説明

発色構造体

【課題】変退色を抑止すると共に、高い視認性や意匠性を永年に渡って維持することが出来る発色構造体を提供する。
【解決手段】基材と、塗料およびナノ粒子蛍光体を含有する透過性マトリックスと、を備え、基材を透過性マトリックスで少なくとも一部被覆することで、基材上に発色領域が形成された、発色構造体に関する。また、該発色領域は、塗料を含有する第1透過性マトリックスで形成された第1発色領域と、ナノ粒子蛍光体を含有する第2透過性マトリックスで形成された第2発色領域とからなり、基材を第1透過性マトリックスで被覆し、第1透過性マトリックスを第2透過性マトリックスで被覆することで発色領域が形成された発色構造体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報表示や意匠を目的とした発色構造体に関する。さらに詳細には、変退色を抑止し、高い視認性・意匠性を維持することができる発色構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料・染料など色素着色剤を用いた塗料を基材上に固着することで該基材に色彩を付与し、情報表示したり、質感表現をしたりすることができる構造体は、日常生活に関わる多くの品物に利用されている。該構造体の中でも、主に屋外で使用されるものとしては、たとえば、交通標識や看板、自動車・建築物壁材における表面塗装などが挙げられる。このような屋外で使用される該構造体における塗料は、長年に渡って太陽光に晒されるうち、これに含まれる紫外線(UV)などの高エネルギー光を吸収して色素が分解され、変退色することがある。該色素が変退色すると、該構造体としての本来の機能が阻害される場合がある。
【0003】
たとえば、交通標識における配色は、「道路標識、区画線、及び道路標示に関する命令」(総理府 建設省令第3号)のように法律で規制されているものや、JIS Z 9103「安全色−一般的事項」のように工業規格によって規定されているものがあり、該塗料の変退色は、交通の安全性を低下させ人々を生命の危険に晒す懸念をも含んでいる。また、自動車は消費者の嗜好に沿った高い意匠性を有するので、該自動車においても、塗装の変退色はその商品価値を大きく減少させてしまう。
【0004】
ここで、該高エネルギー光の中でも、UVに対する該塗装の耐光性を向上させる方法として、該UVを反射もしくは吸収する物質を使用する技術が多数開示されている。たとえば、特許文献1(特表2001−510496号公報)においては、酸化物層で囲まれたケイ素化合物粒子を含んでなるUV吸収剤を塗布することで、塗料を保護する技術が開示されている。また、特許文献2(特表2007−503299号公報)においては、高い意匠性が求められる自動車における多層コーティングに、UV安定性を含む高い耐久性を付与する技術が開示されている。
【0005】
UV吸収剤は、一般的に可視光に対しては透明であることが求められるため、吸収波長の上端はおよそ380〜400nmの近紫外に調整されることが多い。このようなUV吸収剤を使用して塗料を保護しようとしても、黄色・赤色など可視領域における長波長側の反射を呈する塗料は、これより短波長可視光を吸収するため、青色・緑色といった可視領域における短波長側の反射を呈する塗料よりも短期間で劣化を生じやすい。
【0006】
とりわけ上述した交通標識においては、黄色・赤色の安全色が多く用いられるので、黄色・赤色の塗料は、短波長可視光に対しても十分な耐光性が必要となる。しかし、これらの塗料を短波長可視光から保護するために該短波長可視光の吸収剤を使用して塗装をすると、白地の対比色が着色してしまい、視認性・誘目性は極端に低下する。
【0007】
また、自動車における塗装も高い意匠性を有する配色の一つであるが、微妙な色合いを表現するべく、赤色・緑色・青色など可視光の反射吸収特性が異なる塗料が複数混合されている。このため、いわゆる「トップクリアコート」には、耐損傷・耐汚染に加えUV劣化を抑止する対策が施されているにもかかわらず、永年の使用による変退色は顕著に生じる。その他の看板・建築壁材なども、複数の配色が施されている場合が多く、塗料によって劣化の割合が異なると、その意匠性や表示機能が大きく阻害される。
