説明

発熱温度を選択できる発熱体及び温熱用具

【課題】使用中に高温側から低温側へ、逆に低温側から高温側へ、どちらの方向にも自在に簡便に好みの温度を選択することができる発熱体、及びそれを用いる温熱用具を、従来と同程度の製造コストで提供する。
【解決手段】それぞれの面の少なくとも一部が通気性を有するシートからなる扁平状袋に空気の存在下で発熱する発熱組成物を封入してなる発熱体であって、熱盤面法により測定された両面の平均表面温度の差が2.0℃以上であることを特徴とする発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体及び温熱用具に関する。特に、面の向きを変えて異なる温度を選択できる発熱体及びそれを用いた温熱用具等に関する。
【背景技術】
【0002】
空気と接触して発熱する発熱組成物を収容した通気性袋からなる発熱体及びそれを使用した温熱用具は、肩こり、神経痛、筋肉痛等及び種々の原因による慢性的な疼痛を軽減するための医療用具や防寒のためのカイロ等として、一般に広く用いられている。普通、このような発熱体は、片方の面を空気側に向け、別の面を皮膚側に向けて使用される。
【0003】
このような発熱体に一般に使用される発熱組成物は、酸素と鉄と水の反応により発熱する。この反応に必要な水及び鉄は製造時に一定量が配合されているので、反応量(発熱量)は、外から入る酸素(空気)の量に比例することになる。したがって、発熱組成物が同一であれば、発熱温度は、通気性袋を構成する通気性シートの通気度に比例すると考えられる。
【0004】
このような発熱体について、片面を通気性のシートで構成すること、及び両面を通気性のシートで構成することは、いずれも従来から知られている。
【0005】
通気性袋の両面を通気性にした場合、構成上は両面から空気が入る。しかし、発熱体を人体に密着させて使用する場合は、空気側からは多くの空気が入り、皮膚側からは皮膚と発熱体との隙間からしか空気が入ることができないので、発熱温度は、空気側の面を構成する通気性シートの通気性によって大きく影響されると考えられ、実質的に皮膚側の面は発熱に寄与しないと考えられる。
【0006】
一方、発熱体と人体との間に隙間が多くできるような使用態様(例えば皮膚側に密着させない、又は人体の動きにより発熱体と皮膚との間の隙間が多くできるような条件で使用する場合)においては、皮膚側からも空気が入るようになるため、空気側と皮膚側との両面から入る空気の量の差が少なくなる。また、発熱体は厚さも薄く内容物も粉末であるので、発熱体中の空気も動きやすく、両面から入る空気の量はさらに差が小さくなる。
【0007】
そのため、両面を通気性にした発熱体については、実質的に片面が通気性のものと同様となるか、両面が同じように発熱するものとなると考えられていた。
【0008】
現在実用化されている発熱体は、ほとんどが予め一定の発熱温度を呈するように設計されている。一つの発熱体で二つ以上の温度を呈することが可能な発熱体としては、通気膜の表面に使用者が選択的に剥がせるように部分的な切れ目を入れた複数の通気口を設けることにより発熱温度を調節できるカイロが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0009】
また、両面が通気性を有する発熱体としては、例えば、足用カイロや、発熱により表面から発生する水蒸気を伴う湿熱が皮膚にあたる発熱体が提案されている(例えば、特許文献2〜6)。しかし、これらの両面が通気性を有する発熱体は、両面の通気度に差がないものであり、また、実際に用いられる湿熱タイプの発熱体又は温熱用具も、足用カイロも、二つ以上の発熱温度を呈するようには設計されていなかった。
【0010】
【特許文献1】特開2003−70827号公報
【特許文献2】実公昭59−119818号公報
【特許文献3】実公昭58−22735号公報
【特許文献4】実公平2−136044号公報
【特許文献5】特公昭56−85336号公報
【特許文献6】特開2005−224314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような従来の発熱温度を調節できる発熱体は、温度調節のために切れ目部分を取り除くという煩わしい操作を必要とし、また、発熱温度を変える場合には切れ目部分を除くことしかできないため、より高温にする方向にしか変えることができないという欠点があった。さらに、取り除いた部分に粘着剤が残り、これと接する衣服に粘着する等の問題、製造上コストがかかるという問題等があり、実際には実用化されていない。
