説明

発熱具

【課題】身体の可動域に取り付けても位置ずれや剥がれが起こりにくい発熱具を提供すること。
【解決手段】発熱具1は、空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料2を、通気性を有するシートを含む収容体3の収容部に収容してなる。収容部3から外方へ延出した該シートの延出部分に、収容体3を使用者の肌に固定するための固定部7Aを設ける。固定部7Aに複数のスリット8からなる伸長可能な部位を形成する。収容体3が、使用者の肌から遠い側に位置する第1の層10aと、肌に近い側に位置する第2の層10bとを有し、少なくとも第2の層10bが通気性を有すると共に第2の層10bの表面に固定部7Aを少なくとも2カ所設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の肌に固定されて使用されるタイプの発熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者の肌や下着に貼るタイプの使い捨てカイロにおいては、一般にカイロの表面にゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ホットメルト粘着剤等を用いて粘着剤層を形成し、該粘着剤層を介してカイロを使用者の肌や下着に取り付けている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、身体の可動域、例えば膝や肘にカイロを取り付ける場合、使用者の身体の動きに起因して粘着剤層が肌から剥がれやすくなり、カイロを適正な位置に保持固定しておくことが困難になる場合がある。そのような場合、貼り直しをしてカイロを適正な位置に固定すればよいが、粘着剤の種類によっては粘着力が既に低下しており、貼り直しが行えないことがある。粘着剤の粘着力を高めることで、貼り直しが行えるようにすることも可能であるが、その場合には、使用後のカイロを肌から剥がすときに皮膚に物理的刺激が加わる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開平9−140741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る発熱具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料を、通気性を有するシートを含む収容体の収容部に収容してなり、
該収容部から外方へ延出した該シートの延出部分に、該収容体を使用者の肌に固定するための固定部を設け、
該固定部に複数のスリットからなる伸長可能な部位を形成した発熱具を提供することにより前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の発熱具によれば、使用者の動作に起因して発熱具に伸びや捻れの力が加わっても、固定部に形成された複数のスリットからなる伸長部位がその力を吸収するので、発熱具の位置ずれや剥がれが起こりにくい。従って本発明の発熱具は、特にこれを膝や肘などの可動域に取り付けたときにその効果が顕著なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本実施形態の発熱具は、所定温度に加熱された水蒸気の発生が可能なように構成されたものである。図1にはそのように構成された発熱具の平面図が示されている。図2は図1におけるII−II線断面図である。図1及び図2に示す発熱具1は使用者の肌に固定されて使用されるものである。
【0009】
発熱具1は長手方向X及びそれに直交する幅方向Yを有する縦長の扁平な形状をしている。発熱具1は、発熱材料2及び該発熱材料2を収容する収容体3を備えている。収容体3は扁平であり、複数のシート材をそれらの周縁部において、熱融着により環状に貼り合わせて、閉じた空間を有する袋状となされている。この閉じた空間が発熱材料2の収容部5になっている。
【0010】