【特許文献1】特表2001−510496号公報
【特許文献2】特表2007−503299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、UVおよび短波長可視光によって生じる変退色を抑止しながらも、高い視認性や意匠性を永年に渡って維持することができる発色構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材と、塗料およびナノ粒子蛍光体を含有する透過性マトリックスと、を備え、基材を透過性マトリックスで少なくとも一部被覆することで、基材上に発色領域が形成された発色構造体に関する。
【0010】
本発明の発色構造体において、発色領域は、塗料を含有する第1透過性マトリックスで形成された第1発色領域と、ナノ粒子蛍光体を含有する第2透過性マトリックスで形成された第2発色領域とからなり、基材を第1透過性マトリックスで被覆し、第1透過性マトリックスを第2透過性マトリックスで被覆することで発色領域が形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明の発色構造体において、ナノ粒子蛍光体は、粒径が100nm以下であるものを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の発色構造体において、ナノ粒子蛍光体は、粒径が10nm以下の半導体を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の発色構造体において、励起光を照射することで、異なる発光色を呈する2種以上のナノ粒子蛍光体を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノ粒子蛍光体がUVおよび短波長可視光を吸収し塗料の分解劣化を抑止しながらも、視認性・誘目性を維持できる発色構造体を提供する。該発色構造体は、情報表示や意匠機能を永年において損なわない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の好ましい一実施形態の発色構造体を模式的に示す断面図である。図2は、図1における発色構造体の発色領域を拡大した模式的な平面図である。以下、図1および図2に基づいて説明する。
【0017】
まず、本実施形態において、発色構造体10は、基材1と発色領域2とを備える。該発色領域2は、基材1を塗料3およびナノ粒子蛍光体4を含有する透過性マトリックス5で少なくとも一部被覆することで、基材1上に形成された領域をいう。なお、基材1には、金属、木材、樹脂、ガラス、セラミックス、紙、繊維などあらゆる公知の固体が適用されるが、透過性マトリックス5の固着に優れる、屋外で用いても耐久性が高いなどの理由から基材1は金属を選択することが好ましい。発色領域2は、ナノ粒子蛍光体4がUVおよび短波長可視光を励起光として吸収する。すると、該塗料3におけるUVおよび短波長可視光の吸収量が大幅に減少する。これにより、該塗料3の短波長可視光およびUV波長の耐光性が高くなり、結果として、発色構造体10が発する色の劣化を抑制することができる。
【0018】
つまり、発色領域2は、その形状・面積あるいは配色によって情報表示や質感表現を呈し、塗料3およびナノ粒子蛍光体4を含有した透過性マトリックス5で構成される。
【0019】
本実施形態においては、透過性マトリックス5に対して、塗料3を1〜50質量%含有させ、ナノ粒子蛍光体4を1〜50質量%含有させることが好ましい。まず、塗料3が透過性マトリックス5に対して1質量%未満であると、基材1上に塗布した際薄くなり、十分な発色が得られないなどの虞があり、50質量%超過であると、ナノ粒子蛍光体4によるUVおよび短波長可視光の遮蔽効果が十分に発揮されないなどの虞がある。また、ナノ粒子蛍光体4が透過性マトリックス5に対して1質量%未満であると、UVおよび短波長可視光を十分に吸収できないなどの虞があり、50質量%超過であると、透過性マトリックス5の硬化反応を阻害する、あるいは相対的に塗料3が薄くなるので、十分な発色が得られないなどの虞がある。
【0020】
