説明

発熱体の製造方法

【課題】製造中の被酸化性金属の粒子の電解質水溶液による酸化を極力抑え、発熱組成物の分散性を維持し、良好な発熱特性を有する発熱体の製造方法を提供すること。製造工程をコンパクトに抑えることができる発熱体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の発熱体の製造方法は、基材シートの一面に電解質を含む電解質水溶液を添加する電解質添加工程、及び基材シートにおける電解質水溶液の添加面に、電解質を含まず被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工する塗工工程を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素と被酸化性金属との酸化反応に伴う発熱を利用した発熱体の製造方法に関する従来技術として、例えば、特許文献1には、インキ状ないしクリーム状の発熱組成物を用いた発熱体の製造方法が記載されている。特許文献1に記載の発熱体の製造方法は、包材である基材シートに、活性炭、増粘剤、界面活性剤、PH調整剤、食塩及び鉄粉の順に、各所定の配合割合で攪拌し、更に水を投入しながら攪拌混練して得られたインキ状ないしクリーム状の発熱組成物を積層して、発熱体を製造するようにした方法である。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の発熱体の製造方法は、発熱組成物を攪拌混練して形成する際に、過剰水による発熱抑制効果はあるものの、食塩(電解質)及び鉄粉を同時に攪拌混練するため、混練機のパドルやタンク壁面等に附着した塗料は水分を失うことで激しく酸化反応を起こすため、製造機器はチタンなどの耐食性の高い高価な材料を使用しなければならず、非常に高額な設備投資が必要になる。
また、特許文献1に記載の発熱体の製造方法は、食塩(電解質)及び鉄粉を同時に攪拌混練するため、発熱組成物の沈降や離水の発生を抑えることができず、発熱組成物の分散性を維持することが難しかった。
【0004】
本出願人は、先に、被酸化性金属の粒子、繊維材料、水及び保水剤を含み且つ水の含有量が40〜75重量%である塗工液を支持体上に塗工して含水成形体を形成し、該含水成形体を所定の含水率まで脱水した後、脱水された該含水成形体を所定の含水率まで加熱乾燥させて中間成形体を得、然る後、該中間成形体に電解質水溶液を所定量付与して発熱成形体となす発熱成形体の製造方法を提案した(特許文献2)。この発熱成形体の製造方法によれば、塗工液中に電解質が含まれていないので、塗工液を塗工する際や、脱水・乾燥させて中間成形体を得る際に、被酸化性金属の粒子の酸化が進行し難く、発熱組成物の分散性を維持することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献2の発熱成形体の製造方法は、脱水する工程や、加熱乾燥する工程が必要であり製造工程が大きくなる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−75388号公報
【特許文献2】特開2004−143232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被酸化性金属の粒子、電解質及び水を含む発熱組成物の層が、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料を含む繊維シートからなる基材シートに設けられてなる発熱体の製造方法であって、前記基材シートの一面に前記電解質を含む電解質水溶液を添加する電解質添加工程、及び該基材シートにおける前記電解質水溶液の添加面に、前記電解質を含まず前記被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工する塗工工程を備えている発熱体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発熱体の製造方法によれば、製造中の被酸化性金属の粒子の電解質水溶液による酸化を極力抑え、発熱組成物の分散性を維持し、良好な発熱特性を有する発熱体を製造することができる。本発明の発熱体の製造方法は、製造工程をコンパクトに抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、実施例1で用いた基材シートの縦断面構造を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の発熱具の製造に好ましく用いられる製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の発熱具の製造方法により製造される発熱具は、その構成部材として、発熱体と包材とを備える。本発明の発熱体の製造方法により製造される発熱体は、例えば、その発熱具の発熱体として好ましく用いられる。発熱具の構成部材としての発熱体は、その発熱具において熱を生じさせる部材である。他方、発熱具の包材は、発熱体の全体を包囲し、本発明の発熱具の外面をなす部材である。
【0012】
先ず、本発明の発熱体の製造方法により製造される発熱体について説明する。
本発明の発熱体の製造方法により製造される発熱体は、基材シートと、該基材シートに設けられた発熱組成物の層(以下、「発熱層」ともいう。)を備える。基材シートは、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料を含む繊維シートから構成されている。発熱層は、被酸化性金属の粒子を含んで構成されている。
【0013】
繊維シートからなる基材シートは、(イ)高吸収性ポリマーの粒子と繊維材料とが均一に混合した状態の1枚のシートであり得る。また基材シートは、(ロ)高吸収性ポリマーの粒子が、該基材シートの厚み方向略中央域に主として存在しており、かつ該基材シートの表面には該粒子が実質的に存在していない構造を有するワンプライのものでもあり得る。更に基材シートは、(ハ)繊維材料を含む同一の又は異なる繊維シート間に、高吸収性ポリマーの粒子が配置された2枚の繊維シートの重ね合わせ体でもあり得る。これら種々の形態をとり得る基材シートのうち、発熱層の含水率のコントロールを容易に行い得る観点から、基材シートとして(ロ)の形態のものを用いることが好ましい。
【0014】
繊維シートからなる基材シートに含まれる繊維材料としては、親水性繊維及び疎水性繊維のいずれをも用いることができるが、親水性繊維を用いることが好ましい。親水性繊維としては、天然繊維及び合成繊維のいずれをも用いることができる。
基材シートの構成繊維として親水性繊維を用いることで、発熱層に含まれる被酸化性金属との間で水素結合が形成されやすくなり、発熱層の保形性が良好になるという利点がある。また、親水性繊維を用いることで、基材シートの吸水性ないし保水性が良好になり、発熱層の含水率をコントロールしやすくなるという利点もある。これらの観点から、親水性繊維としてはセルロース繊維を用いることが好ましい。セルロース繊維としては化学繊維(合成繊維)及び天然繊維を用いることができる。
