説明

発酵工程を備えた米菓の製造方法とその米菓

【課題】米を主原料とした生地を発酵することにより、口溶けがよく、発酵風味を有する新規な米菓の製造方法を提供する。
【解決手段】湿熱工程(S1)及び混練工程(S2)において、米を主とする原料を蒸煮してアルファ化すると共に混練して生地を形成する。この生地の温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合し、この混合した生地を成形して発酵工程(S6)で発酵させ、発酵した生地を冷やして硬化させ、硬化した生地を所定形状に切断した後、焼成した。この焼成生地に味付けを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米を主とした原料の生地(ドウ)を発酵した新規な米菓の製造方法とその米菓に関する。
【背景技術】
【0002】
米を用いた生地を発酵する食品として、米粉と小麦粉をそれぞれ50%ずつの配合率で配合した原料にトレハロースを多く含むパン用酵母である白神こだま酵母を使用して、原料の70%を仕込む中種生地製造工程、残りの30%と共にその他の材料を仕込む本仕込み工程、分割作業の工程、ベンチタイムの工程、成形の工程、焼き上げの工程の各工程により製造した米パン及びその製造方法(例えば、特許文献1)が提案されている。
【0003】
また、米粉単独で、若しくは米粉を主体とした小麦粉との混合体で、パンを製造するに当り、餅米に加水加熱してアルファ化した糊状物に水飴などのような高分子粘性食品を加えた混合物を米粉を加えて発酵させ、薄膜を形成させる米粉パンの製造方法(例えば特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、米粉100重量部と白糠粉1〜300重量部とを含んでなるパン・菓子用米粉組成物、前記米粉組成物を用いて製造された生地およびパン・菓子、ならびに前記米粉組成物に水または水と酵母を加えて混合し、生地を作る工程、および生地を成形して焼成、フライ、蒸煮、マイクロ波加熱または加圧加熱により調理する工程を含む米粉パン・菓子の製造方法(例えば、特許文献3)が提案されている。
【0005】
さらに、米粉に酵母と水を加えた主原料に、必要に応じて品質改善材や風味改善材といった副原料を加えて、混合、混捏することにより当該混合原料が均一に分散・混合させて作った粘弾性生地を調製し、当該生地を酵母の発酵作用により発泡膨張させたうえ、加熱処理をすることにより米粉を主原料として架橋ネットワーク構造体を形成する方法(例えば特許文献4)が提案されている。
【0006】
さらに、うるち米を主原料とするパンの製造方法であって、うるち米から得られた米粉の全量を100質量部とした場合、そのうちの4〜8質量部をその10〜15倍量の水と混合し、加熱して、米粉中のデンプンをα化して、粘稠なスラリー状物を調製する工程、得られたスラリー状物を、残りの米粉、残りの米粉の0.1〜0.2倍量の水及び酵母、及び場合により調味料と混合して、流動性を有するパン生地を調製する工程、得られた流動性を有するパン生地を成形容器に流し込む工程、該成形容器を加熱して、パン生地を発酵させる工程、及び該発酵物をオーブンで焼成する工程を含み、得られるパンが、実質的にグルテンを含まないパンの製造方法(例えば特許文献5)が提案されている。
【特許文献1】特開2004−350562号公報
【特許文献2】特開平5−130827号公報
【特許文献3】特開2004−24187号公報
【特許文献4】特開2003−189786号公報
【特許文献5】特開2004−267144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、米粉を主原料としても米粉を膨らませる作用を有するトレハロースを多く含むパン用酵母を加えることで小麦を主原料とするパンと同様な食感を得る製法を提供し、また、特許文献2では、餅米に加水加熱してアルファ化した糊状物に水飴などのような高分子粘性食品を加えた混合物を米粉を加えて発酵させ、また、特許文献3では、前記米粉組成物を用いて製造された生地およびパン・菓子、ならびに前記米粉組成物に水または水と酵母を加え、また、特許文献4では、米粉と酵母と水を主原料にし、発泡させてから加熱処理し、また、特許文献5では、米粉を一旦アルファ化してから酵母を添加して発酵させているが、これら米粉を原料に用いる製法では、通常のパンの製法と同様に原料に酵母を添加させてから、発酵処理などして焼き上げ、米粉を小麦の代用としてパンを製造する方法であった。
【0008】
