説明

発電システムとその運転方法

【課題】二酸化炭素を回収する装置を備える発電システムにおいて、二酸化炭素の排出権の取引市場から得られる取引価格情報を利用して、二酸化炭素の回収に係わる発電事業者のコストを減らすことができる発電システムを提案する。
【解決手段】本発電システムは、燃料の燃焼排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置8と、排ガスが二酸化炭素回収装置8を迂回するためのバイパス管14と、バイパス管14の排ガスの流量を制御する第1流量調節弁16と、二酸化炭素回収装置8の排ガスの流量を制御する第2流量調節弁20と、二酸化炭素の排出権市場での排出権取引金額に関する情報を取得する情報入手システム12と、排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用と回収量を算出する計算システム13と、算出した二酸化炭素の回収量に基づき第1流量調節弁16及び第2流量調節弁20を制御する制御システム15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出する二酸化炭素の回収が可能な発電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出量増大が地球温暖化の原因として挙げられ、その削減対策が世界的に重要となっている。1997年には、先進国の二酸化炭素を含む温暖効果ガスの排出量の削減目標について、法的に拘束力のある京都議定書が採択されている。京都議定書においては、温暖効果ガスの排出削減量を排出権として市場で取引する制度を認めている。これにより、温暖効果ガスを削減目標値より削減できた国や企業などは、その削減量を排出権として、削減目標値に到達していない国や企業などに売却することが可能となる。
【0003】
現在、排出量を取引する制度を欧州が先行して進めており、2005年からはEU内の25カ国を対象としたEU域内排出量取引制度(EU−ETS)が実施されている。しかし、このような取引制度も始まったばかりであり、これからまだ大きく変化する可能性がある。そして、おそらく市場の原理によって取引価格を決めていく制度になると思われる。
【0004】
温暖効果ガスのうち二酸化炭素は、発電システムから主に排出される。例えば、石炭火力ボイラ発電システムでは、石炭を燃焼することで炭素と酸素が結びついて、二酸化炭素が発生する。このように、燃料となる可燃成分は炭素を含む化石燃料や炭化水素系のものが多いため、燃焼を伴う反応により二酸化炭素が発生する。また、一般に発電システムは、発電出力の大きなシステムが多く、二酸化炭素発生量全体に占める割合が大きいという特徴がある。
【0005】
このような背景の下、発電システムに二酸化炭素を回収する装置を設置して、二酸化炭素を隔離する試みがある。とりわけ、石炭を利用した発電システムは、他の化石燃料を利用したものに比べ、単位発熱量当たりの二酸化炭素の発生量が多い。そのため、二酸化炭素回収・隔離技術の研究開発が盛んに取り組まれている。二酸化炭素回収技術としては、化学吸着法・膜分離法などがある。
【0006】
発電システムを所有する事業者は、二酸化炭素を回収することで排出権を得て売却できるが、一方で、二酸化炭素を回収する装置の設置費用とそのランニングコストが、発電システムの運用費用に追加されるという課題がある。
【0007】
そこで、市場で取引される排出権の情報を取り込んで、取引量や取引価格の目標値を迅速に提供するシステムが特許文献1に示されている。このシステムは、排出量を取引しようとする発電事業者が、どの程度、どのような単価で販売するかという意思決定を支援するものである。また、二酸化炭素の取引システムが特許文献2に示されており、二酸化炭素を効率よく取引するシステムが提案されている。
【0008】
しかし、これらの特許文献では、取引する仕組みや取引情報の取り込み方には言及しているが、それらの情報を利用してどのように発電システムを構成し、運転するかを具体的に示していない。
【0009】
【特許文献1】特開2007−257019号公報
【特許文献2】特開2002−149978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
温暖効果ガスの排出権を取引する市場から得られる取引価格の情報は、発電システムを運用する発電事業者に対し、有益に利用されなければならない。本発明の目的は、二酸化炭素を回収する装置をもつ発電システムにおいて、排出権を取引する市場から得られる取引価格の情報を利用して、二酸化炭素を回収する装置の設置費用とそのランニングコストなど、二酸化炭素の回収に係わる発電事業者の負担を減らすことができる発電システムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明による発電システムは、基本的には次のような構成を取る。
