説明

発酵による生成物の回収プロセス

本発明は、互いに不混合性である第1の溶液から第2の溶液へと溶質移転するプロセスおよび装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相系における物質移動操作の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
不混和液体反応物を伴う多相化学反応においては、表面積を大きくして反応速度を増大させるため、それら液体のうちの1つの分散液は、細かい液滴に変換される。これを達成するために、通常、物理的分散が使用される。しかし、このプロセスには膨大なエネルギーと資本コストを要する。
【0003】
多相化学反応は、化学反応、溶媒抽出、および液滴によるガス流からの超微粒子の分離などの、多くの分野に関係している。
【0004】
このような問題点は、微生物発酵プロセスにおける下流プロセシングを引用して示すことができる。発酵または他の工業プロセスによる、有用生成物の実際の回収に使用される様々なプロセスは、下流プロセシングと呼ばれる。下流プロセシング(DSP)のコストは、しばしば製造コストの50%を上回り、DSPの各工程での生成物の消失がある。また、生成物は、細胞の中や培地の中、あるいはその両方に存在する。
【0005】
液液抽出は、発酵生成物を回収するために広く使用されているプロセスの1つである。液液抽出プロセスにおいては、液体のうちの一方(通常は基質)は、抽出カラム全体を満たし、一方向に流れる連続相中にある。第2の液体(通常は溶媒)は微細分散相中にあり、反対方向に流れる。微細分散は、一方の相から他方への効率的な物質移動に利用できるよう、広い表面積とすることが必要とされ、これは今日の課題となっている。分散相の表面積を大きくするために利用できる唯一のプロセスは、特に噴霧による物理的分散である。噴霧には、高価な噴霧器のための資本コストが必要であり、外圧はプロセスのランニングコストを増大させるので、プロセスにはエネルギーを要し、コストがかかる。
【0006】
一般的な液液抽出においては、溶媒は、さらに大きな表面積を作成するために溶媒の小さな液滴を生じて霧状とする。噴霧器による噴霧化にはさらにエネルギーが必要となるため、大量かつ低有用性の生成物に用いるには、産業的には非実用的である。
【発明の概要】
【0007】
出願人は、よりエネルギー効率の高い液液抽出プロセスを作成するために、液体のうちの1つの分散液の液滴の表面積を大きくする努力を行った。進行中の予備実験では、この方法が、系中で蒸気を凝縮した超微細液滴を分散することにより、大量のエネルギーを必要とすることなく気相からの超微細粒子の分離に、効率的に使用できることを示している。
(本発明の目的)
【0008】
本発明の主目的は、多相系における物質移動操作を改善するため、分散液相の液滴の表面積を大きくすることである。
【0009】
本発明の他の目的は、第1の流体から第2の流体へと溶質移動するプロセスおよび装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の酪酸抽出装置の図である。
【図2】本発明のアルコール抽出装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
したがって、本発明は、互いに不混和性である第1の流体から第2の流体へと溶質を移動させるプロセスであって、上記プロセスは第1の液体の中に気体状態の第2の液体を導入する工程を備え、第1の流体は、第2の流体の凝縮温度より低い温度で維持され、それにより、第1の流体を凝縮して超微細な液体粒子を形成し、第2の流体から溶質が抽出される。
【0012】
したがって、本発明は、蒸気から液体へと分散液の相を変化させることにより、上記欠点を未然に防ぐプロセスが開示している。
【0013】
本発明の1態様においては、両方の流体が互いに接触している場合には、溶質は第1の流体と第2の流体に可溶である。
【0014】
本発明の別の態様においては、溶質は、液体、固体、または気体の形態である。
【0015】
本発明の別の態様においては、第1の流体と第2の流体とは向流である。
【0016】
本発明はまた、互いに不混和性である第1の流体から第2の流体に溶質を移動させる以下を備えた装置を提供する:
第1の温度で維持され、第1の流体を供給する第1の注入口を有しする抽出チャンバーであって、上記抽出チャンバーに第2の流体を供給するための第2の注入口を備える;
上記第2の注入口は、第2の温度で維持される第2の流体の貯蔵に適したリザーバに接続される;
上記第1の温度は第2の流体の凝縮温度より低く、上記第2の温度は第2の流体の凝縮温度より高い;
