説明

発酵器の温度制御方法、発酵器の温度制御プログラム、および発酵器

【課題】 発酵室からの放射熱の影響を考慮して迅速かつ正確に発酵室内の温度を制御することができる発酵器の温度制御方法、温度制御プログラム、および発酵器を提供する。
【解決手段】 被発酵物が格納される発酵室の底部に配置された熱源3が発酵室内を加熱するよう構成されていて、発酵室内の設定温度TSを取得する情報入力手段12と、発酵室外の外気温度T1を取得する第1センサー15と、熱源3の周辺温度T2を取得する第2センサー16と、発酵室内の測定温度T3を取得する第3センサー14と、発酵室内の中央部温度T4を推定する温度推定手段17と、熱源の出力を制御する制御手段17と、を底部に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵器に関し、例えば、自家製パンの調理に用いることができる家庭用の発酵器の温度制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用の発酵器としては、複数の載置台が配置可能な発酵室と、発酵室の下方に発酵室内を加温するヒーターと、ヒーターの温度制御に用いる発酵室内の温度情報を取得する温度センサーとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1記載の発酵器では、発酵させるパン生地が複数の載置台に載置されて、温度センサーの情報により制御回路がヒーターの加温動作を制御する。この構成により、特許文献1記載の発酵器は、発酵室内の温度を制御して、パン生地を発酵させることができる。
【0003】
なお、家庭用の発酵器に関する他の技術としては、制御部の基板上サーミスタによる簡単な構成で、発酵器が存在する部屋の調理中の室温を正確に推定する自動製パン機(例えば、特許文献2参照)や、温度検知手段の受ける室温の影響を抑えるため、調理プロセスの各工程毎の制御温度に補正を加える自動製パン機(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0004】
また、加熱調理装置の温度制御に関する技術としては、加熱室と蓄熱板を加熱する加熱手段を設け、対流熱伝達により蓄熱板の温度を急速に立ち上げる加熱調理装置(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3170536号公報
【特許文献2】特開2004−305266号公報
【特許文献3】特開平8−191761号公報
【特許文献4】特開2010−78240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の発酵器は、発酵室内に設けられた温度センサーからの情報のみでヒーターをオン・オフ制御して、発酵室内の温度調整を行う。つまり、特許文献1記載の発酵器は、ヒーターの温度制御を行うにあたって、発酵室内から発酵室外への放射熱を考慮していない。
【0007】
そのため、特許文献1記載の発酵器では、発酵室内におけるヒーター付近の位置とヒーターから離間した位置とで温度差が生じやすく、発酵室内を均一な温度にすることが難しいという問題があった。
【0008】
また、発酵室内の温度センサーのみでヒーターの温度制御を行う特許文献1記載の発酵器では、目標となる発酵室内の温度に対してヒーターの温度が高くなりやすいため目標の温度に収束しにくい。そのため、同発酵器には、早期に設定温度に安定させることが難しい、といった問題があった。
【0009】
なお、特許文献2記載の自動製パン機は、調理中の検知温度から本体温度の影響による温度上昇分を減じた温度を室温として推定する技術であるが、機内から機外への放射熱を考慮していないため、早期に機内温度を安定させることが困難である。
【0010】
また、特許文献3記載の自動製パン機は、室温に応じて調理工程毎の制御温度に補正を加える技術であるが、機内から機外への放射熱を考慮していないため、早期に機内温度を安定させることが困難である。
【0011】
さらに、特許文献4記載の加熱調理装置は、蓄熱板を加熱して調理時間を短くする技術であるが、装置内から装置外への放射熱を考慮していないため、早期に装置内温度を安定させることが困難である。
【0012】
