説明

発電機能を備えた車両用ホイールシステム

【課題】別途の電源を必要とすることなく、車両用ホイールの回転を用いて簡易な構成で安定的に発電することが可能な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムを提供する。
【解決手段】車両用ホイールシステムは、リム11の外周面11d側に、車両用ホイール10の回転中心線14に向かう軸線35と同軸となるように設けられるコイル32と、軸線35方向におけるコイル32の外方に設けられる回転側磁石31と、リム11の内周面11e側に位置するブレーキキャリパ56に設けられる静止側磁石33と、を有しており、車両用ホイール10の回転による回転側磁石31と静止側磁石33との相対位置の変化によって、コイル32を貫く磁束を変化させ、コイル32に起電力を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機能を備えた車両用ホイールシステムに関し、特に、タイヤ内の空気の温度を上昇させるための電力を供給するのに好適な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のタイヤ空気室に設置された発熱体に通電してタイヤ内の空気の温度を上昇させることにより、車両の走行抵抗(転がり抵抗)を低減し、車両の燃費性能を向上させることが知られている。
【0003】
このような発熱体に電力を供給するための電力供給手段として、電池等の電源を用いることが一般的である。しかし、この場合には、別途の電源が必要となることに加え、電源の設置場所から発熱体へと延びる複雑な配線構造を備えた構成となる。
【0004】
これに対し、車両用ホイールの回転駆動時の振動によって起電力を生じさせ、空気タイヤの状態を検知する装置に電力を供給する技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術では、重りが取り付けられたアームが車両用ホイールの振動によって振動し、アームに接合されている圧電素子からなる変換手段が屈曲させられて起電力が発生する。この技術によれば、別途の電源を設けることなく、車両用ホイールの回転を用いて簡易な構成で発電することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平2−9964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術において、車両用ホイールの回転駆動時の振動は、道路状態の影響や車両用ホイールのバウンド等によって生じる自然の振動である。このため、発生する起電力が道路状態等の振動に関する諸要因によって左右されてしまい、起電力が小さくなったり、ばらついたりするという虞がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、別途の電源を必要とすることなく、車両用ホイールの回転を用いて簡易な構成で安定的に発電することが可能な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、発電機能を備えた車両用ホイールシステムであって、タイヤを装着するためのリムを有する車両用ホイールと、前記リムの外周面側に、前記車両用ホイールの回転中心線に向かう軸線と同軸となるように設けられるコイルと、前記軸線方向における前記コイルの外方に設けられる第1の磁石と、前記リムの内周面側に位置する車体側の静止部に設けられる第2の磁石と、を有し、前記第1の磁石は、一方の磁極を内方に向けて両磁極が前記軸線上に位置するように配置され、前記第2の磁石は、前記回転中心線のまわりで前記軸線の回転位相と当該第2の磁石の周方向位置とが一致した状態において前記一方の磁極と逆の磁性を有する磁極を外方に向けて両磁極が前記軸線上に位置するように配置され、前記車両用ホイールの回転による前記第1の磁石と前記第2の磁石との相対位置の変化によって、前記コイルを貫く磁束を変化させ、前記コイルに起電力を生じさせるものである。
この発明によれば、別途の電源を必要とすることなく、車両用ホイールの回転を用いて簡易な構成で安定的に発電することが可能な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムを提供することができる。
また、車両用ホイールシステムに発電機能が備えられているため、かかる発電機能をタイヤ内の空気の温度を上昇させるための電力供給に利用することが容易となる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステムにおいて、前記リムの外周面側に設けられ、前記コイルに生じた起電力によって発熱する発熱手段をさらに有するものである。
