説明

発色反応検出機器及びその製造方法

【課題】温度変化が生じた場合であっても安定したセンシング対象物質量の測定を行うことのできる発色反応検出機器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】被検体に接触して被検体の生体情報を取得するバイオセンサ14に設けられた光導波膜14b中を導波させる光を発生させる光源11と、光源11の温度を計測する第1の計測手段11aと、光導波膜14bを導波した光を検出して光検出信号値を計測する第2の計測手段15と、第1の計測手段11aによって計測された温度から光検出信号の減衰を算出する際の基準値を補正し、この補正された基準値と第2の計測手段15によって計測された光検出信号値とを基に光検出信号の減衰率を算出する補正手段16bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の生体内の体液中にある物質量を測定するセンサを備える発色反応検出機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスを応用したバイオセンサとして、例えば、測定器に取り付けたセンサを被検体の皮膚に接触させて、皮下組織から抽出されるセンシング対象物質を光学的にセンシングするバイオセンサがある。
【0003】
図6に示すように、このセンサ100は、光が入射、放出される一対の回折格子102a,102bが形成された基板101と、この基板101上に設けられた有機導波膜103と、この有機導波膜103上に形成されたセンシング膜104とから構成される。
【0004】
このような構成のバイオセンサにおいては、次のようにセンシング対象物質をセンシングする。すなわち、光源105から照射された光は、基板101に入射した後、入射回折格子102aでその進行方向を変えられ、基板101表面の有機導波膜103を全反射しながら伝播する。この有機導波膜103を伝播した光は、出射回折格子102bを経て基板101の外部に取り出され、最後に計測器106によって光検出信号として計測される。
【0005】
有機導波膜103には、センシング対象物質と反応するセンシング膜104が塗布されている。センシング対象物質がこのセンシング膜104に付着すると発色反応が起こり、有機導波膜103を伝播する光が吸収される。発色反応が起こると、有機導波膜103を全反射して進む光は有機導波膜103とセンシング膜104との境界面において反射のたびに光吸収作用(エバネッセント波の吸収)を受けて、その強度が減衰する。その結果、計測器106で計測される光検出信号の強度は次第に減衰していく。
【0006】
図7は減衰していく光検出信号の強度を表わしたグラフである。このグラフでは、縦軸に光検出信号強度[arb.unit]を取り、横軸に時刻[sec]を取っている。計測を始めた時間を0秒としてこの時における光検出信号強度を1000[arb.unit]として基準とする。光源105から照射された光は一定であることから、発色反応が生じない限りこの光検出信号強度も時間の経過に拘わらず一定であると推定されるため、グラフ上でも一定値として一点鎖線で表わしている。
【0007】
一方、センシング対象物質がセンシング膜104に付着して発色反応が生じると、上述したようにエバネッセント波の吸収が起こるため、時間の経過とともに光検出信号強度も減衰していく。図7に示すグラフでは、実際に検出される光検出信号強度を実線で表わしているが、例えば、計測開始から60[sec]経過後は、光検出信号強度はおよそ720[arb.unit]に減衰している。そこで、基準となる光検出信号強度と実際に検出された光検出信号強度とを算出し減衰率を検出することで基板101に付着したセンシング対象物質量を測定することができる。このことから、このセンサ100は発色反応を検出する機器であるといえる。
【0008】
この測定対象となるセンシング対象物質量は極微量であることから、例えば、以下の特許文献1に示されているような好感度かつ高精度に分析可能な光導波型センシング対象物質センサが開示されている。
【特許文献1】特開2005−37403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1においては、センサ100に対する熱により計測結果に影響が出ることまでは考慮されていない。
【0010】
この光検出信号の減衰率を検出する際に、その基準となるのはセンシング対象物質の検出がゼロである場合、すなわち、有機導波膜103とセンシング膜104との境界面において光吸収作用が起こらず光強度が減衰しない場合の光検出信号強度である。以下、その信号レベルを「ベースライン」と表記する。このベースラインは、光検出信号を検出するにあたり基準となる値であることから、外乱によって変化しないことが望ましい。
【0011】