そこで、本発明は、発酵室からの放射熱の影響を考慮して迅速かつ正確に発酵室内の温度を制御することができる発酵器の温度制御方法、温度制御プログラム、および発酵器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、如何にしたら発酵室からの放射熱を正確に捉えられるのか、そして、如何にしたら迅速かつ正確に発酵室内の温度を制御できるのかを、鋭意研究を重ねた結果、この放射熱が、熱源周辺温度と発酵室外近傍温度をパラメーターとする特定の関係式にて導き出されることを見出し、本発明を完成するに至った。
つまり、本発明にかかる発酵器の制御方法は、被発酵物が格納される発酵室の底部に配置された熱源が発酵室内を加熱するよう構成されていて、発酵室内の設定温度TSを取得する情報入力手段と、発酵室外の外気温度T1を取得する第1センサーと、熱源の周辺温度T2を取得する第2センサーと、熱源の出力を制御する制御手段と、を備えた発酵器により実行されるところの、発酵室内の温度を制御する方法であって、設定温度TSを取得するステップと、外気温度T1を取得するステップと、周辺温度T2を取得するステップと、制御手段が設定温度TSと外気温度T1と周辺温度T2とに基づいて熱源の出力温度TTを算出するステップと、を有してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、発酵室からの放射熱の影響が正確にとらえられるので、迅速かつ正確に発酵室内の温度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる発酵器の実施の形態を示す全体斜視図である。
【図2】図1の全体斜視図から扉を取り外した状態を示す斜視図である。
【図3】天井部を取り外し、対流制御板を載置した状態の本発明にかかる発酵器の平面図である。
【図4】本発明にかかる発酵器の側断面図である。
【図5】本発明にかかる発酵器の底部の斜視図である。
【図6】天井部を取り外した状態の本発明にかかる発酵器の平面図である。
【図7】本発明にかかる発酵器の温度制御プログラムが動作する発酵器の温度制御手段の機能ブロック図である。
【図8】本発明にかかる発酵器の温度測定位置を示す側断面図である。
【図9】本発明にかかる発酵器の温度制御方法の例を示すフローチャートである。
【図10】本発明にかかる発酵器のヒーター部出力制御に関するフローチャートである。
【図11】本発明にかかる発酵器のヒーター部出力制御の例を示すデータテーブルの一例である。
【図12】本発明にかかる発酵器の発酵室内の温度変化の概略の一例を示す図である。
【図13】本発明にかかる発酵器の発酵室内の温度変化の概略の別の一例を示す図である。
【図14】本発明にかかる発酵器の発酵室内の温度変化の概略のさらに別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明にかかる発酵器、発酵器の温度制御方法、および温度制御プログラムの実施の形態について説明する。
【0017】
[発酵器の装置構成]
図1は、本発明にかかる発酵器の実施の形態を示す全体斜視図である。本実施の形態にかかる発酵器1は、発酵室(後述する)の内部を加熱する熱源の一例としてのヒーター部を備える底部4と、底部4に隣接する周壁部5および扉6と、周壁部5および扉6に隣接する天井部7と、により構成される。ここで、発酵器1の外観は、ほぼ直方体である。底部4、周壁部5、扉6、天井部7で囲まれた発酵器1の内部には、パン生地やパン種などの被発酵物が格納される発酵室が形成される。
【0018】
底部4の上面には、設けられるヒーター部3の発熱面が配置されている。ヒーター部3は、例えば電熱性のヒーターを用いることができる。また、ヒーター部3は、底部4の筐体内部に収められる後述の本発明にかかる発酵器の温度制御プログラムにより発熱温度が制御される。
【0019】
図2は、図1の全体斜視図から扉6を取り外した状態を示す斜視図である。周壁部5は、さらに発酵器1の側面をなす右側壁5aと左側壁5bと、背面(扉6の反対側)をなす背面部5cとからなる。右側壁5aと左側壁5bと背面部5cのそれぞれは、ほぼ矩形の板状部材である。右側壁5aと左側壁5bと背面部5cは、それぞれ別部材として形成されている。なお、右側壁5aと左側壁5bと背面部5cは、一つの部材として形成しそれぞれの接続部分を薄肉化して折りたたみ可能なように形成してもよい。