この発明によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加えて、リムの外周面側に設けられた発熱手段を発熱させることができるため、タイヤ内の空気の温度を上昇させることが可能となる。これにより、タイヤ内の空気の圧力を所定圧力まで車両発進時から早期に上昇させることができる。こうしてタイヤが温められることによるタイヤのゴムのヒステリシスロスの低減によるタイヤの転がり抵抗の低減と、タイヤ内空気圧の上昇によるタイヤの変形量の低減によるタイヤの転がり抵抗の低減とが図られる。したがって、車両の走行抵抗を低減して、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステムにおいて、前記タイヤ内の空気の温度が過度に上昇することを抑制するための抑制手段をさらに有するものである。
この発明によれば、請求項2に記載の発明の作用効果に加えて、不要なエネルギの発生を防止することができる。また、発電機能に関する部材の耐久性が増す。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステムにおいて、前記コイルに生じた起電力を蓄積する蓄積手段をさらに有するものである。
この発明によれば、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明の作用効果に加えて、過剰に生じた電力を蓄えることができるため、蓄積手段を電源として活用することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、別途の電源を必要とすることなく、車両用ホイールの回転を用いて簡易な構成で安定的に発電することが可能な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムを提供することができる。
また、車両用ホイールシステムに発電機能が備えられているため、かかる発電機能をタイヤ内の空気の温度を上昇させるための電力供給に利用することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る発電機能を備えた車両用ホイールシステムの周辺の断面斜視図である。
【図2】回転側発電装置の外観を示す概略斜視図である。
【図3】車両用ホイール周辺の回転中心線に垂直な平面で切断した模式的な断面図である。
【図4】回転側発電装置の電気的構成を示す概略ブロック図である。
【図5】起電力発生の作動原理について説明するための図である。
【図6】車両用ホイール周辺の模式的な断面図であり、起電力発生前の状態を示す図である。
【図7】車両用ホイール周辺の模式的な断面図であり、起電力発生時の状態を示す図である。
【図8】車両発進後のタイヤ内の空気の温度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
なお、図面中の各要素は、発明の理解を容易にするために、適宜拡大、縮小又は簡略化されて描かれることがある。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る発電機能を備えた車両用ホイールシステムの周辺の断面斜視図である。
図1に示すように、本実施形態の発電機能を備えた車両用ホイールシステムは、タイヤ20を装着するためのリム11と、このリム11を車軸ハブ51に連結し支持するためのディスク12とを備えた車両用ホイール10を有するものである。
【0016】
リム11は、ホイール幅方向の両端部に形成されるビードシート部11a,11aと、このビードシート部11a,11aからホイール径方向外側に向けて屈曲したリムフランジ部11b,11bと、ビードシート部11a,11a間においてホイール径方向内側に窪んだウェル部11cとを備える。
【0017】
ビードシート部11aには、タイヤ20のビード部21が装着される。これにより、リム11のウェル部11cの外周面11dとタイヤ20の内周面との間に環状の密閉空間からなるタイヤ空気室22が形成される。ウェル部11cは、タイヤ20をリム11に組み付けるときに、タイヤ20のビード部21,21を落とし込むために設けられている。
【0018】
ディスク12は、リム11の車両(図示せず)外側の端部からホイール径方向内側に連続して形成される。ディスク12の中心部には、車軸ハブ51が貫通するハブ穴13が設けられ、ハブ穴13の中心線が車両用ホイール10の回転中心線14となる。