【0012】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排出路に設けられ排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置とを備える発電システムにおいて、前記排ガスが前記二酸化炭素回収装置を迂回して流れるように設けられるバイパス管と、前記バイパス管に流れる排ガスの流量を制御する第1流量調節弁と、前記二酸化炭素回収装置に流れる排ガスの流量を制御する第2流量調節弁と、二酸化炭素の排出権市場と接続され、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を取得可能な情報入手システムと、前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、この二酸化炭素の回収処理費用と前記排出権取引金額とに基づいて前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する計算システムと、前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づき前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁を制御する制御システムとを備える。
【0013】
本発明による発電システムは、前記排出路、前記二酸化炭素回収装置、及び前記第2流量調節弁を2つ以上備えてもよい。
【0014】
また、本発明による発電システムは、基本的には次のような構成を取ることもできる。
【0015】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置とを備える発電システムにおいて、前記排ガスの流量を制御する第1流量調節弁を有し前記二酸化炭素回収装置を有さない第1排出路と、前記排ガスの流量を制御する第2流量調節弁及び前記二酸化炭素回収装置を有する第2排出路と、二酸化炭素の排出権市場と接続され、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を取得可能な情報入手システムと、前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、この二酸化炭素の回収処理費用と前記排出権取引金額とに基づいて前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する計算システムと、前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づき前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁を制御する制御システムとを備える。
【0016】
この発電システムにおいて、第2排出路を2つ以上備えてもよい。
【0017】
また、上記目的を達成するために、本発明による発電システムの運転方法は、基本的には次のような構成を取る。
【0018】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排出路に設けられ前記排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、前記排ガスが前記二酸化炭素回収装置を迂回して流れるように設けられるバイパス管と、前記バイパス管の流量を制御する第1流量調節弁と、前記二酸化炭素回収装置の流量を制御する第2流量調節弁とを備える発電システムの運転方法において、ネットワークを介して二酸化炭素の排出権市場と前記発電システムの制御用の計算システムとが接続され、かつ前記計算システムと前記発電システムの制御システムとが制御線を介して接続され、前記ネットワークを介して、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を前記計算システムにより取得する工程と、前記計算システムにて前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、前記排出権取引金額と前記二酸化炭素の回収処理費用とに基づいて、前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する工程と、前記制御システムが前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