説明

発酵飲料の製造法

【目的】デキストリンを原料として、従来の甘酒等の飲料とは全く異なった、甘味と酸味のバランスが取れ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料を提供する。
【解決手段】デキストリンを溶解させた溶液に、白麹菌等の焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコアミラーゼおよびトランスグルコシダーゼ等の糖化酵素を添加して発酵を行うことにより、甘味と酸味のバランスが取れた、すっきりとした口当たりの発酵飲料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹をデキストリン溶液に添加し、さらに糖化酵素を加えて発酵を行うことにより、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、市場には様々な飲料が出ている。しかし、それら飲料は人工的なものが多く、近年の天然志向に沿ったものは野菜系飲料やお茶系飲料に限られている。
【0003】
また、米を用いて作られた栄養価の高い飲料で、かつアルコール分を含まない発酵飲料である甘酒が昔から知られているが、これは四季を通じた飲料ではなく、限定した時期に飲用されているのが現状である。これは、甘酒特有の匂いがあり、甘酒は酸味が弱いが、すっきりした口当たりに不足しており、さらに米は高価であり、作業工程が面倒である等の問題が生じてしまうからである。
【0004】
そこで、米麹、麦麹、大豆麹の1種または2種以上を糖化した後、酵母の生存する清酒粕と酵母を添加して糖化発酵を行ない、アルコール分が1%未満で糖化発酵を停止させることを特徴とする醸造飲料水の製造法(例えば、特許文献1参照)や、米または米抽出物を麹または澱粉分解酵素により糖化した後、有機酸生成酵母を添加して発酵を行い、アルコール含量が1%未満の段階で発酵を停止することを特徴とする米からの発酵飲料(例えば、特許文献2参照)、玄米と白米とを精選した後、炒り粉砕する工程と、この粉砕された玄米と白米とを所定の比率で混合し、液化酵素を添加し酵素分解させて一次酵素分解液を得る工程と、この一次酵素分解液を糖化酵素、タンパク質分解酵素、ペクチン分解酵素添加した後、酵素分解させて二次酵素分解液を得る工程と、この二次酵素分解液に蔗糖脂肪酸エステルを添加し乳化均質させる工程と、高温短時間殺菌した後、所定の容器に充填/包装する工程と、を含む米飲料の製造方法(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
しかし、あっさりとした味や匂いの点でも優れ、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料はいままで無かった。
【0006】
【特許文献1】特開昭61−005766
【特許文献2】特開平06−141829
【特許文献3】特開2000−232870
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、米より安価で、かつ利用が簡便であるデキストリンを原料とし、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹をデキストリン溶液に添加し、さらにそこに糖化酵素を加えて発酵を行うことによって、従来の甘酒等の飲料とは全く異なった、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に挙げるものである。
項1. デキストリンを溶解させた溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加して発酵を行うことを特徴とするデキストリンからの発酵飲料の製造法。
項2.焼酎製造用の麹菌が白麹菌である項1記載の発酵飲料の製造法。
項3.糖化酵素がトランスグルコシダーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびα−グルコシダーゼから選ばれる1種以上である項1記載の発酵飲料の製造法。
項4. デキストリンを溶解させた溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加して発酵を行うことによって得られることを特徴とする発酵飲料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価でかつ利用が簡便であるデキストリンを原料とし、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹をデキストリン溶液に添加し、さらに糖化酵素を加えた後に発酵を行う工程を経る。この発酵により、甘味と酸味のバランスを整えることができ、すっきりした口当たりを付与することによって、目的の発酵飲料を得ることができる。
【0012】
本発明で用いる焼酎製造用の麹菌を用いた米麹は、蒸した米に焼酎製造用の麹菌を繁殖させて得ることできる。例えば、常法によって蒸すことによってα化された米に対し、0.001〜0.01倍量の焼酎製造用の麹菌の種麹を撒き、20〜35℃で40〜55時間培養を行い、麹菌を増やすことによって得られる。
【0013】
上記の焼酎製造用の麹菌は、白麹菌(例えばAspergillus shirousamiなど)、泡盛黒麹などを例示することができるが、白麹菌が特に好ましい。
【0014】
本発明で用いる糖化酵素は、トランスグルコシダーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびα−グルコシダーゼから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0015】
本発明で用いる糖化酵素の添加量は、デキストリンが分解することができれば特に制限はないが、例えば、デキストリン100質量部に対して0.004〜4質量部、好ましくは0.04〜0.4質量部、さらに好ましくは0.1質量部を例示することができる。
【0016】
本発明のデキストリンは、デンプンを酵素、熱、酸等で加水分解したものが利用でき、構造的には直鎖状のものでも分岐状のものでもよい。
【0017】
本発明で用いるデキストリン溶液は、上記のデキストリンを水に溶解したものであり、デキストリンの添加量は、10〜40質量%、好ましくは、15〜33質量%、さらに好ましくは20〜30質量%のものを用いる。40質量%以上では、発酵しても目的の風味や味を得ることができず、10質量%以下では、溶液が濁ってしまう。
【0018】
本発明は、上述のデキストリンを溶解した溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加後、発酵を行い、アルコール含量1%未満の段階で発酵を停止させることによって得られる発酵飲料の製造法に関するものである。
【0019】
デキストリンを溶解した溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加後の発酵条件は、好適に発酵が行われる条件であればよく、例えば、40〜60℃、好ましくは50〜55℃で10時間以上、好ましくは18〜24時間発酵させればよい。
【0020】
40℃以下で発酵を行った場合は糖化酵素の働きが弱く甘味が弱くなってしまい、60℃以上で発酵を行った場合は糖化酵素が失活してしまうため好ましくない。
【0021】
上記発酵反応後は、得られた発酵液を遠心分離によって麹菌体と発酵残渣を分離し、ろ過を行った後、殺菌を行うことによって、目的の発酵飲料を得ることができる。なお、嗜好にあわせて、炭酸水や水で希釈、あるいは、それに香料、着色料等を添加することによって適宜風味の調整を行うことも可能である。
【0022】
以上のようにして得られた発酵飲料は、甘味と酸味のバランスのとれた、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料となる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実験例1
1.焼酎製造用の麹菌を用いた米麹の調製
レトルトごはん1パック(200g)を電子レンジで700W、1分40秒で温め、40℃前後まで冷ました後、種麹懸濁液2mL(種麹(白麹菌:焼酎K型菌(ビオック社製))を水で懸濁したもの)を添加後、よく混合し、30℃で50時間培養を行った。
【0025】
2.発酵液の製造
100gのデキストリン(アミコール7−H(日澱化学社製))を300gの水で加熱溶解し、55℃以下まで温度を下げたところに、上記の焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と、表1に記載の量の糖化酵素(四段用TG−B(α−アミラーゼ、トランスグルコシターゼおよびβ−アミラーゼの混合物:天野エンザイム社製))を少量の水に溶かしてから加え、よく撹拌し、53℃にて20時間発酵を行った。
【0026】
その後、発酵後の溶液を、遠心分離機(KUBOTA社製)を用いて8000rpm、20分で遠心分離を行って発酵液を分離し、吸引ろ過を行って、ろ液を回収後、93℃達温殺菌を行い冷蔵庫にて10℃まで冷却した。
【0027】
冷却した発酵液を、ろ過助剤(KCフロック)を用いて再度ろ過した。このろ過した発酵液を官能評価した結果を表1に記載した。
【0028】
【表1】

○:美味しい △:美味しくはないが、不味くもない ×:不味い
【0029】
表1のように、デキストリン25gに対して用いた酵素量が1mg以下になると、甘味が弱く、酸味や渋味の強い飲料となった。逆に、デキストリン25gに対して用いた酵素量が250mg以上になると、甘味が強く、酸味を感じにくい飲料となった。デキストリン25gに対して用いた酵素量が25mgの時に一番バランスがよく、またスッキリした風味になった。そこから遠ざかるに連れ、スッキリ感がなくなった。
【0030】
実験例2
1.各種麹菌を用いた米麹の調製
レトルトごはん1パック(200g)を電子レンジで700W、1分40秒で温め、40℃前後まで冷ました後、種麹懸濁液2mL(種麹(表2)を10倍量の水で懸濁したもの)を添加後、よく混合し、30℃で50時間培養を行った。
【0031】
2.発酵液の製造
100gのデキストリン(アミコール7−H(日澱化学社製))を300gの水で加熱溶解し、55℃以下まで温度を下げたところに、上記の焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と0.1gの糖化酵素(四段用TG−B(α−アミラーゼ、トランスグルコシターゼおよびβ−アミラーゼの混合物:天野エンザイム社製))を少量の水に溶かしてから加え、よく撹拌し、53℃にて20時間発酵を行った。
【0032】
その後、発酵後の溶液を、遠心分離機(KUBOTA社製)を用いて8000rpm、20分で遠心分離を行って発酵液を分離し、吸引ろ過を行って、ろ液を回収後、93℃達温殺菌を行い冷蔵庫にて10℃まで冷却した。
【0033】
冷却した発酵液を、ろ過助剤(KCフロック)を用いて再度ろ過した。このろ過した発酵液を官能評価した結果を表2に記載した。
【0034】
【表2】

○:美味しい △:美味しくはないが、不味くもない ×:不味い
【0035】
※白麹菌:焼酎K型菌(ビオック社製))
泡盛黒麹菌:泡盛黒麹菌(ビオック社製)
味噌用麹菌(Aspergillus oryzae):良い種麹 味噌用(ビオック社製)
ソーヤ菌(Aspergillus sojae):良い種麹 ソーヤ菌(ビオック社製)
黒判もやし(黄麹菌):醪用 黒判もやし(糀屋三左衛門社製)
【0036】
上記のように、通常飲料用に用いる麹菌を用いた場合(黒判もやしを除く)は、それぞれの特徴は出るものの、美味しい飲料に仕上がった。しかし、味噌やソーヤといった味噌や醤油を製造するために用いる麹菌では、それぞれ味噌・醤油の味がついてしまい、飲料として用いるにはやや厳しい風味となった。また、黒判もやしを用いた場合は、強いニオイが出てしまい、スッキリ感を感じることが出来ないものとなった。
【0037】
実験例3
1.焼酎製造用の麹菌を用いた米麹の調製
レトルトごはん1パック(200g)を電子レンジで700W、1分40秒で温め、40℃前後まで冷ました後、種麹懸濁液2mL(種麹(白麹菌:焼酎K型菌(ビオック社製))を10倍量の水で懸濁したもの)を添加後、よく混合し、30℃で50時間培養を行った。
【0038】
2.発酵液の製造
100gのデキストリン(アミコール7−H(日澱化学社製))を300gの水で加熱溶解し、55℃以下まで温度を下げたところに、上記の焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と0.1gの表3に記載の糖化酵素を少量の水に溶かしてから加え、よく撹拌し、53℃にて20時間発酵を行った。
【0039】
その後、発酵後の溶液を、遠心分離機(KUBOTA社製)を用いて8000rpm、20分で遠心分離を行って発酵液を分離し、吸引ろ過を行って、ろ液を回収後、93℃達温殺菌を行い冷蔵庫にて10℃まで冷却した。
【0040】
冷却した発酵液を、ろ過助剤(KCフロック)を用いて再度ろ過した。このろ過した発酵液を官能評価した結果を表3に記載した。
【0041】
【表3】

○:美味しい △:美味しくはないが、不味くもない ×:不味い
【0042】
※四段用TG−B:α−アミラーゼ、トランスグルコシターゼおよびβ−アミラーゼの混合物:天野エンザイム社製
グルクSBG:グルコアミラーゼ、α−アミラーゼの混合物:天野エンザイム社製
トランスグルコシダーゼ:天野エンザイム社製
α−グルコシダーゼ:SIGMA社製
プロテアーゼ:SIGMA社製
セルロシン:ヘミセルラーゼ、食品素材の混合物:エイチビィアイ社製
【0043】
上記のように、α−アミラーゼ、トランスグルコシターゼおよびβ−アミラーゼの混合物;グルコアミラーゼ、α−アミラーゼの混合物;トランスグルコシダーゼ;α−グルコシダーゼを用いたものは、美味しい飲料となった。しかし、プロテアーゼ、ヘミセルラーゼを用いたものは、スッキリ感に劣る飲料となった。
【0044】
実験例4
1.焼酎製造用の麹菌を用いた米麹の調製
レトルトごはん1パック(200g)を電子レンジで700W、1分40秒で温め、40℃前後まで冷ました後、種麹懸濁液2mL(種麹(白麹菌:焼酎K型菌(ビオック社製))を水で懸濁したもの)を添加後、よく混合し、30℃で50時間培養を行った。
【0045】
2.発酵液の製造
デキストリンあるいはデキストリンの代わりに表4に記載のデンプン等100gを300gの水で加熱溶解し、55℃以下まで温度を下げたところに、上記の焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と0.1gの糖化酵素(四段用TG−B(α−アミラーゼ、トランスグルコシターゼおよびβ−アミラーゼの混合物:天野エンザイム社製))を少量の水に溶かしてから加え、よく撹拌し、53℃にて20時間発酵を行った。
【0046】
その後、発酵後の溶液を、遠心分離機(KUBOTA社製)を用いて8000rpm、20分で遠心分離を行って発酵液を分離し、吸引ろ過を行って、ろ液を回収後、93℃達温殺菌を行い冷蔵庫にて10℃まで冷却した。
【0047】
冷却した発酵液を、ろ過助剤(KCフロック)を用いて再度ろ過した。このろ過した発酵液を官能評価した結果を表4に記載した。
【0048】
【表4】

評価は、○:美味しい △:美味しくはないが、不味くもない ×:不味い
【0049】
※コーンアルファーY:コーンスターチ(三和澱粉工業社製)
サンデック#30:デキストリン(三和澱粉工業社製)
サンデック#70:デキストリン(三和澱粉工業社製)
NSD−300:デキストリン(サンエイ糖化社製)
【0050】
上記より、デキストリン以外の粉素材を用いたものは、一様に強い癖がつき、スッキリ感がなく、甘味と酸味のバランスも悪いものになった。逆に、デキストリンを用いた場合は一様にスッキリ感を有しており、風味の差はあるものの、飲みやすい飲料に仕上がった。
【0051】
実施例1.発酵飲料(ライム風味)
実験例1にて、糖化酵素をデキストリン100質量部に対して0.1質量部用いた発酵液を、炭酸水により糖度を12程度にし、ライム果汁によってpH3.8に調整した。得られた飲料は、甘味と酸味のバランスがよく、後味がすっきりしており、後味に異味等はなかった。
【0052】
実施例2.発酵飲料(ジンジャー風味)
実験例2にて、糖化酵素をデキストリン100質量部に対して0.1質量部用いた発酵液を、炭酸水により糖度を12程度にし、ジンジャーフレーバーSP−75799(三栄源エフ・エフ・アイ社製)50μLを加えた。得られた飲料は後味がすっきりしており、異味等はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、甘味と酸味のバランスがとれ、すっきりした口当たりを呈する発酵飲料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリンを溶解させた溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加して発酵を行うことを特徴とするデキストリンからの発酵飲料の製造法。
【請求項2】
焼酎製造用の麹菌が白麹菌である請求項1記載の発酵飲料の製造法。
【請求項3】
糖化酵素がα−アミラーゼ、β−アミラーゼ、α−グルコシダーゼ、グルコアミラーゼおよびトランスグルコシダーゼから選ばれる1種以上である請求項1記載の発酵飲料の製造法。
【請求項4】
デキストリンを溶解させた溶液に、焼酎製造用の麹菌を用いた米麹と糖化酵素を添加して発酵を行うことによって得られることを特徴とする発酵飲料。

【公開番号】特開2010−81906(P2010−81906A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257110(P2008−257110)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】