【0019】
車軸ハブ51は、車体(図示せず)側の静止部(非回転部)である例えばナックル52に、ベアリング(軸受)53を介して回転自在に支持される。車軸ハブ51は、車両用ホイール10とブレーキディスクロータ54とを固定するフランジ部51aと、フランジ部51aに連続して形成されベアリング53に回転自在に支持される円筒形状の軸部51bとを有している。
【0020】
フランジ部51aには5本のスタッドボルト55が差し込まれており、このスタッドボルト55とナット(図示せず)とを用いて、タイヤ20が装着された車両用ホイール10とブレーキディスクロータ54とが、フランジ部51aの車両外側に固定されている。
【0021】
ブレーキディスクロータ54は、フランジ部51aの車両外側に固定されるフランジ部54aと、車軸ハブ51の回転の制動(車両の制動)時にブレーキキャリパ56によって制動力が付与される環状ディスク部54bと、一端がフランジ部54aの外周側に連接され他端が環状ディスク部54bの内周側に連接された円筒形状の筒部54cとを有している。
【0022】
ブレーキキャリパ56は、キャリパボディ56a内において、ピストン56bがインナパッド56cからアウタパッド56dの方向に押動することにより、環状ディスク部54bの両面をインナパッド56cとアウタパッド56dとで挟んで圧接することができる。この圧接により環状ディスク部54bの回転を制動でき、ブレーキディスクロータ54、さらには、車軸ハブ51、車両用ホイール10及びタイヤ20の回転を制動させ、最終的に車両の走行を制動させることができる。
【0023】
本実施形態では、タイヤ空気室22に臨むリム11のウェル部11cの外周面11d側に、発電機能を果たすための回転側部分である回転側発電装置30が設けられている。また、リム11のウェル部11cの内周面11e側に位置する車体側の静止部としてのブレーキキャリパ56のキャリパボディ56aの外周面56eに、発電機能を果たすための静止側部分である静止側発電装置として、静止側磁石(第2の磁石)33が設けられている。静止側磁石33としては、例えば円柱形状を呈する永久磁石が使用される(後述する回転側磁石31も同様)。
【0024】
図2は、回転側発電装置30の外観を示す概略斜視図である。
図2に示すように、回転側発電装置30は、長手方向に沿って湾曲した外枠をなすケース34を有している。ケース34は、例えば上下(外内)方向に略半分に分割された一対の枠体を接合することによって構成されており、一方の端部近傍に円筒形状を呈する円筒部34aを備えている。
【0025】
ケース34は、リム11の外周面11dに沿って固着される。固着方法は、特に限定されるものではなく、接着、溶接、ねじ締結、かしめ、係合等の任意の方法が採用され得る。ケース34の材質として、例えば樹脂材料や、非磁性金属材料であるステンレス鋼、アルミニウム合金等が使用され得る。リム11への熱伝達はタイヤ空気室22内の空気を温めるのにあまり貢献しないので、タイヤ空気室22側に熱がより伝達されるようにする。
【0026】
図3は、車両用ホイール10周辺の回転中心線14に垂直な平面で切断した模式的な断面図である。
図3に示すように、本実施形態では、回転側発電装置30は、車両用ホイール10のリム11の外周面11dの周方向に沿って等間隔に3つ配置されている。なお、配置される回転側発電装置30の個数は特に限定されるものではなく、単数から複数にわたり任意の数の回転側発電装置30を配置させることができる。また、回転側発電装置30の配置間隔も特に限定されるものではないが、車両用ホイール10の周方向の質量配分や、回転側発電装置30に発生する起電力の波形を考慮して等間隔に設定されることが望ましい。なお、起電力の発生についての詳細は後述する。
【0027】
回転側発電装置30は、リム11の外周面11d側に、車両用ホイール10の回転中心線14に向かう軸線35と同軸となるように設けられるコイル32と、軸線35方向におけるコイル32の外方に設けられる回転側磁石31(第1の磁石)とを、ケース34内に備えている。なお、図3において、車両用ホイール10は矢印A方向に回転し、回転中心線14は、紙面に垂直な方向の直線である。回転側磁石31は、N極(一方の磁極)を内方に向けてN極及びS極(両磁極)が軸線35上に位置するように、ケース34の円筒部34a内に配置されている。
【0028】
