説明

発現ベクター

本発明は、核酸と発現ベクター、および核酸と発現ベクターで変換される宿主細胞を提供し、所望とする高率のポリペプチドの発現を得ることを目的とする。さらに、本発明は組成物で修飾された発現ベクター、核酸、および宿主細胞の使用方法を提供し、所望のポリペプチドを符号化する遺伝子の発現を増加させることを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書は、2003年9月4日出願の米国仮特許出願第60/500,803号についての利益を請求しており、前記出願はその全内容が参照により本願明細書に組み込まれているものとする。
【0002】
本発明は、哺乳動物細胞のような宿主細胞において1つ以上の目的遺伝子を高率で発現するベクターに関する。
【背景技術】
【0003】
目的遺伝子(GOI)の安定な産生は、選択マーカー遺伝子へ相関したGOIを含むベクターを用いて宿主細胞をトランスフェクトし、細胞にストレスを加えることによりGOIを含む細胞を選択することで達成される。しかしながら、細胞が選択マーカーを十分な量で発現するとGOIの安定な産生は減じるばかりである。ベクターを宿主細胞の染色体DNAへ無作為に組み込むと、生成される形質移入体は様々なGOI発現率を示す。しかし、組み込み部位の位置が効果的であった場合、ほんの僅かなトランスフェクト細胞クローンは所望の最高レベルでGOIを発現する。ベクターが符号化する遺伝子の発現レベルは、遺伝子が組み込まれる部位の局所的な染色体環境の影響を強く受ける(Barnett等、1995、Antibody Expression and Engineering、WangおよびImanaka(編集)、ACS Symposia Series、604頁)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
減弱した選択マーカーを使用すると、結合したGOIの発現レベルが高い形質移入体が得られるようになるが、これは、減弱したマーカーおよび相関性のあるGOIの発現に良い影響を及ぼすような組み込み位置を選択バイアスすることにより達成されると考えられる(ReffおよびPfarr、1992、Gene Amplificatioon in Mammalian Cells、R.E.Kellems(編集)、Marcel Dekker、Inc.、355頁)。従来技術で一般的に記載される発現ベクターには、GOI(GOIは減弱した選択マーカーへ相関する)の高レベルなたんぱく質を発現させる強力な調節エレメントが含まれる。発現ベクターの選択マーカーを減弱化するためにこれまで利用されてきた方法には、選択マーカーたんぱく質を損なうような突然変異(例えば、US6,316,253)、選択マーカー遺伝子への人為的なイントロン部位の挿入(例えば、US5,733,779)および多シストロン性のベクターコンストラクトでの選択マーカーの発現減弱(例えば、US4,713,339およびRess等、1996、Biotechniques20:102)が含まれる。目的遺伝子の発現を向上させる系はいずれも問題点を抱えており、目的とする遺伝子産物を高率で産生できる細胞を産生して選別する効率的な方法を含む、改良された発現系が必要とされる。従って、宿主細胞から目的遺伝子を一貫して安定かつ増量で発現する、任意の組換えタンパク質を十分な量で効果的に産生できる、改良された発現ベクターおよび宿主細胞発現系の生成が求められている。
【0005】
本段落および本願明細書で参照する引用文献および/または考察は、本発明の内容を明確にするために参照するだけであり、これらの参考文献がここに記載する発明に対して“従来技術”であることを主張するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、宿主細胞、特に哺乳動物細胞で1つ以上の所望のたんぱく質を多量に産生できる新規的な発現ベクターを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の1つの形態は発現ベクターである。1つの実施形態において発現ベクターは、転写能の減弱したプロモーターを有する制御核酸と機能的に結合することができる選択マーカー遺伝子、および制御配列と機能的に結合した相関性のある目的遺伝子を挿入するための1つ以上の挿入部位を含む。
【0008】
別の実施形態において、発現ベクターは制御核酸と機能的に結合した選択マーカー遺伝子(制御核酸はCCAATbox配列が欠如したβグロビン遺伝子を含む)、および制御核酸と機能的に結合した1つ以上の目的遺伝子を含む。ある実施形態においては、発現ベクターは増幅性マーカー遺伝子も含有する。
【0009】
別の態様として本発明は、本発明の発現ベクターでトランスフェクトされた宿主細胞に関する。特記すべき実施形態として、宿主細胞は哺乳動物細胞、例えばCHO細胞である。
【0010】
別の態様として、本発明は、目的遺伝子の符号化するポリペプチドを産生する方法に関し、目的遺伝子がポリペプチドを発現するのに適した条件で、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を培養する工程を含む。特記すべき実施形態として、本発明の方法は、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を産生し、その結果、機能性抗体が生じる工程も含む。
【0011】
本発明の更なる特徴および利点を、以下の詳細な説明および実施例で明確にするが、これらの記載は本発明を制限するものと解釈されてはならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、目的遺伝子(GOI)を高いレベルで発現するベクターを提供する。本発明のベクターは、特に組換え抗体(例えば同一の発現ベクター上に存在する抗体重鎖および軽鎖)の発現に適しており、当該ベクターを使用することにより例えば3〜14pg/細胞/日の範囲の抗体発現レベルが得られる。本発明のベクターでは、転写能の減弱化したプロモーターを有する選択マーカー遺伝子へ目的遺伝子(たんぱく質を符号化する)を相関させることにより、高いレベルでたんぱく質を発現させる。別の実施形態では、転写能が減弱化したプロモーターと機能的に結合した選択マーカーを、目的遺伝子を更に高レベルで発現するように増幅できる別の増幅性選択マーカーと組み合わせて使用する。
【0013】
哺乳動物細胞における遺伝子の安定したかつ高レベルな発現は、組み込み部位とコピー数の両方に強く依存する。例えば通常濃度のネオマイシンのアナログG418で課すことのできる選択圧は概して低く、様々な発現レベルを示す細胞クローンが得られるが、組換えたんぱく質の産生を目的とする際に通常望ましいとされる高い発現レベルを示すクローンはほんの僅かしか得られない。本願明細書に記載する核酸および発現ベクターでは、GOIに相関する減弱したプロモーターに結合することができる選択マーカーを機能的に結合させて使用することにより、前述およびその他の問題点を解決する。選択マーカー遺伝子の極めて低い発現は、高発現クローンの選択バイアスを可能にする。
【0014】
本発明は、宿主細胞、特に哺乳動物細胞で異種GOIを安定かつ高レベルで発現させるのに有用な新規的な核酸コンストラクト(発現ベクター)を提供する。1つの実施形態で発現ベクターは、(1)減弱したプロモーターを含む制御核酸と機能的に結合する選択マーカー遺伝子、および(2)相関性のある1つ以上の目的遺伝子(GOI)を挿入するための挿入部位を有する。適切な制御核酸配列と機能的に結合したGOIを挿入部位へ挿入すると、ベクターでトランスフェクトした宿主細胞でGOIを多量に発現できる。別の実施形態で発現ベクターは、(1)減弱したプロモーターを含む制御核酸と機能的に結合する選択マーカー遺伝子、および(2)好適な制御核酸と機能的に結合する1つ以上のGOIを有する。従って、選択マーカー遺伝子とGOIはベクター中で相関している。本発明のベクターは第2の選択(“増幅性”)マーカー、例えばジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)を任意に含有してよく、これにより高レベルでGOIを発現する宿主細胞の選択が容易になる。従って、本発明の発現ベクターの利点は、選択マーカー遺伝子と機能的に結合した同一プロモーターを有するが、そのプロモーターが減弱していないベクターと比較した場合、本発明のベクターの方がGOIの発現が増加する。その結果、目的のポリペプチドを高い産生レベルで得ることができることである。
【0015】
核酸
本願明細書で使用する“核酸”には、原核生物、真核生物および合成源に由来するDNA、RNA、mRNA、cDNA、ゲノムDNAおよびそのアナログが含まれる。“コード配列”あるいは選択されたポリペプチドを“符号化する”配列とは、適切な制御核酸(または“調節エレメント”)による制御にある場合、in vivoでポリペプチドへと転写(DNAの場合)および翻訳(mRNAの場合)される核酸分子を意味する。コード配列の区切りは5’(アミノ)末端の開始コドンと3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンで決定される。コード配列には、ウイルス、原核生物または真核生物のmRNAに由来するcDNA、ウイルスまたは原核生物DNAに由来するゲノムDNA配列、および合成DNA配列が含まれるがこれに限定されない。転写終了配列は、一般的にコード配列の3’側に存在する。
【0016】