【0015】
セルロースの化学繊維としては、例えばレーヨン及びアセテートを用いることができる。一方、天然のセルロース繊維としては、各種の植物繊維、例えば木材パルプ、非木材パルプ、木綿、麻、麦藁、ヘンプ、ジュート、カポック、やし、いぐさ等を用いることができる。これらのセルロース天然繊維のうち、太い繊維を容易に入手できる等の観点から、木材パルプを用いることが好ましい。セルロース繊維として太い繊維を用いることは、基材シートの吸水性ないし保水性や、発熱層の保持性等の観点から有利である。
【0016】
特に、セルロース繊維として、嵩高セルロース繊維を用いることが好ましい。嵩高セルロース繊維を用いることで、基材シートにおける構成繊維の繊維間距離を好適なものとすることが容易となる。嵩高セルロース繊維の具体例としては、(a)繊維形状が、捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/若しくは分岐構造の立体構造をとるか、(b)繊維粗度が0.2mg/m以上であるか、又は(c)セルロース繊維の分子内及び分子間が架橋されたものが挙げられる。
【0017】
前記の(a)の捻れ構造、クリンプ構造、屈曲及び/又は分岐構造等の立体構造をとる繊維の具体例としては、木材パルプを化学的な反応で木材を分解した化学パルプや、機械的な処理(叩解)で分解させたパルプや、化学的な反応と機械的な処理を組み合わせて得られたパルプを用いることができる。
【0018】
前記の(b)の繊維は、嵩高な状態でセルロース繊維が集積し、それによって液体の移動抵抗が小さくなり、液体の透過速度が大きくなるので、そのような繊維を用いると、後述する発熱体の製造の過程で、発熱組成物の塗料を基材シートへ塗工した際に、該発熱組成物中の水分が、基材シート中へ移動しやすくなるので、発熱層の含水率のコントロールが容易になる。また、発熱層を構成する塗料の固形分を保持し得る嵩高なネットワーク構造が形成され易い。これらの観点から、(b)の繊維の繊維粗度は、0.2〜2mg/m、特に0.3〜1mg/mであることが好ましい。
【0019】
繊維粗度とは、木材パルプのように、繊維の太さが不均一な繊維において、繊維の太さを表す尺度として用いられるものであり、例えば、繊維粗度計(FS−200、KAJANNIELECTRONICSLTD.社製)を用いて測定される。繊維粗度が0.2mg/m以上のセルロース繊維の例としては、針葉樹クラフトパルプ〔Federal Paper Board Co.製の「ALBACEL」(商品名)、及びPT Inti Indorayon Utama製の「INDORAYON」(商品名)〕等が挙げられる。
【0020】
前記の(b)の繊維は、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に0.55〜1であることが好ましい。このような真円度を有するセルロース繊維を用いることで、基材シートにおける液体の移動抵抗が一層小さくなり、液体の通過速度が一層大きくなる。真円度の測定方法は次の通りである。面積が変化しないように、繊維をその断面方向に垂直にスライスし、電子顕微鏡により断面写真をとる。断面写真を画像回析装置〔日本アビオニクス社製の「Avio EXCEL」(商品名)〕によって解析し、測定繊維の断面積及び周長を測定する。これらの値を用い、以下に示す式を用いて真円度を算出する。真円度は、任意の繊維断面を100点測定し、その平均値とする。
真円度=4π(測定繊維の断面積)/(測定繊維の断面の周長)2
【0021】
嵩高セルロース繊維として木材パルプを使用する場合、一般に木材パルプの断面は脱リグニン化処理によって偏平であり、その殆どの真円度は0.5未満であるところ、このような木材パルプの真円度を0.5以上にするためには、例えば、かかる木材パルプをマーセル化処理して木材パルプの断面を膨潤させればよい。市販のマーセル化パルプの例としては、ITT Rayonier Inc.製の「FILTRANIER」(商品名)や同社製の「POROSANIER」(商品名)等が挙げられる。
【0022】
前記の(c)の繊維である架橋セルロース繊維は、湿潤状態でも嵩高構造を維持し得るので好ましい。セルロース繊維を架橋するための方法としては、例えば、架橋剤を用いた架橋方法が挙げられる。かかる架橋剤の例としては、ジメチロールエチレン尿素及びジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等のN−メチロール系化合物;クエン酸、トリカルバリル酸及びブタンテトラカルボン酸等のポリカルボン酸;ジメチルヒドロキシエチレン尿素等のポリオール;ポリグリシジルエーテル系化合物の架橋剤などが挙げられる。架橋剤の使用量は、セルロース繊維100重量部に対して、0.2〜20重量部とすることが好ましい。架橋セルロース繊維は、その繊維粗度が、0.1〜2mg/m、特に0.2〜1mg/mであることが好ましい。また架橋セルロース繊維は、繊維断面の真円度が0.5〜1、特に0.55〜1であることも好ましい。市販の架橋セルロース繊維としては、Weyerhaeuser Paper Co.製の「High Bulk Additive」等が挙げられる。
【0023】
上述の(a)〜(c)の繊維のうち、特に(c)の繊維を用いると、基材シートと発熱層との一体性が高まり、該発熱層の脱落が起こりにくくなるという有利な効果が奏される。また発熱体が柔軟なものとなり、本発明の発熱具を取り付け対象物、例えば人体の皮膚や衣類に取り付けたときのフィット性が良好になるという有利な効果も奏される。意外なことに、発熱体の柔軟性は、発熱終了後においても維持されることは、特筆に値する。
【0024】
上述の各種の親水性繊維は、その繊維長が0.5〜6mm、特に0.8〜4mmであることが、湿式法又は乾式法での基材シートの製造が容易である点から好ましい。
【0025】
基材シートには、上述の親水性繊維に加え、必要に応じて熱融着性繊維を配合してもよい。この繊維の配合によって、湿潤状態での基材シートの強度を高めることができる。熱融着性繊維の配合量は、基材シートにおける繊維の全量に対して0.1〜10質量%、特に0.5〜5質量%であることが好ましい。
【0026】
繊維シートからなる基材シートには、上述のとおり高吸収性ポリマーの粒子が含まれている。基材シートにおける高吸収性ポリマーの粒子の存在位置については先に述べたとおりである。高吸収性ポリマーとしては、自重の20倍以上の液体を吸収・保持でき且つゲル化し得るヒドロゲル材料を用いることが好ましい。粒子の形状は、球状、塊状、ブドウ房状、繊維状等であり得る。粒子の粒径は、1〜1,000μm、特に10〜500μmであることが好ましい。高吸収性ポリマーの具体例としては、デンプン、架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体などが挙げられる。高吸収性ポリマーの粒子は、基材シートに含まれる繊維材料に接合されていることが好ましい。また、繊維材料からなるウェブに対し、重合性モノマー及び/又は該モノマーの重合進行物を含有する液状体を付着させ、重合させて高吸収性ポリマーの粒子を形成して用いたものでもよい。