【0012】
本発明の第一の目的は、使用中に高温側から低温側へ、逆に低温側から高温側へ、どちらの方向にも自在に簡便に好みの温度を選択することができる発熱体、及びそれを用いる温熱用具を、従来と同程度の製造コストで提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、発熱体の両面を、特定の条件を満たす通気性シートの組合せで構成することにより、簡便に上記の目的が達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明によれば、
〔1〕それぞれの面の少なくとも一部が通気性を有する通気性シートからなる扁平状袋に空気の存在下で発熱する発熱組成物を封入してなる発熱体であって、下記の方法により測定された両面の平均表面温度の差が2.0℃以上であることを特徴とする発熱体:
熱盤面法による表面温度の測定:30±1℃の温度に保持された熱盤面上に平均厚さが550±30μm、平均目付け量が185±10g/m2の布を敷き、その上に発熱体を置いて発熱させ、前記布と盤面との間に設置した温度センサーによって発熱体の盤面側の表面温度を測定する。
平均表面温度の算出法:上記熱盤面法による測定の結果、38.0℃以上であった期間における温度を平均して、平均表面温度を算出する;
〔2〕前記扁平状袋の両面が、一方は高通気性シートAで、他方は低通気性シートBで、それぞれ構成されている、前記〔1〕記載の発熱体;
〔3〕前記通気性シートA及びBのガーレ法(JIS-P8117)による通気度をそれぞれa及びb(秒/100cc)とした場合に、
b−2a≧3,000 (式−1)
を満たす、前記〔2〕記載の発熱体;
〔4〕前記通気性シートA及びBのガーレ法(JIS−P8117)による通気度a及びbが、
a≧7,000 (式−2)
及び
b+2.7a≦97,000 (式−3)
を満たす、前記〔2〕又は〔3〕記載の発熱体;
〔5〕前記平均表面温度が、両面のそれぞれについて38.0〜48.0℃である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項記載の発熱体;
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項記載の発熱体を構成要素として含む温熱用具;
〔7〕少なくとも二層の保持部材を有し、前記保持部材の層間に前記発熱体を挟持して使用するためのサポーターと、前記発熱体との組合せからなる、前記〔6〕記載の温熱用具;
〔8〕サポーターが膝用である、前記〔7〕記載の温熱用具;
〔9〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれか1項記載の発熱体を装着するためのサポーターであって、少なくとも二層の保持部材を有し、前記保持部材の層間に前記発熱体を挟持し得るサポーター、
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の発熱体は、下記の効果を奏する。
(1)発熱体の両面が異なる温度に発熱するので、皮膚側に向ける面を変えるだけで、使用者の好みに応じて簡便に二つの温度の一方を選択して使用できる。
(2)使用中、低温側から高温側、又は高温側から低温側に、何度でも自由に選択する温度を変えることができる。
(3)両面が同じ通気度で両面が通気性の発熱体等の公知の発熱体よりも、発熱が安定して発熱最高温度と発熱平均温度との差が小さい傾向にあり、快適に使用できる。
(4)皮膚側に湿熱が伝わるので、特に冬場の皮膚の乾燥が抑制され、サポーター等によるかゆみ等が防止され、健康によい。また、従来の発熱体は、通気面の孔から熱とともに水蒸気(湿熱)も放散されるが、通常は空気側が通気面であるのに対し、本発明の発熱体は両面が通気性であり、皮膚側の通気面からも湿熱が放散され皮膚にあたる。湿熱は、皮膚に水分を補給するとともに、適度な温度で柔らかい熱感で身体の深部まで暖めるため、健康によい。
(5)使用中及び発熱終了後を通じて、発熱組成物がほとんど又は全く硬化せず、違和感が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の発熱体は、基本的に、両面が通気性を有するシートからなる扁平状袋と、その中に封入された発熱組成物とから構成される。
【0016】