一方、静止側磁石33は、回転中心線14のまわりで軸線35の回転位相と当該静止側磁石33の周方向位置とが一致した状態において、回転側磁石31のN極と逆の磁性を有する磁極であるS極を外方に向けてS極及びN極(両磁極)が軸線35上に位置するように、換言すると、S極がリム11の内周面11eと対向するように、配置されている。
【0029】
本実施形態では、静止側磁石33は、ブレーキキャリパ56のキャリパボディ56aの外周面56eの周方向に沿って等間隔に3つ配置されている。なお、配置される静止側磁石33の個数は特に限定されるものではなく、単数から複数にわたり任意の数の静止側磁石33を配置させることができる。また、静止側磁石33の配置間隔も特に限定されるものではないが、ここでは、回転側発電装置30に発生する起電力の波形を考慮して等間隔に設定されている。
【0030】
静止側磁石33は、前述したようにブレーキキャリパ56のキャリパボディ56aの外周面56eに固着されるが、固着方法は、特に限定されるものではなく、接着、溶接、ねじ締結、かしめ、係合、磁力等の任意の方法が採用され得る。
【0031】
また、回転側発電装置30は、コイル32に生じた起電力によって発熱する発熱モジュール(発熱手段)36と、発熱モジュール36に電力を供給する駆動回路37と、発熱モジュール36で発生した熱を伝達するための伝熱モジュール38とを備えている。
【0032】
発熱モジュール36は、本実施形態では、ニクロム線等の抵抗発熱体である。但し、発熱モジュール36は、電気エネルギを熱エネルギに変換する電気ヒータであれば特に限定されるものではない。伝熱モジュール38は、本実施形態では、ヒートパイプである。ヒートパイプは、パイプ状の密閉容器と、容器内に真空封入された少量の作動液と、容器内壁の毛細管構造とを備える。ヒートパイプの一部が加熱されると、加熱部で作動液が吸熱して蒸発し、蒸気が低温部に移動し、低温部では蒸気が放熱して凝縮し、凝縮した作動液が毛細管現象で加熱部に還流する。このような作用を繰り返すことで効率的な伝熱が行われる。但し、伝熱モジュール38は、ヒートパイプに限定されるものではなく、例えばアルミニウム合金等の熱伝導率の高い材料を用い、放熱フィン等を設けて熱を放散させるように構成されてもよい。
【0033】
なお、発熱モジュール36及び伝熱モジュール38は、タイヤ内の空気の温度を上昇させ易くする観点から、その全部又は一部がケース34の外部、すなわちタイヤ空気室22に露呈するように配置されてもよい。また、発熱モジュール36で発生した熱の駆動回路37側への移動を抑制するために、駆動回路37と発熱モジュール36との間に断熱材又は空間(図示せず)を介在させてもよい。
【0034】
リム11とディスク12とは、例えば、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽量高強度材料等から製造される。但し、リム11とディスク12とは、上記材料に限定されるものではなく、スチール(鋼)等から形成されるものであってもよい。また、車両用ホイール10は、スポークホイールであってもよい。
【0035】
車両用ホイール10の表面には、厚さ5〜40μm程度のクリア塗装の下塗り層(図示せず)が形成される。この下塗り層は、車両用ホイール10の耐食性を向上し、また、後述する遮熱断熱層との密着性を向上させるために形成するものであり、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系、フッ素系等の熱伝導率の小さい塗装材やその配合が望ましい。
【0036】
そして、リム11の内周面11e、ディスク12の車両外側及び車両内側の両面には、厚さ10〜500μm程度の遮熱断熱層(図示せず)が、車軸ハブ51への取付けに関する部分を除いて形成される。遮熱断熱層は、リム11の内周面11e及びディスク12において、タイヤ空気室22内の空気からリム11への熱伝達、タイヤ20の内面からリム11への熱放射、及びタイヤ20からリム11への熱伝導がなされた熱が、さらに、リム11及びディスク12から外気へ放散されるのを抑制するためのものである。したがって、発熱モジュール36で発生した熱がリム11を介して逃げることが抑制されるようになっている。遮熱断熱層は、低い熱伝導率及び低い熱伝達率、さらに高い熱反射率及び長波熱放射率を有する遮熱・断熱性に優れたもので形成されることが望ましく、例えば、遮熱性及び断熱性を有する無機材料(フィラー)を有機材料(樹脂又はゴム)に配合した塗装材で形成される。さらに、ディスク12の車両外側の表面には、遮熱断熱層の上に更に保護層(図示せず)が形成される。
【0037】
図4は、回転側発電装置30の電気的構成を示す概略ブロック図である。