第2の流体の溶液と溶質を回収するために、抽出チャンバー上に設けられた第1の排出口と接続されたフラッシュタンクであって、該フラッシュタンクは、第2の流体の凝縮温度より高い第3の温度で維持される。
【0017】
本発明の1態様においては、第1の注入口および第2の注入口は、第1の流体と第2の流体が向流方向で供給されるように抽出チャンバーの中に配置される。
【0018】
本発明の別の態様においては、抽出チャンバーには、予め決定された温度で水を供給するための被覆構造(ジャケット)とともに提供される。
【0019】
本発明の別の態様においては、リザーバが、所定の温度の水を供給する被覆構造を備えている。
【0020】
本発明の別の態様においては、フラッシュタンクが、所定の温度の水を供給する被覆構造を備えている。
【0021】
表面積を大きくするプロセスは、下流発酵プロセスの間の液液抽出によって説明され、分散液の液滴の表面積は、最初の気体状態から液体状態への分散液の液相の変化によって増加する。
【0022】
本発明のプロセスの有利な態様のうちの1つは、分散液が、溶媒の除去に追加エネルギーが必要ないように、n−ペンタン(36.1℃)、R143a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン、(−26.3℃))、ヘキサン(69.1℃)、クロロホルム(61.2℃)のような低沸点溶媒から選択されることである。溶媒は、温度をわずかに上昇させるか、または圧力を低下させることによるフラッシュ蒸発により分離され、それにより、フラッシュ蒸発器の中にその蒸気を形成し、このプロセスを連続して行うために抽出カラムの中を連続的に通される。
【0023】
本発明では、溶媒は、蒸気の形態で抽出カラムもしくはチャンバーに入り、抽出カラムの中で溶媒蒸気が凝縮されることにより、大きな表面積を持つ小さい液滴が形成される。
【0024】
また、本発明は、互いに不混和性である第1の流体から第2の流体に溶質を移動させる装置を提供する。第1の流体は抽出される溶質の溶液であり、第2の流体は、その中で溶質が抽出される流体である。本発明の装置には抽出チャンバーを備える。上記抽出チャンバーはカラムの形態である。抽出チャンバーは、第1の流体と第2の流体をそれぞれ供給するための、第1の注入口と第2の注入口を有する。本発明の1実施形態においては、第1の注入口と第2の注入口は、第1の流体と第2の流体が抽出チャンバーの中を逆流方向に移動するように抽出チャンバー上に配置される。抽出チャンバーは、第2の流体の凝縮温度より低い第1の温度で維持される。第2の液体を収容するために適しているリザーバは、抽出チャンバーの第2の注入口に接続される。リザーバは、第2の流体の凝縮温度より高い第2の温度で維持される。言い換えると、リザーバは第2の流体を蒸気または気体の形態で含んでいる。蒸気または気体の形態の第2の液体は、第2の注入口を通じて抽出チャンバーの中に供給される。抽出チャンバーに入る第2の流体の蒸気は凝縮し、液体の超微粒子を形成する。これにより、第1の液体から溶質が抽出される。2つの流体、すなわち、第1の流体と第2の流体は互いに不混和性であるので、これらは、抽出チャンバーの中で異なる層を形成する。第1の排出口は、第2の流体の溶液と溶質を回収するために抽出チャンバーの中に設けられる。また、第2の排出口は、第1の流体を回収するために抽出チャンバーの中に設けられる。第2の流体中の溶質の溶液は、抽出チャンバーから回収され、フラッシュタンクに供給される。フラッシュタンクは、抽出チャンバーの第1の排出口に接続される。フラッシュタンクは、第2の流体の凝縮温度より高い第3の温度で維持される。フラッシュタンク中に第2の流体中の溶質の溶液を供給することにより、第2の流体が除去され、溶質が残る。溶質は、その後、フラッシュタンクから抽出される。
【0025】
第2の排出口は、抽出チャンバーから第1の流体を回収するために抽出チャンバー上に設けられる。
【0026】
本発明の1実施形態においては、ジャケットが抽出チャンバー上に設けられ、これを通じて、第1の温度の水が、抽出チャンバーを第1の温度に維持するために供給される。同様に、ジャケットはリザーバ上にも設けられ、これを通じて、第2の温度の水が、リザーバを第2の温度で維持するために供給される。同様に、ジャケットがフラッシュタンク上に設けられ、これを通じて、第3の温度の水が、フラッシュタンクを第3の温度で維持するために供給される。温度は流体の性質に基づいて選択される。
【0027】
以下の実施例は本発明の説明のために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0028】
6%(w/v)の濃度の酪酸が供給溶液として使用され、210ml/分の流速で1メートルの長さの抽出カラムに連続的に注入された。カラム内容物は準大気圧、25℃で維持された。1リットルのn−ペンタンは水溶液のフラッディングカラムを通じて注入され、カラムの底から回収した使用済みの液体の濃度変化を10分ごとに観察した。フラッシュタンクの中に残っている生成物の濃度もまた測定された。観察結果を表1に示す。試料の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。
【0029】
【表1】

【実施例2】
【0030】
実施例1と同じ反応物質と同様の実験条件を維持しながら、同様の液液抽出を本発明のプロセスにより行った。対照実験(実施例1)で行ったようなカラムの中で液相を直接分散させる代わりに、同じものをその気体の状態でカラムの中に投入し、その後、気相を液体になるように凝縮し、それにより分散液の超微粒子を形成させた。分散液(すなわち、1リットルのn−ペンタン)がタンクの中に取り込まれ、ジャケットの中に40℃の温水を流すことにより蒸気とした。この蒸気は、水溶液のフラッディングカラムを通して注入された。カラム温度は、蒸気が液体状態へと凝縮する25℃とした。液滴は、その高い密度のために下方に移動し、これにより溶質が溶液から抽出された。フラッシュタンクの中の残存生成物の濃度もまた測定された。観察結果を表2に示す。試料の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。実施例1と実施例2を比較すると、拡散している液相の液滴の表面積が増加すると、抽出が極めて効率的であることが観察された。特に、対照実験では、60分で50%が回収され、効果は20分以内に得られた。
【0031】
【表2】

【実施例3】
【0032】
8%(w/v)の濃度のエタノールが供給溶液として、1メートルの長さの抽出カラムの中で使用された。使用溶媒は、1,1,1,2−テトラフルオロエタンであり、これを蒸気の形態でカラムに投入し、カラムの内容物は、準大気圧、15℃で維持された。低温では、蒸気は凝縮して液体状態となった。液滴は、その高い密度のために下方へ移動し、溶質が溶液から抽出された。フラッシュタンクの中の残存生成物の濃度もまた測定された。表3に示す観察結果においては、10分で50%が回収された。
【0033】
【表3】

【実施例4】
【0034】
同じ傾向が、2%のブタノールを供給材料として使用し、拡散液相として1,1,1,2−テトラフルオロエタンを使用した場合に観察された。5分以内に50%の回収が観察された。
【0035】
【表4】

【実施例5】
【0036】
図1に示したように、ペンタン蒸気はまず溶媒貯蔵タンク(1)の中で発生する。ペンタン蒸気は、抽出カラム上に設けられたジャケットに、40℃から60℃の間の温水を流すことによって発生する。貯蔵タンク(1)の中で発生させたペンタン蒸気は、抽出カラム(1)の底から溶媒注入パイプ(P1)を通じて抽出カラム(2)に送られる。酪酸水溶液は溶液貯蔵タンク(3)に貯蔵される。酪酸水溶液は、抽出カラム(2)の上から溶液注入パイプ(P2)を通じ、重力により抽出カラム(2)に連続的に注入される。カラム(2)の内容物の温度は、水により25℃の準大気圧に維持される。ペンタン蒸気がカラムの中に入ると、凝縮して、物質移動のための、さらに大きな表面積を有する微細液滴を形成する。相変化およびマイクロバブルの形成は本発明の重要な現象である。n−ペンタンは酪酸を抽出し、n−ペンタンは水よりも軽いので、上に移動して、抽出カラムの上部に有機層を形成する。ペンタンと酪酸を含む有機層は、ポンプ(4)を使用することにより、パイプライン(P3)を通じて抽出カラム(2)から連続的に除去される。使用済みの液体は、少量の酪酸を含む抽残液ライン(P4)を通じて底から回収される。この操作を数回継続すると、プロセスは定常状態となる。抽出容器(2)から回収されたn−ペンタンと酪酸の抽出物は、ライン(P3)を通じた抽出を通じて、フラッシュタンク(5)に送られる。フラッシュタンク(5)には、ジャケットを通じて40℃の温水により熱エネルギーが与えられ、その後、n−ペンタンの蒸気をフラッシュし、同じ蒸気が流れ(P5)を通じて抽出カラムへと再利用される。操作の最後に、蒸気を回収でき、ジャケットを通じた冷水により冷やされ、凝縮タンク(6)の中で凝縮することができる。純酪酸は、生成物の排出流(P6)を通じてフラッシュタンク(5)から回収される。
【0037】