図2に示すように、収容体3においては、第1の透湿性シート3aと第2の透湿性シート3bとが接合部4において互いに接合されている。発熱具1の装着感を高める観点から、図2に示すように、第2の透湿性シート3bの外面には風合いの良好なシート材料である不織布3cが配されている。同様の観点から、第1の透湿シート3aの外面には不織布3dが配されている。これらの各シートはほぼ同寸である。第1の透湿シート3aと不織布3d、第2の透湿性シート3bと不織布3cは、それらの周縁でのみ接合されていても良いし、シート面内で部分的に接合されていても良い。第1の透湿性シート3a及び不織布3dは、発熱具1の使用時に、使用者の肌から遠い側に位置する第1の通気層10aとして作用するものである。一方、第2の透湿性シート3b及び不織布3cは、使用者の肌に近い側に位置する第2の通気層10bとして作用するものである。つまり、発熱具1は、両面通気性のものであり、第2の透湿性シート3b及び不織布3cの側が肌と対向するように使用者の身体に固定される。なお、本実施形態においては、第1の通気層10aは第1の透湿性シート3a及び不織布3dからなり、第2の通気層10bは第2の透湿性シート3b及び不織布3cからなるが、第1及び2の通気層10a,10bはそれぞれ透湿性シート3a,3bのみで構成されていてもよい。
【0011】
収容体3は、長手方向に延びる側縁S1及びS2を有している。また幅方向に延びる端縁E1及びE2を有している。一方の側縁S1は、収容体3の長手方向Xに沿う中心線に対して外向きの凸状となるような曲線形状をしている。他方の側縁S2は、該中心線に向かう内向きの凸状となるような曲線形状をしている。端縁E1,E2はそれぞれ外向きの凸状となるような曲線形状をしている。これら側縁S1,S2及び端縁E1,E2は滑らかに連接しており、収容体全体としてみると湾曲した長円形となっている。このような形状を有する収容体を備えた発熱具1は、図3(a)及び(b)に示すように、人体の膝部や肩部に取り付ける場合のフィット性が高いものとなる。発熱具1を膝部に取り付ける場合には、側縁S1が膝窩に近い側に位置し、側縁S2が膝頭に近い側に位置するようにする。発熱具1を肩部に取り付ける場合には、側縁S2が首に近い側に位置し、側縁S1が首から遠い側に位置するようする。
【0012】
図1及び図2に戻ると、第1の透湿性シート3a及び不織布3d、並びに第2の透湿性シート3b及び不織布3cは、収容体3の長手方向Xにおいて、収容部5から外方に延出しており、その延出部分が一対の耳部6を形成している。耳部6は、収容部5寄りに位置する基部6aと、先端寄りに位置し且つ基部6aと連接する先端部6bとから構成されている。
【0013】
また、第1の透湿性シート3a及び不織布3d、並びに第2の透湿性シート3b及び不織布3cは、収容体3の幅方向Yにおいて、収容部5から外方に延出しており、その延出部分が一対のサイド接合部9,9を形成している。
【0014】
前述の耳部6における、使用者の肌に近い側に位置する第2の通気層10bの表面を構成する不織布3cの面上には、発熱具1を使用者の肌に固定するための第1の固定部7Aが設けられている。第1の固定部7Aは、発熱材料2の収容部5よりも外方の位置に設けられている。第1の固定部7Aは、収容体3の長手方向Xの両端部に且つ長手方向Xに沿う中心線上にそれぞれ設けられている。従って第1の固定部7Aは、収容体3に2ケ所設けられている。
【0015】
第1の固定部7Aが耳部6に設けられていることは上述の通りであるところ、耳部6の基部6a、即ち第1の固定部7Aの一部は伸長可能な部位になっている。基部6aは、2つの第1の固定部7A,7Aを結ぶ方向、つまり収容体3の長手方向Xに伸長可能になっている。本実施形態においては、基部6aに多数のスリット8を形成することによって基部6aを伸長可能な部位にしてある。詳細には次の通りである。
【0016】
基部6aにおいて、各スリット8は収容体3の長手方向Xと交差する方向に延びるように形成されている。これによって、発熱具1をその長手方向Xに引っ張ると、スリット8が開口して基部6aが伸長する。その結果、例えば図3(a)及び(b)に示すように発熱具1を使用者の身体に取り付けた場合、使用者の動作に基部6aが追従して伸長し、使用者につっぱり感を与えにくくなる。また第1の固定部7Aが身体から外れにくくなる。特にスリット8からなる伸長可能な部位が第1の固定部7Aに形成されていることで、第1の固定部7Aとは別個に伸長可能な部位を設けた場合に比較して、これらの効果が顕著に奏される。なお図1においては、収容体3の長手方向Xと直交する方向に延びているが、スリット8が長手方向Xと交差していれば直交する必要はない。尤も、基部6aの伸長性を考慮すると、スリット8と長手方向Xとのなす角度は直角に近いほど好ましい。
【0017】
各基部6aにおいて、スリット8は2列に縦列して規則的に形成されている。隣り合う列においてスリット8は互いに半ピッチずれている。基部6aに十分な伸長性を付与する観点から、各スリット8の長さは5〜50mm、特に10〜30mmであることが好ましい。同様の理由により、各列におけるスリット間の距離は2〜10mm、特に3〜7mmであることが好ましく、また列間の距離は2〜10mm、特に3〜7mmであることが好ましい。