【0027】
基材シートに占める高吸収性ポリマーの割合は、10〜70質量%、特に20〜55質量%であることが、基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとする観点及び発熱層の含水率のコントロールの観点から好ましい。なお、この割合は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
【0028】
基材シートは、その坪量が10〜200g/m2、特に35〜150g/m2であることが好ましい。基材シートの坪量をこの範囲内に設定することで、湿潤状態における基材シートの強度を十分に確保することができ、また基材シートの吸水性ないし保水性を好適なものとすることができる。一方、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの坪量は、5〜150g/m2、特に10〜100g/m2であることが好ましい。高吸収性ポリマーの坪量をこの範囲内に設定することで、基材シートの吸水性ないし保水性を一層好適なものとすることができる。また、発熱層の含水率を一層コントロールしやすくなる。これらの坪量は、基材シート上に発熱層が形成される前の乾燥状態にある該基材シートについて測定された値である。
【0029】
基材シートは、それが前記の(イ)の形態のものである場合、例えばエアレイド法で製造することができる。(ロ)の形態のものである場合には、例えば本出願人の先の出願に係る特開平8−246395号公報に記載の湿式抄造法で製造することができる。(ハ)の形態のものであり場合には、エアレイド法又は湿式抄造法で製造することができる。
【0030】
基材シートには、少なくともその一方の面に発熱層が設けられている。発熱層は、基材シートの一方の面にのみ設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。発熱層は、被酸化性金属の粒子、電解質及び水を含んでいる含水層である。発熱層は、更に反応促進剤を含んでいてもよい。発熱層は、基材シート上に存在していてもよく、あるいは発熱層の下部が基材シート中に埋没していてもよい。これらのうち、発熱層の下部が基材シート中に埋没していることが好ましい。つまり、発熱層を構成する固形分の一部が、基材シートを構成する繊維シートに形成されている三次元状のネットワーク中に担持されていることが好ましい。発熱層の一部が基材シート中に埋没していることによって、発熱層と基材シートの一体性が増し、基材シートからの発熱層の脱落(使用前、使用中、使用後)が効果的に防止される。
【0031】
発熱層に含まれる被酸化性金属としては、鉄、アルミニウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。被酸化性金属の粒子の粒径は、例えば0.1〜300μm程度とすることができる。反応促進剤としては、水分保持剤として作用するほかに、被酸化性金属への酸素保持/供給剤としての機能も有しているものを用いることが好ましい。反応促進剤としては例えば活性炭(椰子殻炭、木炭粉、暦青炭、泥炭、亜炭)、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、シリカ等が挙げられる。電解質としては、被酸化性金属の粒子の表面に形成された酸化物の溶解が可能なものが用いられる。その例としてはアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の硫酸塩、炭酸塩、塩化物又は水酸化物等が挙げられる。これらの中でも、導電性、化学的安定性、生産コストに優れる点からアルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の塩化物が好ましく用いられ、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄が好ましく用いられる。
【0032】
基材シートの坪量が先に述べた範囲であることを条件として、発熱体における被酸化性金属の量は、坪量で表して100〜3,000g/m2、特に200〜1,500g/m2であることが、十分な発熱量を確保する観点から好ましい。発熱体における反応促進剤の量は、4〜80g/m2、特に8〜50g/m2であることが、長時間にわたり安定な発熱を維持する観点から好ましい。同様の理由によって、発熱体における電解質の量は、4〜40g/m2、特に5〜30g/m2であることが好ましい。なお、これらの坪量は、基材シートに発熱層を片面に1層形成した場合での値である。したがって基材シートの両面に発熱層を形成した場合には、これらの坪量は上述の2倍の値となる。また、発熱体の具体的な用途に合わせ、坪量は適宜調整される。
【0033】
上述したとおり発熱層は含水状態になっている。発熱層の含水率は、5〜50質量%、特に6〜40質量%であることが好ましい。発熱層の含水率をこの範囲内に設定することで、発熱層はその流動性が低下し、ひいては粘性が低下する。その結果、後述するように、発熱層の上側に通気性を有するシートを配置しても、該発熱層の貼り付きによって該シートの通気性が損なわれるという不都合が起こりにくくなる。発熱層の含水率は、基材シートの表面よりも上側に位置する部位を対象として測定される。したがって、発熱層のうち、基材シートに埋没している部位は、含水率の測定対象から除外される。発熱層の含水率の具体的な測定方法は次のとおりである。すなわち、基材シートの表面よりも上側に位置する部位の発熱層を窒素環境下で取り出し、その重量を測定する。その後、真空状態の105℃の温度で2時間乾燥炉に入れ、水分を取り除き、再度、重量を測定し、含水量を測定する。
なお、上述の発熱層の含水率は、1つの発熱層あたりの値である。
【0034】
発熱層の含水率を上述の範囲に設定することで、該発熱層がその上に配置される通気性シートへ貼り付くことが効果的に防止されるが、その分、発熱層に含まれる水の量が少なくなることに起因して発熱特性が低下するとの懸念が生じるかもしれない。しかし本発明においては、基材シートが水を含んでおり、発熱中に基材シートから発熱層へ水が供給されるので、発熱特性が低下することはない。特に、基材シートは高吸収性ポリマーを含んでおり、該高吸収性ポリマーからの水の放出は徐々に進行するので、発熱特性は長時間にわたって安定したものとなる。これらの観点から、発熱体における水が占める割合、つまり発熱体の含水率は、10〜60質量%、特に12〜50質量%であることが好ましい。発熱体の含水率の具体的な測定方法は次のとおりである。すなわち、窒素環境下で発熱体の重量を測定し、その後、真空状態の105℃の温度で2時間乾燥炉に入れ、水分を取り除き、再度、重量を測定し、差分の重量を水分量として含水量を算出する。
なお、上述の発熱体の含水率は、基材シートに発熱層を1層形成した場合での値であるが、基材シートの両面に発熱層を形成した場合でも上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0035】