【0020】
なお、周壁部5,扉6,天井部7は、発酵室内外の断熱が必要であるため、断熱性の材料により形成されている。周壁部5,扉6,天井部7の材質としては、例えば低発泡性のポリスチレン(いわゆる発泡スチロール)が挙げられる。
【0021】
ただし、周壁部5,扉6,天井部7の材質としては、ポリプロピレンやこれに代替できる他の高分子化合物でもよい。また、周壁部5,扉6,天井部7はそれぞれ材質が違っていてもよい。
【0022】
発酵室2には、周壁部5の内壁に設けられる載置網受け9によって、載置網8が載置可能である。また、発酵室2には、発酵室2内の複数の載置網8のうちヒーター部3に最も近い載置網8とヒーター部3との間(ヒーター部3の真上)にある載置網受け9を介して、対流制御板10が載置可能である。
【0023】
載置網8は、被発酵物(あるいは被発酵物が収められたトレイ)が載置される複数の載置台の一例である。なお、載置網8は、網状のものに限らず、後述するように発酵室2内の空気の対流を実現できる形状であれば、様々なものを利用することが可能である。
【0024】
載置網受け9は、被発酵物を発酵室2内に格納する際に用いられる載置網8を載置するために、発酵室2の内側に向けて突出するように周壁部5の右側壁5aおよび左側壁5bに設けられている。
【0025】
対流制御板10は、載置網受け9を介して、発酵室2内に配置される。また、対流制御板10は、発酵室2内の複数の載置網8のうちヒーター部3に最も近い載置網8とヒーター部3との間に配置される。ここで、対流制御板10とヒーター部3との鉛直方向の距離は、対流制御板10の耐熱性を考慮して適宜定められ、後述のヒーター部3からの熱流を周壁部5側へ促す効果を考慮すると短いことが望ましい。
【0026】
図3は、天井部7を取り外し、対流制御板10を載置した状態の発酵器1の平面図である。対流制御板10は、本体部10a、切欠部10b(10b1,10b2)を有する。対流制御板10は、発酵室2に対流制御板10を配置したときに、本体部10aが発酵室2の平面視中央付近に位置するように配置される。図3中、ハッチングを施した箇所は、後述する流路を示す。
【0027】
本体部10aは、対流制御板10が発酵室2内に載置された際にヒーター部3の熱流が直上(に載置される被発酵物)に上昇せずに後述するように整流させるために、通気性を有しない(あるいは通気性の低い)材質や構成を有する。
【0028】
切欠部10bは、対流制御板10の縁に形成される。切欠部10bは、発酵室2内の空間のうち、対流制御板10の下方の空間と対流制御板10の上方の空間とを連通させ、ヒーター部3付近の温かい空気と発酵室2内の空気とを流通させる流路を形成する構成の一例である。
対流制御板10の材質としては、断熱性を有するものが望ましく、例えば低発泡性のポリスチレンがあげられる。
【0029】
図4は、発酵器1の側断面図である。切欠部10bを設けることで、本実施の形態にかかる発酵器1では、ヒーター部3によって熱せられた対流制御板10の下方の空間にある空気が、切欠部10bを通って周壁部5の内壁沿い(図3においてハッチングを施した箇所)を上昇する。上昇した空気は、図4の矢印で示したように、天井部7の内壁に当たった後に下降に転じ、載置網8の網目を抜けて対流制御板10の上面に反射されて再び上昇に転じることで発酵室2内を対流する。対流制御板10が以上のような空気の流れを促すことで、発酵器1は、発酵室2内の温度差を低減することができる。つまり、発酵器1は、ヒーター部3に近い載置網8に載置される被発酵物とヒーター部3から離れた載置網8に載置される被発酵物との発酵温度の差を低減することができる。
【0030】
図5は、底部4の斜視図である。また、図6は天井部7を取り外した状態の発酵器1の平面図である。ここで、図6に示すように、発酵器1は断面形状が平面視多角形、より詳細には矩形状である。
【0031】
底部4は、例えば樹脂製の筐体4aにより板状に形成される。底部4には、ヒーター部3のほかに、結合部品11、スイッチ部12、表示部13、発酵室内温度センサー(第3センサー)14が設けられる。また、底部4には、図5,6に破線で示したように、発酵室外温度センサー(第1センサー)15、ヒーター周囲温度センサー(第2センサー)16、制御回路(温度取得手段と制御手段)17が設けられる。