【0018】
本実施形態の発熱具1においては、収容体3の長手方向Xの両端部に第1の固定部7Aが設けられていることに加えて、収容体3の長手方向Xに沿う側縁部に、即ちサイド接合部9の位置に、収容体3の長手方向Xに延びる第2の固定部7Bが更に設けられている。第1の固定部7Aと同様に、第2の固定部7Bも第2の通気層10bの表面を構成する不織布3cの面上に形成されている。つまり発熱具1における着用者の肌対向面側に形成されている。第2の固定部7Bを形成することで、発熱具1が着用者の肌から剥離することを一層効果的に防止することができる。
【0019】
第1の固定部7Aと異なり、第2の固定部7Bには伸長可能な部位は形成されていない。しかしこのことは、第2の固定部7Bに伸長可能な部位を形成することを妨げるものではない。第2の固定部7Bに伸長可能な部位を形成する場合には、例えば収容体3の長手方向Xと平行に又は長手方向Xと交差する方向に延びるように複数のスリットを形成すればよい。こうすることで、使用者の動作に一層追従して発熱具1が伸長しやすくなり、使用者につっぱり感を一層与えにくくなる。また発熱具1が身体から一層剥離しづらくなる。
【0020】
第1の固定部7A及び第2の固定部7Bとしては、発熱具1を使用者の身体に固定可能な様々な手段を用いることができる。典型的には、粘着剤を施すことによってこれらの固定部7A,7Bを形成することができる。粘着剤としては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。例えばホットメルト粘着剤、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は非転着性であることが好ましい。
【0021】
第1の固定部7A及び第2の固定部7Bが粘着剤によって形成されている場合、発熱具1の使用前の状態においては、これらの固定部7A,7Bは、表面が剥離処理された剥離シートによって保護されている。該剥離シートは、図1中、収容体3の幅方向に沿う中心線に対して左右対称な形状のものが2枚用いられることが好ましい。つまり、別個の剥離シートを2枚用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態の発熱具1は、その使用によって熱を発生するものであり、その熱によって、上述した粘着剤の物性の変化が生ずることがある。その結果、使用後の発熱具1を取り外すとき、或いは使用中に発熱具1の取り付け位置を変更するときに、粘着剤の一部が使用者の肌に残る場合がある。特に発熱具1を使用者の可動域、例えば膝や肘、肩などに取り付けた場合、使用者の動作に起因して肌と粘着剤の摩擦が生じ、それによって粘着剤の細切れが起こりやすくなる。この粘着剤の細切れによってその肌残りが一層起こりやすくなる。これを防止するために粘着剤として凝集力の高いものを用いればよいことを本発明者らは知見した。
【0023】
凝集力の高い粘着剤としては、ホットメルト粘着剤を用いることが有利である。ホットメルト粘着剤は一般に粘着基剤、粘着付与樹脂及び軟化剤を構成成分として含有している。ホットメルト粘着剤の凝集力を高めるためには、これらの成分のうち、粘着基剤及び粘着付与樹脂の配合量を一般のホットメルト粘着剤よりも高めに設定し、且つ軟化剤の配合量を一般のホットメルト粘着剤よりも低めに設定することが有利である。
【0024】
粘着基剤としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。粘着基剤の配合量は5〜50重量%、特に10〜40重量%に設定することが好ましい。
【0025】
粘着付与樹脂としては、ロジンおよびロジン誘導体、テルペン樹脂、石油樹脂があり、石油樹脂として脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、これらの共重合系や水添石油樹脂系が挙げられる。粘着付与樹脂の配合量は10〜60重量%、特に20〜50重量%に設定することが好ましい。
【0026】
軟化剤成分としては、軟化点が10℃以下で平均分子量が200〜700のプロセスオイル、鉱油、各種可塑剤、ポリブテン、及び液状粘着付与樹脂等が挙げられる。軟化剤成分の配合量は10〜60重量%、特に20〜50重量%に設定することが好ましい。
【0027】
以上の成分の他に、ホットメルト粘着剤には、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の公知の添加剤を適宜配合してもよい。酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、ベンズイミダゾール系酸化防止剤等が用いられる。
【0028】
以上の配合組成からなるホットメルト粘着剤の凝集力を100%モジュラスを尺度として表すと、その値が好ましくは30〜90g/20mm2、更に好ましくは30〜60g/20mm2になる。この範囲の100%モジュラスを有するホットメルト粘着剤を用いることで、上述した粘着剤の肌残りを効果的に防止することが可能となる。また、発熱具1の取り付け及び剥離を複数回行っても粘着力が低下しづらくなる。
【0029】
上述のホットメルト粘着剤の塗布量は、140〜200g/m2、特に150〜180g/m2であることが、十分な粘着力の発現と、粘着剤の肌残りの防止の観点から好ましい。
【0030】
粘着剤の肌残りを防止するための別の手段として、粘着剤の塗布の対象となるシートである不織布3cに対する粘着剤の投錨効果を高めることが挙げられる。この観点から、粘着剤として上述のホットメルト粘着剤を用いる場合には、不織布3cとして、ポリエチレンテレフタレートを始めとするポリエステル繊維を含む不織布、例えばスパンレース不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布等を用いることが有利であることが本発明者らの検討の結果判明した。特にポリエステル繊維を含む不織布としてスパンレース不織布を用いると、上述の投錨効果が非常に高くなるので好ましい。このスパンレース不織布は、その坪量が20〜60g/m2、特に30〜50g/m2であることが、十分な投錨効果の発現の点から好ましい。
【0031】
本実施形態の発熱具1は、収容体3内に収容された発熱シート2に含まれている被酸化性金属の酸化によって発生した熱によって、該発熱シート2に含まれている水分が加熱されて水蒸気となり、収容体3を通じて外部へ放出可能になされている。以下の説明においては、水蒸気を伴う熱を蒸気温熱という。既に説明した通り、本実施形態の発熱具1は、肌に近い側の面及び肌から遠い側の面の両方から空気が流入する両面通気性のものである。このような構成の発熱具1は、発熱温度にゆらぎが生じるものとなる。その結果、蒸気温熱に対して身体が馴化しづらく、長時間にわたり温感を使用者に実感させることができる。この理由は次の通りである。
【0032】
本実施形態の発熱具1を身体に取り付けた状態で使用者が動作をすると、発熱具1と身体との間の隙間が変化する。特に身体の可動域、例えば膝部、肘部、肩部等に発熱具1を取り付けた場合に、隙間の変化が大きくなる。発熱具1は両面通気性のものなので、発熱具1と身体との間の隙間が変化するとその変化に応じて第2の透湿性シート3b側、即ち肌に近い側に位置する面側から発熱具1へ流入する空気の量が変化する。その結果、発熱具1の発熱温度が変化してゆらぎが生じる。この場合、発熱具1が身体に密着してしまうと、肌に近い側に位置する面側からの空気の流入が遮断されて発熱反応が低下ないし停止して発熱温度が低下してしまう懸念がある。しかし本実施形態の発熱具1は、先に述べた通り両面通気性なので、肌から遠い側に位置する面側からの空気の流入が常に確保されているので、発熱温度の低下の懸念はない。
【0033】
特に第1の固定部7Aを上述の位置に設けることで、発熱具1を使用者の身体に固定した場合、使用者の動作に起因して生じる発熱具1と身体との間の隙間が変化しやすくなる。その結果、発熱具1に流入する空気の量が変化しやすくなり、発熱具1の発熱温度にゆらぎが生じやすくなる。
【0034】
特筆すべきは、本実施形態の発熱具1は、発熱温度にゆらぎを生じさせた上で、その平均発熱温度が、片面通気性である従来の発熱具の平均発熱温度と同程度になることである。これによって、必要十分な発熱温度を確保した上で、蒸気温熱による温感を持続させることができる。この目的のために、本実施形態の発熱具1においては、第1の通気層10aの透湿度をA(g/(m2・24hr))、第2の通気層10bの透湿度をB(g/(m2・24hr))としたとき、A及びBが以下の(1)〜(3)の式を満たすように各透湿性シート3a,3bが選択されることが好ましい。なお以下の説明において、シートの通気性を表す尺度として透湿度を用い、また透湿度というときには、JIS Z0208に従い測定されたものを意味する。
【0035】
(1)A+(1/3)B=200〜500g/(m2・24hr)
(2)A+B=200〜700g/(m2・24hr)
(3)B=100〜450g/(m2・24hr)
【0036】
式(1)は、発熱具1の平均温度に関するものである。発熱具1は両面通気性なので、発熱具1全体の通気性は、第1の通気層10aの透湿度と、第2の通気層10bの透湿度の和となる。しかし、肌に近い側に位置する第2の透湿性シート3bは、その一部が使用者の身体に接していて、そのすべての部分から空気が流入しづらい。そこで本実施形態においては、第2の通気層10bを通じて空気が流入する面積、即ち、空気の流入に寄与する面積は、発熱具1の使用時間にわたり平均して第2の通気層10bの全体の面積の1/3であると考え、第2の通気層10bの透湿度Bに係数1/3を乗じてある。式(1)の下限値を200g/(m2・24hr)以上とすることで、使用者に温感を実感させるに足る発熱温度を得ることができる。また式(1)の上限値を500g/(m2・24hr)以下とすることで、発熱具1への空気の流入が甚だしくなることが防止され、発熱温度の過度の上昇が防止される。皮膚平均温度を39〜42℃、発熱具の平均温度を40〜45℃に制御するには、式(1)の値は200〜500g/(m2・24hr)、特に200〜350g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0037】
式(2)は、発熱具1の最高温度に関するものである。式(1)に関して説明した通り、肌に近い側に位置する第2の通気層10bにおける空気流入についての平均寄与面積は1/3であるが、発熱具1の使用時間中に第1及び第2の通気層10a,10bの両面全体から空気が流入する場合がある。そのような場合には、発熱具1の平均温度を前記の式(1)でコントロールしても、突発的に温度が上昇してしまうことがある。突発的な温度上昇を防止する観点から、式(2)においては、発熱具1全体の透湿度、即ち第1の通気層10aの透湿度と、第2の通気層10bの透湿度の和によって、発熱具1の最高温度をコントロールしている。式(2)の上限値を700g/(m2・24hr)以下とすることで、突発的な温度上昇を防止することができる。また式(2)の下限値を200g/(m2・24hr)以上とすることで、使用者に温感を実感させるに足る発熱温度を得ることができる。突発的な発熱具の温度を50℃以下にするためには、式(2)の値は200〜700g/(m2・24hr)、特に200〜500g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0038】
式(3)は、先に説明した式(1)及び(2)と異なり、肌に近い側に位置する第2の通気層10bの透湿度のみ規定している。この理由は、式(3)が発熱具1の温度のゆらぎに関するものだからである。本実施形態の発熱具1においては、先に説明した通り、肌から遠い側に位置する第1の通気層10aによって空気の十分な流入を確保しつつ、肌に近い側に位置する第2の通気層10bを通じて流入する空気の量の変化を利用して発熱温度にゆらぎを生じさせている。従って、第2の通気層10bの透湿度を適切にコントロールすることで、発熱温度のゆらぎの幅を調整できる。式(3)の下限値を100g/(m2・24hr)以上とすることで、発熱温度のゆらぎの幅が過度に小さくならないので、使用者に蒸気温熱による温感の持続を実感させることができる。式(3)の上限値を450g/(m2・24hr)以下とすることで、ゆらぎの幅が過度に大きくなることが防止されるので、突発的な温度上昇を防止することができる。式(3)の値は100〜450g/(m2・24hr)、特に250〜400g/(m2・24hr)であることが好ましい。
【0039】
第1の通気層10aの透湿度そのものの値については特に制限はないが、前記の式(1)〜(3)との関係で100〜400g/(m2・24hr)、特に150〜300g/(m2・24hr)であることが好ましい。また、第1の透湿性シート3aと第2の透湿性シート3bとの透湿度に大小関係はなく、どちらが大きくてもよい。或いは両者の透湿度が同じであってもよい。
【0040】
なお、本実施形態においては、肌に近い側の面及び肌から遠い側の面の何れも、その面の全域が通気性を有しているが、発熱温度の制御等の理由により、当該面の一部に通気性を有していない領域を形成することがある。例えば、発熱具の一面が、透湿度x(g/(m2・24hr))の通気層から構成されていて、且つ該透湿性シートの面積のうちのy(%)を難透湿性シートで目張りして、通気性を有していない領域を形成する場合がある。その場合、当該面の透湿度はx×(100−y)となる。
【0041】
また本実施形態においては、第1の通気層10aは、第1の透湿性シート3a及び不織布3dからなり、不織布3dは第1の透湿性シート3aに比較して透湿度が十分に大きいから、第1の通気層10aの透湿度は、第1の透湿性シート3aの透湿度と実質的に同じになる。同様に、第2の通気層10bの透湿度は、第2の透湿性シート3bの透湿度と実質的に同じになる。
【0042】
透湿性シート3a,3bとしては、水蒸気及び空気は透過させるが水は透過させにくいフィルムが用いられる。透湿性シートとしては、炭酸カルシウムを練り込み延伸して作る微細孔型、繊維を漉くことによる抄紙型等が挙げられる。緻密性、内容物の漏れ防止性、温度制御等の理由により、微細孔型が主に用いられる。微細孔型の透湿性シートとしては、例えば微細孔を有するポリオレフィン系フィルムなどが挙げられる。
【0043】
発熱具1と使用者の身体との間の隙間を確実に形成するためには、発熱具1はある程度の剛性を有していることが好ましい。ある程度の剛性を有していれば、発熱具1が身体に完全に密着することが防止され、肌に近い側に位置する第2の透湿性シート3bを通じての空気の流入を確保できるからである。曲げ剛性を実現するためには、収容体3に収容される発熱材料として、後述する発熱シートを用いればよい。
【0044】
収容体3に収容される発熱材料としては、発熱シートを用いることができる。或いは発熱粉体を用いることもできる。発熱シートは、被酸化性金属を含み、更に反応促進剤、繊維状物、電解質及び水を含んでいる。発熱粉体は、被酸化性金属を含み、更に反応促進剤、保水剤、電解質及び水を含んでいる。
【0045】
好ましい発熱シートは、60〜90重量%の被酸化性金属、5〜25重量%の反応促進剤及び5〜35重量%の繊維状物を含む成形シートに、該成形シート100重量部に対して、1〜15重量%の電解質を含む電解質水溶液が30〜80重量部含有されて構成されている。このような発熱シートの好ましい製造方法としては、例えば本出願人の先の出願に係る特開2003−102761号公報に記載の湿式抄造法が挙げられる。一方、好ましい発熱粉体は、30〜80重量%の被酸化性金属、1〜25重量%の反応促進剤、3〜25重量%の保水剤、0.3〜12重量%の電解質、20〜60重量%の水から構成されている。発熱シートや発熱粉体を構成する各種材料としては、当該技術分野において通常用いられているものと同様のものを用いることができる。また、前記の特開2003−102761号公報に記載の材料を用いることもできる。
【0046】
発熱材料は、収容部5の環状の接合部4で閉じられた面積に対し、0.05〜0.4g/cm2の充填割合で充填されていることが好ましい。発熱材料の充填割合がこの範囲内であれば、発熱材料の厚みが過度に薄くならず、放熱を抑制でき所望の温度を得ることができる。また、この範囲内であれば、蓄熱量が過度に大きくならず、ゆらぎにより上昇した温度を人体に速やか拡散することができ、火傷等が起こることを防止し得る。所望の温度を維持し、ゆらぎにより上昇した温度を速やかに人体に拡散するためには、充填割合は、特に0.07〜0.3g/cm2、特に0.1〜0.2g/cm2であることが好ましい。
【0047】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図3(a)及び(b)においては発熱具1を、使用者の膝部及び肩部に適用した例を示したが、本発明の発熱具の適用部位はこれに限られない。例えば、腰部、頸部、肘部、腹部などに本発明の発熱具を適用できる。
【0048】
また前記実施形態においては、収容部5は単一の空間であったが、これに代えて図4に示すように、複数個に区画された小収容部内に個別に発熱材料2a〜2dを収容してもよい。このような小収容部を形成することは、該収容部に発熱粉体を収容する場合に有利である。粉体の甚だしい偏りを抑制できるからである。
【0049】
また前記実施形態の発熱具1は、その収容体3の両面が通気性の素材から構成されていたが、これに代えて、使用者の肌に近い側の面のみを通気性となしてもよく、或いは逆に使用者の肌から遠い側の面のみを通気性となしてもよい。
【0050】
更に前記実施形態の発熱具1は、発熱シート2からなる発熱材料から発生し水蒸気を使用者の肌に適用するものであったが、これに代えて発熱具を、水蒸気は実質的に発生せず、熱のみが発生するタイプの形態となしてもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0052】
〔実施例1〕
<スラリーの配合>
・繊維状物:パルプ繊維(NBKP、製造者:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名「Mackenzie」、CSF140ml)8重量%
・被酸化性金属:鉄粉(同和鉄粉鉱業(株)製、商品名「RKH」)84重量%
・反応促進剤:活性炭(日本エンバイロケミカル(株)製、商品名「カルボラフィン」)8重量%
前記原料組成物固形分(繊維状物、被酸化性金属及び保水剤の合計)100重量部に対し、カチオン系凝集剤であるポリアミドエピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名「WS4020」)0.7重量部およびアニオン系凝集剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、商品名「HE1500F」)0.18重量部を添加した。更に、水(工業用水)を、固形分濃度が12重量%となるまで添加した。
【0053】
<抄紙条件>
前記原料組成物を用い、抄紙ヘッドの直前で0.3重量%に水希釈し、傾斜型短網抄紙機によって、ライン速度15m/分にて抄紙して湿潤状態の成形シートを作製した。
【0054】
<脱水・乾燥条件>
成形シートをフェルトで挟持して加圧脱水し、そのまま140℃の加熱ロール間に通し、含水率が5重量%以下になるまで乾燥した。乾燥後の坪量は450g/m2、厚さは0.45mmであった。このようにして得られた成形シート(発熱中間成形体)の組成を熱重量測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)を用いて測定した結果、鉄84重量%、活性炭8重量%、パルプ8重量%であった。
【0055】
<電解質水溶液添加条件>
得られた成形シートを3枚重ね合わせてから、下記電解質水溶液を所定量含浸させて発熱シートを作製した。発熱シートの水分含量及び発熱シートにおける各成分の配合割合を表1に示す。
【0056】
<電解液>
電解質:精製塩(NaCl)
水:工業用水
電解液濃度:5重量%
【0057】
【表1】

【0058】
<収容体への収容>
図1及び図2に示す発熱具を製造した。透湿性シート3a,3bとして、ポリエチレン製の多孔質透湿性フィルムを用いた。透湿度は表2に示す通りであった。第1の透湿性シート3aの外面には、坪量40g/m2のポリエチレンテレフタレート系不織布3dをラミネートした。また第2の透湿性シート3bの外面には、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度0.9dtex)からなるスパレンレース不織布3c(坪量38g/m2)を配した。この収容体の中に発熱シート5.5cm×10cm(10.7g)を収容した。
【0059】
収容体3におけるスパレンレース不織布3cの表面には、ホットメルト粘着剤を150g/m2塗布して第1及び第2の固定部7A,7Bを構成した。ホットメルト粘着剤は、SIS共重合体Aが30重量%、水添石油樹脂が30重量%、流動パラフィンが36重量%、酸化チタンが4重量%含まれるものであった。ホットメルト粘着剤の100%モジュラスは45g/20mm2であった。
【0060】
第1の固定部7Aにはスリットからなる伸長可能な部位を形成した。スリットは2列形成した。隣りの列のスリットとの間隔は3mmとした。1本のスリットの長さは14mmとした。各列におけるスリット間の距離は5mmとした。このようにして、水蒸気の発生が可能な発熱具を得た。
【0061】
〔実施例2〕
透湿性シート3a,3bとして、表2に示す透湿度を有するものを用いた。またホットメルト粘着剤として、SIS共重合体が29重量%、水添石油樹脂が26重量%、流動パラフィンが41重量%、酸化チタンが4重量%含まれ、100%モジュラスが35g/20mm2のものを用いた。これらの成分は、実施例1と同じものである。これら以外は実施例1と同様にして発熱具を得た。
【0062】
〔比較例1〕
透湿性シート3a,3bとして、表2に示す透湿度を有するものを用いた。またホットメルト粘着剤として、SIS共重合体が27重量%、水添石油樹脂が21重量%、流動パラフィンが48重量%、酸化チタンが4重量%含まれ、100%モジュラスが20g/20mm2のものを用いた。これらの成分は、実施例1と同じものである。更に、第1の固定部7Aにスリットを形成しなかった。これら以外は実施例1と同様にして発熱具を得た。
【0063】
〔評価〕