本実施形態において、透過性マトリックス5とは、当該塗料3およびナノ粒子蛍光体4の間を埋める実質的に連続した相を差し、樹脂、ガラス、セラミックスあるいは溶液などを用いることができる。透過性マトリックス5は、発色構造体10の目的とする機能を損なわない透過性を有する必要がある。たとえば、交通標識においては、白い対比色に有彩色の安全色を用いるものが多数を占める。この配色を損なわないためには、透過性マトリックス5は可視光領域において光吸収を生じないことが好ましい。透過性マトリックス5は、公知のUV吸収剤を含んでいてもよいし、後述するナノ粒子蛍光体4の発光機能を有効に活用する場合は、該UV吸収剤の量を減じることもできる。以上より、透過性マトリックス5には、塗料3やナノ粒子蛍光体4およびUV吸収剤などの分散性に優れ、形状加工を行ない易い特質が求められるので、特に樹脂あるいはガラスを用いることが好ましい。
【0021】
塗料3は主に着色剤と樹脂とを含んでなり、その他溶剤および添加剤が含まれていてもよい。着色剤は、色素を含む公知の染料、顔料などが適用される。樹脂はフッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン・ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂などが目的に応じて用いられる。
【0022】
また、本実施形態においてナノ粒子蛍光体4の粒径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが特に好ましい。該粒径が100nm以下である場合には回折散乱が生じにくく、該粒径が50nm以下である場合には、ミー散乱(散乱体の粒径が光の波長と同程度の場合は短波長の光であっても長波長の光であっても同程度に散乱が生じること)が生じにくいためである。このとき、ナノ粒子蛍光体4は、その粒径が可視光の波長よりも小さく、回折散乱を生じにくいため、見た目にはほぼ透明であるが、太陽光や照明光に含まれるUVおよび短波長可視光を吸収して若干の発光を呈する。すなわち、塗料3の発色を阻害することなく変退色を抑止することが可能となる。
【0023】
なお、ナノ粒子蛍光体4の形状に特に制限はなく、球状、直方体状、多角形体状あるいは空孔や突起を有していてもよいが、空間的に等方性を有する理由から、球状であることが好ましい。ここで、「球状」とは、ナノ粒子蛍光体4のアスペクト比(最小直径に対する最大直径の比)が1〜2であることを指す。
【0024】
このようなナノ粒子蛍光体4の材料には、以下の[I]〜[IV]のようなものが挙げられる。
[I]3Ca3(PO42・Ca(F,Cl)2:(Sb,Mn)、Sr10(PO46Cl2:Eu、(Sr,Ca)10(PO46Cl2・B23:Eu、(Ba,Ca,Mg)10(PO46Cl2:Eu、(Sr,Mn)227:(Sn,Eu)、Ba227:Ti、(Sr,Mg)3(PO42:(Sn,Eu)、LaPO4:(Ce,Tb)、La23・SiO2・P25:(Ce,Tb)、Zn2SiO4:Mn、CaSiO3:(Pb,Mn)、(Ba,Sr,Mg,Zn)3Si27:Pb、BaSi25:Pb、Sr2Si38・SrCl2:Eu、Ba3MgSi28:Eu、Y2SiO5:(Ce,Tb)、(Ca,Mg)WO4:Pb、LiAlO2:Fe、BaAl813:Eu、BaMg2Al1627:(Eu,Mn)、Sr4Al1425:(Eu,Dy)、SrAl24:(Eu,Dy)、SrAl47:(Eu,Dy)、SrAl1219:(Eu,Dy)、SrMgAl1017:(Eu,Dy)、CeMgAl1119:Tb、Y23:Eu、Y(P,V)O4:(Eu,Dy)、Cd225:Mn、GdMgB510:(Ce,Tb)、6MgO・As25:Mn、MgGa24:Mn、Y3Al512:Ce、Cd5Cl(PO43:Mnなどの酸化物蛍光体、
[II](Zn,Cd)S:(Cu,Ag,Al)、(Gd,Y)22S:(Eu,Tb)などの硫化物蛍光体、
[III](Zn,Mg)F2:Mn、(KF,MgF2):Mnなどのフッ化物蛍光体、
[IV]CaSiAlN3:Eu、CaxSi12-(m+n)Al(m+n)n16-n:Eu(x=0.3〜1.5、m=0〜3.0、n=0〜1.5)、Si6-zAlzz8-z:Eu(z=0〜4.2)、LaAl(Si6-zAlz)N10-zz:Ce(z=0.07〜9)、(Sr,Ba)Si222:Euなどの窒化物および酸窒化物蛍光体。