ところが、センサを、特に医療用機器として使用する場合には、センサ本体を被検体の生体組織に直接接触させることが多い。図6のセンサ100を例にすれば、センシング膜104を直接接触させる。このようにセンシング膜104に被検体が接触すると被検体からの熱を受けてセンサ100は徐々に熱を持つことになる。
【0012】
上述したように有機導波膜103内に回折格子102aを介して光源からの光を結合させる場合、光の回折角度は光の波長に依存する。そのため、被検体の熱によってセンサ100が暖められると、光源105の温度が変化(上昇)し、光源波長分布全体が変化(シフト)する。光源波長のシフトにより回折格子102aでの光回折角も変化するため、有機導波膜103内を導波することが可能な波長の範囲も変化する。つまり、計測の対象であるセンシング対象物質量に変化がなくとも、有機導波膜103内を全反射して伝播する波長は限られているため、光源105の温度変化による光源波長のシフトに伴って光強度が変化し、この変化がベースラインの変動をもたらすことになる。
【0013】
実際の測定においては、「センシング対象物質検出による光検出信号強度の変化」と「センサに対する温度変化に伴うベースラインの変動」の双方が同時に発生するが、これら双方を同時にモニタリングすることはできない。従って、上述した光強度が減衰しない場合(ベースラインの場合)を基準に考えると、センサに対する温度変化によって計測器106での減衰率の計測精度が変化し、ひいてはセンシング対象物質量の測定精度が落ちることになる。
【0014】
そのため、センサに対する温度制御がなされればこのような測定精度の低下を防ぐことができるが、簡易型の医療機器を提供する上では経済性の観点からこのような制御を行う機器を新たに搭載するのは困難である。
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、温度変化が生じた場合であっても安定したセンシング対象物質量の測定を行うことのできる発色反応検出機器及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施の形態に係る特徴は、発色反応検出機器において、被検体に接触して被検体の生体情報を取得するバイオセンサに設けられた光導波膜中を導波させる光を発生させる光源と、光源の温度を計測する第1の計測手段と、光導波膜を導波した光を検出して光検出信号値を計測する第2の計測手段と、第1の計測手段によって計測された温度を予め記憶手段に記憶されている機器ごとの補正式に当てはめて光検出信号の減衰を算出する際の基準値を補正し、この補正された基準値と第2の計測手段によって計測された光検出信号値とを基に光検出信号の減衰率を算出する補正手段とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、温度変化が生じた場合であっても安定したセンシング対象物質量の測定を行うことのできる発色反応検出機器及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明の実施の形態に係る発色反応検出機器1は、例えば、図1に示すような外観であり、その内部に検出機器を収納する筐体2と、検出結果を表示する表示手段3と、検出の開始や各種機能を動作させるための入力手段4が設けられている。
【0020】
図2は、図1に示す発色反応検出機器1をX−X線で切断した切断断面図である。発色反応検出機器1は、被検体の例えば腕Aに直接接触されるように置かれる。
【0021】
筐体2の内部には、発色反応を検出するための機器が設けられている。光源11から出射した光(以下、「センシング光」という)はミラー12でその方向を変えられ光学ブロック13上に設けられたバイオセンサ14に入射する。バイオセンサ14を出射したセンシング光は第2の計測手段15に入射し光強度が検出され、制御手段16に送信される。
【0022】
光源11には、本発明の実施の形態においては発光ダイオードを用いているが、特にこれに限定する趣旨ではない。また、上述のように光源11の温度がベースラインに影響を与えることから、光源11には光源11の温度を計測する温度センサとして第1の計測手段11aが設けられている。この第1の計測手段11aとしては、例えば、サーミスタや熱電対、白金抵抗体を用いることができる。
【0023】
バイオセンサ14は、センサチップ14aと、センサチップ14a上に設けられた光導波膜14bと、光導波膜14b上に塗布され、センシング対象物質と反応するセンシング膜14cから構成されている。
【0024】