図4に示すように、駆動回路37は、コンバータ39と制御回路40とを備える。コイル32は、駆動回路37のコンバータ39に接続されている。コンバータ39は、コイル32に生じた起電力を調整乃至整流する。コイル32に生じた起電力は、パルス的な交流波形であるため、定電圧化する必要があるからである。制御回路40は、コンバータ39からの整流された電力が入力されると共に、車両用ホイール10のリム11の外周面11d側に設けられている温度センサ41からの検出信号が入力されるように構成されており、発熱モジュール36に供給する電力を制御する。温度センサ41としては、例えば熱伝対が使用されるが、サーミスタ等の他の温度検出手段が使用されてもよい。
【0038】
制御回路40は、温度センサ41から入力された検出信号に基づいて、タイヤ内の空気の温度が所定温度T(図8参照)を超えたことを検知した場合、コイル32に接続される閉回路の一部を遮断してコイル32における起電力の発生を停止させることにより、発熱モジュール36への電力の供給を遮断する。ここで、制御回路40及び温度センサ41は、タイヤ内の空気の温度が過度に上昇することを抑制するための抑制手段を構成する。また、制御回路40は、コイル32に生じた起電力を蓄積する蓄積手段としてのキャパシタ(図示せず)を備えている。
【0039】
次に、図5〜図7を参照して、上記のように構成した発電機能を備えた車両用ホイールシステムの作用について説明する。
図5は、起電力発生の作動原理について説明するための図である。図6は、車両用ホイール10周辺の模式的な断面図であり、起電力発生前の状態を示す図である。図7は、車両用ホイール10周辺の模式的な断面図であり、起電力発生時の状態を示す図である。
【0040】
図5(a)及び図6に示すように、例えば車両発進時において、回転中心線14のまわりで、車両用ホイール10のリム11の外周面11d側に設けられた回転側磁石31の周方向位置(軸線35の回転位相)と、車体側の静止部であるブレーキキャリパ56に設けられた静止側磁石33の周方向位置とは、一致していないものとする。この場合、回転側磁石31と静止側磁石33とは周方向位置がずれているため、回転側磁石31の内方に設けられているコイル32の内側を貫く磁束に変化はない。したがって、コイル32に誘導電流は生じない。
【0041】
続いて、車両用ホイール10が矢印A方向に回転して、図5(b)及び図7に示すように、回転側磁石31の周方向位置(軸線35の回転位相)が静止側磁石33の周方向位置に近付くと、回転側磁石31から静止側磁石33に向かうコイル32の内側を貫く磁束Bが増大するように変化する。このとき、レンツの法則にしたがってコイル32に誘導電流が流れ、起電力が発生する。誘導電流は、当該誘導電流の作る磁束がコイル32の内側を貫く磁束Bの変化を妨げる向きに生じる。また、回転側磁石31の周方向位置(軸線35の回転位相)が静止側磁石33の周方向位置から遠ざかると、回転側磁石31から静止側磁石33に向かうコイル32の内側を貫く磁束Bが減少するように変化する。このとき、上記原理により、コイル32に誘導電流が流れ、起電力が発生する。
【0042】
コイル32に生じた起電力は、コンバータ39によって整流された後、制御回路40に入力される。タイヤ内の空気の温度が所定温度T(図8参照)に達していない場合には、制御回路40は、発熱モジュール36へ電力を供給する。発熱モジュール36は電力の供給を受けて発熱し、発生した熱が伝熱モジュール38によって広範囲に伝播される。これにより、タイヤ内の空気の温度が上昇する。
【0043】
さらに、車両用ホイール10が矢印A方向に回転すると、図5(c)に示すように、回転側磁石31の周方向位置(軸線35の回転位相)と、静止側磁石33の周方向位置とが遠く離れてずれてしまう。この場合、回転側磁石31の内方に設けられているコイル32の内側を貫く磁束に変化はなく、したがって、コイル32に誘導電流は生じなくなる。
【0044】
車両発進後、車両用ホイール10の回転に応じて、図5(a)〜図5(c)の動作が、回転側磁石31と静止側磁石33とのそれぞれの組み合わせにおいて、繰り返し行われることによって、各コイル32に周期的な波形を有する起電力が安定的に発生する。
【0045】
このようにして各コイル32に生じた起電力によってリム11の外周面11d側に設けられた発熱モジュール36を発熱させることができるため、タイヤ内の空気の温度を上昇させることが可能となる。これにより、タイヤ内の空気の圧力を所定圧力まで車両発進時から早期に上昇させることができる。こうしてタイヤ20が温められることによるタイヤ20のゴムのヒステリシスロスの低減によるタイヤ20の転がり抵抗の低減と、タイヤ内空気圧の上昇によるタイヤ20の変形量の低減によるタイヤ20の転がり抵抗の低減とが図られる。したがって、車両の走行抵抗を低減して、車両の燃費性能を向上させることができる。