づいて前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の目標流量制御量を算出し、この目標流量制御量に基づいて前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の開度を制御する工程とを備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発電システムの運転中に、排出権の取引価格の変化に対応して二酸化炭素の回収量を制御することができ、発電事業者の負担するコストも考慮して、発電システムを適切に運用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施例である二酸化炭素回収型の発電システムについて説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例を、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施例である二酸化炭素回収型の発電システムの構成図である。発電システムには様々なものがあるが、本実施例では、石炭焚きボイラを用いた発電システムを例にとって説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施例の発電システムは、次のような燃焼設備を有する。すなわち、可燃物燃料である石炭は、粉砕設備1で微粒に砕かれたのち、加熱された燃焼用の空気2と混合されて、バーナー3へ導入される。バーナー3から噴出した石炭は、ボイラ火炉4内で燃焼し、高温の排ガスを生成する。
【0023】
尚、本実施例のボイラ火炉4は、前後壁に上中下3段のバーナー3が配置されていて、缶前後で向き合う対向燃焼方式のボイラである。見やすくするために、図1には、空気と石炭が左側(缶前)からのみバーナーに供給される構成を示した。実際は、図の右側(缶後)のバーナーや供給口にも、空気と石炭が供給される。また、ボイラ火炉4には、水冷管で構成された熱交換器5がボイラ火炉壁面やボイラ火炉下流に設置されている。
【0024】
ボイラ火炉4で生じた1000℃以上の燃焼排ガスが熱交換器5で高温蒸気によって熱吸収された後、この蒸気が発電設備6で蒸気タービンを駆動して発電する。また、熱回収された排ガスは、排出路である煙道を通って排ガス処理設備7に流れていく。図1には詳細に記載していないが、排ガス処理設備7の種類には、窒素酸化物を除去する脱硝装置、燃焼排ガス中の飛灰を除塵する除塵装置、硫黄酸化物を除去する脱硫装置がある。除塵装置としては、電気集塵機が一般的である。
【0025】
燃焼排ガスは、排ガス処理設備7によって有害な成分が除去された後、これまでの発電システムでは、そのまま排ガスの排出路を通して煙突19から系外に排出されていた。しかし、今後は地球温暖化の問題を受けて二酸化炭素を回収する装置の設置が義務付けられる可能性があり、実際にプラントに二酸化炭素回収装置をつけた実証試験も実施されている。本実施例の発電システムでは、排ガス処理後に二酸化炭素を排ガスから分離して回収する二酸化炭素回収装置8が、排ガス処理設備7と煙突19との間に設置されている。二酸化炭素回収方法としては、以下のような方式が提案されている。
(1)化学吸収法、(2)物理吸着法、(3)膜分離法、(4)深冷分離法。
【0026】
(1)化学吸収法は、アミンや炭酸カリウム水溶液のようなアルカリ性溶液に二酸化炭素を吸収させて回収する手法である。現在、発電所規模の実用化実証試験が進められている。(2)物理吸着法は、吸着剤にゼオライト、活性炭などを用い、吸着剤に接触した燃焼排ガスから二酸化炭素のみを吸着させて回収する手法である。吸着後、脱離して吸着性能を回復する。このとき、吸着・脱離が圧力や温度に依存する性質を利用して吸着・脱離を行う、圧力スイング式吸着(PSA)法、熱スイング式吸着(TSA)法などがある。(3)膜分離法は、多孔質の膜に燃焼排ガスを通し、気体の透過速度の違いを利用して、二酸化炭素を分離して回収する手法である。(4)深冷分離法は、燃焼排ガスを圧縮冷却した後、蒸留によって二酸化炭素を分離して回収する手法である。
【0027】
いずれの手法も二酸化炭素を回収しない場合に比べて、二酸化炭素回収装置8を設置する費用と運用する費用とが必要となる。また、二酸化炭素の回収には多くの動力を必要とするため、送電端効率が低下する。これらはすべて発電事業者にとってコスト増加の方向となり、何らかの金銭的な補償がなければ二酸化炭素回収装置8の設置は受け入れられない。そのため、本発明では、発電事業者が発電システムに二酸化炭素回収装置8を設置する場合の運用システムも含めて提案する。