核酸およびアミノ酸の“配列同一性”を調べる技術は、従来公知である。一般的にこのような技術では、遺伝子に対するmRNAのヌクレオチド配列を決定しかつ/またはmRNAが符号化するアミノ酸配列を決定し、第2のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列と比較する工程を含む。通常、“同一性”とは、ヌクレオチド同士またはアミノ酸同士と比較した場合、それぞれ、2つのポリヌクレオチドまたは2つのポリペプチドが完全に一致していることを言う。それらの“相同率”を決定することで、2つ以上の配列(ポリヌクレオチドまたはアミノ酸)を比較できる。核酸配列またはアミノ酸配列の2つの配列の相同率は、2つの整列配列間の完全な一致を、短い方の配列長で割り、100を掛けた値である。核酸の大まかな整列は、SmithおよびWatermanのローカル・ホモロジー・アルゴリズム(SmithおよびWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482〜489(1981))に従う。このアルゴリズムは、Dayhoffによって開発され(Dayhoff、Atlas of Protein Sequences and Structure、M.O. Dayhoff編集、5suppl.3:353〜358、National Biomedical Reseach Foundation、ワシントンD.C.,USA)、そして、Griskovによって規格化された(Nucl.Acids Res.14(6):6745〜6763(1986))スコアリング行列を用いることにより、アミノ酸配列に適用できる。配列の相同率を決定するこのアルゴリズムの実装例は、Genetics Computer Group(Madison、Wis.)の“BestFit”ユーティリティアプリケーションによるものである。この方法のデフォルトパラメーターは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual、バージョン8(1995)に記載される(Genetics Computer Group、Madison、Wisから入手可能)。本発明による相同率決定の好ましい方法は、John F CollinsおよびShane S Sturrokが開発し、IntelliGenetics社(Mountain View、Calif.)が配布し、Edinburgh大学が複製権を保有する、MPSRCHプログラムパッケージを使用することである。この一連のパッケージではSmith−Watermanアルゴリズムが適用され、デフォルトパラメーターはスコアリングテーブルに使用される(例えば、12のギャップ開始ペナルティー、1つのギャップ伸長ペナルティー、および6つのギャップ)。“Match”と出力されるデータ値は“配列同一性”を示す。配列間の同一率または相同率を算出するのに適した別のプログラムも従来公知である。
【0017】
本願明細書において、2つの核酸フラグメントは“選択的にハイブリダイゼーション”すると見なされる。2つの核酸分子間の配列同一性の程度は、それらの分子のハイブリダイゼーション時の効率および強度に影響を及ぼす。部分的な同一性を有する核酸配列は、完全に同一の配列が標的分子へのハイブリダイゼーションするのを少なくとも部分的に抑制する。完全に同一の配列のハイブリダイゼーション抑制を従来公知のハイブリダイゼーションアッセイを用いて推定され得る(例えば、サザンブロット法、ノーザンブロット法、溶液ハイブリダイゼーション法など、「Sambrook等、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York」、または「Ausubel等(編集)、Current Protocols In Molecular Biology、John Wiley&Sons、Inc.、New York(1997)」参照)。このようなアッセイは選択性の程度を変化させて実施でき、例えば条件を緩いものから厳しいものへ変化させて実施できる。緩い条件であっても、部分的な配列同一性すら欠如している第2のプローブ(例えば、標的分子との配列同一性が約30%を下回るプローブ)を用いれば非特異的結合は生じないと考えられる。即ち、非特異的結合が生じない場合、第2のプローブは標的へハイブリダイゼーションしていないと思われる。
【0018】
ハイブリダイゼーションの検出方法を利用する場合、核酸プローブは標的核酸配列に相補的なものを選ぶべきであり、次に、適切な条件を選択することで、プローブと標的配列が相互に“選択的にハイブリダイゼーション”するかまたは結合し、ハイブリッド分子が形成される。“適度に厳しい条件”で標的配列へ選択的にハイブリダイゼーションできる核酸分子とは、通常、少なくとも約10〜14ヌクレオチド長を有し、選択された核酸プローブ配列と少なくとも約70%の配列同一性を示す標的核酸配列の検出が可能な条件でハイブリダイゼーションする分子である。厳しいハイブリダイゼーション条件というのは、通常、少なくとも約10〜14ヌクレオチド長を有し、選択された核酸プローブ配列と少なくとも90〜95%よりも多い配列同一性を示す標的核酸配列の検出が可能な条件である。プローブと標的が特異的な配列同一率を有する場合のプローブ/標的ハイブリダイゼーションに有効なハイブリダイゼーション条件は、従来技術に従って決定できる(例えば、Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach、編集者B.D. HamesおよびS.J.Higgins(1985)Oxford;ワシントンD.C.;IRL Press)。
【0019】
ハイブリダイゼーションの厳しい条件に関し、多くの同等条件を利用し、例えば以下の要因を変化させて一定の厳しい条件を確立することができることは、従来公知である。
プローブおよび標的配列の長さおよび性質、種々の配列の塩基組成、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度および別の成分の濃度、ハイブリダイゼーション溶液中の遮断剤の存在または不在(例えば、ホルムアミド、デキストランスルファートおよびポリエチレングリコール)、ハイブリダイゼーションの反応温度および時間パラメーターならびに洗浄条件の変化
ハイブリダイゼーション条件の特定の組合せは、以下の従来公知の標準法から選択される(例えば、Sambrook等、前記の通り、またはAusubel等、前記の通り、参照)。
【0020】
第1のポリヌクレオチドが、第2のポリヌクレオチドのcDNA領域、ポリヌクレオチドの相補体と同一またはほぼ同一の塩基対配列を有する場合、または第1のポリヌクレオチドが前記のような配列同一性を示す場合、第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドに”由来”する。第1のポリペプチドが(i)第2のポリヌクレオチドに“由来”する第1のポリヌクレオチドで符号化される場合、または(ii)第2のポリペプチドと前記のような配列同一性を有する場合、第1のポリペプチドは第2のポリペプチドに“由来”するとされる。
【0021】
選択マーカー
GOIを組み込んだ宿主細胞を選択するために使用する選択マーカーと、GOIのコピー数を増幅させるのに使用する選択マーカーとを区別するために、後者を“増幅性マーカー”と称することを注記する。選択マーカーおよび増幅性マーカーは従来公知であり、本発明で使用する際には、当業者の所望する特定の発現系をもとに安定な形質移入体が分離することができるように選択される。
【0022】
宿主細胞にストレスを与える選択マーカーにより代謝される薬剤の適切な濃度は、使用する方法に応じて変化する。このような使用に際するパラメーターは当業者が容易に把握できるものである。選択マーカーを符号化する遺伝子が欠損した細胞株も従来公知である。
【0023】
“選択マーカー”はポリペプチドを符号化するが、そのポリペプチドの発現は、本発明の核酸またはベクターでトランスフェクトされた細胞が、細胞へ特定のストレス(例えばG418等の毒物)が加えられても生存できるようにするために必要なものである。本発明で使用できる選択マーカー遺伝子の例は以下のものであるがこれに限定しない。
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、グルタミンシンセターゼ、ジヒドロフォレートレダクターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(Gritz等、1983、Gene25:179〜188およびPalmer等、1987、Proc、Natl.Acad.Sci.USA84:1055〜1059参照)、
キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Mulligan等、1981、Proc.Natl.Acad.Sci.USA78:2072〜2076参照)、
ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、トリプトファンシンセターゼβサブユニット、ブラスチシジンSデアミナーゼ、ゼオシン、アスパラギンシンセターゼ、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、チミジンキナーゼ(Littlefield等、1964、Science145:709〜710参照)、
アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、P−グリコプロテイン、アデノシンデアミナーゼ(Kaufman等、1986、Proc.Natl.Acad.Sci.USA83:3136〜3140参照)、
オルニチンデカルボキシラーゼ、およびCAD(カルバミル−P−シンセターゼ、アスパルテートトランスカルバミラーゼ、ジヒドロ−オロターゼ)
本願明細書に記載するベクターの組成および方法に関し、選択マーカーを符号化する任意の好適な核酸を使用してよい。一般的に本願明細書で使用される選択マーカーは容易に入手できる。
【0024】