そこで、本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであって、米を主とした原料の生地を発酵することにより、口溶けがよく、発酵風味を有する新規な米菓の製造方法とその米菓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の発明は、米を主とした原料の生地に酵母を添加して発酵させ、この発酵した生地を複数に分割した後、焼成する製造方法である。
【0010】
本発明の請求項2記載の発明は、米を主とする原料を蒸煮してアルファ化すると共に混練して生地を形成し、この生地の温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合し、この混合した生地を成形して発酵させ、発酵した生地を冷やして硬化させ、硬化した生地を複数に分割した後、焼成する製造方法である。
【0011】
本発明の請求項3記載の発明は、前記生地に味付けを行う製造方法である。
【0012】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により製造したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1記載の構成によれば、米を主とした原料の生地に酵母を添加して発酵させ、この発酵した生地を複数に分割した後、焼成することにより、得られた焼成生地は、カリッとした食感で、口溶けや発酵風味に優れたものになる。
【0014】
本発明の請求項2記載の構成によれば、前記生地の温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合することにより、良好な発酵状態が得られる。例えば、生地の温度が50℃を超えると、発酵時間が早く、発泡も大きくなり、生地中に大きな空洞ができ易く、また、好ましくない発酵臭が発生し易く、生地を50℃以下にして発酵する。
【0015】
本発明の請求項3記載の構成によれば、味付けした風味と共に、口溶けや発酵風味を楽しむことができる。
【0016】
本発明の請求項4記載の構成によれば、口溶けがよく、発酵風味を有する新規な米菓となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる発酵工程を備えた新規な米菓の製造方法とその米菓を採用することにより、従来にない発酵工程を備えた米菓の製造方法とその米菓が得られ、その発酵工程を備えた米菓の製造方法とその米菓について記述する。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1を図1〜図2を参照して説明する。まず、本発明の製造方法においては、精米した米を製粉して米を主とした原料を形成する。このように米を原料に用いる場合、丸粒の米をそのまま用いるよりも、米を粉砕した米粉、さらに微細米粉が好ましい。また、必要に応じて、原料に澱粉を添加することができ、さらに、原料に、添加物として、ナッツ,ゴマ,大豆などの種実類やレーズンなどの乾燥果実などを添加してもよい。また、米粉としては、湿式や乾式の製粉方法において、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉又は高速打撃製粉により得られる微細な米粉を用いることができ、用いる米粉の粒度が微細であればあるほど、酵母による発酵のガス抜けを抑制し、発泡度合の良い生地を得ることができる。
【0019】
そして、図1のフローチャートに示すように、水を添加した前記原料を、湿熱工程(S1)により湿熱処理する。この湿熱工程(S1)には、好ましくは、蒸煮が用いられ、加熱蒸気による蒸煮によって、澱粉質をアルファ化することにより、生地に伸展性を付与し、後述する発酵処理において必要とする被膜性が与られる。これによりグルテンを用いる必要がなくなる。尚、湿熱処理(S1)後は、水分量が45重量%以上になるように調整することが好ましく、水分量が多いほど生地の伸展性が良く、発酵時の膨らみも良くなる。アルファ化した原料を、混練工程(S2)において混練する。混合と練りとをすることにより、均質な生地が得られる。尚、原料を混練機により混練しなら、蒸煮することにより、湿熱工程(S1)と混練工程(S2)とを略同時に行うことができる。
【0020】