【0046】
図8は、車両発進後のタイヤ内の空気の温度の変化を示すグラフである。
図8に示すように、タイヤ内の空気の温度は、車両発進後、車両用ホイール10の回転による発熱モジュール36の発熱によって、初期温度Tから早期に上昇し、所定温度Tに達する。
【0047】
タイヤ内の空気の温度が所定温度Tに達した場合であって(図8の時間t)、制御回路40内のキャパシタの電力蓄積量が所定値以上であるとき、制御回路40は、コイル32に接続される閉回路の一部を遮断してコイル32における起電力の発生を停止させることにより、発熱モジュール36への電力の供給を遮断する。これにより、不要なエネルギの発生を防止することができると共に、起電力発生時の磁力に基づく回転負荷をなくすことができる。また、発電機能に関する部材の耐久性が増す。
【0048】
一方、タイヤ内の空気の温度が所定温度Tに達した場合であって(図8の時間t)、制御回路40内のキャパシタの電力蓄積量が所定値よりも小さいとき、制御回路40は、電力の供給先を発熱モジュール36からキャパシタ(図示せず)に切り替えて、コイル32に生じた起電力をキャパシタに蓄積する。キャパシタへの電力の蓄積動作は、電力蓄積量が所定値となるまで、あるいは所定時間行われる。このように、過剰に生じた電力を蓄えることができるため、キャパシタを電源として活用することが可能となる。
【0049】
コイル32における起電力発生の停止、あるいはキャパシタへの電力蓄積動作によって、タイヤ内の空気の温度が所定温度Tよりも予め決められた温度幅だけ低下した場合、制御回路40は、発熱モジュール36への電力の供給を再開する。これにより、タイヤ内の空気の温度が再び上昇して、ほぼ所定温度Tに保たれる(図8の時間t〜t)。但し、発熱モジュール36への電力供給の再開は、コイル32における起電力発生の停止、あるいはキャパシタへの電力蓄積動作の開始のときから、予め決められた時間が経過したことをタイマ(図示せず)により検知した場合に実行されるように構成されてもよい。
【0050】
そして、車両の停止時には、車両用ホイール10の回転が停止する(図8の時間t)。ここで、発熱モジュール36に電力が供給されなくなると、タイヤ内の空気の温度は、図8の二点鎖線で示すように、初期温度T付近まで徐々に下降することになる(図8の時間t)。
【0051】
しかし、本実施形態では、車両停止後(あるいはアクセサリ電源OFF後)、制御回路40は、キャパシタに蓄積された電力を発熱モジュール36に供給する制御を行う。この場合、図8の実線で示すように、タイヤ内の空気の温度は、初期温度T付近まで、より緩やかに下降する(図8の時間t;t<t)。したがって、車両停止後、長時間放置する場合は別として、放置後に再度車両を発進させる場合には、タイヤ内の空気の温度は既にある程度高くなっているため、所定温度T(図8参照)にまで、より早期に達し得る。
【0052】
上述したように、本実施形態の車両用ホイールシステムは、リム11の外周面11d側に、車両用ホイール10の回転中心線14に向かう軸線35と同軸となるように設けられるコイル32と、軸線35方向におけるコイル32の外方に設けられる回転側磁石31と、リム11の内周面11e側に位置するブレーキキャリパ56に設けられる静止側磁石33と、を有しており、車両用ホイール10の回転による回転側磁石31と静止側磁石33との相対位置の変化によって、コイル32を貫く磁束を変化させ、コイル32に起電力を生じさせる。
【0053】
したがって、本実施形態によれば、別途の電源を必要とすることなく、車両用ホイール10の回転を用いて簡易な構成で安定的に発電することが可能な、発電機能を備えた車両用ホイールシステムを提供することができる。
また、車両用ホイールシステムに発電機能が備えられているため、かかる発電機能をタイヤ内の空気の温度を上昇させるための電力供給に利用することが容易となる。
【0054】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は、上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、実施形態に記載した構成を適宜組み合わせ乃至選択することを含め、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【0055】