本発明の1つの実施形態において、選択マーカーは抗生物質に耐性となる遺伝子、例えばネオマイシン(neo)耐性遺伝子を符号化する。トランスポゾンTn5のネオマイシン耐性遺伝子は、G418およびカナマイシンを含む種々の抗生物質に耐性となるネオマイシンホスホトランスフェラーゼIIを符号化する。選択に要する物質(例えばG418)の最適量は公知の方法に即して細胞株毎に個々に決定できる(Bryan L.E.、1984、Antimicrobial Drug Resistance、L.E. Bryan(編集)、Academic、NY、241〜277頁、参照)。
【0025】
本発明の別の態様において“増幅性マーカー”を本発明のベクターに使用して、GOIの発現を強化している。増幅性マーカーの例には以下のものが含まれる。
ジヒドロフォレートレダクターゼ、P−グリコプロテイン、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、およびCAD(カルバミル−P−シンセターゼ、アスパルテートトランスカルバミラーゼ、ジヒドロ−オロターゼ)
本発明の発現ベクターの1つの実施形態では、neoを選択マーカーとして、DHFRを増幅性マーカーとして使用し、GOIの発現を増加させている。DHFRはプリンの生合成に必須の物質であり、外因性プリンが存在しない場合、DHFRが細胞増殖に必要となる。メトトレキサート(MTX)はDHFRの強力な競合阻害剤であり、MTX濃度が高ければDHFRを高レベルで発現する細胞が選択できる。従来のDHFR増幅法であれば、増幅されたDHFR遺伝子とGOIとを染色体に含んで安定に増幅した細胞を分離することができる。DHFRおよびMTXをそれぞれ選択マーカーとして、および遺伝子増幅に使用する場合は、以下を参照のこと(Maniatis等(1992)Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor,Cold Spring Harbor、NY)。
【0026】
目的遺伝子
“目的遺伝子”(GOI)とは転写発現の増加が求められる任意の核酸配列のことである。GOIは機能性核酸分子(例えばアンチセンスRNA分子のようなRNA)を符号化するかまたは、より一般的に、産生増加が望まれるペプチド、ポリペプチドまたはたんぱく質を符号化する。本発明のベクターを使用して“異種”GOIを発現することができる。本願明細書で使用する用語“異種”とは、異種を起源とする核酸配列またはポリペプチド、あるいは同種起源の原形に実質的な修飾を加えた核酸配列またはポリペプチドを意味する。更に通常、細胞内で発現しない非修飾の核酸配列またはポリペプチドも異種と見なす。本発明のベクターは、1つ以上のGOIを有してよく、GOIは同一のまたは異なる挿入部位に挿入されており、各GOIは、発現を可能にする制御核酸配列と機能的に結合している。従って、本発明のベクターは、種々のたんぱく質(例えば、単量体、二量体および多量体のたんぱく質)の発現に利用することができる。別の実施形態で本発明のベクターは殆ど全ての任意の目的遺伝子の発現に使用でき、特に治療に有効な活性を有するかまたは別の商業用途を示す組換えたんぱく質を符号化する遺伝子の発現に使用できる。本発明のGOIの例には以下のものが挙げられるがこれに限定しない。
エリスロポイエチン、ヒト成長ホルモン、インシュリン、インターフェロンα、βおよび/またはγ、インターロイキン−2のようなインターロイキン類、第VIII因子および第IX因子のような造血因子
【0027】
1つの態様において、GOIは、抗体の重鎖または軽鎖を符号化し、これらの鎖は任意の抗体種、例えばネズミの抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒトの抗体であってよく、2つの鎖は同一抗体または異種抗体に由来してよい。重鎖または軽鎖を符号化するGOIは重鎖または軽鎖のフラグメントのみを符号化していてよく、例えば抗原結合部位またはFc結合部位またはその組合せであってよい。当業者は、抗体の“抗原結合部位”が抗原への結合能を有する抗体の1つ以上のフラグメントであることが認識されよう。抗体の抗原結合能は全長の抗体の一部フラグメントによって行なわれるものであることが知られている。抗体の“抗原結合部位”という用語が意味する結合フラグメントの例には、以下のものが含まれるがこれに限定しない。
(i)Fabフラグメント、V、V、CおよびCH1ドメインを含む一価フラグメント
(ii)F(ab’)フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により相同された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント
(iii)VおよびCH1ドメインを含むFdフラグメント
(iv)抗体のシングルアームのVおよびCドメインを含むFvフラグメント
(v)Vドメインから成るdAbフラグメント(Ward等、1989、Nature341:544〜546)
(vi)分離された相補鎖決定領域(CDR)
更に、Fvフラグメントの2つのドメインであるVおよびVは別個の遺伝子で符号化されるが、組換え法を利用して合成リンカーでつなぎ合わせることにより、VおよびV領域の対は一価の分子を形成する単一たんぱく質として生成される(単鎖Fv(scFv)として公知であり、Bird等、1988、Science242:423〜426;およびHuston等、1988、Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:5879〜5883参照)。このような単鎖抗体も抗体の“抗原結合部位”に含まれる。このような抗体フラグメントは当業者に公知の一般的技術により得られ、更にフラグメントは無傷の抗体と同じ方法で有用性の有無に関して調査される。
【0028】
制御核酸
制御核酸とは、制御核酸と機能的に結合する遺伝子を発現する際、(i)転写、(ii)翻訳または(iii)翻訳後の修飾に対して制御するか、または作用する任意の配列を意味し、この配列はこのような活性を制御する“調節エレメント”を1つ以上有する。制御核酸、ならびに機能的に結合する遺伝子は、同一生物または同一細胞株に由来する必要はない。制御核酸は哺乳動物またはウイルスを起源とするのが好ましい。
【0029】
制御核酸の“調節エレメント”という用語は従来公知であり(Goeddel、Gene Expression Technology、Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、CA、1990)、例えば、転写プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写終止シグナル、ポリアデニル化配列(翻訳終止コドンの3’側に位置する)、翻訳開始を最適化するための配列(コード配列の5’側に位置する)、翻訳終止配列、翻訳後修飾を担う配列(例えばグリコシル化部位)を含む。そして、これらは全て制御配列と機能的に結合する遺伝子の転写および/または翻訳を制御するために利用される。制御核酸の調節エレメントの選択が、形質転換される宿主細胞がどのようなものであるか、所望されるたんぱく質の発現レベルがどの程度であるか等の要因に左右されることを当業者は認識している。
【0030】
本願明細書で使用される“機能的に結合する”という表現は、エレメントの構成を意味し、例えば制御核酸と遺伝子間の機能的な結合であり、その際、このような表現で記載される成分は、一般的な機能を実施できるように構成される。従って、コード配列と機能的に結合するプロモーターは、適切な酵素が存在すれば、コード配列の発現に作用することができる。プロモーターがコード配列を発現しない限り、プロモーターがコード配列に隣接する必要はない。即ち、例えば翻訳も転写もされない配列をプロモーター配列とコード配列の間に介在させてよく、この場合プロモーター配列はやはりコード配列と機能的に結合していると見なされる。
【0031】
用語“プロモーター”には、真核細胞における転写を十分に実施できる任意の核酸配列が含まれ、誘導性プロモーター、抑制性プロモーターおよび構成性プロモーターを包含する。一般的に、プロモーターは、細胞種特異的、組織特異的または時間特異的な方法で制御可能な、または外因性のシグナルまたは外因性の薬剤で誘導可能な、プロモーター−依存性の遺伝子発現を十分に実現できるエレメントを含んでいる。このようなエレメントは特定の遺伝子の5’または3’あるいはイントロン配列領域に位置していてよい。必要であれば制御可能なプロモーターを本発明で使用してもよいが、通常、遺伝子発現は構成されるであろう。好適な制御可能プロモーターの例は、Tet、エクジソンおよびlacリプレッサー配列である。遺伝子発現はまた、メタロチオネイン遺伝子または熱ショック遺伝子を用いる等、熱、光または金属を使用して転写を制御することにより調節できる。当業者は、本発明の商業的利用に際し、非誘導性、非制御性プロモーター、例えばβグロビン遺伝子、CMV、ユビキチンおよびSRαを使用するのが望ましいことを認識している。
【0032】