湿熱工程(S1)、混練工程(S2)により得られた生地を冷却工程(S3)により、50℃以下とする。これは、パン酵母等の発酵適正温度に生地の温度を下げるためであり、50℃以下、好ましくは40℃に下げる。生地温度が50℃より高いと、発酵時間が早く、発泡も大きくなるが、生地中に大きな空洞ができ易く、また、好ましくない発酵臭が発生し易い。そして、生地温度が40℃以下であれば、後述する発酵工程において、生地中の空洞もあまり生じることがなく、発酵臭も食味を誘う好ましい香りとなる。尚、生地温度が25℃以下であると、後述する発酵工程としては問題ないが、発酵に時間を要し過ぎる欠点があり、生産性の低下を招き易い。冷却工程(S3)において、生地の冷却には各種の方法を用いることができるが、例えば、冷却水が循環するジャケット付き練機により混練と共に、冷却しても良いし、生地を直接水冷しても良いし、生地を圧延することにより、自然放冷しても良い。
【0021】
冷却工程(S3)の後、添加・混合工程(S4)において、生地に発酵のためのパン酵母等を加え、均一に混合する。パン酵母は、生イースト菌でもよく、ドライイースト菌でも良く、ドライイースト菌を用いる場合は、予備発酵をしてもしなくても良く、パン酵母は、工程・製造設備にあったものを選択する。
【0022】
添加・混合工程(S4)において酵母を添加し、混合した生地を、成形工程(S5)において、所定形状に成形する。この場合、生地を適宜容器に詰めるなどして成形し、例えば、食パン型容器や角容器に入れて成形したり、容器を用いることなく、例えば、蒲鉾状に成形しても良い。
【0023】
成形工程(S5)により所望のサイズに成形した生地を発酵工程(S6)において発酵させる。発酵の条件としては、湿度60〜90%、温度25〜40℃、好ましくは湿度80%、温度30℃程度としたホイロ等で発酵させる。次の冷蔵・硬化工程においても、生地温度が所定温度まで下がり、発酵が停止するまでの間、発酵により膨化するから、その分を勘案して発酵工程(S6)の時間を設定する。即ち、次の冷蔵・硬化工程における発酵の分だで発酵時間を短くする。また、発酵工程(S6)における発酵時間が2時間を越えると、アルファ化澱粉の老化が進み、伸展性に影響がでる場合があるので、発酵時間を2時間以内とすることが、老化の抑制と、生産性の面から好ましい。
【0024】
発酵工程(S6)後、発酵した生地(発酵生地)を冷蔵・硬化工程(S7)において、冷蔵・硬化させる。具体的には、発酵生地を冷蔵庫に入れ、所定温度まで下げることにより、発酵を停止させ、約10〜20時間をかけて生地を硬化させる。
【0025】
尚、原料に微細米粉を用いることにより、発酵工程(S6)において、酵母による発酵のガス抜けを抑制し、発泡度合の良好な生地を得ることができる。
【0026】
冷蔵・硬化工程(S7)の後、発酵生地を焼成前成形工程(S8)において、所定の寸法に分割成形し、この成形には切断などが用いられ、発泡度合の低い生地はギロチンカッターなどで切断し、発泡度合いが高く、発泡生地の硬度が低いものは、スライサーなどにより切断することにより、所定寸法に切断成形する。この所定寸法に成形した生地を、焼成工程(S9)により焼成し、例えば、180℃〜220℃程度のオーブンで焼成することにより、焼成生地が得られ、常法により、味付けを行う。この味付けは、粉体調味料や調味液などにより焼成前、焼成中、焼成後により行うことができる。
【0027】
尚、前記焼成前成形工程(S8)後、所定寸法に成形した生地を、焼成工程(S9)前に、乾燥工程として乾燥機に入れて水分を飛ばしてから、オーブンにより焼成することもできる。例えば、生地が厚い場合や、添加物などがある場合、そのまま焼成しても焼きムラなどが生じる可能性があるが、乾燥工程を経ることにより、焼きムラがなくなり、また、焼成工程(S9)を短縮することができる。尚、焼成工程(S9)を省いて乾燥工程後の乾燥生地を食するようにしてもよい。
(実験例)
原料として、粳米粉9.00Kg、ワキシーコーンスターチ3.75Kg、馬鈴薯澱粉2.25Kg、砂糖1.44Kg、塩0.12Kgを混合したものを用いた。これら原料を十分に混合し、水7.8Kgを加え、さらに、均一に混合する。
【0028】
湿熱工程(S1)及び混練工程(S2)において、加水した原料を蒸練機に投入し、水蒸気圧0.5Kg/cm2で8分間蒸煮した。得られた生地の水分は48%であった。
【0029】
次の冷却工程(S3)において、蒸煮した生地を圧延ロールにて、厚さ約5mm程度のシート状に圧延し、約1分放冷した。放冷した生地の品温は約41℃であった。
【0030】
添加・混合工程(S4)において、放冷した生地に、ドライイースト菌を生地6Kg当り、90gを添加し、搗き機にて約400回搗いて、均一に分散混合させた。
【0031】