【0025】
これら材料で100nm以下の粒径のナノ粒子蛍光体4を作製するには、ボールミルによる粉砕法、ゾルゲル法、水熱合成法、グリコサーマル法、還流法、逆ミセル法、共沈法、ホットソープ法、超臨界合成法などの公知の方法を適宜選択して用いることができる。
【0026】
ナノ粒子蛍光体4はまた、半導体材料で作製されたものであってもよい。該半導体材料で作製されることによって、ナノ粒子蛍光体4は、量子サイズ効果によって発光波長の粒径依存性を有し、ボーア半径の2倍以下の大きさで顕著となる。よってナノ粒子蛍光体4として適用できる材料のなかでは最も散乱損失が小さく、更に1種類の材料で様々な色が出せるので、製造コストを低く抑えることができる利点もある。このとき、ナノ粒子蛍光体4の粒径が10nm以下であれば、量子サイズ効果が顕著となって発光波長制御および発光効率の増大が可能となるので好ましい。半導体のナノ粒子蛍光体4には発光遷移機構を制御する不純物元素がドーピングされていてもよい。また、半導体のナノ粒子蛍光体4の周囲を他の半導体あるいは無機材料で被覆するコア/シェル構造をとってもよいし、粒子表面に有機あるいは無機の修飾分子を固着させてもよい。これらの構成は、半導体のナノ粒子蛍光体4の吸収率増大、発光効率改善、蛍光寿命の制御、紫外線暴露や環境に対する長期信頼性、透過性マトリックス5中への分散性向上などの効果を付与することができる。
【0027】
このような半導体のナノ粒子蛍光体4の材料には、以下の[V]〜[X]のようなものを適宜選択することができる。
[V]II−VI族:CdTe、CdSe、ZnTe、ZnTe、CdO、CdZnO、CdMgOおよびこれらの混晶、
[VI]III−V族:GaN、GaAlN、InN、InAlN、InP、InAlP、GaP、GaAlP、GaAs、GaAlAs、InAs、InAlAs、GaSb、GaAlSb、InSbおよびこれらの混晶、
[VII]IV−IV族:Si、Ge、β−SiC、Snおよびこれらの混晶、
[IIX]III−II型カルコゲナイド:Ga23、In23およびこれらの混晶、
[IX]I−III−VI型カルコパイライト:AgInTe2、AgInSe2、AgInS2、AgGaTe2、AgGaSe2、AgGaS2、CuInTe2、CuInSe2、CuInS2、CuGaTe2、CuGaSe2、CuGaS2、CuAlTe2、CuAlSe2およびこれらの混晶、
[X]II−IV−V型カルコパイライト:CdSnP2、CdGeAs2、CdGeP2、CdSiAs2、CdSiP2、ZnSnSb2、ZnSnAs2、ZnSnP2、ZnGeAs2、ZnGeP2、ZnSiAs2およびこれらの混晶、
などを用いることができる。これらの材料で上述した合成方法によって粒径が10nm以下の半導体のナノ粒子蛍光体4を作製できる。
【0028】
また、透過性マトリックスに含有するナノ粒子蛍光体は、(a)粒径が100nm以下であるものと、(b)粒径が10nm以下の半導体からなるものとを含むものであっても良いし、上記(a)または(b)のいずれかを含むものであっても良い。
【0029】
また、発色領域2において、塗料3が発する色と、励起光を照射することでナノ粒子蛍光体4が発する光の色とは異なっている構成をとることも可能である。該構成は、太陽光や照明光の強度によって色合いが変わるため、意匠性を重視する上では好ましく用いられる構成である。しかし、工業規格や法令によって配色が規制を受ける場合は、両者の色を同じとする必要がある。たとえば、安全標識の場合は、JIS Z 9101「安全色及び安全標識」付属書Aにおいて、安全色及び対比色の色度座標の範囲が規定されており、両者が同一の範囲になければならない。
【0030】
このように、塗料3と等色である発光を呈するためには、励起光を照射することで、異なる発光色を呈する2種以上のナノ粒子蛍光体4を有することが好ましい。また塗料と異なる色を呈するナノ粒子蛍光体を用いる場合においても、複数のナノ粒子蛍光体4を有することにより、表現できる色のバリエーションが増大するため好ましい。
【0031】