本発明で使用するプロモーターには、ウイルス、哺乳動物および酵母のプロモーター、例えばネズミβグロビンプロモーター、ユビキチンプロモーター、ポリオーマプロモーター、哺乳動物CMVプロモーター、酵母アルコールオキシダーゼ、ホスホグリセロキナーゼプロモーター、ラクトース誘導性プロモーター、ガラクトシダーゼプロモーター、アデノ関連性ウイルスプロモーター、ポックスウイルスプロモーター、レトロウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、アデノウイルスプロモーター、SV40プロモーター、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムAプロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、H5Rポックスウイルスプロモーター、アデノウイルスタイプ2MPC後期プロモーター、α−アントリプシンプロモーター、キツネIXプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、CFTRの界面活性剤プロモーター、アルブミンプロモーターおよびトランスフェリンプロモーターが含まれる。核酸および本発明の発現ベクターと一緒に使用するために選択されたプロモーターは、(1)例えばGOIの発現促進において、高い発現レベルを示すか、または(2)例えば選択マーカー遺伝子の発現促進において、(修飾で減弱化した後)低い発現レベルを示し得る。GOIを誘導するプロモーターは強力なプロモーターであるのが好ましく、例えば、ユビキチン、CMVおよびSRαプロモーターであり、これらは目的生成物の発現を増加させ、正確なスプライシングを促進する。1つの態様で選択マーカー遺伝子はネズミβグロビン遺伝子プロモーターの制御下にあり、GOIはSRαプロモーター(Takebe等、1988、Molecular and Cellular Biology8:466)またはヒトユビキチンCプロモーター(Nenoi等、1996、Gene175:179)の制御下にある。
【0033】
本発明では、1つ以上の転写調節エレメントが破壊されるように、選択マーカー遺伝子の発現を促進させるために使用するプロモーターを修飾する。即ち、1つ以上のエレメントが有する機能的に結合した遺伝子の発現を促進させる能力を、未修飾のプロモーターと比べて減弱化させる。“転写調節エレメント”とは、機能的に結合した選択マーカー遺伝子の発現に関与するプロモーター内の転写因子結合部位またはエンハンサーエレメントを符号化する任意の核酸配列であるが、TATAボックスまたはそれに類するRNAポリメラーゼII結合部位を除く、つまりTATAボックス配列は本発明において修飾されることはない。プロモーター内の転写因子結合部位およびエンハンサーエレメントは従来公知である(Lemon&Tijan、1999、Genes Dev.14:15;Molecular Biology of the Cell、2002、第4版、B.Alberts等(編集)、Garland Science参照)。本発明で使用する制御核酸は、プロモーター領域が修飾されてプロモーターが減弱化しており、本願明細書では“転写能の減弱した制御配列”と称する。本発明において、転写能の減弱した制御核酸の修飾は、TATAボックスまたはそれに類するRNAポリメラーゼII結合部位の上流300ヌクレオチドの範囲、好ましくは250ヌクレオチドの範囲、より好ましくは200ヌクレオチドの範囲、更に好ましくは150ヌクレオチドの範囲、最も好ましくは100ヌクレオチドの範囲に施される。本発明で使用するプロモーター内に存在する修飾可能な転写調節エレメントの例は、CCATボックス配列およびCACCCエレメントである。
【0034】
機能的に結合した選択マーカー遺伝子の発現を促進させるプロモーター内に存在する転写調節エレメントは、従来技術で実践可能な、核酸を修飾する任意の方法により修飾され、望ましい減弱状態となる。修飾とは例えば、1つ以上のヌクレオチドの挿入、欠失、置換またはそれらの組合せであり、これにより1つ以上の転写調節エレメントに変化が生じる。選択される修飾が欠失、例えば核酸配列の広い範囲の欠失である場合(ただし転写促進活性を損なうことなく操作を容易にする目的でプロモーターに施される5’末端の典型的な欠失、即ちトランケーションを除く)、それは内部欠失であってよく、結果として所望の減弱したプロモーターが得られる。1つ以上の転写調節核酸を修飾して未修飾プロモーターよりも減弱化したプロモーターが得られるのであれば、減弱化のためにプロモーターへ施される修飾の特殊性は重要ではない。プロモーターへ施される修飾は選択マーカーの発現を以下に記載する程度まで減弱化するように実施されるのが好ましい。即ち、選択マーカー遺伝子を促進する未修飾プロモーターと比べ、本発明のベクターをトランスフェクトした後に得られる生存可能なコロニーの数が顕著に減少するまで減弱化されるのが好ましい(例えば、以下の実施例に示す。実施例4参照)。
【0035】
特殊な態様として、選択マーカー遺伝子をドライブするプロモーターは、特性の知られたネズミβグロビン主要プロモーターである(Berg等、1983、Mol.and Cell.Biology3:1246;Ward等、1990、J.Biological Chemistry265:3030;Stuve等、1990、Mol.and Cell Biology10:972;米国特許第5,733,799号明細書;および米国特許第6,042,835号明細書)。このような特殊なプロモーターは非赤血球細胞で活性化されるエンハンサーを必要とする。チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)形質移入体におけるネズミβグロビンプロモーターの強度は、同一ベクターDNA上に存在する強力なエンハンサーへの近接度に依存することが知られている(Reff、M.E.and Pfarr、D.S.:Gene Amplification in Mammalian Cells R.E. Kellems(編集)、Marcel Dekker、Inc.335、1992)。プロモーターを活性化するのに重要なネズミβグロビンプロモーター内の転写調節エレメントには、例えばCACCCおよびCCAATボックスエレメントが含まれ、同定され、および特徴付けされる(Lemon&Tijan、1999、Genes Dev.14:15;Mantovani、1999、Gene239:15;Molecular Biology of the Cell、2002、第4版、B.Alberts等(編集)Garland Science)。本発明のベクターの特殊な態様では、選択マーカー遺伝子を促進するネズミβグロビンプロモーターを突然変異させ、CCAATおよびCACCC調節エレメントを含むプロモーター内の128塩基対を除く。CCAATおよびCACCC調節エレメントは転写因子によって結合され、プロモーターの強度を減弱し、選択マーカー遺伝子の転写開始率を低下させる。別の態様では発現ベクターを操作し、更に、増幅マーカーとしてネズミジヒドロフォレートレダクターゼ(dhfr)を符号化させており、その結果、メトトレキサート(MTX)処理に反応する形質移入体において、遺伝子増幅によりGOIは高レベルで発現される。
【0036】
本発明で使用する減弱したプロモーターは、1つ以上の転写因子結合部位(TFBS)を修飾して転写的に減弱させる。例えば、点突然変異、欠失、置換あるいは転写因子の結合を弱めるような、即ち転写因子の結合を別の等価の未修飾プロモーターよりも劣らせるようなTFBSの修飾法が含まれる。本発明の減弱したプロモーターは、機能的に結合する選択マーカー遺伝子の発現を低下させる。TFBSには、TATAボックス配列を除く、転写因子が結合できるプロモーター内の任意の核酸配列が含まれる。このような配列は従来公知であり、従って、本発明で使用するプロモーター内でも容易に同定できる。本発明で使用するプロモーター内の修飾可能なTFBSの例として、CCAATおよびCACCCが挙げられる(Lemon&Tejan、前記の通り;Mantovani、前記の通り;Alberts等、前記の通り、参照)。本願明細書で使用する“修飾CCAATボックス”または“修飾CACCCエレメント”とは、部分的または全体的な欠失あるいはヌクレオチドの挿入または置換といった別の破壊的手段により転写因子結合部位の核酸配列が欠如し、その結果プロモーター活性が所望の減弱化となることを意味する。
【0037】
一般的に、遺伝子(例えば選択マーカーおよびGOI)はプロモーターとポリアデニル化部位との間に挟まれている。使用するポリA配列は目的遺伝子(即ち自生のポリA配列を使用できる)に由来してもよく、BGHポリAおよびSV40ポリAのような異種のポリA配列(即ちGOIとは別の遺伝子に由来する)を使用してもよい。mRNAはプロモーターから転写され、符号化領域の3’側に位置するポリアデニル化シグナルで安定化される。ポリAシグナルは従来公知であり、本発明で使用するベクターおよび宿主細胞と併用するのに適しているかをもとに選択される。使用できるポリAシグナルの例としてヒトBGHポリA、SV40ポリA、ヒトβアクチンポリA、ウサギβグロビンポリA、免疫グロブリンκポリAが挙げられる。
【0038】
発現ベクター
前述の本発明の発現ベクター系の成分、即ち、選択マーカー遺伝子、GOIおよび適切な制御配列を、バックボーンを形成する数種の好適なベクターへ組み込み、発現ベクターおよびコンストラクトの操作を容易にする。更に、微生物での複製を可能にする手段を内包するベクターへ成分を組み込めば、コンストラクトの増殖と分離がかなり容易になる(即ち、シャトルベクターの生成)。用語“ベクター”および“発現ベクター”は本願明細書では同義的に使用され、(1)減弱したプロモーターを有する制御核酸配列と機能的に結合する選択マーカー遺伝子、(2)制御核酸配列と機能的に結合するGOIを挿入する挿入部位を含む任意の核酸を意味し、好ましくは、DNAを意味する。従ってベクターが選択マーカー遺伝子とGOIとを含有する本発明の特殊な態様では、2つの遺伝子が相関していると考えられる。本願明細書において“相関する”ならびに文法的に異なる同様の表現は、2つの独立した核酸、一般的には遺伝子が、同一ベクター内でDNAの連続した領域に存在することを意味する(ベクター上で2つの相関したDNA配列間にDNAが介在してもよい)。
【0039】