例えば、上記実施形態では、回転側磁石31のN極と静止側磁石33のS極とが対向するように配置されているが、磁極の向きを逆にして、回転側磁石31のS極と静止側磁石33のN極とが対向するように配置されてもよいことは勿論である。
【0056】
また、上記実施形態では、静止側磁石33はブレーキキャリパ56に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ナックル52等の車体側の他の静止部に支持されるように設けられてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、コイル32に生じた起電力を蓄積する蓄積手段としてキャパシタ(図示せず)が使用されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、充電回路及び二次電池を設けて(図示せず)、当該二次電池にコイル32に生じた起電力を蓄積することも可能である。
【0058】
また、タイマを利用して例えば朝7時等の所定時刻に、蓄積手段に蓄積された電力を発熱モジュール36に供給して発熱を始めるようにして、ユーザの乗車前にタイヤ内の空気の温度を温めるようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、コイル32に生じた起電力を蓄積する蓄積手段は、発熱モジュール36に電力を供給する電源として活用される例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば車両に装着されたタイヤ20の内部の圧力等を監視する空気圧監視システム(Tire Pressure Monitoring Systems;TPMS)への電力供給源等の各種電源として活用され得る。
【符号の説明】
【0060】
10 車両用ホイール
11 リム
11d 外周面
11e 内周面
14 回転中心線
20 タイヤ
30 回転側発電装置
31 回転側磁石(第1の磁石)
32 コイル
33 静止側磁石(第2の磁石)
35 軸線
36 発熱モジュール(発熱手段)
38 伝熱モジュール
40 制御回路(抑制手段)
41 温度センサ(抑制手段)
52 ナックル(車体側の静止部)
56 ブレーキキャリパ(車体側の静止部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電機能を備えた車両用ホイールシステムであって、
タイヤを装着するためのリムを有する車両用ホイールと、
前記リムの外周面側に、前記車両用ホイールの回転中心線に向かう軸線と同軸となるように設けられるコイルと、
前記軸線方向における前記コイルの外方に設けられる第1の磁石と、
前記リムの内周面側に位置する車体側の静止部に設けられる第2の磁石と、を有し、
前記第1の磁石は、一方の磁極を内方に向けて両磁極が前記軸線上に位置するように配置され、
前記第2の磁石は、前記回転中心線のまわりで前記軸線の回転位相と当該第2の磁石の周方向位置とが一致した状態において前記一方の磁極と逆の磁性を有する磁極を外方に向けて両磁極が前記軸線上に位置するように配置され、
前記車両用ホイールの回転による前記第1の磁石と前記第2の磁石との相対位置の変化によって、前記コイルを貫く磁束を変化させ、前記コイルに起電力を生じさせることを特徴とする発電機能を備えた車両用ホイールシステム。
【請求項2】
前記リムの外周面側に設けられ、前記コイルに生じた起電力によって発熱する発熱手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステム。
【請求項3】
前記タイヤ内の空気の温度が過度に上昇することを抑制するための抑制手段をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステム。
【請求項4】
前記コイルに生じた起電力を蓄積する蓄積手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の発電機能を備えた車両用ホイールシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−86811(P2012−86811A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237709(P2010−237709)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)