また、上述した材料は、適宜選択して本発明において用いることができる。なお、基材1上への発色領域2の形成は、刷毛やローラによる塗布塗装の他、吹付塗装、静電塗装、電着塗装、焼付塗装、粉体塗装などあらゆる公知の方法が適用される。
【0032】
<第2実施形態>
図3は、本発明の好ましい別の一実施形態の発色構造体を模式的に示す断面図である。以下、図3に基づいて説明する。本実施形態においては、発色領域は、塗料を含有する第1透過性マトリックスで形成された第1発色領域2aと、ナノ粒子蛍光体を含有する第2透過性マトリックスで形成された第2発色領域2bとを有する透過性マトリックスから形成されている。そして、基材1は、第1透過性マトリックス2aで少なくとも一部が被覆されており、第1透過性マトリックス2aは、第2透過性マトリックス2bによって少なくとも一部が被覆されることで発色領域が形成されている。ここで、第1透過性マトリックス2aは塗料のみを含有するものであってもよく、第2透過性マトリックス2bはナノ粒子蛍光体のみを含有するものであってもよい。
【0033】
本実施形態においては、第1透過性マトリックス2aに対して塗料を1〜50質量%含有していることが好ましい。塗料が第1透過性マトリックス2aに対して1質量%未満であると、基材1上に塗布した際薄くなって十分な発色が得られず、50質量%超過であると、第2透過性マトリックス2bによるUVおよび短波長可視光の遮蔽効果が十分に発揮されないなどの理由からである。第2透過性マトリックス2bに対してナノ粒子蛍光体を1〜50質量%含有していることが好ましい。ナノ粒子蛍光体が第2透過性マトリックス2bに対して1質量%未満であると、UVおよび短波長可視光を十分に吸収できず、50質量%超過であると、第2透過性マトリックス2bの硬化反応を阻害するなどの理由からである。
【0034】
本実施形態においては、UVおよび短波長可視光から塗料を保護する効果がより高まる。また、第1発色領域2aにおける第1透過性マトリックスと、第2発色領域2bにおける第2透過性マトリックスとは、それぞれ別の材料を用いることができる。このため、第1透過性マトリックスには塗料を基材1に固着させるのに適した材料を用い、第2透過性マトリックスにはナノ粒子蛍光体を分散させるのに適した材料を用いるなど、信頼性の高い発色構造体を形成することが可能となる。
【0035】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
<実施例1>
図1および図2を参照して実施例1を説明する。
【0037】
基材1としてJIS G3302溶融亜鉛めっき鋼板を使用した。該亜鉛めっき鋼板に、下地としての塗布型クロメートを皮膜処理した後、下塗り塗料としてエポキシ樹脂プライマー(日本ペイント製 ニッペ パワーバインド)の乾燥膜厚みが5μmとなるように焼付塗装した。
【0038】
次に、透過性マトリックス5として熱硬化型アクリル樹脂系塗料(日本ペイント製 スーパーラック100)100質量部に対し、塗料3としてカーミン6BとレーキレッドCとの混合顔料(東洋インキ製)を10質量部、ナノ粒子蛍光体4として超臨界法で合成した粒径約20nmのY23:Eu蛍光体を10質量部添加し、均一に混練して発色領域2を形成するための上塗り塗料を作製した。
【0039】
ここで、混練前に該混合顔料およびY23:Eu蛍光体の測色を行なった。混合顔料はJIS Z 8722「色の測定方法−反射及び透過物体色」に準じて測定し、JIS Z 8701「色の表示方法−XYZ表色系及びX101010表色系」に準じて10度視野に基づくCIE1964色度図上の色度座標(x、y)に変換した。同様に、Y23:Eu蛍光体は、同 Z 8717「蛍光物体色の測定方法」に準じて測定し、混合顔料と同じ方法でCIE1964色度図上の色度座標(x、y)に変換した。
【0040】
測色の結果、混合顔料の色度座標は(0.590、0.335)であった。また、Y23:Eu蛍光体の色度座標は(0.640、0.323)であった。両者の色の違いは、目視では識別出来なかった。
【0041】
この上塗り塗料を表面上に膜厚が約10μmとなるように塗装し、160℃で20分間焼付けることによって、図1に示すような発色構造体10を得た。
【0042】
<実施例2>