発熱体においては、基材シートの一方の面にのみ発熱層が形成されている場合、該基材シートの面のうち、発熱層が設けられていない側の含水率が、発熱層の含水率よりも低くなっていることが好ましい。このようになっていることで、発熱層が形成されている側では、発熱のための水分供給が発熱層に対して行われ、一方、発熱層が設けられていない側では、基材シートと被覆シートとの密着が防止され、発熱具内での空気の流れが阻害され難いという有利な効果が奏される。このような含水率の関係を達成するためには、例えば基材シートとして上述の(ロ)又は(ハ)の構造を有するものを用いることが有利である。(ロ)又は(ハ)の構造を有する基材シートは、その厚み方向の中央域に高吸収性ポリマーの粒子が偏在しているので、基材シートの一方の面にのみ発熱層を形成すると、高吸収性ポリマーの粒子が偏在している部位において水の浸透が阻止されるので、基材シートの反対側での含水率を低くとどめることができるからである。
【0036】
本発明の発熱具の製造方法で製造される発熱具においては、前述した発熱体が包材によって包囲されている。この包材は、好ましくは、第1の被覆シートと第2の被覆シートを備えている。第1の被覆シートは、発熱体における発熱層の側に配置されている。第2の被覆シートは、発熱体における発熱層が形成されていない側に配置されている(1枚の基材シートの片面にのみ発熱層が形成されている場合)か、発熱層の側に配置されている(例えば1枚の基材シートの両面に発熱層が形成されている場合)。
【0037】
第1の被覆シートと第2の被覆シートとは、発熱体の周縁から外方に延出する延出域をそれぞれ有し、各延出域どうしが接合されている。この接合は、発熱体を取り囲む環状の連続した気密の接合であることが好ましい。両被覆シートの接合によって形成された包材は、その内部に発熱体を収容するための空間を有している。この空間内に発熱体が収容されている。前記の延出域どうしの接合が環状の連続した気密の接合である場合には、包材内に収容されている発熱体からの固形分(例えば被酸化性金属の粒子)の脱落が確実に防止されるので好ましい。
【0038】
包材内に収容されている発熱体は、包材に対して非固定状態になっていることが好ましい。つまり発熱体は、その移動が包材によって拘束されておらず、包材とは別個独立に移動することが可能になっているとが好ましい。この場合、例えば包材における第2の被覆シートに粘着剤を塗布して粘着部を形成し、該粘着部を介して本発明の発熱具を使用者の肌等に貼付した場合、使用者の動作に起因して第2の被覆シートが引きつった状態になったとしても、その引きつった状態が発熱体に伝播しないので、発熱体からの固形分(例えば被酸化性金属の粒子)の脱落が効果的に防止される。
また、発熱体が拘束されていないことで、包材とは別個独立に移動することが可能となっており、被覆シートと密着しにくくなっていることから、被覆シートの通気性が阻害されず、また、包材内で基材シート周囲の空気の流れが阻害されず、良好な発熱反応を得ることができる。
【0039】
包材における第1の被覆シートは、その一部が通気性を有するものであるか、又はその全体が通気性を有している。先に述べたとおり、第1の被覆シートは発熱部における発熱層に対向して配置されているので、第1の被覆シートが通気性を有することで、発熱層への酸素の供給が円滑に行なわれ、安定した発熱が長時間にわたって維持される。この観点から、第1の被覆シートの通気度(JIS P8117 B型、以下、通気度というときにはこの方法の測定値をいう)は、1〜50,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に10〜40,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。このような通気度を有する第1の被覆シートとしては、例えば透湿性は有するが透水性は有さない合成樹脂製の多孔性シートを用いることが好適である。かかる多孔性シートを用いる場合には、該多孔性シートの外面(第1の被覆シートにおける外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートして、第1の被覆シートの風合いを高めてもよい。
【0040】
包材における第2の被覆シートとしては、発熱体の構造に応じて適切なものが選択される。第2の被覆シートは、第1の被覆シートよりも通気性の低い通気性シートであることが、第1の被覆シートを通じて水蒸気を安定して発生させる観点から好ましい。特に、基材シートの発熱層が、第2の被覆シート側に位置していない場合には、第2の被覆シートは、第1の被覆シートよりも通気性の低いシートであることが好ましい。ここで言う「通気性の低いシート」とは、一部に通気性を有するが、通気性の程度が第1の被覆シートよりも低い場合と、通気性を有さない非通気性シートである場合との双方を包含する。第2の被覆シートが非通気性シートである場合、該非通気性シートとしては、合成樹脂製のフィルムや、該フィルムの外面(第2の被覆シートにおける外方を向く面)にニードルパンチ不織布やエアスルー不織布等の不織布を始めとする各種の繊維シートをラミネートした複合シートを用いることができる。第2の被覆シートが通気性シートである場合、該通気性シートしては、第1の被覆シートと同様のものを用いることができる。この場合、第2の被覆シートの通気性は、第1の被覆シートの通気性よりも低いことを条件として、200〜150,000秒/(100ml・6.42cm2)、特に300〜100,000秒/(100ml・6.42cm2)であることが好ましい。第2の被覆シートが通気性シートであると、第1の被覆シートの外面を、使用者の例えば肌や衣服に密着させた使用状態でも、安定した発熱を行なうことができる。
【0041】
発熱体において、発熱層は1枚の基材シートの片面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。両面に形成する場合には、例えば後述の塗料の塗工を行なわれた基材シートをターンバーなどで上下面を反転させ、第2の塗料の塗工工程を経て形成することができる。
また、発熱具に収容されている発熱体は、1枚でもよく、複数枚を積層させた多層状態で収容してもよい。
【0042】
本発明の製造方法により製造される発熱具は、第1の被覆シートが配置されている側から水蒸気の発生が可能になっている。水蒸気の発生を可能とするためには、(イ)発熱層が多量の水を含有していることを前提として、(ロ)発熱層を構成する各成分の割合を調節する方法、(ハ)発熱体を包囲する第1及び第2の被覆シートの通気度を調節する方法、(ニ)(ロ)と(ハ)を併用する方法等が挙げられる。本発明の発熱具においては、基材シートが親水性繊維を含むことによって、多量の水を保持することができる。このことに起因して、本発明の発熱具は、多量の水蒸気を発生させることができる。しかも発熱具においては、基材シートが親水性繊維を含むことに加えて高吸収性ポリマーも含有しているので、このことによっても該基材シートが多量の水を保持することができ、その結果、多量の水蒸気を発生させることができる。前記の(ロ)の発熱層を構成する各成分の割合に関しては、先に述べたとおりである。(ハ)の第1及び第2の被覆シートの通気度に関しても、先に述べたとおりである。第1の被覆シート4を通じて放出される水蒸気の量は、後述する測定方法に従い0.01〜0.8mg/(cm2・min)、特に0.03〜0.4mg/(cm2・min)であることが好ましい。