結合部品11は、例えばねじ込み式ノブであり、ねじ込むことで周壁部5の右側壁5aと左側壁5bとが底部4に固定される。
【0032】
なお、結合部品11は、周壁部5を底部4に固定することができるものであればよく、上述のようにねじ込み式に限らず様々な方法を採用することができる。
【0033】
図7は、本発明にかかる発酵器の温度制御プログラムが動作する発酵器1の温度制御手段の機能ブロック図である。図6と図7とを参照して、発酵器1の温度制御手段の構成を説明する。
【0034】
スイッチ部12は、発酵器1の情報入力手段の一例であり、ヒーター部3の電源の入/切、設定温度の上下などの操作入力を発酵器1の利用者などから受け付ける。
【0035】
表示部(表示手段)13は、例えばヒーター部3の電源の入/切や設定温度などといったヒーター部3の動作状態や発酵室2内の現在の温度などのデータを表示する。
【0036】
発酵室内温度センサー14は、底部4の上面であって背面部5c側の周縁中央付近に設けられている。発酵室内温度センサー14は、ヒーター部3により熱せられた発酵室2内の空気の温度(以下「測定温度T3」という。)を取得する。発酵室内温度センサー14が取得した測定温度T3は、ヒーター部3の温度制御および発酵室2内の温度の推定に用いられる。発酵室内温度センサー14は、例えばサーミスタからなる。
【0037】
なお、発酵室内温度センサー14の位置は、図5に示したように筐体4aの上面の背面部5c側の周縁中央付近に限らず、周壁部5の内壁に沿った位置である限り適宜の場所に配置することができる。つまり、発酵室内温度センサー14の位置としては、例えば、右側壁5a側や左側壁5b側の筐体4aの上面の周縁であってもよい。
【0038】
発酵室外温度センサー15は、背面部5cの下方にあたる底部4の筐体4a外側に検出部を露出させて設けられる。発酵室外温度センサー15は、発酵室2の外部の気温(以下「外気温度T1」という。)を取得する。発酵室外温度センサー15が取得した外気温度T1は、制御回路17によってヒーター部3の温度制御および発酵室2内の温度の推定に用いられる。発酵室外温度センサー15は、例えばサーミスタからなる。
【0039】
ヒーター周囲温度センサー16は、底部4の筐体(モールド)4aに不図示の温度検知部が位置するように設けられる。ヒーター周囲温度センサー16は、筐体4aのヒーター部3に近接した箇所の温度(以下「周囲温度T2」という。)を取得する。ヒーター周囲温度センサー16が取得した周囲温度T2は、制御回路17によってヒーター部3の温度制御および発酵室2内の温度の推定に用いられる。ヒーター周囲温度センサー16は、例えばサーミスタからなる。
【0040】
制御回路17は、底部4の筐体4a内の適宜な位置に設けられる。制御回路17は、発酵室2内の中央部温度T4(以下「中央部温度T4」という。)を取得して、現在の温度として表示部13に表示する。すなわち、発酵器1の利用者は、表示部13の表示により、発酵室2内の中央部の温度を把握することができる。
【0041】
ここで、制御回路17は、発酵室内温度センサー14が取得した測定温度T3、発酵室外温度センサー15が取得した外気温度T1、およびヒーター周囲温度センサー16が取得した周囲温度T2と、を用いて中央部温度T4を推定して取得する。中央部温度T4の推定方法については、後述する。
【0042】
なお、制御回路17による中央部温度T4の取得方法は、上述のように推定するものに限られない。例えば、制御回路17は、発酵室2中央に設けられた温度センサー(不図示)で検知された温度を、中央部温度T4として取得してもよい。
【0043】
また、制御回路17は、スイッチ部12から取得した設定温度TSと外気温度T1と周辺温度T2との情報に基づいてヒーター部3の出力温度TTを算出し、ヒーター部3の温度制御を行う。制御回路17は、例えば所定のCPU、プログラムを格納するメモリ、その他必要な周辺機器を集積した回路(マイクロコントローラ)などによって実現されている。
【0044】
[中央部温度T4の推定とヒーター部の出力温度TTの算出について]
次に、発酵器1で用いる中央部温度T4を推定により取得する場合のその推定方法と、ヒーター部の出力温度TTの算出方法について説明する。中央部温度T4は、次式1により推定される。また、ヒーター部3の出力温度TTは、次式2により算出される。
式1:T4=T3−(T2−T1)×F
式2:TT=TS+(T2−T1)×F
ただし、Fは発酵室2からの放射熱の影響を考慮して予め定められた係数であり、例えば制御回路17のメモリに記憶されている。
【0045】
まず、式1、2を決定するにあたり、温度測定位置についての考え方を示す。
図8は、温度測定位置を示す発酵器1の側断面図である。式1による中央部温度T4を推定するために用いる温度センサーは、発酵室内温度センサー14、発酵室外温度センサー15、ヒーター周囲温度センサー16の3つである。底部4の背面部5c側には、発酵室2外の外気温度T1を取得する発酵室外温度センサー15が設けられる。また、底部4内のヒーター部3付近には、周囲温度T2を取得するヒーター周囲温度センサー16が設けられる。さらに、対流制御板10の切欠部10bと背面部5cとによって形成される自然対流の流路上に、測定温度T3を取得する発酵室内温度センサー14が設けられる。
【0046】
発酵器1のように、発酵室2の底部4にヒーター部3を設けて発酵室2内の空気を加熱する場合に、ヒーター部3の出力温度TTを算出するにあたり基本となる式は次の式3である。
式3 TT=TS+(T3−T4)
【0047】
ここで、式3について説明する。測定温度T3には、対流制御板10の下方の空間にある、ヒーター部3によって熱せられた空気の温度が反映されている。また、中央部温度T4は、被発酵物が載置される載置網8付近の温度に相当する。中央部温度T4は、測定温度T3と比較すると低温である。測定温度T3より中央部温度T4が低温の理由は、発酵室2内の空気を温めるために生じた温度低下と周壁部5を通じて発酵室2外に放出される熱による温度低下との影響による。測定温度T3より中央部温度T4が低温の理由のうち、発酵室2内の空気を暖めるために生じた温度低下は、測定温度T3を測定する位置から中央部温度T4を測定すると仮定する位置までの熱伝達経路(すなわち、熱の伝達時間)によって生ずる温度低下と考えることができる。
【0048】
つまり、発酵室2の中央部温度T4を発酵室2の設定温度TSに制御するにあたり、ヒーター部3の出力温度TTは、発酵室2の設定温度TSに熱の伝達時間によって生ずる温度低下分と周壁部5を通じて発酵室2外に放出される熱による温度低下分を加える必要がある。
【0049】
一方、発酵室2の中央部温度T4に基づいてヒーター部3の出力温度TTを制御する場合、以下の点について考慮しなければならない。
【0050】
つまり、ヒーター部3の出力温度TTをヒーター部3から離れた位置の温度にあたる発酵室2の中央部温度T4に基づいて制御すると、温度変化のヒステリシスが大きくなる。その結果、発酵室2の中央部温度T4を設定温度TSに制御することが困難となる。
【0051】
ここで、温度センサーを配置する位置は、発酵器1の底部が好ましい。その理由は、例えば、発酵室2の中央部に温度センサーを配置した場合には、被発酵物であるパン生地を載置した載置網8に温度センサーが近接するからである。従って、パン生地の配置箇所や数などにより、発酵室2内の熱伝達経路(空気の流路)が遮断されるか若しくは変化して、上述の温度センサーにより測定される温度の数値に変化が生じるおそれがあるからである。
【0052】
また、温度センサーを発酵器1の底部に配置すれば、発酵器1のように発酵室2を組み立て式とした場合においても、組み立ての容易さや位置決め精度確保の観点からメリットがある。
【0053】
そこで、本実施例においては、ヒーター周囲温度センサー16はもちろんのこと、発酵室内温度センサー14や発酵室外温度センサー15も発酵器1の底部に設けている。発酵器1は、これらのセンサーを用いて、発酵室外の外気温度T1とヒーター部3の周囲温度T2と発酵室内の温度T3を測定して、発酵室2内の中央部温度T4を推定する。そして、発酵器1は、推定した中央部温度T4を用いて、ヒーター部3の出力温度TTを算出する。
【0054】
次に、発酵器1において、発酵室外の外気温度T1とヒーター部3の周囲温度T2とを用いて中央部温度T4を推定する際の考え方を説明する。本発明の発明者は、発酵器1を開発するにあたり、発酵器1の構造(ヒーター部3の位置、発酵室2内の熱伝達経路)の場合、発酵室内測定温度T3と中央部温度T4との温度差ΔT1と、発酵室外の外気温度T1とヒーター部3の周囲温度T2との温度差ΔT2と、の間には、所定の係数Fをもって比例して推移する関係があることを見い出した。つまり、ΔT1とΔT2との間には、次の式4が成り立つ。