続いて、成形工程(S5)において、添加・混合工程(S4)を経て得られたイースト菌入り生地Kを、練機にて、直径約40mm、長さ900mmの棒状に練り出した(図2(A)参照)。
【0032】
発酵工程(S6)において、棒状の生地Kを、湿度80%、約27℃の室温で、約30分カバーをかけて発酵させた。発酵した生地Kは、、幅110mm、高さ50mm、長さ1000mmのかまぼこ状(図2(B))の形状となった。次の冷蔵・硬化工程(S7)で、発酵したかまぼこ状の生地Kを、直ちに2℃に設定された冷蔵庫に約20時間入れ、冷蔵した。1時間後の冷蔵庫の生地Kの寸法を計測したところ、幅110mm、高さ55mm、長さ1020mmのかまぼこ状(図2(C))になっており、少し発酵が進んだ様子だった。
【0033】
焼成前成形工程(S8)において、冷蔵し、硬化した生地Kをスライサーで厚さ4.3mmに複数に切断し、半月状の生地片を得た。焼成工程(S9)において、半月状の生地片を220℃のオーブンに約8分間焼成した。得られた焼成生地はカリッとした食感で、口溶けや発酵風味が良好であった。この焼成した生地に味付けを行い、新規は米菓が得られた。
【0034】
このように本実施例では、請求項1に対応して、米を主とした原料の生地に酵母を添加して発酵させ、この発酵した生地Kを複数に分割した後、焼成するから、得られた焼成生地は、カリッとした食感で、口溶けや発酵風味に優れたものになる。
【0035】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、米を主とする原料を蒸煮してアルファ化すると共に混練して生地を形成し、この生地の温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合し、この混合した生地を成形して発酵させ、発酵した生地Kを冷やして硬化させ、硬化した生地Kを複数に分割した後、焼成するから、生地Kの温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合することにより、良好な発酵状態が得られ、新規な米菓が得られる。例えば、生地の温度が50℃を超えると、発酵時間が早く、発泡も大きくなり、生地中に大きな空洞ができ易く、また、好ましくない発酵臭が発生し易く、生地を50℃以下にして発酵する。
【0036】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、前記生地に味付けを行うから、味付けした風味と共に、口溶けや発酵風味を楽しむことができる。
【0037】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により製造したから、口溶けがよく、発酵風味を有する新規な米菓となる。
【0038】
また、本実施例上の効果として、微細米粉を原料に含むから、酵母による発酵のガス抜けを抑制し、発泡度合いの良い生地を得ることができる。
【0039】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形実施が可能である。味付けを行う工程の順序は適宜選定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本考案の実施例1を示すブロック図である。
【図2】同上、生地の斜視図であり、図2(A)は成形工程後、図2(B)は発酵工程後、図2(C)は冷蔵・硬化工程後の生地をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0041】
K 生地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米を主とした原料の生地に酵母を添加して発酵させ、この発酵した生地を複数に分割した後、焼成することを特徴とする発酵工程を備えた米菓の製造方法。
【請求項2】
米を主とする原料を蒸煮してアルファ化すると共に混練して生地を形成し、この生地の温度を50℃以下に下げ、酵母を添加して混合し、この混合した生地を成形して発酵させ、発酵した生地を冷やして硬化させ、硬化した生地を複数に分割した後、焼成することを特徴とする発酵工程を備えた米菓の製造方法。
【請求項3】
前記生地に味付けを行うことを特徴とする請求項1又は2記載の発酵工程を備えた米菓の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により製造したことを特徴とする米菓。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate