説明

発酵条件による酵素バランスの変更

本明細書の開示は、細胞培養液からタンパクを生産するための改良された方法に関し、特に、キシラナーゼ遺伝子プロモータ配列の制御下で遺伝子から生産されるタンパクの発現を優先的に増加させることができる培養液成分及び条件に関する。この改良された方法は、向上したキシラナーゼ活性及びヘミセルロース分解活性を有する酵素組成物を生産するために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願の相互参照
この出願は、2009年4月30日に提出された米国仮出願第61/174,460号に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
II.技術分野
本明細書の教示は、細胞培養からタンパクを生産するための改良された方法に関し、特に、キシラナーゼ遺伝子プロモータ配列の管理下で遺伝子から生産されるタンパクの発現を優先的に増加させることができる培養成分及び培養条件に関する。この改良された方法は、高められたキシラナーゼ活性及びヘミセルロース分解活性を有するセルラーゼ組成物の生産に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
III.はじめに
バイオマスの主成分は、セルロース及びヘミセルロースである。セルロースは、β−1,4−結合したグルコース残基のポリマーであって、高次繊維構造に組織されたものからなる。キシランは、植物細胞壁中にセルロースと同様に遍在しており、セルロースと同様に結合したβ−D−キシロース単位を主として含んでいる。いくつかのキシランは、L−アラビノースのような他の糖を含んでいるが、それらの他の糖は、側鎖を形成しており、主鎖の一部分ではない。
【0004】
セルロース及びヘミセルロースは、グルコースのような糖に変換され、工業目的のためのバクテリア、酵母及び真菌を含む多数の微生物によるエネルギー源として使用され得る。セルロース材料を市販の酵素によって糖に変換することもでき、得られた糖を、工業用微生物がプラスチック及びエタノールのような産物を生産するための供給原料として使用することができる。糸状菌(トリコデルマリーゼイ)は、セルラーゼ酵素の効率的な生産者である。そのため、トリコデルマリーゼイは、これらの酵素を生産する能力を目的に利用されてきた。しかしながら、現行のセルラーゼ製品は、一般に、ヘミセルロース材料を完全に加水分解する能力を欠いており、セルラーゼ産物のいくつかは、バイオマス組成物中で消費されないままになり、バイオマスの取扱い及び処分を妨げる可能性がある。
【0005】
トリコデルマリーゼイタンパクのセルロース分解性混合物は、微生物の最も特徴的なセルロース分解経路の1つである。これらの混合物を含むセルラーゼは、2つの大きいカテゴリ、エンドグルカナーゼ(EG)及びセロビオヒドロラーゼ(CBH)に分類される。また、β−グルコシダーゼ(BGL)は、トリコデルマリーゼイのセルラーゼ混合物の一部である。
【0006】
セルラーゼ系を含む遺伝子の発現は、転写レベルで調整及び制御されている。この系の構成要素は、相乗的に作用するものであり、上述されているように、セルロースを可溶性オリゴ糖に効率的に加水分解するのに必要である。
【0007】
トリコデルマ(Trichoderma)中の主なセルラーゼ遺伝子(cbh1、cbh2、egl1及びegl2)及びキシラナーゼ遺伝子(xyn1、xyn2及びxyn3)の発現及び生産は、増殖のために用いることができる炭素源に依存する。セルラーゼ遺伝子は、グルコースによって強く抑制されており、セルロース又は二糖ソホロースによって数千倍に誘導され得る。実際に、主要なセロビオヒドロラーゼ1(CBH1)の発現レベルは、セルロース又はソホロースのような誘導性炭素源を含む培地によって、グルコース含有培地と比較して、数千倍にアップレギュレートされる(Ilmen et al., App. Environ. Microbio., 1298-1306, 1997)。
【0008】
キシラナーゼの3つの主要な形態(xyn1、xyn2及びxyn3)は、コレギュレートされていない。xyn1が、キシラン及びキシロースの存在下で誘導され、ソホロースによってわずかに誘導される一方で、xyn2がキシラナーゼ誘導因子及びセルラーゼ誘導因子の両方によって非特異的に影響されるように、xyn1及びxyn2の発現が異なる態様で制御されていることが研究によって示されている(Zeilinger, et al. 1996、March et al. 1996、及び、Xu, et al. 1998)。第3のキシラナーゼ(xyn3)は、キシラン(この酵素のための基質)によって全く誘導されないが、むしろ、セルロース及びその誘導体によって誘導される(Xu, et al., Appl Microbiol Biotechnol. 2000. 54:370-375, Furukawa, Fungal Genetics and Biology. 2008. 45:1094-1102)。さらに、高濃度のグルコースはxyn1の発現を抑制することがわかっている。したがって、当業界においてグルコース及びキシロースの両方がセルラーゼ活性及びキシラナーゼ活性を抑制すると知られているにもかかわらず、本明細書の開示は、処理されたグルコース及びキシロースがセルラーゼ及びキシラナーゼの発現の両方を誘導したという驚くべき発見を示す。
【0009】
現行の混合セルラーゼ製品は、ヘミセルロース材料を加水分解するための最適化された系を欠いている。必要とされるのは、バイオマス基質のセルロース成分及びヘミセルロース成分を分解することができる酵素の最適化された集まりを同時生産又は混ぜ合わせすることである。さらに必要なのは、セルラーゼ酵素とキシラナーゼ酵素とのバランスが取れた混合物を生成するための商業的に実用的な方法である。
【0010】
IV.概略
上昇させた温度における濃縮グルコース溶液中でのグリコシル転移酵素の培養が、キシロースのような五炭糖と組み合わされたときにセルロース分解酵素とヘミセルロース分解酵素とのバランスの取れた混成物の発現を誘導することができる混合糖組成物を生じさせる処理されたグルコース溶液を生成することが近年明らかにされた。驚くべきことに、得られた混合糖組成物は、さらなる精製をせずに、そのままでセルラーゼ及びキシラナーゼの生成を充分に誘導することができる。グルコースがトリコデルマリーゼイ中のセルラーゼ及び特定のキシラナーゼ遺伝子の抑制因子として作用するので、この発見は驚くべきことである。この発見は、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの遺伝子発現の誘導因子を提供するものであり、この誘導因子は、精製された糖誘導因子、並びに、セルラーゼ酵素及びキシラナーゼ酵素の別々の生産に対する安価な代替となる。
【発明の概要】
【0011】
本発明の教示の一態様は、混合糖組成物を製造する方法であって、(a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、(b)少なくとも1つのオリゴ糖を含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって、前記酵素・グルコース混合物を上昇させた温度において培養するステップと、(c)混合糖組成物を生じさせるために、その処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
本開示の他の一態様は、酵素組成物を製造する方法であって、(a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、(b)少なくとも1つのオリゴ糖を含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって前記酵素・グルコース混合物を上昇させた温度において培養するステップと、(c)混合糖組成物を生じさせるために、その処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップと、(d)酵素組成物を生成するために、タンパク発現を促進する条件下で糸状菌を前記混合糖組成物に暴露させるステップとを含む方法を提供する。好ましくは、酵素組成物は、70%〜98%のセルラーゼ、及び、2%〜30%のキシラナーゼを含む。特定の実施において、前記タンパク発現を促進する条件は、約25℃〜約30℃の温度を含む。他の実施において、タンパク発現を促進する条件は、詳細には約4.0〜約6.0のpH、より詳細には約4.4〜約5.5のpH、最も詳細には約pH4.8〜約5.5のpHの酸性条件を含む。
【0013】
特定の実施において、グルコース溶液は、約5%〜約75%(重量対重量)、より好ましくは約50%〜約75%(重量対重量)のグルコースを含む。グリコシル転移酵素は、EC2.4に分類される酵素又はE.C.3.2に分類される酵素であり得る。好ましい一実施形態において、グリコシル転移酵素は、β−グルコシダーゼ又はエンドグルカナーゼである。
【0014】
特定の実施において、前記上昇させた温度は、約50℃〜約75℃である。酵素・グルコース混合物を、8時間〜500時間にわたって、より好ましくは48時間〜72時間にわたって培養することができる。好ましい実施において、加える五炭糖は、キシロースであり、より好ましくは混合糖組成物中に約1g/L〜約50g/Lの最終濃度で加えられる。より好ましくは、混合糖組成物中のキシロースの濃度は、約5g/L〜約20g/Lである。一実施においては五炭糖が黒液である。