光導波膜14bはセンシング光を通す膜であり、センシング光は光導波膜14b内を全反射しながら伝播する。また、光導波膜14b内には、光源11から出射したセンシング光が入射する領域に入射回折格子14dが設けられており、この入射回折格子14dによってセンシング光の進行方向が変更されてセンシング光が光導波膜14b内を伝播する。この光導波膜14b内を伝播したセンシング光が再びその進行方向を変更されてバイオセンサ14から出射する領域には、出射回折格子14eが設けられている。光導波膜14b上であって、入射回折格子14dと出射回折格子14eの間には、センシング膜14cが設けられている。このセンシング膜14cは、酵素と発色試薬を含む膜であり、センシング対象物質がこのセンシング膜14cに付着すると発色反応が起こり、光導波膜14b内を伝播するセンシング光が吸収を受ける(エバネッセント波の吸収)。
【0025】
光導波膜14b内を伝播し、エバネッセント波の吸収を受けたセンシング光は出射回折格子14eによって光導波膜14bの外に出射し、センサチップ14a、光学ブロック13を通過して第2の計測手段15に入射する。この入射したセンシング光の光強度を第2の計測手段15において計測することによってバイオセンサ14に付着したセンシング対象物質量の測定をすることが可能となる。
【0026】
図3に示すように、制御手段16は、発色反応検出機器1内に設けられており、入力手段4、第1の計測手段11a、第2の計測手段15からの情報を基にベースラインの補正を行い、その補正値に基づいて算出したセンシング対象物質量を表示手段3に表示する。
【0027】
制御手段16は、受信手段16aと、補正手段16bと、記憶手段16cと、送信手段16dから構成される。受信手段16aが受信する情報は、入力手段4からの例えば、検査開始の情報であり、第1の計測手段11aからの光源11の温度情報であり、第2の計測手段15からのセンシング光の光検出信号強度の情報である。
【0028】
補正手段16bでは、受信手段16aからの各種情報を受信する。特に第1の計測手段11a及び第2の計測手段15において計測された実測値を補正データに当てはめて正確な光検出信号強度を算出する。この補正データは個々の発色反応検出機器に固有のものであり、発色反応検出機器の製造時にその機器のデフォルト値として記憶手段16cに予め記憶させておく。
【0029】
すなわち、発明者が各種実験を行った結果、(1)センシング対象物質の算出(光検出信号強度の減衰比率の算出)の絶対基準値となるベースラインは、光源の温度上昇に伴って単調増加する、(2)ベースラインの変動は、光源の温度に対してほぼ線形となるため、ベースラインの温度に対する変動率[%/K]を既知とすることで、実際にセンシング対象物質量の測定中であってもベースラインの変動を推定できる可能性がある、(3)(2)の可能性から、上述した「センシング対象物質検出による光検出信号強度の変化」と「センサに対する温度変化に伴うベースラインの変動」とを分離することができれば、測定器の温度変化が大きい場合でも、高い測定精度を維持できる可能性がある、(4)但し、ベースラインの温度に対する変動率[%/K]には光源の波長や光学系組立誤差に起因する機差が発生する可能性が高い、との知見を得た。
【0030】
これらの知見に基づいて実機で調査をした結果の一例が図4、図5に示すグラフである。実験は、予め恒温槽内で5℃に冷却した測定器を外部(室温25℃)に取り出し、センシング膜のないセンサチップを取り付けた後、前腕に装着して測定を行った。図4に示すグラフにおいて、横軸は測定開始からの時間[秒]を、縦軸は光検出信号の変動比率(測定開始時の値を1とする)及び光源の温度[℃]を示している。測定開始から60秒間で光源の温度(図4において点線で示す)は、約8℃から13.3℃まで上昇し、そのときベースライン(図4において実線で示す)は約4%上昇した。
【0031】
この結果を横軸に温度[℃]、縦軸に光検出信号の変動比率として書き改めたグラフが図5に示すグラフである。このグラフからも明らかなように、ベースラインの変動率は、温度に対して線形性の高い挙動を示している。また、この結果を直線近似した傾きは、温度変化1℃当たりのベースラインの信号変化率を意味している。この場合、その値は0.0066で、百分率に直すと0.66[%/K](以下、この値を「ベースラインの温度変化率」という。)となる。そこで、この温度変化率を式で表わすと、y=0.0066x+0.9505という一次式で表わすことができる。
【0032】
このベースラインの温度変化率は、図4及び図5以外は図示してはいないが、個々の発色反応検出機器ごとに異なるものである。また、ある特定の発色反応検出機器であっても調査ごとにこの温度変化率が変化する。従って、例えば、ある特定の発色反応検出機器について複数回調査を行い、その平均値をもって温度変化率とすることができ、この温度変化率は個々の発色反応検出機器に固有の値となる。
【0033】