本願明細書で使用されるベクターにはGOIの発現を導くことができる任意の核酸コンストラクトが含まれ、前記ベクターは遺伝子配列を標的細胞へ移入できる。即ちベクターは発現が望まれる遺伝子と機能的に結合したプロモーターを含む。遺伝子を発現させるのに必要なベクター成分に加え、ベクターは、バクテリアの複製起点、別の選択マーカーまたは増幅性遺伝子、DNAを1本鎖で存在させるためのシグナル配列(例えばM13の複製起点)、マルチクローニング部位、および哺乳動物の複製起点(例えばSV40またはアデノウイルスの複製起点)を含む。ベクターバックボーンについては以下に詳細に記述される。ベクターは標的細胞へ遺伝子配列を移入することができる(例えばウイルスベクター、非ウイルスベクター、微粒状キャリアー、リポソーム)。ベクターはクローニング、発現等で得られた任意のベクターでよく、ウイルスを含む任意の起源でもよい。1つの態様でベクターは哺乳動物の発現ベクターである。
【0040】
発現ベクターは、通常、複製のための1つ以上のエレメント、例えば複製起点を有し、エピソーム性でも染色体でもよい。複製配列は、ベクターが染色体外ユニットとしての自己複製するのを可能にする、または染色体への組み込みを可能にする。これらは挿入配列やトランスポゾンのような転位配列の存在、または、染色体に存在する配列との実質的な相同性、あるいは非相同的な組換え作業により可能となる。複製配列またはレプリコンは、形質転換宿主により認識されるものであり、都合のよい起源に由来してよく、例えばプラスミド、ウイルス、宿主細胞、例えば自己複製分節それ自体、または自己複製分節の動原体との組合せなどであってよい。本発明では特殊な複製配列であることは重要でなく、種々の配列を利用できる。ウイルスの複製配列の使用が好都合である。
【0041】
発現ベクターおよびその調整法は、従来公知であるか(例えばManiatis等、前記の通り、参照)または商業ベンダー、例えばInvitrogen(Carlsbad、CA)、Promega(Madison、WI)およびStratagene(La Jolla、CA)を通じて入手でき、必要ならば修飾を加える。商業的に入手可能な発現ベクターには、pcDNA3(Invitrogen)およびpCMV−Script(Stratagene)が含まれる。ベクター成分である制御核酸、選択マーカー遺伝子、増幅マーカーおよびGOIは、通常、業者から入手するかまたは天然源(例えば動物の組織または微生物)から分離されるか、あるいはPCR等の合成手段により調整されてもよい。成分構成は、当業者が実際に望む任意の配列であってよい。
【0042】
本発明で使用されるベクターは、ウイルス粒子またはウイルス様粒子を生じるウイルスゲノムに由来してよく、ウイルス粒子またはウイルス様粒子は染色体外エレメントとして独立して複製されてもされなくてもよい。高発現遺伝子座に係るDNAを含むウイルス粒子をインフェクションにより宿主細胞へ導入することができる。ウイルスベクターは細胞ゲノムへ組み込まれてもよい。哺乳動物細胞を形質転換させるウイルスベクターの例として、SV40ベクター、パピローマウイルス、アデノウイルス、エプスタイン−バーウイルス、ワクシニアウイルスおよびレトロウイルス(例えばラウス肉腫ウイルス)、またはネズミ白血病ウイルス(例えばモロニーネズミ白血病ウイルス)をベースとするベクターが挙げられる。哺乳動物細胞では、エレクトロポレーションまたはウイルス媒介型の導入を利用できる。
【0043】
本発明で使用する発現ベクターの例を図4に示す。特にこの態様は、抗体の重鎖および軽鎖の発現に使用することができる。軽鎖可変領域(即ち1つ目の目的遺伝子)をBgIII/BsiW制限部位へ挿入することができる。重鎖可変領域(即ち第2の目的遺伝子)をNheI/NotI制限部位へ挿入することができる。当業者は、別の目的遺伝子を発現させるために、抗体鎖の産生に有用な配列であるκ定常領域およびγ1定常領域を除くことによって、図4に示す発現ベクターに修飾を加えることができる。ポリA等の制御核酸も実務者の必要に応じて変更することができる。
【0044】
宿主細胞および調製
本発明の核酸または発現ベクターを介して遺伝子発現が可能な任意の細胞種を宿主細胞として本発明において使用できる。用語“宿主細胞”とは、組換えDNA技術を利用したり少なくとも1種の外来遺伝子、即ち減弱したプロモーターと機能的に結合した選択マーカー遺伝子を符号化させたりしてコンストラクトしたベクターで形質転換される細胞を意味する。1つの実施形態で宿主細胞は、G418のようなアミノグリコシド系抗生物質に対して感受性があるが、当該細胞における発現に関しカナマイシン耐性遺伝子またはネオマイシン耐性遺伝子を保有してよい。このような細胞の例としてHeLa細胞、CV−1細胞、CHO細胞、3T3細胞、L細胞あまたはTC7細胞が挙げられる。
【0045】
当業者は本発明のベクターを介してGOIと選択マーカー遺伝子とを発現させるのに最適な特定の宿主細胞株を選択できる。本発明で使用できる細胞には、哺乳動物細胞およびイースト細胞(例えば、酵母)、ならびにそれらの細胞に由来する細胞株および細胞培養が含まれる。生殖細胞または体細胞のような哺乳動物細胞は、マウス、ラット、またはその他のげっ歯類、またはヒトやサルといった霊長類などの哺乳類に由来してよい。本発明の技術を実施するのに一次細胞培養または不死化細胞を使用できることを理解しておく必要がある。
【0046】
特定の実施形態において、細胞株は哺乳動物またはイーストを起源としてよく、その例として以下のものが挙げられるがこれに限定しない。
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)(例えば、DG44およびDUXB11;Urlaub等、Som.Cell Molec.Genet.12:555、1986;Haynes等、Nuc.Acid.Res.11:687〜706、1983;Lau等、Mol.Cell.Biol.4:1469〜1475、1984;Methodeds in Enzymology、1991、vol.185、537〜566、Academic Press,Inc.、San Diego、CA)、
チャイニーズハムスター線維芽細胞(例えばR1610)、
ヒト子宮頸癌細胞(例えばHELA)、
サル腎臓細胞(例えばCVIおよびCOS)、
ネズミ線維芽細胞(例えばBALBc/3T3)、
ネズミ骨髄腫細胞(p3x63−Ag3.653;NSO;SP2/0)、
ハムスター腎臓細胞(例えばHAK)、
ネズミL細胞(例えばL−929)、
ヒトリンパ球細胞(例えばRAJI)、
ヒト腎臓細胞(例えば293および293T)、
酵母宿主細胞系(例えばRE35749;US5,620,203;Gellissen等、Antonie Van Leeuwenhoek62:79〜93(1992);Romanosra ,Yeast8:423〜488(1992);Goeddel,Methods in Enzymology 185(1990);GuthrieおよびFink、Methods in Enzymology194(1991)に記載)
一般的に、宿主細胞株は(例えばBD Biosciences、Lexington、KY;Promega、Madison、WI;Life Technologies、Gaithersburg、MDから)購買入手可能であるか、またはAmerican Type Culture Collection(ATCC、Manassas、VA)から入手できる。
【0047】
従来公知の様々な技術により、核酸および発現ベクターを適切な宿主細胞に導入するか、またはトランスフェクトさせることができる(例えばRidgway、1973、Vectors:Mammalian Expression Vectors、第24.2章、470〜472頁、RodriguezおびDenhardt編集、Butterworths、Boston、MA;Graham等、1973、Virology52:456;Sambrook等、1989、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York;Davis等、1986、Basic Methods in Molecular Biology、Elsevier;およびChu等、1981、Gene13:197)。用語“形質転換”および“トランスフェクション(形質移入)”、ならびに文法的に異なる同様の表現は、本願明細書で同義的に使用され、実施可能な任意の手段による細胞の外因性DNAの取り込みを意味する。外来核酸が細胞膜内へ導入されると細胞は“形質転換”する。取り込み方法がどのようなものであれ、核酸が取り込まれれば安定な形質移入体が生じる。取り込み方法としては以下のものが挙げられる。
トランスフェクション(エレクトロポレーションを含む)、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム沈殿、エンベロープDNAによる細胞融合、マイクロインジェクション、および無傷ウイルスの感染
通常よりも高いレベルの一過性の発現さえ、機能試験あるいは目的たんぱく質の産生および回収に有用である。形質転換された細胞を、GOI(例えば、1つの態様では抗体重鎖および/または軽鎖)の産生に適する条件で増殖させ、符号化された目的ポリペプチドを同定するためにアッセイを行う。遺伝子産物を同定および定量するための典型的なアッセイ技術には、酵素結合抗体免疫吸着法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)または蛍光活性化セルソーター分析(FACS)、免疫組織化学などが含まれる。
【0048】
本発明において、本発明の核酸またはベクターによる永続的な(即ち安定な)形質転換が起こるのが好ましい。これには組換えによる形質転換DNAの細胞ゲノムへの組み込みが伴う。タグ化された高い発現遺伝子座を生じる挿入型の形質転換は、相同組換えによると考えることもできるが、通常、任意のゲノムの位置にタグを含むDNAコンストラクトの非相同組換えにより起こる。
【0049】
本発明の方法で得られる形質転換細胞を使用して、細胞が実質的に不死化した継続細胞株の調整またはin vitroで継代培養できる株化細胞の調整が可能である。継続細胞株および株化細胞は種々の生物および器官、例えば、げっ歯類の胚、霊長類の腎臓、げっ歯類およびヒトの腫瘍、および線維芽細胞、上皮細胞またはリンパ系細胞から得られる。必要であれば、高レベルの発現を示す細胞をクローン化してよい。
【0050】
本発明で使用する細胞を標準的な細胞培養技術に従って培養することができ、例えば細胞を固体表面へ固定するか、または適切な栄養培地中で浮遊増殖させてよい。
【0051】
核酸分子に関して本願明細書で使用される用語“組換え”とは、ゲノム、cDNA、半合成体または合成体を起源とするポリヌクレオチドを意味する。このようなポリヌクレオチドは、その起源または操作により、(1)本来関連するはずのポリヌクレオチドの全体または一部と関連を有さず、かつ/または(2)本来結合するはずのポリヌクレオチドとは異なるポリヌクレオチドと結合する。たんぱく質またはポリペプチドに関して本願明細書で使用される用語“組換え”とは、組換えポリヌクレオチドの発現により生じるポリペプチドを意味する。細胞に関して本願明細書で使用される用語“組換え”とは、組換えベクターまたは別のT−DNAの受容体となり得るまたは受容体として使用されてきた細胞を意味し、トランスフェクトされた最初の細胞の子孫も含まれる。親細胞の子孫は、偶発的または意図的な突然変異のため、親細胞と形態的にもゲノム的にもあるいは全DNAの相補性も完全に同一ではないことを理解する必要がある。所望のポリペプチドを符号化するヌクレオチド配列の存在等の関連特性を特徴とする、親細胞と非常によく似た子孫もまた、子孫と見なされる。
【0052】
本発明は、所望される機能性ポリペプチドの発現について記載するものであるが、ポリペプチドが必ずしも発現ベクターにより産生される目的産物である必要はないことを認識すべきである。従って、例えば、本発明の発現ベクターは一般的にDNAを含む真核性の遺伝子転写産物および発現産物の産生に有用である。
【実施例】
【0053】
実施例1:pAGE2(plasmid for AntiGen Expression2;AntiGen Expression2のプラスミド)のコンストラクト
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)選択マーカーを促進させるSV40プロモーターをネズミβグロブリン主要プロモーターで置換し、pAGE2ベクターをpcDNA3.1(+)ベクターバックボーン(Invitrogen#V790−20)からコンストラクトした。(Berg等、1983、Molecular and Cellular Biology 3:1246およびWard等、1990、J.Biol.Chem.265:3030)。更に、ネズミジヒドロフォレートレダクターゼ(DHFR)増幅性マーカー(Nunberg等、1980、Cell 19:355)を含む発現カセットをneoカセットの上流へ挿入した。
【0054】
pAGE2生成時にベクターバックボーンへ挿入した領域は、アセンブリしたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅産物に由来するDNAアセンブリである。増幅産物には、5’→3’方向に、ネズミβグロビンプロモーター、ネズミDHFR符号化領域、SV40ポリアデニル化領域(ポリA)および第2のネズミβグロビンプロモーターを含む。βグロビンプロモーター、DHFR符号化領域およびSV40ポリAのPCR増幅用テンプレートは、それぞれ、Medarex Humab Mouse(登録商標)ゲノムDNA(図2参照、Fishwild等、1996、Nature Biotechnology14:845)、P3X63Ag8.653細胞株(ATCC#CRL−1580)のcDNAおよびベクターバックボーンのベクターDNAそれぞれに由来した。また、この領域を別の標準的な分子生物学的技術によってコンストラクトすることができ、例えば合成DNAをアセンブリして産出した。ベクターバックボーンを、特殊なAvrIIおよびBsaBI制限酵素部位で切断し、その部位間の69塩基対部分にアセンブリしたDNAを挿入して置換した。また、ネオKozak配列のATG開始コドンに対して−2および−3の部位でヌクレオチドをCGからTCへ変更した。699個の脊鎖mRNAを分析したところ、−2および−3部位のTC配列はCG配列よりも劣勢であることが判明したが(M.Kozak、1987、Nuc.Acids Res.15:8125)、Kozakモチーフはいずれも−3部位にピリミジンを有し、弱い翻訳イニシエーターである。
【0055】
従って、アセンブリしたPCR産物の挿入により得られたpAGE2ベクターに、以下のエレメントを含んだ。
アンピシリン耐性遺伝子、マルチクローニング部位とその上流に位置するウイルスプロモーター、マルチクローニング部位に続くポリA配列(発現する目的遺伝子の挿入を可能にする)、f1 ori、DHFR遺伝子と機能的に結合するネズミβグロビン主要プロモーター、それに続く機能的に結合したSV40ポリA配列、ネオマイシン遺伝子と機能的に結合した第二のネズミβグロビン主要プロモーター、それに続く機能的に結合したSV40ポリA配列
挿入領域は、図1A〜1Bにおいて配列に注釈を付けて示している(配列番号:1)。
【0056】
実施例2:pAGE8およびpAGE9のコンストラクト
neo選択マーカー遺伝子の発現を促進させるネズミβグロビンプロモーターを減弱化するために、プロモーター内の転写調節エレメントを取り除いた。pAGE8ベクターをpAGE2ベクターからβグロビンプロモーターのRsaIとMs1Iの制限酵素部位間に存在する199bpを除いてコンストラクトした(図2参照)。pAGE9ベクターは、pAGE2からβグロビンプロモーター内のRsaI制限酵素切断部位のすぐ下流128bpを除いてコンストラクトした。pAGE2のネズミβグロビン主要プロモーター配列(配列番号:2)ならびにpAGE8およびpAGE9の修飾ネズミβグロビン主要プロモーター配列(配列番号S:3および4)を図2に示す。pAGE8ベクターのβグロビンプロモーターにはCCAATとTATAエレメントの両方が欠如しているが、pAGE9ベクターのβグロビンプロモーターではCCAATが欠如しているもののTATAエレメントは残存している。
【0057】
実施例3:pAGE2、pAGE8およびpAGE9発現ベクターへの目的遺伝子のサブクローニング
目的遺伝子(GOI)を符号化するDNA配列(165のアミノ酸を有するたんぱく質)をPCR増幅し、pAGE2、pAGE8およびpAGE9各ベクターのマルチクローニング部位に存在するHindIIIおよびXhoI部位へサブクローニングした。pAGE2、pAGE8およびpAGE9のGOIコンストラクトは、neo発現するβグロビンプロモーターに加えられた修飾を除いて同一の配列を有する。
【0058】
実施例4:pAGE2、pAGE8およびpAGE9GOI試験ベクターコンストラクトによる宿主細胞のトランスフェクション
DHFR活性の欠如したチャイニーズハムスターの卵巣細胞株CHO DG44(Urlaub等、Som.Cell Molec.Genet.12:555、1986)を宿主細胞として使用し、pAGEコンストラクトからGOIを発現させた。CHO DG44細胞を、HAT(100μM ヒポキサンチン、16μM チミジン;Invitrogen#11067−030)を補足した増殖培地(CHO SSFMII;Invitrogen#31033−020)中で浮遊培養して増殖させた。
【0059】
GOIを含むpAGE2、pAGE8およびpAGE9コンストラクトをBglII制限酵素で切断して直線状にした。DNAをエタノール沈殿させ10mMのTris7.6、1mMのEDTA中に再懸濁した。
【0060】
細胞をスクロース緩衝溶液(SBS)で洗浄し、細胞をSBS溶液1mlあたり1×10細胞となるように再懸濁し、トランスフェクション用のCHO細胞を調製した。細胞(400μl)をpAGEコンストラクトDNAと混合し、230ボルト、400マイクロファラデーの静電容量および13オームの抵抗(BTX Molecular Delivery Systems#600エレクトロセルマニピュレーター;San Diego、CA)でエレクトロポレートした(各コンストラクトで0.5μgのDNAを用いてエレクトロポレーションを4回、0.2μgのDNAを用いてエレクトロポレーションを3回)。エレクトロポレーション用のキュベットから細胞を除き、増殖培地20mlを添加し、各ウェルあたり細胞200μlを96穴プレートに接種した(約4×10細胞/ウェル)。エレクトロポレーション後2日目に各ウェルから培地150μlを除き、代わりに選択培地150μlを添加した(G418 400μg/mlを含む増殖培地(Invitrogen#10131−035))。3日から7日まで毎日、ウェル毎に選択培地150μlを新しい選択培地に入れ替えた。エレクトロポレーションから34日間、プレート毎に生存可能な細胞コロニーを有するウェルの数を計数した。
【0061】
表Iから分かるように、pAGE2GOIコンストラクトでは7回のエレクトロポレーションで118の生存可能コロニーが存在し、pAGE8およびpAGE9GOIコンストラクトではエレクトロポレーション後の生存可能コロニーはそれぞれ0と1であった。このデータは、neo発現を促進させるプロモーターに修飾を加えていないpAGE2コンストラクトを用いたエレクトロポレーションと比較して、neo選択マーカーの発現を弱めるように修飾を加えたプロモーターを含むpAGE8およびpAGE9コンストラクトを用いたエレクトロポレーションから、G418選択で生き残る細胞がほとんど無いことを示している。