【0015】
本開示の他の一態様は、少なくとも1つがXYN2又はXYN3である1つ以上のキシラナーゼ酵素と、少なくとも1つがCBH1、CBH2又はBGL1であるセルラーゼ酵素とを含むか、これらの酵素によって作成されるか、又は、これらの酵素を混合することによって入手可能な酵素組成物であって、約0.5:約1.0のキシラナーゼ:セルラーゼの比(重量対重量)、又は、約0.05:約1.5のキシラナーゼ:CBH1の比(重量対重量)を有する酵素組成物を提供する。
【0016】
本明細書の教示の他の態様は、本明細書に開示されている方法に従って生産される混合糖組成物、本明細書に開示されている方法に従って生産される酵素組成物、及び、本明細書に開示されている方法に従って生産される酵素組成物とバイオマスを接触させるステップを含むバイオマスの分解方法を提供する。
【0017】
本発明の教示のこれら特徴及び他の特徴は、本明細書に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
V.様々な実施形態の説明
先の一般的な説明及び下記の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものに過ぎず、本明細書に記載されている組成物及び方法を限定するものでないことを理解しなければならない。本明細書に別段の定めがなければ、本明細書で使用されている技術用語及び科学用語のすべては、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。この出願において、単数形の使用は、特に明記しない限り複数を含む。「又は」の使用は、特に明記しない限り「及び/又は」を意味する。同様に、「含む(comprise)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」、「含む(include)」、「含んでいる(including)」、及び、「含む(includes)」という用語は、限定するように意図されていない。本明細書において引用されているすべての特許及び刊行物は、そのような特許及び刊行物において開示されているアミノ酸及びヌクレオチド配列のすべてを含めて、言及することによって明示的に組み込まれている。
【0019】
本明細書で与えられている見出しは、本発明の様々な態様又は実施形態の限定ではなく、明細書を全体として参照することによって理解され得る。従って、本明細書の用語は、明細書を全体として参照することによってさらに完全に定義される。
【0020】
A.定義
本明細書で用いられているように、別段の定めがない限り、以下の定義が適用されるものとする。
【0021】
本明細書で用いられているように、「キシラナーゼ」という用語は、例えば、真菌若しくは細菌等の微生物に由来する又は植物若しくは動物に由来するタンパク又はタンパクのポリペプチドドメイン又はポリペプチドであって、分岐したキシラン及びキシロオリゴ糖を含むキシランの炭水化物骨格の様々な位置の1つ以上においてキシランの開裂を触媒する能力を有するものを表す。本開示に関して、キシラナーゼは、エンド−1,4−β−キシラナーゼ(E.C.3.2.1.8)であることが好ましい。いくつかの実施形態において、キシラナーゼは、β−キシロシダーゼ又はキシラン1,4−β−キシロシダーゼ又は1,4−β−D−キシランキシロヒドロラーゼ又はキシロビアーゼ又はエキソ−1,4−キシロシダーゼ(EC3.2.1.37)であり、キシランポリマーの非還元性末端から連続するD−キシロース残基を加水分解する酵素を含む。真菌微生物及び細菌微生物に由来する多数のキシラナーゼが確認され、明らかにされている(たとえば、米国特許No. 5,437,992; Coughlin, M. P. supra; Biely, P. et al., Proceedings of the second TRICEL symposium on Trichoderma reesei Cellulases and Other Hydrolases, Espoo 1993, P. Souminen and T. Reinikainen eds., Foundation for Biotechnical and Industrial Fermentation Research 8:125-135 (1993)を参照されたい)。特に、3つの特異的キシラナーゼ(XYN1、XYN2及びXYN3)がトリコデルマリーゼイにおいて確認されている(Tenkanen, et al., Enzyme Microb. Technol. 14:566 (1992); Torronen, et al., Bio/Technology 10:1461 (1992);及び、Xu, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 49:718 (1998))。トリコデルマリーゼイから単離される第4のキシラナーゼ(XYN4)は、Saloheimoらの「Xylanase from Trichoderma reesei, method for production thereof, and methods employing this enzyme」と題された米国特許第6555335号及び第6768001号に記載されている。これらの特許は言及することによってそっくりそのまま本明細書に組み込まれている。
【0022】
いくつかの実施形態において、XYN2は、mvsftsllaasppsrascrpaaevesvavekrqtiqpgtgynngyfysywndghggvtytngpggqfsvnwsnsgnfvggkgwqpgtknkvinfsgsynpngnsylsvygwsrnplieyyivenfgtynpstgatklgevtsdgsvydiyrtqrvnqpsiigtatfyqywsvrrnhrssgsvntanhfnawaqqgltlgtmdyqivavegyfssgsasitvs(配列番号:1)の位置22〜位置222の少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個、少なくとも125個、少なくとも150個、少なくとも175個、少なくとも200個、少なくとも250個、少なくとも300個の連続するアミノ酸残基に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドである。XYN2のシグナル配列は下線で示されている。コード配列は、Torronen et al., 1992, Biotechnology 10:1461-65において見つけることができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、XYN3は、mkanvilcllaplvaalptetihldpelaalranltertadlwdrqasqsidqlikrkgklyfgtatdrgllqreknaaiiqadlgqvtpensmkwqslennqgqlnwgdadylvnfaqqngksirghtliwhsqlpawvnninnadtlrqvirthvstvvgrykgkirawdvvneifnedgtlrssvfsrllgeefvsiafraardadpsarlyindynldranygkvnglktyvskwisqgvpidgigsqshlsggggsgtlgalqqlatvpvtelaiteldiqgapttdytqvvqaclsvskcvgitvwgisdkdswrastnpllfdanfnpkpaynsivgilq(配列番号:2)の位置17〜位置347の少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個、少なくとも125個、少なくとも150個、少なくとも175個、少なくとも200個、少なくとも250個又は少なくとも300個の連続するアミノ酸残基に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列同一性を有する配列を含むポリペプチドである。配列番号42は、未成熟XYN3の配列である。Xyn3は、配列番号2の位置1〜位置16に対応する予測シグナル配列を有し(下線で示されている)、このシグナル配列の開裂によって、配列番号2の位置17〜位置347に対応する配列を有する成熟タンパクが与えられると予想される。
【0024】
「オリゴ糖」は、本明細書において使用されているように、少数(一般に3個〜10個)の成分糖(単糖)を含む糖類ポリマーを表す。以下に限定されないが、単糖類の例には、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、キシロース、アラビノース及びリボースが含まれる。「二糖」は、本明細書において使用されているように、2つのモノマーからなる糖を表す。
【0025】
「グルコース」は、セルロース中にみられる最も一般的な糖である。本明細書で用いられているように、「グルコース溶液」という用語は、単糖のグルコース、二糖、又は、短いオリゴマー、すなわち、少なくとも1個のグルコース単位を含む3個〜4個の糖を有するものを含む溶液を表す。グルコース溶液中に含まれ得る典型的なオリゴマーは、限定されないが、セロビオース(β(1→4)結合によって結合した2個のグルコース分子からなる二糖)、及び、ラクトース(β(1→4)結合によって結合したβ−D−ガラクトースとβ−D−グルコースとからなる二糖)を含む。