【0043】
第1の被覆シート及び第2の被覆シートがいずれも通気性を有する場合には、第1の被覆シート4の通気度の値を第2の被覆シートの通気度の値よりも小さくして(すなわち通気性を高くして)、第1の被覆シートを通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シート5を通じて放出される水蒸気の量よりも多くなるようにすることが好ましい。第1の被覆シートを通じて放出される水蒸気の量の方が、第2の被覆シートを通じて放出される水蒸気の量よりも多くなる限りにおいて、第2の被覆シートを通じて水蒸気が放出されることは何ら妨げられない。
【0044】
第1の被覆シートを通じて放出される水蒸気の量は、次のようにして測定される。すなわち、20℃・65%RH下で発熱具を空気と接触させ発熱を開始させる。1mgの単位まで測定可能な上皿天秤に、発熱具を直ちに載せ、その後15分間質量測定を行なう。測定開始時の質量をWt0(g)とし、15分後の質量をWt15(g)とし、発熱具の水蒸気発生面積をS(cm2)としたときに、以下の式から発生した蒸気の量を算出する。
水蒸気放出量〔mg/(cm2・min)〕={(Wt0−Wt15)×1000}/15S
【0045】
包材における第1の被覆シートはその外面に、粘着剤が塗工されて形成された粘着層を有していてもよい。粘着層は、本発明の発熱具を人体の肌や衣類等に取り付けるために用いられる。粘着層を構成する粘着剤としては、ホットメルト粘着剤を始めとする当該技術分野において、これまで用いられてきたものと同様のものを用いることができる。通気性を阻害しない点からは、第1の被覆シートの周縁部に粘着層を設けることが好ましい。
【0046】
次に、上述した発熱体及び発熱具の製造方法、すなわち、本発明の発熱体の製造方法及び発熱具の製造方法の好ましい実施態様について説明する。
本発明の発熱体の製造方法の好ましい実施態様は、以下に説明する(1)電解質添加工程及び(2)塗工工程を備える。本実施態様の発熱具の製造方法の好ましい実施態様は、その発熱体の製造工程の次に(3)製造した発熱体を包材によって包囲して発熱具とする発熱体被覆封止工程を具備する。
【0047】
(1)電解質添加工程
発熱体の製造工程の一工程である電解質添加工程においては、基材シートの一面に電解質を含む電解質水溶液を添加する。例えば、電解質水溶液を連続長尺物からなる基材シートの一方の面上に連続的に塗工する。電解質水溶液の添加方法としては、ノズルによる滴下又は噴霧、ブラシによる塗布、ダイコーティング等が用いられるが、周囲への電解質水溶液の飛散や、電解質水溶液吐出口の詰まり防止、塗料との接触による製造設備の汚染防止の点からノズルによる滴下もしくは噴霧することが好ましい。
【0048】
添加する電解質水溶液中においては、電解質が3〜35質量%、特に5〜30質量%含まれていることが好ましい。電解質の添加量(固形分換算)は、後述する塗工工程における被酸化性金属の粒子の同一面積当たりの添加量100部に対して、0.5〜15部、特に1〜10部であることが好ましい。
電解質水溶液の添加(撒布)坪量は、30〜400g/m2、特に50〜300g/m2とすることが好ましい。
【0049】
電解質添加工程で添加する電解質水溶液は、電解質の配合割合が、発熱体の含有する電解質及び水の合計量に対する電解質の割合よりも高い水溶液を用いることが好ましい。更に、電解質添加工程で添加する電解質水溶液として、その電解質水溶液を用いてJIS K 7224を利用して測定された高吸収性ポリマーの飽和吸収量に、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの質量を乗じた量よりも多量の水溶液を添加することが好ましい。JIS K 7224は、高吸水性樹脂の吸水速度試験方法であり、吸水性ポリマーが強制的に液体にさらされるときの液の固定能力を示す方法として知られているボルテックス法による吸水速度の試験方法である。高吸水性樹脂は高吸収性ポリマーと同義である。ここで、JIS K 7224を利用してとは、試料、試験液、試験器具等の調整や手順について準じていることを示す。吸収量の測定など規定のない内容も含めて、高吸収性ポリマーの飽和吸収量を以下のようにして測定する。
【0050】
〔JIS K 7224を利用した高吸収性ポリマーの飽和吸収量の測定方法〕
電解質添加工程において添加する電解質水溶液と同じ濃度の電解質水溶液50gとマグネチックスターラーチップ(中央部直径8mm、両端部直径7mm、長さ30mmで、表面がフッ素樹脂コーティングされているもの)とを、100mLのガラスビーカーに入れ、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン製 HPS−100)に載せる。マグネチックスターラーの回転数を600±60rpmに調整し、電解質水溶液を攪拌させる。次に、基材シートに含まれる高吸収性ポリマー2gを、攪拌中の電解質水溶液の渦の中心部で液中に投入する。ここまではJIS K 7224(1996)に準じた操作である。高吸収性ポリマー投入10分後の高吸収性ポリマーの吸収量を測定し、測定された高吸収性ポリマーの吸収量から、高吸収性ポリマー1重量部当たりの吸収量を求める。袋状の100×100mmの大きさのポリエステルメッシュ(メッシュサイズ255/25.4mm)を予め重量を測定し、そのポリエステルメッシュ袋の中に、前述の電解質水溶液に投入10分後の電解水溶液を吸収した高吸収性ポリマーを入れ、遠心脱水機で2,000rpm、10分脱水し、ポリエステルメッシュと高吸収性ポリマーの重量を一緒に測定する。測定した値から、吸収前の高吸収性ポリマーの重量2g、ポリエステルメッシュの重量を引くことにより、高分子ポリマーの吸収量を算出する。この求められた値を、電解質添加工程において添加する電解質水溶液の濃度における高吸収性ポリマーの飽和吸収量とする。測定はn=5測定し、上下各1点の値を削除し、残る3点の平均値を測定値とする。尚、これらの測定は23±2℃、湿度50±5%で行い、測定の前に試料を同環境で24時間以上保存した上で測定する。
【0051】
(2)塗工工程
発熱体の製造工程の一工程である塗工工程においては、(1)電解質添加工程後の基材シートにおける電解質水溶液の添加面に、電解質を含まず被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工する。例えば、塗料を電解質水溶液が連続的に添加された添加面上に連続的に塗工する。ここで、「電解質を含まず」とは、被酸化性金属の粒子に形成された酸化物を溶解させる目的で添加される電解質を意味し、全ての電解質を一切含まないという意味ではない。後述する電解質添加工程で添加する電解質を実質的に含まないということであり、水道水を用いた場合に水分中に含まれる塩素成分などは、ここでいう電解質ではない。
【0052】
塗料は、通常、被酸化性金属の粒子に加えて、反応促進剤及び水を含んでいる。また、塗料中での固形分の分散性を高める観点から、増粘剤や界面活性剤を配合してもよい。これらの成分を含む塗料を、例えば、連続長尺物からなる基材シートの一方の面上に連続的に塗工する。また、塗料の塗工方法としては、各種公知の塗工方法を特に制限無く用いることができる。例えばロール塗布、ダイコーティング、スクリーン印刷、ロールグラビア、ナイフコーティング、カーテンコーター等などが用いられる。塗布の簡易性、塗布量の制御のし易さ、塗料の均一塗工を実現できる点からダイコーティングが好ましい。
【0053】
発熱層の形成に用いられる塗料においては、被酸化性金属の粒子を100部とすると、反応促進剤は、1〜20部、特に2〜14部含まれていることが好ましい。水は、25〜85部、特に35〜75部含まれていることが好ましい。増粘剤は、0.05〜10部、特に0.1〜5部含まれていることが好ましい。界面活性剤は、0.1〜15部、特に0.2〜10部含まれていることが好ましい。また、水は塗料の全体の質量を100%とすると、18〜48質量%、特に23〜43質量%含まれていることが好ましい。
塗料の塗工坪量は150〜4,600g/m2、特に300〜2,200g/m2とすることが好ましい。
塗料の粘度は23℃・50RHにおいて500〜30,000mPa・sで、特に1,000〜15,000mPa・sが好ましい。粘度の測定には、B型粘度計の4号ローターを用いた。
【0054】
(1)電解質添加工程及び(2)塗工工程を備える本発明の発熱体の製造方法によれば、被酸化性金属の粒子、電解質及び水を含む発熱組成物の層(発熱層)が、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料を含む繊維シートからなる基材シートに設けられてなる発熱体を連続的に製造することができる。
塗料中には実質的に電解質が含まれていないので、電解質添加工程前には被酸化性金属粉末の酸化は進行しない。従って、塗工工程において、被酸化性金属粉末を空気と遮断するための特別の手当は必要ない。また、塗料の保管中の酸化反応の進行を抑えることができ、発熱ロスを低減できる。
また、塗料に電解質が含まれていないことによって、塗工前や塗工中の塗料の成分は良好な分散性を維持する。例えば、塗工前に塗料を静置しても、該塗料に被酸化性金属の粒子が凝集して凝集物が沈降したり離水するのが生じにくい。
本発明の発熱体の製造方法によれば、上述のように、塗料中に電解質が積極的に含まれていないので、タンク等の製造機器内で塗料を作成している間や、作成された塗料を塗工している間に、混練機のパドルやタンク等の壁面において酸化反応を起こし難く、その為、製造機器に耐食性の高い高価な材料を極力使用せずに済む。
【0055】
また、本発明の発熱体の製造方法によれば、先に添加される電解質水溶液が基材シートに存在し、次いで被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工することにより、被酸化性金属の粒子に電解質水溶液をムラなく接触させることができ、発熱のロスの少ない発熱体を製造することができる。
【0056】
特に、電解質添加工程において、製造される発熱体の含有する電解質及び水の合計量に対する電解質の割合よりも高い濃度の電解質水溶液を、高吸収性ポリマーの粒子を含む基材シートに添加する場合には、高吸収性ポリマーが電解質水溶液を吸収し難くなり、基材シートの全体にわたって均一に存在し易くなる。特に、JIS K 7224を利用して測定された高吸収性ポリマーの飽和吸収量に、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの質量を乗じた量よりも多量の電解質水溶液を、高吸収性ポリマーの粒子を含む基材シートに添加することにより、高吸収性ポリマーに吸収されない電解質水溶液が、基材シートの全体にわたって更に均一に存在し易くなる。次いで塗料を塗工することにより、基材シートの全体にわたって、被酸化性金属の粒子を電解質水溶液にムラなく均一に接触させることができ、更に発熱のロスの少ない発熱体を製造することができる。尚、このように高い濃度の電解質水溶液を先に添加したとしても、その後、水を含む塗料が添加され、電解質水溶液と塗料とが混合されることにより、電解質水溶液の濃度が下がる。従って、高吸収性ポリマーの吸収性能が増加され、最終的に得られる発熱体は、被酸化性金属の粒子の発熱に適した水分濃度となる。
【0057】
上述のように電解質水溶液を基材シートの全体にわたって均一に分散させ、使用時に所定の発熱温度を得る観点から、電解質添加工程で添加する電解質水溶液は、発熱体の含有する電解質及び水の合計量に対する電解質に対して、10〜80%、特に20〜50%であることが特に好ましい。また、電解質添加工程で添加する電解質水溶液は、高吸収性ポリマーの飽和吸収量に、基材シートに含まれる高吸収性ポリマーの質量を乗じた量の1〜10倍の量の電解質水溶液を添加することが好ましく、1.5〜6倍の量の電解質水溶液を添加することが更に好ましい。
【0058】
また、本発明の発熱体の製造方法は、高吸収性ポリマーの粒子を含む基材シートを用いて発熱体を製造するため、高吸収性ポリマーの粒子を含まない基材シートを用いて発熱体を製造する方法に比べ、脱水工程や加熱乾燥工程を有する必要がなく、製造工程をコンパクトに抑えることができ、製造工程における発熱物質の酸化を極力抑えることができる。
【0059】
本発明の発熱体の製造方法は、電解質水溶液の添加面への塗料の塗工後に、基材シートの他面側(添加面と反対側の面であり、以下、非添加面ともいう)から吸引を行うことにより、被酸化性金属の粒子を基材シートの繊維材料間に中に取り込ませることで、塗料層又は発熱層と基材シートの一体性が増し、基材シートからの発熱層の脱落(使用前、使用中、使用後)が効果的に防止される。
このように吸引する場合の吸引力は、100〜10,000Pa、特に500〜5,000Paとすることが好ましい。吸引力は、サクションコンベア内のボックスにマノスターケージを取り付けて測定できる。
【0060】
(3)被覆工程
以上の操作によって連続長尺物からなる発熱体が製造されたら、発熱体の製造工程に続く発熱体被覆封止工程において該発熱体を包材で被覆する。この操作に先立ち、連続長尺物からなる発熱体を、その幅方向にわたって裁断して毎葉の発熱体を製造することが好ましい。次いで毎葉の発熱体を所定の間隔をおいて一方向に走行させつつ、発熱層が形成された側に、連続長尺物からなる第1の被覆シートを配置するとともに、他方の側に、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シートを配置する。次いで第1の被覆シート及び第2の被覆シートにおける発熱体からの延出域を所定の接合手段によって接合する。接合は、発熱体における左右の側縁の外方及び前後の端縁の外方において行なわれる。接合手段としては、熱融着、超音波接合、接着剤による接着等が挙げられる。
