。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増粘処理されたAlまたはAl合金の溶湯を反応容器に連続的に給湯すると共に前記反応容器に発泡剤を連続的に供給し、前記溶湯と発泡剤を混合し、この発泡剤を混合した溶湯を前記反応容器の側壁に設けられた出湯口から連続的に排出し、鋳型に注入する発泡金属の連続的製造方法であって、前記反応容器への単位時間当りの給湯量に対して前記反応容器の出湯口からの単位時間当りの排出量が質量では同一であり、体積では1倍超4倍以下であることを特徴とする発泡金属の連続的製造方法。
【請求項2】
前記反応容器内の溶湯温度を660〜680℃に制御する請求項1記載の発泡金属の連続的製造方法。
【請求項3】
前記増粘処理が金属カルシウムを溶湯に対して0.5〜4.0質量%添加してなされている請求項1または2記載の発泡金属の連続的製造方法。
【請求項4】
前記発泡剤として水素化チタンを用い、その供給量が給湯量の0.8〜2.0質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法。
【請求項5】
前記出湯口に流量制御可能な栓を設けて反応容器からの排出量を制御する請求項1〜4のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の発泡金属の連続的製造方法によって製造された発泡金属。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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