従って、発色反応検出機器を出荷する際に予めベースラインの信号変化率を調べ、その信号変化率を機器固有の値として記憶手段16cに記憶させておくことで、実際にセンシング対象物質量の測定中に光源の温度が上昇してもベースラインを適正に補正することができる。
【0034】
すなわち、発色反応検出機器1の製造時にバイオセンサ14に補正式を求めるために用いる無発色のセンシング膜を取り付ける。この無発色のセンシング膜を用いることで光検出信号の減衰値は純粋に光源11の温度変化によるものであることが明らかになる。このバイオセンサ14の光導波膜14bに光を通して光検出信号値を計測するとともに、光源11の温度を計測する。その上で、光源11の温度変化に伴う光検出信号値の変化を計測し、これらの計測値からベースラインの温度変化率を求め、この温度変化率を用いてベースラインを補正する機器固有の補正データを算出する。そしてこの補正データを記憶手段16cに記憶させる。また、この補正データを式(補正式)として記憶させることも可能である。
【0035】
この補正式はベースラインの補正値をB(n)、測定開始時(t=1秒)の光検出信号をI(1)、光源の温度をT(1)とすると、
【数1】

【0036】
と表わすことができる。ここでBtは、発色反応検出機器固有のベースラインの温度変化率である。従って、測定開始からn秒後の光源11の温度T(n)が計測されれば、n秒後におけるベースラインの補正値B(n)を求めることができる。
【0037】
補正手段16bには第1の計測手段11aからの光源11の温度情報及び、第2の計測手段15からの光検出信号強度の情報が入力されてくるので、これらの情報をこの式に代入することでベースラインの温度の補正をリアルタイムに行うことができる。一方で、第2の計測手段15は、経過時間ごとの光検出信号強度を計測する。補正手段16bにはこの情報も入力されることから、補正されたベースラインの値と光検出信号強度の値からセンシング対象物質量を算出する。そして、送信手段16dを介して表示手段3に測定結果を表示させる。
【0038】
このように、予め発色反応検出機器固有のベースラインの温度変化率を用いた式を求めて記憶手段に記憶させておき、センシング対象物質量の測定中、光源の温度変化に伴って随時ベースラインの補正値を導き、その補正値を利用してセンシング対象物質量を算出することで、光源の温度変化が生じた場合であってもその影響を排除して安定したセンシング対象物質量の測定を行うことのできる発色反応検出機器及びその製造方法を提供することができる。
【0039】
なお、この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る発色反応検出機器の外観を示す全体図である。
【図2】図1に示す発色反応検出機器をX−X線で切断して示す切断断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る発色反応検出機器の内部構成を示すブロック図である。
【図4】信号変動比、測定時間と温度に関する調査の結果を示すグラフである。
【図5】図4で示した調査結果を信号変動比と温度との関係に書き改めたグラフである。
【図6】従来の発色反応検出機器を示す切断断面図である。
【図7】光検出信号強度と時間との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1…発色反応検出機器、2…筐体、3…表示手段、4…入力手段、11…光源、11a…第1の計測手段、12…ミラー、13…光学ブロック、14…バイオセンサ、15…第2の計測手段、16…制御手段、16b…補正手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に接触して前記被検体の生体情報を取得するバイオセンサに設けられた光導波膜中を導波させる光を発生させる光源と、
前記光源の温度を計測する第1の計測手段と、
前記光導波膜を導波した光を検出して光検出信号値を計測する第2の計測手段と、
前記第1の計測手段によって計測された温度から前記光検出信号の減衰を算出する際の基準値を補正し、この補正された基準値と前記第2の計測手段によって計測された光検出信号値とを基に光検出信号の減衰率を算出する補正手段と、
を備えることを特徴とする発色反応検出機器。
【請求項2】
バイオセンサの光導波膜に光源から出射させた光を通して光検出信号値を計測するとともに、前記光源の温度を計測する工程と、
所定温度における前記光検出信号値を基準値とするとき、前記光源の温度変化に伴う前記光検出信号値の変化に基づいて前記基準値を補正する補正データを得る工程と、
前記補正データを記憶手段に記憶させる工程と、
を備えることを特徴とする発色反応検出機器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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