【0028】
上述した金銭的な補償は、二酸化炭素の排出量を取引する排出権から得ることが一般的に考えられている。すなわち、二酸化炭素の回収に係わるすべての費用を排出権でまかなうことが発電事業者にとって望ましい状態となる。しかし、排出権の取引価格は市場の原理で決まるため、二酸化炭素の回収処理費用を排出権でまかないきれない場合もある。このような場合には、発電事業者は、発電システムを運転しながら排出権の取引価格を勘案しつつ、二酸化炭素の回収量を判断しなければならない。
【0029】
本発明による発電システムを用いると、排出権の取引状況を判断しながら、適切に発電システムを運用することができる。以下では、この運用例について説明する。
【0030】
本発電システムは、二酸化炭素回収量計算制御システム11を備える。二酸化炭素回収量計算制御システム11は、情報収集データベース12、二酸化炭素回収費用計算機13、及び流量調節弁制御装置15を有する。情報収集データベース12、二酸化炭素回収費用計算機13、及び流量調節弁制御装置15は、それぞれ制御線を介して接続される。
【0031】
さらに、本発電システムは、バイパス管14、及び流量調節弁16、20を有する。バイパス管14は、燃焼排ガスが二酸化炭素回収装置8に流れないように迂回させるためのものであり、燃焼排ガスの流路において二酸化炭素回収装置8と並列に設ける。流量調節弁16は、バイパス管14に設置され、バイパス管14に流れる燃焼排ガスの流量を制御する。流量調節弁20は、燃焼排ガスの流路において二酸化炭素回収装置8の上流に設置され、二酸化炭素回収装置8に流れる燃焼排ガスの流量を制御する。流量調節弁16、20は、流量調節弁制御装置15により制御される。
【0032】
また、本発電システムには、燃焼排ガスの流路中に、流量計17がバイパス管14への分岐位置の前に、流量計18がバイパス管14に、それぞれ取り付けられており、各流路の燃焼排ガス流量を計測して流量調節弁制御装置15に伝える。
【0033】
二酸化炭素回収量計算制御システム11は、少なくとも1つの排出権取引市場9から排出権の取引情報を取得する。取引情報は、例えばインターネット10を介してオンラインで入手する。入手した取引情報は、情報収集データベース12に蓄積される。二酸化炭素回収費用計算機13は、この取引情報を入力情報として二酸化炭素の排出権取引の金額を求め、二酸化炭素の回収処理費用と比較し、本発電システムの運転方法を決定する。
【0034】
ここで、二酸化炭素回収量計算制御システム11が本発電システムの運転方法を決定するための判断基準の例を示す。
【0035】
ある一定期間内における二酸化炭素の回収にかかる処理費用X(¥/ton(CO2))は、二酸化炭素回収費用計算機13で算出する。回収処理費用Xは、例えば、発電事業者が定めた二酸化炭素回収装置8の設置に係わる初期費用とランニングコストとを考慮して決定することができる。
【0036】
また、二酸化炭素1トンあたりの排出権取引で得る金額をM(¥/ton(CO2))とする。この排出権取引の金額Mは、前述した排出権の取引情報に含まれる。二酸化炭素回収量計算制御システム11では、二酸化炭素回収費用計算機13がXとMの差を求めて二酸化炭素の回収量を判断し、流量調節弁制御装置15がこの回収量に応じて流量調節弁16、20を制御することで、二酸化炭素の回収量を制御する。
【0037】
まず、X−M≦0のときは、二酸化炭素の回収処理費用よりも排出権取引の金額が大きい(または両者が等しい)ため、発電事業者は市場へ排出権を売る側にあるほうがコスト面で有利である。従って、二酸化炭素回収量計算制御システム11は、本発電システムにおける二酸化炭素の回収量が最大となる運転を実施する(X−M=0の場合も、二酸化炭素を回収する)。
【0038】
逆に、X−M>0のときは、二酸化炭素の回収処理費用よりも排出権取引の金額が小さいため、発電事業者は二酸化炭素を回収するよりも、二酸化炭素の回収量に相当する排出権を市場から購入すると処理コストが安くなる。
【0039】
ここで、二酸化炭素を回収する運転を継続しているとき(X−M≦0の場合)に、排出権取引市場9での取引状況に応じて、徐々に排出権取引の金額が小さくなる場合を考える。図3には、回収処理費用Xと排出権取引金額Mの差(X−M)の時間変化の一例をグラフに示す。このグラフのように、市場での排出権取引金額Mの変動が穏やかで一方向にX−Mが変化している場合や、排出権取引金額Mが一定の金額でしばらく維持されることが分かっている場合は、X−M>0になった時に、排出権を購入する(二酸化炭素を回収しない)運転とすればよい。
【0040】