図3を参照して実施例2を説明する。
【0043】
実施例1と同様にして準備した下塗り塗装を形成した基材1上に、第1透過性マトリックス100質量部に対して実施例1における混合顔料を10質量部混練して第1発色領域を形成するための上塗り塗料を作製した。そして、基材1を該上塗り塗料で、該上塗り塗料の膜厚が約5μmとなるように被覆した。次いで、第2透過性マトリックス100質量部に対して実施例1におけるナノ粒子蛍光体を10質量部混練した第2発色領域を形成するための上塗り塗料を作製した。そして、第1発色領域を該上塗り塗料で、該上塗り塗料の膜厚が約5μmとなるように被覆し焼付けた。上述の操作のほかは、実施例1と同様の操作をして、図3に示すような発色構造体を得た。
【0044】
<比較例1>
23:Eu蛍光体を透過性マトリックスに含有させない他は、実施例1と同様の操作をして発色構造体を得た。
【0045】
<比較例2>
23:Eu蛍光体を透過性マトリックスに含有させず、かつUV吸収剤としての酸化亜鉛超微粒子を10質量部含有させた他は、実施例1と同様の操作をして発色構造体を得た。
【0046】
<比較例3>
23:Eu蛍光体を、焼成法で合成された粒径1〜5μmの粉末とした他は、実施例1と同様の操作をして発色構造体を得た。
【0047】
<検討結果>
実施例1〜2および比較例1〜2の発色構造体は、太陽光およびCIE測色用標準イルミナントD65による照明下では、いずれも目視で差がない赤色を呈した。一方、比較例3の発色構造体はうすい赤色を呈し、混合顔料とは明らかに異なる色で、視認性が悪かった。
【0048】
次に、実施例1〜2および比較例1〜2の発色構造体について、JIS B 7753「サンシャインカーボンアーク燈式耐光性試験機」を用いた変退色試験を行なった。試験時間は2000および4000時間とし、試験開始前と各時間の暴露試験後にJIS Z 8701による測色を行なって、これをJIS Z 8729「色の表示方法−L*a*b*表色系及びL*u*v*表色系」によりL*a*b*表色系座標に変換し、JIS Z 8730「色の表示方法−物体色の色差」に準じて試験前後での色差(式(1))を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【数1】

【0050】
【表1】

【0051】
この結果より、実施例1および実施例2の発色構造体は、ナノ粒子蛍光体4を添加しない比較例1に比べて耐光性改善に大きな効果を有し、特に塗料とナノ粒子蛍光体4の2相構造とすることにより、耐光性改善効果が更に高くなることがわかった。また、UV吸収剤のみを添加した比較例2に比べても、実施例1および実施例2における発色構造体は、有意な耐光性を有することがわかった。
【0052】
<実施例3>
図2を参照して実施例3を説明する。ナノ粒子蛍光体4として、還流法で合成した粒径約2.8nmのInP半導体ナノ蛍光体を用いた他は、実施例1と同様の操作をして発色構造体を得た。なお、該還流法では、市販の有機溶媒蒸溜装置を用い、ヘキサデセン溶媒中に溶かした酢酸インジウムおよびパルチミン酸を反応させて前駆体を合成した後、溶媒温度を285℃に上昇させた。この温度条件で、トリメチルシリルフォスフィン(P(SiMe33)のヘキサデセン溶液をシリンジで注入し、30分間温度を維持した後に冷却、精製および単離の操作を行なった。混練前に測定したInP半導体ナノ蛍光体の色度座標は(0.665、0.309)で、実施例1に比べて混合顔料との色差は大きかったが、混練後は混合顔料のみの場合と違いを視認できなかった。
実施例1と同様に変退色試験を行なったところ、色差(式(1))は2000時間後で0.3であり、4000時間後で1.0であった。
【0053】
実施例1に比べて耐光性が向上したのは、Y23:Eu蛍光体の光吸収帯が離散的であるのに対し、半導体によるナノ粒子蛍光体はUVから可視光までの光を吸収するため、混合顔料の変退色を抑止する効果が高くなったためと考えられる。
【0054】
<実施例4>
図2を参照して実施例4を説明する。ナノ粒子蛍光体4として、還流法で合成した粒径約2.3nmおよび2.8nmのInP半導体ナノ蛍光体を混合したものを用いた他は、実施例1と同様の操作をして発色構造体を得た。混練前に測定した該InP半導体ナノ蛍光体の色度座標は(0.590、0.335)で、混合顔料と一致した。また、変退色試験の結果は実施例3と同じであった。