【0026】
本明細書で用いられているように、「五炭糖」という用語は、少なくとも1つの五炭糖を含む加工されていない、精製されていない又は純化されていない組成物を含む。以下に限定されないが、典型的な加工されていない五炭糖組成物には、キシリトール工場、パルプ工場、製紙工場、又は、他の植物燃料工場に由来する黒液が含まれる。
【0027】
「セルラーゼ」、「セルロース分解酵素」又は「セルラーゼ酵素」は、細菌性又は真菌性のエキソグルカナーゼ又はエキソセロビオヒドロラーゼ、及び/又は、エンドグルカナーゼ、及び/又は、β−グルコシダーゼを意味する。これらの3つの異なる種類のセルラーゼ酵素は、セルロース及びその誘導体をグルコースに変換するように相乗的に作用する。
【0028】
本明細書で用いられているように、「グリコシル転移酵素」という用語は、細菌性又は真菌性の酵素であって、水及び他の糖単位を含む(これらに限定されない)受容分子に、スクロース、ラクトース又はデンプン等の不活性糖から単糖単位を転位するための触媒として作用する酵素を表す。グリコシル基転位の結果物は、単糖、オリゴ糖又は多糖でありえる。古典的なグリコシルトランスフェラーゼ酵素はEC2.4に分類されている。デキストラン分解酵素(EC2.4.1.5)及びシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC2.4.1.19)は、グルコース単位を転移させることができる代表的で古典的なグリコシルトランスフェラーゼ酵素である。さらに、EC3.2に分類される特定の酵素は、過剰の単糖を与えたときに、受容分子(一般的には他の糖)に単糖単位の転位を触媒することができる。グリコシダーゼ(EC3.2)活性の典型的な産物である単糖が高濃度で過剰に存在することは、単糖単位の除去よりはむしろ、結果的にさらに、グリコシダーゼ反応を逆に促進する。グリコシル転移酵素として機能することができる典型的なグリコシダーゼは、以下に限定されないが、β−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)、エンドグルカナーゼ(例えば、EC3.2.1.71)、β−キシロシダーゼ(EC3.2.1.27)及びキシログルカナーゼ(3.2.1.151)を含む。
【0029】
「糸状菌」は、真正菌類及び卵菌類の区分の線状体のすべてを含む。いくつかの実施形態において、全培養液は、アクレモニウム(Acremonium)、アスペルギルス(Aspergillus)、クリソスポリウム(Chrysosporium)、エメリセラ(Emericella)、フザリウム(Fusarium)、フミコラ(Humicola)、ムコール(Mucor)、ミセリオフトラ(Myceliophthora)、ニューロスポラ(Neurospora)、スキタリジウム(Scytalidium)、チエラビア(Thielavia)、トリポクラディウム(Tolypocladium)若しくはトリコデルマ(Trichoderma)種、又は、これらに由来する種から調製される。
【0030】
「誘導因子(inducer)」は、誘導因子が存在しないときに細胞が生産するよりも多量の酵素又はその他の物質を細胞が生産するようにさせるあらゆる化合物である。
【0031】
「単離された」又は「精製された」という用語は、本明細書で使用されているように、天然に付随する少なくとも1つの成分から分離された核酸又はアミノ酸を表す。
【0032】
B.方法
糸状菌トリコデルマリーゼイは、最も広く研究されたセルロース分解性微生物の1つである(例えば、Nevalainen and Penttila、Mycota、303−319、1995によって調査された)。産業において、トリコデルマのセルロース分解酵素は、燃料エタノール、紙、レーヨン、セロハン、洗剤及び線維の生産を含む多くの目的に使用されている。セルラーゼ酵素は、動物飼料の栄養価を向上させるため、及び、植物細胞からの有効成分の抽出を容易にするために使用されている(Mandels、Biochem.Soc.Trans、414−16、1985)。したがって、これらの酵素は、多くの有用な産物の生産において最も重要である。
【0033】
トリコデルマにおけるセルラーゼ及びキシラナーゼの生産は、利用可能な炭素源に依存する。セルロース、ラクトース及び二糖ソホロースは、トリコデルマリーゼイによるセルラーゼ合成を誘導する。反対に、グルコースの存在は、セルラーゼ遺伝子発現を厳しく抑制する。同様に、キシラナーゼもまた、トリコデルマリーゼイにおいて厳格に制御されている。セルラーゼのように、少なくともいくつかのキシラナーゼは、グルコースによって強く抑制されている。工業規模的生産のための適切な誘導因子を提供することは、セルラーゼとヘミセルラーゼ(特にキシラナーゼ)とのバランスのとれた混合物を同時に生産することにおける困難さの原因の1つとなる主要な問題要因である。
【0034】
濃縮グルコース溶液中でグリコシル転移酵素を上昇させた温度において培養し、次に、その酵素にキシロースを追加することによって、セルラーゼ及びキシラナーゼの生成の両方を誘導することができる混合糖組成物が得られることがわかった。この混合糖組成物は、約2〜25g/Lのソホロース、及び、約2〜25g/Lのキシロースを有する。さらに、この混合糖組成物は、約35〜60g/Lのゲンチオビオースを含んでいてもよい。驚くべきことに、本明細書に記載されているように作成した混合糖組成物は、さらなる精製を必要としない。この組成物は、そのままの状態で、セルラーゼ及びキシラナーゼの生成を誘導する能力がある。この発見は、産業で現在使用されているラクトース又は精製されたソホロースに対する安価な代替、及び、糸状菌において誘導可能なプロモータによって制御されているタンパクを生産するための固体セルロースに対する煩雑でない代替を提供する。さらに、発現された酵素組成物は、産業における現行のやり方によって得られるセルラーゼ混合物と比較して、より高いキシラナーゼ活性を含む。
【0035】
混合糖組成物を生産する代替的方法において、グルコース溶液(例えば20%)に対して、最終培養液(発現されたセルロース分解酵素と細胞)を加えることができる。細胞の存在はソホロース生成に影響しない。したがって、精製された又は部分的に精製されたグリコシル転移酵素を使用する必要がない。全細胞及び細胞断片が依然として存在するが、発酵の終了時に存在する酵素混合物を使用することができる。
【0036】
一実施形態において、本明細書の教示は、処理されたグルコース溶液と、キシロース等の五炭糖とを含む混合糖組成物であって、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β−グルコシダーゼ及びキシラナーゼからなる群より選択される1つ以上の酵素を含む、様々なセルロース分解酵素の生産を誘導するために糸状菌において使用することができる混合糖組成物を提供する。一実施形態において、この混合糖組成物は、トリコデルマリーゼイによるセルラーゼ酵素及びキシラナーゼ酵素の生成を誘導する。グルコースの存在によってセルラーゼ遺伝子及びキシラナーゼ遺伝子が抑制されることが知られているので、この溶液がセルラーゼ及びキシラナーゼの両方の遺伝子発現を誘導することに有効であることは、驚くべきことである。
【0037】
一実施形態において、誘導飼料は、5%−75%(重量対重量)グルコースの無菌液を調製することによって作成される。グリコシル転移酵素は無菌グルコース溶液に加えられる。いくつかの実施形態においては、グリコシル転移酵素がβ−グルコシダーゼである。一態様において、β−グルコシダーゼは、最終活性が200IU/ml未満となるように酵素グルコース溶液に加えられる。他の一態様において、酵素グルコース溶液中のβ−グルコシダーゼ活性は、1.5IU/ml〜200IU/mlである。グリコシル転移酵素は、混合セルラーゼ組成物中の1つ又はそれ以上の成分として存在することができる。一般的には、2g〜20gの総タンパク/Lの最終濃度となるように、混合セルラーゼ組成物を無菌グルコース溶液に加える。最終タンパク濃度範囲は、最低で0.5g/Lであってもよく、最高で50g/Lであってもよい。この酵素グルコース溶液を50℃〜75℃で培養する。いくつかの実施形態においては、この酵素グルコース溶液を約50℃〜約65℃で培養する。この溶液を混合しながら8時間〜7日間にわたって培養する。一実施形態においては、培養期間が2日間より長い。第2の実施形態においては、培養期間が2日間である。第3の実施形態においては、培養期間が3日間である。その処理されたグルコース溶液を採取し、キシロースを追加して、それを発酵飼育に使用する。選択的に、フィルタ殺菌した酵素溶液を加える前に、その処理されたグルコース溶液を殺菌する。体積が大きい場合には、混ぜ合わせたグルコース・酵素溶液を、例えば、培養タンクに送る途中で135℃で2分間熱交換器を通して、連続的に殺菌することができる。上昇させた温度における培養の前又は後に、五炭糖をグルコース及び酵素に加えることができる。
【0038】
他の一態様は、酵素組成物を調製する方法であって、(a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、(b)少なくとも1つの二糖又はオリゴマーを含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって、上昇させた温度で、前記酵素・グルコース混合物を培養するステップと、(c)混合糖組成物を作成するために、その処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップと、(d)酵素組成物を作成するために、タンパク発現を促進する条件下で糸状菌を前記混合糖組成物に暴露させるステップとを含む方法を提供する。好ましくは、この酵素組成物は、80%〜98%のセルラーゼ及び2%〜20%のキシラナーゼを含む。特定の実施において、タンパク発現を促進する条件は、約25℃〜約30℃の温度を含む。他の実施において、タンパク発現を促進する条件は、酸性条件、特に、約4.0〜約6.0のpHを含む。
【0039】
セルロース分解酵素を生産するための発酵手順自体は、当業界で公知である。例えば、セルラーゼ酵素は、バッチプロセス、供給回分プロセス、及び、連続流プロセスを含む、固体培養又は深部培養のいずれかによって生産することができる。
【0040】
培養は、水溶性ミネラル塩培地、有機成長因子、炭素及びエネルギー源材料、分子酸素、並びに、当然ながら、使用される1つ以上の特定の微生物の開始接種源を含む増殖培養液中で実行される。
【0041】
適切な微生物増殖を確実にし、微生物の変換プロセスにおける細胞による炭素及びエネルギー源の吸収を最大化し、発酵培地における最大の細胞密度を有する最大限の細胞産出を達成するために、炭素及びエネルギー源、酸素、吸収可能な窒素、及び、微生物の接種源に加えて、適切な量のミネラル栄養素を適切な割合で供給することが必要である。
【0042】
当業界で知られているように、水溶性無機培地の組成は、使用した微生物及び基質に部分的に依存して、広範囲にわたって変わり得る。当業界においてすべて知られているように、無機培地は、窒素に加えて、適切な可溶性の吸収可能なイオンの形態でかつ混ぜ合わされた形態で、適切な量のリン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硫黄及びナトリウムを含んでおり、また、好ましくは、同様に適切な可溶性の吸収可能な形態で、銅、マンガン、モリブデン、亜鉛、鉄、ホウ素及びヨウ素のような特定の微量元素も存在すべきである。
【0043】
醗酵反応は、微生物が繁栄する態様で増殖するのを支援するのに有効な適切な酸素分圧を有する発酵管の内容物を維持するために提供される空気、酸素濃縮空気又は実質的に純粋な分子酸素等の分子状酸素含有ガスによって、必要とされる分子酸素が供給される好気プロセスである。実際には、酸素を送り込んだ炭化水素基質を使用することによって、微生物の増殖のための酸素必要量は低減される。しかしながら、基質の吸収及びそれに対応する微生物の増殖は、一部において燃焼プロセスであるので、増殖のために分子酸素を供給しなければならない。
【0044】
通気速度はかなり広い範囲にわたって変えることができるが、通気は、発酵槽中の液体体積に対して毎分で、一般的には、(使用した圧力及び25℃において)約0.5〜約10体積、好ましくは約0.5〜約7体積の範囲内の酸素含有ガスの速度で実施される。この量は、通常の酸素含量の空気を反応装置に供給することに基づいたものであり、純粋な酸素に変換すると、各範囲は、発酵槽中の液体体積に対して毎分で、(使用した圧力及び25℃において)約0.1〜1.7体積、又は、好ましくは約0.1〜1.3体積の酸素となる。
【0045】
微生物の変換プロセスに使用される圧力は広範囲に及び得る。酸素溶解性に対する装置及び運転のコストのバランスが達成されるので、その圧力は、一般的には、約0〜50psigの範囲内であり、好ましくは、約0〜30psigの範囲内であり、より好ましくは、大気圧を少なくともわずかに超える圧力である。大気圧を超えることは、そのような圧力が水性発酵液中の溶解酸素濃度を高める傾向があり、それによって細胞の増殖速度を早めることを支援することができるという点で有利である。同時に、これは、高い気圧が装置及び運転のコストを増加させるという事実によって比較考慮される。
【0046】
発酵温度は多少変えることができるが、トリコデルマリーゼイのような糸状菌については、温度は、選択した微生物の株に応じて、一般的には、約20℃〜40℃の範囲内、一般に好ましくは約25℃〜34℃の範囲内であろう。
【0047】
微生物は、吸収可能な窒素源も必要とする。吸収可能な窒素源は、あらゆる窒素含有化合物、又は、微生物による代謝利用に適した形態で窒素を放出することができる化合物であり得る。タンパク水解物等の様々な有機窒素源化合物を使用することができるが、通常は、アンモニア、水酸化アンモニウム、尿素等の安価な窒素含有化合物、及び、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の様々なアンモニウム塩、又は、様々な他のアンモニウム化合物を使用することができる。アンモニアガスそれ自体は、大規模な運用に好適であり、適切量で水性発酵液(発酵培地)を通して泡立たせることによって使用されてもよい。pH調節を支援するために、同時に、そのようなアンモニアを使用することができる。
【0048】
水性微生物発酵液(発酵混合物)におけるpH範囲は、約2.0〜8.0の典型的な範囲内であるべきである。糸状菌の場合、pHは、通常約2.5〜8.0の範囲内であり、トリコデルマリーゼイの場合、pHは、通常約3.0〜7.0の範囲内である。特定の微生物のための好ましいpH範囲の選択は、当業者によって容易に決定することができるように、使用した培地のみならず、その特定の微生物にある程度依存し、したがって、培地における変化につれて多少変化する。本明細書の開示よる酵素組成物を発現させるための方法において、pHは、好ましくは約4.0〜約6.0である。
【0049】
発酵槽における発酵混合物の平均滞留時間は、使用する発酵温度及び培養液に一部において依存してかなり変わり得るが、一般的には約24〜500時間、好ましくは約24〜400時間の範囲内であろう。
【0050】
好ましくは、制限因子として炭素含有基質を制御することができ、それによって、炭素含有基質を細胞によりよく変換できるようにし、変換されなかった多量の基質によって細胞を汚染することを回避するような態様で、発酵を実施する。あらゆる残存物が容易に洗い流されるので、後者は、水溶性基質の場合には問題にならない。しかしながら、これは、非水溶性基質の場合には問題になる可能性があり、適切な洗浄ステップ等の付加的な生成物処理ステップを必要とする可能性がある。
【0051】
上述したように、このレベルに達する時間は、重要でなく、特定の微生物及び実施されている発酵プロセスに応じて変化し得る。しかしながら、発酵培地中の炭素源濃度を決定する方法、及び、炭素源の所望のレベルが達成されたかどうかを決定する方法は、当業界で広く知られている。
【0052】
バッチ又は連続的な操作として発酵を実施することもできるが、制御の容易さ、均一な量の産物の生産、及び、すべての装置の最も経済的な使用のためには、供給回分操作がより好ましい。
【0053】
必要であれば、発酵槽に水溶性無機培地を与える前に、炭素及びエネルギー源材料の一部又はすべて、及び/又は、アンモニア等の吸収可能な窒素源の一部を、水溶性無機培地に加えることができる。
【0054】
反応装置中に導入されるそれぞれのストリームは、好ましくは、所定の速度に制御されるか、又は、炭素及びエネルギー基質の濃度、pH、溶解した酸素、発酵槽からのオフガス中の酸素又は二酸化炭素、光透過率等によって測定可能な細胞密度をモニタリングすることによって決定可能な必要性に応じて制御される。様々な材料の供給速度は、基質投入量に対する微生物細胞の産出をできる限り多くするための、炭素及びエネルギー源の効率的な利用と調和させて、できる限り速い細胞増殖速度を得るために変更されてもよい。
【0055】
バッチ又は好ましい供給回分操作のいずれかにおいても、すべての装置、反応装置又は発酵手段、管又は容器、配管、並びに、付随する循環装置又は冷却装置等は、通常は、例えば約121℃の蒸気を少なくとも約15分間にわたって使用することによって最初に殺菌される。その後、殺菌された反応装置に、酸素を含む必要とされるすべての栄養素及び炭素含有基質の存在下で、選択された微生物の培養液を接種する。使用する発酵槽の種類は、決定的ではないが、現在のところ15Lのバイオラフィッテ(Biolafitte)(Saint−Germain−en−Laye、フランス)に従った実施が好ましい。
【0056】
培養液からのセルラーゼ酵素及びキシラナーゼ酵素の回収及び精製は、当業界で知られている手順によって実行することができる。培養液は、一般に、細胞を含む細胞破片、様々な懸濁物、及び、他のバイオマス汚染物質、並びに、所望のセルラーゼ及びキシラナーゼ酵素生成物を含んでいるであろう。これらは当業界で公知の手段によって培養液から好適に除去される。
【0057】
そのような除去のための適切なプロセスは、例えば、遠心分離、濾過、透析、マイクロフィルトレーション、回転吸引濾過、無細胞濾液を作成するための他の既知のプロセス等のような従来の固液分離技術を含む。限外濾過、蒸散又は沈殿のような技術を使用した結晶化の前に、培養液又は無細胞濾液をさらに濃縮することが望ましいこともある。
【0058】
上澄み又は濾液のタンパク成分を沈殿させることは、塩(例えば硫酸アンモニウム)と、その後の、例えば、イオン交換クロマトグラフィ、親和性クロマトグラフィ、又は、当該技術分野において承認されている類似の手順等の様々なクロマトグラフィ手順による精製とによって実行することができる。
【0059】
糸状菌の様々な種類を発現宿主として使用することができる。いくつかの実施形態において、混合糖組成物は、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・フォエティダス(Aspergillus foetidus)、アスペルギルス・ジャポニカス(Aspergillus japonicus)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)又はアスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)からのセルラーゼ及びキシラナーゼの生産を誘導するために使用される。他の一態様において、酵素組成物は、フザリウム・バクトリディオイデス(Fusarium bactridioides)、フザリウム・セレアリス(Fusarium cerealis)、フザリウム・クロックウェレンス(Fusarium crookwellense)、フザリウム・カルモラム(Fusarium culmorum)、フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム・グラミヌム(Fusarium graminum)、フザリウム・ヘテロスポルム(Fusarium heterosporum)、フザリウム・ネグンジ(Fusarium negundi)、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・レティキュラツム(Fusarium reticulatum)、フザリウム・ロゼウム(Fusarium roseum)、フザリウム・サンブシヌム(Fusarium sambucinum)、フザリウム・サルコクロウム(Fusarium sarcochroum)、フザリウム・スポロトリキオイデス(Fusarium sporotrichioides)、フザリウム・スルフレウム(Fusarium sulphureum)、フザリウム・トルロスム(Fusarium torulosum)、フザリウム・トリコセシオイデス(Fusarium trichothecioides)又はフザリウム・ヴェネナツム(Fusarium venenatum)から調製される。他の一態様において、酵素組成物は、フミコラ・インソレンズ(Humicola insolens)、フミコラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa)、ムコール・ミエヘイ(Mucor miehei)、ミセリオフトラ・サーモフィリア(Myceliophthora thermophila)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、スキタリジウム・サーモフィラム(Scytalidium thermophilum)、又は、チエラビア・テレストリス(Thielavia terrestris)から調製される。他の一態様において、酵素組成物は、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギイ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・ロンジブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)(例えば、RL−P37(Sheir-Neiss et al., Appl. Microbiol. Biotechnology, 20 (1984) pp. 46-53; Montenecourt B.S., Can., 1-20, 1987)、QM9414(ATCC26921)、NRRL15709、ATCC13631、56764、56466及び56767)、又は、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)(例えばATCC32098及び32086)から調製される。
【0060】
本明細書に記載されている方法において使用するに適した糸状菌は、以下に限定されないが、アスペルギルス(Aspergillus)、アクレモニウム(Acremonium)、アウレオバシジウム(Aureobasidium)、ボーベリア(Beauveria)、セファロスポリウム(Cephalosporium)、セリポリオプシス(Ceriporiopsis)、ケトミウム・ペシロミセス(Chaetomium paecilomyces)、クリソスポリウム(Chrysosporium)、クラビセプス(Claviceps)、コキオボラス(Cochiobolus)、クリプトコックス(Cryptococcus)、キュアトス(Cyathus)、エンドチア(Endothia)、エンドチア・ムコール(Endothia mucor)、フザリウム(Fusarium)、グリオクラディウム(Gilocladium)、フミコラ(Humicola)、マグナポルテ(Magnaporthe)、ミセリオフトラ(Myceliophthora)、ミロセシウム(Myrothecium)、ムコール(Mucor)、ニューロスポラ(Neurospora)、ファネロカエテ(Phanerochaete)、ポドスポラ(Podospora)、ペシロミセス(Paecilomyces)、ピリキュラリア(Pyricularia)、リゾムコール(Rhizomucor)、リゾープス(Rhizopus)、シゾフィラム(Schizophylum)、タラロミセス(Talaromyces)、トリコデルマ(Trichoderma)、サーモミセス(Thermomyces)、サーモアスカス(Thermoascus)、チエラビア(Thielavia)、トリポクラディウム(Tolypocladium)、トリコフィトン(Trichophyton)及びトラメテス・プルロタス(Trametes pleurotus)の種類を含む。いくつかの実施形態において、糸状菌は、以下に限定されないが、A.ニデュランス(A.nidulans)、A.ニガー(A.niger)、A.アワモリ(A.awomari)、A.アクレアタス(A.aculeatus)、A.カワチ(A.kawachi)(例えば、NRRL3112、ATCC22342(NRRL3112)、ATCC44733、ATCC14331及び株UVK143f)、A.オリゼー(A.oryzae)(例えば、ATCC11490、N.クラッサ)、トリコデルマリーゼイ(例えば、NRRL15709、ATCC13631、56764、56765、56466及び56767)、及び、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)(例えば、ATCC32098及び32086)を含む。好ましい実施において、糸状菌はトリコデルマ種である。開示されている方法で使用するのに特に好ましい種類及び株は、トリコデルマリーゼイRutC30である。これは、トリコデルマリーゼイATCC56765として米国培養菌保存施設(American Type Culture Collection)から入手可能である。
【0061】
好ましい一実施形態において、微生物宿主は、トリコデルマ(Trichoderma)、フミコラ(Humicola)、フザリウム(Fusarium)、アスペルギルス(Aspergillus)、ストレプトミセス(Streptomyces)、サーモモノスポラ(Thermomonospora)、バチルス(Bacillus)、又は、セルロモナス(Cellulomonas)の種類のいずれかである。
【0062】
他の一態様は、酵素組成物を調製する方法であって、(a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、(b)少なくとも1つの二糖又はオリゴマーを含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって、上昇させた温度で、酵素・グルコース混合物を培養するステップと、(c)混合糖組成物を作成するために、その処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップと、(d)酵素組成物を生成するために、タンパク発現を支援する条件下で糸状菌を混合糖組成物に暴露するステップとを含み、前記酵素組成物は、ステップ(c)を行わずに調製した酵素組成物と比較して少なくとも1.5倍に増加したキシラナーゼを含む方法を提供する。
【0063】
いくつかの実施形態において、酵素組成物は、ステップ(c)を行わずに調製した酵素組成物と比較したときに、少なくとも1.5倍、2.0倍、2.5倍、3.0倍、3.5倍、4.0倍、4.5倍、5.0倍、5.5倍、6.0倍、6.5倍、7.0倍、7.5倍、8.0倍、8.5倍、9.0倍、9.5倍、10.0倍、10.5倍、11.0倍、11.5倍、12.0倍、12.5倍、13.0倍、13.5倍、14.0倍、14.5倍、15.0倍に増加したキシラナーゼを含む。
【0064】
いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が、おおよそ、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50である。いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN2の比(重量対重量)が、おおよそ、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50である。いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN3の比(重量対重量)が、おおよそ、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50である。
【0065】
いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、セルラーゼに対するキシラナーゼの比(重量対重量)が、おおよそ、0.5、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50である。いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1、CBH2及びBGL1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が、おおよそ、0.5、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50である。
【0066】
他の一態様においては、(a)1つ又はそれ以上のキシラナーゼ酵素であって、前記1つ又はそれ以上のキシラナーゼ酵素の少なくとも1つがXyn2又はXyn3であるもの、及び、(b)1つ又はそれ以上のセルラーゼ酵素であって、前記1つ又はそれ以上のセルラーゼ酵素の少なくとも1つがCBH1、CBH2又はBGL1であるものを含む酵素組成物、(a)及び(b)によって作成される酵素組成物、又は、(a)及び(b)を混合することによって入手可能な酵素組成物であって、セルラーゼに対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.5〜約1.0であるか、又は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.05〜約1.5である酵素組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN2の比(重量対重量)が約0.1〜約1.0である。いくつかの実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN3の比(重量対重量)が約0.05〜約0.5である。他の一実施形態において、前記酵素組成物は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.05〜約1.5である。
【0067】
この教示の更に別の一態様は、バイオマス基質を分解する方法であって、バイオマスを、本明細書の混合糖組成物によって誘導される酵素組成物と接触させるステップを含む方法を提供する。本開示の方法において、バイオマス基質は、セルロース及びヘミセルロースの両方を含むあらゆるバイオマス材料であり得る。いくつかの実施形態において、バイオマス基質は、限定されないが、草本材料、農業残余物、林業残余物、都市ゴミ、廃紙、並びに、パルプ及び紙残余物を含む。本明細書に記載されている方法で使用されるバイオマス基質の共通形態は、以下のものに限定されないが、木、低木及び草、小麦、麦わら、サトウキビの絞りかす、コーン、トウモロコシの皮、トウモロコシ穀粒(穀粒に由来する線維を含む)、コーン等の穀類の製粉に由来する生成物及び副産物(湿式粉砕及び乾式粉砕を含む)のみならず、都市ゴミ、廃紙及び庭ゴミを含む。バイオマス基質は、「未使用バイオマス」(木、潅木、草、果物、花、草本作物、硬木及び軟木等)、「使用済バイオマス」(農業副産物、商業用有機廃棄物、建築及び倒壊瓦礫、都市ゴミ及び庭ゴミ等)、又は、未使用バイオマスと使用済バイオマスとの混合物である「混合バイオマス」から得ることができる。
【0068】
いくつかの実施形態において、バイオマス基質は、木材、木材パルプ、製紙汚泥、製紙パルプ廃液流、パーティクルボード、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維、コメ、紙及びパルプ加工廃棄物、木本植物又は草本植物、果物パルプ、野菜パルプ、軽石、蒸留穀粒、粒子、草、もみ殻、サトウキビの絞りかす、綿、ジュート、麻、亜麻、竹、サイザル、アバカ、わら、トウモロコシの穂軸、蒸留穀粒、葉、麦わら、ココナッツの毛、藻、スイッチグラス及びこれらの混合物を含む。
【0069】
バイオマス基質をそのまま使用することもできるし、又は、バイオマス基質を当業界で公知の従来方法を使用して前処理に供してもよい。そのような前処理は、化学的、物理的、及び、生物学的な前処理を含む。物理的前処理技術は、以下に限定されないが、例えば、様々な種類の粉砕、破砕、スチーミング/蒸気爆発、照射及び熱加水分解を含み得る。化学的前処理技術は、限定されないが、希酸、アルカリ、有機溶媒、アンモニア、二酸化硫黄、二酸化炭素、及び、pH制御した熱加水分解を含み得る。生物学的前処理技術は、限定されないが、リグニンを可溶化する微生物を適用することを含み得る。
【0070】
酵素組成物の最適な容量レベルは、使用したバイオマス基質及び前処理技術に応じて変わる。pH、温度及び反応時間等の運転条件も、バイオマス分解の速度に影響し得る。反応性組成物は、好ましくはバイオマス基質1グラム当たり0.1mg〜200mgの酵素組成物を含み、バイオマス基質1グラム当たりより好ましくは1mg〜100mgの酵素組成物を含み、最も好ましくはバイオマス基質1グラム当たり3mg〜25mgの酵素組成物を含む。典型的な量は、バイオマス1グラム当たり、0.1mg〜50mg、1mg〜40mg、20mg〜40mg、1mg〜30mg、2mg〜40mg及び10mg〜20mgの酵素組成物である。あるいは、系中の基質の量に基づいて酵素の量を決定することもできる。そのような場合、反応性組成物は、好ましくは糖全体の1グラム当たり0.1mg〜50mgの酵素組成物を含み、より好ましくは糖全体の1グラム当たり1mg〜30mgの酵素組成物を含み、さらに好ましくは糖全体の1グラム当たり5mg〜20mgの酵素組成物を含む。あるいは、系中のセルロース基質の量に基づいて酵素の量を決定することもできる。そのような場合、反応性組成物は、好ましくはグルカン全体の1グラム当たり0.2mg〜100mgの酵素組成物を含み、より好ましくはグルカン全体の1グラム当たり2mg〜60mgの酵素組成物を含み、より好ましくはグルカン全体の1グラム当たり10mg〜40mgの酵素組成物を含む。同様に、基質バイオマス中のキシランの量によって、使用する酵素組成物の量を決定することができる。従って、この反応性組成物は、好ましくはキシラン1グラム当たり0.2mg〜100mgの酵素組成物を含み、より好ましくはキシラン1グラム当たり2mg〜60mgの酵素組成物を含み、さらに好ましくはキシラン1グラム当たり10mg〜40mgの酵素組成物を含む。
【0071】
本開示の一態様は、相当量のセルラーゼ及びキシラナーゼの両方を有し、かつ、本明細書に記載されている方法によって生産される酵素組成物を提供する。好ましい実施において、この酵素組成物は、総タンパクの80%〜98%の範囲内のセルラーゼと、総タンパクの2%〜20%の範囲内のキシラナーゼとを含む。一実施形態において、キシラナーゼは、総タンパクの2%超に対応し、好ましくは総タンパクの約5%超に相当し、最も好ましくは総タンパクの約20%超に相当する。他の一実施形態において、セルラーゼは、総タンパクの50%超に相当し、より好ましくは総タンパクの約75%超に相当し、最も好ましくは総タンパクの約80%超に相当する。
【0072】
以下の実施例を考慮して上記組成物及び方法の他の態様及び実施形態をさらに理解することができる。それらの実施例は、限定するものとして解釈してはならない。本明細書の教示から逸脱せずに、材料及び方法の両方に多くの修正を加えてもよいことは当業者に明らかであろう。
【0073】
VI.実施例
A.実施例1:混合糖組成物の生産
71%(重量対重量)のグルコース溶液を空の発酵槽タンクに加えた。β−グルコシダーゼを過剰発現するセルラーゼ調製物(Accellerase BG、Danisco)を、0.0357MUβ−glu活性/1kgグルコースシロップの最終濃度となるように、グルコース溶液に加えた。グルコースとセルラーゼとの混合物を含むタンクを、穏やかに撹拌しながら65℃及びpH5.0で3日間保持した。培養後にこの溶液を121℃で30分間殺菌し、それを発酵飼養用の適切な容器に回収した。得られた処理されたグルコース溶液は、740g/kgから570g/kgにグルコース濃度が低下したことがわかった。混合糖組成物を作成するために、この処理されたグルコース溶液から得たいくつかのロットに、15g/Lの濃度となるようにキシロース糖を加えた。
【0074】
B.実施例2:酵素組成物の生産
種フラスコとして1.5mlのトリコデルマリーゼイ冷凍胞子懸濁液を0.8Lの培地に接種した。このフラスコを2個の0.4Lの分割量に分けて、48時間後に2つの異なる15Lのバイオラフィッテ発酵槽中の2×7Lの発酵培地に移した。増殖培地は以下の組成を有していた(表1)。
【表1】

微量元素:5 g/L FeSO4-7H2O; 1.6 g/L MnSO4-H2O; 1.4 g/L ZnSO4-7H2O
【0075】
この発酵槽を、25℃又は30℃、750RPM、糖投入0.3g/分、及び、8毎分標準リットル(SLM)のエアフローとして運転した。フラスコから発酵槽に接種した後に、細胞を最初の18時間〜24時間にわたってバッチ増殖させる。バッチされたグルコースが消費された後に、0.3g/分でグルコース供給を開始し、それを180時間にわたって継続する。
【0076】
発酵試験のこのセットにおいて、pHを4.8〜5.5の間で変化させ、温度を25℃〜30℃の間で変化させ、いくつかの場合(表2において「+」で示した)においてトランスグリコシル化したグルコース溶液に15g/Lのキシロースを加えた。
【表2】

【0077】
ヘミセルラーゼ酵素及びセルラーゼ酵素の活性について、各発酵運転の全培養液を分析した。基質としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を使用して、各酵素調製物のエンドグルカナーゼ活性を測定した(Ghose, "Measurement of Cellulase Activities" Pure & Appl. Chem., 1987, 59(2), 257-268)。基質としてp−ニトロフェニルβ−D−1,4−グルコピラノシド(pNPG)を使用して、各酵素調製物のβ−グルコシダーゼ活性を測定した(Chen, et al. "Purification and characterization of two extracellular β-glucosidases from Trichoderma reesei," Biochimica et Biophysica Acta, 1992, 1121, 54-60)。同様に、基質として4−O−メチルグルクロン酸キシラン(バーチウッド)を使用したアシッド・バーチウッド・キシラナーゼ(ABX)分析に従ってエンドキシラナーゼ活性を測定し(Bailey, "Interlaboratory testing off methods for assay of xylanase activity."J. Biotechnol., 1992, 23, 257-270)、基質として4−ニトロフェニルβ―D−キシロピラノシド(pNPX)を使用してβ−キシロシダーゼ活性を測定した(Cleemput, et al., "Purification and characterization of a β-xylosidase and an endo-xylanase from wheat flour." Plant Physiol. 1997, 113, 377-386)。
【0078】
種々のセルラーゼ(CMCU/g)、キシラナーゼ(ABXU/g)、β−グルコシダーゼ(pNPGU/g)、及び、β−キシロシダーゼ(pNPXU/g)活性が表3に示されている。キシラナーゼ(ABXU)活性及びキシロシダーゼ(pNPX)活性は、条件によって大幅に変化したが、β−CMC活性とpNPG活性とがほとんど類似していた。これは、セルラーゼ生成量が深刻に影響を受けない一方で、ヘミセルラーゼ生成量がこれらの条件のほとんどにおいて著しく向上したことを示している。
【0079】
生産された総タンパクは、pH5.5の条件がpH4.8の条件よりわずかに少ない生産であったものの(15〜20%の低下)、すべての場合において類似していた。
【表3】

【0080】
C.実施例3:酵素組成物の成分
これらの発酵サンプルのHPLCプロファイルを比較することによって、ヘミセルラーゼ生成量における顕著な差を見つけることができる。
【0081】
HPLC逆相クロマトグラフィーを利用して、CBH1、CBH2、BGL11、XYN2及びXYN3を含む混合セルラーゼ組成物の主成分を分離した。表4は、コントロール条件(pH4.8及び25℃)の対応するピーク高さに対して標準化したこれらの成分の相対的なピーク高さを与える。XYN2及びXYN3の発現は、この試験において試した条件下で最大で4倍に向上したが、CBH1、CBH2及びBGL1の発現は、試験した条件下でそれほど変化しなかった。
【表4】

【0082】
HPLCの結果は、表3に示されている活性分析とかなり一致していた。キシラナーゼ生成量はほとんどの条件において顕著に向上したが、セルラーゼの生成量は実質的に損なわれなかった。
【0083】
D.実施例4:酵素組成物の生産
実施例1に記載されているように、処理されたグルコース溶液を調製した。表1の増殖培養液における発酵のために、実施例2に記載されているように、トリコデルマリーゼイを調製した。
【0084】
25℃、750RPM、0.3g/分の糖供給、及び、8毎分標準リットル(SLM)のエアフローとして発酵槽を運転した。フラスコから発酵槽に接種した後に、細胞を最初の18時間〜24時間にわたってバッチ増殖させた。バッチさせたグルコースを消費した後に、0.3g/分でグルコース供給を開始し、それを180時間継続する。
【0085】
発酵試験のこのセットにおいて、pHを4.4〜5.5の間で変化させ、温度を25℃に固定し、トランスクリコシル化したグルコース溶液に加えるキシロースを表5に示されているように5g/l〜15g/lの間で変化させた。
【表5】

【0086】
キシラナーゼ活性について各発酵実行の全培養液を分析した。基質として4−O−メチルグルクロン酸キシラン(バーチウッド)を使用したアシッド・バーチウッド・キシラナーゼ(ABX)分析に従ってエンドキシラナーゼ活性を測定した(Bailey, "Interlaboratory testing off methods for assay of xylanase activity." J. Biotechnol., 1992, 23, 257-270)。表6に示されているように、キシラナーゼ(ABXU)活性は、条件によって大幅に変化した。これは、供給中のキシロースが5g/Lのみの場合でさえも、ヘミセルラーゼ生成量がほとんどの条件において顕著に向上したことを示している。
【0087】
生産された総タンパクは、pH4.4の条件がpH5.5の条件よりわずかに少ない生産であったものの(10%の低下)、すべての場合において類似していた。
【表6】

【0088】
E.実施例5:酵素組成物の成分
これらの発酵サンプルのHPLCプロファイルを比較することによって、ヘミセルラーゼ生産における顕著な差を見つけることができる。HPLC逆相クロマトグラフィーを利用して、CBH1、CBH2、BGL1、XYN2及びXYN3を含む混合セルラーゼ組成物の主成分を分離した。表7は、検知したすべてのピークの合計ピーク面積に対して標準化したこれらの成分の相対的なピーク面積を与える(積分した面積/合計ピーク面積(%))。5g/Lもの少ないキシロースにおいても、Xyn2及びXyn3の両方がよく発現されていた。
【表7】

【0089】
HPLCの結果は、表6に示されている活性分析とかなり一致していた。キシラナーゼ生成量は、ほとんどの条件において顕著に向上した。
【0090】
F.実施例6:酵素組成物の生産
実施例1に記載されているように、処理されたグルコース溶液を調製した。表1の増殖培養液における発酵のために、実施例2に記載されているように、トリコデルマリーゼイを調製した。
【0091】
25℃、750RPM、0.3g/分の糖供給、及び、8毎分標準リットル(SLM)のエアフローとして発酵槽を運転した。フラスコから発酵槽に接種した後に、細胞を最初の18時間〜24時間にわたってバッチ増殖させる。バッチされたグルコースを消費した後に、0.3g/分でグルコース供給を開始し、それを180時間継続する。
【0092】
発酵実験のこのセットにおいて、pHを4.8〜5.5の間で変えた。温度を25℃〜30℃の間で変えた。また、いくつかの場合(表8における「+」によって示された)においては、15g/Lのキシロースを、トランスグリコシル化したグルコース溶液中に加えた。
【表8】

【0093】
それぞれ発酵実行の全培養液をキシラナーゼ活性について分析した。下記アシッド・バーチウッド・キシラナーゼ(Acid Birchwood Xylanase、ABX)分析(Bailey, "Interlaboratory testing off methods for assay of xylanase activity." J. Biotechnol., 1992, 23, 257-270)の後に、基質として4−O−メチルグルクロン酸キシラン(バーチウッド)を使用して、エンドキシラナーゼ活性を定量した。表9に示されているように、キシラナーゼ(ABXU)活性は、条件に応じて大幅に変化した。これは、飼料中に15g/Lのキシロースを加えたほとんどの条件においてヘミセルラーゼ生成が著しく増大したことを示している。
【表9】

【0094】
G.実施例7:酵素組成物の成分
これらの発酵サンプルのHPLCプロファイルを比較することによって、ヘミセルラーゼ生成量における顕著な差を見つけることができる。HPLC逆相クロマトグラフィーを用いて、CBH1、CBH2、Bgl1、XYN2及びXYN3を含む混合セルラーゼ組成物の主成分を分離した。表10は、検知されたすべてのピークの合計ピーク面積に対して標準化した、これらの成分の相対的なピーク面積(積分された面積/合計ピーク面積(%))を与える。全培養液中の(Xyn2及びXyn3の両方を含む)ヘミセルラーゼの濃度は、試験を行った条件下において最大で24%向上したが、CBH1、CBH2及びBGL1の発現は、試験を行った条件下においてあまり変化しなかった。