得られた発熱具を3個一組にして、18名の被験者の肩、腰及び膝に取り付けさせ、8時間日常生活をさせた。8時間経過後、発熱具の取り付け状態を目視観察し、○:適正位置に取り付けられている、△:適正位置から多少ずれている。×:適正位置から大幅にずれている、の三段階評価をした。更に、発熱具を身体から剥がし、第1の固定部に発生した1mm以上の大きさの粘着剤の塊の数を測定した。粘着剤の塊の数が多いほど、粘着剤の肌残りが多いことを意味する。これらの結果を表3に示す。表3中、括弧内の数値は、膝に取り付けた発熱具における第1の固定部に発生した粘着剤の塊の数を示す。
【0064】
前記の評価とは別に、得られた発熱具を25℃の環境下で被験者の肩に装着した。発熱具直下の皮膚及び発熱具の上部に薄型の温度センサーを取り付けた。皮膚温度及び発熱具温度を10秒間隔で測定した装着後1時間から4時間までの間の皮膚温度及び発熱具温度の平均温度及び標準偏差(σ)を算出した。その結果を表3に示す。表3には最高温度及び平均温度+3σの値もあわせて記載されている。平均温度+3σの値を記載した理由は、温度の変動が正規分布している場合、温度の変動幅が標準偏差の3倍以内に入る確率は99%以上であることから、平均温度+3σの値を超えて温度が変動することは統計学上希有だからである。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
表3に示す結果から明らかなように、実施例の発熱具は比較例の発熱具に比べ、発熱具の取り付け位置にずれが発生していないことが判る。また実施例の発熱具は比較例の発熱具に比べ、粘着剤の塊の数が少なく、その肌残りが起こりにくいことが判る。更に実施例の発熱具は比較例の発熱具に比べ、温度の標準偏差の値が大きく、発熱温度にゆらぎが生じていることが判る。また実施例の発熱具は、発熱温度にゆらぎが生じているにもかかわらず、最高温度及び平均温度+3σの値は高くなっておらず、火傷等を引き起こすような温度上昇等が起こっていないことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の発熱具の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】図1に示す発熱具の使用形態の一例を示す図である。
【図4】本発明の発熱具の別の実施形態を示す平面図(図1相当図)である。
【符号の説明】
【0069】
1 発熱具
2 発熱材料
3 収容体
3a 第1の透湿性シート
3b 第2の透湿性シート
4 接合部
5 収容部
6 耳部
7A 第1の固定部
7B 第2の固定部
8 スリット
9 サイド接合部
10a 第1の通気層
10b 第2の通気層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気との接触により発熱可能な被酸化性金属を含む発熱材料を、通気性を有するシートを含む収容体の収容部に収容してなり、
該収容部から外方へ延出した該シートの延出部分に、該収容体を使用者の肌に固定するための固定部を設け、
該固定部に複数のスリットからなる伸長可能な部位を形成した発熱具。
【請求項2】
前記収容体が、使用者の肌から遠い側に位置する第1の層と、肌に近い側に位置する第2の層とを有し、少なくとも第2の層が通気性を有すると共に第2の層の表面に前記固定部を少なくとも2カ所設けた請求項1記載の発熱具。
【請求項3】
第2の層がポリエステル繊維を含む不織布からなり、該第2の層に設けられる前記固定部がホットメルト粘着剤からなる請求項2記載の発熱具。
【請求項4】
前記不織布がスパンレース不織布からなり、
前記ホットメルト粘着剤が、粘着基剤、粘着付与樹脂及び軟化剤を含んでなり、100%モジュラスが30〜90g/20mm2である請求項3記載の発熱具。
【請求項5】
前記収容体が長手方向及びそれに直交する幅方向を有する縦長の形状を有しており、少なくとも該収容体の長手方向の両端部に前記固定部を設けると共に、該収容体の長手方向と交差する方向に延びるように前記スリットを形成した請求項2ないし4の何れかに記載の発熱具。
【請求項6】
前記収容体の長手方向に沿う側縁部に、該収容体の長手方向に延びる固定部を更に設けた請求項5記載の発熱具。
【請求項7】
前記発熱材料が、被酸化性金属、反応促進剤及び繊維状物を含有し、抄造により形成された発熱シートからなる請求項1ないし6の何れかに記載の発熱具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−29743(P2008−29743A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208917(P2006−208917)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】