本発明における扁平状袋に封入される発熱組成物は、酸素(空気)と接触して発熱する組成物であればよく、従来公知のものが使用でき、その製造方法も周知である。一般的には、酸化反応により発熱する鉄粉等の金属粉と水を必須成分とし、活性炭、食塩や塩化カリウム等の無機塩化物、及び吸水性ポリマー、バーミキュライト、おが屑、シリカ系物質等の保水剤等を含む組成物が使用されている。例えば、発熱組成物の重量を100%として、鉄35〜80重量%、活性炭1〜10重量%、塩化物1〜10重量%、水5〜45重量%、保水剤1〜45重量%からなるものが挙げられる。発熱組成物は、一般的には粉体(粒状物を含む)であるが、アルコールの含有、加圧等の手段によってシート状に成形されていてもよい(例えば特開平2000−60886、WO00/13626)。
【0017】
本発明において扁平状袋に用いられる通気性シートとしては、全面又は部分的に通気性を有するフィルム又はシートであればよく、一般に、単層又は積層の多孔質フィルム又はシートが、単独で、又は織布もしくは不織布などと組み合わせて用いられる。なお、本発明において「フィルム」は主として単体(単層及び積層を含む;以下同じ)又は比較的薄いもの、「シート」は主として単体もしくは2以上の単体の積層体又は比較的厚いものを指すが、厳密には区別しないものとする。
【0018】
フィルムを構成する樹脂としては、一般に、熱可塑性合成樹脂等が使用される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート、塩酸ゴム等が単独で又は組み合わせで好適に用いられる。目的に応じて、また、適切な必要発熱量、温度、用いる発熱組成物等に合わせて、適宜選択することができる。
【0019】
本発明においては、通気性フィルムとしては、延伸フィルム、好ましくは延伸された多孔質フィルム又はそれを含むシートが好適に使用される。延伸多孔質フィルムは、一般に無機質充填剤を含み、延伸によって連通孔が形成されることにより通気性が発現するが、この孔径等を制御することにより通気度が制御できる。好ましいのは、白色又は乳白色系のオレフィン系(特にポリエチレン系)延伸多孔質積層フィルム、及びそれと不織布との複合(積層)シートである。
【0020】
積層する場合は、通常は、ラミネート法によって行われるがそれに限らない。ラミネートは従来公知の任意の方法を適用することができる。例えば、熱接合あるいはホットメルト接着剤又はアクリル系もしくはウレタン系接着剤等の接着剤で積層する方法でもよく、また全面接合であっても、柔軟性を保つために部分接合であってもよい。好ましくはカーテンスプレー法またはドライラミネート法が用いられる。
【0021】
上記のフィルムと積層されていてもよい不織布としては、従来、発熱体及び医療用温熱用具等の技術分野で用いられるものが好適に使用できる。ナイロン、ビニロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の人工繊維、綿、麻、絹等の天然繊維を含むものが挙げられる。不織布の目付けは、好ましくは20〜100g/m程度である。
【0022】
特に、熱可塑性合成樹脂の延伸多孔質フィルムにナイロン、ポリエステル繊維等の不織布をラミネートした通気性シートが一般に多く使用されている。
【0023】
通気性シートの通気度は、所望の通気度を有するフィルム又はシートを選択することによって、選択することができる。多孔質フィルムの通気度は、上記のように延伸条件等の製造条件を変えることにより容易に変えることができ、各種の市販品を使用することもできる。また、フィルム又はシートを加工したり、組み合わせたりすることによっても通気度を調整できる。
【0024】
両面を構成するシートは、例えば、各面を構成するシートの一部に非通気性のシートを用いたり、印刷等の加工や粘着層の形成等を施したりすることによって、通気性シートの一部が非通気性となっていてもよい。しかし、面全体の均一な発熱の観点からは、全面にわたって均一に通気性を有していることが好ましい。ここで、「全面にわたって均一」であるとは、面全体の3ヵ所以上の異なる位置でガーレ法で通気度を測定したときに、各位置での3回以上の測定値の平均が、全部の測定値の平均値の0.5〜2倍の範囲内であることを指す。したがって、印刷等の加工や粘着層の形成等により生じる非通気性部分は、なるべく細かいパターンで全面に均一に配置することが好ましい。