【0061】
発熱層上への第1の被覆シートの配置に際しては、高吸収性ポリマーの吸収により該発熱層の含水率が低下して流動性が低下しているので、該発熱層上に第1の被覆シートを配置しても、発熱層が第1の被覆シートに貼り付くという不都合が回避される。その結果、第1の被覆シートの通気性が首尾良く維持される。
【0062】
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を、隣り合う発熱体間において幅方向にわたって裁断することで、目的とする発熱具が得られる。この発熱具は、次工程において、酸素バリア性を有する包装袋内に密封収容される。
【0063】
なお、上述の方法においては、製造過程での被酸化性金属の酸化を抑制するために、必要に応じて製造ラインを非酸化性雰囲気に保つ手段を用いても良い。
【0064】
このようにして製造された本発明の発熱具は、人体に直接適用されるか、又は衣類に適用されて、人体の加温に好適に用いられる。人体における適用部位としては例えば肩、首、目、腰、肘、膝、太腿、下腿、腹、下腹部、手、足裏などが挙げられる。また、人体のほかに、各種の物品に適用されてその加温や保温等にも好適に用いられる。
また、本発明により製造される発熱体は、本発明の発熱具の発熱部に用いられる他、他の構成の発熱具や、他の用途に用いることもできる。人体の加温に用いる場合には、水蒸気が発生する第1の被覆シートを肌側(人体側)に向けて適用する。
【0065】
図2には、本発明の発熱具の製造に好ましく用いられる製造装置の一例が示されている。この装置は、電解質添加部30、塗料塗工部20、第1裁断部40、リピッチ部50、被覆部60、封止部70及び第2裁断部80を備えている。
【0066】
電解質添加部30は、電解質水溶液を噴霧するスプレーノズル31を備えている。また、スプレーノズル31の開口部に対向し、かつ矢印方向に周回するワイヤメッシュの無端ベルト22も備えている。基材シートの原反ロール1Aから繰り出された連続長尺物からなる基材シート1は、無端ベルト22によって電解質添加部30から塗料塗工部20に搬送され、その一方の面に、スプレーノズル31のノズル孔から電解質水溶液3が噴霧される。電解質水溶液3の噴霧によって、基材シート1の全体(面方向の全域及び厚み方向の全域)にわたって電解質水溶液が均一に分散する。スプレーノズル31は電解質水溶液を滴下するノズルでもよい。
【0067】
塗料塗工部20は、ダイコータ21を備えている。また、ダイコータ21の直後に、無端ベルト22を挟んでサクションボックス23を備えている。電解質水溶液添加後の基材シートは、無端ベルト22によって、電解質添加部30から塗料塗工部20に搬送され、その基材シートの電解質水溶液の添加面に向かって、ダイコータ21によって、前述した処方の被酸化性金属の粒子2aを含む塗料2が塗工され、発熱層が形成される。塗料塗工部20における基材シート1の搬送に際しては、サクションボックス23を作動させ、搬送を安定化させると共に、塗工された塗料2を吸引してもよい。塗工された塗料は、基材シートが含む電解質水溶液と混合され、基材シートが水分を吸収することによってその濃度が調整され、発熱層中に発熱に好適な電解質の濃度を確保することができる。電解質水溶液の添加後に塗料を塗工することによって、発熱組成物と電解質とがムラなく接触し易く、発熱のロスの少ない発熱体を製造することができる。
【0068】
このようにして連続長尺物からなる発熱体10が形成されたら、該発熱体10を第1裁断部40において、幅方向にわたって裁断する。第1裁断部40は、周面にカッター刃41を有するロータリーダイカッター42とアンビルロール43とを備えている。連続長尺物の発熱体10が両部材間を通過することで裁断が行なわれ、それによって毎葉の発熱体10が得られる。
【0069】
連続長尺物からなる発熱体10の裁断は、発熱体10の幅方向に延びるように行なわれればよく、例えば発熱体10の幅方向にわたって直線的に行なうことができる。あるいは、裁断線が曲線を描くように裁断を行なうことができる。いずれの場合であっても、裁断によってトリムが発生しないような裁断パターンを採用することが好ましい。
【0070】
毎葉となった発熱体10はリピッチ部50の備える無端ベルト51により搬送方向の前後におけるピッチが変更され、前後隣り合う発熱体10間が所定の距離を置いて再配置される。このようなリピッチの機構としては従来公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0071】
リピッチされた発熱体10は、被覆部60に搬送され、連続長尺物からなる第1の被覆シート4と、同じく連続長尺物からなる第2の被覆シート5によってその全体が被覆される。第1の被覆シート4は、発熱体10における発熱層の形成されている側を被覆し、第2の被覆シート5は、発熱体10における発熱層が形成されていない側を被覆する。この被覆状態を保ちつつ、発熱体10は被覆部60の備える無端ベルト61により封止部70に導入される。封止部70は、周面にシール凸部71を有する第1のロール72と、同じく周面にシール凸部73を有する第2のロール74とを備えている。両ロール72,74は、その軸方向が平行になるように、かつ各ロール72,74のシールバー71,73が互いに当接するか、又は両者間に所定のクリアランスが生じるような位置関係で配置されている。封止部70においては、発熱体10の前後左右から延出している第1及び第2の被覆シート4,5の延出部が、ヒートシールによって接合される。この接合は、発熱体10を取り囲む連続した気密の接合であるか、又は発熱体10を取り囲む不連続の接合である。
【0072】
このようにして、複数の発熱具が一方向に連結された状態の連続長尺物が得られる。この連続長尺物を第2裁断部80において、その幅方向にわたって裁断する。第2裁断部80は、周面にカッター刃81を有するロータリーダイカッター82とアンビルロール83とを備えている。連続長尺物が両部材間を通過することで裁断が行なわれ、それによって目的とする発熱具100が得られる。裁断においては、先に述べた第1裁断部40における発熱体10の裁断線が例えば直線状である場合には、本裁断部80における裁断線も直線とすることが好ましい。また、第1裁断部40における発熱体10の裁断線が曲線である場合には、本裁断部80における裁断線もそれに倣った曲線とすることが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0074】
〔実施例1〕
(1)電解質水溶液及び塗料の調製
電解質水溶液として、濃度5%の塩化ナトリウム水溶液を調製した。
また、塗料を調製した。塗料には、被酸化性金属(鉄粉 平均粒径45μm)100質量部、反応促進剤(活性炭 平均粒径42μm)8質量部、増粘剤(グアガム)0.2質量部、界面活性剤(ポリカルボン酸型高分子界面活性剤)0.2質量部、水60質量部が配合されている。得られた塗料の粘度は6,500mPa・sであった。粘度の測定は、B型粘度計の4号ローターを使用し、23度50%の環境で行なった。