【0062】
【表I】

【0063】
pAGE8およびpAGE9GOIのエレクトロポレーションで生存可能なコロニーを得るために、エレクトロポレーションでのDNA濃度を(以下の表IIに示す量まで)増やし、前述のGOIと同様にCHO細胞をエレクトロポレートした。エレクトロポレーションの結果、pAGE2、pAGE8およびpAGE9コンストラクトでそれぞれ251、38および287の生存可能なコロニーが得られた(表II参照)。
【0064】
【表II】

【0065】
コロニーがウェル中で約20〜40%集積する場合には、GOIが符号化するたんぱく質の培養上清中の濃度をエレクトロポレーション後、22日目、27日目、32日目、36日目、41日目および47日目にELISAで測定した。図3は、各コンストラクトで得られたコロニーの数をそのタンパク質発現レベルと比較表示したヒストグラムである。pAGE8でエレクトロポレートした細胞では低いたんぱく質発現レベルを有する38の生存可能コロニーのみが見られた。pAGE2コンストラクトでエレクトロポレートした細胞では500ng/ml以下のGOI発現レベルを示すコロニーが245/251(98%)見られ、GOI発現レベルが1000ng/mlを越えるコロニーは僅か1/251(0.3%)であった。これに対し、pAGE9コンストラクトでエレクトロポレートした細胞では500ng/ml以下のコロニーは254/287(88%)であり、1000ng/mlの発現レベルを越えるコロニーは10/287(3%)であった。従って、neo選択マーカーの発現を促進させるネズミβグロビンプロモーターに修飾を加えたpAGE9コンストラクトが、最も高いGOIたんぱく質発現レベルを示す形質移入体のコロニーを最も高い割合で生じている。
【0066】
実施例5:pIE(plasmid for Immunoglobulin Expression;Immunoglobulin Expressionのためのプラスミド)のコンストラスト
組換え抗体を発現する第2ベクター系列(pIEと称する)をコンストラクトした。βグロビンプロモーターに修飾を加えたpAGE9ベクターを用いて、抗体を高率で産生する形質移入体のコロニーの数を増加させた。このベクターはpAGE9ベクターバックボーンに、抗体の軽鎖たんぱく質および重鎖たんぱく質の2つの独立した発現カセットを含むように修飾される。代表的なpIEベクターを図4に示す。2種類の任意の目的遺伝子(例えばレセプター複合体のサブユニットまたはその他のたんぱく質)を発現できるようにpIEベクターを修飾することができるということは当業者に明らかである。
【0067】
軽鎖発現カセットを、pAGEベクターのたんぱく質発現カセットに修飾を加えて作成した。BbsIとXbaI部位間に存在するタンパク質発現カセットの元のポリA領域をヒトκポリA領域で置換した(Hieter等、Cell22:197、1980)。BglIIによるプラスミドの切断とその後のKlenow処理により、たんぱく質発現カセットプロモーターの上流に位置するBglII認識部位を破壊した。翻訳終止コドンの後ろの3’XbaI部位、5’AvrII、BglII、PmeI、HindIII、KpnIおよびκ定常領域の最初の2つのコドンを符号化するBsiWI部位へ加えたプライマーを使用して合成κ定常領域テンプレートからヒトκ定常領域をPCR増幅した。κ定常領域および制限酵素クローニング部位を含むPCRフラグメントをAvrIIおよびXbaIで切断し、pAGEベクターたんぱく質発現カセットのマルチクローニング部位のNheIおよびXbaI部位へサブクローン化した。強力なプロモーター、例えばヒトユビキチンCプロモーター(U)(Nenoi等、Gene175:179、1996)またはSV40後期領域にスプライス部位(SR)を有するSRαプロモーター(Take be等、Molecular and Cellular Biology8:466、1988)を、軽鎖の発現を促進するNruIおよびBglII部位間に挿入した。組換え軽鎖を発現させるために、シグナル配列および最適のKozak配列を含む抗体κ可変領域cDNAを、κ定常領域を含むフレーム内のBglIIおよびBsiWI認識部位へサブクローン化した。
【0068】
重鎖発現カセットはneo発現カセットの下流に位置する一意のPci部位において作成された。ヒトκポリAテンプレートを、5’にPciI、NotI、XhoI、NheIおよびBamHI部位ならびに3’にNcoI部位へ加えたプライマーを用いてPCR増幅した。PCR増幅生成物をPCiIおよびNcoI制限酵素で切断し、pAGE9ベクターのPciI部位へクローン化した。γ1定常領域の最初の2つのコドンを符号化する5’NheI認識部位と翻訳終止コドンに続く3’BamHI部位を含むヒトγ1cDNAを、ベクターのNheIおよびBamHI部位へサブクローン化した。ヒトユビキチンCまたはSRαプロモーターをベクターのPciIおよびNotI部位へクローン化した。組換え重鎖を発現させるため、シグナル配列と最適のKozak配列を有する抗体の重鎖可変領域cDNAを、NotIおよびNheI認識部位およびγ定常領域枠内へ一般的な方法でサブクローン化した。図4を参照のこと。
【0069】
重鎖および軽鎖カセット中のプロモーター(ユビキチン、Uと略記する、またはSRα、SRと略記する)を変化させ、γ1重鎖定常領域をγ4定常領域で置換するかまたはz、fおよびfaを含む種々のγ1アロタイプ(WHO、J.Immunogenetics3:357、1976)で置換して、一連のpIEベクターをコンストラクトした。従って、pIEベクターは、以下のベクターを含む。
pIE−Uγ1z、pIE−Uγ1f、pIE−Uγ1fa、pIE−Uγ4、pIE−SRγ1z、pIE−SRγ1f、pIE−SRγ1fa、pIE−SRγ4
ベクターは、pIEベクターバックボーン、重鎖および軽鎖の発現を促進させるプロモーターならびに重鎖定常領域のイソタイプおよびアロタイプを表している。
【0070】
実施例6:CHO細胞の形質移入体による組換え抗体の発現
ヒトの完全なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに由来する抗体重鎖および軽鎖可変領域cDNAを、前述のpIEベクターの重鎖および軽鎖発現カセットへサブクローン化した。pIE抗体コンストラクトを使用し、pAGE9試験GOIコンストラクトの前述のプロトコールに従ってCHO DG44宿主細胞をトランスフェクトした。pIEコンストラクトでGOIをトランスフェクトした結果、高率で抗体を産生するコロニーの割合が増加し、このことはpAGE9試験抗原で得られた結果に類似していた。図5は、典型的なモノクローナル抗体mAb1を様々な発現レベルで発現する96穴中のコロニーの数を抗体発現レベルはELISAで測定して比較したヒストグラムである。96穴中、コロニーの20/322(6%)が1000ng/mgを越える抗体を産生した。
【0071】
CHO細胞をトランスフェクトするために6個のpIE抗体コンストラクトを使用した。1000個より少ない96穴中のコロニーに関し、コンストラクト毎にIgG産生レベルを選別し、各コンストラクトで最も多く抗体を産生するコロニーを撹拌フラスコへ移し、その比産生能を測定した。コンストラクトの組み込み部位の数をサザンブロット分析で調査した。形質移入クローンの挿入部位数が少なくても、IgG産生レベルは14pg/細胞/日を上回る。従って、6個のpIEコンストラクトの各形質移入体が示す高い抗体発現レベルは、数多くのコンストラクトのコピーが宿主染色体の多くの挿入部位へ組み込まれることと無関係である。
【0072】
【表III】

【0073】
実施例7:メトトレキサート(MTX)処理による増幅
DHFR発現カセットを前述のpAGEおよびpIEベクターへ処理し、ベクターをCHO DG44細胞のトランスフェクトに使用した。増幅を誘導するために、MTXを5nM、50nMまたは500nM補足したCHO SSFMII培地(Invitrogen#31033−020)で細胞を増殖させた。mAb4を生じる特殊な形質移入体はpIEコンストラクトを含む1つの挿入部位を有し、50nM MTXでの増幅前に8pg/細胞/日の産生能を示した。増幅後、産生能は3倍に増加し、コンストラクトのコピー数は7倍に増加した。1つの挿入部位と4pg/細胞/日のmAb産生能を示すmAb1を産生する形質移入体は、5nM、50nMおよび500nM MTXでの逐次的な増幅において、遺伝子のコピー数は8倍に増加し、産生能は12倍に増加した。
【0074】
当業者は、本願明細書に記載する本発明の特定の実施形態に類似する様々な態様について、慣例的な実験を行い、認識または把握している。類似の実施形態は本願請求項に包含されているものと考える。
【0075】
本願明細書で引用した全ての特許、出願中の特許明細書およびその他の文献は参照によりその全文を参照することにより本願明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】DNAフラグメント(配列番号:1)の配列を示す図である。5’から3’方向に、ネズミβグロビン主要プロモーター、DHFR遺伝子、SV40ポリA配列、第2のネズミβグロビン主要プロモーターおよびneo遺伝子の一部を含む。
【図1B】DNAフラグメント(配列番号:1)の配列を示す図である。5’から3’方向に、ネズミβグロビン主要プロモーター、DHFR遺伝子、SV40ポリA配列、第2のネズミβグロビン主要プロモーターおよびneo遺伝子の一部を含む。
【図2】pAGE2のネズミβグロビン主要プロモーター(配列番号:2)およびpAGE8およびpAEG9の修飾ネズミβグロビン主要プロモーター(配列番号S:3および4)の配列を示す図である。転写制御配列であるCACCC、CCAATおよびTATAを下線で示す。ダイレクトリピートのエレメントを二重下線で示す。