【表10】

【0095】
表10から、XYN2、XYN3又はキシラナーゼ(XYN2及びXYN3)の倍数増加を決定した(表11)。Xyn2、Xyn3、若しくは、キシラナーゼ(XYN2+XYN3)、並びに、CBH1の間の比の計算することによって、キシロースを用いないコントロール条件についての0.05から、キシロースを用いた場合の約1.12までの広い範囲を見つけることができる(表11参照)。セルラーゼ(CBH1及びCBH2及びBgl1)に対するXyn2、Xyn3及びキシラナーゼ(Xyn2及びXyn3)の間の比を計算することによって、キシロースを用いないコントロール条件の場合の0.03から、キシロースを用いた場合の約0.44までの広い範囲を見つけることができる(表11参照)。
【表11】

セルラーゼに対するキシラナーゼの比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合糖組成物を製造する方法であって、
a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、
b)少なくとも1つのオリゴ糖を含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって、前記酵素・グルコース混合物を上昇させた温度で培養するステップと、
c)混合糖組成物を作成するために、前記処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記グルコース溶液が約5%〜約75%(重量対重量)のグルコースを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリコシル転移酵素がβ−グルコシダーゼであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素・グルコース混合物は、1キログラム当たり、約0.01MU〜約0.1MUのβ−グルコシダーゼ活性を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコシル転移酵素がエンドグルカナーゼであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記上昇させた温度が約50℃〜約75℃であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記セルラーゼ・グルコース混合物を8時間乃至500時間にわたって培養することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記五炭糖がキシロースであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記混合糖組成物中のキシロースの濃度が約1g/L〜約50g/Lであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
酵素組成物を製造する方法であって、
a)酵素・グルコース混合物を与えるために、グルコース溶液をグリコシル転移酵素と混合するステップと、
b)少なくとも1つのオリゴ糖を含む処理されたグルコース混合物を与えるのに充分な時間にわたって、前記酵素・グルコース混合物を上昇させた温度で培養するステップと、
c)混合糖組成物を作成するために、前記処理されたグルコース混合物を五炭糖と混合するステップと、
d)酵素組成物を生成するために、タンパク発現を促進する条件下で、糸状菌を混合糖組成物に暴露させるステップと含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記酵素組成物は、70%〜98%のセルラーゼ、及び、2%〜30%のキシラナーゼを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記タンパク発現を促進する条件が約25℃〜約30℃の温度を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク発現を促進する条件が酸性条件を含むことを特徴とする請求項10に記載。
【請求項14】
前記酸性条件が約4.0〜約6.0のpHを含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素組成物が、前記ステップc)を行わずに調製した酵素組成物と比較して、少なくとも1.5倍に増加したキシラナーゼを含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記酵素組成物が、前記ステップc)を行わずに調製した酵素組成物と比較して、少なくとも1.5倍に増加したXYN2を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記酵素組成物が、前記ステップc)を行わずに調製した酵素組成物と比較して、少なくとも1.5倍に増加したXYN3を含むことを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記酵素組成物は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.05〜約1.5であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN2の比(重量対重量)が約0.1〜約1.0であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN3の比(重量対重量)が約0.05〜約0.5であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記酵素組成物は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.05〜約1.5であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記酵素組成物は、セルラーゼに対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.5〜約1.0であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項23】
前記キシラナーゼがXYN2及びXYN3を含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記セルラーゼがCBH1、CBH2及びBGL1を含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項1に記載の方法によって生産されたものであることを特徴とする混合糖組成物。
【請求項26】
請求項10に記載の方法によって生産されたものであることを特徴とする酵素組成物。
【請求項27】
バイオマス基質を請求項22に記載の酵素組成物と接触させるステップを含むことを特徴とするバイオマスの分解方法。
【請求項28】
(a)1つ又はそれ以上のキシラナーゼ酵素であって、前記1つ又はそれ以上のキシラナーゼ酵素の少なくとも1つがXYN2又はXYN3であるものと、
(b)1つ又はそれ以上のセルラーゼ酵素であって、前記1つ又はそれ以上のセルラーゼ酵素の少なくとも1つがCBH1、CBH2又はBGL1であるものと、
を含む、上記(a)及び上記(b)から作られた、又は、上記(a)及び上記(b)を混合することによって入手可能な酵素組成物であって、
セルラーゼに対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.5〜約1.0であるか、又は、CBH1に対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.05〜約1.5であることを特徴とする酵素組成物。
【請求項29】
前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN2の比(重量対重量)が約0.1〜約1.0であることを特徴とする請求項28に記載の酵素組成物。
【請求項30】
前記酵素組成物は、CBH1に対するXYN3の比(重量対重量)が約0.05〜約0.5であることを特徴とする請求項28に記載の酵素組成物。
【請求項31】
前記酵素組成物は、セルラーゼに対するキシラナーゼの比(重量対重量)が約0.5〜約1.0であることを特徴とする請求項28に記載の酵素組成物。
【請求項32】
前記キシラナーゼがXYN2及びXYN3を含むことを特徴とする請求項28に記載の酵素組成物。
【請求項33】
前記セルラーゼがCBH1、CBH2及びBGL1を含むことを特徴とする請求項28に記載の酵素組成物。

【公表番号】特表2012−525152(P2012−525152A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508765(P2012−508765)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/033125
【国際公開番号】WO2010/127219
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(509240479)ダニスコ・ユーエス・インク (81)
【Fターム(参考)】