【0075】
(2)基材シートの準備
基材シートとして図1に示すものを用いた。この基材シート1は、特開平8−246395号公報に記載の方法に従い製造した。この基材シート1は、ポリアクリル酸ナトリウム系の高吸収性ポリマーの粒子12が、基材シート1の厚み方向略中央域に主として存在しており、かつ基材シート1の表面には該粒子12が実質的に存在していない構造を有する1枚(ワンプライ)のものである。基材シート1は、高吸収性ポリマーの粒子12の存在部位を挟んで表裏に親水性の架橋嵩高セルロース繊維11aの層11,13を有している。架橋嵩高セルロース繊維11aは、その繊維粗度が0.22mg/mであり、繊維長さの平均値は2.5mmであった。架橋嵩高セルロース繊維11aの層11,13は、更に針葉樹晒クラフトパルプ、紙力増強剤(PVA)を含んでいる。また、高吸収性ポリマーは平均粒径340μmのものを使用した。層11の坪量は30g/m2であり、層13の坪量は20g/m2であった。したがって、基材シート1の坪量は80g/m2であった。基材シート1に含まれる高吸収性ポリマー12の坪量は30g/m2であった。
【0076】
(3)発熱体及び発熱具の製造
前記の電解質水溶液を、連続長尺物からなる前記基材シートの一方の面に向かって、滴下ノズルから滴下した。電解質水溶液の散布坪量は80g/m2とした。
次いで、連続長尺物からなる前記基材シートの電解質水溶液が滴下された面に向かって、前記塗料を連続塗工した。塗料の塗工坪量は1,150g/m2とした。塗工後には、基材シートの他方の面側から吸引を行った。但し、塗料中の水が、基材シートの非塗工面側から抜けるようなことはなかった。
次いで、塗料が塗工された連続長尺物からなる基材シートを幅方向に亘って裁断して発熱体10を得た。
切断された基材シートは、50mm×50mmの矩形のものであった。
【0077】
電解質添加部30において基材シート1の一方の面に噴霧される電解質水溶液は、電解質水溶液3を用いてJIS K 7224を利用して測定された高吸収性ポリマーの飽和吸収量が、高吸収性ポリマー1重量部当たり、6.9g/10分であった。電解質水溶液3の散布(添加)坪量は、前記高吸収性ポリマーの飽和吸収量に基材シート1に含まれる高吸収性ポリマーの質量を乗じた量よりも多く、80g/m2とした。
【0078】
塗料塗工部20において基材シートの電解質水溶液の添加面に向かって塗工される塗料2の散布(塗工)坪量は650g/m2とした。塗料塗工部20における基材シート1の搬送に際しては、サクションボックス23を作動させ、搬送を安定化させると共に、塗工された塗料2を吸引した。
【0079】
得られた発熱体10は、上記のように裁断されて毎葉となっており、1枚の発熱体10について、第1の被覆シート4と第2の被覆シート5によってその全体を被覆した。このとき、第1の被覆シート4によって、発熱体10における発熱層の形成されている側を被覆し、第2の被覆シート5によって、発熱体10における発熱層が形成されていない側を被覆した。次いで、発熱体10の前後左右から延出している第1及び第2の被覆シート4,5の延出部を、ヒートシールによって接合した。この接合は、発熱体10を取り囲む連続した気密の接合とした。シール幅は5mmとした。
【0080】
第1の被覆シート4としては、坪量が50g/m2、通気度が2,500s/(100ml・6.42cm2)であるポリエチレンの多孔性シートを用いた。第2の被覆シート5としては、坪量が30g/m2、ポリエチレンフィルムからなる非通気シートを用いた。また、各被覆シート4,5は、65mm×65mmの矩形のものであった。
【0081】
前述の方法より各含水率を測定した結果、電解質水溶液添加後のシート1の含水率は65%であり、塗料塗工後における第1の被覆シート4による被覆前の発熱体10の含水率は40%であり、及び該発熱体10の発熱層の含水率は32%であった。電解質水溶液添加後のシート1の含水率は、上述した段落〔0034〕に記載の発熱体の含水率の測定方法と同様にして測定する。
【0082】
JIS S4100 使い捨てカイロ温度特性測定用温熱装置に準拠した試験法で温度測定を行った。得られた発熱具100を、坪量100g/m2のニードルパンチ不織布製の袋に挿入し、これを40℃の恒温槽の上に置き温度特性を評価した。この袋は、ニードルパンチ不織布の三方をシールすることで袋状に形成したものである。温度計は発熱具100と恒温槽表面との間に配置する。発熱具100は、発熱層が形成された側が上方(温度計とは逆の方向)を向くように載置した。その結果、測定開始から8分後に最高温度58℃となった。
【符号の説明】
【0083】
1 基材シート
10 発熱体
11 親水性繊維の層
12 高吸収性ポリマーの粒子
13 親水性繊維の層
100 発熱具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被酸化性金属の粒子、電解質及び水を含む発熱組成物の層が、高吸収性ポリマーの粒子及び繊維材料を含む繊維シートからなる基材シートに設けられてなる発熱体の製造方法であって、
前記基材シートの一面に前記電解質を含む電解質水溶液を添加する電解質添加工程、及び該基材シートにおける前記電解質水溶液の添加面に、前記電解質を含まず前記被酸化性金属の粒子を含む塗料を塗工する塗工工程を備えている発熱体の製造方法。
【請求項2】
前記電解質添加工程で添加する前記電解質水溶液として、電解質の配合割合が前記発熱体の含有する電解質及び水の合計量に対する電解質の割合よりも高い水溶液を用いる請求項1に記載の発熱体の製造方法。
【請求項3】
前記電解質添加工程で添加する前記電解質水溶液は、該電解質水溶液を用いてJIS K 7224を利用して測定された前記高吸収性ポリマーの飽和吸収量に、前記基材シートに含まれる前記高吸収性ポリマーの質量を乗じた量よりも多量の水溶液を添加する請求項2に記載の発熱体の製造方法。
【請求項4】
前記電解質水溶液の添加面への前記塗料の塗工後に、前記基材シートの他面側から吸引を行う請求項1〜3の何れかに記載の発熱体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の発熱体の製造方法により発熱体を製造する発熱体製造工程、及びその発熱体の全体を包材で被覆する被覆工程を備え、前記発熱体が前記包材で包囲された発熱具を製造する発熱具の製造方法であって、
前記発熱体を、前記包材で被覆する前に、前記発熱組成物の層が流動性を有しないものとする、発熱具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−345(P2012−345A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140015(P2010−140015)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】