【図3】pAGE2、pAGE8またはpAGE9ベクターでトランスフェクトしたCHO細胞から得られるコロニーの数をそのタンパク発現レベル(ng/ml)で比較したヒストグラムである。
【図4】pIE−Uγ1ベクターの概略図である。
【図5】pAGE9と同じ修飾βグロビンプロモーターを有するpIEベクターでトランスフェクトしたCHO細胞から得られるコロニーの数と抗体発現レベル(ng/ml)を比較したヒストグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)転写能の減弱したプロモーターを含む制御核酸と機能的に結合した選択的マーカー遺伝子と、
(2)制御配列と機能的に結合した相同性の目的遺伝子を挿入するための1または複数の挿入部位と、を含む、発現ベクター。
【請求項2】
前記転写能の減弱したプロモーターは、修飾CCAATboxまたは修飾CACCCエレメントを含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
前記目的遺伝子を1または複数含有し、各該遺伝子が1または複数の前記挿入部位で制御核酸と機能的に結合する、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項4】
前記選択的マーカー遺伝子は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼである、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記選択的マーカー遺伝子は、グルタミンシンセターゼ、ジヒドロフォレートレダクターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ヒグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、キサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ、トリプトファンシンターゼβサブユニット、ブラスチシジンSデアミナーゼ、ゼオシン、アスパラギンシンターゼ、ヒポキサンチン−グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、チミジンキナーゼ、アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、P−グリコプロテイン、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、CAD(カルバモイル−P−シンセターゼ、アスパルテートトランスカルバミラーゼ、ジヒドロオロターゼ)から成る群より選択される、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記目的遺伝子は、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖から選択されるたんぱく質を符号化する、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記制御核酸と機能的に結合する第1の前記目的遺伝子、および前記制御核酸と機能的に結合する第2の前記目的遺伝子を含む、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項8】
前記制御核酸と機能的に結合する前記第1の目的遺伝子、および前記制御核酸と機能的に結合する第2の目的遺伝子を含み、第1および第2の前記目的遺伝子が、それぞれ免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を符号化する、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項9】
前記制御核酸と機能的に結合する増幅性遺伝子を符号化する核酸を更に含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項10】
前記増幅性遺伝子は、ジヒドロフォレートレダクターゼである、請求項9に記載の発現ベクター。
【請求項11】
前記増幅性遺伝子は、P−グリコプロテイン、アデノシンデアミナーゼ、オルニチンデカルボキシラーゼ、およびCAD(カルバモイル−P−シンセターゼ、アスパルテートトランスカルバミラーゼ、ジヒドロオロターゼ)から成る群より選択される、請求項9に記載の発現ベクター。
【請求項12】
(i)CCAATボックス配列の欠如したβグロビン遺伝子プロモーターを含む、制御核酸と機能的に結合した選択マーカー遺伝子と、
(ii)制御核酸と機能的に結合した1または複数の目的遺伝子と、を含む、発現ベクター。
【請求項13】
前記βグロビン遺伝子プロモーターは、CACCCエレメントが欠如する、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
1または複数の前記目的遺伝子は、免疫グロブリン軽鎖および免疫グロブリン重鎖から選択されるたんぱく質を符号化する、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記βグロビン遺伝子プロモーターは、配列番号:4に示す配列と少なくとも70%の配列同一性を有し、前記βグロビン遺伝子プロモーターは、CCAATボックス配列が欠如し、かつTATAボックス配列を有する、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項16】
前記制御核酸と機能的に結合したジヒドロフォレートレダクターゼ遺伝子を更に含む、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項17】
前記修飾βグロビンプロモーターは、前記転写能の減弱したプロモーターを含む、図4に記載の発現ベクター。
【請求項18】
前記修飾βグロビンプロモーターは、配列番号:4に示す配列と少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含み、前記修飾βグロビンプロモーターは、CCAATボックス配列が欠如し、かつTATAボックス配列を有する、請求項17に記載の発現ベクター。
【請求項19】
請求項1、12または17に記載の発現ベクターでトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項20】
前記発現ベクターは、前記宿主細胞の染色体へ安定に組み込まれている、請求項19に記載の宿主細胞。
【請求項21】
哺乳動物細胞である、請求項17に記載の宿主細胞。
【請求項22】
チャイニーズハムスターの卵巣細胞である、請求項17に記載の宿主細胞。
【請求項23】
目的遺伝子が符号化するポリペプチドの産生方法であって、請求項19に記載の細胞を、前記目的遺伝子が前記ポリペプチドを発現できる好適な条件で培養する工程を含む、ポリペプチドの産生方法。
【請求項24】
前記好適な条件は、前記発現ベクターを前記細胞の染色体へ安定的に組み込むことができるものである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記選択マーカー遺伝子は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記プロモーターは、前記βグロビン遺伝子プロモーターである、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記プロモーターは、CCAATボックス配列を欠如している、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記好適な条件として、前記選択マーカー遺伝子を発現させるために選択された化合物へ前記細胞を接触させる工程を更に含む、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記発現ベクターが増幅性マーカー遺伝子を更に含み、前記好適な条件として更に該増幅性マーカー遺伝子を発現させるために選択された化合物へ前記細胞を接触させる工程を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記増幅性マーカー遺伝子は、ジヒドロフォレートレダクターゼである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記発現ベクターは、2つの前記目的遺伝子を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項32】
2つの前記目的遺伝子は、免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖を符号化する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ポリペプチドを回収する、請求項24に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−503837(P2007−503837A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525499(P2006−525499)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2004/028954
【国際公開番号】WO2005/024015
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504378238)メダレックス インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】