式4 ΔT1=F×ΔT2
【0055】
ここで、Fの値は、発酵室2からの放射熱の影響を考慮して予め定められるが、熱伝達経路の違いによる放射熱の影響を考慮して、様々な値をとることができ、制御回路17のメモリに記憶されている。
【0056】
式4から、中央部温度T4は、発酵室外の外気温度T1とヒーター部3の周囲温度T2と発酵室内測定温度T3とにより、上述の式1として導かれる。
そして、式1と式3とにより、ヒーター部3の出力温度TTは、上述の式2として導かれる。
【0057】
[発酵器の温度制御]
次に、本発明にかかる発酵器1の温度制御方法について説明する。
図9は、発酵器1の温度制御方法の例を示すフローチャートである。
【0058】
まず、制御回路17は、スイッチ部12に入力された発酵器1の動作開始、および、設定温度TSの情報を取得する(図9におけるS101)。発酵器1の動作開始後、制御回路17は、発酵室外温度センサー15から外気温度T1(S102)を、ヒーター周囲温度センサー16からヒーター部3の周囲温度T2(モールド温度)(S103)を、発酵室内温度センサー14から測定温度T3をそれぞれ取得する(S104)。
【0059】
設定温度TS、外気温度T1、周囲温度T2、および測定温度T3を取得した制御回路17は、式1により発酵室2内部の中央部温度T4を推定する(S105)。
【0060】
制御回路17は、設定温度TSと推定した中央部温度T4とに基づいて、式2によりヒーター部3の出力温度TTを算出して、ヒーター部3の出力を制御する(S106)。制御回路17は、設定された出力温度TTを目標としてヒーター部3を加熱する(S107)。
【0061】
制御回路17は、測定温度T3が出力温度TTに達したか否かを判断する(S108)。測定温度T3が出力温度TTに達した場合には(S108:Yes)、式1,2より中央部温度T4が設定温度TSに達したと推定されるので、制御回路17は温度制御処理を終了する。測定温度T3が出力温度TTに達しない場合には(S108:No)、制御回路17は、S102以下の処理を繰り返す。
【0062】
[設定温度近接時のヒーター部の出力制御]
次に、測定温度T3が出力温度TTに近づいた際のヒーター部3の出力制御(出力の変更)について説明する。
【0063】
図10は、発酵器1のヒーター部3の出力制御方法の例を示すフローチャートである。制御回路17は、出力温度TTと発酵室外の外気温度T1との差ΔTを算出する(図10におけるS201)。
【0064】
制御回路17は、ΔTに基づいて出力温度TTを下回り(出力温度TTより低温)出力制御を開始する温度として、所定温度TCを算出する(S202)。ここで、所定温度TCは、出力温度TTから一定の温度を減じた温度(例えば、TT−α[℃];αは予め定められる値)としても、あるいはΔTの大きさにより可変(例えば、ΔTの値に比例して所定温度TCを変化)させてもよい。
【0065】
制御回路17は、所定温度TCを算出後、測定温度T3が所定温度TCに到達したか否かの判断を行う(S203)。測定温度T3が所定温度TCに達しないときは(S203:No)、S203の判断を繰り返す。
【0066】
測定温度T3が所定温度TCに達したときは(S203:Yes)、制御回路17は、ヒーター部3の出力をそれまでの出力より低下させる(S204)。出力低下の方法としては、例えば、通常の出力がヒーター部3の定格電流値を連続的に与えているのに対して所定温度TCに達した後はPWM制御に移行する方法が挙げられる。
【0067】
所定温度TCに達した後にPWM制御を行う場合に、制御回路17は、例えばΔTと発酵室外の外気温度T1とに基づいて、通常の出力に対するPWM制御時の出力の比率を算出する。このとき、制御回路17は、例えば、図11のような予めメモリなどの不図示の記憶手段に格納されるデータテーブルに基づいてPWM制御時の上記出力の比率を算出する。
【0068】
なお、所定温度TCに達した後の出力低下の方法としては、以上説明した例に限らず、例えば、通常の出力時の電流値より所定温度TCに達した後は電流値を低下させる、あるいは、ヒーター部3の加熱面の面積を変更するなどの方法が考えられる。
【0069】