非通気性のシートとしては、上記で通気性シートについて説明したのと同様の材質・構成を有するものであって実質的に通気性がないものを用いることができる。なお、一部が非通気性である場合、通気度測定は、通気性のある部分について測定すればよい。
【0025】
扁平状袋の両面に使用される通気性シートの材質・構成等は、同じであっても異なっていてもよい。
【0026】
本発明において両面に用いるシートの組合せは、試験する2種類のシートを両面の各々に用いた発熱体を作製し、以下に述べる熱盤面法で発熱温度を測定した場合に、発熱体のそれぞれの面における38.0℃以上の発熱温度を測定したときのそれぞれの平均表面温度の差が2.0℃以上となるように選択する。
【0027】
<熱盤面法>
発熱組成物として、以下の組成のものを13.5g入れた大きさ70mm×95mmの発熱体を、通気性シートの組合せ1種類につき2個ずつ用意する。それぞれのシートの面を空気側(又は盤面側)にした場合の発熱特性を、以下の方法で測定する。
【0028】
発熱組成物の組成:鉄粉 55.0g、活性炭 7.0g、NaCl 2.0g、水 29.9g、吸水性ポリマー 3.0g、バーミキュライト 3.1g;又は同等の発熱特性を呈するもの。
【0029】
室温25±1℃にて、温水循環式塩ビ熱盤(材質:塩ビ(厚さ8mm)、寸法:横615×縦410×高さ60mm)を、使用設定温度30℃(熱盤が30℃;温度調節精度±0.05〜0.1℃)とした恒温水槽(ヤマト科学社製;サーモメイト BF200、又は同等のもの)と配管(外径約18mm塩ビ、JIS K6741、呼び径13mm)でつないで30℃に維持する。この熱盤上に、薄型の小型白金側温抵抗体(表面温度測定用側温抵抗体R060−32(株式会社チノー製)、抵抗素子Pt100、規定電流2mA、センサー部14×25.5×厚さ0.8mm、シート状シリコーンモールド;又は同等のもの)を取り付け、この上に布(平均厚さが550±30μm、平均目付け量が185±10g/m2、ナイロン97%とポリウレタン3%との混紡編地、又は同等のもの(なお、布の平均厚さは、ダイヤルシックネスゲージ(ダイヤルゲージ式:型式G−6、尾崎製作所製)又は同等のもので30点測定し、その平均値とする。)を横100mm×縦120mmの寸法で切り取り、縦方向上下2箇所をテープにより盤面に固定する。この布の上に発熱体を平らに設置し、発熱体の横左右2箇所をテープにより布に固定する。この測定対象物の全体を、周囲空間を確保した上で外部との空気の流通が可能な風除けケースで覆い、ハイブリッドレコーダー(チノー社製;打点式、AH3725N00、又は同等のもの)にて温度を連続的に記録する。
【0030】
<平均表面温度の算出方法>
平均表面温度は、東京都生活文化局消費者部「品質表示実施要領(使いすてカイロ)」(昭和57年)の「平均温度」の項に準拠して算出する。ただし、発熱開始後38.0℃となってから38.0℃を下回るまでの期間の10分毎の測定値を使用し、測定回数は5回とする。また、各測定値は小数点以下1桁で表す。
具体的には、上記の測定によって得られた結果から、38.0℃となった時点を測定開始時点(0分)として、以後10分毎の測定値T、T、…を選び出し、38.0℃未満となった時点(発熱終了)直前の測定値Tまで(即ち、38.0℃以上の温度であったすべての測定値)を合計する。この合計Tsam(=T+T+…+T)を、合計した測定値の数nで割って算出された数値を、5回の試験で集め、それらの平均値を「平均表面温度」(平均温度ともいう)とする。
上記のようにして両面についての平均表面温度を得、その差(の絶対値)を、「平均表面温度の差」(平均温度差ともいう)とする。
なお、上記の測定の結果、最高の温度を示した点の温度(5回の試験による測定値の平均値)を「最高温度」とする。
【0031】
上記の測定方法において、盤面を30℃(±1)℃に設定するのは、常温の環境における人間の皮膚温度を模倣したものであり、発熱体の盤面側で温度を測定するのは、発熱体の皮膚側の温度を測定することを模倣するためである。また、38.0℃以上の温度の平均温度を採用するのは、38.0℃が発熱体又は温熱用具を人体(特に膝面)に適用した場合に暖かさを感じる下限と考えられるためである。
【0032】
本発明者らは、上記の測定方法において、両面の通気度が異なる両面通気性の発熱体の面の向きを変えた場合の平均表面温度の差が2.0℃以上であると、実際に温熱用具として用いた場合に温度差を体感できることを見出した。
このような両面の温度差は、扁平状袋の両面を、一方は高通気性シートAで、他方は低通気性シートBで、それぞれ構成することにより、作り出すことが好ましい。
【0033】
一般に、発熱体の空気側通気面と皮膚側通気面とを比較した場合に、空気側では、比較的自由に空気と接することができるため、発熱体中に取込まれる空気の量(及び空気側の発熱体表面温度)は空気側シートの通気度に大きく依存する。
一方、皮膚側の発熱体表面の温度は、(i)空気側から皮膚側への空気の移動量、(ii)空気側からの熱伝導、(iii)皮膚側の発熱組成物の発熱反応、(iv)皮膚側から外へ向けての湿熱放出などにより影響を受ける。
これらの現象が生じる中で、通気性がある点よりも下がる(ガーレ法による通気度の数値は大きくなる)と袋体の中で消費される量の空気(酸素)を外から供給できなくなり、袋の中は減圧状態になる。その結果、発熱組成物粉末は袋体内で動きにくくなるが、それと共に、発熱により段々と硬化が生じ粉末が固まってくるので、上記(i)の空気側から皮膚側への空気の移動量が少なくなる。こうして、空気側と皮膚側とで温度差が増してくる。したがって、両面の通気度の差が大きい程この傾向は大きくなると考えられる。
【0034】
発熱体を使用している人体が動くことにより、上記の現象は緩和される方向になるが、基本的にはこの傾向であることには変わりがない。したがって、両面の異種通気度を前記の特定範囲に設定することにより、面の向きを変えると皮膚側で温度差が出、それを温度差として体感することができると考えられる。
【0035】
なお、両面の温度差は、扁平状袋の内部において両面のそれぞれに高温発熱性発熱組成物と低温発熱性発熱組成物とを配置することによっても作り出すことができる。この場合、袋の内部を仕切って発熱組成物を収容することができる。
また、両面の温度差は、上記で例示したような通気性の制御及び発熱組成物の選択をはじめ、任意の手段をそれぞれ単独で用いて実現してもよく、これらのいくつかを組み合わせて実現してもよい。
【0036】
通気性シートの通気度は、ガーレ法(JIS−P8117)によって測定することができる。本発明に関して、通気度はガーレ法による通気度(JIS P−8117、単位は秒/100cc)を用いて説明する。ガーレ法による通気度は、ある条件下で100ccの空気が通過するのに要する時間(秒)で表わすので、数値が小さい程通気性が大きいことを示し、通気性の大きさと通気度の数値の大きさは逆になる。また、他の方法で測定してもよく、その場合、ガーレ法による測定値に換算することができる。
【0037】
本発明の発熱体において、通気性シートA及びBのガーレ法による通気度をそれぞれa及びb(秒/100cc)とした場合、通気度a、bについて、好ましくはb−2a≧3,000(式−1)である。通気度の数値の差(b−2a)が3,000以上であると、その差が小さくなりすぎず、A、Bの各々を空気側に使用したとき、熱盤面法及び後述する実地試験(1)でいずれも平均表面温度の差が2℃以上になり、実際に使用したときに両面の温度差を体感でき発熱温度を選択使用できる発熱体として好ましい。
【0038】
b−2a≧3,000(式−1)は、bとaの通気度の差がある値以上であることを示している一種の通気度の差である。しかし、aには1以上の係数がかかっており、単純にaとbとの差がいくらということではなく、低通気側よりも高通気側の通気度の影響が大きいことを示している。式−1の条件を満たすと、面の向きを変えて人体に当てた時に温度差を実際に感じることができる。
【0039】
また、好ましくは高通気性シートAの通気度aは、7,000秒/100cc以下(a≧7,000)(式−2)である。Aの通気度aが7,000秒/100cc以下であると、Aを空気側にするとAから入る空気量が多くなりすぎず、したがって発熱が大きくなりすぎず(平均温度が48℃以下)、またふくれが生じないので、温熱用具の発熱体として好ましい。
【0040】
なお、温熱用具の発熱体としては、熱盤面法における平均温度が38〜48℃であることが好ましい。
【0041】
また、通気性シートA及びBの組み合わせは、好ましくは、b+2.7a≦97,000(式−3)の関係式を満たすものである。b+2.7aが97,000以下であると、両面から入る空気の合計量が少なくなりすぎず、平均温度が38℃以上になり温熱用具用の発熱体として好ましい。
【0042】
b+2.7a≦97,000(式−3)は、b≦−2.7a+97,000を書き換えたものであり、式−3の意味するところは、この式の左辺は両側の通気度の和であって、通気度の貢献度はaがbの2.7倍であることを示している。すなわち、両側から入る合計空気量(その場合aがbの2.7倍影響する)が、ある値より大きいと発熱がよくなり(平均表面温度が38℃以上となり)、逆に少ないと発熱が低下し平均表面温度が38℃以下となるものである。
【0043】
本発明の発熱体の製造方法は、通常の製造方法でよく、例えば、片面(イ)のシート又はフィルムに他面(ロ)のシート又はフィルムを積層して扁平状袋を作製してから発熱組成物を封入してもよく、片面(イ)のシート又はフィルムに発熱組成物を置いた後、他面(ロ)のシート又はフィルムを積層して袋を形成してもよい。効率面から後者が好ましい。
【0044】
このようにして得られた発熱体は、粘着剤を用いないいわゆる「貼らない」タイプの発熱体としてもよく、両面のどちらかを衣服又は皮膚に貼る「貼る」タイプの発熱体として使用してもよい。粘着剤を用いる場合は片面又は両面の周縁部(例えば5mm程度)のみ粘着剤を塗布するのが好ましい。また、本発明の発熱体を製造する場合の、粘着剤、ヒートシール等は、従来公知の材料、方法を用いることができる。
【0045】
本発明の発熱体は、粘着剤を用いる場合には未使用時にはその粘着層の表面が剥離シートで覆われている。この剥離シートの材料は、従来から発熱体の粘着層の被覆用シート、すなわち離型シートに使用されているものであれば、いずれであってもよい。
【0046】
本発明の発熱体(但し、粘着剤使用の場合は剥離シートで被覆のまま)は、外袋に入れて保存される。外袋は、耐湿非通気性材料で構成される。外袋が非通気性であるので、発熱体は空気(酸素)と接触できずそのため化学反応をせず、発熱することなく保存される。外袋を開封すると、空気(酸素)が通気性シートを通過して発熱組成物に到達し、それによって化学反応が開始され、反応熱が放出される。外袋用材料の代表例として、アルミニウム薄層とポリマー・フィルムとが積層されてなるものが挙げられる。本発明の発熱体は、通常、製造後使用時まで、実質的に酸素を透過させない袋に密封されて保存される。
【0047】
本発明の発熱体は、そのままで、又は他の構成要素を組み合わせて、カイロや温湿布のような温熱用具として使用することができる。例えば、皮膚に直接貼付したり、又は下着等の衣服の布地の上から適用することができるが、布地の上から適用する場合、本発明の発熱体又は温熱用具の効果をより明確に得るためには、布地の厚さ(2枚以上重なっている場合は合計の厚さ)が3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがさらに好ましい。
このような温熱用具は、体のどの部分でも適用できる。手足の関節部分等は、サポーター、特に膝用等の関節用サポーターと、本発明の発熱体とを組み合わせてなる温熱用具は、特に有利である。このような温熱用具に用いるサポーターは、少なくとも二重に折りまげるか、ポケットを作る等することにより、保持部材が二層以上になる部分を設け、その層の間に本発明の発熱体を挿入できる。このようにして布等の間に発熱体を挿入した温熱用具として使用する場合、温度を変更したいとき等は一度入れた発熱体の表裏の面を変えて挿入すれば異なる発熱温度を体感できることになる。特に、二つの体感温度が選定できるので、膝用等の関節用サポーターに挿入する温熱用具等は好適である。
サポーターの材質としては、公知のいずれのものであってもよいが、本発明の発熱体と皮膚との間になる部分の厚さについては、上記と同様、3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
(発熱組成物の製造)
鉄粉 55.0g、活性炭 7.0g、NaCl 2.0g、水 29.9g、「サンフレッシュ ST−571」(三洋化成社製、吸水性樹脂)3.0g、バーミキュライト 3.1gを室温で30分間攪拌混合して、組成物を調合した。この組成物を、以下の実施例及び比較例の各々の発熱体の作製において使用した。
【0050】
(実施例1)
本発明の発熱体(70mm×95mm)を以下のようにして作製した。
ポリエチレン製多孔質フィルム「コージンTSF−EU」(興人社製、;オレフィン系樹脂と無機充填剤とを主成分とするフィルムを延伸することにより多孔化された多孔質フィルム)にポリエステル不織布7830(ポリエステルスパンレース、シンワ社製、目付け量:30g/m)をラミネートした通気性シートA(通気度:7,000秒/100cc、JIS P−8117)と、上記と同じポリエチレン製多孔質フィルム「コージンTSF−EU」(興人社製)に上記と同じポリエステル不織布7830(シンワ社製、目付け量:30g/m)をラミネートした通気性シートB(通気度:30,000秒/100cc、JIS P−8117)とを、ポリエチレン面同士を内側にして重ね合わせ、一部を残して周縁部をヒートシールして、発熱組成物を収容する扁平状袋を作製した。通気性シートA、Bの通気度は、ラミネート時に接着剤の塗工パターンを変えて調整した。この袋に上記の発熱組成物(13.5g)を充填し、開口部をヒートシールして密封して、本発明の発熱体Iを作製した。
【0051】
(実施例2〜13、比較例1〜6)
実施例1において、シートA、Bの通気度を表1のものに変えた以外は実施例1と同様にして、実施例2〜13(発熱体II〜XIII)及び比較例1〜6(発熱体XIV〜XIX)の発熱体を作製した。
【0052】
上記の各発熱体について、上記の熱盤面法による測定、ならびに以下に述べる実地試験(1)及び(2)を行なった。なお、使用機器等は、上記で例示したものを使用し、風除けケースとしては、アクリル製の保温ケース(アクリル板の厚さ5mm、寸法横650×縦450×高さ300mm、上面板取り外し式、下方向開放角筒状、接合部アルミ金具ねじ止め併用接着、上面板接着部はスポンジパッキン使用、壁面の対角線上の位置2箇所に、一方には直径10mmの円形の孔、他方には15mm×20mmの四角形の孔をそれぞれ有する)を用いた。
【0053】
<実地試験(1)>
実際に人が使用し、動きのある状態ではどのようになるかをみるために、下記の試験を行なった。この場合、センサーを布の間に入れており皮膚に直接接するようにしていないが、これは人体の血流の動きが人によって異なるためその影響を少なくしようとしたものである。
被験者の膝に折り曲げられたサポーター(二重サポーター:通常のサポーターを二つ折りにし二重にしたもの)を装着し、二重の間のポケット部分に発熱体を入れ、発熱体と皮膚側の布の間にセンサー(側温センサー;ST−22E−003、安立計器社製)を取り付けて、コンパクトサーモロガー(AM−8000E(TYPE E:−200〜800℃);足立計器社製)で温度を記録した。被験者は日常の生活をした。
【0054】
<実地試験(2)>
人体で試験したときに感覚的にどう感じるかをみるために、被験者30名について、次の試験を行った。
実地試験(1)と同様に二重サポーターの中に発熱体を入れ、空気側にA面を向けて3時間着用した。次に、新たに発熱体のB面を空気側にして3時間着用した。体感温度を、下記の基準で評価した。
(イ)AとBとで、皮膚側の温度に差を明確に感じ、且つどちらの温度も気持ちよい温度であった。
(ロ)AとBとで、皮膚側の温度に差を明確に感じたが、どちらかの温度が熱すぎふくれが生じたり、若しくはぬるすぎたりした。
(ハ)AとBとで、皮膚側の温度に差をやや感じ、且つどちらの温度も気持ちよい温度であった。
(ニ)AとBとで、皮膚側の温度に差をやや感じたが、どちらかの温度が熱すぎふくれが生じたり、若しくはぬるすぎたりした。
(ホ)AとBとで、皮膚側の温度差がわからなかった。
【0055】
以上の結果を表1に示す。実地試験(2)については、各々に該当すると評価した人数を掲載した。この表1から、熱盤面法による平均温度差が2.0℃以上であれば、実地試験(1)においても平均温度差が2.0℃以上を示し、実地試験(2)における被験者の体感によるものでも温度差が明確に感じられている結果が得られた。これらの結果を踏まえて、人体で温度差が明確に感じられるためには、まず熱盤面法による平均温度差が2.0℃以上であることが必要であった。
【0056】
【表1】

【0057】
これらの表1のデータを基にし、通気度aを横軸に、通気度bを縦軸にしたグラフにプロットした。結果を図1に示す。
図1において、(i)熱盤面法で温度差が2.0℃以上あって面の向きを変えて発熱温度差を体感でき、(ii)熱盤面法及び実地試験(1)の平均の発熱温度が48.0℃以下でありふくれを生じず、かつ(iii)同じく熱盤面法及び実地試験(1)の平均の発熱温度が38.0℃以上になる発熱体、すなわち温熱用具用として特に好ましい発熱体を「○」、(i)熱盤面法で温度差が2.0℃未満であって面の向きを変えて発熱温度差を体感できないものを「×」、(ii)〜(iii)のいずれかを満たさない発熱体を「△」とした。これらのことは、熱盤面法の静置した状態と実地試験(1)の動いている状態の両方で温熱用具として好ましい発熱温度になるように考えたことによる。○が集まった集合領域が含まれるように三本の線で囲むことができた。線は臨界線として○のものを結んだ。
【0058】
夫々の直線は、一本目(I)が(a,b)が(8,500、20,000)と(20,000、43,000)を結ぶ直線であり、二本目(II)が(7,000,30,000)と(7,000,50,000)を結ぶ直線であり、三本目(III)が(20,000、43,000)と(10,000、70,000)を結ぶ直線である。
それぞれの直線の式は
b−2a=3,000、a=7,000、b=−2.7a+97,000である。すなわち、本発明の好ましい通気度a、bからなる両面通気性の発熱体はこれらの三本の線で囲まれた領域にあり、a≧7,000(式−1)、b−2a≧3,000(式−2)、b≦−2.7a+97,000(式−3)を同時に満たす領域である。
【0059】
また、実施例1と同様にして両面を同じ通気度の通気性シートで構成した比較例7〜10を作製し、熱盤面法で測定した。その結果を、表1の対応する結果と併せて表2に記載した。
【0060】
【表2】

【0061】
この結果から、本発明の両面が異なる通気性の発熱体の方が同じ通気度の両面通気性の発熱体よりも平均表面温度と最高温度との差が小さい傾向にあり、気持ちよく使用できることになることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の発熱体におけるシートA、Bの通気度の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの面の少なくとも一部が通気性を有するシートからなる扁平状袋に空気の存在下で発熱する発熱組成物を封入してなる発熱体であって、下記の方法により測定された両面の平均表面温度の差が2.0℃以上であることを特徴とする発熱体:
熱盤面法による表面温度の測定:30±1℃の温度に保持された熱盤面上に平均厚さが550±30μm、平均目付け量が185±10g/m2の布を敷き、その上に発熱体を置いて発熱させ、前記布と盤面との間に設置した温度センサーによって発熱体の盤面側の表面温度を測定する。
平均表面温度の算出法:上記熱盤面法による測定の結果、38.0℃以上であった期間における温度を平均して、平均表面温度を算出する。
【請求項2】
前記扁平状袋の両面が、一方は高通気性シートAで、他方は低通気性シートBで、それぞれ構成されている、請求項1記載の発熱体。
【請求項3】
前記通気性シートA及びBのガーレ法(JIS-P8117)による通気度をそれぞれa及びb(秒/100cc)とした場合に、
b−2a≧3,000 (式−1)
を満たす、請求項2記載の発熱体。
【請求項4】
前記通気性シートA及びBのガーレ法(JIS−P8117)による通気度a及びbが、
a≧7,000 (式−2)
及び
b+2.7a≦97,000 (式−3)
を満たす、請求項2又は3記載の発熱体。
【請求項5】
前記平均表面温度が、両面のそれぞれについて38.0〜48.0℃である、請求項1〜4のいずれか1項記載の発熱体。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項記載の発熱体を構成要素として含む温熱用具。
【請求項7】
少なくとも二層の保持部材を有し、前記保持部材の層間に前記発熱体を挟持して使用するためのサポーターと、前記発熱体との組合せからなる、請求項6記載の温熱用具。
【請求項8】
サポーターが膝用である、請求項7記載の温熱用具。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項記載の発熱体を装着するためのサポーターであって、少なくとも二層の保持部材を有し、前記保持部材の層間に前記発熱体を挟持し得るサポーター。

【図1】
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【公開番号】特開2007−319512(P2007−319512A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154507(P2006−154507)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000112509)フェリック株式会社 (14)
【Fターム(参考)】