また、市場での排出権取引金額Mの変動が激しい場合も考えられる。図4には、この一例として、非常に短時間(例えば数秒程度)でX−M≦0とX−M>0の状態が繰り返された場合の一例をグラフに示す。この場合、短時間に二酸化炭素の回収をしたり止めたりすることは、二酸化炭素回収装置8の応答時間を考慮すると不可能であるうえ、急速な運転条件の変化は機器の故障につながる可能性がある。そこで、図3で示したように市場での排出権取引金額Mの変動が穏やかな場合以外では、バイパス管14と流量調節弁16、20を利用して二酸化炭素回収量を調整する運転とする。
【0041】
尚、二酸化炭素の回収量の判断基準を策定するための手法は、本手法以外にも判断方法は多数考えられる。発電事業者は、それぞれの事情に合わせた手法を選択して構わない。
【0042】
続いて、二酸化炭素回収量計算制御システム11による本発電システムの運転例を説明する。
【0043】
二酸化炭素回収費用計算機13は、上述のように決定した発電システムの運転方法を流量調節弁制御装置15に伝えて、二酸化炭素回収装置8での二酸化炭素の回収量を制御させる。流量調節弁制御装置15は、二酸化炭素の回収量に応じて流量調節弁16、20の開度を制御する目標信号を生成し、流量調節弁16、20に伝える。
【0044】
図3に示したように、ゆっくりとX−M≦0の状態からX−M>0の状態へ変化するような場合は、二酸化炭素回収装置8の上流に設置した流量調節弁20を絞り、同時にバイパス管14に設置した流量調節弁16を開いていき、燃焼排ガスをバイパス管14に流してバイパスさせ、二酸化炭素回収装置8に流れる燃焼排ガスの量を減らす。尚、流量調節弁16、20は、流量調節弁制御装置15からの目標信号で開度が制御される。最終的には、流量調節弁20は全閉、流量調節弁16は全開とし、全燃焼排ガスをバイパス管14に流してバイパスさせ、二酸化炭素を全く回収しない運転とする。
【0045】
逆に、X−M>0からX−M≦0となる場合は、流量調節弁20を開き、同時に流量調節弁16を絞っていき、燃焼排ガスのバイパス量を減少する。最終的には、流量調節弁16は全閉、流量調節弁20は全開として、燃焼排ガス中の二酸化炭素の全量を回収処理する。
【0046】
本発明によれば、バイパス管14を用いることにより、二酸化炭素を全く回収しない運転も可能となり、二酸化炭素の回収量を自由にコントロールできる利点がある。流量調節弁16と20の開度は、二酸化炭素回収装置8の機器が破損しないように、二酸化炭素回収装置8の燃焼排ガス流量とバイパス管14の流量とを監視しながら、徐々に変化させる。
【0047】
尚、二酸化炭素回収装置8に流れる燃焼排ガス流量は、バイパス管14の分岐前に取り付けられ燃焼排ガスの全流量を計測する流量計17と、バイパス管14に取り付けられバイパス管14に流れる燃焼排ガス流量を計測する流量計18との、計測値の差で計算される。
【0048】
流量計17、18からの信号は、流量調節弁制御装置15に伝えられ、二酸化炭素の回収量を微調整するために利用される。具体的には、流量調節弁制御装置15は、二酸化炭素回収費用計算機13が算出した二酸化炭素の回収量に基づき流量調節弁16、20の目標流量制御量を算出し、さらに流量計17、18からの信号に基づき燃焼排ガスの実際の流量を算出し、この目標流量制御量と燃焼排ガスの実際の流量とに基づいて、流量調節弁16、20の開度を調整する。これにより、二酸化炭素の回収量を微調整することができる。
【0049】
バイパス管14によりバイパスされた燃焼排ガスは、二酸化炭素回収装置8から出てきた排ガスと混合された後、煙突19から系外に排出される。
【0050】
一方、図4に示したように、非常に短時間でX−M≦0とX−M>0の状態を繰り返すような場合では、以下のように流量調節弁16を制御する。
【0051】
まず、二酸化炭素回収費用計算機13がX−M≦0の状態からX−M>0の状態へ遷移したと判断すると、流量調節弁制御装置15は、バイパス管14に設置された流量調節弁16を開く(ただし全開しない)。通常、流体通過時の圧力損失は、二酸化炭素回収装置8のラインの方がバイパス管14よりも大きい。このため、流量調節弁16を開くと、燃焼排ガスの一部がバイパス管14へ流れる。
【0052】
このX−M>0の状態では、本来、燃焼排ガスを全量バイパスすると処理コストが安くなる。しかし、X−M>0の状態からX−M≦0の状態へと変化する可能性があるため、全量バイパスする操作(流量調節弁16を全開し、流量調節弁20を全閉する操作)に入らず、このまま運転を継続する。
【0053】
これにより、図4に示したようにX−Mが短時間に変化する場合でも、機器を故障させることなく運転が継続可能となる。また、短時間でさらにX−M>0からX−M≦0の状態に変化した場合は、流量調節弁16を絞れば良い。