図12は、発酵室2内の温度変化の概略の一例を示す図である。図12において、縦軸は測定温度T3、横軸は発酵器1の動作開始からの経過時間tを示す。測定温度T3は、初期の温度T0からヒーター部3が定格電流値で加熱されることにより上昇する。測定温度T3が所定温度TCに達すると、制御回路17が上述の処理によりヒーター部3の出力を定格の出力から所定の比率で低下させる。このため、測定温度T3は、出力温度TTに到達後緩やかに低下し時間t1が経過した後に設定温度TSに収束し始める。
【0070】
なお、発酵室2内の温度制御の仕方は、図12のように測定温度T3が出力温度TTを上回った(オーバーシュート)後に出力温度TT以下になり、その温度から徐々に収束させる場合に限らない。例えば、図13のようにオーバーシュートした後に出力温度TT以上の温度から徐々に収束させることも可能である。また、図14のようにオーバーシュートすることなく徐々に出力温度TTに収束させることも可能である。
【0071】
[実施の形態の作用・効果]
以上説明したように発酵器1は、発酵室2の温度(中央部温度T4)を設定温度TSとするために発酵器1のヒーター部3の出力温度TTを算出し、算出した出力温度TTをヒーター部3の温度とするためにヒーター部3の出力を制御する。その際、発酵室外温度センサー15から取得した外気温度T1、ヒーター周囲温度センサー16から取得した周囲温度T2、発酵室内温度センサー14から取得した測定温度T3を用いる。そのため、発酵器1によれば、温度変化のヒステリシス、被発酵物の位置・大きさ・数などによる熱伝達経路の変化などの影響を受けることなく、かつ、組み立ての容易さなどを損なうことなく安定した位置で温度測定ができる。
【0072】
また、以上説明したように発酵器1は、底部4に発酵室内温度センサー14と発酵室外温度センサー15とヒーター周囲温度センサー16とを設けることによって、被発酵物の載置状態に影響されることなく、正確な温度を測定できる。
【0073】
さらに、以上説明したように発酵器1は、発酵室2の底部4に配置されたヒーター部3が発酵室2内を加熱するよう構成され、対流制御板10の切欠部10bにより形成される自然対流の流路上に発酵室2内の測定温度T3を取得する発酵室内温度センサー14を配置する。ここで、発酵器1は、対流制御板10の形状により、発酵室内温度センサー14上方の切欠部10bの開口面積が適切に確保(流路の断面積が確保)できるため、自然対流により発酵室2内の温度を均一にすることができる。流路上に発酵室内温度センサー14が配置された発酵器1によれば、発酵室内温度センサー14による発酵室2内の中央部温度T4を正確に推定できる。そして、発酵器1によれば、中央部温度T4の推定値を用いてヒーター部3の出力温度TTを適切に制御し、結果として発酵室2内の温度を設定温度TSに制御することができる。
【0074】
このように、発酵器1によれば、発酵室からの放射熱の影響を考慮して迅速かつ正確に発酵室内の温度を制御することができる。
【0075】
さらに、発酵器1では、出力温度TTと発酵室外の外気温度T1との差ΔTに基づいて出力温度TTを下回り出力制御を開始する温度として、所定温度TCを算出する。そして、発酵器1では、所定温度TCを算出後、測定温度T3が所定温度TCに到達後、それまでのヒーター部3の出力より低い出力でヒーター部3を加熱する。そのため、発酵器1によれば、迅速に発酵室2の温度(測定温度T3などより推定される中央部温度T4)を設定温度TSに収束することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 :発酵器
2 :発酵室
3 :ヒーター部
4 :底部
4a :筐体
5 :周壁部
6 :扉
7 :天井部
8 :載置網
10 :対流制御板
11 :結合部品
12 :スイッチ部
13 :表示部
14 :発酵室内温度センサー
15 :発酵室外温度センサー
16 :ヒーター周囲温度センサー
17 :制御回路
F :係数
T0 :温度
T1 :外気温度
T2 :周囲温度
T3 :測定温度
T4 :中央部温度
TC :所定温度
TS :設定温度
TT :出力温度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被発酵物が格納される発酵室の底部に配置された熱源が上記発酵室内を加熱するよう構成されていて、