【0055】
これより、励起光を照射することで、異なる発光色を呈する2種以上のナノ粒子蛍光体4を組み合わせることにより、塗料と同じ蛍光を呈するように調整することができるので、塗料の発色に影響を与えず変退色を抑止できることがわかった。
【0056】
<実施例5>
図1および図2を参照して実施例5を説明する。
【0057】
基材1としてJIS H 4000アルミニウム合金板を使用した。該アルミニウム合金板に汚れや油分を除くための表面処理を行なった後に、陽極酸化処理を行なって厚さ約10μmの多孔性アルマイト皮膜を形成した。なお、陽極酸化処理における電解液にはシュウ酸水溶液を用いた。
【0058】
次に、該アルミニウム合金板を、青色の染色槽(クラリアント社製 Blue G 0.3g/l)に5分間浸漬して、該アルミニウム合金板の表面を青色に着色された。次に透過性マトリックス5としてポリウレタン樹脂系塗料(関西ペイント製 アレスタンクリヤー)100質量部に対し、ナノ粒子蛍光体4として超臨界法で合成した粒径約4nmの黄色に発光するCdSe/ZnS半導体ナノ蛍光体を10質量部添加し、均一に混練して発色領域2を形成するための上塗り塗料を作製した。そして、該アルミニウム合金板の上を該上塗り塗料で被覆し、該上塗り塗料の膜厚が約10μmとなるよう塗装した後、常温で7日間硬化乾燥させて、発色構造体10を得た。
【0059】
本実施例の発色構造体10は、太陽光およびCIE測色用標準イルミナントD65による照明下では、照明強度により青色から薄黄色までの複雑な色変化を呈し、高い意匠性を有することがわかった。
【0060】
今回開示された実施の形態、実施例および比較例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲はした説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の好ましい一実施形態の発色構造体を模式的に示す断面図である。
【図2】図1における発色構造体の発色領域を拡大した模式的な平面図である。
【図3】本発明の好ましい別の一実施形態の発色構造体を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材、2 発色領域、2a 第1発色領域、2b 第2発色領域、3 塗料、4 ナノ粒子蛍光体、5 透過性マトリックス、10 発色構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、塗料およびナノ粒子蛍光体を含有する透過性マトリックスと、を備え、
前記基材を前記透過性マトリックスで少なくとも一部被覆することで、前記基材上に発色領域が形成された、
発色構造体。
【請求項2】
前記発色領域は、前記塗料を含有する第1透過性マトリックスで形成された第1発色領域と、前記ナノ粒子蛍光体を含有する第2透過性マトリックスで形成された第2発色領域とからなり、
前記基材を前記第1透過性マトリックスで被覆し、
前記第1透過性マトリックスを前記第2透過性マトリックスで被覆することで前記発色領域が形成された請求項1に記載の発色構造体。
【請求項3】
前記ナノ粒子蛍光体は、粒径が100nm以下であるものを含む請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項4】
前記ナノ粒子蛍光体は、粒径が10nm以下の半導体を含む請求項1〜3のいずれかに記載の発色構造体。
【請求項5】
励起光を照射することで、異なる発光色を呈する2種以上の前記ナノ粒子蛍光体を有する請求項1〜4のいずれかに記載の発色構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120668(P2009−120668A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−294333(P2007−294333)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】