【0054】
バイパス管14を設置しないで二酸化炭素の回収量を制御する方法も考えられる。この方法では、二酸化炭素を回収しない場合には、燃焼排ガスは、二酸化炭素回収装置8の内部を流れるが二酸化炭素が回収されず、そのまま系外に排出されることになる。しかし、この方法は、流動抵抗が大きい二酸化炭素回収装置8の内部を流体(燃焼排ガス)が流れるため、バイパス管14を設置する場合に比べ動力損失が大きくなるというデメリットが発生する。
【実施例2】
【0055】
本実施例は、実施例1に示した二酸化炭素回収型の発電システムにおいて、二酸化炭素回収装置8を2つ以上備えた例である。本実施例における発電システムの構成を図2に示す。図2は、二酸化炭素回収装置8を2つ備えた場合を示している。
【0056】
本実施例のように二酸化炭素回収の系を2系統以上にすると、二酸化炭素の回収に支障をきたすことがなく、二酸化炭素回収装置8のメンテナンスが可能である。実施例1のように二酸化炭素回収装置8が1つしかない場合は、例えば、二酸化炭素回収方法が上述の膜分離法であると、膜を運転中に交換するために燃焼排ガスの全量をバイパス管14へ流す必要がある。膜の交換は可能であるが、二酸化炭素を回収しなければならないときは、発電システムの運転が不可能になる。また、二酸化炭素回収装置8に異常が生じた場合は、二酸化炭素の回収効率が低下し、ひいては回収不能になることも考えられる。
【0057】
そのため、図2に示した構成図のように、二酸化炭素回収の系統を複数にすると良い。1つの二酸化炭素回収装置8に何らかのトラブルが生じた場合、この系統に取り付けた流量調節弁20を一時的に閉じて、この二酸化炭素回収装置8を補修する。このとき、残りの二酸化炭素回収装置8は正常に動作しているため、仮に2つの二酸化炭素回収装置8が同じ容量の回収装置だとすると、処理すべき二酸化炭素の半分は回収可能となる。このように、本実施例では、二酸化炭素の回収を続行しながら二酸化炭素回収装置8のメンテナンスが可能にある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例である二酸化炭素回収型の発電システムの構成図。
【図2】本発明による発電システムにおいて、二酸化炭素回収装置が複数ある場合の構成図。
【図3】二酸化炭素回収処理費用と排出権取引価格の差の、時間変化率が小さい場合の図。
【図4】二酸化炭素回収処理費用と排出権取引価格の差の、時間変化率が大きい場合の図。
【符号の説明】
【0059】
1…粉砕設備、2…空気、3…バーナー、4…ボイラ火炉、5…熱交換器、6…発電設備、7…排ガス処理設備、8…二酸化炭素回収装置、9…排出権取引市場、10…インターネット、11…二酸化炭素回収量計算制御システム、12…情報収集データベース、13…二酸化炭素回収費用計算機、14…バイパス管、15…流量調節弁制御装置、16,20…流量調節弁、17,18…流量計、19…煙突。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排出路に設けられ排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、を備える発電システムにおいて、
前記排ガスが前記二酸化炭素回収装置を迂回して流れるように設けられるバイパス管と、
前記バイパス管に流れる排ガスの流量を制御する第1流量調節弁と、
前記二酸化炭素回収装置に流れる排ガスの流量を制御する第2流量調節弁と、
二酸化炭素の排出権市場と接続され、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を取得可能な情報入手システムと、
前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、この二酸化炭素の回収処理費用と前記排出権取引金額とに基づいて前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する計算システムと、
前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づき前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁を制御する制御システムと、を備えることを特徴とする発電システム。
【請求項2】
請求項1記載の発電システムにおいて、前記計算システムは、前記回収処理費用と前記排出権取引金額との大小関係に基づいて、前記二酸化炭素の回収量を算出する発電システム。
【請求項3】
請求項1記載の発電システムにおいて、前記バイパス管を流れる排ガスの流量を測定し前記制御システムに伝える第1計測機器と、前記バイパス管及び前記二酸化炭素回収装置を流れる排ガスの流量を測定し前記制御システムに伝える第2計測機器と、をさらに備え、
前記制御システムは、前記二酸化炭素の回収量の算出値から前記第1及び第2流量調節弁の目標流量制御量を算出し、この目標流量制御量と前記第1及び第2計測機器からの前記排ガスの流量とに基づいて、前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の開度を調整する発電システム。
【請求項4】
請求項1または2記載の発電システムにおいて、前記排出路、前記二酸化炭素回収装置、及び前記第2流量調節弁を2つ以上備える発電システム。
【請求項5】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、を備える発電システムにおいて、
前記排ガスの流量を制御する第1流量調節弁を有し前記二酸化炭素回収装置を有さない第1排出路と、
前記排ガスの流量を制御する第2流量調節弁及び前記二酸化炭素回収装置を有する第2排出路と、
二酸化炭素の排出権市場と接続され、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を取得可能な情報入手システムと、
前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、この二酸化炭素の回収処理費用と前記排出権取引金額とに基づいて前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する計算システムと、
前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づき前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁を制御する制御システムと、を備えることを特徴とする発電システム。
【請求項6】
請求項5記載の発電システムにおいて、前記計算システムは、前記回収処理費用と前記排出権取引金額との大小関係に基づいて、前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁を制御する発電システム。
【請求項7】
請求項5記載の発電システムにおいて、前記第1排出路を流れる排ガスの流量を測定し前記制御システムに伝える第1計測機器と、前記第1排出路及び第2排出路を流れる排ガスの流量を測定し前記制御システムに伝える第2計測機器と、をさらに備え、
前記制御システムは、前記二酸化炭素の回収量の算出値から前記第1及び第2流量調節弁の目標流量制御量を算出し、この目標流量制御量と前記第1及び第2計測機器からの前記排ガスの流量とに基づいて、前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の開度を調整する発電システム。
【請求項8】
請求項5または6記載の発電システムにおいて、第2排出路を2つ以上備える発電システム。
【請求項9】
発電用の燃料を燃焼する燃焼設備と、前記燃焼設備から排出される排ガスの排出路と、前記排出路に設けられ前記排ガス中の二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収装置と、前記排ガスが前記二酸化炭素回収装置を迂回して流れるように設けられるバイパス管と、前記バイパス管の流量を制御する第1流量調節弁と、前記二酸化炭素回収装置の流量を制御する第2流量調節弁と、を備える発電システムの運転方法において、
ネットワークを介して二酸化炭素の排出権市場と前記発電システムの制御用の計算システムとが接続され、かつ前記計算システムと前記発電システムの制御システムとが制御線を介して接続され、
前記ネットワークを介して、前記排出権市場での二酸化炭素の排出権取引金額に関する情報を前記計算システムにより取得する工程と、
前記計算システムにて前記排ガス中の二酸化炭素の回収処理費用を算出し、前記排出権取引金額と前記二酸化炭素の回収処理費用とに基づいて、前記排ガス中の二酸化炭素の回収量を算出する工程と、
前記制御システムが前記二酸化炭素の回収量の算出値に基づいて前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の目標流量制御量を算出し、この目標流量制御量に基づいて前記第1流量調節弁及び前記第2流量調節弁の開度を制御する工程と、を備えることを特徴とする発電システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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