上記発酵室内の設定温度TSを取得する情報入力手段と、
上記発酵室外の外気温度T1を取得する第1センサーと、
上記熱源の周辺温度T2を取得する第2センサーと、
上記熱源の出力を制御する制御手段と、
を備えた発酵器により実行される、上記発酵室内の温度を制御する方法であって、
上記設定温度TSを取得するステップと、
上記外気温度T1を取得するステップと、
上記周辺温度T2を取得するステップと、
上記制御手段が上記設定温度TSと上記外気温度T1と上記周辺温度T2とに基づいて上記熱源の出力温度TTを算出するステップと、
を有してなることを特徴とする発酵器の温度制御方法。
【請求項2】
上記制御手段が、上記熱源の出力温度TTを次式により算出する、
請求項1に記載の発酵器の温度制御方法。
TT=TS+(T2−T1)×F
ただし、Fは上記発酵室からの放射熱の影響を考慮して予め定められた係数である。
【請求項3】
上記発酵器は、
上記発酵室内の中央部温度T4を取得する温度取得手段と、
を備え、
上記温度取得手段が、上記中央部温度T4を取得するステップと、
を有する、請求項1または2記載の発酵器の温度制御方法。
【請求項4】
上記発酵器は、
上記発酵室内の測定温度T3を取得する第3センサーと、
を備え、
上記第3センサーが、上記測定温度T3を取得するステップ、
を有し、
上記温度取得手段が、上記外気温度T1と上記周囲温度T2とおよび上記測定温度T3とに基づいて発酵室内の中央部温度T4を推定して取得する、
請求項3記載の発酵器の温度制御方法。
【請求項5】
上記温度取得手段が、上記中央部温度T4を次式により推定する、
請求項4記載の発酵器の温度制御方法。
T4=T3−(T2−T1)×F
ただし、Fは上記発酵室からの放射熱の影響を考慮して予め定められた係数である。
【請求項6】
上記制御手段が上記出力温度TTと上記外気温度T1との温度差ΔTに基づいて、上記出力温度TTを下回る所定温度TCを算出するステップと、
上記測定温度T3が上記所定温度TCに到達した際に、上記制御手段が上記熱源の出力を変更するステップと、
を有する、
請求項3記載の発酵器の温度制御方法。
【請求項7】
上記制御手段が、上記温度差ΔTと上記外気温度T1とに基づいて、上記熱源の出力を変更する、
請求項6記載の発酵器の温度制御方法。
【請求項8】
上記第1センサーと上記第2センサーと上記第3センサーとが、上記底部に設けられる、請求項1から7のいずれかに記載の発酵器の温度制御方法。
【請求項9】
被発酵物が格納される発酵室の底部に配置された熱源が上記発酵室内を加熱するよう構成されていて、
上記発酵室内の設定温度TSを取得する情報入力手段と、
上記発酵室外の外気温度T1を取得する第1センサーと、
上記熱源の周辺温度T2を取得する第2センサーと、
上記発酵室内の温度の制御するコンピュータと、
を備えた発酵器において、上記コンピュータに、
上記設定温度TSを取得するステップと、
上記外気温度T1を取得するステップと、
上記周辺温度T2を取得するステップと、
上記設定温度TSと上記外気温度T1と上記周辺温度T2とに基づいて上記熱源の出力温度TTを算出するステップと、
を実行させることを特徴とする発酵器の温度制御プログラム。
【請求項10】
発酵室の底部に配置された熱源が上記発酵室内を加熱するよう構成され、
上記発酵室内の設定温度TSを取得する情報入力手段と、
上記発酵室外の外気温度T1を取得する第1センサーと、
上記熱源の周辺温度T2を取得する第2センサーと、
上記熱源の出力を制御する制御手段と、
を備え、上記発酵室からの放射熱の影響を考慮して上記熱源の出力を制御することで上記発酵室内の温度を制御する発酵器であって、
上記制御手段は、上記設定温度TSと上記外気温度T1と上記周囲温度T2とに基づいて上記熱源の出力を制御する、
ことを特徴とする発酵器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−102760(P2013−102760A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251280(P2011−251280)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(502354524)アシストV株式会社 (7)
【Fターム(参考)】