図2に示したように、R134aガスは8barの圧力下で、液化状態で貯蔵タンク(1)の中に貯蔵される。R134は、貯蔵タンク(1)から溶媒注入パイプ(Pl)を通じて上面から抽出カラム(2)に送られる。アルコール(エタノール/ブタノール)水溶液は、溶液貯蔵タンク(3)から、溶液注入パイプ(P2)を通じて抽出カラム(2)に連続的にポンプで注入されて、貯蔵タンク(3)に貯蔵される。抽出カラム(2)の温度は、15℃の水により準大気圧で維持される。R134aがカラム(2)に入ると、凝縮し、物質移動のための、さらに大きな表面積を有する微細液滴を形成する。相変化およびマイクロバブルの形成は、本発明の重要な現象である。R134aはアルコール(エタノール/ブタノール)を抽出し、R134aは水よりも重いので、下方へ移動し、下部に有機層を形成する。Rl34aとアルコール(エタノール/ブタノール)を含む有機層は、ポンプ(4)を使用することにより、ライン(P3)を通じて抽出カラム(2)から連続的に除去される。ほとんどアルコール(エタノール/ブタノール)を含まない使用済みのアルコール(エタノール/ブタノール)は上から回収される。この操作がその後数回継続されると、プロセスは定常状態となる。R134aとアルコール(エタノール/ブタノール)の抽出物は、抽出流(P3)によりフラッシュタンク(5)へと送られる。フラッシュタンク(5)には、ジャケットを通じて40℃の温水により熱エネルギーが与えられ、その後、R134a蒸気をフラッシュし、同じ蒸気が流れ(P4)を通じて抽出カラム(2)に再利用される。純粋なアルコールが、生成物排出流(P5)を通じてフラッシュタンク(5)から回収される。この手法は、8barの圧力下で行われなければならない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに不混和性である第1の流体から第2の流体へと溶質を移動させるプロセスであって、
気体状態の前記第2の流体を前記第1の流体の中に導入する工程を備え、
前記第1の流体は、前記第2の流体の凝縮温度より低い温度で維持され、それにより、前記第1の流体を凝縮して超微細な液体粒子を形成し、第2の流体から溶質を抽出する、プロセス。
【請求項2】
前記溶質が両方の流体が互いに接触している場合には、前記第1の流体にも前記第2の流体にも可溶である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記溶質が、液体、固体、または気体の形態である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第1の流体と前記第2の流体とは向流である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
互いに不混和性である第1の流体から第2の流体へと溶質を移動させる装置であって、
第1の温度で維持され、前記第1の流体を供給する第1の注入口を有する抽出チャンバーであって、第2の流体を供給するための第2の注入口を備え、該第2の注入口は、第2の温度で維持される第2の流体の貯蔵に適したリザーバに接続され、前記第1の温度は第2の流体の凝縮温度より低く、前記第2の温度は第2の流体の凝縮温度より高い抽出チャンバーと、
第2の流体の溶液と溶質を回収するために、抽出チャンバー上に設けられた第1の排出口と接続され、第2の流体の凝縮温度より高い第3の温度で維持されるフラッシュタンクと、
を備える、装置。
【請求項6】
前記第1の注入口および前記第2の注入口が、第1の流体と第2の流体が向流方向に供給されるように抽出チャンバーに配置されている、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記抽出チャンバーには、第1の温度の水を供給するジャケットが設けられている、請求項5または請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記リザーバには、第2の温度の水を供給するジャケットが設けられている、請求項5から請求項7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記フラッシュタンクには、第3の温度の水を供給するジャケットが設けられている、請求項5から請求項8のいずれかに記載の装置。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−530747(P2010−530747A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512803(P2010−512803)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/IB2008/001613
【国際公開番号】WO2008/155643
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(509308997)ナーガルジュナ エナジー プライベート リミテッド (6)
【Fターム(参考)】